特許第5719366号(P5719366)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5719366アルテミシニンを生成するための光化学過程
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5719366
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】アルテミシニンを生成するための光化学過程
(51)【国際特許分類】
   C07D 493/18 20060101AFI20150430BHJP
   C07C 69/96 20060101ALI20150430BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20150430BHJP
【FI】
   C07D493/18
   C07C69/96 ZCSP
   !C07B61/00 300
【請求項の数】22
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2012-526082(P2012-526082)
(86)(22)【出願日】2010年9月1日
(65)【公表番号】特表2013-503817(P2013-503817A)
(43)【公表日】2013年2月4日
(86)【国際出願番号】EP2010062811
(87)【国際公開番号】WO2011026865
(87)【国際公開日】20110310
【審査請求日】2013年8月28日
(31)【優先権主張番号】09305805.5
(32)【優先日】2009年9月1日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デノー,ジルダ
(72)【発明者】
【氏名】ドユルバラ,アラン
(72)【発明者】
【氏名】グベル,ロナン
(72)【発明者】
【氏名】メダール,アラン
(72)【発明者】
【氏名】オドン,ジル
(72)【発明者】
【氏名】レイモン,ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】テユルコニ,ジヨエル
【審査官】 三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−545716(JP,A)
【文献】 米国特許第05002582(US,A)
【文献】 Tetrahedron Letters,1993年,Vol.34, No.28,pp.4435-4438
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D493/00−497/22
C07C 1/00−409/44
C07B 31/00− 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルテミシニンを調製する方法であって、
−(i)化学式(I):
【化1】
[式中、
−XはOであり、
−Yは、以下の化学式(II)で表される基であり、
【化2】
−RおよびRは互いに独立して、水素;アルキル基が非置換またはC−Cアルキル基およびハロゲンから選択される1つ以上の置換基により置換された直鎖または分岐のC−C12アルキル基またはC−C10シクロアルキル基;トリフルオロメチル基;シクロアルキルおよびアルキルが上記で定義されたシクロアルキルアルキル基;アルケニル基が非置換またはC−Cアルキル基およびハロゲンから選択される1つ以上の置換基により置換された直鎖または分岐のC−C12アルケニル基;アリールまたはヘテロアリール基が非置換またはC−Cアルキル基およびハロゲンから選択される1つ以上の置換基により置換されたC−C14アリールまたはヘテロアリール基;アリールおよびアルキルが上記で定義されたアリールアルキル基;またはヘテロアリールおよびアルキルが上記で定義されたヘテロアリールアルキル基であり、
−RはR、OR、NHRまたはNRであり、ここでRおよびRは上記で定義された通りである]のジヒドロアルテミシニン酸誘導体、
(ii)少なくとも1つの有機溶媒、および(iii)光線感作物質
を含む混合物を調製するステップ;
−前記混合物を光源という手段での光酸化に供するステップ;および
−そのようにして得られたアルテミシニンを回収するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
ジヒドロアルテミシニン酸誘導体が、化学式(Ia):
【化3】
[式中、XおよびYは請求項1で定義された通りである]
を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つの有機溶媒が、アルコール類、塩素化溶媒、ケトン類、スルホキシド類、ニトリル類、N,N−二置換アミン類、エステル類、窒素化複素環、エーテル類、アルカン類、芳香族溶媒、およびその混合物から構成される群から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つの有機溶媒がジクロロメタンであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
化学式(I)または(Ia)のジヒドロアルテミシニン酸誘導体に関して、極性溶媒が4:20の体積比率で使用されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
光線感作物質が、ローズベンガル、テトラフェニルポルフィリン、テトラフェニルポルフィリン誘導体、テトラメチルチオニンクロリド(メチレンブルー)、およびトルイジンブルーから選択されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
化学式(I)または(Ia)のジヒドロアルテミシニン酸誘導体に関して、光線感作物質が0.000001〜1当量のモル比で使用されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
混合物が酸触媒を含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
酸触媒が化学式(I)または(Ia)の化合物の当量あたり0.5当量で存在することを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項10】
酸触媒がプロトン酸であることを特徴とする、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
酸触媒がトリフルオロ酢酸であることを特徴とする、請求項8または9に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法であって、
