(54)【発明の名称】低屈折率膜及びその製造方法、反射防止膜及びその製造方法、低屈折率膜用コーティング液セット、微粒子積層薄膜付き基材及びその製造方法、並びに光学部材
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
固体基材が、レンチキュラーレンズ、フレネルレンズ、プリズム、マイクロレンズアレイ、導光性微細構造、光拡散性微細構造、及びホログラムのうちのいずれかを得るための微細構造を表面に有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の低屈折率膜の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0080】
<低屈折率膜及びその製造方法、低屈折率膜用コーティング液セット>
本発明の低屈折率膜は、第1の態様によると、固体基材の表面に電解質ポリマー及び微粒子を交互に吸着させて形成した微粒子積層膜に、珪素化合物溶液を接触させ、前記固体基材と前記微粒子、及び前記微粒子同士を結合させてなる低屈折率膜であって、前記珪素化合物溶液が、(1)官能基が加水分解性基と非加水分解性の有機基とからなるアルコキシシラン(I)の加水分解物およびその加水分解物の縮合反応物、(2)前記アルコキシシラン(I)と官能基が加水分解性基のみからなるアルコキシシラン(II)との混合物の加水分解物およびその加水分解物の縮合反応物、及び(3)前記アルコキシシラン(I)の加水分解物およびその加水分解物の縮合反応物と前記アルコキシシラン(II)との混合物のうちのいずれかを含むことを特徴としている。
本発明の低屈折率膜は、第2の態様によると、固体基材の表面に電解質ポリマー及び微粒子を交互に吸着させて形成した微粒子積層膜に、珪素化合物溶液を接触させ、前記固体基材と微粒子、及び微粒子同士を結合させてなる低屈折率膜であって、前記珪素化合物溶液が、(1)官能基が加水分解性基のみからなるアルコキシシラン(I)、(2)アルコキシシラン(I)の加水分解物及びその加水分解物の縮合反応物(II)、及び(3)前記アルコキシシラン(I)と前記加水分解物及びその加水分解物の縮合反応物(II)との混合物のうちのいずれかを含み、前記固体基材が微細構造を表面に有することを特徴としている。
また、本発明の反射防止膜は、本発明の低屈折率膜を含むことを特徴としている。
【0081】
また、本発明の低屈折率膜の製造方法は、第1の態様によると、固体基材の表面に形成される低屈折率膜の製造方法であって、(i)固体基材の表面に電解質ポリマー溶液(A液)又は微粒子分散液(B液)を接触させる工程、次いでリンスする工程、(ii)前記A液を接触させた後の固体基材の表面にA液の電解質ポリマーと反対電荷を有する微粒子の分散液を接触させる工程、又は前記B液を接触させた後の固体基材の表面にB液の微粒子と反対電荷を有する電解質ポリマーの溶液を接触させる工程、次いでリンスする工程、(iii)(i)と(ii)を交互に繰り返し微粒子積層膜を形成する工程、及び(iV)微粒子積層膜に、(1)官能基が加水分解性基と非加水分解性の有機基とからなるアルコキシシラン(I)の加水分解物およびその加水分解物の縮合反応物、(2)前記アルコキシシラン(I)と官能基が加水分解性基からなるアルコキシシラン(II)との混合物の加水分解物およびその加水分解物の縮合反応物、及び(3)前記アルコキシシラン(I)の加水分解物およびその加水分解物の縮合反応物と前記アルコキシシラン(II)との混合物のうちのいずれかを含む珪素化合物溶液(C液)を接触させる工程、を含むことを特徴としている。
本発明の低屈折率膜の製造方法は、第2の態様によると、固体基材の表面に形成される低屈折率膜の製造方法であって、(i)固体基材の表面に電解質ポリマー溶液(A液)又は微粒子分散液(B液)を接触させる工程、次いでリンスする工程、(ii)前記A液を接触させた後の固体基材の表面にA液の電解質ポリマーと反対電荷を有する微粒子の分散液を接触させる工程、又は前記B液を接触させた後の固体基材の表面にB液の微粒子と反対電荷を有する電解質ポリマーの溶液を接触させる工程、次いでリンスする工程、(iii)(i)と(ii)を交互に繰り返し微粒子積層膜を形成する工程、及び(iv)微粒子積層膜に、(1)官能基が加水分解性基からなるアルコキシシラン(I)、(2)(I)の加水分解物及びその加水分解物の縮合反応物(II)、及び(3)(I)と(II)の混合物のうちのいずれかを含む珪素化合物の溶液(C液)を接触させる工程、を含み、前記固体基材が微細構造を表面に有することを特徴としている。
【0082】
さらに、本発明の低屈折率膜用コーティング液セットは、第1の態様によると、電解質ポリマー溶液、微粒子分散液、及び珪素化合物溶液からなる低屈折率膜用コーティング液セットであって、前記電解質ポリマー溶液中の電解質ポリマーの有する電荷と、前記微粒子分散液中の微粒子が有する電荷とが反対符号であり、前記珪素化合物溶液が、(1)官能基が加水分解性基と非加水分解性の有機基とからなるアルコキシシラン(I)の加水分解物およびその加水分解物の縮合反応物、(2)前記アルコキシシラン(I)と官能基が加水分解性基からなるアルコキシシラン(II)との混合物の加水分解物およびその加水分解物の縮合反応物、及び(3)前記アルコキシシラン(I)の加水分解物およびその加水分解物の縮合反応物と前記アルコキシシラン(II)との混合物のうちのいずれかを含むことを特徴としている。
本発明の低屈折率膜用コーティング液セットは、第1の態様によると、電解質ポリマー溶液、微粒子分散液、及び珪素化合物溶液からなり、前記電解質ポリマー溶液中の電解質ポリマーの有する電荷と、前記微粒子分散液中の微粒子が有する電荷とが反対符号であり、珪素化合物溶液が、(1)官能基が加水分解性基のみからなるアルコキシシラン(I)、(2)(I)の加水分解物及びその加水分解物の縮合反応物(II)、及び(3)前記アルコキシシラン(I)と前記縮合反応物(II)の混合物のうちのいずれかを含むことを特徴としている。
以下に、本発明の低屈折率膜及びその製造方法、並びに反射防止膜、低屈折率膜用コーティング液セットの実施の形態についてそれぞれを交えて説明する。
【0083】
本発明の低屈折率膜は、光学部材等の固体基材に形成することで反射防止膜、反射膜、半透過半反射膜、可視光反射赤外線透過膜、赤外線反射可視光透過膜、青色反射膜、緑色反射又は赤色反射膜、輝線カットフィルター、色調補正膜に含まれる光学機能膜として機能する。
【0084】
また、液晶用バックライトの輝度向上レンズフィルムや拡散フィルム、ビデオプロジェクションテレビのスクリーンに用いられるフレネルレンズやレンチキュラーレンズ、マイクロレンズ等の光学機能部材のように幾何光学性能を有する微細構造体に対しても、本発明の低屈折率膜は良好に追従する。その結果、本発明の低屈折率膜は微細構造体の幾何光学性能を損なうことなく、光学機能膜として機能する。
【0085】
(A)固体基材
固体基材は平坦でも、それ以外の形状を有してもよい。その形状物は幾何光学的な性能を有する微細構造体であってもよい。微細構造体の例としては、レンチキュラーレンズシート、フレネルレンズシート、プリズムシート、マイクロレンズアレイシート、オンチップマイクロレンズアレイ、導光シート、拡散シート、ホログラムシート、太陽電池が挙げられる。
【0086】
そのため、微細構造の例としては、レンチキュラーレンズ、フレネルレンズ、プリズム、マイクロレンズアレイ、導光性微細構造、光拡散性微細構造、ホログラムを得るための微細構造等が挙げられる。
【0087】
(B)固体基材材料
固体基材上に交互積層法により微粒子積層膜を形成するためには、固体基材がその表面に電荷を有することが必要である。交互積層法を用いて形成した微粒子積層膜が固体基材に密着するためには、固体基材表面に電荷を有する極性基が存在することが望ましい。極性基は分子内に電荷の偏り(分子内分極)を有するため又は解離によりイオンになるため、局所的にプラス又はマイナスの電荷を有する。
【0088】
そして、この極性基の電荷と反対の電荷を有する物質を吸着させる。極性基としては、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、ウレイド基、クロロプロピル基、メルカプト基、スルフィド基、スルホン酸基、リン酸基、イソシアネート基、カルボキシル基、エステル基、カルボニル基、水酸基、シラノール基等の官能基のうち一つ又は二つ以上であることが望ましい。
【0089】
表面に極性基を有する固体基材は、ゼータ電位の絶対値が1〜100mVであることが好ましく、5〜90mVであることがより好ましく、10〜80mVであることがさらに好ましい。
【0090】
固体基材の材質としては樹脂、シリコン等の半導体や金属、無機化合物等が挙げられる。
また、その形状はフィルム、シート、板、曲面を有する形状など任意である。固体基材の一部もしくは全体が筒状、糸状、繊維、発泡体等のように浸漬して溶液が入り込むことができるものであれば微粒子積層膜がその表面に形成されるので使用することができる。
また、断面が凹凸形状を有する固体基材であっても、表面の構造に追従して微粒子積層膜を形成することができる。
さらに、固体基材表面がナノメートルスケールやサブミクロンスケールの構造を有していても、その構造に追従して微粒子積層膜を形成することができる。
【0091】
以上のように、本発明においては、交互積層法により、微細構造体の構造に追従して微粒子積層膜が形成されるため、その後、その微粒子積層膜に珪素化合物溶液を接触させて得られる低屈折率膜も微細構造体に追従し、微細構造体のもたらす拡散性や集光性等の幾何光学的な性能を損なうことがない。
【0092】
上記の樹脂としてはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルであって水酸基又はカルボキシル基を有するもの、カルボキシル基又はアミノ基を有するポリアミド、ポリビニルアルコール、アクリル酸又はメタクリル酸の重合体又は共重合体等が挙げられる。
【0093】
また、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、アセテートブチレートセルロース、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセタール、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリウレタン等を使用することもできる。
【0094】
上記金属としては、鉄、銅、白銅、ブリキ等があり、表面に電荷が存在するように酸化皮膜を形成させる等の処理を施したものである。
また、上記無機化合物としてはガラス、セラミックス等があり、表面に極性基を有するものである。
【0095】
固体基材の表面をコロナ放電処理、グロー放電処理、プラズマ処理、紫外線照射、オゾン処理、アルカリや酸などによる化学的エッチング処理等して極性基を導入してもよい。このような処理により極性基を導入した樹脂を使用してもよい。
【0096】
本発明において、固体基材には、基材上に樹脂膜、無機膜、又は有機材料と無機材料のいずれも含む膜が積層されているものも包含される。それら樹脂膜層、無機膜層、又は有機−無機膜は固体基材のどこに位置してもよく、固体基材の最表面に位置しない場合は極性基を有する必要はない。
【0097】
それら樹脂膜層、無機膜層、又は有機−無機膜は、固体基材に光学機能や機械的特性向上する等の機能を付与してもよく、付与しなくてもよい。固体基材の機械的特性を向上させる層の例としてはハードコート層が挙げられる。
【0098】
光学機能を付与するための膜の例としては、反射防止膜、反射膜、半透過半反射膜、可視光反射赤外線透過膜、赤外線反射可視光透過膜、青色反射膜、緑色反射又は赤色反射膜、輝線カットフィルター、色調補正膜が1つ以上含まれる光学機能膜が挙げられる。これらの光学機能膜を有する固体基材上に低屈折率膜を形成することで、さらに別の光学機能を付与することができる。
【0099】
例えば、反射防止機能、輝線カットフィルター機能、近赤外カットフィルター機能、色調補正機能のうち一つ以上の機能を有する固体基材に、低屈折率膜を形成すると、反射防止機能、輝線カットフィルター機能、近赤外カットフィルター機能、色調補正機能のうち、固体基材にない一つ以上の機能を付与することができ、プラズマディスプレイパネル、液晶表示装置等のディスプレイのための光学フィルタなどに好適な光学部材が得られる。
【0100】
また、導光板、拡散フィルム、プリズムフィルム、輝度向上フィルム、偏光板等の光学フィルムを固体基材として用いて、低屈折率膜を含む反射防止膜を形成して得られる光学フィルタは、光学フィルム界面での反射が抑制される。このため、このような光学フィルタを組み込んだ液晶表示装置は輝度も向上する。
【0101】
また、光拡散性フィルムを固体基材として用いて、その固体基材に低屈折率膜を含む半透過半反射膜層を形成して得られる光学フィルタを組み込んだ半透過型液晶表示装置は外光反射による輝度が向上する。このように、フラットパネルディスプレイ等のディスプレイのためのフィルタ部材に微粒子積層膜を形成させることでそれら部材の高機能化を達成することができる。
【0102】
また、低屈折率膜の形成を望まない固体基材の表面部分又は裏面部分には、粘着フィルムなどを貼り付ける等の微粒子分散液と固体基材との接触防止を施すことで、低屈折率膜の形成を防ぐことができる。
【0103】
(C)ハードコート材料
ハードコート膜を積層することで固体基材の機械的特性が向上する。ハードコート膜となる材料には、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂等の重合性不飽和二重結合含有化合物の架橋体や、有機シリケート化合物、シリコーン系樹脂又は金属酸化物などが挙げられる。重合性不飽和二重結合含有化合物としては、熱硬化性樹脂、放射線硬化型樹脂等の硬化性樹脂を用いることができるが、特に多官能重合性不飽和二重結合含有化合物を用いることが好ましい。
【0104】
多官能重合性不飽和二重結合含有化合物としては、多価アルコールとメタクリル酸又はアクリル酸とのエステル(例、エチレングリコールジ−(メタ)アクリレート、1,4−ジクロヘキサンジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ−(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ−(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ−(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ−(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ−(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ−(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ−(メタ)アクリレート、1,3,5−シクロヘキサントリオールトリメタクリレート、ポリウレタンポリアクリレート、ポリエステルポリアクリレート)、ビニルベンゼンの誘導体(例、1,4−ジビニルベンゼン、4−ビニル安息香酸−2−アクリロイルエチルエステル、1,4−ジビニルシクロヘキサノン)、ビニルスルホン化合物(例、ジビニルスルホン)、アクリルアミド化合物(例、メチレンビスアクリルアミド)及びメタクリルアミド等が上げられるが、これに制限するものではない。上記において(メタ)アクリレートは「メタクリレート又はアクリレート」を意味する。
【0105】
市販されている多官能重合性不飽和二重結合含有化合物の例としては、三菱レイヨン株式会社製の多官能アクリル系硬化塗料(ダイヤビームシリーズなど)、長瀬産業株式会社製の多官能アクリル系硬化塗料(デナコールシリーズなど)、新中村化学工業株式会社製の多官能アクリル系硬化塗料(NKエステルシリーズなど)、大日本インキ化学工業株式会社製の多官能アクリル系硬化塗料(UNIDICシリーズなど)、東亜合成化学工業株式会社製の多官能アクリル系硬化塗料(アロニックスシリーズなど)、日本油脂株式会社製の多官能アクリル系硬化塗料(ブレンマーシリーズなど)、日本化薬株式会社製の多官能アクリル系硬化塗料(KAYARADシリーズなど)、共栄社化学株式会社製の多官能アクリル系硬化塗料(ライトエステルシリーズ、ライトアクリレートシリーズ等)が挙げられる。
【0106】
これらの多官能重合性不飽和二重結合含有化合物の重合を効率よく開始させる目的で重合開始剤を添加することが特に有効であり、その重合開始剤としてはアセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーズベンゾイルベンゾエート、α−アミロキシムエステル、テトラメチルチウラムモノサルファイド及びチオキサントン類が好ましい。
【0107】
また、重合を促進させる目的で重合開始剤に加えて増感剤を用いてもよい。
さらに、レベリング剤、充填剤を添加してもよく、これら化合物中に必要に応じて添加剤を加えて塗工材料とする。
【0108】
この塗工材料を例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等を用いて、コーティングして塗膜を形成させ、乾燥後、熱硬化型樹脂組成物を用いる場合には、加熱して該塗膜を硬化させることにより、また電離放射線硬化型樹脂組成物を用いる場合には、電離放射線を照射して該塗膜を硬化させることにより、ハードコート層を形成させてもよい。
【0109】
電離放射線としては放射線、電子線、粒子線、ガンマー線、紫外線等が挙げられるが、特に紫外線が好ましく、その光源としては水銀灯による近紫外線からエキシマーレーザーによる真空紫外線までが使用できる。
【0110】
ハードコート膜が形成した固体基材の市販品を用いてもよく、そのような市販品としては、きもと製のハードコートPET(KBフィルム)、東レ製のハードコートPET(タフトップN−TOP)、東洋包材製のハードコートフィルム、日新化成製のハードコートポリカーボネート(Lexan Margard、Lexan CTG AF)等が例として挙げられる。
【0111】
(D)中間層
固体基材に極性基を確実に導入するために、固体基材に中間層を積層して固体基材とすることができる。この場合、中間層は固体基材の表面層とされる。又は中間層材料が微細構造体を形成していてもよい。
【0112】
中間層は、固体基材と微粒子積層膜の間に設けられ、中間層が極性基を有することで固体基材と微粒子積層膜との密着性を向上させる。微粒子積層膜が中間層を介して固体基材と強固に接着するために、固体基材上の微粒子積層膜の表面硬度が向上すると考えられる。
【0113】
中間層に含まれる極性基は、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、ウレイド基、クロロプロピル基、メルカプト基、スルフィド基、スルホン酸基、リン酸基、イソシアネート基、カルボキシル基、エステル基、カルボニル基、水酸基、シラノール基のうち一つ又は二つ以上の官能基であることが望ましい。
中間層の材料としては、これらの基を有する樹脂、シランカップリング剤などを使用することができる。
【0114】
中間層の材料としての樹脂には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルであって水酸基又はカルボキシル基を有するもの、カルボキシル基又はアミノ基を有するポリアミド、ポリビニルアルコール、アクリル酸又はメタクリル酸の重合体若しくは共重合体などがある。
【0115】
固体基材へのこの中間層の積層は、例えば、極性基を有する樹脂を溶剤に溶解して得た塗布液を固体基材に塗布し乾燥する方法、中間層を構成する樹脂の原料となるモノマーやオリゴマー(この中には、極性基を有するモノマーやオリゴマーが含まれる)を固体基材に塗布し、反応硬化させる方法、中間層としての樹脂の原料モノマーやオリゴマーにシランカップリング剤を混ぜて塗布し、反応硬化させる方法などにより行うことができる。前述の中間層の形成方法に加えて、中間層材料を金型に転写するなどして、中間層材料を固体基材にしてもよい。
【0116】
極性基が付与されたポリエステル系樹脂の塗布液は、例えば、次のように製造することができる。
ジメチルテレフタレート117部、ジメチルイソフタレート117部、エチレングリコール103部、ジエチレングリコール58部、酢酸亜鉛0.08部及び三酸化アンチモン0.08部を反応容器中で40〜220℃に昇温させて、3時間エステル交換反応させ、ポリエステル形成成分を得る。なお、「部」とは「質量部」である(以下、同様)。
【0117】
次いで、5−ナトリウムスルホイソフタル酸9部を添加して220〜260℃で1時間エステル化反応させ、さらに減圧下(10〜0.2mmHg)で2時間重縮合反応を行ない、平均分子量18000、軟化点140℃のスルホン酸基を付与したポリエステル共重合体を得る。
【0118】
このスルホン酸基を付与したポリエステル共重合体300部とn−ブチルセロソルブ140部とを150〜170℃で3時間撹拌して均一な粘稠溶融液を得、この溶融液に水560部を徐々に添加してポリエステル系樹脂水分散液を得ることができる。
市販品であるスルホン酸が付与された水分散ポリエステル樹脂(例えば、バイロナールMD−1200、東洋紡積株式会社製、商品名)を利用してもよい。
【0119】
前記手順において、5−ナトリウムスルホイソフタル酸の代わりに、スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4−スルホナフタレン−2,7−ジカルボン酸及びそれらのエステル形成性誘導体などの金属塩を用いても、スルホン酸基を付与したポリエステル共重合体を得ることができる。
上記金属塩における金属の例としては、ナトリウム、リチウム、カリウム、マグネシウムなどが挙げられる。
また、5−ナトリウムスルホイソフタル酸の代わりに、5−アミノイソフタル酸などを用いることで、アミノ基を付与したポリエステル共重合体を得ることができる。
【0120】
極性基が付与されたポリウレタン系樹脂は、例えば、次のように製造することができる。
アリルアルコールから出発したエチレンオキシドのポリエーテルをメタ重亜硫酸ナトリウムでスルホン化したスルホン酸ナトリウムを含むポリエーテル(SO
3−含有量8.3質量%、ポリエチレンオキシド含有量83質量%)192部、ポリテトラメチレンアジペート1013部及びビスフェノールAで開始されたポリプロピレンオキシドポリエーテル248部を混合し、減圧下(10〜0.2mmHg)100℃で脱水してこの混合物を70℃とし、これにイソホロンジイソシアネート178部とヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート244部との混合物を加え、さらに、生成混合物をイソシアネート含有量が5.6質量%になるまで80℃から90℃の範囲で撹拌する。
