【文献】
H.R.Stuart, et al.,"Dispersive multiplexing in multimode optical fiber",Science,2000年 7月14日,Vol.289,p.281-283
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記多重ホログラム記録部を通過した光を増幅して上記多重ホログラム記録部へ戻す位相共役器を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の光通信システム。
信号通信時において、前記多重ホログラム記録部による信号光を分離する時に、ある空間モードを有する信号光と同じ波面を有するガイド光と前記制御光とを照射させて、前記多重ホログラムの記録部に入力される多重化された各空間モードの信号光を、制御光のそれぞれの照射方向に前記制御光照射部の経路で分離させた後、前記空間モードと異なる空間モードを有する信号光と同じ波面を有するガイド光と前記制御光とを照射させて、前記多重ホログラムの記録部に入力される多重化された各空間モードの信号光を、制御光のそれぞれの照射方向に前記制御光照射部の経路で分離させたことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の光通信システムの動作方法。
ある空間モードを有する信号光と同じ波面を有するガイド光の波面を前記位相共役器に記録した後に、前記制御光と前記位相共役器に記録された波面を照射することでホログラムが書き込まれる多重ホログラム記録部を用い、各空間モード毎に異なる角度で前記多重ホログラム記録部に照射される制御光を照射する制御光照射部によってホログラムを多重記録させてから、信号通信時において、前記多重ホログラム記録部による信号光を分離する時に、前記多重ホログラムの記録部に入力される多重化された各空間モードの信号光を、制御光のそれぞれの照射方向と反対方向に前記制御光照射部の経路で分離させたことを特徴とする請求項6に記載の光通信システムの動作方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。先ずは、本実施の形態に係る光通信システムの概略構成を
図1に示す。
【0021】
図1の光通信システムにおいては、マルチモードファイバである光ファイバ11から出射した空間モード光をランダム位相板12とレンズ19とに通過させ、ガイド光14(通信時における信号光と同じ波面を有する)を生成する。光ファイバ11からのレンズ19の距離は、ガイド光14がフォトリフラクティブ媒質13の位置でフーリエ変換される位置に調整する。
【0022】
尚、本発明において、光ファイバ11は、複数のモードで光信号を伝送できる光導波路であれば、従来からのマルチモードファイバに限定されるものではなく、最近、開発の進められている、フォトニック結晶ファイバやマルチコアファイバ等も、複数のモードを伝送できる光導波路として、本発明において適用可能である。また、ガイド光の生成手段は、必ずしもファイバ11から出射したものでなくても良く、ファイバ11から出射した空間モードと等価な分布を空間光変調器などで与えても良い。
【0023】
ここで、光ファイバ11を流れるモード番号jに対する空間モード光が、ランダム位相板12とレンズ19とを透過した後のガイド光14(を構成する一つの成分)を、
A
jexp(−jφ
j) …(1)
と表す。A
jは光ビームの強度を表わし、exp(−jφ
j)は空間モードの位相分布を表わす。
【0024】
ここでランダム位相板12はガイド光14の断面方向にランダムな位相分布を持ち、その位相分布はガイド光14の位相分布よりも空間的に細かな変化を有するものである。ランダム位相板12に入射する前のガイド光(信号光も同様)14が、空間モードの相違に対して空間的にゆっくりとした位相変化しか示さない場合、ガイド光(または信号光)14をランダム位相板12に通過させることで、位相分布を空間的に非常に細かく変化させることができる。つまり、空間モードのわずかな相違でも、大幅に位相分布の異なるガイド光(信号光と同じ波面を有する)14を生成することによって、信号分離の精度を大幅に高めることが可能になる。
【0025】
尚、本発明において、ランダム位相板12は、光通信システムの性能向上に大きく寄与するが必須の構成ではなく、用いる光ファイバの種類によってはランダム位相板12が無くても動作可能である。すなわち、ガイド光(または信号光)14が、ランダム位相板12を通過させなくても空間的に十分に細かい位相変化を示す場合には、ランダム位相板12は省略可能である。
