(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
太陽電池の受光面電極を形成するために用いられるガラスフリットについては、焼成により確実に受光面電極を形成できるように、また半導体基板と受光面電極との間に接触抵抗を増加させる過度な厚みのガラス層を形成しないように、焼成時のガラス流動性が低すぎず、また高すぎず、適度なものであることが求められる。
【0009】
また、受光面電極の形成においては、焼成時に半導体基板のSiと、導電性ペーストに含まれるガラスフリットの金属酸化物とが反応してこの金属酸化物が還元され、これに導電性ペーストに含まれる導電性銀粉末の一部が共融し、その後に冷却されることで再び銀が析出し、実質的に半導体基板と導電性銀粉末とが接触する。このとき、析出する銀が半導体基板のn型Si系半導体層のみに接触し、p型Si系半導体層に接触しなければ、半導体基板と受光面電極との間の接触抵抗やリーク電流が小さくなり好ましい。
【0010】
析出する銀を半導体基板のn型Si系半導体層のみに接触させ、p型Si系半導体層に接触させないためには、銀の析出が少なすぎず、また多すぎず、適度なものである必要があり、このためには前提となる半導体基板のSiとガラスフリットとの反応性(以下、Si反応性という)が低すぎず、また高すぎず、適度なものである必要がある。
【0011】
従来の鉛を含有するガラスフリットについては、焼成により適度なガラス流動性を示すために、受光面電極を確実に形成でき、またガラス層が過度に厚くなることも抑制でき、接触抵抗の小さいものとすることができる。また、適度なSi反応性を示すために、析出する銀を半導体基板のn型Si系半導体層のみに接触させ、p型Si系半導体層には接触させないものとすることができ、接触抵抗やリーク電流の小さいものとすることができる。
【0012】
しかし、鉛を含有しないガラスフリットについては、粉状のまま焼結しない場合があり、また焼結したとしても、ガラス流動性が小さすぎるために、半導体基板と受光面電極との接合強度が十分でない場合があり、また反対にガラス流動性が大きすぎるために、半導体基板と受光面電極との間に過度な厚みのガラス層が形成され、接触抵抗が大きくなる場合がある。さらに、必ずしも適度なSi反応性を示さないことから、析出する銀が半導体基板のn型Si系半導体層に接触せず、あるいはこのn型Si系半導体層を超えてp型Si系半導体層に接触し、接触抵抗やリーク電流が大きくなる場合がある。
【0013】
また、太陽電池は一般に屋外で長期間使用されることが多いことから、このようなものに用いられるガラスフリットについては耐水性等の信頼性に優れることが求められる。この点、従来の鉛を含有するガラスフリットについては良好な耐水性等を有するものの、鉛を含有しないガラスフリットについては必ずしも十分な耐水性等を有していない。
【0014】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、太陽電池の受光面電極を形成するために用いられる鉛を含有しない電極形成用ガラスフリットであって、適度なガラス流動性およびSi反応性を有し、また耐水性も十分なものを提供することを目的としている。また、本発明は、太陽電池の受光面電極を形成するために用いられる電極形成用導電ペーストであって、上記した本発明の電極形成用ガラスフリットを含有するものを提供することを目的としている。さらに、本発明は、上記した本発明の電極形成用導電ペーストを用いて製造される太陽電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の電極形成用ガラスフリットは、太陽電池の受光面電極を形成するために用いられるものであって、SiO
2を3mol%以上20mol%以下、Bi
2O
3を10mol%以上40mol%以下、B
2O
3を15mol%以上45mol%以下、ZnOを10mol%以上60mol%以下、およびTiO
2を2mol%以上10mol%以下含有し、かつBi
2O
3およびZnOの合計した含有量が35mol%以上70mol%以下であ
り、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化鉄、および酸化アルミニウムを含まないことを特徴とする。
【0016】
