【実施例】
【0033】
以下に実施例を示すが、本発明は以下の実施例に限られるものではない。
【0034】
(原料樹脂類)
1分子中に2つのエポキシ基を有し、かつナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂として、1,6−ジヒドロキシナフタレンのジグリシジルエーテル型エポキシ化物(エポキシ当量143.8g/eq、n=1成分含有量5.23面積%、オリゴマー成分含有量3.23面積%)、市販品の1,6−ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂(新日鐵化学株式会社製ZX−1711(エポキシ当量147.0g/eq、n=1成分含有量6.63面積%、オリゴマー成分含有量7.32面積%))およびZX−1711の蒸留品(エポキシ当量139.5g/eq、n=1成分含有量0.05面積%、オリゴマー成分含有量0.00面積%)、2,7−ジヒドロキシナフタレンのジグリシジルエーテル型エポキシ化物(エポキシ当量145.0g/eq、n=1成分含有量6.54面積%、オリゴマー成分含有量1.67面積%)を用いた。1分子中に2つのフェノール性水酸基を有する化合物として、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ビスフェノールAを用いた。その他のエポキシ樹脂として、新日鐵化学株式会社製YD−128(BPA型液状エポキシ樹脂、エポキシ当量188g/eq)を用いた。また、アミン系硬化剤として日本カーバイド株式会社製DYHARD−III(ジシアンジアミド、活性水素当量21.1g/eq)を用いた。さらに、特に記載のないものについては一般に入手が可能な試薬を用いた。
【0035】
(原料エポキシ分析方法)
エポキシ樹脂の原料評価にはゲルパーミエーションクロマトグラフィを用いて分析した。具体的には東ソー株式会社製HLC−8220本体に、東ソー株式会社製のカラム、TSKgel G2000HXL、TSKgel G2000HXL、TSKgel G1000HXLを直列に備えたものを使用した。また、溶離液はテトラヒドロフランとし、流速は1ml/minとした。カラム室の温度を40℃にした。検出はRI検出器を用いて測定をおこなった。n=1成分含有量およびオリゴマー成分含有量は以下の式で計算により求めた値で単位は面積%である。
n=1成分含有量 =(
図1におけるピーク(S)の面積)/(
図1における総ピーク面積)×100%
オリゴマー成分含有量 =(
図1におけるピーク(T)、ピーク(U)、およびピーク(V)の面積の和)/(
図1における総ピーク面積)×100%
【0036】
(高分子量エポキシ樹脂分析方法)
高分子量エポキシ樹脂の重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィを用いて分析した。具体的には東ソー株式会社製HLC−8320本体に、東ソー株式会社製のカラム、TSK−gel GMH
XL、TSK−gel GMH
XL、TSK−gel G2000H
XLを直列に備えたものを使用した。また、溶離液はテトラヒドロフランとし、流速は1ml/minとした。カラム室の温度を40℃にした。検出はRI検出器を使用し、測定をおこなった。重量平均分子量は標準ポリスチレン検量線を用いて求めた。
〔合成例1〕
【0037】
攪拌機、窒素吹きこみ口、減圧装置と冷却器と油水分離槽を備えた還流口、アルカリ金属水酸化物水溶液滴下口を備えたセパラブルフラスコに1,6−ジヒドロキシナフタレン300重量部、エピクロルヒドリンを1387.5重量部、ハイソルブMDMを208.1重量部仕込み、窒素パージの後60℃まで昇温、溶解したのちに水酸化ナトリウム48.8重量%水溶液を31.1重量部、発熱に注意しながら仕込み、1時間反応した。その後窒素の導入を停止し、160Torr、63℃の条件で、水酸化ナトリウム48.8重量%水溶液を290.0重量部を8時間かけて滴下した。滴下が終了したら150℃まで昇温し、さらに10Torrまで減圧してエピクロルヒドリンとハイソルブMDMを留去した。得られた樹脂にトルエンを加えたのち珪藻土を用いて濾過し、水酸化ナトリウム0.1重量%水溶液重量部にて洗浄後油水分離して水相を取り除いた。さらに水を加えて洗浄後、油水分離して水相を取り除いた。得られた樹脂溶液から水とトルエンを取り除き、1,6−ジヒドロキシナフタレンのジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂a1を得た。得られた樹脂は褐色液状であり、そのエポキシ当量は143.8g/eqであり、n=1成分含有量は5.23面積%、オリゴマー成分含有量は3.23面積%であった。
