(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5717093
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】ナノファイバー不織布の製造方法及び装置
(51)【国際特許分類】
D01D 5/04 20060101AFI20150423BHJP
D04H 1/728 20120101ALI20150423BHJP
【FI】
D01D5/04
D04H1/728
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-70107(P2011-70107)
(22)【出願日】2011年3月28日
(65)【公開番号】特開2012-202010(P2012-202010A)
(43)【公開日】2012年10月22日
【審査請求日】2013年12月16日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的部材産業創出プログラム/新産業創造高度部材基盤技術開発/先端機能発現型新構造繊維部材基盤技術の開発」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】川勝 孝博
(72)【発明者】
【氏名】小川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴義
(72)【発明者】
【氏名】平田 一也
(72)【発明者】
【氏名】皆川 美江
(72)【発明者】
【氏名】住田 寛人
【審査官】
松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−032593(JP,A)
【文献】
特開2005−264374(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0089094(US,A1)
【文献】
特開2008−223186(JP,A)
【文献】
特開2009−228168(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 5/04
D04H 1/728
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電性又は導電性ポリマーを含む原料ポリマーを溶媒に溶解したポリマー溶液を吐出部から吐出させ、吐出物を捕集部の一側に向けて飛翔させてナノファイバーを生成させ、生成したナノファイバーを該捕集部で捕集してナノファイバー不織布とするナノファイバー不織布の製造方法において、
該捕集部を通風可能な構造とし、該捕集部の他側を気体吸引手段によって吸引すると共に、前記吐出部から捕集部に向う方向に送風手段によって送風するナノファイバー不織布の製造方法であって、
前記吐出部を非導電性材料製とし、
該ポリマー溶液と接触する電極を設置し、該電極と前記捕集部との間に電圧を印加し、
該送風手段による送風方向、該気体吸引手段による吸引方向、及び該吐出部によるポリマー溶液の吐出方向を同方向とし、
該送風手段が発生させる風量を、該気体吸引手段が発生させる風量の30〜80%とし、
該吐出部と捕集部との間の吐出物飛翔ゾーンの外周囲を包囲体で包囲することを特徴とするナノファイバー不織布の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記吐出部の周囲又は前記吐出物飛翔ゾーンの周囲に補助電極を設け、該補助電極が前記電極と反対の電位となるように電圧を印加することを特徴とするナノファイバー不織布の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記電極を前記ポリマー溶液が収容されるタンクに設置することを特徴とするナノファイバー不織布の製造方法。
【請求項4】
荷電性又は導電性ポリマーを含む原料ポリマーを溶媒に溶解した溶液を吐出する吐出部と、
該吐出部からのナノファイバーを一側において捕集する捕集部と、
該吐出部と捕集部との間に電圧を印加する手段と、
を備えたナノファイバー不織布の製造装置において、
該捕集部を通風可能な構成とし、
