(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軸心方向に延出する延出部が内周面に設けられる中空円筒反応容器と、常圧過熱水蒸気導入機構と、該中空円筒反応容器を回動する回動機構を備え、該中空円筒反応容器に接続される、常圧過熱水蒸気を導入する導入口および水蒸気を導出する導出口を有するとともに、該中空円筒反応容器の一方の端部に設けられる竹装入部および他方の端部に設けられる竹抜出部を有し、
該水蒸気導入口が該中空円筒反応容器の該竹抜出部側に設けられ、該水蒸気導出口が該竹挿入部側に設けられることを特徴とする竹の熱処理装置。
【背景技術】
【0002】
竹は、その長手方向に維管束が並んで、一方向強化材の役目を果たしている。一つの維管束は複数の維管束鞘と導管および師管から構成されている。維管束鞘は多数のセルロース繊維(ミクロフィブリル)の集まりである。維管束鞘は、繊維断面にほとんど空孔が見られず、この一方向に並んだ繊維(竹繊維)が竹の強度を支えている。
竹は、豊富に存在するバイオマス資源であり、竹から取り出した竹繊維には、広範な用途がある。
【0003】
竹の材料化、言い換えれば竹からの竹繊維の取り出しは、その硬い構造を解きほぐすことから始まる。従来、竹を破砕あるいは粉砕するための物理的方法が多数開示されてきた。例えば、ギヤまたはスクリュー歯合の揉摺機を用いて常温で綿状に竹を揉摺する技術や、まず表面の硬い部分を研削した後に、幹材を等間隔に複数分割して板状竹材とし、さらにこの板状竹材を破砕して粉末にする技術や、特殊な回転切削歯を持った竹粉製造装置や、オガ粉製造装置を使って竹を粉砕し、篩分けで残ったサイズの大きい粉末を再度オガ粉製造装置に再送して竹粉を作成する技術等が開示されている。
しかし、竹粉(竹繊維)を物理的に製造するためには、上記のように特殊な粉砕装置を必要とし、あるいは処理に多大な手間がかかる。また、繊維方向に長い(アスペクト比の大きい)竹繊維を取り出すことが難しいという問題もある。
【0004】
これらの問題点を解決することを目的として、所定長さに切断した天然の竹材を例えば耐圧が10kg/cm
2の圧力缶体に入れ、100℃以上、例えば170〜175℃の温度とその温度に対応する圧力とを備えた水蒸気を供給する加圧加熱操作と、圧力を急速に開放する減圧操作とを8〜10回繰り返す爆砕処理により竹繊維相互を分離させる竹繊維の製造方法が開示されている(特許文献1参照)。
しかし、圧力容器を用いることは、高圧のため設備費がかかるばかりでなく、安全性の確保が必要であり、スケールアップも難しいものと考えられる。
【0005】
また、竹を予めチップ状にまで切断処理をし、次に二酸化硫黄または硫酸の存在下に100〜200℃の水または水蒸気を用いて予備加水分解した後、水、アルカリおよびアントラキノンからなる薬液で蒸解してパルプ化する技術が開示されている(特許文献2参照)。しかし、この場合、使用した化学物質の後処理の問題がある。
【0006】
さらに、本発明者らは、竹を180〜320℃の温度の常圧過熱水蒸気で加熱処理した後、解繊する技術を開示している(特許文献3参照)。この技術によれば、化学的な処理操作や高圧での処理操作を伴わず、あるいは使用した化学物質を後処理する必要なく、セルロースに富む繊維長の短い竹繊維を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。
【0018】
竹は、広義には、イネ目イネ科タケ亜科のうち、木本のように茎が木質化する種の総称である。日本に生育する竹は600種あるといわれており、そのうちの代表的なものとして、マダケ、モウソウチク(孟宗竹)、ハチク等が挙げられる。本発明の実施の携帯においては、一般的な竹のみならず、アズマザサ、ヤダケ、アズマネザサ、スズタケ、クマザサやチシマザサなどのイネ科タケ亜科に属するササ類を含む。
【0019】
本発明の実施の形態において用いる竹の種類を限定するものではない。また、本発明の実施の形態において、竹とは幹、枝、葉、および根からなる総体的なものを意味するが、とりわけ、セルロース繊維成分が豊富な幹部が好適である。
