特許第5713318号(P5713318)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5713318多様なチトクロムP450分子種の酵素活性を網羅的かつ高効率で測定する方法及びキット
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5713318
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】多様なチトクロムP450分子種の酵素活性を網羅的かつ高効率で測定する方法及びキット
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20150416BHJP
   C12Q 1/26 20060101ALI20150416BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
   C12M1/34 E
   C12Q1/26
   G01N37/00 101
【請求項の数】11
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2011-529888(P2011-529888)
(86)(22)【出願日】2010年8月27日
(86)【国際出願番号】JP2010064567
(87)【国際公開番号】WO2011027718
(87)【国際公開日】20110310
【審査請求日】2013年2月26日
(31)【優先権主張番号】特願2009-201187(P2009-201187)
(32)【優先日】2009年9月1日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2009-201190(P2009-201190)
(32)【優先日】2009年9月1日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構「食品の安全性評価用超高感度ナノセンサーの開発」の「食品の安全性評価用ナノチップの作製とP450活性測定」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】独立行政法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今石 浩正
(72)【発明者】
【氏名】森垣 憲一
(72)【発明者】
【氏名】達 吉郎
(72)【発明者】
【氏名】常 鋼
【審査官】 伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−517397(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/101963(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0072256(US,A1)
【文献】 米国特許第06020480(US,A)
【文献】 Anal. Chem., 2008, Vol.80, pp.5279-5285
【文献】 Chemical Sensors, 2009.03.29, Vol.25 Supplement A, pp.64-66
【文献】 Exp. Cell Res., 1992, Vol.201, pp.366-372
【文献】 Biosensers & Bioelectronics, 2002, Vol.17, pp.173-179
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に酸素センサー層とチトクロムP450担持層が積層され、前記チトクロムP450担持層においてチトクロムP450が親水性ポリマー担体に担持され、前記親水性ポリマー担体が親水性ポリマーのマトリクスであり、酸素センサー層が、酸素センサーとマトリクスから構成され、以下の(1)〜(4)の少なくとも1つの要件を満たす、積層基板:
(1) 酸素センサー層とチトクロムP450担持層が微小孔(マイクロウェル)内にて積層されている;
(2) チトクロムP450担持層の上に基質を導入する流路を有し、流路中に酸素センサーと酵素固定化ゲルが積層されている、
(3) 酸素センサー層とチトクロムP450担持層が微小流路内に均一に積層されている
(4) 酸素センサー層が基板上に形成され、チトクロムP450担持層を酸素センサー表面に固定化する。
【請求項2】
前記親水性ポリマーがアガロースゲルである請求項1に記載の積層基板。
【請求項3】
酸素センサー層が、シリカマトリクス中にルテニウム錯体を含むものである、請求項1に記載の積層基板。
【請求項4】
前記流路が微小流路である、請求項1〜3のいずれかに記載の積層基板。
【請求項5】
前記チトクロムP450担持層が各チトクロムP450を有する複数のチトクロムP450担持部を有し、基質に対する各チトクロムP450の代謝活性を分析可能である請求項1〜4のいずれかに記載の積層基板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の積層基板の、チトクロムP450による基質の酸化反応の程度を評価するための使用。
【請求項7】
請求項5に記載の積層基板に基質を作用させ、複数のチトクロムP450と基質との代謝パターンに基づき化合物を同定する方法。
【請求項8】
ケージドNADPおよびケージドグルコース6リン酸(G6P)からなる群から選ばれる少なくとも1種のケージド化合物のチトクロムP450による基質の酸化反応の程度を評価するための使用であって、チトクロムP450が請求項1〜5のいずれかに記載の積層基板のチトクロムP450担持層に担持され、前記ケージドNADPが下記式
【化1】
〔式中、R1、R2、R3は、同一又は異なって水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、アミノ基、ハロゲン原子、水酸基またはシアノ基を示すか、あるいはR1、R2及びR3のいずれか2つが一緒になってメチレンジオキシ基を示す。Rは、水素原子又はメチル基を示す。〕で表され、前記ケージドG6Pが下記式
【化2】
〔式中、R1、R2、R3は、同一又は異なって水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、アミノ基、ハロゲン原子、水酸基またはシアノ基を示すか、あるいはR1、R2及びR3のいずれか2つが一緒になってメチレンジオキシ基を示す。Rは、水素原子又はメチル基を示す。〕で表される、使用。
【請求項9】
ケージドNADPおよびケージドG6Pからなる群から選ばれる少なくとも1種のケージド化合物、チトクロムP450還元酵素、請求項1〜5のいずれかに記載の積層基板を含み、前記ケージドNADPが下記式
【化3】
〔式中、R1、R2、R3は、同一又は異なって水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、アミノ基、ハロゲン原子、水酸基またはシアノ基を示すか、あるいはR1、R2及びR3のいずれか2つが一緒になってメチレンジオキシ基を示す。Rは、水素原子又はメチル基を示す。〕で表され、前記ケージドG6Pが下記式
【化4】
〔式中、R1、R2、R3は、同一又は異なって水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、アミノ基、ハロゲン原子、水酸基またはシアノ基を示すか、あるいはR1、R2及びR3のいずれか2つが一緒になってメチレンジオキシ基を示す。Rは、水素原子又はメチル基を示す。〕で表される、チトクロムP450の基質化合物に対する酵素活性を測定するためのキット。
【請求項10】
ケージドNADPとケージドG6Pの両方を含む、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
微小なウェル構造や流路を持ち、局所的もしくは全面光照射によって多種類のチトクロムP450還元酵素を同時に活性化し、並列で活性計測することが出来る、請求項9もしくは10に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2009年9月1日に出願された特願2009-201187と特願2009-201190の優先権を主張し、それら全体が参考により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、P450分子種の多様な化学物質に対する代謝活性を高効率で評価する技術に関し、詳しくは、固定化チトクロムP450担持層と酸素センサーを有する積層基板、およびその使用に関する。
【0003】
また、本発明は、チトクロムP450リダクターゼやチトクロムP450を含む、NADPH依存性酵素又は該依存性酵素により還元される酸化酵素の酵素活性を測定する方法及びキットに関し、詳しくは光照射によりNADPHを供給することで酵素反応の開始時間をコントロールし、酵素活性を正確に測定する方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0004】
チトクロムP450は、農薬、医薬品などを含む種々の化合物の解毒的代謝や代謝的活性化などに関与しており、P450による代謝反応を明らかにすることは、生体外異物の毒性を評価する上で極めて重要である(非特許文献1)。近年、P450酵素による物質生産や医薬・農薬などの安全性評価の指標などへの応用が注目されている(非特許文献2)。特に医薬品の開発においては、化合物とP450酵素との相互作用による毒性の顕在化が新薬開発の大きな障害となっており、新薬候補物質に対するP450酵素代謝活性の検討は、開発初期段階における重要な指標とされている。また、遺伝子多型によるP450酵素活性の個人差により薬効、副作用などが異なっていることが近年分かってきており、遺伝子多型を含めた多様なP450分子種の化合物に対する代謝活性を高効率で検討する技術が、個別医療などにおいて必要とされている(非特許文献3)。
【0005】
チトクロムP450は、現在、ヒトでは57種の分子種が確認されている。これらの各分子種は、その酵素活性に個体差はあるものの、分子種毎にそれぞれ、種々の医薬品化合物、ベンゼンなどの有機溶剤、環境中の低分子発癌性物質などの代謝に関与することが報告されている(非特許文献4参照)。
【0006】
