特許第5724870号(P5724870)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5724870
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】脂環式テトラカルボン酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/275 20060101AFI20150507BHJP
   C07C 61/13 20060101ALI20150507BHJP
【FI】
   C07C51/275
   C07C61/13
【請求項の数】14
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2011-500605(P2011-500605)
(86)(22)【出願日】2010年2月15日
(86)【国際出願番号】JP2010052231
(87)【国際公開番号】WO2010095604
(87)【国際公開日】20100826
【審査請求日】2013年2月13日
(31)【優先権主張番号】特願2009-39935(P2009-39935)
(32)【優先日】2009年2月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【弁理士】
【氏名又は名称】泉名 謙治
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(74)【代理人】
【識別番号】100072774
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 量三
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】北 浩
(72)【発明者】
【氏名】高山 祐樹
【審査官】 斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−246475(JP,A)
【文献】 特開平11−343260(JP,A)
【文献】 特開2004−182658(JP,A)
【文献】 特開2000−281682(JP,A)
【文献】 特開昭59−170087(JP,A)
【文献】 特開平02−306935(JP,A)
【文献】 社団法人 日本化学会編,新実験化学講座 15 酸化と還元 I-2,日本,丸善株式会社,1976年 9月20日,p.768-771
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/16
C07C 61/13
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式[1]で表されるエキソ−エンド−テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.01,6]ドデカ−3,8−ジエンを含むテトラシクロ[4.4.12,5.17,10.01,6]ドデカ−3,8−ジエンを、酸化性の無機窒素酸化物の水溶液に対して反応温度の上昇を制御しながら順次添加し酸化反応させることを特徴とする、下記式[2]で表されるビシクロ[3.3.0]オクタン−2−エキソ−4−エキソ−6−エンド−8−エンド−テトラカルボン酸を含むシクロ[3.3.0]オクタン−テトラカルボン酸の製造方法。
【化1】
【請求項2】
前記テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.01,6]ドデカ−3,8−ジエンが添加される前の酸化性の無機窒素酸化物の水溶液の濃度が72〜89質量%である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
酸化性の無機窒素酸化物が、硝酸、亜硝酸、二酸化窒素及び四酸化窒素からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
反応に使用する酸化性の無機窒素酸化物の合計量が、前記テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.01,6]ドデカ−3,8−ジエンの1モルに対して5〜40モルである請求項1〜3のいずれかに記載の製造する方法。
【請求項5】
発煙硝酸を存在させて酸化反応させる請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記発煙硝酸をテトラシクロ[4.4.12,5.17,10.01,6]ドデカ−3,8−ジエン1モルに対して1〜5モル倍存在させる請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.01,6]ドデカ−3,8−ジエンと酸化性の無機窒素酸化物とを、有機溶媒の存在下に酸化反応させる請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
有機溶媒がハロゲン化炭化水素、酢酸、ニトロメタン又は飽和炭化水素である請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
有機溶媒の存在量が、前記テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.01,6]ドデカ−3,8−ジエンに対して0.5〜10質量倍である請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.01,6]ドデカ−3,8−ジエンを、0〜50℃にて酸化性の無機窒素酸化物の水溶液に順次添加する請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
前記テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.01,6]ドデカ−3,8−ジエンを酸化性の無機窒素酸化物の水溶液に順次添加した後、30〜59℃にて保持し、次いで60〜100℃にて保持する請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
前記テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.01,6]ドデカ−3,8−ジエンを酸化性の無機窒素酸化物の水溶液に順次添加した後に、更に酸化性の無機窒素酸化物を添加する請求項1〜11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
