(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明のクロメン化合物は、下記一般式(1)
【0041】
で示されるインデノ(2,1−f)ナフト(1,2−b)ピラン構造の化合物である。そして、本発明のクロメン化合物は、13位の炭素原子をスピロ原子として、該13位の炭素原子に環構造がスピロ結合した化合物であって、該スピロ原子に対してα位(隣位)に相当する炭素原子にアルキル基を有することが最大の特徴である。α位に置換基を有さない化合物やα位の4つの水素原子が全て置換された化合物は、これまでに知られていた。しかしながら、置換基の数が1〜3である化合物は、これまで知られておらず、その特異的な効果についても知られていなかった。以下、本発明の化合物について、詳細に説明する。
【0042】
<置換基R
1>
R
1は、アルキル基である。本発明のクロメン化合物は、このR
1を有するため、優れた効果を発揮する。
【0043】
ここでアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。好適なアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等を挙げることができる。
【0044】
<置換基R
2およびR
3>
R
2、およびR
3は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基である。
【0045】
前記アルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。好適なアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等を挙げることができる。
【0046】
前記アルコキシ基としては、炭素数1〜6のアルコキシ基が好ましい。好適なアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等を挙げることができる。
【0047】
なお、一般式(1)において、R
3が結合する炭素原子は、1つの水素原子を有する。この構造となることにより、得られるクロメン化合物は優れた効果を発揮する。
【0048】
<置換基R
1、R
2、およびR
3の組み合わせ>
原料の入手のしやすさという観点から、前述の置換基R
2、およびR
3は、それぞれ独立に、水素原子、又はアルキル基であることが好ましい。アルキル基の場合、前述の置換基R
1と同一のアルキル基となることが好ましい。
【0049】
また、本発明のクロメン化合物は、置換基の種類によっては構造異性体となる場合がある。この構造異性体は分離が困難であるため、生産性を考慮すると、本発明のクロメン化合物は、構造異性体とならない化合物が好ましい。そのため、置換基R
3は、水素原子であることが好ましい。そして、置換基R
1と置換基R
2は、同一のアルキル基となることが好ましく、特に、両者が、メチル基となることが好ましい。
【0050】
<置換基R
4、およびR
5は>
R
4、およびR
5は、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、ハロアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、環員窒素原子を有し且つその窒素原子でそれが結合している炭素原子に結合する複素環基、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アラルキル基、アラルコキシ基、アリールオキシ基、アリール基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、またはヘテロアリールチオ基である。
【0051】
また、R
4、およびR
5は、R
4とR
5とが一緒になって、それらが結合する炭素原子と共に、脂肪族環、または酸素原子あるいは窒素原子を含む複素環を形成してもよい。
【0052】
前記アルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。好適なアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等を挙げることができる。
【0053】
前記ハロアルキル基としては、フッ素原子、塩素原子もしくは臭素原子で置換された炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。好適なハロアルキル基の例としては、トリフルオロメチル基、テトラフルオロエチル基、クロロメチル基、2−クロロエチル基、ブロモメチル基等を挙げることができる。
【0054】
前記シクロアルキル基としては、炭素数3〜8のシクロアルキル基が好ましい。好適なシクロアルキル基の例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。
【0055】
前記アルコキシ基としては、炭素数1〜6のアルコキシ基が好ましい。好適なアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等を挙げることができる。
【0056】
前記アミノ基は、アミノ基(−NH
2)に限定されるものではなく、1つまたは2つの水素原子が置換されていてもよい。かかるアミノ基が有する置換基としては、例えば炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数3〜7のシクロアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、炭素数4〜14のヘテロアリール基等が挙げられる。好適なアミノ基の例としては、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基等を挙げることできる。
【0057】
前記環員窒素原子を有し且つその窒素原子でそれが結合している炭素原子に結合する複素環基は、例えばモルホリノ基、ピペリジノ基、ピロリジニル基、ピペラジノ基、N−メチルピペラジノ基の如き脂肪族複素環基およびインドリニル基の如き芳香族複素環基等を好ましいものとして挙げることができる。さらに、該複素環基は、置換基を有していてもよい。好ましい置換基としては、アルキル基が挙げられる。置換基を有する好適な複素環基としては、例えば2,6−ジメチルモルホリノ基、2,6−ジメチルピペリジノ基および2,2,6,6−テトラメチルピペリジノ基等が挙げられる。
【0058】
前記アルキルカルボニル基としては、炭素数2〜7のアルキルカルボニル基が好ましい。好適なアルキルカルボニル基の例としては、アセチル基、エチルカルボニル基が挙げられる。
【0059】
前記アルコキシカルボニル基としては、炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基が好ましい。好適なアルコキシカルボニル基の例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基が挙げられる。
【0060】
前記ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができる。
【0061】
前記アラルキル基としては、例えば炭素数7〜11のアラルキル基が好ましい。好適なアラルキル基の例としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、ナフチルメチル基等を挙げることができる。
【0062】
前記アラルコキシ基としては、炭素数7〜11のアラルコキシ基が好ましい。好適なアラルコキシ基の例としては、ベンジロキシ基、ナフチルメトキシ基等を挙げることができる。
【0063】
前記アリールオキシ基としては、炭素数6〜12のアリールオキシ基が好ましい。好適なアリールオキシ基の例としては、フェニルオキシ基、ナフチルオキシ基等を挙げることができる。
【0064】
前記アリール基としては、例えば炭素数6〜14のアリール基が好ましい。好適なアリール基の具体例としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等を挙げることができる。
