(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
金属フッ化物結晶は、多様な用途が期待されている金属化合物結晶である。例えば、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム等の単結晶は、真空紫外から赤外領域までの広範囲の波長帯域にわたって高い透過性と低屈折率、低分散を有し、化学的安定性にも優れていることから、広範囲な領域での光学材料として、窓材、レンズ、プリズムなどに用いられている。とりわけ、光リソグラフィー技術において、次世代の短波長光源として開発が進められているArFレーザ(193nm)やF
2レーザ(157nm)光源を使用するステッパー(縮小投影型露光装置)などの装置の、窓材、光源系レンズ、照明系レンズ、投影系レンズとして期待が寄せられている。
【0003】
また、金属フッ化物結晶であるフッ化リチウムカルシウムガリウムの単結晶がレーザー用用途として検討され、有用なことが示されている(非特許文献1)。
【0004】
金属フッ化物結晶はシンチレーター用結晶としての開発も進められている(特許文献1及び2)。シンチレーターとは、放射線が当たったときに当該放射線を吸収して蛍光を発する物質のことをいう。該シンチレーターに要求される特性の一つとして発光の輝度が高いことが挙げられる。これは、該シンチレーターを使用する放射線検出器の各種性能、例えば、放射線に対する検出効率に影響するためである。なお、検出効率とは線源から放出され検出器に入射した放射線の数に対する検出器でカウントした放射線の数の比である。金属フッ化物結晶は、シンチレーターの中でも特に中性子検出用シンチレーターとして開発が進められている。これは、これはフッ化物が小さな原子番号を持ち、X線、γ線等の中性子と共に放出される可能性のある放射線との相互作用が少ないためである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の金属フッ化物結晶は、リチウム、カルシウム、ガリウムを含む金属フッ化物であるフッ化リチウムカルシウムガリウムの結晶を基本構成とし、カルシウムの一部をマグネシウムで置換した組成を持ち、さらに、該結晶体中に、賦活材としてランタノイドを含有する結晶である。
【0015】
本発明の金属フッ化物結晶は、母結晶が化学式LiCa
(1−x)Mg
xGaF
6(0.1≦x≦0.9)の組成を持つ金属フッ化物の結晶であり、無色透明な結晶であって、六方晶系結晶に属する。前記化学式中のXは、カルシウムとマグネシウムの総数を1とした場合のマグネシウムの割合であり、その割合Xは0.1以上0.9以下である。該結晶は良好な化学安定性を有しており、通常の使用においては短期間での性能の劣化は認められない。機械強度および加工性も良好であり、所望の形状に加工して用いることができる。
【0016】
Xが0.1未満の場合、本発明における発光の輝度が増加する効果が、僅かしか得られない。また、Xが0.9より大きい場合、得られる金属フッ化物中の賦活剤の含有量が0.001モル%以下と少なくなり、発光の輝度が低下する。好ましくはXが0.7以下である。マグネシウムの割合が0.7以下の場合、得られる金属フッ化物が単結晶化し、透過性が改善するため、得られる発光の輝度が向上する。さらに好ましくは0.4≦X≦0.6である。マグネシウムの割合がこの範囲にあるとき、容易に結晶化が可能であり、かつ、発光の輝度が増加する効果も大きい。
【0017】
本発明の金属フッ化物結晶はランタノイド元素を含有する。本発明の金属フッ化物結晶に含有されるランタノイド元素は賦活材として働き、この賦活材が発光を示すことによりシンチレーターとしての特性を示す。賦活材として用いるランタノイドには、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム等を挙げることができ、これらのランタノイド元素を制限無く使用することができる。また、該ランタノイド元素から選ばれる少なくとも1種の元素を含有していればよい。
【0018】
賦活材としてセリウムを用いた場合、蛍光の減衰が早く、高計数率であるシンチレーターが得られるという点で好ましい。なお、計数率とは単位時間あたりにカウントした放射線の数である。また、賦活材としてユウロピウムを用いた場合、高輝度な発光が得られ、高い検出効率を持つシンチレーターが得られるという点で好ましい。
【0019】
本発明の金属フッ化物結晶においては、LiCa
