特許第5725023号(P5725023)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5725023サファイア基板とその製造方法及び窒化物半導体発光素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5725023
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】サファイア基板とその製造方法及び窒化物半導体発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/22 20100101AFI20150507BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20150507BHJP
【FI】
   H01L33/00 172
   H01L33/00 186
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-522581(P2012-522581)
(86)(22)【出願日】2011年6月23日
(86)【国際出願番号】JP2011064355
(87)【国際公開番号】WO2012002240
(87)【国際公開日】20120105
【審査請求日】2014年1月15日
(31)【優先権主張番号】特願2010-146540(P2010-146540)
(32)【優先日】2010年6月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100068526
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭生
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】成田 准也
(72)【発明者】
【氏名】若井 陽平
(72)【発明者】
【氏名】若木 貴功
【審査官】 吉野 三寛
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/018008(WO,A1)
【文献】 特開2008−177528(JP,A)
【文献】 Haiyong Gao et al.,Enhancement of the light output power of InGaN/GaN light-emitting diodes grown on pyramidal patterned sapphire substrates in the micro- and nanoscale,JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,2008年 1月15日,Vol. 103,pp.014314
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00−33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の主面に複数の凸部を備え、その一方の主面に窒化物半導体が成長されて窒化物半導体発光素子が形成されるサファイア基板であって、
前記凸部は先端が尖った錐形状を有し、その凸部の傾斜表面はそれぞれ、隣接する凸部間に位置する基板表面に比較して前記窒化物半導体の成長が抑制される結晶成長抑制表面からなり、かつ傾斜角が不連続に変化する傾斜変更線を有することを特徴とするサファイア基板。
【請求項2】
前記凸部の底面は、それぞれ外側に膨らんだ円弧形状の3以上の辺を有する略多角形であり、前記傾斜表面は、前記各辺の両端と前記尖った先端を頂点とする略三角形の複数の傾斜面からなり、該傾斜面がそれぞれ前記傾斜変更線において傾斜角が不連続に変化する請求項1に記載のサファイア基板。
【請求項3】
前記凸部の傾斜面はそれぞれ、前記傾斜変更線より上の傾斜面の傾斜角が前記傾斜変更線より下の傾斜面の傾斜角より小さくなっている請求項1又は2に記載のサファイア基板。
【請求項4】
前記凸部が、前記一方の主面上において相互に分離して設けられた請求項1〜3のうちのいずれか1つに記載のサファイア基板。
【請求項5】
前記凸部が、前記一方の主面上において周期的に配置されている請求項1〜4のうちのいずれか1つに記載のサファイア基板。
【請求項6】
前記凸部が、三角形格子、四角形格子又は六角形格子の頂点に配置された請求項5記載のサファイア基板。
【請求項7】
請求項1〜6のうちのいずれか1つに記載のサファイア基板と、該サファイア基板の一方の主面上に窒化物半導体を成長させることにより形成された窒化物半導体層と、を備えた窒化物半導体発光素子。