更に添加する酸化性の無機窒素酸化物が、前記テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.01,6]ドデカ−3,8−ジエンの1モルに対して3〜20モルである請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
更に添加する酸化性の無機窒素酸化物の水溶液を、20〜60℃で添加する請求項12又は13に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料分野などで使用される脂環式ポリイミドの原料として有用なビシクロ[3.3.0]オクタン−2−エキソ−4−エキソ−6−エンド−8−エンド−テトラカルボン酸などの脂環式テトラカルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリイミド樹脂はその特長である高い機械的強度、耐熱性、絶縁性、耐溶剤性のために、液晶表示素子や半導体における保護材料、絶縁材料、カラーフィルターなどの電子材料として広く用いられている。また、最近では光導波路用材料等の光通信用材料としての用途も期待されている。
【0003】
近年、この分野の発展は目覚ましく、それに対応して、用いられる材料に対しても益々高度な特性が要求される様になっている。即ち、単に耐熱性、耐溶剤性に優れるだけでなく、用途に応じた性能を多数合わせ有することが期待されている。
【0004】
しかし、特に、全芳香族ポリイミド樹脂においては、濃い琥珀色を呈し着色するため、高い透明性を要求される光学材料用途においては問題が生じてくる。また、全芳香族ポリイミドは有機溶剤に不溶であるため、実際にはその前駆体であるポリアミド酸を熱による脱水閉環によって得る必要がある。
【0005】
透明性を実現する一つの方法として、脂環式テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの重縮合反応によりポリイミド前駆体を得て、該当前駆体をイミド化してポリイミドを製造すれば、比較的着色が少なく、高透明性のポリイミドが得られることは知られている(特許文献1、2参照)。
【0006】
近年、構造式[3]
【0007】
【化1】
で表されるビシクロ[3.3.0]オクタン−2−エキソ−4−エキソ−6−エンド−8−エンド−テトラカルボン酸−2:4,6:8−二無水物(以下、2−エキソ−4−エキソ−6−エンド−8−エンド−BODAと略称する。)を使用するポリイミドが、基板への印刷性、密着性に優れ、かつラビング時に基板からの剥離がなく、またラビングによる配向膜への傷がつきにくく、液晶セル駆動時に優れた電圧保持特性が得られる液晶配向処理剤及びそれを用いた液晶配向膜として知られている。(特許文献3参照)。
【0008】
しかしながら、2−エキソ−4−エキソ−6−エンド−8−エンド−BODAの前駆体である、構造式[2]
【0009】
【化2】
で表されるビシクロ[3.3. 0]オクタン−2−エキソ−4−エキソ−6−エンド−8−エンド−テトラカルボン酸(エキソ−エンド−BOTCと略称する。)の製造法には、以下のような実用的な問題を抱えていた。
【0010】
即ち、エキソ−エンド−BOTCの製造する反応では、原料である構造[1]
【0011】
【化3】
で表されるエキソ−エンド−テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.01,6]ドデカ−3,8−ジエン(以下、エキソ−エンド−TCDEと略称する。)中には、構造式[4]
【0012】
【化4】
で表されるエンド−エンド−テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.01,6]ドデカ−3,8−ジエン(以下、エンド−エンド−TCDEと略称する。)が、沸点が近接しているところから不純物としての混入が避けられず、これを分別することはたいへんなコスト増になる。このため、原料としては、上記不純物を含む混合物を使用するのが実用的である。
【0013】
一方、エキソ−エンド−TCDEから目的生成物のエキソ−エンド−BOTCの製造法として、従来、知られているオゾン酸化法(非特許文献1参照)では、目的生成物のエキソ−エンド−BOTC中には、原料中の不純物であるエンド−エンド−TCDEから生成した構造式[5]
【0014】
【化5】
で表されるビシクロ[3.3.0]オクタン−2−エンド−4−エンド−6−エンド−8−エンド−テトラカルボン酸(以下、エンド−エンド−BOTCと略称する。)の混入が避けらず、高純度品を得るための精製操作に大きな問題を有する。また、オゾン酸化法の場合、反応中間体であるオゾニドは不安定な化合物であり、大量生産に際しての管理やオゾニドから蟻酸中での過酸化水素による分解反応時の激しい発熱に不安がある。更に、高価なオゾン発生装置や電力コスト等の経済性上の点でも工業的製法として相応しくない。
【0015】
また、従来、過マンガン酸カリウムによる酸化法も知られているが(非特許文献2参照)、この方法の場合、カリウムイオンが目的生成物のエキソ−エンド−BOTC中に混入し、次工程の無水酢酸による脱水閉環反応において、目的生成物であるエキソ−エンド−BODA中に混入するとともに、構造式[6]
【0016】
【化6】
で表されるビシクロ[3.3.0]オクタン−2−エンド−4−エンド−6−エンド−8−エンド−テトラカルボン酸−2:8,4:6−二無水物(以下、エンド−エンド−BODAと略称する。)への異性化副生を伴い、その精製に問題を残す。即ち、酸化反応後の目的生成物エキソ−エンド−BOTCからのカリウムイオンの除去精製が問題である。
【0017】
更に、過マンガン酸カリウムによる酸化法の場合、高価な酸化剤を過剰量必要な上に、大量生産時には、反応後の残渣の廃棄処理法の問題が深刻になる。加えて、反応が基質濃度1質量%前後の希薄な水溶液で行う必要があり、容積効率が極めて低く採算性が甚だ悪い。また、目的生成物の単離には、反応後、膨大な溶媒の水を濃縮留去する必要がありエネルギ−負荷が大きい。過マンガン酸カリウムによる酸化法は、このようにいくつもの実用的に困難な課題を抱えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開昭60−188427号公報
【特許文献2】特開昭58−208322号公報
