特許第5718930号(P5718930)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5718930高分子電解質組成物、高分子電解質膜、及び膜−電極接合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5718930
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】高分子電解質組成物、高分子電解質膜、及び膜−電極接合体
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/02 20060101AFI20150423BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20150423BHJP
   H01M 8/02 20060101ALI20150423BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20150423BHJP
   H01M 8/10 20060101ALN20150423BHJP
【FI】
   C08L101/02
   C08K3/32
   H01M8/02 P
   H01B1/06 A
   !H01M8/10
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-534972(P2012-534972)
(86)(22)【出願日】2011年8月26日
(86)【国際出願番号】JP2011069351
(87)【国際公開番号】WO2012039236
(87)【国際公開日】20120329
【審査請求日】2013年11月5日
(31)【優先権主張番号】特願2010-212433(P2010-212433)
(32)【優先日】2010年9月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100171022
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 玉乃
(72)【発明者】
【氏名】久保 敬次
(72)【発明者】
【氏名】川崎 雅洋
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 千恵
(72)【発明者】
【氏名】清水 和哉
(72)【発明者】
【氏名】須郷 望
【審査官】 河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−154578(JP,A)
【文献】 特開2010−135130(JP,A)
【文献】 特開2005−011697(JP,A)
【文献】 特開2003−282096(JP,A)
【文献】 特開2003−151346(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/095562(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00 − 13/08
C08L 1/00 − 101/14
H01M 8/00 − 8/02
H01M 8/08 − 8/24
H01B 1/00 − 1/24
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導性基を有する高分子電解質と、該高分子電解質100質量部に対し0.02〜25質量部のリン単体とを含むことを特徴とする高分子電解質組成物からなる高分子電解質膜
【請求項2】
リン単体が、黒リン、紫リン、赤リン、紅リンのいずれか1種又は2種以上である請求項1に記載の高分子電解質膜
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高分子電解質膜の両面に触媒層を含む電極を形成させた膜−電極接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池用の高分子電解質膜、キャパシタ、アクチュエータ、センサ、イオン交換膜、コーティング材等の幅広い用途に用いることができる高分子電解質組成物、該高分子電解質組成物を用いて作製される、固体高分子型燃料電池用に好適な高分子電解質膜、及び該高分子電解質膜の両面に電極を有する膜−電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の用途で高分子電解質の需要が高まっている。特に、モバイルパーソナルコンピュータ、携帯情報端末(PDA)、携帯電話、家庭用定置電源、及び自動車等への用途展開が期待されている固体高分子型燃料電池の分野では、高性能の高分子電解質を用いた高分子電解質膜の開発が急務である。
従来、高分子電解質としてはフッ素系高分子化合物からなるフッ素系高分子電解質が広く知られているが、かかるフッ素系高分子化合物は環境負荷が高いことから、炭化水素系高分子化合物からなる炭化水素系高分子電解質への代替も検討されている。