【請求項8】
複数の凸部を有する窒化物半導体発光素子用サファイア基板の製造方法であって、
サファイア基板のC面上に円形状の第1マスクを形成して、その第1マスクをエッチングマスクとしてサファイア基板をウエットエッチングすることにより、略三角形状の上面を有する略三角錘台形状の下凸部を形成する第1エッチング工程と、
前記第1マスクを除去して下凸部の上面を露出させる前記第1マスク除去工程と、
前記上面を露出させた下凸部をさらにウエットエッチングすることにより、下凸部の上に先端の尖った錐形状の上凸部を形成する第2エッチング工程と、
を含み、
前記第2エッチング工程によって、傾斜角が不連続に変化する傾斜変更線を傾斜表面に有する前記凸部が形成されることを特徴とする窒化物半導体発光素子用サファイア基板の製造方法。
【請求項9】
前記第1マスク除去工程と第2エッチング工程の間に、前記露出させた下凸部の上面に円形状の第2マスクを形成する第2マスク形成工程を含み、
第2エッチング工程において、前記第2マスクをエッチングマスクとして前記下凸部をさらにウエットエッチングする請求項8記載の窒化物半導体発光素子用サファイア基板の製造方法。
【請求項10】
前記第2エッチング工程によって、前記傾斜変更線より上の傾斜が下の傾斜よりも緩やかな傾斜表面からなる前記凸部が形成されること請求項8又は9記載の窒化物半導体発光素子用サファイア基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体発光素子用のサファイア基板とその製造方法及び窒化物半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、窒化物半導体からなる発光ダイオード(LED)は、通常、サファイア基板上にn型半導体層、活性層、p型半導体層を順に積層することにより構成される。この発光ダイオードでは、発光した光は、サファイア基板とは反対側、またはサファイア基板側から取り出されるが、活性層で発光した光は出射側とは逆の方向にも放射される。したがって、出射側とは逆の方向に放射された光を効果的に出射側から取り出せるようにして外部量子効率を向上させることが必要になる。
【0003】
そこで、例えば、三角錐台形状の凸部をサファイア基板上に複数配置して、外部量子効率を向上させることが特許文献1に開示されている。また、特許文献1には、三角錐台形状の凸部によって、その凸部が形成された面上に結晶成長させることにより、空隙の発生や結晶性の悪化を抑制できる旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−177528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本願発明者等の鋭意研究の結果、三角錐台形状のディンプルを有する面上に成長された窒化物半導体の結晶性では必ずしも十分でないことがわかった。
すなわち、近年、発光ダイオードの高出力化が進むにつれ、従来の発光ダイオードでは顕在化しなかったような結晶欠陥による問題が顕在化するようになってきている。
【0006】
そこで、本発明は、結晶性に優れた窒化物半導体の成長が可能で、かつ光取り出し効率に優れた窒化物半導体発光素子を構成することが可能な窒化物半導体発光素子用のサファイア基板とその製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、結晶性に優れた窒化物半導体を有し、かつ光取り出し効率に優れた窒化物半導体発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の目的を達成するために、本発明に係るサファイア基板は、一方の主面に複数の凸部を備え、その一方の主面に窒化物半導体が成長されて窒化物半導体発光素子が形成されるサファイア基板であって、前記凸部は先端が尖った錐形状を有し、その凸部の傾斜表面はそれぞれ、隣接する凸部間に位置する基板表面に比較して前記窒化物半導体の成長が抑制される結晶成長抑制表面からなり、かつ傾斜角が不連続に変化する傾斜変更線を有することを特徴とする。
【0008】
本発明に係るサファイア基板において、前記凸部の底面は、それぞれ外側に膨らんだ円弧形状の3以上の辺を有する略多角形であり、前記傾斜表面は、前記各辺の両端と前記尖った先端を頂点とする略三角形の複数の傾斜面からなり、該傾斜面がそれぞれ前記傾斜変更線において傾斜角が不連続に変化するようにできる。
【0009】
本発明に係るサファイア基板において、前記凸部の傾斜面はそれぞれ、前記傾斜変更線より上の傾斜面の傾斜角が前記傾斜変更線より下の傾斜面の傾斜角より小さくなっていることが好ましい。