【0065】
これらのアラルキル基、アラルコキシ基、アリールオキシ基、およびアリール基は、ベンゼンもしくはナフタレン環の1〜7個の水素原子、特に好ましくは1〜4個の水素原子が、前記のヒドロキシル基、アルキル基、ハロアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0066】
前記アルキルチオ基としては、炭素数1〜6のアルキルチオ基が好ましい。好適なアルキルチオ基の例としては、メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、n−ブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基等を挙げることができる。
【0067】
前記シクロアルキルチオ基としては、炭素数3〜8のシクロアルキルチオ基が好ましい。好適なシクロアルキルチオ基の例としては、シクロプロピルチオ基、シクロブチルチオ基、シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基等を挙げることができる。
【0068】
前記アリールチオ基としては、炭素数6〜10のアリールチオ基が好ましい。好適なアリールチオ基の例としては、フェニルチオ基、1−ナフチルチオ基、2−ナフチルチオ基等を挙げることができる。
【0069】
前記ヘテロアリールチオ基としては、炭素数4〜12のヘテロアリールチオ基が好ましい。好適なヘテロアリールチオ基の例としては、チエニルチオ基、フリルチオ基、ピロリルチオ基、ピリジルチオ基、ベンゾチエニルチオ基、ベンゾフリルチオ基、ベンゾピロリルチオ基等を挙げることができる。
【0070】
前記アリールチオ基および前記ヘテロアリールチオ基は、その基の1〜9個の水素原子、特に好ましくは1〜4個の水素原子が、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数3〜8のシクロアルキル基またはハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0071】
また、R
4、およびR
5が、R
4とR
5とが一緒になって、それらが結合する炭素原子と共に、脂肪族環、または酸素原子あるいは窒素原子を含む複素環を形成している場合、該環を構成する原子数は4〜8であることで好ましく、5または6であることが特に好ましい。この環は、置換基を有していてもよい。また、窒素原子を有する複素環の場合には、該窒素原子は、置換基を有することもできる。好適な脂肪族環または複素環として、下記に示す環が挙げられる。
【0073】
なお、破線で示した結合手を有する炭素原子が、6位、7位の炭素原子である。
【0074】
上述のR
4、およびR
5は、光照射時の色調に与える影響が大きく、中間色の色調を得るためには、上記の基の中でも、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、環員窒素原子を有し且つその窒素原子でそれが結合している炭素原子に結合する複素環基、アラルキル基、アラルコキシ基、アリールオキシ基、アリール基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、またはヘテロアリールチオ基が好ましい。これらの中でも、アルコキシ基、アミノ基、環員窒素原子を有し且つその窒素原子でそれが結合している炭素原子に結合する複素環基、アリール基、アルキルチオ基、またはアリールチオ基であることが特に好ましい。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、ジメチルアミノ基、モルホリノ基、ピペリジノ基、2,6−ジメチルモルホリノ基、フェニル基、4−メトキシフェニル基、4−ジメチルアミノフェニル基、4−モルホリノフェニル基、2,4−ジメトキシフェニル基、メチルチオ基、フェニルチオ基が最適な基として挙げられる。
【0075】
この中間色の色調を発現するR
4、およびR
5の基と、13位の炭素原子に結合する、α位にアルキル基を有するスピロ環との組み合わせにより、サーモクロミズムによる初期着色(光未照射時の初期着色)を大幅に改善できると共に、ダブルピーク性をも高めることができる。
【0076】
<置換基R
6およびR
7>
R
6、およびR
7は、それぞれ独立に、ヒドロキシル基、アルキル基、ハロアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、環員窒素原子を有し且つその窒素原子でそれが結合している炭素原子に結合する複素環基、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アラルキル基、アラルコキシ基、アリールオキシ基、アリール基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、またはヘテロアリールチオ基である。
【0077】
R
6、およびR
7において、アルキル基、ハロアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、環員窒素原子、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アラルキル基、アラルコキシ基、アリールオキシ基、アリール基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、またはヘテロアリールチオ基は、前記R
4、およびR
5の置換基で説明した基と同様の基が挙げられる。
【0078】
また、aは、0〜2の整数であり、R
6の基の数である。aが2である場合、2つのR
6は、互いに同一であっても異なってもよい。bは、0〜4の整数であり、R
7の基の数である。bが2〜4の整数である場合、複数のR
7は、互いに同一であっても異なってもよい。
【0079】
上述のR
6、およびR
7は、退色速度に及ぼす影響が大きい。そのため、速い退色速度を得るためには、R
6は、立体的に小さい置換基であることが好ましく、特に好適なR
6は、水素原子(aが0である場合)である。
【0080】
一方、R
7としては、速い退色速度が得られるという点で、水素原子(bが0である場合)、ハロアルキル基、またはシアノ基が好ましい。好適なR
7としては、具体的には、水素原子、トリフルオロメチル基、シアノ基が特に好ましい。また、より速い退色速度を得るためには、bが1以上の場合、基R
7は11位の炭素原子に結合していることが好ましい。
【0081】
<置換基R
8、およびR
9>
R
8、およびR
9は、それぞれ、下記式(2)で示される基、下記式(3)で示される基、アリール基、ヘテロアリール基、またはアルキル基である。
【0084】
前記式(2)中のR
10は、アリール基またはヘテロアリール基である。ここで、アリール基としては、R
4およびR
5について既に説明した基と同じ基が挙げられる。
【0085】
前記ヘテロアリール基は、特に制限されないが、酸素原子、窒素原子または硫黄原子を1〜2個含む5〜7員環の芳香族環、またはそれらのベンゼン環との縮合環よりなるヘテロアリール基が好適である。好適なヘテロアリール基を例示すると、チエニル基、フリル基、ピロリニル基、ピリジル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾピロリニル基等を挙げることができる。
【0086】
なお、ヘテロアリール基は、その基の1〜7個の水素原子、特に好ましくは1〜4個の水素原子が、前記のヒドロキシル基、アルキル基、ハロアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、環員窒素原子を有し且つその窒素原子でそれが結合している炭素原子に結合する複素環基、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0087】
また、R