【特許文献3】特開平11−249148号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc., 81, 4273 (1959)
【非特許文献2】J. Am. Chem. Soc., 82, 6342 (1960)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、電子材料分野などで使用される脂環式ポリイミドの原料として有用な2−エキソ−4−エキソ−6−エンド−8−エンド−BODAの前躯体であるエキソ−エンド−BOTCなどの脂環式テトラカルボン酸の製造法であり、低廉な原料を用いて目的物の異性体や金属等の不純物を含まない高純度の目的物が得られ、かつ、反応の原料濃度が高く容積効率の高い生産性を有する製造法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行い、以下の要旨を有する本発明を完成させた。
(1)下記式[1]で表されるエキソ−エンド−テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.01,6]ドデカ−3,8−ジエンを含むテトラシクロ[4.4.12,5.17,10.01,6]ドデカ−3,8−ジエンを、酸化性の無機窒素酸化物の水溶液に対して反応温度の上昇を制御しながら順次添加し酸化反応させることを特徴とする、下記式[2]で表されるビシクロ[3.3.0]オクタン−2−エキソ−4−エキソ−6−エンド−8−エンド−テトラカルボン酸を含むシクロ[3.3.0]オクタン−テトラカルボン酸の製造方法。
【化2】
【0022】
(2)前記テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.01,6]ドデカ−3,8−ジエンが添加される前の酸化性の無機窒素酸化物の水溶液の濃度72〜89質量%であ(1)に記載の製造方法。
(3)酸化性の無機窒素酸化物が、硝酸、亜硝酸、二酸化窒素及び四酸化窒素からなる群から選ばれる少なくとも1種である(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)反応に使用する酸化性の無機窒素酸化物の合計量が、前記テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.01,6]ドデカ−3,8−ジエンの1モルに対して5〜40モルである(1)〜(39のいずれかに記載の製造方法。
(5)発煙硝酸を存在させて酸化反応させる(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法。
(6)前記発煙硝酸をテトラシクロ[4.4.12,5.17,10.01,6]ドデカ−3,8−ジエン1モルに対して1〜5モル倍存在させる(5)に記載の製造方法。
(7)前記テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.01,6]ドデカ−3,8−ジエンと酸化性の無機窒素酸化物とを、有機溶媒の存在下に酸化反応させる(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法。
(8)有機溶媒がハロゲン化炭化水素、酢酸、ニトロメタン又は飽和炭化水素である(7)に記載の製造方法。
【0023】
(9)有機溶媒の存在量が、前記テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.01,6]ドデカ−3,8−ジエンに対して0.5〜10質量倍である(7)又は(8)に記載の製造方法。
(10)前記テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.01,6]ドデカ−3,8−ジエンを、0〜50℃にて酸化性の無機窒素酸化物の水溶液に順次添加する(1)〜(9)のいずれかに記載の製造方法。
(11)前記テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.01,6]ドデカ−3,8−ジエンを酸化性の無機窒素酸化物の水溶液に順次添加した後、30〜59℃にて保持し、次いで60〜100℃にて保持する(1)〜(10)のいずれかに記載の製造方法。
(12)前記テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.01,6]ドデカ−3,8−ジエンを酸化性の無機窒素酸化物の水溶液に順次添加した後に、更に酸化性の無機窒素酸化物を添加する(1)〜(11)のいずれかに記載の製造方法。
(13)更に添加する酸化性の無機窒素酸化物が、前記テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.01,6]ドデカ−3,8−ジエンの1モルに対して3〜20モルである(12)に記載の製造方法。
(14)更に添加する酸化性の無機窒素酸化物の水溶液を、20〜60℃で添加する(12)又は(13)に記載の製造方法。

【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、電子材料分野等に有用な脂環式ポリイミド原料などとして使用される、2−エキソ−4−エキソ−6−エンド−8−エンド−BODAの前躯体であるエキソ−エンド−BOTCなどの脂環式テトラカルボン酸が、低廉な酸化剤である無機窒素酸化物を用いることにより、目的物の異性体や金属等の不純物を含まない高純度にて製造でき、かつ、反応の原料濃度が高く容積効率の高い生産性のある製造法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明では、下記式[A]で表される化合物である、テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.01,6]ドデカ−3,8−ジエン((以下、TCDEとも略称する。)から、下記式[B]で表される化合物である、シクロ[3.3.0]オクタン−テトラカルボン酸(以下、BOTCとも略称する。)が製造される。
【0026】
【化9】
本発明における原料であるTCDEは、種々の方法で製造できるが、例えば、下記の反応スキームで製造することができる。
【0027】
【化10】
