特許第5720896号(P5720896)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5720896
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】ホスホン酸金属塩微粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/38 20060101AFI20150430BHJP
   C07F 3/04 20060101ALN20150430BHJP
   C07F 3/06 20060101ALN20150430BHJP
【FI】
   C07F9/38 ZZBP
   !C07F3/04
   !C07F3/06
【請求項の数】8
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2011-513358(P2011-513358)
(86)(22)【出願日】2010年5月12日
(86)【国際出願番号】JP2010058048
(87)【国際公開番号】WO2010131678
(87)【国際公開日】20101118
【審査請求日】2013年5月9日
(31)【優先権主張番号】特願2009-116020(P2009-116020)
(32)【優先日】2009年5月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068618
【弁理士】
【氏名又は名称】萼 経夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104145
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 嘉夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104385
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100163360
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 知篤
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 剛史
(72)【発明者】
【氏名】林 寿人
(72)【発明者】
【氏名】小澤 雅昭
【審査官】 小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/097894(WO,A1)
【文献】 特開2008−247956(JP,A)
【文献】 HAYASHI,H. et al.,Reaction of the Phenylphosphonate Anion with the Layered Basic Copper(II) Nitrate [Cu2(OH)3NO3],Journal of Materials Chemistry,Vol.5, No.1,p.115-119 (1995).
【文献】 BELLITTO,C. et al.,Synthesis, X-ray Powder Structure, and Magnetic Properties of the New, Weak Ferromagnet Iron(II) Phe,Inorganic Chemistry,Vol.39, No.8,p.1803-1808 (2000).
【文献】 SVOBODA,J. et al.,Synthesis and characterization of new potential intercalation hosts - barium arylphosphonates,Journal of Physics and Chemistry of Solids,Vol.69, No.5-6,p.1439-1443 (2008).
【文献】 ZIMA,V. et al.,New strontium phenylphosphonate: Synthesis and characterization,Solid State Sciences,Vol.8, No.11,p.1380-1385 (2006).
【文献】 SCOTT,K.J. et al.,Synthesis, Characterization, and Amine Intercalation Behavior of Zinc Phosphite Phenylphosphonate Mi,Chemistry of Materials,Vol.7, No.6,p.1095-1102 (1995).
【文献】 SONG,S.Y. et al.,Selected-Control Synthesis of Metal Phosphonate Nanoparticles and Nanorods,Inorganic Chemistry,Vol.44, No.7,p.2140-2142 (2005).
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 9/38
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)一般式(I)
【化1】
(式中、R及びRは、夫々独立して、水素原子、炭素原子数1乃至10のアルキル基又は炭素原子数1乃至10のアルコキシカルボニル基を表す。)で表されるホスホン酸化合物を水性媒体中で塩基と反応させ、該反応系を中性乃至塩基性のpH域となるように調整する工程、
b)工程a)で得られた生成物を金属塩と反応させてホスホン酸金属塩を水性媒体より析出させる工程、
