(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、軸封機構を有するポンプの概略構成を示す断面図である。
図1に示すように、ポンプは、モータなどの駆動源に連結される軸1と、軸1に固定された羽根車2と、羽根車2を収容するケーシング3と、ケーシング3の開口部を覆うケーシングカバー5と、羽根車2によって昇圧された液体の漏洩を防止する軸封機構8とを備えている。羽根車2が回転することにより、液体はケーシング3の吸込口3aから吸い込まれ、昇圧された液体は吐出口3bから吐き出される。
【0015】
図1に示すポンプの例としては、原子力発電所の一次冷却水の循環に使用されるポンプが挙げられる。このようなポンプは、内部圧力が高く、かつ液体の性質上、ポンプの外部に漏洩する液体をできるだけ少なく制限することが求められる。したがって、
図1に示すポンプでは、軸封機構8として多段メカニカルシールが使用されている。多段メカニカルシールは、少なくとも2つのシールを備えており、万が一、1つのシールが故障しても、他のシールが軸封機能を維持できるように構成されている。
【0016】
軸封機構8は、第1段シール組立体10と第2段シール組立体20とを備えた2段タンデム型メカニカルシールである。第1段シール組立体10は第2段シール組立体20の上流側に配置され、第1段シール組立体10と第2段シール組立体20は、軸1に沿って直列に配置されている。第1段シール組立体10および第2段シール組立体20は、シールカートリッジ9内に収容されている。
【0017】
図1に示すメカニカルシール8は、第2段シール組立体20に加わる負荷圧力P
Uが、第1段シール組立体10に加わる負荷圧力P
Lの約2分の1となるように設計されている(すなわち、P
U≒0.5P
L)。万が一、第1段シール組立体10または第2段シール組立体20のいずれかが故障した場合にもシール機能が維持されるように、第1段シール組立体10および第2段シール組立体20のいずれもが全負荷圧力P
Lを封止できるように構成されている。
図1に示すポンプでは、2段メカニカルシールが使用されているが、3段以上のメカニカルシールが使用されていてもよい。3段メカニカルシールの場合では、全負荷圧力の3分の1が各段に加わるように設計されるのが通常であるが、各段への負荷圧力の割り当てはこれに限られない。
【0018】
図2は、2段タンデムメカニカルシールを示す断面図である。このメカニカルシール8は、第1段シール組立体10と、該第1段シール組立体10の下流側に配置される第2段シール組立体20と、これら第1段シール組立体10および第2段シール組立体20を収容するシールカートリッジ9とを備えている。第1段シール組立体10および第2段シール組立体20は、シールカートリッジ9に装着されており、第1段シール組立体10、第2段シール組立体20、およびシールカートリッジ9は全体として一体型カートリッジ構造を構成している。第1段シール組立体10および第2段シール組立体20は、シールカートリッジ9に形成されている第1シール室15および第2シール室25内にそれぞれ配置されている。
【0019】
第1段シール組立体10は、軸1とともに回転する第1回転シールリング11と、第1回転シールリング11に接する第1静止シールリング12と、第1静止シールリング12に隣接して配置された第1バックアップリング13と、第1バックアップリング13を介して第1静止シールリング12を第1回転シールリング11に対して押し付ける第1ばね14とを有している。同様に、第2段シール組立体20は、軸1とともに回転する第2回転シールリング21と、第2回転シールリング21に接する第2静止シールリング22と、第2静止シールリング22に隣接して配置された第2バックアップリング23と、第2バックアップリング23を介して第2静止シールリング22を第2回転シールリング21に対して押し付ける第2ばね24とを有している。
【0020】
回転シールリング11,21には、硬質材、例えば、セラミックなどが使用され、静止シールリング12,22には、軟質材、例えば、カーボングラファイトなどが使用される。バックアップリング13,23は、軟質材からなる静止シールリング12,22をばね14,24で均一に回転シールリング11,21に押し付けるために設けられている。なお、シールの種類によっては、回転シールリングに軟質材が使用され、静止シールリングに硬質材が使用されることもある。
