特許第5723770号(P5723770)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5723770半導体パッケージ基板用銅箔及び半導体パッケージ用基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5723770
(24)【登録日】2015年4月3日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】半導体パッケージ基板用銅箔及び半導体パッケージ用基板
(51)【国際特許分類】
   C23C 30/00 20060101AFI20150507BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20150507BHJP
   C25D 9/08 20060101ALI20150507BHJP
   C25D 11/38 20060101ALI20150507BHJP
【FI】
   C23C30/00 E
   B32B15/08 Q
   C25D9/08
   C25D11/38 306
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2011-518423(P2011-518423)
(86)(22)【出願日】2010年5月28日
(86)【国際出願番号】JP2010059062
(87)【国際公開番号】WO2010140540
(87)【国際公開日】20101209
【審査請求日】2011年6月24日
【審判番号】不服2014-8015(P2014-8015/J1)
【審判請求日】2014年4月30日
(31)【優先権主張番号】特願2009-135654(P2009-135654)
(32)【優先日】2009年6月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX日鉱日石金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】赤瀬 文彰
【合議体】
【審判長】 鈴木 正紀
【審判官】 河本 充雄
【審判官】 池渕 立
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭60−15654(JP,B2)
【文献】 特公昭62−14040(JP,B2)
【文献】 特開2003−229648(JP,A)
【文献】 特開平3−254194(JP,A)
【文献】 特開平3−116733(JP,A)
【文献】 特公昭58−7077(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C24/00-30/00
C25D 9/00-21/22
H05K 1/00- 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂との接着面となる銅箔の粗化面に形成されたクロメート処理層又は亜鉛若しくは酸化亜鉛とクロム酸化物からなる被覆層及びシランカップリング剤層を有し、前記シランカップリング剤層は、テトラアルコキシシランと、樹脂との反応性を有するビニル基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、ハロゲン基、水酸基又はイミダゾール基のいずれかの官能基を備えたアルコキシシランとを含んだ処理液で銅箔を処理することにより設けられており、前記クロメート処理層又は亜鉛若しくは酸化亜鉛とクロム酸化物とからなる被覆層のCr量は、25−150μg/dm2であり、Zn量が41〜133μg/dm2であることを特徴とする銅箔。
【請求項2】
銅箔が電解銅箔又は圧延銅箔であることを特徴とする請求項に記載の銅箔。
【請求項3】
