(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
<光学部材>
本発明の光学部材は、テラヘルツ波を取り扱う光学系に用いられる光学部材であって、ピッチが使用波長以下の複数の凸部からなる反射防止構造を表面に有し、凸部がフッ素樹脂からなるものである。具体的には、フッ素樹脂基材の表面に複数の凸部からなる反射防止構造が形成されたものであり、フッ素樹脂基材の裏面側に支持基材を有していてもよい。
【0012】
(フッ素樹脂)
フッ素樹脂としては、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ビニルエーテル−クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等が挙げられ、屈折率が低い点から、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体またはETFEが好ましく、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体が特に好ましい。
【0013】
主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体は、無定形または非結晶性の重合体である。
主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有するとは、重合体における含フッ素脂肪族環の環を構成する炭素原子の1個以上が重合体の主鎖を構成する炭素原子であることをいう。含フッ素脂肪族環の環を構成する原子は、炭素原子以外に酸素原子、窒素原子等を含んでいてもよい。含フッ素脂肪族環としては、1〜2個の酸素原子を有する含フッ素脂肪族環が好ましい。含フッ素脂肪族環を構成する原子の数は、4〜7個が好ましい。
【0014】
主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体は、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体を形成し得る含フッ素単量体を含む単量体成分を重合して得られる。該含フッ素単量体としては、炭素−炭素二重結合および含フッ素脂肪族環構造を有し、かつ炭素−炭素二重結合を構成する少なくとも1つの炭素原子が含フッ素脂肪族環構造の一部を構成する環状単量体、炭素−炭素二重結合を2つ有する線状のジエン系単量体が挙げられる。
【0015】
主鎖を構成する炭素原子は、環状単量体を重合させて得た重合体である場合には炭素−炭素二重結合の炭素原子に由来し、ジエン系単量体を環化重合させて得た重合体である場合には2個の炭素−炭素二重結合の4個の炭素原子に由来する。
【0016】
環状単量体およびジエン系単量体において、炭素原子に結合した水素原子および炭素原子に結合したフッ素原子の合計数に対する炭素原子に結合したフッ素原子の数の割合は、それぞれ、80%以上が好ましく、100%が特に好ましい。
【0017】
環状単量体としては、化合物(1)または化合物(2)が好ましい
【0019】
ただし、X
1は、フッ素原子または炭素原子数1〜3のペルフルオロアルコキシ基を示し、R
1およびR
2は、それぞれフッ素原子または炭素原子数1〜6のペルフルオロアルキル基を示し、X
2およびX
3は、それぞれフッ素原子または炭素原子数1〜9のペルフルオロアルキル基を示す。
【0020】
化合物(1)の具体例としては、化合物(1−1)〜(1−3)が挙げられる。
【0022】
化合物(2)の具体例としては、化合物(2−1)〜(2−2)が挙げられる。
【0024】
ジエン系単量体としては、化合物(3)が好ましい。
CF
2=CF−Q−CF=CF
2 ・・・(3)。
ただし、Qは、炭素原子数1〜3のペルフルオロアルキレン基(エーテル性酸素原子を有していてもよい。)を示す。エーテル性酸素原子を有するペルフルオロアルキレン基である場合、エーテル性酸素原子は該基の一方の末端に存在していてもよく、該基の両末端に存在していてもよく、該基の炭素原子の間に存在していてもよい。環化重合性の点からは、該基の一方の末端に存在しているのが好ましい。
【0025】
化合物(3)の環化重合により、下式(I)〜(III)のうちの1種以上のモノマー単位を有する含フッ素重合体が得られる。
