(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5718896
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲットとその製造方法、および半導体素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20150423BHJP
H01L 21/285 20060101ALI20150423BHJP
【FI】
C23C14/34 A
H01L21/285 S
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-504327(P2012-504327)
(86)(22)【出願日】2011年3月8日
(86)【国際出願番号】JP2011001345
(87)【国際公開番号】WO2011111373
(87)【国際公開日】20110915
【審査請求日】2013年11月18日
(31)【優先権主張番号】特願2010-55100(P2010-55100)
(32)【優先日】2010年3月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 信昭
(72)【発明者】
【氏名】佐野 孝
【審査官】
村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2003/046250(WO,A1)
【文献】
特開平08−232061(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/045090(WO,A1)
【文献】
特開2005−036291(JP,A)
【文献】
特開2007−302996(JP,A)
【文献】
特開2004−027358(JP,A)
【文献】
特開平09−143704(JP,A)
【文献】
特開平11−269621(JP,A)
【文献】
特開2000−234167(JP,A)
【文献】
特開2002−220659(JP,A)
【文献】
特開平08−333676(JP,A)
【文献】
特開平10−245670(JP,A)
【文献】
特開2003−253411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱形状のチタン素材に、前記チタン素材の厚さ方向に対して平行な方向と垂直な方向の冷間鍛造加工を1セットとするこねくり鍛造を、断面減少率および厚さ減少率の少なくとも一方が40〜80%になるように2セット以上施す第1のこねくり鍛造工程と、
前記第1のこねくり鍛造工程を経たチタン材を、700℃〜1000℃の温度に加熱して再結晶化させる第1の熱処理工程と、
前記第1の熱処理工程を経たチタン材を、前記チタン材の厚さ方向に対して平行な方向と垂直な方向の冷間鍛造加工を1セットとするこねくり鍛造を、断面減少率および厚さ減少率の少なくとも一方が40〜80%になるように2セット以上施す第2のこねくり鍛造工程と、
前記第2のこねくり鍛造工程を経たチタン材を、厚さ減少率が40〜80%になるように冷間圧延する冷間圧延工程と、
前記冷間圧延工程を経たチタン材を、300℃〜600℃の温度に加熱して熱処理する第2の熱処理工程と、
前記第2の熱処理工程を経たチタン材を機械加工してランダムな結晶配向を有するスパッタリングターゲットを作製する工程と
を具備することを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のスパッタリングターゲットの製造方法において、
前記第1のこねくり鍛造工程を経たチタン材のビッカース硬さがHv170以上であることを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のスパッタリングターゲットの製造方法において、
前記冷間圧延工程を2回以上行うことを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項記載のスパッタリングターゲットの製造方法において、
前記第2の熱処理工程における前記熱処理の温度は、350℃以上500℃以下であることを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載のスパッタリングターゲットの製造方法において、
前記スパッタリングターゲットのチタンの純度が99.99質量%以上であることを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項記載のスパッタリングターゲットの製造方法において、
前記スパッタリングターゲットの平均結晶粒径が15μm以下であることを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項7】
