(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図面を参照して本発明に係る半導体光導波路素子の製造方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する構成要素には適宜同一の符号を付している。また、図面は模式的なものであり、各層の厚さや厚さの比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0022】
(実施の形態1)
はじめに、本発明の実施の形態1に係る半導体光導波路素子について説明する。以下では、はじめに本実施の形態1に係る半導体光導波路素子の構成を説明し、つぎにこの半導体光導波路素子の動作を説明し、つぎにこの半導体光導波路素子の製造方法の一例を説明する。
【0023】
(構成)
図1は、実施の形態1に係る半導体光導波路素子の模式的な平面図である。
図1に示すように、この半導体光導波路素子100は、順次接続した、スポットサイズ変換部であるスポットサイズ変換器11と、曲げ導波路12と、電流または電圧で動作制御を行なう能動部である半導体光増幅器13と、曲げ導波路14と、スポットサイズ変換器15とを備えている。
図1は、これらの導波路のコア層(または活性コア層)の幅方向の形状を示している。
【0024】
スポットサイズ変換器11、15、曲げ導波路12、14は、それぞれ受動領域PA1に形成されている。また、半導体光増幅器13は能動領域AA1に形成されている。また、この半導体光導波路素子100は、光入射端面100aと、光出射端面100bとを有する。光入射端面100aと光出射端面100bとは、劈開により形成されており、表面に無反射コーティングが施されている。
【0025】
スポットサイズ変換器11の光伝搬方向である中心軸は、光入射端面100aにおける光の反射を抑制するために、光入射端面100aの法線に対し7度傾斜している。同様に、スポットサイズ変換器15の光伝搬方向である中心軸は、光出射端面100bの法線に対し7度傾斜している。これらの傾斜は、曲げ導波路12、14によって実現されている。
【0026】
スポットサイズ変換器11と光入射端面100aとの間、およびスポットサイズ変換器15と光出射端面100bとの間には、窓構造100c、100dがそれぞれ形成されており、上述した7度の傾斜とともに端面反射をさらに抑制している。
【0027】
スポットサイズ変換器11は、光入射端面100a側から半導体光増幅器13側に向かって、光の伝搬方向に沿って幅がテーパー状に増加するコア層を有している。また、スポットサイズ変換器15は、半導体光増幅器13側から光出射端面100b側に向かって、光の伝搬方向に沿って幅がテーパー状に減少するコア層を有している。
【0028】
スポットサイズ変換器11の光入射端面100a側におけるコア層の幅は0.5μmであるが、たとえば0.3μm以上1.0μm以下とできる。また、半導体光増幅器13側におけるコア層の幅は、曲げ導波路12、14のコア層および半導体光増幅器13の活性コア層の幅と同一であり、波長1.55μm帯の光をシングルモード伝送するように、2μmに設定されている。また、スポットサイズ変換器11の光の伝搬方向の長さは300μmであるが、たとえば200〜500μmとできる。スポットサイズ変換器15の形状はスポットサイズ変換器11と同一である。すなわち、光出射端面100b側におけるコア層の幅は0.5μmであり、半導体光増幅器13側におけるコア層の幅はたとえば2μmであり、光の伝搬方向の長さは300μmである。また、窓構造100c、100dの長さは10μmである。
【0029】
つぎに、この半導体光導波路素子100の断面構造について説明する。
図2は、
図1に示す半導体光導波路素子100のA−A線断面図であり、半導体光増幅器13の断面を示している。
図3は、
図1に示す半導体光導波路素子100のB−B線断面図であり、スポットサイズ変換器15の断面を示している。
【0030】
はじめに、半導体光増幅器13の断面構造について説明する。