【0003】
高分子電解質の課題として、該高分子電解質を構成する高分子化合物の劣化抑制による長寿命化が挙げられる。特に、フッ素系高分子電解質に比べて劣化しやすい傾向がある炭化水素系高分子電解質においては重要な課題である。
一般に、高分子化合物の劣化抑制には、酸化劣化を抑制する添加剤が使用される。具体的には、パーオキシラジカルの捕捉能を有するヒンダードフェノールや、ヒンダードアミン(HALS)等の酸化防止剤を添加するのが一般的である。また、過酸化物の還元剤として有機リン系化合物、リン酸エステルやチオエーテル系化合物を前述の酸化防止剤と併用する系も知られている。
高分子電解質膜を用いた水素を燃料とする固体高分子型燃料電池においては、発電中に燃料の水素と酸素から発生した過酸化水素が、さらに開裂してOHラジカルを生じる。かかるOHラジカルが高分子電解質膜を構成する高分子化合物の主鎖を分解することで、高分子電解質膜を劣化させるものと推定されている。したがって、上記高分子電解質膜の劣化抑制には、ラジカルの捕捉等による失活化等、一般的な高分子化合物における劣化抑制と同様の対策が有効であると考えられる。
【0004】
ラジカルによる高分子電解質膜の劣化を抑制する方法としては、例えばヒンダードフェノールやHALS等の酸化防止剤を添加する方法が提案されており(特許文献1参照)、一般的な高分子化合物の劣化防止と同様に、ラジカルによる劣化の抑制が高分子電解質膜の耐久性向上に繋がるという上述の推定を裏付けている。
ラジカルによる高分子電解質膜の劣化を抑制するという観点では、上記以外に、高分子電解質膜に無機リン酸化合物を含有させる方法も提案されている(特許文献2参照)。
しかしながら、固体高分子型燃料電池用の高分子電解質膜には数万時間におよぶ耐久性が要求されており、かかる耐久性を確保するために、上記してきた添加剤を大量に添加する方法では、高分子電解質膜自体の性能低下、添加剤の溶出、コストアップなどの新たな課題に繋がるため現実的ではない。
【0005】
高分子電解質膜の耐久性を向上させる手法として、カチオン伝導性基を有する高分子電解質膜に、標準電極電位が1.14V〜1.763Vの範囲にあり、酸化・還元反応を行うセリウムイオン、マンガンイオン等の金属カチオンを含有させることが提案されている(特許文献3参照)。セリウムイオンやマンガンイオンは反応後に酸化数が変化するが、例えば系中の水素で還元されれば、その酸化数がもとに戻るため、再度過酸化物を失活させることが可能となる。かかる金属カチオンは、高分子電解質が有するイオン伝導性基とイオン結合によって結びつき、高分子電解質からの流出が抑制されるので、高分子電解質膜の劣化防止効果が持続すると考えられる。
しかしながら、固体高分子型燃料電池用の高分子電解質膜は、一般にスルホン酸基等のカチオン伝導性基をイオン伝導性基として有しており、該カチオン伝導性基が上記金属カチオンと塩を形成するため、金属カチオンを大量に添加するとプロトン伝導性の低下を招き、発電特性の低下が起こる。このため、十分な発電特性を確保するには金属カチオンの添加量を抑制せざるを得ない。したがって、上記した金属カチオンを含有させる方法では、発電性能を現実的なレベルに保持しつつ、固体高分子型燃料電池に適用しても十分な耐久性を有する高分子電解質膜を提供することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−213325号公報
【特許文献2】特開2005−11697号公報
【特許文献3】特開2006−99999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ラジカル劣化や酸化劣化が少なく、固体高分子型燃料電池に用いても十分な耐久性を有する高分子電解質膜、及び膜−電極接合体の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、特定量のリン単体を含む高分子電解質組成物を用いることにより、特に過酸化物による酸化劣化を効果的に抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、
[1]イオン伝導性基を有する高分子電解質と、該高分子電解質100質量部に対し0.02〜25質量部のリン単体とを含むことを特徴とする高分子電解質組成物;
[2]リン単体が、黒リン、紫リン、赤リン、紅リンのいずれか1種又は2種以上である前記[1]の高分子電解質組成物;
[3]前記[1]又は[2]の高分子電解質組成物からなる高分子電解質膜;及び
[4]前記[3]の高分子電解質膜の両面に触媒層を含む電極を形成させた膜−電極接合体である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の高分子電解質組成物を用いて作製した高分子電解質膜及び膜−電極接合体は高い耐久性を有し、自動車用途や家庭用電源用途などに適用できる長寿命の固体高分子型燃料電池に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[高分子電解質組成物]