【0121】
得られたプレポリマーを60℃に冷却し、ヘキサメチレンジイソシアネート3モルと水1モルから得られるビウレットポリイソシアネート56部とイソホロンジアミンとアセトンから得られるビスケチミン173部とを順次加える。
次いでヒドラジン水和物の15部を溶解した50℃水溶液をこの混合物に激しく撹拌しながら加え、ポリウレタン系樹脂水分散液を得ることができる。
【0122】
官能基が付与するように調製された樹脂としては、有機溶剤可溶型の非晶性ポリエステル樹脂が挙げられ、その市販品としては、東洋紡績株式会社製、バイロン(103、200、220、226、240、245、270、280、290、296、300、500、516、530、550、560、600、630、650、660、670、885、GK110、GK130、GK140、GK150、GK180、GK190、GK250、GK330、GK360、GK590、GK640、GK680、GK780、GK810、GK880、GK890、BX1001、商品名)が挙げられる。
【0123】
また、水分散ポリエステル樹脂が挙げられ、その市販品としては、東洋紡積株式会社製、バイロナール(MD−1100、MD−1200、MD−1220、MD−1245、MD−1250、MD−1335、MD−1400、MD−1480、MD−1500、MD−1930、MD−1985、商品名)が挙げられる。
【0124】
また、ポリエステルウレタン樹脂が挙げられ、その市販品としては、東洋紡績株式会社製、バイロン(UR−1350、UR−1400、UR−2300、UR−3200、UR−3210、UR−3500、UR−4125、UR−5537、UR−8200、UR−8300、UR−8700、UR−9500、商品名)が挙げられる。
【0125】
本発明において、前記シランカップリング剤としては、下記一般式(I)で表されるものが挙げられる。
【0126】
【化2】
(ただし、式中、R
1は非加水分解性基であって、ビニルアルキル基、エポキシアルキル基、スチリルアルキル基、メタクリロキシアルキル基、アクリロキシアルキル基、アミノアルキル基、ウレイドアルキル基、クロロプロピルアルキル基やスルフィドアルキル基等のハロゲンアルキル基、メルカプトアルキル基、イソシアネートアルキル基又はヒドロキシアルキル基である。R
2は加水分解性基であって炭素数が1〜6のアルキル基、nは1〜3の整数を示し、R
1が複数ある場合、各R
1は互いに同一であっても異なっていてもよく、OR
2が複数ある場合、各OR
2は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0127】
固体基材のシランカップリング剤処理の例としては、まず、シランカップリング剤を水性媒体中で、酸の存在下又は不存在下、アルコキシ基を加水分解してシラノール基とし得られたシラン溶液に固体基材を接触させることで、固体基材表面に存在する水酸基にシラノール基を水素結合的に吸着させ、その後、固体基材を乾燥処理することにより行うことができ、これにより脱水縮合反応がおこり、非加水分解性基を固体基材表面に付与することができる。
【0128】
非加水分解性基と反応しなかったシラノール基も本発明における極性基として機能し、微粒子積層膜と相互作用することで、固体基材と微粒子積層膜の密着が得られる。詳細は明らかではないが、相互作用には、共有結合、分子間力、ファンデルワールス力のいずれかが一つ以上寄与していると考えられる。
【0129】
シランカップリング剤としては、具体的には、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルフェニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン等のビニル基官能性シラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のアルキル基又はアリール基官能性シラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジイソプロペノキシシラン、メチルトリグリシドキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシ基官能性シラン、p−スチリルトリメトキシシラン等のスチリル基官能性シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メチルトリ(メタクリロキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のメタクリロキシ基官能性シラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリロキシ基官能性シラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)−プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基官能性シラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のウレイド基官能性シラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等のクロロプロピル基官能性シラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等のメルカプト基官能性シラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド基官能性シラン、γ−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、トリメチルシリルイソシアネート、ジメチルシリルイソシアネート、フェニルシリルトリイソシアネート、テトライソシアネートシラン、メチルシリルトリイソシアネート、ビニルシリルトリイソシアネート、エトキシシラントリイソシアネート等のイソシアネート基官能性シラン等が挙げられる。
【0130】
これらのシランカップリング剤を用いて、微粒子の表面に官能基を付与してもよい。これにより、微粒子間や微粒子−基板間に共有結合、分子間力、ファンデルワールス力のいずれか一つ以上の引力を確実に与えることができる。
【0131】
シランカップリング剤の市販品としては、例えば、ビニル基を有するKA−1003、KBM−1003、KBE−1003、エポキシ基を有するKBM−303、KBM−403、KBE−402、KBE−403、スチリル基を有するKBM−1403、メタクリロキシ基を有するKBM−502、KBM−503、KBE−502、KBE−503、アクリロキシ基を有するKBM−5103、アミノ基を有するKBM−602、KBM−603、KBE−603、KBM−903、KBE−903、KBE−9103、KBM−573、KBM−575、KBM−6123、ウレイド基を有するKBE−585、クロロプロピル基を有するKBM−703、メルカプト基を有するKBM−802、KBM−803、スルフィド基を有するKBE−846、イソシアネート基を有するKBE−9007(いずれも信越化学工業株式会社製、商品名)等が挙げられる。
【0132】
また、シランカップリング剤をすでに溶剤や水に希釈したプライマーを用いて中間層を形成してもよい。プライマーの市販品としては、例えば、アミノ基を有するシランカップリング剤を希釈したKBP−40、KBP−41、KBP−43、KBP−90、イソシアネート基を有するシランカップリング剤を希釈したKBP−44、メルカプト基を有するシランカップリング剤を希釈したX−12−414(信越化学工業株式会社製、商品名)等が挙げられる。
【0133】
中間層には極性基を有する樹脂を用いることが固体基材と中間層との密着を得るために好ましい。シランカップリング剤や樹脂を中間層として固体基材上に形成する際に採用できる塗布法としては、よく知られた方法により行うことができ、例えば、リバースロール・コート法、グラビア・コート法、キス・コート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法及びカーテン・コート法、スピンコート法、ディップコート法、交互積層法等を採用することができる。これらの方法を単独で又は組み合わせて行うことができる。いずれの塗布法においても、微細構造を中間層が追従するように、塗布液の濃度を希釈することが望ましい。
【0134】
固体基材と中間層との密着をより確実にするために、固体基材にコロナ放電処理、グロー放電処理、プラズマ処理、紫外線照射、オゾン処理、アルカリや酸などによる化学的エッチング処理を施してもよい。
【0135】
固体基材(中間層を含んでもよい)表面の電荷密度を均一にし、微粒子をムラなく吸着させることを目的として、電解質ポリマー層を形成してもよい。電解質ポリマーには、プラスの電荷を有するポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(PDDA)やポリエチレンイミン(PEI)又はマイナスの電荷を有するポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSS)が好ましい。
【0136】
また、アドバンスト マテリアル(Advanced Material)13巻52−54頁(2001年発行)に示されるように、交互積層法を用いて、荷電の符号の異なる2種類の電解質ポリマーの交互積層膜を固体基材(中間層を含んでもよい)に形成してもよい。
【0137】
これら電解質ポリマー層を中間層として固体基材表面に形成する場合は、電解質ポリマー層を固体基材と密着させることが望ましい。密着させる方法としては、固体基材や固体基材表面層がポリマーである場合、熱、光、電子線、γ線等の従来公知の方法によって、電解質ポリマーなどを固体基材表面のポリマーに結合させる方法が挙げられる。
【0138】
また、この方法を用いて極性基を有するモノマーを固体基材にグラフトさせてもよい。極性基を有するモノマーとしては、アクリル酸もしくはメタクリル酸又はそれらのアルカリ金属塩もしくはアミン塩、イタコン酸又はそのアルカリ金属塩もしくはアミン酸塩、アリルアミン又はそのハロゲン化水素酸塩、3−ビニルポロピオン酸又はそのアルカリ金属塩もしくはアミン塩、ビニルスルホン酸又はそのアルカリ金属塩もしくはアミン塩、ビニルスチレンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩若しくはアミン塩、2−スルホエチレンアクリレート、2−スルホエチレンメタクリレート、3−スルホプロピレンアクリレート、3−スルホプロピレンメタクリレート又はそれらのアルカリ金属塩若しくはアミン塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩若しくはアミン塩、モノ(2−アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、アシッドホスホオキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のリン酸モノマー又はそのアルカリ金属塩若しくはアミン塩が挙げられる。
【0139】
(E)微粒子積層膜の形成方法
Langmuir,Vol.13,pp.6195−6203,(1997)に示されるように、固体基材を電解質ポリマー溶液に接触する工程と微粒子分散溶液に接触する工程とを交互に繰り返す方法(交互積層法)により、固体基材上に微粒子積層膜を形成することができる。繰り返す回数に特に制限はないが、その回数により、薄膜の膜厚を制御することができる。上記の交互積層法において、交互に繰り返す回数は、1回以上百回以下とすることが透明性を確保する上で好ましい。また上記の交互積層法において、電解質ポリマー溶液に接触する工程で終わるよりも、微粒子分散溶液に接触する工程で終わることが好ましい。
【0140】
各工程において吸着が進行して表面電荷が反転すると、さらなる静電吸着は起こらなくなるために、電解質ポリマー溶液又は微粒子分散溶液の一回の接触により形成される膜の厚さは制御できる。また余分に物理吸着した材料は、吸着面をリンスすることで除去できる。
【0141】
さらに、表面電荷が反転する限り、膜の形成を継続することができる。そのため、通常のディップコート法よりも、交互積層法で形成した薄膜の膜厚均一性は高く、かつ膜厚制御性も高い。高い膜厚制御性は微粒子積層膜が光干渉効果によって所望の光学機能を発現するために重要である。リンス液は、水、有機溶媒、又は水と水溶性の有機溶媒のような混合溶媒が好ましい。水溶性の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル等が挙げられる。
【0142】
微粒子積層膜の形成装置としては、J.Appl.Phys.,Vol.79,pp.7501−7509,(1996)や国際公開第2000/013806号パンフレットに示されるように、固体基材を固定したアームが自動的に動き、プログラムに従って固体基材を電解質ポリマー溶液中や微粒子分散液中又はリンス液中に浸漬させるディッパーと呼ばれる装置を用いてもよい。
【0143】
また、固体基材上に電解質ポリマー溶液又は微粒子分散液を滴下又はスプレーすることで微粒子積層膜を形成してもよい。その際、リンス液は滴下、スプレー、シャワーのいずれか又は組み合わせた方法で供給されてもよい。また固体基材は、搬送や回転などの運動を行っていてもよい。
【0144】
(F)微粒子分散液
本発明で用いる微粒子分散液は、後述する微粒子が、水、有機溶媒、又は水と水溶性の有機溶媒のような混合溶媒である媒体(液)に分散されたものである。水溶性の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル等が挙げられる。
【0145】
微粒子分散液中に占める微粒子の割合は、通常0.005質量%以上15質量%以下が好ましく、0.001質量%以上10質量%以下がより好ましく、0.01質量%以上5質量%以下がさらに好ましい。微粒子の割合が低すぎると微粒子積層膜が形成できず、高すぎると微粒子同士の凝集により微粒子積層膜が透明性や平坦性を損なうために好ましくない。微粒子の分散性が低い場合は、分散性を改善するために、微粒子分散液を調製する際にいわゆる分散剤を用いることができる。
【0146】
このような分散剤としては、界面活性剤や電解質ポリマー又は非イオン性のポリマーなどを用いることができる。これらの分散剤の使用量は、用いる分散剤の種類によって異なるものであるが、一般に、微粒子に対する分散剤の量が0.00001〜1質量%であることが好ましく、多すぎるとゲル化・分離を起こしたり、分散液中で微粒子が電気的に中性となったりし、微粒子積層膜が得られにくくなる。
【0147】
また、微粒子分散液のpHは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ性水溶液又は塩酸、硫酸等の酸性水溶液により1〜13の範囲で調整することができ、分散剤によってもpHを調整することができる。微粒子分散液のpHが等電位点からずれるほど、固体基材や電解質ポリマーとの静電的引力が強くなる傾向がある。なお、等電位点とは微粒子の表面電位が0となり、静電反発力がなくなるために粒子が凝集を起こすpH値であるが、等電位点は表面水酸基の数や結晶構造により異なるため、微粒子の材料によって異なる。
【0148】
(G)微粒子材料
本発明に用いる微粒子分散液に分散されている微粒子の平均一次粒子径は、1nm以上100nm以下であることが、微粒子積層膜が高い透明性を有し、その結果、微細構造体の幾何光学的な性能を損なわないために好ましく、2nm以上40nm以下がより好ましく、3nm以上20nm以下がさらに好ましい。平均一次粒子径が1nm未満の微粒子は形成が難しくなる。平均一次粒子径が100nmを超えると、透明な微粒子積層膜を形成しにくくなり、固体基材表面に微細構造体がある場合は、その微細構造体の幾何光学的な性能を損なう。
【0149】
また、交互積層法で微粒子積層膜を形成する場合、交互積層回数1回あたりの微粒子積層膜の膜厚変化量は、通常は微粒子の平均一次粒子径と同程度である。そのため、平均一次粒子径が大きすぎると膜厚制御の精度が低くなり、光学機能発現に膜厚を精度良く得ることが困難になる。
【0150】
なお、微粒子積層膜の光学機能発現に必要な膜厚d
1は、次式(1)で求められる(光学薄膜技術、日本オプトメカトロニクス協会、岡本幹夫著、pp.7−45、2002年1月15日発行、参照)。
【0151】
【数1】
(ただし、式中、λは光学的機能を発現したい波長、nは膜の屈折率、xは通常2〜8である)
【0152】
本発明において、微粒子の平均一次粒子径、平均二次粒子径、一次粒子がつながった形状の粒子の粒子径の測定は、公知の方法を用いて行うことができる。本発明では、一次粒子がつながった形状の粒子を数珠状粒子と表現する場合がある。
【0153】
一次粒子が凝集せずに微粒子分散液中に分散している場合、平均一次粒子径を動的散乱法により測定することができる。ただし、一次粒子が凝集した二次粒子の場合や一次粒子が共有結合してなる数珠状粒子の場合は、動的散乱法により測定されるのは平均一次粒子ではなく、平均二次粒子径や数珠状粒子の粒子径である。二次粒子や数珠状粒子における平均一次粒子径はBET法や電子顕微鏡法によって測定できる。
【0154】
BET法では、窒素ガスのように占有面積の分かった分子を粒子表面に吸着させ、その吸着量と圧力の関係から比表面積を求め、この比表面積を換算表から粒子径に変換をすることで平均一次粒子径を求めることができる。
【0155】
電子顕微鏡法では、まず厚さ数十nmのアモルファスカーボン膜が形成された銅製メッシュ上で微粒子を微粒子分散液からすくいとる又はアモルファスカーボン膜上に微粒子を吸着させる。これらの微粒子を透過型電子顕微鏡により観察し、次いで、撮影画像中の全ての微粒子の長さを測定しその相加平均を平均一次粒子径として求める。
【0156】
なお、長さを測る微粒子の数は100以上が望ましく、1つの撮影画像中の微粒子の数が100未満の場合は複数の撮影画像を用いて100以上となるようする。柱状粒子のように粒子の軸比が大きく異なる場合は、一般的に短軸の長さを測定し、その相加平均を平均一次粒子径とする。
【0157】
前記の粒子径測定における微粒子は、微粒子積層膜を作製するための微粒子分散液から得るだけではなく、微粒子積層膜から得てもよい。微粒子積層膜から得る方法としては、スチールウール(日本スチールウール社製、#0000)やカッターなどで固体基材上の微粒子積層膜を研磨することで粉末状の微粒子凝集体を剥離し、その微粒子凝集体を溶媒中に分散させる方法が挙げられる。
【0158】
微粒子凝集体を分散させる方法・装置は特に制限はなく、例えば、超音波をかける方法、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、単軸押出機、2軸押出機等によって分散させる方法が挙げられる。
これにより、サイズの小さくなった微粒子凝集体や単分散の微粒子が得られる。前記溶媒には水、有機溶媒、又は、水と水溶性の有機溶媒のような混合溶媒を用いることができる。
【0159】
電子顕微鏡法では、微粒子の粒子径と同時に形状も観察できる。一次粒子が多孔質構造であるか、中空であるか、一次粒子がつながった形状であるかが区別できる。一次粒子がつながった形状の粒子は
図1に示すように形状をしており、本発明では数珠状粒子と呼ぶ場合がある。
【0160】
なお、本発明において規定する平均一次粒子径の数値は、BET法によって得られる数値である。
【0161】
この数珠状粒子は、微粒子積層膜の強度を向上させるために、一次粒子同士が共有結合していることが好ましい。数珠状粒子を用いた微粒子膜では、数珠状の形状がもたらす立体的な障害により、他の数珠状粒子や反対電荷を有する電解質ポリマーが空間を密に占めることができず、その結果、球状粒子を用いた微粒子膜よりも空隙率が高く低屈折率となる。
【0162】
図1に示すような数珠状粒子は、溶液中に分散している数珠状粒子の半数以上が4個以上の一次粒子から構成されている。また数珠状粒子では、一次粒子は3次元的な団子上に凝集しておらず、一つの一次粒子が隣接する粒子数は10を超えない場合が多い。最密充填では一つの一次粒子が隣接する粒子数が16となる。
【0163】
数珠状粒子における一次粒子の配置としては、一つの一次粒子が隣接する粒子数が1以上8以下である部位が、半分以上を占めることが特徴である。そのため、数珠状粒子は基材に吸着した際に2次元的にひろがった形状を取りやすく、造膜性の向上にも寄与する。さらに、一次粒子同時が共有結合している場合、微粒子積層膜の強度向上にも寄与する。
【0164】
本発明における微粒子としては、無機微粒子があるが、具体的は、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、シリコン、錫、チタン、ジルコニウム、イットリウム、ビスマス、ニオブ、セリウム、コバルト、銅、鉄、ホルミウム、マンガン等のハロゲン化物や酸化物などが使用されるが、さらに具体的には、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化マグネシウム(MgF
2)、フッ化アルミニウム(AlF
3)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化亜鉛(ZnO)、インジウムスズ酸化物(ITO)、シリカ(SiO
2)、酸化スズ(SnO
2)、酸化チタン(TiO
2)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)、酸化イットリウム(Y
2O
3)、酸化ビスマス(Bi
2O
3)、酸化ニオブ(Nb
2O
5)、セリア(CeO
2)、酸化コバルト(CoO)、銅(CuO)、鉄(Fe
2O
3)、ホルミウム(Ho
2O
3)、マンガン(Mn
3O
4)等が挙げられ、これらは単独で又は二種類以上を混合して使用することができる。微粒子は不定型であってもよく、取り得る結晶型に特に制限はない。
【0165】
上記の無機微粒子の中でも反射防止膜に必要とされる低屈折率の薄膜が得られる点でシリカ(SiO
2)が好ましく、平均一次粒子径を1nm〜100nmのように制御した水分散コロイダルシリカ(SiO
2)が最も好ましい。平均一次粒子径が100nmを超えると、透明な微粒子積層膜を形成しにくくなり、固体基材表面に微細構造体がある場合は、その微細構造体の幾何光学的な性能を損なう。このような無機微粒子の市販品としては、例えば、スノーテックス(日産化学工業社製)等が挙げられる。
