【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、その趣旨の範囲において、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
[実施例1]
(1)菌体懸濁液の調製:
ニトリルヒドラターゼ活性を有するロドコッカス・ロドクロス(Rhodococcusrhodochrous)J−1株(FERM BP−1478)を、グルコース2質量%、尿素1質量%、ペプトン0.5質量%、酵母エキス0.3質量%、塩化コバルト0.05質量%を含む培地(pH7.0)により好気的に培養した。培養終了後、培養菌体を遠心分離により回収し、これを50mMリン酸緩衝液(pH7.0)で洗浄した。洗浄した菌体に上記緩衝液を添加し菌体懸濁液(乾燥菌体換算10質量%)を得た。
【0033】
(2)固定化菌体スラリーの調製:
氷冷した菌体懸濁液(乾燥菌体換算10質量%)21.0kgに50mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.0、以下同じ)4.8kg、N,N−ジエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミドを各々、92,3,5質量%になるように調製した単量体混合液3.0kgを加え、氷水中で均一な懸濁液とした。これに10質量%N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、及び10質量%過硫酸アンモニウム水溶液を0.6kgずつ加え、35℃以下に1時間保って重合、ゲル化させた。こうして得られたブッロク状の固定化菌体を1辺3mmの立方体状に切断解砕後、0.5質量%硫酸ナトリウム水溶液120kg中に分散させることで固定化菌体スラリー150kgを得た。
【0034】
(3)菌体懸濁液の保存貯槽から容器への充填:
底部に閉止用バルブ付の内径35mmの配管、攪拌機を備えた50L容量のステンレス製保存貯槽に前記(1)記載の菌体懸濁液(乾燥菌体換算10質量%)50Lを入れて50rpmで攪拌を開始した。攪拌下、50L容量の円筒型ポリエチレン製容器に配管先端ノズル出口の吐出線速度が0.7m/秒となる様に底部バルブの開度を調整してから容器が満たされるまで26℃にて充填を行った。充填完了直後の液の深さと泡の深さを計測することで容器容積当りの充填率を計測した。結果を表1に記載した。充填直前の貯槽中の菌体懸濁液、充填直後の菌体懸濁液、及び充填後5℃で2ケ月間保存した菌体懸濁液について、0.9Mアクリロニトリル水溶液1.0mlと50mMリン酸緩衝液(pH7.0)0.8mlの混合液に純水で希釈した各菌体懸濁液を添加して10℃で所定時間反応後、1Mリン酸0.2mlを添加して遠心除菌(15000rpm、5分)してから反応を停止させた後、液体クロマトグラフィーで生成したアクリルアミドの量を分析することにより、単位時間、乾燥菌体単位重量当たりのニトリルヒドラターゼ活性の測定を行った。充填直前の貯槽中の菌体懸濁液のニトリルヒドラターゼ活性の値を1.00として相対活性値で記載した。結果を表2に記載した。
【0035】
(4)固定化菌体スラリーの保存貯槽から容器への充填:
底部に閉止用バルブ付の内径44mmの配管、攪拌機を備えた50L容量のステンレス製保存貯槽に前記(2)記載の固定化菌体スラリー50kgを入れて50rpmで攪拌を開始した。攪拌下、50L容量の円筒型ポリエチレン製容器に配管先端ノズル出口の吐出線速度が0.7m/秒となる様に底部バルブの開度を調整してから容器が満たされるまで26℃にて充填を行った。充填完了直後、容器内の固定化菌体スラリー1Lをサンプリングし、目開き1.7mmの篩に開けてろ液中に残った微細ゲルをろ紙で捕集して微細ゲルの重量を測定することにより、固定化菌体の崩れの程度を計測した。結果を表1に記載した。充填直前の貯槽中の固定化菌体スラリー、充填直後の固定化菌体スラリー、及び充填後5℃で2ケ月間保存した固定化菌体スラリーについて、0.5Mアクリロニトリルを含む25mMリン酸緩衝液(pH7.0)200mlの混合液に固定化菌体を添加して10℃で所定時間反応後、0.45μmのメンブレンフィルターにて反応液をろ過して反応を停止させた後、液体クロマトグラフィーで生成したアクリルアミドの量を分析することにより、単位時間、固定化菌体単位重量当たりのニトリルヒドラターゼ活性の測定を行った。充填直前の貯槽中の固定化菌体のニトリルヒドラターゼ活性の値を1.00として相対活性値で記載した。結果を表2に記載した。
【0036】
[実施例2]
