(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5724400
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】単結晶製造装置及び単結晶製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 15/00 20060101AFI20150507BHJP
C30B 29/06 20060101ALI20150507BHJP
【FI】
C30B15/00 Z
C30B29/06 502C
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-8433(P2011-8433)
(22)【出願日】2011年1月19日
(65)【公開番号】特開2012-148918(P2012-148918A)
(43)【公開日】2012年8月9日
【審査請求日】2012年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】菅原 孝世
(72)【発明者】
【氏名】松本 克
(72)【発明者】
【氏名】島田 聡郎
(72)【発明者】
【氏名】星 亮二
【審査官】
若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−187244(JP,A)
【文献】
特開2003−243404(JP,A)
【文献】
国際公開第2001/083860(WO,A1)
【文献】
特開平11−092272(JP,A)
【文献】
国際公開第1993/000462(WO,A1)
【文献】
特開2001−270798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、原料融液を収容するルツボ、前記原料融液を加熱するヒーター、冷却媒体によって強制冷却される冷却筒及びこれらを収容する冷却チャンバーを有する単結晶製造装置であって、前記原料融液と引上げ中の単結晶との界面近傍において、前記引上げ中の単結晶を囲繞するように遮熱部材が配置され、該遮熱部材の上方に、前記引上げ中の単結晶を囲繞するように前記冷却筒が配置され、該冷却筒を囲繞するように、前記冷却筒外周との間に空隙を設けて冷却筒外周断熱材が配置されたものであり、前記冷却チャンバーの上内壁は、上壁断熱材によって覆われたものであり、前記冷却筒外周断熱材は、肉厚が20mm以上であり、鉛直方向の下端は前記遮熱部材の下端部の高さと等しい位置であり、上端は前記冷却筒下端より50mm上方の位置から前記冷却チャンバーの上内壁までの範囲にあることを特徴とする単結晶製造装置。
【請求項2】
前記空隙は、幅が15mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の単結晶製造装置。
【請求項3】
前記遮熱部材は円筒状であって断熱材を有し、上部になるにつれてその内径が拡大するように形成されたものであることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の単結晶製造装置。
【請求項4】
前記冷却筒の内周面または外周面のどちらか一面もしくは両面に黒鉛材が密着して配置されたものであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の単結晶製造装置。
【請求項5】
前記冷却筒外周断熱材は、表面が黒鉛材によって覆われたものであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の単結晶製造装置。
【請求項6】
チャンバー内において、ルツボ内の原料融液をヒーターで加熱しつつ、前記原料融液からチョクラルスキー法により単結晶を引上げ、該引上げ中の単結晶を冷却筒で冷却しながら単結晶を製造する単結晶製造方法であって、前記請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の単結晶製造装置を用いて単結晶を製造することを特徴とする単結晶製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法によりルツボ内の原料融液から単結晶を引上げる際に、原料融液面の直上に遮熱部材を設け、かつ冷却筒を用いて結晶冷却を行う単結晶の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の製造に用いられるシリコン単結晶の製造方法として、石英ルツボ内の原料融液からシリコン単結晶を成長させつつ引上げるチョクラルスキー法(CZ法とも言う。)が広く実施されている。CZ法では、不活性ガス雰囲気下で石英ルツボ内の原料融液(シリコン融液)に種結晶を浸し、該石英ルツボ及び種結晶を回転させながら引上げることにより所望直径のシリコン単結晶を育成する。
