特許第5720560号(P5720560)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5720560
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】半導体基板の評価方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/66 20060101AFI20150430BHJP
【FI】
   H01L21/66 N
   H01L21/66 Y
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-279207(P2011-279207)
(22)【出願日】2011年12月21日
(65)【公開番号】特開2013-131591(P2013-131591A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2013年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】大槻 剛
【審査官】 堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−287778(JP,A)
【文献】 特開2011−100909(JP,A)
【文献】 特開2006−073572(JP,A)
【文献】 特開2000−260841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
G01N 23/225
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の評価方法であって、
半導体基板表面にPN接合を形成し、該PN接合におけるリーク電流を測定し、該リーク電流の測定結果に基づいて欠陥が存在すると予想されるセルを選定し、該選定したセルに電子線を照射して走査し、検出された発光の波長ごとに発光強度の分布を作成し、該作成した発光強度の分布に基づいてセル内に存在する欠陥の面内位置を特定し、該欠陥について評価を行うことを特徴とする半導体基板の評価方法。
【請求項2】
前記発光強度の分布を作成するとき、既知の欠陥特有の発光波長ごとに作成することを特徴とする請求項1に記載の半導体基板の評価方法。
【請求項3】
前記面内位置を特定した欠陥について評価を行うとき、前記特定した面内位置に電子線を加速電圧を変化させて照射し、検出された発光の波長および強度から深さ方向の位置を特定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体基板の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソードルミネッセンス(CL)法を用いたシリコン基板の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近では、半導体デバイスのさらなる微細化、高性能化のため、より高品質なシリコンウェーハが求められている。このシリコンウェーハの評価方法としては、物理・化学分析として多種多様の手法が知られており、極めて範囲が広い。
このような評価手法の中で、電気特性評価は、実際のデバイスに近い方法であり、また感度の点からも有望視されている。
【0003】
デバイス材料としてのシリコンウェーハの電気特性評価方法としては、GOI(Gate Oxide Integrity)やライフタイム、DLTS(Deep Level Transient Spectroscopy)などが知られている。特にGOIは、CZシリコン結晶中に存在するCOPや、酸素析出などに感度があり重要な評価手法である。しかし、このGOIはシリコンウェーハの最表面を20nm程度酸化し、これに電極を形成して絶縁破壊特性を評価するものである。
【0004】
この絶縁膜品質を詳細に調べる方法として、特許文献1に開示されているような、X線を使った方法がある。これはX線のような電磁波を照射しキャリアを発生させこれがトラップされた量から界面・結晶品質を評価する方法であり、表面電位を変化させて界面特性を評価する方法である。このためにサンプルには絶縁膜が必要であり、PN接合構造の測定・評価には十分でない。
【0005】
GOIはシリコンウェーハ表層の評価は可能であるが、この他にもデバイス活性領域(表面近傍)の評価手法の一つとして、リーク電流特性がある。
これは、図9に示すように、シリコン基板51の表面の酸化膜52が除去された位置に、基板とは異なる導電型のドーパントを拡散した拡散層53を形成することによりPN接合を形成して、電極54から逆方向電圧を加えて検出された漏れ電流を用いた評価手法である。
【0006】
具体例を挙げて説明する。ここでは、P型にN型を拡散した場合で説明すると、N型領域に+の電界を印加すると、P型領域に向かって空乏領域(空間電荷領域)が形成される。この空乏領域に重金属などの欠陥が存在することで、キャリアが発生し、印加電圧により電流(リーク電流)として検出される(非特許文献1参照)。
【0007】
