特許第5721189号(P5721189)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5721189
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月20日
(54)【発明の名称】耐熱性Ni基合金及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/03 20060101AFI20150430BHJP
   C22F 1/10 20060101ALI20150430BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20150430BHJP
【FI】
   C22C19/03 H
   C22F1/10 A
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 630B
   !C22F1/00 640B
   !C22F1/00 650A
   !C22F1/00 651B
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 692A
   !C22F1/00 611
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-48729(P2013-48729)
(22)【出願日】2013年3月12日
(65)【公開番号】特開2014-173163(P2014-173163A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2014年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】899000035
【氏名又は名称】株式会社 東北テクノアーチ
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】特許業務法人田中・岡崎アンドアソシエイツ
(72)【発明者】
【氏名】石田 清仁
(72)【発明者】
【氏名】大森 俊洋
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕
(72)【発明者】
【氏名】田中 邦弘
(72)【発明者】
【氏名】中村 宗樹
(72)【発明者】
【氏名】坂入 弘一
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−310839(JP,A)
【文献】 特開昭61−284545(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/091576(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/00 − 49/14
C22F 1/00 − 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Niに必須の添加元素であるIr、Al、及び、Wを添加したNi−Ir−Al−W合金からなる耐熱性Ni基合金であって、
Ir:5.0〜50.0質量%、Al:1.0〜8.0質量%、W:5.0〜20.0質量%、残部Niからなり、
必須の強化相として、L1構造を有するγ’相がマトリックス中に析出・分散するNi基合金からなり、
前記γ’相の粒径が10nm〜1μmであり、γ’相の析出量が合金全体に対して合計で20〜85体積%である耐熱材料。
【請求項2】
下記のグループIから選択される1種又は2種以上の添加元素を含む請求項1記載の耐熱性Ni基合金。
グループI:
B:0.001〜0.1質量%、
Co:5.0〜20.0質量%、
Cr:1.0〜25.0質量%、
Ta:1.0〜10.0質量%、
Nb:1.0〜5.0質量%、
Ti:1.0〜5.0質量%、
V:1.0〜5.0質量%、
Mo:1.0〜5.0質量%、
【請求項3】
更に、0.001〜0.5質量%のCを含み、炭化物が析出・分散する請求項1又は請求項2記載の耐熱性Ni基合金。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに係る耐熱性Ni基合金の製造方法であって、
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の組成のNi基合金を、700〜1300℃の温度域で時効熱処理し、析出物として、少なくともL1構造を有するγ’相を析出・分散させる耐熱性Ni基合金の製造方法。
【請求項5】
