(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリエステル樹脂からなる繊維であって、該ポリエステル樹脂がジカルボン酸成分とグリコール成分からなる共重合体であって、該ジカルボン酸成分のうち80モル%以上がテレフタル酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であり、且つ4.0〜12.0モル%がシクロヘキサンジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であり、且つ2.0〜8.0モル%がセバシン酸またはデカンジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であって、テレフタル酸成分、シクロヘキサンジカルボン酸成分、及びセバシン酸またはデカンジカルボン酸成分以外の他のジカルボン酸成分の共重合量の合計が10.0モル%以下であり、イソフタル酸成分の共重合量が10モル%以下であり、スルホン酸金属塩基の共重合量が1.0モル%以下であり、該グリコール成分はエチレングリコール及び/又はそのエステル形成性誘導体を主成分とすることを特徴とするポリエステル繊維。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような従来技術における問題点を解決するものであり、具体的には常圧環境下で分散染料に対して濃色性を示し、洗濯堅牢性及び耐光堅牢性に優れ、且つ常圧染色を必要とするポリエステル繊維以外の素材との混繊に対しても良好な染色性・糸品位を確保することができ、アルカリ減量処理を行った場合においてもその後の糸品位を低下させることのない特徴を有し、更には良好な紡糸性を確保できるポリエステル繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を鑑み、本発明は以下の発明を提供する。
すなわち、本発明はポリエステル樹脂からなる繊維であって、該ポリエステル樹脂がジ
カルボン酸成分とグリコール成分からなる共重合体ポリエステルであって、該ジカルボン
酸成分のうち80モル%以上がテレフタル酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であり
、且つ4.0〜12.0モル%がシクロ
ヘキサンジカルボン酸及び/又はそのエステル形
成性誘導体であり、且つ2.0〜8.0モル%が脂肪族ジカルボン酸及びそのエステル形
成性誘導体であって、該グリコール成分はエチレングリコール及び/又はそのエステル形
成性誘導体を主成分とするポリエステル繊維であり、好ましくはポリエステル樹脂中にお
ける脂肪族ジカルボン酸がセバシン酸またはデカンジカルボン酸である上記のポリエステ
ル繊維である。
【0008】
さらに本発明は、ガラス転移温度(Tg)及び結晶化温度(Tch)が下記の要件(a)〜(c)を同時に満足するポリエステル樹脂重合物からなる上記のポリエステル繊維である。
(a)ガラス転移温度(Tg):60℃≦Tg≦80℃ であること、
(b)結晶化温度(Tch):120℃≦Tch≦150℃ であること、
(c)ΔT(Tch−Tg):50℃≦ΔT(Tch−Tg)≦80℃ であること。
【0009】
また本発明は、下記の要件(d)〜(f)を同時に満足する、上記のポリエステル繊維である。
(d)95℃での染着率が70%以上であり、且つ100℃での染着率が90%以上であること、
(e)100℃染色時における変退色、添付汚染、液汚染の洗濯堅牢度が4級以上であること、
(f)100℃染色時における耐光堅牢度が4級以上であること。
【0010】
そして本発明は、15%のアルカリ減量処理後における破断強度保持率が90%以上を満足する上記のポリエステル繊維を提供する。
【発明の効果】
【0011】
ジカルボン酸成分のうち、シクロヘキサンジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体を4.0〜12.0モル%、脂肪族ジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体を2.0〜8.0モル%共重合化して得られるポリエステル樹脂重合物から、常圧可染性に優れたポリエステル繊維を得ることができる。
また、本発明により得られるポリエステル繊維は、洗濯堅牢度、耐光堅牢度に極めて優れたものである。更に、アルカリ減量処理後においても十分な破断強度を保持できるため衣料全般に適したポリエステル繊維を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態について具体的に説明する。
