特許第5716872号(P5716872)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5716872横型熱処理装置及びこの横型熱処理装置を用いた炭素繊維の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5716872
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】横型熱処理装置及びこの横型熱処理装置を用いた炭素繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 9/32 20060101AFI20150423BHJP
   F27B 9/28 20060101ALI20150423BHJP
   F27D 7/06 20060101ALI20150423BHJP
   F27B 9/02 20060101ALI20150423BHJP
【FI】
   D01F9/32
   F27B9/28
   F27D7/06 B
   F27B9/02
【請求項の数】15
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-532174(P2014-532174)
(86)(22)【出願日】2014年7月1日
(86)【国際出願番号】JP2014067571
【審査請求日】2014年7月15日
(31)【優先権主張番号】特願2013-138614(P2013-138614)
(32)【優先日】2013年7月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100181766
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 均
(74)【代理人】
【識別番号】100091948
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 武男
(74)【代理人】
【識別番号】100187193
【弁理士】
【氏名又は名称】林 司
(72)【発明者】
【氏名】水野 慧士
(72)【発明者】
【氏名】畑中 洋二
(72)【発明者】
【氏名】友部 斉
(72)【発明者】
【氏名】岡 勇輔
【審査官】 横島 隆裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−194071(JP,A)
【文献】 特開2010−002176(JP,A)
【文献】 特開2000−136441(JP,A)
【文献】 特開平11−173761(JP,A)
【文献】 特開2008−081859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 9/08−9/32
F27B 9/02、9/28
F27D 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続した扁平状の被処理物を、熱処理室内を水平方向に複数段で往復走行させながら、連続的に熱処理する横型熱処理装置であって、下記(1)〜(3)を満たすことを特徴とする横型熱処理装置。
(1)前記熱処理室は、被処理物の送入口側と送出口側に連接したシール室を有する。
(2)前記シール室内には、水平方向に走行する被処理物を上下に区画する1以上の仕切り板が配設され、2枚の仕切り板又は1枚の仕切り板とシール室内壁により上下に区画された区域を形成する。
(3)前記仕切り板が、下記条件(a)及び(b)を満足するように配置される。
(a)前記区域には、被処理物の熱処理室への送入が、被処理物の熱処理室からの送出より上側となる区域である伝熱区域が、1以上含まれる。
(b)被処理物が、一方のシール室内にある前記伝熱区域を通過し、熱処理室内を走行した後、対向するシール室内にある前記伝熱区域を通過する行程が、1以上含まれる。
【請求項2】
前記(a)の伝熱区域の数が、前記シール室内の全区域の数の10%以上である、請求項1に記載の横型熱処理装置。
【請求項3】
被処理物が、前記(b)の行程により熱処理室内を走行する回数が、被処理物の熱処理室内の全走行回数の10%以上である、請求項1又は2に記載の横型熱処理装置。
【請求項4】
被処理物が、前記(a)の各伝熱区域を往復走行する回数が2〜4回である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の横型熱処理装置。
【請求項5】
被処理物が、前記(a)の各伝熱区域を往復走行する回数が2回であり、前記シール室内の各区域を往復走行する回数が3回以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の横型熱処理装置。
【請求項6】
連続した扁平状の被処理物を、熱処理室内を水平方向に複数段で往復走行して連続的に熱処理する横型熱処理装置であって、前記熱処理室には前記被処理物の送入口側と送出口側に連接してシール室を設けると共に、該シール室に、仕切り板により被処理物が走行する水平方向に2〜4段毎に上下に区画した区域を形成してなり、前記区域を、被処理物の熱処理室への送入を上部側、熱処理室からの送出を下部側とする伝熱区域としたことを特徴とする、横型熱処理装置。
【請求項7】
前記各区域には、少なくとも一つの排気機構を設置することを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の横型熱処理装置。
【請求項8】
前記各区域に熱処理装置外部から被処理物を送入する熱処理装置送入口及び該各区域から熱処理装置外部に被処理物を送出する熱処理装置送出口に向けて、該各区域側から空気を噴出するスリット状のノズル、又はエアーカーテン機構を設けたことを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の横型熱処理装置。