【0010】
本発明に係るサファイア基板においては、前記凸部が、前記一方の主面上において相互に分離して設けられていることが好ましい。
【0011】
本発明に係るサファイア基板においては、前記凸部が、前記一方の主面上において周期的に配置されていることが好ましく、その周期的配置として、三角形格子、四角形格子又は六角形格子の頂点に周期的に配置することが挙げられる。
【0012】
本発明に係る窒化物半導体発光素子は、前記本発明に係るサファイア基板と、該サファイア基板の一方の主面上に窒化物半導体を成長させることにより形成された窒化物半導体層と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る窒化物半導体発光素子用サファイア基板の製造方法は、窒化物半導体発光素子用サファイア基板の製造方法であって、サファイア基板のC面上に第1マスクを形成して、その第1マスクをエッチングマスクとしてサファイア基板をエッチングすることにより、裁頭錐台形状の下凸部を形成する第1エッチング工程と、
前記第1マスクを除去して下凸部の上面を露出させる前記第1マスク除去工程と、
前記上面を露出させた下凸部をさらにエッチングすることにより、下凸部の上に先端の尖った錐形状の上凸部を形成する第2エッチング工程と、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上のように構成された本発明に係るサファイア基板は、一方の主面に形成された複数の凸部がそれぞれ先端が尖った錐形状を有し、その凸部の傾斜表面はそれぞれ、隣接する凸部間に位置する基板表面に比較して前記窒化物半導体の成長が抑制される結晶成長抑制表面からなりかつ傾斜角が不連続に変化する傾斜変更線を有しているので、結晶性に優れた窒化物半導体の成長が可能で、かつ光取り出し効率に優れた窒化物半導体発光素子を構成することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る実施形態の窒化物半導体発光素子の断面図である。
図2】(a)は、実施形態の窒化物半導体発光素子における凸部1の平面図であり、(b)は、(a)のA−A’線についての断面図である。
図3】実施形態の窒化物半導体発光素子における凸部1の配列の一例を示す平面図である。
図4】実施形態の窒化物半導体発光素子における凸部1の配列の他の例を示す平面図である。
図5】実施形態に係る窒化物半導体発光素子の製造方法において、第2エッチング工程用の第1マスク19を形成したときの平面図である。
図6】実施形態に係る窒化物半導体発光素子の製造方法における第1エッチング工程後の基板表面の平面図である。
図7】実施形態に係る窒化物半導体発光素子の製造方法における第2エッチング工程用の第2マスクを形成したときの基板表面の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。ただし、以下に説明する発光素子・装置は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、本発明を以下のものに特定しない。特に、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
【0017】
本発明に係る実施形態の窒化物半導体発光素子は、図1に示すように、サファイア基板10の上に、下地層21、第1導電型層(n型層)22、活性層(発光層)23、第2導電型層(p型層)24が順に積層された半導体積層構造2が設けられており、下地層21が成長される基板10の表面には、それぞれ先端が尖った錐形状の複数の凸部(ディンプル)1が設けられている。
以上のように構成された実施形態の窒化物半導体発光素子は、詳細後述するように、先端が尖った錐形状の複数の凸部(ディンプル)1が設けられた基板10の表面にそれぞれ窒化物半導体からなる下地層21、第1導電型層(n型層)22、活性層(発光層)23、第2導電型層(p型層)24が成長されているので、当該半導体層を結晶性良く成長させることができる。
また、実施形態の半導体発光素子は、さらに発光層23で発光した光を先端が尖った錐形状の複数の凸部1によって出射方向に効率よく反射させることが可能になり、光の取り出し効率を高くできる。
具体的には、横方向に伝播する光を凸部1、特に凸部1の傾斜した傾斜面で、反射・回折させることができる。
【0018】
実施形態において、凸部(ディンプル)1は、図2(a)(b)に示すように、略三角錐形状になるように形成されており、
(i)凸部底面が略三角形状(各辺11,12,13が円弧状に外側に膨らんだ略三角形状)であり、