【0021】
図3は、
図2に示す多段メカニカルシールの液体漏洩経路を示す図である。
図3に示すように、多段メカニカルシールには、2つの液体漏洩経路が存在する。
図3の右側は、第1の液体漏洩経路を示している。第1の液体漏洩経路は、加圧液体の一部を意図的にポンプ外部に流出させるコントロールブリードオフ機構を通じた経路である。このコントロールブリードオフ機構は、メカニカルシール8の段間の圧力差を調整するために設けられている。2段メカニカルシール8においては、第1段シール組立体10に加わる負荷圧力P
Lと第2段シール組立体20に加わる負荷圧力P
Uとの関係がP
U≒0.5P
Lとなるように、段間の圧力差が調整される。
【0022】
図2に示すように、コントロールブリードオフ機構は、ポンプ1の外部に連通するコントロールブリードオフ流路30と、第1シール室15と第2シール室25とを連通する第1段減圧セル31と、第2シール室25とコントロールブリードオフ流路30とを連通する第2段減圧セル32とを有している。
【0023】
第1シール室15内の液体(全圧P
L)の一部は、第1段減圧セル31を通じて第2シール室25に流入し、さらに第2シール室25内の液体(圧力P
U)のほぼ全量は第2段減圧セル32を流れ、コントロールブリードオフ流路30を通じてポンプ1の外部に流出する。コントロールブリードオフ流路30を通じて漏洩する液体の流量Qbを、以下、コントロールブリードオフ流量と呼ぶ。このコントロールブリードオフ流量Qbは、第2段シール組立体20の潤滑を維持し、かつ第2段シール組立体20での発熱を除去するのに必要な流量とされる。例えば、沸騰水型原子炉用の主循環ポンプの場合、全負荷圧力P
Lは約7MPaであり、コントロールブリードオフ流量Qbは約3L/minである。
【0024】
図3の左側は、第2の液体漏洩経路を示している。この第2の液体漏洩経路は、第1段シール組立体10の摺接面(すなわち、第1回転シールリング11と第1静止シールリング12との接触面)、および第2段シール組立体20の摺接面(すなわち、第2回転シールリング21と第2静止シールリング22との接触面)を通じた漏洩経路である。液体は、第1段シール組立体10の摺接面および第2段シール組立体20の摺接面を通じてわずかに漏洩し、シール漏洩通路35を通じてポンプ1の外部に排出される。このシール漏洩通路35を流れる液体の流量を、以下、シール漏洩流量Qsと呼ぶ。このシール漏洩流量Qsは、ポンプ1の運転状態により0〜1.5L/minの範囲内で変化する。ポンプの定常運転時では、シール漏洩流量Qsは数cc/minと少量である。
【0025】
図3から分かるように、第1段シール組立体10の摺接面から第2シール室25に漏洩した液体は、第1段減圧セル31を通じて第2シール室25に流入する液体(コントロールブリードオフ流)と合流する。さらに、第2シール室25内の液体の一部は、第2段シール組立体20の摺接面およびシール漏洩通路35を通じてポンプ1の外部に排出され、残余は、第2段減圧セル32およびコントロールブリードオフ流路30を通じてポンプ1の外部に排出される。
【0026】
したがって、シール漏洩通路35から外部に排出された液体には、第1段シール組立体10の摺接面および第2段シール組立体20の摺接面の両方で生じた摩耗粉が含まれる。一方、コントロールブリードオフ流路30から排出された液体には、主として第1段シール組立体10の摺接面で生じた摩耗粉が含まれる。したがって、シール漏洩通路35から排出された液体と、コントロールブリードオフ流路30から排出された液体の性状を分析することにより、第1段シール組立体10の摺接面および第2段シール組立体20の摺接面の摩耗状態を推定することができる。
【0027】
次に、メカニカルシールから排出される液体の性状に基づいてメカニカルシールの摺接面の摩耗を監視する摩耗監視装置について説明する。
図4は、
図2に示すメカニカルシールの摩耗を監視する摩耗監視装置の一実施形態を示す図である。摩耗監視装置は、コントロールブリードオフ流路30に接続された連続分析システム40と、シール漏洩通路35に接続されたバッチ式分析システム60と、連続分析システム40とバッチ式分析システム60とから得られる測定結果から、メカニカルシールの摩耗量を決定する処理装置70とを備えている。
