特許第5720737号(P5720737)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5720737
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】光導波路素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/035 20060101AFI20150430BHJP
   G02F 1/225 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
   G02F1/035
   G02F1/225
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-152346(P2013-152346)
(22)【出願日】2013年7月23日
(62)【分割の表示】特願2008-22759(P2008-22759)の分割
【原出願日】2008年2月1日
(65)【公開番号】特開2013-242592(P2013-242592A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2013年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(72)【発明者】
【氏名】清水 亮
(72)【発明者】
【氏名】及川 哲
(72)【発明者】
【氏名】菅又 徹
【審査官】 佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−181108(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/019913(WO,A1)
【文献】 特開平07−120631(JP,A)
【文献】 特開平07−159743(JP,A)
【文献】 特表2004−523775(JP,A)
【文献】 特開昭63−096626(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/01−1/035
G02F 1/225
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する基板と、
該基板の主面に形成されたマッハツェンダー型光導波路と、
該光導波路内を導波する光波を制御するための制御電極とを備えた光導波路素子において、
該マッハツェンダー型光導波路は、該制御電極による光波の制御を行なう光導波路部分である作用部と、該作用部に光波を導入又は該作用部から光波を導出する光導波路部分である入出力部とに分けられ、
該制御電極が、コプレーナ型の制御電極である信号電極と接地電極から構成され、該接地電極が該入出力部を跨いで配置される際には、該入出力部上の少なくとも一方の該接地電極に光損失低減手段を設け、
該光損失低減手段は、該入出力部上を跨ぐ接地電極であって、該入出力部上を跨ぐ該接地電極と該信号電極との距離が、該入出力部上を跨ぐ前後の該接地電極と該信号電極との距離と、同程度に設定されており
該入出力部上を跨ぐ接地電極の幅が、該入出力部上を跨ぐ前後の接地電極の幅と比較して狭く、該信号電極の幅以上75μm以下であり、
該入出力部上を跨ぐ前後の該接地電極の間隔が200μm以下であり、光導波路に接触しないように接地電極を配置することを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
電気光学効果を有する基板と、
該基板の主面に形成されたマッハツェンダー型光導波路と、
該光導波路内を導波する光波を制御するための制御電極とを備えた光導波路素子において、
該マッハツェンダー型光導波路は、該制御電極による光波の制御を行なう光導波路部分である作用部と、該作用部に光波を導入又は該作用部から光波を導出する光導波路部分である入出力部とに分けられ、
該制御電極が、コプレーナ型の制御電極である信号電極と接地電極から構成され、該接地電極が該入出力部を跨いで配置される際には、該入出力部上の少なくとも一方の該接地電極に光損失低減手段を設け、
該光損失低減手段は、該入出力部上を跨ぐ接地電極であって、該入出力部上を跨ぐ該接地電極と該信号電極との距離が、該入出力部上を跨ぐ前後の該接地電極と該信号電極との距離と、同程度に設定されており
該光損失低減手段は、該入出力部上を跨ぐ接地電極が、該信号電極の近傍に配置するワイヤー又はリボンボンディングであり、
