【実施例】
【0055】
シミュレーション反応系について説明する。
【0056】
[シミュレーション反応系]:排ガスとバグフィルター上における複合反応
シミュレーション反応系は、微粉重曹と塩化水素(HCL)との反応が排ガス中で瞬時におきる反応と、バグフィルター上に蓄積した未反応の微粉重曹とHCLとの二つの反応により構成した(
図2参照)。また、バグフィルターにおける捕集物の滞留時間は、通常2時間程度である。従って、本シミュレーションにおいては、バグフィルター上の微粉重曹は、規定時間(約2時間で設定)で消滅する形とした。
【0057】
図2を参照して、シミュレーション反応系の基本構成を説明する。
まず、焼却施設における薬注制御では、バグフィルター出口に設置されたイオン電極式のHCl濃度測定機器のHCl濃度(処理後)信号を基にPID等の制御式の演算により薬剤添加量(微粉重曹添加量(Ag))を決定し(下記式(1))、決定した添加量の微粉重曹(酸性ガス処理剤)を排ガス(入口HCl濃度(Hi))に添加する。煙道に添加された微粉重曹は排ガス中のHCl等の酸性ガスと反応し、排ガス中のHClが除去される。
【0058】
Ag=Ag1+LO (1)
Ag:微粉重曹添加量[kg/h]
Ag1:HCl濃度測定機器の出力から規定される添加量[kg/h](ステップ方式の場合、
図12、15、41参照)
LO:添加量下限[kg/h]
通常時(本発明に係る基礎添加量を適用しない場合)には、予め設定したLOを使用する。
本発明に係る基礎添加量を適用する場合には、LOを指定時間の移動平均添加量に所定の係数を乗じた基礎添加量として出力を演算する。
【0059】
また、微粉重曹による入口HCl濃度のHCl除去率は、弊社微粉重曹の適用知見から排ガス反応微粉重曹添加当量(Jg)と排ガス反応HCl除去率(αg)との関係(
図3)及びバグフィルター上反応微粉重曹添加当量(Js)とバグフィルター上反応HCl除去率(αs)との関係(
図4)から試算した。また、HClと微粉重曹との反応は瞬時とした。まず、排ガスにおける反応後のHCl濃度(Hg)は、排ガス反応の微粉重曹添加当量(Jg)と排ガス反応HCl除去率(αg)により導かれる(下記式(2))。なお、排ガス反応の微粉重曹添加当量(Jg)は、下記式(3)により算出される。
【0060】
Hg=Hi×(1−αg÷100) (2)
Hi:入口HCl濃度(ppm)
Hg:排ガス反応後HCl濃度(ppm)
αg:排ガス反応におけるHCl除去率(%)
[排ガス反応微粉重曹添加当量とHCl除去率の関係(
図3)から設定]
【0061】
Jg=Ag÷{Hi÷0.614÷1000÷M1×M2×F÷1000} (3)
Jg:排ガス反応微粉重曹添加当量
Ag:微粉重曹添加量(kg/h)
Hi:入口HCl濃度(ppm)
M1:HCl分子量[36.5で設定]
M2:重曹分子量[84で設定]
F:排ガス量(Nm
3/h)[55,000Nm
3/hで設定]
【0062】
また、排ガス反応により残存した微粉重曹は、バグフィルター上に随時蓄積する。BF上に蓄積した微粉重曹は、排ガス反応後のHClと反応し、バグフィルター出口のHCl濃度(Ho)が決まる。この際、BF上蓄積微粉重曹量(As)は、排ガス反応で蓄積した微粉重曹からBF上でHClと反応した微粉重曹量を差し引いた。また、本バグフィルター上蓄積微粉重曹量(As)と排ガス反応後のHCl濃度(Hg)から試算されるバグフィルター上微粉重曹添加当量(Js)(下記式(5))からバグフィルター上でのHCl除去率(αs)を決め、バグフィルター出口のHCl濃度(Ho)を決定した(下記式(4))。
【0063】
Ho=Hg×(1−αs÷100) (4)
Hg:排ガス反応後HCl濃度(ppm)
Ho:バグフィルター出口HCl濃度(ppm)
αs:バグフィルター上反応のHCl除去率(%)