c)工程b)で得られた析出物のホスホン酸金属塩から水を除去する工程、及び
d)工程c)で得られた水を除去した前記ホスホン酸金属塩を加熱乾燥させる工程を含む、ホスホン酸金属塩微粒子の製造方法であって、
前記ホスホン酸金属塩が、カルシウム塩及び亜鉛塩からなる群から選択される1種または2種の金属塩である、製造方法。
【請求項2】
a)反応系を中性乃至塩基性のpH域となるように調整する工程において、反応系をpH7乃至14に調整する、請求項1記載のホスホン酸金属塩微粒子の製造方法。
【請求項3】
b)ホスホン酸金属塩を水性媒体より析出させる工程が、工程a)で得られた生成物を金属塩の水溶液に滴下することによって行われる、請求項1又は請求項2記載のホスホン酸金属塩微粒子の製造方法。
【請求項4】
c)析出物のホスホン酸金属塩から水を除去する工程が、反応媒体である水を有機溶媒と置換することによって行われる、請求項1乃至請求項のうち何れか一項に記載のホスホン酸金属塩微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記有機溶媒が沸点120℃以下の水溶性の有機溶媒である、請求項に記載のホスホン酸金属塩微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記有機溶媒がメタノール、エタノール、又はアセトンである、請求項に記載のホスホン酸金属塩微粒子の製造方法。
【請求項7】
c)析出物のホスホン酸金属塩から水を除去する工程が、5乃至70℃における減圧乾燥によって行われる、請求項1乃至請求項のうち何れか一項に記載のホスホン酸金属塩微粒子の製造方法。
【請求項8】
前記b)工程において、工程a)で得られた生成物と金属塩とを30℃以下の温度で反応させる、請求項1乃至請求項7のうち何れか一項に記載のホスホン酸金属塩微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホスホン酸金属塩微粒子の製造方法に関し、特に平均粒子径が0.01乃至0.5μmのホスホン酸金属塩の微粒子を効率よく得る製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生分解性ポリエステル樹脂であるポリ乳酸樹脂は、容器、フィルム等の包装材料、衣料、フロアマット、自動車用内装材等の繊維材料、電気、電子製品の筺体や部品など様々な分野における成型材料として期待されている。
ポリ乳酸樹脂の成形加工性や耐熱性を改善するにあたり、該樹脂の結晶化速度及び結晶化度を高める試みがなされており、その方法の一つとして結晶核剤の添加が提案されている。結晶核剤とは、結晶性高分子の一次結晶核となり結晶成長を促進し、結晶サイズを微細化すると共に、結晶化速度を高める働きをする。ポリ乳酸樹脂の結晶核剤としては、特定の粒径以下のタルク/又は窒化ホウ素からなる無機粒子(特許文献1)、特定の式で表されるアミド化合物(特許文献2)、特定の式で表されるソルビトール系誘導体(特許文献3)、特定の式で表されるリン酸エステル金属塩(特許文献4)、或いはホスホン酸金属塩(特許文献5及び特許文献6)などが開示されている。
上記結晶核剤の中でも優れた性能を有するとされているホスホン酸金属塩は、通常、水又は有機溶媒中で、ホスホン酸系化合物と金属イオン源、例えば金属水酸化物、金属酸化物や金属硝酸塩、金属酢酸塩などとを反応させることにより製造される。
【0003】
ポリ乳酸樹脂の結晶化速度及び結晶化度をより高めるには、例えば上記結晶核剤のサイズを小さくすることが挙げられる。一般に結晶核剤はそのサイズが小さいほど質量あたりの粒子数、表面積が大きくなる。そして結晶核剤が微細化するほど、ポリ乳酸樹脂の結晶サイズも微細化し、さらに、結晶核剤粒子自体のサイズが微細になることで樹脂製品の透明性も向上し、すなわち、結晶核剤としての性能向上につながることとなる。
例えば、特許文献5に記載のホスホン酸金属塩においては、平均粒子径を10μm以下にするために必要に応じて粉砕処理等を実施する旨記載されている。また同文献には、実施例において最小1.1μmの平均粒子径を有するホスホン酸金属塩が製造された旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−3432号公報
【特許文献2】特開平10−87975号公報
【特許文献3】特開平10−158369号公報
【特許文献4】特開2003−192883号公報
【特許文献5】国際公開2005/097894号パンフレット
【特許文献6】特開2008−156616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したとおり、ポリ乳酸樹脂の結晶化速度及び結晶化度を高めるために様々な結晶核剤が提案されているが、近年、ポリ乳酸樹脂のより高い成型加工性や耐熱性を実現するために、さらに有効な結晶核剤の開発が望まれている。そのため、結晶核剤のサイズに関して更なる微細化が求められることとなるが、前述の方法で製造される粒子はせいぜい数μmオーダー、最小でも1μm超の粒子であり、また微細化のための粉砕処理を要するなどの手間を要していた。
従って、本発明はさらに粒径の小さな粒子、例えば0.5μm以下の粒子を粉砕処理等の操作を必要とすることなく、より効率的に製造できる新たな製造方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を解決する為に鋭意検討を進めた結果、結晶核剤としてよりサイズの小さなホスホン酸金属塩の製造にあたり、反応系に塩基を投入してそのpH域を中性乃至塩基性に調整することにより、得られた(析出した)金属塩の粒子自体を小さくできること、さらに、金属塩の析出後直ちに反応媒体である水を除去することにより、生成物の粒子径が成長することなく、小さい粒子の状態を維持できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、第1観点として、a)一般式(I)