該入出力部上を跨ぐ前後の該接地電極の間隔が200μm以下であり、光導波路に接触しないように接地電極を配置することを特徴とする光導波路素子。
【請求項3】
電気光学効果を有する基板と、
該基板の主面に形成されたマッハツェンダー型光導波路と、
該光導波路内を導波する光波を制御するための制御電極とを備えた光導波路素子において、
該マッハツェンダー型光導波路は、該制御電極による光波の制御を行なう光導波路部分である作用部と、該作用部に光波を導入又は該作用部から光波を導出する光導波路部分である入出力部とに分けられ、
該制御電極が、コプレーナ型の制御電極である信号電極と接地電極から構成され、該接地電極が該入出力部を跨いで配置される際には、該入出力部上の少なくとも一方の該接地電極に光損失低減手段を設け、
該光損失低減手段は、該入出力部上を跨ぐ接地電極であって、該入出力部上を跨ぐ該接地電極と該信号電極との距離が、該入出力部上を跨ぐ前後の該接地電極と該信号電極との距離と、同程度に設定されており
該光損失低減手段は、該入出力部上を跨ぐ接地電極が、該信号電極の近傍に配置され、跨ぐ前後の接地電極を繋ぐブリッジ状電極であり、
該入出力部上を跨ぐ前後の接地電極の間隔が200μm以下であり、光導波路に接触しないように接地電極を配置することを特徴とする光導波路素子。
【請求項4】
請求項1に記載の光導波路素子において、該光損失低減手段は、該入出力部と該入出力を跨いで配置された接地電極との間にバッファ層を配置するものであることを特徴とする光導波路素子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の光導波路素子において、該基板は、ニオブ酸リチウム又はニオブ酸タンタレートのX板であることを特徴とする光導波路素子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の光導波路素子において、該基板の厚みは50μm以下であることを特徴とする光導波路素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路素子に関し、特に、マッハツェンダー型光導波路と該光導波路内を導波する光波を制御するための制御電極とを備えた光導波路素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信や光計測の分野において、電気光学効果を有する基板上に光導波路を形成すると共に、光導波路内を導波する光波を制御するための制御電極を形成した導波路型光変調器などの光導波路素子が多用されている。
図1及び2に示す光導波路素子は、マッハツェンダー型光導波路を基板上に形成したものである。図1は基板にX板を用いたものであり、図2は基板にZ板を用いた例を示す。なお、各図の(a)は光導波路素子の平面図、図1(b)又は(c)は図1(a)のA−A’又はB−B’における各断面図であり、さらに、図2(b)又は(c)は図2(a)のC−C’又はD−D’における各断面図を示す。
【0003】
図1の光導波路素子では、信号電極3を接地電極31,32が挟むように配置される、所謂、コプレーナ型の制御電極が形成されている。このため、接地電極32は、局所的に光導波路2を跨ぐように配置することが必要となり、図1(c)に示すように、光導波路2上に接地電極32が接触することとなる。光導波路2を伝搬する光波は、このような接地電極32により吸収又は散乱され、光波の伝搬損失が大きくなる。
【0004】
他方、図2の光導波路素子では、図1の光導波路素子と同様に、接地電極35は局所的に光導波路を跨ぐように配置されるだけでなく、信号電極33,36も、光導波路21,22上に配置する必要がある。このため、光導波路を伝搬する光波の損失を低減させるため、図2(b),(c)に示すようにSiOなどのバッファ層4が形成されている。なお、図2(a)においては、光導波路(2,23等)と制御電極(信号電極33,36、接地電極34,35,37)との配置関係を示すため、バッファ層4は省略されている。なお、バッファ層を用いた例としては、特許文献1のものなどが知られている。
【0005】