[バグフィルター上微粉重曹添加当量とHCl除去率の関係(
図4)から設定]
【0064】
Js=As÷{Hg÷0.614÷1000÷M1×M2×F÷1000} (5)
Js:バグフィルター上微粉重曹添加当量
As:バグフィルター上微粉重曹量(kg/h)
Hg:排ガス反応後HCl濃度(ppm)
M1:HCl分子量[36.5で設定]
M2:重曹分子量[84で設定]
F:排ガス量(Nm
3/h)[55,000Nm
3/hで設定]
【0065】
As=Z
n÷Ts×3600 (6)
Z
n:バグフィルター上微粉重曹蓄積量(kg)
Ts:単位シミュレーション時間(=データサンプリング時間)(sec)
[0.5sec設定]
【0066】
Z
n=Z
n’×(1−2.3÷T4×Ts) (7)
Z
n’:未反応微粉重曹量(kg)
T4:バグフィルター上蓄積微粉重曹90%消滅時定数(sec)
[7,200sec設定]
Ts:単位シミュレーション時間(=データサンプリング時間)(sec)
[0.5sec設定]
【0067】
Z
n’=(Ag÷3600×Ts−Rg)+(Z
n−1−Rs) (8)
Ag:微粉重曹添加量(kg/h)
Ts:単位シミュレーション時間(=データサンプリング時間)(sec)
[0.5sec設定]
Rg:排ガス反応における重曹反応量(kg/h)
Z
n−1:Ts(Sec)前のバグフィルター上微粉重曹蓄積量(kg)
Rs:バグフィルター上反応における重曹反応量(kg/h)
【0068】
Rg=(Hi÷0.614÷1000÷M1×M2×F÷1000)÷3600×Ts×αg÷100 (9)
Hi:入口HCl濃度(ppm)
M1:HCl分子量[36.5で設定]
M2:重曹分子量[84で設定]
F:排ガス量(Nm
3/h)[55,000Nm
3/hで設定]
αg:排ガス反応におけるHCl除去率(%)
【0069】
Rs=(Hg÷0.614÷1000÷M1×M2×F÷1000)÷3600×Ts×αs÷100 (10)
Hg:排ガス反応後HCl濃度(ppm)
M1:HCl分子量[36.5で設定]
M2:重曹分子量[84で設定]
F:排ガス量(Nm
3/h)[55,000Nm
3/hで設定]
αs:バグフィルター上反応のHCl除去率(%)
【0070】
本反応後のバグフィルター出口のHCl濃度がイオン電極式のHCl濃度測定機器14で測定される。ところで、イオン電極式のHCl濃度測定機器14では、施設による遅延時間(T1)、排ガスサンプリングによる計測遅延時間(T2α)、及びイオン電極式の測定による計測遅延時間(T2β,応答時間)があり、フィードバック特有の制御遅れが発生する。
【0071】
そこで本シミュレーションのHCl濃度測定機器14の遅延時間(T)は、施設による遅延時間(T1)とHCl濃度測定機器14の計測遅延時間(T2)の合計とした(下記式(11))。なお、HCl濃度測定機器14の計測遅延時間(T2)は、HCl処理後の排ガスを煙道からサンプリングする計測遅延時間(T2α)とイオン電極式HCl濃度測定機器(T2β)の計測遅延時間(応答時間)を設定し、これらの和とした(下記式(12))。一般的に用いられているイオン電極式の90%応答時間(計測遅延)は、HClガスの吸収液への拡散が影響するためT2βは(下記式(13))とした。本シミュレーションにおいて、計測遅延時間の長いイオン電極式は、実機施設の状況からT1=30秒,T2α=390秒(サンプリング遅延210秒+臭素スクラバー通過遅延180秒),T2β=180秒の計600秒(10分:T1=0.5分,T2=9.5分)とした。
【0072】
なお、イオン電極式より計測遅延時間の短いHCl濃度測定機器を用いる場合、計測遅延時間を変えて挙動を確認した。
【0073】
[HCl濃度測定機器(低速応答、イオン電極式を模擬)]
T=T1+T2 (11)