本発明で用いるポリエステル樹脂は、エチレンテレフタレート単位を主たる繰返し単位とするポリエステルであり、その繰り返し単位の80モル%以上がテレフタル酸及び/又はそのエステル形成性誘導体(以下、テレフタル酸成分と称することもある)であり、且つジカルボン酸成分のうちシクロヘキサンジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体が4.0〜12.0モル%、また脂肪族ジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体が2.0〜8.0モル%共重合されている必要がある。
【0013】
シクロヘキサンジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体(以下、シクロヘキサンジカルボン酸成分と称することもある)及び脂肪族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体をポリエチレンテレフタレートに共重合した場合、芳香族ジカルボン酸に比べて結晶構造の乱れが小さい特徴を有しているため、高い染着率を確保しながら、耐光堅牢性にも優れた繊維を得ることができる。
【0014】
シクロヘキサンジカルボン酸成分を共重合化することによって、ポリエステル繊維の結晶構造に乱れが生じ、非晶部の配向は低下する。そのため、分散染料の繊維内部への浸透が容易となり、分散染料の常圧可染性を向上させることが可能となる。更に、シクロヘキサンジカルボン酸成分は芳香族ジカルボン酸に比べ結晶構造の乱れが小さいことから、耐光堅牢性にも優れたものとなる。
【0015】
シクロヘキサンジカルボン酸成分の共重合量がジカルボン酸成分において4.0モル%未満では、繊維内部における非晶部位の配向度が高くなるため、常圧環境下での分散染料に対する染色性が不足し、目的の染着率が得られない。また、ジカルボン酸成分において12.0モル%を超えた場合、染着率、洗濯堅牢度、耐光堅牢度など、染色性に関しては良好な品質を確保できるものの、延伸を伴わない高速紡糸手法で製糸を行った場合、樹脂のガラス転移温度が低いことと繊維内部における非晶部位の配向度が低いことによって高速捲取中に自発伸長が発生し、安定な高速曳糸性を得ることができない。好ましくは5.0〜10.0モル%である。
【0016】
本発明に用いられるシクロヘキサンジカルボン酸には、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の3種類の位置異性体があるが、本発明の効果が得られる点からはどの位置異性体が共重合されていても構わないし、また複数の位置異性体が共重合されていても構わない。また、それぞれの位置異性体について、シス/トランスの異性体があるが、いずれの立体異性体を共重合しても、あるいはシス/トランス双方の位置異性体が共重合されていても構わない。シクロヘキサンジカルボン酸誘導体についても同様である。
【0017】
脂肪族ジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体成分についてもシクロヘキサンジカルボン酸成分と同様に、ポリエステル繊維の結晶構造に乱れが生じ、非晶部の配向が低下するため、分散染料の繊維内部への浸透が容易となり、分散染料の常圧可染性を向上させることが可能となる。
【0018】
更に、脂肪族ジカルボン酸成分をポリエチレンテレフタレートに共重合すると、低温セット性にも効果があり、本発明により得られる繊維を織編物にしてから形態安定化のために熱セットする場合、熱セット温度を低くすることが可能となる。ニット用途において低温セット性は好ましい物性であり、ウール、綿、アクリル、ポリウレタン等のポリエステル以外の素材と複合する場合、熱セットに必要な温度をポリエステル以外の素材の物性が低下しない程度に抑えることが可能となる。また、ポリエステル繊維の単独使いにおいても、一般的な現行ニット用設備に対応が可能となり用途拡大が期待できる。
【0019】
ジカルボン酸成分中の脂肪族ジカルボン酸成分の共重合量が2.0モル%未満では、常圧環境下での分散染料に対する染色性が不足し、目的の染着率が得られない。また、ジカルボン酸成分中の脂肪族ジカルボン酸成分の共重合量が8.0モル%を超えた場合、染着率は高くなるものの、延伸を伴わない高速紡糸手法で製糸を行った場合には繊維内部における非晶部位の配向度が低くなり、高速捲取中での自発伸長が顕著となり、安定な高速紡糸性を得ることができない。好ましくは3.0〜6.0モル%である。
【0020】