酸素濃度により蛍光強度が変化する蛍光色素(例:ルテニウム錯体)を用いた酸素センサーがバイオセンサーやバイオアッセイに用いられている。マルチウェルプレート底面に酸素センサー層を作製することで、細胞培養や酵素活性を並列で評価できる製品も市販され、水溶液中に懸濁したP450酵素の活性評価にも用いられている(非特許文献5〜7)。
【0007】
一方、石英やシリコン高分子(PDMS)に微細加工技術で凹凸を作製し、微小な流路やウェルを形成してマイクロリアクターやバイオセンサーとして用いる研究開発が近年盛んに行われている(非特許文献8)。
【0008】
微小なマイクロウェルや流路を用いて酵素活性を測定する場合、微小空間における溶液の混合が一般的に難しく、酵素反応の開始時間をどのように制御するかが問題となる。この問題を解決できる手法として、光を用いた反応開始の制御技術がある。生理活性を持つ分子に光脱離性保護基を付加して活性を抑制し、光照射による脱保護によって生理活性を回復できるよう分子設計された分子は、ケージド化合物とよばれ、これまで生体分子の機能を解析するツールとして多用されてきた。ケージド化合物は、それ自身は不活性であり、光照射により保護基が脱離して活性化合物が遊離するものであり、NADP、G6Pについて、ケージド化合物が知られている(特許文献1、非特許文献9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】US Patent 6,020,480
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Chem Res Toxicol., 21, 70-83 (2008)
【非特許文献2】K.R. Korzekwa, and J.P. Jones, Pharmacogenetics 1993, 3, 1-18
【非特許文献3】J. van der Weid, L.S. Steijns, Ann Clin Biochem. 1999,36, 722-9
【非特許文献4】Cancer Res., 47, 3378-3383(1987)
【非特許文献5】S.M.Borisov and O.S. Wolfbeis, Chem.Rev. 2008, 108, 423-461
【非特許文献6】Z. Rosenzweig and R. Kopelman, Anal. Chem. 1996, 68, 1408-1413
【非特許文献7】X. Wu, M.M.F. Choi, D.Xiao, Analyst 2000, 125, 157-162
【非特許文献8】B.H. Weigl, R.L. Bardell, C. R. Cabrera, Adv. Drug Delivery Rev. 2003, 55, 349-377
【非特許文献9】R.R.Swezey, D.Epel, Exp. Cell Res. 1992, 201, 366-372
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、多様なP450分子種の基質分子に対する酵素活性を高効率で検出する技術を提供することを目的とする。特にヒトチトクロムP450に対する各種化学物質、特に医薬品や食品に対する薬物代謝酵素活性を、従来のアッセイ法よりも高効率・精密に測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、P450分子種の多様な化学物質に対する代謝活性を網羅的かつ高効率で評価する技術である。そのため、酸素センサー層と固定化チトクロムP450を積層化し、微小流路、微小ウェルなどの微細構造と組み合わせることによって酵素活性測定を行う。また、チトクロムP450の酵素活性に必要な補酵素(NADPH)の供給を光で制御することにより、多数の微小ウェルに封入された基質溶液の反応を光照射で同時に開始する。これらの技術により、多種類のP450分子種の化学物質への代謝反応初期速度の同時測定を可能にし、P450代謝活性を従来のアッセイ法よりも高効率・精密に測定することを可能にする。
【0013】
本発明者は、図1に示すようにルテニウム錯体を含んだ均一なシリカ層(酸素センサー)と担持マトリックスに固定化されたチトクロムP450を積層化し、微細加工技術で作製した流路と組み合わせることで、多様なP450分子種の酵素反応アッセイを高効率で行うことが可能であるというアイデアを得た。
【0014】
さらに本発明は、チトクロムP450還元酵素またはチトクロムP450のいずれかの活性をNADPH再生系を用いたNADPHの供給により制御出来ることに着目し、NADPH再生系に必要なNADPおよび/またはG6Pに光脱離性保護基を付加することで、該酵素活性を光制御することが可能になることを明らかにした(図12図13)。
【0015】
本発明は、以下の積層基板及びその使用、NADPH依存性酵素の酵素活性を測定する以下の方法及びキットを提供するものである。
項1. 基板上に酸素センサー層とチトクロムP450担持層が積層され、前記チトクロムP450担持層においてチトクロムP450が親水性ポリマー担体に担持されている、積層基板。
項2. 前記親水性ポリマーがアガロースゲルである項1に記載の積層基板。
項3. 酸素センサー層が、シリカマトリクス中にルテニウム錯体を含むものである、項1に記載の積層基板。
項4. 酸素センサー層とチトクロムP450担持層が微小孔(マイクロウェル)内にて積層されている、項1〜3のいずれかに記載の積層基板。
項5. 前記チトクロムP450担持層の上に基質を導入する流路をさらに有する、項1〜4のいずれかに記載の積層基板。
項6. 前記流路が微小流路である、項5に記載の積層基板。
項7. 酸素センサー層とチトクロムP450担持層が前記微小流路内に均一に積層された、項1〜6のいずれかに記載の積層基板。
項8. 前記チトクロムP450担持層が各チトクロムP450を有する複数のチトクロムP450担持部を有し、基質に対する各チトクロムP450の代謝活性を分析可能である項1〜7のいずれかに記載の積層基板。
項9. 項1〜8のいずれかに記載の積層基板の、チトクロムP450による基質の酸化反応の程度を評価するための使用。
項10. 項8に記載の積層基板に基質を作用させ、複数のチトクロムP450と基質との代謝パターンに基づき化合物を同定する方法。
項11. ケージドNADPおよびケージドグルコース6リン酸(G6P)からなる群から選ばれる少なくとも1種のケージド化合物、NADPH依存性酵素、必要に応じてNADPH依存性酵素により還元される酸化酵素ならびにその基質の共存下に光照射して、前記ケージド化合物からNADPおよび/またはG6Pを供給することによりNADPHを産生させ、前記依存性酵素もしくは酸化酵素と基質の反応を開始することを特徴とする酵素活性測定方法。
項12. 前記ケージドNADPが下記式
【0016】
【化1】
【0017】
〔式中、R1、R2、R3は、同一又は異なって水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、アミノ基、ハロゲン原子、水酸基またはシアノ基を示すか、あるいはR1、R2及びR3のいずれか2つが一緒になってメチレンジオキシ基を示す。Rは、水素原子又はメチル基を示す。〕で表される項11に記載の方法。
項13. 前記ケージドG6Pが下記式
【0018】
【化2】
【0019】
〔式中、R1、R2、R3は、同一又は異なって水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、アミノ基、ハロゲン原子、水酸基またはシアノ基を示すか、あるいはR1、R2及びR3のいずれか2つが一緒になってメチレンジオキシ基を示す。Rは、水素原子又はメチル基を示す。〕で表される項11に記載の方法。
項14. NADPH依存性酵素がチトクロムP450還元酵素である、項11に記載の方法。
項15. ケージドNADPとケージドG6Pの両方をNADPH依存性酵素、及びその基質と共存させる、項11に記載の方法。
項16. NADPH依存性酵素がチトクロムP450還元酵素である、項15に記載の方法。
項17. ケージドNADPおよびケージドG6Pからなる群から選ばれる少なくとも1種のケージド化合物、NADPH依存性酵素、NADPH依存性酵素により還元される酸化酵素を含む、前記酸化酵素の基質化合物に対する酵素活性を測定するためのキット。
項18. ケージドNADPとケージドG6Pの両方を含む、項17に記載のキット。
項19. NADPH依存性酵素がチトクロムP450還元酵素である、項17もしくは18に記載のキット。
項20. 微小なウェル構造や流路を持ち、局所的もしくは全面光照射によって多種類のNADPH依存性酵素を同時に活性化し、並列で活性計測することが出来る、項17もしくは18に記載のキット。
項21. NADPH依存性酵素がチトクロムP450還元酵素である、項20に記載のキット。
【発明の効果】
【0020】
本発明の1つの実施形態によれば、チトクロムP450の基質となる可能性を有する化合物を含んだサンプル溶液を、P450を酸素センサー上に固定化した積層基板表面に導入することで、この基質がP450によりどの程度酸化されるかを迅速に評価することができる。P450を酸素センサー表面に固定化することで、酵素活性の検出感度が大幅に向上する。P450による酸化反応は常に酸素消費を伴うので、全てのP450分子種の活性を酸素センサーによって検出できる(蛍光基質のように分子種が限定されない)。固定化P450を用いることにより、化合物を含んだ溶液の交換が可能であり、複数の反応液を逐次的に循環供給できる。また、微小流路と組み合わせることにより、微量の反応液でアッセイでき、多検体同時計測も可能となる。複数のP450を固定化して基質を作用させることで、基質の同定も可能になる。
【0021】
本発明のもう1つの実施形態によれば、チトクロムP450の酵素活性に必要な補酵素(NADPH)の供給を光で制御することにより、多数の微小ウェルに封入された基質溶液の反応を光照射で同時に開始し、多種類のP450分子種の化学物質への代謝反応初期速度を同時に測定することが可能になる (図13)。微小なマイクロウェルや流路を用いて酵素活性を測定する場合、微小空間における溶液の混合が一般的に難しく、酵素反応の開始時間をどのように制御するかが問題となる。本発明によれば、光照射によりNADPおよび/またはG6Pを反応系内に供給してNADPHを生成し、NADPH依存性酵素の酵素反応開始を時空間的に制御するができる。例えば、チトクロムP450による反応開始時間を制御し、初期反応速度を決定することで、多様な化学物質に対するP450酵素の代謝能をより定量的に評価することが可能になる。また、酵素分子種、化合物、濃度などの異なる多数のサンプルに対して、光照射により同時に酵素反応を開始できるので、機械化によるハイスループット化を実現できる。ケージドNADPは内在性NADPのためにバックグランド反応が若干あるが、ケージドG6Pはバックグランド反応が小さい。また、ケージドNADPとケージドG6Pを併用することで、より強力な光制御が可能になる。