T:HCl濃度測定機器のシミュレーション反応系の遅延時間(sec)
T1:施設の遅延時間(sec)[30sec設定]
T2:HCl濃度測定機器の計測遅延時間(sec)
T2=T2α+T2β (12)
T2α:HCl濃度測定機器の排ガスサンプリング時間(sec)
[390sec設定]
T2β:HCl濃度測定機器の90%応答時間(sec)[180sec設定]
T2β=2.3×τ (13)
Y
n=Y
n−1+(X
n−Y
n−1)÷τ×Ts (14)
τ:時定数(sec)
Ts:単位シミュレーション時間(=データサンプリング時間)(sec)
[0.5sec設定]
Xn:現在の測定装置入力HCl濃度(ppm)
Yn:現在の測定装置出力HCl濃度(ppm)
Y
n−1:前回(Ts(sec)前)の測定装置出力HCl濃度(ppm)
【0074】
また、酸性ガスを処理するアルカリ剤の添加量は、HCl計測機器で測定された濃度を基に試算したフィードバックにより求められる添加出力を基に規定される(上記式(1))。本発明に係る基礎添加量は、移動平均添加量×係数(1倍以下)をフィードバック制御の下限として演算した。
【0075】
また、
図5に示すように変動する入口HCl濃度を用いて、実機におけるPIDの添加挙動並びにHCl発生状況(
図6)及び本シミュレーション反応系の結果(
図7)から排ガス反応とBF上反応のHClとの反応効率を設定した。本検討結果を
図6及び
図7に示す。本施設においては、排ガスのHCl除去効率が80%、BF上反応の除去効率が65%で実機とシミュレーションの挙動が一致した(
図6、
図7)。従って、本条件で以下シミュレーションを行った。なお、本シミュレーションにおいては、制御手法による制御応答性を明らかにするため、比較的変動の大きな時間帯の入口HCl濃度(Hi)を用いて実施した。
【0076】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
以下の実施例における検討は、実機検討結果からシミュレーション反応系を制作し、各制御手法による制御結果を検討したものである。なお、基礎添加量における平均添加量の平均時間の長い条件(3時間、6時間)があるため、入口HCl濃度を繰り返し用い、6〜9時間経過時の結果で評価した。
【0077】
[比較例1]
図9に示す入口HCl濃度を用いて、前記シミュレーションにおいてHCl測定機器(測定機器計測遅延時間計9.5分)で計測したHCl濃度を基にPID制御方式「P(比例ゲイン)=100%,I=0.1秒,D=0.1秒,添加量出力下限200kg/h,添加量出力上限480kg/h」において出口HCl濃度の制御目標値(SV)を200ppmに設定しフィードバック制御した。
微粉重曹添加量と微粉重曹で処理した後のバグフィルター出口HCl濃度(平均,1時間平均最大,瞬時最大,1時間平均最少,瞬時最少)を
図8に示す。また、本制御時の微粉重曹添加量とバグフィルター出口HCl濃度の挙動を
図10に示す。
【0078】
酸性ガスの排出管理値として良く用いられる出口HCl濃度の1時間平均値の最大値は、212ppm、瞬時最大は384ppmであった。
【0079】
[実施例1]
30分移動平均添加量(kg/h)に80%の係数を乗じ、基礎添加量とし、添加量出力下限として活用した以外は、比較例1に示す同一設定条件において演算しフィードバック制御した。
微粉重曹添加量と微粉重曹で処理した後のバグフィルター出口HCl濃度を
図8に示す。また、本制御時の微粉重曹添加量とバグフィルター出口HCl濃度の挙動を
図11に示す。
【0080】
実施例1によれば、1時間平均値のHClの最大値は、189ppm、瞬時最大は309ppmと比較例1に比べ酸性ガス処理性能が向上すると共に添加量も330kg/hから315kg/hに削減された。
【0081】