【請求項9】
前記横型熱処理装置が炭素繊維前駆体繊維束を熱処理する耐炎化炉として用いられる、請求項1〜のいずれか一項に記載の横型熱処理装置。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか一項に記載の横型熱処理装置を用いて、連続的に炭素繊維前駆体繊維束を熱処理する工程を含む炭素繊維の製造方法。
【請求項11】
連続した扁平状の炭素繊維前駆体繊維束を、熱処理室内を水平方向に複数段で往復走行して、連続的に熱処理して炭素繊維を得る炭素繊維の製造方法であって、
前記熱処理室の炭素繊維前駆体繊維束の送入口側と送出口側に、それぞれ連接して設けられたシール室内に、
該シール室内を走行する炭素繊維前駆体繊維束が、下記条件(c)及び(d)を満たすように、炭素繊維前駆体繊維束を上下に区画する1以上の仕切り板を配設し、2枚の仕切り板又は1枚の仕切り板とシール室内壁により上下に区画された区域を形成することを特徴とする、炭素繊維の製造方法。
(c)前記区域には、前記炭素繊維前駆体繊維束の熱処理室への送入が、炭素繊維前駆体繊維束の熱処理室からの送出より上側となる区域である伝熱区域が、1以上含まれる。
(d)前記炭素繊維前駆体繊維束が、一方のシール室内にある前記伝熱区域を通過し、熱処理室内を走行した後、対向するシール室内にある前記伝熱区域を通過する行程が、1以上含まれる。
【請求項12】
前記(c)の伝熱区域の数が、前記シール室内の全区域の数の10%以上である、請求項11に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項13】
炭素繊維前駆体繊維束が、前記(d)の行程により熱処理室内を走行する回数が、炭素繊維前駆体繊維束の熱処理室内の全走行回数の10%以上である、請求項11又は12に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項14】
炭素繊維前駆体繊維束が、前記(c)の各伝熱区域を往復走行する回数が2〜4回である、請求項1113のいずれか一項に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項15】
炭素繊維前駆体繊維束が、前記(c)の各伝熱区域を往復走行する回数が2回であり、前記シール室内の各区域を往復走行する回数が3回以下である、請求項1114のいずれか一項に記載の炭素繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理室内で発生した有毒ガスの外気への漏出を完全に阻止すると共に、エネルギー効率を向上させた横型熱処理装置及びこの横型熱処理装置を用いた炭素繊維の製造方法に関する。
【0002】
本発明は繊維製シートなどの連続した扁平状の被処理物に連続して熱処理を施す横型熱処理装置及びこの横型熱処理装置を用いた炭素繊維の製造方法に関し、さらに詳しくは、炭素繊維を製造する際の炭素繊維前駆体繊維束を熱処理する耐炎化炉に好適に用いることのできる熱処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0003】
従来から、フィルム、シート、繊維など(以下、被処理物という)の長尺物の製造において、被処理物を連続的に熱処理する熱処理装置が知られている。この熱処理装置は、炭素繊維の場合を例にすると、例えばポリアクリロニトリル系繊維からなる炭素繊維前駆体繊維束に熱処理室内で連続的に熱処理を施すものである。この際、炭素繊維前駆体繊維束の酸化反応によって熱処理室内にシアン化合物、アンモニア、及び一酸化炭素等の分解ガスが発生する。この分解ガスは、回収して燃焼処理などのガス処理をする必要がある。
【0004】
この耐炎化処理での酸化反応によって熱処理室内にはシアン化合物、アンモニア、及び一酸化炭素等の分解ガスが発生する。なお、前記熱処理室内に被処理物を出入りさせる際には、当然に前記熱処理装置に被処理物の導出入口が設けられているために、この導出入口から前記熱処理室内のガスが炉外に漏れ出さないよう、厳重なシール室が設けられている。
【0005】
特許文献1に開示された熱処理装置にあっては、前記シール室は仕切り板により上下で区画されることが好ましく、区画された各シール室に1つの排気口を設け、各シール室の圧力がそれぞれに適宜調整される。そのため、熱処理室内とシール室内の圧力差を個別に制御でき、前述のような熱処理室の内外での浮力差の影響による同熱処理室への外気の流入や、同熱処理室からの熱風の過度の流出を制御することができ、温度の均一性に優れた熱処理装置が提案されている。
【0006】
特許文献2に開示された熱処理装置にあっては、前記シール室は仕切り板により区画することで、各シール室の圧力がそれぞれに適宜調整でき、熱処理室内とシール室内の圧力差を個別に制御でき、前述のような熱処理室の内外での浮力差の影響による同熱処理室への外気の流入や、同熱処理室からの熱風の過度の流出を制御することができ、温度の均一性に優れた熱処理装置が提案されている。
【0007】
特許文献3に開示された熱処理装置にあっては、このような分解ガスが熱処理装置の被処理物の送入/送出口から熱処理装置外に漏出することを防止するために、熱処理室に隣接して、室内を負圧にし、分解ガスを回収するシール室を設け、さらにシール室の被処理物の送入/送出口の外側で被処理物へ向かって熱処理装置外の空気を吹き付け外気の流入を抑制するエアーカーテン手段を設けた熱処理装置が提案されている。
【0008】