該捕集部の他側を吸引する気体吸引手段と、該吐出部から捕集部に向う方向に送風する送風手段とを設けると共に、
前記吐出部を非導電性材料製とし、
該ポリマー溶液と接触する電極を設置し、該電極と前記捕集部との間に電圧を印加する電圧印加手段と、
前記吐出部と捕集部との間の吐出物飛翔ゾーンの外周囲を包囲する包囲体と、
を備え、
前記送風手段による送風方向、前記気体吸引手段による吸引方向、及び前記吐出部による溶液の吐出方向を同方向とし、
前記送風手段が発生させる風量は、前記気体吸引手段が発生させる風量の30〜80%であることを特徴とするナノファイバー不織布の製造装置。
【請求項5】
請求項4において、前記ポリマー溶液を収容するタンクが設けられており、
該タンクに前記電極が設置されていることを特徴とするナノファイバー不織布の製造装置。
【請求項6】
請求項4又は5において、前記吐出部の周囲又は前記吐出物飛翔ゾーンの周囲に設けられた補助電極と、
該補助電極に対し前記電極と反対の電位となるように電圧を印加する補助電極用電圧印加手段と、
をさらに備えたことを特徴とするナノファイバー不織布の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーから成るナノファイバーを堆積したナノファイバー不織布の製造方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリマーから成るサブミクロンスケールの直径を有するナノファイバーを製造する方法として、電界紡糸法が知られている。この電界紡糸法では、高電圧を印加した針状のノズルにポリマー溶液を供給し、この針状のノズルからポリマー溶液を捕集部に向けて線状に吐出させる。この線状ポリマー溶液が帯電し、ポリマー溶液の溶媒蒸発に伴って線状ポリマー溶液の径が小さくなり、帯電電荷が集中し、線状ポリマー溶液に作用するクーロン力が大きくなる。このクーロン力が線状ポリマー溶液の表面張力よりも大きくなると、線状ポリマー溶液が爆発的に延伸される現象(静電爆発現象)が生じ、この静電爆発現象が繰り返されることにより、サブミクロン(例えば50〜1000nm)の直径のナノファイバーが生成する。
【0003】
このナノファイバーを捕集部上に堆積させることにより、立体的な網目を持つ3次元構造の薄膜を得ることができる。また、ナノファイバーを厚く形成することにより、サブミクロンの網目を持つ高多孔性ウェブを製造することができる。こうして製造された高多孔性ウェブはフィルタや電池のセパレータや燃料電池の高分子電解質膜や電極等に好適に適用することができる。
【0004】
ナノファイバー不織布の製造方法として、ポリマー溶液をノズルから流出させて電界紡糸法にて生成させたナノファイバーを捕集部としての通風可能な移動シート上に堆積させると共に、このシートの下側を吸引する方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−223179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、上記ノズルは金属製とされており、ノズルは導電性を有している。そのため、特に荷電性又は導電性ポリマーを電界紡糸する場合はノズル先端のポリマー溶液の荷電がノズルを介して逃げるので、ポリマー溶液と捕集部との間の電位差を高く維持するにはノズルへの印加電圧を非常に高くする必要があった。このように印加電圧を高くするとノズルと捕集部との間で放電が生じ、紡糸の安定性が損なわれるおそれがあった。
【0007】
また、特許文献1に示された構成では、シートの下側から吸引するだけであるため、吐出部から捕集部に向って飛翔するナノファイバーの一部が飛散したり、捕集部上の堆積厚さのムラが大きくなったりするおそれがある。
【0008】