【0022】
以上の効果により、P450代謝活性を従来のアッセイ法よりも高効率・精密に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の積層基板、該積層基板と流路との組み合わせの例を示す。
図2】ルテニウムをドープしたシリカゲル層の調製。TEOS:Octyl-triEOS=5:5付近で蛍光均一性が最も優れていることが明らかになった。
図3】異なる担持マトリックスに封入したP450(ヒトCYP1A1)含有膜画分のクロルトルロン代謝に伴う酸素センサーの蛍光応答:(A) P450封入アガロースゲル、(B) P450封入Ludoxゲル、(C) P450封入シリカゲル。●データは、基質(0.5mMクロルトルロン)存在下での応答。■データは、基質のないNADPH溶液での応答。
図4】(A) 異なる濃度のクロルトルロンに対する、P450(h-CYP1A1)封入アガロースゲルの蛍光応答経時変化(time course)。(B) 図4Aに示される蛍光強度増加の微分値(変位速度)。(C) 蛍光変位速度の最大値(Max.rate)とクロルトルロン濃度の間の相関曲線。
図5】微小流路のデザイン例。100μmの流路(4チャンネル)の中にマイクロウェル(50μm)が等間隔で並んでいる。各ウェル内には、酸素センサーと酵素固定化ゲルが積層されている。
図6】微小流路のデザイン例。幅100μmの流路の中にマイクロウェル(50μm)が等間隔で並んでいる。各ウェル内には、酸素センサーと酵素固定化ゲルが積層されている。
図7】微小流路のデザイン例。幅100μmの流路中の一定部位に酸素センサーと酵素固定化ゲルが積層されている。溶液が流路内を進むに従って化学物質のP450による代謝が進行し、酸素センサーの蛍光強度が上昇(酸素センサー蛍光強度の空間分布により、反応の進行速度をアッセイできる)。
図8】マイクロウェル内で酸素センサーに積層されたP450封入アガロースゲルの概略図。(1) Polymer cover; (2) Substrate solution (e.g. 7-EC, BP); (3) Agarose gel doped P450 microsome; (4) Oxygen-sensing layer ( Ru complex)。
図9】CYP1A1の農薬(クロロトルロン)代謝による酸素センサーの応答比較:(■)アガロースゲルに封入されたP450(積層構造)、(●)溶液中に懸濁したP450。アガロースゲルへとP450を封入することにより、約10倍と検出感度が上昇した。
図10-1】酸素センサー/固定化P450 の食品内成分および農薬(クロロトルロン)に対する蛍光応答((A) CYP1A1, (B) CYP2C8, (C) CYP2E1, (D) CYP3A4)、酸素センサー蛍光強度の経時変化、
図10-2】酸素センサー/固定化P450 の食品内成分および農薬(クロロトルロン)に対する蛍光応答((1)CYP1A1, (2) CYP2C8, (3) CYP2D6, (4) CYP2E1, (5) CYP3A4)。各化合物に対するP450分子種活性に基づいた酸素センサー応答最大値(基質がない場合(NADPH)の測定値に対する比を縦軸とした)。蛍光応答のパターン化により化合物の同定に本センサーが利用できる可能性を示した。
図11】酸素センサー/固定化P450を用いたカプサイシンに対する多様なP450分子種の活性評価: 基質のない溶液に対する応答(バックグランド酸素消費)で標準化。蛍光応答のパターン化により化合物の同定に本センサーが利用できる可能性を示した。各ピークは、左から順にCYP2C9, CYP1A2, CYP2D6, CYP3A4, CYP2B6, CYP2C19 1A, CYP2C19 1B, CYP2E1, CYP1A1, CYP2C8, CYP2W1, CYP4X1, CYP17A1, CYP27A1, CYP51A1, CYP2A6, CYP2A13, CYP1B1, CYP2C18, CYP2J2, CYP3A5, CYP2R1, pcW, CYP2B6であり、CYP3A5のピークが特に高い。
図12】ケージド補酵素を用いた酵素活性制御の概念図。予め反応系に加えられたケージド補酵素(不活性)は光照射により活性な化合物に変換されるため、特定のタイミング、部位で「瞬時」に反応が開始する。ケージド補酵素のメリットとして、(i)機械部の簡略化、(ii)事前に酵素と基質を混合、(iii)初期の解析に優位の3つが挙げられる。
図13】NADPH再生系のケージ化による酵素活性制御の概念図。
図14】ケージドNADPに紫外光を照射することによる、チトクロムP450の活性化:ヒトCYP1A1の蛍光基質(7−エトキシレゾルフイン:7−ER)に対する酵素活性と紫外光照射時間との相関。(A)ケージドNADPのみに光照射、(B)P450に光照射(通常のNADPを使用)、(C)P450(h-CYP1A1)存在下でケージドNADPに光照射。
図15】ケージドG6Pに紫外光を照射することによる、チトクロムP450(ヒトCYP1A1)の活性化:ヒトCYP1A1の蛍光基質(7−エトキシレゾルフイン:7−ER)に対する酵素活性と紫外光照射時間との相関。(A)ケージドG6Pのみに光照射、(B)P450に光照射(通常のG6Pを使用)、(C)P450存在下でケージドG6Pに光照射。
図16】チトクロムP450(ヒトCYP1A1)存在下でケージドNADP/ケージドG6Pに紫外光を照射することによる、チトクロムP450の活性化:ヒトCYP1A1の蛍光基質(7−エトキシレゾルフイン:7−ER)に対する酵素活性と紫外光照射時間との相関。
図17】チトクロムP450(ヒトCYP1A1)存在下において、ケージドNADP、ケージドG6Pを単体もしくは併用して紫外光を照射することによる、チトクロムP450の活性化:ヒトCYP1A1の蛍光基質(7−エトキシレゾルフイン:7−ER)に対する酵素活性と紫外光照射時間との相関。横軸はUV照射時間。■:ケージド-G6P(caged-G6P)の脱ケージ化(decaging)、●:ケージド-NADPの脱ケージ化、▲:ケージド-G6Pとケージド-NADPの脱ケージ化。活性は、通常のG6PとNADPにより標準化した。
図18】局所的紫外光照射によるチトクロムP450(ヒトCYP1A1)酵素活性化:ヒトCYP1A1、7−ER、ケージドG6Pを含む反応液(NADPは天然のもの)をPDMSマイクロウェルに封入し、ひとつのマイクロウェルのみに紫外光照射を行った(光照射したマイクロウェルを矢印で示す)。光照射されたマイクロウェルのみでチトクロムP450が酵素活性を持ち7−ERの代謝による蛍光が観察された。(左)明視野顕微鏡観察像、(右)蛍光顕微鏡観察像。マイクロウェルのサイズは、幅100μm、深さ30μm。
図19】局所的紫外光照射によるチトクロムP450(ヒトCYP1A1)酵素活性化:ヒトCYP1A1、7−ER、ケージドG6Pを含む反応液(NADPは天然のもの)をPDMSマイクロウェルに封入し、ひとつのマイクロウェルのみに紫外光照射を行った。(A)光照射されたマイクロウェル(■)および隣接するマイクロウェル(●)の蛍光強度経時変化、(B)光照射されたマイクロウェル蛍光顕微鏡観察像。(A)に示された時点での観察。マイクロウェルのサイズは、幅100μm、深さ30μm。
図20】微小流路内に異なる濃度の基質を導入し、同時に紫外光照射を行いチトクロムP450(ヒトCYP1A1)酵素を活性化:ヒトCYP1A1、7−ER、ケージドG6Pを含む反応液(NADPは天然のもの)をPDMS微小流路に導入し、全流路に同時に紫外光照射を行った。全ての流路でチトクロムP450が酵素活性を獲得し、7−ERの濃度に応じて代謝による蛍光が観察された。 (a) 0.35μM, (b) 0.69μM, (c) 1.73μM, (d) 3.45μM。微小流路のサイズは、幅60μm、深さ30μm。
図21】異なる基質濃度に対するP450酵素反応:ヒトCYP1A1の蛍光基質(7-ER)に対する代謝活性をマイクロウェルにおいて蛍光顕微鏡で測定。紫外光照射でケージドG6Pを脱保護して反応を開始すると基質濃度に応じた蛍光増加が見られた。マイクロウェルのサイズは、幅100μm、深さ30μm。
図22】ヒトCYP1A1の蛍光基質(7-ER)に対する代謝活性:ミカエリスメンテンプロット(左)および速度論定数(右)を通常のG6PとケージドG6Pで比較。ケージドG6Pを用いたアッセイにおいて、通常のG6Pを用いたアッセイよりもKm, Vmaxのエラー値が小さくデータ精度の高い測定が可能になった。
図23】蛍光基質(7-ER)と非蛍光基質(ベンゾピレン)の競合アッセイ:ベンゾピレン濃度を変化させて7-ERの反応初期速度への影響を調べることで、ベンゾピレンが7-ERに対して非競合阻害剤として作用していることが示された。実線:7ERのみ、破線:ベンゾピレン(0.1uM)、点線:ベンゾピレン(1uM)。
図24】酸素センサーを用いた酵素活性検出。酵素反応は、酸素センサーと固定化P450(ヒトCYP1A1)/アガロースゲルを積層化したマイクロウェル(左図)に蛍光基質(7-ER)、ケージドG6P、その他必要な試薬を含む反応溶液を封入し、紫外光照射を行うことで酵素反応を開始できることが示された(右図)。(I)シールテープ;(II)封入された基質溶液;(III)プラスチック材料(PMMA);(IV)P450/ゲル);(V)酸素センサー。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を積層基板関連発明とケージド化合物関連発明の2つに分けて説明する。
(I)第1発明(積層基板関連発明)
本明細書において、P450は、哺乳動物、昆虫、植物などの膜結合型P450および微生物、細菌の可溶性P450などの総ての生物種のP450を使用できる。哺乳動物としては、ヒト、サル、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコが挙げられ、特にヒトのチトクロムP450が好ましい。ヒトのP450は現在57種が知られており、例えば以下のものが例示される:
CYP1A1、CYP1B1、CYP1A2、CYP2A6、CYP2B6、CYP2A13、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C18、CYP2C19(1A,1B)、CYP2D6、CYP2E1、CYP2J2、CYP2R1、CYP2W1、CYP3A4、CYP3A5、CYP3A7、CYP4X1、CYP17A1、CYP27A1、CYP51A1。本発明はP450を単独でもしくは2種以上を組み合わせて固定化することができる。膜結合型のP450の場合、電子供給のためのチトクロムP450還元酵素を同時に供給する必要がある。
【0025】
本発明の基板は、ガラス、プラスチック、金属、セラミクスなどの任意の素材の基板が使用できる。
【0026】
基板上には、酸素センサー層を形成することができる。
【0027】
酸素センサー層は、酸素センサーとマトリクスから構成される。酸素センサーとしては、ルテニウム錯体、白金錯体などが挙げられ、好ましくはルテニウム錯体、例えばRu(dpp)3Cl2が挙げられる。マトリクスとしては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニアなどのセラミクス、およびポリビニルアルコール(PVA)などの高分子材料が挙げられ、好ましくはシリカが挙げられる。
【0028】
ルテニウム錯体などの酸素センサーは、シリカ中にゾルゲル法で封入することができる。この場合、酸素センサー(ルテニウム錯体)を含むシリカ前駆体溶液をスピンコート法で基板上に塗布し、その後乾燥工程を経ることで作製することができる。
【0029】
ゾルゲル法は、酸素センサー層が均一な蛍光強度を持つよう、文献に報告されている手法を最適化した。中でもシリカゲル作製時におけるシリカ前駆体(TEOSおよびOclyI-lriEOS)の混合比が酸素センサー蛍光強度の均一性に重要な影響を持つことが分かった(図2)。TEOS:Oclyl-triEOSの混合比は、5:5が最も好ましいが、これ以外の比率でも蛍光の変化が検出できるものであればよく、どのようなシリカ前駆体を用いてもよい。
【0030】
次に、P450は、親水性ポリマーのマトリクスに担持するのが好ましい。親水性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール(PVA)、ハイドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)、ハイドロキシエチルセルロース(HEC)などのセルロース誘導体、アルギン酸、ヒアルロン酸、アガロース、デンプン、デキストラン、プルランなどの多糖及びその誘導体、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレンオキサイド、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸等のホモポリマー、或いはこれらと多糖などとの共重合体、混合物及び他のモノマーの共重合体、アルギン酸などのポリアニオンとポリ−L−リジンなどのポリカチオンとのポリイオンコンプレックス膜が挙げられ、好ましくはアガロースゲルが挙げられる。アガロースゲル中に担持されたP450(例えばヒトCYP1A1)は高い酵素活性を持ち、固定化酵素反応による酸素消費を酸素センサーで検出するのに望ましい(図3)。一方、シリカゲルに担持したP450は、バックグランド酸素消費量に対して.基質存在下においてもごくわずかな酸素消費量増加しか認められなかった。アガロースゲルに担持されたヒトCYP1A1では、モデル化合物(クロロトルロン:除草剤)濃度を変化させることによって、酸素消費量の変化を観測した(図4)。蛍光増加速度の最大値を基質濃度に対してプロットした結果、ミカエリス・メンテン速度論で近似的にフィットできる濃度依存性を示した。
【0031】
上記の酸素センサーおよび固定化P450は、シリコンエラストマー樹脂(Poly-dimethylsiloxane (PDMS))、光硬化性樹脂、石英ガラスなどからなる微細構造(微小ウェル、微小流路、あるいはそれらの組み合わせ)に組み込んだ形で使用することが出来る。望ましい形態としては、図5図7に示される微小ウェル、流路デザインが挙げられる。
【0032】
以上の結果より、酸素センサー固定化P450を微小流路の組み合わせることで、図5図7に示すよう多分子種、多検体のヒトP450の多様な化学物質に対する酵素活性を並列・迅速に計測することが可能であると考えられる。
本発明の特徴は、以下のものである。
(1)酸素センサーによって、遺伝子多型も含め全てのP450分子種の活性を検出できる(蛍光基質のように分子種が限定されない)
(2)固定化P450を用いることにより、化合物を含んだ溶液の交換が可能であり、複数の反応液を逐次的に循環供給できる
(3)微小流路と組み合わせることにより、微量の反応液でアッセイできる
(4)多検体同時計測が可能である
【0033】
(II)第2発明(ケージド化合物関連発明)
本発明において、酵素活性を測定する対象となる酵素は、NADPH依存性酵素、或いはNADPH依存性酵素を含む一連の酸化還元反応に関与する任意の酸化還元酵素、例えばNADPH依存性酵素により還元される酵素、特に酸化酵素が挙げられる。このような酸化酵素としては、チトクロムP450が好ましく例示される。NADPH依存性酵素としては、チトクロムP450還元酵素が挙げられる。
【0034】
生理活性を持つ分子に光脱離性保護基を付加して活性を抑制し、光照射による脱保護によって生理活性を回復できるよう分子設計された分子は、ケージド化合物とよばれ、これまで生体分子の機能を解析するツールとして多用されてきた。本発明者は、ケージド化合物の対象として、NADPHをNADPから産生するNADPH再生系に着目した。NADPH再生系はグルコース6リン酸(G6P)とグルコース6リン酸脱水素酵素を用いることでNADPからNADPHを産生するものである。従って、NADPもしくはG6Pに保護基を付加したケージドNADPとケージドG6Pを用いることで、P450酵素反応に必要なNADPH供給を光により制御することが出来る。
【0035】
なお、本発明では、ケージドNADPおよびケージドG6Pを用いてNADPH依存性酵素の活性を測定できるが、NADPH依存性酵素としては、チトクロムP450還元酵素、チオレドキシンレダクターゼ、グルタチオンレダクターゼ、潜在的抗癌剤の選択及び同定のためのNADPH-キノンレダクターゼ(NADPH QR)などが知られている。
【0036】
中でもチトクロムP450還元酵素は、チトクロムP450の活性に共役しており、同酵素の活性を制御することで、多様な医薬品、食品中の化学物質に対するP450の活性を評価することが可能になる。P450としては、CYP1A1、CYP1B1、CYP1A2、CYP2A6、CYP2B6、CYP2A13、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C18、CYP2C19(1A,1B)、CYP2D6、CYP2E1、CYP2J2、CYP2R1、CYP2W1、CYP3A4、CYP3A5、CYP3A7、CYP4X1、CYP17A1、CYP27A1、CYP51A1などが知られており、本発明によればこれらのP450酵素活性を正確に測定することができる。
【0037】
本発明のケージド化合物は、NADPもしくはG6Pに下記式(I)または(IA)のケージド基:
【0038】
【化3】
【0039】
〔式中、R1、R2、R3は、同一又は異なって水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、アミノ基、ハロゲン原子、水酸基またはシアノ基を示すか、あるいはR1、R2及びR3のいずれか2つが一緒になってメチレンジオキシ基を示す。Rは、水素原子又はメチル基を示す。Rは水素又はメトキシ基を示す。〕を導入する。ケージド基(Caged group)を導入する位置は、以下に示す。
【0040】
【化4】
【0041】
式(I)において、R1、R2、R3で表される低級アルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチルなどの炭素数1〜4の直鎖又は分枝を有するアルキル基が挙げられる。
【0042】
低級アルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシなどの炭素数1〜4の直鎖又は分枝を有するアルコキシ基が挙げられる。
【0043】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0044】
好ましい式(I)の基は、R1、R2、R3は、いずれか2つが水素原子で、残りの1つが水素原子、低級アルキル基または低級アルコキシ基で、Rが水素原子で表される基である。
【0045】
ケージド基は、紫外線照射により除去される。照射される紫外線としては、光感受性基を除去できる限り特に限定されず、通常の紫外線ランプ、例えばXe-Hgランプ(365nm)などが用いられる。紫外線照射の条件は特に限定されないが、例えばTLC検出用の紫外線ハンドランプ(トプコン製、PU-2)で1時間程度処理すればよい。
【0046】
本発明のキットは、ケージドNADPおよびケージドG6Pからなる群から選ばれる少なくとも1種のケージド化合物、NADPH依存性酵素、必要に応じてさらにNADPH依存性酵素により還元される酸化酵素を含み、さらにNADPH依存性酵素の緩衝液、モデル基質などを含んでいてもよい。また、P450の活性評価に用いる場合には、P450還元酵素1種の他、少なくとも1種のP450を含んでいる。
P450の活性は、例えば以下のようなモデル基質を用いて測定することができる
【0047】
【表1】
【0048】
上記以外のP450あるいは、P450以外のNADPH依存性酵素においても、活性は各酵素のモデル基質を用いて精密に測定することができる。
【0049】
本発明のケージド化合物は、公知であるか、公知文献に記載の方法もしくは実施例に記載の方法、またはそれに準じた方法により容易に合成することができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照しながらより詳細に説明する。
製造例1A:ヒトP450酵素タンパク質の大腸菌内における安定発現とP450含有膜画分の調製および活性評価
1.ヒトP450発現