【0008】
【化1】
【0009】
(式中、R1及びR2は、夫々独立して、水素原子、炭素原子数1乃至10のアルキル基又は炭素原子数1乃至10のアルコキシカルボニル基を表す。)で表されるホスホン酸化合物を水性媒体中で塩基と反応させ、該反応系を中性乃至塩基性のpH域となるように調整する工程、
b)工程a)で得られた生成物を金属塩と反応させてホスホン酸金属塩を水性媒体より析出させる工程、
c)工程b)で得られた析出物のホスホン酸金属塩から水を除去する工程、及び
d)工程c)で得られた水を除去した前記ホスホン酸金属塩を加熱乾燥させる工程を含む、ホスホン酸金属塩微粒子の製造方法に関する。
第2観点として、前記ホスホン酸金属塩が、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、鉄塩、コバルト塩、銅塩、マンガン塩及び亜鉛塩からなる群から選択される1種または2種以上の金属塩である、第1観点に記載のホスホン酸金属塩微粒子の製造方法に関する。
第3観点として、a)反応系を中性乃至塩基性のpH域となるように調整する工程において、反応系をpH7乃至14に調整する、第1観点又は第2観点記載のホスホン酸金属塩微粒子の製造方法に関する。
第4観点として、b)ホスホン酸金属塩を水性媒体より析出させる工程が、工程a)で得られた生成物を金属塩の水溶液に滴下することによって行われる、第1観点乃至第3観点のうち何れか一項に記載のホスホン酸金属塩微粒子の製造方法に関する。
第5観点として、c)析出物のホスホン酸金属塩から水を除去する工程が、反応媒体である水を有機溶媒と置換することによって行われる、第1観点乃至第4観点のうち何れか一項に記載のホスホン酸金属塩微粒子の製造方法に関する。
第6観点として、前記有機溶媒が沸点120℃以下の水溶性の有機溶媒である、第5観点に記載のホスホン酸金属塩微粒子の製造方法に関する。
第7観点として、前記有機溶媒がメタノール、エタノール、又はアセトンである、第6観点に記載のホスホン酸金属塩微粒子の製造方法に関する。
第8観点として、c)析出物のホスホン酸金属塩から水を除去する工程が、5乃至70℃における減圧乾燥によって行われる、第1観点乃至第7観点のうち何れか一項に記載のホスホン酸金属塩微粒子の製造方法に関する。
第9観点として、平均粒径が0.01乃至0.5μmである、第1観点乃至第8観点のうち何れか一項に記載の製造方法により得られるホスホン酸金属塩微粒子に関する。
第10観点として、ポリ乳酸樹脂100質量部に対し、第9観点に記載のホスホン酸金属塩微粒子0.01乃至10質量部を含有するポリ乳酸樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、反応系に最初に塩基を投入してそのpH域を中性乃至塩基性に調整すること、具体的には、予めホスホン酸化合物を水性媒体中で塩基と反応させて該反応系のpH域を7乃至14に調整した後、得られた生成物と金属源である金属塩と反応させることにより、反応媒体(水性媒体)中に平均粒径が0.5μm以下のホスホン酸金属塩を析出させることができる。さらに加熱乾燥前に、反応媒体である水を、例えば溶媒置換により、できる限り除去することで、加熱乾燥時に起こる生成物(ホスホン酸金属塩)の再溶解と再結晶化を防ぐことができ、粒子径が増大するのを抑制したまま平均粒径が0.5μm以下のホスホン酸金属塩の微粒子を得ることができる。
このように、本発明の製造方法は、さらなる粉砕等の工程を必要とすることなく、従来の製造方法よりも微細な平均粒径を有するホスホン酸金属塩微粒子を製造できる。
【0011】
そして本発明によって得られた微粒子は、通常の製造方法で得られた数μmの平均粒径を有するホスホン酸金属塩粒子と比べて、非常に粒子径が細かいものとなる。このため、ポリ乳酸樹脂等のポリエステル樹脂や結晶性のポリオレフィン樹脂等の製造時に、本発明の製造方法によって得られたホスホン酸金属塩微粒子を結晶核剤として用いると、これら樹脂の透明性や結晶化促進効果を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は実施例1で製造したホスホン酸亜鉛塩の走査型顕微鏡(SEM)像を示す図である。
図2図2は実施例2で製造したホスホン酸亜鉛塩の走査型顕微鏡(SEM)像を示す図である。
図3図3は実施例3で製造したホスホン酸亜鉛塩の走査型顕微鏡(SEM)像を示す図である。
図4図4は実施例4で製造したホスホン酸亜鉛塩の走査型顕微鏡(SEM)像を示す図である。
図5図5は実施例5で製造したホスホン酸亜鉛塩の走査型顕微鏡(SEM)像を示す図である。
図6図6は実施例6で製造したホスホン酸亜鉛塩の走査型顕微鏡(SEM)像を示す図である。
図7図7は実施例7で製造したホスホン酸亜鉛塩の走査型顕微鏡(SEM)像を示す図である。
図8図8は比較例1で製造したホスホン酸亜鉛塩の走査型顕微鏡(SEM)像を示す図である。
図9図9は比較例2で製造したホスホン酸亜鉛塩の走査型顕微鏡(SEM)像を示す図である。
図10図10は比較例3で製造したホスホン酸亜鉛塩の走査型顕微鏡(SEM)像を示す図である。
図11図11は実施例9で製造したホスホン酸カルシウム塩の走査型顕微鏡(SEM)像を示す図である。
図12図12は実施例10で製造したホスホン酸カルシウム塩の走査型顕微鏡(SEM)像を示す図である。