通常のリーク電流値は非常に小さく、測定にはシールドを施したシステムが必須である。
また、リーク電流値は、空乏領域(空間電荷領域)の大きさにも影響を受ける。すなわち、基板抵抗が大きければ、その分空乏領域も大きくなり、これに伴い、リーク電流も大きくなる傾向になる。
このように、接合リーク電流測定は有効な手段であるが、リーク電流値が小さいため、寄生抵抗の影響を受けやすい。また、材料評価の観点からは、シリコン基板抵抗率の影響を受けやすいという特徴がある。
【0008】
また、電気特性劣化原因は電気特性測定のみからは判断することが出来ず、物理解析が必要である。従来からのこのような解析にはTEM(Transmission Electron Microscopy)を代表とした電子線をプローブとした手法が用いられているが、主に形態観察、元素分析が主目的である。一方、FTIR(Fourie−Transform Infrared spectroscopy)法やラマン、フォトルミネッセンス(PL)法などに代表される分光学的手法は元素情報以外の重要な情報、例えば、有機材料の結合状態や結晶の応力・歪、欠陥、キャリア濃度等の情報を得ることが出来るものの、空間分解能という点では必ずしも充分でない。
【0009】
カソードルミネッセンス(CL)法は、電子線をプローブとするため高い空間分解能で試料の応力・歪分布、欠陥分布、キャリア分布を評価することが出来る。CLとは電子線を試料に照射したときに放出される紫外・可視・近赤外領域の発光のことである。
【0010】
図10に電子線遷移の模式図を示す。特性X線は内郭電子遷移に由来しており、主に元素情報を反映するが、CLは伝導帯の底付近から価電子帯の頂上付近への遷移に対応するため元素情報でなく結晶としての性質を反映する。この結晶としての性質を反映することが大きなポイントであり、近年の半導体基板特性向上及び半導体デバイスの微細化に伴い、半導体デバイスの不良原因が必ずしも形態として捉えられることがない、いわゆる点欠陥に起因していることが多くなってきており、結晶性を維持しつつ、その中で結晶性の違いを検出できる点がCLの大きな特徴であり、利点である。
【0011】
このCL法では、材料によって発光のメカニズムは異なるが、半導体の場合は、(1)電子・正孔対の生成、(2)キャリアの拡散、(3)発光再結合の3つが存在する。シリコンの場合は、バンドギャップ(約1.1eV)に相当するTOフォノン線が強く観察される。これは、シリコンが間接遷移型半導体であるためのフォノン放出を伴うバンド間遷移である。結晶欠陥や不純物がバンドギャップ内にエネルギー準位を形成するとバンド間遷移発光以外に、この欠陥や不純物を介した発光が生じる。
【0012】
装置としては一般的に電子線源としてSEM(Scanning Electron Microscopy)を用い、これに試料からの発光を検出する検出器・分光器、さらに格子振動を抑えて発光強度を得るためのステージ冷却などの機構が必要である。電子線源としてSEMを使用するこのような装置概要からも分かる通り、特徴としては、SEM像との比較が可能、広範囲波長の発光スペクトルが得られる、高分解能、加速電圧を変化させることで、深さ分析が可能な点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平09−162253号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】超LSIプロセス制御工学、津屋英樹(丸善、1995)の第2章
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
以上のように半導体基板の評価において、電気特性のみでは欠陥を同定することは不可能に近い。また、欠陥の存在位置の特定にも限界がある。
一方の物理解析であるCLは、電子線を使った発光特性を利用する評価であり、測定可能領域が極めて小さい問題がある。例えば、ベアウェーハ状態で測定をしても欠陥密度が低い現在の高品質ウェーハにおいては欠陥の存在位置を的確に捉えられるとは限らない。
【0016】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、半導体基板の中で局在する欠陥位置を効率良く特定して評価することが可能な半導体基板の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明は、半導体基板の評価方法であって、半導体基板表面にPN接合を形成し、該PN接合におけるリーク電流を測定し、該リーク電流の測定結果に基づいて欠陥が存在すると予想されるセルを選定し、該選定したセルに電子線を照射して走査し、検出された発光の波長ごとに発光強度の分布を作成し、該作成した発光強度の分布に基づいてセル内に存在する欠陥の面内位置を特定し、該欠陥について評価を行うことを特徴とする半導体基板の評価方法を提供する。
【0018】
このような評価方法であれば、まず、リーク電流の測定、その結果によるセルの選定により、半導体基板の面内全体から欠陥が存在する位置をある程度の範囲に特定することができる。そして、このようにある程度の範囲に特定した上で、さらに、セルに電子線を照射・走査し、発光波長ごとの発光強度分布を作成するため、効率良く、欠陥について面内位置を特定することができ評価を行うことができる。
