【0009】
本発明の第1の実施の形態による水ポテンシャル測定方法は、浸透圧調整用の試薬を用いて、水の浸透圧を多段階に調整した複数の溶液を作り、溶液に蛍光試薬をそれぞれ溶解させて蛍光試薬溶液とし、複数の蛍光試薬溶液をサンプルの複数の測定点にそれぞれ供給し、測定点におけるそれぞれの蛍光試薬溶液の浸透状態を蛍光画像として取得し、取得した蛍光画像からそれぞれの測定点における平均輝度を算出し、それぞれの測定点における平均輝度とそれぞれの測定点に供給した蛍光試薬溶液の浸透ポテンシャルとからサンプルの水ポテンシャルを決定するものである。本実施の形態によれば、浸透圧の異なる蛍光色素染色でサンプルを染色することで水ポテンシャルを測定することができる。すなわち、平均輝度が著しく低下することで生じる変曲点によってサンプルの水ポテンシャルを決定できる。
本発明の第2の実施の形態による水ポテンシャル測定方法は、浸透ポテンシャルが異なる複数の蛍光試薬溶液をサンプルのそれぞれの測定点に供給するステップと、測定点におけるそれぞれの蛍光試薬溶液の浸透状態を蛍光画像として取得するステップと、取得した蛍光画像からそれぞれの測定点における平均輝度を算出するステップと、それぞれの測定点における平均輝度とそれぞれの測定点に供給した蛍光試薬溶液の浸透ポテンシャルとからサンプルの水ポテンシャルを決定するステップとを有するものである。本実施の形態によれば、浸透圧の異なる蛍光色素染色でサンプルを染色することで、サンプルの水ポテンシャルを決定でき、温度依存性がなく、野外および圃場での測定が容易になる。
本発明の第3の実施の形態は、第1又は第2の実施の形態による水ポテンシャル測定方法において、サンプルが植物の葉であり、葉に傷を付けることで測定点とし、決定された水ポテンシャルから植物の水ストレスを判断するものである。本実施の形態によれば、浸透ポテンシャルが段階的に異なる複数の蛍光試薬溶液を用意し、それぞれに葉切片を浸漬する場合に比較して、葉から切片を切り出さず、葉に傷を付けることで測定点とし、この測定点に複数の蛍光試薬溶液をそれぞれ供給するために、野外および圃場での測定が容易になる。
本発明の第4の実施の形態による水ポテンシャル測定装置は、それぞれの蛍光試薬溶液をそれぞれの内部に収容する複数の溶液供給容器と、複数の溶液供給容器を動作させる駆動手段と、励起フィルターを介してサンプルに光を照射する励起光源と、蛍光フィルターを介して測定点における蛍光画像を取得する撮像手段と、取得した蛍光画像からそれぞれの測定点における平均輝度を算出する輝度算出手段と、輝度算出手段で算出したそれぞれの測定点における平均輝度とそれぞれの測定点に供給した蛍光試薬溶液の浸透ポテンシャルとからサンプルの水ポテンシャルを決定する水ポテンシャル算出手段とを備えたものである。本実施の形態によれば、簡易かつ小型な装置として持ち運びが容易な装置を提供することができる。
本発明の第5の実施の形態は、第4の実施の形態による水ポテンシャル測定装置において、溶液供給容器を筒状部材で構成し、筒状部材の先端部に蛍光試薬溶液を流出させる溶液供給口を形成し、溶液供給口をサンプルに接触させるものである。本実施の形態によれば、溶液供給容器の溶液供給口をサンプルに接触させることで蛍光試薬溶液を供給するため、浸透ポテンシャルが段階的に異なる複数の蛍光試薬溶液を用意し、それぞれにサンプルを浸漬する場合に比較して、簡易かつ小型な装置として持ち運びが容易な装置を提供することができる。
本発明の第6の実施の形態は、第5の実施の形態による水ポテンシャル測定装置において、サンプルが植物の葉であり、筒状部材の先端部で葉に傷を付けるとともに蛍光試薬溶液を傷に供給するものである。本実施の形態によれば、傷を付けることで蛍光試薬溶液を葉に導入するため、簡易および安価な方法で植物の水ストレスが推定でき、作物生産現場で生産者が容易に水ストレスの程度を判断することが可能になり、効果的な潅水の実現や根ぐされの回避に用いることができる。
【実施例】
【0010】
以下本発明の一実施例による水ポテンシャル測定装置について説明する。
図1は本実施例による水ポテンシャル測定装置の概略構成図である。