クロメート処理層又は亜鉛若しくは酸化亜鉛とクロム酸化物とからなる被覆層は、電解クロメート皮膜層又は浸漬クロメート皮膜層であることを特徴とする請求項1または2に記載の銅箔。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか一項に記載の銅箔と半導体パッケージ用樹脂とを張り合わせて作製した半導体パッケージ用基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐薬品性及び接着性に優れた半導体パッケージ基板用銅箔及び該銅箔を使用して作製した半導体パッケージ用基板に関する。特に、銅箔の少なくとも樹脂との接着面にクロメート処理層又は亜鉛若しくは酸化亜鉛とクロム酸化物とからなる被覆処理層及びシランカップリング剤層を持つ銅箔を樹脂に積層接着し、さらに当該銅箔上に、耐エッチング性の印刷回路を形成した後、印刷回路部分を除く銅箔の不要部分をエッチングにより除去して、導電性の回路を形成した後、レジスト又はビルドアップ樹脂基板と同回路の銅箔S面との密着性を向上させるためのソフトエッチング工程において、前記ソフトエッチング時に生じる銅箔回路端部の浸食(回路浸食)現象を効果的に防止できるプリント配線板用銅箔に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷回路用銅箔は一般に、次のような工程により作製される。まず、合成樹脂等の基材に銅箔を高温高圧下で積層接着する。次に、基板上に目的とする導電性の回路を形成するために、銅箔上に耐エッチング性樹脂等の材料により回路と同等の回路パターンを印刷する。
そして、露出している銅箔の不要部をエッチング処理により除去する。エッチング後、印刷部を除去して、基板上に導電性の回路を形成する。形成された導電性の回路には、最終的に所定の素子を半田付けして、エレクトロニクスデバイス用の種々の印刷回路板を形成する。
一般に、印刷配線板用銅箔に対する品質要求は、樹脂基材と接着される接着面(所謂、粗化面)と、非接着面(所謂光沢面)とで異なり、両者を同時に満足させることが必要である。
【0003】
光沢面に対する要求としては、(1)外観が良好なこと及び保存時における酸化変色のないこと、(2)半田濡れ性が良好なこと、(3)高温加熱時に酸化変色がないこと、(4)レジストとの密着性が良好なこと等が要求される。
他方、粗化面に対しては、主として、(1)保存時における酸化変色のないこと、(2)基材との剥離強度が高温加熱、湿式処理、半田付け、薬品処理等の後でも十分なこと、(3)基材との積層、エッチング後に生じる、所謂積層汚点のないこと等が挙げられる。
また、近年パターンのファイン化に伴い、銅箔のロープロファイル化が要求されてきている。
【0004】
更に、パソコンや移動体通信等の電子機器では、通信の高速化、大容量化に伴い、電気信号の高周波化が進んでおり、これに対応可能なプリント配線板及び銅箔が求められている。電気信号の周波数が1 GHz以上になると、電流が導体の表面にだけ流れる表皮効果の影響が顕著になり、表面の凹凸で電流伝送経路が変化してインピーダンスが増大する影響が無視できなくなる。この点からも銅箔の表面粗さが小さいことが望まれる。
こうした要求に答えるべく、印刷配線板用銅箔に対して多くの処理方法が提唱されてきた。
【0005】
処理方法は、圧延銅箔と電解銅箔とで異なるが、電解銅箔の処理方法の一例を示すと、以下に記載する方法がある。
すなわち、まず銅と樹脂との接着力(ピール強度)を高めるため、一般には銅及び酸化銅からなる微粒子を銅箔表面に付与した後(粗化処理)、耐熱特性を持たせるため黄銅又は亜鉛等の耐熱処理層(障壁層)を形成する。
そして、最後に運搬中又は保管中の表面酸化等を防止するため、浸漬又は電解クロメート処理あるいは電解クロム・亜鉛処理等の防錆処理を施すことにより製品とする。
【0006】
この中で、特に耐熱処理層を形成する処理方法は、銅箔の表面性状を決定するものとして、大きな鍵を握っている。このため、耐熱処理層を形成する金属又は合金の例として、Zn、Cu−Ni、Cu−Co及びCu−Zn等の被覆層を形成した多数の銅箔が実用化されている(例えば、特許文献1参照)。
これらの中で、Cu−Zn(黄銅)から成る耐熱処理層を形成した銅箔は、エポキシ樹脂等から成る印刷回路板に積層した場合に樹脂層のしみがないこと、また高温加熱後の剥離強度の劣化が少ない等の優れた特性を有しているため、工業的に広く使用されている。
この黄銅から成る耐熱処理層を形成する方法については、特許文献2及び特許文献3に詳述されている。
【0007】
こうした黄銅から成る耐熱処理層を形成した銅箔は、次いで印刷回路を形成するためエッチング処理される。近時、印刷回路の形成に塩酸系のエッチング液が多く用いられるようになりつつある。
ところが、上記黄銅から成る耐熱処理層を形成した銅箔を用いた印刷回路板を塩酸系のエッチング液(例えばCuCl2、FeCl3等)でエッチング処理を行った場合に、回路パターンの両側にいわゆる回路端部(エッジ部)の浸食(回路浸食)現象が起り、樹脂基材との剥離強度が劣化するという問題点がある。また、硫酸系のエッチング液も同様の侵食問題が発生する。
