(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5715866
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】多極子およびそれを用いた収差補正器または荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/153 20060101AFI20150423BHJP
【FI】
H01J37/153 B
H01J37/153 A
H01J37/153 Z
【請求項の数】23
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-73877(P2011-73877)
(22)【出願日】2011年3月30日
(65)【公開番号】特開2012-209130(P2012-209130A)
(43)【公開日】2012年10月25日
【審査請求日】2013年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100100310
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 学
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(74)【代理人】
【識別番号】100091720
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 重美
(72)【発明者】
【氏名】浦野 琴子
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 猛
(72)【発明者】
【氏名】守谷 騰
(72)【発明者】
【氏名】中野 朝則
【審査官】
遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−043533(JP,A)
【文献】
特開2004−241190(JP,A)
【文献】
特開2007−287365(JP,A)
【文献】
特開平02−210749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/153
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の極子と、前記複数の極子を支柱に一体化形成した極子部材と、中心部に荷電粒子線が通過しえる、貫通する開口部を有する円筒形ハウジングとを備え、前記円筒形ハウジングは前記開口部の内壁の円周上に光軸方向に平行な溝を複数備え、前記極子部材は、前記溝に嵌め込んで固定されるように配置することを特徴とする多極子。
【請求項2】
請求項1に記載の多極子において、前記複数の極子は、先端部が同一方向を向くように前記支柱に所定の間隔で多段に形成され、前記円筒形ハウジングには、前記開口部の内壁の両端部に前記溝が設けられ、前記円筒形ハウジングの中間部の内壁の厚さは、前記両端部の内壁の厚さより薄く形成し、前記極子部材は、前記溝と、前記支柱に形成された前記多段の極子の内、両端部の極子とで、前記円筒形ハウジングに固定されることを特徴とする多極子。
【請求項3】
請求項2に記載の多極子において、前記極子は軟磁性金属材、若しくは軟磁性金属材と非磁性金属材を用いて構成されており、前記極子部材は、前記複数の極子を、光軸方向に対して平行に所定の間隔で固定して配置することを特徴とする多極子。
【請求項4】
請求項3に記載の多極子において、前記極子の前記支柱への固定方法がロウ付けであることを特徴とする多極子。
【請求項5】
請求項2に記載の多極子において、4段以上の多段多極子を用いたことを特徴とする多極子。
【請求項6】
請求項3に記載の多極子と、外磁路とを備え、前記多極子はコイルを巻いたシャフトを介して、前記外磁路と連結して磁路を形成することを特徴とする色及び球面収差補正器。
【請求項7】
請求項6に記載の色及び球面収差補正器において、4段以上の多段多極子を用いたことを特徴とする色及び球面収差補正器。
【請求項8】
請求項6に記載の色及び球面収差補正器を真空雰囲気にて搭載したことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項8に記載の荷電粒子線装置において、前記色及び球面収差補正器は、4段以上の多段多極子を用いたことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項10】
