特許第5720964号(P5720964)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5720964
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】結合塩素剤、その製造および使用方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/08 20060101AFI20150430BHJP
   A01N 41/02 20060101ALI20150430BHJP
   A01N 59/00 20060101ALI20150430BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20150430BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
   A01N59/08 A
   A01N41/02
   A01N59/00 C
   A01N25/02
   A01P3/00
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-509525(P2012-509525)
(86)(22)【出願日】2011年3月30日
(86)【国際出願番号】JP2011058067
(87)【国際公開番号】WO2011125762
(87)【国際公開日】20111013
【審査請求日】2014年3月25日
(31)【優先権主張番号】特願2010-83959(P2010-83959)
(32)【優先日】2010年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067839
【弁理士】
【氏名又は名称】柳原 成
(72)【発明者】
【氏名】平尾 孝典
(72)【発明者】
【氏名】青木 哲也
【審査官】 太田 千香子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−263510(JP,A)
【文献】 特開2009−084163(JP,A)
【文献】 特開2010−063998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/02
A01N 41/02
A01N 59/00
A01N 59/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属水酸化物を含むアルカリと、スルファミン酸またはその塩と、塩素系酸化剤とを含有する水溶液製剤を含む結合塩素剤であって、
水溶液製剤中のスルファミン酸またはその塩と塩素系酸化剤との含有割合が、Cl/N(モル比)で0.45〜0.6であり、
アルカリと塩素系酸化剤との含有割合が、Cl/アルカリ金属(モル比)で0.3〜0.4であり、
アルカリとスルファミン酸またはその塩との含有割合が、N/アルカリ金属(モル比)で0.5〜0.7であり、
前記Cl/N(モル比)は、JIS K 0400−33−10:1999により測定される塩素系酸化剤のClのモル数と、Nにより構成されるスルファミン酸またはその塩のモル数との比に相当し、
前記N/アルカリ金属(モル比)は、上記スルファミン酸またはその塩のモル数と、アルカリ金属水酸化物により構成されるアルカリのモル数との比に相当し、
ここでスルファミン酸塩に含まれるアルカリ金属の量はアルカリとして加算され、
水溶液製剤のpHが13以上であり、
水溶液製剤中の遊離塩素濃度が1000mg/L以下で、全塩素濃度の2重量%以下であることを特徴とする結合塩素剤。
【請求項2】
逆浸透膜のスライムコントロール剤用として用いる請求項1記載の結合塩素剤。
【請求項3】
アルカリ金属水酸化物を含むアルカリ水溶液にスルファミン酸またはその塩を添加して溶解し、得られたスルファミン酸−アルカリ混合水溶液に、塩素系酸化剤を添加して混合し、水溶液製剤として調製する方法であって、
水溶液製剤中のスルファミン酸またはその塩と塩素系酸化剤との含有割合が、Cl/N(モル比)で0.45〜0.6であり、
アルカリと塩素系酸化剤との含有割合が、Cl/アルカリ金属(モル比)で0.3〜0.4であり、
アルカリとスルファミン酸またはその塩との含有割合が、N/アルカリ金属(モル比)で0.5〜0.7であり、
前記Cl/N(モル比)は、JIS K 0400−33−10:1999により測定される塩素系酸化剤のClのモル数と、Nにより構成されるスルファミン酸またはその塩のモル数との比に相当し、
前記N/アルカリ金属(モル比)は、上記スルファミン酸またはその塩のモル数と、アルカリ金属水酸化物により構成されるアルカリのモル数との比に相当し、