【0026】
また、ランダム位相板12とレンズ19によって、空間モードによる強度分布はビーム断面全体に拡散し、ほぼ均一化される。このガイド光14がフォトリフラクティブ媒質13を通過し、位相共役器17に入射する。位相共役器17の増幅率をMとすると、光増幅された位相共役波18は、
A
jMexp(jφ
j) …(2)
となる。位相分布の符号が異なるのは、位相共役器17の性質(位相を反転する性質)によるものである[左貝潤一著、「位相共役光学」、朝倉書店、6〜7頁]。
【0027】
この増幅された位相共役光18をホログラム記録光として用い、もう1つの光として、空間モード毎に異なる角度で入射する制御光15を用いて、フォトリフラクティブ媒質13中に動的ホログラム(内容の書き替えが可能なホログラム)を記録する(
図2(a)参照)。(フォトリフラクティブ効果については、「Pochi Yeh著、富田康生、北山研一 訳、「フォトリフラクティブ非線形光学」、丸善])。本方式において、制御光15は単なる平面波である。
【0028】
記録される動的ホログラムの振幅は、制御光15の強度をR
jとして表すと、
q
j=A
jR
jMexp(jφ
j) …(3)
に比例したものになる。実際には、通信用ファイバを流れる光電力は微弱であり、ホログラムの書き込みに十分な光強度が得られない場合が想定されるが、位相共役器17による増幅効果によってこの問題点は解決される。また、ガイド光14によってフォトリフラクティブ媒質13に動的ホログラムを書き込む際には一定時間通信が遮断されるが、その時間を短縮するためにも動的ホログラムの書き込み光の増強は効果的である。さらに、フォトリフラクティブ媒質13の前後から空間モード情報を有するガイド光14を照射することで、媒質内に空間的に均一なホログラムを記録でき、回折効率の向上が見込まれる。
【0029】
同様の動的ホログラム記録動作を、モード番号j=1,2,…,Nに対して、入射角度の異なる制御光15を用いて行うと、多重化された動的ホログラムの振幅Qは
【0030】
【数1】
となる。ここで、Nは多重化する空間モード信号の数であり、ホログラムの多重度に等しい。
【0031】
従来の角度多重技術では、記録する情報である物体光の角度は固定したままで、多重化されたどのホログラムを再生するのかを決定する光(制御光)の角度を変化させて多重記録を行う[志村努監修「ホログラフィックメモリのシステムと材料」第2章、CMC出版]。従って、再生時には、すべての物体光は同じ方向に生じることになる。それに対し、本方式では、どのホログラムを再生するのかを決定する光(本方式においては位相共役光18)の入射角度は固定したままで、従来の物体光に相当する光(本方式における制御光15)の角度を変化させて多重記録を行う。
【0032】
尚、本発明において、多モードの信号光の入力方法としては、例えば、
図12または
図13に示す方法が考えられる。
図12に示す方法では、レーザ1〜3から出射される信号光は、それぞれ、CGH1〜3を通過することで異なる空間モードを有する信号光となる。ここで、CGH1〜3は、異なる空間モードを生成するためのコンピュータ生成フーリエホログラムであり、各CGHには異なる空間モードのフーリエ変換像が各々記録されている。CGH1〜3によって生成される各空間モードの信号光は、反射/透過ミラー20・21を介して重ね合わされ、レンズL1に対して同じ入射角度で入射される。この時、CGH1〜3とレンズL1との光路長は同じ長さとなるように配置される。尚、
図12に示したものと類似の方法によって、1つの空間モードを励起することが「F. Dubois, Ph. Emplit, and O. Hugon, “Selective mode excitation in graded-index multimode fiber by a computer-generated optical mask”, Optics Letters, Vol.19, No. 7, pp, 433-435(1994)」の文献に開示されている。上記文献では、多重化は行われていないが、マルチモードファイバにおいて特定のモードを励起することが可能であることが示されている。
【0033】
また、
図13に示す方法では、独立したCGH1〜3を3枚並べているが、実際には一枚のCGHの中に回折角の異なる複数のホログラム領域を作成することで、角度ずれΘを大幅に小さくすることが可能であり、ファイバへの斜め入射による空間モードの歪みや結合損失を低減できる。また、多重化は紙面の前後方向にも二次元的に行うことができるので、大多重度に対応できる。