複数の極子と、前記複数の極子が多段に一体化形成可能な極子部材と、荷電粒子線が通過しえる開口部を有する筒形ハウジングとを備え、前記筒形ハウジングは前記開口部の内側に光軸方向へ延在する溝を複数備え、前記極子部材は、前記溝に固定されるように配置可能なことを特徴とする多極子。
【請求項11】
請求項10に記載の多極子において、複数の前記極子部材は、前記溝に所定の間隔で多段に固定されたことを特徴とする多極子。
【請求項12】
請求項10に記載の多極子において、前記筒形ハウジングには、前記開口部の内壁の両端部に前記溝が設けられ、前記筒形ハウジングの中間部の内壁の厚さは、前記両端部の内壁の厚さより薄く形成したことを特徴とする多極子。
【請求項13】
請求項10に記載の多極子において、前記極子部材は、前記溝と、前記多段の極子の内、両端部の極子とで、前記筒形ハウジングに固定されたことを特徴とする多極子。
【請求項14】
請求項10乃至13のいずれか1項に記載の多極子において、前記極子は軟磁性金属材、若しくは軟磁性金属材と非磁性金属材を用いて構成されており、前記極子部材は、前記複数の極子を、光軸方向に対して平行に所定の間隔で固定して配置されたことを特徴とする多極子。
【請求項15】
請求項10乃至14のいずれか1項に記載の多極子において、前記極子部材は、前記極子をロウ付けで固定した支柱を有することを特徴とする多極子。
【請求項16】
請求項10乃至15のいずれか1項に記載の多極子において、4段以上の多極子を用いたことを特徴とする多極子。
【請求項17】
請求項10乃至15のいずれか1項に記載の多極子と、外磁路とを備えたことを特徴とする収差補正器。
【請求項18】
請求項16に記載の多極子と、外磁路とを備えたことを特徴とする収差補正器。
【請求項19】
請求項10乃至15のいずれか1項に記載の多極子と、外磁路とを備え、
前記多極子はコイルを巻いたシャフトを介して、前記外磁路と連結して磁路を形成されたことを特徴とする収差補正器。
【請求項20】
請求項16に記載の多極子と、外磁路とを備え、
前記多極子はコイルを巻いたシャフトを介して、前記外磁路と連結して磁路を形成されたことを特徴とする収差補正器。
【請求項21】
請求項17または19に記載の収差補正器において、4段以上の多極子を用いたことを特徴とする収差補正器。
【請求項22】
請求項10乃至15のいずれか1項に記載の多極子を、4段以上の多極子を用いて構成したことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項23】
請求項22に記載の荷電粒子線装置において、前記4段以上の多極子を真空雰囲気にて搭載したことを特徴とする荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は荷電粒子ビーム装置に係り、特に収差補正器、偏向器などに使用する多極子の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子ビームを応用した顕微鏡、微細加工装置、半導体製造装置などではビームの偏向器や収差補正器に単段または多段の多極子(2、4、6、8極子など)を使用している。近年これらの荷電粒子ビーム応用装置を使って数十ナノメートルオーダーの加工またはサブナノメートルオーダーの観察が行われ、サブナノメートルオーダーの精度でビームを制御することが求められている。これらの装置に組み込まれる偏向器や収差補正器では、もちろん最終的な調整は電気的におこなうが、その前提として多極子を機械精度よく組み立てることが必要である。さもないと、偏向や収差補正のために本来必要とされる多極子場以外に、収差の原因となる寄生多極子場が発生し、その補正のために新たに補正コイルが必要になったり、個々の極子の独立な微調整が必要になるからである。特に球面収差補正器や色収差補正器ではマイクロメートルオーダーの組立て精度が求められている。従来の、精度よく多極子を形成できる手法としは、多極子製造の際、特許文献1には、光軸上に位置決め用部材をセットし、極子を位置決め用部材に押し当てて固定後、位置決め用部材を引き抜く手法が開示されている。特許文献2には、円筒型ハウジング内側にボール状や円筒状のスペーサを配置して多極子の位置決めをおこなう方式が開示されている。特許文献3には、個々の極子をベース板にピンで固定する方式、一体の極子を固定後、ワイヤーカッターで切り離す手法が開示されている。特許文献4には、多段連結極子をベースブロックに固定する方式が開示されている。特許文献5には、円筒型セラミクス筒内壁上に設けた金属層を電極として静電多極子を形成する方式が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−339709号