本発明の電極形成用ガラスフリットにおいては、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化鉄、および酸化アルミニウムを含有させないものとする。また、本発明の電極形成用ガラスフリットにおいては、700℃でのガラス流動性を表すフローボタン径が20mm以上32mm以下であることが好ましく、抽出水導電率が20μS/cm以下であることが好ましく、DTA(示差熱分析)を利用して求められるSi反応性が2以上9以下であることが好ましい。
【0017】
本発明の電極形成用導電ペーストは、導電性銀粉末、ガラスフリット、および有機ビヒクルを含有し、太陽電池の受光面電極を形成するために用いられるものであって、前記ガラスフリットとして上記した本発明の電極形成用ガラスフリットを含むことを特徴とする。
【0018】
本発明の太陽電池は、半導体基板と、前記半導体基板の受光面側に設けられる受光面電極と、前記半導体基板の裏面側に設けられる裏面電極とを有するものであって、前記受光面電極が上記した本発明の電極形成用導電ペーストの焼付けにより形成されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、電極形成用ガラスフリットの組成を所定のものとすることで、適度なガラス流動性およびSi反応性、ならびに十分な耐水性を有し、太陽電池の受光面電極を形成するために好適な電極形成用ガラスフリットとすることができる。
【0020】
また、本発明によれば、このような電極形成用ガラスフリットを用いて電極形成用導電ペーストとすることで、太陽電池の受光面電極を形成するために好適な電極形成用導電ペーストとすることができる。
【0021】
さらに、本発明によれば、このような電極形成用導電ペーストの焼付けにより受光面電極を形成して太陽電池とすることで、変換効率や耐水性等の信頼性に優れる太陽電池とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の電極形成用ガラスフリットは、太陽電池の受光面電極を形成するために用いられるものであって、SiO
2を3mol%以上20mol%以下、Bi
2O
3を10mol%以上40mol%以下、B
2O
3を15mol%以上45mol%以下、ZnOを10mol%以上60mol%以下、およびTiO
2を2mol%以上10mol%以下含有し、かつBi
2O
3およびZnOの合計した含有量が35mol%以上70mol%以下であることを特徴とする。
【0024】
上記した本発明の電極形成用ガラスフリットの組成の各成分の説明及びそれらの含有割合(mol%表示)について、以下に説明する。
SiO
2は、ガラス形成成分であり、他のガラス形成成分であるB
2O
3と共存させることにより安定したガラスを形成させると共に、耐水性を向上させるために含有させる。このSiO
2は、電極形成用ガラスフリット中に3mol%以上20mol%以下の割合で含有させる。SiO
2の含有量が3mol%未満であると、耐水性が不十分となるおそれがある。一方、SiO
2の含有量が20mol%を越えると、ガラスの軟化点が高くなるために流動性が低下し、半導体基板と受光面電極との接合強度が十分なものとならないおそれがある。SiO
2の好ましい含有量は4mol%以上19mol%以下であり、より好ましい含有量は5mol%以上18mol%以下である。
【0025】
Bi
2O
3は、ガラスの軟化流動性を向上させ、半導体基板と受光面電極との接合強度を向上させるために含有させる。このBi
2O
3は、電極形成用ガラスフリット中に10mol%以上40mol%以下の割合で含有させる。Bi
2O
3の含有量が10mol%未満であると、ガラスの軟化点が高くなるために流動性が低下し、半導体基板と受光面電極との接合強度が十分なものとならないおそれがある。一方、Bi
2O
3の含有量が40mol%を超えると、ガラスの流動性が高くなりすぎ、半導体基板と受光面電極、特に導電性銀粉末との間のガラス層が厚くなり、これらの接触抵抗が大きくなりやすい。Bi
2O
3の好ましい含有量は12mol%以上37mol%以下であり、より好ましい含有量は15mol%以上35mol%以下である。
【0026】
B
2O
3は、ガラス形成成分であり、他のガラス形成成分であるSiO
2と共存させることにより安定したガラスを形成させるために含有させる。このB
2O
3は、電極形成用ガラスフリット中に15mol%以上45mol%以下の割合で含有させる。B
2O
3の含有量が15mol%未満であると、ガラスの形成が困難となるおそれがある。一方、B