【0020】
竹は、その主要な構成成分として、セルロース、ヘミセルロースおよびリグニンからなる。ヘミセルロースはセルロースとリグニン、あるいはセルロース同士を結合させる接着剤の役割を担っている。このヘミセルロースは、320℃以下の低温で分解し、酢酸やギ酸を生成する。一方、セルロースは、320℃以上の高い温度で分解し、リグニンは、ヘミセルロースやセルロースの分解温度とも一部重なりながら500℃以上の高温度域におよぶ広い温度帯で分解する。本発明の実施の形態における170〜320℃の温度域は、ヘミセルロースの優先分解と一部のリグニンの分解が起こる温度帯である。
【0021】
本実施の形態例に係る竹の熱処理装置について、
図1〜
図3を参照して説明する。
竹の熱処理装置10は、中空円筒反応容器12と、常圧過熱水蒸気導入機構14と、回動機構16を備える。
中空円筒反応容器12は、長さ方向を水平に配置される。中空円筒反応容器12の内周面に、中空円筒反応容器12の軸心(中心線)方向に延出する延出部18が設けられる。竹の熱処理装置10は、さらに中空円筒反応容器12の内周面に突起部(第一の突起部)28aが設けられるとともに、中空円筒反応容器12の軸線上に、内周面に向けて延出し、突起部28aとかみ合うようにして対向して配置される突起部(第二の突起部)28bを有する中心軸30が設けられる。なお、
図1中、中空円筒反応容器12の内部に設けられる延出部18、突起部28a、28bおよび中心軸30は透視した状態で実線で示す。
中空円筒反応容器12は、常圧過熱水蒸気を導入する導入口20および水蒸気を導出する導出口22を有する。中空円筒反応容器12の一方の端部に竹装入部24が設けられ、および他方の端部に竹抜出部26が設けられる。なお、導入口20と導出口22は中空円筒反応容器12の端部ではなく側面に設けることを排除するものではない。また、導入口20と導出口22の位置は
図1のように配置してもよいが、両者を入れ替えて常圧過熱水蒸気と竹を向流接触させることがより好ましい。
【0022】
中空円筒反応容器12は、鋼製材料の内側に断熱材を内貼りした構造のものが好ましいが、使用する温度条件によっては断熱材を省略できる。
中空円筒反応容器12は、必要に応じて裁断されて装入される竹の直径寸法の3倍以上の直径寸法であるあることが好ましく、5倍以上であることがより好ましい。これにより、中空円筒反応容器12の回動によって持ち上げられた竹が落下して他の竹と衝突して破裂・破砕を繰り返し、竹が効率的に破砕される。
【0023】
中空円筒反応容器12の内周面に設けられる延出部18は、使用温度に応じた耐熱性と、耐摩耗性を有するものである限り適宜の材料で形成することができるが、例えばSUS314やSUS316等の材料を用いることがより好ましい。
延出部18は、形状を限定するものではなく、例えば、板状、棒状、櫛の歯状、網状、もしくはそれらを組み合わせた適宜の形状とすることができる。
延出部18は、中空円筒反応容器12の回動によって竹を持ち上げるリフターとして機能するとともに、持ち上げた竹を落下させることで竹を竹抜き出し部26に向けて移動させる機能を有する。
図2の模型図に示すように、延出部18の延出寸法、すなわち中空円筒反応容器12の内周面から突設される長さ寸法(
図2中、Lで示す。)は、10cm以上あることが好ましく、これにより、直径が8〜15cmほどの生育した孟宗竹を確実に持ち上げることができる。
延出部18は、
図2に示すように、竹を次々に持ち上げて移動させることができるように、装入する竹の長さ寸法に応じて適切なピッチで適切な数配置する。なお、
図1では、竹抜出部26近傍に突起部28a、28bおよび中心軸30が設けられるが、これらは必要に応じて省略してよく、その場合は、竹抜出部26近傍にも延出部18を設ける。
延出部18によってより確実、効率的に持ち上げられた竹が落下することにより、竹がより効率的に破砕される。
なお、延出部18が破砕された竹を竹抜出部26に効率的に送り出すためには、延出部18を中空円筒反応容器の軸線出口方向(竹抜出部26方向)に軸線(水平線)に対して下がるように配置することが好ましく、その角度(
