特許第5713903号(P5713903)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5713903シリカガラスルツボの製造装置及びシリカガラスルツボの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5713903
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】シリカガラスルツボの製造装置及びシリカガラスルツボの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 15/10 20060101AFI20150416BHJP
   C03B 20/00 20060101ALI20150416BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
   C30B15/10
   C03B20/00 H
   C30B29/06 502B
【請求項の数】11
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2011-526752(P2011-526752)
(86)(22)【出願日】2010年8月9日
(86)【国際出願番号】JP2010063455
(87)【国際公開番号】WO2011019012
(87)【国際公開日】20110217
【審査請求日】2013年4月4日
(31)【優先権主張番号】特願2009-187333(P2009-187333)
(32)【優先日】2009年8月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(72)【発明者】
【氏名】須藤 俊明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 江梨子
(72)【発明者】
【氏名】岸 弘史
(72)【発明者】
【氏名】藤田 剛司
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−148718(JP,A)
【文献】 特開平06−314591(JP,A)
【文献】 特開2003−117734(JP,A)
【文献】 特開2000−042834(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/069773(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 15/10
C03B 20/00
C30B 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカガラスルツボの外形を規定するモールドと、
複数の電極及び電力供給手段を具備するアーク放電手段と、
アーク火炎の照射位置を変動させる位置変位制御手段とを有し、
前記アーク放電手段は、前記複数の電極の間でアーク放電するアーク放電手段であり、
前記複数の電極のそれぞれは、前記モールドに向けられた先端部と、前記先端部の反対側の端である他端部と、前記先端部と前記他端部の間に設けられた曲部とを有するシリカガラスルツボの製造装置。
【請求項2】
前記先端部における軸線と前記他端部における軸線とでなす角度が、90〜175度である請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記角度は、90〜150度である請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記曲部は、曲率半径が450〜1500mmである請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記曲部は、長さが100〜1100mmである請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記複数の電極は、各々の他端部が略多角形状をなすように配置されている請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記モールドと前記電極との相対位置状態、前記モールドの位置状態、前記電極の位置状態のうちの少なくとも一つを変位可能とする位置変位制御手段をさらに備える請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記位置変位制御手段は、前記モールドを、水平方向移動、傾斜、回転又は旋回させるか、あるいは、前記電極と前記モールドとを垂直相対位置で移動させるかのうちの少なくとも一つの位置変位制御を行なう請求項に記載の装置。
【請求項9】
請求項1に記載の装置を用いたシリカガラスルツボの製造方法であって、
シリカ粉を前記モールド内部に供給してシリカ粉層を形成するシリカ粉供給工程と、前記複数の電極によるアーク放電で前記シリカ粉層を溶融するアーク溶融工程とを有し、前記アーク溶融工程は、前記複数の電極の各々の先端部から前記シリカ粉層に向けてアーク放電を行って前記シリカ粉層を溶融するシリカガラスルツボの製造方法。
【請求項10】
前記アーク溶融工程では、前記モールドと前記電極との相対位置状態、前記モールドの位置状態、前記電極の位置状態のうちの少なくとも一つを変位させながら、前記モールド内に供給された前記シリカ粉層を溶融する請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記アーク溶融工程では、前記モールドを、水平方向移動、傾斜、回転又は旋回させるか、あるいは、前記電極と前記モールドとを垂直相対位置で移動させるかのうちの少なくとも一つの位置変位制御を行なう請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカガラスルツボの製造装置及びシリカガラスルツボの製造方法に関し、特に、シリコン単結晶の引上げに用いられるシリカガラス製のルツボ製造における内表面特性の制御に好適な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、シリコン単結晶の製造には、シリカガラスルツボを用いたチョクラルスキー法(CZ法)と呼ばれる方法が採用されている。シリカガラスルツボは、その内部にシリコン多結晶原料を溶融したシリコン融液が貯留され、回転させながらシリコン単結晶の種結晶を浸漬して徐々に引上げ、種結晶を核としてシリコン単結晶を成長させながら引き上げる際に使用される。
【0003】