【0027】
化合物(3)の具体例としては、化合物(3−1)〜(3−9)が挙げられる。
CF
2=CFOCF
2CF=CF
2 ・・・(3−1)、
CF
2=CFOCF(CF
3)CF=CF
2 ・・・(3−2)、
CF
2=CFOCF
2CF
2CF=CF
2 ・・・(3−3)、
CF
2=CFOCF(CF
3)CF
2CF=CF
2 ・・・(3−4)、
CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)CF=CF
2 ・・・(3−5)、
CF
2=CFOCF
2OCF=CF
2 ・・・(3−6)、
CF
2=CFOC(CF
3)
2OCF=CF
2 ・・・(3−7)、
CF
2=CFCF
2CF=CF
2 ・・・(3−8)、
CF
2=CFCF
2CF
2CF=CF
2 ・・・(3−9)。
【0028】
主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体において、全モノマー単位(100モル%)に対する含フッ素脂肪族環構造を有するモノマー単位の割合は、20モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましく、100モル%が特に好ましい。含フッ素脂肪族環構造を有するモノマー単位とは、環状単量体の重合により形成されたモノマー単位、またはジエン系単量体の環化重合により形成されたモノマー単位である。
【0029】
(フッ素樹脂基材)
フッ素樹脂基材の材料は、上述したフッ素樹脂である。
フッ素樹脂基材の形状としては、フィルム状、シート状、平板状、曲板状、半球状等が挙げられる。
フッ素樹脂基材の厚さは、光学部材の用途に応じて適宜設計すればよい。
【0030】
(凸部)
凸部としては、フッ素樹脂基材の表面に延在する長尺の凸条、フッ素樹脂基材の表面に点在する突起等が挙げられる。
凸条の形状としては、直線、曲線、折れ曲がり形状等が挙げられ、反射防止の点から、直線が好ましい。凸条は、反射防止の点から、複数が平行に存在して縞状をなしていることが好ましい。
凸条の長手方向に直交する断面の形状としては、三角形、台形、長方形、半円形等が挙げられ、反射防止の点から、三角形または台形が好ましい。
突起の形状としては、円錐形、角錐形、角錐台形、角柱形、円柱形、半球形等が挙げられ、反射防止の点から、円錐形、角錐形または角錐台形が好ましい。
【0031】
凸部のピッチPは、光学部材が用いられる光学系で取り扱うテラヘルツ波の波長、すなわち使用波長以下であり、回折光の発生を抑える点からは、300μm未満が好ましく、テラヘルツ波の反射率を低く抑える点からは、150μm以下がより好ましい。凸部のピッチPは、凸部の成形性の点、テラヘルツ波の反射率の波長依存性や入射角依存性が小さくなる点からは、50μm以上がより好ましい。
凸部のピッチPとは、凸部の底部の幅と、凸部間に形成される溝の底部の幅との合計である。
【0032】
凸部のアスペクト比(凸部の高さH/凸部のピッチP)は、凸部の成形性および耐擦傷性の点からは、1.3以下が好ましく、1.2以下がより好ましい。凸部のアスペクト比は、テラヘルツ波の反射率を低く抑える点からは、1.0以上が好ましく、1.05以上がより好ましい。
【0033】
凸部の底部の幅Wは、凸部が隙間なく配列している場合は、凸部のピッチPと同じになる。凸部の底部の幅Wは、凸部のピッチPに対して、0.5〜1倍が好ましく、1倍が特に好ましい。
凸部の底部の幅Wとは、凸条の場合は、長手方向に直交する断面における底辺の長さであり、突起の場合は、突起の底面における最大長さである。
【0034】
(支持基材)
支持基材の材料としては、従来のテラヘルツ波用の光学部材の材料として用いられているものが挙げられ、たとえば、高抵抗シリコン、ガリウム−ゲルマニウム合金、合成石英、樹脂(ポリエチレン、ポリフルオロエチレン等)等が挙げられる。
支持基材の形状としては、フィルム状、シート状、平板状、曲板状、半球状等が挙げられる。
支持基材の厚さは、光学部材の用途に応じて適宜設計すればよい。
【0035】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の光学部材の一例を示す斜視図である。