【0028】
連続分析システム40は、コントロールブリードオフ流路30から連続的に排出される液体中に混入する摩耗粉の濃度を測定する濃度測定システムである。一方、バッチ式分析システム60は、シール漏洩通路35から間欠的に排出される液体を回収して、その液体中に混入する摩耗粉の粒度分布を測定する粒度分布測定システムである。
【0029】
図4に示すように、連続分析システム40は、導入ライン37を介してコントロールブリードオフ流路30に接続される濃度測定器41を備えている。この濃度測定器41は、液体が流れるフローセル42と、フローセル42を流れる液体に光を照射する光源43と、液体を通過した光の強度を検出する受光素子44と、受光素子44によって検出された光の強度に基づいて液体中の摩耗粉の濃度を決定する濃度分析器45とを備えている。このような光学式濃度測定器41としては、紫外・可視吸光を利用する測定器、赤外吸光を利用する測定器、蛍光発光を利用する測定器、レーリー散乱を利用する測定器、ラマン散光を利用する測定器、屈折率を利用する測定器を使用することができる。
【0030】
濃度測定器41の上流側にはフィルター50が配置されており、コントロールブリードオフ流路30から排出された液体は、フィルター50を通じてフローセル42に導入される。このフィルター50は、液体に本来含まれる粒子を除去するために設けられている。例えば、原子炉の一次冷却水には、
図5に示すように、粒径2μm〜12μmの鉄クラッド微粒子が含まれる。したがって、この場合は、フィルター50は、粒径2μm以上の粒子を捕捉する機能を有することが好ましい。また、フィルター50には、鉄を含有する粒子を捕捉するためのマグネットフィルターを組み込んでもよい。
【0031】
コントロールブリードオフ流路30から排出された液体は、フローセル42内を流れる。フローセル42には透明窓46が設けられており、光源43からの光ビームは、この透明窓46を通じて液体に照射される。液体を通過した光の強度は、受光素子44によって検出される。光の強度は、液体中に混入する摩耗粉の濃度に依存して変化する。すなわち、液体中の摩耗紛に光を当てると、光の一部は吸収され、または摩耗紛から光が発せられ、または光が散乱あるいは屈折する。結果として、摩耗粉の濃度によって光の強度が変化する。したがって、液体中の摩耗粉の濃度は、液体を通過した光の強度から推定することができる。
【0032】
濃度分析器45は受光素子44に接続されており、光の強度の検出信号は受光素子44から濃度分析器45に送られるようになっている。この濃度分析器45には、液体中の摩耗粉の含有量と、液体を通過した光の強度との関係を示すテーブルまたは関係式が予め記憶されている。したがって、濃度分析器45は、受光素子44から送られてくる光の強度の検出値から、液体に含まれる摩耗粉の含有量を連続的に決定することができる。より具体的には、濃度分析器45は、光の強度に基づいて、単位時間当たり(例えば、1時間当たり)の摩耗粉の濃度を算出する。例えば、摩耗粉の濃度は、1時間毎に排出される液体中に含まれる摩耗粉の質量[g/h]として定義される。
【0033】
摩耗粉濃度の測定に必要な液体の流量は、濃度測定器のタイプによって異なる。このため、フローセル42を流れる液体の流量を調整するために、濃度測定器41をバイパスするバイパスライン51が設けられている。このバイパスライン51は導入ライン37から分岐しており、液体の一部がバイパスライン51を通って濃度測定器41をバイパスするようになっている。バイパスライン51にはバイパス弁52が設けられており、濃度測定器41をバイパスする液体の流量は、バイパス弁52によって調整される。したがって、フローセル42を流れる液体の流量は、バイパス弁52の開度によって調整することができる。
【0034】
バッチ式分析システム60は、シール漏洩通路35から間欠的に排出される液体中に混入する摩耗粉の体積と粒度分布とを測定する粒度分布測定器61を備えている。この粒度分布測定器61は、液体を貯留するためのサンプルセル62と、サンプルセル62内の液体に光を照射する光源63と、液体を通過した光の強度分布を検出する受光素子64と、受光素子64によって検出された光の強度分布を分析して液体中の摩耗粉の体積および粒度分布を決定する粒度分布分析器65と備えている。
【0035】
