(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されている電装品にワイヤーハーネスを介して電力を供給する電源供給装置には、ワイヤーハーネスや電装品を過電流による焼損等から保護するために、ヒューズが設けられている。ヒューズを用いた過電流保護回路では、過電流が発生した場合、ヒューズ溶断によって回路保護をするため、溶断したヒューズの交換等の整備(メンテナンス)を行う必要がある。このため、ヒューズを用いた過電流保護回路の設置場所が限定され、ヒューズを交換しやすい場所に設置する必要がある。しいてはワイヤーハーネスレイアウトの設計自由度が低くなる(たとえば、最適なハーネス設計ができない。また、ハーネス引き回しが増大する)。また、従来の電源供給装置には、スイッチング素子としてリレーが多く用いられているが、サイズや部品発熱が大きく装置に大型化に繋がるといった課題があった。また、電線線径は、過電流保護回路の保護特性を考慮した、適正な線径が選択されるが、ヒューズの経年劣化やばらつき等が大きいため、電線の線径が増大するといった課題があった。
【0003】
そこで、近年、ヒューズやリレーの代わりにトランジスタ素子を用いた過電流保護回路が提案されている(特許文献1参照)。この過電流保護回路は、電源と電装品との間に接続されたトランジスタ素子を備え、トランジスタ素子のソース電極とドレイン電極との間の電圧変化に基づいて過電流が発生したか否かを判定する。そして、過電流保護回路は、過電流が発生したと判定した場合、トランジスタ素子をオフすることによって電源と電装品との間の接続を遮断することにより、電装品を過電流から非破壊で保護する。このような過電流保護回路によれば、過電流が発生した場合であってもトランジスタ素子の整備を行う必要がない。従って、トランジスタ素子を用いた過電流保護回路を備えた電源供給装置は、設置場所が限定されることなく、ワイヤーハーネスレイアウトの自由度が高くなる。また、ヒューズの削減、トランジスタ素子の小型・低損失化によって装置の小型化が可能になる。さらに、ヒューズに比べて経年劣化やばらつき等を抑制することで、より小さな線径の電線を選択すること(電線細径化)をすることが可能となる。
【0004】
ところで、電線の発煙特性示す曲線(過電流限界特性ともいう。)は、たとえば
図6に示されるようなグラフで表される。
図6において、横軸は電線に電流を流す時間を示し、縦軸は電線に流す電流を示している。実線は、電線の被覆材が発煙するときの時間と電流との関係を示す。電流を流してから被覆材に熱が伝わるまでに時間が掛かるため、電流を流した当初は電流が大きくても発煙に到らない。ここで、
図6に示す平衡時限界電流I1は、電流が流れることによる発熱と、放熱とのバランスがとれた熱平衡状態で電流を流すことができる値である。この平衡時限界電流I1は、電線の材料および線径(電線サイズ)、等によって決まるものである。過電流限界特性曲線において、平衡時限界電流I1に対応する時刻t1より時間が小さい側かつ特性曲線より電流が小さい側の領域を過渡熱領域と言う。また、時刻t1より時間が大きい側かつ特性曲線より電流が小さい側の領域を熱飽和領域と呼ぶ。この熱飽和領域においては、発煙に到らずに電流を流し続けられるような電流I2が存在する。この電流I2は、その電流値を示す破線が、時間が経過しても特性曲線と交差しないような電流である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図面を参照して本発明に係る電源供給装置および電源供給方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。なお、図面において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。
【0019】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る電源供給装置の構成を模式的に示す図である。
図1に示すように、電源供給装置100は、スイッチング素子10と、電流検出部20と、電流演算部30と、温度模擬部40と、スイッチング素子駆動部50と、を備えている。