(i)上記請求項1または2で定義された化学式(I)または(Ia)のジヒドロアルテミシニン酸誘導体、(ii)少なくとも1つの有機溶媒、および(iii)光線感作物質を含む混合物を周囲温度で調製するステップ;
−空気または酸素のバブリングによって、反応混合物を−78℃〜周囲温度の範囲の温度に冷却するステップ;
−触媒量の酸触媒を添加するステップ;
−光源の電源を入れるステップ;
−反応混合物を同じ温度で3〜24時間維持するステップ;
−反応混合物を2〜4時間、5〜15℃の範囲の温度に加温し、続いて1〜3時間、15〜25℃の範囲のより高い温度に加温するステップ;
−反応を停止するステップ;
−反応混合物を15℃〜25℃の範囲の温度で1〜3時間維持するステップ;および
−そのようにして得られたアルテミシニンを回収するステップ
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項13】
酸触媒が、プロトン酸および/またはルイス酸から選択されることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項12または13のいずれかに記載の方法であって、
−最初の冷却ステップが−5℃〜−20℃の温度で実施され;
−加温ステップ中、反応混合物は2時間10℃にまで、続いて1時間、周囲温度に加温され;および/または
−反応を停止した後、反応混合物は2時間、周囲温度で維持される
ことを特徴とする、方法。
【請求項15】
回収されたアルテミシニンの追加の精製ステップを含むことを特徴とする、請求項12〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
アルテミシニンが、アルカン/アルコール混合物中での沈殿および分離によって回収されることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
アルカンが、n−ヘプタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ペンタン、およびCMCから選択され、アルコールがエタノールおよびイソプロパノールから選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
化学式(I):
【化4】
[式中、
−XはOであり、
−Yは、以下の化学式(II)で表される基であり、
【化5】
−RおよびRは互いに独立して、水素;アルキル基が非置換またはC−Cアルキル基およびハロゲンから選択される1つ以上の置換基により置換された直鎖または分岐のC−C12アルキル基またはC−C10シクロアルキル基;トリフルオロメチル基;シクロアルキルおよびアルキルが上記で定義されたシクロアルキルアルキル基;アルケニル基が非置換またはC−Cアルキル基およびハロゲンから選択される1つ以上の置換基により置換された直鎖または分岐のC−C12アルケニル基;アリールまたはヘテロアリール基が非置換またはC−Cアルキル基およびハロゲンから選択される1つ以上の置換基により置換されたC−C14アリールまたはヘテロアリール基;アリールおよびアルキルが上記で定義されたアリールアルキル基;またはヘテロアリールおよびアルキルが上記で定義されたヘテロアリールアルキル基であり、
−RはR、OR、NHRまたはNRであり、ここでRおよびRは上記で定義された通りである]の化合物。
【請求項19】
化学式(Ia):
【化6】
[式中、XおよびYは請求項18で定義された通りである]のジアステレオ異性体である、請求項18に記載の化学式(I)の化合物。
【請求項20】
化学式(I)または(Ia):
[式中
およびRは互いに独立して、水素;アルキル基が非置換またはC−Cアルキル基およびハロゲンから選択される1つ以上の置換基により置換された直鎖または分岐のC−C12アルキル基またはC−C10シクロアルキル基;アルケニル基が非置換またはC−Cアルキル基およびハロゲンから選択される1つ以上の置換基により置換された直鎖または分岐のC−C12アルケニル基;トリフルオロメチル基;またはアリールまたはヘテロアリール基が非置換またはC−Cアルキル基およびハロゲンから選択される1つ以上の置換基により置換されたC−C14アリールまたはヘテロアリール基であり、
−RはR、ORまたはNRであり、ここでRおよびRは上記で定義された通りである]
で示される、請求項18または19に記載の化合物。
【請求項21】
化学式(I)または(Ia):
[式中
はORであり、Rはアルキル基が非置換またはC−Cアルキル基およびハロゲンから選択される1つ以上の置換基により置換された直鎖または分岐のC−C12アルキル基またはC−C10シクロアルキル基、またはアリールまたはヘテロアリール基が非置換またはC−Cアルキル基およびハロゲンから選択される1つ以上の置換基により置換されたC−C14アリールまたはヘテロアリール基である]
で示される、請求項18〜20のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項22】
化学式(I)または(Ia):
【化7】
[式中、
−XはOであり、
−Yは、以下の化学式(II)で表される基であり、
【化8】
−RおよびRは互いに独立して、水素;アルキル基が非置換またはC−Cアルキル基およびハロゲンから選択される1つ以上の置換基により置換された直鎖または分岐のC−C12アルキル基またはC−C10シクロアルキル基;トリフルオロメチル基;シクロアルキルおよびアルキルが上記で定義されたシクロアルキルアルキル基;アルケニル基が非置換またはC−Cアルキル基およびハロゲンから選択される1つ以上の置換基により置換された直鎖または分岐のC−C12アルケニル基;アリールまたはヘテロアリール基が非置換またはC−Cアルキル基およびハロゲンから選択される1つ以上の置換基により置換されたC−C14アリールまたはヘテロアリール基;アリールおよびアルキルが上記で定義されたアリールアルキル基、またはヘテロアリールおよびアルキルが上記で定義されたヘテロアリールアルキル基であり、
−RはR、OR、NHRまたはNRであり、ここでRおよびRは上記で定義された通りである]
で示される化合物の、アルテミシニンを調製するための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、合衆国法典第35編第119項に基づき、2009年9月1日に出願された欧州特許出願番号09305805.5に対する優先権の利益を主張する。
【0002】
発明者は、アルテミシニンの調製ならびにアルテミシニンの調製に有益な特定のジヒドロアルテミシニン酸誘導体に対するする新しい光化学過程を提供する。