本発明の脂肪族ジカルボン酸成分として好ましく用いられるものとしては、発色性、製糸工程性などの点から、セバシン酸、デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸が例示できる。またこれらは単独又は2種類以上を併用することもできる。
【0021】
本発明におけるポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)及び結晶化温度(Tch)が下記(a)〜(c)を満足することが好ましい。
(a)ガラス転移温度(Tg):60℃≦Tg≦80℃
(b)結晶化温度(Tch):120℃≦Tch≦150℃
(c)ΔT(Tch−Tg):50℃≦ΔT(Tch−Tg)≦80℃
【0022】
本発明におけるポリエステル繊維の常圧可染性や品位を落とすことのない範囲であれば、テレフタル酸成分、シクロヘキサンジカルボン酸成分、及び脂肪族ジカルボン酸成分以外の他のジカルボン酸成分を共重合しても良い。具体的には、イソフタル酸やナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸成分又はそのエステル形成誘導体や、アゼライン酸やセバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分又はそのエステル形成誘導体を単独であるいは複数の種類を合計10.0モル%以下の範囲で共重合化させてもよい。
【0023】
しかし、これらの成分を共重合化させることでエステル交換反応、重縮合反応が煩雑になるばかりでなく、共重合量が適正範囲を超えると洗濯堅牢性を低下させることがある。具体的には、イソフタル酸およびそのエステル形成性誘導体がジカルボン酸成分に対して10モル%を越えて共重合させると、本発明の構成要件を満足させたとしても、洗濯堅牢特性を低下させる恐れがあり、5モル%以下での使用が望ましく、さらに望ましくは0モル%であること(共重合化しないこと)がより望ましい。
【0024】
一方、常圧可染型の特徴を有するポリエステル繊維として一般的によく知られているのがスルホン酸金属塩基を共重合化しているポリエステル繊維であり、とりわけ5−ナトリウムスルホイソフタル酸、又は5−カリウムスルホイソフタル酸成分などが広く用いられている。それにより、従来のポリエステル繊維に比べて繊維内部構造に非晶部分を保有させることができ、その結果、分散染料及びカチオン染料に対して常圧染色が可能で、かつ堅牢度に優れたポリエステル繊維を得ることができるとされている。しかし、それらスルホン酸金属塩基成分を共重合化してできたポリエステル繊維は、従来のものに比べて低強度となりやすく、また製糸工程においても高速紡糸性に劣る。更には、アルカリ減量速度が早く、紡糸原糸の糸形態によってはアルカリ減量処理を行った織編物で繊維表面にクラックが発生しやすく、その結果強度劣化が大きくなったり粉落ちなどの品質不良が発生しやすい欠点がある。そのため、基本的に単独糸使いであってもアルカリ減量は困難なため、良好な風合いの織編物を得ることができないばかりでなく、シルケット加工を行う綿との混繊などにおいても加工条件の大きな制約を受けることとなる。風合いなどの品位を求められない、限られた用途においては、ジカルボン酸成分のうち2.0モル%以下の割合でスルホン酸金属塩基を共重合化しても良いが、本発明が目的としている、常圧での優れた染色性のみならず、高強度性や耐アルカリ性や高速紡糸性を併せ持つポリエステル繊維であり、またこれらの特性が必要とされる衣料用途全般で使用する場合にはスルホン酸金属塩基の共重合量はジカルボン酸成分のうち1.0モル%以下が望ましく、0モル%であること(共重合化しないこと)がより望ましい。
【0025】
更に、本発明のポリエステル繊維には、それぞれ、酸化チタン、硫酸バリウム、硫化亜鉛などの艶消剤、リン酸、亜リン酸などの熱安定剤、あるいは光安定剤、酸化防止剤、酸化ケイ素などの表面処理剤などが添加剤として含まれていてもよい。酸化ケイ素を用いることで、得られる繊維は、減量加工後に繊維表面に微細な凹凸を付与することができ、後に織編物にした場合に濃色化が実現される。更に、熱安定剤を用いることで加熱溶融時やその後の熱処理における熱分解を抑制できる。また、光安定剤を用いることで繊維の使用時の耐光性を高めることができ、表面処理剤を用いることで染色性を高めることも可能である。
【0026】
これら添加剤は、ポリエステル樹脂を重合によって得る際に、重合系内にあらかじめ加えておいても良い。ただし、一般に酸化防止剤などは重合末期に添加するほうが好ましく、特に重合系に悪影響を与える場合や、重合条件下で添加剤が失活する場合はこちらが好ましい。一方、艶消剤、熱安定剤などは重合時に添加するほうが均一に樹脂重合物内に分散しやすいため好ましい。