(1)菌体懸濁液の保存貯槽から容器への充填:
実施例1(3)記載の保存貯槽に実施例1(1)記載の菌体懸濁液(乾燥菌体換算10質量%)50Lを入れて圧縮空気で保存貯槽の内圧を微陽圧にした状態で50rpmで攪拌を開始した。配管先端ノズル出口の吐出線速度が3m/秒で、実施例1(3)と同様の充填を行った。充填完了直後の液の深さと泡の深さを計測することで容器容積当りの充填率を計測した。結果を表1に記載した。実施例1と同様にニトリルヒドラターゼ活性の測定を行った。結果を表2に記載した。
【0037】
(2)固定化菌体スラリーの保存貯槽から容器への充填:
実施例1(4)記載の保存貯槽に実施例1(2)記載の固定化菌体スラリー50kgを入れて圧縮空気で保存貯槽の内圧を微陽圧にした状態で50rpmで攪拌を開始した。配管先端ノズル出口の吐出線速度が3m/秒で、実施例1(4)と同様の充填を行った。充填完了直後、実施例1(4)と同様の固定化菌体の崩れの程度を計測した。結果を表1に記載した。実施例1と同様にニトリルヒドラターゼ活性の測定を行った。結果を表2に記載した。
【0038】
[実施例3]
(1)菌体懸濁液の調製:
ニトリラーゼ活性を有するゴルドナ・テラエ(Gordonaterrae)MA−1株(FERM BP−4535)を、グルコース3質量%、グルタミン酸ナトリウム1.5質量%、酵母エキス0.8質量%、硫酸ナトリウム0.3質量%、塩化マグネシウム0.04質量%、塩化カルシウム40質量ppm、硫酸マンガン30質量ppm、塩化鉄6質量ppm、硫酸亜鉛3質量ppm、o−アミノベンゾニトリル0.03質量%を含む培地(pH7.5)により好気的に培養した。培養終了後、培養菌体を遠心分離により回収し、これを100mMリン酸緩衝液(pH8.0)で洗浄した。洗浄した菌体に上記緩衝液を添加し菌体懸濁液(乾燥菌体換算10質量%)を得た。
【0039】
(2)菌体懸濁液の保存貯槽から容器への充填:
実施例1(3)記載の保存貯槽に実施例3(1)記載の菌体懸濁液(乾燥菌体換算10質量%)50Lを入れて50rpmで攪拌を開始した。配管先端ノズル出口の吐出線速度が0.2m/秒で、実施例1(3)と同様の充填を行った。充填完了直後の液の深さと泡の深さを計測することで容器容積当りの充填率を計測した。結果を表1に記載した。充填直前の貯槽中の菌体懸濁液、充填直後の菌体懸濁液、及び充填後5℃で2ケ月間保存した菌体懸濁液について、20mMマンデロニトリル、100mM亜硫酸ナトリウムを含む50mMリン酸緩衝液(pH8.2)1.8mlの混合液に純水で希釈した各菌体懸濁液を添加して30℃で所定時間反応後、2Mリン酸0.2mlを添加して遠心除菌(15000rpm、5分)してから反応を停止させた後、液体クロマトグラフィーで生成したマンデル酸の量を分析することにより、単位時間、乾燥菌体単位重量当たりのニトリラーゼ活性の測定を行った。充填直前の貯槽中の菌体懸濁液のニトリラーゼ活性の値を1.00として相対活性値で記載した。結果を表2に記載した。
【0040】
[実施例4]
(1)菌体懸濁液の調製:
アミダーゼ活性を有するロドコッカス属(Rhodococcus sp.)EA4株(FERMP−12136)を、グルコース3質量%、グルタミン酸ナトリウム1.5質量%、酵母エキス0.8質量%、硫酸ナトリウム0.3質量%、塩化マグネシウム0.04質量%、塩化カルシウム40質量ppm、硫酸マンガン30質量ppm、塩化鉄6質量ppm、硫酸亜鉛3質量ppm、アセトアミド0.5質量%を含む培地(pH7.0)により好気的に培養した。培養終了後、培養菌体を遠心分離により回収し、これを100mMリン酸緩衝液(pH7.7)で洗浄した。洗浄した菌体に上記緩衝液を添加し菌体懸濁液(乾燥菌体換算10質量%)を得た。
【0041】
(2)菌体懸濁液の保存貯槽から容器への充填:
実施例1(3)記載の保存貯槽に実施例4(1)記載の菌体懸濁液(乾燥菌体換算10質量%)50Lを入れて50rpmで攪拌を開始した。配管先端ノズル出口の吐出線速度が0.2m/秒で、実施例1(3)と同様の充填を行った。充填完了直後の液の深さと泡の深さを計測することで容器容積当りの充填率を計測した。結果を表1に記載した。充填直前の貯槽中の菌体懸濁液、充填直後の菌体懸濁液、及び充填後5℃で2ケ月間保存した菌体懸濁液について、100mMグリシンアミドを含む50mMリン酸緩衝液(pH7.7)1.8mlの混合液に純水で希釈した各菌体懸濁液を添加して30℃で所定時間反応後、2Mリン酸0.2mlを添加して遠心除菌(15000rpm、5分)してから反応を停止させた後、液体クロマトグラフィーで生成したグリシンの量を分析することにより、単位時間、乾燥菌体単位重量当たりのアミダーゼ活性の測定を行った。充填直前の貯槽中の菌体懸濁液のアミダーゼ活性の値を1.00として相対活性値で記載した。結果を表2に記載した。