【0019】
このとき、前記発光強度の分布を作成するとき、既知の欠陥特有の発光波長ごとに作成することができる。
このようにすれば、その既知の欠陥のセル内での面内位置の特定、欠陥種の同定を極めて簡便に行うことができる。
【0020】
また、前記面内位置を特定した欠陥について評価を行うとき、前記特定した面内位置に電子線を加速電圧を変化させて照射し、検出された発光の波長および強度から深さ方向の位置を特定することができる。
【0021】
欠陥の面内位置が特定されており、このようにすれば、簡単に欠陥の深さ方向の位置を特定することが可能である。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明の半導体基板の評価方法によれば、半導体基板の中で欠陥が局在していても、従来よりも効率良く欠陥の面内位置の特定をして評価を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明で用いることができるリーク電流測定用素子の模式図である。
図2】リーク電流値の分布の一例を示す測定図である。
図3】電子線を照射したセルからの発光を検出するための装置の一例を示す説明図である。
図4】加速電圧ごとの、電子線により注入されたキャリア量と拡散深さの関係を示すグラフである。
図5】発光強度の面内分布の一例を示す測定図である。
図6】実施例での発光強度と発光波長の測定結果を示すグラフである。
図7】比較例2でのセル内での測定箇所を示す説明図である。
図8】比較例2での発光強度と発光波長の測定結果を示すグラフである。
図9】従来法でのリーク電流測定用素子の模式図である。
図10】カソードルミネッセンス(CL)法による測定の原理図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の半導体基板の評価方法について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明の半導体基板の評価方法の手順としては、例えば、評価対象の半導体基板を用意し(工程1)、該半導体基板においてPN接合を形成してリーク電流測定を行い(工程2)、リーク電流測定結果に基づいて欠陥が存在すると予想されるセルを選定し(工程3)、該セルに電子線を照射して走査し、発光波長ごとの発光強度分布を作成し(工程4)、該発光強度分布に基づいて、欠陥の面内位置の特定、欠陥のその他の評価を行う(工程5)。
【0025】
以下、各工程について詳述する。
(工程1:評価対象の半導体基板の用意)
まず、評価対象となる半導体基板を用意する。
ここではシリコンウェーハを用意するが特に限定されない。また、評価対象とする基板は、ポリッシュドウエーハであっても、エピタキシャルウェーハであっても問題ない。また測定構造を適宜工夫することで、SOIウェーハとすることもでき、本発明においては評価対象の形態は特に限定されない。
【0026】
(工程2:PN接合の形成およびリーク電流測定)
用意したシリコンウェーハにPN接合を形成し、図1のようなリーク電流用測定素子を作製する。この測定素子は、シリコンウエーハ1、該シリコンウエーハ1の内部に形成され、ウエーハとは異なる導電型のドーパントが拡散されている拡散層3、拡散層3上の電極4、また、拡散層3上以外の表面を覆う酸化膜2からなっている。拡散層3、シリコンウエーハ1間でPN接合が形成されている。
【0027】
図1のようなリーク電流測定用素子の製造方法としては、まずウエーハ表面に酸化膜を形成する。この酸化膜は、この後のドーパント拡散時のマスクであり、熱酸化膜を形成しても良いし、CVD酸化膜をデポしても良い。厚さは、この後デポするドーパントがマスク出来る厚さであれば良い。一般的には、500nm以上とするのが好ましい。これは、酸化膜中といえども、ドーパントが拡散してしまうからである。なお、CVD酸化膜を適応する際、特にプラズマCVDの場合は、プラズマによるチャージダメージに注意すべきである。
【0028】
次に、フォトリソグラフィにより酸化膜に窓明け用のパターンを形成する。酸化膜のエッチングはドライエッチングでも、フッ酸をベースにしたウエットエッチングでも良い。
ドライエッチングの方が微細パターンまで加工可能であるが、先ほどのプラズマダメージに注意すべきである。一方、ウエットエッチングは、プラズマダメージは起こらないが、微細パターンの加工には不向きである。
【0029】
なお、パターン自体は特に限定されないが、PN接合の範囲、電子線の照射範囲、作業時間、コスト等を考慮し、最終的に最も効率良く欠陥の評価を行うことができるように、窓開け部の大きさ、数等を決定することができる。
【0030】
そして、酸化膜への窓明けを完了した後にドーパントの拡散を行なう。シリコンウエーハの導電型とは異なる導電型のドーパントを拡散して拡散層を形成し、PN接合を形成する。ドーパントの拡散自体は、イオン注入、ガラスデポジション、塗布拡散等各種手法、どれで行っても良い。PN接合深さは、アニール条件に依存するため、予備実験で所望の深さになるように時間を調整する。