11は、水素原子、アルキル基またはハロゲン原子である。好ましいアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。またハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を挙げることができる。
【0088】
mは1〜3の整数である。原料入手の観点からmは1であるのが好適である。
【0089】
前記式(2)で示される基のうち好適な基の例としては、フェニル−エテニル基、(4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニル)−エテニル基、(4−モルホリノフェニル)−エテニル基、(4−ピペリジノフェニル)−エテニル基、(4−メトキシフェニル)−エテニル基、(2−メトキシフェニル)−エテニル基、フェニル−1−メチルエテニル基、(4−メトキシフェニル)−1−メチルエテニル基、フェニル−1−フルオロエテニル基、(4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニル)−1−フルオロエテニル基、2−チエニル−エテニル基、2−フリル−エテニル基、2−(N−メチル)ピロリニル−エテニル基、2−ベンゾチエニル−エテニル基、2−ベンゾフラニル−エテニル基および2−(N−メチル)インドリル−エテニル基等を挙げることができる。
【0090】
前記式(3)において、R
12は、アリール基またはヘテロアリール基である。これらの基はR
10と同様に理解される。また、nは1〜3の整数である。原料入手の容易さの観点からnは1であるのが好適である。
【0091】
前記式(3)で示される基のうち好適な基の例示としては、フェニル−エチニル基、(4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニル)−エチニル基、(4−モルホリノフェニル)−エチニル基、(4−ピペリジノフェニル)−エチニル基、(4−メトキシフェニル)−エチニル基、(4−メチルフェニル)−エチニル基、(2−メトキシフェニル)−エチニル基、2−チエニル−エチニル基、2−フリル−エチニル基、2−(N−メチル)ピロリニル−エチニル基、2−ベンゾチエニル−エチル基、2−ベンゾフラニル−エチニル基および2−(N−メチル)インドリル−エチニル基等を挙げることができる。
【0092】
R
8、およびR
9のアリール基、またはアルキル基としては、R
4およびR
5について既に説明した基と同じ基が挙げられる。また、R
8およびR
9のヘテロアリール基としては、R
10について既に説明した基と同じ基が挙げられる。
【0093】
また、R
8およびR
9は、それらが結合する炭素原子と一緒になって脂肪族炭化水素環を形成することもできる。脂肪族炭化水素環としては、好適な具体例として、アダマンタン環、ビシクロノナン環、ノルボルナン環およびフルオレン環等を挙げることができる。
【0094】
前記一般式(1)のクロメン化合物が特に優れたフォトクロミック特性(ダブルピーク性および退色速度)を発揮するためには、上記R
8、およびR
9の少なくとも一方、好ましくは両方が、アリール基、またはヘテロアリール基であることが好ましい。特に、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、または環員窒素原子を有し且つその窒素原子でそれが結合している炭素原子に結合する複素環基から選ばれる置換基を少なくとも1つ以上有しているアリール基は特に好ましい。該置換基が結合する位置は、前記式(I)における3位の炭素原子と結合する位置に対してパラ位であることが好ましい。このような好適なアリール基を具体的に例示すると、4−メチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,4−ジメトキシフェニル基、4−n−プロポキシフェニル基、4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニル基、4−(N,N−ジエチルアミノ)フェニル基、4−モルホリノフェニル基、4−ピペリジノフェニル基、3−(N,N−ジメチルアミノ)フェニル基、4−(2,6−ジメチルモルホリノ)フェニル基等を挙げることができる。
【0095】
<2価基Z>
Zは、アルキレン基、シクロアルキレン基、またはアリレン基から選ばれる2価の基である。
【0096】
前記アルキレン基としては、直鎖状、または分岐状のいずれの形状であってもよく、炭素数1〜15のアルキレン基が好ましい。中でも、直鎖状、および分岐状の側鎖を除いた部分(すなわち直鎖状の部分)の炭素数が1〜12のアルキレン基であることが好ましい。分岐状のアルキレン基の場合、側鎖となる基は、炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、原料の入手という観点からメチル基であることが特に好ましい。
【0097】
好適なアルキレン基を具体的に例示すると、メチレン基、エチレン基、1,1−ジメチルエチレン基{−C(CH
3)(CH
3)CH
2−}、プロピレン基{−CH(CH
3)CH
2−}、トリメチレン基、1,1−ジメチルトリメチレン基{−C(CH
3)(CH
3)CH
2CH
2−}、2,2−ジメチルトリメチレン{−CH
2C(CH
3)(CH
3)CH
2−}、1,1,3,3−テトラメチルトリメチレン基{−C(CH
3)(CH
3)CH
2C(CH
3)(CH
3)−}、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。なお、非対称な構造を有するアルキレン基においては、アルキレン基の両末端が結合する向きに特に制限はない。
【0098】
前記シクロアルキレン基としては、炭素数5〜10のシクロアルキレン基が好ましい(シクロアルキレン基を構成する炭素の数が5〜10であることが好ましい。)。また、シクロアルキレン基上の水素原子の1つまたは複数個がメチル基で置換されていてもよい。好適なシクロアルキレン基を具体的に例示すると、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基、シクロヘプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基等が挙げられる。
【0099】
前記アリレン基としては、炭素数6〜14のアリレン基が好ましい(アリレン基を構成する炭素の数が6〜14であることが好ましい。)。また、アリレン上の水素原子の1つまたは複数個が炭素数1〜4のアルキル基もしくは炭素数1〜4のアルコキシ基で置換されていてもよい。好適なアリレン基を具体的に例示すると、1,2−フェニレン基、1,2−ナフチレン基、1,8−ナフチレン基、1,1’−ビフェニレン基等が挙げられる。
【0100】
<好ましいスピロ環>
上記の2価基Zは、本発明のインデノ(2,1−f)ナフト(1,2−b)ピラン構造において、13位の炭素原子をスピロ原子として結合する環を形成する基である。前記一般式(1)のクロメン化合物が高い退色速度と適度な退色速度を示すという点から、13位のスピロ原子と2価基Zを含む環基として最適なものは、以下に例示できる。
【0102】
なお、13と記した炭素原子が、13位の炭素原子である。
【0103】
<特に好適なクロメン化合物>
本発明において特に好適なクロメン化合物を具体的に例示すれば、次のような化合物を挙げることができる。
【0105】
(クロメン化合物の同定)
本発明のクロメン化合物は、一般に常温常圧で無色、あるいは淡黄色、淡緑色の固体または粘稠な液体として存在し、次の(イ)〜(ハ)のような手段で確認できる。
(イ) プロトン核磁気共鳴スペクトル(
1H−NMR)を測定することにより、δ:5.5〜9.0ppm付近にアロマティックなプロトンおよびアルケンのプロトンに基づくピーク、δ:−1.0〜4.5ppm付近にアルキル基およびアルキレン基のプロトンに基づくピークが現れる。また、それぞれのスペクトル強度を相対的に比較することにより、それぞれの結合基のプロトンの個数を知ることができる。
(ロ) 元素分析によって相当する生成物の組成を決定することができる。
(ハ) 13C−核磁気共鳴スペクトル(