図2に示すように、半導体光増幅器13は、裏面にAuGeNiからなるn側電極101を形成した、n型InPからなる共通の基板102上に、バッファ層としても機能するn型InPからなる下部クラッド層103と、InGaAsPからなり、多重量子井戸(MQW:Multi Quantum Well)構造の上下に分離閉じ込めヘテロ構造(SCH:Separate Confinement Heterostructure)を形成したMQW−SCH構造を有する活性コア層104と、p型InPからなる上部クラッド層105が順次積層した構成を有する。なお、活性コア層104は、波長1.55μm帯の波長の光を増幅できるようにその組成が調整されている。
【0031】
また、下部クラッド層103の一部、活性コア層104、および上部クラッド層105はメサ構造を構成しており、このメサ構造は、埋込層106によって埋め込まれている。このように、半導体光増幅器13は埋込型の光導波路である。また、埋込層106は、FeをドープしたInPからなる半絶縁層106aとn型InP層106bとが順次積層した構造を有しており、活性コア層104に対して埋込構造とともに電流狭窄構造を形成している。なお、Feをドープした半絶縁層106aは、p型ドーパントを含まないため、導波路損失を低減することができ好ましい。
【0032】
さらに、半導体光増幅器13は、上部クラッド層105および埋込層106上には、p型InPからなる共通の上部クラッド層107と、p型InGaAsPからなるコンタクト層108と、SiNxからなる保護膜112および保護膜112の開口部に形成したAuZnからなるp側電極109とが順次積層した構成を有している。
【0033】
この半導体光増幅器13では、上部クラッド層105、107が、活性コア層104の上部のクラッド領域C1として機能する。
【0034】
つぎに、スポットサイズ変換器15の断面構造について説明する。
図3に示すように、スポットサイズ変換器15は、裏面にn側電極101を形成した共通の基板102上に、n型InPからなる下部クラッド層103と、ノンドープのInGaAsPからなるコア層110と、ノンドープのInPからなる上部クラッド層111が順次積層した構成を有する。なお、コア層110は、波長1.55μm帯の光を透過するようにその組成が調整されている。
【0035】
また、下部クラッド層103の一部、コア層110、および上部クラッド層111はメサ構造を構成している。ここで、スポットサイズ変換器15のメサ構造は、半導体光増幅器13と同様に、半絶縁層106aとn型InP層106bとからなる埋込層106によって埋め込まれており、埋込型光導波路を形成している。しかし、半導体光増幅器13の場合とは異なり、埋込層106はメサ構造を埋め込むとともに、メサ構造の上部に到るまでメサ構造を覆うように形成されている。
【0036】
さらに、スポットサイズ変換器15は、この埋込層106上に、共通の上部クラッド層107と、SiNxからなる保護膜112とが順次積層した構成を有している。
【0037】
したがって、このスポットサイズ変換器15では、上部クラッド層107、111に加え、メサ構造の上部に到るまで形成された埋込層106が、コア層110の上部のクラッド領域C2として機能する。その結果、スポットサイズ変換器15の上部のクラッド領域C2の厚さは、半導体光増幅器13の上部のクラッド領域C1の厚さよりも、ほぼ埋込層106の厚さdだけ厚くなっている。なお、上部クラッド層107、111および埋込層106は、いずれもInPからなるので、屈折率は略同一である。
【0038】
図4は、
図1に示す半導体光導波路素子100のC−C線断面図である。
図4に示すように、半導体光導波路素子100は、スポットサイズ変換器11、15、曲げ導波路12、14、および半導体光増幅器13を、共通の基板102上にモノリシックに集積したものである。また、受動領域PA1のスポットサイズ変換器11、および曲げ導波路12、14は、スポットサイズ変換器15と同様の断面構造を有している。また、窓構造100c、100dは埋込層106によって実現されている。