本発明は、上記従来の課題を解決し、放電を生じさせることなく、均一なナノファイバー不織布を効率的に製造することができるナノファイバー不織布の製造方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1のナノファイバー不織布の製造方法は、荷電性又は導電性ポリマーを含む原料ポリマーを溶媒に溶解したポリマー溶液を吐出部から吐出させ、吐出物を捕集部の一側に向けて飛翔させてナノファイバーを生成させ、生成したナノファイバーを該捕集部で捕集してナノファイバー不織布とするナノファイバー不織布の製造方法において、該捕集部を通風可能な構造とし、該捕集部の他側を気体吸引手段によって吸引すると共に、前記吐出部から捕集部に向う方向に送風手段によって送風するナノファイバー不織布の製造方法であって、前記吐出部を非導電性材料製とし、該ポリマー溶液と接触する電極を設置し、該電極と前記捕集部との間に電圧を印加
し、該送風手段による送風方向、該気体吸引手段による吸引方向、及び該吐出部によるポリマー溶液の吐出方向を同方向とし、該送風手段が発生させる風量を、該気体吸引手段が発生させる風量の30〜80%とし、該吐出部と捕集部との間の吐出物飛翔ゾーンの外周囲を包囲体で包囲することを特徴とするものである。
【0011】
請求項
2のナノファイバー不織布の製造方法は、請求項
1において、前記吐出部の周囲又は
前記吐出物飛翔ゾーンの周囲に補助電極を設け、該補助電極が前記電極と反対の電位となるように電圧を印加することを特徴とするものである。
【0013】
請求項
3のナノファイバー不織布の製造方法は、請求項1
又は2において、前記電極を前記ポリマー溶液が収容されるタンクに設置することを特徴とするものである。
【0014】
請求項
4のナノファイバー不織布の製造装置は、荷電性又は導電性ポリマーを含む原料ポリマーを溶媒に溶解した溶液を吐出する吐出部と、該吐出部からのナノファイバーを一側において捕集する捕集部と、該吐出部と捕集部との間に電圧を印加する手段と、を備えたナノファイバー不織布の製造装置において、該捕集部を通風可能な構成とし、該捕集部の他側を吸引する気体吸引手段と、該吐出部から捕集部に向う方向に送風する送風手段とを設けると共に、前記吐出部を非導電性材料製とし、該ポリマー溶液と接触する電極を設置し、該電極と前記捕集部との間に電圧を印加する電圧印加手段
と、前記吐出部と捕集部との間の吐出物飛翔ゾーンの外周囲を包囲する包囲体と、を備え
、前記送風手段による送風方向、前記気体吸引手段による吸引方向、及び前記吐出部による溶液の吐出方向を同方向とし、前記送風手段が発生させる風量は、前記気体吸引手段が発生させる風量の30〜80%であることを特徴とするものである。
【0015】
請求項
5のナノファイバー不織布の製造装置は、請求項
4において、前記ポリマー溶液を収容するタンクが設けられており、該タンクに前記電極が設置されていることを特徴とするものである。
【0016】
請求項
6のナノファイバー不織布の製造装置は、請求項
4又は5において、前記吐出部の周囲又は
前記吐出物飛翔ゾーンの周囲に設けられた補助電極と、該補助電極に対し前記電極と反対の電位となるように電圧を印加する補助電極用電圧印加手段と、をさらに備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、捕集部を吐出部と反対側(他側)から吸引するだけでなく、吐出部から捕集部に向う方向に送風するので、吐出部から捕集部に向って飛翔するナノファイバー(電界紡糸繊維)が均一な分布状態を維持しつつ、捕集部からはみ出すことなく、捕集部上に確実に堆積するようになるので、均一なナノファイバー不織布を効率的に製造することができる。
【0019】
本発明では、吐出部を非導電性材料にて構成し、ポリマー溶液と接する電極と捕集部との間に電圧を印加するので、吐出部の先端部においてポリマー溶液から荷電が吐出部へ逃げない。このため、印加電圧を徒に高くすることなく、ポリマー溶液と捕集部との間の電位差を高く保つことができる。この結果、放電を防止してナノファイバー不織布を効率的に製造することができる。
【0020】
本発明では、吐出部又は吐出物飛翔ゾーンの周囲に補助電極を設け、該補助電極に、電極と反対の電位となるように電圧を印加することにより、捕集部に印加する電圧を低減できる。これにより、放電の可能性がさらに低くなる。
【0021】