光学部材10は、フィルム状のフッ素樹脂基材12の表面に、互いに平行にかつ所定のピッチPで形成された、長さ方向に直交する断面の形状が三角形の複数の凸条14(凸部)からなる反射防止構造を有するものである。複数の凸条14間には、断面V字形の溝が形成される。凸条14とフッ素樹脂基材12とは、一体化しており、同じフッ素樹脂からなる。また、凸条14のピッチPは、光学部材の使用波長以下である。
【0036】
(第2の実施形態)
図2は、本発明の光学部材の一例を示す斜視図である。
光学部材11は、板状の支持基材20の表面に形成されたフッ素樹脂膜22(フッ素樹脂基材)の表面に、互いに平行にかつ所定のピッチPで形成された、長さ方向に直交する断面の形状が三角形の複数の凸条14(凸部)からなる反射防止構造を有するものである。複数の凸条14間には、断面V字形の溝が形成される。凸条14とフッ素樹脂膜22とは、一体化しており、同じフッ素樹脂からなる。支持基材20は、高抵抗シリコン等からなる。また、凸条14のピッチPは、光学部材の使用波長以下である。
【0037】
(光学部材の製造方法)
本発明の光学部材を製造する方法としては、たとえば、下記の方法(α)〜(δ)が挙げられる。
【0038】
(α)光学部材の凸部を反転させた凹部を有するモールドの表面に、フッ素樹脂を形成し得る単量体を含む光硬化性組成物を塗布した状態(またはモールドと支持基材との間に光硬化性組成物を挟持した状態)にて、光硬化性組成物に放射線(紫外線、電子線等)を照射し、光硬化性組成物を硬化させ、モールドの凹部に対応する複数の凸部からなる反射防止構造をフッ素樹脂基材(またはフッ素樹脂膜)の表面に有する光学部材を得る方法(光インプリント法)。
【0039】
(β)フッ素樹脂基材(または支持基材の表面に形成されたフッ素樹脂膜)に、光学部材の凸部を反転させた凹部を有するモールドを、フッ素樹脂基材(またはフッ素樹脂膜)およびモールドの一方または両方を加熱した状態にて押し付け、モールドの凹部に対応する複数の凸部からなる反射防止構造をフッ素樹脂基材(またはフッ素樹脂膜)の表面に有する光学部材を得る方法(熱インプリント法)。
【0040】
(γ)光学部材の凸部を反転させた凹部を有するモールドのキャビティ内に、溶融したフッ素樹脂を射出した後、冷却して、モールドの凹部に対応する複数の凸部からなる反射防止構造をフッ素樹脂基材の表面に有する光学部材を得る方法(射出成形法)。
【0041】
(δ)光学部材の凸部を反転させた凹部を有するモールドの表面に、フッ素樹脂を溶媒に溶解した塗布液を塗布した後、溶媒を揮発させて、モールドの凹部に対応する複数の凸部からなる反射防止構造をフッ素樹脂基材の表面に有する光学部材を得る方法(キャスト法)。
【0042】
(作用効果)
以上説明した本発明の光学部材にあっては、ピッチが使用波長以下の複数の凸部からなる反射防止構造を表面に有しているため、テラヘルツ波の反射率が低く抑えられ、テラヘルツ波の透過率が高くなる。また、凸部が、従来の高抵抗シリコン等比べ、屈折率が充分に低いフッ素樹脂からなるため、反射防止構造と空気との界面における屈折率の差が小さくなり、テラヘルツ波の透過率がさらに高くなる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
例1〜8は実施例であり、例9、10は比較例である。
【0044】
(透過率)
テラヘルツ分光装置(ニコン社製)を用い、波長150μm、500μmにおける透過率を測定し、下記の基準にて評価した。
○:透過率が80%以上。
×:透過率が80%未満。
【0045】
(加工性)
フッ素樹脂フィルムまたはフッ素樹脂膜の表面の断面三角形の凸条のサイズを、触針式表面形状測定機(Dektak150 Ulvac社製)で測定し、下記の基準にて評価した。
○:モールドの表面の断面V字形の溝のサイズと、フッ素樹脂フィルムまたはフッ素樹脂膜の表面の凸条のサイズが同じ。
×:モールドの表面の断面V字形の溝のサイズと、フッ素樹脂フィルムまたはフッ素樹脂膜の表面の凸条のサイズが異なる。
【0046】
(耐擦傷性)
約10mmφの大きさにまとめ、表面が均一になるようにカットし、摩擦して均した#0000のスチールウールを、フッ素樹脂フィルムまたはフッ素樹脂膜の表面に、500gの荷重で押し付けながら、ストローク幅:25mm、速度:30mm/secにて10回往復させた後、フッ素樹脂フィルムまたはフッ素樹脂膜の表面を、触針式表面形状測定機(Dektak150 Ulvac社製)で観察し、下記の基準にて評価した。