2O
3の含有量が45mol%を超えると、耐水性が十分でなくなるおそれがある。B
2O
3のより好ましい含有量は15mol%以上43mol%以下であり、より好ましい含有量は15mol%以上40mol%以下である。
【0027】
ZnOは、ガラスを安定化させるために含有させる。このZnOは、電極形成用ガラスフリット中に10mol%以上60mol%以下の割合で含有させる。ZnOの含有量が10mol%未満であると、失透し、ガラスが得られないおそれがある。一方、ZnOの含有量が60mol%を超えると、結晶化により、ガラスが得られないおそれがある。ZnOのより好ましい含有量は12mol%以上55mol%以下であり、より好ましい含有量は13mol%以上50mol%以下である。
【0028】
TiO
2は、過度なガラス流動性およびSi反応性を抑制するために含有させる。このTiO
2は、電極形成用ガラスフリット中に2mol%以上10mol%以下の割合で含有させる。TiO
2の含有量が2mol%未満であると、過度なガラス流動性およびSi反応性を抑制できないおそれがある。一方、TiO
2の含有量が10mol%を超えると、失透し、ガラスが得られないおそれがある。TiO
2のより好ましい含有量は2mol%以上9mol%以下であり、より好ましい含有量は2mol%以上8mol%以下である。
【0029】
上記したBi
2O
3とZnOとは、上記したそれぞれの含有量の範囲内において、さらにそれらの合計量、すなわちBi
2O
3とZnOとの合計した含有量が35mol%以上70mol%以下となるように含有させる。Bi
2O
3とZnOとの合計した含有量が35mol%未満、または70mol%を超える場合、Bi
2O
3、ZnOのそれぞれの含有量が上記した適正範囲内にあっても、必ずしもガラス流動性およびSi反応性が適度なものとならず、また耐水性も十分なものとならないおそれがある。Bi
2O
3およびZnOの合計した含有量のより好ましい範囲は、37mol%以上68mol%以下である。
本発明の太陽電池の受光面電極を形成するために用いられる電極形成用ガラスフリットにおいて、より好ましいガラスフリットの組成は、SiO
2を4mol%以上19mol%以下、Bi
2O
3を12mol%以上37mol%以下、B
2O
3を15mol%以上43mol%以下、ZnOを12mol%以上55mol%以下、TiO
2を2mol%以上9mol%以下、含有し、かつBi
2O
3およびZnOの合計した含有量が37mol%以上68mol%以下である。
【0030】
本発明の電極形成用ガラスフリットには、上記した必須成分としてのSiO
2、Bi
2O
3、B
2O
3、ZnO、およびTiO
2に加え、追加の酸化物を含有させることができる。追加の酸化物としては、例えばV
2O
5、MnO
2、CoO、NiO、P
2O
5、CuO、ZrO
2、CeO
2、La
2O
3、SnO
2等を挙げることができる。これらは1種のみを含有させてもよいし、2種以上を含有させてもよく、電極形成用ガラスフリット中の合計した含有量が10mol%以下の割合となるように含有させることができる。
【0031】
なお、本発明の電極形成用ガラスフリットには、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、および酸化鉄のいずれも含有させないものとする。これらを含有させた場合、受光面電極を形成するための焼成時、これらの金属成分が半導体基板中に不純物として拡散し、太陽電池の変換効率を低下させるおそれがある。
【0032】
また、本発明の電極形成用ガラスフリットには、酸化アルミニウム(Al
2O
3)も含有させないものとする。酸化アルミニウムを含有させた場合についても、受光面電極を形成するための焼成時、Al(アルミニウム)元素が半導体基板中に拡散し、n層に存在するP(リン)元素の効果を相殺し、太陽電池の変換効率を低下させるおそれがある。
【0033】
本発明の電極形成用ガラスフリットによれば、必須成分としてSiO
2、Bi
2O
3、B
2O
3、ZnO、およびTiO
2を所定量含有し、実質的にアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化鉄、および酸化アルミニウムを含有しないものとすることで、接触抵抗やリーク電流の小さい受光面電極を形成するために必要とされる適度なガラス流動性およびSi反応性、また十分な耐水性を有するものとすることができる。