即ち、ノルボルナジエン(ND)とシクロペンタジエン(CP)(又はジシクロペンタジエン(DCPD))を170〜230℃の高温で加熱し、得られた反応粗物(エキソ−エンド−TCDE、エンド−エンド−TCDE及びエキソ−エキソ−TCDE(僅か)の混合物)を蒸留することにより目的物を単離できる。本発明では、エキソ−エンド−TCDEが目的物として好ましい。しかしながら、このエキソ−エンド−TCDEは、エンド−エンド−TCDEと沸点が近接しているところから、再蒸留してもエンド−エンド−TCDEが混入し、高純度まで精製することは実用的には困難である。
【0028】
本発明では、エキソ−エンド−TCDEとエンド−エンド−TCDEとの混合物を使用しても、後記するように、酸化反応後の目的物が容易に精製でき、高純度のエキソ−エンド−BOTCなどが製造できるので、本発明では、エキソ−エンド−TCDEとエンド−エンド−TCDEとの混合物が使用できる。この混合物としては、エキソ−エンド−TCDE/エンド−エンド−TCDEの質量割合が好ましくは60〜99/40〜1、特に好ましくは70〜90/30〜10である。
【0029】
次いで、本発明におけるTCDEの酸化反応について述べる。本発明では、酸化剤として、酸化性の無機窒素酸化物の水溶液を用いることが必要である。酸化性の無機窒素酸化物とは、酸化力がある無機酸化物であり、好ましくは、硝酸(HNO)、亜硝酸(HNO)、二酸化窒素(NO)及び四酸化窒素(N)からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。なかでも、硝酸が入手性及び操作性上有利である。酸化性の無機窒素酸化物の水溶液としては、溶媒が水である水溶液が好ましい。酸化性の無機窒素酸化物の水溶液における無機窒素酸化物の濃度は、反応速度と目的物の選択性から好ましくは70〜89質量%、特に好ましくは72〜89質量%である。無機窒素酸化物の水溶液の濃度が低い場合は、得られた結晶中の目的物の純度が低くなり、精製が困難で好ましくない。無機窒素酸化物の使用量は、原料TCDE1モルに対して5〜40モル倍が好ましく、特には、8〜20モル倍が望ましい。
【0030】
酸化性の無機窒素酸化物によりTCDEの酸化反応を行う場合、通常、反応の初期には、誘導期があり、攪拌開始後しばらくしてから急激な発熱を伴ったNOxガスの発生が起きる。この場合、触媒を存在させることにより反応を穏やかに進行させることができる。触媒としては、好ましくは、亜硝酸塩、バナジン酸アンモニウム及び/又は酸化バナジウム(V)の硝酸水溶液を使用できる。しかし、このような触媒を使用する場合には、生成物中にバナジウムなどの金属が混入し、その除去精製が実用的には困難である。
【0031】
本発明者らは、上記触媒を使用する代わりに、発煙硝酸を存在させることにより誘導期をほとんど無しに反応を開始することができ、反応温度の制御も可能になることを見出した。発煙硝酸は、TCDEの酸化としても寄与し有効に消費される。発煙硝酸としては、硝酸濃度が好ましくは90〜99質量%、特には90〜98質量%の市販品を使用することができる。発煙硝酸の存在量は、原料のTCDE1モルに対して1〜5モル倍が好ましく、特に2〜3モル倍が好ましい。
【0032】
本発明におけるTCDEの酸化反応は、有機溶媒の存在下又は非存在下で進行させることができる。特に、有機溶媒の存在下で進行させることにより、TCDEの酸化反応における大きい発熱を制御し、急激な温度上昇を緩和することができ、また、得られる目的生成物の結晶の純度が高く精製が容易になるため好ましい。さらに、有機溶媒を使用することにより、発生するNOxガスの反応系外への流出を抑制することもでき好ましい。有機溶媒の使用量は、溶媒量が多くなり過ぎると反応の進行が遅くなることから、原料TCDEに対し0.5〜10質量倍、特には1〜5質量倍が経済的にも好ましい。
【0033】
上記有機溶媒としては、好ましくは、例えば、炭素数が好ましくは1〜5のハロゲン化炭化水素、炭素数が好ましくは1〜10の炭化水素、酢酸、ニトロメタン、ジオキサン等が挙げられる。なかでも、ハロゲン化炭化水素は、酸化反応の終了時に析出する結晶中の目的物の純度が高くできるので特に好ましい。ハロゲン化炭化水素の具体例としては、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1−クロロプロパン、2−クロロプロパン、1,2−ジクロロプロパン、1,3−ジクロロプロパン、2,2−ジクロロプロパン、1−クロロブタン、2−クロロブタン、1,4−ジクロロブタン等が挙げられる。なかでも、1,2−ジクロロエタン、又は1,2−ジクロロプロパンが好ましい。
【0034】
本発明において、酸化性の無機窒素酸化物の水溶液を使用してTCDEを酸化する場合、反応槽中に無機窒素酸化物の水溶液を仕込み、これに対して原料TCDEを添加する方法(逆添加法)を使用することが必要である。この逆添加法の場合、反応温度の上昇を制御しつつ安定した実施が可能になるとともに、反応終了時析出して得られる結晶中の目的物の純度が顕著に高いことが見出された。一方、原料TCDEに対して酸化性の無機窒素酸化物の水溶液を添加する方法(順添加法)は、後の比較例に示されるように、いく段階での激しい発熱による温度制御が難しいとともに、順滴下法で得られる結晶中の目的物の純度が低く、その精製が極めて困難であることが判明した。
【0035】
本発明において、無機窒素酸化物の水溶液に対して、原料TCDEを添加する場合、例えば、反応槽中に酸化性の無機窒素酸化物の水溶液と発煙硝酸を仕込み、原料TCDEを少量添加しNOxガスを発生させてから、残りの大半の原料TCDEを添加速度を調節しながら順次滴下させることにより、一層、発熱反応の制御がしやすいことが判明した。また、原料TCDEの添加時の発熱は、有機溶媒を存在させることにより温和に制御し易くなるが、有機溶媒を原料TCDEと硝酸のどちらか又は両方に混合させて行うこともできる。
【0036】
酸化反応における温度は、酸化性の無機窒素酸化物の水溶液に対する原料TCDEの添加時の温度、及びTCDEの添加後の、好ましくは攪拌を伴う反応温度に分けられる。前者のTCDEの添加時の温度は、0〜50℃が好ましく、特には20〜40℃で行うことが、目的物の収率面からも好ましい。添加した未反応のTCDEを反応槽内に蓄積させないように、添加時間をかけて行うことが好ましい。添加時の温度が低過ぎる場合は、誘導期が見られ、未反応のTCDEが反応槽内に蓄積され、後急激な発熱を伴なって反応するので好ましくない。また、高過ぎる場合にはNOxガスの発生が激しく反応槽外へ飛散し、かつ目的物の収率面からも好ましくない。
【0037】
一方、上記後者のTCDEの添加後の反応温度は好ましくは10〜69℃、特に好ましくは30〜69℃である。上記を超える高温にすると目的物の収量は低下するので好ましくはない。