特許文献4では、外気流入による熱処理炉の温度むら、及びエネルギー効率の低下を解決方法として、被処理物が出入りする横型スリット状の開口部を外側側壁の上下方向に複数段有するシール室を設けてなる熱処理装置であって、前記熱処理室の加熱気体の流れと同一方向となるよう、前記シール室の上部又は下部に気体を供給する気体吹き出し口と、該気体吹き出し口と対する方向に気体を吸入する気体吸い込み口を有することを特徴とする熱処理装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−132657号公報
【特許文献2】特開昭62−228866号公報
【特許文献3】特開2004−143647号公報
【特許文献4】特開2010−100967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、熱処理室内で発生した有毒ガスの外気への漏出を完全に阻止すると共に、被処理物間の熱交換が効率的に行われるようにすることである。
【0011】
前記特許文献4に開示されているように、被処理物の走行方向と直交して熱風を吹きつける場合には、熱処理室内の温度制御を確保した状態で炉内のガスの炉外への漏れ出しを防ぐために、大がかりな設備が必要となる。
【0012】
本発明はかかる問題点を解決すべくなされたものであり、格別に大型の設備を必要とすることなく、熱処理室内で発生した有毒ガスの外気への漏出を完全に阻止すると共に、被処理物間の熱交換を効率的に行わせることにより、熱処理室に送出される被処理物の温度を上昇させ、熱処理室内の温度むらを小さくすることが可能であり、工程安定性の確保と、品質の均一性の向上できる横型熱処理装置及びこの横型熱処理装置を用いた炭素繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、連続した扁平状の被処理物を、熱処理室内を水平方向に複数段で往復移送して、連続的に熱処理する横型熱処理装置に関するものであって、下記(1)〜(3)を満たすことを特徴としている。
(1)前記熱処理室は、被処理物の送入口側と送出口側に連接したシール室を有する。
(2)前記シール室内には、水平方向に走行する被処理物を上下に区画する1以上の仕切り板が配設され、2枚の仕切り板又は1枚の仕切り板とシール室内壁により上下に区画された区域を形成する。
(3)前記仕切り板が、下記条件(a)及び(b)を満足するように配置される。
(a)前記区域には、被処理物の熱処理室への送入が、被処理物の熱処理室からの送出より上側となる区域である伝熱区域が、1以上含まれる。
(b)被処理物が、一方のシール室内にある前記伝熱区域を通過し、熱処理室内を走行した後、対向するシール室内にある前記伝熱区域を通過する行程が、1以上含まれる。
【0014】
前記(a)の伝熱区域の数が、前記シール室内の全区域の数の10%以上であることが好ましく、被処理物が、前記(b)の行程により熱処理室内を走行する回数が、被処理物の熱処理室内の全走行回数の10%以上であることが好ましい。
【0015】
また、被処理物が、前記(a)の各伝熱区域を往復走行する回数が2〜4回であることが好ましく、さらに、被処理物が、前記(a)の各伝熱区域を往復走行する回数が2回であり、前記シール室内の各区域を往復走行する回数が3回以下であることがより好ましい。
【0016】
前記各区域には、少なくとも一つの排気機構を設置することができる。
【0017】
また、前記各区域に熱処理装置外部から被処理物を送入する熱処理装置送入口及び該各区域から熱処理装置外部に被処理物を送出する熱処理装置送出口に向けて、該各区域側から空気を噴出するスリット状のノズル、又はエアーカーテン機構を設けることもできる。
横型熱処理装置は、炭素繊維前駆体繊維束を熱処理する耐炎化炉として用いることができる。
【0018】
また本発明は、連続した扁平状の炭素繊維前駆体繊維束を、熱処理室内を水平方向に複数段で往復走行して、連続的に熱処理して炭素繊維束を得る炭素繊維束の製造方法に関するものであって、
前記熱処理室の炭素繊維前駆体繊維束の送入口側と送出口側に、それぞれ連接して設けられたシール室内に、
該シール室内を走行する炭素繊維前駆体繊維束が、下記条件(c)及び(d)を満たすように、炭素繊維前駆体繊維束を上下に区画する1以上の仕切り板が配設し、2枚の仕切り板又は1枚の仕切り板とシール室内壁により上下に区画された区域を形成することを特徴とする。
(c)前記区域には、前記前駆体繊維束の熱処理室への送入が、前駆体繊維束の熱処理室からの送出より上側となる区域である伝熱区域が、1以上含まれる。
(d)前記前駆体繊維束が、一方のシール室内にある前記伝熱区域を通過し、熱処理室内を走行した後、対向するシール室内にある前記伝熱区域を通過する行程が、1以上含まれる。
【0019】
前記(c)の伝熱区域の数が、前記シール室内の全区域の数の10%以上であることが好ましく、炭素繊維前駆体繊維束が、前記(d)の行程により熱処理室内を走行する回数が、炭素繊維前駆体繊維束の熱処理室内の全走行回数の10%以上であることが好ましい。
【0020】
炭素繊維前駆体繊維束が、前記(c)の各伝熱区域を往復走行する回数は、2〜4回が好ましく、前記(c)の各伝熱区域を往復走行する回数が2回で、前記シール室内の各区域を往復走行する回数が3回以下であることがより好ましい。
【0021】
前記シール室には、2枚の仕切り板又は1枚の仕切り板とシール室内壁により上下に区画された区域を形成し、各区域において、熱処理室から送入され、熱処理装置外部に送出される比較的高温の被処理物と、熱処理装置外部から送入され、熱処理室に送出される比較的低温の被処理物との間で、高温の被処理物から放熱した熱により、各区域内の気体が熱せられるため、対流により上下方向に温度勾配が生じ、熱交換が行われる。ここで、熱交換とは、ある伝熱区域内で、高温の被処理物から放熱した熱により、低温の被処理物の温度が上昇することを意味する。