13C−NMR)を測定することにより、δ:110〜160ppm付近に芳香族炭化水素基の炭素に基づくピーク、δ:80〜140ppm付近にアルケンおよびアルキンの炭素に基づくピーク、δ:20〜80ppm付近にアルキル基およびアルキレン基の炭素に基づくピークが現われる。
【0106】
<クロメン化合物の製造>
本発明のクロメン化合物の製造方法は、特に限定されず如何なる合成法によって得てもよい。前記一般式(1)で示されるクロメン化合物は例えば次のような方法で好適に製造することができる。
すなわち、下記式(4)
【0108】
(式中、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、Z、aおよびbは、前記式(1)におけるものと同義である)で示されるナフトール化合物と、下記式(5)
【0110】
(式中、R
8およびR
9は、前記式(1)におけるものと同義である)で示されるプロパルギルアルコール化合物を、酸触媒存在下で反応させる方法により好適に製造することができる。ナフトール化合物とプロパルギルアルコール化合物との反応比率は、広い範囲から採用されるが、一般には1:10〜10:1(モル比)の範囲から選択される。また、酸触媒としては硫酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩、シリカゲル、酸性アルミナ等が用いられ、ナフトール化合物とプロパルギルアルコール化合物との総和100重量部当り0.1〜10重量部の範囲で用いられる。反応温度は、0〜200℃が好ましく、溶媒としては、非プロトン性有機溶媒、例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン等が好ましく使用される。かかる反応により得られた生成物の精製方法としては特に限定されない。例えば、シリカゲルカラム精製を行い、さらに再結晶により、生成物の精製を行なうことができる。
【0111】
(ナフトール化合物、及び合成方法)
一般的なナフトール化合物は、例えば、Journal of Organic Chemistry 69(10)3282−3293,2004、Synthetic Communications 23(16)2241−2249(1993)、WO01/60881等の論文に記載に反応方法に基づいて合成することができる。
【0112】
前記式(4)で示されるナフトール化合物の合成方法を具体的に例示すれば、以下の方法を挙げることができる。
【0115】
で示されるベンゾフェノン化合物(式中、R
4、R
5、R
6、R
7、aおよびbは前記式(1)におけるものと同義である)を出発原料として、Stobbe反応、環化反応、加水分解反応を行うことで、下記式(7)
【0117】
のカルボン酸化合物を得る。その後、前記式(7)で示されるカルボン酸を炭酸カリウム等の塩基と塩化ベンジルを用いることでベンジル化を行い、次いで加水分解を行い、下記式(8)
【0119】
で示されるベンジル保護されたカルボン酸を得る。次いで、前記式(8)で示されるベンジル保護されたカルボン酸を、Curtius転位、Hofmann転位、Lossen転位等の方法によりカルボン酸をアミンに変換し、これからジアゾニウム塩を調製する。このジアゾニウム塩を、Sandmeyer反応等により臭素化またはヨウ素化して下記式(9)
【0124】
で示される環状ケトン化合物を準備する。本発明で用いる環状ケトン化合物は市販されているものをそのまま用いてもよいが、公知の方法で合成してもよい。例えば、Tetrahedron Letters,vol.34.7395−7398(1993)、Journal of Organic Chemistry,vol.58.4469−4470(1993)、Organic and Bio−Chemistry,1697−1703(1990)等の文献に記載の方法が適用できる。
【0125】
前記式(9)のハライド化合物をマグネシウムやリチウム等と反応させ有機金属試薬を調製する。この有機金属試薬を、前記式(10)の環状ケトン化合物と、−80〜70℃、10分〜4時間、有機溶媒中で反応させ、下記式(11)
【0127】
で示されるアルコール化合物を得る。その後、前記式(11)で示されるアルコール化合物を中性〜酸性条件下において10〜120℃で10分〜4時間反応させ、アルコール化合物のスピロ化反応と脱ベンジル反応を同時に行い、目的とする前記式(4)のナフトール化合物を合成することができる。かかる反応において、前記有機金属試薬と前記式(10)で示される環状ケトン化合物との反応比率は、広い範囲から採用されるが、好ましくは1:10〜10:1(モル比)の範囲から選択される。反応温度は、−80〜70℃が好ましく、溶媒としては、非プロトン性有機溶媒、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン等が好ましく使用される。また、アルコール体の中性〜酸性条件下でのスピロ化は、硫酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の酸触媒を用いて行うことが好ましく、このような酸触媒は、アルコール体100重量部当り0.1〜10重量部の範囲で用いるのが好適である。スピロ化に際しては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の溶媒が使用される。
【0128】
(好適なナフトール化合物)
好適なナフトール化合物としては、下記式で示される化合物が挙げられる。
【0130】
(プロパルギルアルコール化合物)
また、前記式(5)で示されるプロパルギルアルコール化合物は、種々の方法で合成することができる。例えば、ケトン化合物とリチウムアセチリド等の金属アセチレン化合物と反応させることにより、容易に合成できる。
【0131】
本発明のクロメン化合物は、前記ナフトール化合物とプロパルギルアルコール化合物とを反応させることにより得られる。得られたクロメン化合物は、トルエン、クロロホルム、テトラヒドロフラン等の汎用の有機溶媒によく溶ける。このような溶媒に前記式(1)で示されるクロメン化合物を溶かしたとき、一般に溶液はほぼ無色透明であり、太陽光あるいは紫外線を照射すると速やかに発色し、光を遮断すると可逆的に速やかに元の無色にもどる良好なフォトクロミック作用を呈する。
【0132】
(他のフォトクロミック化合物との組み合わせ)
本発明のクロメン化合物は、単独で中間色を示すものもある。ただし、フォトクロミックレンズとして要求される様々な色調を得るために、他のフォトクロミック化合物と組み合わせて用いることもできる。組み合わせるフォトクロミック化合物は、公知の化合物を何ら制限なく用いることができる。例えば、フルギド、フルギミド、スピロオキサジン、クロメン等が挙げられる。中でも、発退色時の色調を均一に保つことができ、フォトクロミック性の劣化に伴う発色時の色ずれを抑制でき、さらに、初期着色を小さくできるという点からクロメン化合物が特に好ましい。
【0133】
本発明のクロメン化合物を含有し、さらに、発色感度、退色速度が良好で、且つ、初期着色の小さい、他のクロメン化合物を組み合わせることにより、発退色時の色調が均一で、且つ、高い透明性を与えるフォトクロミック組成物を得ることができる。
【0134】
これらの好適な他のクロメン化合物は、具体的には、下記(12a)や(12b)のクロメン化合物をあげることができる。
【0137】
前記式(12a)において、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8およびR
9は式(1)で示したものと同義である。
【0138】
また、R
13、およびR
14は、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6アルコキシ基である。
【0139】
さらに、R
13、およびR
14はそれらが結合する13位の炭素原子と共に、
環員炭素数が3〜20である脂肪族環であり、例えばシクロペンタン環、2,2,5,5−テトラメチルシクロペンタン環、シクロヘキサン環、3,3,5,5−テトラメチルシクロヘキサン環、シクロオクタン環、シクロヘプタン環、ノルボルナン環、ビシクロノナン環、アダマンタン環、