図1および
図2中、角度θで示す。)は0.5〜60°の範囲にあることが好ましく、1〜45°の範囲にあることがより好ましい。
【0024】
竹抜出部26近傍に設けられる中心軸30および突起部28a、28bは、耐熱性や耐食性を有する適宜の材料で形成することができる。中心軸30は、固定軸であってもよく、また、回動軸であってもよい。突起部28a、28bの形状は特に限定するものではなく、例えば
図3に示すように、ピン状とすることができる。また、突起部28a、28bの数も特に限定するものではなく、例えば
図3に示すように、適度のピッチで多数配置することができる。
中空円筒反応容器12の中を移動する竹は、突起部28aと突起部28bの間に入り、破砕される。
【0025】
常圧過熱水蒸気導入機構14は、常圧過熱水蒸気を導入口20に導入する。外部から供給される常圧過熱水蒸気を導入口20に導入し、あるいは、常圧過熱水蒸気生成装置を備える。常圧過熱水蒸気の流量を制御する制御部を備えるとともに、必要に応じて昇圧機を備える。
【0026】
本発明の実施の形態における常圧過熱水蒸気とは、定容積状態で加熱して得られる加圧飽和水蒸気と異なり、膨張できる状態で100℃の水蒸気をさらに加熱して得られる、標準気圧下で100℃以上の過熱水蒸気をいう。
【0027】
常圧過熱水蒸気のメリットは、圧力が常圧、すなわち大気圧であるため、(1)反応容器の耐圧が不要であり、(2)スケールアップが容易であるという点である。また、(3)常圧過熱水蒸気によって分解除去される成分が、水蒸気流に乗って留出回収されるため、分解生成物が反応容器内で液化滞留しない点である。さらに、(4)170℃の逆転移温度以上では、水蒸気は乾燥空気以上に処理物の乾燥速度が速くなるため、処理後の竹の乾燥工程が不要であり、例えば粉砕してプラスチックとのコンポジット化が容易となるという点である。
【0028】
回動機構16は、駆動源16a、16aと、駆動源16a、16aによって駆動されて中空円筒反応容器12を回動する、例えば駆動ギヤ16b、16bを有する。
【0029】
比較的低温で竹を熱処理してセルロースの分解を抑制しつつヘミセルロースを確実に分解するためには、熱処理時間、言い換えれば中空円筒反応容器12内での竹の滞留時間を十分に確保すること、例えば1〜3時間程度とすることが好ましい。その観点から、例えば押し出し機のスクリューのような移動機構を格別に備えることなく延出部18と係合することのみで水平方向に竹をゆっくり移動させる竹の熱処理装置10は、装置として簡便で効果的である。
【0030】
つぎに、本実施の形態の第一の変形例に係る竹の熱処理装置について、
図4を参照して説明する。なお、
図4を初めとする以下の各図において、中空円筒反応容器12の内部に設けられる延出部18等は破線で示す。
第一の変形例に係る竹の熱処理装置10aは、中空円筒反応容器12が水平面に対して軸線を傾けて配置され、竹装入部24が中空円筒反応容器12の高い位置側に設けられ、竹抜出部26が低い位置側に設けられる、いわゆるロータリキルン型である点が、竹の熱処理装置10と大きく異なる。なお、竹抜出部26近傍に設けられる中心軸30および突起部28a、28bが省略され、その代わりに延出部18が配置される。また、水蒸気導入口20が中空円筒反応容器12の竹抜出部26側に設けられ、水蒸気導出口22が竹挿入部24側に設けられる。
【0031】
竹の熱処理装置10aは、中空円筒反応容器12の傾斜角を適度に設定し、または回転速度を適度に設定することで、所望の速度でより確実に竹を移動させて熱処理することができる。
【0032】
つぎに、本実施の形態の第二の変形例に係る竹の熱処理装置について、
図5を参照して説明する。
第二の変形例に係る竹の熱処理装置10bは、中空円筒反応容器12の本体外周面に加熱部32が設けられる点が竹の熱処理装置10、10aと異なる。
加熱部32は、熱源として直火、熱風、スチーム、電熱等の中から適宜選択して用いることができる。
