特許第5714784号(P5714784)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5714784
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】ソース付き調理済み生パスタの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 1/16 20060101AFI20150416BHJP
【FI】
   A23L1/16 E
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-559026(P2014-559026)
(86)(22)【出願日】2014年9月25日
(86)【国際出願番号】JP2014075361
【審査請求日】2015年1月6日
(31)【優先権主張番号】特願2013-197979(P2013-197979)
(32)【優先日】2013年9月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】日清フーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076532
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 修
(74)【代理人】
【識別番号】100101292
【弁理士】
【氏名又は名称】松嶋 善之
(74)【代理人】
【識別番号】100112818
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 昭久
(72)【発明者】
【氏名】菅 洋平
(72)【発明者】
【氏名】山口 ひとみ
(72)【発明者】
【氏名】味谷 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 武紀
【審査官】 田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−167752(JP,A)
【文献】 特開昭60−94068(JP,A)
【文献】 特開昭61−141855(JP,A)
【文献】 特開平4−262754(JP,A)
【文献】 特表2003−514559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 1/16
CAplus/WPIDS(STN)
Food Science and Tech Abst(FSTA)(ProQuest Dialog)
Foodline Science(ProQuest Dialog)
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料粉に加水して生地を調製し、該生地を35〜100kgf/cm2の圧力で押出成型して生パスタを得、該生パスタを乾式加熱処理することにより、該処理後の該生パスタの質量が該処理前の該生パスタの質量に対して80〜97質量%となるように調整する生パスタ調製工程と、
前記乾式加熱処理後の生パスタを茹で調理又は蒸し調理して調理済み生パスタを得る調理工程とを含む、ソース付き調理済み生パスタの製造方法。
【請求項2】
前記原料粉は、小麦粉を主体とする粉原料と乳化剤とを含有し、該乳化剤の含有量は、該粉原料100質量部に対して0.2〜2質量部である請求項1記載のソース付き調理済み生パスタの製造方法。
【請求項3】
前記生パスタがシート状の形状を有するものである請求項1又は2に記載のソース付き調理済み生パスタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソースと共に保存されるソース付き調理済み生パスタの製造方法に関する。より詳細には、ソースと共に保存されていて、そのままか又は加熱するだけで喫食が可能であり、且つ保存中にソースが生パスタに染み込むことに起因する品質低下を生じ難い、ソース付き調理済み生パスタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生パスタは、不定形状の生地から、麺線状(棒状)、シート状等の種々の形状に製造されるパスタであり、乾燥工程を経ないで製造される。