【特許文献2】特開平5−334979号
【特許文献3】特開2004−241190号
【特許文献4】特開2009−43533号
【特許文献5】特開2006−139958号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高精度化と組立て容易性の両立をめざした従来の多極子組み立て方や構造では以下のような課題があった。
【0005】
まず光軸上に位置決め用部材をセットし、極子を位置決め用部材に押し当てて固定後、位置決め用部材を引き抜く手法では、極子先端の凹凸を10マイクロメートル以内に抑えようとすると、位置決め用部材を引き抜くことが困難である。極子先端を傷つけずに位置決め用部材を引き抜くには、位置決め用部材と極子先端の間にガタがなければならず、特に8極子や12極子、20極子など極数が多いほど、また段数が多いほど、このガタが大きくなければならず、結局、位置決め精度10マイクロメートル以内に収めることは実用上難しいという課題があった。
【0006】
円筒型ハウジング内側にボール状や円筒状のスペーサを配置して多極子の位置決めをおこなう特許文献2に記載の構造では、ボールや円筒スペーサ、ハウジングは精度よく加工できるが、組み立てるための部品点数が非常に多くなり組立てに手間がかかるという課題がある。またスペーサの固定方法にも課題がある。スペーサ自体は非常に精度よく製作できるが、組み立て時に複数のスペーサを隙間なく同時にハウジング内に組み込む必要があり、その保持ができず、組み立てが困難である。
【0007】
一方、スペーサを保持しておくために円筒面にねじ孔など非対称的な加工をして保持するなら、その位置決め精度は保てなくなることが課題である。また輸送に伴う振動でスペーサがずれる心配がある。
【0008】
個々の極子をベース板にピンで固定する方式では、1つの極子につき、調整する量は光軸−極子先端間の距離と、光軸に垂直な面内での極子の方位角の2つである。それらを少なくとも2本のピンで調整する必要がある。あるいは1本のピンで光軸−極子先端間の距離を調整し、方位角はガイドで固定することもできる。いずれにしろ、それらをマイクロメートルオーダーで調整するためには、測定とピンの偏心加工が繰り返し必要になり、非常に手間がかかり、組み立て者の技量に依存して精度が決まる。それゆえ再現性に乏しく、量産することができないという課題がある。
【0009】
一体の極子をベース板に固定後、ワイヤーカッター加工で切り離す方式ではマイクロメーターオーダーの加工精度があり、切り離しによる極子の磁気特性の変化も軽微に留まるよう工夫されている。しかし加工後はベース板と極子を分解すると精度を保持できないため、洗浄が困難である。そのため真空外で使用する磁界型多極子の製造には向いているが、真空中で使用する静電型多極子には適していない。またこの方法で多段の多極子を形成することは難しい。なぜなら、ワイヤーが長くなるのでワイヤーカッター加工で精度を出すのがより困難になるからである。
【0010】
多段連結極子をベースブロックに固定する方式は、極子をワイヤーカッター加工や研削加工で製作するので、簡単にマイクロメートルオーダーの組立て精度が得られ、部品点数も少なく、組み立ても容易である。電界型、磁界型、複合型いずれの多極子にも適用でき、単段ばかりでなく多段多極子の形成も容易であるが、ベースブロックにセラミクスを必要とする静電型多段多極子の場合、高精度な溝加工をしたセラミクス製ベースブロックが高価でありコストの面で課題がある。
【0011】
円筒型セラミクス筒内壁上に設けた金属層で電極を形成する多極子では、機械精度のよい多極子が形成できるが、セラミクス内壁でのチャージアップ、非対称な電圧導入線の電界の影響が出ること、磁界型多極子ができないことなどの課題がある。
【0012】
本出願では組立てが容易かつ調整が不要で、部品点数が少なく、10マイクロメートル以内の組立て精度が得られる多段または単段の多極子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では以下の手段により、上記課題の解決を図る。
金属材を用いて構成された極子部材と、円筒形ハウジングとを備え、その円筒形ハウジングの上端と下端の内壁に光軸と平行に、極子の数だけガイド溝を設ける。このガイド溝に、極子部材を光軸方向にスライドさせながら挿入し、止めネジで極子部材を円筒形ハウジングに固定して多極子を形成する。極子部材として複数の極子を光軸方向に支持部材を介して連結した連結極子部材を使い、多段多極子を形成する。