前記脂肪族環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環であり、例えばフェナントレン環、
環員原子数が3〜20である複素環であり、例えばチオフェン環、フラン環、ピリジン環、または、
前記複素環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環であり、例えばフェニルフラン環、ビフェニルチオフェン環、
を形成するものであってもよい。
【0140】
前記式(12a)で示されるクロメン化合物は、例えば、国際公開第WO2001/60811号パンフレット、国際公開第WO2005/028465号パンフレット、国際公開第WO2011/016582号パンフレットに記載の化合物が挙げられる。
【0141】
前記式(12b)において、R
6、R
7、R
8およびR
9は式(1)で示したものと同義であり、cおよびdは、それぞれ独立に0から4の整数である。
【0142】
前記式(12b)で示されるクロメン化合物は、例えば、国際公開第WO2009/136668号パンフレットに記載の化合物が挙げられる。
【0143】
前記式(12a)、(12b)で示されるクロメン化合物の中でも、高い透明性を付与するためには、以下の特性を有するクロメン化合物を選択することが好ましい。具体的には、サーモクロミズムによる透過率の差(ΔT%:波長800nmにおける透過率(T
800%)と極大吸収波長λmaxにおける透過率(T'
λ%)との差)が20%以下であり、紫外線吸収曲線の吸収端が380〜430nmであるクロメン化合物を選択して使用することが好ましい。また、サーモクロミズムによる透過率の差(ΔT%)が7%以下であり、紫外線吸収曲線の吸収端が380〜430nmであるクロメン化合物がより好ましい。さらに、サーモクロミズムによる透過率の差(ΔT%)が5%以下であり、紫外線吸収曲線の吸収端が390〜420nmであるクロメン化合物が最も好ましい。なお、このサーモクロミズムによる透過率の差(ΔT%)、および紫外線吸収曲線の吸収端は、下記の実施例で記載した方法により測定した値である。
【0144】
上記の通り、本発明のクロメン化合物は、優れた効果を発揮する。そのため、色調調整を行う際、他のクロメン化合物と混合したフォトクロミック組成物は、優れた効果を発揮する。そのため、公知のクロメン化合物、特に好ましくは、前記式(12a)、(12b)で示されるクロメン化合物と本発明のクロメン化合物とを配合したフォトクロミック組成物は、優れた効果を発揮する。
【0145】
また、本発明のクロメン化合物と他のクロメン化合物とを含むフォトクロミック組成物とする場合、各クロメン化合物の配合割合は、所望とする色調に応じて適宜決定すればよい。該フォトクロミック組成物が重合性単量体を含む硬化性組成物である場合には、本発明のクロメン化合物、および必要に応じて配合される他のクロメン化合物との合計量が、重合性単量体100質量部に対し0.001〜10質量部とするのが好ましい。また、該硬化性組成物をコーティングのような薄膜(例えば100μm程度の薄膜の場合)とする場合には、重合性単量体100質量部に対して、本発明のクロメン化合物0.001〜5.0質量部、他のクロメン化合物0.001〜5.0質量部の範囲で色調を調整することが好ましい。一方、該硬化性組成物を厚い硬化体(例えば1ミリ以上の場合)とする場合には、重合性単量体100質量部に対して、本発明のクロメン化合物0.001〜0.5質量部、他のクロメン化合物0.001〜0.5質量部の範囲で色調を調整することが好ましい。
【0146】
(組み合わせる安定剤)
本発明のクロメン化合物は、そのままでも耐久性が高いが、下記に示す紫外線吸収剤、光安定剤、および酸化防止剤等と併用することにより、さらに耐久性を高くすることができる。
【0147】
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物等の公知の紫外線吸収剤を使用することができる。中でも、シアノアクリレート系化合物、ベンゾフェノン系化合物を使用することが好ましい。上記紫外線安定剤を前記硬化性組成物に配合する場合には、該紫外線安定剤の配合量は、重合性単量体100質量部に対し、0.001〜5質量部であることが好ましい。
【0148】
また、光安定剤としては公知のヒンダードアミンを、酸化防止剤としては公知のヒンダードフェノールを使用することができる。上記の光安定剤、および/または酸化防止剤を配合する場合には、光安定剤、および/または酸化防止剤の配合量は、重合性単量体100質量部に対し、0.01〜10質量部であることが好ましい。
【0149】
(クロメン化合物の用途)
本発明のクロメン化合物は、高分子固体マトリックス中でも優れたフォトクロミック特性を示す。そのため、本発明のクロメン化合物は、該高分子固体マトリックス中に分散させた状態で様々な用途に用いることができる。対象となる高分子固体マトリックスとしては、本発明のクロメン化合物が均一に分散するものであればよく、光学的に好ましくは、例えばポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリジメチルシロキサン、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂を挙げることができる。
【0150】
さらに、ラジカル重合性多官能単量体を重合してなる熱硬化性樹脂も、高分子マトリックスとして用いることができる。このようなラジカル重合性多官能単量体としては、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールビスグリシジルメタクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン等の多価アクリル酸および多価メタクリル酸エステル化合物;ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルイソフタレート、酒石酸ジアリル、エポキシこはく酸ジアリル、ジアリルフマレート、クロレンド酸ジアリル、ヘキサフタル酸ジアリル、ジアリルカーボネート、アリルジグリコールカーボネート、トリメチロールプロパントリアリルカーボネート等の多価アリル化合物;1,2−ビス(メタクリロイルチオ)エタン、ビス(2−アクリロイルチオエチル)エーテル、1,4−ビス(メタクリロイルチオメチル)ベンゼン等の多価チオアクリル酸および多価チオメタクリル酸エステル化合物;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、β−メチルグリシジルメタクリレート、ビスフェノールA−モノグリシジルエーテル−メタクリレート、4−グリシジルオキシメタクリレート、3−(グリシジル−2−オキシエトキシ)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−(グリシジルオキシ−1−イソプロピルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−グリシジルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルアクリレート等のアクリル酸エステル化合物およびメタクリル酸エステル化合物;ジビニルベンゼン等を例示することができる。
【0151】
また、上述したラジカル重合性多官能単量体を、ラジカル重合性単官能単量体と共重合させた共重合体も、前記高分子マトリックスとして使用することができる。このようなラジカル重合性単官能単量体としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等のアクリル酸およびメタクリル酸エステル化合物;フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;メチルチオアクリレート、ベンジルチオアクリレート、ベンジルチオメタクリレート等のチオアクリル酸およびチオメタクリル酸エステル化合物;スチレン、クロロスチレン、メチルスチレン、ビニルナフタレン、α−メチルスチレンダイマー、ブロモスチレン等のビニル化合物等が挙げられる。