ここで、ステップ制御方式の概要を説明する。比較例2,3及び6、実施例2,3,9〜11,17,18,20〜24ではPID制御方式に代わりステップ制御方式による制御を行う。
【0082】
ステップ方式はPID制御方式と異なり、出口のHCl濃度に応じて出力を段階的に規定する制御方式とした。比較例2、実施例2,20(
図12)で説明するとHCl濃度がSV制御目標値[制御出力開始濃度(出力下限以上)]〜SM1間は制御出力をLOとLM1間で段階的に出力する。HCl濃度がSM1〜SM2間ではLM2で設定した制御出力を出力し、SM2以上ではLH(制御出力上限)を出力する形式とした。なお、通常のPID制御式では出力制限がなく、LOとLHの設定だけである。また、HCl傾きによる制御演算で用いるHCl濃度と制御出力を決めるテーブルの補正はSVA1とSVA2で行い、HCl傾きが正の時は演算で用いるHCl濃度からSVA1を引き、HCl傾きが負の時は演算で用いるHCl濃度にSVA2を足した。これにより同一のHCl濃度を入力した際に演算される制御出力が、HCl傾きの値が大きい場合(酸性ガス濃度が増加傾向)の制御出力値がHCl傾きの値が小さい場合の制御出力値に比べ大きくなる形式とした。
なお、微粉重曹添加量(Ag)は、上記式(1)で求められる。
【0083】
[比較例2]
前記シミュレーションにおいてHCl測定機器(測定機器計測遅延時間9.5分)で計測したHCl濃度を基にステップ方式の制御において制御目標値(本方式ではアルカリ剤の制御出力が出力下限以上に添加される濃度をSVと規定する)を200ppmに設定しフィードバック制御(
図12参照)した。
微粉重曹添加量と微粉重曹で処理した後のバグフィルター出口HCl濃度を
図8に示す。また、本制御時の微粉重曹添加量とバグフィルター出口HCl濃度の挙動を
図13に示す。
【0084】
ステップ方式による出口HCl濃度の1時間平均値の最大値は、212ppm、瞬時最大は383ppmであった。
【0085】
[実施例2]
30分移動平均添加量(kg/h)に80%の係数を乗じ、基礎添加量とし、添加量出力下限として活用した以外は、比較例2に示すステップ方式の同一設定条件において演算しフィードバック制御した。
微粉重曹添加量と微粉重曹で処理した後のバグフィルター出口HCl濃度を
図8に示す。また、本制御時の微粉重曹添加量とバグフィルター出口HCl濃度の挙動を
図14に示す。
【0086】
実施例2によれば、ステップ方式においても出口HCl濃度の1時間平均値の最大値は、195ppm、瞬時最大は320ppmと比較例2に比べ酸性ガス処理性能が向上すると共に添加量も295kg/hから289kg/hに削減された。
【0087】
[比較例3]
前記シミュレーションにおいてHCl測定機器(測定機器計測遅延時間9.5分)で計測したHCl濃度を基にステップ方式の制御において直近のHCl濃度の傾きの6秒平均が正の場合、制御目標値(SV)を180ppm(SV−20ppm)とし、直近のHCl濃度の傾きの6秒平均が負の場合、制御目標値(SV)を220ppm(SV+20ppm)としてフィードバック制御(
図15参照)した。
微粉重曹添加量と微粉重曹で処理した後のバグフィルター出口HCl濃度を
図8に示す。また、本制御時の微粉重曹添加量とバグフィルター出口HCl濃度の挙動を
図16に示す。
【0088】
本ステップ方式に加え、制御目標値をHCl濃度の傾きにより変更(以降SV変更と称す)した本フィードバック制御による出口HCl濃度の1時間平均値の最大値は、216ppm、瞬時最大は381ppmであった。
【0089】
[実施例3]
30分移動平均添加量(kg/h)に80%の係数を乗じ、基礎添加量とし、添加量出力下限として活用した以外は、比較例3に示すフィードバック形式の同一設定条件において演算しフィードバック制御した。