図2のように、バッファ層4は、光導波路上に電極を配置する場合の損失の低減に寄与する効果が期待できるが、電極と光導波路との間隔が大きくなるため、光導波路に印加する電界の強さを所定以上に維持するためには、電極に印加する駆動電圧を高くする必要がある。このため、駆動装置の低消費電力化や低コスト化などが困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−185025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、上述した問題を解決し、駆動電圧の増加を抑制しながら、光波の伝搬損失を低減すると共に、伝搬損失低減手段によって高周波帯域における光応答特性が劣化しないように維持した光導波路素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明では、電気光学効果を有する基板と、該基板の主面に形成されたマッハツェンダー型光導波路と、該光導波路内を導波する光波を制御するための制御電極とを備えた光導波路素子において、該マッハツェンダー型光導波路は、該制御電極による光波の制御を行なう光導波路部分である作用部と、該作用部に光波を導入又は該作用部から光波を導出する光導波路部分である入出力部とに分けられ、該制御電極が、コプレーナ型の制御電極である信号電極と接地電極から構成され、該接地電極が該入出力部を跨いで配置される際には、該入出力部上の少なくとも一方の該接地電極に光損失低減手段を設け、該光損失低減手段は、該入出力部上を跨ぐ接地電極であって、該入出力部上を跨ぐ該接地電極と該信号電極との距離が、該入出力部上を跨ぐ前後の該接地電極と該信号電極との距離と、同程度に設定されており、該入出力部上を跨ぐ接地電極の幅が、該入出力部上を跨ぐ前後の接地電極の幅と比較して狭く、該信号電極の幅以上75μm以下であり、該入出力部上を跨ぐ前後の該接地電極の間隔が200μm以下であり、光導波路に接触しないように接地電極を配置することを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明では、電気光学効果を有する基板と、該基板の主面に形成されたマッハツェンダー型光導波路と、該光導波路内を導波する光波を制御するための制御電極とを備えた光導波路素子において、該マッハツェンダー型光導波路は、該制御電極による光波の制御を行なう光導波路部分である作用部と、該作用部に光波を導入又は該作用部から光波を導出する光導波路部分である入出力部とに分けられ、該制御電極が、コプレーナ型の制御電極である信号電極と接地電極から構成され、該接地電極が該入出力部を跨いで配置される際には、該入出力部上の少なくとも一方の該接地電極に光損失低減手段を設け、該光損失低減手段は、該入出力部上を跨ぐ接地電極であって、該入出力部上を跨ぐ該接地電極と該信号電極との距離が、該入出力部上を跨ぐ前後の該接地電極と該信号電極との距離と、同程度に設定されており、該光損失低減手段は、該入出力部上を跨ぐ接地電極が、該信号電極の近傍に配置するワイヤー又はリボンボンディングであり、該入出力部上を跨ぐ前後の該接地電極の間隔が200μm以下であり、光導波路に接触しないように接地電極を配置することを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明では、電気光学効果を有する基板と、該基板の主面に形成されたマッハツェンダー型光導波路と、該光導波路内を導波する光波を制御するための制御電極とを備えた光導波路素子において、該マッハツェンダー型光導波路は、該制御電極による光波の制御を行なう光導波路部分である作用部と、該作用部に光波を導入又は該作用部から光波を導出する光導波路部分である入出力部とに分けられ、該制御電極が、コプレーナ型の制御電極である信号電極と接地電極から構成され、該接地電極が該入出力部を跨いで配置される際には、該入出力部上の少なくとも一方の該接地電極に光損失低減手段を設け、該光損失低減手段は、該入出力部上を跨ぐ接地電極であって、該入出力部上を跨ぐ該接地電極と該信号電極との距離が、該入出力部上を跨ぐ前後の該接地電極と該信号電極との距離と、同程度に設定されており、該光損失低減手段は、該入出力部上を跨ぐ接地電極が、該信号電極の近傍に配置され、跨ぐ前後の接地電極を繋ぐブリッジ状電極であり、該入出力部上を跨ぐ前後の該接地電極の間隔が200μm以下であり、光導波路に接触しないように接地電極を配置することを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明では、請求項1に記載の光導波路素子において、該光損失低減手段は、該入出力部と該入出力部を跨いで配置された接地電極との間にバッファ層を配置するものであることを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明では、請求項1乃至4のいずれかに記載の光導波路素子において、該基板は、ニオブ酸リチウム又はニオブ酸タンタレートのX板であることを特徴とする。
