特許第5721082号(P5721082)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5721082新規プレニルアレーン化合物およびその用途
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5721082
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】新規プレニルアレーン化合物およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C07D 307/36 20060101AFI20150430BHJP
   C07D 333/08 20060101ALI20150430BHJP
   A61K 31/341 20060101ALI20150430BHJP
   A61K 31/381 20060101ALI20150430BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20150430BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20150430BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20150430BHJP
【FI】
   C07D307/36CSP
   C07D333/08
   A61K31/341
   A61K31/381
   A61P35/00
   A61P43/00 111
   A61K45/00
   A61P43/00 105
   A61P43/00 121
【請求項の数】13
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2012-513828(P2012-513828)
(86)(22)【出願日】2011年5月6日
(86)【国際出願番号】JP2011060578
(87)【国際公開番号】WO2011138956
(87)【国際公開日】20111110
【審査請求日】2014年1月30日
(31)【優先権主張番号】特願2010-107749(P2010-107749)
(32)【優先日】2010年5月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】小林 資正
(72)【発明者】
【氏名】古徳 直之
(72)【発明者】
【氏名】荒井 雅吉
(72)【発明者】
【氏名】河内 崇志
【審査官】 三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】 BUCKNER,F.S. et al,Potent anti-Trypanosoma cruzi activities of oxidosqualene cyclase inhibitors,Antimicrobial Agents and Chemotherapy,2001年,Vol.45, No.4,pp.1210-1215
【文献】 ERDOGAN-ORHAN,I. et al,Polyprenyl-hydroquinones and -furans from three marine sponges inhibit the cell cycle regulating phosphatase CDC25A,Natural Product Research,2004年,Vol.18, No.1,p.1-9
【文献】 CIMINO,G. et al,Polyprenyl derivatives from the sponge Ircinia spinosula. 2-polyprenylbenzoquinones, 2-polyprenylben,Tetrahedron,1972年,Vol.28, No.5,pp.1315-1324
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D307/00−307/94
C07D327/00−347/00
A61K 31/33− 33/44
A61P 1/00− 43/00
A61K 45/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(C)
【化1】
(式中、R101は、環上に1個以上の置換基を有していてもよいフリル基またはチエニル基を表し、置換基はフッ素原子、塩素原子およびメチル基から選択される基である。R102、R103、R104およびR105は、同一または異なって水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のハロアルキル基を表す。R106は、水素原子または炭素数1〜12の直鎖もしくは分岐鎖を有する飽和もしくは不飽和の炭化水素基を表す。ただし、R101が3−フリル基、R102、R103、R104およびR105が全てメチル基で、R106がメチル基もしくは4−メチル−3−ペンテニル基もしくは4,8−ジメチル−3,7−ノナジエニル基の場合を除く。)
で示される化合物またはその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
一般式(I)
【化2】

(式中、Rは、環上に1個以上の置換基を有していてもよいフリル基またはチエニル基を表し、置換基はフッ素原子、塩素原子およびメチル基から選択される基である。R、R、RおよびRは、同一または異なって水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のハロアルキル基を表す。Rは、水素原子またはプレニル基を表す。ただし、Rが3−フリル基で、R、R、RおよびRが全てメチル基の場合を除く。)
で示される化合物またはその薬学的に許容される塩。
【請求項3】
106が、メチル基、4−メチル−3−ペンテニル基または3−ブチニル基である請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。
【請求項4】
環上に1個以上の置換基を有していてもよいフリル基またはチエニル基が、フリル基またはチエニル基である請求項1〜3のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。
【請求項5】
式(II)
【化3】
または式(III)
【化4】
または式(VI)
【化5】
または式(CI)
【化6】
である請求項4に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩と、薬学的に許容される担体を含有してなる医薬組成物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有するインスリン様成長因子2発現阻害剤。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する低酸素環境選択的細胞増殖阻害剤。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する癌の予防または治療薬。
【請求項10】
化学療法剤、免疫療法剤またはホルモン療法剤と併用することを特徴とする請求項9に記載の癌の予防または治療薬。
【請求項11】
放射線療法と併用することを特徴とする請求項9に記載の癌の予防または治療薬。
【請求項12】
癌の予防または治療薬を製造するための、請求項1〜5のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項13】
癌の予防または治療に使用するための、請求項1〜5のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規プレニルアレーン化合物およびその用途に関するものであり、詳細には、インスリン様成長因子2の発現を阻害することにより、低酸素環境選択的に細胞増殖阻害活性を発揮し、癌の予防または治療に有用なプレニルアレーン化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
癌克服は人類の大きな課題であり、その化学療法剤の開発は現在も精力的に行われている。しかしながら、癌細胞特異的に効果を示す医薬品の創製には至っていないのが現状である。近年、腫瘍内部は血管新生により誘導された血管網が無秩序に存在し、その血管構造も脆弱であることから、部分的な低酸素環境が存在することが知られている。また、低酸素環境の癌細胞はその代謝系を変化させ低酸素状況に対応するとともに、活発に血管新生促進因子や癌転移に関与する因子の産生を行うため、癌の増悪に大きく寄与していると考えられている。
【0003】
癌細胞の低酸素適応において重要な役割を担う転写因子としてHIF−1(Hypoxia Inducible Factor-1)が知られている。HIF−1はアルファサブユニットとベータサブユニットのヘテロ二量体として機能するが、通常条件ではアルファサブユニットの酸化分解が亢進しているためアルファサブユニットが欠乏状態にある。一方、低酸素環境下ではこの酸化分解が抑制され、ヘテロ二量体となった活性型HIF−1がプロモーター領域にあるHRE(hypoxia response element)に結合することにより、低酸素適応に必要な因子、血管新生や転移の促進因子の発現量を増加させる(非特許文献1参照)。これらの知見に加え、低酸素環境は腫瘍特異的な環境であり、生理条件下において低酸素環境はほとんど存在しないことから、HIF−1またはその関連分子を標的とする化合物の探索研究は数多く行われている(非特許文献2、3参照)。しかしながら、癌細胞の低酸素適応機構の全容は明らかにされていないため、これら以外を標的とする薬剤開発はほとんどない。また現在までにHIF−1またはその関連分子を阻害する医薬品は上市されていない。以上のことから、既存の化合物とは化学構造や作用メカニズムの異なる新規医薬品の創製は重要な課題である。
【0004】
このような背景のもと、本発明者らは、ヒト前立腺癌DU−145細胞を用いて1%低酸素条件で培養することによりHIF−1アルファの発現が上昇して低酸素環境に適応できることを見出し、この細胞を用いて低酸素条件選択的に増殖阻害する化合物を探索するアッセイ系を構築した。そして、種々の天然物ライブラリーをスクリーニングした結果、インドネシア産海綿の抽出物に活性を見出した。活性試験の結果を指標にして分画精製したところ、低酸素環境選択的細胞増殖阻害活性物質として、下記式で表わされるフラノセスタテルペンfurospinosulin−1を見出した(非特許文献4参照)。