微粉重曹添加量と微粉重曹で処理した後のバグフィルター出口HCl濃度を
図8に示す。また、本制御時の微粉重曹添加量とバグフィルター出口HCl濃度の挙動を
図17に示す。
【0090】
実施例3によれば、前記フィードバック方式においても出口HCl濃度の1時間平均値の最大値は、198ppm、瞬時最大は283ppmと比較例3に比べ酸性ガス処理性能が向上すると共に添加量も301kg/hから289kg/hに削減された。
【0091】
[実施例4〜8]
平均時間を変えた移動平均添加量(kg/h)[実施例4:5分、実施例5:15分、実施例6:1時間、実施例7:3時間、実施例8:6時間]に80%の係数を乗じ、基礎添加量とし、添加量出力下限として活用した以外は、比較例1に示す同一設定条件において演算しフィードバック制御した。
微粉重曹添加量と微粉重曹で処理した後のバグフィルター出口HCl濃度を
図8に示す。また、本制御時の微粉重曹添加量とバグフィルター出口HCl濃度の挙動を
図18〜22に示す。
【0092】
実施例4〜8によれば、平均添加量に1倍以下の係数を乗じた基礎添加量をフィードバック制御の因子として活用し、アルカリ剤の添加量を演算することにより酸性ガスの安定処理が可能となる。
【0093】
実施例4〜8の効果は、平均添加量の因子をフィードバックに活用することにより得られ、平均時間に特に制限がない。添加量平均時間5分(実施例4)においては同等の添加量で出口HCl濃度1時間平均値最大で186ppm,瞬時最大369ppmと酸性ガスの安定処理効果が得られる。さらに添加量平均時間6時間(実施例8)においても出口HCl濃度の1時間平均値最大は194ppm,瞬時最大308ppmと安定処理効果が得られると共に添加量も311kg/hに削減されている。添加量の平均時間は5分以上が好ましく、特に15分〜6時間が好ましい。
【0094】
[実施例9〜11]
平均時間を変えた移動平均添加量(kg/h)[実施例9:15分、実施例10:1時間、実施例11:3時間]に80%の係数を乗じ、基礎添加量とし、添加量出力下限として活用した以外は、比較例3に示す同一設定条件において演算しフィードバック制御した。
微粉重曹添加量と微粉重曹で処理した後のバグフィルター出口HCl濃度を
図8に示す。また、本制御時の微粉重曹添加量とバグフィルター出口HCl濃度の挙動を
図23〜25に示す。
【0095】
ステップ+SV変更方式によるフィードバック制御における添加量平均時間15分〜3時間で変えた際の実施例9〜11によれば、添加量平均時間に関わらず、酸性ガス安定処理効果と添加量削減効果が得られる。本方式は、特に添加量が288〜292kg/hと添加量削減効果に優れた制御方式である。
【0096】
[実施例12〜16]
1時間移動平均添加量(kg/h)に乗ずる係数を変え[実施例12:95%、実施例13:90%、実施例14:80%、実施例15:70%、実施例16:50%]基礎添加量とし、添加量出力下限として活用した以外は、比較例1に示す同一設定条件において演算しフィードバック制御した。
微粉重曹添加量と微粉重曹で処理した後のバグフィルター出口HCl濃度を
図8に示す。また、本制御時の微粉重曹添加量とバグフィルター出口HCl濃度の挙動を
図26〜30に示す。
【0097】
実施例12〜16の効果は、平均添加量の因子をフィードバックに活用することにより得られ、基礎添加量を演算する際に平均添加量に乗ずる係数は1倍以下であれば良く特に制限がない。本係数に1倍(100%)以上の係数を乗じた場合、入口HCl濃度が減少しても、本基礎添加量に用いる平均添加量が減少せず過剰添加を引き起こす。