〔合成例2〕
【0038】
2,7−ジヒドロキシナフタレンを用いた他は合成例1と同様の手順で合成をおこない、2,7−ジヒドロキシナフタレンのジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を得た。得られた樹脂は褐色液状であるが、結晶性を有しており、白色の固体となった。また、そのエポキシ当量は145.0g/eqであり、n=1成分含有量は6.54面積%、オリゴマー成分含有量は1.67面積%であった。
〔合成例3〕
【0039】
新日鐵化学株式会社製ZX−1711を蒸留し、1,6−ジヒドロキシナフタレンジグリシジルエーテルを得た。得られた樹脂は無色透明の液状であり、そのエポキシ当量は139.5g/eqであり、n=1成分含有量は0.05面積%であり、オリゴマー成分含有量は0.00面積%であった。
〔実施例1〕
【0040】
攪拌機、冷却管、温度計、窒素吹きこみ口を備えたセパラブルフラスコに、合成例1で得られた1,6−ジヒドロキシナフタレンのジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を61.2重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニルを38.8重量部、シクロヘキサノンを25重量部仕込み、145℃まで昇温、溶解して1時間撹拌した。その後反応触媒としてトリス−(2,6−ジメトキシフェニル)ホスフィンを0.1重量部仕込み、165℃まで昇温した。反応の進行とともに反応溶液の粘度が上昇するが、適宜シクロヘキサノンを加えて一定のトルクとなるよう撹拌を継続した。また反応はゲルパーミエーションクロマトグラフィにて随時経過を確認し、重量平均分子量が40000前後となったところで反応を終了した。反応終了後、高分子量エポキシ樹脂/シクロヘキサノン/メチルエチルケトン=40/30/30(重量比)となるように希釈し、高分子量エポキシ樹脂溶液A1を得た。得られた樹脂溶液をアルミニウム箔上に塗工、熱風循環式オーブンにて空気雰囲気下180℃にて2時間乾燥した。さらに水酸化ナトリウムの5重量%水溶液を用いてアルミニウム箔を溶解、洗浄した上で100℃で10分乾燥し、厚さ70μmのフィルムA2を得た。
〔実施例2〕
【0041】
ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂として合成例2で得られた2,7−ジヒドロキシナフタレンのジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を56.7重量部、ビスフェノールAを43.3重量部仕込んだ他は実施例1と同様な手順で重量平均分子量が40000前後となったところで反応を終了し高分子量エポキシ樹脂溶液B1およびフィルムB2を得た。
〔比較例1〕
【0042】
ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂として合成例3で得られた1,6−ジヒドロキシナフタレンのジグリシジルエーテルを60.7重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニルを39.3重量部仕込んだ他は実施例1と同様な手順で重量平均分子量が40000前後となったところで反応を終了し高分子量エポキシ樹脂溶液C1およびフィルムC2を得た。
〔比較例2〕
【0043】
ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂として合成例3で得られた1,6−ジヒドロキシナフタレンのジグリシジルエーテルを53.5重量部、4,4’−ジヒドロキシビスフェノールSを46.5重量部仕込んだ他は実施例1と同様な手順で高分子量エポキシ樹脂溶液D1およびフィルムD2を得た。ただし反応は重量平均分子量が18000程度まで上昇したところで反応の進行が著しく遅くなり、また分析用の溶剤にも溶けにくくなっていったので反応を終了した。
〔比較例3〕
【0044】
ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂としてZX−1711を61.9重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニルを38.1重量部仕込んだ他は実施例1と同様な手順で反応をおこなった結果、反応開始より2時間で溶媒に不溶なゲルが生成したため、中断した。
〔比較例4〕
【0045】
新日鐵化学株式会社製高分子量エポキシ樹脂YP−50S(重量平均分子量50000)を100重量部をシクロヘキサノン75重量部、メチルエチルケトン75重量部からなる混合溶液に溶解し、高分子量エポキシ樹脂溶液E1を得た。また、実施例1と同様の手順でフィルムE2を得た。
【0046】
実施例1〜2および比較例1〜4を表2にまとめた。また得られたフィルムの測定は下記に示す方法によって行った。
【0047】
【表2】
【0048】
(破断伸度)
高分子量エポキシ樹脂フィルムを幅10mm×長さ60mmに切り出した。得られたフィルムを180℃で5分間乾燥し、試験片を得た。測定には株式会社島津製作所製オートグラフEZ−Sを用いて、測定長30mmとして試験片の高分子量フェノキシ樹脂の破断伸度と最大点応力を測定した。なお、このときの引っ張り速度は1mm/minとした。
【0049】
(熱機械的測定)
高分子量エポキシ樹脂フィルムの熱機械的測定の測定はエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製TMA7100を用いておこなった。高分子量エポキシ樹脂フィルムを幅4mm×長さ30mmに切り出した。測定モードは引っ張りとし、引っ張り加重は0.14MPa、測定長は10mmとした。測定温度範囲は室温から240℃とした。昇温速度は5℃/minとした。熱膨張における変曲点の外挿点をTg(TMA)とし、Tg(TMA)よりも低温側の線膨張率(CTE;Coefficient of Thermal Expansion)をα1とした。
【0050】
(示差走査熱量測定)
高分子量エポキシ樹脂の示差走査熱量測定の測定はエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製DSC6200を用いておこなった。高分子量エポキシ樹脂フィルムをパンチングし、積層、アルミニウム製カプセルにパッキングしたものを測定試料とした。測定温度範囲は室温から240℃とした。昇温速度は10℃/minとした。測定は2サイクルおこない、2サイクル目に得られたDSCチャートより、補外ガラス転移開始温度(Tig)を高分子量エポキシ樹脂のTg(DSC)とした。
【0051】
表2に示すとおり、実施例1,実施例2のナフタレン骨格を含有する高分子量エポキシ樹脂は比較例4と比べてTgが高く、低線膨張性を有することがわかった。また、実施例1,実施例2は比較例1、比較例2と比べて破断伸度が大きい。なお、比較例1と比較例4で、破断伸度に有意差はなく、多環芳香族があれば破断伸度が高い、すなわちフィルム形成性に優れるものではないという結果を得た。
〔実施例3〜実施例4及び比較例5〜比較例6〕
【0052】
硬化性樹脂組成物の配合ついて下記に示す。
まず、ジシアンジアミドは次に示す条件にて調製した硬化剤溶液として配合した。ジシアンジアミドが4重量部を、N,N−ジメチルホルムアミドが15重量部、2−メトキシエタノールが15重量部からなる混合溶媒に溶解し、ジシアンジアミド溶液を得た。また、2−メトキシエタノール50重量部、メチルエチルケトン50重量部を混合し、希釈溶液を得た。固形分換算で表3記載の条件となるように高分子量エポキシ樹脂溶液とYD−128とジシアンジアミド溶液、および2−エチル−4−メチルイミダゾールを配合し、さらに不揮発分が40重量%になるように希釈溶液を加えた。
【0053】
実施例3〜実施例4及び比較例5〜比較例6を表3にまとめた。また得られたフィルムの測定は下記に示す方法によって行った。
【0054】
【表3】
【0055】
(硬化フィルムの作成)
得られた硬化性樹脂組成物溶液をアルミニウム箔に塗布後硬化し、厚さが70μmの硬化フィルムを作成した。これを150℃で1時間乾燥した後、180℃で2時間、0.1kPaの条件で硬化をおこない、アルミニウム箔付き硬化フィルムを得た。
【0056】
(熱機械的測定)
硬化フィルムの熱機械的測定はエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製TMASS7100を用いておこなった。アルミニウム箔付き硬化フィルムを4mm×30mmの大きさに切りだし、5重量%の水酸化ナトリウム水溶液にてアルミニウム箔を溶解してフィルムを得た。さらにこれを200℃のオーブンで5分間加熱し、試験片を得た。測定温度範囲は室温から240℃とした。昇温速度は5℃/minとした。引っ張り加重は0.14MPaとした。得られたTMA曲線の傾きが変わる外挿点を硬化フィルムのTg(TMA)とした。
