特許第5720580号(P5720580)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5720580
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】アニオン性含フッ素乳化剤の回収方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 49/00 20060101AFI20150430BHJP
   B01D 15/04 20060101ALI20150430BHJP
   C02F 1/42 20060101ALI20150430BHJP
   B01F 17/00 20060101ALI20150430BHJP
   C07C 59/135 20060101ALI20150430BHJP
   C07C 51/47 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
   B01J49/00 162
   B01D15/04
   C02F1/42 D
   B01F17/00
   C07C59/135
   C07C51/47
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-552806(P2011-552806)
(86)(22)【出願日】2011年2月2日
(86)【国際出願番号】JP2011052175
(87)【国際公開番号】WO2011096448
(87)【国際公開日】20110811
【審査請求日】2013年9月5日
(31)【優先権主張番号】特願2010-21754(P2010-21754)
(32)【優先日】2010年2月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 順子
(72)【発明者】
【氏名】松岡 康彦
【審査官】 平塚 政宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−285076(JP,A)
【文献】 特公昭63−002656(JP,B1)
【文献】 特開2001−062313(JP,A)
【文献】 特開2002−059160(JP,A)
【文献】 特表2003−512931(JP,A)
【文献】 特開2003−094052(JP,A)
【文献】 特開2003−220393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 49/00
B01D 15/04
B01F 17/00
C02F 1/42
C07C 51/47
C07C 59/135
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂から、アニオン性含フッ素乳化剤を溶離して、アニオン性含フッ素乳化剤の酸として回収するアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法であって、
前記塩基型イオン交換樹脂に無機酸水溶液と、ヒドロフルオロエーテル及びヒドロフルオロカーボンからなる群から選ばれる少なくとも1種からなる非水溶性含フッ素媒体との混合液を接触させた後、非水溶性含フッ素媒体の相を回収し、該非水溶性含フッ素媒体の相からアニオン性含フッ素乳化剤の酸を回収することを特徴とするアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【請求項2】
アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂から、アニオン性含フッ素乳化剤を溶離して、アニオン性含フッ素乳化剤の酸として回収するアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法であって、
前記塩基型イオン交換樹脂に無機酸水溶液を接触させ、次いで、ヒドロフルオロエーテル及びヒドロフルオロカーボンからなる群から選ばれる少なくとも1種からなる非水溶性含フッ素媒体を接触させた後、非水溶性含フッ素媒体の相を回収し、該非水溶性含フッ素媒体の相からアニオン性含フッ素乳化剤の酸を回収することを特徴とするアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【請求項3】
前記塩基型イオン交換樹脂に無機酸水溶液を接触させた後、塩基型イオン交換樹脂を分離回収して前記非水溶性含フッ素媒体を接触させる、請求項2に記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【請求項4】
前記無機酸水溶液と、前記非水溶性含フッ素媒体との割合が、質量比で、無機酸水溶液/非水溶性含フッ素媒体=5/95〜95/5である請求項1〜3のいずれかに記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【請求項5】
前記塩基型イオン交換樹脂と、前記無機酸水溶液と、前記非水溶性含フッ素媒体との割合が、質量比で、塩基型イオン交換樹脂/(無機酸水溶液と非水溶性含フッ素媒体との合計量)=60/40〜1/99である請求項1〜4のいずれかに記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【請求項6】
前記アニオン性含フッ素乳化剤の酸が、含フッ素カルボン酸である請求項1〜5のいずれかに記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【請求項7】
前記アニオン性含フッ素乳化剤の酸が、エーテル性酸素原子を1〜3個含有してもよい、炭素数5〜7の含フッ素カルボン酸である請求項6に記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【請求項8】
前記ヒドロフルオロエーテル及びヒドロフルオロカーボンからなる群から選ばれる少なくとも1種からなる非水溶性含フッ素媒体が、CFCHOCFCFH、CFCHOCFCFHCF、(CFCHOCFCFH、CFCHOCHFCHF、CF(CF3OCH、CF(CFOCH、CF(CFOCHCH、CF(CFOCHCH、(CFCFCFOCHCH、CHFCFCFCFCFCF、CFCFCFCFCHCH、CFCFCFCFCFCFCHCH、CFCFCHFCHFCF、CFCHCFCH及びCFCFCFCFHCHからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜7のいずれかに記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【請求項9】