なお、ナノファイバーの堆積物は、捕集部を通過する気体流によって捕集部に押し付けられるので、通常の場合、シート状となる。送風手段の風量を気体吸引手段の風量の30%以上とすることにより、捕集部に堆積したナノファイバーの毛羽立ちを抑えることができ、これにより捕集部上のナノファイバーの堆積厚さのムラを小さくすることができる。この送風手段の風量を多くし過ぎると、捕集部の吐出部側(一側)の風量が過剰となって該送風手段の周りで風が循環するようになり、吐出部から捕集部に向って飛翔するナノファイバーの一部が捕集部に捕集されずに飛散するおそれがあるが、この送風手段の風量を気体吸引手段の風量の100%以下とすることにより、捕集部の吐出部側の風量が過剰となることが防止され、ナノファイバーの飛散を防止することができる。
【0022】
捕集部にナノファイバーが捕集されると、徐々に捕集部が閉塞されるため、送風手段の風量と気体吸引手段の風量とが同等である場合には、この捕集部の閉塞に伴って送風手段の風量が過剰となり、吐出部から捕集部に向って飛翔するナノファイバーの一部が飛散するおそれがあるが、この送風手段の風量を気体吸引手段の風量の例えば80%以下と少なくすることにより、捕集部へのナノファイバーの捕集が進んでも送風手段の風量が過剰となりにくく、ナノファイバーの飛散を長期にわたって、より確実に防止することができる。
【0023】
吐出部と捕集部との間の吐出物飛翔ゾーンの外周囲を包囲体で囲むことにより、一層均一なナノファイバー不織布を効率的に製造することができる。
【0024】
また、吐出部から捕集部に向う気体流の湿度や温度を調節することにより、飛翔中のナノファイバーや捕集部上のナノファイバー不織布からの溶媒の蒸発速度を制御することができ、品質の良いナノファイバー不織布を製造できて好適である。
【0025】
吐出部や吐出部に供給させるポリマー溶液を加温することにより、ポリマー溶液のゲル化や固化を防止し、ナノファイバー不織布を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施の形態に係る不織布製造装置の断面図である。
【
図2】
図1の不織布製造装置のハウジングを取り除いた状態の斜視図である。
【
図3】別の実施の形態に係る不織布製造装置のハウジングを取り除いた状態の斜視図である。
【
図4】比較例に係る不織布製造装置のハウジングを取り除いた状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。第1図は実施の形態に係るナノファイバー不織布の製造装置の断面図、第2図はこの不織布製造装置のハウジングを取り除いた状態の斜視図である。
【0028】
[第1,2図のナノファイバー不織布製造装置]
第1,2図では、ポリマー溶液を細線状に吐出するための吐出部としてのノズル1と、該ノズル1から吐出して生成したナノファイバーを捕集する捕集部としての捕集材2とが包囲体としてのハウジング3内に配置されている。この実施の形態では、ハウジング3は円筒形、角筒形等の筒状であり、一端側に送風手段としての送風機4が配置され、他端側に気体吸引手段としての排風機5が設けられている。
【0029】
ノズル1は、合成樹脂、セラミックスなどの非導電性材料にて構成されている。合成樹脂としては、フッ素樹脂、各種エンジニアリングプラスチック、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコン樹脂、ポリアミド、ポリ塩化ビニルなど各種のものを用いることができる。
【0030】
排風機5は捕集材2を挟んでノズル1と反対側に配置されている。ノズル1に対しては配管6及びポンプ7を介してタンク8内のポリマー溶液が供給される。このタンク8内のポリマー溶液に浸漬されるようにして電極(主電極)9が設置されている。電圧源10によって電極9が負、捕集材2が正となるように電極9及び捕集材2に電圧が印加される。なお、この極性を逆としてもよい。電極9と捕集材2との電位差は1〜100kV特に5〜100kVであるが、これに限定されない。なお、配管6はノズル1と同様の非導電材料にて構成されていることが好ましい。タンク8は合成樹脂等の非導電材料製であってもよく、金属等の導電材料製であってもよい。
【0031】
捕集材2は、多孔板、メッシュ、織布、不織布などの通風可能な金属等の導電性材料よりなる。導電性の多孔板やメッシュのノズル1側の板面に織布や不織布を配置したものなどであってもよい。
【0032】