【0152】
本発明のクロメン化合物を上記高分子固体マトリックス中へ分散させる方法は、一般的な手法を用いることができる。例えば、上記熱可塑性樹脂とクロメン化合物を溶融状態にて混練してクロメン化合物を樹脂中に分散させる方法が挙げられる。あるいは、上記重合性単量体にクロメン化合物を溶解させた後、重合触媒を加え熱または光にて重合させてクロメン化合物を樹脂中に分散させる方法が挙げられる。さらには、上記熱可塑性樹脂、または熱硬化性樹脂の表面にクロメン化合物を染色することによりクロメン化合物を樹脂中に分散させる方法等を挙げることができる。
【0153】
本発明のクロメン化合物は、フォトクロミック材として広範囲に利用でき、例えば、銀塩感光材に代る各種の記憶材料、複写材料、印刷用感光体、陰極線管用記憶材料、レーザー用感光材料、ホログラフィー用感光材料などの種々の記憶材料として利用できる。その他、本発明のクロメン化合物を用いたフォトクロミック材は、フォトクロミックレンズ材料、光学フィルター材料、ディスプレイ材料、光量計、装飾などの材料としても利用できる。
【0154】
フォトクロミックレンズを製造する場合には、均一な調光性能が得られる方法であれば、特に制限されるものではない。例えば、本発明のクロメン化合物を均一に分散してなるポリマーフィルムをレンズ中にサンドウイッチする方法でフォトクロミックレンズを製造できる。あるいは、本発明のクロメン化合物を前記の重合性単量体中に分散させ、所定の手法で重合することによりフォトクロミックレンズを製造できる。さらには、本発明のクロメン化合物を、例えばシリコーンオイル中に溶解し、得られた溶液を150〜200℃で10〜60分かけてレンズ表面に含浸させ、さらにその表面を硬化性物質で被覆し、フォトクロミックレンズを製造することもできる。また、上記ポリマーフィルムをレンズ表面に塗布し、その表面を硬化性物質で被覆し、フォトクロミックレンズを製造することもできる。
【0155】
本発明のクロメン化合物、および重合性単量体とを含有する硬化性組成物を使用してフォトクロミックレンズを製造する場合には、該硬化性組成物をコーティング剤として使用することもできる。具体的には、該コーティング剤をレンズ基材の表面に塗布し、塗膜を硬化させてフォトクロミックレンズを製造すればよい。このとき、レンズ基材には、予め、アルカリ性溶液による表面処理、あるいはプラズマ処理等の表面処理を施してもよい。さらに、これら表面処理と併せて、またはこれら表面処理を行なわずに、レンズ基材とコート膜との密着性を向上させるためにプライマーを施用してもよい。
【実施例】
【0156】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0157】
実施例1
(ナフトール化合物の合成)
3−ブロモ−4−メトキシベンゾフェノン 50.0g(172mmol)と4−メトキシフェニルボロン酸 28.7g(189mmol)を1,2−ジメトキシエタン 250mlに加え、これにエタノール 25ml、10%炭酸ナトリウム水溶液 400g、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム 0.05g(0.043mmol)を加えて、78℃で反応させた。3時間後、反応液にトルエン1000mlを加え、有機層を水で洗浄し、溶媒を除去した後、メタノール200mlで再結晶することで、下記式(13)
【0158】
【化27】
【0159】
で示される4−メトキシ−3−(4−メトキシフェニル)ベンゾフェノンを白色固体51.6g(162mmol、収率94%)として得た。
【0160】
このベンゾフェノン化合物とコハク酸ジエチル 32.5g(186mmol)をテトラヒドロフラン 150mlに溶解した。この溶液に、カリウム−t−ブトキシド 23.6g(211mmol)のテトラヒドロフラン溶液を滴下し、55℃で2時間反応した。その後、濃塩酸および塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、溶媒を除去した。得られたオレンジ色のオイルに、無水酢酸 82.7g(810mmol)、酢酸ナトリウム 13.3g(162mmol)、トルエン 200mlを加え、還流温度で2時間反応させた。その後、水で洗浄を行い、溶媒を除去した。得られた赤褐色のオイルに、メタノール 200mlと10%水酸化ナトリウム水溶液 265gを加え、還流温度で3時間反応させた。その後、メタノールを留去し、濃塩酸とトルエン 300mlを加え、有機層を水で洗浄し、溶媒を除去した。これに酢酸エチル 600mlを加えて還流温度で1時間撹拌し、5℃に冷却した。析出した固体をろ過し、ろ液の溶媒を除去し、トルエン 800mlを加え、還流温度で1時間撹拌し、5℃に冷却した。析出した固体をろ過し、下記式(14)
【0161】
【化28】
【0162】
で示されるカルボン酸化合物を淡黄色固体17.7g(44.1mmol、収率27%)として得た。
【0163】
このカルボン酸化合物をジメチルホルムアミド 177mlに溶解させ、これに、炭酸カリウム 15.2g(110mmol)と塩化ベンジル12.3g(96.9mmol)を加え、60℃で2時間反応させた。その後、トルエン500mlを加え、有機層を水で洗浄し、溶媒を除去した。これに、2−プロパノール 170ml、20%水酸化ナトリウム水溶液 110gを加え、還流温度で4時間反応させた。その後、2−プロパノールを除去し、濃塩酸とテトラヒドロフラン200mlを加え、有機層を10%塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、溶媒を除去した。これにトルエン200mlを加え、還流温度で1時間撹拌、5℃に冷却して1時間撹拌後、析出した固体をろ過することで、下記式(15)
【0164】
【化29】
【0165】
で示されるベンジル保護されたカルボン酸体を白色固体19.0g(38.8mmol、収率88%)として得た。
【0166】
これをトルエン 190mlに分散させ、トリエチルアミン 11.7g(116mmol)、ジフェニルホスホリルアジド 13.8g(50.3mmol)を加え、20℃で3時間撹拌した後に、エタノール 9.1g(197mmol)を加え、70℃で1時間反応させた。この溶液に水酸化カリウム 21.7g(387mmol)を加え、還流温度で3時間撹拌した後に、20%塩化ナトリウム水溶液で有機層を洗浄した。溶媒を除去し、アセトニトリル 360ml、6%塩酸 118g(194mmol)を加え、5℃に冷却した。これに、33%亜硝酸ナトリウム水溶液 12.2g(58.1mmol)と50%ヨウ化カリウム水溶液 64.3g(194mmol)を滴下し、20℃で3時間撹拌した。反応後、トルエンを加え、有機層を水で洗浄し、有機層を除去し、シリカゲルを用いたクロマトグラフィーにより精製し、下記式(16)
【0167】
【化30】
【0168】
で示されるヨウ素体化合物を淡黄色固体15.6g(27.3mmol、収率70%)として得た。
【0169】
また、ケトン化合物は、以下のように合成した。先ず、下記式
【0170】
【化31】
で示される4,4−ジメチルシクロヘキセ−2−ノン 6.2g(50mmol)を酢酸
【0171】
エチル62mlに溶解させ、これに5%パラジウムカーボン(50wt%含水品)を1.24g添加し、水素雰囲気下、23℃で24時間撹拌した。その後、反応液をろ過し、溶媒を除去し、これにt−ブタノール300ml、カリウム−t−ブトキシド 60.5g(500mmol)、ヨウ化メチル 71.0g(500mmol)を加え、23℃で12時間反応させた。これにトルエンを加え、有機層を水で洗浄し、溶媒を除去した。シリカゲルを用いたクロマトグラフィーにより精製し、下記式(17)
【0172】
【化32】
【0173】
で示される2,2,4,4−テトラメチルシクロヘキサノン(ケトン化合物)を無色オイル4.8g(29.0mmol、収率58%)として得た。
【0174】