図13図13は実施例11で製造したホスホン酸カルシウム塩の走査型顕微鏡(SEM)像を示す図である。
図14図14は比較例5で製造したホスホン酸カルシウム塩の走査型顕微鏡(SEM)像を示す図である。
図15図15は比較例6で製造したホスホン酸カルシウム塩の走査型顕微鏡(SEM)像を示す図である。
図16図16は比較例7で製造したホスホン酸カルシウム塩の走査型顕微鏡(SEM)像を示す図である。
図17図17は比較例8で製造したホスホン酸カルシウム塩の走査型顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、a)ホスホン酸化合物を水性媒体中で塩基と反応させ、該反応系を中性乃至塩基性のpH域となるように調整する工程、b)工程a)で得られた生成物を金属塩と反応させてホスホン酸金属塩を水性媒体より析出させる工程、c)工程b)で得られた析出物のホスホン酸金属塩から水を除去する工程、及びd)工程c)で得られた水を除去した前記ホスホン酸金属塩を加熱乾燥させる工程を含むことを特徴とする製造方法である。
【0014】
ホスホン酸化合物と金属塩を反応させた後に塩基を加えた場合、或いは塩基を加えない場合においても、ホスホン酸金属塩の結晶を析出させることはできるが、反応液が酸性の過程を経るため、得られる粒子のサイズは小さくてもせいぜい500nm以上となってしまう。これは反応液が酸性になる段階を経ると、析出したホスホン酸金属塩粒子の溶解度が高まるため、ホスホン酸金属塩粒子の反応液(水性媒体)への溶解が起こると共に金属塩の再結晶が起こり、この溶解と再結晶との平衡反応によって粒子サイズの増大が起きる為と考えられる。
また、ホスホン酸金属塩を水性媒体より析出させた後、加熱乾燥時に反応媒体である水が多量に残存していると、ホスホン酸金属塩の残存水への溶解が起こり、前記同様に金属塩の再結晶との平衡反応による粒子サイズの増大が起きる。
【0015】
このように様々な場面で起こる粒子サイズの増大という課題に対し、本発明者らは、金属塩と反応させるホスホン酸化合物を水性媒体中で塩基と反応させて反応系のpH域を調整することにより、ホスホン酸金属塩の析出後においても反応系のpHを弱酸性から塩基性に保ち、さらに、析出したホスホン酸金属塩から反応媒体である水を加熱乾燥前に極力除去するという手段を採用した。これにより、ホスホン酸金属塩析出時の反応液(水性媒体)や乾燥時の残存水への、ホスホン酸金属塩の溶解と再結晶の平衡反応を抑制し、ひいては金属塩粒子のサイズの増大を抑制することが可能となった。
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
【0016】
a)ホスホン酸化合物を水性媒体中で塩基と反応させ、該反応系を中性乃至塩基性のpH域となるように調整する工程
本発明で使用するホスホン酸化合物は、下記一般式(I)で表される化合物である。
【0017】
【化2】
【0018】
上記式(I)で表されるホスホン酸化合物において、式中のR1及びR2は、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素原子数1乃至10のアルキル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素原子数1乃至10のアルコキシカルボニル基である。R1及びR2は同一でも又は相異なっていてもよい。
【0019】
上記式(I)で表されるホスホン酸化合物の具体例としては、フェニルホスホン酸、4−メチルフェニルホスホン酸、4−エチルフェニルホスホン酸、4−n−プロピルフェニルホスホン酸、4−イソプロピルフェニルホスホン酸、4−n−ブチルフェニルホスホン酸、4−イソブチルフェニルホスホン酸、4−tert−ブチルフェニルホスホン酸、3,5−ジメトキシカルボニルフェニルホスホン酸、3,5−ジエトキシカルボニルフェニルホスホン酸、2,5−ジメトキシカルボニルフェニルホスホン酸、2,5−ジエトキシカルボニルフェニルホスホン酸等が挙げられる。
【0020】
本発明において、上記式(I)で表されるホスホン酸化合物を水性媒体中で塩基と反応させ、該反応系のpH域を予め中性乃至塩基性、具体的にはpH7乃至14又はpH7乃至11に調整しておくことにより、後述するb)工程(ホスホン酸金属塩を析出させる)後においても反応系のpH域を弱酸性乃至塩基性に保つことができる。
上記ホスホン酸化合物と反応させる塩基としては特に限定されないが、例えば水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等を使用することができる。
本工程は、具体的には例えばこれらの塩基の水溶液を上記式(I)で表されるホスホン酸化合物の水溶液と混合することによって実施される。
【0021】
b)工程a)で得られた生成物を金属塩と反応させてホスホン酸金属塩を水性媒体より析出させる工程
本工程において、金属塩を前記a)工程で得られた生成物(ホスホン酸化合物含有溶液)と反応させるには、例えば上記金属塩を含む水溶液と前記生成物を混合させることによって行われる。好ましくは、上記金属塩を含む水溶液に、前記生成物を滴下することによって反応させる。
【0022】
従って、本工程で用いられる金属源である金属塩は水溶性の塩であることが好ましい。
塩の形態としては水溶性であれば特に限定されず、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、炭酸塩、酢酸塩等を使用でき、好ましくは塩化物又は酢酸塩が挙げられる。
