(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5715740
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】水路系の放水設備
(51)【国際特許分類】
E03F 1/00 20060101AFI20150423BHJP
G21D 1/00 20060101ALI20150423BHJP
【FI】
E03F1/00 Z
G21D1/00 R
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-16308(P2011-16308)
(22)【出願日】2011年1月28日
(65)【公開番号】特開2012-154143(P2012-154143A)
(43)【公開日】2012年8月16日
【審査請求日】2013年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509001630
【氏名又は名称】国際石油開発帝石株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】並木 貴志
(72)【発明者】
【氏名】金井 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 和之
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 優二
(72)【発明者】
【氏名】松尾 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】工藤 恭平
(72)【発明者】
【氏名】宇根 浩
【審査官】
石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−329520(JP,A)
【文献】
特表2008−530406(JP,A)
【文献】
特開2010−101149(JP,A)
【文献】
特開昭60−088739(JP,A)
【文献】
特開2003−268749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03F 1/00
G21D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水路系を構成する放水路の出口部分に設けられた貯留槽の貯留水をその下流側に位置する着水槽に放水する放水設備であって、
これら貯留槽及び着水槽を仕切る壁部と、
該壁部を貫通してこれら貯留槽と着水槽とを連通する少なくとも1本の連絡水路とからなり、
該少なくとも1本の連絡水路は、その入口側開口部又は出口側開口部に流量抑制手段を有しており、該貯留槽の最低液面より下に該入口側開口部が位置し且つ該貯留槽の最高液面よりも該壁部の高さが高くなるように該流量抑制手段が設計されていることを特徴とする放水設備。
【請求項2】
前記連絡水路が配管からなり、前記流量抑制手段が制限オリフィスであることを特徴とする、請求項1に記載の放水設備。
【請求項3】
前記連絡水路は、出口側開口部の近傍が略水平方向に延在していることを特徴とする、請求項1又は2に記載の放水設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器やオープンラック式気化器等において熱媒体として使用される海水や河川水の水路系に設ける放水設備に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所や原子力発電所では蒸気タービンを回転して発電を行っており、使用した蒸気を復水器で冷却して水に戻すため、冷却水用の大量の海水が必要となる。また、LNG受け入れ基地では、タンカーで送られてきた極低温のLNGをオープンラック式気化器(以下、ORVと称する)で温めて気化するため、加熱媒体用の大量の海水が必要となる。
【0003】
このため、これら発電所では、大量に使用する海水を海域から受け入れて循環し、再び海域へ放出するための水路系が設けられている。かかる水路系は、一般に取水口、取水路、取水槽、循環ポンプ、循環水路、熱交換部、放水路、及び放水口から構成されており、このうち特に放水路の出口部分には、潮位の変化や循環水路での圧力損失の変動等によるサイフォン切れを防止するため、貯留槽が設けられている。
【0004】