【0022】
本発明の横型熱処理装置、及び炭素繊維束の製造方法においては、この温度勾配を利用し、さらに、区域には、被処理物の熱処理室への送入を被処理物の熱処理室からの送出より上側とした区域である伝熱区域(このように、被処理物の熱処理室への送入が上部側、熱処理室からの送出が下部側となるようにした区域を、以下、「伝熱区域(a)」という。)とし、伝熱区域(a)の構成を工夫することにより、被処理物間の熱交換をより効率的に行うことを特徴とする。
【0023】
また本発明は、被処理物が、一方のシール室内にある伝熱区域(a)を通過し、熱処理室内を走行した後、対向するシール室内にある伝熱区域(a)を通過する行程を経ることが好ましい。
【0024】
対向するシール室に伝熱区域(a)を設置して、被処理物が両側の伝熱区域(a)を連続して通過する構成とすることにより効率的な熱交換が可能となり、さらに、各シール室から横型熱処理装置外部に送出される被処理物の温度は従来よりも低下するため、横型熱処理装置周囲の作業スペースの温度上昇を軽減することができる。また、各シール室から熱処理室に送入される被処理物の温度は従来よりも上昇するため、熱処理室内の温度斑を小さくすることができる。さらに、熱処理炉及び/又はシール室の構造材の温度斑を抑制できるため、熱歪による装置の破損を防止でき、また被処理物である糸条シートが、懸垂した際に当該装置に接触することを防止できる。
【0025】
本発明では、伝熱区域(a)の数が、シール室に含まれる全区域の数の10%以上となるように、仕切り板を設置することが好ましい。10%以上とすることにより、熱交換の効果が充分なものとなる。35%以上がより好ましく45%以上がさらに好ましく、70%以上が特に好ましい。また、上限値は高いほど好ましく、100%が最も好ましい。
【0026】
本発明では、被処理物が、前記(b)の構成を満たしながら熱処理室内を走行する回数が、熱処理室内を走行する被処理物の全走行回数の10%以上となるように、仕切り板を設置することが好ましい。10%以上とすることにより、熱交換の効果が充分なものとなり、また横型熱処理装置周囲の作業スぺースの温度を均一に下げることができ、さらに熱処理炉及び/又はシール室の構造材の温度斑を抑制できる。50%以上がより好ましく65%以上がさらに好ましい。また、上限値は高いほど好ましく、100%が最も好ましい。
【0027】
本発明では、被処理物が、各伝熱区域(a)を往復走行する回数が2〜4回であることが好ましい。被処理物の往復走行回数が1回では伝熱区域(a)の構成を達成することはできず、5回以上では熱処理室の内外での浮力差の影響による同熱処理室への外気の流入や、同熱処理室からの熱風の過度の流出を制御することが難しい。被処理物の走行回数は2〜3回が好ましく、2回が最も好ましい。
【0028】
また、被処理物が、各区域を往復走行する回数についても、熱処理室への外気の流入や、熱処理室からの熱風の流出を考慮すると、3回以下が好ましい。
【0029】
また、排気調整機構としては、通常、シール室内の内部圧力と熱処理室の内部圧力とを比較して、排気ファンの回転数、すなわち排気量を調整するものであるが、これを自動化するため内部圧力の変化を検出する手段、同検出手段による検出信号により上記排気機構の排気量を調整する制御部を備えることもある。
【0030】
一般に、熱処理室内の圧力と熱処理室外の圧力との圧力差は、気体温度の違いにより生ずる熱処理室内外の浮力差の影響で、熱処理室の高さ方向に変化する。即ち、熱処理室の上部では熱処理室の内外における圧力差が大きく、熱処理室の下部では内外の圧力差が小さくなる。
【0031】
そのため、従来のシール室をもたない横型熱処理装置にあっては、同熱処理室の上部に形成された繊維製シートの導出入口からは熱処理室内の熱風が外部へと漏出しやすく、一方、熱処理室の下部に形成された繊維製シートの導出入口からは外気が熱処理室内へ流入しやすい。しかしながら、上述の構成を備えた本発明の熱処理室は、前記シール室を備えているため、シール室内の圧力を前記熱処理室の圧力より小さくすることができるので、前記熱処理室内の上下方向における圧力変動に伴う前記熱処理室への外気の流入を防ぐことができ、前記熱処理室内の温度変化を極めて小さくすることができる。
【0032】
さらに、前記シール室は仕切り板により上下で区画されており、区画された各シール室に少なくとも1つの排気口を設けると共に、各排気口が独立した排気機構及び排気調整機構を備えているため、各シール室において独立して排気量を設定でき、各シール室の圧力がそれぞれに適宜調整される。そのため、熱処理室内とシール室内の圧力差を個別に制御でき、前述のような熱処理室の内外での浮力差の影響による同熱処理室への外気の流入や、同熱処理室からの熱風の過度の流出を制御することができる。
【0033】
なお、一般に前記排気口からの排気量を多くすれば、熱処理室内のガスの外への漏出を防ぐことが可能であるが、それにより熱処理室内からの熱量の流出も増加し、熱処理室内の温度低下を招きやすく、その温度制御上、好ましくない。また、燃焼処理がなされる流出気体の量も増加することになる。
【0034】
そこで、前記熱処理室の内部圧力が前記シール室の内部圧力より小さくなるように前記排気口の排気量を維持するように調整されることが好ましい。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、熱処理室内で発生した有毒ガスの外気への漏出を完全に阻止すると共に、被処理物間の熱交換が効率的に行われるようにし、工程安定性及び設備費が安価でかつ省エネ効果に優れた横型熱処理装置及びこの横型熱処理装置を用いた炭素繊維の製造方法が提供される。
【0036】