また極子部材として単体金属の極子、ハウジングとして極子1段分の厚さのスペーサを使い、上記方法で単段の多極子を形成することもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、多極子の内径凹凸、極子毎の角度など、組立て精度:10マイクロメートル以内、角度数秒以内の多極子を実現することができる。なぜなら今日、極子の形状やガイド溝の形状は、ワイヤーカッター加工や研削加工で数マイクロメートルの機械精度で加工することができるので、それらを組み合わせて、前述の組立て精度を得ることが十分可能となる。
【0015】
本発明によれば、多極子を形成するための基本部品は極子と円筒形ハウジングと止めネジだけで調整箇所がないため、組立て作業者の技能に左右されずに、短時間に、再現性良く、機差もほとんどなく多極子を組み立てることが可能である。
【0016】
本発明によれば多極子の構成部品数が少なく、単純な構造なので、装置運搬による振動やコイルによる発熱などで極子が緩むこともなく、安定した装置が提供できる。
【0017】
本発明によれば極子製作時に同一加工条件で予備の極子も製作しておけるので、極子損傷時の極子の入れ替えなどメンテナンス作業が容易に行える。
【0018】
本発明によれば、組立て精度ばかりでなく、構造上、多段の多極子間の方位角のズレも小さく抑えられるので高性能な電子光学装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】本発明の円筒形ハウジングに組み込まれた12極子4段ユニットを示す図である。
【
図3】色・球面収差補正器の構造の一例を示す図である。
【
図4】色・球面収差補正器付走査電子顕微鏡の一例を示す図である。
【
図5】色・球面収差補正器の構造の別の例を示す図である。
【
図6】色・球面収差補正器付測長走査電子顕微鏡の一例を示す図である。
【
図7】球面収差補正器付走査透過型電子顕微鏡の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態について図を用いて説明する。なお以下の各図では同一部分には同一の符号を付し、その重複説明は必要な場合に限り行う。
【実施例1】
【0021】
12極子4段の色・球面収差補正器の一例を複数の図面を用いて説明する。
【0022】
図1は本発明の第一の実施の形態の色・球面収差補正器のうち、その中心部分の12極子4段ユニットの要素のひとつである4連結極子部材7を模式的に示したものである。極子1から極子4の材質は、パーマロイのほか、純鉄、パーメンジュール等の軟磁性金属を用いることができる。これら4個の極子は、アルミナ材の支柱5,6を介してロウ付けにより一体化されて、4連結極子部材7を形成する。極子先端部の傾斜面8は、4連結極子部材7を形成後に4つの極子を同時加工で仕上げて、角度をそろえる。同一の冶具を使い、同一の加工条件で12個の4連結極子部材を仕上げるので、マイクロメートルで同じ形状の4連結極子部材をつくることが可能である。
【0023】
図2は
図1の4連結極子部材を、円筒形ハウジング内に組み込んだ12極子4段ユニットの外観図である。円筒形ハウジング9の開口両端部の内壁部には12本の角溝10が内周に形成されている。4連結極子部材7の傾斜面8の鋭角部分を光軸0側に向けて、円筒形ハウジング9の角溝10に4連結極子部材7を嵌め込み、光軸0方向にスライドさせて12極子を組み立てる。1段目の極子1と4段目の極子4は、角溝10にあけた孔を通してネジ11で円筒形ハウジング9に固定される。円筒形ハウジング9は非磁性金属製で、円筒形ハウジング9断面を貫通する開口の両端部に形成する角溝10は4連結極子部材7の1段目の極子1と4段目の極子4が嵌め込まれるように形成されている。2段目の極子2と3段目の極子3は円筒形ハウジング9に接触しないように、2段目の極子2と3段目の極子3が配置される前記円筒形ハウジング側壁の厚みは肉薄になっている。
【0024】
図3に、
図2で説明した12極子4段ユニットをベースにコイルや磁気ヨークをとりつけた色・球面収差補正器の構造を示す。各極子端部には、円筒形ハウジング9の側壁に設けられた孔18を通して、極子1、2、3、4のシャフト取付穴17にコイル13を巻いた軟磁性金属材のシャフト12の先端の凸部を嵌めこみ、取り付けられる。外磁路リング14には各シャフト12を固定するための孔が開いており、この孔に上記軟磁性金属材のコマ15を嵌めてシャフト12と外磁路リング14を連結して磁路を形成する。このようにして多極子の各段毎に磁路が形成される。2段目と3段目の極子には電界も印加するので、2段目と3段目のコマ15には絶縁スリーブ16をかぶせて外磁路リング14と絶縁する。
【0025】