【0005】
【化1】
【0006】
本発明者らは、furospinosulin−1がin vitroで低酸素環境選択的に癌細胞の増殖を阻害するのみならず、in vivoでもマウス由来肉腫細胞株S180を皮下に移植したマウスにおいて、コントロール群と比較して腫瘍重量を有意に減少させることを見出した。また、その作用メカニズムがHIF−1またはその関連分子の阻害ではなく、低酸素環境下で発現誘導されるインスリン様成長因子2(IGF−2:insulin like growth factor 2)の発現阻害によることを明らかにした(非特許文献4参照)。
【0007】
しかしながら、furospinosulin−1は、1000μMでは通常酸素環境の細胞に対しても低酸素環境下と同等の増殖阻害活性を示すことから、高濃度においても低酸素環境選択性を維持可能な、より安全性の高い化合物の創製が望まれていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Nature Rev. Drug Discov., 2, 803, 2003
【非特許文献2】Pharmacol. Ther., 113, 229, 2007
【非特許文献3】Mol. Cancer Ther., 3, 647,2004
【非特許文献4】荒井ら、第51回天然有機化合物討論会講演要旨集(名古屋)、p647、2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、幅広い濃度範囲において低酸素環境選択的増殖阻害活性を有する新規化合物を提供すること、当該化合物を有効成分として含有する癌の予防または治療薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の各発明を包含する。
[1]一般式(C)
【化2】
(式中、R101は、置換もしくは無置換の芳香族複素環基を表す。R102、R103、R104およびR105は、同一または異なって水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のハロアルキル基を表す。R106は、水素原子または炭素数1〜12の直鎖もしくは分岐鎖を有する飽和もしくは不飽和の炭化水素基を表す。ただし、R101が3−フリル基、R102、R103、R104およびR105が全てメチル基で、R106がメチル基もしくは4−メチル−3−ペンテニル基もしくは4,8−ジメチル−3,7−ノナジエニル基の場合を除く。)
で示される化合物またはその薬学的に許容される塩。
[2]一般式(I)
【化3】
(式中、Rは、置換もしくは無置換の芳香族複素環基を表す。R、R、RおよびRは、同一または異なって水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のハロアルキル基を表す。Rは、水素原子またはプレニル基を表す。ただし、Rが3−フリル基で、R、R、RおよびRが全てメチル基の場合を除く。)
で示される化合物またはその薬学的に許容される塩。
[3]R106が、メチル基、4−メチル−3−ペンテニル基または3−ブチニル基である前記[1]に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。
[4]置換もしくは無置換の芳香族複素環基が、フリル基またはチエニル基である前記[1]〜[3]に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。
[5]式(II)
【化4】
または式(III)
【化5】
または式(VI)
【化6】
または式(CI)
【化7】
である前記[4]に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。
[6]前記[1]〜[5]のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩と、薬学的に許容される担体を含有してなる医薬組成物。
[7]前記[1]〜[5]のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有するインスリン様成長因子2発現阻害剤。
[8]前記[1]〜[5]のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する低酸素環境選択的細胞増殖阻害剤。
[9]前記[1]〜[5]のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する癌の予防または治療薬。
[10]化学療法剤、免疫療法剤またはホルモン療法剤と併用することを特徴とする前記[9]に記載の癌の予防または治療薬。
[11]放射線療法と併用することを特徴とする前記[9]に記載の癌の予防または治療薬。
[12]哺乳動物に対して、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の有効量を投与することを特徴とする癌の予防または治療方法。
[13]癌の予防または治療薬を製造するための、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用。
[14]癌の予防または治療に使用するための、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一般式(C)または一般式(I)で示される化合物またはその薬学的に許容される塩は、低濃度から高濃度に至る広い濃度範囲で低酸素環境選択的細胞増殖阻害活性を有し、正常細胞に対する毒性が少ない臨床上有用な癌の予防または治療薬を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】式(II)で示される化合物(analog−k5)の低酸素環境選択的癌細胞増殖阻害活性を評価した結果を示す図である。
図2】式(III)で示される化合物(analog−k6)の低酸素環境選択的癌細胞増殖阻害活性を評価した結果を示す図である。
図3】furospinosulin−1の低酸素環境選択的癌細胞増殖阻害活性を評価した結果を示す図である。
図4(a)】式(II)で示される化合物(analog−k5)の癌細胞移植モデルマウスにおける抗腫瘍活性を評価した結果を示す図である。
図4(b)】式(II)で示される化合物(analog−k5)を投与した癌細胞移植モデルマウスから摘出した腫瘍の写真である。
図5】式(VI)で示される化合物(analog−f9)の低酸素環境選択的癌細胞増殖阻害活性を評価した結果を示す図である。
図6】式(CI)で示される化合物(analog−k13)の低酸素環境選択的癌細胞増殖阻害活性を評価した結果を示す図である。
図7(a)】式(VI)で示される化合物(analog−f9)の癌細胞移植モデルマウスにおける抗腫瘍活性を評価した結果を示す図である。
図7(b)】式(VI)で示される化合物(analog−f9)を投与した癌細胞移植モデルマウスから摘出した腫瘍の写真である。
図8(a)】式(CI)で示される化合物(analog−k13)の癌細胞移植モデルマウスにおける抗腫瘍活性を評価した結果を示す図である。
図8(b)】式(CI)で示される化合物(analog−k13)を投与した癌細胞移植モデルマウスから摘出した腫瘍の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、一般式(C)
【化8】
(式中、R101は、置換もしくは無置換の芳香族複素環基を表す。R102、R103、R104およびR105は、同一または異なって水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のハロアルキル基を表す。R106は、水素原子または炭素数1〜12の直鎖もしくは分岐鎖を有する飽和もしくは不飽和の炭化水素基を表す。ただし、R101が3−フリル基、R102、R103、R104およびR105が全てメチル基で、R106がメチル基もしくは4−メチル−3−ペンテニル基もしくは4,8−ジメチル−3,7−ノナジエニル基の場合を除く。)
で示される化合物またはその薬学的に許容される塩。
【0014】
また、本発明は、一般式(I)
【化9】
(式中、Rは、置換もしくは無置換の芳香族複素環基を表す。R、R、RおよびRは、同一または異なって水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のハロアルキル基を表す。Rは、水素原子またはプレニル基を表す。ただし、Rが3−フリル基で、R、R、RおよびRが全てメチル基の場合を除く。)
で示される化合物またはその薬学的に許容される塩を提供する。
【0015】
「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。
「炭素数1〜3のアルキル基」とは、メチル基、エチル基、プロピル基またはイソプロピル基である。
「炭素数1〜3のハロアルキル基」とは、上記炭素数1〜3のアルキル基が上記ハロゲン原子で置換されたものであり、例えば、クロロメチル基、ブロモメチル基、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、トリブロモメチル基、トリクロロエチル基、ペンタフルオロプロピル基などが挙げられる。
【0016】
「置換もしくは無置換の芳香族複素環基」とは、環構成原子として窒素原子、硫黄原子、酸素原子等の複素原子を少なくとも1以上含む、5員環または6員環の基であり、これらはベンゼン環と縮合していてもよく、さらに環上に1個以上の種々の置換基を有していてもよい基をいい、例えば、ピリジル、フリル、チエニル、インドリル、キノリル、イソキノリル、ベンゾフラニル、ベンゾチエニル、イミダゾリル、ベンズイミダゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、ピラゾリル、ピリミジル、ピラジニル、イソオキサゾリル、イソインドリル、ピロリル等を挙げることができる。好ましくはフリル、チエニルであり、より好ましくは3−フリル、3−チエニルである。
【0017】