次に、前記式(16)で示されるヨウ素体化合物 5.73g(10.0mmol)をトルエン60mlに溶解させ、−10℃に冷却した。この溶液にn−ブチルリチウム(1.6Mヘキサン溶液) 6.9ml(11.0mmol)を滴下し、続けて前記式(17)で示されるケトン化合物 1.70g(11.0mmol)を添加し、30分撹拌した。反応液を水で洗浄し、溶媒を除去した後にアセトニトリルで再結晶を行うことで、下記式(18)
【0175】
【化33】
【0176】
で示されるアルコール化合物を白色固体 3.96g(6.6mmol、収率66%)として得た。
【0177】
このアルコール化合物をトルエン79mlに溶解させ、p−トルエンスルホン酸一水和物 5.02g(26.4mmol)を加え、還流温度で2時間反応させた。反応液を水で洗浄し、溶媒を除去し、シリカゲルを用いたクロマトグラフィーにより精製し、下記式(19)
【0178】
【化34】
【0179】
で示されるナフトール化合物を淡黄色固体 2.3g(4.7mmol、収率71%)として得た。
【0180】
この生成物の元素分析値はC:82.76%、H:7.42%であって、C
34H
36O
3の計算値であるC:82.89%、H:7.37%に良く一致した。
【0181】
また、プロトン核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、δ−1.0〜4.5ppm付近にアルキル基およびアルキレン基に基づく24Hのピーク、δ5.5〜δ9.0ppm付近にアロマティックなプロトンに基づく11Hのピークを示した。
【0182】
さらに、
13C−核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、δ110〜160ppm付近に芳香環の炭素に基づくピーク、δ20〜80ppmにアルキル基およびアルキレン基の炭素に基づくピークを示した。
【0183】
上記の結果からナフトール化合物が前記式(19)で示される化合物であることを確認した。
【0184】
(クロメン化合物の合成)
前記ナフトール化合物(19) 1.00g(2.0mmol)と、下記のプロパルギルアルコール化合物
【0185】
【化35】
【0186】
0.81g(3.0mmol)をトルエン50mlに溶解し、さらにカンファースルホン酸を0.02g加えて加熱還流下、1時間攪拌した。反応後、溶媒を除去し、シリカゲル上でのクロマトグラフィーにより精製することにより、白色粉末状の生成物1.02gを得た。収率は69%であった。
【0187】
この生成物の元素分析値は、C82.26%、H6.81%であり、C
51H
50О
5の計算値であるC82.45%、H6.78%に極めてよく一致した。
【0188】
また、プロトン核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、−1.0〜3.0ppm付近にスピロ環のメチル、メチレンプロトンに基づく18Hのピーク、2.3〜4.5ppmにメトキシ基のメチルプロトンに基づく12Hのピーク、δ5.5〜9.0ppm付近にアロマティックなプロトンおよびアルケンのプロトンに基づく20Hのピークを示した。
【0189】
さらに
13C−核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、δ110〜160ppm付近に芳香環の炭素に基づくピーク、δ80〜140ppm付近にアルケンの炭素に基づくピーク、δ20〜60ppmにアルキルの炭素に基づくピークを示した。
【0190】
上記の結果から単離生成物は、下記式(Ex1)で示される化合物であることを確認した。
【0191】
【化36】
【0192】
(コーティング法により作製したフォトクロミックプラスチックレンズの物性評価)
上記方法で得られたクロメン化合物(Ex1)を、光重合開始剤、およびラジカル重合性単量体と混合してフォトクロミック硬化性組成物とし、該フォトクロミック硬化性組成物をレンズ基材表面に塗布し、さらに紫外線を照射して、レンズ基材表面の塗膜を重合した。
【0193】
フォトクロミック硬化性組成物としては、ラジカル重合性単量体として2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン/ポリエチレングリコールジアクリレート(平均分子量532)/トリメチロールプロパントリメタクリレート/ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート(ダイセルユーシービー(株)製、EB−1830)/グリシジルメタクリレートをそれぞれ50質量部/10質量部/10質量部/10質量部/10質量部の配合割合で配合したものを使用した。このラジカル重合性単量体の混合物90質量部に対して、クロメン化合物1質量部を添加し十分に混合した後に、光重合開始剤であるCGI1800{1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイドの混合物(重量比3:1)}を0.3質量部、安定剤であるビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートを5質量部、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]を3質量部、シランカップリング剤であるγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを7質量部、およびN−メチルジエタノールアミンを3質量部添加して十分に混合し、フォトクロミック硬化性組成物とした。
【0194】
続いて、前記方法で得られたフォトクロミック硬化性組成物 約2gをMIKASA製スピンコーター1H−DX2を用いて、レンズ基材(CR39:アリル樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.50)の表面にスピンコートした。この表面がコートされたレンズを窒素ガス雰囲気中で出力120mW/cm
2のメタルハライドランプを用いて、3分間照射し、硬化させた(クロメン化合物が分散した高分子膜で被覆された光学物品(フォトクロミックプラスチックレンズ)を作製した。(高分子膜の厚さ:40μm)。
【0195】
得られたフォトクロミックプラスチックレンズについて、23℃における下記フォトクロミック特性を評価した。
【0196】
[1] 極大吸収波長(λmax): (株)大塚電子工業(株)製の分光光度計(瞬間マルチチャンネルフォトディテクターMCPD3000)により求めた発色後の極大吸収波長であり、発色時の色調の指標とした。
【0197】
[2] 発色濃度(A
0): 前記極大吸収波長における、120秒間光照射した後の吸光度ε(120)と光未照射時の吸光度ε(0)との差{ε(120)−ε(0)}であり、発色濃度の指標とした。この値が高いほど光照射による着色変化が大きく、フォトクロミック性が優れているといえる。
【0198】
[3] ダブルピーク性(A
Y/A
B):黄色(430nm〜530nmに最大吸収波長を有する)の発色濃度(A
Y:λ
maxの値)と青色発色部分(531nm〜650nmに最大吸収波長を有する)の発色濃度(A
B:λ
maxの値)との比であり、ダブルピーク性の指標とした。
【0199】
[4] 退色半減期(τ
1/2): 120秒間光照射後、光の照射を止めたときに、試料の前記極大吸収波長における吸光度が(A
0)の1/2まで低下するのに要する時間であり、退色速度の指標とした。この時間が短いほど退色が速い。
【0200】
[5] 吸収端(λ
0): 前記条件にて得られたフォトクロミックプラスチックレンズを試料として、これを一昼夜暗所にて保存したのち、室温にて紫外可視分光光度計(Shimadzu、UV−2550)にて300nm〜800nmまでの紫外光の透過率(T%)を測定する。得られた紫外光吸収曲線の透過率(T%)が50%となる点を通るように、該紫外光吸収曲線に対して接線を引き、その接線の透過率(T%)が0となる吸収波長を吸収端(紫外光スペクトルの吸収端)とし、初期着色の指標とした。この値が420nmを超えると光未照射状態においても黄色い着色を有することになる。例えばメガネレンズのような光学物品においては、このような初期着色は透明性を低下させる原因となるため、少ないほうが好ましいく、吸収端は短いほうが好ましい。