生パスタは、乾燥工程を経ないため水分含量が多く、そのため、乾燥工程を経て製造される乾パスタとは異なる特有の食感、具体的には、軟らかいが弾力のある食感を有している。生パスタは、一般に、手打ちやロール圧延などで麺帯を製造し、これを麺線に切り出す方法、あるいはダイのような細孔から押出しなどの方法で製造される。また、生パスタは通常、製造時に乾燥工程が不要であるため、及び生パスタに特有の軟らかい食感を付与するため、パスタ生地に高い圧力をかけずに製造される。
【0003】
しかし、生パスタは、水分含量が多いため、茹で調理後の作業の際、調理済みの生パスタ同士が付着してしまい、作業性や喫食性を著しく悪くするという欠点を有していた。また、生パスタをソースのような流動性が高い食品と接触した状態で保存すると、水分等が生パスタに移行し、弾力が失われて軟らかすぎる食感となってしまっていた。特に、冷凍保存する場合は、保存期間が一般的に冷蔵保存に比較して長くなり、さらに凍結と融解による品質劣化があるため、この傾向が顕著であった。
【0004】
ラザニアは、シート状の形状を有するパスタの1種又はこれを用いる食品の名称である。ラザニアを用いた食品としては、底の深い容器の底にミートソースを充填し、その上に、生又は乾燥したラザニアを茹でたものを敷き、更にミートソースとラザニアとを順次積層し、最上層にホワイトソースをかけて焼成した形態のものが広く知られている。ラザニアはシート状の形状を有しており、これを層状に配置するため、生パスタを用いてラザニアを製造すると、シート同士が密着して張りついてしまい、前記の生パスタの欠点の影響が非常に大きく、喫食の際にも食べづらく、また生パスタらしい食感が極めて低下していることがわかった。
【0005】
パスタの保存中における品質劣化を防止する方法として、特許文献1には、乾パスタを芯が残るように茹でた後、これを高温の油に浸して芯がなくなるまで揚げ調理してから保存する調理パスタが記載されている。また特許文献2には、湯切りしたパスタの表面を、澱粉、油等を含む水分移動防止層で被覆し、該水分移動防止層の外面をソース層で被覆した状態で凍結することによって、該パスタによる該ソース層の水分吸収が抑制され、良好な食感のパスタが得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−192561号公報
【特許文献2】国際公開第01/008508号
【発明の概要】
【0007】
本発明は、原料粉に加水して生地を調製し、該生地を35〜100kgf/cm2の圧力で押出成型して生パスタを得、該生パスタを乾式加熱処理することにより、該処理後の該生パスタの質量が該処理前の該生パスタの質量に対して80〜97質量%となるように調整する生パスタ調製工程と、前記乾式加熱処理後の生パスタを茹で調理又は蒸し調理して調理済み生パスタを得る調理工程とを含む、ソース付き調理済み生パスタの製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
特許文献1及び2に記載の技術は、油や澱粉等でパスタの表面を被覆するため、好ましくない味や食感を有するものであった。
【0009】
本発明は、製造時の作業性及び喫食性に優れ、且つ食感の良好なソース付き調理済み生パスタの製造方法に関する。
【0010】
本発明者は、前記課題を解決すべく種々研究を重ねた結果、生地を特定圧で押出して製造した生パスタの表面を乾式加熱処理することにより、その後の生パスタの調理工程(茹で調理)において、生パスタ同士が付着しないよう細心の注意をしながら製造する必要がなくなり、非常に良好な作業性を有することを知見し、更に生パスタをソースと共に保存した場合のソースの影響を抑制することができ、茹で上げた直後のような良好な外観と、弾力のある良好な食感とを有する生パスタが得られることを知見し、本発明を完成した。
【0011】