【0013】
請求項6に係る発明では、請求項1乃至5のいずれかに記載の光導波路素子において、該基板の厚みは50μm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明により、マッハツェンダー型光導波路は、制御電極による光波の制御を行なう光導波路部分である作用部と、該作用部に光波を導入又は該作用部から光波を導出する光導波路部分である入出力部とに分けられ、該制御電極が、コプレーナ型の制御電極である信号電極と接地電極から構成され、該接地電極が該入出力部を跨いで配置される際には、該入出力部上の少なくとも一方の該接地電極に光損失低減手段を設けるため、光導波路を伝搬する光波の伝搬損失を抑制でき、かつ当該光損失低減手段は、当該光導波路近傍の電極配置をコプレーナ型が維持できるように実施するため、高周波帯域における光応答特性を劣化させないことが可能となる。また、光損失低減手段は、該入出力部上を跨ぐ接地電極であって、該入出力部上を跨ぐ該接地電極と該信号電極との距離が、該入出力部上を跨ぐ前後の該接地電極と該信号電極との距離と、同程度に設定されているため、コプレーナ型の制御電極を連続的に形成でき、信号電極を駆動信号が伝搬するのに対応して発生する信号電極と接地電極との間の電界の強さを安定させ、高周波領域での光応答特性をより安定化させることが可能となる。さらに、入出力部上を跨ぐ接地電極の幅が、該入出力部上を跨ぐ前後の接地電極の幅と比較して狭く、該信号電極の幅以上75μm以下であるため光損失をより低減することが可能になり、光応答特性が劣化することもない。
【0015】
また、光損失低減手段が、入出力部上を跨ぐ接地電極の幅が、跨ぐ前後の接地電極の幅と比較して狭く、かつ該入出力部上を跨ぐ接地電極は信号電極の近傍に配置するものである場合には、光導波路と接地電極との重なり部分を少なくして光損失を低減できると共に、跨いだ接地電極が信号電極の近傍に配置されるため、上述のように高周波帯域の光応答特性が劣化しない。
【0016】
請求項2に係る発明により、マッハツェンダー型光導波路は、制御電極による光波の制御を行なう光導波路部分である作用部と、該作用部に光波を導入又は該作用部から光波を導出する光導波路部分である入出力部とに分けられ、該制御電極が、コプレーナ型の制御電極である信号電極と接地電極から構成され、該接地電極が該入出力部を跨いで配置される際には、該入出力部上の少なくとも一方の該接地電極に光損失低減手段を設けるため、光導波路を伝搬する光波の伝搬損失を抑制でき、かつ当該光損失低減手段は、当該光導波路近傍の電極配置をコプレーナ型が維持できるように実施するため、高周波帯域における光応答特性を劣化させないことが可能となる。また、光損失低減手段は、該入出力部上を跨ぐ接地電極であって、該入出力部上を跨ぐ該接地電極と該信号電極との距離が、該入出力部上を跨ぐ前後の該接地電極と該信号電極との距離と、同程度に設定されているため、コプレーナ型の制御電極を連続的に形成でき、信号電極を駆動信号が伝搬するのに対応して発生する信号電極と接地電極との間の電界の強さを安定させ、高周波領域での光応答特性をより安定化させることが可能となる。さらに、光損失低減手段は、入出力部上を跨ぐ接地電極が、信号電極の近傍に配置するワイヤー又はリボンボンディングであるため、光導波路に接触する接地電極を配置する必要が無く、光損失を最大限に抑制することが可能となる。しかも、ワイヤーボンディング等が、信号電極の近傍に配置されている場合には、上述のように高周波帯域の光応答特性が劣化しない。
【0017】
請求項3に係る発明により、マッハツェンダー型光導波路は、制御電極による光波の制御を行なう光導波路部分である作用部と、該作用部に光波を導入又は該作用部から光波を導出する光導波路部分である入出力部とに分けられ、該制御電極が、コプレーナ型の制御電極である信号電極と接地電極から構成され、該接地電極が該入出力部を跨いで配置される際には、該入出力部上の少なくとも一方の該接地電極に光損失低減手段を設けるため、光導波路を伝搬する光波の伝搬損失を抑制でき、かつ当該光損失低減手段は、当該光導波路近傍の電極配置をコプレーナ型が維持できるように実施するため、高周波帯域における光応答特性を劣化させないことが可能となる。