図13における3枚のレンズからなるレンズL1の焦点距離は光路長に合わせて設定する必要があるが、前記したCGHの一体化により、Θが近軸領域であれば、レンズL1も1枚で済ませることができる(
図13に図示されているレンズL3も不要)。
図13の例では、CGHがd=3mmの一体化されたCGHであり、CGHとレンズL1との光路長f1がf1=20mm程度とすると、縦横5×5の25多重程度であればΘは十分に小さく、L1を共通のレンズとした簡易な光学系で実現できる。
【0034】
また、従来は上記物体光に記録する情報を載せているが、本方式では制御光15において何ら情報を載せることはなく、単なる平面波で良い。本方式では、信号の進む方向が、信号自身の持つ空間位相情報によって変化するような回折格子をフォトリフラクティブ媒質13中に形成することを目的としている。このようにして作成した動的多重ホログラムに対して、空間モードで多重化された信号光Sを入射する。信号光Sは、下記(5)式で表される。
【0035】
【数2】
ここで、各々の空間モードに変調される信号はA
i(t)exp(−jφ
i)であり、等しいモード番号i=jにおいて(1)式のガイド光と同じ空間位相分布を有している。(4)式の動的多重ホログラムに対して(5)式の多重化された信号光を照射した場合に生ずる回折光Oは、
【0036】
【数3】
に比例する。ここでLは多重ホログラムの厚さであり、この厚さ方向の座標をzとしている。観測される回折光は、フォトリフラクティブ媒質13内で厚さ方向のいずれかの位置で回折される成分の合計(積分値)になる。ランダム位相板12とレンズ19とによって振幅項の変化は緩やかとなるため、
【0037】
【数4】
と近似できる。上式の積分値は、ホログラムの厚さLが十分に大きい場合、
図2に示す体積ホログラム中(厚さが十分大きくないと効果を発揮できないため、以降は体積ホログラムと呼ぶ)での位相整合の特性によって、
φ
i=φ
j すなわち i=j …(8)
において非常に大きな値となり、これを満たさない場合の回折光は微弱となる。すなわち、フォトリフラクティブ媒質13に入射する信号光がフォトリフラクティブ媒質13中に記録されたホログラムとの位相整合を満たす場合には、各ホログラムからの回折成分が互いに強めあった回折光が得られる(
図2(b)参照)。一方、フォトリフラクティブ媒質13に入射する信号光がフォトリフラクティブ媒質13中に記録されたホログラムとの位相整合を満たさない場合には、各ホログラムからの回折成分が打ち消しあった回折光となる(
図2(c)参照)。
【0039】
【数5】
となり、動的多重体積ホログラム記録時に用いた制御光15と反対の方向に生じる。ホログラムの書き込みにおいて制御光R
1,R
2,…,R
Nに角度の異なる光を用いることによって、各信号成分であるA
1(t),A
2(t),…,A
N(t)は各々角度の異なる回折光としてフォトリフラクティブ媒質13中の動的多重体積ホログラムから回折し、多重化された空間モード信号光を電気信号に変換する前に、各空間モードの信号成分に分離できることになる。
【0040】
すなわち、本発明の光通信システムでは、多重ホログラム記録部(例えば、フォトリフラクティブ媒質)に信号分離用の多重ホログラムを記録しておく。この、多重ホログラムは、信号光と同じ波面を有するガイド光と、空間モード毎に異なる角度で照射される制御光とを照射することによって多重ホログラム記録部に記録される。
【0041】
そして、上記のように多重ホログラムが記録された多重ホログラム記録部に、多重化された各空間モードの信号光が入力されると、各空間モードの信号光は、多重ホログラム記録時に照射された制御光のそれぞれの角度方向に分離される。信号の分離を行う際には、制御光の照射は基本的には無くてもよいが、制御光もしくは制御光と位相共役光を入射することで、信号分離性能の維持・向上を行うことも期待できる。
【0042】
ここまでの説明では、位相共役光による動的多重体積ホログラムの書き込みと、その後の空間モード多重信号の分離のプロセスを分けて説明したが、実際には同時に行うことも可能である。例えば、空間モード多重信号の分離によって時間とともに動的ホログラムが劣化することが想定されるが、あらかじめすべての空間モード光の波面情報を位相共役器17に記録しておくことで、空間モード多重信号の分離を行いながら(すなわち通信を継続したままで)、動的ホログラムの再書き込みや書き換えを行うことも可能である。