【0003】
近年、半導体素子の高集積化とそれに伴う微細化の進展によりシリコンウェーハ内の成長欠陥(grown−in欠陥とも言う。)が問題となっている。成長欠陥は、半導体素子の特性を劣化させる要因となるものであり、素子の微細化の進展にともない、その影響が一層大きくなっている。そのような成長欠陥としては、例えばCZ法により製造されたシリコン単結晶中の空孔の凝集体である八面体のボイド状欠陥(非特許文献1)や、格子間シリコンの凝集体として形成される転位クラスター(非特許文献2)などが知られている。
【0004】
これらの成長欠陥は、シリコン単結晶の固相/液相における界面領域における結晶の温度勾配とシリコン単結晶の成長速度によりその導入量が決まることが示されている(非特許文献3)。このことを利用した低欠陥シリコン単結晶の製造方法について、例えばシリコン単結晶の成長速度を遅くすること(特許文献1)や、シリコン単結晶の界面領域の温度勾配にほぼ比例する最大引上げ速度を超えない速度でシリコン単結晶を引上げること(特許文献2)が従来より開示されている。
さらに結晶成長中の温度勾配(G)と成長速度(V)に着目した改善CZ法(非特許文献4)などが報告されており、高速な成長速度で無欠陥領域の高品質なシリコン単結晶を得るためには、結晶温度勾配を大きくするために結晶を急冷化することが必要である。
【0005】
また、冷却筒と冷却筒より下方に延伸し、円筒または下方に向かって縮径された形状の冷却補助部材を有し、冷却筒から延伸された冷却補助部材に遮熱部材が設けられている単結晶製造装置が開示されている(特許文献3)が、遮熱部材の設置されていない部分を通して外部の高温域から結晶側へ熱が供給されてしまうため、育成単結晶の冷却能力が不十分であった。
【0006】
さらに、冷却筒の内周面を輻射熱反射防止面、融液との対抗部を輻射熱反射面とし、外周面に断熱体を設けることで冷却筒使用時に冷却筒外周部で気相中SiO成分が冷却固化して発生する固層SiOによる双晶あるいは転位を抑制できる単結晶製造装置が開示されている(特許文献4)。
しかし、冷却筒外周面に断熱体を密着して設置し断熱するだけであるため、強制冷却の能力は冷却筒内周面に依存してしまい、更なる冷却能力向上のためには、より高温の固液界面近傍に冷却筒を設置するか、表面輻射率を向上させ、吸熱を促進するしかない。ところが、前者は融液面も一緒に冷却してしまうことによって生じる融液表面での固化の発生や、原料融液の保持体となる石英ルツボから発生する石英ルツボ片に起因する異物付着頻度増加による有転位化の原因となるという問題があり、後者は表面輻射率の上限が1であるため更なる急冷化への寄与は難しいという問題があった。
【0007】
また、冷却筒の外周面の少なくとも一部を熱反射層で覆った半導体単結晶の製造装置が開示されている(特許文献5)が、上記特許文献4と同様、強制冷却の能力は冷却筒内周面に依存してしまうため、前述と同様の問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−56588号公報
【特許文献2】特開平7−257991号公報
【特許文献3】WO01/057293号公報
【特許文献4】特公平7−33307号公報
【特許文献5】WO02/103092号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Analysis of side−wall structure of grown−in twin−type octahedral defects in Czochralski silicon, Jpn. J.Appl. Phys. Vol.37(1998) p−p.1667−1670
【非特許文献2】Evaluation of microdefects in as−grown silicon crystals, Mat. Res. Soc. Symp. Proc. Vol.262(1992) p−p.51−56
【非特許文献3】The mechanism of swirl defects formation in silicon, Journal of Crystal growth 1982 p−p.625−643
