特許第5725101号(P5725101)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5725101円筒形スパッタリングターゲットの製造方法
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  • 特許5725101-円筒形スパッタリングターゲットの製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5725101
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】円筒形スパッタリングターゲットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20150507BHJP
【FI】
   C23C14/34 C
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-168721(P2013-168721)
(22)【出願日】2013年8月14日
(62)【分割の表示】特願2009-107610(P2009-107610)の分割
【原出願日】2009年4月27日
(65)【公開番号】特開2013-249544(P2013-249544A)
(43)【公開日】2013年12月12日
【審査請求日】2013年8月29日
(31)【優先権主張番号】特願2008-152061(P2008-152061)
(32)【優先日】2008年6月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】戸床 茂久
(72)【発明者】
【氏名】玉野 公章
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 謙一
(72)【発明者】
【氏名】渋田見 哲夫
【審査官】 浅野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−060351(JP,A)
【文献】 特開2002−301567(JP,A)
【文献】 米国特許第05230462(US,A)
【文献】 国際公開第2006/063721(WO,A1)
【文献】 特開昭62−167041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00〜14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス円筒形ターゲット材と円筒形基材とにより形成されたキャビティに接合材が充填されているセラミックス円筒形スパッタリングターゲットの製造方法において、キャビティに溶融状態の接合材を充填し、円筒軸方向の一端より冷却を開始し他端に向けて順次冷却し、冷却中にさらに溶融状態の接合材をキャビティに供給することを特徴とする、円筒形ターゲットの製造方法。
【請求項2】
冷却を開始する円筒軸方向の一端とは反対側の端から溶融状態の接合材をキャビティに供給することを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
冷却中に、溶融状態の接合材を溜めた接合材供給部から接合材をキャビティに供給することを特徴とする、請求項又はに記載の製造方法。
【請求項4】
接合材をキャビティに充填するとき又は充填後に、キャビティに充填した溶融状態の接合材に振動を加えることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマグネトロン型回転カソードスパッタリング装置等に用いられる円筒形スパッタリングターゲット及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マグネトロン型回転カソードスパッタリング装置は、円筒形スパッタリングターゲットの内側に磁場発生装置を有し、ターゲットの内側から冷却しつつ、ターゲットを回転させながらスパッタを行うものであり、ターゲット材の全面がエロージョンとなり均一に削られるため、従来の平板型マグネトロンスパッタリング装置の使用効率(20〜30%)に比べて格段に高いターゲット使用効率(60%以上)が得られる。さらに、ターゲットを回転させることで、従来の平板型マグネトロンスパッタリング装置に比べて単位面積あたり大きなパワーを投入できることから高い成膜速度が得られる(特許文献1参照)。
【0003】
マグネトロン型回転カソードスパッタリング装置に用いられるセラミックスターゲットの製造方法としては、例えば、円筒形基材の外周面に溶射法によってターゲット層を形成する方法(特許文献2参照)、円筒形基材の外周に粉末を充填し熱間等方圧プレス(HIP)によりターゲットを形成、及び接合する方法(特許文献3参照)等が知られている。
【0004】
しかし、溶射法、HIP法は、それらを実施するための装置および運転のコストが多大であるとともに、円筒形基材と円筒形ターゲット材が一体で作製されているため、円筒形基材の再利用が困難で経済的ではない。またこれらの方法は熱膨張係数の差に起因する剥離や割れが発生しやすい。
【0005】
低コストな作製方法として、別途作製したセラミックス焼結体からなる円筒形ターゲット材を半田材等の接合材を用いて接合する方法の開発が強く望まれている。この場合、溶射法、HIP法と比較して高密度なセラミックス焼結体を使用できることから、高品位な膜が得られる、製造歩留りが高い等の利点もある。半田材を用いたセラミックス円筒形スパッタリングターゲット作製方法としては、円筒形ターゲット材、及び円筒形基材の一方の端を封止し、溶融状態の半田材を入れた円筒形ターゲット材に円筒形基材を挿入する方法(特許文献4参照)が知られている。
【0006】
しかし、この方法では、半田材が液体から固体へ相変化することによる体積減少、及び融点から常温への冷却による体積減少が生じてしまい、これらの体積減少により発生する接合層欠陥により、熱伝導が不良となり割れ、欠けが発生したり、電気伝導が不良となり異常放電が発生したりすることがあった。また、スパッタリング中にノジュールと呼ばれる針状の突起物が発生することもあり、このノジュールにより異常放電やパーティクルが発生したりすることがあった。例えば、半田材として一般的に使用されているInの場合、156.6℃で固化する際に、2.7%の体積減少、156.6℃から25℃に冷却される際に1.2%の体積減少を生じ、最終的には3.9%の体積減少が発生してしまう。