各シール室において、被処理物間の熱交換が効率的に行われることにより、各シール室から熱処理室に送出される被処理物の温度は従来よりも上昇するため、熱処理室内の温度むらを小さくすることができる。さらに、各シール室から横型熱処理装置外部に送出される被処理物の温度は従来よりも低下するため、周囲の雰囲気温度・有害ガス濃度を改善でき、作業スペースにおけるクリーンな環境衛生を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の横型熱処理装置の一実施形態例を示す概略断面図である。
図2】本発明の実施例1の横型熱処理装置の伝熱区域(a)のシール室近辺を示す概略断面図である。
図3】本発明の横型熱処理装置の伝熱区域(a)の一実施形態例について、シール室近辺を示す概略断面図である。
図4】本発明の比較例1の横型熱処理装置を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の横型熱処理装置の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ここでは、横型熱処理装置として、横型耐炎化炉を例に説明する。
なお、本明細書において、「上流」及び「下流」はそれぞれ、被処理物の移送方向についての上流及び下流を意味する。
【0039】
図1に示すように、横型熱処理装置(横型耐炎化炉)1は、熱処理室2と、熱処理室2に連接されたシール室4を有する。シール室4(上流側)、熱処理室2、シール室4(下流側)の中を被処理物Aが複数段で往復走行できるよう構成されている。
【0040】
横型熱処理装置1は箱型の熱処理室2を備えている。熱処理室2には熱処理室2内部に熱風を循環させる図示しない熱風循環装置及び加熱手段が連結されている。この熱風により、被処理物Aを加熱して熱処理を行うことができる。この横型熱処理装置1は、炭素繊維の場合を例にすると、例えばポリアクリロニトリル系繊維からなる炭素繊維前駆体繊維束に熱処理室2内で連続的に熱処理を施すものである。この際、前駆体繊維の酸化反応によって熱処理室内にシアン化合物、アンモニア、及び一酸化炭素等の分解ガスが発生する。この分解ガスは、回収して燃焼処理などのガス処理をする必要がある。
【0041】
熱処理室2には排気口18が設けられている。排気口18は排気路19を介して排気ファン13に接続されている。排気路19の途中には、例えばバルブ等の流量調節機構12が設けられている。排気ファン13は外部の図示しないガス回収処理装置に接続されている。
【0042】
熱処理室2の上流側及び下流側(図示左右両側)の外壁(互いに対向する二つの側壁)3には、炉内で発生した分解ガスが横型熱処理装置1の被処理物Aの横型熱処理装置送入口10、送出口10’から横型熱処理装置1外に漏出することを防止するために、室内を負圧にし、分解ガスを回収するシール室4がそれぞれ連設されている。シール室4は箱形とすることができる。
【0043】
シール室4の外壁5(上流側の箱形シール室4の上流側の側壁、及び、下流側の箱形シール室4の下流側の側壁)には被処理物A、例えばポリアクリロニトリル系繊維束からなる炭素繊維前駆体繊維束を送入/送出するためのスリット状の開口(シール室4に被処理物Aを送入するための開口であるシール室外壁送入口7、シール室4から被処理物Aを送出するための開口であるシール室外壁送出口7’)がそれぞれ設けられている。同様に、熱処理室外壁3にもシール室外壁送入口7及びシール室外壁送出口7’に対応して熱処理室外壁送入口6、送出口6’が設けられている。
すなわち、シール室4、4は熱処理室2の被処理物入口(熱処理室外壁送入口6)側及び出口(熱処理室外壁送出口6’)側にそれぞれ設けられている。
【0044】
被処理物Aとしては、図面奥行き方向に幅を有する長尺のシート状物を用いることができる。被処理物Aが炭素繊維前駆体繊維束である場合、図面奥行き方向に前駆体繊維を複数本並べ、全体としてシート状に揃えてシート状物として横型熱処理装置1に供給することができる。
【0045】
シール室4の内部には、シール室4を上下方向に三つの別々の区域4a,4b,4cに区画する仕切り板11が設けられている。また、シール室4は排気口14を備え、排気路20を介して排気ファン16に接続されている。排気路20の途中には、例えばバルブ等の流量調節機構15が設けられている。排気口14は区域4a,4b,4cに各々設けられている。
【0046】
前記シール室4は被処理物Aの熱処理室2への送入が上部側、熱処理室2からの送出が下部側となるように、仕切り板11によって区画した場合には、被処理物A間の熱交換効率を一層向上できるので好ましい。
【0047】
仕切り板11により上下に区画した各シール室4に横型熱処理装置1外部から被処理物Aを送入する横型熱処理装置送入口10及び該シール室4から横型熱処理装置1外部に被処理物Aを送出する横型熱処理装置送出口10’に向けて、該シール室4側から空気を噴出する、一対の矩形状のノズルが設けられている。具体的には、被処理物Aを挟んだ上下の位置に、横型熱処理装置1外からシール室4へ流入する外気流量を抑制するため、通路の上下方向の中心に向かって、かつ横型熱処理装置送入口10の開口に向かって空気を噴出する一対のスリット状の送入側エアーカーテン用ノズル9a,9b(エアーカーテン手段のノズル)が設けられる。また、横型熱処理装置1外からシール室4へ流入する外気流量を抑制するために、通路の上下方向の中心に向かって、かつ横型熱処理装置送出口10’の開口に向かって空気を噴出する一対のスリット状の送出側エアーカーテン用ノズル9a’,9b’(エアーカーテン手段のノズル)が設けられている。
【0048】
次に、この実施の形態の作用について説明する。