P450発現用カセットプラスミド、pCWRm1A2Nに対し、ヒト主要P450遺伝子(CYP1A1など)およびヒトNADPH−P450還元酵素をタンデムに挿入したP450発現用カセットプラスミドを用いて大腸菌での発現を試みた。大腸菌の形質転換は、定法によりコンピテントDH5αを形質転換する事により行った。また、各プラスミドの大腸菌への導入確認は、LB培地に添加した抗生物質アンピシリンによる薬剤耐性能を評価することにより行った。抗生物質アンピシリンを含むLB寒天培地上の単一大腸菌コロニーを、2.5mlのTB液体培地へと植菌することにより組換え大腸菌の培養を開始した。前培養は、16時間、37℃の条件下で行った。次に、終濃度500μg/mlのアミノレブリン酸および終濃度50μg /mlのアンピシリンを含むLB培地中でOD値が0.3前後になるまで約3時間培養した。次に、37℃の培養後培養温度を28℃まで下げると同時に終濃度1mMのIPTGを添加し、引き続き24時間培養を行った。組換え大腸菌株は、遠心分離操作により大腸菌培養液から回収した。各P450酵素タンパク質の大腸菌内における発現量については、還元型CO差スペクトルを測定する事により評価した。還元型CO差スペクトルは、定法に従い還元条件下でCOを通気することにより測定した。P450のモル数は、佐藤・大村らの定数を用いて算出した(T. Omura, and R. Sato, J. Biol. Chem. 1964, 239, 2370-2378.)。
【0051】
2.膜画分精製
大腸菌膜画分(ミクロソーム)の精製は以下の方法により行った。200mlのTB培養液を3000gで10分間遠心して集菌した後、30秒ずつ計6回の超音波破砕処理を行い菌体を破砕した。次に、この菌体破砕液を10,000rpmで10分間遠心する事により大腸菌残渣を遠心分離した。遠心操作後に得られた上清を4℃、40,000rpm(100,000g)で超遠心分離操作を行い、P450酵素タンパク質を含む膜画分を回収した後にこの大腸菌膜画分を3mlのP450保存緩衝液(20%グリセロールを含む100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5))に分散させた。
【0052】
3.活性計測
調製後の組換え大腸菌におけるヒトCYP1A1による薬物代謝活性については、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法により評価した。酵素基質としては、P450モデル蛍光基質である7−エトキシクマリンを用いた。酵素反応は、先に培養したP450酵素タンパク質を発現させた組換え大腸菌株に対して直接基質を添加する方法と、P450酵素タンパク質を発現させた組換え大腸菌株から超遠心法を用いて精製した大腸菌膜画分を用いる2種類の方法を検討した。P450による酸化反応は、P450発現大腸菌株を用いた際には終濃度0.1mMの各種酵素基質を添加した後に、50時間、28℃でインキュベーションする事により反応させた。一方、P450を発現させた大腸菌膜画分を用いた代謝実験の際には、補酵素として終濃度0.2mMのNADPHを反応液に添加した。HPLC解析は、HITACHI製D7000HPLCシステムにナカライテスク製のC18逆相カラム, COSMOCIL (5C18-AR)を用い、溶離液としてMeOH/H2O(0.85%リン酸含む)35対65から100対0への直線的グラジエント法を用いた。
【0053】
実施例1A
1 材料
テトラエチルオルトシリケート(TEOS), トリエトキシ(オクチル)シラン (オクチル-トリEOS), Ludox HS-40 コロイダルシリカ, アガロース(Type VII) 及び珪酸ナトリウム溶液をSIGMA-ALDRICHから購入した。 トリ(4,7-ジフェニル-1,10-フェナンスロリン) ルテニウムジクロリド(Ru(dpp)3Cl2), エタノール, メタノール及び濃塩酸は、和光純薬工業から入手した、リン酸ニ水素カリウム、β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸四ナトリウム塩(NADPH)及びリン酸水素二カリウムは、ナカライテスクから購入した。クロルトルロンは、Riedel-de Haenから入手した。グルコース-6-リン酸(G6P)は東京化成工業(株)から購入した。グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ (G6PD)は東洋紡績株式会社から購入した。96マイクロウェルプレートはNUNCから購入した。18 MΩ.cm以上の抵抗率を有するミリQ水は、水溶液を調製するのに使用した。全ての化学薬品、溶媒は分析試薬グレードであり、さらに精製することなく使用した。
【0054】
2 装置
全ての発光測定は、励起波長と発光波長が各々400 nmと620 nmであるソフトウェアAscent software version 2.4により制御されたマイクロプレートリーダーFluoroskan Ascent CF (Labsystem)で行った。アガロースゲルの透明性のため、測定にはプレート上部からの観察(トップモード)を使用した。
【0055】
3 マイクロプレート上での酸素センサー層の調製
ルテニウム錯体(Ru(dpp)3Cl2)をドープしたゾル溶液を文献(Anal. Chem. 75 (2003) 2407-2413.)に記載の方法を改良し、以下のように調製した。0.29 ml TEOSを0.612 ml オクチル-トリEOS, 0.625 mLエタノール及び0.2 mLの0.1 M HClと撹拌しながら室温で1時間混合した。次いで最終的に形成される酸素センサーフィルムの品質を改良するために、1.725 mLのエタノールを該溶液に加えてゾルを希釈した。溶液を1時間撹拌し続けた。Ru(dpp)3Cl2ドープしたゾルを調製するために、100 μLの2 mM Ru(dpp)3Cl2 のエタノール溶液を300 μL の上記ゾル溶液と混合した。これらの混合溶液にキャップをして30分間撹拌し、10 μLをマイクロプレートの各ウェルにピペットで加えた。マイクロプレートを暗所・室温で保存してゲル化させ、さらに6日間エージングした。酸素センサー表面の親水性を向上しハイドロゲルとの接着性を増大するために、ポリ (ビニルアセテート) (PVAC)を使用してマイクロアレイの表面を修飾した。
【0056】
4 アガロースゲル、TEOSゲル及びLudoxゲルへのP450膜画分封入
アガロースを純水に溶解し、60℃で1.3%(w/w)溶液を調製した。この溶液を約38 ℃に冷却した。100 μL のP450 懸濁液を300 μLの1.3%アガロースゾルと混合し、次いで60 μLのP450/アガロースゾルをマイクロプレートの各ウェルの酸素センサー層表面にピペットで加えた。マイクロプレートを使用するまで冷蔵庫に4℃で保存した。酸素センサーマイクロアレイにおけるP450封入アガロースゲルの概略図を図8に示す。
【0057】
TEOS ゾルは、0.5 mL TEOS, 0.25 mL純水及び12.5 μLの0.1 M HClを混合し、3時間撹拌して均質ゾルを形成することにより調製した。該ゾルを純水で4倍希釈した。300 μLの希釈したTEOSゾルを100 μLのP450ミクロソーム懸濁液と混合し、60 μLの該ゾルをピペットでマイクロプレートの各ウェルの酸素センサー層表面に加えた。マイクロプレートはまた、冷蔵庫中に4 ℃で保存した。
【0058】
Ludoxゾルを文献(Anal. Chem. 77 (2005) 7080-7083及びJ. Mater. Chem. 13 (2003) 203-208)に記載のように調製した。具体的には、0.5 mLの8.5 M Ludox コロイダルシリカを0.5 mLの0.16 M 珪酸ナトリウム溶液と撹拌しながら混合した。4.0 M HClをpH値を約 7に中和するために使用した。次いで、100 μLのP450ミクロソーム懸濁液を300 μLの上記Ludoxシリカゾルと混合した。60 μLのP450ドープされたゾルをマイクロプレートの各ウェルに1滴ずつ加えた。マイクロプレートを使用するまで4℃の冷蔵庫で保存した。
【0059】
5 固定化P450・酸素センサー積層基板による基質代謝活性の測定
固定化P450・酸素センサー積層基板による基質代謝活性を測定するため、P450としてヒトCYP1A1を固定化し、基質としてクロルトルロン(除草剤)用いて、検討を行った。クロロトルロンの濃度を変えた標準基質溶液は、以下のように調製した。様々な濃度 (0.8, 4, 8, 20, 40 mM)の25 μLのクロルトルロン/エタノール溶液を、NADPH再生系(0.1 mM NADPH、3 mM MgCl2、3 mM G6P及び0.4 U/mL G6PD)を含む1975 μLの0.1 M KPB溶液に加えた。クロルトルロンの最終濃度は0.01, 0.05, 0.1, 0.25及び0.5 mMであった。固定化P450・酸素センサー積層基板を含有するマイクロプレートの各ウェルに、基質濃度の異なる各溶液250 μLを加えた。透明ポリマーテープを使用してプレートの各ウェルをシールし、酵素反応中に空気中の酸素が該溶液に混入するのを防止した。マイクロアレイへの基質溶液の添加後、蛍光測定のためにマイクロプレートをマイクロプレートリーダーのプラットフォーム上に速やかに置いた。蛍光強度は3時間、5分ごとに記録した。
【0060】
結果
1 アガロースゲル, Ludoxシリカゲル及びTEOSシリカゲルに封入したP450によるクロルトルロン代謝応答
P450を封入するマトリックスとして、アガロースゲル, Ludoxシリカゲル及びTEOSシリカゲルを用い、代謝活性の検討を行った。図3Aは、クロルトルロン溶液 (0.5 mM)およびクロロトルロンを含まない溶液(両者ともNADPH再生系を含有)がP450 封入アガロースゲルに導入された際の酸素センサー層の蛍光強度の計時変化を示す。基質を添加しない場合でも、わずかな蛍光強度の増加が示された(■)。これはP450酵素存在下のNADPH 酸化による副反応が寄与しているものと考えられる。基質 (0.5 mM クロルトルロン)の存在下では、蛍光強度が有意に増加し(●)、時間とともに定常状態に達することが観察された。蛍光の増大は、アガロースゲル中に封入されたP450ミクロソームが水溶液中と同様にP450酵素活性を維持し、クロルトルロンに代謝反応を通じた酸素消費を行うことを反映している。蛍光の変化は、溶液相系における遊離形態のP450の代謝反応において見られる類似の速度論的挙動を示す。これは、アガロースゲルの微細孔構造がNADPHと基質の早い拡散による供給を可能にするためであると考えられる。