本発明の高分子電解質組成物は、イオン伝導性基を有する高分子電解質と、該高分子電解質100質量部に対し0.02〜25質量部のリン単体とを含む。以下、各成分について説明する。
【0011】
(イオン伝導性基を有する高分子電解質)
イオン伝導性基を有する高分子電解質としては、例えば、一般に用いられるフッ素系高分子電解質、スルホン化ポリエーテルスルホンやスルホン化ポリエーテルエーテルケトン等のエンジニアリングプラスチック系高分子電解質、及びスルホン化スチレンやスルホン酸基含有(メタ)アクリレート等のスルホン化ビニル系重合体を含むビニル系高分子電解質等を用いることができる。
上記のうち、特にエンジニアリングプラスチック系電解質、ビニル系電解質等の非フッ素系電解質を用いると、劣化抑制の効果が顕著なので好ましい。
【0012】
イオン伝導性基としては、前記したイオン伝導性基を有する高分子電解質を用いて作製される後述の高分子電解質膜−電極接合体が十分なイオン伝導度を発現できるような官能基であれば特に限定されないが、固体高分子型燃料電池用途においては通常プロトン伝導性を発現する官能基が好ましく、例えば−SO3M、−PO3HM、−CO2M(式中、Mは水素原子、アンモニウムイオン又はアルカリ金属イオンを示す)で表されるスルホン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基又はそれらの塩が挙げられる。特に高いイオン伝導性を発現させる観点から、スルホン酸基、ホスホン酸基、又はそれらの塩が好ましい。
【0013】
イオン伝導性基の量は、イオン伝導性基を有する高分子電解質に要求される性能によって適宜選択できるが、後述の固体高分子型燃料電池用の高分子電解質膜としての使用に十分なイオン伝導性を発現するためには、通常、イオン交換容量が0.1meq/g以上となるような量であることが好ましく、0.3meq/g以上となるような量であることがより好ましく、0.4meq/g以上であることが更に好ましい。イオン伝導性基を有する高分子電解質のイオン交換容量の上限については、イオン交換容量が大きすぎると親水性が高まり耐水性が不十分になる傾向となるので、5.4meq/g以下であるのが好ましく、4.5meq/g以下であるのがより好ましく、4.0meq/g以下であるのが更に好ましい。
固体高分子型燃料電池用の高分子電解質膜はイオン伝導性が高い方が好ましく、かかる高分子電解質膜を構成する高分子電解質のイオン交換容量は、1.0〜4.0meq/gの範囲であることがより好ましい。また、メタノール等を燃料とする直接アルコール型燃料電池の場合には、高いイオン伝導性と低アルコール透過性を両立する上で、高分子電解質膜を構成する高分子電解質のイオン交換容量は、0.4〜3.5meq/gの範囲であることがより好ましい。
【0014】
イオン伝導性基を有する高分子電解質へのイオン伝導性基の導入方法に特に制限はない。例えば、イオン伝導性基を有さない単量体を重合して得られたイオン伝導性基を有さない重合体に、公知の方法でイオン伝導性基を導入する方法が挙げられる。
【0015】
上記イオン伝導性基を有する高分子電解質の数平均分子量は、力学特性や加工性の観点から、10,000〜500,000が好ましく、より好ましくは30,000〜300,000、更に好ましくは50,000〜200,000である。
なお、上記数平均分子量は、該高分子電解質のイオン伝導性基を水素に置換した構造の重合体の数平均分子量を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。イオン伝導性基を有さない重合体にイオン伝導性基を導入する方法によってイオン伝導性基を有する高分子電解質を製造する場合は、イオン伝導性基を導入する前の、イオン伝導性基を有さない重合体の数平均分子量を測定すればよい。
【0016】
本発明の高分子電解質組成物において、イオン伝導性基を有する高分子電解質の配合量は、イオン伝導度や耐久性の観点から70質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。また、該配合量は99.98質量%以下であることが好ましく、より好ましくは99.97質量%以下である。
【0017】
(リン単体)
本発明の高分子電解質組成物は、上記イオン伝導性基を有する高分子電解質100質量部に対し、0.02〜25質量部のリン単体を含有する。
過酸化物が分解して発生するラジカルをリン単体が有効に捕捉するため、高分子電解質の顕著な劣化抑制効果が得られる。
本発明で使用するリン単体は、いずれの同素体でも使用可能であるが、白リン、黄リンは自然発火性を有するため、取り扱い時や使用時の安全の観点から、これら以外の同素体を用いるのが好ましい。具体的には、黒リン(β金属リン)、紫リン(α金属リン)、赤リン、紅リンが挙げられる。特に赤リンはリン原子が高分子量化したものであるため毒性も低く、入手も容易であるため、本発明のリン単体として好適に用いることができる。本発明で使用するリン単体は、1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