【0020】
スイッチング素子10は、寄生ダイオード10aを有するnチャネル型のMOSFETである。スイッチング素子10は、ドレイン端子側が電源Pと接続し、ソース端子側が負荷Lと接続するように、電線Wを介して電源Pと負荷Lとの間に接続している。また、スイッチング素子10のゲート端子はスイッチング素子駆動部50に接続している。
【0021】
図2は、スイッチング素子10の模式的な構成図である。スイッチング素子10は、MOSFETのチップ11が、ケース12に収容され、かつ基板13上に実装されて構成されている。
【0022】
電流検出部20は、センス抵抗21と、オペアンプ22と、スイッチング素子23とを備えている。オペアンプ22は、その反転入力端子がセンス抵抗21を介して電源Pに接続し、非反転入力端子がスイッチング素子10と負荷Lとの間の電線Wに接続している。スイッチング素子23は、pチャネル型のMOSFETであり、寄生ダイオード23aを有する。スイッチング素子10のドレイン端子はセンス抵抗21を介して電源Pに接続し、ゲート端子はオペアンプ22の出力端子に接続している。
【0023】
電流演算部30は、その入力側が電流検出部20のスイッチング素子23のソース端子に接続している。この電流演算部30は、第1回路としての2乗演算部31と、第2回路としての線形演算部32とを備えている。
【0024】
電流演算部30に入力された電流は、2乗演算部31および線形演算部32のそれぞれに入力される。2乗演算部31は、2乗演算出力特性を有しており、入力された電流を2乗してさらに所定の係数を乗算した第1演算電流を出力する。線形演算部32は、入力された電流に所定の係数を乗算した第2演算電流を出力する。電流演算部30は第1演算電流と第2演算電流とを加算したものを演算電流として出力する。なお、2乗演算部31および線形演算部32はいずれもトランスリニア回路を用いたアナログ回路で構成することができる。
【0025】
温度模擬部40は、電流源41と、熱等価回路部42とを備えている。電流源41は、入力側が電流演算部30の出力側に接続し、出力側が熱等価回路部42に接続している。熱等価回路部42は、特許文献1にも開示されるように、オン状態でスイッチング素子10に流れる負荷電流Iloadによる消費電力に相当する発熱の時間的な変化を模擬するための電気的等価回路であり、スイッチング素子10における過渡的な熱変動を忠実に表現するように構成されている。すなわち、熱等価回路部42は、チップ熱等価部42aと、ケース熱等価部42bと、基板熱等価部42cとを備えている。チップ熱等価部42aは、並列接続したコンデンサ42abと抵抗42aaとからなる。ケース熱等価部42bは、並列接続したコンデンサ42bbと抵抗42baとからなる。基板熱等価部42cは、並列接続したコンデンサ42cbと抵抗42caとからなる。熱等価回路部42は、これらのコンデンサおよび抵抗が、はしご段上に接続したCR多段時定数回路(積分回路)として構成されている。
【0026】
チップ熱等価部42aにおいて、コンデンサ42abはMOSFETのチップ11(
図2参照)の熱容量に等価な電気容量値C1に設定されている。抵抗42aaはチップ11とケース12と間の熱抵抗に等価な電気抵抗値R1に設定されている。同様に、ケース熱等価部42bにおいて、コンデンサ42bbはケース12の熱容量に等価な電気容量値C2に設定されている。抵抗42baはケース12と基板13と間の熱抵抗に等価な電気抵抗値R2に設定されている。同様に、基板熱等価部42cにおいて、コンデンサ42cbは基板13の熱容量に等価な電気容量値C3に設定されている。抵抗42caは基板13と外部雰囲気と間の熱抵抗に等価な電気抵抗値R3に設定されている。
【0027】
スイッチング素子駆動部50は、比較部51と、ラッチ回路52と、制御信号入力端子53と、リセット信号入力端子54と、インバータ55と、NAND回路56と、pnp形トランジスタ57と、npn形トランジスタ58と、チャージポンプ59とを備えている。
【0028】