ここで使用される金属としては、1価、2価及び3価の金属を使用することが出来る。該金属においてこれらの金属は、2種以上の金属を混合して使用することもできる。金属塩の具体例としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マンガン塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩、銅塩、亜鉛塩等が挙げられる。中でも、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、鉄塩、コバルト塩、銅塩、マンガン塩及び亜鉛塩が好ましく、特に亜鉛塩であることが好ましい。
【0023】
なお、前記a)工程で得られた生成物(ホスホン酸化合物含有溶液)と金属塩を含む水溶液と反応させる温度は、後に得られるホスホン酸金属塩微粒子の粒子径に影響を及ぼし得る。すなわち、反応温度が高温になるほど、析出したホスホン酸金属塩の溶解度が高まることとなり、これは再結晶時の粒子サイズの増大につながる。従って、微細な粒子を得る本発明の目的の達成のためには、上記反応の温度は30℃以下に保つことが望ましい。
【0024】
c)工程b)で得られた析出物のホスホン酸金属塩から水を除去する工程
本工程は特に限定されないが、好ましくは(i)反応媒体である水の有機溶媒への置換、或いは、(ii)減圧乾燥によって実施される。
【0025】
上記(i)において使用する有機溶媒は特に限定されないが、効率的に水を除去するために水溶性の有機溶媒であることが好ましく、さらに、乾燥の簡便さから沸点がおよそ120℃より低い有機溶媒であることが好ましい。
このような有機溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトン、1−プロパノール、2−プロパノール、tert−ブタノール、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン又はアセトニトリル等が挙げられ、中でも、メタノール、エタノール又はアセトンが好ましい。
【0026】
上記(i)は、具体的には、前の工程でホスホン酸金属塩が析出した反応液(懸濁液)を一旦ろ過し、このろ物を上記有機溶媒に再分散させ、これを再ろ過する。この有機溶媒への再分散、再ろ過を繰り返すことにより、水を可能な限り有機溶媒に置換することが好ましい。
また、有機溶媒に再分散させる前に、一旦水で数回洗浄してもよい。
【0027】
上記(ii)において減圧乾燥時の温度は、ホスホン酸金属塩微粒子の粒子径に影響を及ぼすことがないよう、低温であることが好ましい。ただし、水を留去させる効率を考慮すると5乃至70℃で減圧乾燥を実施することが好ましく、より好ましくは30乃至50℃で減圧乾燥を実施する。
また減圧乾燥の圧力は、上記温度で乾燥ができる圧力であれば特に制限はないが、例えば1乃至5kPa下で、12乃至60時間かけて減圧乾燥させる。
【0028】
d)工程c)で得られた水を除去した前記ホスホン酸金属塩を加熱乾燥させる工程
前記c)工程でホスホン酸金属塩から水を除去した後、加熱乾燥によって最終目的物であるホスホン酸金属塩微粒子を得る。
このときの加熱温度としては、100乃至300℃であることが好ましい。300℃より高い温度では、ホスホン酸金属塩の分解を誘発する虞があり、また、100℃より低い温度では、ホスホン酸金属塩の水和物(例えば、後述のフェニルホスホン酸亜鉛やフェニルホスホン酸カルシウムでは一水和物)の形態をとり、加水分解を嫌う樹脂(例えばポリエステル樹脂等)の結晶核剤としては適さないことから好ましくない。
【0029】
上述の工程を経て得られる本発明のホスホン酸金属塩微粒子の平均粒径(平均粒子径)は、0.05乃至0.5μmであり、好ましくは0.05乃至0.3μmである。
なお、本発明のホスホン酸金属塩微粒子は、例えば金属塩の種類によって、その形状が粒状や円盤状(後述の図1図7参照)であり得、或いは、短冊状(ストリップ状、同図11図13参照)であり得る。こうした短冊状粒子の場合、上記「平均粒径」とは、本発明においては該短冊状粒子のおよそ最大の短径(短軸)の長さの平均を意味するものとする。なお短冊状粒子の大きさそのものは、長さ(長径)、幅(短径)及び厚さより記述され、これら数値は〈長径≧短径≧厚さ〉の条件を満たすものとする。
【0030】
なお本発明は、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、前述の0.05乃至0.5μmの平均粒径を有するホスホン酸金属塩微粒子を0.01乃至10質量部含有するポリ乳酸樹脂組成物にも関する。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、これによって本発明が限定されるものではない。なお、以下の実施例において、pH測定は(株)堀場製作所製ツインpHメーターを使用した。
【0032】
[実施例1]
15質量%フェニルホスホン酸水溶液(フェニルホスホン酸 7.9g、水 44.8g)と15質量%水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム 4.0g、水 22.7g)とを混合してpH 8.8に調整した溶液を、6質量%塩化亜鉛水溶液(塩化亜鉛 6.8g、水 100.0g、pH 5.6)に撹拌下で滴下し、フェニルホスホン酸亜鉛を析出させた。このときの懸濁液のpHは8.8であった。
得られた縣濁液を濾過した後、得られたろ物(湿品)を水 300mLに再分散させ再度濾過し、これを2回繰り返した。その後、ろ物(湿品)をメタノール 300mLに再分散させ再度濾過し、これを2回繰り返した。最後に20℃での減圧乾燥にてメタノールを留去し、120℃で6時間乾燥をおこなった。