前記無機酸水溶液が、塩酸水溶液、硫酸水溶液、硝酸水溶液及びリン酸水溶液からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜のいずれかに記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【請求項10】
記無機酸水溶液の濃度が、0.1N〜13Nである請求項1〜のいずれかに記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【請求項11】
前記塩基型イオン交換樹脂が、強塩基型イオン交換樹脂である請求項1〜1のいずれかに記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【請求項12】
前記非水溶性含フッ素媒体の相を分離した残部に、ヒドロフルオロエーテル及びヒドロフルオロカーボンからなる群から選ばれる少なくとも1種からなる非水溶性含フッ素媒体を接触させた後、非水溶性含フッ素媒体の相を分離回収し、該非水溶性含フッ素媒体の相からアニオン性含フッ素乳化剤の酸を回収する、請求項1又は2に記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【請求項13】
前記非水溶性含フッ素媒体の相を分離した残部に、(A)無機酸水溶液とヒドロフルオロエーテル及びヒドロフルオロカーボンからなる群から選ばれる少なくとも1種からなる非水溶性含フッ素媒体との混合液を接触させるか、あるいは、(B)無機酸水溶液を接触させ、次いで、ヒドロフルオロエーテル及びヒドロフルオロカーボンからなる群から選ばれる少なくとも1種からなる非水溶性含フッ素媒体を接触させた後、非水溶性含フッ素媒体の相を分離回収し、該非水溶性含フッ素媒体の相からアニオン性含フッ素乳化剤の酸を回収する、請求項3に記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂から、アニオン性含フッ素乳化剤を溶離して、アニオン性含フッ素乳化剤の酸として回収するアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという)、溶融成形性フッ素樹脂、フルオロエラストマー等の含フッ素ポリマーを乳化重合により製造する際、水性媒体中で連鎖移動によって重合反応を妨げることのないようなアニオン性含フッ素乳化剤を一般的に用いる。
【0003】
乳化重合により得られる含フッ素ポリマーの水性乳化液(以下、含フッ素ポリマー水性乳化液という)を凝集及び乾燥することで、含フッ素ポリマーのパウダーが得られる。含フッ素ポリマーのパウダーは、ペースト押出し成形等の方法で成形した後、種々の用途に用いられる。また、含フッ素ポリマー水性乳化液に必要に応じてノニオン界面活性剤等を添加して安定化処理し、その後、濃縮処理することで含フッ素ポリマーを高濃度に含有する含フッ素ポリマー水性分散液が得られる。このフッ素ポリマー水性分散液は、必要に応じて各種配合剤等を加えて、様々なコーティング用途、含浸用途等に用いられる。
【0004】
ところで、含フッ素ポリマーの乳化重合に使用するアニオン性含フッ素乳化剤は、自然界で容易に分解されない物質である。このため、近年、工場排水のみならず、含フッ素ポリマー水性乳化液や含フッ素ポリマー水性分散液等の製品中に含まれるアニオン性含フッ素乳化剤を削減することが望まれている。
【0005】
アニオン性含フッ素乳化剤の低減方法としては、アニオン性含フッ素乳化剤を含む被処理液を塩基型イオン交換樹脂に接触させ、該被処理液中のアニオン性含フッ素乳化剤を塩基型イオン交換樹脂に吸着させる方法がある。また、アニオン性含フッ素乳化剤は高価であることから、塩基型イオン交換樹脂が吸着したアニオン性含フッ素乳化剤を回収して再利用する試みが行われている。
【0006】
例えば、特許文献1には、アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂を、希鉱酸と有機溶剤との混合物で処理し、アニオン性含フッ素乳化剤の酸として回収することが開示されている。有機溶剤としては、水と同量を混和して少なくとも40%、又は無限に混合しうるような溶剤が好ましいことが記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂を、水と、メタノールおよび/またはジメチルモノグリコールエーテルまたはジメチルジグリコールエーテル等の溶剤と、アルカリ金属水酸化物アンモニア溶液との混合物と接触させて、塩基型イオン交換樹脂に結合したアニオン性含フッ素乳化剤を溶出することが開示されている。
【0008】
また、特許文献3には、アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂を、水及び有機溶媒を含むアルカリ水溶液で処理することが開示されている。有機溶媒としては、水を溶解し、または水に溶解するものであり、少なくとも10vol%の水を溶解し得るものであることが好ましいことが記載されている。
【0009】
また、特許文献4には、アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂を、少なくとも1つのアンモニアを含有し150℃未満の沸点を有する水混和性有機溶剤で処理することが開示されている。具体的にはアンモニアとメタノールの混合物を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭63−2656号公報
【特許文献2】特開2001−62313号公報
【特許文献3】特開2002−59160号公報
【特許文献4】特表2003−512931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
これらの従来技術では、塩基型イオン交換樹脂が吸着したアニオン性含フッ素乳化剤を回収するに際し、酸またはアルカリ水溶液と、基本的にアルコールを代表とする水溶性有機溶剤を用いることが技術の根幹となっている。
【0012】