本基礎添加量を演算する係数が95%(実施例12)〜70%(実施例15)においては、いずれも出口HCl濃度の1時間平均値最大並びに瞬時最大値が比較例1に比べ低下し、酸性ガスの安定処理効果を得ると共に添加量削減効果が得られた。また、係数が50%では(実施例16)添加量が若干増加したものの酸性ガス安定処理効果が得られている。基礎添加量を演算する際に平均添加量に乗ずる係数は、1倍以下であれば良く。好ましくは50〜95%、特に70〜90%が好ましい。
【0098】
[実施例17、18]
1時間移動平均添加量(kg/h)に乗ずる係数を変え[実施例17:90%、実施例18:70%]基礎添加量とし、添加量出力下限として活用した以外は、比較例3に示す同一設定条件において演算しフィードバック制御した。
微粉重曹添加量と微粉重曹で処理した後のバグフィルター出口HCl濃度を
図8に示す。また、本制御時の微粉重曹添加量とバグフィルター出口HCl濃度の挙動を
図31、32に示す。
【0099】
ステップ+SV変更方式によるフィードバック制御における基礎添加量を演算する際に乗ずる係数を70〜90%で変えた際の実施例17、18によれば、基礎添加量を演算する係数に関わらず、酸性ガス安定処理効果と添加量削減効果が得られる。また、本方式は、特に添加量が289〜297kg/hと添加量削減効果に優れた制御方式である。
【0100】
[比較例4]
前記シミュレーションにおいてHCl測定機器(測定機器計測遅延時間計2秒)で計測したHCl濃度を基にPID制御方式「P(比例ゲイン)=100%,I=0.1秒,D=0.1秒,添加量出力下限200kg/h,添加量出力上限480kg/h」において出口HCl濃度の制御目標値(SV)を200ppmに設定しフィードバック制御した。
微粉重曹添加量と微粉重曹で処理した後のバグフィルター出口HCl濃度を
図8に示す。また、本制御時の微粉重曹添加量とバグフィルター出口HCl濃度の挙動を
図33に示す。
【0101】
測定機器の計測遅延時間による影響を検討した。計測遅延の少ない高速応答のHCl測定機器を用いてフィードバック制御した場合、アルカリ剤の添加量変化と出口HCl濃度の変化は瞬時に起こり改善はされるものと予測された。しかしながら、アルカリ剤添加変動による添加不良は起こると予測され、酸性ガスの排出管理値として良く用いられる出口HCl濃度の1時間平均値の最大値は、209ppm、瞬時最大は385ppmであった。
【0102】
[実施例19]
前記シミュレーションにおいてHCl測定機器(測定機器計測遅延時間計2秒)で計測したHCl濃度を基にPID制御演算した以外は実施例1と同一条件でフィードバック制御した。
微粉重曹添加量と微粉重曹で処理した後のバグフィルター出口HCl濃度を
図8に示す。また、本制御時の微粉重曹添加量とバグフィルター出口HCl濃度の挙動を
図34に示す。
【0103】
[実施例20]
前記シミュレーションにおいてHCl測定機器(測定機器計測遅延時間計2秒)で計測したHCl濃度を基にステップ方式による演算をした以外は実施例2と同一条件でフィードバック制御した。
微粉重曹添加量と微粉重曹で処理した後のバグフィルター出口HCl濃度を
図8に示す。また、本制御時の微粉重曹添加量とバグフィルター出口HCl濃度の挙動を
図35に示す。
【0104】
[実施例21]
前記シミュレーションにおいてHCl測定機器(測定機器計測遅延時間計2秒)で計測したHCl濃度を基にステップ+SV変更方式による演算をした以外は実施例3と同一条件でフィードバック制御した。
微粉重曹添加量と微粉重曹で処理した後のバグフィルター出口HCl濃度を
図8に示す。また、本制御時の微粉重曹添加量とバグフィルター出口HCl濃度の挙動を
図36に示す。
【0105】
実施例21によれば、計測機器の計測遅延時間の長短に関わらず効果を発揮する。また制御形式としてはフィードバック形式であればいずれも効果を発揮する。実施例19〜21は、計測遅延時間2秒を想定した結果であるが、フィードバックによるアルカリ剤の添加不良を抑制し、いずれも酸性ガスの安定処理効果並びに添加量削減効果が得られた。