このようなシリカガラスルツボは、多数の気泡を含む外層と透明な内層とからなる二層構造とされ、この内層の表面、つまり、単結晶引き上げ時にシリコン融液と接している内表面の特性により、引き上げられるシリコン単結晶の特性が左右され、最終的なシリコンウェーハの収率にも影響を及ぼすことが知られている。このため、シリカガラスルツボとしては、従来から、内層を非晶質である合成シリカ粉からなる合成シリカガラスとし、外層を天然シリカガラスとすることが知られている。
【0004】
従来、例えば、シリカガラスルツボを用いてシリコンを溶融し、単結晶を引き上げる際、溶融シリコンの液面に波が発生し、種結晶の適確な浸漬による種付けが困難となり、シリコン単結晶の引上げができなかったり、あるいは、単結晶化が阻害されたりするという湯面振動の問題がしばしば発生していた。このような湯面振動現象は、シリコン結晶が大口径化するに伴い、さらに発生し易くなってきていることから、シリカガラスルツボの内表面特性を改善することが強く求められるようになっている。
【0005】
一方、上述のようなCZ法において用いられるシリカガラスルツボは、まず、モールド内部にシリカ粉を堆積させてシリカ粉層を形成した後、このシリカ粉層をアーク放電によって溶融させ、冷却固化させることで得られる。このようなシリカガラスルツボの製造工程においては、シリカ粉層を溶融させる際、シリカ粉層の内面に対してアーク放電することで前記内面を洗浄処理する、所謂ファイアポリッシングが行われる。このファイアポリッシングとは、アーク放電によってシリカ粉を溶融させることでシリカガラス層を形成しながら、溶融原料内に生じる気泡等をアークで除去する除去処理のことを言う。このようなファイアポリッシングによる処理を行うことにより、内表面特性に優れたシリカガラスルツボを製造することが可能となる。
【0006】
しかしながら、例えば、図8に示すような、直線状とされた従来の構成の電極を用いてシリカガラスルツボを製造した場合、複数の電極113からのアークを、シリカ粉層111の側壁内面111bの全体に照射することが困難となる。この場合、底部内面111aにおいては、ファイアポリッシングによる気泡の除去効果が均一に得られるものの、側壁内面111bにおいては、気泡の除去効果が得られない箇所が生じる。この際、例えば、直線状の複数の電極113からのアーク放電が底部内面111aに直接照射され、この箇所においては、効果的にシリカ粉層111が溶融される。しかしながら、図8に示すような従来の構成の電極を用いた場合、シリカ粉層111の側壁内面111bと湾曲面にはアークが照射され難く、また、輻射熱も付与され難い。このため、製造されたシリカガラスルツボの側壁内面において、溶融原料内に生じる気泡がそのまま固化して表出した箇所が生じ、内表面の特性が劣化するという問題がある。
【0007】
そして、側壁内面に特性欠陥が生じたシリカガラスルツボを用い、上述のようなCZ法によってシリコン単結晶を引き上げた場合には、ルツボ内の欠陥箇所において単結晶化が阻害されて、歩留まりが低下するという大きな問題があった。
【0008】
また、近年、762〜1016mm(30〜40インチ)といった大口径ウェーハに対応するため、シリコン単結晶の大口径化が要求されており、これに伴い、シリカガラスルツボも大型化が求められている。このため、シリカガラスルツボを製造する際、シリカ粉層を溶融するために必要な電力量が増大し、電極に印加する電力を高くする必要性が生じるとともに、表面積の広いシリカ粉層の内表面全体に対し、電極から放電されたアークを均一に照射する必要が生じている。しかしながら、シリカガラスルツボの大型化に伴い、ルツボ内部の表面積が増大するため、アークを側壁内面全体に対して均一に照射するのが一層困難になる。このため、上述のようなファイアポリッシングによる気泡の除去処理が不完全となり、製造後のシリカガラスルツボの内表面特性が著しく劣化する。そして、上記同様、内表面特性に欠陥が生じたシリカガラスルツボを用いてシリコン単結晶を引き上げた場合には、シリコン単結晶の成長に不具合が生じるという問題がある。
【0009】
シリカガラスルツボの製造工程において、内表面に特性欠陥が生じるのを防止するため、例えば、特許文献1に記載の技術のように、溶融したシリカ粉原料から発生するシリカ蒸気を除去することにより、装置内に発生する不純物等を除去する方法が知られている。
【0010】
また、シリカガラスルツボの内表面特性をより一層向上させるため、例えば、特許文献2、3に記載の技術のように、シリカガラスルツボの内表面を形成するシリカ粉として、非晶質である合成シリカ粉を使用する方法等も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−154894号公報
【特許文献2】特許第2811290号公報
【特許文献3】特許第2933404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記特許文献1〜3の何れに記載の技術においても、シリカ粉層の側壁内面においては溶融原料内に生じる気泡等を確実に除去することが困難であり、製造されるシリカガラスルツボの側壁内面の特性が部分的に劣化するという問題があった。このため、特許文献1〜3に記載の技術で得られるシリカガラスルツボを用いてシリコン単結晶を製造した場合には、シリコン単結晶の成長に不具合が生じるという問題があった。
【0013】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、以下に示す目的を達成可能なシリカガラスルツボの製造装置及びシリカガラスルツボの製造方法を提供するものである。
1.シリカガラスルツボの製造工程において、製造中に、ルツボ内の溶融原料に生じる気泡等を、ファイアポリッシング技術を用いて確実に除去すること。
2.特に、溶融したシリカ粉層の側壁内面において生じる気泡等を確実に除去すること。
3.シリカガラスルツボの内表面全体の特性の低下を防止し、その向上を図ること。
4.製品特性のバラツキ発生を低減し、安定した品質管理を可能とすること。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のシリカガラスルツボの製造装置は、シリカガラスルツボの外形を規定するモールドと、複数の電極及び電力供給手段を具備するアーク放電手段とを有し、前記複数の電極のそれぞれは、前記モールドに向けられた先端部と、前記先端部の反対側の端である他端部と、前記先端部と前記他端部の間に設けられた曲部とを有する構成とすることにより、上記課題を解決した。
前記先端部における軸線と前記他端部における軸線とでなす角度が、90〜175度であることが好ましく、前記角度が、90〜150°の範囲であることがさらに好ましい。
前記曲部は、急峻に折れ曲がる折れ部を有するように構成してもよい。
また、本発明においては、前記複数の電極が、各々の他端部が略多角形状をなすように配置された構成とすることも可能である。