純度が99.99質量%以上のチタン材からなり、平均結晶粒径が15μm以下であり、ランダムな結晶配向を有するスパッタリングターゲットであって、
前記スパッタリングターゲットは、スパッタ面を有し、
前記スパッタ面のX線回折を測定したとき、前記スパッタ面は(100)面からの回折ピークの相対強度I(100)と(002)面からの回折ピークの相対強度I(002)と(101)面からの回折ピークの相対強度I(101)とがI(101)>I(002)>I(100)の条件を満足することを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項8】
請求項7記載のスパッタリングターゲットにおいて、
厚さが10mm以上であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項9】
請求項7または請求項8記載のスパッタリングターゲットにおいて、
直径が300mm以上であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項10】
請求項7ないし請求項9のいずれか一項記載のスパッタリングターゲットにおいて、
前記スパッタリングターゲットの深さ方向に前記スパッタ面と平行な部分のX線回折を測定したとき、(100)面からの回折ピークの相対強度I(100)と(002)面からの回折ピークの相対強度I(002)と(101)面からの回折ピークの相対強度I(101)とがI(100)<I(002)<I(101)の条件を満足することを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項11】
請求項7ないし請求項10のいずれか一項記載のスパッタリングターゲットにおいて、
前記平均結晶粒径が10μm以下であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項12】
請求項7ないし請求項11のいずれか一項記載のスパッタリングターゲットを用いて、チタンを含む薄膜をスパッタ成膜する工程を具備することを特徴とする半導体素子の製造方法。
【請求項13】
請求項12記載の半導体素子の製造方法において、
前記薄膜は金属配線層のバリア膜として用いられる窒化チタン膜であることを特徴とする半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、スパッタリングターゲットとその製造方法、および半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の高集積化に伴って、AlやCu等からなる金属配線の幅は狭くなっている。このため、エレクトロマイグレーション(EM)耐性の向上が要求されている。EM耐性を向上させるためには、配線用の金属膜をスパッタリングにより成膜する際に、金属結晶の最稠密面を柱状に成長させることが望ましい。そのためには、金属配線の下地として形成されるTiNやTaNからなるバリア膜も、同様に最稠密面が柱状に成長するように、スパッタリングにより成膜することが望ましい。
【0003】
Al配線に対するバリア膜としては、TiN(窒化チタン)膜が好適である。TiN膜は、例えば高純度Tiからなるスパッタリングターゲットを、窒素雰囲気中でスパッタすることにより得ている。バリア膜の最稠密面が柱状になるようにスパッタ成膜するためには、スパッタリングターゲットを構成する金属の結晶粒径を微細化したり、また結晶配向をランダム化することが求められる。さらに、スパッタ膜の均一性を向上させるためには、例えば鋳造組織の残存(ゴーストグレイン)を解消することが求められる。
【0004】
従来のチタンターゲットにおいては、不純物量や熱伝導率を制御したり、また結晶方位を制御することで特性の向上を図っている。例えば、スパッタ膜の均一性を高めるために、高純度化すると共に、熱伝導率を高めたチタンターゲットが知られている。また、成膜速度を高めるために、結晶を特定の方位に配向させたチタンターゲットが知られている。一方、チタンターゲットは、直径が300mmを超えたり、厚さが8mm以上になる等、大型化する傾向にある。これはシリコンウエハの大型化に伴うものである。このような大型のチタンターゲットにおいても、結晶粒径や結晶の配向状態の制御性を高めることが求められている。また、スパッタレートの安定性を高めることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−176844号公報
【特許文献2】特開平10−245670号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、微細な結晶構造を有すると共に、結晶配向がランダム配向のチタンターゲットを再現性よく得ることを可能にしたスパッタリングターゲットの製造方法、そのような製造方法を適用したスパッタリングターゲット、さらにはそのようなスパッタリングターゲットを用いた半導体素子の製造方法を提供することにある。