また、光損失低減手段は、該入出力部上を跨ぐ接地電極であって、該入出力部上を跨ぐ該接地電極と該信号電極との距離が、該入出力部上を跨ぐ前後の該接地電極と該信号電極との距離と、同程度に設定されているため、コプレーナ型の制御電極を連続的に形成でき、信号電極を駆動信号が伝搬するのに対応して発生する信号電極と接地電極との間の電界の強さを安定させ、高周波領域での光応答特性をより安定化させることが可能となる。さらに、光損失低減手段は、入出力部上を跨ぐ接地電極が、信号電極の近傍に配置され、跨ぐ前後の接地電極を繋ぐブリッジ状電極であるため、光導波路に接触する接地電極を配置する必要が無く、光損失を最大限に抑制することが可能となる。しかも、ブリッジ状電極が、信号電極の近傍に配置されている場合には、上述のように高周波帯域の光応答特性が劣化しない。
【0018】
請求項4に係る発明により、光損失低減手段は、入出力部と該入出力部を跨いで配置された接地電極との間にバッファ層を配置するため、光導波路を伝搬する光波の伝搬損失を低減することが可能となる。
【0019】
請求項5に係る発明により、基板は、ニオブ酸リチウム又はニオブ酸タンタレートのX板であるため、基板上に直接電極を配置する場合でも、請求項1乃至4の光損失低減手段を介して接地電極が光導波路を跨ぐように配置できるため、光導波路素子の駆動電圧の増加を抑制しながら、光導波路を伝搬する光波の伝搬損失を抑制することが可能となる。
【0020】
請求項6に係る発明により、基板の厚みは50μm以下であるため、光導波路を伝搬する光波と駆動信号との速度整合が図りやすくなり、より高周波領域まで光応答が良好な光導波路素子を実現することが可能となる。また、基板の厚みが薄いため、一般に光導波路を伝搬する光波が光導波路を跨ぐ接地電極で吸収され易くなるが、請求項1乃至4の光損失低減手段により、これらの不具合を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】従来のX板の基板を用いた光導波路素子の概略図である。
図2】従来のZ板の基板を用いた光導波路素子の概略図である。
図3】本発明に係る光導波路の作用部を説明する図である。
図4】本発明に係る光損失低減手段の第1の例を示す図である。
図5】本発明に係る光損失低減手段の第1の例を示す図である。
図6】本発明に係る光損失低減手段の第1の例を示す図である。
図7】本発明に係る光損失低減手段の第1の例を示す図である。
図8】光損失を測定試験する際の各機器の配置を示す図である。
図9】接地電極の幅に対する光損失の関係を示すグラフである。
図10】光導波路を跨ぐ接地電極を使用した場合の駆動周波数に対する光応答特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る光導波路素子について、詳細に説明する。
本発明に係る光導波路素子は、電気光学効果を有する基板と、該基板の主面に形成されたマッハツェンダー型光導波路と、該光導波路内を導波する光波を制御するための制御電極とを備えた光導波路素子において、該マッハツェンダー型光導波路は、該制御電極による光波の制御を行なう光導波路部分である作用部と、該作用部に光波を導入又は該作用部から光波を導出する光導波路部分である入出力部とに分けられ、該制御電極が信号電極と接地電極から構成され、該接地電極が該入出力部を跨いで配置される際には、該入出力部上の少なくとも一方(光波の導入側又は導出側)の該接地電極に光損失低減手段を設けることを特徴とする。
【0023】
図3は、上記「作用部」を説明する図であり、制御電極を構成する信号電極3が不図示の接地電極と協働して、光導波路に電界を印加し、光導波路内を伝搬する光波を制御する領域は、図の領域bであり、この領域にある光導波路(21,22)を作用部という。そして、光導波路素子に光波を入力する側端から作用部までの間の領域aに配置される光導波路を「入力部」、光導波路素子から光波を出力する側端から作用部までの間の領域cに配置される光導波路を「出力部」と呼び、両者を併せて「入出力部」と呼ぶ。
【0024】
基板1は、例えば、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸タンタレート、タンタル酸リチウム、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)、及び石英系の材料及びこれらの組み合わせが利用可能である。特に、X板において電気光学効果の高いニオブ酸リチウム(LN)やニオブ酸タンタレートが好適に利用される。