時効熱処理前に、Ni基合金を1100〜1800℃の温度域で均質化熱処理する請求項4記載の耐熱性Ni基合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジェットエンジン、ガスタービン等の高温部材や、摩擦攪拌接合(FSW)のツール(工具)等の構成材料として好適であり、新規な組成を有するNi基耐熱合金及びその製造方法に関する。詳しくは、従来のNi基合金よりも耐熱性、耐酸化性に優れ、過酷な高温雰囲気に曝されても必要強度を維持し得る合金に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の耐熱性合金としては、Ni基合金やCo基合金等が知られているが、各種熱機関の燃費向上、環境負荷低減を目的に熱効率の改善が近年強く求められており、その構成材料の耐熱性向上の要求が一段と過酷になっている。そのため、従来のNi基やCo基合金に代わる新規耐熱材料の開発が検討されており、多くの研究報告が発表されている。
【0003】
例えば、本願発明者等は、Ni基合金に替る新たな耐熱合金として、Ir基合金であるIr−Al−W系合金を開示している(特許文献1)。この耐熱合金は、その強化機構としてL1構造を有する金属間化合物であるγ’相(Ir(Al,W))の析出強化作用を利用するものである。γ’相は温度上昇に伴い強度も高くなる逆温度依存性を呈することから、優れた高温強度、高温クリープ特性を合金に付与することができる。尚、このγ’相による強化作用の利用は、従来のNi基耐熱合金と同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4833227号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の本発明者等によるIr基の耐熱合金は、従来のNi基耐熱合金に対する高温強度改善の観点からは満足のいくものであるが問題点もある。即ち、このIr基合金(Ir−Al−W系合金)は、硬度は高いものの靭性に劣る点が指摘されており、特に、脆いB2型の金属間化合物(IrAl、以下、B2相とする)が残存するため、更に脆くなる傾向があるとされている。
【0006】
そして、Ir基合金はその製造性についても指摘がなされるところであり、融点が高過ぎるために溶解・鋳造工程の際のコストが懸念される。更に、本発明者等によると、Ir基合金は、鋳造・凝固時に割れが発生し易く、欠陥の無い製品の製造が難しいという点も見出されている。
【0007】
本発明は以上のような背景のもとになされたものであり、高温強度特に靭性に優れるとともに、製造性についても配慮がなされた耐熱合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記課題を解決するため、上記のIr基合金においてその靭性が不足する要因について検討した。そして、その結果、従来のIr基合金では、粒内強度が粒界強度よりも高すぎ、粒界破壊が優先的に生じるため合金全体としての靭性が不足すると考えた。この点について説明すると、本来、Irは高硬度である反面脆い金属であるが、これに加えてγ’相は粒内に析出する傾向がある。そのため粒内のみが強化され、このようなバランスに欠いた強化がなされると考えられる。そして、この粒内強度と粒界強度とのアンバランスは、鋳造・凝固時の割れ発生にも関与していると考えられる。
【0009】
本発明者等は、上記のようなIr基合金が包含する問題点を考慮して、Irを主成分とした合金に替えてNi基合金の適用に想到した。Ni基合金は、その高温強度はともかく、靭性の観点からは良好な特性を有する合金系だからである。また、Ni基合金についてはこれまでの知見も豊富であり、添加元素を必要に応じて添加することで、粒界に析出物を析出させることが可能である。従って、粒内強度の向上に応じた粒界強度の強化も可能であり、両者のバランスを良好にすることも可能である。
【0010】
一方、Ni基合金は、一般的に融点が1300〜1400℃程度であり、高温になると融点に近づくために軟化するという根本的な問題がある。また、従来のNi基合金における高温強度の低下の要因は、γ’相(NiAl)が高温下で消失するという高温安定性の不足にも起因する。
【0011】
そこで、本発明者等は、更なる検討を行い、Ni基合金におけるマトリックス相(γ相)及びγ’相の高温安定性を高める添加元素としてIr及びWを見出した。そして、Ir添加による固相温度の上昇作用と、Ir及びW添加によるγ’相の安定性向上作用の双方を利用することで、合金全体の耐熱性を向上させ、従来のNi基合金が有する高靭性を維持しつつもこれを超える高温強度を発揮することを見出し、本発明に想到した。
【0012】