【0042】
[比較例1]
(1)菌体懸濁液の保存貯槽から容器への充填:
実施例1(3)記載の保存貯槽に実施例1(1)記載の菌体懸濁液(乾燥菌体換算10質量%)50Lを入れて圧縮空気で保存貯槽の内圧を微陽圧にした状態で50rpmで攪拌を開始した。配管先端ノズル出口の吐出線速度が10m/秒で、実施例1(3)と同様の充填を行った。充填完了直後の液の深さと泡の深さを計測することで容器容積当りの充填率を計測した。結果を表1に記載した。実施例1と同様にニトリルヒドラターゼ活性の測定を行った。結果を表2に記載した。
【0043】
(2)固定化菌体スラリーの保存貯槽から容器への充填:
実施例1(4)記載の保存貯槽に実施例1(2)記載の固定化菌体スラリー50kgを入れて圧縮空気で保存貯槽の内圧を微陽圧にした状態で50rpmで攪拌を開始した。配管先端ノズル出口の吐出線速度が10m/秒で、実施例1(4)と同様の充填を行った。充填完了直後、容器内の固定化菌体スラリー1Lをサンプリングし、目開き1.7mmの篩に開けてろ液中に残った微細ゲルをろ紙で捕集して微細ゲルの重量を測定することにより、固定化菌体の崩れの程度を計測した。結果を表1に記載した。実施例1と同様にニトリルヒドラターゼ活性の測定を行った。結果を表2に記載した。
【0044】
[比較例2]
(1)菌体懸濁液の保存貯槽から容器への充填:
実施例1(3)記載の保存貯槽に実施例3(1)記載の菌体懸濁液(乾燥菌体換算10質量%)50Lを入れて圧縮空気で保存貯槽の内圧を微陽圧にした状態で50rpmで攪拌を開始した。配管先端ノズル出口の吐出線速度が10m/秒で、実施例3(2)と同様の充填を行った。充填完了直後の液の深さと泡の深さを計測することで容器容積当りの充填率を計測した。結果を表1に記載した。実施例3と同様にニトリラーゼ活性の測定を行った。結果を表2に記載した。
【0045】
[比較例3]
(1)菌体懸濁液の保存貯槽から容器への充填:
実施例1(3)記載の保存貯槽に実施例4(1)記載の菌体懸濁液(乾燥菌体換算10質量%)50Lを入れて圧縮空気で保存貯槽の内圧を微陽圧にした状態で50rpmで攪拌を開始した。配管先端ノズル出口の吐出線速度が10m/秒で、実施例4(2)と同様の充填を行った。充填完了直後の液の深さと泡の深さを計測することで容器容積当りの充填率を計測した。結果を表1に記載した。実施例4と同様にアミダーゼ活性の測定を行った。結果を表2に記載した。
【0046】
【表1】
(*1)表1中、充填率は以下式により算出した値を表す。
充填率(%)=液の深さ(cm)/(液の深さ(cm)+泡の深さ(cm))×100
【0047】
【表2】
【0048】
表1及び表2に示すように、本発明の菌体懸濁液及び/又は菌体処理物の容器充填方法である実施例1〜4では、保存貯槽配管の先端ノズル出口における吐出線速度を3m/秒以下の範囲で充填することによって、菌体懸濁液の発泡を抑制することができるので、容器容積当りの菌体懸濁液の充填率が向上でき、容器容積の90%以上の充填が可能であることが観察された。また、実施例1及び2では、充填後の固定化菌体スラリー中に微細ゲルは無いか又は極めて少ないことから固定化菌体スラリーの崩れが殆ど発生していないことが観察された。更に実施例1〜4では、酵素触媒を容器充填後、5℃で2ケ月間保存した後も0.9以上の高い触媒活性を維持していることが観察された。保存貯槽配管の先端ノズル出口における吐出線速度は、低い程、菌体懸濁液の発泡と固定化菌体スラリーの崩れ及び容器充填以降の酵素触媒の保存中の活性低下が抑制される傾向が観察された。
【0049】
一方、保存貯槽配管の先端ノズル出口における吐出線速度を大過剰にして充填を行った比較例1〜3では、菌体懸濁液の発泡性が高く、菌体懸濁液の充填率はいずれも90%に到達するものは観察されなかった。また、比較例1では、充填後の固定化菌体スラリー中の微細ゲルが増加していることから、固定化菌体の崩れの増加が観察され、充填後の酵素触媒を反応に使用した際に、酵素反応液中で分離困難な微細ゲルの混入が懸念された。更に比較例1〜3では、酵素触媒を容器充填した直後と容器充填後、5℃で2ケ月間保存した後において著しい酵素触媒の保存中の活性低下が観察された。活性低下の原因は、配管の先端ノズル出口における吐出線速度を大過剰にした為に、菌体懸濁液の物理的な損傷と固定化菌体の物理的な破砕を引き起こしたことで菌体内酵素そのものが損傷を受け易くなったことによるものと考えられる。