しかしながら、アルコールは引火性で、水溶性の有機溶剤であることから、その取り扱いに対する安全装置や、アルコールに溶出したアニオン性含フッ素乳化剤の回収技術への対応が必要である。さらに、排水のCOD(化学的酸素要求量)負荷に対する処置を考慮すると、より簡便で効率の良い、安価な回収技術が望まれる。
【0013】
したがって、本発明の目的は、塩基型イオン交換樹脂が吸着したアニオン性含フッ素乳化剤を、簡便で効率よく回収することが可能なアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下の要旨を有するものである。
[1]アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂から、アニオン性含フッ素乳化剤を溶離して、アニオン性含フッ素乳化剤の酸として回収するアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法であって、前記塩基型イオン交換樹脂に無機酸水溶液と、ヒドロフルオロエーテル及びヒドロフルオロカーボンからなる群から選ばれる少なくとも1種からなる非水溶性含フッ素媒体との混合液を接触させた後、非水溶性含フッ素媒体の相を回収し、該非水溶性含フッ素媒体の相からアニオン性含フッ素乳化剤の酸を回収することを特徴とするアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
[2]アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂から、アニオン性含フッ素乳化剤を溶離して、アニオン性含フッ素乳化剤の酸として回収するアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法であって、前記塩基型イオン交換樹脂に無機酸水溶液を接触させ、次いで、ヒドロフルオロエーテル及びヒドロフルオロカーボンからなる群から選ばれる少なくとも1種からなる非水溶性含フッ素媒体を接触させた後、非水溶性含フッ素媒体の相を回収し、該非水溶性含フッ素媒体の相からアニオン性含フッ素乳化剤の酸を回収することを特徴とするアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
[3]前記塩基型イオン交換樹脂に無機酸水溶液を接触させた後、塩基型イオン交換樹脂を分離回収して前記非水溶性含フッ素媒体を接触させる、上記[2]に記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
[4]前記無機酸水溶液と、前記非水溶性含フッ素媒体との割合が、質量比で、無機酸水溶液/非水溶性含フッ素媒体=5/95〜95/5である上記[1]〜[3]のいずれかに記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
[5]前記塩基型イオン交換樹脂と、前記無機酸水溶液と、前記非水溶性含フッ素媒体との割合が、質量比で、塩基型イオン交換樹脂/(無機酸水溶液と非水溶性含フッ素媒体との合計量)=60/40〜1/99である上記[1]〜[4]のいずれかに記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
[6]前記アニオン性含フッ素乳化剤の酸が、含フッ素カルボン酸である上記[1]〜[5]のいずれかに記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
[7]前記アニオン性含フッ素乳化剤の酸が、エーテル性酸素原子を1〜3個含有してもよい、炭素数5〜7の含フッ素カルボン酸である上記[6]に記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
[8]前記ヒドロフルオロエーテル及びヒドロフルオロカーボンからなる群から選ばれる少なくとも1種からなる非水溶性含フッ素媒体が、CFCHOCFCFH、CFCHOCFCFHCF、(CFCHOCFCFH、CFCHOCHFCHF、CF(CF3OCH、CF(CFOCH、CF(CFOCHCH、CF(CFOCHCH、(CFCFCFOCHCH、CHFCFCFCFCFCF、CFCFCFCFCHCH、CFCFCFCFCFCFCHCH、CFCFCHFCHFCF、CFCHCFCH及びCFCFCFCFHCH
からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記[1]〜[7]のいずれかに記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
]前記無機酸水溶液が、塩酸水溶液、硫酸水溶液、硝酸水溶液及びリン酸水溶液からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記[1]〜[]のいずれかに記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
[1]前記無機酸水溶液の濃度が、0.1N〜13Nである上記[1]〜[]のいずれかに記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
[1]前記塩基型イオン交換樹脂が、強塩基型イオン交換樹脂である上記[1]〜[1]のいずれかに記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
[1前記非水溶性含フッ素媒体の相を分離した残部に、ヒドロフルオロエーテル及びヒドロフルオロカーボンからなる群から選ばれる少なくとも1種からなる非水溶性含フッ素媒体を接触させた後、非水溶性含フッ素媒体の相を分離回収し、該非水溶性含フッ素媒体の相からアニオン性含フッ素乳化剤の酸を回収する、上記[1]又は[2]に記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