置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、水酸基、ニトロ基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、スチリル基、ピリジル基、ピリドインドリル基、キノリル基、ベンゾチアゾリル基などを挙げることができ、これらの置換基はさらに置換されていてもよい。
【0018】
「炭素数1〜12の直鎖もしくは分岐鎖を有する飽和もしくは不飽和の炭化水素基」としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、4−メチルペンチル基、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、Z−2−ブテニル基、E−2−ブテニル基、プレニル基、4−メチル−3−ペンテニル基、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、4−ペンチニル基、4−ヘキシニル基、3−ペンテニル基、4−メチル−3−ヘキセニル基、4−メチル−3−ヘプテニル基、4−メチル−3−オクテニル基、4,6−ジメチル−3−ヘプテニル基、4,7−ジメチル−3−オクテニル基、4,6−ジメチル−3,5−ヘプタジエニル基、4,7−ジメチル−3,6−オクタジエニル基、4−メチル−3,6−ヘプタジエニル基、4−メチル−3,6−オクタジエニル基、4−メチル−3,7−オクタジエニル基、4-methyloct-3-en-7-ynyl基、4-methylhept-3-en-6-ynyl基、4,8−ジメチル−3,7−ノナジエニル基などを挙げることができる。好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、ビニル基、1−プロペニル基、プレニル基、4−メチル−3−ペンテニル基、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、4−ペンチニル基、4-methyloct-3-en-7-ynyl基、4-methylhept-3-en-6-ynyl基、4,8−ジメチル−3,7−ノナジエニル基であり、より好ましくは、メチル基、4−メチル−3−ペンテニル基、3−ブチニル基である。
【0019】
本発明の一般式(C)または一般式(I)で示される化合物としては、例えば、以下の化合物(II)〜(XXVII)ならびに化合物(CI)〜(CLXXI)などが挙げられる。
【0020】
【化10】

【0021】
【化11】
【0022】
【化12】
【0023】
【化13】
【0024】
【化14】
【0025】
【化15】
【0026】
【化16】
【0027】
中でも一般式(C)におけるR106が、メチル基、4−メチル−3−ペンテニル基もしくは3−ブチニル基である化合物、または一般式(I)におけるRが、水素原子またはプレニル基である化合物が好ましい。
【0028】
本発明の化合物として特に好ましくは、以下の式(II)、式(III)、式(VI)または式(CI)で示される化合物である。
【0029】
【化17】
【0030】
【化18】
【0031】
【化19】
【0032】
【化20】
【0033】
「薬学的に許容される塩」とは、例えば、アルカリ金属(例えば、カリウム、ナトリウム、リチウム等)の塩、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、マグネシウム等)の塩、アンモニウム塩(例えば、テトラメチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等)、有機アミン(例えば、トリエチルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、シクロペンチルアミン、ベンジルアミン、フェネチルアミン、ピペリジン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン、リジン、アルギニン、N−メチル−D−グルカミン等)の塩、酸付加物塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩等の無機酸塩;例えば、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、安息香酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、グルクロン酸塩、グルコン酸塩等の有機酸塩)などが挙げられる。
【0034】
以下、本発明の一般式(C)または一般式(I)で示される化合物またはその薬学的に許容される塩を「本発明の化合物」と記す。
【0035】
本発明の化合物の製造方法は特に限定されず、例えば、実施例1に記載の式(II)で示される化合物の合成方法、実施例3に記載の式(CI)で示される化合物の合成方法、実施例4に記載の式(VI)で示される化合物の合成方法などに準じて製造することができる。
本発明の化合物は、公知の手段、例えば、転溶、濃縮、溶媒抽出、分溜、液性変換、晶出、再結晶、クロマトグラフィー等によって単離、精製することができる。本発明の化合物が遊離化合物として得られた場合には、公知の方法により目的とする塩に変換することができ、逆に塩で得られた場合には、公知の方法により遊離体または目的とする他の塩に変換することができる。
【0036】
本発明の化合物が、光学異性体、立体異性体、位置異性体、回転異性体等の異性体を有する場合には、いずれか一方の異性体も混合物も本発明の化合物に包含される。例えば、本発明の化合物に光学異性体が存在する場合には、ラセミ体から分割された光学異性体も本発明の化合物に包含される。これらの異性体は、公知の合成手法、分離手法(濃縮、溶媒抽出、カラムクロマトグラフィー、再結晶等)によりそれぞれを単品として得ることができる。
本発明の化合物は、水和物または溶媒和物であってもよい。また、同位元素等で標識されていてもよい。
【0037】
本発明の化合物は、低酸素環境下で発現誘導されるインスリン様成長因子2(IGF−2)を転写レベルで阻害し、IGF−2の受容体であるIGF−1受容体のシグナル伝達経路を遮断することにより、低酸素環境下において細胞増殖を阻害することができる。したがって、本発明は、本発明の化合物を有効成分とするIGF−2発現阻害剤を提供する。従来、IGF−2の発現を転写レベルで阻害する化合物は報告されておらず、本発明のIGF−2発現阻害剤は、IGF−2の機能およびそれに関連するシグナル伝達機構解析のための研究用試薬として、非常に高い有用性がある。
【0038】
また、本発明の化合物は、低酸素環境下で発現誘導されるIGF−2の発現を阻害することにより、通常酸素環境下よりも低酸素環境下においてより顕著に細胞増殖を阻害する。したがって、本発明の化合物は、低酸素環境選択的細胞増殖阻害剤の有効成分として有用であり、低酸素環境選択的に癌細胞の増殖を阻害する癌の予防または治療に用いることができる。また、本発明の化合物は、IGF−2依存性の疾患の予防または治療にも用いることができる。
【0039】
本発明の化合物による予防または治療対象の癌は、特に限定されず、例えば、肺癌、大腸癌、前立腺癌、乳癌、膵臓癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、胆道癌、脾臓癌、腎癌、膀胱癌、子宮癌、卵巣癌、精巣癌、甲状腺癌、脳腫瘍、血液腫瘍等が挙げられる。好ましくは、低酸素環境が存在する固形癌である。
【0040】
本発明は、本発明の化合物と、薬学的に許容される担体とを含有する医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、本発明の化合物を有効成分とし、薬学的に許容される担体、さらに添加剤を適宜配合して製剤化することができる。具体的には錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の経口剤;注射剤、輸液、坐剤、軟膏、パッチ剤等の非経口剤とすることができる。担体または添加剤の配合割合については、医薬品分野において通常採用されている範囲に基づいて適宜設定すればよい。配合できる担体または添加剤は特に制限されないが、例えば、水、生理食塩水、その他の水性溶媒、水性または油性基剤等の各種担体;賦形剤、結合剤、pH調整剤、崩壊剤、吸収促進剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、香料等の各種添加剤が挙げられる。
【0041】
錠剤、カプセル剤などに混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸などのような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖またはサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油またはチェリーのような香味剤などが用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記タイプの材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用水のようなベヒクル中の活性物質、胡麻油、椰子油などのような天然産出植物油などを溶解または懸濁させるなどの通常の製剤実施に従って処方することができる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D−ソルビトール、D−マンニトール、塩化ナトリウムなど)などが用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤(例、ポリソルベート80TM、HCO−50)などと併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが用いられ、溶解補助剤である安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどと併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノールなど)、酸化防止剤などと配合してもよい。
【0042】
このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、ヒトや他の哺乳動物(例えば、ラット、マウス、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して投与することができる。