すなわち、放水路の出口開口部を貯留槽の底部近傍に配置すると共に、この放水路から排出される海水を、貯留槽の堰をオーバーフローさせてから海域に放水することにより、放水路の出口開口部を常時水面下に水没させておくことが可能となり、これにより放水路でのサイフォン切れを防止することができる。また、LNG受け入れ基地でも海域から大量に受け入れてORVで散水した海水を、ORVから貯留槽を経て再び海域へ放出するための水路系が設けられている。
【0005】
ところで、このような貯留槽を備えた水路系では、貯留槽の堰をオーバーフローした海水が落下する際に周囲の空気を巻き込み、貯留槽の下流側で泡を生じることがあった。発生した泡はやがて消滅するため、そのまま海域に放流しても海洋生物に悪影響を及ぼすことは特にないが、泡が海面上を浮遊していると景観上好ましくないため、泡のない状態で海域に放水することが望まれていた。
【0006】
これに対して例えば特許文献1には、複数の連通管で貯留槽とその下流側とを連通する技術が提案されている。これら複数の連通管は、循環ポンプの最低水量に合わせて総開口面積が定められているので、常時連通管の入口開口部を水没しておくことが可能となり、よって泡の巻き込みを抑制できると記載されている。
【0007】
また、特許文献2にも複数の連通管で貯留槽とその下流側とを連通する技術が提案されている。この技術では、海水の循環流量の低下により貯留槽の水位が低下した場合、放水路の連通管の所定入口部に着脱自在の蓋を設けて放水を阻止することで水位の低下を抑制し、連通管での空気巻き込みによる泡の発生を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−239304号公報
【特許文献2】特開2003−268749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1の技術は、潮位が変動して最高潮位になった場合は海水の一部をオーバーフローさせる構造になっているため、このオーバーフローした海水が空気を巻き込むことを避けることができず、依然として泡の発生をなくすことはできなかった。また、特許文献2の技術は海水の循環流量が変動した場合、そのたび毎に煩雑な蓋の着脱が必要になることや、全ての連通管に常時海水が流通しているわけではないので、海水の溜まりによる海洋生物付着の可能性が高くなるという問題を抱えていた。本発明は、かかる従来の問題に鑑みてなされたものであり、潮位の変化や上流側での使用水量の変化が生じても、泡を生じることのない放水設備を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明が提供する放水設備は、放水路に設けられた貯留槽の貯留水をその下流側に位置する着水槽に放水する放水設備であって、
これら貯留槽及び着水槽を仕切る壁部と、該壁部を貫通してこれら貯留槽と着水槽とを連通する少なくとも1本の連絡水路
とからなり、該少なくとも1本の連絡水路は、その入口
側開口部又は出口
側開口部に流量抑制手段を有して
おり、該貯留槽の最低液面より下に該入口側開口部が位置し且つ該貯留槽の最高液面よりも該壁部の高さが高くなるように該流量抑制手段が設計されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、潮位の変化や上流側での使用水量の変化が生じても、貯留槽の液面変動を所定の範囲内に抑えることが可能となる。よってこの貯留槽と下流側の着水槽とを連通する連絡水路の入口部を常時水没状態に維持できるので、貯留槽から下流側の着水槽に海水を放水する際に空気が巻き込まれる現象を避けることができ、その結果、下流側での泡の発生を抑えることが可能となる。また、本発明では全ての連通管が常時海水の流通に使用されるため、連通管内に海水の溜まりが生ずる事がなくなり、連通管内に海洋生物が付着する問題を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の放水設備の一具体例を示す立面図である。
【
図2】本発明の放水設備の他の具体例を示す立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、
図1を参照しながら本発明の放水設備の一具体例を説明する。
図1には所定の容量を有する貯留槽1の一部分が断面図で示されており、貯留槽1の中に、水路系を構成する放水路6の末端部が設けられている。放水路6の末端部は、常時水没できるように貯留槽1の底面近傍に配置されている。この放水路6は例えば暗渠配管からなり、図示しない熱交換器やORVで使用された海水が、放水路6を経てこの貯留槽1に送られる。
【0014】
この貯留槽1に隣接して、所定の容量を有する着水槽2が設けられている。着水槽2は、底面が貯留槽1の底面よりも深くなっている。着水槽2は、貯留槽1から放水される海水を受け入れて海域に放水する役割を担っており、着水槽2の液面は潮位の影響を受けて変動する。