【0008】
この回路浸食現象とは、上記のエッチング処理によって形成された回路の銅箔と樹脂基材との接着境界層、即ち黄銅からなる耐熱処理層が露出したエッチング側面から前記塩酸系のエッチング液により浸食され、またその後の水洗不足のため、通常は黄色(黄銅よりなるため)を呈するのに対して、両サイドが浸食されて赤色を呈し、その部分の剥離強度が著しく劣化する現象をいう。そして、この現象が回路パターン全面に発生すれば、回路パターンが基材から剥離することになり、重大な問題となる。
【0009】
前記回路浸食現象が起る原因としては、例えば塩酸系エッチング液を用いた場合には、反応過程において溶解度の低い塩化第一銅(CuCl)が生成し、これが基材表面に沈積した時に、黄銅中の亜鉛と反応し、塩化亜鉛として溶出するいわゆる黄銅の脱亜鉛現象が主な原因と考えられる。推定される反応式は、以下の通りである。
2CuCl+Zn(黄銅中の亜鉛)→ZnCl2+2Cu(脱亜鉛した黄銅中の銅)
また、硫酸系のエッチング液を用いた場合も、反応式は異なるが同様の侵食問題が発生する。
【0010】
このようなことから、銅箔の表面に粗化処理、亜鉛又は亜鉛合金の防錆処理及びクロメート処理を行った後、クロメート処理後の表面に、少量のクロムイオンを含有させたシランカップリング剤を吸着させて耐塩酸性を向上させようとする提案がなされている(特許文献3参照)。
【0011】
しかし、この場合は、クロムイオンは耐塩酸性を向上させる効果はあるが、銅箔表面に吸着させたシランカップリング剤自体は熱に弱く、劣化し易い材料なので、シランカップリングの劣化と共に、該シランカップリング剤に含有させたクロムイオンがそれに追随して、その効力を失っていく問題がある。すなわち、安定性に欠けるという大きな問題を残している。
【0012】
また、発明者らは近年のファインパターン化及び高周波化の要求から、無粗化又は低粗化処理により銅箔の粗さを低減した銅箔を提案してきた(特許文献4参照)。
ここでは無粗化または低粗化箔に適切な表面処理を施すことにより、高周波対応用の絶縁樹脂との密着力向上が得られた。しかしながら、無粗化処理箔では耐酸性の問題が特に顕著に現れ、酸処理後は接着強度が失われ、さらに特許文献4で提唱した珪素系前処理を実施しても耐酸性は不充分であるため、改善が望まれていた。
さらに、黄銅中の亜鉛量を低減して、耐塩酸性を向上させる提案も行った。これ自体はある程度の効果が認められたが、依然として耐酸性に十分な効果を上げることができなかった(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特公昭51−35711号公報
【特許文献2】特公昭54−6701号公報
【特許文献3】特許第3306404号公報
【特許文献4】特願2002−170827号公報
【特許文献5】特開平3−122298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、他の諸特性を劣化することなく、上記の回路浸食現象を回避するプリント配線板用銅箔を開発することである。特に、樹脂基材に銅箔を積層し、塩酸系及び硫酸系エッチング液を使用して回路を形成する場合において、回路浸食現象を効果的に防止可能な銅箔の電解処理技術を確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明者が銅箔上に被覆層を形成する条件等について鋭意検討した結果、以下のプリント配線板用銅箔が耐酸性に有効であることが分かった。
すなわち、本願発明は、
1.樹脂との接着面となる銅箔の粗化面に形成されたクロメート処理層又は亜鉛若しくは酸化亜鉛とクロム酸化物からなる被覆層及びシランカップリング剤層からなる半導体パッケージ基板用銅箔
2.銅箔が電解銅箔又は圧延銅箔であることを特徴とする上記1記載の半導体パッケージ基板用銅箔
3.クロメート処理層又は亜鉛若しくは酸化亜鉛とクロム酸化物とからなる被覆層は、電解クロメート皮膜層又は浸漬クロメート皮膜層であることを特徴とする上記1又は2記載の半導体パッケージ基板用銅箔
4.前記クロメート処理層のCr量は、25-150μg/ dm2であり、Znが150μg/ dm2以下であることを特徴とする上記1〜3のいずれか1項に記載の半導体パッケージ基板用銅箔