このように構成されたナノファイバー不織布製造装置において、送風機4及び排風機5を作動させ、電極9と捕集材2との間に電圧を印加し、ノズル1からポリマー溶液を吐出させると、ノズル1からポリマー溶液が細い線状体として吐出される。この線状体からポリマー溶液の溶媒が蒸発することで線状体の径が細くなり、それに伴って帯電されていた電荷が集中し、そのクーロン力が線状体のポリマー溶液の表面張力を超えた時点で一次静電爆発が生じて爆発的に延伸され、その後さらに溶媒が蒸発して同様に二次静電爆発が生じて爆発的に延伸され、場合によってはさらに三次静電爆発が生じて延伸されることで、サブミクロンの直径を有するポリマーから成るナノファイバーFが効率的に生成する。このようにノズル1を非導電性とし、電極9によってポリマー溶液に電圧を印加することにより、ノズル1の先端付近のポリマー溶液の荷電がノズル1に逃げない。そのため、電極9と捕集材2との間の印加電圧を徒に高くすることなく、ノズル1の先端部付近のポリマー溶液と捕集材2との間の電位差を大きくすることができ、放電を防止しつつ品質の良好なナノファイバー不織布を効率よく製造することが可能となる。
【0033】
本発明においては、不織布製造時には、送風機4の風量が排風機5の風量の30〜100%好ましくは30〜80%となるように、該送風機4及び排風機5を作動させる。
【0034】
このナノファイバーFが捕集材2上に捕集されて堆積し、不織布が生成する。所定量の不織布が生成した後、上記の製造操作を停止し、捕集材2から不織布を取り出す。
【0035】
不織布製造時に、送風機4の風量が排風機5の風量の30%以上となるように該送風機4及び排風機5を作動させることにより、捕集材2に堆積したナノファイバーFの毛羽立ちを抑えることができ、これにより捕集材2上のナノファイバーFの堆積厚さのムラを小さくすることができる。この送風機4の風量を多くし過ぎると、捕集材2のノズル1側の風量が過剰となって該送風機4の周りで風が循環するようになり、ノズル1から捕集材2に向って飛翔するナノファイバーFの一部が捕集材2に捕集されずに飛散するおそれがあるが、この送風機4の風量を排風機5の風量の100%以下とすることにより、捕集材2のノズル1側の風量が過剰となることが防止され、ナノファイバーFの飛散を防止することができる。
【0036】
なお、捕集材2にナノファイバーFが捕集されると、徐々に捕集材2が閉塞されるため、送風機4の風量と排風機5の風量とが同等である場合には、この捕集材2の閉塞に伴って送風機4の風量が過剰となるおそれがあるが、この送風機4の風量を排風機5の風量の80%以下とすることにより、捕集材2へのナノファイバーFの捕集が進んでも送風機4の風量が過剰となりにくく、ナノファイバーFの飛散を長期にわたって、より確実に防止することができる。
【0037】
この実施の形態では、ノズル1と捕集材2との間の吐出物飛翔ゾーンを取り囲むようにハウジング3が設けられ、送風機4がハウジング3の上流部に設けられ、排風機5が捕集材2の下流側に配置されているので、ノズル1から捕集材2に向って飛翔するナノファイバーFが周囲に飛散することなく、また均一に分布した状態で捕集材2に捕集される。従って、捕集材2上の不織布は、品質、特性及び厚みのムラが少ないものとなる。
【0038】
[第3図のナノファイバー不織布製造装置]
第3図では、第1,2図の製造装置において、補助電極12をノズル1と捕集材2との間の吐出物飛翔ゾーンに、該飛翔ゾーンを取り巻くように配置している。この実施の形態では、補助電極12はノズル1と同軸の短い円筒状である。ノズル1の先端と捕集材2との距離をaとし、ノズル1の先端と補助電極12との距離をbとした場合、b/aは0.3〜1.5特に0.5〜1.0程度が好適である。
【0039】
前記電極9とこの補助電極12との間には電圧源10によって高電圧が印加される。第3図では、捕集材2及び補助電極12が正、電極9が負となるように高電圧が印加されている。なお、この極性を逆としてもよい。電極9と捕集材2との間の電圧V
1は1kV〜100kV特に5kV〜100kV程度が好適であるが、これに限定されない。電極9と補助電極12との間の電圧V
2は、V
1以下、例えばV
1の30〜100%特に50〜90%であることが好ましい。
【0040】