図1に示すように、複数の被処理物Aが紙面に垂直方向に平行に揃えられた状態で横型熱処理装置1の図示左側のシール室4の最上段の横型熱処理装置送入口10から横型熱処理装置1(特には送入側のエアーカーテン手段8)に送入される。次いで、被処理物Aはシール室4の外壁5のシール室外壁送入口7及び熱処理室2の外壁3の送入口6を通過し、熱処理室2の対向する外壁3の送出口6’から送出される。さらに、被処理物Aは熱処理室2に連接されたシール室4の外壁5の送出口7’を通過し、エアーカーテン手段8(送出側)を通過して横型熱処理装置1の外部に送出される。横型熱処理装置1の外部に送出された被処理物Aは横型熱処理装置1の外部に設けられたロール17に巻き掛けられるようにして折り返され、送出されたシール室外壁送出口7’の一つ下の送入口から、再び横型熱処理装置1内部に送入される。
【0049】
再び横型熱処理装置1内部に送入された被処理物Aは、逆向きに同様の経路を経て横型熱処理装置1の外部に送出され、横型熱処理装置1外部のロール17に再び巻き掛けられ折り返される。このように、被処理物Aはロール17によって横型熱処理装置1の外部で繰り返し折り返されながら、横型熱処理装置1に繰り返し送入、送出され、蛇行するようにして横型熱処理装置1の内部を通過する。このとき、被処理物Aにはロール17の回転とロール17表面の摩擦によって動力が与えられ、図1の矢印X方向に連続的に送出されている。
【0050】
このとき、被処理物Aがシール室4の内部を滞在時間6秒以上通過することが好ましい。滞在時間は被処理物Aの送入速度(m/s)とシール室4の長さ(m)より算出される。
【0051】
一方、熱処理室2の内部には図示しない熱風循環装置によって熱風が循環し、例えば200℃〜300℃の温度に保たれている。したがって、熱処理室2内部に連続的に繰り返し送入された被処理物Aは、熱処理室2内で徐々に熱処理されていく。この際、被処理物Aの酸化反応によって熱処理室2内にシアン化合物、アンモニア、及び一酸化炭素等の分解ガスが発生する。熱処理室2内のガスは排気ファン13によって送出され、外部のガス回収処理装置によって回収され処理される。また、発生した分解ガスの、熱処理室2に設けられた排気口18からの排気量の調整は、例えばバルブ等の流量調節機構12により行うことができる。
【0052】
また、シール室4の内部は、排気ファン16によって内部の気体を吸引することで負圧となっている。また、熱処理室2内部には加熱されることによって上部が高圧で下部が低圧となる上下方向の圧力分布が生じる。ここで、シール室4の各区域4a,4b,4c内の圧力を、熱処理室2内の上下方向の圧力分布に応じて、シール室4内から熱処理室2内への気体の流入、又は熱処理室2内からシール室4内への気体の流出を最小限にし、かつシール室外壁送入口7、送出口7’から外部へのシール室4,4内の気体の流出を防止することができる圧力に調整する。
【0053】
また、負圧となったシール室4,4内への外気の流入を抑制するために、横型熱処理装置1外部の空気をエアーカーテン手段8に供給し、送入側エアーカーテン用ノズル9a及び9b,送出側エアーカーテン用ノズル9a’及び9b’からシール室4の外側でかつ被処理物Aに向かって空気を噴出することによってエアーカーテンを形成する。このとき、送入側エアーカーテン用ノズル9a及び9bからは、横型熱処理装置送入口10に向かって空気を噴出する。また、送出側エアーカーテン用ノズル9a’及び9b’からは、横型熱処理装置送出口10’に向かって空気を噴出する。
【0054】
シール室4の内圧に応じて排気量の調整とエアーカーテンノズルの噴出量を調整し、シール室外壁送入口7、送出口7’への外気の流入を抑制し、外気の流入速度Voを0.2m/s以下まで減少させることが好ましい。
【0055】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。
図1に示すような横型熱処理装置1により、被処理物Aの走行方向のシール室4の長さを1.5m、横型熱処理装置1内を走行する被処理物Aの走行速度を12m/minとして、太さ1.33dtexのPAN系単糸を50,000本束ねた糸条シートを被処理物Aとして用い耐炎化処理した。
【0056】
横型熱処理装置1は段間隔、即ち被処理物Aの導送出入口間の距離が200mm、前記熱処理室2内温度は循環流路に設置された電気ヒーターにより加熱し、250℃になるように制御した。
【0057】
なお評価方法は以下の手法を用いて測定した。
[シール装置送出被処理物温度]
折り返しロール側から温度放射温度計(堀場製作所IT−550L)を用いて、シール室外壁送出口より約100mm離れた位置のシール装置送出被処理物温度を測定した。また区画内にシール装置送出被処理物が複数存在する場合には、それら複数の被処理物の測定値の平均値を算出した。
【0058】
[熱処理炉送入被処理物温度]
熱電対(岡崎製作所製EXE−K−3)を用いて、熱処理室における熱処理室外壁送入口から約100mm離れた位置の熱処理炉送入被処理物温度を測定した。また区画内に熱処理炉送入被処理物が複数存在する場合にはそれら複数の被処理物の測定値の平均値を算出した。
【0059】
[外気の流入速度]
外気の流入速度Voは、直接測定することが困難なので、エアーカーテン内の圧力を微差圧計(岡野製作所DP−5A)を用いて測定した。
【0060】
[熱処理炉電力]
熱処理炉に設置された電気ヒーターの出力から、ヒーター電力を測定した。
【0061】
[外気への漏れ出し有無]
シール室外壁送入口7からシール室4に気体が流入するか、あるいはシール室4からシール室外壁送入口7を経て気体が流出するかについては、シール装置に設置されたシール室外壁送出入口付近においてガステック社製スモークテスタを用い漏れ出しの有無を測定した。煙の流れる方向を観察して、シール室外壁送出入口付近からシール室4側へ吸い込まれた場合「○」、シール室外壁送出入口付近から外気側へ漏れ出した場合「×」として評価した。
【0062】