5.シランカップリング剤層に、テトラアルコキシシランと樹脂との反応性を有する官能基を備えたアルコキシシランを少なくとも1種以上とを含んでいることを特徴とする上記1〜4のいずれか一項に記載の半導体パッケージ基板用銅箔
6.上記1〜5のいずれか一項に記載の半導体パッケージ基板用銅箔と半導体パッケージ用樹脂を張り合わせて作製した半導体パッケージ用基板、を提供する。
【発明の効果】
【0016】
以上示したように、本発明のプリント配線板用銅箔は、高温加熱後の樹脂との剥離強度を劣化させないために、従来必須の要件と考えられてきた黄銅から成る耐熱処理層を使用せず、回路浸食現象を効果的に防止でき、耐酸性を恒常的に安定して効力を発揮できるという新しい特性が付与されたものであり、近年印刷回路のファインパターン化及び高周波化が進む中で印刷回路用銅箔として極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1の4μmエッチング後の剥離銅箔面のSEM画像の図である。
図2】実施例2の4μmエッチング後の剥離銅箔面のSEM画像の図である。
図3】実施例3の4μmエッチング後の剥離銅箔面のSEM画像の図である。
図4】実施例4の4μmエッチング後の剥離銅箔面のSEM画像の図である。
図5】比較例1の4μmエッチング後の剥離銅箔面のSEM画像の図である。
図6】比較例2の4μmエッチング後の剥離銅箔面のSEM画像の図である。
図7】比較例3の4μmエッチング後の剥離銅箔面のSEM画像の図である。
図8】比較例4の4μmエッチング後の剥離銅箔面のSEM画像の図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の理解を容易にするため、本発明を具体的かつ詳細に説明する。本発明において使用する銅箔は、電解銅箔或いは圧延銅箔いずれでもよい。
通常、銅箔の少なくとも一面に積層後の銅箔の剥離強度を向上させることを目的として、脱脂後の銅箔の表面に、例えば銅の「ふしこぶ」状の電着を行う粗化処理が施されるが、本発明は、このような粗化処理を施す場合及び粗化処理を施さない無粗化処理銅箔のいずれにも適用できるものである。
【0019】
銅箔の酸化防止のため、該銅箔の少なくとも一面に防錆層を形成する。前記防錆層の形成方法としては、公知のものはすべて本発明に適用することが出来るが、好ましくは浸漬クロメート処理層若しくは電解クロメート処理層又は亜鉛若しくは酸化亜鉛とクロム酸化物とからなる亜鉛−クロム酸化物層からなる防錆層を形成する。防錆層中のCr量は25-150μg/ dm2が好ましい。
Cr量が25μg/ dm2未満では、防錆層効果がない。また、Cr量が150μg/ dm2を超えると効果が飽和するので、無駄となる。したがって、Cr量は25-150μg/ dm2とするのが良い。
またZn量は150μg/ dm2以下が好ましい。Zn量が150μg/ dm2を越えると、硫酸過水処理等による回路侵食が発生し、密着強度が低下する。
この防錆処理は、耐酸性に影響を与える因子の一つであり、クロメート処理により、耐酸性はより向上する。
【0020】
前記防錆層を形成するための電解条件等の一例を、参考までに以下に記載する。
(a) 浸漬クロメート処理
K2Cr2O7 :1〜5g/L、pH :2.5〜4.5、温 度:40〜60°C、時間:0.5〜8秒
(b) 電解クロメート処理(クロム・亜鉛処理(アルカリ性浴))
K2Cr2O7 :0.2〜20g/L、酸:燐酸、硫酸、有機酸、pH :1.0〜3.5、温 度:20〜40°C、電流密度:0.1〜5A/dm2、時 間:0.5〜8秒
(c) 電解クロム・亜鉛処理(アルカリ性浴)
K2Cr2O7(Na2Cr2O7或いはCrO3):2〜10g/L、NaOH又はKOH :10〜50g/L、ZnOH又はZnSO4・7H2O :0.05〜10g/L、pH :7〜13、浴温:20〜80°C、電流密度:0.05〜5A/dm2、時間:5〜30秒
(d) 電解クロメート処理(クロム・亜鉛処理(酸性浴))
K2Cr2O7 :2〜10g/L、Zn :0〜0.5g/L、Na2SO4 :5〜20g/L、pH :3.5〜5.0、浴温:20〜40°C、電流密度:0.1〜3.0A/dm2、時 間:1〜30秒
【0021】
防錆処理後、樹脂基板との密着性向上、耐熱性、耐湿性及び耐候性向上のためシランカップリング剤処理を行う。シランカップリング剤層には、テトラアルコキシシランと、樹脂との反応性を有する官能基を備えたアルコキシシランを少なくとも1種以上とを含んでいる事が望ましい。
