特許第5715558号(P5715558)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5715558
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】陰イオン交換膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/22 20060101AFI20150416BHJP
   B01J 47/12 20060101ALI20150416BHJP
   B01J 41/14 20060101ALI20150416BHJP
【FI】
   C08J5/22 104
   B01J47/12
   B01J41/14
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2011-506094(P2011-506094)
(86)(22)【出願日】2010年3月24日
(86)【国際出願番号】JP2010055110
(87)【国際公開番号】WO2010110333
(87)【国際公開日】20100930
【審査請求日】2012年9月18日
(31)【優先権主張番号】特願2009-74805(P2009-74805)
(32)【優先日】2009年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2009-144543(P2009-144543)
(32)【優先日】2009年6月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100113181
【弁理士】
【氏名又は名称】中務 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】直原 敦
(72)【発明者】
【氏名】小林 謙一
(72)【発明者】
【氏名】藤原 直樹
【審査官】 深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/090774(WO,A1)
【文献】 特開昭62−252432(JP,A)
【文献】 特開平07−204523(JP,A)
【文献】 特開平01−316324(JP,A)
【文献】 特開2003−082130(JP,A)
【文献】 特開2006−291161(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00− 5/02, 5/12− 5/22
B01J 39/00−49/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルアルコール系重合体ブロック(A)及びカチオン性基を有する重合体ブロック(B)を構成成分とするブロック共重合体(P)であり、架橋処理の施されたものを主成分として含有する陰イオン交換膜であって、
前記重合体ブロック(B)が、下記一般式(3)を繰り返し単位とすることを特徴とする陰イオン交換膜。
【化1】
(式中、R2、R3、R4はそれぞれ独立に、水素原子、又は、置換基を有していてもよく、また、連結して飽和若しくは不飽和環状構造を形成していてもよい、炭素数1〜18のアルキル基、アリール基若しくはアラルキル基を表わす。Rは水素原子又はメチル基を表わす。Xは陰イオンを表す。)
【請求項2】
イオン交換容量が、0.30meq/g以上である請求項1記載の陰イオン交換膜。
【請求項3】
前記ブロック共重合体(P)におけるビニルアルコール系重合体ブロック(A)及びカチオン性基を有する重合体ブロック(B)の繰り返し単位数の比が99:1〜50:50の範囲である、請求項1又は2記載の陰イオン交換膜。
【請求項4】
ビニルアルコール系重合体ブロック(A)及びカチオン性基を有する重合体ブロック(B)を構成成分とするブロック共重合体(P)と、重合度200〜8000、けん化度80モル%以上のビニルアルコール系重合体(Q)との混合物であり、ブロック共重合体(P)とビニルアルコール系重合体(Q)の質量比(P/Q)が3/97以上であり、架橋処理の施されたものを主成分として含有する陰イオン交換膜であって、
前記重合体ブロック(B)が、下記一般式(3)を繰り返し単位とすることを特徴とする陰イオン交換膜。
【化2】
(式中、R2、R3、R4はそれぞれ独立に、水素原子、又は、置換基を有していてもよく、また、連結して飽和若しくは不飽和環状構造を形成していてもよい、炭素数1〜18のアルキル基、アリール基若しくはアラルキル基を表わす。Rは水素原子又はメチル基を表わす。Xは陰イオンを表す。)
【請求項5】
イオン交換容量が、0.30meq/g以上である請求項4記載の陰イオン交換膜。
【請求項6】
前記ブロック共重合体(P)におけるビニルアルコール系重合体ブロック(A)及びカチオン性基を有する重合体ブロック(B)の繰り返し単位数の比が99:1〜50:50の範囲である、請求項4又は5記載の陰イオン交換膜。
【請求項7】
ブロック共重合体(P)の溶液から得られる皮膜を、100℃以上の温度で熱処理した後、水、アルコール又はそれらの混合溶媒中で、酸性条件下においてジアルデヒド化合物による架橋処理を行い、ついで水洗処理することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【請求項8】
ブロック共重合体(P)とビニルアルコール系重合体(Q)との混合物の溶液から得られる皮膜を、100℃以上の温度で熱処理した後、水、アルコール又はそれらの混合溶媒中で、酸性条件下においてジアルデヒド化合物による架橋処理を行い、ついで水洗処理することを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の陰イオン交換膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニルアルコール系重合体ブロック(A)及びカチオン性基を有する重合体ブロック(B)を構成成分とし、かつ架橋処理の施されたものを主成分として含有する陰イオン交換膜に関するものである。より詳細には、膜抵抗が小さく、かつ膜の有機汚染が少ない電気透析に有用な陰イオン交換膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオン交換膜は海水の濃縮、飲料水用の地下鹹水の脱塩や硝酸性窒素の除去、食品製造工程における塩分除去や医薬品の有効成分の濃縮など、現在、多種多様な用途に、イオンの分離膜として電気透析法、拡散透析法などで使用されている。これらに使用される有用なイオン交換膜は、主にスチレン−ジビニルベンゼン系の均質イオン交換膜であり、一価と二価のイオン選択、特定イオンの選択性アップ、低膜抵抗化など種々の技術が開発され、工業上有用な分離ができるまでに至っている。
【0003】