【0043】
また、上記説明においては、多重ホログラム記録部としてフォトリフラクティブ媒質13を用いているが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、上記説明では、フォトリフラクティブ媒質13を用いることでホログラムの書き換えを可能としているが、ホログラムの書き換えを行わない場合には、フォトポリマーなどのフォトリフラクティブ性のない通常のホログラム媒質であっても動作は可能である。ただし、フォトリフラクティブ媒質以外の多くの媒質は、ホログラム形成後のホログラムの書き換えが不可能であるため、光ファイバを伝送するモードの時間的な変動や歪に対して、フォトリフラクティブ媒質のようにホログラムを書き換えることで信号の分離を維持・継続することができないといった欠点があるため、フォトリフラクティブ媒質13を用いることが有利となる。
【0044】
また、通信用ファイバを流れる空間モードは時間的に変動することも予測されるが、これに対しては、ある程度の時間間隔で、フォトリフラクティブ媒質中の動的ホログラムを変化した空間モードに適合するように再構築すれば良い。そのためには、(1)〜(9)式の動作を繰り返し行う必要があるが、位相共役器に蓄積されていない新しい空間モード情報に基づいてホログラムを書き込む際には一定時間通信が遮断されるため、その時間を短縮するためにも位相共役器によるガイド光の増強が効果的である(ホログラム記録に要する時間は、記録光の強度が大きいほど短くできる)。
【0045】
ここで増幅機能を有する位相共役器は、4光波混合等の技術によって実現される[左貝潤一著、「位相共役光学」、朝倉書店、第6章]。また、この光増幅は空間モード光の位相分布を反転させて光強度のみを大きくするだけでよく、ファイバを流れる信号の変調速度のレスポンスが要求されるわけではないので、現存の技術で容易に実現できる利点がある。
【0046】
尚、本発明において、位相共役器17は、光通信システムの性能向上に大きく寄与するが必須の構成ではない。位相共役器の効果としては、まず、媒質が、フォトリフラクティブ媒質ではなく通常のホログラム媒質の場合には、ホログラム書き込み時間の短縮と書き込まれるホログラムの品質の向上による光信号分離性能の向上が得られる。次に、媒質がフォトリフラクティブ媒質の場合には、前記に加えて、形成後の多重ホログラムへの光信号の照射によるホログラムの劣化を防止する効果が得られる。
【0047】
以上説明したように、本発明の光通信システムは以下の特徴を有する。
A) 本技術は、光ファイバ中を流れる複数の空間モードに独立した別々の信号を伝送するために必要となる、空間モードの全光学的分離技術を実現するものである。分離できる空間モードの数に制限はなく、通信容量の飛躍的な向上に寄与するものである。
B) 本技術は、偏波モードだけでなく、光導波路におけるあらゆる空間モードを光信号のまま分離することに有効であり、光電気変換を行ってから多重化された信号の分離を行う方式に比べて、速度や精度の面で大きな優位性がある。
C) 本技術に用いる光伝送路は、従来型のマルチモードファイバを用いることができる。マルチモードファイバは、現在の多くの光通信システムに用いられるシングルモードファイバに比べると安価であり、ファイバ間の接続も容易である。また、複数の空間モードを伝送する導波路であれば、マルチモードファイバに限定されるものではなく、最新のフォトニック結晶導波路を含む様々な光導波路を用いることができる。
D) 動的多重体積ホログラム記録部としてフォトリフラクティブ媒質を用いることで、ファイバ中を流れるモードが時間的に変動した場合にも、モードの変動に対応してホログラムを書き換える(動的再構成機能)ことが可能になる。ホログラム記録媒質としては一般的な感光材料を用いることができるが、その場合に形成されるホログラムは静的(固定的)であり、光ファイバの空間モードの変動に対応しない。
E) 空間モード多重信号の分離によって時間とともに動的ホログラムが劣化することが想定されるが、あらかじめすべての空間モード光の波面情報を位相共役器に記録しておくことで、空間モード多重信号の分離を行いながら(すなわち通信を継続したままで)、動的ホログラムの再書き込みや書き換えを行うことも可能である。
F) 動的ホログラムの記録・書き換えにおいて、特定の空間モードと制御光の入射角度の組み合わせを変更することで、どの空間モードの光信号がどの出力ポートに接続されるかを、必要に応じて切り替えることができるルータの機能を付加することが可能である。