本実施例による水ポテンシャル測定装置は、複数の溶液供給容器11と、溶液供給容器11を動作させる駆動手段12と、励起フィルター13を介してサンプル20に光を照射する励起光源14と、蛍光フィルター15を介して測定点21における蛍光画像を取得する撮像手段16とを備えている。
サンプル20は、少なくとも暗箱10内にセットされる。
【0011】
溶液供給容器11は、筒状部材で構成し、筒状部材の内部には蛍光試薬溶液を収容し、筒状部材の先端部には蛍光試薬溶液を流出させる溶液供給口を形成している。筒状部材の先端部は、葉表面に傷を付けることができるように、円錐状に狭まっている。あるいは、先端部に葉をディスク状に打ち抜くための刃を備えていてもよい。
本実施例では、サンプル20としてトマトの葉を用いた場合を示しており、溶液供給容器11の先端部によって葉に付けられた傷が測定点21となる。
測定点21は、それぞれの溶液供給容器11によって付けられる。
【0012】
また、それぞれの溶液供給容器11には、浸透ポテンシャルの異なる蛍光試薬溶液が収容されている。
蛍光試薬溶液は、水の浸透圧を多段階に調整した溶液に、蛍光試薬を溶解させて制作され、浸透圧調整用の試薬としては、例えば、塩化ナトリウム、ポリエチレングリコール6000、マンニトールを用いることができ、蛍光試薬としては例えばフルオレセインを用いることができる。水ポテンシャル測定の分解能は、供給する蛍光色素染色における浸透圧の量子化の程度による。従って、高分解能が必要な場合は、多くの段階数で濃度調整された蛍光色素を用いることで濃度勾配を細分化する。
【0013】
駆動手段12は、溶液供給容器11の溶液供給口をサンプルに接触させる動作や、蛍光試薬溶液を供給した後で、撮像手段16で測定点21の蛍光画像を取得する時に溶液供給容器11の溶液供給口をサンプルから離間させる動作を行う。
励起フィルター13は、蛍光物質の励起に必要な波長の光を励起光源14から抽出するための光学素子で、特定の波長の光のみを透過する。
励起光源14には、一般には、高圧水銀ランプやキセノンランプのようなメタルハライドランプ、レーザー光、LEDブラックライト、LED照明等を用いることができるが、デジタルカメラのフラッシュを用いることもできる。励起光源は、蛍光試薬の蛍光を発光させるための波長帯域を含んでいるものであればこれら光源に限定されるものではない。
蛍光フィルター15は、目的とする励起光を透過するフィルターであり、蛍光試薬の蛍光色素に合わせたフィルターを選択する。
【0014】
本実施例による水ポテンシャル測定装置は、更に撮像手段16で取得した蛍光画像からそれぞれの測定点21における平均輝度を算出する輝度算出手段17と、輝度算出手段17で算出したそれぞれの測定点21における平均輝度とそれぞれの測定点21に供給した蛍光試薬溶液の浸透ポテンシャルとからサンプルの水ポテンシャルを決定する水ポテンシャル算出手段18と、水ポテンシャル算出手段18で決定したサンプルの水ポテンシャルの結果を出力する出力手段19とを備えている。
【0015】
次に本実施例による水ポテンシャル測定方法について説明する。
まず、浸透圧調整用の試薬として、ポリエチレングリコール6000で純水の浸透圧を調製し、その後フルオレセインを溶解させたものを用いた。このポリエチレングリコール6000による浸透圧調整は、Money(1989)Plant physiolgy,91,766-789. の768ページ,Table II.B.に従って-0.1MPaから-0.8MPaまでの溶液を調製した。また、このフルオレセインは、それぞれの浸透圧の溶液に1(10
-3kg/L)の濃度で溶解させた。
この浸透圧調整用の試薬を用いて、水の浸透圧を多段階に調整した複数の溶液を作り、この溶液に蛍光試薬をそれぞれ溶解させて蛍光試薬溶液とする。
調整したこれらの蛍光試薬溶液は、それぞれの溶液供給容器11に収容される。
そして、サンプル20を暗箱10内に設置して、以下のステップで測定が行われる。
第1のステップでは、駆動手段12によって溶液供給容器11を動作させ、溶液供給容器11の溶液供給口をサンプル20に接触させることで、浸透ポテンシャルが異なる複数の蛍光試薬溶液をサンプル20のそれぞれの測定点21に供給する。