また、本発明においては、前記モールドと前記電極との相対位置状態、前記モールドの位置状態、前記電極の位置状態のうちの少なくとも一つを変位可能とする位置変位制御手段をさらに備える構成とすることがより好ましい。
また、本発明においては、前記位置変位制御手段が、前記モールドを、水平方向移動、傾斜、回転又は旋回させるか、あるいは、前記電極と前記モールドとを垂直相対位置で移動させるかのうちの少なくとも一つの位置変位制御を行なうものであることがさらに好ましい。
【0015】
本発明のシリカガラスルツボの製造方法は、上記本発明の製造装置を用いたシリカガラスルツボの製造方法であって、シリカ粉を前記モールド内部に供給してシリカ粉層を形成するシリカ粉供給工程と、前記複数の電極によるアーク放電で前記シリカ粉層を溶融するアーク溶融工程とを有し、前記アーク溶融工程は、前記複数の電極の各々の先端部から前記シリカ粉層に向けてアーク放電を行って前記シリカ粉層を溶融するシリカガラスルツボの製造方法とすることにより、上記課題を解決した。
本発明において、前記アーク溶融工程では、前記モールドと前記電極との相対位置状態、前記モールドの位置状態、前記電極の位置状態のうちの少なくとも一つを変位させながら、前記モールド内に供給された前記シリカ粉層を溶融することがより好ましい。
また、本発明において、前記アーク溶融工程では、前記モールドを、水平方向移動、傾斜、回転又は旋回させるか、あるいは、前記電極と前記モールドとを垂直相対位置で移動させるかのうちの少なくとも一つの位置変位制御を行なうことがさらに好ましい。
【0016】
従来のシリカガラスルツボの製造装置では、電極が直線状であるので、電極の先端部をシリカ粉層の側壁内面に十分に近づけることができなかった。電極の先端部近辺に高温部が存在しており、この高温部を近づけることによってファイアポリッシングによる気泡除去効率(溶融材料に生じる気泡等を除去する効率)が改善されるが、従来技術では、電極の先端部をシリカ粉層の側壁内面に十分に近づけることができなかったので、側壁内面における気泡等の除去効率が低かった。本発明のシリカガラスルツボの製造装置によれば、電極が曲部を有しているので、電極先端の高温部をシリカ粉層の側壁内面に十分に近づけることが可能であり、これによって、側壁内面における気泡除去効率が改善される。従って、本発明によれば、内表面特性、特に側壁内面の特性に優れたシリカガラスルツボを製造することが可能となる。
【0017】
ここで、本発明において述べるシリカガラスルツボの内表面特性とは、シリカガラスルツボで引き上げた半導体単結晶の特性に影響を与える全ての要因を意味し、特に、引き上げ時に単結晶原料となるシリコン融液と接しているかまたは引き上げ中における溶損によってシリコン融液と接する範囲であるルツボ内面側の特性、および、長時間加熱状態とされるルツボ強度に影響を与えるルツボの特性を含むものである。具体的には、シリカガラスルツボの内表面特性とは、ルツボの厚さ方向およびルツボ内表面に沿った方向における分布状態(均一性、不均一性)としての気泡密度、気泡の大きさ、不純物濃度、ルツボ内表面形状としての表面凹凸、ガラス化状態、OH基の含有量などを対象とするものである。また、シリカガラスルツボの内表面特性とは、ルツボの厚さ方向における気泡分布及び気泡の大きさ分布、ルツボ内表面付近における不純物の分布、表面の凹凸の他、ガラス化状態、OH基の含有量、及び、これらのルツボ高さ方向における不均一などの分布状態等、シリカガラスルツボで引き上げた半導体単結晶の特性に影響を与える要因を意味することもできる。
【0018】
本発明のシリカガラスルツボの製造方法によれば、溶融したシリカ粉層の側壁内面に対して電極の先端部を近づけることで、上記の理由により、気泡除去効率が改善される。従って、本発明によれば、内表面特性、特に側壁内面の特性に優れたシリカガラスルツボを製造することが可能となる。
【0019】
本発明においては、前記アーク溶融工程では、前記モールドと前記電極との相対位置状態、前記モールドの位置状態、前記電極の位置状態のうちの少なくとも一つを変位させながら、前記モールド内に供給された前記シリカ粉層を溶融することで、シリカ粉層の側壁内面に対してより均一にアーク放電を行い、溶融材料に生じる気泡等をファイアポリッシングで確実に除去することができる。
【0020】
また、本発明において、前記アーク溶融工程では、前記モールドを、水平方向移動、傾斜、回転又は旋回させるか、あるいは、前記電極と前記モールドとを垂直相対位置で移動させるかのうちの少なくとも一つの位置変位制御を行なうことで、上述したように、シリカ粉層の側壁内面に対してより均一にアーク放電を行い、溶融材料に生じる気泡等をファイアポリッシングで確実に除去することができる。
【0021】
なお、シリカ粉として、内面層に対して主として合成シリカ粉を使用し、外面層に対して天然シリカ粉を使用することができる。ここで、合成シリカ粉とは、合成シリカからなるものを意味する。合成シリカは、化学的に合成・製造した原料である。合成シリカ粉は、非晶質である。合成シリカの原料は気体又は液体であるため、容易に精製することが可能であり、合成シリカ粉は、天然シリカ粉よりも高純度とすることができる。合成シリカの原料としては、四塩化炭素などの気体の原料由来とケイ素アルコキシドのような液体の原料由来がある。合成シリカガラスでは、全ての不純物を0.1ppm以下とすることが可能である。
【0022】
合成シリカ粉の内、ゾル−ゲル法によるものでは、アルコキシドの加水分解により生成したシラノールが通常50〜100ppm残留する。四塩化炭素を原料とする合成シリカでは、シラノールを0〜1000ppmの広い範囲で制御可能であるが、通常、塩素が100ppm程度以上含まれている。アルコキシドを原料とした場合には、塩素を含有しない合成シリカを容易に得ることができる。ゾル−ゲル法による合成シリカ粉は、上述のように、溶融前には50〜100ppm程度のシラノールを含有している。これを真空溶融すると、シラノールの脱離が起こり、得られる合成シリカガラスのシラノールは5〜30ppm程度にまで減少する。なお、シラノール量は溶融温度、昇温温度等の溶融条件によって異なる。同じ条件で天然シリカ粉を溶融して得られる天然シリカガラスのシラノール量は5ppm未満である。
【0023】
一般に、合成シリカガラスは、天然シリカ粉を溶融して得られる天然シリカガラスよりも高温における粘度が低いと言われている。この原因の一つとしてシラノールやハロゲンがSiO四面体の網目構造を切断していることが挙げられる。合成シリカ粉を溶融して得られたガラスは、光透過率を測定すると、波長200nm程度までの紫外線を良く透過し、紫外線光学用途に用いられている四塩化炭素を原料とした合成シリカガラスに近い特性であると考えられる。合成シリカ粉を溶融して得られたガラスでは、波長245nmの紫外線で励起して得られる蛍光スペクトルを測定すると、天然シリカ粉の溶融品のような蛍光ピークは見られない。