【非特許文献4】日本結晶成長学会 vol.25 No.5 1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明はこのような問題に鑑みなされたもので、融液表面での固化の発生や有転位化を生じさせることなく冷却筒の冷却能力を向上させ、無欠陥の単結晶製造時における引上げ速度を高速度とし、それによって単結晶の生産性及び歩留まりを向上させ、かつ消費電力を抑制することができる単結晶の製造装置及び製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明では、少なくとも、原料融液を収容するルツボ、前記原料融液を加熱するヒーター、冷却媒体によって強制冷却される冷却筒及びこれらを収容する冷却チャンバーを有する単結晶製造装置であって、前記原料融液と引上げ中の単結晶との界面近傍において、前記引上げ中の単結晶を囲繞するように遮熱部材が配置され、該遮熱部材の上方に、前記引上げ中の単結晶を囲繞するように前記冷却筒が配置され、該冷却筒を囲繞するように、前記冷却筒外周との間に空隙を設けて冷却筒外周断熱材が配置されたものであることを特徴とする単結晶製造装置を提供する。
【0012】
このように、冷却筒外周との間に空隙を設けて冷却筒外周断熱材が配置された単結晶製造装置であれば、前記冷却筒外周断熱材が、外周からの前記空隙及び冷却筒に向けた熱を遮断するため、前記空隙で形成される空間が冷却筒外周部及び下端部によって冷却されて低温化する。これによって冷却筒内周部のみならず、前記低温化された空隙で形成される空間も成長中の単結晶の結晶冷却に寄与させることができる。
またこれによって結晶冷却を強化させることができ、冷却筒を融液表面近傍の高温部に近づける必要がないため、原料融液と成長中の単結晶界面に生じる固化や、石英ルツボ片に起因する異物付着頻度増加による有転位化を抑制することができる。さらにこれによって、結晶の引上げ速度を高速度のものとすることができるため、単結晶の生産性や歩留まりを向上させることができる。
さらに、前記空隙が結晶冷却に寄与することによって結晶冷却時における冷却筒の負担が軽減されるため、製造装置の消費電力を抑え、コストダウンを図ることができる。
【0013】
またこのとき、前記空隙は、幅が15mm以上であるものとすることができる。
【0014】
このような幅の空隙であれば、冷却筒外周部によって空隙が冷却され低温化した際に、成長中の単結晶に対する前記空隙により効果的な冷却能を得ることができる。
【0015】
またこのとき、前記冷却筒外周断熱材は、肉厚が20mm以上であり、鉛直方向の下端は前記遮熱部材の下端部の高さと等しい位置であり、上端は前記冷却筒下端より50mm上方の位置から前記冷却チャンバーの上内壁までの範囲にあるものとすることができる。
【0016】
このような冷却筒外周断熱材であれば、冷却筒との間に確実に空隙を設けることができ、さらにその断熱能もより効果的なものとすることができるため、前記低温化された空隙により、より効率的に成長中の単結晶を冷却することができる。
【0017】
またこのとき、前記遮熱部材は円筒状であって断熱材を有し、上部になるにつれてその内径が拡大するように形成されたものとすることができる。
【0018】
このような遮熱部材であれば、原料融液及びヒーターによる成長中の単結晶への輻射熱を抑制しつつ、前記低温化された空隙による結晶冷却をさらに強化することができる。
【0019】
またこのとき、前記冷却チャンバーの上内壁は、上壁断熱材によって覆われたものとすることができる。
【0020】
このようにすれば、ヒーター等の高温部から冷却チャンバー上内壁及び冷却筒への輻射熱をより効率的に抑制でき、これによってヒーターパワーが低減し、成長中の単結晶への結晶冷却を強化させることができると同時に、省電力効果も得ることができる。
【0021】
またこのとき、前記冷却筒の内周面または外周面のどちらか一面もしくは両面に黒鉛材を密着して配置させたものとすることができる。
【0022】
このような冷却筒であれば、黒鉛材によって冷却筒の吸熱能が向上するため、冷却筒及び低温化された空隙による冷却能力をより向上させることができる。
【0023】
またこのとき、前記冷却筒外周断熱材は、表面が黒鉛材によって覆われたものとすることができる。
【0024】
このような冷却筒外周断熱材であれば、断熱材からの発塵に起因する原料融液の汚染及び成長単結晶の有転位化を防止することができる。
【0025】