【0166】
さらに、形状面から言えば、多孔質シリカ微粒子、中空シリカ微粒子、及び一次粒子がつながった形状のシリカ微粒子のうちの1種以上を用いることが好ましい。一次粒子がつながった形状の粒子を用いて微粒子積層膜を形成すると、立体障害により緻密化が阻害されるために、微粒子積層膜の屈折率が低下するからである。
また、多孔質の粒子及び中空の粒子を用いて微粒子積層膜を形成すると、多孔質粒子表面の空隙及び中空粒子内部の空隙が導入され、微粒子積層膜の屈折率が低下するからである。
【0167】
多孔質シリカ微粒子としては、空隙率10〜70%のものが好ましく、内径が1〜25nmの細孔を有することが好ましい。製造方法の例としては、0.1molのテトラエトキシシランに1mmolの塩酸と40mLの水を加え、さらにゼラチンを10wt%加えて室温下で1時間加水分解を行い、次いで50℃で乾燥し、空気中で1℃/minで600℃まで昇温して、ゼラチンの除去により生じた細孔を有するシリカ系多孔質体を得る。
さらに、この多孔質体を水中でビーズミル等により粉砕することで、直径数十nmの多孔質シリカ微粒子の水分散液を得ることができる。市販されているものとしては、日本シリカ工業社製NipsilやNipgelが挙げられる。
中空シリカ微粒子としては、微粒子に対する中空部分の空隙率が10〜50%のものが好ましく、市販されているものとしては、触媒化成工業社製スルーリアが挙げられる。
【0168】
より低い屈折率を得るためには、基本となる微粒子が、
図1に示されるように数珠状に連なった粒子形状を含有するものがより好ましい。市販されているものとしては、スノーテックスUPやスノーテックスPS−S、スノーテックスPS−M(日産化学工業社製、商品名)や、ファインカタロイドF120(触媒化成工業社製、商品名)で、パールネックレス状シリカゾルがある。
【0169】
本発明における微粒子として、ポリマー微粒子も用いることができ、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、アクリル系ポリマー、シリコーンポリマー、フェノール樹脂、ポリアミド、天然高分子を挙げることができ、これらは単独で又は二種類以上を混合して使用することができる。
それらは液相から溶液噴霧法、脱溶媒法、水溶液反応法、エマルション法、懸濁重合法、分散重合法、アルコキシド加水分解法(ゾル−ゲル法)、水熱反応法、化学還元法、液中パルスレーザーアブレーション法などの製造方法で合成される。ポリマー微粒子の市販品としては、例えば、ミストパール(荒川化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0170】
また、微粒子間や微粒子−基板間に共有結合、分子間力、ファンデルワールス力のいずれか一つ以上の引力を与える目的で、これらの微粒子の表面にイオン性の官能基を付加してもよい。微粒子表面への官能基の付与は、前記一般式(I)で表されるシランカップリング剤を微粒子の水酸基などと縮合反応させることで行うことができる。
【0171】
微粒子表面へ付与する官能基としては、例えば、前述したビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、ウレイド基、クロロプロピル基、スルフィド基、メルカプト基、イソシアネート基を挙げることができる。
【0172】
シランカップリングの市販品としては、信越化学製のKBMシリーズやKBEシリーズが挙げられる。また、カルボキシル基、カルボニル基、フェノール基等を微粒子表面に付与してもよく、このような官能基が表面に付与された微粒子の市販品としては、例えば、ミストパール(荒川化学工業社製、商標名)等が挙げられる。
【0173】
媒体中に分散している微粒子は、その表面極性基の解離やイオンの吸着によって拡散電気二重層が生じるために、電気的に負又は正に帯電する。次式に表される微粒子表面の拡散電気二重層の厚さ(1/κ)は、表面電荷と対イオン(電解質イオン)の間の引力と、熱運動による力がつりあう距離である。ここで、κはDebye−Huckelのパラメータと呼ばれ、次式のように表される(大島広行、「ナノ微粒子の分散安定性・凝集制御及びゼータ電位の測定評価」、技術情報協会)。
【0174】
【数2】
(式中、kはBoltzmann定数、ε
0は真空の誘電率、ε
rは媒体(液)の比誘電率、Tは絶対温度、Zは価数、eは単位電荷、N
Aはアボガドロ数、Cは電解質濃度で単位はM(=mol/リットル)である。)
【0175】
微粒子の表面電位(φ
0)は、表面電荷密度(σ)による電場(σ/ε
rε
0)と電気二重層(1/κ)との積であり、次式のように表される。この式から、微粒子の表面電位(φ
0)は、表面電荷密度(σ)や電解質濃度(C)により制御できることが分かる。
【0177】
電解質濃度を上げるために加える電解質としては、水又は水、アルコール混合溶媒等に溶解するものであれば制限はないが、アルカリ金属及びアルカリ土類金属、四級アンモニウムイオン等とハロゲン元素との塩、LiCl、KCl、NaCl、MgCl
2、CaCl
2等が用いられる。
【0178】
表面電荷密度(σ)は、pHによって制御できる。なぜなら、粒子表面にある解離基の解離(イオン化)度はpHによって影響を受けるからである。例えば微粒子表面にカルボキシル基(−COOH)や表面水酸基(−OH)がある場合は、pHを上げるとイオン化してカルボキシレート陰イオン(−COO−)又は水酸化物イオン(−O−)となるため、電荷密度σは上がる。
【0179】
一方、アミノ基(−NH
2)がある場合はpHを下げるとアンモニウムイオン(−NH
3+)となり電荷密度が上がる。すなわち、高いpH領域及び低いpH領域で電荷密度の上昇がある。
【0180】
表面電位が同じ符号である微粒子は互いに反発し、凝集することなく安定に媒質中に分散する。ゼータ電位は微粒子の表面電荷を反映し、微粒子の分散安定性の指標として用いられている(北原文雄、古澤邦夫、尾崎正孝、大島広行、「Zeta Potentialゼータ電位:微粒子界面の物理化学」、サイエンティスト社、1995年1月発行)。ゼータ電位の絶対値が増加すれば微粒子間の反発力が強くなり粒子の安定性は高くなり、逆にゼータ電位がゼロに近づくと微粒子は凝集しやすくなる。
【0181】
このゼータ電位は、例えば、電気泳動光散乱測定法(別名レーザードップラー法)により測定することができる。外部電場(E)によって泳動する微粒子に波長(λ)のレーザー光を照射し、散乱角(θ)で散乱する光の周波数変化(ドップラーシフト量Δν)を測定し、次式によって微粒子の泳動速度(V)を求める。
【0183】
ただし、nは媒体(液)の屈折率である。ここで得られた泳動速度(V)と外部電場(E)から電気移動度(U)が次式より求められる。
【0185】
電気移動度(U)からゼータ電位(ζ)は、次式のSmoluchowskiの式を用いて求められる。
【0186】
【数6】
(ただし、ηは媒体(液)の粘度、εは媒体(液)の誘電率である(北原文雄、古澤邦夫、尾崎正孝、大島広行、「Zeta Potentialゼータ電位:微粒子界面の物理化学」、サイエンティスト社、1995年1月発行))。
【0187】
ゼータ電位の比較的新しい測定方法として、超音波方式又はコロイド振動電流法も挙げられる。測定装置としてはDispersion Technology社製の、商品名DT−200やDT−1200、DT−300が挙げられる。
超音波を照射された溶媒中の微粒子は、溶媒と微粒子の密度差により相対的に振動するために、荷電した微粒子とその周囲のカウンターイオンの分極によりコロイド振動電位と呼ばれる電場を発生する。この電場を検出し、解析することでゼータ電位を測定できる。
【0188】
無機酸化物の粒子では分散溶液のpHが変わるとゼータ電位が大きく変化する。例えば、チタニア粒子(日本アエロジル社製)が分散する溶液のpHを3、7.5、11と変化させると、ゼータ電位は+40mV、0mV、−20mVと変化し、粒子径は400nm、1600nm、900nmと変化する。
【0189】
すなわち、ゼータ電位が0mVになると粒子は凝集することがわかる(大塚電子株式会社、アプリケーションノート、ゼータ電位「無機物のゼータ電位測定」、p.LS−N002−6、2002年9月1日発行)。このことから、溶液中の微粒子を安定に分散させるために、微粒子のゼータ電位の絶対値を数mV〜数十mVの範囲に制御することが望ましい。
【0190】
1質量%に調整した日産化学製のシリカ微粒子水分散液(スノーテックス(ST)20)はpHが10であり、シリカ微粒子のゼータ電位は−48mVである。このシリカ微粒子分散液のpHを9に調整すると、シリカ微粒子のゼータ電位は−45mVとなる。またpHが10のシリカ微粒子水分散液に塩化ナトリウムを添加し、塩化ナトリウム濃度が0.25モル/リットルのシリカ微粒子水分散液を調整すると、シリカ微粒子のゼータ電位は−40mVとなる。
【0191】
シリカ微粒子水分散液と、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(PDDA)の0.3質量%水溶液を用いて、交互積層法により作製したシリカ微粒子積層膜では、ゼータ電位が−48mVのときにシリカ微粒子積層膜の屈折率が1.31となるのに対して、ゼータ電位が−45mVと−40mVのときには屈折率が1.29となる。この1.31の屈折率から微粒子体積率を求めると60%、1.29の屈折率から微粒子体積率を求めると56%となる。このことから、屈折率の低下は、微粒子のゼータ電位低下により、微粒子体積率が低下したためと考えられる。つまり微粒子のゼータ電位の制御により、微粒子積層膜の屈折率を制御することができる。
【0192】
微粒子積層膜に含まれる微粒子の種類は一種類に限らない。例えば、微粒子分散溶液の一回の液の接触において吸着される微粒子は二種類以上でもよく、また微粒子分散溶液の液の接触毎に微粒子の種類が異なっていてもよい。
なお、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ニオブ、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化ケイ素の微粒子が、微粒子積層膜の表面硬度を高める点で好ましい。
【0193】
(H)電解質ポリマー溶液
電解質ポリマー溶液は、交互積層法を用いて微粒子積層膜を作製する際に必要となる。この電解質ポリマー溶液は、微粒子の表面電荷と反対又は同じ符号の電荷の電解質ポリマーを、水、有機溶媒又は水溶性の有機溶媒と水の混合溶媒に溶解したものである。使用できる水溶性の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル等が挙げられる。
【0194】
電解質ポリマーとしては、荷電を有する官能基を主鎖又は側鎖に持つ高分子を用いることができる。
電解質ポリマー溶液中のイオン性基は、1級、2級、もしくは3級アミノ基、該アミノ基の塩、第4級アンモニウム型基からなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。つまり、電解質ポリマーが当該イオン性基を有することが好ましい。以下に、電解質ポリマーについて例示する。
【0195】
ポリアニオンとしては、一般的に、スルホン酸、硫酸、カルボン酸等、負電荷を帯びることのできる官能基を有するものであり、例えば、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニル硫酸(PVS)、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMA)、ポリマレイン酸、ポリフマル酸、ポリパラフェニレン(−)、ポリチオフェン−3−アセティックアシド、ポリアミック酸及びそれらを少なくとも1種以上を含む共重合体などを用いることができる。またポリ(アニリン−N−プロパンスルホン酸)(PAN)等の機能性高分子イオン、種々のデオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、ペクチン等の荷電を有する多糖類など、荷電を有する生体高分子を用いることもできる。
【0196】
ポリカチオンとしては、1級から3級のアミノ基や4級アンモニウム基が好ましい。詳細は不明だが、シリカの表面水酸基とアミノ基やアンモニウム基が比較的強く結合する。
例えば、ポリエチレンイミン(PEI及びその4級化物)、ポリアリルアミン及びその4級化物、ポリアリルアミン塩酸塩(PAH)、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(PDDA)、ポリビニルピリジン(PVP)、ポリリジン、ポリアクリルアミド、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラフェニレン(+)、ポリパラフェニレンビニレン、ポリエチルイミン及びそれらを少なくとも1種以上を含む共重合体や塩の種類を変えたものなどを用いることができる。
より具体的には、ポリアリルアミンアミド硫酸塩、アリルアミン塩酸塩とジアリルアミン塩酸塩の共重合体、アリルアミン塩酸塩とジメチルアリルアミン塩酸塩の共重合体、アリルアミン塩酸塩とその他の共重合体、部分メトキシカルボニル化アリルアミン重合体、部分メチルカルボニル化アリルアミン酢酸塩重合体、ジアリルアミン塩酸塩重合体、メチルジアリルアミン塩酸塩重合体、メチルジアリルアミンアミド硫酸塩重合体、メチルジアリルアミン酢酸塩重合体、ジアリルアミン塩酸塩と二酸化イオウの共重合体、ジアリルアミン酢酸塩と二酸化イオンの共重合体、ジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェイトと二酸化イオウとの共重合体、メチルジアリルアミン塩酸塩と二酸化イオウとの共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドと二酸化イオウとの共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドとアクリルアミドとの共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドとジアリルアミン塩酸塩誘導体との共重合体、ジメチルアミンとエピクロロヒドリンの共重合体、ジメチルアミンとエチレンジアミンとエピクロロヒドリンの共重合体、ポリアミドポリアミンとエピクロロヒドリンとの共重合体等が挙げられる。
【0197】
これらの電解質ポリマーは、いずれも水溶性又は水と有機溶媒との混合液に可溶なものであり、電解質ポリマーの重量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定した値)としては、用いる電解質ポリマーの種類により一概には定めることができないが、一般に、400〜300,000のものが好ましい。
なお、溶液中の電解質ポリマーの濃度は、0.0003質量%以上3質量%以下が好ましく、0.001質量%以上1質量%以下がより好ましく、0.01質量%以上1質量%以下がさらに好ましい。電解質ポリマーの濃度が低すぎると微粒子積層膜が形成できず、高すぎると洗浄工程での余剰な電解質ポリマーの除去が不十分となり、凝集物を生成するために微粒子積層膜が透明性や平坦性を損なう。
また、電解質ポリマー溶液のpHは、5以上12以下が好ましく、6以上11.5以下がより好ましく、7以上11以下がさらに好ましい、9以上10.5以下がさらに好ましい。pHが低すぎると、金属酸化物微粒子の水酸基を活性化できずに電解質ポリマーの吸着量が不均一になり、微粒子積層膜の膜厚が不均一化になる。pHが高すぎると金属酸化物を溶かすため、微粒子積層膜が透明性や平坦性を損なう。
【0198】
ポリカチオンであるポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(PDDA)と、ポリアニオンであるポリスチレンスルホン酸(PSS)を用いて、交互積層法により(PDDA/PSS)多層膜を作製できる。シリコンウエハ上に交互積層回数45回で形成した(PDDA/PSS)45層構造膜の厚さは60nmであり、交互積層回数1回あたりのPDDA/PSS膜の厚さは約1.3nmと概算できる。このことから、PDDA層とPSS層は、分子オーダーの薄さで形成されることがわかる。なお、PDDAとPSSの単分子層はその分子構造から数Åと考えられる。
【0199】
(I)微粒子積層膜
本発明に係る微粒子積層膜は、本発明の低屈折率膜を製造する過程で得られるものであり、当該微粒子積層膜に珪素化合物溶液を接触させることで本発明の低屈折率膜を作製することができる。
以下に、当該微粒子積層膜について詳述する。
【0200】
微粒子積層膜は、微粒子材料の選択によりその屈折率、ひいては本発明の低屈折率膜の屈折率を制御できる。微粒子積層膜の屈折率は、エリプソメトリーで測定した偏光特性からの解析又は分光光度計で測定した反射スペクトルや透過スペクトルからの解析により求めることができる。これらの手法の優れている点は微粒子積層膜の膜厚を同時に評価できることである。その他に微粒子積層膜の膜厚を求める方法には、SEM(走査型電子顕微鏡)、TEM(透過型電子顕微鏡)、AFM(原子間力顕微鏡)等の膜を観察する方法もある。また水晶振動子上に膜を形成し、周波数変化量と膜材料の密度から膜厚を求めることもできる。
【0201】
微粒子と荷電の異なる電解質ポリマーとしてポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(PDDA)を用いる場合、前述のように、PDDA層は1.3nm未満という分子オーダーの薄さである。従って、PDDA層は固体基材や微粒子表面を、その表面形状に追従しながら覆っていると考えられる。そして、その薄さで、固体基材と微粒子、微粒子と微粒子の静電的な結合材として機能している。
【0202】
微粒子積層膜の屈折率は微粒子材料のバルクより低いが、それは微粒子積層膜中の微粒子の間に隙間ができるからである。本発明に係る微粒子積層膜では微粒子の間の隙間はほとんど空気であり、微粒子積層膜の屈折率n
cは次式(2)から求めることができる。
【0203】
【数7】
(ただし、式中、ρ
pは微粒子積層膜中の微粒子の体積密度、n
Pは微粒子を構成する物質の屈折率、n
0は空気の屈折率=1.0を示す。)(薄膜・光デバイス、吉田貞史、矢嶋弘義著、東京大学出版会、pp.34−37、1994年9月20日発行、参照)。
【0204】
例えば、バルクの屈折率n
Pが2.3のチタニア微粒子を用いた微粒子積層膜の屈折率n
cは1.8となり、バルクの屈折率n
Pが1.48のシリカ微粒子を用いた微粒子積層膜の屈折率n
cは1.2となる。このように、微粒子積層膜は微粒子材料のバルクより低い屈折率を示すため、光学的な設計において屈折率の選択範囲を広げる。
【0205】
本発明に係る微粒子積層膜の屈折率は、1.10以上1.28以下であるが、1.10未満では、その屈折率を有する微粒子積層膜の形成が困難であり、1.28を超えると珪素化合物が微粒子積層膜中に入り込むことで屈折率を増加させた場合に反射防止機能が低下してしまう。当該屈折率は、1.14以上1.28以下が好ましく、1.14以上1.25以下がより好ましく、1.15以上1.23以下がさらに好ましく、1.16以上1.20以下がさらに好ましい。
【0206】
微粒子積層膜は膜中に空隙を有するが、微粒子と空隙のサイズが光(可視光)の波長よりも十分小さいために、平均的な屈折率n
cを有する。また微粒子積層膜の空隙に珪素化合物が充填された場合では、微粒子積層膜の空隙のサイズは小さくなるため、その場合でも平均的な屈折率を示す。これらの微粒子積層膜を含む反射防止膜又は空隙に微粒子以外の材料を含んだ微粒子積層膜を含む反射防止膜は、ある平均的な屈折率を有し、光学的に1層の膜として機能する。
【0207】
図1に示すような一次粒子がつながった形状の粒子を用いて形成した微粒子積層膜では、粒子同士の立体障害により緻密化が阻害されるために、微粒子積層膜の屈折率が低下する。その場合、一次粒子の粒子径以上の空隙が微粒子積層膜の内部や表面に存在するため、内部の空隙はTEM(透過型電子顕微鏡)により、表面の空隙はSEM(走査型電子顕微鏡)やAFM(原子間力顕微鏡)などにより観察することができる。
【0208】
屈折率n
sの固体基材の表面に次式(5)、(6)のような屈折率n
ARと膜厚d
ARを有する低屈折率膜が形成される時、波長λでの固体基材の表面反射率が0%となる。
【0211】
例えば、波長550nmでのn
S=1.54の透明な固体基材の表面反射率を0%にするためには、n
AR=1.241、d
AR=111nmの低屈折率膜を固体基材表面に形成する必要がある。n
S=1.54の透明な固体基材に反射防止膜を形成した場合の表面反射率と、低屈折率膜の屈折率の関係を
図2のように示す。低屈折率膜の屈折率がn
ARより小さくても大きくても、低屈折率膜付きの固体基材の表面反射率は0%より増大する。
【0212】
一方で、波長550nmでのn
S=1.54の透明な固体基材の表面反射率を0.1%
以下にするためには、低屈折率膜のn
Cは1.203以上1.281以下であればよい。
また、波長550nmでのn
S=1.54の透明な固体基材の表面反射率を1.0%以下にするためには、低屈折率膜のn
Cは1.123以上1.372以下であればよい。低屈折率膜が無い場合、n
S=1.54の透明な固体基材の表面反射率は4.5%である。そのため、屈折率が1.123以上1.372以下の低屈折率膜を固体基材表面に形成すれば、その低屈折率膜は反射防止膜として機能する。
【0213】
本発明に係る微粒子積層膜の屈折率は、固体基材の表面反射率を0%にする屈折率n
AR(式(5)参照)より小さい。そのため、珪素化合物の微粒子積層膜中への入り込みによって、微粒子積層膜の屈折率が増加しても、反射防止膜として機能し続ける。例えば、1.372であった微粒子積層膜の屈折率が何らかの理由で1.490に増加すると、固体基材の表面反射率は1.0%から3.3%に増加し、微粒子積層膜は反射防止膜ではなくなる。
しかし、1.123であった微粒子積層膜の屈折率が珪素化合物の微粒積層膜中への入り込みにより1.241に増加すると、固体基材の表面反射率は1.0%から0.0%に減少し、反射防止機能が向上する。このことから、屈折率がn
AR(式(5)参照)より小さい微粒子積層膜中に珪素化合物を入り込ませた低屈折率膜は優れた反射防止膜として機能する。
【0214】
また、反射防止膜以外の光学機能薄膜としての用途に対しても、本発明のように屈折率の低い微粒子積層膜は光学性能の向上や光学機能の維持に有用である。
【0215】
(J)珪素化合物溶液