【0057】
(示差走査熱量測定)
硬化フィルムの示差走査熱量測定におけるTgは、樹脂厚25μmのアルミニウム箔付き硬化フィルム用いた他は、高分子量エポキシ樹脂における示差操作熱量測定と同じ方法にて測定をおこない、硬化フィルムのTg(DSC)とした。
【0058】
(動的粘弾性測定)
動的粘弾性測定はエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製DMA120を用いておこなった。樹脂厚75μmのアルミニウム箔付き硬化フィルムを10mm×60mmの大きさに切りだし、5重量%の水酸化ナトリウム水溶液にてアルミニウム箔を溶解してフィルムを得た。さらにこれを200℃のオーブンで5分間加熱し、試験片を得た。測定温度範囲は室温から280℃とした。昇温速度は2℃/minとした。測定モードはずりモードとし、また、測定周波数は10Hzで固定しておこなった。測定により得られた貯蔵弾性率(E′)曲線より、貯蔵弾性率が低下し始める外挿点の温度をDMAE′による硬化フィルムのTgとした。また、貯蔵弾性率( (E′)と損失弾性率(E″)の比(E″/ E′)の最大値の温度をDMAtanδによる硬化フィルムのTgとした。
【0059】
(銅箔引きはがし強さ試験)
銅箔引きはがし強さ試験の試験片作製方法を以下に示す。まずサンドブラストした鉄板をメチルエチルケトンにて脱脂処理をし、乾燥後の樹脂厚が12μmとなるように、得られた硬化性樹脂組成物を塗布した。同様に、三井金属鉱業株式会社製銅箔3EC−III(35μm)もメチルエチルケトンでの脱脂処理をおこなったのち、銅箔マット面に乾燥後の樹脂厚が12μmとなるように硬化性樹脂組成物を塗布した。これを150℃のオーブンで5分間加熱乾燥し、樹脂面同士を張り合わせた。同様の方法で、サンドブラストした鉄板と銅箔シャイニー面のそれぞれをメチルエチルケトンにて脱脂処理した後に乾燥後の樹脂厚が12μmとなるように硬化性樹脂組成物を塗布し、150℃のオーブンで5分間加熱乾燥して樹脂面同士を張り合わせた。これを真空状態で170℃、2MPaの条件で加熱圧着して硬化物を得た。この硬化物の銅箔を、JIS−C−6481に記載されている銅箔引きはがし強さ試験片と同様の形状に切り出し、試験片を得た。これを株式会社島津製作所製オートグラフEZ−Sにて銅箔マット面およびシャイニー面それぞれの引きはがし強さを測定した。
【0060】
(硬化フィルムの破断伸度)
硬化フィルムの引っ張り強さと破断伸度はアルミニウム箔付き硬化フィルムを5重量%の水酸化ナトリウム水溶液にてアルミニウム箔を溶解したのち洗浄して乾燥したものを用いた他は、高分子量エポキシ樹脂フィルムと同様の方法で破断伸度と破断点の応力を測定した。
【0061】
表3は高分子量エポキシ樹脂(C)以外のエポキシ樹脂、硬化剤および硬化促進剤を共通としており、高分子量エポキシ樹脂(C)成分の影響を比較しやすくしたものである。本発明により得られた高分子量エポキシ樹脂(C)を用いて得られる硬化物は低線膨張性に優れ、硬化物に伸び性を付与できる結果となった。詳細については以下に記載する。
【0062】
(表3・硬化フィルムのガラス転移温度について)
ガラス転移温度は骨格に依存するものであり、骨格が同一である実施例3と比較例4は同等な値を得た。実施例4と比較例5を比較した場合、多環芳香族を含有する実施例4は20℃程度高い値を示した。
【0063】
(表3・低線膨張性について)
線膨張率については高分子量エポキシ樹脂(C)の線膨張率の結果を反映した結果となり、多環芳香族を含有するものは小さな値となり、多環芳香族を含有しないものは大きな値であるという結果を得た。
【0064】
(表3・破断伸度と最大点応力について)
実施例3と比較例4は骨格が同一であり、ガラス転移温度や線膨張率において同一の物性を示すことがわかったが、破断伸度においては実施例3で40%、比較例4で13%と大きく異なる値を示した。この原因についても明らかではないが、実施例1で得られた樹脂には原料にオリゴマー成分が含まれるのに対して、比較例1で得られた樹脂にはオリゴマー成分が含まれないことから、この違いにより差異が生まれたのではないかと推測できる。