(1−x)Mg
xGaF
6(0.1≦x≦0.9)に対する賦活材としてのランタノイド元素の含有量が高いほど、高輝度の発光を得ることができる。しかしながら、該含有量が高すぎる場合には、過剰のランタノイド元素の析出のため、結晶の透明性が低下し、ランタノイド元素による発光を結晶自身が吸収してしまうため、ランタノイド元素の含有量は、LiCa
(1−x)Mg
xGaF
6(0.1≦x≦0.9)を基準にして0.001〜20モル%であることが好ましい。含有量を0.001モル%以上とすることにより、高輝度な発光を得ることができ、また、20モル%以下とすることにより、透明性が高い、ランタノイド元素をドープしたLiCa
(1−x)Mg
xGaF
6(0.1≦x≦0.9)を得ることができる。
【0020】
本発明の金属フッ化物結晶においては、結晶中に含まれるLi元素中の
6Li同位体比を50%以上とすることが好ましい。
6Li同位体比を50%以上とすることによって、
6Li同位体が中性子を捕獲してα粒子及びトリチウムを生じる中性子捕獲反応の確率が高まり、中性子に対する検出効率が向上する。前記
6Li同位体比を50%以上とすることが好ましく、90%以上とすることが最も好ましい。一方、同位体濃縮に係るコストに鑑みて、
6Li同位体比を99%以下とすることが好ましい。
【0021】
本発明の金属フッ化物は単結晶あるいは多結晶であり、単結晶の方が光の透過性が高く、
大きなサイズの固体サンプルであっても内部からの発光を減衰させずに取り出しやすいため好適である。
【0022】
本発明の金属フッ化物結晶は、レーザー用結晶、シンチレーター等各種光学素子に使用することができる。特に、シンチレーター用、さらに好ましくは中性子検出用シンチレーターに好適に使用することができる。
【0023】
本発明の金属フッ化物結晶の製造方法は特に限定されず、坩堝を下降して融液を下方より上方へ一方向に凝固せしめるブリッジマン法、固液界面を一定の位置に保ったまま結晶を一方向に凝固させながら引き上げるチョクラルスキー法、或いは固液界面を一定の位置に保ったまま結晶を一方向に凝固させながら引き下げるマイクロ引下げ法等が挙げられる。
【0024】
以下、マイクロ引下げ法を例にとってその製造方法を詳細に説明する。マイクロ引下げ法とは、
図1に示すような装置を用いて、坩堝5の底部に設けた孔より原料融液を引き出して結晶を製造する方法である。
【0025】
まず、所定量の原料を、底部に孔を設けた坩堝5に充填する。坩堝底部に設ける孔の形状は、特に限定されないが、直径が0.5〜4mm、長さが0〜2mmの円柱状とすることが好ましい。
【0026】
本発明において原料は、純度がそれぞれ99.99%以上であることが好ましい。かかる原料を用いることにより、結晶の純度を高めることができ、発光の輝度の向上が見込める。原料は、各原料を予め混合した混合原料を坩堝に充填すれば良いが、混合した後に一旦焼結或いは溶融固化させたものを原料として用いても良い。原料として用いるフッ化リチウム、フッ化ガリウムは揮発性の強い元素であるため、予め理論組成よりも0.1〜10%程度過剰に仕込むとより良い。
【0027】
次いで、上記原料を充填した坩堝5、アフターヒーター1、ヒーター2、断熱材3、及びステージ4を
図1に示すようにセットする。真空排気装置を用いて、チャンバー6内を1.0×10
−3Pa以下まで真空排気した後、高純度アルゴン等の不活性ガスをチャンバー6内に導入してガス置換を行う。ガス置換後のチャンバー内の圧力は特に限定されないが、大気圧が一般的である。該ガス置換操作によって、原料或いはチャンバー内に付着した水分を除去することができ、かかる水分に由来する結晶の劣化を妨げることができる。ガス置換操作によっても除去できない水分による影響を避けるため、フッ化亜鉛等の固体スカベンジャー或いは四フッ化メタン等の気体スカベンジャーを用いることが好ましい。固体スカベンジャーを用いる場合には原料中に予め混合しておく方法が好適であり、気体スカベンジャーを用いる場合には不活性ガスに混合してチャンバー内に導入する方法が好適である。
【0028】
ガス置換操作を行った後、高周波コイル7で原料を加熱して溶融せしめ、溶融した原料融液を坩堝底部の孔から引き出して、結晶の育成を開始する。
【0029】