[1前記非水溶性含フッ素媒体の相を分離した残部に、(A)無機酸水溶液とヒドロフルオロエーテル及びヒドロフルオロカーボンからなる群から選ばれる少なくとも1種からなる非水溶性含フッ素媒体との混合液を接触させるか、あるいは、(B)無機酸水溶液を接触させ、次いで、ヒドロフルオロエーテル及びヒドロフルオロカーボンからなる群から選ばれる少なくとも1種からなる非水溶性含フッ素媒体を接触させた後、非水溶性含フッ素媒体の相を分離回収し、該非水溶性含フッ素媒体の相からアニオン性含フッ素乳化剤の酸を回収する、上記[3]に記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂に、無機酸水溶液と非水溶性含フッ素媒体との混合液を接触させるか、あるいは、無機酸水溶液を接触させ、次いで、非水溶性含フッ素媒体を接触させることで、塩基型イオン交換樹脂に吸着されたアニオン性含フッ素乳化剤が、無機酸水溶液によって酸型化されて非水溶性含フッ素媒体に溶出する。このため、非水溶性含フッ素媒体には、塩基型イオン交換樹脂から溶離したアニオン性含フッ素乳化剤が、アニオン性含フッ素乳化剤の酸として大量に含まれており、非水溶性含フッ素媒体の相を回収して蒸留法等の公知の方法により、アニオン性含フッ素乳化剤の酸を効率よく回収することができる。
【0016】
このように、本発明によれば、引火性で水溶性の有機溶剤を使用しなくても、効率よくアニオン性含フッ素乳化剤の酸を回収できる。また、アニオン性含フッ素乳化剤の酸を回収した後の非水溶性含フッ素媒体は再利用することができ、排水処理にかかる手間を低減できる。そして、回収したアニオン性含フッ素乳化剤の酸は、そのまま、または、中和してアンモニウム塩やアルカリ金属塩等として含フッ素ポリマーの乳化重合に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において、アニオン性含フッ素乳化剤の酸とは、酸型のアニオン性含フッ素乳化剤をいう。また、非水溶性含フッ素媒体とは、25℃での水への溶解度が、0.1%未満である含フッ素媒体をいう。
【0018】
本発明において、アニオン性含フッ素乳化剤を吸着させるために用いる塩基型イオン交換樹脂としては、強塩基型イオン交換樹脂、弱塩基型イオン交換樹脂が挙げられる。好ましくは強塩基型イオン交換樹脂である。強塩基型イオン交換樹脂は、アニオン性含フッ素乳化剤を含む被処理液のpHによる影響を受けにくく、高い吸着効率を維持することができる。
【0019】
塩基型イオン交換樹脂としては、例えば、アミノ基および/または第四級アンモニウム塩基をイオン交換基として有する、スチレン−ジビニルベンゼン架橋樹脂、アクリル−ジビニルベンゼン架橋樹脂、またはセルロース樹脂等からなる粒状樹脂が挙げられる。これらのうち、第四級アンモニウム塩基をイオン交換基として有するスチレン−ジビニルベンゼン架橋樹脂からなる粒状樹脂が好ましい。
【0020】
塩基型イオン交換樹脂の平均粒径は、0.1〜2mmが好ましく、0.2〜1.3mmがより好ましく、0.3〜0.8mmが特に好ましい。塩基型イオン交換樹脂の平均粒径が上記範囲内であれば、例えば、塩基型イオン交換樹脂を充填したカラムにアニオン性含フッ素乳化剤を含有する被処理液を通液してアニオン性含フッ素乳化剤を吸着させる操作を行った際、被処理液の流路を閉塞し難くなる。
【0021】
塩基型イオン交換樹脂のイオン交換容量は、0.5〜2.5(eq/L(リットル))が好ましく、0.8〜1.7(eq/L)がより好ましい。塩基型イオン交換樹脂のイオン交換容量が上記範囲内であれば、被処理液中のアニオン性含フッ素乳化剤を効率よく吸着できる。
【0022】
塩基型イオン交換樹脂の市販品としては、ランクセス社製Lewatit(登録商標)MP800OH、Lewatit(登録商標)M800KR、Lewatit(登録商標)MP600、ピュロライト社製PUROLITE(登録商標)A200MBOH等が挙げられる。
【0023】
本発明において、塩基型イオン交換樹脂に吸着させるアニオン性含フッ素乳化剤としては特に限定はない。例えば、エーテル性酸素原子を有していてもよい含フッ素カルボン酸及びその塩、含フッ素スルホン酸及びその塩等が挙げられる。塩としては、アンモニウム塩、アルカリ金属塩(Li、Na、K等)等が挙げられ、アンモニウム塩が好ましい。なかでも、エーテル性酸素原子を有していてもよい含フッ素カルボン酸及びその塩が好ましく、エーテル性酸素原子を1〜3個含有してもよい炭素数5〜7の含フッ素カルボン酸及びその塩がより好ましい。
【0024】
含フッ素カルボン酸の具体例としては、パーフルオロカルボン酸、エーテル性酸素原子を有するパーフルオロカルボン酸、水素原子を有する含フッ素カルボン酸等が挙げられる。
【0025】
パーフルオロカルボン酸としては、パーフルオロヘキサン酸、パーフルオロヘプタン酸、パーフルオロオクタン酸、パーフルオロノナン酸等が挙げられる。
【0026】
エーテル性酸素原子を有するパーフルオロカルボン酸としては、COCF(CF)CFOCF(CF)COOH、COCOCFCOOH、COCOCFCOOH、COCOCFCOOH、COCFCFOCFCFOCFCOOH、CO(CFCOOH、CFOCOCFCOOH、CFOCFOCFOCFCOOH、CFOCFOCFOCFOCFCOOH、CFO(CFCFO)CFCOOH、CFOCFCFCFOCFCOOH、COCFCOOH、COCFCFCOOH、CFOCF(CF)CFOCF(CF)COOH、COCF(CF)COOH等が挙げられる。
【0027】
水素原子を有する含フッ素カルボン酸としては、ω−ハイドロパーフルオロオクタン酸、COCF(CF)CFOCHFCOOH、CFCFHO(CFCOOH、CFO(CFOCHFCFCOOH、CFO(CFOCHFCOOH、COCHFCFCOOH、CFCFHO(CFCOOH等が挙げられる。
【0028】
含フッ素スルホン酸としては、パーフルオロオクタンスルホン酸、C13CHCHSOH等が挙げられる。
【0029】
本発明において、アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂は、アニオン性含フッ素乳化剤を含む被処理液を塩基型イオン交換樹脂に接触させることで得られる。すなわち、被処理液を塩基型イオン交換樹脂に接触させることで、被処理液中のアニオン性含フッ素乳化剤が塩基型イオン交換樹脂に吸着される。例えば、アニオン性含フッ素乳化剤として、CFCFOCFCFOCFCOO(NHを含む被処理液を塩基型イオン交換樹脂に接触させた場合、CFCFOCFCFOCFCOOのイオンが、塩基型イオン交換樹脂に塩基に結合して吸着されると考えられる。
【0030】