色収差補正は1、2、3、4段目に磁界4極子場を励起し、同時に2、3段目に磁界4極子場と45°位相のずれた電界4極子場を励起することによりおこなう。球面収差補正は1,2,3,4段目に磁界8極子場を励起することによりおこなう。実際の補正に際しては、各多極子は光軸に対しナノメートルオーダーで機械的に整列させることはできないので、各段に2極子場(偏向器として作用する)を励起し、重畳して各段の4極子場の中心をビームが通るように電気的に調整する。また各段に6極子場を励起して3回非点収差および軸上コマ収差補正をおこなう。
【0026】
図4に、
図3の色・球面収差補正器を真空容器に入れて、走査型電子顕微鏡(以下、SEMと称す)に組み込んだ一例を示す。このSEMは電子線を試料上に照射ないし走査させるSEMカラム301、試料ステージが格納される試料室302、SEMカラム301や試料室302の各構成部品を制御するための制御ユニット303等により構成されている。ここではイオンポンプやターボ分子ポンプと真空配管,真空系制御機構についての図示,説明は省略している。制御ユニット303には、更に、所定の情報を格納するためのデータストレージ376や取得画像を表示するモニタ377、装置と装置ユーザとのマン・マシンインタフェースとなる操作卓378が接続されている。操作卓378は、例えば、キーボードやマウスなどの情報入力手段により構成される。
【0027】
初めに、SEMカラム301内部の構成要素について説明する。電界放出電子源31はタングステンの単結晶先端を電界研磨して尖らせた電子源で、フラッシング電源32により通電加熱して表面を清浄にした後,10
−8Pa台の超高真空中にて引き出し電極34との間に+5kV程度の電圧を引き出し電源33で印加することにより、電界放出電子を放出させる。引き出し電極34と第2陽極35との間で形成される静電レンズにより加速、収束された電子は、光軸0に沿って後段の構成要素へ入射する。第1コンデンサーレンズ320で収束され、可動絞り321にてビーム量を制限され、第2コンデンサーレンズ322および2段偏向器323を通り、収差補正器20に入射する。2段偏向器323は、電界放出電子銃310および,コンデンサーレンズ320,322の軸と収差補正器20の軸が一致するように調整される。収差補正器20を出たビームは、2段偏向器334により調整レンズ324、対物レンズ331の光軸に一致するよう調整される。
【0028】
次に、収差補正器の動作について説明する。本実施例の収差補正器20は、4極―8極子系収差補正器であり、色収差と球面収差が補正可能である。収差補正器20の各段で4極子、8極子を形成するが、これに12極の磁極(電極を兼ねてもよい)を用いると、4極子、8極子のほか、2極子、6極子、12極子も重畳して形成可能である。電極、磁極の組み立て誤差、磁極材料の不均一性により生じる寄生収差たとえば軸上コマ収差,3回非点収差,4回非点収差などを補正するためにこれらの多極子場を使用する。
【0029】
収差補正器20により主に対物レンズ331の色収差、球面収差を相殺するに相当する離軸に応じた角度を調整された電子ビームは、調整レンズ324により一度ExB偏向器327近傍に集束される。ExB偏向器近傍にクロスオーバを形成するのは、ExB偏向器327の収差の影響を小さくするためである。また、調整レンズ324により、色収差、球面収差補正後の4次の色・球面組み合わせ収差や5次球面収差の増大も抑制される。よって、収差補正で高分解能像を得るためには、調整レンズ324が必要である。その後、電子ビームは、対物レンズ331にて試料332上に集束され、走査偏向器329にて試料上を走査される。符号328は対物アライナである。
【0030】
試料室302内部には、試料332を載置する試料載置面を備えた試料ステージ333が格納されている。電子線照射により発生する2次荷電粒子(この場合は2次電子または反射電子)は、対物レンズ331を抜けて、反射板325に当たり副次粒子を発生させる。発生した電子は、2次電子検出器326で検出される。ExB偏向器327は、試料から発生する2次電子の軌道を曲げて2次電子検出器326に直接導き、あるいは試料から発生する2次電子が反射板325に当たる位置を調整し検出効率を向上させる。検出された2次電子信号は、走査と同期した輝度信号として制御コンピュータ30に取り込まれる。制御コンピュータ30は、取り込んだ輝度信号情報に対して適当な処理を行い、モニタ377上にSEM画像として表示される。検出器はここでは1つしか図示していないが、反射電子や2次電子のエネルギーや角度分布を選別して画像取得できるように、複数配置することもできる。中心に孔のあいた同軸円板状の2次電子検出器を光軸0上に配置すれば反射板325は必ずしも必要ではない。