【0038】
本発明においては、酸化性の無機窒素酸化物の水溶液中へTCDEを添加後の温度を多段階の温度で保持することにより、目的物の収率を向上することが見出された。すなわち、TCDEを添加後、1段目で好ましくは30〜59℃、2段目で好ましくは60〜100℃の2段階以上で保持することにより目的物の収率が向上する。特に、1段目で40〜55℃、2段目で60〜90℃の2段階以上で保持することが好ましい。
【0039】
酸化反応時間は、酸化性の無機窒素酸化物の水溶液中への原料TCDEの添加時間とその後の反応時間とを合わせて、安全上及び目的物の収率面から時間をかけて行うのが好ましい。添加時間は、反応のスケールや反応槽の冷却能力により異なるが、通常は0.5〜10時間が好ましい。添加後の反応時間は、通常5〜120時間、好ましくは10〜80時間が好ましい。
【0040】
上記したTCDE添加後の反応温度を2段階以上に保持する場合には、1段目と2段目の反応時間は、いずれも、通常5〜50時間、好ましくは8〜40時間、さらに好ましくは1〜15時間であるのが好適である。
本発明において、TCDEを硝酸水溶液に添加した後に、更に硝酸水溶液を反応混合物溶液に添加するのが好ましい。この追加される硝酸は、TCDEの1モルに対し3〜20モルであるのが好ましく、4〜10モルであるのがより好ましい。また、この硝酸の濃度は90〜99質量%の発煙硝酸が好ましい。
本発明では、上記追加される硝酸水溶液の添加時の温度は、20〜60℃が好ましく、30〜50℃がより好ましい。このように温度を低くすることにより目的物であるBOTCの収率を上げることができる。
また、上記追加の硝酸水溶液の添加は、上記硝酸水溶液へのTCDEの添加後、好ましくは5分〜2時間、より好ましくは10分〜1時間後に行うのが、反応を緩やかに進行させるために好適である。
更に、追加の硝酸水溶液添加後に反応温度を徐々に上げていくことでより高い収率を得ることができる。具体的には、好ましくは20〜80時間、より好ましくは30〜60時間かけて、反応系の温度が好ましくは50〜90℃まで、より好ましくは60〜80℃まで上げていくことで高い収率が得られる。温度を上昇させる方法としては、多段階にわたって温度を上げていく方法でも、連続的に温度を上げていく方法でもよい。
【0041】
本発明では、BOTCの製造を目的とするが、なかでも、2−エキソ−4−エキソ−6−エンド−8−エンド−BODAの前躯体であるエキソ−エンド−BOTCであるのが好ましい。本発明では、目的物がエキソ−エンド−BOTCである場合、かかるエキソ−エンド−BOTCは、副生するエンド−エンド−BOTCとの分離が容易であり、高純度のエキソ−エンド−BOTCが容易に製造できる特徴がある。
【0042】
すなわち、酸化反応終了後、析出した結晶を濾取後、有機溶媒で洗浄し乾燥することにより目的物であるエキソ−エンド−BOTCの高純度品が一次結晶として得られる。このとき使用される有機溶媒としては、例えば、1,2−ジクロロエタン(EDC)、アセトニトリル、酢酸エチル、酢酸エチル・n−ヘプタン混合液等が使用できる。
【0043】
更に、一次結晶を得る際の濾液と洗液を混合後、原料であるTCDEについて約2〜4質量倍程度まで濃縮して得られた濃縮液をそのままか、又は有機溶媒を加えてから冷却し、析出した結晶を濾取後、有機溶媒で洗浄し乾燥することによりエキソ−エンド−BOTCが二次結晶として得られる。この場合の有機溶媒としては、アセトニトリル、酢酸エチル、酢酸エチル・n−ヘプタン混合液等が使用できる。
【0044】
また、上記エキソ−エンド−BOTCの一次結晶や二次結晶は、既知の洗浄方法や再結晶法によって更に精製して純度を上げることもできる。洗浄方法としては、一次結晶や二次結晶に対してアセトニトリルや酢酸エチルなどの有機溶媒を加えて加温し、氷冷し、濾過、乾燥することにより行われる。また、再結晶法は、溶媒として水やN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等が使用できる。DMFを使用する場合は、貧溶媒として酢酸エチルやアセトニトリル等との組み合わせで回収率を上げることができる。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明の解釈はこれらに限定されるものではないことはもちろんである。
尚、実施例で用いた分析法は以下の通りである。
[1] [質量分析(MASS)]
機種:LX−1000(JEOL社製)、検出法:FAB法.
[2] [H NMR]
機種:Varian社製NMR System 400NB(400MHz),
測定溶媒:DMSO−d6
標準物質:tetramethylsilane(TMS).
[3] [融点(m.p.)]
機種:微量融点測定装置(MP−S3)(ヤナコ機器開発研究所社製)
【0046】
実施例1
500mLの四つ口反応フラスコに、硝酸(濃度69〜70重量%、密度1.42g/ml)90.0g(1mol)、発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)28.0g(0.4mol)及びEDC31.6gを仕込み、マグネチックスターラー攪拌下に、エキソ−エンド−TCDE/エンド−エンド−TCDE=83%/17%の混合物31.6g(0.2mol)をEDC31.6gに溶解した溶液を45〜50℃で45分かけて滴下した。続いて、50〜55℃で17時間攪拌した。
【0047】
次いで、更に発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)42.0g(0.6mol)を滴下し、55℃で25時間攪拌すると白色結晶が析出した。続いて、氷冷してからろ過後、EDCで洗浄し、減圧乾燥すると一次白色結晶16.0g(純度98%)(収率33.0%)が得られた。
【0048】
この結晶は、MASS及び1H NMR分析結果より、エキソ−エンド−BOTCであることを確認した。
MASS ( ESI, m/z(%) ) : 285([M-H], 100), 267(5)
1H NMR ( DMSO-d6, δppm ) : 12.15 ( s, 4H ), 3.17-3.07 ( m, 2H ), 2.78-2.66 ( m, 2H ),2.54-2.42 ( m, 2H ), 2.21 ( dt, J=12.0, 6.0 Hz, 1H ), 1.83-1.72 ( m, 2H ), 1.58 ( dt, J=12.0, 12.0 Hz, 1H ).