また、使用する基板の厚みは、以下の特許文献2が示すように150μm以下、特に50μm以下であることが好ましい。このような薄板を用いることで光導波路を伝搬する光波と駆動信号の速度整合が図りやすくなり、より高周波領域まで光応答が良好な光導波路素子を実現することが可能となる。しかし、基板の厚みが50μm以下である場合、光導波路上に接地電極があると光導波路を伝搬する光波が電極により吸収され光損失が増えると共に、散乱された光波が光導波路出力部まで伝搬され、光導波路出力部に接続する光ファイバ内に結合し、on/off消光比などの特性を著しく劣化することが実験によりわかった。本発明を適用することで、薄板を用いる場合に発生し易い、このような特性劣化も回避することができることがわかった。
【特許文献2】特開2006−284963号公報
【0025】
光導波路の形成方法としては、Tiなどを熱拡散法やプロトン交換法などで基板表面に拡散させることにより形成することができる。
また、制御電極は、Ti・Auの電極パターンの形成及び金メッキ方法などにより形成することが可能である。
【0026】
次に、本発明の特徴である光損失低減手段について説明する。
図4は、光導波路の入力部に光損失低減手段を配置した第1の例を示す。光損失低減手段としては、光導波路の入力部(図4では、光導波路2)上を跨ぐ接地電極322の幅が、跨ぐ前後の接地電極(321,323)の幅と比較して狭く、しかも、入力部上を跨ぐ接地電極322は信号電極3の近傍に配置しているものである。
本発明に用いる「近傍」とは、光応答特性が劣化しない範囲であれば良く、図4においては信号電極に最も近い位置に配置させたが、これに限らない。
【0027】
光導波路を跨ぐ接地電極322の幅は、光損失を低減する観点からは狭いほど良く、好ましくは75μm以下である。他方、接地電極322の幅が狭すぎると、信号電極を伝搬する駆動信号に対する光応答特性が劣化するため、接地電極322の幅は信号電極3の幅以上とすることが好ましい。
【0028】
また、光導波路を跨ぐ接地電極322の位置(接地電極322と信号電極との距離n)は、接地電極321と信号電極3との距離n又は接地電極323と信号電極3との距離nと同程度に設定することにより、コプレーナ型の制御電極を連続的に形成でき、信号電極を駆動信号が伝搬するのに対応して発生する信号電極と接地電極との間の電界の強さを安定させ、高周波領域での光応答特性をより安定化させることが可能となる。
【0029】
なお、図4においては、マッハツェンダー型光導波路のY分岐前で、接地電極が光導波路を跨ぐ構成を示したが、本発明はこれに限らず、分岐導波路21,22を接地電極が跨ぐ場合にも適用可能である。その際には、分岐導波路21,22を跨ぐ毎に、図4のように光導波路を跨ぐ接地電極の幅を狭く設定し、かつ、接地電極の位置を信号電極の近傍に配置するよう構成することが好ましい。
また、図4は光導波路の入力部について説明したが、出力部についても同様に本発明の光損失低減手段が適用可能であることは言うまでも無い。
以下の光損失低減手段についても、同様である。
【0030】
図5は、光損失低減手段の第2の例を示すものである。
光損失低減手段としては、入力部上を跨ぐ接地電極が、信号電極(不図示であるが図の右側に配置されていると想定している)の近傍に配置するワイヤー324又はリボンボンディングである。
【0031】
ワイヤーの数やリボンの幅などは特に限定されるものではないが、コプレーナ型の制御電極を維持し、駆動信号の伝搬を損なわない範囲で、適宜設定することが可能である。
また、接地電極321と323との間隔は、その間に配置される光導波路2の幅にも依存するが、200μm以下、好ましくは50μm以下とする。この間隔については、他の光損失低減手段についても同様である。また、光導波路を跨ぐワイヤーやリボンと信号電極との距離については、第1の例と同様に、接地電極321と信号電極との距離又は接地電極323と信号電極との距離と同程度に設定することが好ましい。
【0032】
図6は、光損失低減手段の第3の例を示すものである。
光損失低減手段としては、入力部上を跨ぐ接地電極が、信号電極(不図示であるが図6(a)の右側に配置されていると想定している)の近傍に配置され、跨ぐ前後の接地電極321,323を繋ぐブリッジ状電極325である。なお、光導波路を跨ぐブリッジ状電極と信号電極との距離については、第1又は第2の例と同様に、接地電極321と信号電極との距離又は接地電極323と信号電極との距離と同程度に設定することが好ましい。