なお、中空円筒反応容器12の内部は通気する常圧過熱水蒸気によって直接加熱されるため、竹が中空円筒反応容器12の内外から効率的に加熱されるが、このときさらに、高周波加熱、およびマイクロ波加熱などの電磁波加熱を併用してもよい。
【0033】
つぎに、本実施の形態の第三の変形例に係る竹の熱処理装置について、
図6を参照して説明する。
第三の変形例に係る竹の熱処理装置10cは、導出口22に接続される冷却・凝縮機構34をさらに備える点が竹の熱処理装置10、10a、10cと異なる。冷却・凝縮機構34は、空冷方式であってもよいが、水冷方式であることがより好ましい。
導出口22から抜き出される水蒸気は冷却・凝縮されて、タール分をほとんど含まない竹酢液として回収される。
【0034】
なお、竹の熱処理装置10、10a、10bは、中空円筒反応容器12の内部に、振り子用のハンマーあるいはカッターを取り付けることも、好適な態様の一つである。中空円筒反応容器12の回転とともに、振り子が振れて水蒸気処理竹が破砕される。
【0035】
つぎに、竹の熱処理装置10、10a、10bを用いた竹の熱処理方法について説明する。
中空円筒反応容器12を回動機構16によって例えば0.1〜10rpmの回転速度で回動させる。中空円筒反応容器12に導入口20から常圧過熱水蒸気を導入する。
常圧過熱水蒸気の温度が170℃を下回る場合、竹の分解が十分に行われず、処理した竹の乾燥も不十分となるおそれがある。竹の分解をより速やかに行う場合には、常圧過熱水蒸気の温度は190℃以上であることがより好ましい。一方、常圧過熱水蒸気の温度が320℃を上回る場合、セルロースの分解が始まり、リグニンの分解も加速されるため、タール成分が増加し、あるいは、処理後の竹をコンポジット原料として用いる場合、原料としての利用価値が減退するおそれがある。竹繊維のコンポジット原料としての利用価値を最大限に発揮させるには、常圧過熱水蒸気の温度は250℃以下であることがより好ましい。
常圧過熱水蒸気の流量は、例えば0.1〜3.0kg/(h・竹1kg)程度とすることが好ましい。0.1kg/(h・竹1kg)を下回る流量の場合、竹への熱供給が不足し、竹の分解が不十分となる場合がある。また、3.0kg/8h・竹1kg)を超える流量では、分解反応および分解生成物の留出はより速やかに進行するものの、過剰な水蒸気の一部は反応に関与せずに流通するため効率的でない。分解反応の進行と排出水蒸気の冷却凝縮の効率を勘案して、常圧過熱水蒸気を0.2〜1.0kg/(h・竹1kg)の流量で通す態様がより好ましい。
【0036】
常圧過熱水蒸気が流通する中空円筒反応容器12に竹を竹装入部24から連続的に、あるいは間歇的に装入する。このとき竹は、中空円筒反応容器12に収容できる寸法、例えば、長さ寸法が数十cm〜数mになるように切って用いる。なお、大型の常圧反応容器を用いれば、竹の裁断は実質的にほとんど不要になる。
【0037】
中空円筒反応容器12の中で竹は常圧過熱水蒸気と接触して熱分解する。このときヘミセルロースが優先的に分解し、セルロースを主成分とする維管束鞘由来の短繊維構造混合物となる。
竹は、中空円筒反応容器12の回転と、延出部18、さらには突起部28の作用により破砕される。このとき、170℃以上の温度の水蒸気は、乾燥空気よりも乾燥速度が大きいため、竹は乾燥し、衝撃による破砕が促進される。ちなみに、竹の熱処理装置への常圧過熱水蒸気の導入を停止すると、生竹の破裂、破砕が一切進行しないことを確認している。
中空円筒反応容器12の回動により竹が攪拌されることにより、および竹の破裂、破砕が進行することにより、竹と水蒸気との接触がより均一となるとともに反応表面積が増大し、竹の分解・破砕効率がさらに加速される。
図7は、常圧過熱水蒸気の温度210℃で熱処理し、処理開始後一定時間ごと(熱処理前、熱処理開始1分後、3分後、10分後)に竹を中空円筒反応容器12から取り出して容器に移して写真を撮り、回転撹拌による竹の破砕状況の変化を見た図である。
破裂・破砕された竹は、内部の維管束鞘の方向に沿った短冊状、もしくはチップ状に変化し、つづいて行う微粉砕・分級プロセスにより、例えば竹コンポジットとして好ましい原料が得られる。