【背景技術】
【0003】
伝統的な漢方薬チンハオ(クソニンジンL.)の治療活性成分であるアルテミシニンは、ペルオキシ基を持つセスキテルペノイドラクトンである。アルテミシニンの化学構造を下記の化学式(A)に示す:
【0004】
【化1】
【0005】
アルテミシニンは、優れた抗マラリア効果があるだけでなく日本住血吸虫などのその他の寄生虫に対する効果的な抗寄生虫活性もある。さらにアルテミシニンには免疫抑制性があることが判明し、エリテマトーデス治療の臨床試験で一度使用され、有望な結果をもたらした。関連する研究作業の拡大により、アルテミシニンの誘導体であるアーテスネートはアルテミシニンよりも強力な免疫抑制活性を持つことが分かった。同薬は、エリテマトーデスおよび一部の皮膚疾患の治療において、より優れた治療効果を達成できる可能性がある。
【0006】
一部の試験から、アルテミシニンまたはその誘導体はがんの治療にある役割を果たしていると思われる。
【0007】
そのためアルテミシニンは有益な化合物であり、それを調製する簡単な過程に対する必要性が存在する。
【0008】
さまざまな合成経路が文献で開示されており、化学式(B)のジヒドロアルテミシニン酸(DHAA)
【化2】
またはDHAA誘導体、特にそのエステル類が開始化合物として使用されている(Tetrahedron 2002(58),909−923)。これらのDHAA誘導体は、数あるステップの中でも、光線感作物質とのその光酸化を含む方法において使用される。アルテミシニンを提供するためにさらなる転換が発生する。特に、光酸化の後に得られたアリルヒドロペルオキシドは、極性非プロトン性溶媒中に転位される。
【0009】
DHAAのジアステレオ異性体を化学式(B1)によって示す:
【化3】
【0010】
16つのステップを含む過程の3番目のステップにおいてアルテミシニンの合成中間体(化合物4)を得るために早期段階で光化学酸化が使用される過程が、『Tetrahedron Letters,1993(34),4435−4438』で開示されている。本書はまた、過程の終わりに使用されるDHAAのメチルエステル類も開示している。
【0011】
しかし、DHAAまたはDHAAのメチルエステル類から始まる先行の合成過程には、特に下記の欠点がある:
−従来の方法でのDHAAエステルの調製は効率がより低いか、高価な試薬または安全ではない試薬の使用が必要となる、
−DHAAまたはそのエステル類から最終的に得られるアルテミシニンは、過程を実施する際に開環などの二次反応を通して得られる副産物の媒体が存在するという理由から安定していない、および
−得られるアルテミシニンの収率が低い。
【0012】
また、文献で開示される方法には、多数のステップが伴い、工業規模では適用できない場合がある。
【0013】
現在では、特定の活性化基を通してカルボン酸機能が活性化されるジヒドロアルテミシニン酸誘導体を使用することによって、生産費用を大幅に削減しつつ、高い収率でワンポット光化学過程によりアルテミシニンが得られる場合があることが分かっている。
【0014】
これらの活性化基および特別に設計された反応パラメータの使用は、下記の一つ以上の利点を提供することが分かっている:
−開始物質としてのDHAAの活性化誘導体の使用は、ラクトン化などの妨害反応を通して望ましくない副産物の形成を制限する場合がある、
−DHAAまたはそのエステル類と比べて活性化基がより優れた離脱基である場合にこれらの活性化誘導体を使用すると、反応速度が増加する場合がある、および
−DHAAの活性化誘導体の調製が、ステップが一つの簡素化された定量的な手順となりうる。
【0015】
望ましくない副産物の出現を防止してアルテミシニンの形成に有利に働くようにする目的で、アルテミシニンの適切な調整過程を達成するために、得られた望ましくない副産物、特にその形成の速度に関して分析・定量化するべく先行技術の過程が研究されてきた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Tetrahedron 2002(58),909−923ページ
【非特許文献2】Tetrahedron Lett.1993,4435−4438ページ
【非特許文献3】Photochemical Technology 22〜23ページ
【非特許文献4】March’s Advanced Organic Chemistry 316ページ、第5版M.B. SmithおよびJ.March Wiley
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本研究では、過程の最中に温度を漸次的に上昇させることでさまざまな反応中間体の形成を管理するのが可能であることが分かった。開始生成物は低温(0°C未満)で第一の合成中間体に転換され、これが次に0°Cで第二の合成中間体へと転換された。後続のステップで温度を上昇させることで、この第二の合成中間体のアルテミシニンへの完全な転換が可能となった。
【0018】
そのため、望ましくない副産物の形成を限定しアルテミシニンの収率を増加させるために、設計された温度レベルを使用することで過程を最適化するのが可能であることが分かった。
【0019】
本研究により、例えば、温度、時間および合成ステップの順序(「ワンポット」過程)といった反応パラメータを組み合わせることで、アルテミシニンを調製する特定の過程を設計することが可能となった。
【0020】
また、反応パラメータを適切に組み合わせることで、後続の酸化ステップ二つを一つにまとめた状態でアルテミシニンを取得する「ワンポット」反応過程を実施することが可能となり、これは先行技術では教示または指摘されていない。
【課題を解決するための手段】
【0021】
下記のステップを含むアルテミシニンを調製する過程が提供されている:
−下記を含む混合物の調製
(i)化学式(I)のジヒドロアルテミシニン酸(DHAA)誘導体
【0022】
【化4】
ここで
−XはO、S、NHまたはNOであり、
−Yは化学式(II)、(III)および(IV)から選ばれる基であり、
【化5】
あるいは、XがOの場合YはORを示してもよく、
−互いに独立しているRおよびRは水素、アルキル基が非置換またはC−Cアルキル基およびハロゲンから選択される一つ以上の置換基により置換された直鎖または分岐のC−C12アルキル基またはC−C10シクロアルキル基;トリフルオロメチル基;シクロアルキルおよびアルキルが上記で定義されるシクロアルキルアルキル基;アルケニル基が非置換またはC−Cアルキル基およびハロゲンから選択される一つ以上の置換基により置換された直鎖または分岐のC−C12アルケニル基;アリールまたはヘテロアリール基が非置換またはC−Cアルキル基およびハロゲンから選択される一つ以上の置換基により置換されたC−C14アリールまたはヘテロアリール基;アリールおよびアルキルが上記で定義されたアリールアルキル基;またはヘテロアリールおよびアルキルが上記で定義されたヘテロアリールアルキル基であり、