ここでスルファミン酸塩に含まれるアルカリ金属の量はアルカリとして加算され、
水溶液製剤のpHが13以上であり、
水溶液製剤中の遊離塩素濃度が1000mg/L以下で、全塩素濃度の2重量%以下であることを特徴とする請求項1または2記載の結合塩素剤の製造方法。
【請求項4】
アルカリ水溶液は、水の量が50〜65重量%である請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の結合塩素剤を、遊離塩素濃度が0.1mg/L以下、全塩素濃度が1〜50mg/Lとなるように水系に添加して塩素処理を行うことを特徴とする塩素処理方法。
【請求項6】
請求項1記載の結合塩素剤を、遊離塩素濃度が0.1mg/L以下、全塩素濃度が1〜50mg/Lとなるように、逆浸透膜の給水系に添加して塩素処理を行うことを特徴とする塩素処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆浸透膜(以下、RO膜という場合がある)用のスライムコントロール剤として好適に利用できる結合塩素剤、その製造および使用方法に関し、さらに詳細には、遊離塩素濃度が低く、結合塩素濃度が高い結合塩素剤、その結合塩素剤の効率的な製造方法、およびその結合塩素剤を用いる塩素処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
RO膜は溶質の阻止率が高いため、RO膜処理により得られる清澄な透過水は良好な水質を有するので、各種用途に有効に再利用が可能である。しかし、被処理水に濁質や有機物などのRO膜を汚染する汚染性物質が含まれていると、これらの物質によって逆浸透膜が汚染され、処理の継続に伴いRO膜の透過流束が低下し、あるいは脱塩率が低下するなどの問題がある。
【0003】
RO膜を用いて水処理を行う場合、このようなRO膜の汚染(ファウリング)を防止し、処理効率を高めるために、RO膜装置への供給水を、JIS K3802に定義されているファウリングインデックス(FI)、またはASTM D4189に定義されているシルトデンシティインデックス(SDI)で評価し、この値が既定値以下となるように、例えばFI値またはSDI値が3〜4、あるいはそれ以下となるように、前処理(凝集処理、固液分離、活性炭処理)を実施し、逆浸透膜供給水をある程度清澄にすることにより、逆浸透膜装置における透過流束の低下や操作圧力の上昇などの障害を避け、安定運転を継続する方法が実施されている。
【0004】
循環冷却水系では、熱源を冷却した冷却水が冷却塔で冷却される際、一部の水が蒸発するため、濁質や有機物などの汚染性物質が濃縮される。そして外部からスライムの原因となる細菌が混入し、また冷却塔で生成したスライムが剥離して混入するため、スライム対策としての殺菌も必要になる。すなわち濁質や有機物などの汚染性物質が除去されても、被処理水中に細菌が含まれていると、細菌が膜面で増殖し、RO膜の透過流束が低下するので、被処理水に殺菌剤を添加して殺菌し、細菌の増殖による膜面の汚染を防止している。
【0005】
殺菌剤としては、一般の水系では塩素、次亜塩素酸ナトリウム等の遊離塩素剤が広く用いられているが、これらは酸化剤としてRO膜を劣化させ、性能低下させるので、酸化性を緩和させるものとして、特許文献1(日本特開平1−104310号)には、遊離塩素剤を添加して殺菌を行った後、アンモニウムイオンを添加してクロラミンを生成させる方法が提案されている。しかし特許文献1では、汚染性物質が含まれる被処理水への適用については、どの段階で、どのように適用するかなどについては、詳細に示されていない。
【0006】
特許文献2(日本特開2006−263510号)には、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなる結合塩素剤を含む膜分離用スライム防止剤が提案されている。特許文献2には、上記の結合塩素剤は被処理水中では、遊離塩素が一定の割合で含まれ、平衡関係に類似の関係があることが示されている。そして殺菌効果を得るためには、被処理水中に遊離塩素が検出される濃度で使用され、実施例では遊離塩素濃度が2〜6mg/L、全塩素濃度が20〜60mg/Lで使用されている。
【0007】
ところがRO膜、特にポリアミド、アラミド系等の窒素含有基を有する高分子膜からなるRO膜は遊離塩素に侵されやすく、脱塩率、除去率等の膜分離性能が悪化するという問題があり、遊離塩素を含まない状態でRO膜処理を行うことが重要とされている。このため特許文献3(日本特開平9−57067号)では、遊離塩素剤で殺菌した後、亜硫酸水素ナトリウムなどの還元剤を添加して殺菌剤を消去し、RO膜処理を行うことが示されている。特許文献3では、還元剤を添加して殺菌剤を消去しても、なお不十分であるとして、銅の濃度を限定しているが、いずれにしても遊離塩素剤で殺菌した後、遊離塩素を消去することが、RO膜の劣化を防止するために必要であるとされている。