【0034】
具体的には、700℃でのガラス流動性を表すフローボタン径が20mm以上32mm以下であり、DTA(示差熱分析)を利用して求められるSi反応性が2以上9以下であり、耐水性の指標となる抽出水導電率が20μS/cm以下であるものを得ることができる。
【0035】
フローボタン径は、電極形成用ガラスフリットのガラス流動性を表す指標となるものであり、具体的には受光面電極を形成するための焼成時の電極形成用ガラスフリットのガラス流動性を表す指標となるものである。フローボタン径(700℃)が20mm未満であると、ガラス流動性が小さすぎるために、半導体基板と受光面電極との間の接合強度が十分でなくなるおそれがある。一方、フローボタン径(700℃)が32mmを超えると、ガラス流動性が大きすぎるために、半導体基板と受光面電極、特に導電性銀粉末との間のガラス層が厚くなり、接触抵抗が大きくなるおそれがある。
【0036】
このフローボタン径は、測定対象となる電極形成用ガラスフリットの所定量を加圧成形して直径12.7mm(1/2インチ)の円柱状の評価用成形体とし、これを700℃で10分間保持して流動させた後、その直径を測定して求められるものである。
【0037】
抽出水導電率は、電極形成用ガラスフリットの信頼性、具体的には耐水性の指標となるものである。抽出水導電率が20μS/cmを超えると、電極形成用ガラスフリットからの構成成分の溶出が多すぎるために耐水性が十分でないおそれがある。この抽出水導電率は、イオン交換水の割合が99vol%、電極形成用ガラスフリットの割合が1vol%となるように、イオン交換水に電極形成用ガラスフリットを加え、25℃で60分間振盪して抽出水を調製した後、この抽出水について導電率を測定することにより求められるものである。
【0038】
Si反応性は、電極形成用ガラスフリットのSiとの反応性を表す指標となるものである。Si反応性が2未満の場合、Si反応性が小さすぎるために、受光面電極を形成する際、この反応を利用する銀の析出が十分でなく、半導体基板、特にn型Si系半導体層と導電性銀粉末とが接触せず、接触抵抗が大きくなるおそれがある。一方、Si反応性が9を超える場合、Si反応性が大きすぎるために、受光面電極を形成する際、この反応を利用する銀の析出が過度に多くなり、半導体基板のp型Si系半導体層と導電性銀粉末とが接触し、リーク電流が大きくなるおそれがある。なお、このSi反応性は、組成が異なる電極形成用ガラスフリットについてSiとの反応性を評価するために便宜的に用いたものであり、必ずしも物理的な意味を有するものではない。
【0039】
このSi反応性は以下のようにして求められるものである。まず、電極形成用ガラスフリット82vol%とSi粉末18vol%とを混合した評価用混合粉について、800℃で10分間の熱処理を行って評価用ガラスを得る。その後、この評価用ガラスについて、DTA(示差熱分析)により、前記した熱処理により電極形成用ガラスフリット中の金属酸化物が還元されて析出した金属の融点に起因する吸熱ピークのデータを収集し、そのピーク面積を求める。
【0040】
図1は、このようにして測定された吸熱ピークPと、そのピーク面積Sとの一例を模式的に示したものである。ピーク面積Sは、具体的にはベースラインL
1をピーク部分に延長した略直線状の仮想ベースラインL
2と、吸熱ピークPを示す曲線とで囲まれた部分の面積である。通常、ピーク面積Sは、DTAの測定機器に付随する機能により容易に求めることができる。
【0041】
このようにして求められたピーク面積を評価用ガラスの比重で割った後、さらに上記した金属(電極形成用ガラスフリット中の金属酸化物が還元されて析出した金属)の融解熱で割ることにより、Si反応性となる値を算出することができる。なお、評価用ガラスの比重は、評価用混合粉の混合比から算出することができ、平均比重とも呼ぶべきものである。
【0042】
このような電極形成用ガラスフリットは、上記した必須成分であるSiO
2、Bi
2O
3、B
2O
3、ZnO、およびTiO
2を上記した組成割合となるように各成分の原料粉末を所定の割合で配合し、必要に応じてV
2O
5、MnO
2、CoO、NiO、P
2O
5、CuO、ZrO
2、CeO
2、La
2O
3、SnO
2等の追加の成分の原料粉末も配合し、十分に混合した後、例えば1200℃以上1400℃以下の温度にて、10分以上120分以下の時間、溶融して所望のガラスを得る。その後、得られたガラスを、さらに冷却、粉砕することによりガラスフリットを容易に得ることができる。