比較部51は、オペアンプからなる比較器であり、非反転入力端子が温度模擬部40の熱等価回路部42に接続している。また、反転入力端子には過電流判定電圧であるVrefが入力される。ラッチ回路52は入力側が比較部51の出力端子に接続しており、出力側がリセット信号入力端子54とインバータ55の入力端子との間に接続している。制御信号入力端子53はNAND回路56の一方の入力端子に接続している。リセット信号入力端子54はインバータ55を介してNAND回路56のもう一方の入力端子に接続している。NAND回路56の出力端子は、pnp形トランジスタ57およびnpn形トランジスタ58のベース端子に接続している。pnp形トランジスタ57のエミッタ端子はチャージポンプ59を介して電源Pに接続している。pnp形トランジスタ57およびnpn形トランジスタ58のコレクタ端子はスイッチング素子10のゲート端子に接続している。チャージポンプ59は電源Pの電圧を昇圧して、スイッチング素子10の駆動電圧信号を生成する。
【0029】
なお、電源供給装置100では、電流演算部30と、温度模擬部40と、スイッチング素子駆動部50の比較部51とが過電流判定部を構成している。
【0030】
つぎに、この電源供給装置100の動作について、負荷Lを操作するための操作スイッチをオフにしている場合と、操作スイッチをオンにした場合とに分けて説明する。
【0031】
(負荷Lを操作するための操作スイッチをオフにしている場合)
この場合、制御信号入力端子53からLowレベルの制御信号がNAND回路56の一方の入力端子に入力される。一方、ラッチ回路52は、初期状態ではLowレベルの信号を出力するので、NAND回路56の他の一方の入力端子には、インバータ55で反転されたHighレベルの信号が入力される。その結果、NAND回路56はHighレベルの信号を出力する。NAND回路56からHighレベルの信号が入力されるとpnp形トランジスタ57はオフになり、npn形トランジスタ58はオンになる。その結果、チャージポンプ59からの駆動電圧信号はスイッチング素子10のゲート端子に印加されないので、スイッチング素子10はオフ状態に維持される。したがって、電源Pから負荷Lに電流は供給されないので、負荷Lは駆動しない。
【0032】
(負荷Lを操作するための操作スイッチをオンにした場合)
この場合、制御信号入力端子53からHighレベルの制御信号がNAND回路56の一方の入力端子に入力される。一方、NAND回路56の一方の入力端子には、ラッチ回路52からLowレベルで出力され、インバータ55で反転されたHighレベルの信号が入力される。その結果、NAND回路56はLowレベルの信号を出力する。NAND回路56からLowレベルの信号が入力されるとpnp形トランジスタ57はオンになり、npn形トランジスタ58はオフになる。その結果、チャージポンプ59からの駆動電圧信号がスイッチング素子10のゲート端子に印加されるので、スイッチング素子10はオン状態になる。その結果、スイッチング素子10のドレイン−ソース間には電流が流れ、電源Pから負荷Lに電線Wを介して負荷電流Iloadが供給され、負荷Lは駆動する。
【0033】
このとき、電流検出部20では、スイッチング素子10のドレイン−ソース間電圧Vdsとセンス抵抗21の端子間電圧Vsとが等しくなるように、オペアンプ22の出力でスイッチング素子23のゲート電位を制御している。これによって、センス抵抗21には、電線Wに流れる負荷電流Iloadに比例した値の検出電流Isが流れるようになっている。ここで、Is=Iload×Ron/Rsで表される。Ronは所定の温度でのスイッチング素子10のオン抵抗であり、Rsは所定の温度でのセンス抵抗21の電気抵抗値である。電流検出部20は、この検出電流Isを、負荷電流Iloadに対応する電流として出力する。
【0034】
つぎに、電流演算部30では、入力された検出電流Isが2乗演算部31および線形演算部32のそれぞれに入力される。2乗演算部31は、入力された検出電流Isを2乗してさらに係数1/Kを乗算した第1演算電流Iout1(=Is