【0024】
また、天然シリカ粉とは、天然シリカからなるものを意味する。天然シリカとは、自然界に存在する石英原石を掘り出し、破砕・精製などの工程を経て得られるシリカである。天然シリカ粉は、α−石英の結晶からなる。天然シリカ粉では、Al、Tiが1ppm以上含まれている。またその他に金属不純物についても合成シリカ粉よりも高いレベルにある。天然シリカ粉は、シラノールをほとんど含まない。天然シリカ粉を溶融して得られる天然シリカガラスのシラノール量は<50ppmである。天然シリカ粉から得られたガラスでは、光透過率を測定すると、主に不純物として約1ppm含まれるTiのために波長250nm以下になると急激に透過率が低下し、波長200nmではほとんど透過しない。また245nm付近に酸素欠乏欠陥に起因する吸収ピークが見られる。
【0025】
また、天然シリカ粉の溶融品では、波長245nmの紫外線で励起して得られる蛍光スペクトルを測定すると、280nmと390nmに蛍光ピークが観測される。これらの蛍光ピークは、ガラス中の酸素欠乏欠陥に起因するものである。含有する不純物濃度を測定するか、シラノール量の違い、あるいは、光透過率を測定するか、波長245nmの紫外線で励起して得られる蛍光スペクトルを測定することにより、ガラスの原料が天然シリカであったか合成シリカであったかを判別することができる。
【0026】
本発明においては、原料としてシリカ粉が用いられているが、シリカ粉は、合成シリカ粉であっても天然シリカ粉であってもよい。天然シリカ粉は、石英粉であってもよく、水晶、珪砂等のシリカガラスルツボの原材料として周知の材料の粉であってもよい。また、シリカ粉は、結晶状態、アモルファス、ガラス状態の何れであってもよい。
【0027】
本発明のシリカガラスルツボの製造方法によって製造されるシリカガラスルツボは、内部にシリコン融液を貯留可能として上部が開口した椀状とされ、略円筒状の側壁と、側壁下部に接続された湾曲部と、湾曲部にその周囲を接続されルツボ下部を閉塞する底部とからなる。シリカガラスルツボの内表面は、このように底部と壁部と湾曲部との3つのゾーンに区分され、湾曲部とは、例えば円筒状である壁部と、一定曲率半径を有する底部との間に位置し、これらをなめらかに接続する部分を意味する。言い換えれば、ルツボ内表面に沿って底部の中心から開口部上端に向かって、底部において設定された曲率半径が変化し始めた部分から壁部における曲率半径(円筒状の場合は無限大)になる部分までが、湾曲部である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、それぞれが曲部を有する複数の電極の各々の先端部から、モールドの内表面上に形成されたシリカ粉層に向けてアーク放電を行うので、電極の先端部をシリカ粉層の側壁内面に近づけた状態でアーク放電を行うことができる。この構成によって、温度が比較的高い先端部が側壁内面に近づくことになり、ファイアポリッシングによる気泡除去効率が改善され、内表面特性、特に側壁内面の特性に優れたシリカガラスルツボを製造することが可能となる。
そして、本発明で得られるシリカガラスルツボを用いてシリコン単結晶の引き上げを行い、シリコン単結晶インゴットを製造した場合には、結晶欠陥が抑制されて結晶性に優れたシリコン単結晶が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明のシリカガラスルツボの製造装置の一実施形態を説明する正面図である。
図2図1の炭素電極の詳細な構成を示す斜視図である。
図3図2の炭素電極の別例の詳細な構成を示す斜視図である。
図4図1のモールドの詳細な構成を示す正面図である。
図5】本発明のシリカガラスルツボの製造方法の一実施形態の、各工程を示すフローチャートである。
図6】本発明の実施例における、シリカガラスルツボの内面における気泡分布を示す写真図である。
図7】従来例における、シリカガラスルツボの内面における気泡分布を示す写真図である。
図8】従来のシリカガラスルツボの製造装置を説明する正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係るシリカガラスルツボの製造装置及びシリカガラスルツボの製造方法の一実施形態について、図面を適宜参照しながら説明する。
図1は、本実施形態におけるシリカガラスルツボ製造装置1を示す正面図である。なお、以下の説明において参照する図面において、図示される各部の大きさや厚さや寸法等は、実際の寸法関係とは異なっていることがある。
【0031】
本発明に係るシリカガラスルツボ製造装置1及びシリカガラスルツボの製造方法によって得られるシリカガラスルツボ50は、内部にシリコン多結晶原料を溶融したシリコン融液が貯留され、回転させながらシリコン単結晶の種結晶を浸漬して徐々に引上げ、種結晶を核としてシリコン単結晶を成長させながら引き上げる際に使用されるものである。
【0032】
シリカガラスルツボの製造装置
1−1.全体構成
本実施形態のシリカガラスルツボ製造装置1は、図1に示すように、図示しない回転手段によって回転可能とされ、シリカガラスルツボの外形を規定するモールド10を有し、モールド10の内表面上にシリカ粉が堆積されてシリカ粉層11が形成される。このモールド10の内表面には、その内表面に貫通するとともに図示しない減圧手段に接続された通気口12が複数設けられ、シリカ粉層11が形成されたモールド10内部を減圧可能となっている。また、モールド10の上側の位置には、電力供給手段40に接続された炭素電極13が設けられ、シリカ粉層11を加熱可能とされている。複数の炭素電極13と、それに電力を供給する電力供給手段40によってアーク放電手段が構成される。
【0033】
シリカガラスルツボ製造装置1は、300kVA〜12000kVAの出力範囲で、複数の炭素電極13を用いたアーク放電によって非導電性対象物(シリカ粉)を加熱溶融する高出力の装置とされている。また、電力供給手段40から炭素電極13に供給される電力は、後述の位置変位制御手段35を用いて制御可能となっている。
【0034】
1−2.炭素電極13
次に、図2を用いて、炭素電極13について説明する。図2は、炭素電極13の詳細を示す斜視図である。
複数の炭素電極13のそれぞれは、先端部13aと、先端部13aの反対側の端である他端部13bを有している。先端部13aがモールド10に向けられている。先端部13aと他端部13bの間には曲部13Aが設けられている。曲部13Aは、比較的大きな曲率を有する湾曲部であってもよく(図2を参照)、急峻に折れ曲がる折れ部13dを有してもよい(図3を参照)。炭素電極13が曲部13Aを有しているので、他端部13bにおける軸線J1と、先端部13aにおける軸線J2は、重ならない。軸線J1と軸線J2とでなす角度は、例えば、90〜175度である。この角度は、例えば、90,100,110,120,130,140,150,160,170,175度であり、ここで例示した何れか2つの値の範囲内であってもよい。