また本発明は、チャンバー内において、ルツボ内の原料融液をヒーターで加熱しつつ、前記原料融液からチョクラルスキー法により単結晶を引上げ、該引上げ中の単結晶を冷却筒で冷却しながら単結晶を製造する単結晶製造方法であって、本発明の単結晶製造装置を用いて単結晶を製造することを特徴とする単結晶製造方法を提供する。
【0026】
このように、本発明の単結晶製造装置を用いた単結晶の製造方法であれば、原料融液の固化や有転位化を抑制しつつ、容易に結晶の引上げ速度を高速度のものとしながら単結晶を製造することができる。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように、本発明によれば、冷却筒外周との間に空隙を設けて冷却筒外周断熱材を配置することによって、冷却筒内周部のみならず、冷却筒外周部によって低温化された前記空隙も成長中の単結晶の結晶冷却に寄与させることができるため、融液表面における固化の発生や成長単結晶の有転位化を抑制しつつ結晶の引上げ速度を高速度のものとすることができ、単結晶の生産性や歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の単結晶製造装置の冷却筒周辺構造の断面構成例を模式的に示した図である。
【
図2】本発明の単結晶製造装置において、冷却筒外周断熱材の上端を冷却チャンバー上内壁に密着させ、冷却チャンバー上内壁を上壁断熱材で覆った場合の断面構成例を示した図である。
【
図3】本発明の単結晶製造装置において、冷却筒外周面に黒鉛材を密着配置させた場合の断面構成例を示した図である。
【
図4】本発明の単結晶製造装置において、遮熱部材を断熱材で形成し、上部になるにつれてその内径が拡大するように形成した場合の断面構成例を示した図である。
【
図5】従来の冷却筒を具備した単結晶製造装置の断面構成例を示した図である。
【
図6】従来の冷却筒を具備した単結晶製造装置において、断熱材の上端は冷却チャンバー上内壁と密着し、側面は冷却筒と密着するように形成した場合の断面構成例を示した図である。
【
図7】従来の冷却筒を具備した単結晶製造装置において、冷却筒と断熱材吊り下げ補助具との間に空隙を設けた場合の断面構成例を示した図である。
【
図8】実施例及び比較例において、比較例1を100%としたときのウェーハ面内全体が無欠陥となるシリコン単結晶成長速度の結果のグラフを示した図である。
【
図9】実施例および比較例における、融液表面における固化発生率の結果のグラフを示した図である。
【
図10】実施例および比較例におけるDF化率の結果のグラフを示した図である。
【
図11】実施例および比較例において、比較例1を100%としたときのシリコン単結晶成長中のヒーターパワーの結果のグラフを示した図である。
【
図12】実施例および比較例において、比較例1を100%としたときの冷却筒除去熱量の結果のグラフを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明についてより具体的に説明する。
前述のように、高速な成長速度で無欠陥領域の高品質なシリコン単結晶を得るためには、結晶温度勾配を大きくするために結晶を急冷化することが必要である。
これに対し、従来、冷却筒を用いて強制冷却を行う技術が開示されているが、強制冷却の能力は冷却筒内周面に依存するため、更なる冷却能力向上には、例えばより高温の固液界面近傍に冷却筒を設置することが必要となる。しかし、単結晶と共に原料融液も一緒に冷却してしまうことによって生じる融液表面における固化の発生や、原料融液の保持体となる石英ルツボから発生する異物付着頻度増加による有転位化の原因となるという問題があった。
【0030】
そこで、本発明者らが鋭意研究を行った結果、冷却筒外周部に空隙を設けて冷却筒外周断熱材を設置することによって外部から断熱された内部空間を形成することで、前記内部空間は冷却筒外周部および下端部により冷却された冷却内部空間を得ることができ、前記冷却内部空間が冷却筒内周部および下端部とともに結晶冷却に寄与し、原料融液の固化や成長単結晶の有転位化を抑制しつつ結晶冷却を強化できることを見出した。
【0031】
すなわち、本発明は、少なくとも、原料融液を収容するルツボ、前記原料融液を加熱するヒーター、冷却媒体によって強制冷却される冷却筒及びこれらを収容する冷却チャンバーを有する単結晶製造装置であって、前記原料融液と引上げ中の単結晶との界面近傍において、前記引上げ中の単結晶を囲繞するように、断熱材を有する遮熱部材が配置され、該遮熱部材の上方に、前記引上げ中の単結晶を囲繞するように前記冷却筒が配置され、該冷却筒を囲繞するように、前記冷却筒外周との間に空隙を設けて冷却筒外周断熱材が配置されたものであることを特徴とする単結晶製造装置である。