[熱歪状況]
運転中にシール装置及び折り返しロール部の寸法をメジャーで測定し、対抗するシール室で寸法に差がなければ「歪無し」、1〜5mmの差異があった場合「若干歪有り」、6mm以上の差異があった場合「歪有り」として評価した。
【0063】
なお、下記の実施例及び比較例における、「シール装置送出被処理物温度」とは、熱処理室2から各シール室4に送入され、その後各シール室4から横型熱処理装置1外部に送出されていく被処理物Aの、シート室外壁送出口7’における温度であり、「熱処理炉送入被処理物温度」とは、横型熱処理装置1外部から各シール室4に送入され、その後各シール室4から熱処理室2に送出されていく被処理物Aの、熱処理室外壁送入口6における温度である。
【0064】
[実施例1]
全区域数が8か所、その内、伝熱区域(a)数が6か所となるように、前記シール室4内を仕切り板11で区画した。伝熱区域(a)では、水平方向に走行する被処理物Aを2段毎に区画し、伝熱区域(a)以外の区域では1段毎に区画した。
【0065】
その際の伝熱区域(a)数の全区域数に対する割合は75%であった。その際の被処理物Aが、一方のシール室4内にある伝熱区域(a)を通過し、熱処理室2内を走行した後、対向するシール室4内にある伝熱区域(a)を通過する行程の数は4箇所で、全体の走行回数に対する割合は57%であった。
【0066】
各伝熱区域(a)に設置された排気機構とエアーカーテン手段8により調整した後、前記構成の熱処理炉にて被処理物Aを熱処理したところ、後段に示す比較例1に比べ、シール装置送出被処理物温度が7.7℃冷却され、熱処理室送入被処理物温度は4.6℃上昇した結果が得られ、ヒーター電力が18kW削減されていることを確認した。またスモークテスタを用いて漏れ出し状況を確認したところ、漏れ出しは確認されず、良好にシールされていることを確認した。また運転中に測定した歪もほぼなく安定的に生産ができた。外気流入速度Vo0.2m/sを達成することができた。
【0067】
[実施例2]
全区域数が4か所、その内、伝熱区域(a)数が3か所となるように、前記シール室4内を仕切り板11で区画した。伝熱区域(a)では、水平方向に走行する被処理物Aを4段毎に区画し、伝熱区域(a)以外の区域では1段毎に区画した。
【0068】
その際の伝熱区域(a)数の全区域数に対する割合は75%であった。その際の被処理物Aが、一方のシール室4内にある伝熱区域(a)を通過し、熱処理室2内を走行した後、対向するシール室4内にある伝熱区域(a)を通過する行程の数は4箇所で、全体の走行回数に対する割合は57%であった。
【0069】
各伝熱区域(a)に設置された排気機構とエアーカーテン手段8により調整した後、前記構成の熱処理炉にて被処理物Aを熱処理した。
【0070】
実施例1と同様にして測定した。後段に示す比較例1に比べ、シール装置送出被処理物温度が5.5℃冷却され、熱処理室送入被処理物温度は4.0℃上昇した結果が得られ、ヒーター電力が13kW削減されていることを確認した。またスモークテスタを用いて漏れ出し状況を確認したところ、漏れ出しは確認されず、外気流入速度Voは0.2〜0.25m/sとなった。また運転中に測定した歪もほぼなく安定的に生産ができた。
【0071】
[実施例3]
全区域数が8か所、その内、伝熱区域(a)数が2か所となるように、前記シール室4内を仕切り板11で区画した。伝熱区域(a)では、図3に示すように、水平方向に走行する被処理物Aを2段毎に区画し、伝熱区域(a)以外の区域では1段毎に区画した。
【0072】
その際の伝熱区域(a)数の全区域数に対する割合は13%であった。その際の被処理物Aが、一方のシール室4内にある伝熱区域(a)を通過し、熱処理室2内を走行した後、対向するシール室4内にある伝熱区域(a)を通過する行程の数は1箇所で、全体の走行回数に対する割合は14%であった。
【0073】
実施例1と同様にして測定した。後段に示す比較例1に比べ、伝熱区域(a)におけるシール装置送出被処理物温度が7.7℃冷却され、熱処理室送入被処理物温度は4.6℃上昇した結果が得られ、ヒーター電力が2kW削減されていることを確認した。またスモークテスタを用いて漏れ出し状況を確認したところ、漏れ出しは確認されず、外気流入速度Voは0.2m/sとなった。また運転中に測定した歪もほぼなく安定的に生産ができた。
【0074】
[実施例4]
全区域数が8か所、その内、伝熱区域(a)数が4か所となるように、前記シール室4内を仕切り板11で区画した。伝熱区域(a)では、水平方向に走行する被処理物Aを2段毎に区画し、伝熱区域(a)以外の区域では1段毎に区画した。
【0075】
その際の伝熱区域(a)数の全区域数に対する割合は50%であった。その際の被処理物Aが、一方のシール室4内にある伝熱区域(a)を通過し、熱処理室2内を走行した後、対向するシール室4内にある伝熱区域(a)を通過する行程の数は1箇所で、全体の走行回数に対する割合は14%であった。
【0076】
前記構成の熱処理炉にて被処理物Aを熱処理したところ、後段に示す比較例1に比べ、伝熱区域(a)におけるシール装置送出被処理物温度が7.7℃冷却され、熱処理室送入被処理物温度は4.6℃上昇した結果が得られ、ヒーター電力が12kW削減されていることを確認した。またスモークテスタを用いて漏れ出し状況を確認したところ、漏れ出しは確認されず、シールされていることを確認した。また歪状況を確認したところ運転には支障はないものの若干の歪が観察された。
【0077】
[比較例1]
図4に示したように前記シール室4内を被処理物Aの各段毎に仕切り板で区画する以外は、実施例1と同様にして測定した。本比較例で測定された、シール装置送出被処理物温度と、熱処理炉送入被処理物温度を基準とした。スモークテスタを用いて漏れ出し状況を確認したところ、漏れ出しは確認されなかった。