【0049】
更に、ろ液とEDC洗液を混合してから、重量が108gまで濃縮してからアセトニトリル25gを加えた後、氷冷すると結晶が析出した。この結晶をろ過後、アセトニトリルで洗浄し、減圧乾燥するとエキソ−エンド−BOTCの二次結晶1.9g(純度90%)(収率4.0%)が得られた。
尚、一次結晶及び二次結晶の金属分析では、K及びMnのいずれも検出限界以下(<1ppm)であった。
なお、上記実施例における酸化反応は以下のとおりである。
【0050】
【化11】
【0051】
実施例2
500mLの四つ口反応フラスコに、硝酸(濃度69〜70重量%、密度1.42g/ml)18.0g(0.2mol)、発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)14.0g(0.2mol)及びEDC47.4gを仕込み、マグネチックスターラー攪拌下に、エキソ−エンド−TCDE/エンド−エンド−TCDE=88%/22%15.8g(0.1mol)の混合物をEDC15.8gに溶解した溶液を33〜40℃で1時間かけて滴下した。
【0052】
続いて、発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)42.0g(0.6mol)を30〜33℃で35分かけて滴下した。40℃で3時間攪拌後、発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)35.0g(0.5mol)を35℃で10分かけて滴下した。その後、40℃で48時間攪拌した。
続いて氷冷してから、ろ過し、ケーキをEDC30mLで2回洗浄し、減圧乾燥するとエキソ−エンド−BOTCの一次淡黄色結晶5.6g(純度98%)(収率22.0%)が得られた。
【0053】
実施例3
500mLの四つ口反応フラスコに、硝酸(濃度69〜70重量%、密度1.42g/ml)18.0g(0.2mol)、発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)14.0g(0.2mol)及びEDC47.4gを仕込み、マグネチックスターラー攪拌下に、エキソ−エンド−TCDE/エンド−エンド−TCDE=88%/22%の混合物を15.8g(0.1mol)をEDC15.8gに溶解した溶液を45〜55℃で1時間かけて滴下した。続いて、発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)49.0g(0.6mol)を45〜50℃で30分かけて滴下した。更に、50〜65℃まで5時間かけて昇温し、後65℃で17時間攪拌した。
続いて氷冷してから、ろ過し、ケーキをEDC30mLで2回洗浄し、減圧乾燥するとエキソ−エンド−BOTCの一次淡黄色結晶5.3g(純度98%)(収率20.0%)が得られた。
【0054】
実施例4
500mLの四つ口反応フラスコに、硝酸(濃度69〜70重量%、密度1.42g/ml)18.0g(0.2mol)、発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)14.0g(0.2mol)及びEDC15.8gを仕込み、マグネチックスターラー攪拌下に、エキソ−エンド−TCDE/エンド−エンド−TCDE=88%/22%の混合物15.8g(0.1mol)をEDC15.8gに溶解した溶液を33〜38℃で1時間かけて滴下した。続いて、発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)42.0g(0.6mol)を32〜40℃で10分かけて滴下した。続いて、40℃〜50℃までを6時間かけて昇温してから、前半を50℃で16時間、更に50℃〜65℃までを3時間かけて昇温してから、後半を65℃で20時間攪拌した。
【0055】
続いて氷冷してからEDC30mLを添加し、攪拌後、ろ過し、ケーキをEDC30mLで2回洗浄し、減圧乾燥するとエキソ−エンド−BOTCの一次淡黄色結晶10.2g(純度98%)(収率40.0%)が得られた。
【0056】
更に、ろ液とEDC洗液を混合してから、重量が30gまで濃縮してからEDC30mLを加えた後、氷冷すると結晶が析出した。この結晶をろ過後、EDCで洗浄し、減圧乾燥するとエキソ−エンド−BOTCの二次結晶1.2g(純度90%)(収率4.0%)が得られた。
【0057】
次に、前記一次結晶10.2gにアセトニトリル40gを加え80℃で30分攪拌した。続いて、氷冷してからろ過、酢酸エチル30mLで2回洗浄後減圧乾燥すると白色結晶8.6gが得られた。この結晶は1H NMR分析結果より、純度100%のエキソ−エンド−BOTCであることを確認した。
m.p.(℃):255〜260℃
【0058】
実施例5
攪拌羽付き500mLの四つ口反応フラスコに、硝酸(濃度69〜70重量%、密度1.42g/ml)18.0g(0.2mol)、発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)14.0g(0.2mol)及びEDC15.8gを仕込み、機械攪拌下に、エキソ−エンド−TCDE/エンド−エンド−TCDE=88%/22%の混合物15.8g(0.1mol)をEDC15.8gに溶解した溶液を30〜37℃で1時間かけて滴下した。続いて,発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)42.0g(0.6mol)を30〜33℃で20分かけて滴下した。続いて、33℃〜50℃までを5時間かけて昇温してから、前半を50℃で16時間、更に50℃〜65℃までを9時間かけて昇温してから、後半を65℃で20時間攪拌した。
【0059】
続いて氷冷してからEDC30mLを添加し、攪拌後、ろ過し、ケーキをEDC20mLで2回洗浄し、減圧乾燥するとエキソ−エンド−BOTC一次淡黄色結晶10.4g(純度98%)(収率40.0%)が得られた。
【0060】
次に、前記一次結晶10.0gに水200gを加え120℃油浴で加温攪拌して溶解を確認してから、活性炭2gを加えて120℃で1時間30分攪拌した。続いて、熱濾過して得られたろ液を85gまで濃縮してから氷冷し、析出した結晶をろ過、減圧乾燥すると白色結晶7.51gが得られた。この結晶は1H NMR分析結果より、純度100%のエキソ−エンド−BOTCであることを確認した。
m.p.(℃):255〜260℃
【0061】
実施例6