【0031】
また、PN接合上にアルミニウムや多結晶シリコン等からなる電極を形成することもできる。
または、拡散後の最表層を1×1020atoms/cm程度の高濃度になるようにすると、電極を特別に形成しなくとも、拡散層の最表層をそのまま電極として使える利点がある。
【0032】
また、別のPN接合の形成方法としては、酸化膜を形成せずにドーパントを拡散させて、フォトリソグラフィによりパターンを形成して、エッチング等によりMESA構造のPN接合を形成することもできる。
【0033】
そして、このようにして作製したリーク電流測定用素子を用いてリーク電流の測定を行う。
PN接合上に形成した電極等にプローブを接触させて逆電圧を印加してリーク電流を測定する。各セルごとにリーク電流の測定を行い、測定結果をまとめる。例えば、ウエーハ面内全体においてリーク電流値の分布を作成する。
図2に、リーク電流値の分布の一例を示す。リーク電流値の高低を濃淡で表している。ここでは、リーク電流値が同心円状に高低を繰り返す分布が見られる。なお、各色で表された濃度範囲は特に限定されず、顧客からの要望により目標とする評価精度、コスト等に応じて適宜決定することができる。
【0034】
(工程3:セルの選定)
上記のようにして作成されたリーク電流値の分布から、欠陥が存在すると予想されるセルを選定する。
より具体的には、例えばリーク電流値が一定以上の高い値を示すセルを選定することができる。この選定の基準となるリーク電流値は特に限定されず、目標とする評価精度、コスト等に応じて適宜決定することができる。ここでは、図2中の点線に示すように右側に位置するセルを選定した。
選定したセルは切り出され、次の工程へと送られる。
【0035】
(工程4:電子線の照射および発光強度の分布の作成)
次に、選定したセルに対し、PN接合界面や空乏領域に電子線を照射して走査し、検出された発光に関して、発光波長ごとに発光強度の分布を作成する。
まず、上記のようにCL法によりセル内を電子線により走査して発光を検出するが、このとき、例えば図3に示すような検査装置を用いて発光の検出を行うことができる。前記検査装置は冷却機構のついたステージ、電子線を照射するフィラメント、セルからの発光を検出するための検出器を備えている。
測定にあたっては、冷却機構のついたステージにPN接合が形成されたセルを載置し、不図示の真空チャンバーに入れて真空状態に保ち、十分に冷却した後、フィラメントから電子線を例えば加速電圧30keVでセルに照射して、セルからの発光を検出器で検出する。これによって、その発光スペクトルを取得することができる。
【0036】
このとき、電子線により注入されたキャリアは加速電圧に応じて拡散する(Cathodoluminescence Microscopy of Inorganic Solids, B. G. Yacobi and D. B. Holt p61(1999) Plenum Press / New York and London.参照)。
図4は、加速電圧ごとに横軸に拡散深さ、縦軸に電子線により注入されたキャリア量をとったものである。電子線は数μmまで絞ることが可能であるが、半導体材料内で生成したキャリアは拡散して図4で示すような形状の分布を示す。本発明の評価方法は、図4でキャリアが分布している範囲を評価していることになる。
例えば30keVで加速した場合、シリコンでは4μm程度の深さをピークに、10μm程度まで拡散することが分かっている。
【0037】
電子線の照射にあたって、加速電圧等は、評価したい範囲等に応じて適宜決定することができる。
また、セルの冷却温度は特に限定されないが、例えば77K以下、さらには30K以下に冷却しながら行えば、格子振動の影響を受けにくく、発光波長がブロードにならないため、より強い発光を得ることができる。
【0038】
そして、検出した発光に関し、発光波長ごとに発光強度の分布を作成する。このとき、検出された全ての発光波長ごとに発光強度の分布を作成することもできるが、セル内の欠陥の位置等を特定するにあたっては、既知の欠陥特有の発光波長ごとに発光強度の分布を作成すると極めて簡便で効率が良い。
【0039】
シリコンを材料とした際の特徴的な発光波長が既に何種類か報告されており、表1にその例を示す。このような既知の発光波長に関する情報を利用すると良い。なお、当然これらに限定されるものではない。
図5に発光強度の面内分布の一例を示す。この図5では、表1のC線(格子間Cと格子間Oの複合)(発光波長:1570nm)についてのセル内での発光強度の分布を示す。
【0040】
【表1】
【0041】
(工程5:欠陥の面内位置の特定、欠陥についてのその他の評価)
次に、作成した発光強度の分布に基づき、セル内に存在する欠陥の面内位置を特定する。
この分布を精査することで発光が強い箇所、すなわち欠陥が局在していると思われる箇所が特定できる。そして、発光が強い箇所を有する分布が、どの発光波長のものであるかを特定し、該発光波長がどのような欠陥と関連するかを調べて欠陥種を同定することができる。