【0201】
[6] サーモクロミズム(T
0): 得られたフォトクロミックプラスチックレンズを試料として、上記吸収端の測定と同様に、300nm〜800nmまでの透過率(T%)を測定する。得られた紫外光吸収曲線において、
800nmにおける透過率(T
800%)と、前記[1]の方法で測定した極大吸収波長λ
maxにおける透過率(T
λ%)との差{(T
800%)−(T
λ%)}を評価し、サーモクロミズムの指標とした。
図1に、実施例1、比較例1のフォトクロミックプラスチックレンズを測定した際の紫外光吸収曲線を示した。なお、極大吸収波長が2つ以上あるダブルピーク化合物においては、800nmにおける透過率と、それぞれの極大吸収波長λ
maxにおける透過率との差を求め、その差が大きい方の値をサーモクロミズムの値とした。この値が小さいほどサーモクロミズムによる着色が小さく、光未照射状態の透明性が高い。
【0202】
従来、サーモクロミズムの評価はT
λ%の絶対値で評価していたが、本発明ではT
800%との差により評価した。クロメン化合物の光吸収がない800nmの透過率を基準とすることで、クロメン化合物由来の吸収を厳密に評価できる。430nm〜650nmの透過率の最小値(黄色発色部分の極大吸収波長λ
maxにおける透過率と、青色発色部分の極大吸収波長λ
maxにおける透過率において、低くなる方の透過率の値)が800nmの透過率に近いほど、光未照射状態の透明性が高いことを示す。従来のT
λ%の絶対値評価では、プラスチックレンズ基材の反射等の影響を含めた評価であった。しかしながら、今回のこの方法によれば、該レンズ基材の影響を排除し、クロメン化合物そのものの、23℃における着色状態(サーモクロミズム)を評価できる。
なお、表には、従来のサーモクロミズムの評価であった430〜650nmの透過率の最小値(T’
λ(%))も示す。
【0203】
[7] 残存率(A
50/A
0): 得られたフォトクロミックプラスチックレンズをスガ試験器(株)製キセノンウェザーメーターX25により50時間促進劣化させた。その後、前記発色濃度の評価を試験の前後で行い、試験前の発色濃度(A
0)および試験後の発色濃度(A
50)を測定し、その比(A
50/A
0)を残存率とし、発色の耐久性の指標とした。残存率が高いほど発色の耐久性が高い。
上記の方法で評価したフォトクロミック特性を下記表1にまとめた。
【0204】
比較例1
ケトン化合物として、4,4−ジメチルシクロヘキサノンを使用した以外は実施例1と同様の操作を行い、下記式(CE1)
【0205】
【化37】
【0206】
で示したクロメン化合物を合成した。このクロメン化合物を使用し、実施例1と同様の方法でフォトクロミックプラスチックレンズを作製し、フォトクロミック特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0207】
【表1】
【0208】
本発明のクロメン化合物を用いた実施例1のフォトクロミックプラスチックレンズは、比較例1(前記式(CE1)で示されるクロメン化合物)のフォトクロミックプラスチックレンズに比べ、サーモクロミズムの値が小さく、初期着色の点において、優れた性能を有していることがわかる。サーモクロミズムの比較を
図1に示す。
【0209】
また、吸収端は、比較例1の化合物が424nmであり、光未照射状態において黄色い着色があるのに対して、実施例1の化合物の吸収端は418nmに短波長化しており、黄色い着色は大幅に低減されている。さらに、ダブルピーク性においても比較例1よりも実施例1の方が高く、優れた性能を有していることが分かる。
【0210】
実施例1の化合物(Ex1)と比較例1の化合物(CE1)は、インデノ(2,1−f)ナフト(1,2−b)ピラン構造における13位のスピロ環基上のα位にメチル基を有するか否かの違いだけであるが、上述のように、サーモクロミズムによる初期着色とダブルピーク性という点が改善されるという効果がある。
【0211】
実施例2〜4
対応するケトン化合物を変えた以外は実施例1と同様の操作を行い、表2に示したクロメン化合物を合成した。得られた生成物について、実施例1と同様な構造確認の手段を用いて構造解析した結果、表2に示す構造式で示される化合物であることを確認した。表3にこれらの化合物の元素分析値、各化合物の構造式から求めた計算値および
1H−NMRスペクトルの特徴的なスペクトルを示した。なお、実施例2および実施例3のクロメン化合物は、13位のスピロ環に置換するメチル基により2種類の構造異性体が生成するため、これらの混合物として評価した。
【0212】
これらクロメン化合物を使用し、実施例1と同様の方法でフォトクロミックプラスチックレンズを作製し、フォトクロミック特性を評価した。その結果を表4に示す。
【0213】
【表2】
【0214】
【表3】
【0215】
比較例2〜3
下記式(CE2)、および(CE3)に対応するケトン化合物を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、下記式(CE2)、および(CE3)で示されるクロメン化合物を合成した。 これらクロメン化合物を使用し、実施例1と同様の方法でフォトクロミックプラスチックレンズを作製し、フォトクロミック特性を評価した。その結果を表4に示す。
【0216】
【化38】
【0217】
【化39】
【0218】
【表4】
【0219】
本発明のクロメン化合物を用いた実施例2〜4は、13位のスピロ環基上のα位に置換基を持たないクロメン化合物を使用した比較例2に比べて、サーモクロミズムおよび吸収端による初期着色が大幅に改善されており、適度な退色半減期を示すことがわかる。また、13位のスピロ環基上のα位に水素原子を持たないクロメン化合物を使用した比較例3は、ダブルピーク性が高いものの、サーモクロミズムによる初期着色が大きい。
【0220】
実施例5〜13
対応するケトン化合物を変えた以外は実施例1と同様の操作を行い、表5〜7に示したクロメン化合物を合成した。得られた生成物について、実施例1と同様な構造確認の手段を用いて構造解析した結果、表5〜7に示す構造式で示される化合物であることを確認した。また、表8にこれらの化合物の元素分析値、各化合物の構造式から求めた計算値および
1H−NMRスペクトルの特徴的なスペクトルを示した。これらクロメン化合物を使用し、実施例1と同様の方法でフォトクロミックプラスチックレンズを作製し、フォトクロミック特性を評価した。その結果を表9に示す。
【0221】
【表5】
【0222】
【表6】
【0223】
【表7】
【0224】
【表8】
【0225】
比較例4〜8
下記式(III)〜(VII)で示される化合物を用いて、実施例1と同様の方法でフォトクロミックプラスチックレンズを作製し、フォトクロミック特性を評価した。その結果を表9に示す。
【0226】
【化40】
【0227】
【化41】
【0228】
【化42】
【0229】
【化43】
【0230】
【化44】
【0231】
【表9】
【0232】
実施例1〜4と同様に、実施例5〜13においても本発明のクロメン化合物を用いたフォトクロミックプラスチックレンズは、公知の化合物(III)〜(VII)を用いた比較例4〜8に比べて、サーモクロミズムが大幅に改善されており、初期着色が極めて少ないことがわかる。
【0233】
実施例14〜25(ナフトール化合物の合成)
実施例2〜実施例13で使用したクロメン化合物(化合物No.Ex2〜Ex13)の原料となるナフトール化合物を以下の方法で合成した。
【0234】
具体的には、実施例1に記載の合成方法に従いハライド化合物(ヨウ素体化合物)を合成し、所望のナフトール化合物に対応するケトン化合物を反応させて、目的とするナフトール化合物の合成を行った。実施例1と同様の構造確認の手法を用いて構造解析した結果、表2、4、5、6、7に示す実施例2〜13で用いたナフトール化合物であることを確認した。表10には、これら化合物の元素分析値、各化合物の構造式から求めて計算値、及び
1H−NMRスペクトルの特徴的なスペクトルを示した。
【0235】
【表10】