500mLの四つ口反応フラスコに、硝酸(濃度69〜70重量%、密度1.42g/ml)18.0g(0.2mol)、発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)14.0g(0.2mol)及びEDC15.8gを仕込み、マグネチックスターラー攪拌下に、エキソ−エンド−TCDE/エンド−エンド−TCDE=88%/22%の混合物15.8g(0.1mol)をEDC15.8gに溶解した溶液を30〜40℃で1時間かけて滴下した。30〜25℃で20分攪拌した後、発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)42.0g(0.6mol)を33〜40℃で50分かけて滴下した。
【0062】
続いて、40℃〜50℃までを6時間かけて昇温してから、前半を50℃で16時間、更に50℃〜70℃までを4時間かけて昇温してから、後半を70℃で17時間攪拌した。
続いて氷冷してからろ過し、ケーキをEDC30mLで洗浄し、減圧乾燥するとエキソ−エンド−BOTCの一次淡黄色結晶12.2g(純度90%)(収率43.6%)が得られた。
【0063】
次に、前記一次結晶8.1gに水227g(28重量倍)を加え110℃油浴で加温攪拌して20分後溶解を確認してから、内温96℃で20分攪拌した。続いて、熱濾過した後微少の残渣を水32g(4重量倍)で水洗し、ろ液と洗液の混合液を氷冷し、析出した結晶をろ過、減圧乾燥すると白色結晶5.85gが得られた。この結晶は1H NMR分析結果より、純度100%のエキソ−エンド−BOTCであることを確認した。
m.p.(℃):265〜267℃
【0064】
実施例7
攪拌羽付き500mLの四つ口反応フラスコに、硝酸(濃度69〜70重量%、密度1.42g/ml)18.0g(0.2mol)、発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)14.0g(0.2mol)及びEDC15.8gを仕込み、機械攪拌下に、エキソ−エンド−TCDE/エンド−エンド−TCDE=88%/22%の混合物15.8g(0.1mol)をEDC15.8gに溶解した溶液を30〜40℃で1時間かけて滴下した。30〜25℃で20分攪拌した後、発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)42.0g(0.6mol)を33〜40℃で1時間かけて滴下した。
【0065】
続いて、40℃〜50℃までを6時間かけて昇温してから、前半を50℃で15時間、更に50℃〜75℃までを7時間かけて昇温してから、後半を75℃で24時間攪拌した。
続いて氷冷してから酢酸エチル/n−ヘプタン=1/1の30mLを加えてスラリー化してからろ過し、ケーキを酢酸エチル/n−ヘプタン=1/1の30mLを加えて洗浄し、減圧乾燥するとエキソ−エンド−BOTCの一次淡黄色結晶12.0g(純度95%)(収率45.3%)が得られた。
【0066】
実施例8
攪拌羽付き500mLの四つ口反応フラスコに、硝酸(濃度69〜70重量%、密度1.42g/ml)18.0g(0.2mol)、発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)14.0g(0.2mol)及びEDC15.8gを仕込み、機械攪拌下に、エキソ−エンド−TCDE/エンド−エンド−TCDE=88%/22%の混合物15.8g(0.1mol)をEDC15.8gに溶解した溶液を25〜37℃で1時間20分かけて滴下した。30〜25℃で20分攪拌した後、発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)42.0g(0.6mol)を27〜30℃で1時間かけて滴下した。
【0067】
続いて、30℃〜50℃までを5時間30分かけて昇温してから、前半を50℃で16時間、更に50℃〜80℃までを8時間30分かけて昇温してから、後半を80℃で17時間攪拌した。
【0068】
続いて氷冷してから酢酸エチル/n−ヘプタン=1/1の30mLを加えてスラリー化してからろ過し、ケーキを酢酸エチル/n−ヘプタン=1/1の30mLを加えて洗浄し、減圧乾燥するとエキソ−エンド−BOTCの一次淡黄色結晶10.6g(純度95%)(収率40.1%)が得られた。
【0069】
実施例9
攪拌羽付き500mLの四つ口反応フラスコに、硝酸(濃度69〜70重量%、密度1.42g/ml)18.0g(0.2mol)、発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)14.0g(0.2mol)及びEDC15.8gを仕込み、機械攪拌下に、エキソ−エンド−TCDE/エンド−エンド−TCDE=88%/22%の混合物15.8g(0.1mol)をEDC15.8gに溶解した溶液を25〜30℃で1時間35分かけて滴下した。30〜25℃で15分攪拌した後、発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)42.0g(0.6mol)を25〜30℃で25分かけて滴下した。
【0070】
続いて、30℃〜45℃までを6時間かけて昇温してから、前半を45℃で16時間30分、更に45℃〜70℃までを8時間30分かけて昇温してから、後半を70℃で15時間攪拌した後、更に75℃で8時間攪拌を続けた。
【0071】
続いて氷冷してから酢酸エチル/n−ヘプタン=1/1の30mLを加えてスラリー化してからろ過し、ケーキを酢酸エチル/n−ヘプタン=1/1の30mLを加えて洗浄し、減圧乾燥するとエキソ−エンド−BOTCの一次淡黄色結晶10.7g(純度95%)(収率40.4%)が得られた。
【0072】
比較例1(オゾン法)
20Lの反応槽にメタノール10.4Lを仕込み、−40℃に冷却した後、攪拌下にエキソ−エンド−TCDE/エンド−エンド−TCDE=83%/27%の混合物0.625kg(3.95mol)を滴下した。続いて、オゾン発生機からオゾンを含む酸素ガス(オゾン発生量:100g/hr)を25〜30NL/min.の流速で5時間送入した。この間の液温は−27〜−36℃(浴温:−40〜−50℃)であった。その後窒素でバブリングした後、一夜静置した。
【0073】
続いて、浴温35℃で1.33kPa(10mmHg)まで濃縮し、粘性油状物1.61kgが得られた。更に、浴温35℃で酢酸2Lを加えて攪拌溶解した後、氷水で冷却して一夜静置した。
【0074】
次に蟻酸2Lを5℃以下で滴下し、オゾニド/酢酸/蟻酸溶液を得た。
10L反応槽に35%過酸化水素水0.77L(8.95mol)、酢酸0.47L及び蟻酸0.47Lを仕込み、56℃に昇温したところに、オゾニド溶液0.41Lを液温が60℃以下に調節しながら注意深く滴下した。
【0075】
滴下発熱終了後1.5時間経過してから、再びオゾニド溶液1.73Lを液温が52〜62℃で1.5時間かけて滴下した。続いて35%過酸化水素水0.77L(8.95mol)を液温が59〜61℃で0.5時間かけて滴下した。