本発明の高分子電解質組成物において、リン単体の配合量は、該高分子電解質組成物を用いて作製される高分子電解質膜の耐久性と直接関係するため、極めて重要である。水素を燃料とする固体高分子型燃料電池に用いる高分子電解質膜として十分な耐久性を保持するには、リン単体の配合量は、イオン伝導性基を有する高分子電解質100質量部に対し0.02質量部以上であることが必要であり、0.03質量部以上であることがより好ましい。ただし、リン単体の添加量が多すぎるとリン単体自体が高分子電解質膜から溶出しやすくなるため、イオン伝導性基を有する高分子電解質100質量部に対し25質量部以下であることが必要であり、15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。
【0019】
本発明で使用するリン単体の最大粒子径は、高分子電解質膜の表面平滑性の観点から、少なくとも本発明の高分子電解質組成物を用いて作製される高分子電解質膜の膜厚以下であることが望ましい。使用するリン単体の粒子径分布にも依存するため、平均粒子径と膜厚の関係は明確にはできないが、本発明の高分子電解質膜に好適なリン単体の平均粒子径は20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。かつ、該リン単体の最大粒子径は50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。この場合の粒子径とは一次粒子径を指し、種々の方法で二次凝集塊を十分に解砕させた場合の粒子径を表す。
本発明で使用するリン単体の平均粒子径及び最大粒子径は、例えば動的光散乱法、電子顕微鏡観察等の一般的方法によって求められる。本発明の高分子電解質組成物に分散されたリン単体の平均粒子径及び最大粒子径は、例えば動的光散乱法、電子顕微鏡観察等の一般的方法によって求められる。該高分子電解質組成物が流動性を持たない場合は、電子顕微鏡観察によって求めることが望ましい。本発明の高分子電解質膜に分散されたリン単体の平均粒子径及び最大粒子径は、電子顕微鏡観察によって求められる。
【0020】
本発明の高分子電解質組成物が含むリン単体を所望の粒子径(平均粒子径、最大粒子径)とする手段は、例えば、リン単体を水に分散させ、湿式粉砕機を用いて粉砕してもよい。使用できる湿式粉砕機としては、ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機等、高せん断によって粉砕・解砕する一般的な装置を用いることができる。
また、リン単体を、分級によって所望の粒子径としてもよい。分級の方法としては、例えば、溶媒に分散させて遠心分離する方法が挙げられる。遠心分離には、通常の遠心分離機や遊星型攪拌機も使用可能である。目的とする粒子径分布に応じて適宜装置を選択すればよい。
また、上記イオン伝導性基を有する高分子電解質を溶媒に溶解させた溶液にリン単体を添加した後に、リン単体を分級してもよい。この場合、高分子電解質溶液とリン単体との混合には、リン単体の水分散と同様にホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機等、高せん断によって粉砕・解砕する一般的な装置を用いることができる。十分均一化した後、遠心分離機や遊星型攪拌機等で不要な粒子を沈降させることで所望の粒子径のリン単体を前記溶媒中に分散した分散液を得ることができる。
【0021】
(その他の添加剤)
本発明の高分子電解質組成物は、本発明の効果を損なわない限り、必要に応じて、各種添加剤、例えば、無機/有機粒子、レベリング剤、架橋剤、架橋助剤、開始剤、軟化剤、安定剤、光安定剤、帯電防止剤、離型剤、難燃剤、発泡剤、顔料、染料、増白剤、分散剤等を1種又は2種以上組み合わせて含有していてもよい。
ここで、軟化剤としては、パラフィン系、ナフテン系もしくは芳香族系のプロセスオイル等の石油系軟化剤、パラフィン、植物油系軟化剤、可塑剤等が挙げられる。
安定剤は、フェノール系安定剤、イオウ系安定剤、リン系安定剤等を包含し、具体例として、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスチリル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2,−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロジナマミド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレート、3,9−ビス{2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン等のフェノール系安定剤;ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ジステアリル3,3’−チオジプロピオネート、ジラウリル3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’−チオジプロピオネート等のイオウ系安定剤;トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ジアステリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等のリン系安定剤が挙げられる。