【0043】
投与量は、患者の状態、対象癌種、症状、投与方法などにより差異はあるが、経口投与の場合、一般的に例えば、体重約60kgのヒトにおいては、1日当たり有効成分として約0.1〜1000mg、好ましくは約1.0〜500mg、より好ましくは約3.0〜200mgである。非経口的に投与する場合は、その1回投与量は患者の状態、対象癌種、症状、投与方法などによっても異なるが、例えば注射剤では、通常例えば体重1kg当たり約0.01〜100mg程度、好ましくは約0.01〜50mg程度、より好ましくは約0.01〜20mg程度を静脈注射により投与するのが好都合である。1日当たりの総投与量は、単一投与量であっても分割投与量であってもよい。
【0044】
本発明の癌の予防または治療薬は、他の癌治療用薬剤と併用して用いることができる。他の癌治療用薬剤は特に限定されないが、例えば、化学療法剤、免疫療法剤またはホルモン療法剤と併用して用いることが好ましい。また、本発明の癌の予防または治療薬は、放射線療法と併用して用いることができる。
【0045】
化学療法剤としては、特に限定されないが、例えば、ナイトロジェンマスタード、塩酸ナイトロジェンマスタード−N−オキシド、クロラムブチル、シクロフォスファミド、イホスファミド、チオテパ、カルボコン、トシル酸インプロスルファン、ブスルファン、塩酸ニムスチン、ミトブロニトール、メルファラン、ダカルバジン、ラニムスチン、リン酸エストラムスチンナトリウム、トリエチレンメラミン、カルムスチン、ロムスチン、ストレプトゾシン、ピポブロマン、エトグルシド、カルボプラチン、シスプラチン、ミボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、アルトレタミン、アンバムスチン、塩酸ジブロスピジウム、フォテムスチン、プレドニムスチン、プミテパ、リボムスチン、テモゾロミド、トレオスルファン、トロフォスファミド、ジノスタチンスチマラマー、アドゼレシン、システムスチン、ビゼレシン等のアルキル化剤;例えば、メルカプトプリン、6−メルカプトプリンリボシド、チオイノシン、メトトレキサート、ペメトレキセド、エノシタビン、シタラビン、シタラビンオクフォスファート、塩酸アンシタビン、5−FU系薬剤(例、フルオロウラシル、テガフール、UFT、ドキシフルリジン、カルモフール、ガロシタビン、エミテフール、カペシタビン等)、アミノプテリン、ネルザラビン、ロイコボリンカルシウム、タブロイド、ブトシン、フォリネイトカルシウム、レボフォリネイトカルシウム、クラドリビン、エミテフール、フルダラビン、ゲムシタビン、ヒドロキシカルバミド、ペントスタチン、ピリトレキシム、イドキシウリジン、ミトグアゾン、チアゾフリン、アンバムスチン、ベンダムスチン等の代謝拮抗剤;例えば、アクチノマイシンD、アクチノマイシンC、マイトマイシンC、クロモマイシンA3、塩酸ブレオマイシン、硫酸ブレオマイシン、硫酸ペプロマイシン、塩酸ダウノルビシン、塩酸ドキソルビシン、塩酸アクラルビシン、塩酸ピラルビシン、塩酸エピルビシン、ネオカルチノスタチン、ミスラマイシン、ザルコマイシン、カルチノフィリン、ミトタン、塩酸ゾルビシン、塩酸ミトキサントロン、塩酸イダルビシン等の抗癌性抗生物質;例えば、エトポシド、リン酸エトポシド、硫酸ビンブラスチン、硫酸ビンクリスチン、硫酸ビンデシン、テニポシド、パクリタキセル、ドセタクセル、ビノレルビン等の植物由来抗癌剤などが挙げられる。
【0046】
免疫療法剤としては、特に限定されないが、例えば、ピシバニール、クレスチン、シゾフィラン、レンチナン、ウベニメクス、インターフェロン、インターロイキン、マクロファージコロニー刺激因子、顆粒球コロニー刺激因子、エリスロポイエチン、リンホトキシン、BCGワクチン、コリネバクテリウムパルブム、レバミゾール、ポリサッカライドK、プロコダゾール、抗CTLA4抗体などが挙げられる。
【0047】
ホルモン療法剤としては、特に限定されないが、例えば、ホスフェストロール、ジエチルスチルベストロール、クロロトリアニセン、酢酸メドロキシプロゲステロン、酢酸メゲストロール、酢酸クロルマジノン、酢酸シプロテロン、ダナゾール、アリルエストレノール、ゲストリノン、メパルトリシン、ラロキシフェン、オルメロキシフェン、レボルメロキシフェン、抗エストロゲン(例、クエン酸タモキシフェン、クエン酸トレミフェン等)、ピル製剤、メピチオスタン、テストロラクトン、アミノグルテチイミド、LH−RHアゴニスト(例、酢酸ゴセレリン、ブセレリン、リュープロレリン等)、ドロロキシフェン、エピチオスタノール、スルホン酸エチニルエストラジオール、アロマターゼ阻害薬(例、塩酸ファドロゾール、アナストロゾール、レトロゾール、エキセメスタン、ボロゾール、フォルメスタン等)、抗アンドロゲン(例、フルタミド、ビカルタミド、ニルタミド等)、5α−レダクターゼ阻害薬(例、フィナステリド、エプリステリド等)、副腎皮質ホルモン系薬剤(例、デキサメタゾン、プレドニゾロン、ベタメタゾン、トリアムシノロン等)、アンドロゲン合成阻害薬(例、アビラテロン等)などが挙げられる。
【0048】
本発明の癌の予防または治療薬と他の癌治療用薬剤または放射線療法とを併用することにより、(1)相乗効果が得られる、(2)投与量を軽減することができる、(3)治療期間を長く設定することができる、(4)治療効果の持続を図ることができる、等の効果が得られる。
【0049】
本発明の癌の予防または治療薬と他の癌治療用薬剤とを併用する場合、これらを投与対象に対し、同時に投与してもよいし、時間差をおいて投与してもよい。併用薬剤の投与量は、臨床上用いられている投与量に準ずればよく、投与対象、投与対象の年齢および体重、症状、投与時間、剤形、投与方法、組み合わせ等により適宜選択することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
〔実施例1:式(II)で示される化合物の合成〕
以下のスキームに従って、式(II)で示される化合物(以下、「analog−k5」と記す。)を合成した。
【0052】
【化21】
【0053】
(1)化合物2の合成
3−Bromofuran(2.94 g, 20 mmol)のTHF(40 mL)溶液に、−78℃でn−BuLi(1.65 M in hexane, 13.3 mL, 22 mmol)をゆっくり滴下した。30分撹拌した後、trimethylene oxide(1.57 mL, 24 mmol)を加え、さらにBF・EtO(2.72 mL, 22 mmol)を15分かけてゆっくり滴下した。−78℃で2時間撹拌した後、飽和重曹水を加え、酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル層を減圧留去して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(hexane/AcOEt = 3:1)で精製し、化合物2(1.41 g, 56%)を淡黄色油状物として得た。
H−NMR(500 MHz, CDCl3)δ: 7.36 (1H, s), 7.23 (1H, s), 6.28 (1H, s), 3.68 (2H, t, J = 6.5 Hz), 2.52 (2H, t, J = 7.0 Hz), 1.86-1.80 (2H, m).
【0054】
(2)化合物3の合成
Pyridinium chlorochromate(3.6 g, 16.5 mmol)およびセライト(4.0 g)をジクロロメタン(22 mL)に懸濁させ、撹拌しながら化合物2(1.41 g, 11 mmol)のジクロロメタン(11 mL)溶液をゆっくり滴下した。3時間撹拌した後、反応液をジエチルエーテルで希釈し、フロリジルでろ過した。ろ液を減圧留去して化合物3を得た。本化合物は精製せず、そのまま次の反応に用いた。
【0055】
(3)化合物4の合成
上記生成物(化合物3)のジクロロメタン(10 mL)溶液に(carbethoxymethylene)triphenylphosphorane(1.80 g, 12.1 mmol)を加え、室温で2時間撹拌した。反応液を減圧留去して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(hexane/AcOEt = 10:1)で精製し、化合物4(1.39 g, 65%)を無色油状物として得た。
H−NMR(500 MHz, CDCl3)δ: 7.36 (1H, s), 7.23 (1H, s), 6.98 (1H, dt, J = 16.0, 6.5 Hz), 6.27 (1H, s), 5.84 (1H, dt, J = 16.0, 1.5 Hz), 4.18 (2H, q, J = 7.5 Hz), 2.60 (1H, t, J = 7.5 Hz), 2.49-2.45 (2H, m), 1.28 (3H, t, J = 7.5 Hz).
【0056】
(4)化合物5の合成
化合物4(1.39 g, 7.2 mmol)のジクロロメタン(14 mL)溶液に、0℃で撹拌しながらdiisobutylaluminum hydride(DIBAH)(1.0 M in hexane, 15 mL, 15 mmol)をゆっくり滴下した。30分撹拌した後、水(2.4 mL)および15% NaOH(0.6 mL)を加え、室温で30分撹拌し、セライトろ過した。ろ液を減圧留去して化合物5を得た。本化合物は精製せず、そのまま次の反応に用いた。
【0057】
(5)化合物6の合成
上記生成物(化合物5)のジクロロメタン(14 mL)溶液に、0℃で撹拌しながらCBr(2.49 g, 7.5 mmol)およびPPh(1.97 g, 7.5 mmol)を加えた。15分撹拌した後、飽和重曹水を加え、酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル層を減圧留去して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(hexane/AcOEt = 20:1)で精製し、化合物6(1.16 g, 75%)を淡黄色油状物として得た。
H−NMR(500 MHz, CDCl3)δ: 7.35 (1H, s), 7.22 (1H, s), 6.26 (1H, s), 5.82-5.72 (2H, m), 3.94 (2H, d, J = 7.5 Hz), 2.52 (2H, t, J = 8.0 Hz), 2.35-2.31 (2H, m).