2/K)を出力する。線形演算部32は、入力された検出電流Isに係数1を乗算した第2演算電流Iout2(=Is)を出力する。すなわち、第2演算電流Iout2は負荷電流Iloadに比例している。電流演算部30は、2乗成分である第1演算電流Iout1と線形成分である第2演算電流Iout2とを加算して、演算電流Ioutとして出力する。すなわち、Iout=Is
2/K+Isである。すなわち、電流演算部30は、線形関数と2乗関数との線形結合関数を用いて演算電流Ioutを演算している。
【0035】
図3は、電流演算部30に入力される検出電流Isと電流演算部30が出力する演算電流Ioutとの関係を示す図である。なお、係数1/Kは1.1×10
4としている。
図3では、比較のためにIoutがIs
2/K、Isである場合も示している。また、
図3では、Ron/Rsを1×10
−5とした場合の負荷電流Iload(=Is×10
5)も示している。
【0036】
図3に示すように、たとえば負荷電流Iloadが15Aの場合、すなわち検出電流Isが0.00015Aの場合には、第1演算電流Iout1は約0.00002.5Aであり、第2演算電流Iout2は0.00015Aである。したがって、負荷電流Iloadが15Aの場合には、演算電流Iout=0.00002.5+0.00015=0.000175である。この場合、線形成分である第2演算電流Iout2が演算電流Ioutの約86%を占める。
【0037】
また、たとえば負荷電流Iloadが100Aの場合、すなわち検出電流Isが0.001Aの場合には、第1演算電流Iout1は約0.0011Aであり、第2演算電流Iout2は0.001Aである。したがって、負荷電流Iloadが100Aの場合には、演算電流Iout=0.0011+0.001=0.0021である。この場合、演算電流Ioutにおいて2乗成分である第2演算電流Iout2のほうが第1演算電流Iout1よりも大きくなる。
【0038】
つぎに、温度模擬部40では、演算電流Ioutが入力されて、スイッチング素子10の温度を示す温度相当電圧を出力する。温度模擬部40では、まず、電流源41が、電流演算部30が出力する演算電流Ioutを熱等価回路部42に流す。
【0039】
熱等価回路部42において、チップ熱等価部42aのコンデンサ42abと抵抗42aaとの接続点の電位が、スイッチング素子10のチップ11の温度に相当する温度相当値Tchipを与える。同様に、ケース熱等価部42bのコンデンサ42bbと抵抗42baとの接続点の電位が、ケース12の温度に相当する温度相当値Tcaseを与える。基板熱等価部42cのコンデンサ42cbと抵抗42caとの接続点の電位が、基板13の温度に相当する温度相当値Tboardを与える。これらの温度相当値Tchip、Tcase、Tboardは、以下の式(1)〜式(3)で表される。
【0040】
Tchip=Ichip(t)×R1+Tcase ・・・ (1)
Tcase=Icase(t)×R2+Tboard ・・・ (2)
Tboard=Iboard(t)×R3+Tair ・・・ (3)
【0041】
R1、R2、R3は、前述したようにそれぞれ抵抗42aa、42ba、42caの電気抵抗値である。また、Ichip(t)、Icase(t)、Iboard(t)は、抵抗42aa、42ba、42caのそれぞれに流れる電流を時間の関数として表したものである。Tairは外気温度に相当する温度相当値である。Tairはたとえば外気温度を測定するための不図示の温度センサから与えられる。
【0042】
また、スイッチング素子10の、時刻t+Δtでの過渡的な熱変動は、下記式(4)〜式(6)により表すことができる。
【0043】
Ichip(t+Δt)=Iout(t+Δt)×{1−exp(−a1×Δt)}+Ichip(t)×exp(−a1×Δt) ・・・ (4)
Icase(t+Δt)=Ichip(t+Δt)×{1−exp(−a2×Δt)}+Icase(t)×exp(−a2×Δt) ・・・ (5)
Iboard(t+Δt)=Icase(t+Δt)×{1−exp(−a3×Δt)}+Iboard(t)×exp(−a3×Δt) ・・・ (6)
【0044】
a1、a2、a3はそれぞれ熱時定数の逆数であり、a1=1/(C1×R1)、a2=1/(C2×R2)、a3=1/(C3×R3)である。