【0022】
(高分子電解質組成物の製造方法)
本発明の高分子電解質組成物は、例えば、上記イオン伝導性基を有する高分子電解質、リン単体、及び分散媒(水や後述する有機溶媒等)を添加して、均一になるまで混合することにより製造される。かかる混合には、ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機等、高せん断によって粉砕・解砕する一般的な装置を用いることができる。リン単体は、前記した方法によって所望の平均粒子径に調整することができる。
【0023】
[高分子電解質膜]
次に、本発明の高分子電解質膜について説明する。本発明の高分子電解質膜は、前述した本発明の高分子電解質組成物を用いて作製される。
本発明の高分子電解質膜は、固体高分子型燃料電池用の高分子電解質膜として必要なプロトン伝導性、電池の発電特性や、膜強度、ハンドリング性等の観点から、その膜厚が1〜200μmの範囲であることが好ましく、1〜100μmの範囲であることがより好ましく、1〜50μmの範囲であることが更に好ましい。
【0024】
(高分子電解質膜の製膜方法)
本発明の高分子電解質膜の製膜方法としては、例えば、前記のようにして製造した高分子電解質組成物を、離型処理済のポリエチレンテレフタレートフィルム等に、コーターやアプリケーター等を用いてキャスト製膜した後、溶媒を除去することによって、所望の膜厚の高分子電解質膜を作製する方法等、一般的に用いられる製膜方法を採用することができる。
本発明の高分子電解質膜を本発明の高分子電解質組成物を塗工して製膜する場合は、該高分子電解質組成物は流動性を有する必要があり、かかる流動性を付与するために溶媒を含んでいることが望ましい。かかる溶媒としては高分子電解質の構造を破壊することなく、高分子電解質組成物の粘度を塗工が可能な程度に調整することが可能なものであれば特に制限されない。該溶媒としては有機溶媒が好ましく、具体的には、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン等の直鎖脂肪族炭化水素、シクロヘキサン等の環式脂肪族炭化水素、テトラヒドロフラン等のエーテル、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブチルアルコール等のアルコール、あるいはこれらの混合溶媒が例示できる。
イオン伝導性基を有する高分子電解質の構成成分、数平均分子量、イオン交換容量等に応じて、上記に例示した溶媒の中から、1種又は2種以上の組み合わせを適宜選択し使用できるが、特に強靭性を有する高分子電解質膜を作製しやすい観点から、トルエンとイソブチルアルコールの混合溶媒、トルエンとイソプロピルアルコールの混合溶媒、シクロヘキサンとイソプロピルアルコールの混合溶媒、シクロヘキサンとイソブチルアルコールの混合溶媒、テトラヒドロフラン溶媒、テトラヒドロフランとメタノールの混合溶媒が好ましく、特に、トルエンとイソブチルアルコールの混合溶媒、トルエンとイソプロピルアルコールの混合溶媒が好ましい。
【0025】
また、コーターやアプリケーター等を用いて塗布した後、適切な条件で溶媒除去することによって、所望の厚みを有する高分子電解質膜を得ることができる。かかる溶媒除去は、高分子電解質のスルホン酸基等のイオン伝導性基が脱落する温度以下で行うことが好ましく、複数の温度条件を組み合わせてもよい。またかかる溶媒除去は、通風気下、減圧下のいずれの条件で行ってもよく、かかる条件を組み合わせて行ってもよい。具体的には、60〜100℃で4分間以上乾燥させて溶媒を除去する方法や、100〜140℃で2〜4分間乾燥させて溶媒を除去する方法や、25℃で1〜3時間予備乾燥させた後、80〜120℃で5〜10分間乾燥する方法や、25℃で1〜3時間予備乾燥させた後、25〜40℃の雰囲気下、減圧条件下で1〜12時間乾燥させる方法等が挙げられる。
良好な強靭性を有する高分子電解質膜を作製しやすい観点から、60〜100℃で4分間以上かけて乾燥させて溶媒を除去する方法や、25℃で1〜3時間予備乾燥させた後、80〜120℃で5〜10分間かけて乾燥する方法や、25℃で1〜3時間予備乾燥させた後、減圧条件下、25〜40℃で1〜12時間乾燥させる方法等が好ましい。
【0026】
本発明の高分子電解質膜は、前記の高分子電解質組成物を基材に含浸させたものであってもよい。基材としては、織布、不織布等の繊維状基材や、微細な貫通孔を有するフィルム状基材等を用いることができる。フィルム状基材としては燃料電池用細孔フィリング用膜等が挙げられる。強度の観点から繊維状基材が好ましい。該繊維状基材を構成する繊維としては、アラミド繊維、ガラス繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、レーヨン繊維が挙げられ、強度上の観点から全芳香族系のポリエステル繊維やアラミド繊維がより好ましい。