本発明において用いる珪素化合物溶液は、第1の態様においては、(1)官能基が加水分解性基と非加水分解性の有機基とからなるアルコキシシラン(I)の加水分解物およびその加水分解物の縮合反応物、(2)前記アルコキシシラン(I)と官能基が加水分解性基のみからなるアルコキシシラン(II)との混合物の加水分解物およびその加水分解物の縮合反応物、及び(3)前記アルコキシシラン(I)の加水分解物およびその加水分解物の縮合反応物と前記アルコキシシラン(II)との混合物のうちのいずれかを含む。
一方、第2の態様において用いる珪素化合物溶液は、(4)官能基が加水分解性基のみからなるアルコキシシラン(II)、(5)アルコキシシラン(II)の加水分解物及びその加水分解物の縮合反応物(III)、及び(6)前記アルコキシシラン(II)と前記加水分解物及びその加水分解物の縮合反応物(III)との混合物のうちのいずれかを含む。
【0216】
微粒子積層膜に前記(1)〜(6)のいずれかを含む珪素化合物溶液を接触させることで得られる低屈折率膜は、固体基材と微粒子、及び微粒子同士が珪素化合物を介して結合している。つまり、加水分解により生成した珪素化合物のシラノール基は微粒子表面の水酸基や極性基と水素結合、または脱水縮合することで共有結合し、珪素化合物と微粒子は結合する。また、加水分解により生成した珪素化合物のシラノール基や加水分解されずに残存したアルコキシ基は固体基材表面の水酸基や極性基と水素結合し、珪素化合物と基材は結合する。これらの結合により、本発明の低屈折率膜は微粒子積層膜よりも基材密着性に優れる。珪素化合物の加水分解は、珪素化合物溶液の接触後に微粒子積層膜が有する吸着水により行われてもよい。また、珪素化合物の加水分解が微粒子積層膜と接触する前に行われていない場合、すなわちアルコキシシランをそのまま微粒子積層膜に接触させる場合には、接触後に微粒子積層膜が有する吸着水により行われる。
以下に、前記(1)〜(6)の珪素化合物について詳述する。
【0217】
<(1)の珪素化合物>
(1)の珪素化合物は、上記の通り、官能基が加水分解性基と非加水分解性の有機基とからなるアルコキシシラン(I)の加水分解物およびその加水分解物の縮合反応物である。
【0218】
[アルコキシシラン(I)]
前記アルコキシシラン(I)は、官能基が加水分解性基と非加水分解性の有機基とからなり、具体的には、シランカップリング剤が挙げられる。シランカップリング剤としては、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルフェニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン等のビニル基官能性シラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のアルキル基又はアリール基官能性シラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジイソプロペノキシシラン、メチルトリグリシドキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシ基官能性シラン、p−スチリルトリメトキシシラン等のスチリル基官能性シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メチルトリ(メタクリロキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のメタクリロキシ基官能性シラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリロキシ基官能性シラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)−プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基官能性シラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のウレイド基官能性シラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等のクロロプロピル基官能性シラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等のメルカプト基官能性シラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド基官能性シラン、γ−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、エトキシシラントリイソシアネート等のイソシアネート基官能性シラン等が挙げられる。
【0219】
アルコキシシラン(I)の加水分解物およびその加水分解物の縮合反応物は、アルコキシシラン(I)を公知の方法で加水分解することで得られる。例えば、酸性触媒の存在下、もしくは塩基性触媒の存在下、もしくは非存在下で、かつ溶媒の存在下もしくは非存在下で、アルコキシシラン(I)と水とを混合することで、アルコキシシラン(I)を加水分解することができる。
アルコキシ加水分解時の温度は室温から溶媒の沸点までの間で選択でき、加水分解の時間は1時間から1000時間の間で、加水分解・重縮合の進行に応じて任意に選択するとよい。また、加水分解時は攪拌することが好ましい。アルコキシシラン(I)の配合量は1〜90質量%となるように加えるのが好ましい。水の配合量は、アルコキシシラン(I)に対して1〜500質量%となるように加えるのが好ましく、5〜100質量%がさらに好ましい。溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコール、または、酢酸エチル、アセトン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル等の極性溶媒、または低級アルコールと極性溶媒の混合溶媒が好ましい。酸触媒としては、無機酸も有機酸も好適に使用でき、無機酸としては、例えば塩酸、硫酸、リン酸、ほう酸などが好ましく、また有機酸としては、ギ酸、酢酸、蓚酸、およびp−トルエンスルホン酸などが好ましく用いられる。その触媒量は、アルコキシシラン(I)に対して、通常1ppm〜5%が好ましく採用される。5%を超えて使用しても目的物は得られるが、特に良い結果は期待できない。
【0220】
<(2)の珪素化合物>
(2)の珪素化合物は、上記の通り、アルコキシシラン(I)と官能基が加水分解性基のみからなるアルコキシシラン(II)との混合物の加水分解物およびその加水分解物の縮合反応物である。
【0221】
[アルコキシシラン(II)]
前記アルコキシシラン(II)は、加水分解性基のみを有し、具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラキス(2−メトキシエトキシ)シラン、メチルシリケートのオリゴマー、エチルシリケートのオリゴマーが挙げられる。メチルシリケートのオリゴマーの具体例としては、扶桑化学社製や多摩化学工業社製、コルコート社製のメチルシリケート51、コルコート社製のメチルシリケート53A(平均7量体)が挙げられる。エチルシリケートのオリゴマーの具体例としては、多摩化学社製やコルコート社製のエチルシリケート40、多摩化学社製のエチルシリケート45、コルコート社製のエチルシリケート48が挙げられる。また、アルコキシシラン(II)において、加水分解性基はすべて同一でなくてもよい。例えば、テトラメトキシシランとテトラエトキシシランの混合物や、シリケートの官能基がメトキシ基とエトキシ基が約半分ずつ導入されていてもよく、例えばコルコート社製のEMS−485が挙げられる。
【0222】
(2)の珪素化合物は、アルコキシシラン(I)とアルコキシシラン(II)とを混合し加水分解して得られるが、アルコキシシラン(I)[a]に対するアルコキシシラン(II)[b]の混合比(b/a)は、低屈折率膜とプラスチック基材との密着性向上の観点から、0.1〜10.0とすることが好ましく、0.25〜4.0とすることがより好ましく、0.5〜2.0とすることがさらに好ましい。アルコキシシラン(I)とアルコキシシラン(II)とをこの混合比で混合し、得られた混合物を前記(1)の珪素化合物と同様に加水分解して得ることができる。
また、(2)の珪素化合物溶液は、シラン濃度を0.1〜10質量%とすることが好ましく、0.3〜5質量%とすることがより好ましい。シラン濃度が低すぎる場合は低屈折率膜の基材への密着性と微粒子積層膜の基材の密着性とに差異がなく、シラン濃度が高すぎる場合は微粒子積層膜の空隙への珪素化合物の充填量が増えすぎるために低屈折率膜の屈折率が低くなくなる。なお、シラン濃度は(アルコキシシラン(I)の質量+アルコキシシラン(II)の質量/溶液の全質量)から求められる。
【0223】
<(3)の珪素化合物>
(3)の珪素化合物は、上記の通り、アルコキシシラン(I)の加水分解物およびその加水分解物の縮合反応物とアルコキシシラン(II)との混合物、別言すると、前記(1)の珪素化合物と、アルコキシシラン(II)との混合物である。
(3)の珪素化合物は、前記(1)の珪素化合物と、アルコキシシラン(II)とを混合して得られる。前記(1)の珪素化合物[c]に対する、アルコキシシラン(II)[d]の混合比(d/c)は、低屈折率膜とプラスチック基材との密着性向上の観点から、0.1〜10.0とすることが好ましく、0.25〜4.0とすることがより好ましく、0.5〜2.0とすることがさらに好ましい。
また、(3)の珪素化合物溶液は、シラン濃度を0.1〜10質量%とすることが好ましく、0.3〜5質量%とすることがより好ましい。なお、シラン濃度は(前記(1)の珪素化合物を得るためのアルコキシシラン(I)の質量+アルコキシシラン(II)の質量/溶液の全質量)から求められる。
【0224】
<(4)の珪素化合物>
(4)の珪素化合物は、上記の通り、官能基が加水分解性基のみからなるアルコキシシラン(II)である。
【0225】
(4)の珪素化合物の溶液において、シラン濃度は0.1〜10質量%とすることが好ましく、0.3〜5質量%とすることがより好ましい。シラン濃度が低すぎる場合は低屈折率膜の基材への密着性と微粒子積層膜の基材の密着性とに差異がなく、シラン濃度が高すぎる場合は微粒子積層膜の空隙への珪素化合物の充填量が増えすぎるために低屈折率膜の屈折率が低くなくなる。
【0226】
<(5)の珪素化合物>
(5)の珪素化合物は、アルコキシシラン(II)の加水分解物及びその加水分解物の縮合反応物(III)である。
アルコキシシラン(II)の加水分解物及びその加水分解物の縮合反応物は、アルコキシシラン(II)を公知の方法で加水分解することで得られる。例えば、酸性触媒の存在下又は塩基性触媒の存在下若しくは非存在下で、かつ溶媒の存在下又は非存在下で、アルコキシシラン(II)と水を混合することで、アルコキシシラン(II)を加水分解することができる。
加水分解時の温度は室温から溶媒の沸点までの間で選択でき、加水分解の時間は1時間から1000時間の間で、加水分解・重縮合の進行に応じて任意に選択するとよい。
また、加水分解時は攪拌することが好ましい。アルコキシシラン(II)の配合量は、1〜90質量%となるように加えるのが好ましい。
水の配合量は、アルコキシシラン(II)に対して1〜500質量%となるように加えるのが好ましく、5〜100質量%がさらに好ましい。
溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコール又は酢酸エチル、アセトン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル等の極性溶媒若しくは低級アルコールと極性溶媒の混合溶媒が好ましい。
【0227】
酸触媒としては、無機酸も有機酸も好適に使用でき、無機酸としては、例えば塩酸、硫酸、リン酸、ほう酸などが好ましく、また有機酸としては、ギ酸、酢酸、蓚酸、およびp−トルエンスルホン酸などが好ましく用いられる。その触媒量は、アルコキシシラン(II)に対して、通常1ppm〜5%程度が好ましく採用される。5%を超えて使用しても目的物は得られるが、特に良い結果は期待できない。
【0228】
(5)の珪素化合物の溶液において、シラン濃度は0.1〜10質量%とすることが好ましく、0.3〜5質量%とすることがより好ましい。シラン濃度が低すぎる場合は低屈折率膜の基材への密着性と微粒子積層膜の基材の密着性とに差異がなく、シラン濃度が高すぎる場合は微粒子積層膜の空隙への珪素化合物の充填量が増えすぎるために低屈折率膜の屈折率が低くなくなる。なお、シラン濃度は(アルコキシシラン(II)の質量/溶液の全質量)から求められる。
【0229】
<(6)の珪素化合物>
(6)の珪素化合物は、前記アルコキシシラン(II)と前記加水分解物及びその加水分解物の縮合反応物(III)との混合物である。
(6)の珪素化合物は、アルコキシシラン(II)と前記加水分解物及びその加水分解物の縮合反応物(III)とを混合して得られるが、アルコキシシラン(II)[a]に対する加水分解物及びその加水分解物の縮合反応物(III)[b]の混合比(b/a)は、低屈折率膜と基材との密着性向上の観点から、0.1〜10.0とすることが好ましく、0.25〜4.0とすることがより好ましく、0.5〜2.0とすることがさらに好ましい。
また、(6)の珪素化合物の溶液は、シラン濃度を0.1〜10質量%とすることが好ましく、0.3〜5質量%とすることがより好ましい。シラン濃度が低すぎる場合は低屈折率膜の基材への密着性と微粒子積層膜の基材の密着性とに差異がなく、シラン濃度が高すぎる場合は微粒子積層膜の空隙への珪素化合物の充填量が増えすぎるために低屈折率膜の屈折率が低くなくなる。なお、シラン濃度は(アルコキシシラン(II)の質量+アルコキシシラン(III)/溶液の全質量)から求められる。
【0230】
前記(1)〜(6)の珪素化合物のうち、(2)、(5)の珪素化合物が加水分解により生成したシラノール基が多く、低屈折率膜と基材との密着性を向上できる点で特に好ましく、最も好ましくは(5)である。
【0231】
前記(1)〜(6)のいずれかを含む珪素化合物溶液を微粒子積層膜に接触させる方法は、公知の方法を用いてよい。スプレー法、ディップ法、ロールコート法、スピンコート法などいずれでも可能である。
前記珪素化合物を希釈溶媒に溶解して溶液(珪素化合物溶液)を調製し、該溶液を前記各方法により微粒子積層膜に接触させることができる。珪素化合物の濃度調整のための希釈溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコール、または、酢酸エチル、アセトン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル等の極性溶媒、または低級アルコールと極性溶媒の混合溶媒が好ましい。
珪素化合物溶液を微粒子積層膜に接触させた後に希釈溶媒を蒸発させると、微粒子積層膜が有する吸着水により珪素化合物が加水分解し、希釈溶媒の蒸発に伴い縮重合が十分に進行する。加水分解により生成したシラノール基を有する珪素化合物が、微粒子及び基板と結合することで、橋架け剤となり、低屈折率膜の基板との密着性が得られる。また、加水分解により生成したシラノール基を有する珪素化合物が、微粒子と微粒子を結合することで低屈折率膜全体が基材に密着する。微粒子積層膜に接触する珪素化合物の量が増すほど、低屈折率膜の屈折率が増加する。そのため、珪素化合物の量を調整することで、低屈折率膜の屈折率を制御できる。
例えば、スピンコート法で珪素化合物を微粒子積層膜に接触させる場合、スピン回転速度と珪素化合物の濃度を調整することで、低屈折率膜の屈折率を制御できる。スピン回転速度は100〜5000回転/分で任意に選択し、珪素化合物の濃度は0.1〜10質量%が好ましく、0.3〜5質量%がさらに好ましい。
なお、(4)の珪素化合物においては、アルコキシシラン(II)は加水分解が行われていないが、この場合、微粒子積層膜と接触した後に希釈媒体を蒸発させると、微粒子積層膜が有する吸着水により珪素化合物が加水分解し、希釈媒体の蒸発に伴い縮重合が進行する。
【0232】
微粒子積層膜に珪素化合物溶液を接触させることで得られる低屈折率膜は、微粒子積層膜より基材密着性に優れ、それらの違いはテープ試験によって知ることができる。例えば、テトラエトキシシランの加水分解物を微粒子積層膜に接触させて得た低屈折率膜は、粘着力が6.2N/20mmの粘着テープ(日東電工社製、31B)を用いてテープ試験をしても、剥離せず、膜減りもしない。しかし、微粒子積層膜に同条件でテープ試験をすると、微粒子積層膜は剥離するか、膜減りする。なお、膜減りは凝集破壊により膜の厚みが減少した状態であるが、エリプソメータによる膜厚評価や分光光度計にて測定した反射率もしくは透過率の解析により膜厚を評価することができる。もしくは、膜の凝集破壊により生じた凹凸により光が散乱することからも膜減りしているか否かを評価することができる。一方、膜の剥離は、反射率や透過率が基材自体の値をほぼ示すことから評価することができる。
【0233】
本発明の低屈折率用コーティング液セットは、以上の(F)微粒子分散液、(H)電解質ポリマー溶液、及び(J)珪素化合物溶液からなる。これらの液を既述のように使用することで、本発明の低屈折率膜を形成することができる。
【0234】
(K)光学部材
本発明に係る微粒子積層膜は、交互積層法により得られるために膜厚均一性が高く、それゆえ、該微粒子積層膜に珪素化合物溶液を接触させてなる本発明の低屈折率膜は光学部材に好適に用いることができる。本発明の低屈折率膜は、例えば反射防止膜、反射膜、半透過半反射膜、可視光反射赤外線透過膜、赤外線反射可視光透過膜、青色反射膜、緑色反射膜、赤色反射膜、輝線カットフィルター膜、色調補正膜が二つ以上加わった構成の膜として機能させることができ、特に、反射防止膜として好適に機能し得る。
【0235】
そのため、本発明の低屈折率膜を形成した固体基材は、例えば、反射防止膜付き基材、反射膜付き基材(ミラー)、半透過半反射膜付き基材(ハーフミラー)、可視光反射赤外線透過膜付き基材(コールドミラー)、赤外線反射可視光透過膜付き基材(ホットミラー)、青色反射膜付き基材、緑色反射膜付き基材又は赤色反射膜付き基材(ダイクロックミラー)、輝線カットフィルター膜付き基材、色調補正膜付き基材として用いることができる。
【0236】
上記の機能は、多くの場合、固体基材の上に低屈折率膜と高屈折率膜を膜厚制御しながら積層して形成した多層構造膜からなる微粒子積層膜によって発現される。
光学的機能発現に必要な屈折率の範囲は、低屈折率膜としては1.2〜1.5、高屈折率膜としては1.6〜2.4が一般的であるが、多くの場合、低屈折率膜の屈折率は低いほど良く、高屈折率膜の屈折率は高いほど良い。なお、光学機能発現に必要な膜厚は、前記式(1)により求めることができる。屈折率の調整は、前記したように微粒子の選択により、行うことが出来る。
【0237】
多層構造の反射防止膜には、固体基材上に高屈折率膜と低屈折率膜を交互に積層した4層以上の積層数のものがあり、広い波長領域で反射防止機能を示す。この場合、低屈折率膜と高屈折率膜の屈折率差が大きいほど、反射防止性能に優れる。実際上の反射防止膜に利用する観点から、可視光の波長領域で微粒子積層膜の表面反射率の最小値が3%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。
【0238】
半透過半反射膜の基本的な多層構造は、固体基材上に高屈折率膜と低屈折率膜の2層を順に積層し、2回繰り返した4層構造が一般的である。高屈折率膜と低屈折率膜の各層の厚さは前記式(1)に近づけることが基本であるが、反射スペクトルや透過スペクトルを目的とする波長領域で平坦にするため、すなわち、反射率や透過率の波長依存性を小さくするために、若干増減させてもよい。
【0239】
なお、高屈折率膜の単層膜でも、前記式(1)に近づけることで、波長λを中心とした波長領域で半透過半反射機能を示す。実際上の半透過半反射膜に利用する観点から、微粒子積層膜の可視光の波長領域での反射率の平均値が15%以上50%以下及び透過率の平均値が50%以上85%以下であることが好ましく、反射率の平均値が15%以上40%以下及び透過率の平均値が60%以上85%以下であることがより好ましく、反射率の平均値が15%以上30%以下及び透過率の平均値が70%以上85%以下であることがさらに好ましい。
【0240】
反射膜の基本的な多層構造は、固体基材上に高屈折率膜と低屈折率膜の2層を順に積層した二層構造を繰り返し積層したものであり、高屈折率膜と低屈折率膜の交互積層構造であるが、固体基材側最下層と最表面層は高屈折率膜である。膜厚は基本的にそれぞれ前記式(1)で決定される。高屈折率膜と低屈折率膜の二層構造の繰り返し数が多いほど高い反射率が得られる。
【0241】
また、低屈折率膜と高屈折率膜の屈折率差が大きいほど、二層構造の繰り返し数が同じでも反射率が高くなる。そのため、低屈折率膜と高屈折率膜の屈折率差を大きくすることで、高い反射率を得るために必要な二層構造の繰り返し数を少なくすることができる。
【0242】
可視光反射赤外線透過膜、赤外線反射可視光透過膜、青色反射膜、緑色反射膜、赤色反射膜、輝線カットフィルター膜、色調補正膜は、ある特定の波長で反射率が高いことが特徴であるため、基本的な膜構造は反射膜のような多層構造である。
【0243】
式(2)からわかるように、微粒子材料の変更や微粒子体積密度の制御により微粒子積層膜の屈折率を制御することができ、高屈折率や低屈折率の微粒子積層膜を得ることができる。例えば、バルクの屈折率が2.3の酸化チタン、2.2のセリア、1.9の酸化錫の微粒子を用いて、微粒子の体積密度を60%に制御すれば、屈折率1.89のチタニア微粒子積層膜、屈折率1.82のセリア微粒子積層膜や屈折率1.60の酸化錫微粒子積層膜等の高屈折率膜が得られる。
【0244】
一方、バルクの屈折率が1.6の酸化アルミニウム、1.48のシリカの微粒子を用いて、微粒子の体積密度を50%に制御すれば、屈折率1.33の酸化アルミニウム微粒子積層膜や屈折率1.26のシリカ微粒子積層膜等の低屈折率膜が得られる。微粒子体積密度は微粒子のゼータ電位や微粒子形状により制御できる。
【0245】
微細構造が高度に制御され、幾何光学的に高い性能を有する微細構造体においては、微細構造体表面の反射防止膜や低屈折率膜は、可視光を散乱・拡散させることは望ましくない。若干でも光を散乱・拡散させる反射防止膜や低屈折率膜は、光が斜めから入射する場合に光の散乱・拡散の度合いが増すためである。
【0246】