G) 増幅を伴った位相共役器を用いることで、空間的に均一でホログラム振幅の大きな動的多重体積ホログラムの形成が可能であり、モードの分離を正確に行うためのホログラム書き込み速度の向上と、分離された回折信号光の強度を改善することができる。また、前記D)におけるホログラムを書き換え速度の向上により、モードの変動に対応したホログラムの書き換えに伴う光信号の遮断を短縮することができる。
【0048】
〔実施例1〕
(1) 数値シミュレーション
本シミュレーションを行うにために用いた解析手法として、高速フーリエ変換ビーム伝搬法(FFT−BPM)[L. Thylen, Opt. Quant. Elect. 15, pp. 433 - 439 (1990)]を用いた。
【0049】
まず、
図3に示す系を用い、
図4(a)に示すような空間的に重なり合った空間モードA,B,Cを想定し3多重された光を分離する場合のシミュレーションを行った。尚、空間モードA,B,Cに対して、制御光の記録媒質への入射角θをそれぞれ6°,8°,10°としてホログラムを多重記録し、各空間モードのファイバ出射端における出射角の違いから生じる曲率半径の違いをガウスビームの複素振幅項により表現し、それぞれ8.7×10
−5,8.6×10
−5,8.5×10
−5(m)と仮定した。具体的には各空間モードの位相項は、
【0050】
【数6】
とした。ここで、波長をλ、伝搬座標zとすると、
【0051】
【数7】
であり、これに対するビームの広がり角θ
0は、
【0052】
【数8】
により決まる。仮に直径50μm、NA0.22のマルチモードファイバを想定するとファイバ内での伝搬許容角θは、3.9°≦θ≦8.7°となる。これを踏まえ、今回のシミュレーションにおいては、モードAが3.900°、モードB,Cはそれぞれ3.903°,3.906°の角度でファイバから出射したと仮定した。以上より導出した各空間モードの位相分布を
図4(b)に示す。解析に用いた他のパラメータについては表1に、物理的なパラメータを表2に示す。また解析モデルについては
図5(a),(b)に示す。
図5(a)はホログラム記録過程の解析モデルであり、
図5(b)は空間モード分離過程の解析モデルである。
【0054】
【表2】
図3に示した系においてランダム位相板およびレンズを省略した場合のシミュレーション結果を
図6に示し、ランダム位相板およびレンズを用いた時のシミュレーション結果を
図7に示す。記録されるホログラムは、ランダム位相板を通過した後、レンズを通して媒質内においてフーリエ面での記録がなされる。これにより、空間モードの強度面を一定にし、位相面の支配率を高めている。尚、用いたランダム位相板は128×128ピクセル、ピクセルサイズは40×40(μm)、[0,π]位相のものである。
【0055】
図6,7の結果は、各空間モード情報をホログラム記録媒質に記録した後、その媒質へ全ての空間モードを含む信号光を入射した際の各角度成分への回折光の強度を示したものである。
図6,7を比較すると、それぞれの空間モードの分離において、ランダム位相板、レンズを適用していない系では明らかに空間モードの分離がなされていないことがわかる。対して、ランダム位相板、レンズを適用した系の方は必要となる空間モードの回折光が要求していないモード情報(クロストーク)に対して十分に出ていることがわかる(90%程度の分離度を確保)。この時の回折効率自体は0.048%程度となっているが、これは
図3の系において、媒質の厚さを厚くする、またホログラムを書き込む位相共役光の強度を増加することで改善される。この数値シミュレーションによるアプローチにより、このシステムが重なり合った空間モードを分離する上で非常に有効な技術であるといえる。
【0056】
(2) 動作実験
次に、本技術の動作確認を実験により行ったので、その実験系及び実験結果について示す。
【0057】
図8は本動作実験に用いた実験系である。この系では実際のシステムに搭載する位相共役器は用いず、ガイド光と制御光とによって動的多重体積ホログラム記録を行った。フォトリフラクティブ結晶中に形成された多重ホログラムにより、空間モードを含んだ信号光が回折光として制御光を入射した記録媒質の逆端面から出射する。このそれぞれの角度への回折光成分を観測することで各空間モードの分離を確認した。記録する空間モードは、
図4に示すものを空間光変調器(SLM: Spatial Light Modulator)により与え、偏光子と検光子を調整することでそれぞれの曲率半径の異なる空間モードを生成し、結果的に3つの空間モードA,B,Cとして