第2のステップでは、駆動手段12によって溶液供給容器11をサンプル20から離間させ、励起光源14(機種名:Megalight 100,会社名:ショット日本株式会社)にからの光線が励起フィルター13(波長帯:励起バンド457nm〜487nm(GFP用)、商品コード:67003−L、企業名:エドモンド・オプティクス・ジャパン株式会社)を通過しサンプル20に光を照射し、蛍光フィルター15(波長帯:中心波長520nm、半値全幅10nm、型番:F10−520.0−4−50.0M、企業名:Melles Griot社)を介した撮像手段16としてのCCDカメラ(型番:GRAS-14S5M-C、会社名:Point Grey社)によって測定点21におけるそれぞれの蛍光試薬溶液の浸透状態を蛍光画像として取得する。
第3のステップでは、画像データ処理プログラム(プログラム名:ImageJ、アメリカ国立衛生研究所(NIH))を搭載した輝度算出手段17によって、取得した蛍光画像からそれぞれの測定点21における平均輝度を算出する。
第4のステップでは、水ポテンシャル算出手段18によって、それぞれの測定点21における平均輝度と、それぞれの測定点21に供給した蛍光試薬溶液の浸透ポテンシャルとからサンプルの水ポテンシャルを決定する。
そして、水ポテンシャル算出手段18によって決定されたサンプルの水ポテンシャルが出力手段19から出力され、植物の水ストレスを推定することができる。
【0016】
次に本実施例による水ポテンシャル測定方法によって得られた実験結果ついて説明する。
図2は撮像手段によって取得したトマトの葉表面を直径5mmのディスク状に打ち抜いた箇所の蛍光画像の写真であり、
図3は
図2における蛍光画像から算出した平均輝度と蛍光試薬の浸透ポテンシャルとの関係を示す特性図である。従来方法との比較のため、参考として、同一葉(トマトの葉は複数枚の小葉からなる)から採取した別の小葉の水ポテンシャルをプレッシャーチャンバー法で測定した際の値を一点鎖線で示す。
本実験は、サンプル20として植物の葉を用い、この葉の8箇所に傷を付けることで測定点21として測定した。水の浸透圧をあらかじめ8段階に調整した蛍光試薬溶液を用い、それぞれの測定点における蛍光試薬溶液の浸透ポテンシャルを、−0.1Mpa、−0.2Mpa、−0.3Mpa、−0.4Mpa、−0.5Mpa、−0.6Mpa、−0.7Mpa、−0.8Mpaとしている。
従来方法であるプレッシャーチャンバー法(型番:DIK-7002、メーカー名:大起理化工業、名称:植物体内水分張力測定器)で測定した同じサンプルの小葉(トマトの葉は複数の小葉から構成されている)切片の水ポテンシャル値は−0.5Mpaであり、
図3に示すように、−0.5Mpaを閾値としてそれより低い浸透ポテンシャルにおける蛍光試薬溶液では葉切片の染色程度が著しく低下している。
従って、本発明による蛍光試薬をプローブとして用いた水ポテンシャル測定方法によれば、植物の水ポテンシャル推定が可能である。
【0017】
以上のように本発明によれば、浸透圧の異なる蛍光色素染色でサンプル20を染色することで水ポテンシャルを測定することができる。すなわち、平均輝度が著しく低下することで生じる変曲点によってサンプル20の水ポテンシャルを決定できる。
また、本発明によれば、浸透圧の異なる蛍光色素染色でサンプル20を染色することで、サンプル20の水ポテンシャルを決定でき、温度依存性がなく、野外および圃場での測定が容易になる。
また、本発明によれば、浸透ポテンシャルが段階的に異なる複数の蛍光試薬溶液を用意し、それぞれに葉切片を浸漬する場合に比較して、葉から切片を切り出さず、葉に傷を付けることで測定点21とし、この測定点21に複数の蛍光試薬溶液をそれぞれ供給するために、野外および圃場での測定が容易になる。
また、本発明によれば、簡易かつ小型な装置として持ち運びが容易な装置を提供することができる。
また、本発明によれば、溶液供給容器11の溶液供給口をサンプル20に接触させることで蛍光試薬溶液を供給するため、簡易かつ小型な装置として持ち運びが容易な装置を提供することができる。
また、本発明によれば、傷を付けることで蛍光試薬溶液を葉に導入するため、簡易および安価な方法で植物の水ストレスが推定でき、作物生産現場で生産者が容易に水ストレスの程度を判断することが可能になり、効果的な潅水の実現や根ぐされの回避に用いることができる。