【0043】
このようにして得られる電極形成用ガラスフリットは、例えば質量平均粒径D
50が0.5μm以上15μm以下であることが好ましい。質量平均粒径D
50が0.5μm未満であると、保存安定性が低下するおそれがあるために好ましくない。一方、質量平均粒径D
50が15μmを超えると、焼結性が低下するおそれがあるために好ましくない。本明細書での平均粒径D
50は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定したものをいう。
【0044】
本発明の電極形成用導電ペーストは、このような本発明の電極形成用ガラスフリットを含有するものである。具体的には、導電性銀粉末、ガラスフリット、および有機ビヒクルを含有するものであり、このガラスフリットの少なくとも一部、好適には全部が本発明の電極形成用ガラスフリットからなるものである。なお、ここにおいて導電性銀粉末とは、導電性の銀合金の粉末も含むものである。
【0045】
電極形成用導電ペーストに含有させる導電性銀粉末としては、球状のものであってもよいし、鱗片状のものであってもよく、その形状は特に限定されるものではない。また、導電性銀粉末は、1種の形状のみからなるものであってもよいし、複数種の形状からなるものであってもよい。導電性銀粉末の大きさも特に限定されるものではないが、例えば質量平均粒径D
50が0.1μm以上15μm以下のものを好適に用いることができる。質量平均粒径D
50が15μmを超えると、半導体基板と受光面電極、特に導電性銀粉末との接触が不十分となり、接触抵抗が大きくなるおそれがある。
【0046】
有機ビヒクルとしては、この種の電極形成用導電ペーストに一般に用いられる有機樹脂バインダーを用いることができ、例えばエチルセルロース、ニトロセルロース等を用いることができる。
【0047】
本発明の電極形成用導電ペーストには、上記した導電性銀粉末、ガラスフリット、および有機ビヒクルに加え、必要に応じて、かつ本発明の目的に反しない限度において公知の添加剤を配合することができる。
【0048】
このような添加剤としては、例えばZnO、TiO
2、Ag
2O、WO
3、V
2O
5、Bi
2O
3、ZrO
2等の無機酸化物を用いることができる。これらの無機酸化物は、導電性ペーストの焼成に際し、半導体基板表面に予め形成されている反射防止膜の分解を促進し、受光面電極と半導体基板との接触抵抗を低めるように作用する。これらの無機酸化物からなる添加剤の大きさは特に限定されるものではないが、例えば質量平均粒径D
50が1.0μm以下のものを好適に用いることができる。
【0049】
また、添加剤としては、例えば金属または金属化合物を含むレジネートを用いることができ、この金属または金属化合物としては、例えばZn、Bi、およびTiから選ばれる少なくとも1種の金属または金属化合物を用いることができる。金属または金属化合物をレジネートの形態で導電性ペーストに添加することにより、無機粉末で添加する場合と比較して、金属成分をより均一に分散させることができる。
【0050】
電極形成用導電ペーストは、例えば有機ビヒクルとしての有機樹脂バインダーを溶媒に溶解させて得られる有機ビヒクル溶液に、導電性銀粉末、ガラスフリット、必要に応じて加えられる無機酸化物等の添加剤を加え、十分に混練することにより調製することができる。
【0051】
電極形成用導電ペーストにおけるガラスフリットの含有量は、例えば導電性銀粉末100質量部に対して1質量部以上8質量部以下とすることが好ましい。ガラスフリットの含有量が1質量部未満であると半導体基板と受光面電極との接合強度が十分でなくなるおそれがある。一方、ガラスフリットの含有量が8質量部を超えると、半導体基板と受光面電極、特に導電性銀粉末との接触が十分でなくなり、接触抵抗が大きくなるおそれがある。
【0052】
また、電極形成用導電ペーストにおける有機ビヒクルの含有量は、例えば導電性銀粉末100質量部に対して10質量部以上25質量部以下とすることが好ましい。有機ビヒクルの含有量が10質量部未満であるとペースト化が困難となるおそれがある。一方、有機ビヒクルの含有量が25質量部を超えると、スクリーン印刷時ににじみが生じるおそれがある。
【0053】