一般に、上記の食品、医薬品、農薬などの分野における有機物の合成工程では、塩類などを副生する場合が多い。かかる有機物に含まれる塩類は、電気透析によって分離される場合が多い。電気透析による塩の分離は、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を交互に配列し、直流電流を流すことにより、陽イオン交換膜の陰極側に陽イオンを、陰イオン交換膜の陽極側に陰イオンを排除し、従って陰極側の陽イオン交換膜と、陽極側の陰イオン交換膜で挟まれて形成される室に濃縮される電解質液から塩を取り除くことで脱塩が実現される。電気透析により処理液を脱塩する場合、被処理液中の有機汚染物質、特に荷電を有する巨大分子(以下、巨大有機イオンという)がイオン交換膜に付着して膜の性能を低下させる、いわゆる、膜の有機汚染という問題が生じる。
【0004】
特に陰イオン交換膜が有機汚染されやすく、透析サイクルの進行と共に膜性能が徐々に劣化し、汚染が著しい場合には比較的短期間で著しく膜が膨潤したり、破損したりするケースがある。
【0005】
従来、有機汚染を抑制する陰イオン交換膜として、巨大有機イオンの膜内への浸入を防止するようにした陰イオン交換膜が知られている。これは、膜表面に中性、両性あるいはイオン交換基とは反対荷電の薄層を形成したものである。この陰イオン交換膜は、膜構造が緻密なもの程、また、巨大有機イオンの分子量が大きい程、その効果は顕著である。例えば、陰イオン交換基を有する樹脂膜の表層部に反対荷電のスルホン酸基を導入し陰イオン性の巨大有機イオンの膜内への浸入を抑制した陰イオン交換膜がある(特許文献1)。また、陰イオン交換基のアニオン対の構造を工夫することで有機汚染性を改善した陰イオン交換膜がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭51−40556号公報
【特許文献2】特開平3−146525号公報
【特許文献3】特開昭59−189113号公報
【特許文献4】特開昭59−187003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記巨大有機イオンの膜内への浸入を防止するようにした陰イオン交換膜は、ある程度の耐有機汚染性を発揮することができるが、前記樹脂膜の表層部に設ける反対荷電層の形成により膜抵抗が著しく増大するという欠点を有していた。また、陰イオン交換基のアニオン対の構造を工夫した陰イオン交換膜では耐有機汚染性が満足するものではなかった。
【0008】
従って、本発明の目的は、有機汚染を抑制し、かつ、膜抵抗やイオン選択性などの基礎特性に優れ、電気透析にも有用なイオン交換膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた。その結果、ビニルアルコール系重合体ブロック(A)及びカチオン性基を有する重合体ブロック(B)を構成成分とするブロック共重合体(P)であり、架橋処理の施されたものを主成分として含有する陰イオン交換膜であって、上記重合体ブロック(B)が、下記一般式(3)を繰り返し単位とすることを特徴とする陰イオン交換膜は、膜抵抗やイオン輸率などの基礎特性を低下させることなく、優れた耐有機汚染性を発揮する電気透析用として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
【化2】
(式中、2、R3、R4はそれぞれ独立に、水素原子、又は、置換基を有していてもよく、また、連結して飽和若しくは不飽和環状構造を形成していてもよい、炭素数1〜18のアルキル基、アリール基若しくはアラルキル基を表わす。は水素原子又はメチル基を表わす。は陰イオンを表す。
【0015】
また、本発明の陰イオン交換は、イオン交換容量が、0.30meq/g以上であることが好ましい。また、ブロック共重合体(P)におけるビニルアルコール系重合体ブロック(A)及びカチオン性基を有する重合体ブロック(B)の繰り返し単位数の比が99:1〜50:50の範囲であることも好ましい。
【0016】
また、ビニルアルコール系重合体ブロック(A)及びカチオン性基を有する重合体ブロック(B)を構成成分とするブロック共重合体(P)と、重合度200〜8000、けん化度80モル%以上のビニルアルコール系重合体(Q)との混合物であり、ブロック共重合体(P)とビニルアルコール系重合体(Q)の質量比(P/Q)が3/97以上であり、架橋処理の施されたものを主成分として含有する陰イオン交換膜であって、上記重合体ブロック(B)が、上記一般式(3)を繰り返し単位とすることを特徴とする陰イオン交換膜とすることによっても、上記課題を解決することができる。この場合においても、イオン交換容量が、0.30meq/g以上であること好ましい。また、ブロック共重合体(P)におけるビニルアルコール系重合体ブロック(A)及びカチオン性基を有する重合体ブロック(B)の繰り返し単位数の比が99:1〜50:50の範囲であることも好ましい。
【0017】
また、本発明の製造方法は、ブロック共重合体(P)の溶液から得られる皮膜又はブロック共重合体(P)とビニルアルコール系重合体(Q)との混合物の溶液から得られる皮膜を、100℃以上の温度で熱処理した後、水、アルコール又はそれらの混合溶媒中で、酸性条件下においてジアルデヒド化合物による架橋処理を行い、ついで水洗処理することにより、上記本発明の陰イオン交換膜を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の陰イオン交換膜は、高い親水性を有することで耐有機汚染性が高く、膜抵抗が小さい。更にブロック共重合体であることで湿度による膜の膨潤を抑制できるため、膜強度も高く、長期間にわたって効率よく、安定に電気透析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の陰イオン交換膜の動的輸率の測定に用いることができる装置の模式図である。
図2】本発明の陰イオン交換膜の膜抵抗の測定に用いることができる装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の陰イオン交換膜は、ビニルアルコール系重合体ブロック(A)及びカチオン性基を有する重合体ブロック(B)を構成成分とするブロック共重合体(P)であって、架橋処理の施されたものを主成分とする陰イオン交換層を設けたものである。
【0021】
本発明の陰イオン交換膜の特徴は、ビニルアルコール系重合体ブロック(A)と、カチオン性基を有する重合体ブロック(B)を構成成分とするブロック共重合体(P)を主成分とすることにある。陰イオン交換膜の最も重要な性質は、陰イオン伝導性(陰イオンの動きやすさ)である。ここでは、膜中の陰イオンが通る経路(イオンチャンネル)を如何に形成するかが重要である。本発明のブロック共重合体は、ビニルアルコール系重合体ブロック(A)と、カチオン性基を有する重合体ブロック(B)とから構成され、陰イオン交換膜全体の強度、形状保持、及び耐有機汚染性を担うビニルアルコール系重合体ブロック(A)と陰イオン伝導性を発現する重合体ブロック(B)とを役割分担させることで、イオン伝導性と、膜強度や寸法安定性、耐有機汚染性とを両立することに成功した。さらに、単純な混合物と異なり、ビニルアルコール系重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)とのミクロ相分離構造を容易に制御し得るため、イオンチャンネルとして機能する重合体ブロック(B)の連続相の径や構造を容易に制御し得る利点がある。