この実施の形態では、補助電極12を設けているので、電極9と捕集材2との間の電圧を、補助電極12が無い第1,2図の場合よりも低くしても、十分に品質の良いナノファイバーを製造することができる。
【0041】
なお、図示は省略するが送風機4で送風する空気を加湿するためのエアヒータや、この空気を加湿するための水蒸気供給器を設置してもよい。エアヒータで空気を加温し、飛翔中の細線状ポリマー溶液からの溶媒の蒸発を促進したり、ハウジング3内の雰囲気中の湿度(水蒸気濃度)を調整し、細線状ポリマー溶液からの溶媒の蒸発速度を制御したりすることが可能であり、これにより、ナノファイバーの長さや径を調節することが可能である。
【0042】
上記製造装置は、ナノファイバー不織布をバッチ式に製造するものであるが、捕集材を連続的に移動させ、この捕集材上にナノファイバーを堆積させて不織布を連続的にを製造するようにしてもよい。
【0043】
この場合、捕集材は、メッシュ、織布、不織布などの通風可能かつ屈曲可能な材料よりなる無端ベルト状のものであり、駆動ローラ間にエンドレスに架け渡され、上側走行部が水平に移動するよう構成される。
【0044】
[ナノファイバーの原料]
ナノファイバーの原料ポリマーのうち、導電性ポリマーとしては、ポリアセチレン、ポリチオフェン類などが挙げられる。
【0045】
荷電性ポリマーとしては、パーフルオロカーボンスルホン酸重合体(NAFION(登録商標)、Fumion(商品名))、骨格となる非荷電性ポリマーにスルホン基、カルボキシル基、1〜4級アミノ基が付与されたポリマーを挙げることができる。骨格となる非荷電性ポリマーとしては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエステル、ポリビニリデンフロライドなどを挙げることができる。
【0046】
本発明では、原料ポリマーは導電性ポリマー及び/又は荷電性ポリマーのみからなってもよく、さらに非導電性ポリマー、非荷電性ポリマーを含んでもよい。このようなポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドなどのポリエーテル、PTFE、CTFE、PFA、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂、ポリ塩化ビニルなどのハロゲン化ポリオレフィン、ナイロン−6、ナイロン−66などのポリアミド、ユリア樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリスチレン、セルロース、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアクリルニトリル、ポリエーテルニトリル、ポリビニルアルコールおよびこれらの共重合体などの素材が使用できるが、この限りではない。特に1種類の素材に限定されることはなく、必要に応じて種々の素材を選択できる。
【0047】
溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、フッ素系溶媒などが好適であるが、前記溶剤100体積部に対して水を10〜1000体積部混合した混合溶媒も好適である。
【0048】
このナノファイバーは、カチオン交換基、アニオン交換基及びキレート基の少なくとも1種が付与されてもよい。
【0049】
イオン交換基としては、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、カルボン酸基、水酸基、フェノール基、4級アンモニウム基、1〜3級アミン基、ピリジン基、アミド基などがあるがこの限りではない。これらの官能基はH型、OH型だけでなく、Naなどの塩型であってもよい。
【0050】
官能基の導入方法は、特に限定されるものではなく、各種の方法を採用することができる。例えば、ポリスチレンの場合、硫酸溶液中にパラホルムアルデヒドを適量添加し、加熱架橋することで、スルホン酸基の導入が可能である。ポリビニルアルコールの場合は、水酸基に、トリアルコキシシラン基やトリクロロロシラン基、あるいはエポキシ基などを作用させることなどにより、官能基を導入することができる。材質によって直接官能基を導入できない場合は、まず、スチレンなどの反応性の高いモノマー(反応性モノマーと呼ぶ)を導入した上で、官能基を導入するといったような、2段階以上の導入操作を経て、目的とする官能基を導入しても良い。これらの反応性モノマーとしては、グリシジルメタクリレート、スチレン、クロロメチルスチレン、アクロレイン、ビニルピリジン、アクリロニトリルなどがあるが、この限りではない。