【0045】
この熱等価回路部42では、チップ熱等価部42aのコンデンサ42abと抵抗42aaとの接続点の電位であり、スイッチング素子10のチップ11の温度に相当する温度相当値Tchipを、スイッチング素子10の温度を示す温度相当電圧V
Tjとして出力する。
【0046】
つぎに、比較部51は、非反転入力端子から温度相当電圧V
Tjが入力され、反転入力端子には過電流判定電圧Vrefが入力される。ここで、過電流判定電圧Vrefは、保護対象であるスイッチング素子10および電線Wの発煙特性に基づいて、スイッチング素子10および電線Wが焼損等に到らない温度に対応する電圧に設定することが好ましい。スイッチング素子10および電線Wが焼損等に到らない温度とは、たとえば、スイッチング素子10を構成するMOSFETの接合温度である150℃または175℃より小さい温度であり、かつ電線Wの発煙温度および被覆の溶解温度である150℃〜160℃より小さい温度である。
【0047】
以下、温度相当電圧V
Tjが過電流判定電圧Vref以下の場合と、温度相当電圧V
Tjが過電流判定電圧Vrefを超えた場合とに分けて説明する。
【0048】
(温度相当電圧V
Tjが過電流判定電圧Vref以下の場合)
この場合は、スイッチング素子10および電線Wには過電流が流れていないと判定する場合である。このとき、比較部51は、その出力端子からラッチ回路52にLowレベルの信号を出力する。これによってラッチ回路52はLowレベルの信号を出力する。このラッチ回路52の状態は、操作スイッチをオンにした直後と同様である。したがって、この場合はスイッチング素子10はオン状態のままであり、電源Pから負荷Lに電線Wを介して負荷電流Iloadが供給され続け、負荷Lは駆動を続ける。
【0049】
(温度相当電圧V
Tjが過電流判定電圧Vrefを超えた場合)
この場合は、過電流が発生し、スイッチング素子10および電線Wに過電流が流れると判定する場合である。温度相当電圧V
Tjが過電流判定電圧Vrefを超えると、比較部51は、その出力端子からラッチ回路52にHighレベルの信号を出力する状態に変化する。
【0050】
この場合、Highレベルの信号が入力されたラッチ回路52はHighレベルの信号を出力する。NAND回路56の一方の入力端子には、ラッチ回路52からの信号がインバータ55で反転されたLowレベルの信号が入力される。一方、NAND回路56の他の一方の入力端子には、制御信号入力端子53からはHighレベルの制御信号が入力される。その結果、NAND回路56はHighレベルの信号を出力し、pnp形トランジスタ57はオフになり、npn形トランジスタ58はオンになる。これによって、チャージポンプ59からの駆動電圧信号はスイッチング素子10のゲート端子に印加されなくなり、スイッチング素子10はオン状態からオフ状態にスイッチングされる。したがって、電源Pから負荷Lへの電流の供給が遮断され、負荷Lの駆動が停止される。その結果、スイッチング素子10および電線Wは過電流から保護される。
【0051】
なお、ラッチ回路52は、一旦Highレベルの信号が入力されると、その後は入力信号に関わらずHighレベルの信号を出力し続ける。Lowレベルの信号を出力する状態にラッチ回路52を戻すには、リセット信号入力端子54からリセット信号を入力し、ラッチ回路52を初期状態に戻せばよい。なお、リセット信号入力端子54は、スイッチング素子10がオン状態かオフ状態かを外部でモニタするために、ラッチ回路52の出力信号を外部に出力するための端子としても用いることができる。
【0052】
以上のようにして、この電源供給装置100では、スイッチング素子10および電線Wを過電流から保護することができる。
【0053】
図4は、電源供給装置100によって実現される電流遮断特性の一例を示す図である。
図4において、「E」は10のべき乗を表す記号であり、たとえば「1.E−06」は「1.0×10
−6」を意味する。なお、線L1は電線Wの発煙特性、線L2はスイッチング素子10の過電流限界特性、線L3は電源供給装置100の電流遮断特性、線L4、L5は負荷Lがモータの場合の負荷電流特性を、それぞれ一例として示している。