【0022】
ブロック共重合体(P)を構成する重合体ブロックの数には特に制限はないが、ビニルアルコール系重合体ブロック(A)及び重合体ブロック(B)のジブロック共重合体であれば、各ブロックの機能が効率的に発揮できる。
【0023】
また、ビニルアルコール系重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)の繰り返し単位数の比は、99:1〜50:50の範囲であることが好ましく、98:2〜60:40の範囲であることがより好ましく、95:5〜70:30の範囲であることがさらに好ましい。
【0024】
ここで、ブロック共重合体(P)における重合体ブロック(B)の繰り返し単位としては特に限定されないが、下記一般式(2)〜(7)で表わされる繰り返し単位が挙げられる。
【0025】
【化5】
(式中、R1は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R2、R3、R4はそれぞれ独立に、水素原子、又は、置換基を有していてもよく、また、連結して飽和若しくは不飽和環状構造を形成していてもよい、炭素数1〜18のアルキル基、アリール基若しくはアラルキル基を表わす。Zは−O−又はNH−を表し、Yは複素原子を介していてもよい総炭素数1〜8の二価の連結基を表す。Xは陰イオンを表す。)
【0026】
【化6】
(式中、R5は水素原子又はメチル基を表わす。R2、R3、R4、Xは一般式(2)と同義である。)
【0027】
【化7】
(式中、R2、R3、Xは一般式(2)と同義である。)
【0028】
【化8】
(式中、nは0又は1を表わし、R2、R3、R4、Xは一般式(2)と同義である。)
【0029】
本発明の陰イオン交換膜の特徴は、ビニルアルコール系重合体ブロック(A)と、陰イオン交換性基を有する重合体ブロック(B)を構成成分とするブロック共重合体(P)を主成分とすることにある。陰イオン交換膜の重要な特性は、膜中の荷電密度であり、例えば、電気透析に使用する場合、荷電密度がイオンの輸率に大きく影響することは周知の事実である。ここで膜中の荷電量を高めた状態で膨潤度を如何に抑制するかが重要である。
【0030】
上述したように、本発明の陰イオン交換膜の主成分であるブロック共重合体は、ビニルアルコール系重合体ブロック(A)と、陰イオン交換性基を有する重合体ブロック(B)とから構成される。ビニルアルコール系重合体ブロック(A)は、高い親水性を有するとともに、陰イオン交換膜全体の強度、膨潤度の抑制及び形状保持に寄与する。このようなビニルアルコール系重合体ブロック(A)とイオン交換性を発現する重合体ブロック(B)とを役割分担させることで、陰イオン交換膜において、高い荷電密度と、膨潤度の抑制及び寸法安定性の維持とを両立することに成功した。また、このような本発明のイオン交換膜は、膜抵抗が小さく、耐有機汚染性に優れている。さらに、本発明においては、単純な混合物と異なりブロック共重合体を用いていることから、ビニルアルコール系重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)とのミクロ相分離構造を容易に制御し得るため、イオン交換部位として機能する重合体ブロック(B)の連続相の径や構造を容易に制御し得る利点がある。
【0031】
本発明の陰イオン交換膜の主成分であるブロック共重合体(P)は、架橋処理が施されている。ブロック重合体(P)の製造方法は主に次の2つの方法に大別される。すなわち、(1)カチオン性基を有する少なくとも1つの単量体と他の単量体とを用いてブロック共重合体を製造する方法、及び(2)ブロック共重合体を製造した後、カチオン性基を導入させる方法である。このうち、(1)については、末端にメルカプト基を有するビニルアルコール系重合体(ブロック(A))に、カチオン性基を含有する少なくとも1種の単量体をラジカル重合させることによりブロック共重合体を製造する方法が、工業的な容易さから好ましい。また、(2)については、末端にメルカプト基を含有するビニルアルコール系重合体(ブロック(A))に、1種又は複数種の単量体をブロック共重合してブロック共重合体を得、次いでこのブロック共重合体にカチオン性基を導入してカチオン性基を有する重合体ブロック(B)を含有するブロック共重合体(P)を得る方法が挙げられる。これら各方法の中でも、特に、ビニルアルコール系重合体ブロック(A)とカチオン性基を有する重合体ブロック(B)の各成分の種類や量を容易に制御できることから、末端にメルカプト基を有するビニルアルコール系重合体(ブロック(A))にカチオン性基を有する少なくとも1つの単量体をラジカル重合させてブロック共重合体を製造する方法が好ましい。
【0032】
以下、本発明に好ましく用いられる、カチオン性基を有する少なくとも1つの単量体を用いて所望のブロック共重合体(P)を製造する方法について説明する。末端にメルカプト基を有するビニルアルコール系重合体は、例えば、特許文献4などに記載されている方法により得ることができる。すなわち、チオール酸の存在下でビニルエステル単量体、例えば酢酸ビニルを主体とするビニル系単量体をラジカル重合して得られるビニルエステル系重合体をけん化する方法が挙げられる。
【0033】
末端にメルカプト基を有するビニルアルコール系重合体のけん化度は特に限定されないが、40〜99.9モル%であることが好ましい。けん化度が40モル%未満であると、ビニルアルコール系重合体ブロック(A)の結晶性が低下し、陰イオン交換膜の強度が不足するおそれがある。上記けん化度は60モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましい。また、末端にメルカプト基を有するビニルアルコール系重合体のけん化度は、通常99.9モル%以下である。ポリビニルアルコールのけん化度は、JIS K6726に準じて測定した値である。
【0034】
末端にメルカプト基を含有するビニルアルコール系重合体の重合度は、100以上3500以下が好ましく、200以上3000以下がより好ましく、250以上2500以下がさらに好ましい。重合度が100に満たない場合には、最終的に得られるブロック共重合体(P)を主成分とする陰イオン交換膜の膜強度が不足する可能性がある。一方、重合度が3500を超える場合には、該ビニルアルコール系重合体に導入されるメルカプト基が不足し、効率的にブロック重合体(P)を得ることができなくなる可能性がある。なお、ポリビニルアルコールの粘度平均重合度は、JIS K6726に準じて測定した値である。