【0039】
(動作)
つぎに、この半導体光導波路素子100の動作を説明する。まず、この半導体光導波路素子100を、たとえばPLC導波路に接続する。そして、入力側のPLC導波路から波長1.55μm帯の光を入力して、光入射端面100aおよび窓構造100cを介してスポットサイズ変換器11に入力させる。
【0040】
スポットサイズ変換器11は、入力された光のスポットサイズを半導体光増幅器13のスポットサイズに近づけるように縮小して、曲げ導波路12を介して半導体光増幅器13に入力させる。半導体光増幅器13は、n側電極101とp側電極109との間に電圧を印加し、電流が注入されている。したがって、半導体光増幅器13は、入力された光を増幅し、増幅光を曲げ導波路14を介してスポットサイズ変換器15に出力する。スポットサイズ変換器15は、入力された増幅光のスポットサイズを出力側のPLC導波路のスポットサイズに近づけるように拡大して、窓構造100dおよび光出射端面100bを介して出力側のPLC導波路に出力する。
【0041】
ここで、スポットサイズ変換器15は、半導体光増幅器13の上部のクラッド領域C1の厚さよりも厚さdだけ厚い上部のクラッド領域C2を有する。その結果、スポットサイズ変換器15において光のスポットサイズが拡大しても、拡大した光のフィールドが上部クラッド層107の上面および保護膜112に到達することが防止される。同様に、スポットサイズ変換器11も、厚い上部のクラッド領域C2を有するので、PLC導波路からの入力光のフィールドが上部クラッド層107の上面および保護膜112に干渉しないようにしてこの入力光を受け付けることができる。その結果、この半導体光導波路素子100は、スポットサイズ変換器11、15における光損失の発生が抑制されるので、PLC導波路との結合損失の増加が抑制される。
【0042】
また、スポットサイズ変換器11、15の上部のクラッド領域が厚くされているにもかかわらず、半導体光増幅器13の上部のクラッド領域C1の厚さは厚くされていないままである。したがって、p側電極109から電流が注入される際の電気抵抗の増加は抑制されている。その結果、この半導体光導波路素子100は、消費電力の増加が抑制されたものとなる。
【0043】
なお、上部クラッド層107の厚さは約2μmであるが、半導体光増幅器13の動作に必要とされる厚さに適宜設定することができ、たとえば1.5〜3μm程度が好ましい。また、埋込層106の厚さdは約2.5μmである。埋込層106の厚さについては、上部クラッド層107の厚さおよび埋込層の電流阻止特性を考慮して、半導体光導波路素子100に接続するPLC導波路等の光導波路のスポットサイズに応じて適宜設定することができ、たとえば1.5〜3μm程度が好ましい。
【0044】
以上のように、本実施の形態1に係る半導体光導波路素子100は、消費電力の増加および光損失の発生による結合損失の増加を同時に抑制したものとなる。
【0045】
(製造方法)
つぎに、本実施の形態1に係る半導体光導波路素子100の製造方法の一例について、
図5〜
図10を用いて説明する。
【0046】
図5は、
図1のC−C線断面に対応する断面を示す図である。また、
図6、7は、
図1と同様に、導波路のコア層(または活性コア層)幅方向の形状を示している。まず、
図5(a)に示すように、有機金属気相成長(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)法を用いて、基板102上に下部クラッド層103、活性コア層104、上部クラッド層105を結晶成長する。
【0047】
つぎに、全面にSiNx膜を成膜した後、このSiNx膜を能動領域AA1に対応する領域にだけ残すようにパターニングしてマスクM1を形成する。つぎに、マスクM1をマスクとして、活性コア層104の底面に到る深さまでエッチングし、マスクM1が形成されていない受動領域PA1の上部クラッド層105と活性コア層104とを除去する(
図5(b)参照)。
【0048】