微細構造体表面の反射防止膜には光が法線方向から入射するだけでなく、斜入射である場合も多い。そのため、例えば、レンズ形状物の表面に光を散乱・拡散させる反射防止膜や低屈折率膜が形成された場合、光が焦点に集まらない等の幾何光学的な性能低下を生じる。すなわち、反射防止膜が微細構造体の幾何光学的な性能を損なわないためには、反射防止膜や低屈折率膜が透明であることが望ましい。本発明では、反射防止膜や低屈折率膜の濁度を測定することにより、本発明の反射防止膜や低屈折率膜が微細構造体の幾何光学的な性能を損なわないことを評価できる。
【0247】
微細構造が高度に制御され、幾何光学的に高い性能を有する微細構造体においては、微細構造体表面の反射防止膜は、微細構造体の形状に追従して形成されることが望ましい。反射防止膜が微細構造体の形状に追従しない場合は、微細構造体の幾何光学的な性能が損なわれる。レンズ状微細構造を例にとれば、固体撮像素子に用いられるオンチップマイクロレンズアレイ表面の反射防止膜がマイクロレンズに追従しない場合、レンズの集光性能を損なうために、集光される光量の減少により感度が低下し、さらにフォトダイオード以外の部分に照射された光が迷光となり、フレアやコントラスト低下を引き起こす。
【0248】
本発明では、低屈折率膜が形成された微細構造体の断面を走査型電子顕微鏡などにより観察し、微細構造表面からの法線方向に対する低屈折率膜の厚みを測定することで、低屈折率膜の微細構造体への追従性を評価することができる。また微細構造体を斜め方向より走査型電子顕微鏡などにより観察し、投影された微細構造体の形状より低屈折率膜の微細構造体への追従性を評価することもできる。
【0249】
本発明では、固体基材が表面に極性基を有することにより、その上に形成された微粒子積層膜が実用的な密着性を得ることができ、さらに珪素化合物により微粒子と基材が結合することでより優れた密着性を得ることができる。固体基材上の膜の表面硬度を評価する方法としては鉛筆硬度試験が挙げられる。固体基材の硬度に依存せずに薄膜そのものの硬度を評価する装置にはナノインデンターが挙げられる。
また、密着性を評価する方法にはテープ剥離試験が挙げられる。
【0250】
なお、テープ剥離試験には必ずしもJIS Z 1522に規定するような2.94N/10mm以上の粘着力を有する必要は無く、より実際の工程において用いる粘着テープを用いて試験してもよい。光電変換素子等の半導体の製造工程においては、バックグラインド工程に用いる粘着テープ等の保護テープがそれにあたる。
【0251】
また、液晶用バックライトの輝度向上レンズフィルム、拡散フィルム、ビデオプロジェクションテレビのスクリーンに用いられるフレネルレンズやレンチキュラーレンズなどの光学機能部材においては、加工・輸送・組立て・保管に表面保護、汚染防止や固定をするために貼る粘着テープがそれにあたる。
(L)乾燥処理
上記のようにして固体基材表面に形成した低屈折率膜を加熱することで乾燥処理を行ってもよい。珪素化合物と微粒子や基材との脱水縮合が促進し、低屈折率膜の強度と基材密着性の向上が図られる。
【0252】
加熱温度は、固体基材の融点、ガラス転移温度、軟化温度等より低い温度が良く、固体基材の透明性や無着色といった光学機能が保たれる温度が良い。なお、加熱温度は、微粒子積層膜中の電解質ポリマーの融点や沸点を越えてもよい。
【0253】
本発明に係る微粒子積層膜中の電解質ポリマーは極微量であるため、加熱によって蒸発し、微粒子積層膜中から除去されても光学機能や機械特性は保たれる。
また、微粒子積層膜の形成のためには電解質ポリマーは静電的な結合材として必要であるが、微粒子積層膜の形成後では微粒子積層膜は微粒子間引力により保持されるために電解質ポリマーは存在してもよいし、存在しなくてもよい。
【0254】
加熱時間は、1分〜1時間であることが好ましい。もちろん、加熱温度と加熱時間との関係は、相対的なものであり、処理温度を低くした場合には、その分長い時間にわたって処理を続けることで目的を達成できる。
【0255】
また、加熱処理の雰囲気に制限はなく、空気中のような酸化性の雰囲気、窒素中のような不活性な雰囲気、あるいは水素などを含む還元性雰囲気であっても差し支えない。加熱方法にも制限はなく、オーブン、誘導加熱装置、赤外線ヒータのような加熱手段ないしは加熱装置を用いて行うことができる。
【0256】
<微粒子積層薄膜付き基材及びその製造方法>
次いで、本発明の微粒子積層薄膜付き基材及びその製造方法について説明する。
本発明の微粒子積層薄膜付き基材は、熱膨張係数が50〜350(ppm/K)のプラスチック基材上に、空隙を有する微粒子積層薄膜が成膜された微粒子積層薄膜付き基材であって、前記微粒子積層薄膜が、電解質ポリマー及び微粒子が交互に吸着され、アルコール性シリカゾル生成物を接触させることにより、前記プラスチック基材と前記微粒子、及び前記微粒子同士が結合していることを特徴としている。
【0257】
本発明の微粒子積層薄膜付き基材の製造方法は、プラスチック基材上に、空隙を有する微粒子積層薄膜が成膜された微粒子積層薄膜付き基材の製造方法であって、(A)熱膨張係数が50〜350(ppm/K)のプラスチック基材上に、電解質ポリマー溶液又は微粒子分散液のいずれかを接触又は塗布する工程、(B)電解質ポリマー溶液を接触又は塗布させた後のプラスチック基材上に該電解質ポリマー溶液の電解質ポリマーと反対電荷を有する微粒子の分散液を接触又は塗布する工程、又は微粒子分散液を接触又は塗布させた後のプラスチック基材上に該微粒子分散液の微粒子と反対電荷を有する電解質ポリマーの溶液を接触又は塗布する工程、(C)電解質ポリマー溶液又は微粒子を接触又は塗布させた後のプラスチック基材上に、アルコール性シリカゾル生成物を接触又は塗布する工程
を含むことを特徴としている。
以下に、本発明の微粒子積層薄膜付き基材及びその製造方法について、双方を交えて説明する。
【0258】
本発明の微粒子積層薄膜付き基材は、
図5に示すように、プラスチック基材1上に、空隙4を有する微粒子積層薄膜10を有してなる。微粒子積層薄膜10は、電解質ポリマー2及び微粒子3を交互に吸着させ、且つ、アルコール性シリカゾル生成物5を介して、プラスチック基材1と微粒子3、及び微粒子3と微粒子3とが結合する様に構成される。
以下に本発明の微粒子積層薄膜の各成分について説明する。
【0259】
(微粒子)
微粒子積層薄膜の形成に用いる微粒子は、溶液に分散されている状態で平均一次粒子径が、2〜100nmであることが微粒子積層薄膜の透明性を得るために好ましく、微粒子積層薄膜の光学機能の確保の観点から、2〜40nmがより好ましく、2〜20nmが最も好ましい。平均一次粒子径が2nm未満の微粒子は、形成が難しくなり、平均一次粒子径が100nmを超えて大きくなると、可視光を散乱しやすくなり、微粒子積層薄膜の透明性を損ない易くなる。
また、交互積層法で微粒子積層薄膜を形成する場合、既述の通り、交互積層回数1回当たりの微粒子積層薄膜の膜厚変化量は、通常は微粒子の平均一次粒子径と同程度である。そのため、平均一次粒子径が大きすぎると膜厚制御の精度が低くなり、光学機能発現に膜厚を精度良く得ることが困難となる。膜厚制御性を損なわなければ、微粒子は一次粒子であっても、一次粒子が凝集したタイプの二次粒子であってもよい。
【0260】
なお、微粒子積層膜の光学機能発現に必要な膜厚d
1は、既述の式(1)で求められる。また、微粒子の平均一次粒子径や平均一次粒子径の測定は、既述の通り、BET法や電子顕微鏡法で測定できるが、本発明において規定する平均一次粒子径の数値は、BET法によって得られる数値である。ただし、後述する中空状微粒子および多孔質微粒子については(透過型)電子顕微鏡法によって得られる数値とする。
【0261】
本発明において使用し得る微粒子としては、無機微粒子が挙げられ、具体例としては、既述の本発明の低屈折率膜の説明において挙げた無機微粒子と同様である。
好ましくは、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタン、ニオブ、亜鉛、錫、セリウム及びマグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含む酸化物が、透明性の観点から好適に選ばれる。
【0262】
微粒子は、不定型であってもよいし、取り得る結晶型に特に制限はない。例えば、TiO
2は、ルチル型でもアナターゼ型でもよい。このような無機微粒子の市販品としては、例えば、多木化学株式会社製のチタニア微粒子水分散液(商品名:タイノックM−6)、住友大阪セメント株式会社製の酸化亜鉛微粒子水分散液(商品名:ZnO−350)、多木化学株式会社製のセリア微粒子水分散液(商品名:ニードラールP10)、多木化学株式会社製の酸化錫微粒子水分散液(商品名:セラメースS−8)、多木化学株式会社製の酸化二オブ微粒子水分散液(商品名:バイラールNB−X10)、日産化学工業株式会社製のアルミナ微粒子水分散液(商品名:アルミナゾル−5)、日産化学工業株式会社製のシリカ微粒子水分散液(商品名:スノーテックス20)等を用いることができる。
【0263】
上記の無機微粒子の中では、反射防止膜に必要とされる低屈折率の薄膜が得られる点で、シリカ(SiO
2)が好ましく、平均一次粒子径を、2nmから23nmのように制御した水分散コロイダルシリカ(SiO
2)が最も好ましい。このような無機微粒子の市販品としては、例えば、スノーテックス(日産化学工業株式会社製、商品名)等が挙げられる。
【0264】
さらに、微粒子は、形状面から言えば、一次粒子が数珠状に繋がった形状、及び多孔質形状、中空構造のうちの1種以上を用いることが好ましい。これらの微粒子は、既述の本発明の低屈折率膜において説明したものと同様であり、粒子サイズ、製法、具体例など本発明にもそのまま妥当する。
【0265】
(微粒子分散液)
本発明で用いる微粒子分散液は、上述した微粒子が、水、有機溶媒、又は、水と水溶性の有機溶媒のような混合溶媒である媒体(液)に分散されたものであり、詳細については、既述の本発明の低屈折率膜における「(F)微粒子分散液」の説明がそのまま妥当する。
【0266】
(電解質ポリマー及び電解質ポリマー溶液)
本発明で使用する電解質ポリマーとしては、既述の本発明の低屈折率膜において説明した「(H)電解質ポリマー溶液」で挙げた電解質ポリマーと同様であり、好ましい例も同様である。また、本発明で使用する電解質ポリマー溶液は、前記「(H)電解質ポリマー溶液」の説明の通り、微粒子の表面電荷と反対又は同じ符号の電荷の電解質ポリマーを、水、有機溶媒又は水溶性の有機溶媒と水の混合溶媒に溶解したものである。
【0267】
(アルコール系シリカゾル)
アルコール系シリカゾルとしては、4、3、2官能のアルコキシシラン、及びこれらアルコキシシラン類の縮合物、加水分解物、シリコーンワニス等が使用できる。具体的に例示すると、4官能アルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、3官能のアルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドプロポキシトリメトキシシラン、グリシロプロピルメチルジエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2官能のアルコキシシランとしては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等が挙げられる。
縮合物としては、コルコート株式会社製のエチルシリケート40(商品名)、エチルシリケート48(商品名)、メチルシリケート51(商品名)等の4官能アルコキシシランの縮合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、加水分解物としては、アルコキシシラン類を、有機溶媒と水及び触媒を使用して加水分解させたものが使用できる。
【0268】
これらのシリカ化合物の内、本発明に適用されるアルコール性シリカゾルは、下記一般式(1)においてR
1がメチル基又はエチル基である低級アルキルシリケートである。特に、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、エチルシリケート40(コルコート株式会社製、商品名)、エチルシリケート48(コルコート株式会社製、商品名)、メチルシリケート51(コルコート株式会社製、商品名)及びそれらの加水分解生成物であるアルコール性シリカゾルは、膜を強固に固定でき、且つ比較的安価であることから特に好適である。アルコール性シリカゾルは、それらの混合物であってもよい。
また、一般式(1)中、R
2は、メチル基、エチル基、及びフェニル基のうちのいずれかであることが好ましい。それらの疎水性と、プラスチック基材の疎水性相互作用により、浸透性、濡れ性が向上し、密着性が得やすいためである。
→請求項24をサポートする記載として、第2パラグラフを追記しました。R
2がそれらの基であるとどのような点で好ましいかにつきまして、記載できるのであれば追記願います。
【0270】
(アルコール性シリカゾル生成物)
アルコール性シリカゾル生成物は、少なくとも1種類以上の、前記一般式(1)で表わされる低級アルキルシリケートを、メタノール及びエタノールのうちのいずれかの中で加水分解して調製したアルコール性シリカゾルを含むことが好ましい。
より具体的には、アルコール性シリカゾル生成物は、(ア)アルコール性シリカゾル自体と、(イ)アルコール性シリカゾルの−SiOMeが、−SiOHに変化したものと、(ウ)シリカゾルの重合体と、(エ)アルコール性シリカゾルを微粒子積層薄膜に接触した後に、アルコール性シリカゾルの分子内に含まれるシラノール基(−Si−OH)が、微粒子積層薄膜に含まれる水酸基(−OH)と脱水縮合して、−Si−O−結合に変化したシリカゾルとを含むことが好ましい。
【0271】
アルコール系シリカゾル生成物の製造方法の例としては、公知の方法を用いることができる(例えば、特開平6−52796号公報参照)。具体的には、テトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランのモル数の10〜20倍程度の水と前記触媒とを使用して、室温(25℃)〜50℃(好ましくは室温(25℃)〜30℃)の温度で、1時間以上(好ましくは2〜5時間)攪拌して加水分解反応を行う。SiO
2濃度として、20質量%以下、好ましくは、1〜10質量%の固形分濃度の、アルコール性シリカゾルを調製する。
【0272】
このようにして調製したアルコール性シリカゾルは、塗布し易いように、希釈媒体(液)で希釈することができる。この種の希釈液としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルエチルケトン等のケトン類、及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。尚、これら希釈液を前記アルコール性シリカゾルに加えて希釈し、SiO
2濃度として、0.1質量%以上、0.5質量%未満の固形分濃度としてもよい。
前記したアルコール性シリカゾル生成物を微粒子積層薄膜に付与するには、スプレー法、ディップ法、ロールコート法、スピンコート法等何れでも可能である。塗布した後に、20〜140℃の温度で加熱することで、希釈媒体を蒸発させると同時に、アルコール性シリカゾルに生成した、シラノール基が、微粒子及び基板と結合することで、橋架け剤となり、微粒子積層薄膜の基板との密着性が得られる。
【0273】
(プラスチック基材)
本発明で用いるプラスチック基材の材質としては、使用環境における、寸法安定性、特に使用温度における形状の安定性という観点から、熱膨張係数が50〜350(ppm/K)、好ましくは60〜300(ppm/K)、より好ましくは60〜200(ppm/K)のものを用いる。熱膨張係数が50(ppm/K)未満であるとガラス並みの熱膨張係数となり、プラスチック基材としての成型性が低くなり、350(ppm/K)を超えると熱による変形の度合いが大きく、レンズに用いた場合、筐体から外れたり、光軸がずれて、結像する距離が変化してしまう。
また、その形状は、フィルム状、シート状、板状、曲面を有する形状等、任意である。基材の一部若しくは全体が、筒状、糸状、繊維状、発泡体等、浸漬して溶液が入り込むことができるものであれば、微粒子積層薄膜が、その表面に形成されるので使用することができる。また、基材の断面が、凹凸形状を有していても、表面の構造に追従して微粒子積層薄膜を形成することができる。更に、基材表面が、ナノメートルスケールやサブミクロンスケールの構造を有していても、その構造に追従して微粒子積層薄膜は形成することができる。
【0274】
プラスチック基材としては、例えば、ポリエステル、ポリスチレン、セルロースアセテート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリビニルアセタール、ポリエーテルケトン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリウレタン等の延伸又は未延伸の透明プラスチックフィルム等が挙げられる。
【0275】
本発明に係るプラスチック基板は、熱処理などによる光学性能の劣化を防ぐという観点から、その熱溶融温度又は熱分解温度以下での温度範囲で、加熱前後の反射率の変化率が2%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましく、0・5%以下であることがさらに好ましい。
【0276】
(プラスチック基材の前処理方法)
プラスチック基材は、そのまま用いるか、又はそれらの表面にコロナ放電処理、グロー放電処理、プラズマ処理、紫外線照射、オゾン処理、アルカリや酸等による化学的エッチング処理、シランカップリング処理等によって、極性を有する官能基を導入して基材の表面電荷をマイナス若しくはプラスする。その他、基材表面へ電荷を効率よく導入する方法としては、強電解質ポリマーであるPDDA(ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド)や、PEI(ポリエチレンイミン)とPSS(ポリスチレンスルホン酸)の水溶液に交互に接触して、交互積層膜を形成することによっても可能である(Advanced Material. 13, 51−54 (2001)参照)。
【0277】
微粒子積層薄膜を透明性が求められる光学部材として利用する場合には、基材も透明であることが望ましい。それ自身透明性を有する基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、アセテートブチレートセルロース、ポリエーテルサルフォン、ポリアミド、ポリイミド、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂や、シリコーン樹脂を挙げられる。
また、微粒子積層薄膜を反射率のみが重要になる光学部材として利用する場合には、基材に透明性は必ずしも必要ではない。
【0278】
微粒子積層薄膜の形成を望まない基材の一部の表面部分には、粘着フィルム等を貼り付ける等の、微粒子分散液と基材との接触防止を施すことで、微粒子積層薄膜の基材上への形成を阻止することができる。
【0279】
基材に形成された反射防止膜の反対側の基材面に粘着剤層が形成されている場合は、被着体としてのディスプレイ表面のガラス基板等に貼り付けて、反射防止膜が空気と面するよう用いることもできる。
【0280】
(微粒子積層薄膜の形成方法)
本発明において、空隙を有する微粒子積層薄膜を生成するためには、交互積層法を用いる。
本発明に係る微粒子積層薄膜10は、以下の工程(A)〜(C)をこの順に実行することにより形成することができる(
図5参照)。
(A)熱膨張係数が50〜350(ppm/K)のプラスチック基材上に、電解質ポリマー溶液又は微粒子分散液のいずれかを接触又は塗布する工程により、電解質ポリマー2又は微粒子3の層を形成し、
(B)電解質ポリマー溶液を接触又は塗布させた後のプラスチック基材上に該電解質ポリマー溶液の電解質ポリマーと反対電荷を有する微粒子の分散液を接触又は塗布する工程、又は微粒子分散液を接触又は塗布させた後のプラスチック基材上に該微粒子分散液の微粒子と反対電荷を有する電解質ポリマーの溶液を接触又は塗布する工程により、微粒子3又は電解質ポリマー2の層を形成し、
(C)電解質ポリマー溶液又は微粒子を接触又は塗布させた後のプラスチック基材上に、アルコール性シリカゾル生成物を接触又は塗布する工程により、アルコール性シリカゾル生成物5を介して基材1と微粒子3、及び微粒子3同士を結合させる。
【0281】
工程(A)と工程(B)とを交互に2回以上繰り返した後、工程(C)を行うことが好ましい。工程(A)と工程(B)とを交互に2回以上繰り返し行うことにより、薄膜の膜厚を制御することができる。この場合、交互に繰り返す回数は、2回以上百回以下とすることが透明性を確保する上で好ましい。
また、工程(A)及び/又は工程(B)の後に、(D)リンス工程を行うことにより、吸着面に余分に物理吸着した材料を除去することができるため好ましい。
【0282】
工程(C)の後に、加熱処理することができる。加熱処理をすることで、上述の通り、希釈媒体を蒸発させると同時に、アルコール性シリカゾルに生成した、シラノール基が、微粒子及び基板と結合することで、橋架け剤となり、微粒子積層薄膜の基板との密着性が得られる。
この場合、加熱処理の温度としては、プラスチック基材の変形を防ぐ等の観点から、プラスチック基材のガラス転移温度又はガラス転移温度以上の温度、あるいは、20〜260℃とすることが好ましい。加熱処理の雰囲気に制限はなく、空気中のような酸化性の雰囲気、窒素中のような不活性な雰囲気、あるいは水素などを含む還元性雰囲気であっても差し支えない。加熱方法にも制限はなく、オーブン、誘導加熱装置、赤外線ヒータのような加熱手段ないしは加熱装置を用いて行うことができる。
【0283】
以上の交互積層法によると、下記文献に開示の既知の値から、所望の空隙率を有する微粒子積層薄膜を得ることができる。そのため、この微粒子積層薄膜にアルコール性シリカゾルを塗布して溶媒が揮発した後の屈折率は、アルコール系シリカゾルの濃度により制御可能となる。
空隙率の調整は、微粒子積層薄膜の作製時に使用する微粒子分散液のpHを調整する方法(pHを3〜9に調整すると空隙率は比較的高く、それ以外の範囲では空隙率が比較的低くなるように制御される)等、微粒子の表面電位を調整することにより行うことができる。
空隙率は、十分な反射防止膜が得られる屈折率を考慮すると、40〜80%が好ましく、40〜70%がより好ましく、50〜60%がさらに好ましい。微粒子の表面電位の制御方法は、特開2006−301125号公報、特開2006−297680号公報、特開2006−301124号公報に記載の方法を用いることができる。例えば、空隙率を63%としておき、0.4%の質量濃度のアルコール性シリカゾル生成物を塗布した後、所望の空隙率、53%にすることができる。
【0284】
(微粒子積層薄膜の形成装置)