金属フッ化物結晶をマイクロ引き下げ法で製造する場合、原料融液の坩堝に対する濡れ性が悪く、坩堝底部の孔から融液が滲出しにくい場合がある。このよう場合には、金属ワイヤーを引き下げロッドの先端に設け、該金属ワイヤーを坩堝底部の孔から坩堝内部に挿入し、該金属ワイヤーに原料融液を付着せしめた後、原料融液を金属ワイヤーと共に引き下げることによって結晶の育成が可能となる。例えば、高周波の出力を調整し、原料の温度をフッ化金属の融点から徐々に上げながら該金属ワイヤーを坩堝底部の孔に挿入し、引き出しを行う。この操作を原料融液が金属ワイヤーと共に引き出されるまで繰り返して、結晶の育成を開始する。金属ワイヤーの材質は、原料融液と実質的に反応しない材質であれば制限無く使用できるが、W−Re合金等の高温における耐食性に優れた材質が好適である。
【0030】
上記金属ワイヤーによる原料融液の引き出しを行った後、一定の引き下げ速度で連続的に引き下げることにより結晶を得ることができる。引き下げ速度は特に限定されないが、0.5〜10mm/hrの範囲とすることが好ましい。
【0031】
本発明の金属フッ化物結晶の製造においては、熱歪に起因する結晶の結晶欠陥を除去する目的で、結晶の製造後にアニール操作を行っても良い。
【0032】
得られた金属フッ化物結晶は、良好な加工性を有しており、所望の形状に加工して用いることが容易である。加工に際しては、公知のブレードソー、ワイヤーソー等の切断機、研削機、或いは研磨盤を何ら制限無く用いる事ができる。
【0033】
金属フッ化物結晶は所望の形状に加工しての様々な発光素子とすることができ、フォトリソグラフィー、レーザー、中性子検出用を含むシンチレーターなどに好適に利用できる。
【0034】
中性子検出用シンチレーターとする場合、その形状は任意の形状で良く、板状、ブロック状、もしくは四角柱形状の金属フッ化物結晶を複数個配列させたアレイ状とすることができる。該中性子シンチレーターは、光電子増倍管等の光検出器と組み合わせて中性子検出器とすることができる。即ち、中性子の照射により中性子検出用シンチレーターから発せられたシンチレーション光を、光電子増倍管によって電気信号に変換することによって、中性子の有無及び強度を電気信号として捉えることができる。なお、中性子検出器の構造や作製方法は何ら制限されず、従来公知の構造及び方法を採用できる。
【0035】
具体的には、例えば光電子増倍管の光電面に、本発明の中性子検出用シンチレーターを光学グリース等で接着し、該光電子増倍管に高電圧を印加して、光電子増倍管より出力される電気信号を計測する方法が挙げられる。この光電子増倍管より出力される電気信号を利用して中性子線の強度等を解析する目的で、光電子増倍管の後段に増幅器や多重波高分析器等を設けても良い。
【0036】
本発明の金属フッ化物結晶からなる中性子検出用シンチレーターは、位置敏感型光検出器と組み合わせて中性子撮像装置とすることができる。かかる位置敏感型光検出器としては、位置敏感型光電子増倍管が好適に使用でき、具体的なものを例示すれば、PHOTONIS社製XP85012等が挙げられる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0038】
実施例1
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0039】
図1に示す結晶製造装置を用いて、賦活剤としてセリウムを含有するLiCa
0.5Mg
0.5GaF
6金属フッ化物結晶の結晶を製造した。原料としては、純度が99.99%のフッ化リチウム(
6Li同位体比95%)、及びフッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化ガリウム、フッ化セリウムを用いた。アフターヒーター1、ヒーター2、断熱材3、ステージ4、及び坩堝5は、高純度カーボン製のものを使用し、坩堝底部に設けた孔の形状は直径2.0mm、長さ0.5mmの円柱状とした。
【0040】
賦活材としてセリウムを含有するLiCa
0.5Mg
0.5GaF
6金属フッ化物結晶を作成することを目的として、フッ化リチウム0.38g、及びフッ化カルシウム0.59g、フッ化マグネシウム0.47g、フッ化ガリウム2.02g、フッ化セリウム60mgをそれぞれ秤量し、よく混合した後に坩堝5に充填した。原料を充填した坩堝5を、アフターヒーター1の上部にセットし、その周囲にヒーター2、及び断熱材3を順次セットした。
次いで、油回転ポンプ及び油拡散ポンプからなる真空排気装置を用いて、チャンバー6内を5.0×10
−4Paまで真空排気を行った。同時に、真空排気時の坩堝内部の温度は570Kとなるよう、高周波コイル7を用いて加熱を行った。