【0078】
[実施例5]
全区域数が4か所、その内、伝熱区域(a)数が2か所となるように、前記シール室4内を仕切り板11で区画した。伝熱区域(a)では、水平方向に走行する被処理物Aを5段毎に区画し、伝熱区域(a)以外の区域では1段毎に区画した。
【0079】
その際の伝熱区域(a)数の全区域数に対する割合は50%であった。その際の被処理物Aが、一方のシール室4内にある伝熱区域(a)を通過し、熱処理室2内を走行した後、対向するシール室4内にある伝熱区域(a)を通過する行程の数は5箇所で、全体の走行回数に対する割合は71%であった。
【0080】
前記構成の熱処理炉にて被処理物Aを熱処理したところ、比較例1に比べ、伝熱区域(a)におけるシール装置送出被処理物温度が3.5℃冷却され、熱処理室送入被処理物温度は3.3℃上昇した結果が得られ、ヒーター電力が6.0kW削減されていることを確認した。
【0081】
またスモークテスタを用いて漏れ出し状況を確認したところ、シール室外壁送入口7の一部から漏れ出しが確認され、完全にはシールできていなかった。
【0082】
実施例1〜3ではこのような吹き出しはなかった。炉内ガスの吹き出しが確認される箇所が生じ、シール室4の気体がシール室外壁送入口7から横型熱処理装置1の外部へ漏出することを示している。また運転中に測定した歪もほぼなく安定的に生産ができた。
【0083】
[実施例6]
伝熱区域(a)に排気機構を設置しなかったこと以外は、実施例1と同様にして測定を行った。
比較例1に比べ、伝熱区域(a)におけるシール装置送出被処理物温度が7.7℃冷却され、熱処理室送入被処理物温度は4.6℃上昇した結果が得られ、ヒーター電力が18kW削減されていることを確認した。また運転中に測定した歪もほぼなく安定的に生産ができた。しかしながら排気機構がないため炉内ガスの漏れ出しを抑えることができなかった。
【0084】
[実施例7]
エアーカーテン手段8を設置しなかったこと以外は、実施例1と同様にして測定を行った。
比較例1に比べ、伝熱区域(a)におけるシール装置送出被処理物温度が7.7℃冷却され、熱処理室送入被処理物温度は4.6℃上昇した結果が得られ、ヒーター電力が18kW削減されていることを確認した。また運転中に測定した歪もほぼなく安定的に生産ができた。しかしながら排気機構がないため炉内ガスの漏れ出しを抑えることができなかった。
【0085】
[実施例8]
全区域数が8か所、その内、伝熱区域(a)数が2か所となるように、前記シール室4内を仕切り板11で区画した。伝熱区域(a)は対向する前記シール室4の一方のみに設け、伝熱区域(a)では、水平方向に走行する被処理物Aを2段毎に区画し、伝熱区域(a)以外の区域では1段毎に区画した。
【0086】
その際の伝熱区域(a)数の全区域数に対する割合は38%であった。その際の被処理物Aが、一方のシール室4内にある伝熱区域(a)を通過し、熱処理室2内を走行した後、対向するシール室4内にある伝熱区域(a)を通過する行程の数は0箇所で、全体の走行回数に対する割合は0%であった。
【0087】
前記構成の熱処理炉にて被処理物Aを熱処理したところ、比較例1に比べ、(伝熱区域(a)におけるシール装置送出被処理物温度が7.7℃冷却され、熱処理室送入被処理物温度は4.6℃上昇した結果が得られ、ヒーター電力が18kW削減されていることを確認した。またスモークテスタを用いて漏れ出し状況を確認したところ、漏れ出しは確認されなかった。また歪状況を確認したところ運転には支障はないものの若干の歪が観察された。
【0088】
実施例1〜8及び比較例1の結果を、表1に示す。
この結果から、シール室4を2段毎に区画した場合(実施例1、3、4)及び4段毎に区画した場合(実施例2)は、各段毎に区画した場合(比較例1)に比べ、「シール装置送出被処理物温度」が低下し、「熱処理炉送入被処理物温度」が上昇しており、「外気流入速度」は同程度若しくは「外気への漏れ出し」は観察されないことから、各シール室4において被処理物A間の熱交換が効率的に行われていることがわかる。
【0089】
さらに、実施例1〜8を比較すると、各シール室4における被処理物A間の熱交換の効率は、4段毎(実施例2)よりも2段毎(実施例1)のほうが良好であり、また、2段毎であっても、全体の区画における伝熱区域(a)の割合が大きい方が効率的に熱交換ができることがわかる。
【0090】
【表1】
【符号の説明】
【0091】
1:横型熱処理装置(横型耐炎化炉)
2:熱処理室
3:熱処理室外壁
4:シール室
4a、4b、4c:シール室の区域
5:シール室の外壁
6:熱処理室外壁送入口
6’:熱処理室外壁送出口
7:シール室外壁送入口
7’:シール室外壁送出口
8:エアーカーテン手段
9a、9b:送入側エアーカーテン用ノズル(上側及び下側)
9a’、9b’:送出側エアーカーテン用ノズル(上側及び下側)
10:横型熱処理装置送入口
10’:横型熱処理装置送出口
11:仕切り板
12:流量調節機構
13:排気ファン
14:排気口
15:流量調節機構
16:排気ファン
17:ロール
18:排気口
19:排気路
20:排気路
A:被処理物
X:被処理物の移送方向
【要約】
本発明の横型熱処理装置及びこの横型熱処理装置を用いた炭素繊維の製造方法は、連続した扁平状の被処理物(炭素繊維前駆体繊維束)を、熱処理室内で水平方向に複数段で往復移送して連続的に熱処理する横型熱処理装置において、熱処理室の被処理物の送入口側と送出口側に連接してシール室を設けると共に、このシール室を仕切り板により被処理物が走行する水平方向に2〜4段毎に上下に区画することを特徴とする。
これにより、熱処理室内で発生した有毒ガスの外気への漏出を完全に阻止すると共に、被処理物(炭素繊維前駆体繊維束)間での熱交換が効率的に行われるようになる。
図1
図2
図3
図4