得られた乾品(粉末)のSEM(走査型顕微鏡)像を図1に示す。
【0033】
[実施例2]
15質量%フェニルホスホン酸水溶液(フェニルホスホン酸 7.2g、水 40.8g)と15質量%水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム 3.7g、水 20.7g)とを混合してpH 8.8に調整した溶液を、8質量%酢酸亜鉛水溶液(酢酸亜鉛二水和物 10.0g、水 90.0g、pH 6.1)に撹拌下で滴下し、フェニルホスホン酸亜鉛を析出させた。このときの懸濁液のpHは6.2であった。
得られた縣濁液を濾過した後、得られたろ物(湿品)を水 300mLに再分散させ再度濾過し、これを2回繰り返した。その後、ろ物(湿品)をアセトン 300mLに再分散させ再度濾過し、これを2回繰り返した。最後に20℃での減圧乾燥にてアセトンを留去し、120℃で6時間乾燥をおこなった。
得られた乾品(粉末)のSEM像を図2に示す。
【0034】
[実施例3]
15質量%フェニルホスホン酸水溶液(フェニルホスホン酸 7.9g、水 44.8g)と15質量%水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム 4.0g、水 22.7g)とを混合してpH 8.8に調整した溶液を、6質量%塩化亜鉛水溶液(塩化亜鉛 6.8g、水 100.0g、pH 5.6)に撹拌下で滴下し、フェニルホスホン酸亜鉛を析出させた。このときの懸濁液のpHは8.8であった。
得られた縣濁液を濾過した後、得られたろ物(湿品)を水 300mLに再分散させ再度濾過し、これを2回繰り返した。その後、ろ物(湿品)をエタノール 300mLに再分散させ再度濾過し、これを2回繰り返した。最後に20℃での減圧乾燥にてエタノールを留去し、120℃で6時間乾燥をおこなった。
得られた乾品(粉末)のSEM像を図3に示す。
【0035】
[実施例4]
15質量%フェニルホスホン酸水溶液(フェニルホスホン酸 7.2g、水 40.8g)と15質量%水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム 3.7g、水 20.7g)とを混合してpH 8.8に調整した溶液を、7質量%塩化亜鉛水溶液(塩化亜鉛 6.3g、水 90.0g、pH 5.6)に撹拌下で滴下し、フェニルホスホン酸亜鉛を析出させた。このときの懸濁液のpHは8.8であった。
得られた縣濁液を濾過した後、得られたろ物(湿品)を水 300mLに再分散させ再度濾過し、これを2回繰り返した。その後、ろ物(湿品)をアセトン 300mLに再分散させ再度濾過し、これを2回繰り返した。最後に20℃での減圧乾燥にてアセトンを留去し、120℃で6時間乾燥をおこなった。
得られた乾品(粉末)のSEM像を図4に示す。
【0036】
[実施例5]
15質量%フェニルホスホン酸水溶液(フェニルホスホン酸 7.2g、水 40.8g)と15質量%水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム 3.7g、水 20.7g)とを混合してpH 8.8に調整した溶液を、6質量%塩化亜鉛水溶液(塩化亜鉛 6.3g、水 100.0g、pH 5.6)に撹拌下で滴下し、フェニルホスホン酸亜鉛を析出させた。このときの懸濁液のpHは8.8であった。
得られた縣濁液を濾過した後、得られたろ物(湿品)を水 300mLに再分散させ再度濾過し、これを2回繰り返した。その後、40℃、12時間の減圧乾燥により水を留去してから、120℃で6時間乾燥をおこなった。なお、減圧乾燥の終点は、乾品の熱重量分析((株)リガク製 Thermo Plus、昇温速度:10℃/分)を行い、水分の蒸発による重量減少が結晶水相当になっていることで確認した。
得られた乾品(粉末)のSEM像を図5に示す。
【0037】
[実施例6]
減圧乾燥の温度を50℃に変更した以外は、実施例5と同様の操作を行った。
得られた乾品(粉末)のSEM像を図6に示す。
【0038】
[実施例7]
減圧乾燥の温度を60℃に変更した以外は、実施例5と同様の操作を行った。
得られた乾品(粉末)のSEM像を図7に示す。
【0039】
[比較例1]
15質量%フェニルホスホン酸水溶液(フェニルホスホン酸 7.2g、水 40.8g)と15質量%水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム 3.7g、水 20.7g)とを混合してpH 8.8に調整した溶液を、8質量%酢酸亜鉛水溶液(酢酸亜鉛二水和物 10.0g、水 90.0g、pH 6.1)に撹拌下で滴下し、フェニルホスホン酸亜鉛を析出させた。このときの懸濁液のpHは6.3であった。
得られた縣濁液を濾過した後、得られたろ物(湿品)を水300mLに再分散させ再度濾過し、これを2回繰り返した。その後、120℃で12時間乾燥をおこなった。
得られた乾品(粉末)のSEM像を図8に示す。
【0040】
[比較例2]
8質量%酢酸亜鉛水溶液(酢酸亜鉛二水和物 10.0g、水 90.0g、pH 6.3)に15質量%フェニルホスホン酸水溶液(フェニルホスホン酸 7.2g、水 40.8g、pH 0.5)を撹拌下で滴下し、フェニルホスホン酸亜鉛を析出させた。このときの懸濁液のpHは3.1であった。
得られた縣濁液を濾過した後、得られたろ物(湿品)を水 300mLに再分散させ再度濾過し、これを2回繰り返した。その後、ろ物(湿品)をアセトン 300mLに再分散させ再度濾過し、これを2回繰り返した。最後に20℃での減圧乾燥にてアセトンを留去し、120℃で12時間乾燥をおこなった。
得られた乾品(粉末)のSEM像を図9に示す。