【0035】
このようにして得られる末端にメルカプト基を含有するビニルアルコール系重合体と、カチオン性基を含有する単量体とを用いてブロック共重合体(P)を得る方法としては、例えば、特許文献3などに記載された方法が挙げられる。すなわち、例えば特許文献3に記載されているように、末端にメルカプト基を有するビニルアルコール系重合体の存在下にカチオン性基を有する単量体をラジカル重合させることによりブロック共重合体(P)を得ることができる。このラジカル重合は公知の方法、例えばバルク重合、溶液重合、パール重合、乳化重合などによって行うことができるが、末端にメルカプト基を含有するビニルアルコール系重合体を溶解し得る溶剤、例えば水やジメチルスルホキシドを主体とする媒体中で行うのが好ましい。また、重合プロセスとしては、回分法、半回分法、連続法のいずれをも採用することができる。
【0036】
上記ラジカル重合は、通常のラジカル重合開始剤、例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の中から重合系に適したものを使用して行うことができるが、水系での重合の場合、ビニルアルコール系重合体末端のメルカプト基と臭素酸カリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の酸化剤によるレドックス反応によって重合を開始することも可能である。
【0037】
末端にメルカプト基を有するビニルアルコール系重合体の存在下にイオン交換性基を有する単量体をラジカル重合させるに際し、重合系が酸性であることが望ましい。これはメルカプト基が、塩基性下においては、単量体の二重結合へイオン的に付加し消失する速度が大きく、重合効率が著しく低下するためである。また、水系の重合であれば、すべての重合操作をpH4以下で実施することが好ましい。
【0038】
上述の方法によってブロック共重合体(P)を合成する際に用いられる、カチオン性基を有する単量体としては、例えば、トリメチル−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、トリメチル−m−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、トリエチル−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、トリエチル−m−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−エチル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−n−プロピル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−n−オクチル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−ベンジル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジエチル−N−ベンジル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−(4−メチル)ベンジル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−フェニル−N−p−ビニルベンジルアンモニウムクロライド、トリメチル−p−ビニルベンジルアンモニウムブロマイド、トリメチル−m−ビニルベンジルアンモニウムブロマイド、トリメチル−p−ビニルベンジルアンモニウムスルホネート、トリメチル−m−ビニルベンジルアンモニウムスルホネート、トリメチル−p−ビニルベンジルアンモニウムアセテート、トリメチル−m−ビニルベンジルアンモニウムアセテート、N,N,N−トリエチル−N−2−(4−ビニルフェニル)エチルアンモニウムクロライド、N,N,N−トリエチル−N−2−(3−ビニルフェニル)エチルアンモニウムクロライド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−2−(4−ビニルフェニル)エチルアンモニウムクロライド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−2−(4−ビニルフェニル)エチルアンモニウムアセテート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドのメチルクロライド、エチルクロライド、メチルブロマイド、エチルブロマイド、メチルアイオダイド若しくはエチルアイオダイドによる4級化物、又はそれらのアニオンを置換したスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、酢酸塩若しくはアルキルカルボン酸塩等が挙げられる。
【0039】
具体的には、例えば、モノメチルジアリルアンモニウムクロライド、トリメチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、トリエチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、トリメチル−2−(アクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、トリエチル−2−(アクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、トリメチル−3−(メタクリロイルオキシ)プロピルアンモニウムクロライド、トリエチル−3−(メタクリロイルオキシ)プロピルアンモニウムクロライド、トリメチル−2−(メタクリロイルアミノ)エチルアンモニウムクロライド、トリエチル−2−(メタクリロイルアミノ)エチルアンモニウムクロライド、トリメチル−2−(アクリロイルアミノ)エチルアンモニウムクロライド、トリエチル−2−(アクリロイルアミノ)エチルアンモニウムクロライド、トリメチル−3−(メタクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムクロライド、トリエチル−3−(メタクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムクロライド、トリメチル−3−(アクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムクロライド、トリエチル−3−(アクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−エチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、N,N−ジエチル−N−メチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチル−N−エチル−3−(アクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムクロライド、トリメチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムブロマイド、トリメチル−3−(アクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムブロマイド、トリメチル−2−(メタクリロイルオキシ)エチルアンモニウムスルホネート、トリメチル−3−(アクリロイルアミノ)プロピルアンモニウムアセテート等を挙げることができる。その他、共重合可能なモノマーとして、N−ビニルイミダゾール、N−ビニル−2−メチルイミダゾール等も挙げられる。