【0007】
実施形態のスパッタリングターゲットの製造方法は、円柱形状のチタン素材に、その厚さ方向に対して平行な方向と垂直な方向の冷間鍛造加工を1セットとするこねくり鍛造を
断面減少率および厚さ減少率の少なくとも一方が40〜80%になるように2セット以上施す第1のこねくり鍛造工程と、第1のこねくり鍛造工程を経たチタン材を700℃
〜1000℃の温度に加熱して再結晶化させる第1の熱処理工程と、第1の熱処理工程を経たチタン材を、その厚さ方向に対して平行な方向と垂直な方向の冷間鍛造加工を1セットとするこねくり鍛造を
断面減少率および厚さ減少率の少なくとも一方が40〜80%になるように2セット以上施す第2のこねくり鍛造工程と、第2のこねくり鍛造工程を経たチタン材を
厚さ減少率が40〜80%になるように冷間圧延する冷間圧延工程と、冷間圧延工程を経たチタン材を300℃
〜600℃の温度に加熱して熱処理する第2の熱処理工程と、第2の熱処理工程を経たチタン材を加工して
ランダムな結晶配向を有するスパッタリングターゲットを作製する工程とを具備している。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の製造方法で使用する円柱形状のチタン素材を示す斜視図である。
【
図3】
図1に示すチタン素材に対する加工方向を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態のスパッタリングターゲットとその製造方法について説明する。まず、
図1に示すように、チタン素材として円柱形状を有するチタン材1を用意する。チタン材1は、チタンインゴットまたはチタンビレットからなる。
図2に示すように、円柱形状のチタン材1は、直径Wと厚さHとを有する。チタン材1のサイズは特に限定されるものではないが、厚さHは20〜200mmの範囲であることが好ましく、直径Wは100〜300mmの範囲であることが好ましい。このようなサイズのチタン材1は取扱いやすい。
【0010】
チタン材1は、電子ビーム(EB)溶解法等を適用した鋳造法により作製されたインゴットやビレットであることが好ましい。チタン材1の純度(チタン純度)は99.99%以上(4N以上)でことが好ましい。スパッタリングターゲット(チタンターゲット)の純度はチタン材1の純度に準ずるため、純度が99.99%以上のスパッタリングターゲットを製造する場合には、純度が99.99%以上のチタン材1を使用することが好ましい。純度が99.999%以上(5N以上)のスパッタリングターゲットを製造する場合には、純度が99.999%以上のチタン材1を使用することが好ましい。
【0011】
この実施形態のスパッタリングターゲットの製造方法においては、まず円柱形状のチタン材1に、その厚さ方向に対して平行な方向と垂直な方向の冷間鍛造加工を1セットとするこねくり鍛造を2セット以上施す第1のこねくり鍛造工程を行う。チタン材1の厚さ方向に平行な方向とは
図2の厚さH方向であり、厚さ方向に垂直な方向とは
図2の直径W方向である。厚さH方向への冷間鍛造と直径W方向への冷間鍛造とを備えるこねくり鍛造を1セットとしたとき、これを2セット以上行うものとする。
【0012】
こねくり鍛造は、異なる方向から圧力を加えるため、チタン材1の結晶粒径を微細化することができると共に、結晶方位が特定の方向に偏ることが抑制される。さらに、鋳造により製造されたチタン材1の鋳造組織の残存、いわゆるゴーストグレインの発生を抑制することができる。こねくり鍛造の回数は多いほどよいが、あまり回数が多いと製造コストが増大するだけでなく、素材の割れやシワ等の発生が生じやすくなる。このため、こねくり鍛造の回数は2〜4セットとすることが好ましい。
【0013】
第1のこねくり鍛造工程を経たチタン材1のビッカース硬さ(平均値)はHv170以上であることが好ましい。こねくり鍛造を2セット以上行うことで組織の均質性が向上し、チタン材1の硬度が上がる。後工程を考慮したとき、チタン材1のビッカース硬さをHv170未満にしても、それ以上の効果は得られず、こねくり鍛造工程を無駄に行うことになる。従って、第1のこねくり鍛造のセット数を制御する上で、第1のこねくり鍛造工程はチタン材1のビッカース硬さがHv170以上になるように行うことが好ましい。
【0014】
直径W方向への冷間鍛造加工は、常に一定方向に圧力を加えるのではなく、例えば
図3に示すように、1セット目は矢印Xの方向に圧力を加え、2セット目は矢印Yの方向に圧力を加える等、圧力を加える方向を変えることが好ましい。1セットの中で圧力を加える方向を変えることも有効である。直径W方向への冷間鍛造加工において、圧力を加える方向を変えることによっても、チタン材1の結晶粒径の微細化効果と結晶方位の偏りの抑制効果を高めることができる。第1のこねくり鍛造工程は、冷間鍛造により実施される。熱間鍛造を行うと、酸化により表面割れが発生しやすい。さらに、結晶の粒成長が起きるため、微細な結晶組織を得ることができない。