即ち、本発明は、Niに必須の添加元素であるIr、Al、及び、Wを添加したNi−Ir−Al−W合金からなる耐熱性Ni基合金であって、Ir:5.0〜50.0質量%、Al:1.0〜8.0質量%、W:5.0〜25.0質量%、残部Niからなり、必須の強化相として、L1構造を有するγ’相がマトリックス中に分散するNi基合金からなる耐熱材料である。
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。上記の通り、本発明に係る耐熱合金は、Al、Ir、Wを必須の添加元素とするNi基合金である。そして、本発明では、合金の強化因子として、L1構造を有するγ’相を分散させてなる。本発明におけるγ’相は、(Ni,Ir)(Al,W)である。このγ’相による析出強化作用は、従来のNi基合金やIr基合金と同様である、γ’相は、強度について逆温度依存性を有するため高温安定性も良好である。そして、本発明では、後述の通り、γ’相の高温安定性が更に向上されていること、及び、合金自体(γ相)の高温強度も向上していることから、従来のNi基耐熱合金に対して、一段と高い高温雰囲気に曝されても優れた高温特性を維持する。
【0014】
ここで、添加元素であるAlは、γ’相の主要な構成元素であり、その析出に必要な成分である。1.0質量%未満のAlではγ’相が析出しないか、析出しても高温強度向上に寄与し得る状態はならない。一方で、Al濃度の増加に伴いγ’相の割合は増加するが、Alを過剰に添加すると、B2型の金属間化合物(NiAl、以下、B2相と称する場合がある。)の割合が増加して脆くなり合金の強度を低下させることとなることから、Al量の上限を8.0質量%としている。尚、Alは、合金の耐酸化性の向上にも寄与する。Alは、好ましくは、1.9〜6.1質量%とする。
【0015】
Wは、Ni基合金におけるγ’相の高温での安定化に寄与する成分であり、その主要な構成元素である。従来、Ni基合金おいて、Wの添加によりγ’相が安定化することは知られていないが、本発明者等によれば、W添加によりγ’相の固溶温度を上げることができ、高温での安定性が確保することができる。このWは、5.0質量%未満の添加ではγ’相の高温安定性向上が十分でない。一方、25.0質量%を超える過剰添加は、比重の大きいWを主成分とする相の生成を助長し、偏析が生じやすくなる。尚、Wは合金のマトリックスを固溶強化する作用も有する。Wは、好ましくは、10.0〜20.0質量%とする。
【0016】
そして、Irは、マトリクス(γ相)に固溶すると共にγ’相のNiに部分置換することで、γ相とγ’相に対してそれぞれ固相線温度、固溶温度を上昇させて耐熱性を向上させる添加元素である。Irは、5.0質量%以上で添加効果を呈するが、過剰添加すると合金の比重を大きくすることになり、また、合金の固相線温度が高温となるため、上限を50.0質量%とする。Irは、好ましくは、10.0〜45.0質量%とする。
【0017】
以上のように、本発明に係るNi基合金は、Al、W、Irの添加量を前記範囲とし、高温下でも強化相として機能し得るγ’相を析出させるものであり、これは本発明者等の検討の結果明らかになった数値範囲である。
【0018】
本発明に係るNi基合金は、γ’相の適切な分散により高温強度の改善するものであるが、他の相の生成を完全に排除するものではない。即ち、Al、W、Irを上記範囲で添加した場合、組成によってはγ’相のみではなく、B2相が析出することがある。また、このNi−Al−W−Ir4元系合金では、D019構造のε’相も析出する可能性がある。本発明に係るNi基合金は、これらのγ’相以外の析出物が存在しても高温強度は確保されている。もっとも、本発明に係るNi基合金は、B2相の析出が比較的抑制されている。
【0019】
そして、本発明に係るNi基耐熱合金は、その高温特性の更なる向上又は付加的な特性向上のために追加的な添加元素を添加しても良い。この追加的な添加元素としては、B、Co、Cr、Ta、Nb、Ti、V、Moが挙げられる。
【0020】
Bは、結晶粒界に偏析して粒界を強化する合金成分であり、高温強度・延性の向上に寄与する。Bの添加効果は0.001質量%以上で顕著になるが、過剰添加は加工性にとって好ましくないので上限を0.1質量%とする。好ましいBの添加量は、0.005〜0.02質量%とする。
【0021】
Coは、γ’相の割合を増加させて強度を上昇させるのに有効である。Coはγ’相のNiと部分置換して、その構成元素となる。このような効果は5.0質量%以上のCo添加でみられるが、過剰添加はγ’相の固溶温度を低下させて高温特性が損なわれてしまう。そのため、20.0質量%をCo含有量の上限とすることが好ましい。尚、Coは耐摩耗性を向上させるという作用も有する。