【0015】
これら貯留槽1と着水槽2は、互いに少なくとも1本の連絡水路3(
図1には2本の連絡水路が例示されている)で連通されている。具体的には、連絡水路3の入口側開口部は貯留槽1の底面近傍に設けられており、連絡水路3の出口側開口部は着水槽2の底面近傍に設けられている。各連絡水路3は、連絡水路3内でのエアポケットの形成を避けるため、入口側開口部から水平に延びて貯留槽1と着水槽2とを仕切る壁面を貫通した後、着水槽2の壁面に沿って下方に延在して出口側開口部に至るように設置されるのが好ましい。
【0016】
各連絡水路3は、出口側開口部の近傍が略水平方向に延在しているのが好ましく、これにより出口側開口部が着水槽2の底面や壁面に近接して対向することを避けることができる。よって、連絡水路の出口側開口部から排出される海水が、着水槽2の底面や壁面に勢いよくぶつかるのを避けることができるので、泡の発生をより一層抑えることができる。
【0017】
連絡水路3には、
図1に示すように、例えば内径100〜150mm程度の配管を使用してもよいし、コンクリート躯体内に該配管と同程度の断面積を有する断面円形若しくは矩形の流路を設けた構造体であってもよい。前者の場合は、必要に応じて配管サポートで固定するのが好ましい。また、後者の場合は、貯留槽1や着水槽2と共に施工することが可能となる。
【0018】
各連絡水路3の入口側開口部には流量抑制手段が設けられており、各連絡水路3の内部を流れる海水の流量を調整できるようになっている。具体的に説明すると、各連絡水路3の入口側の末端部には一対のフランジ4が取り付けられており、この一対のフランジ4の間に流量抑制手段としての制限オリフィス5が挟持されている。この制限オリフィス5には、後述する条件を満たす開口面積を有する穴が穿孔されている。尚、将来の操業計画の変更等に備えて異なる開口面積を有する制限オリフィスを複数種類準備し、状況に応じて適宜交換可能となるようにしてもよい。
【0019】
一対のフランジ4のうち、入口側に位置するフランジ4には連絡水路3と同径の直管3aが接続されていてもよく、これにより制限オリフィス5に到達するまでにある程度直線距離を確保することができるので、制限オリフィス5をより設計条件に近い状態で使用することが可能となる。
【0020】
上記の構成により、貯留槽1に一旦受け入れられた海水は、貯留槽1の液面と、これより低い着水槽2の液面との液ヘッド差により連絡水路3を流れて着水槽2に放水される。その際、前述したように連絡水路3の入口側開口部には所定の開口面積を有する制限オリフィス5が設けられているので、ここを通過する海水の流量調整が行われる。その結果、潮位の変化や上流側での使用水量の変化が生じても、貯留槽1の液面変動を所定の範囲内に抑制することが可能となる。
【0021】
これにより、貯留槽1の液面変動の範囲を予め把握しておくことが可能となるので、貯留槽1の最低液面より下に連絡水路3の入口側開口部が位置するようにしておくことによって、連絡水路3の入口側開口部を常時水没させておくことが可能となる。その結果、海水が連絡水路3の中を通って貯留槽1から着水槽2に放水される際に周囲の空気を巻き込まなくなるので、着水槽2以降の下流側において泡がほとんど発生しなくなる。尚、当然のことながら、貯留槽1の壁面高さは貯留槽1の最高液面より高く設計されているので、海水がこの貯留槽1の壁面を越えてオーバーフローすることもない。
【0022】
次に、制限オリフィス5により流量調整が可能となる点について数式を交えてより具体的に説明する。例えば、ORVから海水が一定流量R(m
3/sec)で貯留槽1に受け入れられており、この一定流量Rの海水を、貯留槽1の液面と着水槽2の液面との差H(m)を維持しつつ2本の連絡水路3で貯留槽1から着水槽2に放水する場合を考える。配管での圧力損失を無視できるとすると、2本の連絡水路3にそれぞれ取り付ける制限オリフィス5の総開口面積A(m
2)は、下記の数式1から求めることができる。なお、gは重力加速度であり、Cはオリフィスの流量係数である。
【0023】
[数式1]
A=R/C(2gH)
0.5
【0024】
上記の制限オリフィス5が取り付けられている放水設備において、潮位が変動する場合を考える。例えば潮位が変動して、着水槽2の液面が上昇した時、貯留槽1の液面と着水槽2の液面の差がHより小さくなるので、連絡水路3を流れる海水の流量がRより少ないR−ΔR
1になる。その結果、貯留槽1の液面が徐々に上昇し、これに伴い連絡水路3を流れる海水の流量もR−ΔR