−RはR、OR、NHRまたはNRであり、ここでRおよびRは上記で定義された通りであり、
−RはRと同一であるが、Rは水素を示すことはできず、あるいはRはシリル基を示し、
(ii)少なくとも一つの有機溶媒、および(iii)光線感作物質、
−光源という手段で前記混合物が光酸化を受けるようにすること、および
−そのようにして得られるアルテミシニンの回収。
一部の実施形態において、化学式(Ia)のDHAA誘導体
【0023】
【化6】
(XおよびYは上記で定義された通り)が上記過程で使用される。
【0024】
ラセミ体での化学式(I)の化合物が上記過程において使用される場合、例えば結晶化および濾過といった通常の精製手段を用いてアルテミシニンを回収した後で、存在しうる望ましくない副産物を同時に分離しつつ、化学式(Ia)の立体化学を持たないジアステレオ異性体を反応混合物から分離することができる。
【0025】
別の方法として、化学式(Ia)のジアステレオ異性体のみが後続の過程ステップに関与するように、反応混合物が光酸化を受ける前にジアステレオ異性体の分離を実施することができる。
【0026】
本説明によると、有機溶媒とは、その他の物質を溶媒和するのに使用される少なくとも一つの炭素原子を含む、有機化合物を意味する。
【0027】
有機溶媒にはプロトン性溶媒および非プロトン性溶媒を含み、極性または非極性でもありうる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
適切な有機溶媒の例を下記に示す。
【0029】
直鎖または分岐であるC−C12アルキル基は、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、sec−ペンチル、tert−ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、sec−ヘキシル、tert−ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシルおよびドデシルから選択されうる。一部の実施形態において、直鎖または分岐のC−Cアルキル基を選択することができる。
【0030】
−C10シクロアルキル基は、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルまたはシクロヘキシルなどの一つまたは二つの環を含みうる炭素環基を意味する。
−C12アルケニル基は、例えば、エテニルまたはビニル、プロペニルまたはアリル、1−プロペニル、n−ブテニル、i−ブテニル、3−メチル−2−ブテニル、n−ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、デセニルなどの一つ以上の不飽和結合を含む直鎖または分岐の炭化水素基を意味する。一部の実施形態において、直鎖または分岐のC−Cアルケニル基を選択することができる。
【0031】
シクロアルキルアルキル基は、シクロアルキルおよびアルキルが例えば、シクロプロピルメチル、シクロブチルメチル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、シクロヘプチルメチル、シクロプロピルエチルまたはシクロヘキシルエチルなど上記で定義された基を意味する。
【0032】
−C14アリール基は、例えば、フェニル、ナフチル、インデニルまたはアントラセニルなどの一つまたは二つの環を含む不飽和炭素環基を意味する。一部の実施形態において、C−C14アリール基はフェニルである。
【0033】
アリールアルキルは、アリールおよびアルキルが例えば、ベンジル、フェニルエチル、2−フェニルエチルまたはナフチルメチルなどの上記で定義した通りの炭素環基を意味する。一部の実施形態において、アリールアルキルはベンジルである。
【0034】
−C14ヘテロアリール基は、一つ、二つまたは三つの環を含む芳香族炭素環基、または一つの環が芳香族でありもう一方が完全に水素化された二つの環を含む炭素環基、または少なくとも一つの環が芳香族でありその他の環が完全に水素化された三つの環を含む炭素環基を意味し、前記炭素環は例えば、フリル、ピロリル、オキサゾリル、オキサジアゾリル、イソオキサゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、ピリジル、ピリミジニル、ピリダジニル、ピラジニル、テトラゾリル、ベンゾフラニル、インドリル、プリニル、キノリル、イソキノリル、クロマニルおよびナフチリジニルなどの酸素および窒素原子から選択された、同一または異なる一つ以上のヘテロ原子を含む。
【0035】
ヘテロアリールアルキル基は、ヘテロアリールおよびアルキルが上記で定義された基を意味する。
【0036】
ハロゲンはフッ素、塩素、臭素およびヨード原子から選択することができる。
【0037】
本明細書で説明される過程において使用される少なくとも一つの有機溶媒は、例えば下記から選択することができる:
−メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、1,2−ブタンジオール、1−3−ブタンジオール、グリコールなどのアルコール類、
−ジクロロメタン、クロロフォルム、ジクロロエタン、塩化ベンゼン、ジクロロベンゼン、オルトジクロロベンゼンなどの塩素化溶媒、
−アセトン、ブタノン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MiBK)、メチルイソプロピルケトン(MiPK)、シクロヘキサノンなどのケトン類、
−ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、
−スルホランなどのスルホン類、
−アセトニトリルなどのニトリル類、
−ジメチルホルムアミドなどのN,N−二置換アミン類、
−酢酸エチル、酢酸イソプロピルなどのエステル類、
−ピリジンなどの窒素化複素環、
−ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル(MTBE)、メチルシクロペンチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン(グリム)、ジグリム、トリグリムなどのエーテル類、
−n−ヘプタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ペンタン、CMC(シクロヘキサンとメチルシクロヘキサンの混合物)などのアルカン類、