【0061】
図3B及び3Cは、P450封入Ludoxシリカゲル及びTEOSシリカゲルを酸素センサーに積層した基板の基質(0.5 mM クロルトルロン)の存在下及び非存在下における蛍光応答を示す。Ludoxシリカゲルでは、P450封入アガロースゲルの結果と比較して、NADPHからのより高いバックグラウンドの酸素消費が図3B(■)で観察された。一方、基質を添加した場合においても、蛍光増加は顕著に増大しなかった。これは、P450代謝活性が無機材料であるLudoxシリカゲル内では抑制されている、基質の拡散が制限されている、などの原因が考えられる。TEOSシリカゲルに封入されたP450においては、基質不在下におけるバックグラウンド酸素消費は低いが、基質存在下においてもに明確な蛍光増加は起こらなかった(図3C)。これは、TEOS の加水分解により生じるエタノールがP450酵素活性を低下させるためであると考えられる。
【0062】
アガロースゲル中でのP450ミクロソームの安定性を評価するために、P450代謝マイクロアレイを10日間及び21日間維持し、クロルトルロン試験と同じ実験方法を用いてP450ミクロソームの活性を評価した。P450マイクロアレイは、3週間維持した後でさえも類似の触媒挙動を示す。このことは、P450 活性がアガロースゲル封入により長期間保存されることを意味する。
【0063】
2 異なる基質濃度に対するP450封入アガロースゲルの応答
異なる濃度のクロルトルロン溶液をP450封入アガロースゲルに導入し、酸素センサーの蛍光応答を評価した。図4Aは、異なる濃度のクロルトルロン溶液存在下における蛍光強度の時間変化を示す。P450封入アガロースゲルは基質の濃度変化に敏感であり、異なる濃度では異なる蛍光強度変化を示した(図4A)。経時的な蛍光強度変化は、シグモイダル曲線にフィットすることが可能であり、0.99という高い相関係数を有することが分かった。これは微生物の生化学的酸素要求(BOD)バイオセンサーと類似する挙動であり、蛍光強度の微分値を用いたdynamic transient method (DTM) を使用してデータを解析することが可能である。図4Bは、図4Aに示される蛍光強度増加の微分値(変位速度)を示す。蛍光強度の変位速度は、基質がP450に代謝されることにより生じる酸素消費に対応して、最初の1時間増加を続ける。次に、酸素もしくは基質の消耗を反映して、変異速度が時間とともに減少する。図4Cは、蛍光変位速度の最大値を基質(クロルトルロン)濃度に対してプロットしたものである。エラーバーは、標準偏差を示す。また、赤い曲線は、データをミカエリス・メンテンの式でフィッティングしたものである。DTM法により得られる蛍光変位速度の最大値は、近似的ではあるがミカエリス・メンテンの速度モデルで評価できることが示された。
【0064】
実施例2A:積層構造及び溶液中のP450酵素活性検出比較
P450としてCYP1A1を、基質としてクロロトルロンを各々使用し、実施例1Aと同様にして、CYP1A1をアガロースゲルに固定化した積層基板を作製し、CYP1A1の酵素活性を蛍光強度の変化により測定した。また、CYP1A1を溶液中に同一濃度(膜画分サンプルを15μL添加)懸濁し、クロロトルロンを0.2mMの濃度で存在させ、CYP1A1の酵素活性を蛍光強度の変化により測定した。結果を図9に示す。
【0065】
実施例3A:異なる化合物に対するP450分子種の代謝活性
96ウェルマイクロプレートを用いて、酸素センサー表面に異なる分子種のヒトP450 ((A) CYP1A1, (B) CYP2C8, (C) CYP2E1, (D) CYP3A4)を固定化し、食品内成分(カプサイシン、サフロール、エストラゴール、7−クマリン、5−MOP、8−MOP)および農薬(クロロトルロン)に対する蛍光応答を求めた。結果を図10−1、図10−2に示す。図10−1は、酸素センサー蛍光強度の経時変化を示し、図10−2は各化合物に対する酸素センサー応答最大値を示す。図10−2の縦軸は、基質がある場合の応答を基質がない場合(NADPH)の応答(バックグランド酸素消費)で割って規格化した値である。各化合物に対して、異なる分子種が活性を示すことが分かる。この結果は、酸素センサーの蛍光応答を多種類の分子種に対して取得しパターン化することにより、化合物の同定に本センサーが利用できる可能性を示すものである。また、医薬品などの化合物に対するヒトP450の活性を並列で検出できる可能性も示している。
【0066】
実施例4A:化合物に対する多様なP450分子種の代謝活性
96ウェルマイクロプレートを用いて、酸素センサー/固定化P450のカプサイシンに対する多様なヒトP450分子種の活性評価を行った。基質のある溶液と基質のない溶液に対する応答を比較し、各分子種の活性を標準化した。P450としては、CYP2C9、CYP1A2、CYP2D6、CYP3A4、CYP2B6、CYP2C19(1A,1B)、CYP2E1、CYP1A1、CYP2C8、CYP2W1、CYP4X1、CYP17A1、CYP27A1、CYP51A1、CYP2A6、CYP2A13、CYP1B1、CYP2C18、CYP2J2、CYP3A5、CYP2R1、CYP2B6を用いた。また、ヒトP450を含まないネガティブコントロールとして、大腸菌由来の膜画分(pCW)を用いた。結果を図11に示す。図11の縦軸は、基質がある場合の応答を基質がない場合の応答(バックグランド酸素消費)で割って規格化した値である。各化合物に対して、異なる分子種が活性を示すことが分かる。この結果は、酸素センサーの蛍光応答を多種類の分子種に対して取得しパターン化することにより、化合物の同定に本センサーが利用できる可能性を示すものである。また、医薬品などの化合物に対するヒトP450の活性を並列で検出できる可能性も示している。
【0067】
製造例1B:ケージドNADPの合成
2-Nitrophenyl-acetophenone hydrazone(26.9mg 0.15mmol)をジクロロメタン (0.3ml)に溶かし、酸化マンガン(65.2mg、0.75mmol)を 加え、5分間攪拌した。その後、遠心し、上清をPTFEフィルター(ミリポア製、孔径0.75μm)でろ過し、NADP水溶液(77mg(0.1mmol) を0.3mlの水に溶かした溶液)を加え、2時間攪拌した。水層をジクロロメタンで2回洗浄した後、凍結乾燥し、116mgの白色粉末を得た。これをアセトニトリルとトリフルオロ酢酸を含む溶離液を用いたC-18逆相HPLCで精製し、凍結乾燥し、白色粉末の目的物(ケージド基が式I(R1、R2、R3=H、R=CH3)のケージドNADP)を得た。質量分析(ESI):計算値 892.4、観測値 893.1 for [M+H+]
【0068】
製造例2B:ケージドG6Pの合成
2-Nitrophenyl-acetophenone hydrazone(1.26mmol、225mg)をジクロロメタン (1ml)に溶かし、酸化マンガン(369.9mg)を 加え、30分間攪拌した。その後、遠心し、上清をPTFEフィルター(ミリポア製、孔径0.75μm)でろ過し、グルコース6リン酸Na塩水溶液(87.3mg(0.31mmol) を1mlの水に溶かした溶液)を加え、1晩攪拌した。水層をジクロロメタンで2回洗浄した後、凍結乾燥し、116mgの白色粉末を得た。これをアセトニトリルと10mM炭酸水素アンモニウムを含む溶離液を用いたC-18逆相HPLCで精製し、凍結乾燥を2回行い、白色粉末の目的物(ケージド基が式I(R1、R2、R3=H、R=CH3)のケージドG6P)を得た(97.8mg、収率77%)。質量分析(ESI):計算値 409.07、観測値 432.3 for [M+Na+]
【0069】
製造例3B:ケージドNADPの合成2
3,4-dimethoxy-2-Nitrophenyl-acetophenone hydrazoneを用い、製造例1Bと同様な操作により、白色粉末の目的物(ケージド基が式I(R1=4-methoxy、R2=5-methoxy、R3=H、R=CH3)であるケージドNADP)を得た。質量分析(ESI):m/z 計算値 953.15 for [M+]、観測値 953.2 for [M+]
【0070】
製造例4B:ケージドG6Pの合成2
3,4-dimethoxy-2-Nitrophenyl-acetophenone hydrazoneを用い、製造例2Bと同様な操作により、白色粉末の目的物(ケージド基が式I(R1=4-methoxy、R2=5-methoxy、R3=H、R=CH3)であるケージドG6P)を得た。質量分析(ESI):m/z 計算値 469.099 for [M]、観測値 470.2 for [M+H+], 492.3 for [M+Na+], 508.1 for [M+K+], 482.3 for [2M+Na++H+]
【0071】
参考実験1B:ケージドNADPの光分解
製造例1Bの凍結乾燥前のケージドNADPの水溶液25μlをエッペンドルフチューブにとり、紫外線ランプ(150W 水銀キセノンランプ、浜松ホトニクス製)の光を5分照射したところ、ケージドNADPに相当するm/e=893.1のピークが減少し、NADPに相当するm/e=744.1([M+H+])のピークの出現が観察された。このことから、ケージドNADPのケージド基を紫外光照射により脱保護し、NADPを与えることが確認された。
【0072】
製造例5B:ヒトP450酵素およびP450還元酵素の大腸菌内安定発現と膜画分の調製
1.ヒトP450およびP450還元酵素の発現
P450発現用カセットプラスミド、pCWRm1A2Nに対し、ヒト主要P450(CYP1A1)およびヒトNADPH−P450還元酵素をタンデムに挿入したP450発現用カセットプラスミドを用いて大腸菌での発現を試みた。大腸菌の形質転換は、定法によりコンピテントDH5αを形質転換する事により行った。また、各プラスミドの大腸菌への導入確認は、LB培地に添加した抗生物質アンピシリンによる薬剤耐性能を評価することにより行った。抗生物質アンピシリンを含むLB寒天培地上の単一大腸菌コロニーを、2.5mlのTB液体培地へと植菌することにより組換え大腸菌の培養を開始した。前培養は、16時間、37℃の条件下で行った。次に、終濃度500μg/mlのアミノレブリン酸および終濃度50μg /mlのアンピシリンを含むLB培地中でOD値が0.3前後になるまで約3時間培養した。次に、37℃の培養後培養温度を28℃まで下げると同時に終濃度1mMのIPTGを添加し、引き続き24時間培養を行った。組換え大腸菌株は、遠心分離操作により大腸菌培養液から回収した。各P450酵素タンパク質の大腸菌内における発現量については、還元型CO差スペクトルを測定する事により評価した。還元型CO差スペクトルは、定法に従い還元条件下でCOを通気することにより測定した。P450のモル数は、佐藤・大村らの定数を用いて算出した。