【0058】
(6)化合物7の合成
化合物6(323 mg, 1.5 mmol)およびfarnesyl phenylsulfone(520 mg, 1.5 mmol)のTHF(3 mL)溶液に−20℃でカリウム−t−ブトキシド(202 mg, 1.8 mmol)を加え、−20℃で6時間撹拌した。反応液に飽和NHCl水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル層を減圧留去して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(hexane/AcOEt = 7:1)で精製し、化合物7(598 mg, 83%)を淡黄色油状物として得た。
H−NMR(500 MHz, CDCl3)δ: 7.84-7.82 (2H, m), 7.61 (1H, t, J = 7.5 Hz), 7.50 (2H, t, J = 7.5 Hz), 7.31 (1H, s), 7.16 (1H, s), 6.22 (1H, s), 5.53 (1H, dt, J = 15.0, 7.0 Hz), 5.29 (1H, dt, J = 15.0, 6.7 Hz), 5.10-5.00 (2H, m), 4.95 (1H, d, J = 10.5 Hz), 3.73 (1H, td, J = 10.5, 3.0 Hz), 2.88-2.84 (1H, m), 2.43 (2H, t, J = 7.7 Hz), 2.38-2.19 (3H, m), 2.07-2.04 (2H, m), 1.99-1.95 (6H,m), 1.68 (3H, s), 1.59 (3H, s), 1.58 (3H, s), 1.16 (3H, s).
【0059】
(7)目的化合物1(analog−k5)の合成
ナフタレン(1.53 g, 12 mmol)のTHF(20 mL)溶液に0℃でリチウム(70 mg, 10 mmol)を加え、0℃で4時間撹拌した。反応液を−20℃に冷却し、撹拌しながら化合物7(240 mg, 0.50 mmol)のTHF(1.5 mL)溶液を滴下した。10分撹拌した後、反応液に飽和NHCl水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル層を減圧留去して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(hexane/AcOEt = 50:1)で精製し、化合物1(62 mg, 36%)を無色油状物として得た。
H−NMR(500 MHz, CDCl3)δ: 7.34 (1H, s), 7.21 (1H, s), 6.27 (1H, s), 5.47-5.44 (2H, m), 5.15-5.06 (3H, m), 2.48 (2H, t, J = 7.5 Hz), 2.28-2.24 (2H, m), 2.09-1.95 (12H, m), 1.68 (3H, s), 1.60 (9H, s).
13C−NMR(125 MHz, CDCl3)δ: 142.5, 138.8, 135.2, 134.9, 131.3, 130.8, 129.5, 124.8, 124.4, 124.2, 124.0, 111.1, 39.7, 33.0, 32.8, 30.3, 28.0, 26.8, 26.6, 25.7, 25.0, 17.7, 16.05, 16.00.
【0060】
〔実施例2:式(III)で示される化合物の合成〕
式(III)で示される化合物(以下、「analog−k6」と記す。)は、実施例1のanalog−k5の合成方法の(1)において、3−Bromofuranを3−Bromothiopheneに変更して合成した。
【0061】
〔実施例3:式(CI)で示される化合物の合成〕
以下のスキームに従って、式(CI)で示される化合物(以下、「analog−k13」と記す。)を合成した。
【0062】
【化22】
【0063】
(1)化合物8の合成
化合物3(198 mg, 1.59 mmol)のトルエン溶液(16 mL)に、PhP=C(Me)COEt(665 mg, 1.91 mmol)を加えた後、60℃で8時間撹拌した。反応液を減圧濃縮した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-hexane : AcOEt = 5 : 1)にて精製し、化合物8(247 mg, 80%)を無色油状物として得た。
H−NMR(500 MHz, CDCl3)δ: 7.35 (1H, dd, J = 2.4, 1.2 Hz), 7.23 (1H, d, J = 1.8 Hz), 6.79-6.75 (1H, m), 6.28 (1H, s), 4.19 (2H, q, J = 7.1 Hz), 2.57 (2H, t, J = 7.3 Hz), 2.43 (2H, q, J = 7.5 Hz), 1.81 (3H, s), 1.29 (3H, t, J = 7.3 Hz).
【0064】
(2)化合物9の合成
化合物8(96 mg, 0.46 mmol)のジクロロメタン溶液(1.0 mL)に0℃でDIBAH(1.0 M in n-hexane, 1.6 mL, 1.62 mmol)を加え、20分撹拌した。反応液に5%HClを加え、ジクロロメタンで抽出した。有機層をNaSOで乾燥後ろ過し、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-hexane : AcOEt = 5 : 1)にて精製し、化合物9(77 mg, quant.)を無色油状物として得た。
H−NMR(500 MHz, CDCl3)δ: 7.35 (1H, s), 7.22 (1H, s), 6.28 (1H, s), 5.45 (1H, td, J = 7.0, 1.4 Hz), 4.00 (2H, s), 2.49 (2H, t, J = 7.6 Hz), 2.30 (2H, q, J = 7.5 Hz), 1.66 (3H, s).
【0065】
(3)化合物10の合成
化合物9(78 mg, 0.46 mmol)のジクロロメタン溶液(2.3 mL)に0℃でPPh(147 mg, 0.55 mmol)、CBr(186 mg, 0.55 mmol)を加え、30分撹拌した。反応液に水を加え ジクロロメタンで抽出した。有機層をNaSOで乾燥後ろ過し、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-hexane : AcOEt = 30 : 1)にて精製し、化合物10(97 mg, quant.)を無色油状物として得た。

H−NMR(500 MHz, CDCl3)δ: 7.35 (1H, s), 7.21 (1H, s), 6.27 (1H, s), 5.63 (1H, td, J = 7.0, 1.0 Hz), 3.97 (2H, s), 2.49 (2H, t, J = 7.6 Hz), 2.29 (2H, q, J = 7.3 Hz), 1.74 (3H, s).
【0066】
(4)化合物12の合成
化合物10(35 mg, 0.15 mmol)と化合物11(70 mg, 0.14 mmol)のTHF溶液(0.75 mL)に、−30℃でt−BuOK(1.0 M in THF, 0.18 mL, 0.18 mmol)を加え、1時間撹拌した。反応液を0℃にした後飽和NHCl水溶液を加え、EtO で抽出した。有機層をNaSOで乾燥後ろ過し、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-hexane : AcOEt = 10 : 1)にて精製し、化合物12(96 mg, 95%)を無色油状物として得た。
H−NMR(500 MHz, CDCl3)δ: 7.84 (2H, d, J = 8.0 Hz), 7.61 (1H, t, J = 7.0 Hz), 7.51 (2H, t, J = 7.5 Hz), 7.31 (1H, s), 7.15 (1H, s), 6.22 (1H, s), 5.41 (1H, t, J = 6.8 Hz), 5.19 (1H, t, J = 7.0 Hz), 5.05 (1H, t-like), 4.90 (1H, d, J = 10.5 Hz), 4.07 (2H, s), 3.88 (1H, td, J = 10.5, 3.0 Hz), 2.90 (1H, d, J = 13.5 Hz), 2.39 (2H, t, J = 7.8 Hz), 2.29 (1H, t, J = 12.5 Hz), 2.22-2.2.09 (4H, m), 2.00 (2H, t, J = 7.5 Hz), 1.93-1.92 (4H, s-like), 1.59 (3H, s), 1.58 (3H, s), 1.52 (3H, s), 1.15 (3H, s), 1.45-1.05 (21H, m).
【0067】
(5)化合物13の合成
化合物12(236 mg, 0.35 mmol)のTHF溶液(1.8 mL)に、Pd(dppp)Cl(42 mg, 0.071 mmol)を加え、0℃でLiBHEt(1.0 M in THF, 1.24 mL, 1.24 mmol)を加え30分撹拌した。反応液に飽和NaHCO水溶液を加え、AcOEtで抽出した。有機層をNaSOで乾燥後ろ過し、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-hexane : AcOEt = 50 : 1)にて精製し、化合物13(160 mg, 86%)を無色油状物として得た。
H−NMR(500 MHz, CDCl3)δ: 7.33 (1H, s), 7.21 (1H, s), 6.27 (1H, s). 5.42 (1H, t, J = 6.5 Hz), 5.17 (1H, t, J = 7.0 Hz), 5.12-5.09 (2H, m), 4.07 (2H, s), 2.45 (2H, t, J = 7.8 Hz), 2.24 (2H, q, J = 7.0 Hz), 2.15-1.95 (12H, m), 1.60 (9H, s), 1.59 (3H, s), 1.10-1.05 (21H, m).