つぎに、マスクM1を選択成長用マスクとして、選択成長によって、受動領域PA1に、コア層110および上部クラッド層111をバットジョイント成長する(
図5(c)参照)。
【0049】
つぎに、マスクM1を除去した後、全面にSiNx膜を成膜し、このSiNx膜を
図1に示す導波路の形状にパターニングしてストライプパターンマスクM2を形成する(
図6参照)。そして、このストライプパターンマスクM2をエッチングマスクとして下部クラッド層103の内部に到る深さまでドライエッチングを行い、
図2、3に示すようなメサ構造の光導波路を形成する。
【0050】
つぎに、全面にレジストを塗布し、能動領域AA1のストライプパターンマスクM2だけを残すようにパターニングする。そして、
図7に示すように、受動領域PA1においてストライプパターンマスクM2を除去する。これによって、受動領域PA1においては、メサ構造の上部を構成する上部クラッド層111が露出する。
【0051】
つぎに、ストライプパターンマスクM2を選択成長用マスクとして、全面に半絶縁層106aとn型InP層106bとを順次再成長して、メサ構造の埋め込み成長を行なう。
【0052】
図8は、埋め込み成長を行なった後の状態を示す図である。なお、
図8(a)〜(c)は、それぞれ
図1のA−A線断面、C−C線断面、B−B線断面に対応している。
図8に示すように、ストライプパターンマスクM2が存在する能動領域AA1においては、半絶縁層106aとn型InP層106bとからなる埋込層106はメサ構造の両側にのみ形成される(
図8(a)、(b)参照)。一方、ストライプパターンマスクM2が存在しない受動領域PA1においては、埋込層106はメサ構造の両側およびメサ構造の上部にこれを覆うように形成される(
図8(b)、(c)参照)。
【0053】
つぎに、ストライプパターンマスクM2を除去して、全面に上部クラッド層107およびコンタクト層108を順次形成する。つぎに、受動領域PA1のコンタクト層108を除去し、全面に保護膜112を形成する。その後、能動領域AA1の保護膜112に開口部を設け、この開口部においてコンタクト層108上にp側電極109を形成する。
図9は、p側電極109を形成した後の状態を示す図である。
図9(a)〜(c)は、それぞれ
図1のA−A線断面、C−C線断面、B−B線断面に対応している。
【0054】
なお、上記の方法によれば、埋込層106を形成する工程の際に同時にコア層110の上部のクラッド領域C2を厚く形成することができる。したがって、従来のように上部クラッド層107を厚く形成する方法と比較して、厚く結晶成長させるためにさらなる時間を掛けることが不要であり好ましい。
【0055】
つぎに、
図10に示すように、基板102の裏面を研磨した後にこの裏面にn側電極101を形成する。その後、半導体層を成長した基板を劈開して光入射端面100a、光出射端面100bを形成し、光入射端面100a、光出射端面100bに無反射コーティングを施した後にさらに素子ごとに分離して、半導体光導波路素子100が完成する。
【0056】
なお、本製造方法では、受動領域PA1のコンタクト層108を除去しているが、除去しなくてもよい。本実施の形態1に係る半導体光導波路素子100において、仮にスポットサイズ変換器11、15上にコンタクト層108があったとしても、光のフィールドがコンタクト層108に到達することが無いので、コンタクト層108の光吸収等による光損失の増大は発生しない。
【0057】
また、本製造方法では、埋め込み成長の前に、受動領域PA1における曲げ導波路12、14上およびスポットサイズ変換器11、15上のストライプパターンマスクM2を除去しているが、光のフィールドが拡大するのは、コア層をテーパー状に形成した領域であるスポットサイズ変換器11、15上である。したがって、スポットサイズ変換器11、15上のストライプパターンマスクM2だけ除去してもよい。
【0058】
(実施例1)