【0073】
2.膜画分精製
大腸菌膜画分の精製は以下の方法により行った。200mlのTB培養液を3000gで10分間遠心して集菌した後、30秒ずつ計6回の超音波破砕処理を行い、菌体を破砕した。次に、この菌体破砕液を10,000rpmで10分間遠心する事により大腸菌残渣を遠心分離した。遠心操作後に得られた上清を4℃、40,000rpm(100,000g)で超遠心分離操作を行い、P450酵素タンパク質を含む膜画分を回収した後にこの大腸菌膜画分を3mlのP450保存緩衝液(20%グリセロールを含む100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5))に分散させた。
【0074】
試験例1B:活性計測
調製後の組換え大腸菌におけるヒトCYP1A1による薬物代謝活性については、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法により評価した。酵素基質としては、P450モデル蛍光基質である7−エトキシクマリン(7EC)を用いた。酵素反応は、先に培養したP450酵素タンパク質を発現させた組換え大腸菌株に対して直接基質を添加する方法と、P450酵素タンパク質を発現させた組換え大腸菌株から超遠心法を用いて精製した大腸菌膜画分を用いる2種類の方法を検討した。P450による酸化反応は、P450発現大腸菌株を用いた際には終濃度0.1mMの各種酵素基質を添加した後に、50時間、28℃でインキュベーションする事により反応させた。一方、P450を発現させた大腸菌膜画分を用いた代謝実験の際には、補酵素として終濃度0.2mMのNADPHを反応液に添加した。HPLC解析は、HITACHI製D7000HPLCシステムにナカライテスク製のC18逆相カラム, COSMOCIL (5C18-AR)を用い、溶離液としてMeOH/H2O(0.85%リン酸含む)35対65から100対0への直線的グラジエント法を用いた。
【0075】
試験例2B ケージドNADPを用いたチトクロムP450の酵素活性計測
ケージドNADPを用いてチトクロムP450酵素活性を測定した。反応液は、1M カリウムリン酸緩衝液 50μL、40mM 7−エトキシレゾルフィン(7ER)6.25μL、50mM G6P30μL、69.3U/mL グルコース6リン酸還元酵素2.89μL、100mM 塩化マグネシウム15μL、5mMケージドNADP水溶液1μL P450膜画分(ヒトCYP1A1)10.25μL、0.1M ジチオトレイトール5μL、超純水379.61μLを混合した水溶液を用いた。(ウシオスポットキュア:光強度14〜15mW/cm2 (365nm))紫外光を異なる時間照射してケージドNADPをNADPに変換した後、30分間インキュベーションしてP450酵素反応を行った。その後、30% トリクロロ酢酸を25μL添加し、酵素反応を停止した。反応液にクロロホルムを500μL添加し、1分間撹拌することで、反応で生成した7−ハイドロキシクマリン(7HR)をクロロホルムに抽出した。1分間遠心分離後、下層のクロロホルム層を250μL回収し、0.01M NaOH/ 0.1M NaClを500μL添加して1分間撹拌することで、7HRを水溶液に再抽出した。1分間遠心分離後、上層をキュベットに移し取り、蛍光スペクトルを以下の条件で測定した(日立F-4500)。励起波長:366nm、蛍光波長:380nm-600nm。蛍光極大値を用いて、7HRを定量した。また、光照射によるケージドNADPの脱保護およびチトクロムP450の失活の影響を個別に検討するため、以下の条件でも検討を行った。(A)ケージドNADPのみに紫外光を照射して反応液に加える。(B)P450を含む反応液に光照射を行い通常のNADPを加える。結果は、図14に示される。ケージドNADPのみに紫外光照射してP450活性アッセイに用いた場合(A)では、紫外光照射量とともに活性が上昇し、約8秒で一定値に達していることが分かった。一方、(B)に示されるように、紫外光照射によりP450酵素の活性が徐々に低下するという副作用が存在することも分かった。これは、P450が色素を持つヘムタンパク質であるためであると考えられる。従って、P450酵素存在下でケージドNADPに紫外光照射を行うと、紫外光照射時間に対するP450活性化の依存性は、ケージドNADP脱保護とP450の失活の両方の効果を足しあわせた挙動となることが分かった(C)。酵素活性化のために至適な照射時間は、約8秒であることが分かった。なお、ケージドNADPは、P450試料内に含まれる内在性NADPのために、保護された状態でも若干の反応がバックグランドとして進行することが確認された。
【0076】
試験例3B:ケージドG6Pを用いたチトクロムP450の酵素活性計測
ケージドG6Pを用いてチトクロムP450酵素活性を測定した。反応液は、1M カリウムリン酸緩衝液 50μL、40mM 7−エトキシレゾルフィン(7ER)6.25μL、5mM ケージドG6P 30μL、69.3U/mL グルコース6リン酸還元酵素2.89μL、100mM 塩化マグネシウム15μL、5mM NADP水溶液1μL P450膜画分(ヒトCYP1A1)10.25μL、0.1M ジチオトレイトール5μL、超純水379.61μLを混合した水溶液を用いた。紫外光を異なる時間照射してケージドG6PをG6Pに変換した後、30分間インキュベーションしてP450酵素反応を行った。その後、30% トリクロロ酢酸を25μL添加し、酵素反応を停止した。反応液にクロロホルムを500μL添加し、1分間撹拌することで、反応で生成した7−ハイドロキシクマリン(7HR)をクロロホルムに抽出した。1分間遠心分離後、下層のクロロホルム層を250μL回収し、0.01M NaOH/ 0.1M NaClを500μL添加して1分間撹拌することで、7HRを水溶液に再抽出した。1分間遠心分離後、上層をキュベットに移し取り、蛍光スペクトルを以下の条件で測定した。励起波長:366nm、蛍光波長:380nm-600nm。蛍光極大値を用いて、7HRを定量した。また、光照射によるケージドG6Pの脱保護およびチトクロムP450の失活の影響を個別に検討するため、以下の条件でも検討を行った。(A)ケージドG6Pのみに紫外光を照射して反応液に加える。(B)P450を含む反応液に光照射を行い通常のG6Pを加える。結果は、図15に示される。ケージドG6Pのみに紫外光照射してP450活性アッセイに用いた場合(A)では、紫外光照射量とともに活性が上昇し、約4秒で一定値に達していることが分かった。一方、紫外光照射によりP450酵素の活性が徐々に低下するという副作用が存在することも分かった(B)。従って、P450酵素存在下でケージドG6Pに紫外光照射を行うと、紫外光照射時間に対するP450活性化の依存性は、ケージドG6P脱保護とP450の失活の両方の効果を足しあわせた挙動となることが分かった(C)。酵素活性化のために至適な照射時間は、約4秒であった。なお、ケージドNADPは、P450試料内に含まれる内在性NADPのために、保護された状態でも若干の反応がバックグランドとして進行するが、ケージドG6Pの場合は、保護された状態におけるバックグランド反応はほぼ無視できる。従って、単体で用いる場合には、ケージドG6Pの方がより精密な光制御を行えると言える。
【0077】
試験例4B:ケージドNADPとケージドG6Pを併用したチトクロムP450の酵素活性計測
試験例2B−3Bの結果から、ケージドNADPとケージドG6Pはいずれも、比較的短時間の光照射によってP450酵素活性を制御できることが分かった。また、ケージドNADPは、P450試料内に含まれる内在性NADPのために、保護された状態でも若干の反応がバックグランドとして進行する。ケージドNADPとケージドG6Pを併用することでより強固なP450の活性抑制が可能になり、より精密な酵素活性計測が可能になるものと考えられる。
【0078】
ケージドNADPおよびケージドG6Pを同時に用いてチトクロムP450酵素活性を測定した。反応液は、1M カリウムリン酸緩衝液 50μL、40mM 7−エトキシレゾルフィン(7ER)6.25μL、5mM ケージドG6P 30μL、69.3U/mL グルコース6リン酸還元酵素2.89μL、100mM 塩化マグネシウム15μL、5mM ケージドNADP水溶液1μL P450膜画分(ヒトCYP1A1)10.25μL、0.1M ジチオトレイトール5μL、超純水379.61μLを混合した水溶液を用いた。紫外光を異なる時間照射してケージドNADPおよびケージドG6PをNADP、G6Pに変換した後、30分間インキュベーションしてP450酵素反応を行った。その後、30% トリクロロ酢酸を25μL添加し、酵素反応を停止した。反応液にクロロホルムを500μL添加し、1分間撹拌することで、反応で生成した7−ハイドロキシクマリン(7HR)をクロロホルムに抽出した。1分間遠心分離後、下層のクロロホルム層を250μL回収し、0.01M NaOH/ 0.1M NaClを500μL添加して1分間撹拌することで、7HRを水溶液に再抽出した。1分間遠心分離後、上層をキュベットに移し取り、蛍光スペクトルを以下の条件で測定した。励起波長:366nm、蛍光波長:380nm-600nm。蛍光極大値を用いて、7HRを定量した。結果は、図16に示される。ケージドNADPもしくはケージドG6Pを単体で使用した場合と較べて、より長い紫外光照射が必要であり、至適な照射時間は約15秒であった。一方、紫外光を照射しない条件(ケージドNADPとケージドG6Pを用いた反応)のP450酵素反応は、ケージドG6P単体を用いた場合よりもさらに小さく、より強固なP450の活性抑制が可能であることが分かった。図17にケージドNADPもしくはケージドG6Pを単体で使用した場合、および両者を併用した場合の結果のまとめを示す。P450活性は、通常のNADPとG6Pを用いた場合の活性を基準値として規格化した。ケージドG6Pを単体で使用した場合に最も短時間の紫外光照射で活性が極大となり、他の条件に較べて活性の最大値も大きいことが分かった。一方、両者を併用した場合には、活性化するために要する紫外光照射時間が長く、極大における活性が最も低かった。以上の結果から、2種類のケージド化合物の併用は、保護状態での強固な活性抑制というメリットはあるが、光による活性化という目的からは、ケージドG6Pを単体で用いるのが最も効果的であると考えられる。