【0068】
(6)化合物14の合成
化合物13(23 mg, 0.043 mmol)のTHF溶液(0.4 mL)に、TBAF(1.0 M in THF, 0.065 mL, 0.065 mmol)を加え3時間撹拌した。反応液に飽和NHCl水溶液を加え、AcOEtで抽出した。有機層をNaSOで乾燥後ろ過し、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-hexane : AcOEt = 8 : 1)にて精製し、化合物14(16 mg, 99%)を無色油状物として得た。
H−NMR(500 MHz, CDCl3)δ: 7.36 (1H, s), 7.21 (1H, s), 6.28 (1H, s), 5.39 (1H, t, J = 7.0 Hz), 5.17 (1H, t, J = 6.8 Hz), 5.15-5.09 (2H, m), 4.00 (2H, s), 2.45 (2H, t, J = 7.5 Hz), 2.25 (2H, q, J = 7.5 Hz), 2.15-1.97 (12H, m), 1.67 (3H, s), 1.61 (9H, s).
【0069】
(7)化合物15の合成
化合物14(349 mg, 0.94 mmol)のジクロロメタン溶液(9.4 mL)に−40℃でEtN(0.31 mL, 2.26 mmol)、MsCl(0.09 mL, 1.13 mmol)を順次加え、3時間撹拌した。反応液に水を加え、AcOEtで抽出した。有機層をNaSOで乾燥後ろ過し、減圧濃縮して化合物15を得た。本化合物は精製せず、そのまま次の反応に用いた。
H−NMR(500 MHz, CDCl3)δ: 7.34 (1H, s), 7.21 (1H, s), 6.28 (1H, s), 5.59 (1H, t, J = 7.0 Hz), 5.17 (1H, t, J = 6.8 Hz), 5.11 (2H, q, J = 7.0 Hz), 4.60 (2H, s), 2.98 (3H, s), 2.45 (2H, t, J = 7.5 Hz), 2.24 (2H, q, J = 7.5 Hz), 2.16 (2H, q, J = 7.5 Hz), 2.10-1.96 (9H, m), 1.72 (3H, s), 1.60 (9H, s).
【0070】
(8)化合物16の合成
上記生成物のTHF溶液(15 mL)にLiBr(459 mg, 4.71 mmol)を加え室温で1時間撹拌した。反応液に飽和NHCl水溶液を加え、EtOで抽出した。有機層をNaSOで乾燥後ろ過し、減圧濃縮して化合物16を得た。本化合物は精製せず、そのまま次の反応に用いた。
H−NMR(500 MHz, CDCl3)δ: 7.34 (1H, s), 7.21 (1H, s), 6.28 (1H, s), 5.58 (1H, t, J = 7.0 Hz), 5.17 (1H, t, J = 6.8 Hz), 5.14-5.09 (2H, m), 3.97 (2H, s), 2.45 (2H, t, J = 7.5 Hz), 2.23 (2H, q, J = 7.5 Hz), 2.16-1.96 (12H, m), 1.75 (3H, s), 1.59 (9H, s).
【0071】
(9)化合物17の合成
n−BuLi(1.67 M in hexane, 1.13 mL, 1.88 mmol)をTHF(3.6 mL)で希釈した後、−40℃で1−trimethylsilyl−1−propyne(0.28 mL, 1.88 mmol)を加え、撹拌しながら15分かけて−20℃まで昇温した。再度−40℃まで冷却し、上記生成物のTHF溶液(3.6 mL)をゆっくり滴下した。徐々に昇温しながら終夜撹拌した後、反応液に飽和NHCl水溶液を加え、EtOで抽出した。有機層をNaSOで乾燥後ろ過し、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-hexane : AcOEt = 50 : 1)にて精製し、化合物17(296 mg, 68%)を無色油状物として得た。
H−NMR(500 MHz, CDCl3)δ: 7.34 (1H, s), 7.21 (1H, s), 6.28 (1H, s), 5.18-5.09 (4H, m), 2.45 (2H, t, J = 7.5 Hz), 2.29 (2H, t, J = 7.5 Hz), 2.25 (2H, q, J = 7.5 Hz), 2.18 (2H, t, J = 7.5 Hz), 2.10-1.96 (12H, m), 1.60 (12H, s), 0.14 (9H, s).
【0072】
(10)化合物18の合成(analog−k13)
化合物17(290 mg, 0.62 mmol)のTHF溶液(6.2 mL)に、TBAF(1.0 M in THF, 0.75 mL, 0.75 mmol)を加え終夜撹拌した。反応液に飽和NHCl水溶液を加え、AcOEtで抽出した。有機層をNaSOで乾燥後ろ過し、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-hexane : toluene = 10 : 1)にて精製し、化合物18(244 mg, quant.)を無色油状物として得た。
H−NMR(500 MHz, CDCl3)δ: 7.33 (1H, s), 7.21 (1H, s), 6.28 (1H, s), 5.18-5.09 (4H, m), 2.45 (2H, t, J = 7.5 Hz), 2.29-2.18 (6H, m), 2.10-1.96 (12H, m), 1.94 (1H, t, J = 2.5 Hz), 1.60 (12H, s).
【0073】
(11)化合物19の合成
SeO(55 mg, 0.50 mmol)とsalicylic acid(68 mg, 0.50 mmol)のジクロロメタン溶液(1.9 mL)に、0℃で70%TBHP水溶液(2.55 mL, 17.8 mmol)を加え、10分間撹拌した後、Farnesyl phenylsulfone(1.72 g, 4.95 mmol)のジクロロメタン溶液(1.9 mL)を0℃でゆっくり滴下し、4℃で終夜撹拌した。トルエンで希釈した後、AcOEtで抽出した。有機層を飽和NaHCO水溶液、Na水溶液で順次洗浄し、NaSOで乾燥後ろ過し、減圧濃縮し、化合物19を含む粗生成物を得た。
上記粗生成物のMeOH溶液(5.0 mL)に0℃でNaBH(105 mg, 2.48 mmol)を加え2時間撹拌した。反応液に飽和NHCl水溶液を加え、AcOEtで抽出した。有機層をNaSOで乾燥後ろ過し、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-hexane : AcOEt = 2 : 1)にて精製し、化合物19(658 mg, 38%)を無色油状物として得た。
H−NMR(500 MHz, CDCl3)δ: 7.87-7.85 (2H, m), 7.63 (1H, t, J = 7.5 Hz), 7.55-7.50 (2H, m), 5.38 (1H, td, J = 7.0, 1.5 Hz), 5.19 (1H, dd, J = 8.0, 2.0 Hz), 5.06-5.04 (1H, m), 3.98 (2H, s), 3.80 (2H, d, J = 8.0 Hz), 2.14-1.96 (8H, m), 1.65 (3H, s), 1.58 (3H, s), 1.31 (3H, s), 0.87 (1H, t, J = 7.0 Hz).
【0074】
(12)化合物11の合成
化合物19(622 mg, 1.72 mmol)のDMF溶液(4.3 mL)に、imidazole(467 mg, 6.86 mmol)、TIPSCl(1.10 mL, 5.15 mmol)を0℃で加え、徐々に室温まで昇温しながら終夜撹拌した。反応液に飽和NHCl水溶液を加え、EtOで抽出した。有機層をNaSOで乾燥後ろ過し、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-hexane : AcOEt = 10 : 1)にて精製し、化合物11(841 mg, 98%)を無色油状物として得た。
H−NMR(500 MHz, CDCl3)δ: 7.87 (2H, d, J = 8.0 Hz), 7.63 (1H, t, J = 7.5 Hz), 7.53 (2H, t, J = 7.5 Hz), 5.41 (1H, t, J = 7.0 Hz), 5.19 (1H, t, J = 8.0 Hz), 5.06 (1H, brs), 4.07 (2H, s), 3.81 (2H, d, J = 8.0 Hz), 2.15-1.96 (8H, m), 1.60 (3H, s), 1.59 (3H, s), 1.32 (3H, s), 1.15-1.05 (21H).