−例えば、アニソールまたはトルエンなどの芳香族溶媒、
−およびその混合物。
【0038】
一部の実施形態において、特に安全上の理由によりジクロロメタンが使用されている。一部の実施形態において、有機溶媒の混合物が使用されている。
【0039】
上記リストはすべてを網羅するものではなく、当該技術分野の当業者であれば、その一般知識に基づき適切な有機溶媒または有機溶媒の混合物を選択することが可能である。
【0040】
一部の実施形態において、少なくとも一つの有機溶媒は化学式(I)または(Ia)のジヒドロアルテミシニン酸誘導体に関して約4:20の体積比率で使用されている。
【0041】
光線感作物質は、光Dによって電子励起された時にそのエネルギーを受容体分子A(例えば、基底状態酸素)に伝達しうる任意のドナー分子Dである。かかる過程において、ドナー分子Dは不活性化され、受容体分子(例えば、一重項状態酸素)の励起状態がAとして生成される。増感剤は一般には染料であり、可視光を吸収する(『Photochemical Technology』22〜23ページ、A.M.Braun,M.−T.Maurette et E.Oliveros著、John Wiley and Sons版)、および『March’s Advanced Organic Chemistry』316ページ、第5版M.B.SmithおよびJ.March Wiley)を参照)。
【0042】
D−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−>D
+A −−−−−−−−−−−−−−−−−−−>D+A
【0043】
光線感作物質は、例えば、ローズベンガル、テトラフェニルポルフィリン(TPP)また例えば金属ポルフィリンなどのテトラフェニルポルフィリン誘導体(TPP誘導体)、テトラメチルチオニンクロリド(メチレンブルー)、およびトルイジンブルーから選択することができる。一部の実施形態において、ローズベンガルまたはTPPが使用されている。光線感作物質は、例えば、化学式(I)または(Ia)のジヒドロアルテミシニン酸誘導体に関して0.000004〜0.0002当量など、化学式(I)または(Ia)のジヒドロアルテミシニン酸誘導体に関して約0.000001〜1当量のモル比の範囲で使用することができる。
【0044】
光源は、光線感作物質の吸収波長で光子を発光することのできる任意の光源から構成されうる。かかる光源は、例えば、ハロゲンランプ、水銀または窒素ランプから選択することができ、ここで水銀または窒素はドープ型、レーザーランプ、ダイオードランプおよび自然光でありうる。
【0045】
一部の実施形態において、ハロゲンランプまたは水銀ランプが使用されている。
【0046】
上記リストはすべてを網羅するものではなく、当該技術分野の当業者であれば、その一般知識に基づき適切なランプを選択することが可能である。
【0047】
一部の実施形態において、混合物は少なくとも酸触媒、例えば(i)トリフル酸、酢酸およびトリフルオロ酢酸などの少なくともプロトン性酸、および/または(ii)例えばFeCl、Ln(OTf)、AlCl、SnCl、TiClまたはZnClなどの少なくともルイス酸を含む。一部の実施形態において、トリフルオロ酢酸が使用されている。一部の実施形態において、酸触媒は化学式(I)または(Ia)の化合物の当量あたり0.5〜2当量の量で存在しうる。
【0048】
一部の実施形態において、本明細書で説明した過程は下記のステップを含みうる:
−(i)上記で定義された化学式(I)または(Ia)のジヒドロアルテミシニン酸誘導体、(ii)少なくとも一つの有機溶媒、および(iii)光線感作物質を含む混合物を周囲温度で調製する、
−空気または酸素のバブリングによって反応混合物を約−78°C〜周囲温度の温度範囲に冷却する、
−酸触媒の触媒量を添加する、
−光源の電源を入れる、
−同じ温度で反応混合物を12〜24時間維持する、
−反応混合物を2〜4時間、約5〜15°Cの温度範囲に加温し、次に1〜3時間、約15〜25°Cのより高い温度範囲に加温する、
−光源の電源を切って空気または酸素のバブリングを停止する操作を順序を問わず連続的にまたは同時に行い、その後に周囲温度で消光剤を添加するという手段で、反応を停止する、
−1〜3時間、約15°C〜25°Cの温度範囲で反応混合物を維持する、および
−アルテミシニンを回収する。
【0049】
周囲温度は約18〜25°Cの範囲と理解される。
【0050】
範囲は、指定された終点の間のすべての点および同終点の数値も含むものと理解される。例えば、約15〜25°Cの温度範囲は約15°Cと約25°Cの間のあらゆるすべての温度を含む。同様に、1〜3時間の範囲には1〜3時間の間のあらゆるすべての時点を含む。
【0051】
一部の実施形態において、反応条件は下記の通りである:
−最初の冷却ステップは−5°C〜−20°Cの温度、例えば−10°Cで実行される、
−加温ステップ中、反応混合物は2時間10°Cに、その次に1時間20°Cなどの周囲温度に加温され、および/または
−反応を停止した後、反応混合物は2時間20°Cなどの周囲温度で維持される。
【0052】
一部の実施形態において、酸触媒の触媒量を添加し光源の電源を入れた後、反応混合物は3〜24時間周囲温度で維持される。一部の実施形態において、その期間は3〜12時間である。期間は光源の強度、光線感作物質の量、および/またはバブリング条件に左右される。
【0053】
一部の実施形態において、酸触媒は上述の基から選択することのできるプロトン性酸である。一部の実施形態において、酸触媒はトリフルオロ酢酸である。
【0054】
一部の実施形態において、アルテミシニンを回収する前に反応混合物は木炭で処理が施される。
【0055】
アルテミシニンは、当業者に周知のさまざまな手段によって最終ステップで回収することができる。一部の実施形態において、アルテミシニンは結晶化および濾過によって回収することができる。
【0056】
一部の実施形態において、アルテミシニンは溶媒/アルコール混合物中での沈殿および分離によって最終ステップで回収される。一部の実施形態において、溶媒/アルコール混合物はアルカン/アルコール混合物である。一部の実施形態において、溶媒はn−ヘプタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ペンタン、およびCMCから選択され、アルコールはエタノールおよびイソプロパノールから選択される。一部の実施形態において、アルカンとアルコールの比率は10:1(アルカン体積/アルコール体積)である。
【0057】