ブリッジ状電極の形成方法は、金属板(例えば金、SUSなど)を半田もしくは導電性ペーストで接着することで形成できる。また金属板の代わりに高周波コンデンサ(例えば積層セラミックコンデンサ、単板コンデンサ、薄膜コンデンサ)を使用しても良い。
【0033】
図7は、光損失低減手段の第4の例を示すものである。
光損失低減手段としては、入力部2と該入力部を跨いで配置された接地電極326との間にバッファ層5を配置するものである。
バッファ層としては、SiOが利用可能であるが、Z板を用いた光導波路素子のように、SiOを基板全体に形成すると、制御電極と光導波路との距離が離れ、駆動電圧を増加させてしまう。従って、本発明ではバッファ層は、図3の領域bを除く場所に設けることが好ましく、より好ましくは、接地電極が光導波路を跨ぐ場所に限って設ける。
【実施例】
【0034】
光導波路を跨ぐ接地電極が光損失に与える影響を評価するため、LNのX板を用いたマッハツェンダー型光導波路を有する光導波路素子を用意した。該素子のチップ長は約60mmであり、入出力部に図4に示すような光導波路を跨ぐ接地電極を設けた。次に、接地電極322の幅を0〜75μmの範囲で変化させた場合の光導波路素子の光損失を測定した。
【0035】
なお、測定試験方法としては、図8に示すように、光源としてDFBレーザ40(波長1550nm,NTTエレクトロニクス社製,型番NLK1L5GAAA)を用い、該光源からの光を偏波コントローラ41(応用光電研究室製,型番MPCA−1550)で偏波面を調整し、偏波保持ファイバー(PMF)を介して上述の光導波路素子42に入射させた。該光導波路素子は、光透過が最大となる変調曲線のトップまで、DC電源43(菊水電子工業社製,型番PMM18−2.5DU)からDC電圧をDC印加プローブを介して印加し、その際の光導波路素子から出射する光波をシングル・モード・ファイバーを介して光パワーメータ44(アジレントテクノロジー社製,型番81533B)に入射し、光損失測定した。
【0036】
図9は、接地電極の幅を、0μm,37.5μm,75μmと変化させた場合の光損失の変化を示すグラフであり、接地電極の幅を狭くするほど、光損失が改善していることが、容易に理解される。
【0037】
次に、図4における接地電極321と523とのギャップ距離を200μmに設定し、光導波路を跨ぐ接地電極の幅を0μm(つまり、光導波路上で切断されている)、37.5μm、75μmと設定した場合の、駆動周波数に対する光応答特性を評価した。
測定試験に際しては、該光導波路素子を変調器パッケージに実装して、光コンポーネントアナライザ(アジレントテクノロジー社製,型番86030A)を用い評価した。
【0038】
また、接地電極の幅の変化が光応答特性に与える影響を評価するため、図4のように接地電極の幅を狭くしない通常の電極を用いた場合も同様に測定した。
さらに、ギャップ距離を50μmに設定し、接地電極の幅を0μmとすると共に、図5に示すようなワイヤー(Au,φ25μm)を5本接続した場合も同様に測定した。
これらの結果を図10に示す。
【0039】
図10より、幅75μm、幅37.5μmの場合は、通常の場合と同程度の光応答特性を示しており、また接地電極の幅が0μmの場合(光導波路上で切断されている場合)は、光応答特性は劣化するが、ワイヤーで接続することにより、同程度の光応答特性を示しており、本発明の光導波路素子は、高周波領域での光応答特性を劣化させないことが、容易に理解される。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上のように本発明によれば、駆動電圧の増加を抑制しながら、光波の伝搬損失を低減すると共に、伝搬損失低減手段によって高周波帯域における光応答特性が劣化しないように維持した光導波路素子を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0041】
1 基板
2,21,22,23 光導波路
3,33,36 信号電極
31,32,34,35,37,321,322,323,326 接地電極
4,5 バッファ層
324 ワイヤー
325 ブリッジ状電極
40 レーザ光源
41 偏波コントローラ
42 光導波路素子(被試験体)
43 DC電源
44 光パワーメータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10