アニオン性含フッ素乳化剤を含む被処理液としては、例えば、(1)含フッ素モノマーをアニオン性含フッ素乳化剤の存在下で乳化重合し、得られた含フッ素ポリマー水性乳化液に非イオン系界面活性剤を添加して安定化し、必要に応じて濃縮した含フッ素ポリマー水性分散液、(2)前記含フッ素ポリマー水性乳化液を凝集させた後に排出されるアニオン性含フッ素乳化剤を含有する排水、(3)前記含フッ素ポリマー水性乳化液を凝集して得た含フッ素ポリマー凝集物を乾燥する過程で排出される空気中に含まれるアニオン性含フッ素乳化剤を吸収した水溶液等が挙げられる。
【0031】
上記含フッ素ポリマー水性分散液は、含フッ素ポリマー水性乳化液を非イオン系界面活性剤で安定化した含フッ素ポリマー水性分散液が好ましい。非イオン系界面活性剤としては、一般式(A)および/または一般式(B)で示される界面活性剤等が挙げられる。
【0032】
−O−A−H ・・・(A)
(式(A)中、Rは炭素数8〜18のアルキル基であり、Aはオキシエチレン基数5〜20及びオキシプロピレン基数0〜2より構成されるポリオキシアルキレン鎖である。)
−C−O−B−H ・・・(B)
(式(B)中、Rは炭素数4〜12のアルキル基であり、Bはオキシエチレン基数5〜20より構成されるポリオキシエチレン鎖である。)
一般式(A)において、Rのアルキル基の炭素数は8〜18であり、10〜16が好ましく、12〜16がより好ましい。アルキル基の炭素数がこの範囲より多いと、界面活性剤の流動温度が高いために取扱いにくい。また、PTFE水性分散液を長期間放置した場合、PTFE微粒子が沈降し易く、保存安定性が損なわれやすい。また、炭素数がこの範囲より少ないと、PTFE水性分散液の表面張力が高くなり、コーティング時のぬれ性が低下しやすい。
なお、Rは直鎖状でも、分岐状でもよいが、直鎖状が好ましい。
一般式(B)において、Rのアルキル基の炭素数は4〜12であり、6〜10が好ましく、8〜9がより好ましい。アルキル基の炭素数が、この範囲よりも少ないと、PTFE水性分散液の表面張力が高くなり、コーティング時のぬれ性が低下する。また、炭素数がこの範囲より多いと、PTFE水性分散液を長時間放置した場合、PTFE微粒子が沈降しやすく、保存安定性が損なわれる。
なお、Rは直鎖状でも、分岐状でもよいが、直鎖状が好ましい。
一般式(A)の非イオン系界面活性剤の具体例としては、例えば、C1327−(OC10−OH、C1225−(OC10−OH、C1021CH(CH)CH−(OC−OH、C1327−(OC−OCH(CH)CH−OH、C1633−(OC10−OH、CH(C11)(C15)−(OC−OH、等の分子構造をもつ非イオン系界面活性剤が挙げられる。市販品では、ダウ社製タージトール(登録商標)15Sシリーズ、日本乳化剤社製ニューコール(登録商標)シリーズ、ライオン社製ライオノール(登録商標)TDシリーズ等が挙げられる。
【0033】
一般式(B)の非イオン系界面活性剤の具体例としては、例えば、C17−C−(OC10−OH、C19−C−(OC10−OH等の分子構造をもつ非イオン系界面活性剤が挙げられる。市販品では、ダウ社製トライトン(登録商標)Xシリーズ、日光ケミカル社製ニッコール(登録商標)OPシリーズまたはNPシリーズ等が挙げられる。
【0034】
含フッ素ポリマー水性分散液中における一般式(A)および/または一般式(B)で示される非イオン系界面活性剤の含有量は、含フッ素ポリマーの質量に対して1〜20質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましく、2〜8質量%が特に好ましい。
【0035】
アニオン性含フッ素乳化剤を含む被処理液と塩基型イオン交換樹脂との接触方法は、特に限定はなく、従来公知の方法が挙げられる。例えば、被処理液中に塩基型イオン交換樹脂を投入し、攪拌または揺動する方法、塩基型イオン交換樹脂を充填したカラムに被処理液を通す方法等が挙げられる。また、被処理液を塩基型イオン交換樹脂に接触させるに先立ち、該被処理液を濾過して凝固物等の浮遊する固体等を除去することが好ましい。これにより、塩基型イオン交換樹脂の目詰まりなどを抑制できる。被処理液の濾過は、100〜300μmの孔径を有する1段または複数段のフィルター群を用いて行うことが好ましい。
【0036】
塩基型イオン交換樹脂にアニオン性含フッ素乳化剤を含む被処理液を接触させる際の接触温度は特に限定はない。適宜選定すればよいが、10〜40℃の室温付近が好ましい。また、接触時間は特に限定はなく、適宜選定すればよい。例えば、攪拌方式で接触させる場合には、10分〜200時間の範囲が好ましい。また、接触時の圧力は、大気圧が好ましいが、減圧状態であってもよいし、加圧状態であってもよい。
【0037】
こうして、塩基型イオン交換樹脂に、被処理液中のアニオン性含フッ素乳化剤を吸着させた後、塩基型イオン交換樹脂を分離する。
【0038】
本発明のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法の第一の実施形態では、まず、上記で分離したアニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂に、無機酸水溶液と非水溶性含フッ素媒体との混合液(以下、無機酸水溶液と非水溶性含フッ素媒体との混合液を溶離液という)を接触させる。
【0039】
塩基型イオン交換樹脂に溶離液を接触させることで、塩基型イオン交換樹脂に吸着されたアニオン性含フッ素乳化剤が無機酸水溶液によって酸型化されて溶離し易くなる。そして、アニオン性含フッ素乳化剤は、非水溶性含フッ素媒体との相溶性が良好なので、塩基型イオン交換樹脂に吸着されたアニオン性含フッ素乳化剤は、アニオン性含フッ素乳化剤の酸として溶離し、非水溶性含フッ素媒体に溶出する。
【0040】
なお、塩基型イオン交換樹脂に無機酸水溶液を接触させても、アニオン性含フッ素乳化剤の酸は、無機酸水溶液中にはほとんど溶出せず、塩基型イオン交換樹脂の表面に付着していると考えられる。このため、後述する比較例1に示すように、塩基型イオン交換樹脂に無機酸水溶液を接触させた後、塩基型イオン交換樹脂を濾別して回収した無機酸水溶液の相に非水溶性含フッ素媒体を添加して、これらを混合しても、アニオン性含フッ素乳化剤の酸をほとんど回収することができない。
【0041】
本発明において、塩基型イオン交換樹脂と溶離液との接触方法は特に限定はない。例えば、攪拌子等による機械攪拌や、振とう等が挙げられる。また、塩基型イオン交換樹脂と溶離液の接触効率を良くするために、塩基型イオン交換樹脂の粒子が破壊されない範囲で、攪拌強度はより高いほうが好ましい。塩基型イオン交換樹脂の粒子が破壊されない場合、アニオン性含フッ素乳化剤の吸着に再使用することが容易であり好ましい。