【0027】
本発明のポリエステル樹脂は、固有粘度0.6〜0.7であるが、好ましくは0.62〜0.68、より好ましくは0.63〜0.66である。固有粘度が0.7を上回ると、繊維化時の高速紡糸性が著しく乏しくなる。また、紡糸が可能であり、目標の染着率が得られた場合においても、筒編染色生地で染色斑や筋が発生したり織編物の風合いが劣るなど、得られた織編繊維の表面品位が低下し衣料用として好ましくない。また、固有粘度が0.6を下回ると紡糸中に断糸しやすく生産性が乏しくなるばかりでなく、得られた繊維の強度も低いものとなる。更に、紡糸が可能であり、目標の染着率が得られた場合においても、筒編染色生地で染色斑や筋が発生したり織編物の風合いが劣るなど、得られた織編繊維の表面品位が低下し衣料用として好ましくない。
【0028】
本発明の製造方法の紡糸工程において、ポリエステル樹脂は通常の溶融紡糸装置を用いて口金より紡出する。また、口金の形状や大きさによって、得られる繊維の断面形状や径を任意に設定することが可能である。
【0029】
次に、本発明のポリエステル樹脂は、例えば単軸押出機や二軸押出機を用いて溶融混練
する。溶融混練する際の温度は、シクロ
ヘキサンジカルボン酸及び脂肪族ジカルボン酸の
共重合量によって異なるが、斑なく安定に溶融混練し且つ安定な製糸性や品位を得るため
には、ポリマーの融点から30〜60℃高い温度範囲で溶融押出するのが好ましく、20
〜50℃高い温度範囲とすることがより好ましい。
更に、混練設備を通過してから紡糸頭に至るまでの間の溶融温度についても、シクロヘ
キサンジカルボン酸及び脂肪族ジカルボン酸の共重合量によって異なるため一概に特定は
できないが、溶融斑なく安定な状態で紡出させ、且つ安定な製糸性や品位を得るためには
、ポリマーの融点から30〜60℃高い温度範囲で溶融押出するのが好ましく、20〜5
0℃高い温度範囲とすることがより好ましい。
【0030】
そして、上記によって溶融紡出したポリエステル繊維を、一旦そのガラス転移温度以下の温度、好ましくはガラス転移温度よりも10℃以上低い温度に冷却する。この場合の冷却方法や冷却装置としては、紡出したポリエステル繊維をそのガラス転移温度以下に冷却できる方法や装置であればいずれでもよく特に制限されないが、紡糸口金の下に冷却風吹き付け筒などの冷却風吹き付け装置を設けておいて、紡出されてきたポリエステル繊維に冷却風を吹き付けてガラス転移温度以下に冷却するのが好ましい。その際に冷却風の温度や湿度、冷却風の吹き付け速度、紡出糸条に対する冷却風の吹き付け角度などの冷却条件も特に制限されず、口金から紡出されてきたポリエステル繊維を繊維の揺れなどを生じないようにしながら速やかに且つ均一にガラス転移温度以下にまで冷却できる条件であればいずれでもよい。そのうちでも、冷却風の温度を20℃〜30℃、冷却風の湿度を20%〜60%、冷却風の吹き付け速度を0.4〜1.0m/秒として、紡出繊維に対する冷却風の吹き付け方向を紡出方向に対して垂直にして紡出したポリエステル繊維の冷却を行うのが、高品質のポリエステル繊維を円滑に得ることができるので好ましい。また、冷却風吹き付け筒を用いて前記の条件下で冷却を行う場合は、紡糸口金の直下にやや間隔を空けてまたは間隔を空けないで、長さが約80〜120cm程度の冷却風吹き付け筒を配置するのが好ましい。
【0031】
次に、より効率的な生産性で且つ安定した品位の延伸糸を得る方法として、紡出後に一旦ガラス転移温度以下に糸条を冷却した後、引き続いてそのまま直接加熱帯域、具体的にはチューブ型加熱筒などの装置内を走行させて延伸熱処理し給油後に3500〜5500m/分の速度で捲取ることで延伸糸を得ることができる。加熱工程における加熱温度は延伸しやすい温度、すなわちガラス転移温度以上で融点以下の温度が必要であり、具体的にはガラス転移温度よりも30℃以上高いことが好ましく、50℃以上高いことがより好ましい。また融点よりも20℃以上低いことが好ましく、30℃以上低いことがより好ましい。これにより、冷却工程においてガラス転移温度以下に冷えた糸条が加熱装置で加熱されることで分子運動を促進活発化し延伸を行う。
【0032】
油剤は加熱装置による延伸処理工程通過後に付与する。これにより油剤による延伸断糸が少なくなる。油剤としては通常ポリエステルの紡糸に用いられるものであれば制限はない。給油方法としてはギヤポンプ方式によるオイリングノズル給油またはオイリングローラー給油のいずれでもよい。ただし、紡糸速度が高速化するにつれて前者の方式の方が糸条に斑無く、安定した油剤付着が可能である。油剤の付着量については特に制限はなく、断糸や原糸毛羽の抑制効果と織編物の工程に適した範囲であれば適宜調節しても良い。