本発明の高分子電解質組成物を基材に含浸させて高分子電解質膜を製膜する方法としては、例えば、ディップニップ法のような一般的に採用されている方法で行うことができる。
【0027】
本発明の高分子電解質膜はまた、必要に応じて他の高分子電解質膜との積層膜としてもよい。また、3層以上の積層膜において、本発明の高分子電解質膜は最外層でも内層でもよい。更に、積層膜中に本発明の高分子電解質膜が複数積層されていてもよい。
上記高分子電解質膜が複数積層された高分子電解質膜の製膜方法としては、例えば、コーターやアプリケーター等を用いて本発明の高分子電解質組成物である分散液を塗布した後、溶媒を除去して高分子電解質膜を製膜したのち、更に該高分子電解質膜上に同様に製膜を行い、高分子電解質膜を複数積層する方法が挙げられる。また、それぞれ作製した高分子電解質膜をラミネートしてもよい。
【0028】
(高分子電解質膜の用途)
前記のようにして製膜された本発明の高分子電解質膜の用途としては、当該高分子電解質膜を備える膜−電極接合体や、上記膜−電極接合体を備える固体高分子型燃料電池等を挙げることができる。
【0029】
[膜−電極接合体]
次に、本発明の膜−電極接合体について説明する。
本発明の膜−電極接合体は、上記高分子電解質膜の両面に、触媒層を含む電極を形成させた構造を有する。該電極は、触媒層とガス拡散層からなるため、本発明の膜−電極接合体は、実質的には少なくとも5層以上の積層構造である。
【0030】
(触媒層)
上記触媒層の機能としては、燃料が速やかに拡散して触媒上で効率よく電気化学的な分解を起こすこと、分解によって生成した電子が外部回路に容易に移動すること、及び分解によって生成したイオンが容易に高分子電解質膜へ移動することが挙げられる。
【0031】
次に、上記触媒層に含有される成分について説明する。
触媒層は、燃料を電気化学的に分解するために、触媒を含有する。該触媒としては従来から知られている触媒が使用可能であり、例えば白金、白金−ルテニウム合金のような貴金属類や、錯体系電極触媒等が挙げられる。特に燃料にメタノール等の炭素を含む化合物を燃料とする場合には、アノード極で発生した一酸化炭素による被毒が少ない触媒が望ましく、かかる触媒としては白金−ルテニウム合金が挙げられる。
また、上記触媒層は、触媒上で起こる電気化学的分解によって生成する電子を外部に導くため、触媒を表面に担持する担体を含有する。該担体としては導電性が高い材料が望ましく、例えばカーボンブラック、カーボンナノチューブ、酸化チタン等が挙げられる。
更に、上記触媒層は、イオンを移動させる媒体として、高分子電解質をバインダとして含有する。該高分子電解質は、本発明の高分子電解質組成物に使用されるものと同じ又は類似のものであってもよいし、異なる材料でもよい。また、アノード極とカソード極では要求性能が異なることから、両極で異なる高分子電解質を用いてもよい。具体的なバインダ材料としてはフッ素系の高分子電解質が挙げられる。
【0032】
上記触媒層は、上記した担体、触媒、バインダを混合して調製される触媒インクを製膜することにより形成される。該触媒インクの混合には、一般的に知られている混合法が使用できる。具体的には、ボールミル、ビーズミル、ホモジナイザー、ペイントシェーカー、超音波照射等が挙げられる。また、より微分散性を向上させる等の目的で、高圧衝突法等の更に高度な分散方法を併用してもよい。
触媒インクを用いて触媒層を製膜する方法としては、例えばスプレー印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、間欠ダイコーター、インクジェット印刷が挙げられる。
上記触媒層は、高分子電解質膜に直接製膜する方法、後述するガス拡散層に製膜する方法、あるいは、別途基材に塗布した後に転写する方法等、一般的に知られている方法を用いることができる。
【0033】
(ガス拡散層)
本発明の膜−電極接合体で使用されるガス拡散層は、導電性及びガス透過性を備えた材料から構成され、かかる材料として例えばカーボンペーパーやカーボンクロス等の炭素繊維よりなる多孔性材料が挙げられる。また、かかる材料には、撥水性を向上させるために、撥水化処理を施してもよい。
【0034】
(膜−電極接合体の製造方法)
本発明の膜−電極接合体の製造方法は、例えば、高分子電解質膜に、触媒インクを直接塗工したあと上記ガス拡散層を接合する方法や、触媒層を他の基材フィルム上に製膜し、ガス拡散層を接合する方法及びガス拡散層の表面に触媒層を形成し高分子電解質膜と接合する方法が挙げられる。
上記のようにして得られた膜−電極接合体を用いてセルを組み上げることで、水素やメタノールを燃料とする固体高分子型燃料電池を作製することができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。
【0036】
(高分子電解質のイオン交換容量の測定方法)