【0042】
本発明において、アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂は、塩基型イオン交換樹脂とアニオン性含フッ素乳化剤を含む被処理液とを接触させて、該被処理液中のアニオン性含フッ素乳化剤を吸着させた後、乾燥処理等を行わず湿潤状態のまま使用してもよく、乾燥処理を行って乾燥状態で使用してもよい。工業的には、湿潤状態のまま使用することが、工程を簡略化できるので好ましい。
【0043】
本発明において、無機酸水溶液としては、塩酸水溶液、硝酸水溶液、硫酸水溶液及びリン酸水溶液からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。前記無機酸水溶液を2種類以上混合して用いてもよい。これらのうち、塩酸水溶液が工業上、使用が容易であり特に好ましい。
【0044】
無機酸水溶液の濃度は、一般的に高い程、塩基型イオン交換樹脂から溶離するアニオン性含フッ素乳化剤の酸が増加する傾向にあるので好ましい。好ましくは0.1N〜13Nであり、より好ましくは3N〜13Nであり、特に好ましくは10N〜13Nである。
【0045】
本発明において、非水溶性含フッ素媒体としては、ヒドロフルオロカーボン及びヒドロフルオロエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種類が好ましく用いられる。これらのうち、ヒドロフルオロエーテルが地球温暖化係数及びオゾン破壊係数が小さく特に好ましい。
【0046】
ヒドロフルオロエーテルとしては、CFCHOCFCFH、CFCHOCFCFHCF、(CFCHOCFCFH、CFCHOCHFCHF、CF(CFOCH、CF(CFOCH、CF(CFOCHCH、CF(CFOCHCH、(CFCFCFOCHCH等が挙げられる。
【0047】
ヒドロフルオロカーボンとしては、CHFCFCFCFCFCF、CFCFCFCFCHCH、CFCFCFCFCFCFCHCH、CFCFCHFCHFCF、CFCHCFCH、CFCFCFCFHCH等が挙げられる。
【0048】
上記したヒドロフルオロカーボン及びヒドロフルオロエーテルは、いずれも水への溶解性が0.1%未満である。また、不燃性の媒体であり、取り扱い性に優れている。
【0049】
無機酸水溶液と非水溶性含フッ素媒体との割合は、質量比で、無機酸水溶液/非水溶性含フッ素媒体=5/95〜95/5が好ましく、20/80〜80/20がより好ましく、30/70〜70/30が特に好ましい。無機酸水溶液と非水溶性含フッ素媒体との質量比が上記範囲であれば、アニオン性含フッ素乳化剤の酸の回収率が高い。特に、50/50に近づくほど混合性が良くなり、アニオン性含フッ素乳化剤の酸の回収率がより高くなる。
【0050】
アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂と、無機酸水溶液と、非水溶性含フッ素媒体との割合は、質量比で、塩基型イオン交換樹脂/(無機酸水溶液と非水溶性含フッ素媒体との合計量)=60/40〜1/99が好ましく、55/45〜10/90がより好ましく、50/50〜30/70が特に好ましい。塩基型イオン交換樹脂に対する無機酸水溶液と非水溶性含フッ素媒体との合計量が多すぎると、接触効率が下がり、アニオン性含フッ素乳化剤の酸の回収率が低下する。また少なすぎると、混和性が低下し、アニオン性含フッ素乳化剤の酸の回収率が低下する。上記範囲内であれば、混和性が良好で、更にはアニオン性含フッ素乳化剤の酸の回収率が高い。
【0051】
次に、本発明では、アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂と、溶離液との混合物から非水溶性含フッ素媒体の相を分離回収する。
【0052】
無機酸水溶液と非水溶性含フッ素媒体との相溶性は極めて低いため、上記混合物を例えば静置するだけで、無機酸水溶液の相と非水溶性含フッ素媒体の相とに分離する。このため、本発明によれば、特に複雑な回収装置等を使用しなくても、相分離した上澄液を回収するなどの極めて簡単な操作で、アニオン性含フッ素乳化剤の酸を大量に含む非水溶性含フッ素媒体の相を分離回収できる。
【0053】
そして、分離回収した非水溶性含フッ素媒体の相を蒸留操作など行うことで、アニオン性含フッ素乳化剤の酸を回収することができる。回収したアニオン性含フッ素乳化剤の酸は、そのままアニオン性含フッ素乳化剤として使用してもよく、中和してアンモニウム塩、アルカリ金属塩等にして用いてもよい。
【0054】
本発明では、塩基型イオン交換樹脂と溶離液との混合物から非水溶性含フッ素媒体の相を分離した残部に、新たに非水溶性含フッ素媒体を添加し、混合し、静置し、次いで、非水溶性含フッ素媒体の相を分離回収して、該非水溶性含フッ素媒体の相からアニオン性含フッ素乳化剤の酸を回収する操作を1回以上繰り返してもよい。
【0055】
上記操作を繰り返すこと、すなわち塩基型イオン交換樹脂と溶離液との接触回数を増やすことで、アニオン性含フッ素乳化剤の酸の回収率を高めることができる。例えば、塩基型イオン交換樹脂に溶離液を接触させることで、45質量%以上のアニオン性含フッ素乳化剤の酸を溶離させることができる(接触回数1回目)。そして、非水溶性含フッ素媒体の相を分離した残部に、新たに非水溶性含フッ素媒体を添加し、これらを混合するなどして接触させることで(接触回数2回目)、合計で70質量%以上のアニオン性含フッ素乳化剤の酸を溶離させることができる。さらに同様の操作を行い、塩基型イオン交換樹脂と溶離液との接触回数を増やすことで、最終的にはほぼ100%、アニオン性含フッ素乳化剤の溶離ができる。接触回数を増加させるに伴い工程が煩雑化するので、接触回数は5回以下が好ましい。なお、2回目以降の接触の際には、一度塩基型イオン交換樹脂と接触させた非水溶性含フッ素媒体から、溶離したアニオン性含フッ素乳化剤を取り除いた非水溶性含フッ素媒体を再利用してもよいが、新しい非水溶性含フッ素媒体を使用することが好ましい。
【0056】
次に、本発明のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法の第二の実施形態について説明する。
【0057】
第二の実施形態では、アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂に無機酸水溶液を接触させ、次いで、非水溶性含フッ素媒体を接触させる。