なお、曲部13Aの、他端部13bに近い側を基部13cと称する。基部13cにおける軸線と他端部13bにおける軸線は一致し、どちらも軸線J1である。基部13cと先端部13aとの間の曲部13Aの長さは、例えば100〜1100mmである。この長さは、例えば、100,200,300,400,500,600,700,800,900,1000,1100mmであり、ここで例示した何れか2つの値の範囲内であってもよい。
炭素電極13が曲部13Aを有しているので、炭素電極13の先端部13aは、モールド10の中心から外れてモールドの10の内側の側面方向に向けられる。このため、複数の炭素電極13の各々の先端部13aは、モールド10内のシリカ粉層11に対してアーク放電による加熱溶融を行う際、鉛直下方の底部内面11aのみならず、側壁内面11bに対しても均一に加熱することが可能な構成とされている。つまり、シリカガラスルツボ製造装置1は、シリカ粉層11の底部内面11aから側壁内面11bまでを均一に加熱することができる。また、炭素電極13の先端部13aは、比較的温度が高いが、本実施形態では、この先端部13aを側壁内面11bに十分に近づけることができるので、シリカ粉層のアーク溶融時に発生する気泡等をファイアポリッシングにより効果的に除去することができる。
【0035】
曲部13Aを備える炭素電極13は、アーク放電を繰り返して消耗してゆくに従って、基部13cと先端部13aとの間の角度が小さくなり、より直線状に近付いてゆく。このように、放電使用によって炭素電極が消耗した場合、例えば、基部の軸線と先端部の軸線とがなす角度が本実施形態で規定する範囲を外れた際に、電極交換を行えば良い。
【0036】
また、本実施形態においては、例えば、曲部13Aを基部13cから脱着自在に構成し、特に消耗が激しい先端側の曲部13Aのみを交換可能な構成としても良い。このような構成とした場合には、炭素電極全体を交換する場合に比べて、交換作業時間やランニングコスト、製造コスト等を大幅に削減することが可能となる。
【0037】
炭素電極13は、例えば、交流3相(R相、S相、T相)のアーク放電をおこなうよう同形状の電極棒である。炭素電極13は、各々、基部13cと先端部13aとの間の曲部13Aが、所定の曲率半径R(R1、R2、R3)を有する湾曲状に形成されている。曲部13Aは、曲率半径Rが450〜1500mmの範囲とされているものであることが好ましい。
【0038】
炭素電極13の曲部13Aは、図3に示すように、急峻に折れ曲がる折れ部13dを有してもよい。折れ部の数は、1つであっても2つ以上であってもよい。先端部13aから折れ部13dまでの長さは、例えば100〜1100mmである。この長さは、例えば、100,200,300,400,500,600,700,800,900,1000,1100mmであり、ここで例示した何れか2つの値の範囲内であってもよい。複数の折れ部がある場合、この長さは、最も他端部13bに近い折れ部までの長さを意味する。
【0039】
また、本実施形態においては、図2に例示するように、さらに、炭素電極13の各々の他端部13bが、略三角形状をなすように配された構成とすることも可能である。また、炭素電極13の各々の他端部13bが多角形状として、4角形状、6角形状、8角形状、9角形状、12角形状、15角形状、16角形状とされて、それぞれの本数の炭素電極を有する構成とすることもできる。この場合、2相交流4本電極、2相交流6本電極、2相交流8本電極、2相交流10本電極、3相交流3本電極、3相交流6本電極、3相交流9本電極、3相交流12本電極、3相交流15本電極、4相交流4本電極、4相交流8本電極、4相交流12本電極、または、4相交流16本電極、のいずれかの電極構造を有するとともに、交流電流の位相差θの絶対値が90°≦θ≦180°の範囲になるように隣り合う電極をリング状に配置することができる。なお、電極の本数、配置状態、供給電力方式等は、上記の構成に限ることはなく、他の構成も採用することが可能である。
【0040】
電極構造(電極位置関係)の一例として、3相交流電流6本電極の説明をする。
この例では3相交流電流に対して6本の電極を用いたものとされ、炭素電極13の各々の他端部13bに対応する部分が、例えば、平面視してE1,E2,E3,E4,E5,E6の略6角形状を形成するように配置される。この3相6本の電極構造では隣り合う電極の先端部分が互いに等間隔になるように配設され、各電極先端を結ぶ6角形のリングが形成される。3相交流電流に対して隣り合う電極は120°の位相差を有し、リングの中央部を隔てて向かい合う電極は互いに同相になる。具体的には、3相交流電流に対して電極E1がR相であるとき、リングの中央部を隔てた相対向する電極E4は同じR相になり、電極E1の両側の電極E2がT相、電極E6がS相になり、さらにその外側の電極E3がS相、電極E5がT相になるように各電極が結線されている。従って、電極E1と電極E4、電極E2と電極E5、電極E3と電極E6がそれぞれ同相になり、互いに他の電極に対しては異相になる。
【0041】
この電極構造では、電極E1に対してその両側の電極E2と電極E6は異相であるのでこの両側の電極間に安定なアークが形成され、従って、ルツボの内表面に沿った互いに隣り合う電極どうしを結ぶリング状のアークが形成される。一方、リングの中央部を隔てて向き合った電極E1と電極E4は同相であるので、リングの中央部を横切るアークは形成されず、ルツボ中央部の過剰な加熱を避けることができる。また、上記電極構造は加熱範囲を広げるために隣り合う電極相互の距離を拡げても、アークは互いに最も近い隣り合う電極どうしを結んで形成されるのでアーク切れを生じ難く、安定なアークを維持することができる。なお、本実施形態においてルツボ内表面に沿ったリング状のアークとは、ルツボの内側に突き出た電極によって形成されるアークに限らず、ルツボ開口部の上方に位置する電極によってルツボ内周面に対して同心状に形成されるアークを含む。
【0042】
本実施形態の炭素電極13の各々は、粒子径0.3mm以下、好ましくは0.1mm以下、さらに好ましくは粒子径0.05mm以下の高純度炭素粒子によって形成されていることが好ましい。また、炭素電極13は、その各々の密度が1.30g/cm〜1.80g/cm、あるいは1.30g/cm〜1.70g/cmの範囲である時、各相に配置した炭素電極13の相互の密度差が0.2g/cm以下とされ、高い均質性を有するものであることが好ましい。
【0043】
上述のような、曲部13Aを有する炭素電極13を製造する場合には、例えば、以下に説明するような方法を採用することができる。