(ii)凸部1の3つの傾斜面11k,12k,13kはそれぞれ外側に膨らんだ略三角形状であり、かつその途中にそれぞれ傾斜変更線(エッチング切替線)L11,L12,L13を有しており、その傾斜変更線を境に傾斜が不連続に変化している。
より具体的には、各傾斜面11k,12k,13kにおいて、傾斜変更線L11,L12,L13でそれぞれ傾斜面11k,12k,13kが折れ曲がっており、傾斜変更線L11,L12,L13より上(頂点側)の傾斜が下(底面側)の傾斜より緩やかになっている。
また、凸部(ディンプル)1は略三角錐形状であって、その頂点t1は尖っている。
ここで、本明細書において、頂点が尖っているとは、凸部(ディンプル)1の頂点から窒化物半導体が成長しない程度に凸部1の頂点部分(上面)が小さくなっていることをいう。
【0019】
以上のように構成された実施形態の半導体発光素子では、発光層23で発光された光のうちの基板の表面方向に伝播する光が基板表面の凸部1間の面及び凸部1の傾斜面11k,12k,13kにより乱反射又は回折される。
特に、本実施形態の凸部1の傾斜面11k,12k,13kは、図2(a)(b)に示すように、外側に膨らんだ曲面となっているので所謂凸面鏡のように入射された光が拡がるように拡散されて反射され、さらに傾斜変更線11k,12k,13kを境に傾斜が不連続に変化するので、入射された光はより広い範囲に拡散される。
【0020】
本実施形態の略三角錐形状の凸部1は、基板の結晶形態及び凸部1が形成される基板表面の面方位、マスク形状及び寸法、エッチング条件とを目的形状に応じて設定することにより形成することができる。
【0021】
例えば、サファイア基板のC面からなる表面に円形の第1マスクを形成して、エッチングをすると、初期段階ではマスクが形成されていない部分がエッチングにより除去されてマスク形状がほぼそのまま反映された円形の凸部が形成されるが、エッチングが進むにつれて結晶形態に起因するエッチング速度の方向依存性(方向によるエッチングが進む速度が異なること)の影響を受けることになり、結晶形態が反映された形状になっていく。
【0022】
具体的には、エッチングの進行方向によってエッチング速度が異なることから結晶形態が反映されてエッチングが進み、底部の3つの頂点と三角錐の稜線が徐々に明確になってきて、円形マスクの下に略三角錐台形状の下凸部1aが形成される。この略三角錐台形状の下凸部1aの上面は、略三角形状にエッチングされておりかつアンダーカットにより円形マスクより面積は小さくなる。また、下凸部1aの底面及び上面は、各辺が外側に膨らんだ円弧形状の略三角形状になり、エッチングが進むほど面積が小さくなるとともに各辺の円弧の曲率半径は大きくなって直線的になる。
【0023】
本実施形態では、下凸部1aが形成された後、第1マスクを除去したあと、下凸部1aの上面に第2マスクを形成して、又は第2マスクを形成することなくエッチングすることによって、下凸部1aの上にさらに三角錐形状の上凸部1bが形成されて、傾斜変更線L11,L12,L13を境に傾斜が不連続に変化する傾斜面11k,12k,13kを有する略三角錐形状の凸部(ディンプル)1が形成される。
【0024】
尚、本実施形態において、下凸部をエッチングにより形成する際及び上凸部をエッチングにより形成する際、エッチング時間を長くすることにより、凸部1の底面の各辺11,12,13が直線で傾斜面11k,12k,13kが平坦な三角錐形状に形成することもできるし、凸部1の底面の各辺11,12,13及び傾斜面11k,12k,13kが内側に湾曲した円弧形状の略三角錐形状に形成することも可能である。
【0025】
また、基板上の凸部1は、光出力、光取り出し効率を向上させるとともに、下地層21が成長される際、凸部1の傾斜面11k,12k,13kが下地層21の成長を抑制する面(結晶成長抑制表面ともいう。)となって凸部1間の表面(以下、結晶成長表面という)から成長した下地層の横方向成長を促進して、結晶欠陥の少ない表面を有する下地層21の形成を可能にするものである。したがって、結晶成長抑制表面を構成する凸部は結晶成長表面の中に均一に分布していることが好ましく、図3〜4に示すように、互いに分離されて規則的に配置されていることが好ましい。
図3は、三角格子点配置であり、図4は、正方格子点配置である。
【0026】
また、結晶成長表面から縦方向に成長した窒化物半導体には、基板の格子定数と窒化物半導体の格子定数の差に起因する転位が成長方向に伸びて表面に現れる傾向があるので、基板上の凸部1は高密度に形成することが好ましい。このように凸部1を高密度に配置すると、結晶成長表面に対する結晶成長抑制表面の面積比率が高くなるので、結晶成長抑制表面を覆う横方向成長された窒化物半導体の比率が多くなり、成長方向に伸びる転位が下地層21の内部に閉じ込められて表面に現れる転位を減らすことができる。