本発明のソース付き調理済み生パスタの製造方法(以下、単に、製造方法ともいう)は、生地の調製、該生地の押出成型による生パスタの調製及び該生パスタの乾式加熱処理を含む生パスタ調製工程と、該工程で得られた生パスタを茹で調理又は蒸し調理して調理済み生パスタを得る調理工程とを含む。本発明の製造方法は、通常更に、調理済み生パスタにソースを付着させるソース付着工程と、ソースを付着させた調理済み生パスタを冷蔵又は冷凍する工程とを含む。
【0012】
本発明に係る生パスタ調製工程では、原料粉に加水して生地を調製する。この原料粉としては、小麦粉を主体とする粉原料が好ましく用いられる。「小麦粉を主体とする」とは、粉原料における小麦粉の含有量が60質量%以上であることを意味し、小麦粉の含有量は100質量%でもよい。粉原料に用いる小麦粉としては、パスタ類に用い得るものであれば特に制限はなく、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム小麦粉及びデュラムセモリナが挙げられる。これらの小麦粉は、単独で用いてもよいが、二種以上を混合して用いてもよい。
【0013】
本発明で用いる粉原料には、小麦粉に加えて、パスタ類の製造に通常用いられるその他の原料、例えば、澱粉類、糖類、卵、食塩、油脂、増粘剤等を配合することができる。これらその他の原料の配合量は、小麦粉100質量部に対して0〜40質量部であり得る。
【0014】
本発明で用いる原料粉には、小麦粉を主体とする粉原料に加えて更に、乳化剤を含有させることができる。生地に乳化剤を含有させておくと、パスタ同士の付着や保存中の品質低下をより一層効果的に抑制することが可能となる。乳化剤としては、食用であれば特に制限なく、固形や液体のものが使用でき、例えばグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、スフィンゴミエリン等のリン脂質、プロピレングリコール脂肪酸エステル、あるいはこれらの分解物等が挙げられる。これらのうちショ糖脂肪酸エステル、レシチンが好ましい。原料粉における乳化剤の含有量は、該原料粉中の粉原料100質量部に対して固形物換算で、好ましくは0.2〜2質量部、更に好ましくは0.5〜1.5質量部、より好ましくは0.8〜1.2質量部である。
【0015】
本発明に係る生パスタ調製工程において、生地を調製する際に原料粉に加えられる水(練り水)としては、水、食塩水、かん水など、通常の製麺に用いられる水を特に制限なく使用することができる。練り水の添加量は、得られた生地に後述のような高い押出し圧力が加わることを考慮すると、原料粉100質量部に対して、好ましくは15〜35質量部、更に好ましくは18〜35質量部である。生地の調製は常法に従って実施可能であり、例えば、原料粉に所定量の練り水を加えて混捏することによって生地が得られる。
【0016】
本発明に係る生パスタ調製工程では、調製した生地を、好ましくは35〜100kgf/cm2、更に好ましくは40〜80kgf/cm2の圧力(押出圧力)で直接に押出成型して生パスタを得る。ここでいう「押出成型」には、成型後の生地の形状の制限は特になく、例えば、生地を麺帯のようなシート状(平板状)に押出す形態、及び麺線のような棒状に押出す形態の何れも含まれる。生地を前記特定範囲内の圧力で押出成型することにより、圧密化した構造を有する生パスタが得られ、良好な食感の実現に繋がる。生地の押出成型時の圧力が前記特定範囲外では、食感の良好な生パスタは得られない。また、生地の押出成型の際の減圧度は、好ましくは−200mmHg〜真空、更に好ましくは−600mmHg〜真空であり得る。本発明に係る生パスタ調製工程における押出成型は、公知の押出成型機(製麺機)を用いて実施することができる。
【0017】
本発明において、生パスタの形状は特に限定されず、押出した麺帯又は麺線によって製造することができる形状を採用できる。例えば、スパゲティ等のロングパスタ形状、マカロニ、ペンネ等のショートパスタ形状、ラザニア等のシート形状を挙げることができる。
【0018】