随意に、アルテミシニンの純度を高めるために追加の精製ステップを実施することができる。例えば、回収されたアルテミシニンは、例えば、ヘプタン(例えばn−ヘプタン)、ヘキサン(例えばn−ヘキサンまたはシクロヘキサン)、ペンタン(例えばn−ペンタン)、およびCMCなどの適切な溶媒で沈殿させ、アルコール/水の混合物中で再結晶化されうる。一部の実施形態において、アルコール/水の混合物はエタノール/水またはプロパノール/水である。
【0058】
そのようにして得られたアルテミシニンは純度が高く、再結晶化の収率は90%以上である。
【0059】
また、化学式(I)の化合物も提供されており、
【0060】
【化7】
ここで
−XはO、S、NHまたはNOであり、
−Yは化学式(II)、(III)および(IV)から選ばれる基であり、
【0061】
【化8】
−RおよびRは互いに独立して、水素;アルキル基が非置換またはC−Cアルキル基およびハロゲンから選択される一つ以上の置換基により置換された直鎖または分岐のC−C12アルキル基またはC−C10シクロアルキル基;トリフルオロメチル基;シクロアルキルおよびアルキルが上記で定義されるシクロアルキルアルキル基;アルケニル基が非置換またはC−Cアルキル基およびハロゲンから選択される一つ以上の置換基により置換された直鎖または分岐のC−C12アルケニル基;アリールまたはヘテロアリール基が非置換またはC−Cアルキル基およびハロゲンから選択される一つ以上の置換基により置換されたC−C14アリールまたはヘテロアリール基;アリールおよびアルキルが上記で定義されたアリールアルキル基;またはヘテロアリールおよびアルキルが上記で定義されたヘテロアリールアルキル基であり、
−RはR、OR、NHRまたはNRであり、ここでRおよびRは上記で定義された通りであり、
一部の実施形態において、化学式(I)の化合物は化学式(Ia)で示されるジアステレオ異性体であり、
【0062】
【化9】
ここでXおよびYは上記で定義される通りである。
【0063】
化学式(I)および(Ia)の化合物の中でも、一部の実施形態において化合物はXが酸素原子である化合物である。
【0064】
一部の実施形態において、化学式(I)および(Ia)の化合物は
−XはOであり、
−Yは化学式(II)、(III)および(IV)から選ばれる基であり、
【0065】
【化10】
−RおよびRは互いに独立して、水素;アルキル基が非置換またはC−Cアルキル基およびハロゲンから選択される一つ以上の置換基により置換された直鎖または分岐のC−C12アルキル基またはC−C10シクロアルキル基;トリフルオロメチル基;アルケニル基が非置換またはC−Cアルキル基およびハロゲンから選択される一つ以上の置換基により置換された直鎖または分岐のC−C12アルケニル基;アリールまたはヘテロアリール基が非置換またはC−Cアルキル基およびハロゲンから選択される一つ以上の置換基により置換されたC−C14アリールまたはヘテロアリール基であり、
−RはR、OR、NHRまたはNRであり、ここでRおよびRは上記で定義された通りである。
【0066】
一部の実施形態において、化学式(I)および(Ia)の化合物は
−XはOであり、
−Yは化学式(II)の基を示し、
【0067】
【化11】
【0068】
はORであり、Rはアルキル基が非置換またはC−Cアルキル基およびハロゲンから選択される一つ以上の置換基により置換された直鎖または分岐のC−C12アルキル基またはC−C10シクロアルキル基、またはアリールまたはヘテロアリール基が非置換またはC−Cアルキル基およびハロゲンから選択される二つ以上の置換基により置換されたC−C14アリールまたはヘテロアリール基および一部の実施形態においてはフェニル基である。
【0069】
化学式(I)または(Ia)の化合物は例えば、化学式Y−X−C(O)−ハルの例えばハロホーメートによるジヒドロアルテミシニン酸のエステル化によって調製することができ、ここでハルは塩素、フッ素または臭素であり、XおよびYは通常の方法に従い上記で定義される通りである。
【0070】
一部の実施形態において、Xは酸素を示し、Yは上記で定義された化学式(II)の基を示し、ここでRはORであり、Rはアルキル基が非置換またはC−Cアルキル基およびハロゲンから選択される一つ以上の置換基により置換された直鎖または分岐のC−C12アルキル基またはC−C10シクロアルキル基、またはアリールまたはヘテロアリール基が非置換またはC−Cアルキル基およびハロゲンから選択される一つ以上の置換基により置換されたC−C14アリールまたはヘテロアリール基および一部の実施形態においてはフェニル基である。
【0071】
一部の実施形態において、化学式(I)または(Ia)の化合物を調製するステップは、中間体化合物として化学式(I)または(Ia)の化合物を分離することなく、アルテミシニンの調製という後続のステップと組み合わせることができる。
【0072】
また、アルテミシニンの調製のために上記で定義される化学式(I)または(Ia)の化合物の使用もまた提供されている。
【0073】
下記に説明する実例は、発明に従った過程および化合物を示しているが、発明の範囲を限定するものでは一切ない。
【0074】
下記の実験部分において、例1〜10は化学式(I)または(Ia)のジヒドロアルテミシニン酸誘導体の調製に関連し、例11〜13は化学式(I)または(Ia)のジヒドロアルテミシニン酸誘導体から開始するアルテミシニンの調製に関連する。
【実施例1】
【0075】
例1:(3R)−ジヒドロアルテアンヌインBメチル炭酸塩または(3R)−ジヒドロアルテアンヌインB酸、メチル混合炭酸塩の合成
【0076】
【化12】
【0077】
氷槽において、25mLトルエン中の5.04g(0.021mol)のDHAAおよび2.43g(0.024mol)のトリエチルアミン(EtN)の攪拌溶液に、2.08g(0.022mol)のクロロギ酸エステルメチルを液滴で5分以内に添加した。添加後、攪拌を20〜30分継続した。
【0078】
次に、混合物を水で二回洗浄(2x100mL)し、MgSOで乾燥させた。次に、溶液を減圧下で濃縮乾固させると、5.18gの油性の残留物が得られた(粗収量=83.2%)。生成物はそのまま使用することができる。
【実施例2】
【0079】
例2:(3R)−ジヒドロアルテアンヌインB酸、2,2,2−トリクロロエチル混合炭酸塩の合成
【0080】
【化13】
【0081】
氷槽において、25mLトルエン中の5.07g(0.021mol)のDHAAおよび2.43g(0.024mol)のEtNの攪拌溶液に、4.72g(0.022mol)の2,2,2−トリクロロエチルクロロギ酸エステルを液滴で5分以内に添加した。添加後、攪拌を20〜30分継続した。
次に、混合物を水で二回洗浄(2x100mL)し、MgSOで乾燥させた。次に、溶液を減圧下で濃縮乾固させると、8.39gの油性の残留物が得られた(粗収量=96.3%)。生成物はそのまま使用することができる。