【0015】
次に、第1のこねくり鍛造工程を経たチタン材1を700℃以上の温度に加熱して再結晶化させる第1の熱処理工程を行う。第1の熱処理工程を行うことによって、第1のこねくり鍛造工程でチタン材1に生じた内部歪が除去され、さらに再結晶化させて均一な微細結晶構造が得られる。第1の熱処理工程は、700〜1000℃の範囲の温度で0.5〜10時間保持することにより行うことが好ましい。熱処理温度が1000℃を超えると、もしくは熱処理時間が10時間を超えると、粒成長が生じるおそれがある。熱処理温度は800〜900℃の範囲がより好ましい。熱処理時間は1〜5時間の範囲がより好ましい。熱処理時の雰囲気は0.133Pa以下の真空雰囲気が好ましい。酸素含有雰囲気では、熱処理中にチタン材1の表面が酸化されるおそれがある。
【0016】
次に、第1の熱処理工程を経たチタン材1にこねくり鍛造を施す第2のこねくり鍛造工程を行う。第2のこねくり鍛造工程においても、第1のこねくり鍛造工程と同様に、厚さH方向および直径W方向への冷間鍛造加工を1セットとするこねくり鍛造を2セット以上行う。第2のこねくり鍛造工程もこねくり鍛造を2〜4セット行うことが好ましい。また、1セット目と2セット目で直径W方向に付加する圧力方向を変えることが好ましい。第2のこねくり鍛造工程も冷間鍛造により実施される。第2のこねくり鍛造工程によって、結晶粒径の微細化をより推進することができる。
【0017】
次に、第2のこねくり鍛造工程を経たチタン材1を冷間圧延する冷間圧延工程を行う。冷間圧延工程はチタン素材1を板状に塑性加工する工程である。冷間圧延工程は必要に応じて2回以上行ってもよい。冷間圧延工程によって、チタン材1の板厚を20mm以下、さらには10〜15mmにすることが好ましい。冷間圧延工程で調製した板厚を有するチタン材1に切削加工等を施して、所望の板厚を有するスパッタリングターゲットとする。第2のこねくり鍛造工程と冷間圧延工程との間で熱処理工程は行わない方がよい。第2のこねくり鍛造工程で均質化されたチタン材1をそのまま冷間圧延することが好ましい。
【0018】
第1のこねくり鍛造工程、第2のこねくり鍛造工程、および冷間圧延工程における加工率は任意であるが、第1のこねくり鍛造工程、第2のこねくり鍛造工程、および冷間圧延工程から選ばれる少なくとも1つの工程は、加工率が40%以上となるように実施することが好ましい。第1および第2のこねくり鍛造工程における加工率とは、円柱状のチタン素材1の直径W方向の断面積の減少率(断面減少率)、または円柱状のチタン素材1の厚さH方向の減少率(厚さ減少率)であり、いずれも1セットあたりの断面積または厚さの減少率(加工率)を示すものである。冷間圧延工程における加工率とは、円柱状のチタン素材1の厚さH方向の減少率(厚さ減少率)である。
【0019】
加工率が40%以上の工程は冷間工程である。例えば、第1のこねくり鍛造工程→第1の熱処理工程→第2のこねくり鍛造工程を行った後であると、加工率が40%以上の冷間圧延を行ったとしても、内部歪の発生を抑制できる。加工率が低いと内部歪の発生は抑制できるものの、各工程を何度も繰り返すことなり、製造時間や製造コストが増加する。このため、いずれかの工程で加工率を40%以上とすることが好ましい。加工率が40%以上の工程は、第1のこねくり鍛造工程、第2のこねくり鍛造工程、および冷間圧延工程のいずれか1つの工程であってもよいし、いずれか2つの工程であってもよいし、また全ての工程であってもよい。加工率の上限は80%以下が好ましい。1つの工程の加工率が80%を超えると、内部歪、割れ、シワ等が発生しやすくなる。
【0020】
次に、冷間圧延工程を経たチタン材1を300℃以上の温度に加熱して熱処理する第2の熱処理工程を行う。第2の熱処理工程は、300〜600℃の範囲の温度で2〜5時間保持することにより行うことが好ましい。熱処理温度は400〜600℃の範囲がより好ましい。また、熱処理時の雰囲気は0.133Pa以下の真空雰囲気が好ましい。酸素含有雰囲気では、熱処理中に板状のチタン材の表面が酸化されるおそれがある。第2の熱処理工程を行うことによって、第2のこねくり鍛造工程および冷間圧延工程により生じた内部歪を除去し、さらに再結晶化させて均一な微細結晶構造が得られる。具体的には、平均結晶粒径が15μm以下の微細な結晶構造を有するチタン材が得られる。
【0021】
この後、第2の熱処理工程を経た板状のチタン材を機械加工してスパッタリングターゲットを作製する。板状のチタン材の機械加工は、旋盤加工等の切削加工により実施される。このような機械加工を実施し、板状のチタン材の形状を所望のターゲット形状に整えることによって、目的とするスパッタリングターゲットが得られる。得られたスパッタリングターゲットは、拡散接合によりバッキングプレートと接合される。