図9に示す位相分布を与えた。また、ランダム位相板は128×128ピクセル、[0、π]のものを使用した。尚、記録する際は制御光の角度をミラーの回転により変化させ、空間モードA,B,Cをそれぞれ制御光の角度θ
1,θ
2,θ
3で3多重記録を行った。
図10に各角度成分における回折光強度をプロットしたものを示す。空間モード分離に必要な回折光成分が強く出ていることが見て取れる(70%程度の分離度を達成)。この結果における回折効率は3.67%を示した。本動作実験では記録媒質に光誘起屈折率媒質であるLiNbO
3(Feドープ,厚さL=5mm)を用いたので、回折効率においては厚さL=1mmとしたシミュレーションの結果(0.048%)と比較して大きく上昇を見た。しかし、位相共役器を用いなかったことなどにより空間モードの分離性能においては数値シミュレーション結果(
図7)より劣る結果となっている。
【0058】
〔実施例2〕
実際のファイバを伝搬する空間モードは、用いるファイバの種類や形状によって異なるが、最も標準的なマルチモードファイバを伝搬する空間モードはLPモードであることが知られている。LPモードの詳細は、「Bahaa E. A. Saleh, Malvin Carl Teich, “Fundamentals of Photonics”, Chapter 8(Fiber Optics), John Wiley & Sons, Inc. 1991」に記載されている。
【0059】
本実験では、
図8と同じ実験系を用いて、より実際的な空間モードとしてSLMを用いてLPモードを発生させた場合の空間モード分離実験を行った。
【0060】
記録する空間モード光として
図14に示すLP
01,LP
11,LP
21,LP
52,LP
93の各モードを用いた。各空間モードの分布は、SLMにおいて縦×横 100×130ピクセルの精度で与えた。1回目の実験では比較的類似度の高い空間モード同士の組み合わせであるLP
01,LP
11,LP
21の3つの空間モードを多重記録して信号の分離度を測定した。2回目の実験では比較的類似度の低い空間モード同士の組み合わせであるLP
01,LP
52,LP
93の3つの空間モードを多重記録して信号の分離度を測定した。これら3つの空間モード記録時の参照光角度θ
1,θ
2,θ
3は、各々15°,20°,25°とした。モード分離時に得られた信号成分の回折光とクロストークの関係を
図15に示す。この結果では、類似度の低いLPモードを多重化した場合において、より高い分離率が実現されていることがわかる。本実験における回折効率は1.8%程度であった。尚、本実験ではランダム位相板は用いておらず、これを用いることによって分離率が向上する可能性がある。
【0061】
以上のように、本発明の光通信システムは、複数の空間モードを有する信号光を伝送する光ファイバと、前記信号光の各空間モードに対応してホログラムが多重記録された多重ホログラム記録部と、前記光ファイバ端から出射される前記信号光を集光して、前記多重ホログラム記録部へ入射するレンズと各空間モード毎に異なる角度で前記多重ホログラム記録部に照射される制御光を照射する制御光照射部と、からなる通信を行う光通信システムであって、前記多重ホログラム記録部は、多重ホログラム記録時に、前記信号光と同じ波面を有するガイド光と前記制御光とを照射することによって多重ホログラムが記録されるものであり、前記多重ホログラム記録部による信号光の分離時に前記多重ホログラムの記録部に入力される多重化された各空間モードの信号光は、制御光のそれぞれの照射方向に前記制御光照射部の経路で分離される。
【0062】
あるいは、本発明は、複数の空間モードを有する信号光を伝送する光ファイバと、前記信号光の各空間モードに対応してホログラムが多重記録された多重ホログラム記録部と、前記光ファイバ端から出射される前記信号光を集光して、前記多重ホログラム記録部へ入射するレンズと各空間モード毎に異なる角度で前記多重ホログラム記録部に照射される制御光を照射する制御光照射部と、からなる通信を行う光通信システムであって、ある空間モードを有する信号光と同じ波面を有するガイド光と前記制御光とを照射することでホログラムが書き込まれる多重ホログラム記録部を用い、各空間モード毎に異なる角度で前記多重ホログラム記録部に照射される制御光を照射する制御光照射部によってホログラムを多重記録させてから、信号通信時において、前記多重ホログラム記録部による信号光を分離する時に、ある空間モードを有する信号光と同じ波面を有するガイド光と前記制御光とを照射させて、前記多重ホログラムの記録部に入力される多重化された各空間モードの信号光を、制御光のそれぞれの照射方向に前記制御光照射部の経路で分離させる。