【実施例3】
【0082】
例3:(3R)−ジヒドロアルテアンヌインB酸、エチル混合炭酸塩の合成
【0083】
【化14】
【0084】
氷槽において、25mLトルエン中の主要異性体が濃縮された5.11g(0.021mol)のDHAAおよび3.42g(0.025mol)のKCOの攪拌溶液に、2.27g(0.021mol)のクロロギ酸エステルエチルを液滴で5分以内に添加した。添加後、攪拌を20〜30分継続した。
【0085】
次に、混合物を水で二回洗浄(2x100mL)し、MgSOで乾燥させた。次に、溶液を減圧下で濃縮乾固させると、5.57gの油性の残留物が得られた(粗収量=85.4%)。生成物はそのまま使用することができる。
【0086】
H NMR (CDCl3,ppm):5.08(1H,s),4.33(2H,q,J=7.1Hz),2.58(1H,m),2.50(1H,s),1.95(1H,m),1.92(1H,m),1.82(1H,m),1.69(1H,m),1,64(3H,s),1.63(2H,m),1.54(1H,m),1.47(1H,m),1.37(3H,t,J=7.1Hz),1.27(1H,m),1.24(3H,d,J=7.0Hz),1.14(1H,qd,J1=12.7Hz,J2=3.2Hz),0.98(1H,qd,J1=12.7Hz,J2=3.2Hz),0.87(3H,d,J=6.6Hz).;
13C NMR(CDCl3,ppm):14.0,14.7,19.7,23.8,25.7,26.6,27.3,27.6,35.1,36.3,41.7,42.6,43.7,65.6,118.9,136.4,149.3,171.6;
MS:308;
IR(cm−1):2924,1816および1749,1154,997。
【実施例4】
【0087】
例4:(3R/S)−ジヒドロアルテアンヌインB酸、エチル混合炭酸塩(ジアステレオマー混合物)の合成
【0088】
【化15】
【0089】
氷槽において、25mLトルエン中の5.11g(0.022mol)のラセミDHAAおよび2.45g(0.024mol)のN−メチルモルホリンの攪拌溶液に、2.27g(0.021mol)のクロロギ酸エステルエチルを液滴で5分以内に添加した。添加後、攪拌を20〜30分継続した。
【0090】
次に、混合物を水で二回洗浄(2x100mL)し、MgSOで乾燥させた。次に、溶液を減圧下で濃縮乾固させると、6.11gの油性の残留物が得られた(粗収量=93.6%)。生成物はそのまま使用することができる。
【実施例5】
【0091】
例5:(3R)−ジヒドロアルテアンヌインB酸、ベンジル混合炭酸塩の合成
【0092】
【化16】
【0093】
氷槽において、25mLジクロロメタン中の5.08g(0.021mol)のDHAAおよび3.31g(0.024mol)のKCOの攪拌溶液に、3.64g(0.021mol)のクロロギ酸エステルベンジルを液滴で5分以内に添加した。添加後、攪拌を20〜30分継続した。
次に、混合物を水で二回洗浄(2x100mL)し、MgSOで乾燥させた。次に、溶液を減圧下で濃縮乾固させると、7.63gの油性の残留物が得られた(粗収量=97.4%)。生成物はそのまま使用することができる。
【実施例6】
【0094】
例6:(3R)−ジヒドロアルテアンヌインB酸、フェニル混合炭酸塩の合成
【0095】
【化17】
【0096】
氷槽において、25mLジクロロメタン中の5.08g(0.021mol)のDHAAおよび3.36g(0.024mol)のKCOの攪拌溶液に、3.48g(0.022mol)のクロロギ酸エステルフェニルを液滴で5分以内に添加した。添加後、攪拌を20〜30分継続した。
【0097】
次に、混合物を水で二回洗浄(2x100mL)し、MgSOで乾燥させた。次に、溶液を減圧下で濃縮乾固させると、6.85gの油性の残留物が得られた。これは粗収量90.8%を示す。生成物はそのまま使用することができる。
【実施例7】
【0098】
例7:(3R)−ジヒドロアルテアンヌインB酸、1−クロロエチル混合炭酸塩の合成
【0099】
【化18】
氷槽において、25mLジクロロメタン中の5.03g(0.021mol)のDHAAおよび3.44g(0.025mol)のKCOの攪拌溶液に、3.02g(0.021mol)のクロロギ酸エステル1−クロロエチルを液滴で5分以内に添加した。添加後、攪拌を20〜30分継続した。
【0100】
次に、混合物を水で二回洗浄(2x100mL)し、MgSOで乾燥させた。次に、溶液を減圧下で濃縮乾固させると、5.84gの油性の残留物が得られた(粗収量=80.5%)。生成物はそのまま使用することができる。
【実施例8】
【0101】
例8:(3R)−ジヒドロアルテアンヌインB酸、プロピル混合炭酸塩の合成
【0102】
【化19】
【0103】
氷槽において、25mLジクロロメタン中の5.02g(0.021mol)のDHAAおよび4.22g(0.031mol)のKCOの攪拌溶液に、2.62g(0.021mol)のクロロギ酸エステルプロピルを液滴で5分以内に添加した。添加後、攪拌を20〜30分継続した。
【0104】
次に、混合物を水で二回洗浄(2x100mL)し、MgSOで乾燥させた。次に、溶液を減圧下で濃縮乾固させると、6.53gの油性の残留物が得られた(粗収量=95.7%)。生成物はそのまま使用することができる。
【実施例9】
【0105】
例9:(3R)−ジヒドロアルテアンヌインB酸、2,2,2−トリクロロ−1,1−ジメチル混合炭酸塩の合成
【0106】
【化20】
【0107】
氷槽において、25mLジクロロメタン中の5.04g(0.021mol)のDHAAおよび3.85g(0.028mol)のKCOの攪拌溶液に、5.08g(0.021mol)のクロロギ酸2,2,2−トリクロロ−1,1−ジメチルエチルを液滴で5分以内に添加した。添加後、攪拌を20〜30分継続した。
【0108】
次に、混合物を水で二回洗浄(2x100mL)し、MgSOで乾燥させた。次に、溶液を減圧下で濃縮乾固させると、8.52gの油性の残留物が得られた(粗収量=91.3%)。生成物はそのまま使用することができる。
【実施例10】
【0109】
例10:(3R)−ジヒドロアルテアンヌインB酸、2−クロロエチル混合炭酸塩の合成
【0110】
【化21】
【0111】
氷槽において、25mLジクロロメタン中の5.01g(0.021mol)のDHAAおよび4.04g(0.029mol)のKCOの攪拌溶液に、3.04g(0.021mol)のクロロギ酸エステル2−クロロエチルを液滴で5分以内に添加した。添加後、攪拌を20〜30分継続した。
【0112】