【0040】
また、上述のブロック共重合体(P)を合成するに際し、カチオン性基を有する重合体ブロック(B)は、本発明の陰イオン交換膜に高いイオン交換性を付与するために、カチオン性基を有する単量体単位のみから構成されることが望ましいが、カチオン性基を有さない単量体単位を含んでいてもよい。かかるカチオン性基を有さない単量体単位を与える単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類;アクリル酸もしくはその塩、又はアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸もしくはその塩、又はメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル等のメタクリル酸エステル類;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のその他の不飽和カルボン酸又はその誘導体;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシル基含有ビニルエーテル類;アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類;オキシアルキレン基を有する単量体;酢酸イソプロペニル、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシル基含有α−オレフィン類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基を有する単量体;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のシリル基を有する単量体などが挙げられる。重合体ブロック(B)におけるイオン交換性基を有する単量体単位の割合は80モル%以上、特に90モル%以上であることが好ましい。
【0041】
上記ラジカル重合の反応温度については特に制限はないが、通常0〜200℃が適当である。重合の経過を各種クロマトグラフィー、NMRスペクトル等による残存モノマーの定量により追跡して重合反応の停止を判断することで、ビニルアルコール系重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)とを所望の割合に調製できる。重合反応の停止は公知の手法、例えば重合系の冷却により重合を停止する。
【0042】
電気透析用の陰イオン交換膜として使用するのに十分なイオン交換性を発現するためには、得られるブロック共重合体(P)のイオン交換容量は0.30meq/g以上であることが好ましく、0.50meq/g以上であることがより好ましい。ブロック共重合体のイオン交換容量の上限については、イオン交換容量が大きくなりすぎると親水性が高まり膨潤度の抑制が困難となるので、3.0meq/g以下であることが好ましい。
【0043】
ブロック共重合体(P)を製造する方法としては、まず、上記ビニルアルコール系重合体ブロック(A)とカチオン性基が導入可能なブロックを有するブロック共重合体を製造し、ついで該ブロックにカチオン性基を導入する方法も好ましい。カチオン性基が導入可能なブロック共重合体は、上述のメルカプト基を含有するビニルアルコール系重合体とカチオン性基を有する単量体とを用いてブロック共重合体(P)を製造する方法において、カチオン性基を有する単量体の代りにカチオン性基が導入可能な部位を有する単量体を用いる以外は同様の方法により製造することができる。カチオン性基が導入可能な部位を有する単量体としては、例えば、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、2−メチル−5−ビニルピリジン等のビニルピリジン類、ビニルピリミジン類、ビニルキノリン類、ビニルカルバゾール類、ビニルイミダゾール類、o,m,p−ビニルフェニルアルキレンアルキルアミン類、ジアルキルアミノアルキルアクリレート類、ジアルキルアミノアルキルアクリレート類が挙げられる。
【0044】
カチオン性基が導入可能な部位を有するブロック共重合体にカチオン性基を導入するには、該ブロック共重合体をアルキルハロゲン化合物の蒸気又は溶液で処理して、その窒素原子を四級化すればよい。ここで、用いるアルキルハロゲン化合物は、C2p+1XあるいはX(CHX(pは1〜12の整数、qは2から12の整数、Xは臭素又は沃素原子)で表される化合物であればよい。ハロメチル基をもつブロック部分に陰イオン交換性基を導入するには、それにトリアルキルアミンを作用させればよい。
【0045】
また、本発明の陰イオン交換膜は上述のようにして得られるブロック共重合体(P)と、重合度200〜8000(より好ましくは500〜7000)、けん化度80モル%以上、(より好ましくは85モル%以上)のビニルアルコール系重合体(Q)との混合物であって、これらの質量比(P/Q)が3/97であり、架橋処理の施されたものを主成分として含有する陰イオン交換膜であることも好ましい。このように、ブロック共重合体(P)をビニルアルコール系重合体(Q)と共に用いることで、十分なイオン交換容量と良好な耐有機汚染性を有するとともに、強度の高い陰イオン交換膜とすることができる。
【0046】