【0022】
Crも、粒界強化に有効である。また、Crは合金にCが添加されている場合、炭化物を形成して粒界近傍に析出することによって粒界を強化する。Crの添加量は1.0質量%以上で添加効果がみられる。但し、過剰に添加すると合金の融点及びγ’相の固溶温度が下がり高温特性が損なわれてしまう。そのため、Crの添加量は25.0質量%以下とすることが好ましい。尚、Crは、合金表面に緻密な酸化皮膜を作り、耐酸化性を向上させるという作用も有する。
【0023】
Taは、γ’相を安定化させ、また、固溶強化によりγ相の高温強度の向上に有効な元素である。また、合金にCが添加されている場合に炭化物を形成・析出することができることから粒界強化に有効な添加元素である。Taは、1.0質量%以上を添加することで前記作用を発揮する。また、過剰添加は有害相の生成や融点降下の原因となるので10.0質量%を上限とするのが好ましい。
【0024】
また、Nb、Ti、V、Moも、γ’相の安定化及びマトリックスを固溶強化して高温強度を向上するのに有効な添加元素である。Nb、Ti、V、Moは、1.0〜5.0質量%添加するのが好ましい。
【0025】
以上のように、B、Co、Cr、Ta、Nb、Ti、V、Moの添加元素は、粒界近傍で偏析することで粒界の強度を向上させると同時に、γ’相を安定化して強度を向上させることができる。上記の通り、Co、Cr、Ta、Nb、Ti、V、Moは、γ’相の構成元素としても作用する。このときのγ’相の結晶構造は、添加元素がないNi−Ir−Al−W4元系合金のγ’相と同様のL1構造であり、(Ni,X)(Al,W,Z)で示される。ここで、XはIr、Coであり、ZはTa、Cr、Nb、Ti、V、Moである。
【0026】
そして、更に有効な添加元素としてCが挙げられる。Cは、合金中の金属元素と共に炭化物を形成して析出することで高温強度と延性を向上させる。このような効果は0.001質量%以上のC添加でみられるが、過剰添加は加工性や靭性にとって好ましくないので0.5質量%をC含有量の上限とする。好ましいCの添加量は、0.01〜0.2質量%とする。尚、Cは、上記のように炭化物形成において大きな意義があるが、これに加えてBと同様に偏析することで粒界強化にも有効な元素である。
【0027】
本発明に係るNi基合金は、上記した複数の添加元素により多元化したときの析出物(炭化物)の制御が容易である。そして、γ’相により強化された粒内強度に見合った粒界強度を得ることができる。
【0028】
尚、これらの添加元素を添加したNi基合金でもγ’相以外の金属間化合物が析出することがある。この金属間化合物は、添加元素がないNi−Ir−Al−W4元系合金におけるB2相と同じ結晶構造である、B2型の金属間化合物((Ni,X)(Al,W,Z))である(X、Zの意義は上記と同様)。この場合も、各構成元素が好適範囲内にありγ’相が析出していれば、γ’相以外の析出物が存在しても高温強度は確保されている。
【0029】
以上説明した、本発明に係るNi基耐熱合金におけるγ’相の粒径は、10nm〜1μmであることが好ましい。また、その析出量は合金全体に対して合計で20〜85体積%であるものが好ましい。析出強化作用は、10nm以上の析出物で得られるが、1μmを超える粗大な析出物では却って低下する。また、十分な析出強化作用を得るためには、20体積%以上の析出量が必要であるが、85体積%を超える過剰析出量では延性低下が懸念される。好適な粒径、析出量を得るためには、後述する製造方法において、所定温度域において段階的な時効処理を行うことが好ましい。
【0030】
本発明に係るNi基合金の製造においては、通常の溶解鋳造法、一方向凝固、鍛造、単結晶法の何れの方法でも製造可能である。そして、各種方法で製造されるNi合金について、時効熱処理を行うことでγ’相を析出させることができる。この時効熱処理は、700〜1300℃の温度域に加熱する。好ましくは、750〜1200℃の温度域とする。また、このときの加熱時間は、30分〜72時間とするのが好ましい。尚、この熱処理は、例えば1100℃で4時間加熱し、更に900℃で24時間加熱するといったように、複数回行ってもよい。
【0031】