シール漏洩通路35から排出された液体は、切換弁68を通じてサンプルセル62に導かれるようになっている。サンプルセル62は移動可能となっており、液体が貯留されたサンプルセル62は、光源63と受光素子64との間の測定位置に運ばれる。サンプルセル62が上記測定位置にあるときは、シール漏洩通路35から排出された液体は、切換弁68を通じて貯留部72に移送されるようになっている。
【0036】
粒度分布測定器61は、液体に光を照射し、液体を通過した光を分析することにより、液体中の摩耗粉の粒度分布を測定する。粒度分布測定器61は、液体サンプリングによるバッチ分析を行うので、液体に含まれる摩耗粉の体積と、その粒度分布とを測定することができる。このような光学式粒度分布測定器61としては、レーザー光散乱回折法を利用する測定器や、動的光散乱を利用する測定器を使用することができる。
【0037】
シール漏洩通路35から排出された液体は、第1段シール組立体10および第2段シール組立体20の両方で発生した摩耗粉を含んでいる。このため、バッチ式分析システム60で得られた測定結果からは、第1段シール組立体10または第2段シール組立体20のどちらがより摩耗しているかを特定することができない。そこで、シール漏洩通路35から排出された液体のみならず、コントロールブリードオフ流路30から排出された液体もバッチ式分析システム60によって分析される。
【0038】
バッチ式分析システム60の粒度分布測定器61は、連続分析システム40を介してコントロールブリードオフ流路30にも接続されている。具体的には、
図4に示すように、コントロールブリードオフ流路30からの液体は、濃度測定器41を通過した後、切換弁55の操作によってバッチ式分析システム60に導入されるようになっている。この切換弁55は、液体を貯留部57またはバッチ式分析システム60のいずれかに選択的に導くための弁である。
【0039】
バッチ式分析システム60にはサンプルセル67が設けられており、連続分析システム40からの液体(すなわち、コントロールブリードオフ流路30から排出された液体)は、このサンプルセル67内に貯留される。サンプルセル67は粒度分布測定器61に運ばれ、ここで液体中の摩耗粉の粒度分布が測定される。サンプルセル67が粒度分布測定器61の測定位置にある間は、液体は切換弁55を通じて貯留部57に導かれるようになっている。
【0040】
図6は、粒度分布測定器61と自動サンプラー75とを組み合わせた例を示す図である。この例では、コントロールブリードオフ流路30から排出された液体と、シール漏洩通路35から排出された液体は、いずれも自動サンプラー75に導入されるようになっている。この自動サンプラー75は、液体を貯留する容器76と、容器76内の液体を攪拌し、さらに容器76と粒度分布測定器61のサンプルセル62との間で液体を循環させる循環ポンプ77と、容器76内の液体の液面位置を検出する液面センサー78を備えている。シール漏洩通路35から排出される液体の流量は少ないので、液体が容器76内に蓄積されたことが液面センサー78により検知されるようになっている。
【0041】
シール漏洩通路35から排出された液体は、切換弁68を通じて容器76に導かれる。一方、コントロールブリードオフ流路30から排出された液体は、濃度測定器41を通過し、さらに切換弁55を通じて容器76に導かれるようになっている。粒度分布測定器61のサンプルセル62と容器76とは移送ライン81および戻りライン82で接続されている。容器76内の液体は、移送ライン81を通じてサンプルセル62に移送され、サンプルセル62内の液体は、戻りライン82を通じて容器76に戻される。容器76には、容器76内の液体を排出するためのドレイン79が設けられている。
【0042】
2つの切換弁55,68を交互に操作することにより、コントロールブリードオフ流路30から排出された液体、またはシール漏洩通路35から排出された液体のいずれかが自動サンプラー75の容器76に導かれる。したがって、コントロールブリードオフ流路30からの液体、およびシール漏洩通路35からの液体の両方を粒度分布測定器61で交互に分析することができる。
【0043】
図7は、コントロールブリードオフ流路30に接続された連続分析システム40と、シール漏洩通路35に接続された第1のバッチ式分析システム60Aと、連続分析システム40に接続された第2のバッチ式分析システム60Bとを備えた摩耗監視装置の例を示す図である。連続分析システム40の構成および配置は、上述の例と同じである。第1のバッチ式分析システム60Aおよび第2のバッチ式分析システム60Bの基本的構成は、