【0075】
〔実施例4:式(VI)で示される化合物の合成〕
以下のスキームに従って、式(VI)で示される化合物(以下、「analog−f9」と記す。)を合成した。
【0076】
【化23】
【0077】
(1)化合物20の合成
3−Thiophenecarboxaldehyde(313 mg, 2.79 mmol)のジクロロメタン溶液(14 mL)に、PhP=CHCOEt(1.17 g, 3.35 mmol)を加えた後、室温で2時間撹拌した。反応液を減圧濃縮した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-hexane : AcOEt = 20 : 1)にて精製し、エステル体(486 mg, 95%)を無色油状物として得た。
H−NMR(500 MHz, CDCl3)δ: 7.67 (1H, d, J = 15.9 Hz), 7.49 (1H, dd, J = 2.7, 0.7 Hz), 7.32 (1H, dd, J = 5.1, 2.9 Hz), 7.27 (1H, dd, J = 5.1, 1.1 Hz), 6.26 (1H, d, J = 15.9 Hz), 4.25 (2H, q, J = 7.1 Hz), 1.33 (3H, t, J = 7.1 Hz).
【0078】
エステル体(467 mg, 2.56 mmol)のジクロロメタン溶液(13 mL)に0℃でDIBAH(1.0 M in n-hexane, 6.41 mL, 6.41 mmol)を加え、30分撹拌した。反応液に5%HCl を加え、ジクロロメタンで抽出した。有機層をNaSOで乾燥後ろ過し、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-hexane : AcOEt = 2 : 1)にて精製し、アルコール体(351 mg, 98%)を無色油状物として得た。
H−NMR(500 MHz, CDCl3)δ: 7.21-7.19 (1H, m), 7.14 (1H, dd, J = 5.2, 1.5 Hz), 7.09 (1H, d, J = 3.1 Hz), 6.55 (1H, d, J = 15.2 Hz), 6.15 (1H, dt, J = 15.5, 5.8 Hz), (1H, m), 4.22 (2H, t, J = 5.2 Hz), 1.38 (1H, brs).
【0079】
アルコール体(328 mg, 2.34 mmol)のEtOH溶液(12 mL)に、室温でPd/C(49.8 mg)を加え、H雰囲気下で4時間撹拌した。反応液をセライトろ過し、減圧濃縮することで、化合物20(336 mg, quant.)を無色油状物として得た。
H−NMR(500 MHz, CDCl3)δ: 7.24 (1H, t, J = 4.0 Hz), 6.94 (2H, m), 3.67 (2H, t, J = 6.4 Hz), 2.72 (2H, t, J = 7.6 Hz), 1.90-1.87 (2H, m), 1.25 (1H, brs).
【0080】
(2)化合物21の合成
セライト(2.47 g)とPCC(2.47 g, 11.5 mmol)のジクロロメタン溶液(19 mL)に、室温で化合物20(1.36 g, 9.57 mmol)を滴下した後、10時間撹拌した。反応液にエーテルを加えた後SiOろ過し減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-hexane : Et2O = 8 : 1)にて精製し、化合物21(900 mg, 67%)を無色油状物として得た。
H−NMR(500 MHz, CDCl3)δ: 9.81 (1H, d, J = 1.2 Hz), 7.25 (1H, dd, J = 4.9, 3.1 Hz), 6.97 (1H, dd, J = 3.1, 1.2 Hz), 6.94 (1H, dd, J = 4.9, 1.2 Hz), 2.97 (2H, t, J = 7.6 Hz), 2.77 (2H, td, J = 7.3, 1.4 Hz).
【0081】
(3)化合物22の合成
化合物21(164 mg, 1.17 mmol)のジクロロメタン溶液(1.17 mL)に、PhP=C(Me)COEt(637 mg, 1.76 mmol)を加えた後、室温で30分撹拌した。反応液を減圧濃縮した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-hexane : AcOEt = 20 : 1)にて精製し、化合物22(233 mg, 89%)を無色油状物として得た。
H−NMR(500 MHz, CDCl3)δ: 7.24 (1H, dd, J = 4.8, 3.0 Hz), 6.93 (2H, m), 6.79-6.75 (1H, m), 4.17 (2H, q, J = 7.1 Hz), 2.76 (2H, t, J = 7.6 Hz), 2.48 (2H, q, J = 7.5 Hz), 1.78 (3H, s), 1.27 (3H, t, J = 7.0 Hz).
【0082】
(4)化合物23の合成
化合物22(233 mg, 1.04 mmol)のジクロロメタン溶液(5.2 mL)に0℃でDIBAH(1.0 M in n-hexane, 2.60 mL, 2.60 mmol)を加え、20分撹拌した。反応液に5%HClを加え、ジクロロメタンで抽出した。有機層をNaSOで乾燥後ろ過し、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-hexane : AcOEt = 3 : 1)にて精製し、化合物23(175 mg, 92%)を無色油状物として得た。
H−NMR(500 MHz, CDCl3)δ: 7.22 (1H, dd, J = 4.9, 3.1 Hz), 6.93 (2H, m), 5.44 (1H, td, J = 7.2, 1.4 Hz), 3.98 (2H, s), 2.68 (2H, t, J = 7.9 Hz), 2.35 (2H, q, J = 7.5 Hz), 1.62 (3H, s), 1.22 (1H, brs).
【0083】
(5)化合物24の合成
化合物23(173 mg, 0.95 mmol)のジクロロメタン溶液(4.7 mL)に0℃でPPh(323 mg, 1.23 mmol)、CBr(409 mg, 1.23 mmol)を加え、15分撹拌した。反応液に水を加えジクロロメタンで抽出した。有機層をNaSOで乾燥後ろ過し、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-hexane : AcOEt = 30 : 1)にて精製し、化合物24(208 mg, 89%)を無色油状物として得た。
H−NMR(500 MHz, CDCl3)δ: 7.26 (1H, t, J = 4.0 Hz), 6.95 (2H, m), 5.65 (1H, t, J = 7.0 Hz), 3.98 (2H, s), 2.72 (2H, t, J = 7.3 Hz), 2.37 (2H, q, J = 7.3 Hz), 1.74 (3H, s).
【0084】
(6)化合物25の合成
化合物24(99 mg, 0.40 mmol)とgeranylgeranyl phenylsulfone(153 mg, 0.37 mmol)のTHF溶液(1.8 mL)に、−40℃で、t−BuOK(1 0 M in THF, 0.44 mL, 0.44 mmol)を加え、30分撹拌した。反応液を0℃にした後、飽和NHCl水溶液を加え、AcOEtで抽出した。有機層をNaSOで乾燥後ろ過し、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n- hexane : AcOEt = 10 : 1)にて精製し、化合物25(162 mg, 76%)を無色油状物として得た。
H−NMR(500 MHz, CDCl3)δ: 7.84 (2H, d, J = 7.0 Hz), 7.61 (1H, t, J = 7.3 Hz), 7.51 (2H, t, J = 7.6 Hz), 7.21 (1H, dd, J = 5.0, 3.0 Hz), 6.89-6.88 (2H, m), 5.20 (1H, t, J = 7.0 Hz), 5.10-5.02 (3H, m), 4.91 (1H, d, J = 10.0 Hz), 3.88 (1H, td, J = 10.7, 2.9 Hz), 2.89 (1H, d, J = 12.8 Hz), 2.60 (2H, t, J = 7.6 Hz), 2.30-2.26 (3H, m), 2.09-1.90 (12H, m), 1.68 (3H, s), 1.60 (3H, s), 1.59 (3H, s), 1.58 (3H, s), 1.50 (3H, s), 1.15 (3H, s).