本発明に係る生パスタ調製工程では、生地の押出成型により得られた生パスタを乾式加熱処理に付し、該処理後の生パスタの質量が該処理前の生パスタの質量に対して80〜97質量%、好ましくは90〜95質量%となるように調整する。生パスタに斯かる乾式加熱処理を施すことにより、その後の生パスタの茹で調理において生パスタ同士が付着し難く、製造時の作業性が向上すると共に、喫食性も向上し、喫食する際に生パスタ同士が付着し難く、更に弾力のある良好な食感が得られるようになる。
【0019】
本発明に係る乾式加熱処理は、特定の加熱方法を用い特定の加熱温度で生パスタを加熱してこれを変質させる処理であり、生パスタの水分を減少させる単なる乾燥処理(例えば、後述する比較例4〜9の如き、恒温槽を用いた乾燥処理)とは異なる。本発明に係る乾式加熱処理が施された生パスタは、主として、表面を含む表層部分のみが加熱変質し、該表層部分よりも内方に位置する部分は、該表層部分に比して加熱による影響が少ないと推察される。そして、このような生パスタの表層部分の構造変化が、製造時の作業性や喫食性の向上、良好な食感に繋がっていると推察される。本発明に係る乾式加熱処理の好ましい一実施形態として、加熱媒体として金属や石等の固形の接触加熱媒体を用いる方法や、炎、赤外線や遠赤外線等の非接触加熱媒体を用いる方法が挙げられる。具体的には、オーブン加熱、ジェットオーブン加熱、ヒーター加熱、焼加熱等の加熱方法を用い、品温140℃以上、好ましくは160〜260℃、更に好ましくは170〜240℃で生パスタを焼成する乾式加熱処理が挙げられる。ここでいう「焼成」は、生パスタに水分を加えずに加熱する熱処理を意味する。但し、本発明の乾式加熱処理には、生パスタの品温が140℃未満となるような温度の対流空気や気流による所謂乾燥処理は含まれない。生パスタの乾式加熱処理は、該処理後の生パスタの質量が該処理前の生パスタの質量に対して80〜97質量%となるまで続けられる。
【0020】
本発明に係る調理工程では、前述した生パスタ調製工程で得られた乾式加熱処理後の生パスタを、茹で調理又は蒸し調理して調理済み生パスタを得る。茹で調理は、生パスタの通常の茹で調理を採用すればよく、一般的には、沸騰水中で2〜8分間茹で調理する。好ましくは、茹で歩留まりが190〜250%程度、特に200〜220%程度になるように生パスタを茹で調理すると、茹で調理後の生パスタをソースと共に保管した際に食感が大きく低下する不都合を効果的に防止できる。茹で調理した調理済み生パスタは、必要に応じて冷却、湯切後、ソースと共に冷蔵又は冷凍される。また、蒸し調理は、この種の麺を蒸し調理する際に採用される方法を特に制限なく用いることができ、一般的には、蒸し器を用いて生パスタを5〜15分間蒸せばよい。
【0021】
尚、本発明の製造方法では、通常、調理工程で得られた調理済み生パスタに次工程(ソース付着工程)でソースを付着させるが、このようなソース付着工程を実施せず、その代わりに、調理工程における生パスタの茹で調理において、ソース中で乾式加熱処理後の生パスタを茹でることにより、乾式加熱処理後の生パスタへのソースの付着を実施することもできる。前述した生地の押出成型及び乾式加熱処理を経て得られた生パスタは、ソースやソース中の水分を過剰に吸って軟化しにくいため、このようにソースを用いて茹で調理することが可能であり、斯かる茹で調理の採用によってソース付着工程を省略でき、製造工程の簡略化を図ることが可能となる。但し、前述した生パスタの茹で歩留まりや、後述する生パスタとソースとの量関係を適切に調整する観点からは、ソースを用いた茹で調理は採用せずに、生パスタはソースと別途茹で調理することが好ましい。
【0022】
本発明に係るソース付着工程では、調理工程で得られた調理済み生パスタにソースを付着させる。ソースの付着形態は、通常、目的とするパスタ料理の喫食時の形態と同じにされる。例えば生パスタがシート状の形状を有するものであるラザニアの場合は、通常の料理としてのラザニアの形態と同様に、シート状の調理済み生パスタとソースの塗布層とを交互に積層させる。調理済み生パスタとこれに付着させるソースとの分量は、調理する料理の種類(生パスタの種類)によって、通常用いられる分量を採用できる。例えば、スパゲティ(ロングパスタ)の場合、調理済み生パスタ100質量部に対して、20〜200質量部程度の分量のソースが用いられる。グラタン(マカロニ、ショートパスタ)の場合、調理済み生パスタ100質量部に対して、170〜330質量部程度の分量のソースが用いられる。ラザニア(シート状パスタ)の場合、調理済み生パスタ100質量部に対して、100〜600質量部程度の分量のソースが用いられる。スープパスタ(マカロニ、ショートパスタ)の場合、調理済み生パスタ100質量部に対して、450〜900質量部程度の分量のソースが用いられる。本発明の製造方法は、スープパスタやグラタンのような、比較的ソース(スープ)の比率が高いパスタ料理にも適用できる。