図6に示すバッチ式分析システム60と同じである。
【0044】
この例では、
図6に示す切換弁55,68および貯留部57,72に相当する要素は設けられていない。シール漏洩通路35から排出された液体中の摩耗粉の体積および粒度分布は、第1のバッチ式分析システム60Aによって測定され、コントロールブリードオフ流路30から排出された液体中の摩耗粉の体積および粒度分布は、第2のバッチ式分析システム60Bによって測定される。
【0045】
次に、上述したメカニカルシール8の摩耗監視装置によるシール寿命の決定方法について説明する。
図8は、第1段シール組立体10の摺接面の摩耗の推移を示すグラフである。
図8に示すグラフの縦軸は、液体中の摩耗粉濃度C[g/h]を表し、横軸はメカニカルシール(またはポンプ)の運転時間[hour]を表している。
図8から分かるように、メカニカルシールの摩耗は、摩耗が比較的大きい初期摩耗段階と、摩耗が少ない安定摩耗段階と、摩耗が徐々に増加する末期摩耗段階とに分けられる。
【0046】
第1段シール組立体10の摺接面で生じた摩耗粉のほとんどは、コントロールブリードオフ流路30から液体とともに排出され、一方、第2段シール組立体20の摺接面で生じた摩耗粉は、コントロールブリードオフ流路30からは排出されない。したがって、連続分析システム40によりコントロールブリードオフ流路30からの液体を分析することにより、第1段シール組立体10の摩耗量を推定することができる。
【0047】
図9は、回転シールリング11と静止シールリング12が摩耗する様子を説明する図である。
図9に示すように、摺接面の摩耗量Wは、静止シールリング12および回転シールリング11のすり減った厚さ[mm]として定義される。第1段シール組立体10の摩耗量Wは、摩耗粉の濃度C[g/h]を時間に関して積分して濃度Cの累積値Ct[g]を求め、予め用意された累積値Ct[g]と摩耗量[mm]との関係から決定することができる。
【0048】
図10は、摩耗粉の濃度の累積値と摩耗量との関係を示すグラフである。
図10において、縦軸は、シールリングの摺接面の摩耗量[mm]を表し、横軸は、摩耗粉の濃度の累積値[g]を表している。
図10に示すように、シールリングの摺接面の摩耗量は、摩耗粉の濃度の累積値に比例する。この摩耗量と摩耗粉の濃度の累積値との対応関係は、実測により予め取得することができる。シールリングの摺接面の摩耗量と摩耗粉の濃度の累積値との関係を示すテーブルまたは関係式は、処理装置70に予め記憶されている。したがって、処理装置70は、連続分析システム40によって測定された単位時間当たりの摩耗粉濃度[g/h]を時間に関して積分して摩耗粉の濃度の累積値Ctを求め、得られた累積値Ctから第1段シール組立体10の摺接面の摩耗量を推定することができる。
【0049】
図11は、摩耗量[mm]と、摩耗粉濃度の累積値Ct[g]と、運転時間t[hour]との関係を示すグラフである。
図11のグラフにおいて、左側の縦軸はシールリングの摺接面の摩耗量を表し、右側の縦軸は摩耗粉濃度の累積値を表し、横軸はメカニカルシール(またはポンプ)の運転時間を表す。
図11から分かるように、運転時間ともに、摩耗粉濃度の累積値および摩耗量は増加する。したがって、得られた摩耗量から、回転シールリングおよび/または静止シールリングの寿命を決定することが可能である。すなわち、処理装置70は、摩耗量が所定のしきい値(許容摩耗量)に達したときに、回転シールリングおよび/または静止シールリングがその寿命に達したと判断することができる。さらに、現在の摩耗量と、しきい値(許容摩耗量)との比較から、回転シールリングおよび/または静止シールリングの残存寿命を推定することも可能である。
【0050】
図12(a)および
図12(b)は、2段メカニカルシール8の第1段シール組立体10の摩耗測定結果を示す図である。この2段メカニカルシールは、原子炉の一次冷却水の循環に使用されるポンプ内に設置されたものであり、ポンプの運転時間は約9000時間であった。静止シールリングはカーボン製であり、回転シールリングはセラミック製であった。
【0051】