1から徐々に増加していく。貯留槽1の液面が徐々に上昇することによって、やがて貯留槽1の液面と着水槽2の液面の差が再びHになると、連絡水路3を流れる海水の流量はRに戻るので、貯留槽1の液面がさらに上昇することはない。
【0025】
一方、潮位が変動して、着水槽2の液面が低下した時、貯留槽1の液面と着水槽2の液面の差がHより大きくなるので、連絡水路3を流れる海水の流量がRより多いR+ΔR
2になる。その結果、貯留槽1の液面が徐々に低下し、これに伴い連絡水路3を流れる海水の流量もR+ΔR
2から徐々に減少していく。貯留槽1の液面が徐々に低下することによって、やがて貯留槽1の液面と着水槽2の液面の差が再びHになると、連絡水路3を流れる海水の流量はRに戻るので、貯留槽1の液面がさらに低下することはない。
【0026】
従って、着水槽2における潮位の最低レベルより低い位置に連絡水路3の出口側開口部を設置すると共に、該潮位の最低レベルよりHだけ高いレベルを貯留槽1の最低液面とし、この最低液面より低い位置に連絡水路3の入口側開口部を設置することによって、連絡水路3の入口と出口とを常時水没させることが可能となる。よって、潮位が変動しても貯留槽1から着水槽2に海水を放水する際に空気が巻き込まれなくなり、着水槽2以降の下流側で泡が発生することがなくなる。
【0027】
次に、プラントの改造や操業計画の変更等により上流側での海水の使用量が変化する場合を考える。例えばORVから送られてくる海水の流量がRからR+ΔR
3に増加した場合、制限オリフィス5が流量抵抗となって、貯留槽1の液面が徐々に高くなり、これに伴い連絡水路3を流れる海水の流量が徐々に増加していく。やがて貯留槽1の液面と着水槽2の液面の差がHより大きくなって、連絡水路3を流れる海水の流量R+ΔR
3とバランスすると、貯留槽1の液面がさらに上昇することはない。
【0028】
一方、ORVから送られてくる海水の流量がRからR−ΔR
4に減少した場合、制限オリフィス5では当初の流量Rのまま海水が流れ続けるので、貯留槽1の液面は徐々に低くなり、これに伴い連絡水路3を流れる海水の流量が徐々に減少していく。やがて貯留槽1の液面と着水槽2の液面の差がHより小さくなって、連絡水路3を流れる海水の流量R−ΔR
4とバランスすると、貯留槽1の液面がさらに低下することはない。
【0029】
従って、上流側での使用水量の変動幅が分かっている場合は、これに伴って低下する貯留槽1の液面の最低レベルより低い位置に連絡水路3の入口側開口部を設置することによって、連絡水路3の入口と出口とを常時水没させることが可能となる。よって、この場合においても貯留槽1から着水槽2に海水を放水する際に空気が巻き込まれなくなり、着水槽2以降の下流側で泡が発生することがなくなる。
【0030】
尚、上記本発明の一具体例の放水設備では、連絡水路3の入口部に流量抑制手段として制限オリフィス5を設けた例を説明したが、流量抑制手段はかかる場合に限定されるものではなく、制限オリフィス5に代えて開度の調節が可能なゲート弁等のバルブを設けてもよい。これにより、例えば台風により設計条件よりも大きな潮位変動が生じることが予想される場合は、バルブの開度を変えて対応することが可能となる。あるいは、制限オリフィス5に代えて発電機能を備えた水車を取り付けてもよい。
【0031】
次に、本発明の放水設備の他の具体例を説明する。この放水設備の他の具体例は、上記した放水設備の一具体例と同様に、貯留槽1と着水槽2とを連通する少なくとも1本の連絡水路3が設けられている。但し、この放水設備の他の具体例では、流量抑制手段が各連絡水路3の入口側開口部ではなく出口側開口部に設けられていることを特徴としている。
【0032】
例えば
図2に示すように、2本の連絡水路3の出口側の末端部に一対のフランジ4が取り付けられており、この一対のフランジ4の間に流量抑制手段としての制限オリフィス5が挟持されている。このように、各連絡水路3の出口側開口部に流量抑制手段を設けることによっても、上記した放水設備の一具体例と同様に流量調整が可能となり、よって潮位の変化や上流側での使用水量の変化が生じても、貯留槽1の液面変動を所定の範囲内に抑制することが可能となる。
【0033】
更に、出口側開口部に流量抑制手段を設ける場合は、連絡水路3の出口側開口部近傍を略水平方向に延在する直管にしておくことによって、前述したように、制限オリフィス5を設計条件に近い状態で使用することができる上、出口側開口部から排出される海水を着水槽2の底面や壁面にぶつけないようにすることが可能となる。
【符号の説明】
【0034】
1 貯留槽
2 着水槽
3 連絡水路
3a 直管
4 フランジ
5 制限オリフィス
6 放水路