ビニルアルコール系重合体(Q)は、また、ビニルエステル系単量体と以下に掲げるような単量体との共重合体であって、ビニルエステル系単量体から構成される部分の重合度が200〜8000(より好ましくは500〜7000)であって、同部分のけん化度が80モル%以上(より好ましくは85モル%以上)であるものであってもよい。後者の単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のカルボン酸又はその誘導体;アクリル酸もしくはその塩、又はアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸もしくはその塩、又はメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル等のメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有ビニルエーテル類;アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類;オキシアルキレン基を有する単量体;酢酸イソプロペニル、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシル基含有α−オレフィン類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基を有する単量体;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミン等のカチオン性基を有する単量体;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のシリル基を有する単量体などが挙げられる。上記共重合体におけるビニルエステル系単量体単位の割合は80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましい。
【0047】
ビニルアルコール系重合体(Q)は、また、2−メルカプトエタノール、n−ドデシルメルカプタン、メルカプト酢酸、3−メルカプトプロピオン酸などのチオール化合物の存在下で、ビニルエステル系単量体をラジカル重合して得られるビニルエステル系重合体をけん化することによって得られる末端変性ビニルアルコール系重合体であって、重合度が200〜8000(より好ましくは500〜7000)であり、けん化度が80モル%以上(より好ましくは85モル%以上)であるものであってもよい。
【0048】
上記混合物中におけるブロック共重合体(P)とビニルアルコール系重合体(Q)の割合(P/Q)は、質量比で5/95以上であることが好ましく、10/90以上であることがより好ましい。両者の割合(P/Q)が3/97より小さすぎる場合には、得られる陰イオン交換膜のイオン交換性が不十分であり、電気透析の性能が十分発揮されない可能性がある。
【0049】
ブロック共重合体(P)を主成分とする本発明の陰イオン交換膜は、ブロック共重合体(P)の溶液から得られる皮膜を、100℃以上の温度で熱処理した後、水、アルコール又はそれらの混合溶媒中で、酸性条件下においてジアルデヒド化合物による架橋処理を行い、ついで水洗処理することにより得ることができる。また、ブロック共重合体(P)とビニルアルコール系重合体(Q)の混合物を主成分とする本発明の陰イオン交換膜は、ブロック共重合体(P)とビニルアルコール系重合体(Q)の溶液から得られる皮膜を、100℃以上の温度で熱処理した後、水、アルコール又はそれらの混合溶媒中で、酸性条件下においてジアルデヒド化合物による架橋処理を行い、ついで水洗処理することにより得ることができる。
【0050】
ブロック共重合体(P)の溶液又はブロック共重合体(P)とビニルアルコール系重合体(Q)の混合物の溶液に用いられる溶媒としては、通常、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどの低級アルコール、又はこれらの混合溶媒が挙げられる。皮膜は、通常、キャスティングにより溶液中の溶媒を揮発させることにより得ることができる。製膜の際の温度は、特に限定されないが、室温〜100℃程度の温度範囲が適当である。
【0051】
本発明の陰イオン交換膜は、電気透析用電解質膜として必要な性能、膜強度、ハンドリング性等を確保する観点から、その膜厚が1〜1000μm程度であることが好ましい。膜厚が1μm未満である場合には、膜の機械的強度が不充分となる傾向がある。逆に、膜厚が1000μmを超える場合には、膜抵抗が大きくなり、充分なイオン交換性が発現しないため、電気透析効率が低くなる傾向となる。膜厚はより好ましくは5〜500μmであり、更に好ましくは7〜300μmである。
【0052】
本発明の陰イオン交換膜の製造方法においては、熱処理を施すことが好ましい。熱処理を施すことによって、物理的な架橋が生じ、得られる陰イオン交換膜の機械的強度が増大する。熱処理の方法は特に限定されず、熱風乾燥機などが一般に用いられる。熱処理の温度は特に限定されないが、50〜250℃であることが好ましい。熱処理の温度が50℃未満であると、得られるイオン交換膜の機械的強度が不足するおそれがある。該温度は80℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることがより好ましい。一方、熱処理の温度が250℃を超えると、結晶性重合体が融解するおそれがある。該温度は230℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。
【0053】
本発明の陰イオン交換膜の製造方法においては、架橋処理を施すことが好ましい。架橋処理を施すことによって、得られるイオン交換層の機械的強度が増大する。架橋処理の方法は、重合体の分子鎖同士を化学結合によって結合できる方法であればよく、特に限定されない。通常、架橋処理剤を含む溶液に浸漬する方法などが用いられる。該架橋処理剤としては、ホルムアルデヒド、或いはグリオキザールやグルタルアルデヒドなどのジアルデヒド化合物が例示される。本発明においては、熱処理を行った後の上記皮膜を、酸性条件下で、水、アルコール又はそれらの混合溶媒にジアルデヒド化合物を溶解させてなる溶液に浸漬することにより、架橋処理を行うことが好ましい。架橋処理剤の濃度は、通常、溶液に対する架橋処理剤の体積濃度が0.001〜1体積%である。
【0054】
本発明の陰イオン交換膜の製造方法においては、熱処理と架橋処理の両方を行ってもよいし、そのいずれかのみを行ってもよい。熱処理と架橋処理を両方行う場合、熱処理の後に架橋処理を行ってもよいし、架橋処理の後に熱処理を行ってもよいし、両者を同時に行ってもよい。熱処理の後に架橋処理を行うことが、得られる陰イオン交換膜の機械的強度の面から好ましい。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を更に詳細に説明するため実施例を挙げるが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、特に断りのない限り「%」及び「部」は重量基準である。
【0056】
参考例(分子末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコール系重合体の合成)
特許文献4に記載された方法によって、表1に示す分子末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコールを合成した。
【0057】
【表1】
【0058】
実施例、比較例に示すイオン交換膜の特性は、以下の方法により測定した。
【0059】
1)膜含水率(H)