まず、炭素電極13の材料としては、粒子がコークスなどの原料、例えば、石炭系ピッチコークスと、コールタールピッチ等の結合材、例えば、石炭系コールタールピッチとを炭化した混練物を用いることができる。そして、これらの材料を用いて、押し出し成形やCIP成形等の方法により、全体的に円柱形状であり、先端部が先細形状に形成されたものとして製造することができる。
【0044】
例えば、押出し成形による炭素電極の製造方法では、目的とする粒子径が得られるように調整された炭素質原料と結合材とを加熱混練し、得られた混練物を130〜200℃で押出し成形し、これを焼成した後、2600〜3100℃の温度で黒鉛化した黒鉛材料を得た後、これを加工し、2000℃以上の加熱下で、塩素等のハロゲン系ガスによって純化処理する手段を採用することができる。
また、CIP成形による炭素電極の製造方法では、目的とする粒子径が得られるように調整された炭素質原料と結合材とを加熱混練して得られる混練物を粉砕した後、篩い分けして得られた2次粒子をCIP成形する。次いで、この成形物を焼成し、2600〜3100℃の温度で黒鉛化して黒鉛材料を得た後、これを加工し、2000℃以上の加熱下で塩素等のハロゲン系ガスにより純化処理する手段を採用することができる。
【0045】
1−3.位置変位制御手段35
本実施形態のシリカガラスルツボ製造装置1は、モールド10と炭素電極13との相対位置状態、モールド10の位置状態、炭素電極13の位置状態のうちの少なくとも1つを変位可能とする位置変位制御手段35を備える。位置変位制御手段35は、モールド10を、水平方向移動、傾斜、回転又は旋回させるか、あるいは、炭素電極13とモールド10とを垂直相対位置で移動させるかのうちの少なくとも一つの位置変位制御を行なう。
【0046】
位置変位制御手段35は、例えば、CPU等からなる演算処理装置を備え、モールド10内のシリカ粉層11の溶融状態等、製造中における各種特性を検出するための温度検知装置等(不図示)、炭素電極13の位置を設定する電極位置設定手段20、モールドの位置を設定するモールド位置設定手段21に接続されており、温度検知装置等からの検知結果に基づいて電極位置設定手段20及びモールド位置設定手段21を制御して、モールド10と炭素電極13の位置変位制御を行う。この位置変位制御により、モールド10の内面におけるアーク火炎の照射位置を変動させたり、シリカガラスの溶融状態を制御したりすることができる。また、位置変位制御手段35は、電力供給手段40に接続されていてもよく、温度検知装置等からの検知結果に基づいて、電力供給手段40から炭素電極13に供給される電力を制御してもよい。
【0047】
1−3−1.電極位置設定手段20
図1及び図2に示す炭素電極13は、位置変位制御手段35に接続された電極位置設定手段20により、図中矢印Tで示すように上下動可能とされ、高さ方向位置Hの設定が可能とされている。また、炭素電極13は、電極位置設定手段20によって横幅方向Dの設定が可能とされており、これにより、モールド10との高さ以外の相対位置も設定可能となっている。また、電極位置設定手段20及び電力供給手段40は、それぞれ、位置変位制御手段35に接続されている。
【0048】
電極位置設定手段20は、図1に示すように、炭素電極13について、その横幅方向Dの位置を設定可能に支持する図示略の支持部と、この支持部を水平方向に移動可能とする水平移動手段と、複数の支持部及びその水平移動手段を一体として上下方向に移動可能とする上下移動手段とを有するものとされている。上述のような支持部においては、炭素電極13が図示略の角度設定軸周りに回動可能に支持され、回転あるいは旋回しながら、モールド10内に供給されたシリカ粉層11の底部内面11a及び側壁内面11bの全面に対して均一にアーク放電することが可能な構成とされている。また、電極位置設定手段20は、図示略の上下移動手段により、支持部の高さ位置を制御して炭素電極13の先端部13aのシリカ粉層11の上端位置(モールド10の開口10A)に対する高さ位置Hを制御することが可能となる。
【0049】
1−3−2.モールド位置設定手段21
次に、図4を用いて、モールド位置設定手段21について説明する。図4は、本実施形態におけるシリカガラスルツボ製造装置のモールド10及びモールド位置設定手段21を示す正面図である。
モールド10は、位置変位制御手段35に接続されたモールド位置設定手段21により、作動軸22を介して、図4中において、水平方向移動(図中矢印Y方向)や、傾斜(図中矢印F方向)するように移動する他、回転(図中矢印R方向)又は旋回(図中矢印S方向)動作が可能な構成とされている。またさらに、シリカガラスルツボ製造装置1は、図4中の矢印X方向で示すように、炭素電極13(図1及び図2参照)とモールド10とを垂直相対位置で移動させることが可能な構成とされている。
モールド位置設定手段21は、上述の温度検知装置等の検知結果に基づいて制御され、モールド10を、上記各種作動方向にて移動させることができる。
【0050】
モールド位置設定手段21は、図1及び図4に示すように、作動軸22を介してモールド10を各方向に作動させるものであり、詳細な図示を省略するが、内部には、作動軸22及びモールド10を所望の方向で作動させるためのモータやカム機構、昇降装置等が備えられている。
【0051】
本実施形態のシリカガラスルツボ製造装置1でシリカガラスルツボ50を製造することにより、内表面、特に側壁内面50bの特性が低下するのを防止でき、さらに、原料溶融状態並びに内表面状態を逐次制御することが可能となる。従って、製品特性のバラツキ発生を低減し、安定した品質管理が可能となり、内表面特性に優れたシリカガラスルツボ50を製造することができる。
【0052】
2.シリカガラスルツボの製造方法
次に、シリカガラスルツボ製造装置1を用いたシリカガラスルツボの製造方法について、図面を適宜参照しながら説明する。
本実施形態のシリカガラスルツボの製造方法は、シリカ粉をモールド10の内部に供給してシリカ粉層11を形成するシリカ粉供給工程と、複数本の炭素電極13によるアーク放電でシリカ粉層11を溶融するアーク溶融工程とを有し、このアーク溶融工程は、複数の炭素電極13の各々の先端部13aからシリカ粉層11に向けてアーク放電を行ってシリカ粉層11を溶融する方法である。
【0053】
図5は、本実施形態におけるシリカガラスルツボの製造方法を示すフローチャートである。
本実施形態のシリカガラスルツボの製造方法は、図1に示すシリカガラスルツボ製造装置1を用いた回転モールド法による方法とされ、図5に示すように、シリカ粉供給工程S1、電極初期位置設定工程S2、モールド初期位置設定工程S3、アーク溶融工程S4、冷却工程S5、取り出し工程S6、仕上げ処理工程S7の各工程が備えられる。
【0054】