本発明の実施例1として、上記の製造方法に従って半導体光導波路素子100の構造を有する半導体光導波路素子を製造した。そして、実施例1の半導体光導波路素子をキャリアにボンディングし、PLC導波路との結合損失を評価した。なお、PLC導波路は、コア層とクラッド部との比屈折率差Δが1.2%であり、コア層の断面のサイズが6μm×6μmのものを使用した。その結果、結合損失は約0.5dBと非常に良好であった。
また従来の形態の半導体光導波路素子において、半導体光増幅器13の上部のクラッド領域C1に相当する領域の厚さを本発明の実施例1におけるコア層110の上部のクラッド領域C2の厚さと同じにした場合と比較すると、素子抵抗で約1Ωの低減が可能であり、消費電力は約20〜30%低減が可能であった。
【0059】
(実施の形態2)
つぎに、本発明の実施の形態2に係る半導体光導波路素子について説明する。以下では、はじめに本実施の形態2に係る半導体光導波路素子の構成を説明し、つぎにこの半導体光導波路素子の動作を説明し、つぎにこの半導体光導波路素子の製造方法の一例を説明する。
【0060】
(構成)
図11は、実施の形態2に係る半導体光導波路素子の模式的な平面図である。
図11に示すように、この半導体光導波路素子200は、
図1に示す実施の形態1の係る半導体光導波路素子100と同様に、順次接続した、スポットサイズ変換器21と、曲げ導波路22と、半導体光増幅器23と、曲げ導波路24と、スポットサイズ変換器25とを備えている。
図11は、これらの導波路のコア層(または活性コア層)の幅方向の形状を示している。
【0061】
スポットサイズ変換器21、25、曲げ導波路22、24は、それぞれ受動領域PA2に形成されている。また、半導体光増幅器23は能動領域AA2に形成されている。また、この半導体光導波路素子200は、光入射端面200aと、光出射端面200bとを有する。光入射端面200aと光出射端面200bとは、劈開により形成されており、表面に無反射コーティングが施されている。
【0062】
スポットサイズ変換器21、25の中心軸は、それぞれ光入射端面200a、光出射端面200bの法線に対し7度傾斜している。さらに、窓構造200c、200dが形成されており、上述した7度の傾斜とともに光入射端面200a、光出射端面200bにおける光端面反射を抑制している。
【0063】
スポットサイズ変換器21は、光入射端面200a側から半導体光増幅器23側に向かって、光の伝搬方向に沿って幅がテーパー状に増加するコア層を有している。また、スポットサイズ変換器25は、半導体光増幅器23側から光出射端面200b側に向かって、光の伝搬方向に沿って幅がテーパー状に減少するコア層を有している。
【0064】
スポットサイズ変換器21の光入射端面200a側におけるコア層の幅は0.5μmであるが、たとえば0.3μm以上1.0μm以下とできる。また、半導体光増幅器23側におけるコア層の幅は、曲げ導波路22、24のコア層および半導体光増幅器23の活性コア層の幅と同一であり、波長1.55μm帯の光をシングルモード伝送するように、2μmに設定されている。また、スポットサイズ変換器21の光の伝搬方向の長さは300μmであるが、たとえば200〜500μmとできる。スポットサイズ変換器25の形状はスポットサイズ変換器21と同一である。また、窓構造200c、200dの長さは10μmである。
【0065】
つぎに、この半導体光導波路素子200の断面構造について説明する。
図12は、
図11に示す半導体光導波路素子100のD−D線断面図であり、半導体光増幅器23の断面を示している。
図13は、
図11に示す半導体光導波路素子200のE−E線断面図であり、スポットサイズ変換器25の断面を示している。
【0066】
はじめに、半導体光増幅器23の断面構造について説明する。
図12に示すように、半導体光増幅器23は、半導体光増幅器13と同様の断面構造を有している。すなわち、半導体光増幅器23は、裏面にn側電極201を形成した共通の基板202上に、下部クラッド層203と、活性コア層204と、上部クラッド層205が順次積層した構成を有する。また、下部クラッド層203の一部、活性コア層204、および上部クラッド層205はメサ構造を構成しており、半絶縁層206aとn型InP層206bとからなる埋込層206によって埋め込まれている。さらに、半導体光増幅器23の上部クラッド層205および埋込層206上には、共通の上部クラッド層207と、コンタクト層208と、SiNxからなる保護膜212および保護膜212の開口部に形成したp側電極209とが順次積層した構成を有している。