【0008】
このようにRO膜、特にポリアミド、アラミド系等の窒素含有基を有する高分子膜からなるRO膜は、遊離塩素を含まない水系で使用することが要求されているため、塩素剤で殺菌処理しても、RO膜に供給する前に残留塩素を除去する必要があるが、残留塩素を除去してRO膜に供給すると、処理継続によりRO膜にスライムが発生し、膜性能が低下する。これを防止するためには、例えば前記特許文献2に示されたような結合塩素剤を、遊離塩素濃度が0.1mg/L以下となるように添加することができるが、このような方法は現場で結合塩素剤を調製して添加する場合は可能であるが、予め工場等で製造した結合塩素剤を現場に搬送し、遊離塩素濃度が0.1mg/L以下に希釈されるように添加すると、結合塩素(全塩素)濃度も低くなり、スライム防止効果が低くなるという問題点がある。このため遊離塩素濃度が低く、結合塩素濃度が高い結合塩素剤が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】日本特開平1−104310号
【特許文献2】日本特開2006−263510号
【特許文献3】日本特開平9−57067号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、前記のような従来の問題点を解決するため、製剤の遊離塩素濃度が低く、かつ結合塩素濃度が高く、これにより製剤を遊離塩素濃度が低くなるように水系に添加しても、結合塩素濃度を高くすることができる結合塩素剤、その結合塩素剤を効率的に製造する方法、ならびに結合塩素剤により遊離塩素濃度が低い状態で塩素処理する方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は次の結合塩素剤、その製造方法および塩素処理方法である。
(1) アルカリ金属水酸化物を含むアルカリと、スルファミン酸またはその塩と、塩素系酸化剤とを含有する水溶液製剤を含む結合塩素剤であって、
水溶液製剤中のスルファミン酸またはその塩と塩素系酸化剤との含有割合が、Cl/N(モル比)で0.45〜0.6であり、
アルカリと塩素系酸化剤との含有割合が、Cl/アルカリ金属(モル比)で0.3〜0.4であり、
アルカリとスルファミン酸またはその塩との含有割合が、N/アルカリ金属(モル比)で0.5〜0.7であり、
前記Cl/N(モル比)は、JIS K 0400−33−10:1999により測定される塩素系酸化剤のClのモル数と、Nにより構成されるスルファミン酸またはその塩のモル数との比に相当し、
前記N/アルカリ金属(モル比)は、上記スルファミン酸またはその塩のモル数と、アルカリ金属水酸化物により構成されるアルカリのモル数との比に相当し、
ここでスルファミン酸塩に含まれるアルカリ金属の量はアルカリとして加算され、
水溶液製剤のpHが13以上であり、
水溶液製剤中の遊離塩素濃度が1000mg/L以下で、全塩素濃度の2重量%以下であることを特徴とする結合塩素剤。
(2) 逆浸透膜のスライムコントロール剤用として用いる上記(1)記載の結合塩素剤。
(3) アルカリ金属水酸化物を含むアルカリ水溶液にスルファミン酸またはその塩を添加して溶解し、得られたスルファミン酸−アルカリ混合水溶液に、塩素系酸化剤を添加して混合し、水溶液製剤として調製する方法であって、
水溶液製剤中のスルファミン酸またはその塩と塩素系酸化剤との含有割合が、Cl/N(モル比)で0.45〜0.6であり、
アルカリと塩素系酸化剤との含有割合が、Cl/アルカリ金属(モル比)で0.3〜0.4であり、
アルカリとスルファミン酸またはその塩との含有割合が、N/アルカリ金属(モル比)で0.5〜0.7であり、
前記Cl/N(モル比)は、JIS K 0400−33−10:1999により測定される塩素系酸化剤のClのモル数と、Nにより構成されるスルファミン酸またはその塩のモル数との比に相当し、
前記N/アルカリ金属(モル比)は、上記スルファミン酸またはその塩のモル数と、アルカリ金属水酸化物により構成されるアルカリのモル数との比に相当し、
ここでスルファミン酸塩に含まれるアルカリ金属の量はアルカリとして加算され、
水溶液製剤のpHが13以上であり、
水溶液製剤中の遊離塩素濃度が1000mg/L以下で、全塩素濃度の2重量%以下であることを特徴とする上記(1)または(2)記載の結合塩素剤の製造方法。
(4) アルカリ水溶液は、水の量が50〜65重量%である上記(3)記載の製造方法。