【0022】
この実施形態の製造方法によれば、第1および第2のこねくり鍛造工程で結晶粒径を微細化すると共に、結晶方位の偏りを抑制しているため、平均結晶粒径が15μm以下の微細な結晶構造とランダムな結晶配向とを両立させたスパッタリングターゲット(チタンターゲット)を再現性よく得ることができる。さらに、純度が高いチタン素材を使用することによって、純度が99.99%以上で微細結晶構造とランダム配向とを有するスパッタリングターゲットを得ることができる。また、鋳造組織が残存したゴーストグレインのない微細な結晶構造を得ることができる。ゴーストグレインが存在すると、部分的にランダム配向ではない部分ができてしまう。
【0023】
特に、厚さが10mm以上の厚いスパッタリングターゲットや、直径が300mm以上の大型のスパッタリングターゲットにおいても、平均結晶粒径が15μm以下の微細な結晶構造を得ることができ、かつ結晶配向をランダム配向とすることができる。さらに、実施形態の製造方法によれば、スパッタ面のビッカース硬さがHv90〜110で、かつビッカース硬さのばらつきが3%以下のスパッタリングターゲットが得られる。すなわち、こねくり鍛造と熱処理を組合せることで、均質な状態を得ることができる。つまり、こねくり鍛造でビッカース硬さがHv170以上と硬くなったチタン材を、熱処理で柔らかくする(Hv90〜110)ことができる。このような工程を繰り返すことによって、微細でかつ均質な組織を有するスパッタリングターゲットが得られる。
【0024】
平均結晶粒径は線インターセプト法により測定する。線インターセプト法は以下のようにして実施される。まず、測定対象部の拡大写真を光学顕微鏡写真により撮影する。拡大写真は単位面積500μm×500μmの部分を拡大する写真とする。このような拡大写真に任意の直線(長さ500μm分)を引き、その線上にあるTi結晶粒の数を数え、「500μm/直線500μm上の結晶粒の数」により平均の結晶粒径を求める。このような作業を3回実施し、それらの測定値の平均値を平均結晶粒径とする。
【0025】
この実施形態のスパッタリングターゲットは、スパッタ面の結晶配向がランダム配向であり、さらにランダム配向はスパッタリングターゲットの厚さ方向全域にわたって維持されているため、スパッタリング時におけるスパッタレートの変化を抑制することができる。従って、均一な成膜を行うことが可能となる。また、この実施形態のスパッタリングターゲットを用いて、例えば窒素雰囲気中でスパッタリングして窒化チタン(TiN)膜を成膜する場合、最稠密面を柱状に成長させることができる。このような窒化チタン膜は、半導体素子の配線層(Al配線等)のバリア膜等に好適である。
【0026】
ランダムな結晶配向は、X線回折法(XRD)により測定することができる。ランダム配向のチタンターゲットは、スパッタ面のX線回折(2θ)を測定したとき、チタンの(100)面からの回折ピークの相対強度I
(100)とチタンの(002)面からの回折ピークの相対強度I
(002)とチタンの(101)面からの回折ピークの相対強度I
(101)とが、I
(101)>I
(002)>I
(100)の順で小さくなる。このような条件を満足しているときに、チタンターゲットがランダム配向であることを確認できる。特定の方位に結晶配向しているときは、各結晶面の相対強度比の順番がずれる。
【0027】
さらに、この実施形態のスパッタリングターゲットは、結晶のランダム配向が厚さ方向にわたっても維持されているため、深さ方向にスパッタ面と平行な部分のX線回折(2θ)を測定したときにおいても、各結晶面の相対強度比の順番は同様になる。すなわち、深さ方向のX線回折を測定したとき、チタンの(100)面からの回折ピークの相対強度I
(100)とチタンの(002)面からの回折ピークの相対強度I
(002)とチタンの(101)面からの回折ピークの相対強度I
(101)とがI
(101)>I
(002)>I
(100)の順で小さくなる。
【0028】
X線回折法では、(100)面、(002)面、(101)面以外の結晶面のピークも検出されるが、ランダム配向か否かを判断するには、(100)面、(002)面、(101)面の各ピークの相対強度を比較することが重要である。その理由は、これらの結晶面のピークはPDFデータの強度が高いほうから主要の3ピークであるためである。なお、X線回折法の測定条件は、Cuターゲット、管電圧40kV、管電流40mA、散乱スリット0.63mm、受光スリット0.15mmとする。
【0029】
また、スパッタリングターゲット(チタンターゲット)におけるゴーストグレインの有無に関しても、上記したX線回折法により判断することができる。ゴーストグレインが存在すると、「I