【0067】
この半導体光増幅器23では、上部クラッド層205、207が、活性コア層204の上部におけるクラッド領域C3として機能する。
【0068】
つぎに、スポットサイズ変換器25の断面構造について説明する。
図13に示すように、スポットサイズ変換器25は、半導体光導波路素子100のスポットサイズ変換器15と同様に、裏面にn側電極201を形成した共通の基板202上に、下部クラッド層203と、コア層210と、上部クラッド層211が順次積層した構成を有する。また、下部クラッド層203の一部、コア層210、および上部クラッド層211はメサ構造を構成している。なお、このメサ構造は、半絶縁層206aとn型InP層206bとからなる埋込層206によって埋め込まれており、埋込型光導波路を形成している。ただし、スポットサイズ変換器15とは異なり、埋込層206はメサ構造の上部を覆うように形成されていない。
【0069】
さらに、スポットサイズ変換器25は、上部クラッド層211および埋込層206上には、共通の上部クラッド層207と、コンタクト層208と、保護膜212が順次積層した構成を有している。このスポットサイズ変換器25では、上部クラッド層211、207が、コア層210の上部におけるクラッド領域C4として機能する。
【0070】
ここで、
図12〜14を参照して上部クラッド層207の構造について具体的に説明する。なお、
図14は、
図11に示す半導体光導波路素子200のF−F線断面図である。
図12〜14に示すように、上部クラッド層207は、能動領域AA2と受動領域PA2とでは形状が異なっている。すなわち、上部クラッド層207は、能動領域AA2では全面に一様な厚さで形成されている。一方、受動領域PA2では、上部クラッド層207は、導波路に沿って導波路上に突出するように、受動領域PA2よりも幅が狭くかつ厚さが厚く形成されている。なお、コンタクト層208も、受動領域PA2では受動領域PA2よりも厚さが厚く形成されている。
【0071】
したがって、このスポットサイズ変換器25の上部のクラッド領域C4の厚さは、半導体光増幅器23の上部のクラッド領域C3の厚さよりも厚くなっている。
【0072】
また、
図14に示すように、受動領域PA2のスポットサイズ変換器21、および曲げ導波路22、24は、スポットサイズ変換器25と同様の断面構造を有している。なお、能動領域AA2と接続する受動領域PA2の部分では上部クラッド層207およびコンタクト層208の厚さが徐々に変化しているが、この変化している部分の長さは能動領域AA2や受動領域PA2の長さと比較すると十分に短いものである。また、窓構造200c、200dは埋込層206によって実現されている。
【0073】
(動作)
この半導体光導波路素子200は、半導体光導波路素子100と同様に動作させることができる。すなわち、半導体光導波路素子200をたとえばPLC導波路に接続し、半導体光増幅器23に電流を注入するとともに入力側のPLC導波路から波長1.55μm帯の光を入力することによって、増幅光を出力側のPLC導波路に出力することができる。
【0074】
この半導体光導波路素子200では、スポットサイズ変換器21、25が、半導体光増幅器23の上部のクラッド領域C3の厚さよりも厚い上部のクラッド領域C4を有する。その結果、スポットサイズ変換器25において光のスポットサイズが拡大しても、拡大した光のフィールドがコンタクト層208に到達することが防止される。同様に、スポットサイズ変換器21も、PLC導波路からの入力光のフィールドがコンタクト層208に干渉しないようにしてこの入力光を受け付けることができる。その結果、この半導体光導波路素子200は、スポットサイズ変換器21、25における光損失の増大が抑制されるので、PLC導波路との結合損失の増加が抑制される。