【0063】
あるいは、本発明は、複数の空間モードを有する信号光を伝送する光ファイバと、前記信号光の各空間モードに対応してホログラムが多重記録された多重ホログラム記録部と、前記光ファイバ端から出射される前記信号光を集光して、前記多重ホログラム記録部へ入射するレンズと各空間モード毎に異なる角度で前記多重ホログラム記録部に照射される制御光を照射する制御光照射部と、前記多重ホログラム記録部を通過した光を増幅して上記多重ホログラム記録部へ戻す位相共役器と、からなる通信を行う光通信システムであって、ある空間モードを有する信号光と同じ波面を有する前記位相共役器からの光と前記制御光とを照射することでホログラムが書き込まれる多重ホログラム記録部を用い、各空間モード毎に異なる角度で前記多重ホログラム記録部に照射される制御光を照射する制御光照射部によってホログラムを多重記録させてから、信号通信時において、前記多重ホログラム記録部による信号光を分離する時に、ある空間モードを有する信号光と同じ波面を有する前記位相共役器からの光と前記制御光とを照射させて、前記多重ホログラムの記録部に入力される多重化された各空間モードの信号光を、制御光のそれぞれの照射方向と反対方向に前記制御光照射部の経路で分離させる。
【0064】
それゆえ、前記多重ホログラム記録部は、多重ホログラム記録時に、信号光と同じ波面を有するガイド光と、空間モード毎に異なる角度で照射される制御光とを照射することによって多重ホログラムが記録されている。前記多重ホログラム記録部に多重化された各空間モードの信号光が入力されると、各空間モードの信号光は、多重ホログラム記録時に照射された制御光のそれぞれの角度方向に分離される。すなわち、光ファイバから出射した光信号は、複数の空間モードの光信号が混ざり合った状態になっているが、これを光のまま、各々のモードに分離することが可能となる。
【0065】
また、上記光通信システムでは、上記多重ホログラム記録部における信号光の入射側に、ランダム位相板を配置している構成としていることが好ましい。
【0066】
上記の構成によれば、ランダム位相板に入射する前の信号光が、空間モードの相違に対して空間的にゆっくりとした位相変化しか示さない場合、該信号光をランダム位相板に通過させることで位相分布を空間的に非常に細かく変化させることができる。つまり、空間モードのわずかな相違でも、大幅に位相分布の異なる信号光を生成することによって、信号分離の精度を大幅に高めることができる。
【0067】
また、上記光通信システムでは、上記多重ホログラム記録部を通過した光を増幅して上記多重ホログラム記録部へ戻す位相共役器を備えていることが好ましい。
【0068】
上記の構成によれば、ホログラムの書き込み速度や品質の改善と、通信用ファイバを流れる微弱な光電力によっても、多重ホログラム記録部に対してホログラムの書き込みが可能となる。すなわち、本発明の多重ホログラム記録部として用いられるホログラム媒質では、先に、ある空間モードを有する信号光と同じ波面を有するガイド光と、上記制御光とを照射することで信号分離用のホログラムが書き込まれる。ここで、位相共役器を用いることで、ホログラム書き込み時間の短縮と書き込まれるホログラムの品質の向上による光信号分離性能の向上が可能になる。また、上記ガイド光の光電力が微弱であり、ホログラムの書き込みに十分な光強度が得られない場合であっても、位相共役器による増幅効果によってホログラム媒質に多重ホログラムを書き込むことが可能となる。さらに、ホログラム媒質がフォトリフラクティブ媒質の場合には、前記に加えて、形成後の多重ホログラムへの光信号の照射によるホログラムの劣化を防止する効果が得られる。
【0069】
また、上記光通信システムでは、上記多重ホログラム記録部は、フォトリフラクティブ媒質であることが好ましい。
【0070】
上記の構成によれば、多重ホログラム記録部にフォトリフラクティブ媒質を用いることで、多重ホログラム記録部に容易に動的ホログラム(書き換え可能なホログラム)を形成することができる。これによって、光ファイバを伝送する空間モードが外部の環境(ファイバの曲がりや温度変化など)によって、時間的に変動したり歪を受けた場合に対しても、ホログラムの書き換えを動的に行うことで、通信を維持・継続することが可能になる。
【0071】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。