さらに、添加剤として無機酸化物を含有させる場合、その含有量は、例えば導電性銀粉末100質量部に対して3質量部以上15質量部以下とすることが好ましい。無機酸化物の含有量が3質量部未満であると、無機酸化物からなる添加剤を含有させることによる効果を十分に得ることができないおそれがある。一方、無機酸化物からなる添加剤の含有量が15質量部を超えると、電極形成用導電ペーストの焼結を阻害するおそれがある。
【0054】
また、添加剤として金属または金属化合物を含むレジネートを含有させる場合、その含有量は、例えば導電性銀粉末100質量部に対して8質量部以上16質量部以下とすることが好ましい。
【0055】
本発明の太陽電池は、このような電極形成用導電ペーストの焼付けにより受光面電極が形成されたものである。
図2は、本発明の太陽電池1の一例を示す模式的断面図である。
【0056】
太陽電池1は、p型Si系半導体層11aの受光面側(図中、上側)に、P(リン)等の熱拡散によってn型Si系半導体層11bが形成された半導体基板11を有する。この半導体基板11の受光面側には、本発明の電極形成用導電ペーストの焼付けにより形成された受光面電極12が形成されている。また、この半導体基板11の受光面側には、受光面電極12を除くようにして反射防止膜13が略全面に形成されている。反射防止膜13は、入射光に対する表面反射率を低下させ、太陽電池1の変換効率を向上させるために設けられており、例えば窒化シリコン、酸化チタン、酸化シリコン等からなるものとされている。
【0057】
一方、半導体基板11の裏面側には、アルミニウム裏面電極14が形成されると共に、このアルミニウム裏面電極14が接する半導体基板11の表面部分に裏面電界(BSF)層と呼ばれるp
+層11cが形成されている。また、アルミニウム裏面電極14は他の太陽電池と相互接続するためのはんだ付けが困難であることから、このアルミニウム裏面電極14上にははんだ付けを可能とするための銀または銀/アルミニウム裏面電極15が形成されている。
【0058】
このような太陽電池1は、受光面電極12の形成に上記した本発明の電極形成用導電ペーストを用いる以外は、公知の太陽電池の製造方法を適用して製造することができる。
【0059】
すなわち、p型基板を用い、例えばオキシ塩化リン(POCl3)を使用してP(リン)を拡散させることにより、p型Si系半導体層11aの受光面側にn型Si系半導体層11bが形成された半導体基板11を得る。この半導体基板11の受光面側の略全面には、例えば窒化シリコン、酸化チタン、酸化シリコン等からなる反射防止膜13を形成する。反射防止膜13の形成は、例えば低圧CVD、プラズマCVD、熱CVD等により行うことができる。
【0060】
次に、この反射防止膜13が形成された半導体基板11の受光面側に、本発明の電極形成用導電ペーストを所定の形状にスクリーン印刷して乾燥させる。また、半導体基板11の裏面側には、アルミニウム裏面電極14となる裏面アルミニウムペーストをスクリーン印刷し、さらに銀または銀/アルミニウム裏面電極15となる裏面銀ペーストをスクリーン印刷し、乾燥させる。
【0061】
その後、半導体基板11を例えば600℃以上900℃以下の温度で焼成する。これにより、受光面側の電極形成用導電ペーストが焼結して受光面電極12となると共に、反射防止膜13に浸透し、半導体基板11のn型Si系半導体層11bと受光面電極12、特に導電性銀粉末とが電気的に接触する。
【0062】
一方、裏面側の裏面アルミニウムペーストも焼成されてアルミニウム裏面電極14となると共に、裏面アルミニウムペーストから半導体基板11へとアルミニウムが不純物として拡散し、これにより高濃度のアルミニウムドーパントを含有するp
+層11cが形成される。また、同時に裏面銀ペーストが焼成され、銀または銀/アルミニウム裏面電極15となる。
【0063】
この際、受光面側の電極形成用ガラスフリットが適度なガラス流動性を有するために、半導体基板11と受光面電極12との間の接合強度が十分となり、またこれらの間の過度なガラス層の生成も抑制され、接触抵抗の小さいものとなる。また、電極形成用ガラスフリットが適度なSi反応性を有するために、半導体基板11のn型Si系半導体層11bのみに接触するように銀が析出し、半導体基板11のn型Si系半導体層11bと受光面電極12、特に導電性銀粉末とが良好に接触し、接触抵抗やリーク電流の小さいものとなる。さらに、電極形成用ガラスフリットが十分な耐水性を有するために、受光面電極12の耐水性も十分なものとなる。これにより、変換効率、信頼性に優れる太陽電池1とすることができる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明について実施例を参照してさらに詳細に説明する。