イオン交換膜の乾燥重量を予め測定しておき、その後、脱イオン水に浸漬し膨潤平衡に達したところで湿潤重量を測定した。膜含水率, Hは下式により算出した。
H=[(W−D)/1.0]/[(W−D)/1.0+(D/1.3)]
ここで1.0と1.3はそれぞれ水とポリマーの比重を示している。
・H:膜含水率[−]
・D:膜の乾燥重量[g]
・W:膜の湿潤重量[g]
【0060】
2)最大破断応力
JIS規格のポンチを用いて、陰イオン交換膜を幅2mm、長さ3cmのダンベル状に切り抜いて測定試料を作製した。測定には、株式会社島津製作所製小型卓上試験機「EZ−Test500N」を用いた。評点間距離を2cmとし、25℃の温度下で測定を行った。得られた破断点の応力から、下式により最大破断応力を算出した。
最大破断応力[MPa]=破断点の応力[MPa]×初期断面積[m]/破断断面積[m
【0061】
3)陰イオン交換容量の測定
陰イオン交換膜を1mol/lのHCl水溶液に10時間以上浸漬した。その後、1mol/lのNaNO水溶液で塩素イオン型を硝酸イオン型に置換させ、遊離した塩素イオンを電位差滴定装置(COMTITE−900;平沼産業株式会社製)で定量した(Amol)。
【0062】
次に、同じ陰イオン交換膜を1mol/lのHCl水溶液に4時間以上浸漬し、イオン交換水で十分に水洗したのち膜を取り出し、105℃の熱風乾燥機中で16時間乾燥させて乾燥時の重さ(W[g])を測定した。イオン交換容量は次式により算出した。
・イオン交換容量=A×1000/W [meq/g]
【0063】
4)動的輸率の測定
陰イオン交換膜の動的輸率は、図1に示される白金黒電極板を有する2室セル中にイオン交換膜を挟み、イオン交換膜の両側に0.5mol/L−NaCl溶液を満たし、所定時間(t)、所定電流密度(J=10mAcm−2)の電流密度で電気透析を行った。有効膜面積は8.0cm(2cm×4cm)であった。その後、測定溶液を取り出し、その溶液を300mlメスフラスコにて希釈した。希釈溶液の伝導度を伝導度計にて測定し、得られた伝導度から下式に代入することで動的輸率td+を算出した。
d+=Δm/E
d+:動的輸率
:理論当量=I・t/F
Δm:移動当量
F:Faraday定数
【0064】
5)膜抵抗の測定
膜抵抗は、図2に示される白金黒電極板を有する2室セル中に陰イオン交換膜を挟み、膜の両側に0.5mol/L−NaCl溶液を満たし、交流ブリッジ(周波数1000サイクル/秒)により25℃における電極間の抵抗を測定し、該電極間抵抗と陰イオン交換膜を設置しない場合の電極間抵抗との差により求めた。上記測定に使用する膜は、あらかじめ0.5mol/L−NaCl溶液中で平衡にしたものを用いた。
【0065】
6)耐有機汚染性の測定
得られた陰イオン交換膜をコンデショニングした後、銀、塩化銀電極を有する二室セルに該イオン交換膜を挟み、その陽極室には0.05mol/L−NaCl溶液を入れ、陰極室には1000ppmのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムと0.05mol/L−NaClの混合溶液を入れた。両室の液を1500rpmの回転速度で攪拌し、0.2A/dmの電流密度で電気透析を行った。この時、両膜表面の近傍に白金線を固定し、膜間電圧を測定した。通電中に有機汚染が起こると膜間電圧が上昇してくる。通電を開始して30分後の膜間電圧を測定し、有機汚染物質を添加した場合と添加しない場合の電圧差(ΔE)をとって膜の汚染性の尺度とした。
【0066】
(P−1の合成)
還流冷却管、攪拌翼を備え付けた5L四つ口セパラブルフラスコに、水2600g、末端にメルカプト基を有するビニルアルコール系重合体として表1に示すPVA−1を344g仕込み、攪拌下95℃まで加熱して該ビニルアルコール系重合体を溶解した後、室温まで冷却した。該水溶液に1/2規定の硫酸を添加してpHを3.0に調整した。別に、メタクリル酸アミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド183gを水200gに溶解し、これを先に調製した水溶液に攪拌下添加した後、70℃まで加温し、また、水溶液中に窒素をバブリングしながら30分間系内を窒素置換した。窒素置換後、上記水溶液に過硫酸カリウムの2.5%水溶液121mLを1.5時間かけて逐次的に添加してブロック共重合を開始、進行させた後、系内温度を75℃に1時間維持して重合をさらに進行させ、ついで冷却して、固形分濃度15%のPVA−(b)−p−メタクリル酸アミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドブロック共重合体水溶液を得た。得られた水溶液の一部を乾燥した後、重水に溶解し、400MHzでのH−NMR測定に付した結果、メタクリル酸アミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド単位の変性量は10モル%であった。また、B型粘度計で測定した4%水溶液粘度は18ミリPa・s(20℃)であった。
【0067】
(P−2〜P−5の合成)
カチオン性基含有単量体の種類と仕込み量、重合開始剤の使用量などの重合条件を表2に示すように変化させた以外はP−1と同様の方法により、P−2〜P−5を得た。得られたポリマーの物性を、表2に示す。
【0068】
(P−6の合成)
カチオン性基含有単量体の種類と仕込み量、重合開始剤の使用量などの重合条件を表2に示すように変化させた以外はP−1と同様の方法により、固形分濃度15%のPVA−(b)−ビニルホルムアミドブロック共重合体水溶液を得た(得られた水溶液の一部を乾燥した後、重水に溶解し、400MHzでのH−NMR測定に付した結果、ビニルホルムアミド単位の変性量は10モル%であった)。
【0069】
(P−7の合成:P−6の加水分解)
P−6の濃度15%水溶液に水酸化ナトリウムを0.08mol%添加して、110度、1時間加熱することで加水分解させて、固形分濃度14%のPVA−(b)−ビニルアミンブロック共重合体水溶液を得た(得られた水溶液の一部を乾燥した後、重水に溶解し、400MHzでのH−NMR測定に付した結果、ビニルアミン単位の変性量は10モル%であった)。また、B型粘度計で測定した4%水溶液粘度は16ミリPa・s(20℃)であった。
【0070】
(P−8の合成)
カチオン性基含有単量体の種類と仕込み量、重合開始剤の使用量などの重合条件を表2に示すように変化させた以外はP−1と同様の方法により、固形分濃度15%のPVA−(b)−ビニルピリジンブロック共重合体水溶液を得た(得られた水溶液の一部を乾燥した後、重水に溶解し、400MHzでのH−NMR測定に付した結果、ビニルピリジン単位の変性量は10モル%であった)。
【0071】
(P−9の合成:P−8の四級化)