【0023】
調理済み生パスタに付着させるソースとしては、通常のパスタ用ソースのいずれを用いてもよく、比較的粘度の高いソースでもよく、スープパスタに用いられるソース(スープ)の如き比較的粘度の低いソースでもよい。例えば、クリームソース、ベシャメルソース、カルボナーラソース等のホワイト系ソース、ミートソース、ナポリタンソース、アラビアータソース等のトマト系ソース、ブラウン系ソース、オイル系ソース等、コーンスープ、ミネストローネ等のスープ類等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
本発明の製造方法では、前記ソース付着工程後(前記調理工程における生パスタの茹で調理においてソース中で乾式加熱処理後の生パスタを茹でた場合は、該調理工程後)、ソース付き調理済み生パスタを冷蔵又は冷凍することができる。本発明のソース付き調理済み生パスタは、保存中に生パスタ同士が付着したり、ソースが染み込む等の影響を抑制することができるため、再加熱して喫食する際に良好な外観と食感を有する。この生パスタの冷蔵又は冷凍は、この種の冷蔵又は冷凍パスタの製造に通常用いられる冷蔵法又は冷凍法を適宜利用することができる。調理済み生パスタを冷蔵する場合、通常の冷蔵方法、例えば、チルド保存温度(10℃以下)に冷却する方法等を採用できる。尚、冷却後の温度は10℃以下であればよいが、より具体的には、10〜−5℃程度であることが望ましい。また、冷却速度も特に限定されないが、できるだけ速やかに行うことが望ましく、例えば、0.5〜20℃/分程度で冷却することが望ましい。一方、調理済み生パスタを冷凍する場合、急速冷凍及び緩慢冷凍の何れも採用できるが、特に急速冷凍が好ましい。ソース付き調理済み生パスタを一旦急速冷凍で凍結させた後は、通常の冷凍保存条件で該生パスタを保存すればよい。
【0025】
尚、本発明の製造方法では、例えば目的とするパスタ料理がグラタンやラザニアの場合など、該パスタ料理の種類(生パスタの種類)によっては必要に応じ、ソース付き調理済み生パスタの冷蔵又は冷凍に先立って、風味付けや焦げ目つけのために、ソース付き調理済み生パスタの焼成を行ってもよい。この焼成は、温度180℃〜250℃、特に200℃〜230℃で行うことが好ましい。焼成時間は、この範囲の焼成温度において5分〜20分、特に7分〜15分であることが好ましい。焼成には、例えばオーブンを用いることができる。
【0026】
本発明の製造方法の実施により得られたソース付き調理済み生パスタは、通常、冷蔵又は冷凍保存されており、これを喫食する際には、加熱処理することが好ましい。喫食する際の加熱処理は、オーブン、電子レンジ、スチームオーブン等を用いて常法に従って実施することができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、斯かる実施例に制限されない。
【0028】
〔実施例1〕
デュラム小麦粉(日清製粉;デュエリオ)100質量部に対して水34質量部を混合し、混練して生地を調製した。調製した生地を、製麺機を用いて、−600mmHgの減圧条件下、60kgf/cm2の押出圧力で厚さ1.5mmのシート状に押出し、90mm×90mmの平面視四角形形状に切り出して、シート状の形状を有する生パスタ(ラザニアシート)を得た。このラザニアシートに対し、ジェットオーブン(リンカーン製)を用い、温度220℃で焼成することにより、乾式加熱処理を行った。この乾式加熱処理は、該処理前の生パスタの質量に対する該処理後の生パスタの質量の割合(%)〔={(乾式加熱処理後の生パスタの質量/乾式加熱処理前の生パスタの質量)}×100〕が、下記表1に示す数値となるまで行った。乾式加熱処理後のラザニアシートを、茹で歩留まりが205%になるように沸騰水中で茹で調理して、調理済みラザニアシート(調理済み生パスタ)を得た。