【0051】
[その他の実施の形態]
本発明では、ノズルの加温用のヒータや、ノズルに供給されるポリマー溶液を30〜90℃特に30〜60℃程度に加温する加温器(ヒータや熱交換器など)を設けてもよい。このようにノズルやノズルに供給させるポリマー溶液を加温することにより、ポリマー溶液のゲル化や固化を防止し、ナノファイバー不織布を効率的に製造することができる。
【0052】
本発明では、排風機からの排風を送風機の吸込側に送ってもよい。
【実施例】
【0053】
<実施例1〜5及び比較例1>
[実施例1]
市販のNAFION10重量部と、ポリフッ化ビニリデン10重量部とをジメチルアセトアミド80重量部に溶解させてナノファイバー製造用ポリマー溶液を調製した。
【0054】
このポリマー溶液を第1,2図の装置を用い、ノズル1に480分間にわたって供給し、平均繊維径300nmのナノファイバーを製造した。その他の条件は次の通りである。
【0055】
ノズル材質:PTFE
ノズル口径:320μm
ノズルからの噴出量:0.2mL/min
ノズル1の先端と捕集材2との距離a:135mm
ハウジング断面積:1300cm
2
送風量:30000L/min
排気風量:50000L/min
湿度:50%
温度:室温
電極9の電位:−30kV
捕集材2の電位:+10kV
【0056】
この実施例1において、放電の有無、作製物の状態のSEM観察、作製中のナノファイバーの毛羽立ちと舞い上がり、作製した膜の膜厚、膜厚のばらつき、生成したナノファイバーの回収率を求めた。
【0057】
膜厚のばらつきは、作製した膜を1辺100mmの正方形に切り取り、等間隔に16点の膜厚を測定し、平均値と最も厚い値と最も薄い値を出して、平均値からの差を算出して求めた。また、ナノファイバーの回収率は、ナノファイバー膜生成量/溶液使用量から算出したナノファイバー生産見込み量×100で求めた。
【0058】
結果を表1に示す。表1の通り、この実施例1によると、放電することなく、安定して繊維を形成してムラなく十分な膜厚の不織布を製造することができた。
【0059】
[実施例2]
実施例1において、第3図のように補助電極12を設置した。ノズル1の先端と補助電極12との距離bは160mmとした。電極9に−25kV、補助電極12及び捕集材2に+10kVを印加した。その他は実施例1と同一条件にて不織布を製造した。その結果を表1に示す。表1の通り、放電することなく、安定して繊維を形成してムラなく十分な膜厚の不織布を製造することができた。
【0060】
[比較例1]
実施例1において電極9を撤去し、ノズル1をステンレス(SUS304)製とし、ノズル1と捕集材2との間に電圧を印加(ノズル1の電位:−50kV、捕集材2の電位:+10kV)したこと以外は同一の条件にて不織布を製造したところ、表1の通り、放電が生じた。
【0061】
[比較例2(送風吸気の比率の変更)]
実施例1において送風量を30000L/minとし、排風量を20000L/minとした他は同一条件にて不織布の製造を試みたが、表1の通り、捕集部に作製した繊維が捕集されるにつれて徐々に舞い上がり、膜厚が小さくなり、ナノファイバー回収率も低い値となった。送風量に対して排風量が少ないため、送風/排風のバランスが悪くなり、繊維の舞い上がりが起こったと考えられる。
【0062】
【表1】
【0063】
これらの実施例及び比較例から明らかなとおり、本発明によれば、放電が防止されると共に、毛羽立ちや膜厚のバラつき(ムラ)の発生を防止して均一なナノファイバー不織布を効率よく製造することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 ノズル
2 捕集材
3 ハウジング
4 送風機
5 排風機
6 ポリマー溶液供給用の配管
7 ポンプ
8 タンク
9 電極
10 電圧源
12 補助電極