○:フッ素樹脂フィルムまたはフッ素樹脂膜の表面の凸条の形状に変化なし。
×:フッ素樹脂フィルムまたはフッ素樹脂膜の表面の凸条の形状に変化あり。
【0047】
(モールドの作製)
4インチφ、厚さ:1mmの石英基板(旭硝子社製、AQ)の片面にダイシングソーを用いて同一方向に延びる複数の断面V字形の溝を形成した。
【0048】
(フッ素樹脂フィルムの作製)
CF
2=CFOCF
2CF=CF
2の単独重合体(旭硝子社製、サイトップ(登録商標)、波長150μmにおける屈折率:1.5)の3gを、200℃にてプレス成型し、無色透明のフッ素樹脂フィルム(70mm×70mm×500μm)を得た。
【0049】
(フッ素樹脂膜を表面に有するシリコンウエハの作製)
シランカップリング剤(信越シリコーン社製、KBE903)の0.5gを混合溶媒(水:400mL、エタノール:600mL)の中に滴下し、2時間室温で撹拌した。シランカップリング溶液を、4インチφ、厚さ:535μmの高抵抗シリコンウエハ(信越化学社製、波長150μmにおける屈折率:3.4)の表面にスピンコート法により塗布し、115℃で40分熱処理した。該シリコンウエハの表面に、フッ素樹脂(旭硝子社製、サイトップ(登録商標)CTX−807AP、波長150μmにおける屈折率:1.49)の溶液(固形分濃度:7質量%)をスピンコート法により塗布し、180℃で1時間熱処理し、シリコンウエハの表面に厚さ:150μmのフッ素樹脂膜を形成した。
【0050】
〔例1〕
ナノインプリント装置(東芝機械社製、ST−50)のプレス部の下側の面板に、フッ素樹脂フィルムを取り付け、130℃に加熱した。該装置のプレス部の上側の面板に、モールドの表面の断面V字形の溝が下側の面板に向くようにモールドを取り付け、120℃に加熱した。モールドを、10MPaの圧力(ゲージ圧)でフッ素樹脂フィルムに押し付け、そのまま5分間保持した。フッ素樹脂フィルムを80℃に冷却してからモールドを剥離し、モールドの断面V字形の溝が反転した断面三角形の複数の凸条からなる反射防止構造が形成されたフッ素樹脂フィルムを得た。
モールドの溝のサイズ、フッ素樹脂フィルムの凸条のサイズ、反射防止構造が形成されたフッ素樹脂フィルムの透過率、加工性、耐擦傷性を表1にまとめた。
【0051】
〔例2〜4〕
モールドの溝のサイズを変更した以外は、例1と同様にして反射防止構造を表面に有するフッ素樹脂フィルムを得た。
モールドの溝のサイズ(ピッチP(単位:μm)、高さH(単位:μm)、H/P)、フッ素樹脂フィルムの凸条のサイズ(ピッチP(単位:μm)、高さH(単位:μm)、H/P)、反射防止構造が形成されたフッ素樹脂フィルムの透過率、加工性、耐擦傷性を表1にまとめた。
【0052】
〔例5〕
ナノインプリント装置のプレス部の下側の面板に、フッ素樹脂膜を表面に有するシリコンウエハを取り付けた以外は、例1と同様にして反射防止構造が形成されたフッ素樹脂膜を表面に有するシリコンウエハを得た。
モールドの溝のサイズ、フッ素樹脂膜の凸条のサイズ、反射防止構造が形成されたフッ素樹脂膜を表面に有するシリコンウエハの透過率、フッ素樹脂膜の加工性、耐擦傷性を表1にまとめた。
【0053】
〔例6〜8〕
モールドの溝のサイズを変更した以外は、例1と同様にして反射防止構造を表面に有するフッ素樹脂フィルムを得た。
モールドの溝のサイズ、フッ素樹脂フィルムの凸条のサイズ、反射防止構造が形成されたフッ素樹脂フィルムの透過率、加工性、耐擦傷性を表1にまとめた。
【0054】
〔例9〕
4インチφ、厚さ:535mmの高抵抗シリコンウエハ(信越化学社製、波長150μmにおける屈折率:3.4)の片面にダイシングソーを用いて同一方向に延びる複数の断面V字形の溝を形成し、反射防止構造を表面に有するシリコンウエハを得た。
シリコンウエハの凸条のサイズ、シリコンウエハの透過率を表1にまとめた。
【0055】
〔例10〕
溝のサイズを変更した以外は、例1と同様にして反射防止構造を表面に有するシリコンウエハを得た。
シリコンウエハの凸条のサイズ、シリコンウエハの透過率を表1にまとめた。
【0056】
【表1】