なお、欠陥の位置の特定の基準となる発光強度の具体的な値は特に限定されない。目標とする精度等に応じて適宜決定すれば良い。
【0042】
図5に示す例では右上の箇所に点線で囲った位置において強く発光している箇所があることが確認できる。また、図5の発光強度の分布は上記のように表1のC線(格子間Cと格子間Oの複合)(発光波長:1570nm)に関するものであるので、この欠陥については、炭素や酸素に関する欠陥であるものと評価することができる。
【0043】
また、欠陥の面内位置の他、その他の評価も行うことができる。
例えば、上記のようにして特定された面内位置において、電子線を加速電圧を種々変化させて照射し、そのときに検出された各々の発光の波長や強度から深さ方向の位置を特定することができる。欠陥の面内位置を特定するにあたって照射した電子線の加速電圧や図4に示したような関係(加速電圧、キャリア量、拡散深さの関係)から、欠陥の深さ方向の位置についてある程度推測はできる。しかし、より的確に深さ位置を特定するにあたっては、このように加速電圧を変化させつつ電子線を照射し、その照射結果から特定することができる。
【0044】
当然、深さ方向の位置のみならず、さらに他の評価も行うことができる。例えば、全波長領域に渡りスペクトルを取得することで、さらに詳細な欠陥構成を検討することが可能である。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例)
評価対象の半導体基板としては、導電型がP型、直径200mm、結晶方位<100>であるシリコンウェーハを用いた。なお、このウェーハをP型にするためのドーパントとしてボロンを用い、基板抵抗は10Ω・cmとした。
【0046】
このシリコンウェーハに対して1000℃のパイロ酸化を行い、1μmの酸化膜を形成した。このあと、0.5mm角のパターンを多数配置したマスクを用いてフォトリソグラフィを行い、バッファードHFで酸化膜へ窓開けエッチングを行い、0.5mm角の開口部を酸化膜に10mm間隔で形成した。このウェーハにPOCLを原料にしてリンガラスをデポし、引き続き、1000℃、窒素アニールを2時間行なった後、リンガラスをHFで除去してPN接合を形成した。なお、このときのリンの拡散深さは、およそ2μmであった。
さらに電極を形成して、図1のようなリーク電流測定用素子を面内に複数作製した。
【0047】
このウェーハを水平方向に移動可能なプローバに載せ、3Vの電圧を印加し、面内の900点でリーク電流の測定を行い、リーク電流の面内分布データを取得した。図2と同様の面内分布が得られた。
その後、この面内分布からリーク電流が高い(ここでは5×10−11A以上)セルを選定して切り出した。
【0048】
その後、検査装置の冷却機構のついたステージに前記選定して切り出したセルをサンプルとして載せ、真空チャンバーに入れて真空状態に保ち、該サンプルが10Kにまで十分冷却された後に、セル面内に電子線の加速電圧30keVで照射してスペクトルを測定し、発光強度分布を取得した。なお、表1の各波長で分布を作成したところ、図5のように発光波長が1570nmである表1のC線の分布で、発光強度の高いところ(図5の点線で囲まれた箇所)が存在することが分かった。この箇所に欠陥が存在すると考えられる。
【0049】
そして、この箇所を今度は加速電圧を10keVとしてスペクトルを測定し、詳細を検討した。
その結果、深さ方向の位置はおよそ1.5μmと考えられ、また、横軸に発光波長、縦軸に発光強度をとった図6に示すように、バンド間遷移発光(TO線:発光波長1130nm、1170nm)を除いて、C線以外にH線(発光波長:1340nm)なども見られており、酸素・炭素の関連した欠陥が存在しており、これらが点欠陥となり空乏領域中に準位を作っていることが明らかとなった。
【0050】
(比較例1)
実施例と同様のシリコンウエーハを用意し、任意の箇所を切り出し、切り出したものの面内のうち任意の箇所に実施例と同様にして電子線を照射してスペクトルを測定した。
【0051】
その結果、TO線を除いて、欠陥等を介した発光は見られず、欠陥の位置、欠陥種を特定できなかった。
【0052】
(比較例2)
実施例と同様のシリコンウエーハを用意し、同様にしてリーク電流測定用素子を作製し、リーク電流の測定、リーク電流値の分布を求めたところ、図2と同様の分布が得られた。そして、実施例1と同様のセルを選定して切り出し、切り出したセルの任意の箇所(図7)に電子線を照射してスペクトルを測定した。
【0053】
その結果、図8に示すように、TO線を除いて、欠陥等に関する特筆すべきスペクトルは得られず、欠陥の位置、欠陥種を特定できなかった。これはリーク電流の高い箇所を切り出したが、接合面内での分析箇所が任意のため、スペクトル測定で特徴的なシグナルが得られなかったためと考えられる。
【0054】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0055】
1、51…シリコン基板、 2、52…酸化膜、 3、53…拡散層、
4、54…電極。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10