そのうちでも、油剤の付着量を0.3〜2.0%とすることが高品質のポリエステル繊維を円滑に得ることができるので好ましく、0.3〜1.0%とすることがより好ましい。
【0033】
そして、上述した一連の工程からなる延伸したポリエステル繊維を、3500〜5500m/分で引き取ることが必要であり、引き取り速度4000〜5000m/分であることがより好ましい。ポリエステル繊維の引き取り速度が3500m/分未満の場合は生産性が低下し、また加熱帯域において繊維の延伸が十分に行われなくなり、得られるポリエステル繊維の機械的物性が低下する。引き取り速度が5500m/分を超えた場合は安定な高速紡糸性が得られにくく、また加熱帯域において繊維の延伸が十分に行われなくなり、得られるポリエステル繊維の機械的物性が低下する。
【0034】
本発明で得られるポリエステル繊維の染着率は、95℃での染着率が70%以上であり、且つ100℃での染着率が90%以上であることが好ましい。これらの染着率を下回ると、中〜低分子量染料(SE〜Eタイプ)の易染性染料においても十分な染着率が得られないため一般衣料用途としては好ましくなく、更にウール、綿、アクリル、ポリウレタンなど、ポリエステル以外の素材と交編、交織しても、常圧環境下で十分な染色性を得ることが困難となる。
【0035】
本発明で得られたポリエステル繊維は、変退色、添付汚染、液汚染の洗濯堅牢度が4級以上であることが好ましい。そのいずれかが3級以下であった場合、取扱い性の点から一般衣料用途としては好ましくない。
【0036】
また、本発明で得られたポリエステル繊維は耐光堅牢度が4級以上であることが好ましい。耐光堅牢度が3級以下であった場合、取扱い性の点から一般衣料用途としては好ましくない。
【0037】
更に、本発明で得られたポリエステル繊維はアルカリ減量処理後における破断強度保持率が90%以上を満足することが好ましい。破断強度保持率が90%未満の場合、アルカリ減量後の糸品質が低下するため、糸加工時の工程不良や製品の品質不良が発生し、一般衣料用途としては好ましくない。
【0038】
本発明の染色性改良ポリエステル繊維は、上記製造方法による延伸糸に限られるものではなく、最終製品に求められる品質や良好な工程通過性を確保するために、最適な紡糸手法を選択することができる。より具体的には、スピンドロー方式や、紡糸原糸を採取した後に別工程で延伸を行う2−Step方式、また延伸を行わず非延伸糸のまま引き取り速度が2000m/分以上の速度で捲取る方式においても、任意の糸加工工程を通過させた後に製品化することで、良好な常圧可染性品位を有するポリエステル製品を得ることができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例によって本発明を詳しく説明するが、これらは本発明を限定するものでない。なお、ジカルボン酸成分共重合量、ポリエステル樹脂のガラス転移温度、融点、固有粘度、本発明で得られる繊維の染着率、K/S、繊度、繊維の各物性の評価は以下の方法に従った。
【0040】
<ジカルボン酸成分共重合量>
共重合量は、該ポリエステル繊維を重トリフロロ酢酸溶媒中に5.0wt%/volの濃度で溶解し、50℃で500MHz1H−NMR(日本電子製核磁気共鳴装置LA−500)装置を用いて測定した。
【0041】
<ガラス転移温度>
島津製作所製 示差走査熱量計(DSC−60)にて、昇温速度10℃/分で測定した。
【0042】
<結晶化温度>
島津製作所製 示差走査熱量計(DSC−60)にて、昇温速度10℃/分で測定した。
【0043】
<固有粘度>
溶媒としてフェノール/テトラクロロエタン(体積比1/1)混合溶媒を用い30℃でウベローデ型粘度計(林製作所製HRK−3型)を用いて測定した。
【0044】
<染色及び染着率>
得られた繊維の筒編地を精練した後、以下の条件で染色し、還元洗浄をした後、染着率を求めた。
(染色)
染料:Dianix NavyBlue SPH conc5.0%omf
助剤:Disper TL:1.0cc/l、ULTRA MT−N2:1.0cc/l
浴比:1/50
染色温度×時間:95〜100℃×40分
(還元洗浄)
水酸化ナトリウム:1.0g/L
ハイドロサルファイトナトリウム:1.0g/L
アミラジンD:1.0g/L
浴比:1/50
還元洗浄温度×時間:80℃×20分
(染着率)
染色前の原液及び染色後の残液をそれぞれアセトン水(アセトン/水=1/1混合溶液)で任意の同一倍率に希釈し、各々の吸光度を測定した後に、以下に示す式から染着率を求めた。
吸光度測定器:分光光度計 HITACHI
HITACHI Model 100−40