【0041】
アルゴン95vol%−四フッ化メタン5vol%混合ガスをチャンバー6内に導入し、高周波コイル7を用いて、坩堝底部の温度を計測しながら、加熱温度が790Kとなるよう高周波加熱コイルの出力を調整した。混合ガス置換後のチャンバー6内の圧力は大気圧とし、この状態で30分加熱を継続した。次に、高周波加熱コイルによる加熱を継続したまま、真空排気を行い、さらにチャンバー6内にアルゴンガスを導入してガス置換を行った。アルゴンガス置換後のチャンバー6内の圧力は大気圧とした。同様の操作を2回行った。
【0042】
高周波加熱コイル7を用いて、原料を加熱して溶融せしめた。次いで、高周波の出力を調整して原料融液の温度を徐々に上げながら、引下げロッド8の先端に設けたW−Re合金からなる金属ワイヤーを、坩堝5底部の孔に挿入し、引下げる操作を繰り返して、原料融液を上記孔より引き出した。この時点の温度が保たれるように高周波の出力を固定し、原料の融液を引き下げ、結晶の育成を開始した。1mm/hrの速度で連続的に20時間引き下げ、最終的に直径2.1mm、長さ20mmのセリウムを0.010モル%含有する金属フッ化物の単結晶を得た。なおセリウム含有量は吸光光度法により求めた。
【0043】
得られた結晶を、ダイヤモンド切断砥石を備えたブレードソーによって約15mmの長さに切断し、側面を研削して長さ10mm、幅2mm、厚さ1mmの形状に加工し、これをスペクトル測定用試料とした。得られたサンプルを1μmのダイヤモンドスラリーを用いて光学研磨を行った。得られた試料を
図2の9の位置に設置し、
241Amを
図2の10の位置に設置し、試料の幅2mmの面に対して
241Amにおけるα線の照射を行った。試料より得られる発光を
図2の11の位置にあるCCDカメラで測定し、スペクトルの記録を行った。
【0044】
実施例2
賦活材としてセリウムを含有するLiCa
0.75Mg
0.25GaF
6金属フッ化物結晶を作成することを目的として、原料として、フッ化リチウム0.37g、及びフッ化カルシウム0.88g、フッ化マグネシウム0.23g、フッ化ガリウム1.99g、フッ化セリウム59mgをそれぞれ秤量した以外は実施例1と同様に結晶育成を行い、最終的に径2.1mm、長さ20mmのセリウムを含有するセリウムを0.012モル%含有する金属フッ化物の単結晶を得た。なおセリウム含有量は吸光光度法により求めた。実施例1と同様にして、α線照射時の発光スペクトルの測定を行った。結果を
図4に示す。
【0045】
実施例3
賦活材としてセリウムを含有するLiCa
0.25Mg
0.75GaF
6金属フッ化物結晶を作成することを目的として、原料として、フッ化リチウム0.39g、及びフッ化カルシウム0.30g、フッ化マグネシウム0.72g、フッ化ガリウム2.06g、フッ化セリウム61mgをそれぞれ秤量した以外は実施例1と同様に結晶育成を行い、最終的に径2.1mm、長さ20mmのセリウムを含有するセリウムを0.007モル%含有する金属フッ化物の単結晶を得た。なおセリウム含有量は吸光光度法により求めた。実施例1と同様にして、α線照射時の発光スペクトルの測定を行った。結果を
図5に示す。
【0046】
比較例1
賦活材としてセリウムを含有するLiCaGaF
6金属フッ化物結晶を作成することを目的として、原料として、フッ化リチウム0.37g、及びフッ化カルシウム1.15g、フッ化ガリウム1.96g、フッ化セリウム58mgをそれぞれ秤量した以外は実施例1と同様に結晶育成を行い、最終的に径2.1mm、長さ20mmのセリウムを含有するセリウムを0.015モル%含有する金属フッ化物の単結晶を得た。なおセリウム含有量は吸光光度法により求めた。実施例1と同様にして、α線照射時の発光スペクトルの測定を行った。結果を
図3、4、5に示す。
図3より、カルシウムの一部をマグネシウムで置換することにより、発光量が増加している様子が分かる。
【0047】
図3〜4より、セリウムをドープしたフッ化リチウムカルシウムガリウムのカルシウムの一部をマグネシウムで置換した構造を持つ実施例1〜3は、カルシウムの一部をマグネシウムで置換していない比較例1と比べると、得られた金属フッ化物結晶の発光の輝度が高くシンチレーターとして有用であることがわかる。また同時に、これらの結果は、新規な金属フッ化物結晶であるLiCa
(1−x)Mg
xGaF
6は、セリウム等のランタノイド元素を含有させて用いるシンチレーターの母結晶として有用であることを示している。