図12(b)に示すように、静止シールリングの算術平均粗さRaは約2μmであり、最大高さRyは約12μmであった。一方、回転シールリングの算術平均粗さRaは約0.03μmであり、最大高さRyは約0.4μmであった。この測定結果から、回転シールリングの摩耗量は、静止シールリングの摩耗量に比べてかなり少ないことが分かる。また、摩耗粉の粒径は、算術平均粗さRa以下と想定されるため、測定結果から、静止シールリングから発生する摩耗粉の粒径は2μm以下、回転シールリングから発生する摩耗粉の粒径は0.03μm以下であることが分かる。
【0052】
図4に示すように、濃度測定器41の上流側にはフィルター50が設置されているので、粒径2μm以上の粒子はフィルター50によって液体から除去される。したがって、濃度測定器41で測定される粒子は、炉水に本来含まれていたものではなく、第1段シール組立体10で発生した摩耗粉である。上述した実施形態では、摩耗粉の全成分の濃度を測定しているが、摩耗粉の特定の成分の濃度を測定するようにしてもよい。その場合は、回転シールリング11の摩耗粉の濃度と、静止シールリング12の摩耗粉の濃度を別々に測定することができる。
【0053】
図13(a)は、
図8に示す初期摩耗段階での摩耗粉の粒度分布を示すグラフであり、
図13(b)は、
図8に示す安定摩耗段階での摩耗粉の粒度分布を示すグラフであり、
図13(c)は、
図8に示す末期摩耗段階での摩耗粉の粒度分布を示すグラフである。
図13(a)乃至
図13(c)に示すグラフは、コントロールブリードオフ流路30から排出される液体中の摩耗粉の粒度分布を測定した結果を示すグラフであり、縦軸は液体中の粒子の相対量(体積%)を表し、横軸は粒径を表している。
【0054】
上述したように、静止シールリングから発生する摩耗粉の粒径は2μm以下、回転シールリングから発生する摩耗粉の粒径は0.03μm以下と想定される。すなわち、静止シールリングから発生する摩耗粉の粒径は、回転シールリングから発生する摩耗粉の粒径の約70倍であり、両者の粒径には大きな差異がある。したがって、それぞれのピーク粒径は、
図13(a)乃至
図13(c)に示すように、粒度分布上に明確に現れる。
【0055】
図13(b)内の符号v1は、静止シールリングから発生する摩耗粉のピーク粒径d1での体積%を示し、符号v2は、回転シールリングから発生する摩耗粉のピーク粒径d2での体積%を示している。体積%v1,v2は、粒度分布測定器61によって測定される。
図13(a)乃至
図13(c)から分かるように、初期摩耗段階、安定摩耗段階、および末期摩耗段階の各段階において、ピーク粒径d1での体積%と、ピーク粒径d2での体積%との比は、概ねv1:v2である。したがって、処理装置70は、測定された体積%v1,v2から、サンプル液採取時の静止シールリングと回転シールリングとの摩耗割合v1:v2を求めることができる。
【0056】
バッチ式分析システム60は、上述したように、粒度分布のみならず、液体中に含まれる摩耗粉の体積も測定する。この液体中の摩耗粉の体積は、回転シールリングと静止シールリングの摺接面の摩耗量に概ね比例する。したがって、バッチ式分析システム60によって測定された摩耗粉の体積から、シールリングの摺接面の摩耗量を推定することも可能である。
【0057】
粒度分布測定器61は、液体中の摩耗粉の体積をサンプルセル単位で測定する。したがって、摩耗粉の体積の累積値から、静止シールリングと回転シールリングの摺接面の摩耗量を求めることができる。処理装置70には、摩耗粉の体積と、摺接面の摩耗量との関係を示すテーブルまたは関係式が予め記憶されている。処理装置70は、粒度分布測定器61によって測定された摩耗粉の体積を積算して、摩耗粉の体積の累積値を求め、さらに、得られた累積値から、静止シールリングと回転シールリングの摺接面の摩耗量「mm」を決定する。
【0058】
シール漏洩通路35から採取された液体には、第1段シール組立体10および第2段シール組立体20の両方の摺接面で発生した摩耗粉が含まれている。一方、コントロールブリードオフ流路30から採取された液体には、第1段シール組立体10の摺接面で発生した摩耗粉のみが含まれている。したがって、コントロールブリードオフ流路30から排出された液体に含まれる摩耗粉の体積の累積値から、第1段シール組立体10の摩耗量を推定することができる。
【0059】