Spectrophotometer
染着率=(A−B)/A×100(%)
ここで、A及びBはそれぞれ以下を示す。
A:原液(アセトン水希釈溶液)吸光度
B:染色残液(アセトン水希釈溶液)吸光度
【0045】
<染着濃度(K/S)>
染着濃度は、染色後サンプル編地の最大吸収波長における反射率Rを測定し、以下に示すKubelka−Munkの式から求めた。
分光反射率測定器:分光光度計 HITACHI
C−2000S Color Analyzer
K/S=(1−R)
2 /2R
【0046】
<洗濯堅牢度>
JIS L−0844の測定方法に準拠して測定した。
【0047】
<耐光堅牢度>
JIS L−0842の測定方法に準拠して測定した。
なお、測定用サンプルは以下の淡色染料および濃色染料で染色したものを用いた。
・淡色染料 Dianix Red UN-SE 0.5%omf
・濃色染料 Dianix Red UN-SE 3.0%omf
【0048】
<繊度>
JIS L−1013の測定方法に準拠して測定した。
【0049】
<破断強度>
インストロン型の引張試験機を用いて得られた荷重−伸度曲線より求めた。
【0050】
<破断伸度>
インストロン型の引張試験機を用いて得られた荷重−伸度曲線より求めた。
【0051】
<紡糸性>
以下の基準に従って紡糸性評価を行った。
◎:24hrの連続紡糸を行い、紡糸時の断糸が何ら発生せず、しかも得られたポリエステル繊維には毛羽・ループが全く発生していないなど、紡糸性が極めて良好である
○:24hrの連続紡糸を行い、紡糸時の断糸が1回以下の頻度で発生し、得られたポリエステル繊維に毛羽・ループが全く発生していないか、あるいは僅かに発生したものの、紡糸性がほぼ良好である
△:24hrの連続紡糸を行い、紡糸時の断糸が3回まで発生し、紡糸性が不良である
×:24hrの連続紡糸を行い、紡糸時の断糸が3回よりも多く発生し、紡糸性が極めて不良である
【0052】
<強度保持率>
得られた繊維の筒編地を精練した後、以下の条件で重量減量率が15%になるまでアルカリ減量し、その処理前後の筒編を解繊してインストロン型の引張試験機を用いて荷重−伸度曲線より破断強度を求め、以下に示す式から破断強度の比率(保持率)として表した。
強度保持率=B/A×100(%)
ここで、A及びBはそれぞれ以下を示す。
A:アルカリ減量未処理における筒編解繊糸の破断強度
B:15%アルカリ減量処理後における筒編解繊糸の破断強度
(アルカリ減量)
水酸化ナトリウム:40g/L
アルカリ減量温度×時間:95〜100℃×任意時間(重量減量率=15%)
【0053】
(実施例1)
ジカルボン酸成分のうち90モル%がテレフタル酸であり、且つ1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を5.0モル%、セバシン酸を5.0モル%それぞれ含んだ全カルボン酸成分とエチレングリコール、及び所定の添加剤とでエステル交換反応及び重縮合反応を行い、本発明のポリエステル樹脂重合物を得た。この原料のガラス転移温度、及び結晶化温度を測定したところ、それぞれ70℃、142℃であった。この原料を基に、孔数24個(孔径0.20mmφ)の口金を用いて紡糸温度260℃、単孔吐出量=1.57g/分で紡出し、温度25℃、湿度60%の冷却風を0.5m/秒の速度で紡出糸条に吹付け糸条を60℃以下にした後、紡糸口金下方1.2mの位置に設置した長さ1.0m、入口ガイド系8mm、出口ガイド系10mm、内径30mmφチューブヒーター(内温185℃)に導入してチューブヒーター内で延伸した後、チューブヒーターから出てきた糸条にオイリングノズルで給油し2個の引き取りローラーを介して4500m/分の速度で捲取り、84T/24fのポリエステルフィラメントを得た。その時の製糸化条件と紡糸性、及び得られた繊維の染色堅牢性、強度保持率の結果を表1、2に示した。本発明の製造方法で得られたポリエステル繊維の染着率は、95℃で86%、100℃で96%、K/S=27と良好な常圧可染性を示した。また、洗濯堅牢度、耐光堅牢度についても何ら問題のない品質であった。更に、15%アルカリ減量後の強度保持率についても96%と良好な品質であった。
【0054】
(実施例2〜6)
ポリエステル樹脂の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸及びセバシン酸の共重合量を変更した以外は実施例1と同様にして、表1に示す熱特性を有する共重合物を得た。更に、この重合物を実施例1と同様の手法で紡糸して84T/24fのポリエステルフィラメントを得た。得られた繊維の物性を表1、2に示した。いずれも良好な紡糸性、常圧可染性(染着率、K/S、堅牢性)及び強度保持率であり、何ら問題のない品質であった。