【0032】
以下、本発明の実施形態について、シリコン単結晶の製造を例に挙げて図面を参照しながら具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0033】
先ず、
図1に本発明の単結晶製造装置の冷却筒周辺構造の断面構成例を模式的に示した図を示す。本発明の単結晶製造装置1は、中空円筒状のチャンバーで外観を構成し、そのチャンバーは下部円筒をなす冷却チャンバー12aと、冷却チャンバー12aに連接固定された上部円筒をなすプルチャンバー12bとから構成される。
その中心部にはルツボ2が配設され、このルツボは二重構造であり、有底円筒状をなす石英製の内層保持容器(以下、単に「石英ルツボ2a」という)と、その石英ルツボ2aの外側を保持すべく適合された同じく有底円筒状の黒鉛製の外層保持容器(以下、単に「黒鉛ルツボ2b」という)とから構成されている。
【0034】
二重構造からなるルツボ2の外側にはヒーター3が配設され、ヒーター3の外側周辺には保温筒9が同心円状に配設され、またその下方で装置底部には保温板10が、上方には保温部材11が配設されている。
そして、前記ルツボ2内に投入された所定重量のシリコン原料が溶融され、原料融液4が形成される。形成された原料融液4の表面に種結晶8を浸漬し、ルツボ2を支持軸7によって回転させ、且つ引上げ軸6はそれとは逆方向に回転させつつ、引上げ軸6を上方に引き上げて種結晶8の下端面にシリコン単結晶5を成長させる。
【0035】
ここで、原料融液4と単結晶5との界面近傍において、前記単結晶5を囲繞するように、断熱材を有する遮熱部材15が配置される。この遮熱部材15によって、原料融液4から成長中の単結晶5への輻射熱を抑制することができる。遮熱部材15の材質としては、これらに限定されるわけではないが、例えば黒鉛、モリブデン、タングステン、炭化ケイ素、または黒鉛の表面を炭化ケイ素で被覆したもの等を用いることができる。
さらに、遮熱部材を円筒状とし、
図4に示すように上部になるにつれてその内径が拡大するように形成された、断熱材からなる遮熱部材15′とすれば、前記輻射熱を抑制しつつ、前記低温化された空隙による結晶冷却をさらに強化することができる。
【0036】
また、遮熱部材15の上方で引上中の単結晶5を取り囲むように単結晶5の外周に配置された冷却筒16は、水を冷却媒体として10〜50℃程度で冷却されており、主に輻射伝熱により単結晶5を強制冷却している。冷却筒16の材質としては、これらに限定されるわけではないが、例えば鉄、ニッケル、クロム、銅、チタン、モリブデンまたはタングステン、もしくはこれらの金属を含む合金、もしくはこれら合金をチタン、モリブデン、タングステンまたは白金族金属で被覆したものとすることができる。
そして本発明では、空隙17を設けて前記冷却筒16を囲繞するように、遮熱板13上に冷却筒外周断熱材14が配置され、ヒーター3から単結晶5への輻射熱を緩和遮熱している。冷却筒外周断熱材14の材質としては、これに限定されるわけではないが、例えば炭素繊維成型体等を用いることができる。
【0037】
ここで、前記空隙17の幅は、好ましくは15mm以上、より好ましくは20mm以上として形成される。
この空隙17で形成される空間が、冷却筒16外周部によって冷却され低温化するため、冷却筒16内周部に加えて前記低温化された空隙17で形成される空間を結晶冷却に寄与させることができる。しかも、外周は冷却筒外周断熱材14によって囲繞されているため、外周から空隙17への熱の流入を確実にカットすることができる。これによって、結晶冷却をさらに強化することができる。
【0038】
また、前記冷却筒外周断熱材14の肉厚は、好ましくは20mm以上、より好ましくは25mm以上として形成される。さらに、鉛直方向の下端は遮熱部材15の下端部の高さと等しい位置とし、上端は冷却筒16下端より、好ましくは50mm、より好ましくは150mm上方の位置から冷却チャンバー12aの上内壁までの範囲にあるように形成される。また、
図2に示すように、前記冷却筒外周断熱材14は上端が冷却チャンバー12aの上内壁と可能な限り隙間のないように形成されることがより好ましい。
このようにすれば、冷却筒外周断熱材14による断熱効果を向上させることができることに加え、前記空隙17が低温化された際に、その結晶冷却能をより効果的なものとすることができる。