【0075】
また、スポットサイズ変換器21、25の上部のクラッド領域が厚くされているにもかかわらず、半導体光増幅器23の上部のクラッド領域C3の厚さは厚くされていないままである。したがって、p側電極209から電流が注入される際の電気抵抗の増加は抑制されている。その結果、この半導体光導波路素子200は、消費電力の増加が抑制されたものとなる。
【0076】
なお、上部クラッド層207の厚さは、半導体光増幅器23の上部のクラッド領域C3では約2μm、スポットサイズ変換器21、25の上部のクラッド領域C4では約4μmであるが、それぞれ1.5〜3μm程度、3〜6μm程度が好ましい。
【0077】
以上のように、本実施の形態2に係る半導体光導波路素子200は、消費電力の増加および光損失の発生による結合損失の増加を同時に抑制したものとなる。
【0078】
(製造方法)
つぎに、本実施の形態2に係る半導体光導波路素子200の製造方法の一例について、
図15〜
図18を用いて説明する。
【0079】
はじめに、
図5に示した工程と同様の工程を行なう。すわなち、MOCVD法を用いて、基板202上に下部クラッド層203、活性コア層204、上部クラッド層205を結晶成長する。つぎに、全面にSiNx膜を成膜した後、このSiNx膜を能動領域AA2に対応する領域にだけ残すようにパターニングしてマスクを形成し、これをマスクとして、活性コア層204の底面に到る深さまでエッチングし、受動領域PA2の上部クラッド層205と活性コア層204とを除去する。つぎに、上記のマスクを選択成長用マスクとして、選択成長によって、受動領域PA2に、コア層210および上部クラッド層211をバットジョイント成長する。
【0080】
つぎに、マスクを除去した後、全面にSiNx膜を成膜し、このSiNx膜を
図11に示す導波路の形状にパターニングしてストライプパターンマスクM3を形成する(
図15参照)。そして、このストライプパターンマスクM3をエッチングマスクとして下部クラッド層203の内部に到る深さまでドライエッチングを行い、
図12、13に示すようなメサ構造の光導波路を形成する。
【0081】
つぎに、ストライプパターンマスクM3を選択成長用マスクとして、全面に半絶縁層106aとn型InP層106bとを順次再成長して、メサ構造の埋め込み成長を行なう。
図16は、埋め込み成長を行なった後の状態を示す図である。なお、
図16は、
図11のF−F線断面に対応している。
【0082】
つぎに、ストライプパターンマスクM3を除去した後、受動領域PA2において、メサ構造Mesaを挟むようにn型InP層206b上に選択成長用マスクM4を形成する。なお、選択成長用マスクM4の幅をマスク幅Wm、マスクに挟まれた開口部Oの幅を開口幅Wgとする(
図17参照)。ここで、
図17は、導波路のコア層(または活性コア層)の幅方向の形状を示している。
【0083】
つぎに、全面に上部クラッド層207およびコンタクト層208を順次選択成長する。このとき、選択成長用マスクM4に挟まれた開口部O以外の領域では、上部クラッド層207およびコンタクト層208は通常通りの成長レートで結晶成長する。一方、選択成長用マスクM4上に供給された結晶成長用の原料はそこで消費されずに、開口部Oにマイグレーションする。その結果、開口部O内では、通常の量の原料に加え、その両側のマスク幅Wmに応じてより多くの原料が供給される。したがって、開口部Oにおいては、結晶の成長レートはマスク幅Wmに応じて増大する。その結果、上部クラッド層207およびコンタクト層208は、開口部Oの領域では、その幅が開口幅Wgとなり、かつ厚さが厚く形成される。
【0084】
図18は、選択成長を行った後の状態を示す図である。
図18(a)〜(c)は、それぞれ
図11のD−D線断面、F−F線断面、E−E線断面に対応している。
図18に示すように、上部クラッド層207およびコンタクト層208は、選択成長用マスクを形成した受動領域PA2において能動領域AA2よりも厚く形成される。
【0085】