【0055】
(実施例7)
ジカルボン酸成分のうち90モル%がテレフタル酸であり、且つ1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を5.0モル%、デカンジカルボン酸を5.0モル%それぞれ含んだ全カルボン酸成分とエチレングリコール、及び所定の添加剤とでエステル交換反応及び重縮合反応を行い、本発明のポリエステル樹脂重合物を得た。更に、この重合物を実施例1と同様の手法で紡糸して84T/24fのポリエステルフィラメントを得た。得られた繊維の物性を表1、2に示した。いずれも良好な紡糸性、常圧可染性(染着率、K/S、堅牢性)及び強度保持率であり、何ら問題のない品質であった。
【0056】
(比較例1〜10)
ポリエステル樹脂の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸及び脂肪族ジカルボン酸の共重合量変更、あるいは5−ナトリウムスルホイソフタル酸又はイソフタル酸を共重合した以外は実施例1と同様にして、表1に示す熱特性を有する共重合物を得た。更に、この重合物を実施例1と同様の手法で紡糸して84T/24fのポリエステルフィラメントを得た。得られた繊維の物性を表1、2に示した。
【0057】
比較例1では、脂肪族ジカルボン酸成分を共重合していないため染着率、染着濃度が不十分であり、常圧可染性を示さない繊維物性となった。
【0058】
比較例2では、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を共重合していないため染着率、染着濃度が不十分であり、常圧可染性を示さない繊維物性となった。
【0059】
比較例3では、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の共重合量が少ないため、セバシン酸成分が十分量共重合されていても染着率、染着濃度が不十分であり、常圧可染性を示さない繊維物性となった。
【0060】
比較例4では、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の共重合量を18.0モル%とし、テレフタル酸の共重合量を77モル%と本発明の組成から外れる範囲とした。その結果、得られた繊維は染着率、染着濃度は十分であったが、紡糸性に劣るものとなった。
【0061】
比較例5では、セバシン酸の共重合量が少ないため、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸が十分量共重合されていても染着率、染着濃度が不十分であり、常圧可染性を示さない繊維物性となった。
【0062】
比較例6では、セバシン酸の共重合量が多いため、染着率、染着濃度は十分であったが、紡糸性が大幅に劣るものとなった。
【0063】
比較例7では、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を共重合せず、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を2.0モル%、セバシン酸を5.0モル%それぞれ共重合した。その結果、得られた繊維は染着率、染着濃度は十分であったが紡糸性が劣るものとなり、また強度保持率が74%と不十分な繊維物性となった。
【0064】
比較例8では、脂肪族ジカルボン酸を共重合せず、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸及びイソフタル酸をそれぞれ6.0モル%ずつ共重合した。その結果、染着率、染着濃度が不十分であり、また洗濯堅牢性も3級以下と、常圧可染性を示さない繊維物性となった。
【0065】
比較例9では、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸及びセバシン酸に加え、イソフタル酸を12.0モル%共重合し、テレフタル酸の共重合量を77モル%と本発明の組成から外れる範囲とした。その結果、得られた繊維は染着率、染着濃度は十分であったが、洗濯堅牢性に劣る繊維物性となり、また紡糸性にも劣るものとなった。
【0066】
比較例10では、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の共重合量が少ないため、デカンジカルボン酸成分が十分量共重合されていても染着率、染着濃度が不十分であり、常圧可染性を示さない繊維物性となった。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】