テトラアルコキシシランは耐熱性及び耐湿性向上に有効であり、特に防錆層中のZn量が少ない場合に顕著な効果が見られる。また樹脂との反応性を有する官能基を備えたアルコキシシランは樹脂中の官能基と反応するか、樹脂の効果を促進し、密着力向上に有効である。
【0022】
テトラアルコキシシラン化合物としては、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラフェノキシシラン、テトラアリロキシシラン、テトラキス(2−エチルブトキシ)シラン、テトラキス(2−エチルヘキシロキシ)シラン、テトラキス(2−メトキシエトキシ)シラン等が挙げられる。
また樹脂との反応性を有するアルコキシシランとしてはビニル基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、ハロゲン基、水酸基、イミダゾール基等の官能基を備えたものが好ましい。
【0023】
本発明の表面処理剤は、そのまま直接金属表面に塗布してもよいが、水、メタノール、エタノール等のアルコール類、更にはアセトン、酢酸エチル、トルエン等の溶剤で0.001〜10重量%、好ましくは0.01〜6重量%になるように希釈し、この液に銅箔を浸漬させる方法、銅箔の表面にこの溶液をスプレーする方法などで塗布することが簡便で好ましい。
0.001重量%未満では、接着性、半田耐熱性の改善効果が少なく、又10重量%を超えると効果が飽和するとともに溶解性が悪くなるので好ましくない。表面処理剤が塗布された銅箔を乾燥し、次いでプリプレグに接合し、加熱・硬化して銅張積層板を形成することができる。
【実施例】
【0024】
次に、実施例及び比較例について説明する。なお、本実施例は好適な一例を示すもので、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。したがって、本発明の技術思想に含まれる変形、他の実施例又は態様は、全て本発明に含まれる。
なお、本発明との対比のために、比較例を掲載した。
【0025】
(実施例1−4)
厚さ12μmの電解銅箔を用い、この銅箔の粗面(マット面:M面)に、硫酸銅溶液を使用して、粗化粒子を形成し、表面粗さRz3.7μmまたは3.2μmの粗化処理銅箔を作製した。
さらに、下記に示す電解クロメート処理を行って、Zn量を変えた防錆層を形成させた。そして、この防錆層の上にシラン処理(塗布による)を施した。シラン処理は、テトラアルコキシシランとして、TEOS(テトラエトキシシラン)と、少なくとも1種以上の樹脂との反応性を有する官能基を備えたアルコキシシランとしてエポキシシランとにより行った。
以下に、防錆処理条件を示す。
【0026】
(a) 電解クロメート処理(クロム・亜鉛処理(酸性浴))
K2Cr2O7(Na2Cr2O7或いはCrO3):2〜10g/L Zn :0〜0.5g/L、Na2SO4 :5〜20g/L、pH :3.5〜5.0、浴温:20〜40°C、電流密度:0.1〜3.0A/dm2、時 間:1〜30秒
【0027】
このようにして作製した銅箔を、ガラスクロス基材BT(ビスマレイミド・トリアジン)樹脂板に積層接着し、以下の項目について測定又は分析を行った。
(1) Zn量及びCr量の分析
シランカップリング剤層形成後の、銅箔最表面のZn及びCr量の分析結果を表1に示す。
Zn量は36〜144μg/dm2であった。また、Cr量は38〜88μg/dm2であった。
(2) 耐硫酸過水性(硫酸過水処理:硫酸:10%、過酸化水素:2%、室温:30°C)の試験結果
マスクをつけ、0.4mm幅回路を形成し、処理前後でのピール強度を測定し評価した。この場合、銅箔厚みを2μmエッチングした場合と、4μmエッチングした場合の、2つの場合について調べた。まず、処理後の粗化層エッジ部侵食の量(粗化ダメージ)を表1に示す。粗化ダメージの評価として、4μmエッチングした銅箔を樹脂基板から剥離し、この銅箔面をSEM画像で見た結果を図1図4に示す。
この図1図4から明らかなように、回路のエッジ部について、銅箔部分にはダメージがなく、回路のエッジ部の後退は観察されなかった。すなわち、硫酸過水処理による回路エッジ部への侵食は認められなかった。また、表1に示すように、2μmエッチングした場合、硫酸過水処理前と処理後で比較したピール強度の劣化率は1.5〜19.1%の範囲であり、4μmエッチングした場合は、同じく処理前と処理後の劣化率は16.9〜23.6の範囲であった。いずれの場合も耐硫酸過水性としては良好な範囲であった。