微粒子積層薄膜の形成装置としては、既述の本発明の低屈折率膜において説明したディッパーと呼ばれる装置を用いてもよく、また、ロール状に巻き取ってあるフィルムからフィルムを取り出し、そのまま微粒子分散液中に接触させ、乾燥させた後に、ロール状にフィルムを巻き取る連続膜形成プロセスを用いてもよい。
【0285】
プラスチック基材を電解質ポリマー溶液(ポリカチオン又はポリアニオン)と微粒子分散液に交互に浸し、微粒子積層薄膜を固体基板上に作製する。プラスチック基材の表面電荷がマイナスであれば、始めにカチオン性の溶液(電解質ポリマー又は微粒子分散液の一方)に接触し、次にアニオン性の溶液(電解質ポリマー又は微粒子分散液の他方)に接触させる。
接触時間は、ポリマーや微粒子、積層したい膜厚によって適宜調整する。プラスチック基材を、カチオン性又はアニオン性の溶液を接触させた後、反対電荷を有する溶液に接触する前に、溶媒のみのリンスによって余剰の溶液を洗い流すこともできる。静電的に吸着しているために、この工程で剥離することはない。また、反対電荷の溶液に、吸着していないポリマー電解質又は微粒子を持ち込むことを防ぐために行ってもよい。これをしない場合は、持ち込みによって溶液内でカチオン、アニオンが混ざり、沈殿を起こすことがある。
【0286】
装置としてディッパーと呼ばれる交互積層装置を用いる場合、上下左右に動作するロボットアームにプラスチック基材を取り付け、プログラムされた時間に、プラスチック基材をカチオン性溶液又はアニオン性溶液に漬け、続いてリンス液に漬け、続いて前記溶液とは反対電荷の微粒子分散液に漬け、またリンス液に漬ける。この工程を1サイクルとして、積層したい回数分を連続的に自動的に行うことができる。そのプログラム中、電解質ポリマーとして2種類以上のカチオン性物質、アニオン性物質を用いた組み合わせをしてもよい。例えば、最初の2層分はポリジメチルジアリルアンモニウム塩化物とポリスチレンスルホン酸ナトリウムとの組み合わせ、続く2層はポリジメチルジアリルアンモニウム塩化物とアニオン性シリカゾルとの組み合わせを用いることができる。
【0287】
ロール状に巻き取ったフィルムを巻き出し部から取り出し、途中にカチオン性溶液水槽又はアニオン性水槽、リンス水槽、微粒子分散液、リンス水槽を並べて配置し、この配置を積層したい回数分並べて最後に乾燥する工程などを配置して、巻取り部を設けたフィルム状基材への連続膜形成プロセスも用いることができる。
【0288】
得られた微粒子積層薄膜には、防汚性を持たせるために、フッ素系ポリマー溶液又はフッ素系カップリング剤溶液を塗布してもよい。溶液の濃度は、0.1〜5質量%が好ましい。0.1質量%未満では、十分な防汚性が得られない場合がある。これは、微粒子積層薄膜の表面から内部に染み込んで、表面に防汚成分が残りにくいためである。また、5質量%を超えると、所望の空隙率を得ることができない場合がある。これは、防汚成分の占める体積が、空隙を埋めてしまうためである。また、微細な形状の谷の部分を埋めてしまうために、形状が変わってしまい、レンズ等の光を曲げる機能を持たせた基材の場合、その特性を劣化させる場合がある。
【0289】
(微粒子積層薄膜の屈折率と膜厚の決定)
反射率分光法及びカーブフィット法を組み合わせた瞬間測光分光光度計(フィルメトリクス株式会社製、商品名:F20)の解析プログラムにより、表面反射率のスペクトルから微粒子積層薄膜の屈折率と膜厚を求めることができる。
【0290】
(微粒子積層薄膜の空隙率の決定)
本発明の微粒子積層薄膜付き基材では、微粒子の間の隙間は、空気である。即ち、走査型電子顕微鏡による表面及び断面観察によって、孔が観測できることから、シリカ微粒子積層薄膜の見かけの屈折率がシリカより低い場合、屈折率を下げているのは、孔に存在する空気であり、微粒子積層膜の屈折率n
cは既述の式(2)から求めることができる。
【0291】
<光学部材>
本発明の光学部材は、既述の本発明の微粒子積層薄膜付き基材を有する光学部材であり、当該微粒子積層薄膜に、反射防止機能を付与してなる態様と、半透過半反射機能を付与してなる態様と、反射機能を付与してなる態様、すなわち、それぞれ、反射防止膜、半透過半反射膜、及び反射膜の態様が挙げられ、その他、可視光反射赤外線透過膜、赤外線反射可視光透過膜、青色反射膜、緑色反射膜、赤色反射膜、輝線カットフィルター膜、色調補正膜が二つ以上加わった構成の膜を挙げることができる。
【0292】
本発明に係る微粒子積層膜は、交互積層法により得られるために膜厚均一性が高く、それゆえ、光学部材に好適に用いることができる。そのため、本発明の光学部材は、例えば、反射防止膜付き基材、半透過半反射膜付き基材(ハーフミラー)、反射膜付き基材(ミラー)に適用することができる。
その他、本発明の光学部材における各膜の好適条件などは、既述の本発明の低屈折率膜における「(K)光学部材」の説明と同様であり、ここでは説明を省略する。
【実施例】
【0293】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれら実施例によって何等制限されるものではない。
まず、本発明の低屈折率膜の第1の態様に係る実施例(実施例1〜11)を示す。
【0294】
[実施例1]
1.微粒子積層膜の形成
BET法で測定した平均一次粒子径が8nmの数珠状シリカ微粒子が分散したシリカ水分散液(日産化学工業株式会社製、商品名:スノーテックス(ST)OUP、シリカゾル)をpHは調整せずに濃度を1質量%に調整した微粒子分散液として用い、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(PDDA、アルドリッチ社製)を0.1質量%、pH10に調整した水溶液を電解質ポリマー水溶液として用いた。
【0295】
固体基材であるシリコンウエハ(SUMCO社製、6PW−A1、6インチΦ、625μm厚)、ガラス基材(松浪硝子社製、商品名:S1111、25mm×75mm×0.7mm厚、波長550nmでの屈折率は1.54)、及び低圧水銀ランプ(10mW)にて紫外線を2分照射したポリスチレン板(光社製、透明、1mm厚)のそれぞれに、電解質ポリマー水溶液を滴下して1分間経過後にリンス用の超純水を1分間シャワーする工程(ア)、微粒子分散液を滴下して1分間経過後にリンス用の超純水を1分間シャワーする工程(イ)をこの順に施した。工程(ア)1回と工程(イ)1回を順に行うことを1サイクルとし、このサイクル数を微粒子交互積層回数とした。微粒子交互積層回数を4回行い、それぞれの固体基材表面に微粒子積層膜を形成した。
【0296】
2.珪素化合物処理
フェニルトリメトキシシラン(アルコキシシラン(I)、信越化学社製、KBM103)50gを3つ口丸底フラスコ300mlに入れ、メタノール(以下、MeOHと表記する。);75gを加え、25℃にて攪拌し液を均一にした後に、H
3PO
4;1.3質量%水溶液を17.7g加え、25℃にて24時間攪拌し、シラン濃度35%溶液(原液)を得た。この溶液に1−ブタノールを加えて、シラン濃度を1質量%に調整した珪素化合物溶液を得た。前記の微粒子積層薄膜が形成されたそれぞれの固体基板を、スピンコータにセットし、前記の珪素化合物溶液20mlを基板全体に展開した後、回転数1000min
−1で展開及び乾燥した。その後、25℃で24時間乾燥し、低屈折率膜を作製した。
【0297】
3.屈折率の評価
シリコンウエハ上の低屈折率膜の屈折率と膜厚を自動エリプソメータ(ファイブラボ株式会社製、商品名:MARY−102、レーザー波長632.8nm)で評価した結果、低屈折率膜の屈折率は1.30、厚さは110nmであった。
【0298】
4.透明性の評価
前記で得た低屈折率膜が形成されたガラス基板のヘイズ値を、濁度計(日本電色工業社製)でJIS K 7361−1−1997に準拠して測定した結果、0.4%であった。ガラス基板のみのヘイズ値を同様に測定した結果、0.1%であった。低屈折率膜が形成された固体基材のヘイズ値から、固体基材のみのヘイズ値を差し引くことで低屈折率膜の濁度を求めた。その結果、低屈折率膜の濁度は0.3%であり、低屈折率膜の透明性が非常に高いことがわかった。
【0299】
5.反射防止性能の評価
低屈折率膜が形成されたガラス基板の透過スペクトルを可視紫外分光光度計(日本分光株式会社製、商品名:V−570)で測定したところ、波長400〜800nmでの最大の透過率は95%であった。
また、低屈折率膜が形成されたガラス基板の反対面に黒い粘着テープ(ニチバン株式会社製、商品名:VT−196)を気泡が残らないように貼り付け、低屈折率膜が形成された片面の表面反射率のスペクトルを可視紫外分光光度計(日本分光株式会社製、商品名:V−570)で測定した。低屈折率膜が形成されたガラス基板の波長400〜800nmでの最小の表面反射率は0.3%であった。
ガラス基板の透過率は91%、表面反射率は4.5%であることから、優れた特性の反射防止膜が形成され、透過率も向上させることがわかった。
【0300】
6.密着性の評価
粘着テープとして粘着力1500cN/25mm(紫外線照射後は25cN/25mm)、幅25mmの粘着テープ(電気化学社製UHP−1025M3)を使用し、ロールラミネータ(ラミーコーポレーション社製LMP−350EX)を用いて、ロール荷重0.3MPa、送り速度0.3m/min、温度20℃の条件で、粘着テープを低屈折率膜へ貼り付けた。テープを密着させてから1分後に、紫外線露光装置(オーク株式会社製、HMW−6N−4)を用いて200mJ/cm
2の紫外線を照射し、テープの一方の端を基材面に直角に持ち上げ、瞬間的に引き剥がした。低屈折率膜を目視観察した結果、基材表面が見えず、低屈折率膜が可視光を散乱していないことから、低屈折率膜が基材に密着していることがわかった。シリコン基板上、ガラス基板上、ポリスチレン上の低屈折率膜はいずれも基材上に密着していた。
【0301】
[実施例2]
先ず、実施例1に準じて微粒子積層膜を作製した。
次いで、ジフェニルジメトキシシラン(アルコキシシラン(I)、信越化学社製、KBM202SS)50gを3つ口丸底フラスコ300mlに入れ、MeOH;81gを加え、25℃にて攪拌し液を均一にした後に、H
3PO
4;2.7質量%水溶液を12.1g加え、25℃にて4時間攪拌し、シラン濃度35%溶液(原液)を得たこと、及びこの溶液のシラン濃度を5質量%に調整した珪素化合物溶液を得たこと以外は、実施例1に準じて低屈折率膜を作製した。
【0302】
実施例1と同様に評価した低屈折率膜の屈折率は1.3、厚さは110nmであり、実施例1と同様に評価した低屈折率膜の濁度は0.3%であった。実施例1と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の透過スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最大の透過率は95%であった。実施例1と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の表面反射スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最小の表面反射率は0.3%であった。
実施例1と同様に密着性を評価したところ、粘着力1500cN/25mm(紫外線照射後は25cN/25mm)、幅25mmの粘着テープ(電気化学社製UHP−1025M3)の使用に対して、シリコン基板上、ガラス基板上、ポリスチレン上の低屈折率膜はいずれも基材に密着していた。
【0303】
[実施例3]
先ず、実施例1に準じて微粒子積層膜を作製した。
次いで、ヘキシルトリエトキシシラン(アルコキシシラン(I)、信越化学社製、KBE3063)50gを3つ口丸底フラスコ300mlに入れ、MeOH;42gを加え、25℃にて攪拌し液を均一にした後に、H
3PO
4;0.05質量%水溶液を7.4g加え、25℃にて72時間攪拌し、シラン濃度50%溶液(原液)を得たこと、及びこの溶液のシラン濃度を1質量%に調整した珪素化合物溶液を得たこと以外は、実施例1に準じて低屈折率膜を作製した。
【0304】
実施例1と同様に評価した低屈折率膜の屈折率は1.3、厚さは110nmであり、実施例1と同様に評価した低屈折率膜の濁度は0.3%であった。実施例1と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の透過スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最大の透過率は95%であった。実施例1と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の表面反射スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最小の表面反射率は0.3%であった。
実施例1と同様に密着性を評価したところ、粘着力1500cN/25mm(紫外線照射後は25cN/25mm)、幅25mmの粘着テープ(電気化学社製UHP−1025M3)の使用に対して、シリコン基板上、ガラス基板上、ポリスチレン上の低屈折率膜はいずれも基材に密着していた。
【0305】
[実施例4]
ポリエチレンイミン(PEI)を0.1質量%に調整し、pHを調整しない電解質ポリマー水溶液を用いたこと、微粒子交互積層回数を3回としたこと以外は実施例1に準じて基材上に微粒子積層膜を作製した。
次いで、オクチルトリエトキシシラン(アルコキシシラン(I)、ALFA Aesar社製、L04407)50gを3つ口丸底フラスコ300mlに入れ、MeOH;42gを加え、25℃にて攪拌し液を均一にした後に、HCl;1.7質量%水溶液を7.4g加え、25℃にて6時間攪拌し、シラン濃度50%溶液(原液)を得たこと、この溶液のシラン濃度を1質量%に調整して珪素化合物溶液を得たこと、及び25℃で24時間乾燥する代わりに80℃で30分乾燥したこと以外は、実施例1に準じて低屈折率膜を作製した。
【0306】
実施例1と同様に評価した低屈折率膜の屈折率は1.3、厚さは110nmであり、実施例1と同様に評価した低屈折率膜の濁度は0.3%であった。実施例1と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の透過スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最大の透過率は95%であった。実施例1と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の表面反射スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最小の表面反射率は0.3%であった。
実施例1と同様に密着性を評価したところ、粘着力1500cN/25mm(紫外線照
射後は25cN/25mm)、幅25mmの粘着テープ(電気化学社製UHP−1025M3)の使用に対して、シリコン基板上、ガラス基板上、ポリスチレン上の低屈折率膜はいずれも基材に密着していた。
【0307】
[実施例5]
先ず、実施例4に準じて微粒子積層膜を作製した。
次いで、デシルトリメトキシシラン(アルコキシシラン(I)、信越化学社製、KBM3103C)50gを3つ口丸底フラスコ300mlに入れ、MeOH;46gを加え、25℃にて攪拌し液を均一にした後に、H
3PO
4;10.0質量%水溶液を3.6g加え、25℃にて24時間攪拌し、シラン濃度50%溶液(原液)を得たこと、及びこの溶液のシラン濃度を1質量%に調整して珪素化合物溶液を得たこと以外は、実施例1に準じて低屈折率膜を作製した。
【0308】
実施例1と同様に評価した低屈折率膜の屈折率は1.3、厚さは110nmであり、実施例1と同様に評価した低屈折率膜の濁度は0.3%であった。実施例1と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の透過スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最大の透過率は95%であった。実施例1と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の表面反射スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最小の表面反射率は0.3%であった。
実施例1と同様に密着性を評価したところ、粘着力1500cN/25mm(紫外線照射後は25cN/25mm)、幅25mmの粘着テープ(電気化学社製UHP−1025M3)の使用に対して、シリコン基板上、ガラス基板上、ポリスチレン上の低屈折率膜はいずれも基材に密着していた。
【0309】
[実施例6]
先ず、実施例4に準じて微粒子積層膜を作製した。
次いで、ドデシルトリエトキシシラン(アルコキシシラン(I)、Fluorochem社製、S08550)50gを3つ口丸底フラスコ300mlに入れ、MeOH;40gを加え、25℃にて攪拌し液を均一にした後に、H
3PO
4;4.3質量%水溶液を9.7g加え、25℃にて4時間攪拌し、シラン濃度50%溶液(原液)を得たこと、及びこの溶液のシラン濃度を5質量%に調整して珪素化合物溶液を得たこと以外は、実施例1に準じて低屈折率膜を作製した。
【0310】
実施例1と同様に評価した低屈折率膜の屈折率は1.3、厚さは110nmであり、実施例1と同様に評価した低屈折率膜の濁度は0.3%であった。実施例1と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の透過スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最大の透過率は95%であった。実施例1と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の表面反射スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最小の表面反射率は0.3%であった。
実施例1と同様に密着性を評価したところ、粘着力1500cN/25mm(紫外線照射後は25cN/25mm)、幅25mmの粘着テープ(電気化学社製UHP−1025M3)の使用に対して、シリコン基板上、ガラス基板上、ポリスチレン上の低屈折率膜はいずれも基材に密着していた。
【0311】
[実施例7]
先ず、実施例4に準じて微粒子積層膜を作製した。
次いで、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(アルコキシシラン(I)、信越化学社製、KBE503)50gを3つ口丸底フラスコ300mlに入れ、MeOH;40gを加え、25℃にて攪拌し液を均一にした後に、H
3PO
4;4.3質量%水溶液を9.7g加え、25℃にて4時間攪拌し、シラン濃度50%溶液(原液)を得たこと、及びこの溶液のシラン濃度を5質量%に調整して珪素化合物溶液を得たこと以外は、実施例1に準じて低屈折率膜を作製した。
【0312】
実施例1と同様に評価した低屈折率膜の屈折率は1.3、厚さは110nmであり、実施例1と同様に評価した低屈折率膜の濁度は0.3%であった。実施例1と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の透過スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最大の透過率は95%であった。実施例1と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の表面反射スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最小の表面反射率は0.3%であった。
【0313】
実施例1と同様に密着性を評価したところ、粘着力1500cN/25mm(紫外線照射後は25cN/25mm)、幅25mmの粘着テープ(電気化学社製UHP−1025M3)の使用に対して、シリコン基板上、ガラス基板上、ポリスチレン上の低屈折率膜はいずれも基材に密着していた。
【0314】
[実施例8]
先ず、実施例4に準じて微粒子積層膜を作製した。
次いで、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(アルコキシシラン(I)、信越化学社製、KBM573)50gを3つ口丸底フラスコ300mlに入れ、MeOH;40gを加え、25℃にて攪拌し液を均一にした後に、H
3PO
4;4.3質量%水溶液を9.7g加え、25℃にて4時間攪拌し、シラン濃度50%溶液(原液)を得たこと、及びこの溶液のシラン濃度を5質量%に調整して珪素化合物溶液を得たこと以外は、実施例1に準じて低屈折率膜を作製した。
【0315】
実施例1と同様に評価した低屈折率膜の屈折率は1.3、厚さは110nmであり、実施例1と同様に評価した低屈折率膜の濁度は0.3%であった。実施例1と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の透過スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最大の透過率は95%であった。実施例1と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の表面反射スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最小の表面反射率は0.3%であった。
実施例1と同様に密着性を評価したところ、粘着力1500cN/25mm(紫外線照射後は25cN/25mm)、幅25mmの粘着テープ(電気化学社製UHP−1025M3)の使用に対して、シリコン基板上、ガラス基板上、ポリスチレン上の低屈折率膜はいずれも基材に密着していた。
【0316】
[実施例9]
先ず、実施例4に準じて微粒子積層膜を作製した。
次いで、デシルトリメトキシシラン(アルコキシシラン(I)、信越化学社製、KBM3103C)25gとテトラエトキシシラン(アルコキシシラン(II)和光純薬社製、オルトケイ酸テトラエチル)25gを3つ口丸底フラスコ300mlに入れ、MeOH;46gを加え、25℃にて攪拌し液を均一にした後に、H
3PO
4;10.0質量%水溶液を3.6g加え、25℃にて24時間攪拌し、シラン濃度50%溶液(原液)を得たこと、及びこの溶液のシラン濃度を1質量%に調整して珪素化合物溶液を得たこと以外は、実施例1に準じて低屈折率膜を作製した。
【0317】