【0039】
また、前記冷却チャンバー12aの上内壁を、
図2に示すように上壁断熱材18によって覆うことにより、ヒーター3等の高温部から冷却チャンバー12aの上内壁への輻射熱や、冷却筒外周断熱材14の側面を通して空隙17に達する輻射熱をより効率良くカットすることができ、結果として単結晶5への輻射熱をより効率的に抑制することができると同時にヒーターパワーの低減による省電力の効果を得ることができる。
【0040】
さらに、
図3に示すように、強制冷却されている冷却筒16外周面に黒鉛材19を密着させて配置することができる。このように良熱伝導体である黒鉛材19を冷却筒16外周面に密着配置することで、さらに空隙17の冷却が促進され、結晶冷却をより強化することができる。このとき、冷却筒外周面のみならず、冷却筒内周面または両面に黒鉛材を密着配置しても良い。
【0041】
本発明の単結晶製造方法では、このような装置を用いて、以下のようにして単結晶の製造が行われる。
先ず、ルツボ2によって保持される原料融液4に種結晶8を浸漬する。その後、引上げ軸6で種結晶8を回転させながら引き上げる。その際、ヒーター3で熱し、支持軸7によってルツボ2を種結晶8とは逆方向に回転させる。そして、引上げられた単結晶5を冷却筒16で急冷し、単結晶5を製造する。
【0042】
その際、冷却筒16の外周には空隙17を設けて冷却筒外周断熱材14が配置されているため、ヒーター3等の高温部から空隙17への輻射熱を確実にカットできる。これによって、空隙17で形成された空間が、冷却筒16外周部及び下端部によって冷却され低温化するため、前記低温化された空間を結晶冷却に寄与させ、結晶冷却を強化することができる。
またこれによって融液表面に生じる固化や、有転位化を抑制することができる。さらにこれによって、結晶の引上げ速度を高速度のものとすることができるため、単結晶の生産性や歩留まりを向上させることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
図1に示した単結晶製造装置において、冷却筒と、肉厚30mmの冷却筒外周断熱材との間に60mmの空隙を設け、冷却筒外周断熱材の下端を遮熱部材の下端部とし、上端を冷却筒下端より150mm上方の位置とした。このような製造装置を用いて、内径800mmの石英ルツボにシリコン原料200kgを充填し、原料融液を形成した後に、直径300mmのシリコン単結晶を引き上げ、成長させ、ウェーハ面内全体が無欠陥となるシリコン単結晶成長速度、融液表面における固化発生率、DF化率(結晶全長に渡り無転位で単結晶が得られた確率)、シリコン単結晶成長中のヒーター電力及び冷却筒除去熱量を求めた。尚、冷却筒除去熱量は冷却に用いた水の流量と温度上昇量から求め、冷却水経路を分けて配置することで全体の除去熱量と外周部の除去熱量を分けて測定できるようにした。
このときの結果を
図8〜
図12に示す。
【0045】
(実施例2)
図2に示した単結晶製造装置において、冷却筒外周断熱材の上端を、冷却チャンバー上内壁を密着させ、且つ冷却チャンバー上内壁を上壁断熱材で覆ったこと以外は実施例1と同様にウェーハ面内全体が無欠陥となるシリコン単結晶成長速度、融液表面における固化発生率、DF化率、シリコン単結晶成長中のヒーター電力及び冷却筒除去熱量を求めた。
このときの結果を
図8〜
図12に示す。
【0046】
(実施例3)
図3に示した単結晶製造装置において、
図4に示すように、断熱材からなる遮熱部材を、上部になるにつれてその内径が拡大するように形成し、冷却筒外周面に黒鉛材を密着配置させたこと以外は実施例2と同様にウェーハ面内全体が無欠陥となるシリコン単結晶成長速度、融液表面における固化発生率、DF化率、シリコン単結晶成長中のヒーター電力及び冷却筒除去熱量を求めた。このときの結果を
図8〜
図12に示す。
【0047】
(比較例1)
図5に示した単結晶製造装置において、冷却筒と、育成中の単結晶を囲繞する肉厚30mmの断熱材を設け、該断熱材を吊り下げるための補助具との間には空隙は設けず、前記断熱材の下端を遮熱部材の下端部とし、上端を冷却筒下端部より150mm下方の位置とした。このような製造装置を用いて、内径800mmの石英ルツボにシリコン原料200kgを充填し、原料融液を形成した後に、直径300mmのシリコン単結晶を引き上げ、成長させ、ウェーハ面内全体が無欠陥となるシリコン単結晶成長速度、融液表面における固化発生率、DF化率、シリコン単結晶成長中のヒーター電力及び冷却筒除去熱量を求めた。このときの結果を