次に、混合物を水(2x100mL)で二回洗浄し、MgSOで乾燥させた。次に、溶液を減圧下で乾燥するまで濃縮させると、6.78gの油性の残留物が得られた(粗収量=93.5%)。生成物はそのまま使用することができる。
【実施例11】
【0113】
例11:アルテミシニンの合成
【0114】
上記の例1〜10(1当量)で調製された化学式(I)または(Ia)の4gのジヒドロアルテミシニン酸(DHAA)誘導体、0.01当量のテトラフェニルポルフィリンおよび80mLの塩化メチレンを20°Cで清潔な0.2リットル反応容器中に入れた。
【0115】
次に混合物を−10°Cまで冷却し、300〜400rpmで攪拌しつつ混合物に空気または酸素をバブリング(40〜50mL/分)した。30分後、トリフルオロ酢酸(TFA、0.5当量)を添加し、ハロゲンランプの電源を入れた。
【0116】
混合物を−10°Cで一晩攪拌し(〜19時間)、次に10°Cに加温し(60分)、10°Cで60分間攪拌した。
【0117】
次に、混合物を約60分で20°Cに加温し、次に空気の導入を停止しランプの電源を切ってから、混合物を20°Cで2時間攪拌した。
【0118】
次に、20mLの水の添加に続き20mLの飽和NaHCO水溶液を添加して、反応混合物を処理した。次に、結果得られる混合物をデカンテーションして、二つの層を分離した。次に、有機層を容器に戻し入れ、20mLの水に続き20mLの飽和NaHCO水溶液の添加によって再び洗浄した。デカンテーションと層分離の後、有機層を20mlの水で洗浄した。
【0119】
デカンテーションの後、次に有機層をロータリーエバポレーターを用いて30°Cで漸次的真空下で濃縮させた。乾燥した生成物は室温で結晶化した。次に、12mLのn−ヘプタンを添加し20°Cで混合物を1時間攪拌した。
【0120】
次に、反応混合物をブフナー漏斗(n°3)で濾過した。次に、濡れた固体を8mL、その次に12mLのn−ヘプタンで洗浄した。
【0121】
次に、濡れた固体を真空下で、40°Cで一晩(〜15時間)乾燥させた。
良好な滴定収率(62%ti/ti)で粗アルテミシニンが得られた。
【0122】
希望する場合、n−ヘプタンで沈殿した固体生成物に対して、エタノール/水混合物(70/30)中での追加の再結晶化ステップを実施することができる。そのようにして得られたアルテミシニンは優れた純度があり、再結晶化の収率は90%以上である。
【実施例12】
【0123】
例12:アルテミシニンの合成
上記例3において調製された化学式(I)または(Ia)の混合炭酸塩誘導体(100g、1当量)のジクロロメタン(550mL)溶液および0.00031当量のテトラフェニルポルフィリンを、清潔な反応容器内に20°Cで導入した。
【0124】
次に混合物を−10°Cまで冷却し、200rpmで攪拌しつつ混合物に空気または酸素をバブリング(260〜300mL/分)した。30分後、水銀ランプの電源を入れ、トリフルオロ酢酸(TFA、0.5当量)が添加された。
【0125】
混合物を−10°Cで7時間攪拌し、空気の導入を停止し、ランプの電源を切った。
【0126】
次に、反応混合物を30分にわたり20°Cまで加温し、20°Cで2時間攪拌した。
【0127】
次に、200mLの水の添加に続き200mLの飽和NaHCO水溶液を添加して、反応混合物を処理した。次に、結果得られる混合物をデカンテーションして、二つの層を分離した。次に、有機層を容器に戻し入れ、200mLの水に続き200mLの飽和NaHCO水溶液の添加によって再び洗浄した。デカンテーションと層分離の後、有機層を200mlの水で洗浄した。
【0128】
デカンテーションの後、次に有機層をロータリーエバポレーターを用いて30°Cで漸次的真空下で濃縮させた。乾燥した生成物は室温で結晶化した。次に、300mLのn−ヘプタンおよび30mLのエチルアルコールが添加された。結果得られる混合物は50°Cで1時間攪拌された。反応混合物を20°Cにまで1時間冷却し、20°Cで30分間攪拌した。
【0129】
次に、反応混合物をブフナー漏斗(n°3)で濾過した。次に、濡れた固体を200mLのn−ヘプタンで洗浄した。
【0130】
次に、濡れた固体を真空下で、40°Cで一晩(〜15時間)乾燥させた。
【0131】
例11の追加の再結晶化ステップがない場合に、得られた高純度のアルテミシニンの収率は51%であった。
【実施例13】
【0132】
例13:アルテミシニンの合成
【0133】
上記例3(650g−93%アッセイ、1当量)において調製された化学式(I)または(Ia)の混合炭酸塩誘導体のジクロロメタン(4L)溶液および0.00027当量のテトラフェニルポルフィリンを、清潔な反応容器内に20°Cで導入した。
【0134】
次に混合物を−10°Cまで冷却し、攪拌しつつ混合物に空気または酸素をバブリング(900mL/分)した。30分後、水銀ランプの電源を入れ、トリフルオロ酢酸(TFA、0.5当量)が添加された。
【0135】
次に、混合物を−10°Cで一晩攪拌した。次に、反応混合物を40分にわたり20°Cまで加温し、次に空気の導入を停止しランプの電源を切った。
【0136】
次に、650mLの水の添加に続き1300mLの飽和NaHCO水溶液を添加して、反応混合物を処理した。次に、結果得られる混合物をデカンテーションして、二つの層を分離した。次に、有機層を容器に戻し入れ、650mLの水に続き650mLの飽和NaHCO水溶液の添加によって再び洗浄した。デカンテーションと層分離の後、有機層を1300mlの水で最終洗浄した。
【0137】
デカンテーションの後、次に有機層を30°Cで漸次的真空下で濃縮させ、1950mLのn−ヘプタンを添加した。濃度は、残留するジクロロメタンを除去するための一定容積で求められた。195mLのエチルアルコールが次に添加された。結果得られる混合物は50°Cで1時間攪拌された。反応混合物を20°Cにまで2時間冷却し、20°Cで1時間攪拌した。
【0138】
次に、反応混合物をブフナー漏斗(n°3)で濾過した。次に、濡れた固体を1300mLのn−ヘプタンで洗浄した。
【0139】
次に、濡れた固体を真空下で40°Cで乾燥させた。
【0140】
例11の追加の再結晶化ステップがない場合に、得られた高純度のアルテミシニンの収率は56%であった。
【0141】
活性化DHAA誘導体(例1〜10)を使用して得られた粗アルテミシニンの滴定収率を、下記の表1に示す。
【0142】
【表1】
【0143】
結果は、本過程に従って活性化DHAA誘導体を使用して得られたアルテミシニンの収率は、得られるアルテミシニンの収率は最大限でも30%であると開示している『Tetrahedron Lett.1993,4435−4438』に記述されているものなど、先行技術の過程でDHAAメチルエステル類を使用した場合に文献で得られている収率よりも、顕著に高い。