実施例1と同様に評価した低屈折率膜の屈折率は1.3、厚さは110nmであり、実施例1と同様に評価した低屈折率膜の濁度は0.3%であった。実施例1と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の透過スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最大の透過率は95%であった。実施例1と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の表面反射スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最小の表面反射率は0.3%であった。
実施例1と同様に密着性を評価したところ、粘着力1500cN/25mm(紫外線照射後は25cN/25mm)、幅25mmの粘着テープ(電気化学社製UHP−1025M3)の使用に対して、シリコン基板上、ガラス基板上、ポリスチレン上の低屈折率膜はいずれも基材に密着していた。
【0318】
[実施例10]
先ず、実施例4に準じて微粒子積層膜を作製した。
次いで、オクチルトリエトキシシラン(アルコキシシラン(I)、ALFA Aesar社製、L04407)50gを3つ口丸底フラスコ300mlに入れ、MeOH;75gを加え、25℃にて攪拌し液を均一にした後に、H
3PO
4;1.3質量%水溶液を17.7g加え、25℃にて24時間攪拌した後に、エトキシシランオリゴマー(アルコキシシラン(II)、コルコート社製、エチルシリケート48)50gを加え、25℃にて5分攪拌し、シラン濃度70%溶液(原液)を得たこと、及び25℃で24時間乾燥する代わりに80℃で30分乾燥したこと以外は、実施例1に準じて低屈折率膜を作製した。
【0319】
実施例1と同様に評価した低屈折率膜の屈折率は1.3、厚さは110nmであり、実施例1と同様に評価した低屈折率膜の濁度は0.3%であった。実施例1と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の透過スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最大の透過率は95%であった。実施例1と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の表面反射スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最小の表面反射率は0.3%であった。
実施例1と同様に密着性を評価したところ、粘着力1500cN/25mm(紫外線照射後は25cN/25mm)、幅25mmの粘着テープ(電気化学社製UHP−1025M3)の使用に対して、シリコン基板上、ガラス基板上、ポリスチレン上の低屈折率膜はいずれも基材に密着していた。
【0320】
[実施例11]
基材に微細構造体であるマイクロレンズ(光硬化性樹脂、幅9μm、高さ1.5μm)を有するマイクロレンズアレイシートを用いたこと以外は実施例1に準じて微粒子積層膜を作製した。次いで、実施例4に準じて、低屈折率膜を作製した。なお、マイクロレンズアレイシートの一部に保護テープを貼り、微粒積層膜および低屈折率膜が形成されない部分を設けた。
【0321】
走査型電子顕微鏡(フィリップス社製、商品名:XL30ESEM)で、微粒子積層膜が形成したマイクロレンズアレイシートを、シート面の法線方向から75°の角度から観察し、微粒子積層膜が形成したマイクロレンズの形状を観察した。また、同様に微粒子積層膜が形成していない部分のマイクロレンズの形状も観察した。微粒子積層膜が形成したマイクロレンズの観察像の輪郭を
図3に破線で示す。また、微粒子積層膜が形成していないマイクロレンズの観察像の輪郭も
図3に実線で示す。微粒子積層膜の厚みが0.1μmと仮定して、微粒子積層膜が形成したマイクロレンズの輪郭を微粒子積層膜が形成していないマイクロレンズの輪郭の上に0.1μmずらして記した。その結果、マイクロレンズ上の微粒子積層膜は、マイクロレンズの法線方向に対する厚みが均一であることが確認でき、微粒子積層膜がマイクロレンズの形状に良好に追従していることが確認できた。実施例1と同様に密着性を評価したところ、粘着力1500cN/25mm(紫外線照射後は25cN/25mm)、幅25mmの粘着テープ(電気化学社製UHP−1025M3)の使用に対して、マイクロレンズアレイシート上の低屈折率膜はいずれも基材に密着していた。
【0322】
[比較例1]
BET法で測定した平均一次粒子径が8nmの数珠状シリカ微粒子が分散したシリカ微粒子イソプロパノール分散液(日産化学工業株式会社製、商品名:IPA−ST−UP、オルガノシリカゾル)を1.5質量%に調整した微粒子分散液を得た。
オクチルトリエトキシシラン(アルコキシシラン(I)、ALFA Aesar社製、L04407)50gを3つ口丸底フラスコ300mlに入れ、MeOH;42gを加え、25℃にて攪拌し液を均一にした後に、HCl;1.7質量%水溶液を7.4g加え、25℃にて6時間攪拌し、シラン濃度50%溶液(原液)を得た。この溶液に1−ブタノールを加えて、シラン濃度を1質量%に調整した珪素化合物溶液を得た。前記珪素化合物溶液50質量部と前記微粒子分散液50質量部を混合し微粒子分散珪素化合物溶液を得た。
【0323】
基材であるシリコンウエハ(SUMCO社製、6PW−A1、6インチΦ、625μm厚)、ガラス基材(松浪硝子社製、商品名:S1111、25mm×75mm×0.7mm厚、波長550nmでの屈折率は1.54)、低圧水銀ランプ(10mW)にて紫外線を2分照射したポリスチレン板(光社製、透明、1mm厚)、微細構造体であるマイクロレンズ(光硬化性樹脂、幅9μm、高さ1.5μm)を有するマイクロレンズアレイシートのそれぞれに、微粒子分散珪素化合物溶液を滴下し、回転数1000min
−1で展開及び乾燥し、基材上に低屈折率膜を形成した。なお、マイクロレンズアレイシートの一部に保護テープを貼り、低屈折率膜が形成されない部分を設けた。
【0324】
実施例1と同様に評価した低屈折率膜の屈折率は1.25、厚さは110nmであり、実施例1と同様に評価した微粒子積層膜の濁度は0.3%であった。実施例1と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の透過スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最大の透過率は95%であった。実施例1と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の表面反射スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最小の表面反射率は0.1%であった。
【0325】
実施例1と同様に密着性を評価したところ、粘着力1500cN/25mm(紫外線照射後は25cN/25mm)、幅25mmの粘着テープ(電気化学社製UHP−1025M3)の使用に対して、シリコン基板上、ガラス基板上、ポリスチレン上、マイクロレンズアレイシート上の微粒子積層膜はいずれも基材に密着していた。
【0326】
実施例9と同様に低屈折率膜が形成したマイクロレンズと低屈折率膜が形成していないマイクロレンズの走査型電子顕微鏡観察し、観察像の輪郭の比較を行った結果、
図4に示すように低屈折率膜はマイクロレンズの法線方向に対する厚みが不均一であり、マイクロレンズの谷部分に近づくほど厚くなった。これにより、低屈折率膜がマイクロレンズの形状を変化させることがわかり、集光性能を低下させることが推察される。
以上の実施例及び比較例の結果を表1、表2に示す。
【0327】
【表1】
(○;シリコン基板、ガラス基板、ポリスチレンに対する低屈折率膜の密着性良好)
(×;シリコン基板、ガラス基板、ポリスチレンに対する低屈折率膜の密着性不良、剥離
有り)
(○;マイクロレンズへの追従性良好)
(×;マイクロレンズへの追従性不良、形状変化)
【0328】
【表2】
(○;シリコン基板、ガラス基板、ポリスチレンに対する低屈折率膜の密着性良好)
(×;シリコン基板、ガラス基板、ポリスチレンに対する低屈折率膜の密着性不良、剥離有り)
(○;マイクロレンズへの追従性良好)
(×;マイクロレンズへの追従性不良、形状変化)
【0329】
表1、表2より、アルコキシシラン、または、アルコキシシランの加水分解物およびその加水分解物の縮合反応物、またはそれらの混合物のいずれかを微粒子積層膜と接触させることで、低屈折率膜に基材密着性を付与できることがわかる。また、微粒子積層膜を交互積層法により作製することで、低屈折率膜をマイクロレンズ等の微細構造に追従させることができることがわかる。
【0330】
次いで、本発明の低屈折率膜の第2の態様に係る実施例(実施例12〜19)を示す。
[実施例12]
1.微粒子積層膜の形成
BET法で測定した平均一次粒子径が8nmの数珠状シリカ微粒子が分散したシリカ水分散液(日産化学工業(株)製、商品名:スノーテックス(ST)OUP、シリカゾル)をpHは調整せずに濃度を1質量%に調整した微粒子分散液として用い、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(PDDA、アルドリッチ社製)を0.1質量%、pH10に調整した水溶液を電解質ポリマー水溶液として用いた。
【0331】
固体基材であるシリコンウエハ(SUMCO社製、6PW−A1、直径6インチ、625μm厚)、ガラス基材(松浪硝子社製、商品名:S1111、25mm×75mm×0.7mm厚、波長550nmでの屈折率は1.54)、低圧水銀ランプ(10mW)で紫外線を2分照射したポリスチレン板(光社製、透明、1mm厚)、及び微細構造体であるマイクロレンズ(光硬化性樹脂、幅9μm、高さ1.5μm)を有するマイクロレンズアレイシートのそれぞれに、電解質ポリマー水溶液を滴下して1分間経過後にリンス用の超純水を1分間シャワーする工程(ア)、微粒子分散液を滴下して1分間経過後にリンス用の超純水を1分間シャワーする工程(イ)をこの順に施した。
【0332】
工程(ア)1回と工程(イ)1回を順に行うことを1サイクルとし、このサイクル数を微粒子交互積層回数とした。微粒子交互積層回数を4回行い、それぞれの固体基材表面に微粒子積層膜を形成した。なお、マイクロレンズアレイシートの一部に保護テープを貼り、微粒積層膜および低屈折率膜が形成されない部分を設けた。
【0333】
2.珪素化合物処理
テトラエトキシシラン(アルコキシシラン(I)、和光純薬社製、オルトケイ酸テトラエチル)50gを3つ口丸底フラスコ300mlに入れ、MeOH(メタノール)75gを加え、25℃で攪拌し液を均一にした後に、H
3PO
41.3質量%水溶液を17.7g加え、25℃で24時間攪拌し、シラン濃度35質量%溶液を得た。前記珪素化合物溶液に1−ブタノールを加えて、シラン濃度を1質量%に調整した珪素化合物の溶液を得た。前記の微粒子積層薄膜が形成されたそれぞれの固体基板を、スピンコータにセットし、前記の珪素化合物の溶液20mlを基板全体に展開した後、回転数1000min
−1で展開及び乾燥した。その後、25℃で24時間乾燥し、低屈折率膜を作製した。
【0334】
3.屈折率の評価
シリコンウエハ上の低屈折率膜の屈折率と膜厚を実施例1と同様にして評価した結果、低屈折率膜の屈折率は1.25、厚さは110nmであった。
【0335】
4.透明性の評価
前記で得た低屈折率膜が形成されたガラス基板のヘイズ値を、実施例1と同様にして測定した結果、0.4%であった。ガラス基板のみのヘイズ値を同様に測定した結果、0.1%であった。低屈折率膜が形成された固体基材のヘイズ値から、固体基材のみのヘイズ値を差し引くことで低屈折率膜の濁度を求めた。その結果、低屈折率膜の濁度は0.3%であり、低屈折率膜の透明性が非常に高いことがわかった。
【0336】
5.反射防止性能の評価
低屈折率膜が形成されたガラス基板の透過スペクトルを実施例1と同様にして測定したところ、波長400〜800nmでの最大の透過率は95%であった。
【0337】
また、低屈折率膜が形成されたガラス基板の反対面に黒い粘着テープ(ニチバン(株)製、商品名:VT−196)を気泡が残らないように貼り付け、低屈折率膜が形成された片面の表面反射率のスペクトルを実施例1と同様にして測定した。低屈折率膜が形成されたガラス基板の波長400〜800nmでの最小の表面反射率は0.1%であった。
ガラス基板の透過率は91%、表面反射率は4.5%であることから、優れた特性の反射防止膜が形成され、透過率も向上させることがわかった。
【0338】
6.密着性の評価
粘着テープとして粘着力320cN/25mm、幅25mmの粘着テープ(日立化成工業(株)製、商品名:ヒタレックスL−7330)を使用し、ロールラミネータ(ラミーコーポレーション社製、商品名:LMP−350EX)を用いて、ロール荷重0.3MPa、送り速度0.3m/min、温度20℃の条件で、粘着テープを低屈折率膜へ貼り付けた。
【0339】
テープを密着させてから1分後に、テープの一方の端を基材面に直角に持ち上げ、瞬間的に引き剥がした。低屈折率膜を目視観察した結果、基材表面が見えず、低屈折率膜が可視光を散乱していないことから、低屈折率膜が基材に密着していることがわかった。シリコン基板上、ガラス基板上、ポリスチレン上の低屈折率膜はいずれも基材上に密着していた。
【0340】
また、粘着テープとして粘着力360cN/25mm(紫外線照射後は25cN/25mm)、幅25mmの粘着テープ(電気化学社製BGP−101B)を使用し、ロールラミネータ(ラミーコーポレーション社製、商品名:LMP−350EX)を用いて、ロール荷重0.3MPa、送り速度0.3m/min、温度20℃の条件で、粘着テープを低屈折率膜へ貼り付けた。
【0341】
テープを密着させてから1分後に、紫外線露光装置((株)オーク製作所製、HMW−6N−4)を用いて200mJ/cm
2の紫外線を照射し、テープの一方の端を基材面に直角に持ち上げ、瞬間的に引き剥がした。シリコン基板上、ガラス基板上、ポリスチレン上、マイクロレンズアレイシート上の低屈折率膜はいずれも基材上に密着していた。
【0342】
7.形状追従性の評価
走査型電子顕微鏡(フィリップス社製、商品名:XL30ESEM)で、微粒子積層膜が形成したマイクロレンズアレイシートを、シート面の法線方向から75°の角度から観察し、微粒子積層膜が形成したマイクロレンズの形状を観察した。
また、同様に微粒子積層膜が形成していない部分のマイクロレンズの形状も観察した。微粒子積層膜が形成したマイクロレンズの観察像の輪郭を
図3に破線で示す。
【0343】
また、微粒子積層膜が形成していないマイクロレンズの観察像の輪郭も
図3に実線で示す。微粒子積層膜の厚みが0.1μmと仮定して、微粒子積層膜が形成したマイクロレンズの輪郭を微粒子積層膜が形成していないマイクロレンズの輪郭の上に0.1μmずらして記した。その結果、マイクロレンズ上の微粒子積層膜は、マイクロレンズの法線方向に対する厚みが均一であることが確認でき、微粒子積層膜がマイクロレンズの形状に良好に追従していることが確認できた。
【0344】
[実施例13]
先ず、実施例12に準じて微粒子積層膜を作製した。
次いで、テトラメトキシシラン(多摩化学工業社製、正珪酸メチル)50gを3つ口丸底フラスコ300mlに入れ、MeOH81gを加え、25℃にて攪拌し液を均一にした後に、H
3PO
42.7質量%水溶液を12.1g加え、25℃にて4時間攪拌し、シラン濃度35%溶液を得たこと、及びこの溶液をシラン濃度を5質量%に調整した珪素化合物の溶液を得たこと以外は、実施例12に準じて低屈折率膜を作製した。
【0345】
実施例12と同様に評価した低屈折率膜の屈折率は1.25、厚さは110nmであり、実施例12と同様に評価した低屈折率膜の濁度は0.3%であった。
実施例12と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の透過スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最大の透過率は95%であった。
実施例12と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の表面反射スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最小の表面反射率は0.1%であった。
【0346】
実施例12と同様に密着性を評価したところ、粘着力320cN/25mm、幅25mmの粘着テープ(日立化成工業(株)製、商品名:ヒタレックスL−7330)の使用に対して、シリコン基板上、ガラス基板上、ポリスチレン上の低屈折率膜はいずれも基材に密着しており、粘着力360cN/25mm(紫外線照射後は25cN/25mm)、幅25mmの粘着テープ(電気化学社製、商品名:BGP−101B)の使用に対して、シリコン基板上、ガラス基板上、ポリスチレン上、マイクロレンズアレイシート上の低屈折率膜はいずれも基材に密着していた。
【0347】
実施例12と同様に低屈折率膜が形成したマイクロレンズと低屈折率膜が形成していないマイクロレンズの走査型電子顕微鏡観察し、観察像の輪郭の比較を行った結果、
図3と同様に、低屈折率膜はマイクロレンズの法線方向に対する厚みが均一であることが確認でき、微粒子積層膜がマイクロレンズの形状に良好に追従していることが確認できた。
【0348】
[実施例14]
ポリエチレンイミン(PEI)を0.1質量%に調整し、pHを調整しない電解質ポリマー水溶液を用いたこと、微粒子交互積層回数を3回としたこと以外は実施例12に準じて基材上に微粒子積層膜を作製した。
【0349】
エトキシシランオリゴマー(コルコート社製、商品名:エチルシリケート40)50gを3つ口丸底フラスコ300mlに入れ、MeOH42gを加え、25℃にて攪拌し液を均一にした後に、H
3PO
40.05質量%水溶液を7.4g加え、25℃にて72時間攪拌し、シラン濃度50%溶液(原液)を得たこと、及びこの溶液のシラン濃度を1質量%に調整した珪素化合物溶液を得たこと、及び25℃で24時間乾燥する代わりに80℃で30分乾燥したこと以外は、実施例12に準じて低屈折率膜を作製した。
【0350】
実施例12と同様に評価した低屈折率膜の屈折率は1.25、厚さは110nmであり、実施例12と同様に評価した低屈折率膜の濁度は0.3%であった。
実施例12と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の透過スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最大の透過率は95%であった。
実施例12と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の表面反射スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最小の表面反射率は0.1%であった。
【0351】
実施例12と同様に密着性を評価したところ、粘着力320cN/25mm、幅25mmの粘着テープ(日立化成工業(株)製、商品名:ヒタレックスL−7330)の使用に対して、シリコン基板上、ガラス基板上、ポリスチレン上の低屈折率膜はいずれも基材に密着しており、粘着力360cN/25mm(紫外線照射後は25cN/25mm)、幅25mmの粘着テープ(電気化学社製、商品名:BGP−101B)の使用に対して、シリコン基板上、ガラス基板上、ポリスチレン上、マイクロレンズアレイシート上の低屈折率膜はいずれも基材に密着していた。
【0352】
実施例12と同様に低屈折率膜が形成したマイクロレンズと低屈折率膜が形成していないマイクロレンズの走査型電子顕微鏡観察し、観察像の輪郭の比較を行った結果、
図3と同様に、低屈折率膜はマイクロレンズの法線方向に対する厚みが均一であることが確認でき、微粒子積層膜がマイクロレンズの形状に良好に追従していることが確認できた。
【0353】
[実施例15]
先ず、実施例14に準じて微粒子積層膜を作製した。
次いで、エトキシシランオリゴマー(コルコート社製、商品名:エチルシリケート48)50gを3つ口丸底フラスコ300mlに入れ、MeOH46gを加え、25℃にて攪拌し液を均一にした後に、H
3PO
410.0質量%水溶液を3.6g加え、25℃にて24時間攪拌し、シラン濃度50%溶液(原液)を得たこと、この溶液のシラン濃度を1質量%に調整して珪素化合物溶液を得たこと以外は、実施例12に準じて低屈折率膜を作製した。
【0354】
実施例12と同様に評価した低屈折率膜の屈折率は1.25、厚さは110nmであり、実施例12と同様に評価した低屈折率膜の濁度は0.3%であった。
実施例12と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の透過スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最大の透過率は95%であった。
実施例12と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の表面反射スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最小の表面反射率は0.1%であった。
【0355】
実施例12と同様に密着性を評価したところ、粘着力320cN/25mm、幅25mmの粘着テープ(日立化成工業(株)製、商品名:ヒタレックスL−7330)の使用に対して、シリコン基板上、ガラス基板上、ポリスチレン上の低屈折率膜はいずれも基材に密着しており、粘着力360cN/25mm(紫外線照射後は25cN/25mm)、幅25mmの粘着テープ(電気化学社製、商品名:BGP−101B)の使用に対して、シリコン基板上、ガラス基板上、ポリスチレン上、マイクロレンズアレイシート上の低屈折率膜はいずれも基材に密着していた。
【0356】
実施例12と同様に低屈折率膜が形成したマイクロレンズと低屈折率膜が形成していないマイクロレンズの走査型電子顕微鏡観察し、観察像の輪郭の比較を行った結果、
図3と同様に、低屈折率膜はマイクロレンズの法線方向に対する厚みが均一であることが確認でき、微粒子積層膜がマイクロレンズの形状に良好に追従していることが確認できた。
【0357】
[実施例16]
先ず、実施例14に準じて微粒子積層膜を作製した。
次いで、メトキシシランオリゴマー(コルコート社製、商品名:メチルシリケート51)50gを3つ口丸底フラスコ300mlに入れ、MeOH40gを加え、25℃にて攪拌し液を均一にした後に、H
3PO
44.3質量%水溶液を9.7g加え、25℃にて4時間攪拌し、シラン濃度50%溶液(原液)を得たこと、及びこの溶液のシラン濃度を5質量%に調整して珪素化合物溶液を得たこと以外は、実施例12に準じて低屈折率膜を作製した。
【0358】
実施例12と同様に評価した低屈折率膜の屈折率は1.25、厚さは110nmであり、実施例12と同様に評価した低屈折率膜の濁度は0.3%であった。