(101)>I
(002)>I
(100)」の条件を満たさない部分が存在することになる。ゴーストグレインの有無は、光学顕微鏡による拡大写真からも判断することができる。光学顕微鏡による拡大写真(組織写真)において、ゴーストグレインが存在するとTi結晶粒の粒界が不鮮明な組織が認められる。
【0030】
この実施形態のスパッタリングターゲット(チタンターゲット)は、スパッタ面のランダム配向が厚さ方向にわたって維持されている。このため、厚さが10mm以上の厚いスパッタリングターゲットを長時間スパッタしたとしても、スパッタレートの変化が起きにくく、信頼性の高いスパッタ特性を示す。また、スパッタ面の直径が300mm以上の大型のスパッタリングターゲットであっても、15μm以下の平均結晶粒径と均質なランダム配向とを維持することができる。このため、スパッタ面のビッカース硬さがHv90〜110で、かつビッカース硬さのばらつきが3%以下の均一な状態を得ることができる。
【0031】
さらに、上記した厚いスパッタリングターゲットや大型のスパッタリングターゲットにおいても、平均結晶粒径が15μm以下の微細な結晶構造と均質なランダム配向とを厚さ方向にわたって維持することができる。その上で、ゴーストグレインの残存をなくすことができる。このため、成膜工程でスパッタリングターゲットを長期間使用した場合においても、スパッタレートの変化が起きにくい。従って、スパッタリングターゲットの厚さが2mm程度になるまで安定したスパッタリングを提供できる。スパッタリングターゲットの残余の部分は再利用されるが、残余の部分が多いと再溶解のためのコストが増加する。このため、残余となるターゲット部分は少ない方が好ましい。
【0032】
この実施形態の半導体素子の製造方法は、上述した実施形態のスパッタリングターゲットを用いて、チタンを含む薄膜をスパッタ成膜する工程を具備する。成膜工程は、例えばスパッタリングターゲット(チタンターゲット)を窒素中でスパッタリングすることによって、窒化チタン膜を成膜する工程である。この実施形態のスパッタリングターゲットを用いて成膜した窒化チタン膜は、半導体素子のバリア膜として好適である。この実施形態のスパッタリングターゲットによれば、長期間使用した場合においても信頼性を維持することができるため、半導体素子の信頼性を向上させることが可能となる。
【実施例】
【0033】
次に、実施例およびその評価結果について述べる。
【0034】
(実施例1〜5、比較例1)
直径Wが100〜300mm、厚さHが100〜200mmのチタン素材(純度99.99質量%以上の高純度チタンビレット)を用意し、表1に条件を示すスパッタリングターゲットの製造工程を実施した。なお、表1のこねくり鍛造工程の加工率は、直径W方向の断面減少率、および厚さH方向の厚さ減少率のうち、大きい方の値を示す。第1および第2のこねくり鍛造工程は、断面減少率および厚さ減少率の少なくとも一方が表1に示す加工率となるように実施した。
【0035】
【表1】
【0036】
表1に示す製造工程により得たチタン材を旋盤加工して、表2にサイズを示すチタンターゲットを作製した。各ターゲットの平均結晶粒径を測定し、さらにランダム配向の有無を確認した。平均結晶粒径は前述した方法により測定した。その結果を表2に示す。ランダム配向の有無に関しては、スパッタ面とスパッタ面から深さ10mmまで掘った部分とでX線回折を実施し、各測定箇所における(100)面、(002)面、(101)面からの回折ピークの相対強度を測定することにより判定した。各結晶面からの回折ピークの相対強度の順番を表2に示す。チタンターゲットはいずれも再結晶組織を有していた。
【0037】
【表2】
【0038】
次に、実施例および比較例に係るチタンターゲット(スパッタリングターゲット)に拡散接合によりバッキングプレートを接合した後、窒素雰囲気中でスパッタリングを行って窒化チタン膜を成膜した。そのとき、スパッタ後のエロージョン面のゴーストグレインの有無を確認した。その結果を表3に示す。
【0039】
【表3】
【0040】
実施例1〜5によるチタンターゲットは、いずれもゴーストグレインを有しておらず、残厚が2mmになるまで安定したスパッタ特性を示した。比較例のチタンターゲットは深さ5mmでゴーストグレインが確認された。この結果から、実施例に係るチタンターゲットは信頼性の高いスパッタ特性を示すことが分かる。従って、実施例のチタンターゲットを使用して半導体素子のバリア膜(TiN膜)を形成することによって、半導体素子の信頼性を向上させることが可能となる。さらに、再使用(最溶解)するチタン量を減らすことができるため、実施例のチタンターゲットは材料効率の点でも優れている。
【0041】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。