【0029】
そして、調理済みラザニアシートを用い、これにソースを付着させて冷凍し、冷凍調理済みラザニア(ソース付き調理済み生パスタ)を製造した。より具体的には、グラタン容器を用意し、該容器の底にホワイトソース(日清フーズ製)を充填し、このホワイトソースの上に調理済みラザニアシートを1枚敷き、該ラザニアシートの上面にミートソース(日清フーズ製)を塗り付け、更に、このミートソースの上に別の調理済みラザニアシートを1枚敷き、該別の調理済みラザニアシートの上面にホワイトソースを塗り付けて、調理済みラザニアを製造した。ホワイトソースの使用量は、全ラザニアシートに対して180質量部とし、ミートソースの使用量は、全ラザニアシートに対して80質量部とした。こうして得られた調理済みラザニアを−35℃で急速冷凍し、目的とする冷凍調理済みラザニアを製造した。
【0030】
〔実施例2〜5及び比較例1〜2〕
乾式加熱処理において、該処理前の生パスタの質量に対する該処理後の生パスタの質量の割合を適宜変更した以外は、実施例1と同様にして冷凍調理済みラザニアを製造した。
【0031】
〔比較例3〕
乾式加熱処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして冷凍調理済みラザニアを製造した。
【0032】
〔比較例4〜9〕
乾式加熱処理を行わず、その代わりにラザニアシートに、恒温槽(エスペック製)を用い温度70℃で乾燥処理(非乾式加熱処理)を施した。この乾燥処理は、該処理前の生パスタ(ラザニアシート)の質量に対する該処理後の生パスタの質量の割合(%)〔={(乾燥処理後の生パスタの質量/乾燥処理前の生パスタの質量)}×100〕が、下記表1に示す数値となるまで行った。以上の点以外は、実施例1と同様にして冷凍調理済みラザニアを製造した。
【0033】
〔試験例1〕
各実施例及び比較例の製造中間体であるラザニアシート(生パスタ)について、茹で調理したときの該ラザニアシート同士の付着率を次のようにして評価した。評価対象のラザニアシートを100枚用意し、これらを茹で歩留まりが205%になるように、沸騰水中で茹で調理した後、複数枚のラザニアシートが指で容易に剥がれない程度の付着力で互いに付着している、シート重合体を採取し、該シート重合体におけるラザニアシート同士が付着している部分の割合(1枚のラザニアシートの付着割合)を、シートの面積を1として0.1単位で求め、下記式により付着率を算出した。その結果を下記表1に示す。付着率の数値が小さいほど、茹で調理の際にパスタ同士が付着し難く、製造時の作業性に優れ、高評価となる。
付着率(%)=〔{(シート重合体における1枚のラザニアシートの付着割合)+(シート重合体における他の1枚のラザニアシートの付着割合)+(シート重合体における更に他の1枚のラザニアシートの付着割合)+・・・}/茹で調理したラザニアシートの総数(100)〕×100
【0034】
〔試験例2〕
各実施例及び比較例の製造結果物である冷凍調理済みラザニア(ソース付き調理済み生パスタ)を−18℃で1週間保存した後、電子レンジで解凍(600W、4分30秒)し、スプーンでラザニアシート同士が付着していない部分を取り分け、10名のパネラーに食感を下記評価基準により評価してもらった。その結果(10名のパネラーの平均点)を下記表1に示す。
(食感の評価基準)
5点:軟らかさと弾力が十分にある、非常に良好な食感。
4点:軟らかさと弾力があり、良好な食感。
3点:比較的弾力があり、問題ない食感。
2点:やや弾力に欠けるか又はやや硬さがあり、やや不良な食感。
1点:弾力に欠けるか又は硬さがあり、不良な食感。
【0035】
【表1】
【0036】