【0041】
[比較例3]
8質量%酢酸亜鉛水溶液(酢酸亜鉛二水和物 10.0g、水 90.0g、pH 6.3)に15質量%フェニルホスホン酸水溶液(フェニルホスホン酸 7.2g、水 40.8g、pH 0.5)を撹拌下で滴下し、フェニルホスホン酸亜鉛を析出させた。このときの懸濁液のpHは2.8であった。その後15質量%水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム 3.7g、水 20.7g)を撹拌下で滴下し、pH 6.8に調整した。
得られた縣濁液を濾過した後、得られたろ物(湿品)を水300mLに再分散させ再度濾過し、れを2回繰り返した。その後、ろ物(湿品)をアセトン300mLに再分散させ再度濾過し、これを2回繰り返した。最後に20℃での減圧乾燥にてアセトンを留去し、120℃で12時間乾燥をおこなった。
得られた乾品(粉末)のSEM像を図10に示す。
【0042】
なお、実施例1乃至実施例7及び比較例1乃至比較例3において、フェニルホスホン酸亜鉛が析出した(比較例3は水酸化ナトリウム水溶液にて中和後の)30分後の反応液を回収し、反応液中におけるフェニルホスホン酸亜鉛の平均粒径を測定した。平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定機(マルバーン社製「MasterSizer 2000」)に投入後、装置内で1,500rpm、超音波レベル:100の条件下で1分毎に粒度を測定し、最小となった値を採用した。ここでいう平均粒径とはMieの理論によって導き出される分散媒中粒子のd50値(メディアン径)のことを指す。
また、乾燥後のフェニルホスホン酸亜鉛の粉末粒子の平均粒径については、乾品のSEM(走査型顕微鏡)像より50個の粒子を無作為抽出し、粒子長軸方向の長さの平均を求めた。得られた結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示すように、実施例1乃至実施例7の手順にて作製したフェニルホスホン酸亜鉛は、乾燥後も平均粒径が0.14〜0.24μmの微粒子の形態を得ることができた。
一方、洗浄溶媒を水のみとし、有機溶媒置換を行わなかった比較例1は、フェニルホスホン酸亜鉛析出時には微粒子の形態であったが、乾燥後には0.54μmと粒子が成長する結果となった。
さらに、塩基未使用の比較例2及び塩析出後に塩基を使用した比較例3は、反応液中で粒径が大きく成長し、乾燥後も0.5μmを超える粒径となった。
【0045】
[実施例8及び比較例4:結晶化温度及び結晶化時間の評価]
ポリ乳酸樹脂(三井化学(株)製、商品名:LACEA−H100)100質量部に対して、上記実施例4で得られたフェニルホスホン酸亜鉛(乾品)、又は日産化学工業(株)製フェニルホスホン酸亜鉛(商品名:エコプロモート、平均粒径:2〜3μm)を1質量部加え、(株)東洋精機製作所製ラボプラストミルを用いて、185℃にて5分間溶融混練した。
その後、夫々の試料について、パーキンエルマー社製 示差走査熱量測定(DSC)装置「Diamond DSC」を用い、以下の手順にて結晶化温度及び結晶化時間を評価した。得られた結果を表2に示す。
1)結晶化温度:試料約5mgを10℃/分で200℃まで昇温後、5分間保持し溶融させた後、5℃/分で30℃まで冷却した。冷却中に生じたポリ乳酸樹脂の結晶化による発熱がピークに達した温度を結晶化温度とした。
2)結晶化時間:試料約5mgを10℃/分で200℃まで昇温後、5分間保持し溶融させた後、100℃/分で110℃まで急速冷却し、保持した。その後生ずるポリ乳酸樹脂の結晶化による発熱がピークに達した時間を結晶化時間とした。
【0046】
【表2】
【0047】
表2に示す通り、フェニルホスホン酸亜鉛製品(エコプロモート)と比べて実施例4で得られたフェニルホスホン酸亜鉛は結晶化温度が高く、また等温結晶化時の誘導時間も短く、本ホスホン酸金属塩微粒子が結晶核剤として優れた性能を示すことが確認された。
【0048】
[実施例9]
15質量%フェニルホスホン酸水溶液(フェニルホスホン酸 7.9g、水 44.8g)と15質量%水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム 4.0g、水 22.7g)とを混合してpH 8.7に調整した溶液を、8質量%塩化カルシウム水溶液(塩化カルシウム二水和物 7.4g、水 66.2g)に撹拌下で滴下し、フェニルホスホン酸カルシウムを析出させた。このときの懸濁液のpHは7.1であった。
得られた縣濁液を濾過した後、得られたろ物(湿品)を水 100mLに再分散させ再度濾過し、これを2回繰り返した。その後、ろ物(湿品)をアセトン 100mLに再分散させ再度濾過し、これを2回繰り返した。最後に20℃での減圧乾燥にてアセトンを留去し、200℃で12時間乾燥をおこなった。
得られた乾品(粉末)のSEM像を図11に示す。
【0049】
[実施例10]
15質量%フェニルホスホン酸水溶液(フェニルホスホン酸 7.9g、水 44.9g)と15質量%水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム 4.0g、水 22.7g)とを混合してpH 9.4に調整した溶液を、9質量%酢酸カルシウム水溶液(酢酸カルシウム一水和物 8.8g、水 79.3g)に撹拌下で滴下し、フェニルホスホン酸カルシウムを析出させた。このときの懸濁液のpHは8.6であった。
得られた縣濁液を濾過した後、得られたろ物(湿品)を水 100mLに再分散させ再度濾過し、これを2回繰り返した。その後、ろ物(湿品)をアセトン 100mLに再分散させ再度濾過し、これを2回繰り返した。最後に20℃での減圧乾燥にてアセトンを留去し、200℃で12時間乾燥をおこなった。