さらに、第1段シール組立体10の摩耗量と、静止シールリング12と回転シールリング11との摩耗割合v1:v2とから、各シールリングの摩耗量を算出することができる。具体的には、処理装置70は、第1段シール組立体10の静止シールリング12の摩耗量および回転シールリング11の摩耗量を次のようにして求める。
静止シールリングの摩耗量=第1段シール組立体の摩耗量×v1/(v1+v2)
回転シールリングの摩耗量=第1段シール組立体の摩耗量×v2/(v1+v2)
【0060】
処理装置70は、さらに、得られた回転シールリング11の摩耗量と所定のしきい値(すなわち、許容摩耗量)とを比較することにより、回転シールリング11の残存寿命を推定するようになっている。同様に、処理装置70は、得られた静止シールリング12の摩耗量と所定のしきい値(すなわち、許容摩耗量)とを比較することにより、静止シールリング12の残存寿命を推定するようになっている。
【0061】
第2段シール組立体20の摩耗量は、第1段シール組立体10および第2段シール組立体20の全体摩耗量から、第1段シール組立体10の摩耗量を差し引くことにより求められる。すなわち、バッチ式分析システム60は、シール漏洩通路35から排出された液体中に含まれる摩耗粉の体積を測定し、処理装置70は、摩耗粉の体積の累積値を算出して全体摩耗量を決定し、さらに全体摩耗量から第1段シール組立体10の摩耗量を差し引くことにより、第2段シール組立体20の摩耗量を得る。
【0062】
第2段シール組立体20においても、ピーク粒径d1での体積%とピーク粒径d2での体積%との比は、概ねv1:v2と想定される。したがって、処理装置70は、算出された第2段シール組立体20の摩耗量と、静止シールリング22と回転シールリング21との摩耗割合v1:v2から、第2段シール組立体20の回転シールリング21の摩耗量と静止シールリング22の摩耗量を算出することができる。
【0063】
このように、処理装置70は、連続分析システム40からの測定データにより第1段シール組立体10の摩耗量をリアルタイムで求め、バッチ式分析システム60からの測定データにより、第1段シール組立体10および第2段シール組立体20の静止シールリングの摩耗量および回転シールリングの摩耗量をバッチで求めることができる。なお、液体中に含まれる摩耗粉はサブミクロンサイズの粒子であるので、バッチ式分析システム60による粒度分布の測定においては、ポリエチレングリコールなどのナノ粒子の凝集を防止する添加剤を液体に加えてもよい。
【0064】
次に、上述した摩耗監視装置を用いたシールリング交換時期の設定方法を説明する。
図14(a)は、原子力発電所の運転サイクルを示す図である。燃料寿命の観点から1運転サイクルは約1年に設定されている。そのため、循環ポンプに使用されるメカニカルシールは、少なくとも1年の連続運転が可能であるように設計されている。
【0065】
ポンプ運転においては、主として第1シール室15内の圧力P
Lと第2シール室25内の圧力P
U(
図2参照)、及びシール漏洩通路35から排出される液体の流量Qsが監視される。従来では、これらP
L,P
U,Qsのうち少なくとも1つが予め設定された値に達したときにポンプの運転が停止され、そして、メカニカルシールが分解、点検され、新たなシールリングに交換される。シールリングの摩耗量および摺接面は、メカニカルシールを分解するまで評価することができない。このため、たとえシールリングの状態が良好であっても、1サイクル毎にシールリングが交換される。
【0066】
本実施形態に係る摩耗監視装置は、シールリングの摩耗量を合理的に推定することができるため、
図14(b)に示すように、推定摩耗量が許容摩耗量に対して十分少なければ、シールリングを交換することなく多サイクル運転が可能である。すなわち、ある運転サイクル終了時におけるシールリングの残存寿命Trが、次の運転サイクルの運転時間Tc以下の場合にのみシールリングを交換すればよい。このような運転管理により、シールリングの交換コストの低減、シールリング交換時の廃棄物の低減、さらにシールリング交換作業時の被爆線量の低減など様々な好ましい効果を得ることができる。
【0067】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうることである。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。