(5) 上記(1)記載の結合塩素剤を、遊離塩素濃度が0.1mg/L以下、全塩素濃度が1〜50mg/Lとなるように水系に添加して塩素処理を行うことを特徴とする塩素処理方法。
(6) 上記(1)記載の結合塩素剤を、遊離塩素濃度が0.1mg/L以下、全塩素濃度が1〜50mg/Lとなるように、逆浸透膜の給水系に添加して塩素処理を行うことを特徴とする塩素処理方法。
【0012】
本発明における遊離塩素、結合塩素および全塩素は、JIS K 0400−33−10:1999に示されており、N,N−ジエチル−1,4−フェニレンジアミンを用いるDPD法によりClの濃度として測定される。遊離塩素は次亜塩素酸、次亜塩素酸イオンまたは溶存塩素の形で存在する塩素とされている。結合塩素はクロロアミンおよび有機クロロアミンの形で存在する塩素とされており、上記遊離塩素に含まれないが、DPD法により測定される塩素とされている。全塩素は遊離塩素、結合塩素または両者の形で存在する塩素とされている。
【0013】
結合塩素剤は上記結合塩素を生成する薬剤である。本発明の結合塩素剤は、アルカリ金属水酸化物を含むアルカリと、スルファミン酸またはその塩と、塩素系酸化剤とを含有する水溶液製剤を含む結合塩素剤である。本発明の結合塩素剤では、水溶液製剤中のスルファミン酸と塩素系酸化剤との含有割合がCl/N(モル比)で0.45〜0.6、好ましくは0.45〜0.55であり、アルカリと塩素系酸化剤との含有割合が、Cl/アルカリ金属(モル比)で0.3〜0.4、好ましくは0.30〜0.36であり、水溶液製剤中の遊離塩素濃度が全塩素濃度の2重量%以下である。水溶液製剤は、pHが13以上、水溶液製剤中のアルカリとスルファミン酸またはその塩との含有割合が、N/アルカリ金属(モル比)で0.5〜0.7とする。上記のCl/N(モル比)は、前記JIS K 0400−33−10:1999により測定される塩素系酸化剤のClのモル数と、Nにより構成されるスルファミン酸またはその塩のモル数との比に相当する。またN/アルカリ金属(モル比)は、上記スルファミン酸またはその塩のモル数と、アルカリ金属水酸化物により構成されるアルカリのモル数との比に相当する。
【0014】
本発明において、結合塩素剤を構成するスルファミン酸は、RNSOH・・・〔1〕で表されるアミド硫酸で、R、Rはそれぞれ独立にH、炭素数1〜6の炭化水素基である。このようなスルファミン酸としては、R、RがそれぞれHである狭義のスルファミン酸が好ましいが、N−メチルスルファミン酸、N,N−ジメチルスルファミン酸、N−フェニルスルファミン酸なども使用できる。これらのスルファミン酸は、遊離(粉末状)の酸の状態で用いても良く、またナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩などの塩であっても良い。
【0015】
本発明において、結合塩素剤を構成するアルカリは、アルカリ金属水酸化物を含むアルカリであり、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム塩等があげられる。塩素系酸化剤は次亜塩素酸、亜塩素酸、またはそのアルカリ金属塩等の可溶性塩があげられる。いずれも食塩を含まないものが好ましく、水溶液製剤中の塩化ナトリウムは、50,000mg/L以下に管理することにより、塩の沈澱を防止でき、ハロゲン化酸化剤の安定性の向上が達成できる。
【0016】
上記結合塩素剤は、アルカリ金属水酸化物を含むアルカリ水溶液にスルファミン酸またはその塩を添加して溶解し、得られたスルファミン酸またはその塩−アルカリ混合水溶液に、塩素系酸化剤を添加して混合し、水溶液製剤として調製することにより製造することができる。アルカリ水溶液は、水の量が50〜65重量%とするのが好ましい。アルカリはアルカリ金属水酸化物を含むものであり、このようなアルカリとして、上記結合塩素剤水溶液としたときに可溶性を維持するものがあげられ、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等があげられる。
【0017】
スルファミン酸は、塩で添加してもよく、この場合の使用可能な塩としては、上記結合塩素剤水溶液としたときに可溶性のものがあげられ、スルファミン酸ナトリウム、スルファミン酸カリウム、スルファミン酸アンモニウム等を用いることができる。スルファミン酸は、水溶液製剤中のスルファミン酸濃度が上記濃度となるように添加される。スルファミン酸の添加量は、アルカリとスルファミン酸またはその塩との含有割合が、N/アルカリ金属(モル比)で0.5〜0.7とする。スルファミン酸は、スルファミン酸またはその塩を、粉末状態で、あるいは水溶液の状態で添加することができる。スルファミン酸塩を用いる場合、スルファミン酸塩に含まれるアルカリ金属の量は、アルカリとして加算される。水溶液を用いる場合は、水溶液に含まれる水の量は、前記アルカリ水溶液の水の量として加算される。