試料を密閉できるガラス容器中に高分子電解質を秤量(秤量値a(g))し、過剰量の塩化ナトリウム飽和水溶液((300〜500)×a(ml))を添加して12時間攪拌した。フェノールフタレインを指示薬として、水中に発生した塩化水素を0.01規定のNaOH標準水溶液(力価f)にて滴定(滴定量b(ml))した。
イオン交換容量は次式により求めた。
イオン交換容量(meq/g)=(0.01×b×f)/a
【0037】
(数平均分子量の測定方法)
数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により下記の条件で測定した。
装置:東ソー(株)製 HLC−8220GPC
溶離液:テトラヒドロフラン
カラム:東ソー(株)製TSK−GEL、送液量:0.35ml/分、標準ポリスチレン換算)
【0038】
[合成例1(ブロック共重合体1の合成)]
攪拌装置付き耐圧容器を十分に窒素置換した後、十分に脱水したα−メチルスチレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン及びテトラヒドロフランを、各々172g、258.1g、28.8g及び5.9g投入した。続いてsec−ブチルリチウム(1.3M、シクロヘキサン溶液)11.2mlを添加し、−10℃で5時間重合した。5時間重合後のポリα−メチルスチレンの数平均分子量は10,000であり、ガスクロマトグラフ分析によるα−メチルスチレンの重合転化率は90%であった。次いで、ブタジエン27gを添加し、30分攪拌後、シクロヘキサン1,703gを加えた。この時点でのα−メチルスチレンの重合転化率は90%であり、ポリブタジエンブロック(b1)の数平均分子量は3,640であった。
次にブタジエン303gを加え、温度を60℃まで上昇させながら2時間重合した。
更に、耐圧容器中の重合溶液に、α,α’−ジクロロ−p−キシレン(0.3M、トルエン溶液)17.3mlを加え、60℃で1時間攪拌し、カップリング反応を行い、ポリα−メチルスチレン−b−ポリブタジエン−b−ポリα−メチルスチレン型トリブロック共重合体(以下、ブロック共重合体と略記する)を合成した。得られたブロック共重合体の数平均分子量は76,000であり、1H−NMR測定から求めたボリブタジエン部分の1,4−結合量は55モル%、α−メチルスチレン単位の含有量は30.0質量%であった。また、同じく1H−NMR測定により、ポリブタジエンブロック中にはα−メチルスチレンが実質的に共重合されていないことが確認された。
合成したブロック共重合体をシクロヘキサンに溶解し、十分に窒素置換を行った耐圧容器に仕込んだ後、Ni/Al系のチーグラー系水素添加触媒を用いて、水素雰囲気下で80℃、5時間水素添加反応を行い、ポリα−メチルスチレン−b−水添ポリブタジエン−b−ポリα−メチルスチレン型トリブロック共重合体(以下ブロック共重合体1と略記する)を得た。得られたブロック共重合体1の水素添加率を1H−NMR測定から求めたところ、99.6%であった。
【0039】
[合成例2(高分子電解質1の合成)]
合成例1で得たブロック共重合体1 100gを、攪拌機付きのガラス製反応容器中にて1時間真空乾燥し、ついで窒素置換した後、塩化メチレン1000mlを加え、35℃にて2時間攪拌してブロック共重合体1の溶液を得た。次に、塩化メチレン41.8ml中、0℃にて無水酢酸21.0mlと硫酸9.34mlとを反応させて得られた硫酸化試薬を、前記ブロック共重合体1の溶液に20分かけて滴下した。35℃にて0.5時間攪拌したのち、攪拌している蒸留水2Lに注ぎ、反応生成物を含む固形分を析出させた。
析出した固形分を90℃の蒸留水で30分間洗浄し、次いでろ過した。洗浄水のpHに変化がなくなるまでかかる洗浄及びろ過の操作を繰り返し、最後にろ集した固体を真空乾燥して、スルホン酸基を有する高分子電解質1を得た。得られた高分子電解質1の1H−NMR測定から求めたα−メチルスチレン単位のベンゼン環のスルホン化率は20.6モル%であった。また上記の方法で測定した結果、イオン交換容量は0.48meq/gであった。
【0040】
[合成例3(高分子電解質2の合成)]
攪拌機付きのガラス製反応容器中に95%の硫酸500ml仕込み、24時間真空乾燥させたポリエーテルエーテルケトン(PEEK、ビクトレックス社製、商品名:VICTREX PEEK)50gを少しずつ加えて溶解させた。室温で8日間反応させた後、5倍量の水に少しずつ加えていき、反応を停止させた。次いで、洗液のpHに変化がなくなるまで水洗とろ過を繰り返し、得られた固体を真空乾燥させて高分子電解質2を得た。また上記の方法で測定した結果、イオン交換容量は2.0meq/gであった。
【0041】
[製造例1(高分子電解質膜1の製造)]
16質量部の高分子電解質1を、84質量部のトルエン/イソブチルアルコール=8/2(質量比)に溶解し、高分子電解質1の溶液を調製した。得られた溶液100質量部に赤リン0.0048質量部を加え、薄膜回転型攪拌機(プライミクス株式会社製、商品名:T.K.フィルミックス 56−50型)を用いて攪拌し、均一な混合物、すなわち高分子電解質組成物を得た。なお、使用した赤リンの粒子径について濃厚系粒径アナライザー(大塚電子株式会社製、商品名:FPAR−1000)を用いて、動的光散乱法により測定したところ、平均粒子径は7.7μm、最大粒子径は13.2μmであった。