【0054】
図4に示すように、負荷Lがモータの場合は、負荷電流供給の初期に、モータが発生する始動トルクに比例して、過渡的に過大な電流が流れる。この電源供給装置100では、線L3が示す電流遮断特性が実現されることによって、線L4のような過渡的に過大な電流が負荷Lに流れるのを許容している。また、たとえばモータがロックされて負荷トルクが大きくなり、線L5に示すような過電流が流れた場合には、線L3が示す電流遮断特性が実現されることによって、その過電流からスイッチング素子10および電線Wを保護できる。
【0055】
ここで、
図4において負荷電流Iloadが100Aの場合(線L3上で白丸で示した点)、この電流値は、スイッチング素子10および電線Wの発煙特性における過渡熱領域に対応する電流値である。一方、負荷電流Iloadが15Aの場合(線L3上で黒丸で示した点)、この電流値は、スイッチング素子10および電線Wの発煙特性における熱飽和領域に対応する電流値である。
【0056】
図3で示したように、負荷電流Iloadが15Aの場合は、電流演算部30が出力する演算電流Ioutにおいて、線形成分である第2演算電流Iout2が演算電流Ioutの約86%を占める。すなわち、第1演算電流Iout1の割合は20%以下になるように、第1演算電流Iout1と第2演算電流Iout2との加算が行われる。このように線形成分が演算電流Ioutの多くを占める場合には、演算電流Ioutの演算精度が高くなる。その理由は、2乗演算部31よりも線形演算部32の方が構成が簡略化できるため、演算に伴う誤差が小さいためである。また、特に、熱飽和領域のように、負荷電流Iloadが小さく、演算に用いる検出電流Isも小さい場合には、線形演算の方が演算結果の値が大きくなるため、演算結果のS/N比も高くなる。
【0057】
したがって、この電源供給装置100では、特に熱飽和領域における演算電流Ioutの演算精度が高くなるため、これを用いて温度模擬部40において高精度の温度模擬をすることができる。その結果、この電源供給装置100は、過電流発生の判定精度が高くなる。
【0058】
その結果、この電源供給装置100を使用すれば、保護対象であるスイッチング素子10および電線Wの設計において、過電流発生の判定誤差を含めた設計マージンを小さくすることができる。これによって、スイッチング素子10の場合は放熱構造を小型、簡略化でき、電線Wの場合はその径を余分に太くしなくても良くなる。したがって、この電源供給装置100を使用すれば、スイッチング素子10および電線Wの設計の設計上の制約がより少なくなり、小型化、軽量化等が容易になる。
【0059】
また、この電源供給装置100では、負荷電流Iloadが100Aの場合のようにスイッチング素子10および電線Wの過渡熱領域に対応する電流値の場合は、演算電流Ioutに占める2乗成分である第1演算電流Iout1の割合が、負荷電流Iloadが熱飽和領域に対応する電流値の場合の割合よりも高くなる。その結果、検出電流Isから演算される演算電流Ioutの値はより大きくなり、これを用いて演算した温度相当電圧V
Tjもより大きくなる。その結果、比較部51における過電流発生の判定が、過電流発生のより早期の段階で行われることとなり、電源供給装置100は迅速に負荷電流Iloadを遮断することとなる。したがって、スイッチング素子10および電線Wはより高い安全性を持って保護される。
【0060】
つぎに、電流演算部30が出力する演算電流Ioutの演算精度について説明する。ここでは、線形関数であるf1(x)=xと、2乗関数であるf2(x)=x
2と、これらの線形結合関数であるf3(x)=x/2+x
2/2を演算関数として用いる。そして、f1(x)、f2(x)の出力の精度を想定した場合のf3(x)の出力の精度について説明する。
【0061】
図5は、電流演算部30における演算の精度を説明する図である。なお、
図5では入力される値を1としている。
図5(a)に示すf1(x)の場合、出力の精度は±5%と想定され、この場合の出力は最大0.95、最小1.05である。また、