表1から明らかなように、比較例1は、乾式加熱処理において該処理前の生パスタの質量に対する該処理後の生パスタの質量の割合が前記特定範囲の下限値(80質量%)未満であるため、各実施例に比して食感に劣る結果となり、また、比較例2は、該割合が該特定範囲の上限値(97質量%)を超えているため、各実施例に比して付着率に劣る結果となった。また比較例3は、茹で調理前の生パスタに何等の処理も施さなかったため、また比較例4〜9は、乾式加熱処理ではない単なる乾燥処理を行ったため、何れも各実施例に比して少なくとも付着率に劣る結果となった。上記試験例2は、各ラザニアシート同士が付着していない部分を喫食して評価したため、このような結果となったが、付着部分が多いラザニア食品の全体としての食感は大きく劣るものであった。以上のことから、付着率を低下させて製造時の作業性を向上させると共に、生パスタであるラザニアの食感を向上させるためには、茹で調理前の生パスタを乾式加熱処理することにより、該処理後の該生パスタの質量が該処理前の該生パスタの質量に対して80〜97質量%となるように調整することが有効であることがわかる。
【0037】
〔実施例6〜9及び比較例10〜11〕
生地の押出圧力を適宜変更した以外は、実施例4と同様にして冷凍調理済みラザニアを製造した。そして、各実施例及び比較例について、前記試験例1に従って付着率を評価すると共に、前記試験例2に従って食感を評価した。それらの結果を下記表2に示す。尚、下記表2には、各評価項目に対する押出圧力の影響を容易に把握する観点から、実施例4の結果を再掲している。
【0038】
【表2】
【0039】
表2から明らかなように、比較例10及び11は、生パスタを製造する際の生地の押出圧力が前記特定範囲(35〜100kgf/cm2)から外れているため、各実施例に比して特に食感に劣る結果となった。以上のことから、ラザニアの食感を向上させるためには、茹で調理前の生パスタを乾式加熱処理するだけでは足りず、更に、生地の押出圧力を前記特定範囲に設定することが必要であることがわかる。
【0040】
〔実施例10〜15〕
原料粉として、小麦粉(粉原料)加えて更に乳化剤を含有させたものを用いた。即ち、デュラム小麦粉(日清製粉;デュエリオ)100質量部に対して、乳化剤としてショ糖脂肪酸エステル(三菱化学フーズ;リョートシュガーエステルS−1170>を所定量配合したものを原料粉として用いた以外は、実施例4と同様にして冷凍調理済みラザニアを製造した。そして、各実施例及び比較例について、前記試験例1に従って付着率を評価すると共に、前記試験例2に従って食感を評価した。それらの結果を下記表3に示す。尚、下記表2には、各評価項目に対する乳化剤の影響を容易に把握する観点から、実施例4の結果を再掲している。
【0041】
【表3】
【0042】
表3から明らかなように、原料粉における乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル)の含有量を小麦粉(粉原料)100質量部に対して0.2質量部以上とすることにより(実施例11〜15)、付着率が劇的に低減し、製造時の作業性が飛躍的に向上することがわかる。しかし、原料粉における乳化剤の含有量が小麦粉(粉原料)100質量部に対して2質量部を超えると、ラザニアの食感低下が見られる(実施例15)。以上のことから、付着率低下と食感向上との両立を高いレベルで実現するには、原料粉に乳化剤を含有させ、且つその含有量を小麦粉(粉原料)100質量部に対して0.2〜2質量部程度することが好ましいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のソース付き調理済み生パスタの製造方法によれば、製造時の作業性及び喫食性に優れ、且つ食感の良好なソース付き調理済み生パスタが得られる。
【要約】
本発明のソース付き調理済み生パスタの製造方法は、原料粉に加水して生地を調製し、該生地を35〜100kgf/cm2の圧力で押出成型して生パスタを得、該生パスタを乾式加熱処理することにより、該処理後の該生パスタの質量が該処理前の該生パスタの質量に対して80〜97質量%となるように調整する生パスタ調製工程と、前記乾式加熱処理後の生パスタを茹で調理又は蒸し調理して調理済み生パスタを得る調理工程とを含む。前記原料粉は、好ましくは、小麦粉を主体とする粉原料と乳化剤とを含有し、該乳化剤の含有量は、該粉原料100質量部に対して0.2〜2質量部である。