図8〜
図12に示す。
【0048】
(比較例2)
図6に示した単結晶製造装置において、断熱材の上端を冷却チャンバー上内壁と密着させ、側面を冷却筒と密着させたこと以外は比較例1と同様の条件でウェーハ面内全体が無欠陥となるシリコン単結晶成長速度、融液表面における固化発生率、DF化率、シリコン単結晶成長中のヒーター電力及び冷却筒除去熱量を求めた。このときの結果を
図8〜
図12に示す。
【0049】
(比較例3)
図7に示した単結晶製造装置において、冷却筒と断熱材吊り下げ補助具との間に幅が60mmの空隙を設けたこと以外は比較例1と同様の条件でウェーハ面内全体が無欠陥となるシリコン単結晶成長速度、融液表面における固化発生率、DF化率、シリコン単結晶成長中のヒーター電力及び冷却筒除去熱量を求めた。このときの結果を
図8〜
図12に示す。
【0050】
図8は、実施例および比較例において、比較例1を100%としたときのウェーハ面内全体が無欠陥となるシリコン単結晶成長速度の結果のグラフを示した図である。
図8において、本発明の実施例では、比較例1と比較して10〜25%の無欠陥シリコン単結晶成長速度の高速化が得られることがわかる。これは、冷却筒の外周部と冷却筒外周断熱材の間に空隙を設けて断熱することで、前記空隙で形成される空間が冷却されて低温化し、それが結晶冷却に寄与することによって結晶冷却を強化できるためである。
これに対し、冷却筒の外周部と断熱材とを密着させ、間に空隙を設けていない比較例2及び空隙を設けても、断熱材の上端が冷却筒下端部より下方にあるため、断熱材による断熱が十分に成されていない比較例3では、ほとんど無欠陥シリコン単結晶成長速度は高速化できないことがわかる。
【0051】
図9において、本発明の実施例では、冷却筒を融液界面近傍の高温部に近づける必要が無いため、上記の冷却強化による無欠陥シリコン単結晶成長速度の高速化を行っているにも関わらず固化発生率は悪化せず、むしろ減少することが分かる。
【0052】
図10において、本発明の実施例では、無欠陥シリコン単結晶成長速度の高速化を行うことができるとともに、DF化率も比較例と比べてやや良くなっていることがわかる。
【0053】
図11は、実施例および比較例において、比較例1を100%としたときのシリコン単結晶成長中のヒーターパワーの結果のグラフを示した図である。
図11において、本発明の実施例1では、冷却筒と冷却筒外周断熱材との間の空隙を外部の高温部から断熱しているため、比較例1と比較して12%の省電力化効果が得られることがわかる。また、実施例2及び実施例3では、冷却筒外周部断熱材の上端を冷却チャンバーの上内壁に密着させ、且つ冷却チャンバー断熱材を用いた断熱構造となっているため、比較例1と比較して25〜31%の省電力化効果が得られることがわかる。
【0054】
図12は、実施例および比較例において、比較例1を100%としたときの冷却筒除去熱量の結果のグラフを示した図である。
図12において、本発明の実施例は、前述のように比較例と比べヒーター電力が下げられているにも関わらず、除去熱量にはほとんど差が無い。これは、前述のように空隙の存在により冷却筒外周部によっても冷却された空間が、効率良く結晶冷却に寄与しているからである。
【0055】
以上のことから、本発明の単結晶製造装置及び製造方法によれば、単結晶の引上げ過程において、冷却筒外周部と冷却筒外周断熱材の間に空隙を設け、外部の高温部から断熱し、この空隙を主として冷却筒外周部が冷却することにより、前記空隙が低温化されることによって結晶冷却を強化できることがわかる。
これにより、結晶成長速度を高速度化し、高い歩留まりのまま無欠陥結晶の生産性を向上することができ、省エネルギーかつ高い生産性でシリコン単結晶を得ることが可能となるため、半導体デバイス用のシリコン単結晶および太陽電池用のシリコン単結晶の製造分野において広く利用することができる。
【0056】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0057】
1…単結晶製造装置、 2…ルツボ、 2a…石英ルツボ、 2b…黒鉛ルツボ、
3…ヒーター、 4…原料融液、 5…単結晶、 6…引上げ軸、 7…支持軸、
8…種結晶、 9…保温筒、 10…保温板、 11…保温部材、
12a…冷却チャンバー、 12b…プルチャンバー、 13…遮熱板、
14…冷却筒外周断熱材、 15、15′…遮熱部材、 16…冷却筒、 17…空隙、
18…上壁断熱材、 19…黒鉛材。