再びオゾニド溶液1.73Lを液温が59〜61℃で1時間かけて滴下した。続いて35%過酸化水素水0.77L(8.95mol)を液温が58〜59℃で滴下した。
再びオゾニド溶液1.73Lを液温が61〜63℃で0.5時間かけて滴下した。発熱反応が終了するまで攪拌を3.5時間(液温65℃以下に調整)続けた。その後4℃に冷却し、一夜静置した。
【0076】
次に4℃〜90℃に5時間かけて昇温(77℃付近で発熱あり)し、92〜94℃で2時間攪拌した後、放冷(徐々に室温に戻し)一夜攪拌した。
続いて、ろ過後100mLのアセトンで2回洗浄した後、減圧乾燥することにより白色結晶0.485kg(収率42.0%)が得られた。この結晶の異性対比を分析の結果、目的とするエキソ−エンド−BOTC純度は87%(収率36%)で、不純物であるエンド−エンド−BOTCは13%(収率6%)含有していることが判明した。尚、KびMnの金属分析結果は、1ppm以下であった。
【0077】
続いて、この結晶を用いて、次の脱水工程を検討した結果、得られた結晶中の目的とする2−エキソ−4−エキソ−6−エンド−8−エンド−BODA純度は83%で、再結晶化を繰り返しても重合評価用純度までには到達できなかった。
【0078】
比較例2(KMnO法)
攪拌羽付き2Lの四つ口反応フラスコに、エキソ−エンド−TCDE/エンド−エンド−TCDE=83%/17%の混合物10g(63mmol)と水1Lg仕込み、攪拌下に過マンガン酸カリウム(KMnO)53.8g(340mmol)(5.4モル倍)を25℃〜34℃間で2時間かけて添加した。続いて25℃で18時間攪拌を続け反応を停止させた。その後ろ過により固形分を除いた後、ろ液を60mLまで濃縮した。続いて、冷却しながら35%塩酸水35gを注意深く滴下し酸性にしてから、一夜静置した。
【0079】
析出した結晶を水洗後、減圧乾燥することにより白色結晶6.85g(収率38%)が得られた。この結晶の異性対比を分析の結果、目的とするエキソ−エンド−BOTC純度は94%で、不純物であるエンド−エンド−BOTCは6%含有していることが判明した。K及びMnの金属分析結果は、Kは0.11%含有し、Mnは1ppm以下であった。
【0080】
次にここで得られたBOTCに10モル倍の無水酢酸を加えて、160℃で4時間脱水反応させた後濃縮してから、1,4−ジオキサンで再結晶させて得率54%で得られた結晶の分析結果は、2−エキソ−4−エキソ−6−エンド−8−エンド−BODA純度が96%であったが、金属分析の結果は、Kは0.28%含有して居り、次の重合反応に使用することができなかった。
【0081】
比較例3 (順滴下法:EDC溶媒)
500mL四つ口反応フラスコに、エキソ−エンド−TCDE/エンド−エンド−TCDE=88%/22%の混合物15.8g(0.1mol)とEDC15.8gを仕込んだ。これに対し27℃で硝酸(濃度69〜70重量%、密度1.42g/ml)4.5g(0.05mol)、続いて発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)3.5g(0.05mol)を滴下した。次に、46℃で硝酸(濃度69〜70重量%、密度1.42g/ml)13.5g(0.25mol)を30分かけて滴下した。
【0082】
続いて50〜55℃で発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)38.5g(0.55mol)を30分かけて滴下した。更に、52℃で23時間攪拌した。
再び、発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)14g(0.2mol)を52℃で5分かけて滴下してから、52℃で32時間攪拌した。
【0083】
続いて氷冷してからEDC30mlを添加し、攪拌後、ろ過し、ケーキをEDC30mlで2回洗浄し、減圧乾燥するとエキソ−エンド−BOTC一次白色結晶5.3gが得られた。この結晶は1H NMR分析結果より、目的とするエキソ−エンド−BOTC純度は40%であった。
【0084】
比較例4 (順滴下法:無溶媒)
500mLの四つ口反応フラスコにエキソ−エンド−TCDE/エンド−エンド−TCDE=88%/22%の混合物15.8g(0.1mol)を仕込んだ。これに対し、40℃で硝酸(濃度69〜70重量%、密度1.42g/ml)36g(0.4mol)を30分かけて滴下した後、続いて発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)7g(0.1mol)を滴下した。次に、40℃で発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)7g(0.1mol)を10分で滴下し、更に、硝酸(濃度69〜70重量%、密度1.42g/ml)36g(0.4mol)を10分かけて滴下した。続いて50℃で22時間攪拌した。更に、52〜57℃で24時間攪拌した。
【0085】
続いて氷冷してからEDC30mlを添加し、攪拌後、ろ過し、ケーキをEDC30mlで2回洗浄し、減圧乾燥すると白色結晶14.5gが得られた。この結晶は1H NMR分析結果より、目的とするエキソ−エンド−BOTC純度は20%であった。即ち、順滴下法は、生成結晶中の目的物純度が低く、精製が困難であった。
【0086】
参考例1:BODA合成
100mlの四つ口反応フラスコに実施例5で得られたBOTC一次晶を水から再結晶した白色結晶5.2g(18.1mmol)と無水酢酸37.0gを仕込み、マグネチックスターラー攪拌下に、昇温し120℃油浴で20分反応させると、スラリー液は均一透明液になった。更に10分間攪拌を続けた後反応を停止した後、重量16gまで濃縮してからスラリー液を氷冷した。この結晶をろ過した後、トルエンで2回洗浄してから、減圧乾燥すると白色結晶4.2g(16.8mmol)(収率92.8%)が得られた。
【0087】
この結晶は、MASS及び1H NMR分析結果より、2−エキソ−4−エキソ−6−エンド−8−エンド−BODAであることを確認した。mp.231〜233℃
尚、この結晶の金属分析の結果、Kは、1ppm以下であった。
【0088】
【化12】
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の製造される脂環式テトラカルボン酸である、高純度の2−エキソ−4−エキソ−6−エンド−8−エンド−BOTCなどは、電子材料分野などで使用される脂環式ポリイミドの原料などして有用である。

なお、2009年2月23日に出願された日本特許出願2009−039935号の明細書、特許請求の範囲、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。