【0065】
(実施例1〜18、比較例1〜13)
実施例1〜18および比較例1〜13の電極形成用ガラスフリットとして、表1に示す組成を有するものを製造した。すなわち、表1に示す組成となるように原料粉末を配合、混合し、1200〜1400℃の電気炉中で白金ルツボを用いて1時間溶融し、薄板状ガラスを成形した。その後、この薄板状ガラスをボールミルで粉砕し、質量平均粒径D
50が0.5〜1.5μmとなるように気流分級装置で分級することで、実施例1〜18および比較例1〜13の電極形成用ガラスフリットを製造した。
【0066】
ここで、比較例1〜13の電極形成用ガラスフリットはいずれも鉛を含有しないものであり、特に比較例1〜7の電極形成用ガラスフリットはSiO
2の含有量が多いものであり、比較例8〜13の電極形成用ガラスフリットはSiO
2の含有量が比較的少なく、かつTiO
2を含有しないものである。また、表1には、実施例および比較例の電極形成用ガラスフリットの評価基準となるものとして、鉛を含有する一般的な電極形成用ガラスフリットを併せて示した(参考例)。
【0067】
次に、実施例1〜18および比較例1〜13の電極形成用ガラスフリットについて、以下のようにしてガラス流動性、耐水性、およびSi反応性の評価を行った。また、比較のために、参考例の電極形成用ガラスフリットについても同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0068】
(ガラス流動性)
ガラス流動性として、フローボタン径を測定した。すなわち、電極形成用ガラスフリットを体積が1cm
3となるように計量した後、プレス成形を行って直径12.7mmの円柱状の評価用成形体を作製した。この評価用成形体について、バッチ焼成炉を用いて焼成温度を500℃、600℃、または700℃として10分間の焼成を行って流動させ、流動後の直径を測定した。なお、表中、「×」は評価用成形体が焼結せず、粉状のままであったことを示す。
【0069】
(耐水性)
耐水性として、抽出水導電率を測定した。すなわち、イオン交換水の割合が99vol%、電極形成用ガラスフリットの割合が1vol%となるように、イオン交換水に電極形成用ガラスフリットを加え、シェーカーにて25℃で60分間振とうして抽出水を調製した。その後、この抽出水について導電率を測定した。なお、一部の比較例の電極形成用ガラスフリットについては、ガラス流動性が不十分であることなどから、耐水性の評価は不要であるとして評価を行わなかった。
【0070】
(Si反応性)
電極形成用ガラスフリット82vol%と、Si粉末(高純度化学研究所製)18vol%とを乳鉢で十分に混合して評価用混合粉とした後、この評価用混合粉をアルミナセルに入れ、バッチ焼成炉を用いて800℃で10分間の熱処理を行って評価用ガラスを得た。その後、この評価用ガラスについて、DTAにより、先の熱処理により電極形成用ガラスフリット中の金属酸化物が還元されて析出した金属の融点に起因する吸熱ピークのデータを収集し、そのピーク面積を求めた。
【0071】
この吸熱ピークのピーク面積を評価用混合粉の混合比から算出される評価用ガラスの比重で割った後、さらに先の熱処理により析出した金属の融解熱で割ってSi反応性の指標となる値を算出した。なお、一部の比較例の電極形成用ガラスフリットについては、ガラス流動性が不十分であることなどから、Si反応性の評価は不要であるとして評価を行わなかった。
【0072】
【表1】
【0073】
表1から明らかなように、SiO
2の含有量が多い比較例1〜7の電極形成用ガラスフリットについては、全体的に焼結しにくく、また焼結する場合であってもガラス流動性が低くなることが認められた。また、SiO
2の含有量が少ないものの、TiO
2を含有しない比較例8〜13の電極形成用ガラスフリットについては、一部を除いて焼結が可能であるものの、このような場合であってもガラス流動性やSi反応性が高くなりすぎ、また耐水性も不十分となることが認められた。
【0074】
これに対し、所定の組成とした実施例1〜18の電極形成用ガラスフリットについては、鉛を含有する参考例の電極形成用ガラスフリットに近いガラス流動性、耐水性、およびSi反応性を有しており、太陽電池の受光面電極を形成するために好適なものであることが認められた。