図5(b)に示すf2(x)の場合、出力の精度は、上記想定したf1(x)の精度を考慮すると、±20%と想定され、この場合の出力は最大0.8、最小1.2である。これに対して、
図5(c)に示すf1(x)とf2(x)の線形結合関数であるf3(x)の場合、出力の精度は、上記想定したf1(x)、f2(x)の精度を用いて算出できる。すなわち、f3(x)の出力は、最大で1.05/2+1.2/2=1.125であり、最小で0.95/2+0.8/2=0.875である。したがって、f3(x)の出力の精度は±12.5%である。このように、電流演算部30が線形関数と2乗関数との線形結合関数を用いて演算電流Ioutを演算すれば、2乗関数のみの場合よりも一層高精度に演算電流Ioutの演算を行うことができる。
【0062】
なお、上記実施の形態では、電流演算部は、線形関数と2乗関数との線形結合関数を用いて演算を行っている。しかしながら、本発明はこれに限らず、電流演算部は、検出電流値が過渡熱領域の負荷電流に対応する場合には2乗関数であり、検出電流値が熱飽和領域の負荷電流に対応する場合には線形関数であるような演算関数を用いて検出電流値を演算してもよい。この場合、演算関数は折れ線状でもよいが、電源供給装置の電流遮断特性の連続性を確保するため、折れ線間を滑らかに接続し、入力に対して連続になるように演算関数を設定することが好ましい。なお、このような演算関数は、デジタル回路を用いて電流演算部を構成することによって実現してもよい。また、負荷電流が過渡熱領域である場合は第1回路としての2乗演算部の出力によって過電流判定を行い、前記負荷電流が熱飽和領域である場合は第2回路としての線形演算部の出力によって過電流判定を行ってもよい。
【0063】
また、電流演算部は、線形関数と2乗関数とを所定の割合で線形結合した線形結合関数を用いて演算を行ってもよい。その割合は、検出電流が、保護対象の過電流限界特性における熱飽和領域の負荷電流に対応する場合に、演算電流において検出電流の線形成分が支配的であるように設定することが好ましい。ここで、支配的とは、演算電流において検出電流の線形成分が好ましくは50%よりも多く、より好ましくは80%以上を占めるような場合を意味する。換言すれば、負荷電流が熱飽和領域である場合には、2乗関数成分の割合が20%以下になるように加算を行うことが好ましい。
【0064】
また、電流演算部において、2乗演算部は、負荷電流に応じて入出力比が高くなる特性を有する他の第1回路としての演算部に置き換えても良い。これは、電線Wでの損失(負荷電流による損失)と電線Wの許容損失の差に応じて入出力比が高くなることを表しており、その差が小さい場合には、演算誤差が小さくなる線形演算部での演算結果に過電流判定を依存させ、一方、その差が大きい場合には、検出電流のダイナミックレンジを大きくとることができる、負荷電流に応じて入出力比を高くする演算部での演算結果に過電流判定を依存させることである。そして、この第1回路としての演算部の出力と第2回路である線形演算部の出力との加算値をもとに過電流判定を行っても、熱飽和領域における過電流発生の判定精度を高くでき、かつノイズ耐性を強化できるという本発明の効果を得ることができる。また、負荷電流が熱飽和領域である場合と過渡熱領域である場合とで、各演算部の出力を加算する際の割合が変わるように構成してもよい。
【0065】
また、熱等価回路部は、スイッチング素子等の保護対象の構成、温度環境、または温度特性等に応じて、熱等価部の数や構成を適宜設定することが好ましい。
【0066】
また、上記実施の形態では、電流演算部と、温度模擬部と、比較部とが過電流判定部を構成している。しかし、過電流判定部の構成はこれに限定されず、検出電流が入力されると第1回路の出力と第2回路の出力との加算値によって過電流を判定するように構成されていればよい。
【0067】
また、上記実施の形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。その他、上記実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明に含まれる。