【0028】
【表1】
【0029】
(3)PCT(プレッシャークッカーテスト)後のピール強度
同じく、0.4mm幅回路を形成し、処理前後でのピール強度を測定し評価した。 121℃、100%、2気圧条件下で48時間おく試験を行う前後のピール強度を測定したが、処理後のピールはいずれも20g/0.4mm以上と良好であった。
【0030】
(4)耐塩酸性試験
耐塩酸性についても、同じく0.4mm幅回路を形成し、処理前後でのピール強度を測定し評価した。12wt%塩酸に60℃で90分間浸漬した後の劣化率を評価した。結果は、0〜18.2%であり、良好な範囲であった。
【0031】
(比較例1−4)
厚さ12μmの電解銅箔を用い、この銅箔の粗面(マット面:M面)に、硫酸銅溶液を使用して、粗化粒子を形成し、表面粗さRz3.7μMまたは3.2μmの粗化処理銅箔を作製した。
さらに、下記に示す電解クロメート処理を行って、Zn量を変えた防錆層を形成させた。そして、この防錆層の上にシラン処理(塗布による)を施し、実施例と同じ評価を行った。表1に評価結果を示す。
また、硫酸過水処理で4μmエッチングした銅箔を樹脂基板から剥離し、この銅箔面のSEM画像を図5図8に示す。
【0032】
耐硫酸過水性(硫酸過水処理:硫酸:10%、過酸化水素:2%、室温:30°C)の試験結果については、同じく0.4mm幅回路を形成し、処理前後でのピール強度を測定し評価した。この場合、実施例と同様に、銅箔厚みを2μmエッチングした場合と、4μmエッチングした場合の、2つの場合について調べた。
この図5図8に4μmエッチングした場合のSEM写真を示す。比較例1及び比較例2については耐熱、防錆層中の亜鉛を150μg/dm2以上とした結果、硫酸過水処理による回路侵食が進行し、エッジの7〜12μm部分の粗化粒子が溶解したことがわかる。この場合には、ファインパターンでの密着性低下、回路剥離が懸念される。
また、表1に示すように、2μmエッチングした場合、比較例1では粗化ダメージがなかったものの、比較例2では2.5μmの粗化ダメージがあった。
【0033】
また、表1に示すように、硫酸過水処理で2μmエッチングした場合、処理前と処理後のLossは11.0%〜20.3%の範囲であり、4μmエッチングした場合は、処理前と処理後のLossは36.7%〜43.9%の範囲となり、いずれの場合も耐硫酸過水性は劣化した。
一方、比較例3及び比較例4は、シラン処理において、テトラアルコキシシランを使用せず、エポキシシラン単独で行った場合であるが、粗化ダメージは観察されず、耐硫酸過水性も実施例と同程度であったが、PCT(プレッシャークッカーテスト)によるピール強度の劣化率が、76%〜94%と大きくなる問題があった。
【0034】
以上に示すように、実施例1〜4は硫酸過水処理による回路侵食が見られず、PCT(プレッシャークッカーテスト)後のピール強度の劣化も少なかったが、比較例1、2では硫酸過水処理による回路侵食が顕著であり、また比較例3,4ではPCT(プレッシャークッカーテスト)後のピール強度の大幅な低下が見られており、本発明は、耐酸性及び耐熱、耐湿性を兼ね備えた改善に効果がある事が確認された。
半導体パッケージ基板用銅箔としては、樹脂との接着面となる銅箔の粗化面に形成されたクロメート処理層又は亜鉛若しくは酸化亜鉛とクロム酸化物からなる被覆層及びシランカップリング剤層を設けることが有効であり、特にシランカップリング剤層に、テトラアルコキシシランと樹脂との反応性を有する官能基を備えたアルコキシシランを使用することが望ましいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
以上に示したように、本発明は、銅箔の樹脂との接着面に形成された耐熱防錆層中のZn量を低減させ、テトラアルコキシシランと、樹脂との反応性を有する官能基を備えたアルコキシシラン1種以上とを含むシランカップリング剤層を形成することによって、回路浸食現象を効果的に達成できることが分かった。
また、このようにして形成した表面処理銅箔は、樹脂基材に積層した場合に、回路浸食現象を効果的に防止出来るという新しい特性が付与されたものであり、従来の常識では考えられなかったものである。近年印刷回路のファインパターン化及び高周波化が進む中で印刷回路用銅箔として好適に使用することが出来る
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