得られた高分子電解質組成物を、ブロックコーターを用いてペットフィルム上に流延し、80℃で5分間乾燥させて、高分子電解質1 100質量部に対し赤リン0.03質量部を含む本発明の高分子電解質組成物からなる、高分子電解質膜1を得た。マイクロメータで測定した高分子電解質膜1の膜厚は30μmであった。
【0042】
[製造例2(高分子電解質膜2の製造)]
赤リン添加量を0.48質量部に変更した以外は製造例1と同様の方法で、本発明の高分子電解質組成物からなる高分子電解質膜2を得た。
【0043】
[製造例3(高分子電解質膜3の製造)]
赤リン添加量を1.6質量部に変更した以外は製造例1と同様の方法で、本発明の高分子電解質組成物からなる高分子電解質膜3を得た。
【0044】
[製造例4(高分子電解質膜4の製造)]
赤リン添加量を3.2質量部に変更した以外は製造例1と同様の方法で、本発明の高分子電解質組成物からなる高分子電解質膜4を得た。
[製造例5(高分子電解質膜5の製造)]
赤リンを添加しない以外は製造例1と同様の方法で、高分子電解質膜5を得た。
[製造例6(高分子電解質膜6の製造)]
赤リン添加量を0.0016質量部に変更した以外は製造例1と同様の方法で、高分子電解質組成物からなる高分子電解質膜6を得た。
[製造例7(高分子電解質膜7の製造)]
赤リン添加量を6.4質量部に変更した以外は製造例1と同様の方法で、高分子電解質組成物からなる高分子電解質膜7を得た。
[製造例8(高分子電解質膜8の製造)]
赤リンの代わりにIRGAFOS168(商品名、ホスフィン系酸化防止剤、BASF製)を0.48質量部添加した以外は製造例1と同様の方法で、高分子電解質1 100質量部に対しIRGAFOS168を3.0質量部含む高分子電解質組成物からなる高分子電解質膜8を得た。
【0045】
[製造例9(高分子電解質膜9の製造)]
16質量部の高分子電解質2を、84質量部のトルエン/イソブチルアルコール=8/2(質量比)に溶解し、高分子電解質2の溶液を調製した。得られた溶液100質量部に赤リン0.48質量部を加え、薄膜回転型攪拌機(プライミクス株式会社製、商品名:T.K.フィルミックス 56−50型)を用いて攪拌し、均一な混合物、すなわち高分子電解質組成物を得た。得られた高分子電解質組成物を、ブロックコーターを用いてペットフィルム上に流延し、80℃で5分間乾燥させて、高分子電解質2 100質量部に対し赤リン3質量部を含む本発明の高分子電解質組成物からなる、高分子電解質膜9を得た。マイクロメータで測定した高分子電解質膜9の膜厚は30μmであった。
【0046】
[製造例10(高分子電解質膜10の製造)]
赤リンを添加しない以外は製造例9と同様の方法で、高分子電解質膜10を得た。
【0047】
[実施例1〜5及び比較例1〜5]
製造例1〜10で製造した高分子電解質膜を用いて、耐久性評価(フェントン試験)を行った。
【0048】
(高分子電解質膜の劣化抑制効果(耐久性)の評価;フェントン試験)
膜表面寸法5cm×7cmの高分子電解質膜を60℃で12時間乾燥させ、23℃、50%RHの条件で1時間調湿した後、重量を測定した。該高分子電解質膜を容器内に固定した。
次に、10質量%の過酸化水素水に30ppmとなるように硫酸鉄を加え、フェントン溶液170gを調製した。かかるフェントン溶液を40℃に調整したのち、上記の高分子電解質膜を固定した容器内に注ぎ、高分子電解質膜全体をフェントン溶液に浸漬した。該フェントン溶液を40℃でゆっくり攪拌しながら所定時間処理したのち、高分子電解質膜を取り出し、蒸留水で洗浄した。
洗浄した高分子電解質膜を、50℃の真空乾燥機内で12時間乾燥させた。乾燥後、23℃、50%RHの条件で上記高分子電解質膜を1時間調湿した後、重量を測定した。
上記試験前後の膜の重量の差を試験前の重量で除して、重量変化率を計算した。結果を表1に示す。なお、重量変化率が少ない方が過酸化物による劣化が少なく、耐久性が高いことを示す。比較例1〜5の高分子電解質膜に比べて、実施例1〜5の高分子電解質膜は耐久性が優れることが分かる。
【0049】
【表1】
【0050】
(発電試験)
高分子電解質膜1及び高分子電解質膜5の両面にそれぞれ触媒層及びガス拡散層を形成させた膜−電極接合体を作製し、発電試験を実施した。その結果、両者の電流−電圧(I−V)挙動はほぼ完全に一致し、赤リン添加による本発明の高分子電解質膜の性能低下は全く見られなかった。したがって、本発明の高分子電解質組成物からなる高分子電解質膜は膜−電極接合体に用いた場合、発電性能と耐久性を両立できる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、固体高分子型燃料電池用途等に好適な、長寿命化を実現できる高分子電解質組成物、高分子電解質膜及び膜−電極接合体を提供できる。