【0058】
上述したように、塩基型イオン交換樹脂に無機酸水溶液を接触させることで、塩基型イオン交換樹脂に吸着されたアニオン性含フッ素乳化剤は酸型化して、溶離し易い形で塩基型イオン交換樹脂に吸着される。アニオン性含フッ素乳化剤は、無機酸水溶液との相溶性が低いので、酸型化されても無機酸水溶液中に溶出することは殆どない。しかし、非水溶性含フッ素媒体は、アニオン性含フッ素乳化剤との相溶性が良好であるので、無機酸水溶液を接触させた塩基型イオン交換樹脂に非水溶性含フッ素媒体を接触させることで、塩基型イオン交換樹脂に吸着されたアニオン性含フッ素乳化剤が、アニオン性含フッ素乳化剤の酸として溶離し、非水溶性含フッ素媒体に溶出する。そして、第一の実施形態と同様にして非水溶性含フッ素媒体の相を回収することで、アニオン性含フッ素乳化剤の酸を大量に含む非水溶性含フッ素媒体の相を回収でき、回収した非水溶性含フッ素媒体の相を蒸留操作など行うことで、アニオン性含フッ素乳化剤の酸を回収することができる。
【0059】
第二の実施形態において、塩基型イオン交換樹脂に無機酸水溶液を接触させた後、これらの混合物から塩基型イオン交換樹脂を分離回収し、分離回収した塩基型イオン交換樹脂に非水溶性含フッ素媒体を接触させることが好ましい。このようにすることで、非水溶性含フッ素媒体の相を回収する際において、塩基型イオン交換樹脂と非水溶性含フッ素媒体との混合物から、塩基型イオン交換樹脂を濾別するなど、極めて簡単な操作により、非水溶性含フッ素媒体の相を回収できる。
【0060】
第二の実施形態において、アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂と、無機酸水溶液との割合は、質量比で、80/20〜2/98が好ましく、75/25〜20/80がより好ましい。また、塩基型イオン交換樹脂と非水溶性含フッ素媒体との割合は、質量比で、80/20〜2/98が好ましく、75/25〜20/80がより好ましい。上記範囲内であれば、アニオン性含フッ素乳化剤の酸の回収率が高い。
【0061】
第二の実施形態においても、上記第一の実施形態と同様に、非水溶性含フッ素媒体の相を分離した残部に対して、無機酸水溶液と非水溶性含フッ素媒体によるアニオン性含フッ素乳化剤の回収操作を1回以上繰り返してもよい。
【0062】
なお、塩基型イオン交換樹脂に無機酸水溶液を接触させた後、これらの混合物から分離回収した塩基型イオン交換樹脂に非水溶性含フッ素媒体を接触させる操作を行った場合、「非水溶性含フッ素媒体の相を分離した残部」とは、塩基型イオン交換樹脂を主とするものであるので、この場合においては、非水溶性含フッ素媒体の相を分離した残部に、(A)無機酸水溶液と非水溶性含フッ素媒体との混合液を接触させるか、あるいは、(B)無機酸水溶液を接触させ、次いで、非水溶性含フッ素媒体を接触させた後、非水溶性含フッ素媒体の相を回収し、該非水溶性含フッ素媒体の相からアニオン性含フッ素乳化剤を回収することが好ましい。
【実施例】
【0063】
次に、実施例及び比較例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中に記載される物性値の測定方法は下記のとおりである。
【0064】
(A)PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の平均一次粒子径(単位:μm):レーザー散乱法粒子径分布分析計(堀場製作所社製、商品名「LA−920」)を用いて測定した。
【0065】
(B)標準比重(以下、SSGともいう):ASTM D1457−91a、D4895−91aに準拠して測定した。12.0gのPTFEを計量して内径28.6mmの円筒金型で34.5MPaで2分間保持した。これを290℃のオーブンへ入れて120℃/hrで昇温した。次いで、380℃で30分間保持した後、60℃/hrで降温して294℃で24分間保持した。その後、23℃のデシケーター中で12時間保持した後、23℃での成形物と水との比重値を測定し、これを標準比重とした。
【0066】
(C)アニオン性含フッ素乳化剤及びアニオン性含フッ素乳化剤の酸の濃度:ガラス瓶にメチレンブルー溶液(水の約500mLに硫酸の12gを徐々に加え、冷却後これにメチレンブルーの0.03g、及び無水硫酸ナトリウムの50gを溶解し、水を加えて1L(リットル)としたもの)の4mL、クロロホルムの5mLを入れ、さらに測定試料の1000〜3000倍希釈液の0.1gを加えて激しく振り混ぜ、静置後、下相のクロロホルム相を採取した。採取したクロロホルム相を孔径0.2μmのフィルターで濾過し、分光光度計で630nmの吸光度を測定した。アニオン性含フッ素乳化剤の量に応じてクロロホルム相が青色を呈する。あらかじめ濃度既知のアニオン性含フッ素乳化剤溶液の0.1gを使用して同様の方法で吸光度を測定して検量線を作成し、該検量線を用いて測定試料中のアニオン性含フッ素乳化剤の濃度を求めた。同様にして、測定試料中のアニオン性含フッ素乳化剤の酸の濃度を求めた。
【0067】
(実施例1)
強塩基型イオン交換樹脂(商品名:「PUROLITE(登録商標) A200MBOH」、ピュロライト社製)を充填した長さ80cm、内径0.9cmのカラム(内容積51cc)に、チューブ式ポンプにより非イオン系界面活性剤(商品名:「Newcol(登録商標) 1308FA」、日本乳化剤社製)の1.5質量%水溶液を毎時50ccで100mL通液した後、アニオン性含フッ素乳化剤(CFCFOCFCFOCFCOO(NH)を、PTFE質量に対し0.471質量%含んだ23.0KgのPTFE水性分散液(PTFE濃度29.4%、PTFEの平均一次粒子径は300nm、PTFEの標準比重は2.20)を毎時120ccで約195時間かけて通液した。通液後のPTFE水性分散液中のアニオン性含フッ素乳化剤は、PTFE質量に対して0.0471質量%に低減されていた。
通液前のPTFE水性分散液には、計算により31.9gのアニオン性含フッ素乳化剤が含有されていた。また、通液後のPTFE水性分散液には3.18gのアニオン性含フッ素乳化剤が含有されていた。このことから、通液後の強塩基型イオン交換樹脂には、28.7gのアニオン性含フッ素乳化剤が吸着されたことになる。この強塩基型イオン交換樹脂を、50〜60℃のオーブン中で、質量が一定になるまで約12時間乾燥した。これにより得られた強塩基型イオン交換樹脂は44.6gであり、1gあたり0.643gのアニオン性含フッ素乳化剤が吸着していることになる。