P−8の水溶液を、縦270mm×横210mmのアクリル製のキャスト板に流し込み、余分な液、気泡を除去した後、50℃のホットプレート上で24時間乾燥させることにより、皮膜を作製した。こうして得られた皮膜を、ヨウ化メチルの蒸気中、室温下で10時間処理を行いビニルピリジン部分を四級化することで、PVA−(b)−四級化ビニルピリジンブロック共重合体したフィルムを得た(得られたフィルムを重水に溶解し、400MHzでのH−NMR測定に付した結果、四級化ビニルピリジン単位の変性量は10モル%であった)。また、濃度4%に調整した水溶液をB型粘度計で測定したところ、粘度は16ミリPa・s(20℃)であった。
【0072】
(P−10の合成)
攪拌機、温度センサー、滴下漏斗及び還流冷却管を備え付けた6Lセパラブルフラスコに、酢酸ビニル2156g、メタノール644g、及びメタクリル酸アミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドを25質量%含有するメタノール溶液126gを仕込み、攪拌下に系内を窒素置換した後、内温を60℃まで上げた。この系に2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを0.8g含有するメタノール20gを添加し、重合反応を開始した。重合開始時点よりメタクリル酸アミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドを25質量%含有するメタノール溶液400gを系内に添加しながら、4時間重合反応を行った後、重合反応を停止した。重合反応を停止した時点における系内の固形分濃度、すなわち、重合反応スラリー全体に対する固形分の含有率は24質量%であった。ついで、系内にメタノール蒸気を導入することにより、未反応の酢酸ビニル単量体を追い出し、ビニルエステル共重合体を55質量%含有するメタノール溶液を得た。
【0073】
このビニルエステル共重合体を55質量%含有するメタノール溶液に、該共重合体中の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.025、ビニルエステル共重合体の固形分濃度が30質量%となるように、メタノール、及び水酸化ナトリウムを10質量%含有するメタノール溶液をこの順序で撹拌下に加え、40℃でけん化反応を開始した。
【0074】
けん化反応の進行に伴ってゲル化物が生成した直後にこれを反応系から取り出して粉砕し、ついで、ゲル化物が生成してから1時間が経過した時点で、この粉砕物に酢酸メチルを添加することにより中和を行い、膨潤状態のポリ(ビニルアルコール−メタクリル酸アミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド)のカチオン性重合体を得た。この膨潤したカチオン性重合体に対して質量基準で6倍量(浴比6倍)のメタノールを加え、還流下に1時間洗浄し、該重合体をろ取した。該重合体を65℃で16時間乾燥した。得られたポリマーを重水に溶解し、400MHzでのH−NMR測定に付した結果、メタクリル酸アミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド単位の変性量は5モル%であった。また、B型粘度計で測定した4%水溶液粘度は18ミリPa・s(20℃)、けん化度は98.5モル%であった。
【0075】
参考例1)
(イオン交換膜の作製)
P−1の水溶液を縦270mm×横210mmのアクリル製のキャスト板に流し込み、余分な液、気泡を除去した後、50℃のホットプレート上で24時間乾燥させることにより、皮膜を作製した。こうして得られた皮膜を、140℃で30分間熱処理し、物理的な架橋を生じさせた。ついで、皮膜を2mol/Lの硫酸ナトリウムの電解質水溶液に24時間浸漬させた。該水溶液にそのpHが1になるように濃硫酸を加えた後、0.05体積%グルタルアルデヒド水溶液に皮膜を浸漬し、25℃で24時間スターラーを用いて撹拌し、架橋処理を行った。ここで、グルタルアルデヒド水溶液としては、石津製薬株式会社製「グルタルアルデヒド」(25体積%)を水で希釈したものを用いた。架橋処理の後、皮膜を脱イオン水に浸漬し、途中数回脱イオン水を交換しながら、皮膜が膨潤平衡に達するまで浸漬させ、陰イオン交換膜を得た。
【0076】
(イオン交換膜の評価)
このようにして作製した陰イオン交換膜を、所望の大きさに裁断し、測定試料を作製した。得られた測定試料を用い、上記方法にしたがって、膜含水率、最大破断応力、陰イオン交換容量、動的輸率の測定、膜抵抗の測定、耐有機汚染性の測定を行った。得られた結果を表3に示す。
【0077】
実施例1〜5、参考例2〜8
参考例1において、ブロック共重合体(P)とポリビニルアルコールPVA124((株)クラレ製)の混合比を表3に示すように変更した陰イオン交換樹脂を用い、熱処理温度及び架橋条件を表3に示す内容に変更した以外は、参考例1と同様にして陰イオン交換膜を作製し、評価を行った。得られた結果を表3に示す。
【0078】
(比較例1、3)
参考例1において、陰イオン交換樹脂、熱処理温度、架橋条件を表3に示す内容に変更した以外は、参考例1と同様にして陰イオン交換膜の膜特性を測定した。得られた測定結果を表3に示す。
【0079】
(比較例2)
参考例1において、陰イオン交換膜にネオセプタAM−1(スチレン−ジビニルベンゼン系膜;(株)トクヤマ製)を用いた以外は、参考例1と同様にしてイオン交換膜の膜特性を測定した。得られた測定結果を表3に示す。
【0080】
表3の結果から、ビニルアルコール系重合体ブロック及び、カチオン性基を有する重合体ブロックを構成成分とするブロック共重合体からなり、かつ架橋処理の施されたものを陰イオン交換膜とすることにより、膨潤を低く抑えられ、かつ動的輸率、膜抵抗と耐有機汚染性に優れることが判る(実施例1〜)。特に、ブロック共重合体(P)とビニルアルコール系重合体(Q)の質量比(P/Q)が3/97以上である場合は、良好な最大破断応力が得られることがわかる(実施例1〜)。また、熱処理温度を100℃以上とした場合に、膨潤度が低く良好であることがわかる(実施例1、2、4、5)。さらに、イオン交換容量が0.30meq/g以上であると、市販のイオン交換膜と同程度の動的輸率が得られ、かつ膜抵抗が低いことがわかる(実施例1〜)。一方、架橋処理をしないとイオン交換膜が著しく膨順潤してしまい膜特性の測定ができなかった(比較例1)。さらに、疎水性の高い市販のイオン交換膜では、耐有機汚染性に劣っていた(比較例2)。また、カチオン性基をランダムに共重合したビニルアルコール系重合体では膜抵抗が高かった(比較例3)。
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【符号の説明】
【0083】
A:電源
B:アンペアメーター
C:クーロンメーター
D:ボルトメーター
E:モーター
F:スターラー
G:カソード電極
H:アノード電極
I:0.5M NaCl水溶液
J:イオン交換膜(有効膜面積8.0cm
K:イオン交換膜(有効面積1.0cm
L:白金電極
M:NaCl水溶液
N:水浴
O:LCRメーター
図1
図2