【0031】
制御ユニット303は、フラッシング電源32,引き出し電源33、加速電源36、第1コンデンサーレンズ電源340、第2コンデンサーレンズ電源341、調整レンズ電源351、偏向器電源342、収差補正コイル電源343、収差補正電圧源3431、走査コイル電源344、対物レンズ電源345、リターディング電源346、非点補正コイル電源347、対物アライナー電源348、ExB偏向器電源349,2次電子検出器電源350等により構成され、それぞれSEMカラム内の対応する構成要素と、信号伝送路や電気配線等で接続されている。
【0032】
真空容器352は磁気シールドを兼ねるのでパーマロイなどの軟磁性金属で作るか、非磁性金属で作成し表面にパーマロイの薄板で磁気シールドを形成する。収差補正器20に対して、各段に4極子および8極子を形成するよう、コイル電源が接続される。コイル13には4極子形成用と8極子形成用のコイルを分離して巻くこともできる。この場合は4極子用コイル電源と8極子用コイル電源は独立に用意する。分離巻きしない場合には各極子に1つのコイル電源が対応し、4極子場や8極子場を形成するように制御コンピュータ30が各極子のコイル電源の出力電流を計算して、そのように収差補正コイル電源343に電流を出力させる。また2,3段目極子に印加する電圧も、同様に制御コンピュータ30により計算され、収差補正電圧源3431により出力される。
【0033】
収差補正器20の収差調整量を決めるには収差補正する以前に、系の収差測定をする必要がある。このためには2段偏向器323でビームを、収差補正器の光軸の周りを一定の方位角(たとえば30°刻みで12分割など)で移動させ、各場合のSEM画像を解析して収差を計測することができる。この複数のSEM画像データは制御コンピュータ30に取り込まれ、収差を計算する。次に制御コンピュータ30は計算された収差を相殺するように収差補正コイル電源343、収差補正電圧源3431の出力を計算し、これらの電源に命令を出して収差を補正する。再び収差を計測して、その値に基づきまた収差補正量を計算して電源に出力させる。このプロセスを何回かマニュアルまたは自動で繰り返して、系のすべての収差量があらかじめ設定したしきい値以下になったら、収差補正が完了する。調整レンズ324の設定条件の一つとして、収差補正器20の4段目の極子主面の像を対物レンズ331の主面に投影すると、5次収差の影響を小さく抑えることができることが知られている。実際にはビーム開き角との兼ね合いで5次収差の影響は大きく変化するので、厳密にその条件で調整レンズ324を動作させる必要はなく、これに近い条件で運用すればよい。
【実施例2】
【0034】
第二の実施例として
図5に、12極子4段の電界4極子を主体とした色球面収差補正器を示す。この場合は4段の極子がすべて絶縁されている必要があるので、ロウ付け極子部材としては4個の極子の上下に溝10へ固定用の金具21、22を加える。これにより4つの極子はすべてハウジングと絶縁される。1段目と4段目は電圧源のみ接続し、2,3段目の極子は電磁界複合型極子であり、磁場発生のためのコイルが外磁路リング14の内側に配置される。絶縁スリーブ16を介してコマ15を外磁路リング14の穴にはめ込み、シャフト12と連結する。極子をぬけた磁場は外磁路リング14内をまわって磁気回路を形成する。2,3段目の極子は絶縁スリーブ16により外磁路や鏡体、他の極子とも絶縁される。以上のようにして電界4極子を主体とした色球面収差補正器が形成される。
【0035】
図6に上記
図5の収差補正器を搭載した測長SEM(CD−SEM)の概略図を示す。ここでは
図5の収差補正ユニットのうち、コイル12と外磁路リング14を真空外に出した例を示している。これにより大きな磁気シールド25が必要になるが、発熱源のコイルが自然冷却されて磁極の熱ドリフトが小さくなる。またコイルにアクセスできるので、コイルの断線修理や巻き数変更などメンテナンスが容易になるという特徴がある。
図6に示した構成は、
図4の構成と共通する部分が多いので、構造の異なる部分のみ説明する。本実施例ではショットキー電子銃40を使用する。ショットキー電子源41はタングステンの単結晶に、酸素とジルコニウムなどを拡散させショットキー効果を利用する電子源で、その近傍にサプレッサー電極42、引き出し電極34が設けられる。ショットキー電子源41を加熱し、引き出し電極34との間に+2kV程度の電圧を印加することにより、ショットキー電子を放出させる。サプレッサー電極42には負電圧が印加されショットキー電子源41の先端以外からの電子放出を抑制する。電界放出電子銃に比べて,エネルギー幅や光源径は大きくなるが,プローブ電流が多くとれ,フラッシングの必要がなく連続運転に適している。