攪拌子を入れた30ccガラス瓶に、上記の乾燥処理を行った強塩基型イオン交換樹脂の1.01gと、11N塩酸水溶液の0.300gと、非水溶性含フッ素媒体としてCFCHOCCHF(商品名:「アサヒクリン(登録商標) AE−3000」、旭硝子社製)(以下、AE−3000ともいう)の0.939gと、を入れて室温で100分間攪拌した。次いで、静置し、分離したAE−3000の相を回収して、該相中のアニオン性含フッ素乳化剤の酸(CFCFOCFCFOCFCOOH)の濃度を測定した。回収したAE−3000の相には、アニオン性含フッ素乳化剤の酸を0.310g含有していた。アニオン性含フッ素乳化剤の酸の回収率は47.8%であった。
【0068】
(実施例2〜6)
実施例1において、11N塩酸水溶液、AE−3000の使用量を、表1に示す量に変更する以外は、実施例1と同様にし、AE−3000の相を回収して該相中のアニオン性含フッ素乳化剤の酸の濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
(実施例7)
強塩基型イオン交換樹脂(商品名:「PUROLITE(登録商標) A200MBOH」、ピュロライト社製)を、アニオン性含フッ素乳化剤(CFCFOCFCFOCFCOO(NH)を29.9質量%含んだ水溶液の8.96kg中に入れ、110時間攪拌した後、強塩基型イオン交換樹脂とアニオン性含フッ素乳化剤の水溶液を分離した。攪拌後のアニオン性含フッ素乳化剤の水溶液は、アニオン性含フッ素乳化剤の濃度が13.0質量%に低減されていた。このことから、1.51kgのアニオン性含フッ素乳化剤が強塩基型イオン交換樹脂に吸着したことになる。使用した強塩基型イオン交換樹脂の質量は3.27kg(含水率14.4%)であり、これより得られた強塩基型イオン交換樹脂1gあたり、0.462gのアニオン性含フッ素乳化剤が吸着していることになる。
140ccガラス瓶に、上記の操作で得られたアニオン性含フッ素乳化剤を吸着させた強塩基型イオン交換樹脂の10.1gと、11N塩酸水溶液の25.0gと、AE−3000の25.5gとを入れ、振とう器(商品名:「SHAKER S‐31」、yamato社製)で60分間振とうした。次いで、静置し、分離したAE−3000の相を回収して、該相中のアニオン性含フッ素乳化剤の酸の濃度を測定した。回収したAE−3000の相には、アニオン性含フッ素乳化剤の酸を2.67g含有していた。アニオン性含フッ素乳化剤の酸の回収率は57.2%であった。
【0071】
(実施例8)
実施例7において、AE‐3000相を分離した後、残った強塩基型イオン交換樹脂と塩酸水溶液の混合物に、新たにAE‐3000の25.1gを添加し、振とう器で60分間振とうした。次いで、静置し、分離したAE−3000の相を回収して、該相中のアニオン性含フッ素乳化剤の酸の濃度を測定した。回収したAE−3000の相には、アニオン性含フッ素乳化剤の酸を1.16g含有していた。該アニオン性含フッ素乳化剤の酸の回収率は24.9%であった。実施例7と8の操作により、アニオン性含フッ素乳化剤の酸の回収率は、合計で82.1%であった。
【0072】
(比較例1)
140ccガラス瓶に、実施例7で得られたアニオン性含フッ素乳化剤を吸着させた強塩基型イオン交換樹脂の10.3gと、11N塩酸水溶液の25.0gとを入れ、振とう器で60分間振とうした。次いで、イオン交換樹脂を濾別して残った塩酸水溶液相にAE−3000の25.3gを添加し、60分振とうした。ガラス瓶を静置し、分離したAE−3000の相を回収して、該相中のアニオン性含フッ素乳化剤の酸の濃度を測定した。回収したAE−3000の相には、アニオン性含フッ素乳化剤の酸を62.9mg含有していた。アニオン性含フッ素乳化剤の酸の回収率は1.32%であった。
【0073】
(実施例9)
600ccビーカーに、実施例7で得られたアニオン性含フッ素乳化剤を吸着させた強塩基型イオン交換樹脂の20.0gと、11N塩酸水溶液の50.0gと、AE-3000の50.0gとを入れ、60分間攪拌した。次いで、静置し、分離したAE−3000の相を回収して、該相中のアニオン性含フッ素乳化剤の酸の濃度を測定した。回収したAE−3000の相には、アニオン性含フッ素乳化剤の酸を4.99g含有していた。該アニオン性含フッ素乳化剤の酸の回収率は54.0%であった。
【0074】
(実施例10)
600ccビーカーに、実施例7で得られたアニオン性含フッ素乳化剤を吸着させた強塩基型イオン交換樹脂の20.0gと、3N塩酸水溶液の50.0gと、AE-3000の50.0gとを入れ、60分間攪拌した。次いで、静置し、分離したAE−3000の相を回収して、該相中のアニオン性含フッ素乳化剤の酸の濃度を測定した。回収したAE−3000の相には、アニオン性含フッ素乳化剤の酸を3.23g含有していた。該アニオン性含フッ素乳化剤の酸の回収率は34.9%であった。
【0075】
(実施例11)
500ml三口フラスコに、実施例7で得られたアニオン性含フッ素乳化剤を吸着させた強塩基型イオン交換樹脂の20.4gと、11N塩酸水溶液の24.0gとを入れ、60分間攪拌した。次いで塩酸水溶液を除き、強塩基型イオン交換樹脂とAE-3000の24.0gとを60分間攪拌した。AE−3000相中のアニオン性含フッ素乳化剤の酸の濃度を測定したところ、アニオン性含フッ素乳化剤の酸を3.92g含有しており、該アニオン性含フッ素乳化剤の酸の回収率は42.4%であった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法によれば、アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂からアニオン性含フッ素乳化剤を高収率で回収できる。また、アニオン性含フッ素乳化剤の回収に使用した非水溶性含フッ素媒体は再利用でき、廃液処理に要する手間を軽減できる。そして、回収したアニオン性含フッ素乳化剤は、そのまま、あるいは中和してアルカリ金属塩やアンモニウム塩として、含フッ素ポリマー水性乳化液の乳化重合等に使用できる。
なお、2010年2月3日に出願された日本特許出願2010−021754号の明細書、特許請求の範囲、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。