【0079】
試験例5B:マイクロウェルを使用したチトクロムP450の酵素活性計測
ケージド化合物を用いることにより、局所的紫外光照射で酵素活性を空間的に制御することが可能である。このことを示すために、幅100μm、深さ30μmのサイズを持つマイクロウェルをシリコンエラストマー(ポリジメチルシロキサン:PDMS)で作製し、その中にチトクロムP450酵素活性測定反応液を導入して、光学顕微鏡下で局所的に紫外光を照射することにより、光を照射したマイクロウェル内でのみP450酵素を活性化する実験を行った。反応液は、1M カリウムリン酸緩衝液 50μL、40mM 7−エトキシレゾルフィン(7ER)6.25μL、5mM ケージドG6P 30μL、69.3U/mL グルコース6リン酸還元酵素2.89μL、100mM 塩化マグネシウム15μL、5mM NADP水溶液1μL P450膜画分(ヒトCYP1A1)10.25μL、0.1M ジチオトレイトール5μL、超純水379.61μLを混合した水溶液を用いた。反応液をPDMSマイクロウェルの上に滴下し、スライドガラスをその上からかぶせることで、溶液を各ウェル内に封入した。蛍光顕微鏡(オリンパスBX51WI)によってマイクロウェル内の蛍光を5分間観察(励起:545-580nm、蛍光:610nm以上)した後、励起光フィルターの波長を330-385nmに切り替え8秒間照射することで、マイクロウェル内のケージドG6Pの脱保護を行った。紫外光照射領域は、ピンホールを用いてひとつのマイクロウェル内に限定した。その後励起光波長域を再度変更し10秒間観察を続けた。その結果、光照射されたマイクロウェルのみでチトクロムP450が酵素活性を持ち7ERの代謝による蛍光が観察された(図18)。明視野顕微鏡観察ではマイクロウェルが約100μmの間隔で並んでいるが、蛍光顕微鏡観察ではその中のひとつのマイクロウェルだけで7HRの蛍光が観察されることが分かる。図19は、紫外光照射前後のマイクロウェル内の蛍光強度をプロットしたものである。紫外光を照射したウェルでは照射後蛍光強度が顕著に増大しているが、約100μmの間隔で隣接している別のマイクロウェルにおいては蛍光強度の増大は観察されなかった。この実験より、ケージドG6Pを用いることでP450の活性を微小空間内で制御することが可能であることが分かった。
【0080】
試験例6B:マイクロウェルを使用したチトクロムP450の酵素活性計測
ケージド化合物をマイクロアレイや微小流路と組み合わせることで、図12に示すように多分子種、多検体の酵素の代謝反応を同時に開始することが可能である。このことを示すために、幅60μm、深さ30μmの微小流路内に異なる濃度の基質(7ER)をチトクロムP450酵素(ヒトCYP1A1)、ケージドG6Pとともに導入し同時に紫外光照射を行うことで、チトクロムP450酵素を活性化する検討を行った。反応液は、1M カリウムリン酸緩衝液 50μL、5mM ケージドG6P 30μL、69.3U/mL グルコース6リン酸還元酵素2.89μL、100mM 塩化マグネシウム15μL、5mM NADP水溶液1μL P450膜画分(ヒトCYP1A1)10.25μL、0.1M ジチオトレイトール5μL、超純水379.61μLに異なる濃度の7ERを混合した水溶液を用いた。ケージドG6Pを脱保護するため、ウシオスポットキュアを用いて流路チップ全域に紫外光照射を行った。その結果、全ての流路でチトクロムP450が酵素活性を持ち、7−ERの濃度に応じて代謝による蛍光が観察された(図20)。この結果より、P450分子種、化合物種、濃度の異なる溶液をマイクロアレイや微小流路で並列に配置して、酵素反応を光で同時に開始することが可能であることが示された。同期した反応初期過程の解析は、P450の多様な化合物に対する代謝活性をより定量的に評価することが出来るものと期待される。
【0081】
試験例7B:異なる基質濃度に対する応答(1)
P450としてヒトCYP1A1を用い、7ERを基質として、異なる基質濃度(0μM、0.1μM、0.2μM、0.5μM、1.0μM、1.5μM)に対するP450酵素反応を求めた。具体的には、幅100μm、深さ30μmのマイクロウェルを多数持つPDMS基板とスライドガラスを貼り合わせることで、P450、基質、補酵素再生系(ケージドG6Pを含む)などを含んだ水溶液をマイクロウェルに封入した。蛍光顕微鏡観察下で紫外光照射によりケージドG6Pを脱保護すると、P450酵素活性に必要な補酵素(NADPH)が生成され、酵素反応が開始して基質濃度に応じた蛍光増加が見られた(図21)。
【0082】
試験例8B:異なる基質濃度に対する応答(2)
異なる基質(7-ER)濃度に対する代謝活性を測定した結果を、ミカエリスメンテンプロットにより解析し、酵素学的速度論定数(Km, Vmax)を決定した(図22)。ミカエリスメンテンプロット(左)および速度論定数(右)を通常のG6PとケージドG6Pで比較した。通常のG6Pを用いたアッセイでは、2mLのサンプルチューブを用いて検討を行った。一方、ケージドG6Pを用いたアッセイでは、2mLのサンプルチューブおよびPDMSマイクロウェルを用いた2通りのアッセイを行った。(ケージドG6Pを用いたアッセイではマイクロウェル内に酵素と基質を含む溶液を封入して任意のタイミングで反応を開始できるが、通常のG6Pを用いたアッセイでは溶液を混合してマイクロウェルに封入する過程において反応が既に開始してしまうため、アッセイを行うことが困難である。)ケージドG6Pを用いたアッセイにおいて、通常のG6Pを用いたアッセイよりもKm, Vmaxのエラー値が小さくデータ精度の高い測定が可能になった。本発明によれば各酵素のKm, Vmaxを非常に正確に測定することができる。また、マイクロウェルなどの微小空間における酵素反応も可能になるため、貴重な酵素、基質サンプルを節約することが出来る。
【0083】
試験例9B:蛍光基質を用いた競合アッセイ
蛍光基質(7-ER)と非蛍光基質(ベンゾピレン)の競合アッセイを、ケージドG6Pを用いて行った。反応液は、1M カリウムリン酸緩衝液 50μL、5mM ケージドG6P 30μL、69.3U/mL グルコース6リン酸還元酵素2.89μL、100mM 塩化マグネシウム15μL、5mM NADP水溶液1μL P450膜画分(ヒトCYP1A1)10.25μL、0.1M ジチオトレイトール5μL、超純水379.61μLを混合した水溶液を用いた。7-ER濃度は、0.1μMから1.5μMの間で変化させた。一方、ベンゾピレンの濃度は、0.1μMと1μMを用いた。紫外光照射後、30分間インキュベーションしてP450酵素反応を行った。その後、30% トリクロロ酢酸を25μL添加し、酵素反応を停止した。反応液にクロロホルムを500μL添加し、1分間撹拌することで、反応で生成した7−ハイドロキシクマリン(7HR)をクロロホルムに抽出した。1分間遠心分離後、下層のクロロホルム層を250μL回収し、0.01M NaOH/ 0.1M NaClを500μL添加して1分間撹拌することで、7HRを水溶液に再抽出した。1分間遠心分離後、上層をキュベットに移し取り、蛍光スペクトルを以下の条件で測定した。励起波長:366nm、蛍光波長:380nm-600nm。蛍光極大値を用いて、7HRを定量した。結果を図23に示す。図23より蛍光基質を用いた競合アッセイが可能であることが示された。ベンゾピレン濃度を変化させて7-ERの反応初期速度への影響を調べることで、ベンゾピレンが7-ERに対して非競合阻害剤として作用していることがわかる。
【0084】
試験例10B:酸素センサーを用いた酵素活性検出
酸素センサー(ルテニウム錯体)と固定化P450(ヒトCYP1A1)/アガロースゲルを積層化したマイクロウェルに蛍光基質(7-ER)、ケージドG6P、その他必要な試薬を含む反応溶液を封入し、紫外光照射を行うことで、酵素反応を開始できることが示された(図24)。マイクロウェルとしては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)板に幅2mm、深さ1.5mmのウェル構造を多数作製し、その中に酸素センサー層、固定化P450(ヒトCYP1A1)/アガロースゲル層を積層化した(図24左)。その上に基質(カプサイシン0.2mM)を含んだ水溶液(1M カリウムリン酸緩衝液 50μL、5mM ケージドG6P 30μL、69.3U/mL グルコース6リン酸還元酵素2.89μL、100mM 塩化マグネシウム15μL、5mM NADP水溶液1μL P450膜画分(ヒトCYP1A1)10.25μL、0.1M ジチオトレイトール5μL、超純水379.61μLを混合)を加え、マイクロプレート用シールテープで溶液を封入した(図24左)。蛍光顕微鏡を用い酸素センサー層の蛍光を観察しつつ、顕微鏡光源を用いてケージドG6Pの光脱保護を行ったところ、P450酵素活性による酸素消費を蛍光強度増強として観察することが出来た(図24右)。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明による固定化チトクロムP450と酸素センサーの積層基板は、多様なP450分子種による化合物の代謝反応を高感度、迅速に検出することができる。一方、本発明によるケージド化合物を用いてP450の酵素活性を光制御する技術は、多数の微小な空間に封入されたチトクロムP450酵素の活性初期速度を計測することで、P450の酵素活性を精密、かつ高効率で評価することが出来る。これらの技術を用いれば、ある化合物がどのP450によってどの程度の速度で代謝されるかを網羅的、高効率、正確に予測することができるので、P450酸化反応を用いた生物変換システム、創薬のための化合物変換能の評価システム、創薬における化合物の生物内代謝予測システム、食品検査、ヒト遺伝子多系を再現した医薬品および食品成分の安全性評価などに応用することができる。また、P450酵素活性の網羅的検出は、検査診断、バイオアナリシス(生体試料中の薬物濃度分析)、食品衛生検査用の培地・試薬の分野においても有用である。
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