【0036】
本実施例のCD−SEMでは半導体ウェハー上のレジストパターンなどを計測するので,試料ダメージの観点から、通常はランディングエネルギーを1keV以下に抑えて使用する。CD−SEMではワーキングディスタンスが一定であり,ランディングエネルギーの異なる2,3の観察モードに対応した収差補正器の動作条件やリターディング電圧値等がデータストレージ376に格納されており,オペレータの選択により制御コンピュータ30が選択された動作条件を呼び出して,各電源を条件設定して観察モードを実行する。試料室302にはウェハーを搬入するための試料準備室401が設けられ,ゲートバルブ403を通ってウェハー試料が試料搬送機構402で試料ステージ333にセットされる。あらかじめ入力された計測箇所について制御コンピュータ30は試料ステージ制御機構404を制御してステージ移動をおこない、対物レンズ331でフォーカスをあわせ、非点補正コイル330で非点収差を補正し、走査偏向器329、2次電子検出器326などを制御して、測長,データ記録,画像取得,データ格納などの動作を自動で行う。
【実施例3】
【0037】
第三の実施例として走査透過電子顕微鏡(STEM)を構成した例を
図7に示す。STEM用の荷電粒子光学カラムは、電子ビームを発生し所定の加速電圧で放出する電子銃310、試料上に電子ビームを走査する走査偏向器329、電子ビームを試料上に収束して照射するための対物レンズ331、試料を透過した電子線を検出するためのアニュラー検出器355、軸上検出器357などにより構成される。透過電子を検出する必要があるためSTEM用の試料は薄片化されている必要があり、メッシュなどに固定された状態で、サイドエントリ試料ホールダ336により電子線の光軸上に配置される。
【0038】
高加速電圧のSTEMでは色収差より球面収差で分解能が主に制限されており、球面収差のみを補正する場合には電磁重畳極子を使う必要がなく、すべて磁界型多極子を使用する。STEM用球面収差補正器は、例えば、電子銃と対物レンズの間に配置される。本実施例の収差補正器20は、上下の6極子(または12極子)とその間にトランスファーレンズ360を2段配置した構成の球面収差補正器である。上下の極子の位置決めを前述のように円筒形ハウジング9の角溝と極子1,2のはめ合いでおこなう。3個のスペーサ361にて2個のトランスファーレンズ360の位置を決める。スペーサ361には円筒形ハウジング9の角溝にはめ込む四角い突起がついており、容易に組立てができる。
【符号の説明】
【0039】
0…光軸、1…極子,2…極子,3…極子,4…極子、5…アルミナ支柱、6…アルミナ支柱、7…4連結極子部材、8…傾斜面、9…円筒形ハウジング、10…角溝、11…ネジ、12…シャフト、13…コイル、14…外磁路リング、15…コマ、16…絶縁スリーブ、17…シャフト取付穴、18…シャフト貫通孔、20…収差補正器、21…金具,22…金具、25…パーマロイシールド、30…制御コンピュータ、31…電界放出電子源、32…フラッシング電源、33…引き出し電源、34…引き出し電極、35…第2陽極、36…加速電源、301…SEMカラム、302…試料室、303…制御ユニット、310…電界放出電子銃、320…第1コンデンサーレンズ、321…可動絞り、322…第2コンデンサーレンズ、323…2段偏向器、324…調整レンズ、325…反射板、326…2次電子検出器、327…ExB偏向器、328…対物アライナー、329…走査偏向器、330…非点補正コイル、331…対物レンズ、332…試料、333…試料ステージ、334…2段偏向器、335…偏向器電源、336…サイドエントリ試料ホールダ340…第1コンデンサーレンズ電源、341…第2コンデンサーレンズ電源、342…偏向器電源、343…収差補正コイル電源、3431…収差補正電圧源、344…走査コイル電源、345…対物レンズ電源、346…リターディング電源、347…非点補正コイル電源、348…対物アライナー電源、349…ExB偏向器電源、350…2次電子検出器電源、351…調整レンズ電源、352…真空容器、353…投射レンズ、354…投射レンズ電源、355…アニュラー検出器、356…アニュラー検出器電源、357…軸上検出器、358…軸上検出器電源、360…トランスファーレンズ、361…スペーサ、376…データストレージ、377…モニタ、378…操作卓、40…ショットキー電子銃、41…ショットキー電子源、42…サプレッサー電極、44…第一陽極、401…試料準備室、402…試料搬送機構、403…ゲートバルブ、404…試料ステージ制御機構、