まず、シリカ粉供給工程S1において、モールド10の内表面にシリカ粉を堆積することにより、シリカ粉層11を所望の形状、即ち、ルツボ形状に形成する。このシリカ粉層11は、モールド10が回転することでの遠心力により、モールド10の内壁面に保持される。
【0055】
次に、電極初期位置設定工程S2においては、図1及び図2に示すように、電極位置設定手段20により、炭素電極13の各々が、各々の先端部13aがモールド10側に向かって下方に頂点を有し、且つ、各々の軸線Jが適正角度を維持しつつ、先端部13aで互いに接触するように電極初期位置を設定する。
これと同時に、モールド10の縁からの電極先端までの高さ寸法である電極高さ位置H、あるいは、横幅方向Dの位置設定を行うことで、モールド−電極相対位置状態の初期状態を設定する。
【0056】
次に、モールド初期位置設定工程S3においては、図1及び図4に示すように、モールド位置設定手段21により、モールド10が、開口10A側を上側として垂直状態となるように、初期状態を設定する。
【0057】
次に、アーク溶融工程S4においては、電極13の位置設定を行なうことで、保持されたシリカ粉層11をアーク放電手段で加熱しつつ、減圧通路12を通じてモールド10とシリカ粉層11との間を減圧することにより、シリカ粉層11を溶融させてシリカガラス層とする。
また、本実施形態のアーク溶融工程S4は、電力供給開始工程S41、電極位置調整工程S42、モールド位置調整工程S43、電力供給終了工程S44の各小工程を有している。ここで、電力供給開始工程S41においては、上述したように、電力供給手段40から、所定の電力量で炭素電極13への電力供給を開始する。なお、この状態においては、アーク放電は発生しない。
【0058】
電極位置調整工程S42においては、電極位置設定手段20により、上述のような、各々の先端部13aがモールド10側に向かって下方に頂点を有する状態で、各々の先端部13a間を拡開する。これに伴って、炭素電極13の各々の間で放電が開始される。この際、各々の炭素電極13における電力密度が、例えば、40kVA/cm〜1700kVA/cmの範囲となるように、電力供給手段40によって供給電力を制御する。さらに、電極位置設定手段20により、シリカ粉層11の溶融に必要な熱源としての条件を満たすように、電極高さ位置H等のモールド−電極相対位置状態を設定する。
【0059】
なお、本実施形態において説明する電力密度とは、電極において、電極中心軸に直交する電極断面における単位断面積あたりで供給される電力量を意味するものである。具体的には、電極先端から軸方向長さが15〜25mm程度、好ましくは20mmの位置において、電極中心軸に直交する電極の断面積に対する、1本の電極に供給する電力の比として、次式{供給電力量(kVA)/電極断面積(cm)}で表される。また、より具体的には、20mmの位置における電極径寸法としては、φ20〜40mmが好ましく、より好ましくはφ25〜35mm、最も好ましくはφ30mmとして上記の範囲を設定することができる。
【0060】
モールド位置調整工程S43においては、上述した温度検知装置等の他、図示略の入力手段等による設定に基づき、モールド位置設定手段21及び電極位置設定手段20の動作制御を行なう。本実施形態では、上記検知信号又は設定信号等に基づき、位置変位制御手段35により、モールド10と炭素電極13との相対位置状態、モールド10の位置状態、炭素電極13の位置状態のうちの少なくとも一つを変動させることにより、溶融したシリカ粉層11の底部内面11a及び側壁内面11bの全体に対し、均一にアークを照射する。これにより、シリカ粉層11に生じる気泡等を、ファイアポリッシングの作用によって効果的に除去し、内表面特性を良好な状態に制御するとともに、モールド10内におけるシリカガラスの溶融状態を適宜制御しながらシリカガラスルツボ50を製造することが可能となる。また、位置変位制御手段35により、炭素電極13に供給する電力を適宜制御しながら、シリカガラスルツボ50を製造することも可能である。
【0061】
また、モールド位置調整工程S43では、上記温度検知装置等の他、図示略の入力手段等による各種設定に基づき、上述のように、図4中において、水平方向移動(図中矢印Y方向)や、傾斜(図中矢印F方向)するように移動する他、回転(図中矢印R方向)又は旋回(図中矢印S方向)動作させるか、あるいは、矢印X方向で示すように、炭素電極13とモールド10とを垂直相対位置で移動させる制御を行なうことがより好ましい。これにより、モールド10内に供給されたシリカ粉層11を溶融する際、溶融材料中に生じる気泡等をさらに確実に除去することができるので、内表面状態、特に、側壁内面50bを良好な特性に制御しながらシリカガラスルツボ50を製造することが可能となる。
【0062】
次に、電力供給終了工程S44においては、シリカ粉層11の溶融状態が所定の状態となった後に、電力供給手段40による電力供給を停止する。
以上のようなアーク溶融工程S4により、シリカ粉層11を溶融させ、シリカガラス層51に成形する。
【0063】
次に、冷却工程S5においては、電極13への電力供給を停止した後に、シリカガラス層51を冷却し、シリカガラスルツボ50とする。
次に、取り出し工程S6においては、形成されたシリカガラスルツボ半製品52をモールド10から取り出す。
その後、仕上げ工程S7においては、高圧水を外周面噴射するホーニング処理や、ルツボ高さ寸法を所定の状態にするリムカット処理、ルツボ内表面をHF処理する等の洗浄処理を行うことにより、シリカガラスルツボ50を製造することができる。
【0064】
本実施形態では、上述のアーク溶融工程S4において、それぞれが曲部13Aを有する複数の炭素電極13を用いてモールド10内のシリカ粉層11を溶融する。この際、上記構成の炭素電極13でアーク放電を行うことにより、比較的温度が高い先端部13aを側壁内面11bに近づけた状態でアーク放電させることができ、ファイアポリッシングによる気泡除去効率を向上させることができ、内表面特性に優れたシリカガラスルツボ50を製造することが可能となる。またさらに、上記構成の炭素電極13(並びにモールド10)の位置を変位させることで、溶融したシリカ粉層11の内表面全体、特に、側壁内面11bに対して均一にアークを放射することができるので、より確実に、シリカ粉層11に生じる気泡等を除去することが可能となる。
【0065】
ここで、シリカガラスルツボ50の底部内面50aや側壁内面50b等の表面特性を表す指標としては、表面から所定の深さにおける単位面積あたりの気泡含有率を用いることができる。この場合、例えば、まず、透明な内層と不透明な外層の気泡含有率を、比重測定によって求めた後、側壁内面及び底部内面の各表面を光学顕微鏡で撮影し、この光学顕微鏡写真を用いて、透明層における気泡含有率を測定する方法を採用することができる。ここで、本実施形態において説明する気泡含有率とは、シリカガラスルツボの側壁内面及び底部内面における、4mm四方で、深さ方向に0mmから0.5mmに存在する0.05mm以上の気泡の体積の割合をいう。