得られた乾品(粉末)のSEM像を図12に示す。
【0050】
[実施例11]
15質量%フェニルホスホン酸水溶液(フェニルホスホン酸 7.9g、水 44.9g)と15質量%水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム 4.2g、水 23.8g)とを混合してpH 12.4に調整した溶液を、8質量%塩化カルシウム水溶液(塩化カルシウム二水和物 7.4g、水 66.2g)に撹拌下で滴下し、フェニルホスホン酸カルシウムを析出させた。このときの懸濁液のpHは11.5であった。
得られた縣濁液を濾過した後、得られたろ物(湿品)を水 100mLに再分散させ再度濾過し、これを2回繰り返した。その後、40℃、12時間の減圧乾燥により水を留去してから、200℃で12時間乾燥をおこなった。なお、減圧乾燥の終点は、乾品の熱重量分析((株)リガク製 Thermo Plus、昇温速度:10℃/分)を行い、水分の蒸発による重量減少が結晶水相当になっていることで確認した。
得られた乾品(粉末)のSEM像を図13に示す。
【0051】
[比較例5]
15質量%フェニルホスホン酸水溶液(フェニルホスホン酸 7.9g、水 44.9g)と15質量%水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム 4.0g、水 22.7g)とを混合してpH9.4に調整した溶液を、9質量%酢酸カルシウム水溶液(酢酸カルシウム一水和物 8.8g、水 79.3g)に撹拌下で滴下し、フェニルホスホン酸カルシウムを析出させた。このときの懸濁液のpHは8.6であった。
得られた縣濁液を濾過した後、得られたろ物(湿品)を水100mLに再分散させ再度濾過し、これを2回繰り返した。その後、200℃で12時間乾燥をおこなった。
得られた乾品(粉末)のSEM像を図14に示す。
【0052】
[比較例6]
8質量%塩化カルシウム水溶液(塩化カルシウム二水和物 7.4g、水 66.2g、pH 7.0)に、15質量%フェニルホスホン酸水溶液(フェニルホスホン酸 7.9g、水 44.8g、pH 0.5)を撹拌下で滴下し、フェニルホスホン酸カルシウムを析出させた。このときの懸濁液のpHは1.0であった。その後、この縣濁液に15質量%水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム 4.0g、水 22.7g)を撹拌下で滴下し、pH12.0に調整した。
得られた縣濁液を濾過した後、得られたろ物(湿品)を水 100mLに再分散させ再度濾過し、これを2回繰り返した。その後、ろ物(湿品)をアセトン 100mLに再分散させ再度濾過し、これを2回繰り返した。最後に20℃での減圧乾燥にてアセトンを留去し、200℃で12時間乾燥をおこなった。
得られた乾品(粉末)のSEM像を図15に示す。
【0053】
[比較例7]
9質量%酢酸カルシウム水溶液(酢酸カルシウム一水和物 8.8g、水 79.3g、pH 7.9)に、15質量%フェニルホスホン酸水溶液(フェニルホスホン酸 7.9g、水 44.9g、pH 0.5)を撹拌下で滴下し、フェニルホスホン酸カルシウムを析出させた。このときの懸濁液のpHは4.4であった。
得られた縣濁液を濾過した後、得られたろ物(湿品)を水 100mLに再分散させ再度濾過し、これを2回繰り返した。その後、ろ物(湿品)をアセトン 100mLに再分散させ再度濾過し、これを2回繰り返した。最後に20℃での減圧乾燥にてアセトンを留去し、200℃で12時間乾燥をおこなった。
得られた乾品(粉末)のSEM像を図16に示す。
【0054】
[比較例8]
8質量%塩化カルシウム水溶液(塩化カルシウム二水和物 7.4g、水 66.2g、pH 7.0)に、15質量%フェニルホスホン酸水溶液(フェニルホスホン酸 7.9g、水 44.9g、pH 0.5)を撹拌下で滴下し、フェニルホスホン酸カルシウムを析出させた。このときの懸濁液のpHは0.7であった。
得られた縣濁液を濾過した後、得られたろ物(湿品)を水 100mLに再分散させ再度濾過し、これを2回繰り返した。その後、ろ物(湿品)をアセトン 100mLに再分散させ再度濾過し、これを2回繰り返した。最後に20℃での減圧乾燥にてアセトンを留去し、200℃で12時間乾燥をおこなった。
得られた乾品(粉末)のSEM像を図17に示す。
【0055】
実施例9乃至実施例11及び比較例5乃至比較例8において、得られたフェニルホスホン酸カルシウム(乾品)の粉末粒子の平均粒径をそれぞれ測定した。ここでいう平均粒径とは粒子の短軸方向の長さの平均を指し、乾品のSEM像より無作為に抽出した50個の粒子のおよそ最大の短軸方向の長さの平均を求めた。得られた結果を表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
表3に示すように、実施例9乃至実施例11の手順にて作製したフェニルホスホン酸カルシウムは、平均粒径が0.28〜0.32μmであった。
一方、実施例10と同じ反応条件で析出させたフェニルホスホン酸カルシウムを、洗浄溶媒を水のみとし有機溶媒置換を行わなかった比較例5は、平均粒径が0.59μmとなり乾燥時に粒子が成長する結果となった。
さらに、塩析出後に塩基を使用した比較例6並びに、塩基未使用の比較例7及び比較例8は、洗浄溶媒の水を有機溶媒置換していても0.5μmを超える粒径となった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17