【0106】
[実施例22]
前記シミュレーションにおいて出口HCl濃度の1時間平均値が190ppmを超えた場合、480kg/hのアルカリ剤の添加を実施した以外は、実施例10と同一条件(遅延時間9.5分,ステップ+SV変更)でフィードバック制御した。微粉重曹添加量と微粉重曹で処理した後のバグフィルター出口HCl濃度を
図8に示す。また、本制御時の微粉重曹添加量とバグフィルター出口HCl濃度の挙動を
図37に示す。
【0107】
酸性ガスの排出濃度管理は各酸性ガス濃度(塩化水素、硫黄酸化物濃度)の1時間平均値で管理している施設がある。制御においては制御目標値(SV)を設けて制御するのが一般的であるが、制御目標値はあくまで目標であり、制御した結果目標値を超える濃度となるケースがある。
本実施例は、出口HCl濃度の1時間平均値が200ppmを超えた実施例10において、1時間平均管理(190ppm以上は480kg/h添加)を実施した例である。出口の1時間平均値が管理すべき濃度に近づいた場合、アルカリ剤を大量に添加する制御を実施することにより、酸性ガスの更なる安定処理効果と効率的なアルカリ剤の利用が可能となる。
【0108】
以下、実機検討結果である、比較例5、6、実施例23、24について説明するにあたり、比較例5、6、実施例23、24において用いられる酸性ガス処理システム2の構成について説明する。
【0109】
図38は、焼却施設における排ガスであるHClに微粉重曹を添加する酸性ガス処理システム2の構成を表すブロック図である。
【0110】
酸性ガス処理システム2は、制御装置21、微粉重曹添加装置22、微粉重曹添加装置26、バグフィルター23、HCl濃度測定機器(イオン電極方式)24から構成されている。制御装置21は、HCl濃度測定機器(イオン電極方式)24から送信されるHCl濃度測定信号、及び過去の平均添加量から算出される基礎添加量に基づいて微粉重曹の添加量出力値をフィードバック制御(PID制御方式又はステップ方式)により算出する。微粉重曹添加装置22は、制御装置21が算出した微粉重曹の添加量出力値に基づいて排ガス中のHClに微粉重曹を添加する。また、微粉重曹添加装置26は、制御装置21が算出した微粉重曹の添加量出力値とは無関係に一定量の微粉重曹を排ガス中のHClに添加する。
なお、基礎添加量は、平均時間(例えば、移動平均時間)に応じた過去の平均添加量に1倍以下の係数を乗じて算出される。
【0111】
バグフィルター23は、排ガス中のHClと微粉重曹の反応後の粉塵を除去する。HCl濃度測定機器(イオン電極方式)24は、バグフィルター23上に蓄積した微粉重曹(排ガス中のHClとの反応によって残存した微粉重曹がバグフィルター23上に蓄積される)と排ガス反応後のHClとが反応した後のHCl濃度(後述するバグフィルター出口HCl濃度)を測定して、HCl濃度測定信号を制御装置21に送信する。
なお、バグフィルターの入口HCl濃度は、図示しないHCl濃度測定機器(レーザー方式)によって測定される。
【0112】
酸性ガス処理システム2は、このようなサイクルを繰り返してフィードバック制御を行うことで、制御装置21は、微粉重曹添加量の制御出力値を適切なものとする制御を行う。
【0113】
[比較例5]
産業廃棄物焼却炉において、減温塔出口〜バグフィルター間にレーザー形式のHCl測定機器(京都電子工業製KLA−1)を設置し、入口HCl濃度を測定した。また、バグフィルター出口のイオン電極方式のHCl測定機器(京都電子工業製HL−36N)で測定される信号を基に排出基準値を管理する酸素換算値にてフィードバック制御を実施した。なお、出口のSOx濃度信号によるフィードバック添加出力(SV180ppm)をHCl濃度による添加出力に加算して、実施したが、本施設においては、SOxが発生しなかったため本報告からは割愛する。