【0066】
上述のような、本実施形態で得られるシリカガラスルツボ50を用いて、シリコン単結晶の引き上げを行い、シリコン単結晶鋳塊を製造した場合には、結晶欠陥が抑制されて結晶性に優れたシリコン単結晶が得られる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を示して、本発明のシリカガラスルツボの製造装置及びシリカガラスルツボの製造方法について、更に詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0068】
本実施例においては、以下に説明する各実施例及び比較例の条件で、各々、回転モールド法を用いてシリカガラスルツボを製造した。この際、モールドとして口径が868.8mm(34.2インチ)のものを使用し、モールド内表面に堆積するシリカ粉層の平均層厚を28mmとすることにより、口径が812.8mm(32インチ)とされたシリカガラスルツボを製造した。また、シリカ粉層を溶融する際の通電時間を60minとし、同様に、通電開始から60minはシリカ粉層の真空引きを行った。
【0069】
[実施例1〜6] 下記表1に示すような条件とされ、曲部を有する複数の炭素電極を用い、これら炭素電極を、各々の先端部がモールド側に向かって下方に頂点を有するように配置し、モールド内表面に堆積させたシリカ粉層をアーク溶融してガラス化した。この際、アーク放電の条件を下記表1に示す条件とし、実施例1〜6のシリカガラスルツボを製造した。
【0070】
そして、製造したシリカガラスルツボの内表面、即ち、側壁内面及び底部内面における気泡含有率を、以下に説明するような方法によって測定した。
まず、内層(透明層)と外層(不透明層)の気泡含有率を、比重測定によって求めた。
次いで、側壁内面及び底部内面の各表面を光学顕微鏡で撮影し、この光学顕微鏡写真を用いて、透明層における気泡含有率を測定し、下記表2に示した。
ここで、本実施例において説明する気泡含有率とは、シリカガラスルツボの側壁内面及び底部内面における、4mm四方で、深さ方向に0mmから0.5mmに存在する0.05mm以上の気泡の体積の割合をいう。
【0071】
(1)◎(優良)・・・平均径50μm以上の気泡含有率が0.2%未満と、非常に低かった。
(2)○(良)・・・平均径50μm以上の気泡含有率が0.2%以上0.4%未満と、許容範囲内であった。
(3)×(問題あり)・・・平均径50μm以上の気泡含有率が0.4%以上であり、非常に高かった。
【0072】
またさらに、製造したシリカガラスルツボを用いてシリコン単結晶のインゴットの引き上げを行い、引き上げられたインゴットの単結晶収率を調べ、以下に示す基準で判定し、結果を下記表2に示した。
(1)◎(優良)・・・単結晶収率が70%超であり、優れた結晶特性を示した。
(2)○(良)・・・単結晶収率が50〜70%と、許容範囲内であった。
(3)×(問題あり)・・・単結晶収率が50%未満であり、結晶欠陥が多かった。
【0073】
[比較例1〜3] 図8に例示するような、従来の構成の直線状電極を備えた装置を用いて、モールド内に形成されたシリカ粉層に対してアーク放電を行った点を除き、上記実施例1〜6と同様の手順で、比較例1〜3のシリカガラスルツボを製造した。
そして、上記実施例1〜6と同様の手順で、シリカガラスルツボの側壁内面及び底部内面における気泡含有率を測定し、上記同様の基準で判定のうえ、結果を下記表2に示した。
また、上記実施例1〜6と同様、製造したシリカガラスルツボを用いてシリコン単結晶の引き上げを行い、引き上げられたインゴットの単結晶収率を調べ、結果を下記表2に示した。
【0074】
上記各実施例及び比較例におけるシリカガラスルツボの製造条件の一覧を下記表1に示すとともに、各々の評価結果の一覧を下記表2に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
表2に示すように、本発明に係る製造装置並びに製造方法を用いて製造した実施例1〜6のシリカガラスルツボにおいては、底部内面並びに側壁内面の何れにおいても気泡含有率が低く、表面特性の評価が全て「◎」又は「○」の判定であった(図6の顕微鏡写真図も参照)。これにより、本発明の製造装置並びに製造方法によって得られるシリカガラスルツボが、底部内面のみならず、側壁内面の特性に非常に優れていることが確認できた。
そして、上記本発明の製造装置並びに製造方法によって得られるシリカガラスルツボを用いてシリコン単結晶を引き上げた場合には、表2に示すように、単結晶収率が75〜80%であり、単結晶引き上げ特性の評価が全て「◎」の判定であり、結晶欠陥が無く優れた特性を有する単結晶が得られることが確認できた。
【0078】
これに対して、従来の製造装置並びに製造方法を用いて製造した比較例1〜3のシリカガラスルツボは、表2に示すように、底部内面における気泡含有率については、概ね低く良好であるものの、側壁内面における気泡分布が非常に高くなっており、側壁内面の表面特性の評価が全て「×」の判定であった(図7の顕微鏡写真図も参照)。このため、比較例1〜3のシリカガラスルツボは、特に、側壁内面の特性に劣っていることがわかる。
そして、比較例1〜3のシリカガラスルツボを用いてシリコン単結晶を引き上げた場合には、表2に示すように、単結晶収率が10〜41%と低く、単結晶引き上げ特性の評価が全て「×」の判定であり、欠陥を含む結晶となることがわかる。
【0079】
上記実施例の結果により、本発明のシリカガラスルツボの製造装置及び製造方法が、シリカ粉層を溶融しながら、溶融材料に生じる気泡等をファイアポリッシングによって確実に除去することができ、内表面特性、特に側壁内面の特性に優れたシリカガラスルツボを製造できることが明らかである。
そして、このようなシリカガラスルツボを用いてシリコン単結晶の引き上げを行った場合には、結晶欠陥が抑制されて結晶性に優れたシリコン単結晶が得られることが明らかである。
【符号の説明】
【0080】
1…シリカガラスルツボ製造装置
10…モールド
11…シリカ粉層
11a…シリカ粉層の底部内面
11b…シリカ粉層の側壁内面
13…炭素電極
13A…曲部
13a…先端部
13c…基部
40…電力供給手段
35…制御手段
50…シリカガラスルツボ
50a…シリカガラスルツボの底部内面
50b…シリカガラスルツボの側壁内面
J(J1、J2)…軸線
R(R1、R2、R3)…曲率半径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8