【0085】
(7)化合物26(analog−f9)の合成
化合物25(166 mg, 0.29 mmol)のTHF溶液(1.44 mL)に、Pd(dppp)Cl(34 mg, 0.057 mmol)を加え、0℃でLiBHEt(1.0 M in THF, 1.0 mL, 1.0 mmol)を加え20分撹拌した。反応液に飽和NHCl水溶液を加え、AcOEtで抽出した。有機層をNaSOで乾燥後ろ過し、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n- hexane : AcOEt = 20 : 1)にて精製し、化合物26(110 mg, 87%)を無色油状物として得た。
H−NMR(500 MHz, CDCl3)δ: 7.23 (1H, dd, J = 4.9, 3.1 Hz), 6.95 (1H, dd, J = 4.9, 1.2 Hz), 6.93 (1H, dd, J = 3.1, 1.1 Hz), 5.18 (1H, td, J = 6.9, 1.0 Hz), 5.13-5.09 (4H, m), 2.66 (2H, t, J = 7.6 Hz), 2.31 (2H, q, J = 7.5 Hz), 2.10-1.96 (16H, m), 1.68 (3H, s), 1.61 (12H, s), 1.58 (3H, s).
【0086】
〔実施例5:低酸素環境選択的癌細胞増殖阻害活性の評価(1)〕
式(II)で示されるanalog−k5および式(III)で示されるanalog−k6を被験化合物とし、対照化合物にfurospinosulin−1を用いた。被験化合物および対照化合物は、EtOHに溶解し、所定の濃度に調製した。細胞には、ヒト前立腺癌DU145細胞を使用した。なお、analog−k6は、実施例1のanalog−k5の合成方法において、3−Bromofuranを3−Bromothiopheneに変更して合成し、取得した。
【0087】
DU145細胞浮遊液200μL(1×104 cells / well)を96穴マルチウェルプレートに分注し、5%CO、37℃の条件下で4時間前培養した。その後、マルチウェルプレートを低酸素培養チャンバー(三菱ガス化学株式会社)に入れ、チャンバー内を1%O、5%CO、94%N(低酸素条件)に設定し、12時間培養した。ここに被験化合物のEtOH溶液を2μL添加し、さらに24時間低酸素条件下で培養した。24時間後、200μg/mLに調製したMTT(3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazolium bromide)試薬50μLを添加し、3時間、5%CO、37℃の条件下で培養した。次に培地を除去し、DMSO200μLを加えることにより、生成したMTT formazanを抽出した。その色素量を比色定量法(OD 560 nm)によって定量し、増殖阻害率を算出した。
【0088】
一方、通常酸素環境における被験化合物の増殖阻害活性を測定する場合は、DU145細胞浮遊液200μL(1×104 cells / well)を96穴マルチウェルプレートに分注し、5%CO、37℃の条件下で12時間培養した。ここに被験化合物のEtOH溶液を2μL添加し、さらに24時間同条件下で培養した。24時間培養後、低酸素条件での操作と同様にMTT試薬を添加し、増殖阻害率を算出した。
【0089】
結果を図1図2および図3に示した。図1はanalog−k5の結果、図2はanalog−k6の結果、図3はfurospinosulin−1の結果である。図3から、対照化合物のfurospinosulin−1は、300μM以下では低酸素環境選択的に細胞増殖阻害活性を示したが、1000μMでは通常酸素環境の細胞に対しても増殖阻害活性を示した。すなわち、furospinosulin−1は、高濃度における細胞増殖抑制活性は低酸素環境選択的でないことが明らかとなった。一方、図1および図2から明らかなように、analog−k5およびanalog−k6は、1000μMにおいても低酸素環境選択的な細胞増殖阻害活性を示した。
この結果から、analog−k5およびanalog−k6は、高用量における通常酸素環境下の細胞増殖阻害活性が低く、furospinosulin−1と比較して、高用量における副作用が小さいことが示唆された。
【0090】
〔実施例6:癌細胞移植モデルマウスでの抗腫瘍活性の評価(1)〕
被験化合物のanalog−k5は、1%CMCを用いて所定の濃度に調製した。コントロール群には溶媒(1%CMC)を投与した。
【0091】
マウス肉腫S180細胞を無血清のRPMI培地で1×10cells/mLの密度に調製し、氷上で保存した。次に、細胞浮遊液100μL(1×10cells)をddY雌性マウス(5週齢、6匹/群)の腹側部皮下に23Gの注射針を用いて移植した。1週間飼育を行うことによりS180細胞を生着させた後、各用量(10mg/kg、25mg/kg、50mg/kg)の被験化合物または溶媒(1%CMC)を2日に1回、計7回の投与スケジュールで経口投与した。抗腫瘍活性は、最終投与の1日後に腫瘍を摘出して重量を計測し、コントロール群と比較することにより評価した。有意差検定はDunnett’s法により行い、有意水準を5%以下とした。
【0092】
結果を図4(a)および(b)に示した。(a)は各群の腫瘍重量を示すグラフであり、(b)は摘出した腫瘍の写真である。図4(a)および(b)から明らかなように、analog−k5投与群の腫瘍重量は、コントロール群に対して10mg/kg投与群で70%、25mg/kg投与群で41%、50mg/kg投与で28%に減少し、顕著な抗腫瘍活性を示した。また、いずれの投与群においてもマウスの体重減少や下痢、目視での臓器の異常は観察されなかった。
【0093】
〔実施例7:低酸素環境選択的癌細胞増殖阻害活性の評価(2)〕
式(VI)で示されるanalog−f9および式(CI)で示されるanalog−k13を被験化合物とし、実施例5に記載の方法と同様の方法で低酸素環境選択的癌細胞増殖阻害活性を評価した。
【0094】
結果を図5および図6に示した。図5はanalog−f9の結果、図6はanalog−k13の結果である。なお、対照化合物として用いたfurospinosulin−1の結果は図3と同様であったので、ここでは示していない。図5および図6から明らかなように、analog−f9およびanalog−k13は、いずれも1000μMにおいても低酸素環境選択的な細胞増殖阻害活性を示した。したがって、analog−f9およびanalog−k13は、高用量における通常酸素環境下の細胞増殖阻害活性が低く、furospinosulin−1と比較して、高用量における副作用が小さいことが示唆された。また、図5からanalog−f9は、100μM以下において通常酸素環境における細胞増殖阻害活性が顕著に低いこと、特に10μM以下では通常酸素環境においてほとんど細胞増殖を阻害しないことが示された。したがって、analog−f9は、低用量においてほとんど副作用を示さないことが示唆された。また、図6からanalog−k13は、測定した全ての濃度範囲で、furospinosulin−1よりも強力な低酸素環境選択的な細胞増殖阻害を示した。したがって、analog−k13は、furospinosulin−1よりも低用量で、強力な効果を示すことが示唆された。
【0095】
〔実施例8:癌細胞移植モデルマウスでの抗腫瘍活性の評価(2)〕
式(VI)で示されるanalog−f9および式(CI)で示されるanalog−k13を被験化合物とし、実施例6に記載の方法と同様の方法で癌細胞移植モデルマウスでの抗腫瘍活性を評価した。ただし、1群の匹数を4匹に変更し、被験化合物の用量を、3mg/kg、10mg/kg、25mg/kgに変更した。
【0096】
analog−f9の結果を図7(a)および(b)に示した。また、analog−k13の結果を図8(a)および(b)に示した。いずれも(a)は各群の腫瘍重量を示すグラフであり、(b)は摘出した腫瘍の写真である。図7(a)および(b)から明らかなように、analog−f9投与群の腫瘍重量は、コントロール群に対して10mg/kg投与群で29%、25mg/kg投与群で18%に減少し、顕著な抗腫瘍活性を示した。また、図8(a)および(b)から明らかなように、analog−k13投与群の腫瘍重量は、コントロール群に対して3mg/kg投与で70%、10mg/kg投与群で41%、25mg/kg投与群で28%に減少し、顕著な抗腫瘍活性を示した。いずれの被験物質投与群においてもマウスの体重減少や下痢、目視での臓器の異常は観察されなかった。
【0097】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
図1
図2
図3
図4(a)】
図5
図6
図7(a)】
図8(a)】
図4(b)】
図7(b)】
図8(b)】