【0027】
さらに、本実施形態の凸部1は、各傾斜面11k,12k,13kにおいてそれぞれ、傾斜変更線L11,L12,L13より上(頂点側)の傾斜が下(底面側)の傾斜より緩やかになっているので、傾斜変更線L11,L12,L13を境に窒化物半導体の横方向成長がより促進される。これにより、より結晶性の良好な、窒化物半導体が形成されると同時に成長された窒化物半導体の表面の平坦化が促進される。
【0028】
凸部1の規則的かつ高密度の配置としては、例えば、図3〜4に示すような三角格子点配置、及び正方格子点配置の他、平行四辺形格子点配置、長方形格子点配置などの配置が挙げられる。
尚、この規則構造は、基板面内全体に同一の規則で配列してもよいし、基板上に形成する半導体素子構造の、例えば、電極配置に応じて、異なる規則構造に配置してもよい。
【0029】
このように、良好な結晶性の窒化物半導体を成長させるためには、凸部1の高さは、0.5μm以上2μm以下の範囲、好ましくは0.7μm以上1.2μm以下の範囲、凸部1の間隔(最も狭い部分の間隔)は、0.5μm以上2μm以下の範囲、好ましくは1.5μm以下とすることが好ましい。
凸部1の底面の一辺(底面の頂点間の直線距離)は、0.5μm以上3μm以下、好ましくは0.7μm以上2μm以下とすることが好ましい。
【0030】
また、基板1上に、尖った頂点t1を有し、かつ傾斜変更線L11,L12,L13の上下で傾斜角が不連続に変化する結晶成長抑制表面からなる傾斜面11k,12k,13kを有する凸部1は、例えば、以下に説明する2段階エッチングにより形成することができる。
【0031】
<第1エッチングステップ>
本製造方法では、まず、図5に示すように、サファイア基板10のC面(0001)上に円形の第1マスク19を形成して、基板をエッチングした後、第1マスク19を除去する。
これにより、略三角形状の上面を有する略三角錐台形状の下凸部1aが形成される(図6)。
エッチングには、ウェットエッチングと、ドライエッチングがあるが、本発明ではいずれのエッチング方法を用いてもよい。ドライエッチングとして具体的には気相エッチング、プラズマエッチング、反応性イオンエッチングを用いることもでき、その際のエッチングガスとしては、Cl系、F系ガス、例えばCl2、SiCl4、BCl3、HBr、SF6、CHF3、C4F8、CF4、などの他、不活性ガスのArなどが挙げられる。
ウェットエッチングのエッチング溶液としては、例えば実施例のサファイア基板の場合、リン酸、若しくはピロリン酸、又はそれに硫酸を加えた混酸、又は水酸化カリウムを用いることができる。この時、マスク材料としては、SiO2などのケイ素酸化物の他、基板材料、そのエッチング液に応じて適宜選択され、例えば、V,Zr,Nb,Hf,Ti,Ta,Alからなる群から選択される少なくとも一つの元素の酸化物、Si,B,Alからなる群から選択される少なくとも一つの元素の窒化物を挙げることができる。
【0032】
<第2エッチングステップ>
次に、図7に示すように、第1マスク19を除去した後、下凸部1aの上面に円形の第2マスク20を形成して、又は第2マスク20を形成することなくさらに基板1をエッチングする。
このエッチングステップにおいては、少なくとも下凸部の上面に尖った先端を有する上凸部が形成されるまでエッチングを進める。
なお、このエッチングは、第1エッチング工程と同様、ウェットエッチングであってもよいしドライエッチングであってもよい。
また、エッチング方法は、第1エッチング工程と異なるエッチング方法を採用することもできる。すなわち、第1エッチング工程がウェットエッチングで、第2エッチング工程がドライエッチングであってもよいし、またその逆でもよい。
また、第1エッチング工程と第2エッチング工程とで、エッチングガス又はエッチング液を変更してもよい。
【0033】
以上の2段階エッチングにより基板10上に、尖った頂点t1を有し、かつ傾斜変更線L11,L12,L13の上下で傾斜角が不連続に変化する結晶成長抑制表面からなる傾斜面11k,12k,13kを有する凸部1を形成することができる。
【0034】
以上のようにして、傾斜変更線L11,L12,L13の上下で傾斜角が不連続に変化する傾斜面11k,12k,13kを有する先端が尖った凸部1が複数形成されたサファイアC面(0001)上に、窒化物半導体を成長させると、凸部1の傾斜面11k,12k,13kからの窒化物半導体の成長は抑制される(実質的に成長はしない)。