【0018】
塩素系酸化剤は次亜塩素酸またはその塩が好ましく、有効塩素(Cl)濃度として5〜20重量%、好ましくは10〜15重量%水溶液として添加するのが好ましい。塩素系酸化剤の添加量は、水溶液製剤中の塩素系酸化剤濃度が有効塩素(Cl)濃度として上記濃度となるように、またスルファミン酸と塩素系酸化剤との含有割合が、Cl/N(モル比)で上記モル比となるように添加される。これにより発泡や塩素臭の発生はなく、反応性、安定性、取扱性、無塩素臭等に優れた水溶液製剤を含む結合塩素剤を効率よく製造することができる。この場合でも、塩素系酸化剤を徐々に添加して混合するのが好ましい。
【0019】
以上により製造される本発明の結合塩素剤は、塩素処理を行うために水系に添加して使用されるが、上記のように、製剤の遊離塩素濃度が低く、かつ結合塩素濃度が高いので、このような製剤を遊離塩素濃度が低くなるように水系に添加しても、結合塩素濃度を高くすることができる。結合塩素剤中の塩素は、遊離塩素と結合塩素(全塩素)間に平衡関係があって、遊離塩素濃度が低い状態でも、結合塩素として潜在的に蓄えられた塩素が徐々に遊離して、殺菌作用等の塩素剤としての作用を行なうと考えられる。このため結合塩素剤を添加した水系は、殺菌活性の状態に置かれ、スライムの発生が防止される。結合塩素剤は、遊離塩素濃度が0.1mg/L以下となるように水系に添加して塩素処理を行うことができる。この場合、全塩素濃度は、1〜50mg/Lとすることができる。
【0020】
本発明の結合塩素剤は、RO膜のスライムコントロール剤として用いるのに適している。RO膜は逆浸透により被処理水から塩類、有機物等の溶質を分離、除去する透過膜であり、一般に逆浸透膜処理に用いられているものが対象となる。RO膜の材質としては、ポリアミド系、特に耐塩素性の小さい芳香族ポリアミド、ポリ尿素、ポリピペラジンアミドなどの窒素含有基を有する高分子膜に対して特に有効であるが、酢酸セルローズ系、その他のRO膜であってもよい。またRO膜は、スパイラル型、中空糸型、管型、平膜型など任意の構造のモジュールを構成するものでもよい。
【0021】
本発明において、RO膜処理の対象とする被処理水は、汚染性物質を含む被処理水であってもよい。このような被処理水は、前処理工程において、遊離塩素の存在下に汚染性物質を除去することにより、RO膜に対する汚染性を解消させ、かつ遊離塩素濃度を0.1mg/L以下としておくことにより、RO膜の汚染、劣化を防止して、効率よくRO膜処理することができる。前処理水を上記の遊離塩素濃度とするためには、前処理水に還元剤を添加することができる。本発明では、このようなRO膜被処理水に、遊離塩素濃度が0.1mg/L以下となるように、結合塩素剤を添加して塩素処理を行うことにより、RO膜のスライムコントロールを行うことができる。この場合、全塩素濃度は、1〜50mg/Lとすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、製剤の遊離塩素濃度が低く、かつ結合塩素濃度が高く、これにより製剤を遊離塩素濃度が低くなるように水系に添加しても、結合塩素濃度を高くすることができる結合塩素剤が得られる。
本発明の結合塩素剤の製造方法によれば、そのような結合塩素剤を効率的に製造することができる。
本発明の塩素処理方法によれば、上記のような結合塩素剤により遊離塩素濃度が低い状態で塩素処理することができる。RO膜のスライムコントロール剤用として用いる場合は、RO膜などの損傷を防止して、スライムコントロールを行い、効率よくRO膜処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例1〜3および比較例1〜3におけるCl/N(モル比)と遊離塩素濃度の関係を示すグラフである。
図2】実施例4の生産水量と差圧の変化を示すグラフである。
図3】実施例4の脱塩率の変化を示すグラフである。
図4】比較例9の生産水量と差圧の変化を示すグラフである。
図5】比較例9の脱塩率の変化を示すグラフである。
図6】比較例10の生産水量と差圧の変化を示すグラフである。
図7】比較例10の脱塩率の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施例について説明する。各例中、部および%は特に表示しない限り、それぞれ重量部および重量%である。
【実施例】
【0025】
〔実施例1〜3〕:
各例の表1に示す量の純水に水酸化ナトリウムを添加して溶解し、さらにスルファミン酸(前記式〔1〕のR、RがそれぞれHであるスルファミン酸の粉末)を添加して溶解し、その後各表に示す量の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加して溶解し、各実施例の水溶液製剤を含む結合塩素剤を製造した。得られた水溶液製剤の性状、ならびに遊離塩素および全塩素濃度を表1に示す。なお、表1〜4中、水酸化Na(Na mol/L)、N(mol/L)および有効塩素(mol/L)は、溶液の比重を1.3として算出した値を示す。
【0026】
【表1】
【0027】
〔比較例1〜3〕:
実施例1〜3において、各成分の組成を変えて同様に製造および試験した結果を表2に示す。なお、比較例1では、他の成分として、ベンゾトリアゾール2部を添加し、*1に合計100部として表示した。
【0028】
【表2】
【0029】
〔比較例4〜6〕:
実施例1〜3において、各成分の組成を変えて同様に製造および試験したところ、純水に水酸化ナトリウムを添加した水溶液にスルファミン酸が溶解しなかった。結果を表3に示す。
【0030】
【表3】
【0031】
〔比較例7〜8〕:
実施例1〜3において、各成分の組成を変えて同様に製造および試験したところ、純水に水酸化ナトリウムを添加した水溶液にスルファミン酸が溶解しなかった。結果を表4に示す。
【0032】
【表4】
【0033】
上記実施例1〜3および比較例1〜3における遊離塩素濃度/スルファミン酸(モル比)、すなわちCl/N(モル比)と遊離塩素濃度の関係を図1に示す。なお、比較例1〜3の遊離塩素濃度は、全塩素濃度を実施例1〜3と同じ6.9%に換算した値である。
【0034】
上記の結果より、本発明の条件を備える実施例1〜3は、水溶液製剤中の遊離塩素が1000mg/L以下で、全塩素濃度の2重量%以下となっている。比較例1〜3では、水溶液製剤中の遊離塩素が1000mg/Lより高く、全塩素濃度の2重量%以下より高くなっていることがわかる。全塩素濃度については、実施例1〜3は比較例1〜3よりも低いが、遊離塩素の差ほど大幅な低下ではないことが分かる。また比較例4〜8では、沈殿物が生成し、水溶液製剤が製造できないことが分かる。
【0035】
〔実施例4〕:
冷却塔から取出された冷却水に結合塩素剤を添加して、凝集処理、濾過分離、活性炭処理を行い、全塩素濃度が5mg/L、遊離塩素濃度が0.5mg/Lの前処理水を得た。この前処理水に10重量%亜硫酸水素ナトリウム水溶液を、亜硫酸水素ナトリウムが15mg/Lとなるように添加して、前処理水に含まれる全塩素濃度および遊離塩素濃度をゼロにして、被処理水とした。この被処理水に前記実施例2で得た結合塩素剤を、全塩素濃度が1.2mg/L、遊離塩素濃度が0.05mg/Lとなるように添加した。この被処理水をポンプで1.5MPaに加圧し、RO膜処理装置の濃縮液室に供給してRO膜処理を行った。RO膜処理装置は芳香族ポリアミド系RO膜の4インチスパイラル型RO膜エレメント(日東電工(株)製、ES20−D4)を1本ベッセルに充填したものを用いた。
【0036】
上記の条件で3ヶ月の連続運転を行ったが、その間RO膜は劣化せず、RO膜の差圧は増大せず、スライムトラブルは発生しなかった。この間の生産水量と差圧の変化を図2に、脱塩率の変化を図3に示すが、運転開始から差圧が増大せず、透過水量が低下しないことから、スライムによる閉塞障害が起こっていないことが確認できる。また運転開始から脱塩率が低下していないことから、RO膜に汚れが付着し、またはRO膜が劣化して、生産水の水質低下が起こっていないことが確認できる。
【0037】
〔比較例9〕:
実施例4において、RO膜へ供給する前処理水にさらに塩素剤を添加して、全塩素濃度が13mg/L、遊離塩素濃度が0.2mg/Lとして供給したときの生産水量と差圧の変化を図4に、脱塩率の変化を図5に示すが、RO膜の性能低下が認められる。
【0038】
〔比較例10〕:
実施例4において、前処理工程における被処理水に塩素剤を添加せず、遊離塩素濃度が0.0mg/Lのときの処理結果として、生産水量と差圧の変化を図6に、脱塩率の変化を図7に示すが、スライム生成によるフラックスの低下が認められる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、逆浸透膜用のスライムコントロール剤、その他の塩素処理剤として利用する結合塩素剤、およびその製造方法、ならびにその使用方法としての塩素処理方法、特に逆浸透膜用のスライムコントロールのための塩素処理方法などに利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7