実施例12と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の透過スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最大の透過率は95%であった。
実施例12と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の表面反射スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最小の表面反射率は0.1%であった。
【0359】
実施例12と同様に密着性を評価したところ、粘着力320cN/25mm、幅25mmの粘着テープ(日立化成工業(株)製、商品名:ヒタレックスL−7330)の使用に対して、シリコン基板上、ガラス基板上、ポリスチレン上の低屈折率膜はいずれも基材に密着しており、粘着力360cN/25mm(紫外線照射後は25cN/25mm)、幅25mmの粘着テープ(電気化学社製、商品名:BGP−101B)の使用に対して、シリコン基板上、ガラス基板上、ポリスチレン上、マイクロレンズアレイシート上の低屈折率膜はいずれも基材に密着していた。
【0360】
実施例12と同様に低屈折率膜が形成したマイクロレンズと低屈折率膜が形成していないマイクロレンズの走査型電子顕微鏡観察し、観察像の輪郭の比較を行った結果、
図3と同様に、低屈折率膜はマイクロレンズの法線方向に対する厚みが均一であることが確認でき、微粒子積層膜がマイクロレンズの形状に良好に追従していることが確認できた。
【0361】
[実施例17]
先ず、実施例14に準じて微粒子積層膜を作製した。
次いで、エトキシシランオリゴマー(コルコート社製、商品名:エチルシリケート48)をシラン濃度100%溶液(原液)とし、この溶液のシラン濃度を1質量%に調整して珪素化合物溶液を得たこと以外は、実施例12に準じて低屈折率膜を作製した。
【0362】
実施例12と同様に評価した低屈折率膜の屈折率は1.25、厚さは110nmであり、実施例12と同様に評価した低屈折率膜の濁度は0.3%であった。
実施例12と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の透過スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最大の透過率は95%であった。
実施例12と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の表面反射スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最小の表面反射率は0.1%であった。
【0363】
実施例12と同様に密着性を評価したところ、粘着力320cN/25mm、幅25mmの粘着テープ(日立化成工業(株)製、商品名:ヒタレックスL−7330)の使用に対して、シリコン基板上、ガラス基板上、ポリスチレン上の低屈折率膜はいずれも基材に密着しており、粘着力360cN/25mm(紫外線照射後は25cN/25mm)、幅25mmの粘着テープ(電気化学社製、商品名:BGP−101B)の使用に対して、シリコン基板上、ガラス基板上、ポリスチレン上、マイクロレンズアレイシート上の低屈折率膜はいずれも基材に密着していた。
【0364】
実施例12と同様に低屈折率膜が形成したマイクロレンズと低屈折率膜が形成していないマイクロレンズの走査型電子顕微鏡観察し、観察像の輪郭の比較を行った結果、
図3と同様に、低屈折率膜はマイクロレンズの法線方向に対する厚みが均一であることが確認でき、微粒子積層膜がマイクロレンズの形状に良好に追従していることが確認できた。
【0365】
[実施例18]
先ず、実施例14に準じて微粒子積層膜を作製した。
次いで、メトキシシランオリゴマー(コルコート社製、商品名:メチルシリケート51)をシラン濃度100%溶液(原液)とし、この溶液のシラン濃度を5質量%に調整して珪素化合物溶液を得たこと以外は、実施例12に準じて低屈折率膜を作製した。
【0366】
実施例12と同様に評価した低屈折率膜の屈折率は1.25、厚さは110nmであり、実施例12と同様に評価した低屈折率膜の濁度は0.3%であった。
実施例12と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の透過スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最大の透過率は95%であった。
実施例12と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の表面反射スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最小の表面反射率は0.1%であった。
【0367】
実施例12と同様に密着性を評価したところ、粘着力320cN/25mm、幅25mmの粘着テープ(日立化成工業(株)製、商品名:ヒタレックスL−7330)の使用に対して、シリコン基板上、ガラス基板上、ポリスチレン上の低屈折率膜はいずれも基材に密着しており、粘着力360cN/25mm(紫外線照射後は25cN/25mm)、幅25mmの粘着テープ(電気化学社製、商品名:BGP−101B)の使用に対して、シリコン基板上、ガラス基板上、ポリスチレン上、マイクロレンズアレイシート上の低屈折率膜はいずれも基材に密着していた。
【0368】
実施例12と同様に低屈折率膜が形成したマイクロレンズと低屈折率膜が形成していないマイクロレンズの走査型電子顕微鏡観察し、観察像の輪郭の比較を行った結果、
図3と同様に、低屈折率膜はマイクロレンズの法線方向に対する厚みが均一であることが確認でき、微粒子積層膜がマイクロレンズの形状に良好に追従していることが確認できた。
【0369】
[実施例19]
先ず、実施例14に準じて微粒子積層膜を作製した。
次いで、テトラエトキシシラン(和光純薬社製、オルトケイ酸テトラエチル)50gを3つ口丸底フラスコ300mlに入れ、MeOH75gを加え、25℃にて攪拌し液を均一にした後に、H
3PO
41.3質量%水溶液を17.7g加え、25℃にて24時間攪拌した後に、エトキシシランオリゴマー(コルコート社製、商品名:エチルシリケート48)50gを加え、25℃にて5分攪拌し、シラン濃度70%溶液(原液)を得た。この溶液のシラン濃度を1質量%に調整して珪素化合物溶液を得たこと以外は、実施例12に準じて低屈折率膜を作製した。
【0370】
実施例12と同様に評価した低屈折率膜の屈折率は1.25、厚さは110nmであり、実施例12と同様に評価した低屈折率膜の濁度は0.3%であった。
実施例12と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の透過スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最大の透過率は95%であった。
実施例12と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の表面反射スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最小の表面反射率は0.1%であった。
【0371】
実施例12と同様に密着性を評価したところ、粘着力320cN/25mm、幅25mmの粘着テープ(日立化成工業(株)製、商品名:ヒタレックスL−7330)の使用に対して、シリコン基板上、ガラス基板上、ポリスチレン上の低屈折率膜はいずれも基材に密着しており、粘着力360cN/25mm(紫外線照射後は25cN/25mm)、幅25mmの粘着テープ(電気化学社製、商品名:BGP−101B)の使用に対して、シリコン基板上、ガラス基板上、ポリスチレン上、マイクロレンズアレイシート上の低屈折率膜はいずれも基材に密着していた。
【0372】
実施例12と同様に低屈折率膜が形成したマイクロレンズと低屈折率膜が形成していないマイクロレンズの走査型電子顕微鏡観察し、観察像の輪郭の比較を行った結果、
図3と同様に、低屈折率膜はマイクロレンズの法線方向に対する厚みが均一であることが確認でき、微粒子積層膜がマイクロレンズの形状に良好に追従していることが確認できた。
【0373】
[比較例2]
BET法で測定した平均一次粒子径が8nmの数珠状シリカ微粒子が分散したシリカ微粒子イソプロパノール分散液(日産化学工業(株)製、商品名:IPA−ST−UP、オルガノシリカゾル)を1.5質量%に調整した微粒子分散液を得た。
【0374】
テトラエトキシシラン(和光純薬社製、オルトケイ酸テトラエチル)50gを3つ口丸底フラスコ300mlに入れ、MeOH75gを加え、25℃にて攪拌し液を均一にした後に、H
3PO
41.3質量%水溶液を17.7g加え、25℃にて24時間攪拌し、シラン濃度35%溶液(原液)を得た。この溶液に1−ブタノールを加えて、シラン濃度を1質量%に調整した珪素化合物溶液を得た。
前記珪素化合物処理液50質量部と前記微粒子分散液50質量部を混合し微粒子分散珪素化合物溶液を得た。
【0375】
基材であるシリコンウエハ(SUMCO社製、6PW−A1、直径6インチ、625μm厚)、ガラス基材(松浪硝子社製、商品名:S1111、25mm×75mm×0.7mm厚、波長550nmでの屈折率は1.54)、低圧水銀ランプ(10mW)で紫外線を2分照射したポリスチレン板(光社製、透明、1mm厚)、微細構造体であるマイクロレンズ(光硬化性樹脂、幅9μm、高さ1.5μm)を有するマイクロレンズアレイシートのそれぞれに、微粒子分散珪素化合物溶液を滴下し、回転数1000min
−1で展開及び乾燥し、基材上に低屈折率膜を形成した。なお、マイクロレンズアレイシートの一部に保護テープを貼り、低屈折率膜が形成されない部分を設けた。
【0376】
実施例12と同様に評価した低屈折率膜の屈折率は1.25、厚さは110nmであり、実施例12と同様に評価した微粒子積層膜の濁度は0.3%であった。
実施例12と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の透過スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最大の透過率は95%であった。
実施例12と同様に低屈折率膜が形成されたガラス基板の表面反射スペクトルを測定したところ、波長400〜800nmでの最小の表面反射率は0.1%であった。
【0377】
実施例12と同様に密着性を評価したところ、粘着力320cN/25mm、幅25mmの粘着テープ(日立化成工業(株)製、商品名:ヒタレックスL−7330)の使用に対して、シリコン基板上、ガラス基板上、ポリスチレン上、マイクロレンズアレイシート上の低屈折率膜はいずれも基材に密着しており、粘着力360cN/25mm(紫外線照射後は25cN/25mm)、幅25mmの粘着テープ(電気化学社製、商品名:BGP−101B)の使用に対して、シリコン基板上、ガラス基板上、ポリスチレン上、マイクロレンズアレイシート上の微粒子積層膜はいずれも基材に密着していた。
【0378】
実施例12と同様に低屈折率膜が形成したマイクロレンズと低屈折率膜が形成していないマイクロレンズの走査型電子顕微鏡観察し、観察像の輪郭の比較を行った結果、
図4に示すように低屈折率膜はマイクロレンズの法線方向に対する厚みが不均一であり、マイクロレンズの谷部分に近づくほど厚くなった。これにより、低屈折率膜がマイクロレンズの形状を変化させることがわかり、集光性能を低下させることが推察される。
以上の実施例及び比較例の結果を表3に示す。
【0379】
【表3】
【0380】
表3に示されるように、アルコキシシラン又はアルコキシシランの加水分解物及びその加水分解物の縮合反応物若しくはそれらの混合物のいずれかを微粒子積層膜と接触させることで、低屈折率膜に基材密着性を付与できることが明らかである。
また、微粒子積層膜を交互積層法により作製することで、低屈折率膜をマイクロレンズなどの微細構造に追従させることができることが明らかである。
【0381】
次に、本発明の微粒積層薄膜付き基材の実施例(実施例20〜27)について示す。
(微粒子積層薄膜付き基材の作製)
微粒子として、BET法で測定した平均一次粒子径が、7.5nmの数珠状シリカ微粒子を用いた。シリカ水分散液:1.0質量%(スノーテックス(ST)OUP、日産化学工業株式会社製商品名、シリカゾル、アニオン性)を微粒子分散液として用い、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(PDDA、重量平均分子量100000、アルドリッチ製、カチオン性)を電解質ポリマーとして用いた。溶液としては、0.3質量%のPDDA水溶液と、1.0質量%の微粒子分散液を調製した。微粒子分散液のpHは、未調整で4であり、PDDA水溶液のpHは、9に調整した。プラスチック基材としてPET基材(東洋紡績株式会社製、商品名:A4100、100mm×150mm×125μm厚、熱膨張係数:50ppm/K)を、PDDA水溶液に1分間浸漬し、リンス用の超純水に3分間浸漬する工程(α)、微粒子分散液に1分間浸漬した後、リンス用の超純水に3分間浸漬する工程(β)をこの順に施した。この工程(α)1回と工程(β)1回を、順に行うのを1サイクルとし、このサイクルを3回(微粒子交互積層回数)行い、基板の表面に微粒子積層薄膜付き基材を形成した。
【0382】
(アルコール性シリカゾルの合成)
<メチルシリケート系アルコール性シリカゾル>
テトラメトキシシラン:61.5gを、4つ口丸底フラスコ1l(リットル)に入れ、MeOH(メタノール):463.9gを加え、液温を30℃の一定温度に維持しながら攪拌し、液を均一にした。次に、水:71.6gに、HNO
3:3.0gを加えた水溶液を加え、30℃にて5時間攪拌した。このメチルシリケート系アルコール性シリカゾル(50部)と、イソプロピルアルコール(50部)とを混合し、n−ブチルアルコールを加えて、固形分濃度が所定の濃度となるように調整した。
【0383】
<エチルシリケート系アルコール性シリカゾル>
テトラエトキシシラン:85.7gを4つ口丸底フラスコ1l(リットル)に入れ、MeOH:356.7gを加え、液温を30℃の一定温度に維持しながら攪拌し、液を均一にした。次に、水:154.6gに、HNO
3:3.0gを加えた水溶液を加え、30℃にて5時間攪拌した。このエチルシリケート系アルコール性シリカゾル(50部)と、イソプロピルアルコール(50部)とを混合し、n−ブチルアルコールを加えて、固形分濃度が所定の濃度となるように調整した。
【0384】
<ジメチルジメトキシシリケートゾル>
ジメチルジメトキシシラン:60gを4つ口丸底フラスコ1l(リットル)に入れ、MeOH:463.9gを加え、液温を30℃の一定温度に維持しながら攪拌し、液を均一にした。次に、水:71.6gにHNO
3:3.0gを加えた水溶液を加え、30℃にて5時間攪拌した。このジメチルシリコーン系アルコール性シリカゾル(50部)と、イソプロピルアルコール(50部)とを混合し、n−ブチルアルコールを加えて、固形分濃度が所定の濃度となるように調整した。
【0385】
[実施例20]
前記の微粒子積層薄膜が形成されたPET基材(東洋紡績株式会社製、商品名:A4100、100mm×150mm×125μm厚、熱膨張係数:50ppm/K)を、スピンコータにセットし、前記のメチルシリケート系アルコール性シリカゾル(0.4質量%:固形分濃度):20mlを、基板全体に展開した後、回転数1000回転/分で、30秒間、回転させた。その後、80℃に加熱したホットプレートで、60秒間加熱し、微粒子とシリカゾル、及び、微粒子と基板を結合させた微粒子積層薄膜付き基材を作製した。
【0386】
[実施例21]
メチルシリケート系アルコール性シリカゾルの代わりに、前記のエチルシリケート系アルコール性シリカゾル(0.4質量%:固形分濃度)とした以外は、実施例20と同様にして、微粒子積層薄膜付き基材を作製した。
【0387】
[実施例22]
メチルシリケート系アルコール性シリカゾル(0.2質量%:固形分濃度)とエチルシリケート系アルコール性シリカゾル(0.2質量%:固形分濃度)を50部ずつ混合したもの20mlを、前記の微粒子積層薄膜が形成されたPET基材全体に展開した後、回転数1000回転/分で、30秒間、回転させた。その後、80℃に加熱したホットプレートで、60秒間加熱し、微粒子とシリカゾル、及び微粒子と基材を結合させた微粒子積層薄膜付き基材を作製した。
【0388】
[実施例23]
ジメチルジメトキシシリケートゾル(0.2質量%:固形分濃度)とエチルシリケート系アルコール性シリカゾル(0.2質量%:固形分濃度)を50部ずつ混合したもの20mlを、前記の微粒子積層薄膜が形成されたPET基材全体に展開した後、回転数1000回転/分で、30秒間、回転させた。その後、80℃に加熱したホットプレートで、60秒間加熱し、微粒子とシリカゾル、及び微粒子と基材を結合させた微粒子積層薄膜付き基材を作製した。
【0389】
[実施例24]
PET基材の代わりに、アクリル樹脂板(住友化学株式会社製、商品名:スミペックス、100mm×150mm×1mm厚、熱膨張係数:50ppm/K)を用いた以外は、同一の微粒子積層薄膜を用いて、実施例20と同様にして、微粒子積層薄膜付き基材を作製した。
【0390】
[実施例25]
PET基材の代わりに、シリコーン樹脂基材(信越シリコーン株式会社製、商品名:SCR1016(A/B)、熱膨張係数:220ppm/K)を用いた以外は、同一の微粒子積層薄膜を用いて、実施例20と同様にして、微粒子積層薄膜付き基材を作製した。
【0391】
[実施例26]
PET基材の代わりに、ポリカーボネート基材(住友ベークライト株式会社製、商品名:ポリカエースAF、熱膨張係数:70ppm/K)を用いた以外は、同一の微粒子積層薄膜を用いて、実施例20と同様にして、微粒子積層薄膜付き基材を作製した。
【0392】
[実施例27]
PET基材の代わりに、シリコンウエハ(株式会社SUMCO製、商品名:6PW−A1、直径:6インチ、625μm厚)基板上に、プラスチック基材として、感光性樹脂(化薬マイクロケム株式会社製、商品名:XP−SU8 3050−N02、ポジ型レジスト、熱膨張係数:62ppm/K)によって、直径10μm、高さ4μmの半球状のレンズ形状が形成された基板を用いた以外は、同一の微粒子積層薄膜を用いて、実施例20と同様にして、微粒子積層薄膜付き基材を作製した。
微粒子積層薄膜の屈折率と膜厚、空隙率を測定したところ、それぞれ、屈折率:1.26、膜厚:100nm、空隙率:51%であった。
【0393】
[比較例3]
PET基材上に、MgF
2を真空蒸着した。膜厚と屈折率を測定したところ、屈折率:1.38、膜厚:100nmであった。
【0394】
[比較例4]
PET基材上に、前記の微粒子積層薄膜を形成したものを、アルコール性シリカゾルと接触させることなく、80℃に加熱した。膜厚と屈折率、空隙率を測定したところ、膜厚:100nm、屈折率:1.21、空隙率:63%であった。
【0395】
[比較例5]
BET法で測定した平均一次粒子径が、8nmの数珠状シリカ微粒子が分散したシリカ微粒子イソプロパノール分散液(日産化学工業株式会社製、商品名:IPA−ST−UP、オルガノシリカゾル)を、1.5質量%に調整した微粒子分散液を得た。
テトラエトキシシラン(和光純薬工業株式会社製、オルトケイ酸テトラエチル):50gを、3つ口丸底フラスコ300mlに入れ、MeOH:75gを加え、25℃にて攪拌し液を均一にした後に、H
3PO
4:1.3質量%水溶液17.7gを加え、25℃にて24時間攪拌し、シラン濃度35質量%の珪素化合物溶液を得た。前記珪素化合物溶液に1−ブタノールを加えて、シラン濃度を1質量%に調整した珪素化合物処理液を得た。
前記珪素化合物処理液:50質量部と、前記微粒子分散液:50質量部を混合し、微粒子分散珪素化合物溶液を得た。
実施例27と同様にして作製した、直径10μm、高さ4μmの半球状のレンズ形状が形成された基板上に、微粒子分散珪素化合物溶液を滴下し、回転数1000回転/分で展開及び乾燥し、基板上に低屈折率膜を形成した。
【0396】
(微粒子積層薄膜の屈折率と膜厚の決定)
反射率分光法及びカーブフィット法を組み合わせた瞬間測光分光光度計(フィルメトリクス株式会社製、商品名:F20)の解析プログラムにより、表面反射率のスペクトルから微粒子積層薄膜の屈折率と膜厚を求めた。
【0397】
(微粒子積層薄膜の空隙率の決定)
本発明の微粒子積層薄膜では、微粒子の間の隙間は、空気である。即ち、走査型電子顕微鏡による表面及び、断面観察によって、孔が観測できることから、シリカ微粒子積層薄膜の見かけの屈折率がシリカより低い場合、屈折率を下げているのは、孔に存在する空気であることが分かる。この仮定から、微粒子積層薄膜中の空隙率ρ
oは、次式より求めた。
【0398】
【数10】
(但し、式中、n
Pは微粒子を構成する物質の屈折率、n
0は空気の屈折率=1.0、n
cは見かけ上の屈折率を示す。)
【0399】
(密着力の評価方法)
微粒子積層薄膜の密着力を測るため、粘着テープ(NO.31B、ポリエステル粘着テープ、日東電工株式会社製商品名)を貼り付けて、引き剥がし、微粒子積層薄膜が、容易に基材から剥離し、粘着テープ側に移った場合は、密着力が不十分と判定した。
この粘着テープのPETフィルムに対するピール強度は、6N/19mm(3N/10mm)であった。ピール強度の測定方法は、定速伸張型引張試験機(株式会社オリエンテック製、商品名:RTM−10、温度:室温(25℃)、試験方法:T型剥離、剥離速度:0.2m/min)を用いて、剥離した時の荷重を剥離強度として、密着性を評価した。密着性は、前記の粘着テープを貼合した後、剥がした場合、変化のない膜は○、膜がまったく残らない場合は×とした。
【0400】
(耐スクラッチ性の評価方法)
耐スクラッチ性の評価は、綿棒の先端を膜に擦りつけて行った。先ず、試料に対して90°の角度で固定された綿棒に、試料を押し付けた。綿棒が試料に加える荷重は100±0.5gとした。膜表面にわずかに食い込むような傷が見えたときに、「擦り傷が付いた」と判別した。傷がない場合は○、傷が付いたものを×とした。
【0401】
(耐熱クラック性の評価方法)
耐熱クラック性の評価方法は、膜付きの基材を、基材面を下にして、105℃ホットプレート上に置き、1時間加熱した場合の、膜の表面を顕微鏡観察して、変化がない場合は○、割れが発生している場合は×とした。
得られた微粒子積層薄膜の評価結果を表4に示す。
【0402】
【表4】
【0403】
本発明の微粒子積層薄膜付き基材の製造方法においては、交互積層法で形成した微粒子積層薄膜を、オーブン等を用いてアルコール性シリカゾルと接触させて、加熱処理するだけで、耐スクラッチ性、耐熱クラック性に優れた多孔質膜付き基板を製造できるため、量産性に優れる反射防止膜の製造方法である。