また、時効熱処理に先立って、均質化のための熱処理を行うのが好ましい。この均質化熱処理は、各種方法で製造されるNi合金を1100〜1800℃の温度域に加熱する。好ましくは、1200〜1600℃の範囲で加熱する。このときの加熱時間は、30分〜72時間とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係るNi基合金は、Ni基合金でありながら従来から使用されてきたものよりも高温強度等の高温特性が格段に優れている。これは、本発明者等が従来のNi基合金に替わる耐熱合金として開発した、Ir基合金をも超える強度・延性バランスである。そして、本発明に係るNi基合金は製造性にも優れ、鋳造の際の凝固過程で割れが発生することも無い。また、融点も比較的低温に抑制されており、ロストワックス法も適用可能であり寸法精度に優れた成形も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】第1実施形態のA1合金の反射電子像。
図2】第2実施形態のA5合金、A6合金の二次電子像。
図3】第2実施形態のA6合金の反射電子像。
図4】第2実施形態のA8合金の二次電子像。
図5】第2実施形態のA8合金の反射電子像。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の好適な実施例を説明する。
第1実施形態:ここでは、基本組成となるNi−Ir−Al−W合金を組成を調整しつつ製造した。Ni基合金は、不活性ガス雰囲気中でアーク溶解により溶製し、合金インゴットに鋳造した。本実施形態で製造しNi−Ir−Al−W4元系合金について表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
上記の各組成の合金インゴットから試験片を切り出し、条件を調整しつつ熱処理を行い、各種の検討を行った。
【0037】
[γ’相固溶温度、固相線温度測定]
表1のA1〜A3、B1、B2の合金について熱処理を行い、γ’相の固溶温度、合金の固相線温度の測定を行った。固溶温度、固相線温度測定は走査示差熱量測定(DSC)により行った。この検討は、比較のため、Ni基耐熱材料として知られているWaspaloy合金(56%Ni−19%Cr−13%Co−4%Mo−3%Ti−1.3%Al)についても行っている。この結果を表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
A1〜A3、B1、B2の合金は、Ni合金としてWを添加したものであるが、Wを含まないNi合金であるWaspaloyに対してγ’相の固溶温度が大幅に上昇しており、W添加によるγ’相の高温安定性上昇効果が確認できる。一方、A1〜A3合金(実施例)は、さらにIrを添加したものであるが、B2合金(比較例)と対比したとき、γ’相固溶温度及び固相線温度の双方が上昇している。これは、Ir添加が固相線温度の上昇とγ’相固溶温度の上昇の双方に効果があることによるものと考えられる。このことから、IrとWの同時添加が好適であることが確認できる。但し、B1合金の結果からわかるように、Irの添加量が高くなると、固相線温度及びγ’相固溶温度共に1500℃以上となり、固相線温度が相当高いものなる。
【0040】
図1は、A1合金をSEM観察したときの反射電子像である。この合金は、いずれの熱処理後のものでもγ/γ’2相組織を有し、100〜300nmのγ’相が析出していた。γ'相の体積分率は、約80%であった。
【0041】
[硬度測定]
表1のA1〜A4、B2の合金について、各種の熱処理を行い、硬度測定を行った。硬度測定は、ビッカース試験(荷重500gf、加圧時間15秒、室温)により測定した。この結果を表3に示す。
【0042】
【表3】
【0043】
室温における硬度の観点から見れば、A1〜A3合金は400Hvを超える硬度を有し、A4合金も400Hvに迫る硬度を示す。Irを含まないB2合金(比較例)と対比すると、A1〜A4合金は、Ir添加によってγ’相の強度上昇効果あったものと認められる。
【0044】
[高温酸化特性]
表1のA1、A3、A4、B2の合金について、各種の熱処理を行い、高温酸化特性の評価を行った。高温酸化試験は、2mm×2mm×2mmの寸法に試験片を切り出し、これを大気中1200℃で1、4、24時間熱処理し、その後の重量変化を測定した。この結果を表4に示す。
【0045】
【表4】
【0046】
上記の耐酸化性測定においては、B2合金(比較例)は、1200℃暴露後に酸化被膜が剥離して重量減少しているが、Irを含むA1、A3、A4合金では、わずかな酸化による重量増加にとどまり、B2合金のような激しい酸化による酸化被膜の剥離は少なく、耐酸化性に優れることが確認された。
【0047】
[高温強度特性]
表1のA1、A3の合金について、熱処理を行った後、高温強度を評価した。ここでは、高温圧縮試験を行って応力−ひずみ線図を作成し、これを基にした0.2%耐力を求めた。この結果を表5に示す。
【0048】
【表5】
【0049】