つぎに、基板202の裏面を研磨した後にこの裏面にn側電極201を形成する。その後、半導体層を成長した基板を劈開して光入射端面200a、光出射端面200bを形成し、光入射端面200a、光出射端面200bに無反射コーティングを施した後にさらに素子ごとに分離して、半導体光導波路素子200が完成する。
【0086】
このように、選択成長によれば、能動領域AA2と受動領域PA2とで厚さが異なる上部クラッド層207を、同時に形成することが容易にできる。また、従来のように上部クラッド層107を厚く形成する方法と比較して、厚く結晶成長させるためにさらなる時間を掛けることが不要であり好ましい。
【0087】
なお、本発明者が、MOCVD法を用いた選択成長を行なった場合に、開口部とそれ以外の領域とでの成長した半導体層の層厚比のマスク幅Wmおよび開口幅Wg依存性を系統的に実験したところ、以下の結果を得た。
図19は、層厚比のマスク幅Wmおよび開口幅Wg依存性を示す図である。
図19に示すように、層厚比はマスク幅Wmに対してほぼ線形的に増加し、かつその傾きは開口幅Wgが狭くなるにつれて増加する。なお、MOCVD結晶成長装置や成長条件により多少の差異はあるものの、層厚比のマスク幅Wmや開口幅Wgの依存性は概ね同様の傾向を示す。
【0088】
たとえば、マスク幅Wmを53μm、開口幅Wgを20μmとすると、
図19に示すように、層厚比は約2となる。したがって、開口部においては、結晶の成長レートが開口部以外の領域の約2倍となる。このように、選択成長によれば、マスク幅Wmと開口幅Wgとを調整することによって、半導体光増幅器とスポットサイズ変換器とで厚さが異なる上部クラッド層を容易に形成することができる。
【0089】
(実施例2)
本発明の実施例2として、上記の製造方法に従って半導体光導波路素子200の構造を有する半導体光導波路素子を製造した。そして、実施例2の半導体光導波路素子をキャリアにボンディングし、PLC導波路との結合損失を評価した。なお、PLC導波路は、コア層とクラッド部との比屈折率差Δが1.2%であり、コア層の断面のサイズが6μm×6μmのものを使用した。その結果、結合損失は約0.7dBと非常に良好であった。
【0090】
なお、上記実施の形態2では、選択成長によって能動領域と受動領域とで上部クラッド層の厚さを変えるようにしているが、本発明はこれに限られず、エッチング等によって上部クラッド層の厚さを変えるようにしてもよい。
【0091】
また、上記実施の形態では、電流狭窄構造を実現する埋込層としてFeをドープした半絶縁層を用いているが、埋込層としては、p型InP層とn型InP層とからなるpn埋込型を採用してもよい。
【0092】
また、上記実施の形態では、曲げ導波路によって端面反射を抑制しているが、本発明はこれに限定されるものではない。たとえば、曲げ導波路を使用せずに、スポットサイズ変換器と半導体光増幅器とを直線状に配置するとともに光入出射端面の法線に対して傾斜させて配置してもよい。また、半導体光増幅器を曲げ導波路構造にしてもよい。ただし、実施の形態のように曲げ導波路を使用すると、埋込構造による半導体光増幅器での電流狭窄効果を再現性、信頼性高く実現できるので好ましい。また、実施の形態のように特に光出射側で曲げ導波路を使用すると、能動領域と受動領域とのバットジョイント結合部分において発生する非結合光の成分が、スポットサイズ変換器からの出力光とともに迷光として出力されることが防止されるので好ましい。
【0093】
また、上記実施の形態では、能動部は半導体光増幅器であるが、半導体光増幅器を半導体レーザや光変調器、半導体フォトダイオード等の他の半導体能動部品に置き換えてもよい。
【0094】
また、上記実施の形態では、波長1.55μmの光を使用するために、半導体材料としてInP系材料を用いているが、使用したい光の波長に応じて、GaAs系などの他の半導体材料を用いることができる。
【0095】
また、上記実施の形態の各構成要素を適宜組み合わせたものも本発明に含まれる。たとえば、実施の形態1に係る半導体光導波路素子において、さらに選択成長などによって受動領域の上部クラッド層の厚さを厚くしても良い。