また、酸性ガスを処理するアルカリ剤は、8μm微粉重曹(栗田工業製ハイパーサーB−200)を上記フィードバック制御により添加した。アルカリ剤の添加装置は、最大添加量の問題から2台活用し、1台は180kg/h定量添加とし、1台は前記出口HCl濃度信号を基に「下限を20kg/h上限300kg/h、PID制御設定P(比例ゲイン)=100%,I=0.1秒,D=0.1秒」でフィードバック制御した。
バグフィルター入口HCl濃度並びにバグフィルター出口HCl濃度と微粉重曹の添加量(添加装置2台合算)を
図39に示す。また、本制御実施時の微粉重曹添加量とバグフィルター入口出口のHCl濃度の挙動を
図40に示す。
【0114】
[比較例6]
同一施設において、バグフィルター出口のイオン電極方式のHCl測定機器(京都電子工業製HL−36N)で測定されるHCl濃度信号(酸素換算値)にてフィードバック制御を実施した。なお、同様に出口のSOx濃度信号によるフィードバック添加出力(SV180ppm)をHCl濃度による添加出力に加算して、実施した。
また、添加装置は、同様に1台は180kg/h定量添加とし、1台は「ステップ+SV変更方式(詳細は
図41参照)」とした。
バグフィルター入口HCl濃度並びにバグフィルター出口HCl濃度と微粉重曹の添加量(添加装置2台合算)を
図39に示す。また、本制御実施時の微粉重曹添加量とバグフィルター入口出口のHCl濃度の挙動を
図42に示す。
【0115】
[実施例23]
同一施設において、「ステップ+SV変更方式」のフィードバック制御において、基礎添加量[30分移動平均添加量,係数70%]を活用し、出口HCl濃度1時間平均値が213ppm以上[本施設HCl管理値215ppm以下]で300kg/h添加する以外は、比較例6と同一の設定でフィードバック制御を実施した。なお、同様に出口のSOx濃度信号によるフィードバック添加出力(SV180ppm)をHCl濃度による添加出力に加算して、実施した。
また、添加装置は、同様に1台は180kg/h定量添加とし、1台は「ステップ+SV変更方式(詳細は
図41参照)」とした。
バグフィルター入口HCl濃度並びにバグフィルター出口HCl濃度と微粉重曹の添加量(添加装置2台合算)を
図39に示す。また、本制御実施時の微粉重曹添加量とバグフィルター入口出口のHCl濃度の挙動を
図43に示す。
【0116】
本実施例は、本発明の実機による適用結果である。比較例5、6に比べ、入口HCl濃度の変動が少なくなった。本実施例によれば、本発明に係る効率的なアルカリ剤の添加によりアルカリ剤の入口HCl濃度に対する添加量を示す添加当量は、比較例5、6に比べ削減でき、効率的な制御が可能であった。
【0117】
[実施例24]
同一施設において、「ステップ+SV変更方式」のフィードバック制御において、比表面積が30m
2/g以上の高反応消石灰(奥多摩工業株式会社製タマカルクECO)を併用活用する以外は、実施例23と同一の設定でフィードバック制御を実施した。なお、同様に出口のSOx濃度信号によるフィードバック添加出力(SV180ppm)をHCl濃度による添加出力に加算して、実施した。
また、添加装置1台は、高反応消石灰を170kg/h定量添加とし、もう1台は「ステップ+SV変更方式(詳細は
図41参照)」とした。
バグフィルター入口HCl濃度並びにバグフィルター出口HCl濃度と微粉重曹の添加量(添加装置2台合算)を
図39に示す。また、本制御実施時の微粉重曹添加量とバグフィルター入口出口のHCl濃度の挙動を
図44に示す。
【0118】
本実施例は、比較的工業的に安価な消石灰と微粉重曹を併用して活用した事例である。本手法においても安定して酸性ガスの安定処理効果が得られる。安価な消石灰を活用し、酸性ガス処理費用が削減されることから工業的に有効な手法である。