表5から、各実施例に係るNi基合金は、高温(1000℃、1200℃)でも十分な強度を有することがわかる。上記値に関して、公知のNi基超合金であるMar−M247の高温強度は、380MPa(1000℃)、50MPa(1200℃)である。また、Waspaloy合金の場合は、220MPa(1000℃)である。よって、各実施例に係るNi基合金は、これら従来のNi基耐熱合金よりも極めて高い高温強度を有するといえる。
【0050】
第2実施形態:ここでは、各種の添加元素(B、C、Co、Cr、Ta)を添加してNi基合金を製造した。Ni基合金の製造は、第1実施形態と同様、不活性ガス雰囲気中でアーク溶解、鋳造して合金インゴットを製造した。本実施形態で製造しNi−Ir−Al−W系合金について表6に示す。
【0051】
【表6】
【0052】
そして、本実施形態でも上記各組成の合金インゴットから試験片を切り出し、条件を調整しつつ熱処理を行い、各種の検討を行った。
【0053】
[γ’相固溶温度、固相線温度測定]
表6のA5〜A9のNi基合金について、第1実施形態と同様、γ’相の固溶温度と合金の固相線温度の測定を行った。この結果を表7に示す。
【0054】
【表7】
【0055】
[硬度測定]
表6のA5〜A11のNi基合金について、熱処理を行った後硬度測定を行った。硬度測定の条件は第1実施形態と同様である。この結果を表8に示す。
【0056】
【表8】
【0057】
[高温強度特性]
表6のA8、A12、A13のNi基合金について、熱処理を行った後、高温圧縮試験を行って0.2%耐力を求めた。この結果を表9に示す。
【0058】
【表9】
【0059】
以上の結果から、各種の添加元素を添加したNi−Ir−Al−W系合金においてもγ’相の高温安定性の向上、固相線温度の上昇が見られ、γ’相による強度上昇の効果が確認できる。尚、本実施形態のNi合金は、γ’相固溶温度、固相線温度は、添加元素のない合金(第1実施形態)よりも低めであるが、硬度は高くなる傾向があった。これは、各添加元素によるγ’相安定化、炭化物析出、固溶強化の影響によるものと考えられる。B3合金(比較例)も添加元素により比較的高い硬度が得られているが、合金A5〜A9のように、同時にIrを添加することでより高い硬度が得られていることがわかる。そして、高温強度についてみても、優れた結果を示すことが確認できた。
【0060】
図2は、A5合金、A6合金についてSEM観察を行ったときの二次電子像を示す。SEM観察に先立ち、これらの合金については、2段階の時効処理(1200℃×4時間と900℃×24時間)を行っている。この2段階の時効処理により、サイズの異なるγ’相が析出している。これらのγ’相は、300〜800nmの大サイズのγ’相の間に10〜50nmの微細なγ'相が析出している。各合金のγ'相の体積分率は、A5合金で約45%、A6合金で約50%であった。また、図3は、同じ熱処理を行ったA6合金の反射電子像である。写真中で粒界の黒いコントラストはM23炭化物であることがEPMA分析から確認されている。そして、粒内にも白いコントラストの析出相が確認されているが、これはMC炭化物であると推定される。
【0061】
更に、図4は、A8合金についてSEM観察を行ったときの二次電子像を示すこの合金では、100〜200nmのγ’相が析出しており、γ'相の体積分率は約65%であった。また、図5は、A8合金の反射電子像である。粒界を中心に白いコントラストの析出物が観察されるが、これらはM23炭化物とMC炭化物が析出・分散したものである。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、従来のNi基耐熱合金よりも高温強度、耐酸化性等の高温特性に優れるNi合金である。本発明は、ガスタービン、飛行機用エンジン、化学プラント、ターボチャージャーロータ等の自動車用エンジン、高温炉等の部材に好適である。
【0063】
また、耐熱合金の用途として、近年、摩擦攪拌接合(FSW)のツールへの適用が挙げられている。摩擦攪拌接合は、被接合材間にツールを押圧し、ツールを高速回転させながら接合方向に移動させる接合方法である。この接合方法は、ツールと被接合材との摩擦熱と固相攪拌により接合するものであり、ツールは相当高温となる。従来のNi基合金はアルミニウム等の比較的低融点の金属の接合には適用できるが、鉄鋼材料、チタン合金、ニッケル基合金、ジルコニウム基合金などの高融点材料に対しては高温強度の観点から使用できなかった。本発明に係るNi基合金は、高温強度が改善されたことから上述の高融点材料を接合するための摩擦攪拌接合用ツールの構成材料として適用できる。
図1
図2
図3
図4
図5