これにより、凸部1間のサファイアC面(0001)表面から成長した窒化物半導体が凸部1の傾斜面上を横方向に成長して、成長が進むにつれて凸部1を覆い結晶欠陥の少ない平坦なGaN表面が得られ、その結晶欠陥の少ない平坦なGaN表面上に、結晶欠陥の少ない窒化物半導体層が積層された発光素子構造を形成することが可能になる。
【0035】
[発光素子]
発光素子構造は、例えば、図1に示すように、基板上に、第1,2導電型層22,24の間に活性層23が設けられた積層構造2を有し、活性層23及び第2導電型層24の一部を除去して露出させた第1導電型層22の上と第2導電型層24の上とに、第1電極と第2電極とが形成されてなる。また、第2電極は、第2導電型層24上のほぼ全面に形成された透光性オーミック電極とその透光性オーミック電極の上に形成されたパッド及び拡散電極とからなる。
【0036】
発光素子を形成するにあたって、基板上に成長させる半導体としては、一般式InxAlyGa1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)で表される窒化ガリウム系化合物半導体材料を用いることができる。特に後述のようにその二元・三元混晶を好適に用いることができる。また、窒化物半導体以外に、GaAs、GaP系化合物半導体、AlGaAs、InAlGaP、系化合物半導体などの他の半導体材料にも適用することができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明に係る実施例を説明する。
〔実施例1〕
サファイア基板のC面(0001)上にSiO2膜を成膜、パターンニングすることにより、直径約1.5μmの円形状の第1マスク19を周期的に形成した。
続いて、エッチング液としてリン酸と硫酸の混酸を用いたエッチング浴に基板を浸漬し、溶液の温度約290℃で深さ(凸部高さ)が約1μmとなるまで約5分エッチングした。
これにより、下凸部1aが形成された。
【0038】
次に、第1マスク19を除去した後、マスク無い状態で、エッチング液としてリン酸と硫酸の混酸を用いたエッチング浴に基板を浸漬し、溶液の温度約290℃で凸部の先端が尖るまで約1分エッチングすることにより上凸部1bが形成した。
以上の工程により、高さ約1μm、テーパー角が2段階の凸部1が形成された。
【0039】
続いて、基板をMOCVD装置に移し、凸部1が形成された基板表面に、低温(約510℃)で成長させた20nmのGaNバッファ層と、その上に高温(約1050℃)でGaNを、c軸成長させ、表面が平坦な下地層21を形成した。
【0040】
このようにして得られる下地層21が形成された基板上に、図1に示すように、n型コンタクト層などのn型層22と、活性層23と、p型層24を形成して半導体素子構造(発光波長465nmの青色LED)を作製した。
具体的には、上記下地層21の上に、第1導電型層22(n型層)として、膜厚5μmのSi(4.5×1018/cm3)ドープGaNのn側コンタクト層と、0.3μmのアンドープGaN層と、0.03μmのSi(4.5×1018/cm3)ドープGaN層と、5nmのアンドープGaN層と、4nmのアンドープGaN層と2nmのアンドープIn0.1Ga0.9N層とを繰り返し交互に10層ずつ積層された多層膜を形成した。n型層22の上の活性層23として、膜厚25nmのアンドープGaNの障壁層と、膜厚3nmのIn0.3Ga0.7Nの井戸層とを繰り返し交互に6層ずつ積層し、最後に障壁層を積層した多重量子井戸構造を形成した。活性層の上の第2導電型層(p型層)24として、4nmのMg(5×1019/cm3)ドープのAl0.15Ga0.85N層と2.5nmのMg(5×1019/cm3)ドープIn0.03Ga0.97N層とを繰り返し5層ずつ交互に積層し、最後に上記AlGaN層を積層したp側多層膜層と、膜厚0.12μmのMg(1×1020/cm3)ドープGaNのp側コンタクト層を形成した。
【0041】
尚、半導体素子構造には、発光構造部の表面となるp型層24表面に透光性のオーミック電極として、ITO(約170nm)を形成し、そのITOの上とn側コンタクト層の上に、Rh(約100nm)/Pt(約200nm)/Au(約500nm)をこの順に積層した構造の電極を形成した。
【符号の説明】
【0042】
1 凸部
1a 下凸部
1b 上凸部
2 半導体積層構造
10 基板
t1 頂点
L11,L12,L13 傾斜変更線
11k,12k,13k 傾斜面
19 第1マスク
20 第2マスク
21 下地層
22 n型層(第1導電型層)
23 活性層
24 p型層(第2導電型層)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7