【0007】
さらに、一般的にセラミックス円筒形ターゲット材の熱膨張係数は円筒形基材の熱膨張係数より小さいため、接合材の融点から常温に冷却する際に、円筒形ターゲット材と円筒形基材とにより形成されるキャビティ体積が増加し、前記In自体の体積減少以上の接合欠陥が発生してしまう。これらの現象は、従来の平板型スパッタリングターゲットでは、接合材の体積が減少してもそれに応じて平板型ターゲット材と平板型基材との間隔が狭くなるため問題とならず、円筒形スパッタリングターゲットでのみ発生する固有の問題であった。また、円筒形スパッタリングターゲットでは平板型スパッタリングターゲットと比較して極めて大きなパワーを単位面積あたりに投入するため、接合層欠陥により引き起こされる割れ、欠け、異常放電、ノジュールといった問題が発生しやすかった。
【0008】
ところで、セラミックス材料や金属材料を接合材を用いて接合した場合、その接合状態の検査方法として、測定対象物の一方よりX線を照射し、他方より透過したX線を検出して、測定対象物各部のX線吸収量の違いから接合材の有無を判定する方法がある。このような方法を用いて初めて明らかとなる円筒形スパッタリングターゲットの接合層の状態と、前述の割れ、欠け、異常放電、ノジュールの円筒形スパッタリングターゲット固有の問題とが関連しているかどうかについては、これまで何ら検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表昭58−500174号公報
【特許文献2】特開平05−222527号公報
【特許文献3】特開平05−230645号公報
【特許文献4】特許第3618005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、割れ、欠け、異常放電、ノジュールの発生を著しく低減したセラミックス円筒形スパッタリングターゲットとその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、円筒形ターゲット材と円筒形基材とにより形成されるキャビティに充填した溶融状態の接合材を、軸方向の一端より冷却を開始し他端に向けて順次冷却し、さらに溶融状態の接合材をキャビティに供給することにより、接合層欠陥を著しく低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
また、X線透過写真を用いて明らかとなる円筒形スパッタリングターゲットの接合層の状態と、割れ、欠け、異常放電、ノジュールの発生との関係に着目し、鋭意検討を行った結果、溶融状態の接合材を固化して接合層を形成したスパッタリングターゲットにおいて、X線透過写真で計測できる接合材が存在しない箇所の面積の合計と接合材が存在しない箇所の最大面積とを制御することにより、割れ、欠け、異常放電、ノジュールの発生を著しく低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち本発明は、セラミックス円筒形ターゲット材と円筒形基材とにより形成されたキャビティに接合材が充填されているセラミックス円筒形スパッタリングターゲットにおいて、接合材のX線透過写真で、接合材が存在しない箇所の合計面積がX線透過写真面積50cmあたり10cm以下、かつ接合材が存在しない箇所の最大面積が9cm以下であることを特徴とするターゲットである。
【0014】
また本発明は、セラミックス円筒形ターゲット材と円筒形基材とにより形成されたキャビティに接合材が充填されているセラミックス円筒形スパッタリングターゲットの製造方法において、キャビティに溶融状態の接合材を充填し、円筒軸方向の一端より冷却を開始し、他端に向けて順次冷却し、冷却中にさらに溶融状態の接合材をキャビティに供給することを特徴とする上述のターゲットの製造方法である。以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明のターゲットにおいて、セラミックス円筒形ターゲット材と円筒形基材とにより形成されるキャビティとは、図1における3の部分であり、ここに接合材が充填されている。本発明の接合材のX線透過写真は、接合材の欠陥を調べるためのもので、例えば、円筒形スパッタリングターゲット外部よりX線照射装置を用いてX線を照射し、円筒形基材内部に貼り付けたX線撮影用フィルムで撮影することにより得られる。円筒形スパッタリングターゲットの曲率を考慮し、複数枚のX線撮影用フィルムで撮影すればよい。
【0016】
接合材のX線透過写真において接合材が存在しない箇所の合計面積は、種々の方法により求めることが可能であるが、撮影したX線透過写真をデジタルファイル化し、市販の画像解析ソフトを使用するのが簡便で正確であるため好ましい。本発明の円筒形スパッタリングターゲットは、接合材が存在しない箇所の合計面積がX線透過写真面積50cmあたり10cm以下であることを特徴とする。この数値にまで接合層の欠陥を低減することで、欠陥に起因する熱伝導不良、電気伝導不良による割れ、欠け、異常放電等を低減することができる。好ましくはX線透過写真面積50cmあたり2cm以下であり、さらに好ましくはX線透過写真面積50cmあたり1cm以下である。
【0017】
接合材のX線透過写真において接合材が存在しない箇所の最大面積も前述の手法により同様に計測できる。本発明の円筒形スパッタリングターゲットは、X線透過写真において接合材が存在しない箇所の最大面積が9cm以下であることを特徴とする。この数値にまで接合層の欠陥の最大面積を小さくすることで、欠陥に起因する熱伝導不良、電気伝導不良による割れ、欠け、異常放電等を低減することができる。好ましくは1cm以下である。本発明において接合材が存在しない箇所の最大面積とは、1つの円筒形スパッタリングターゲットにおいて接合材が存在しない箇所が複数ある場合には、それぞれの面積を求め、その中で最大の面積をいう。
【0018】
また、接合材の融点におけるキャビティの体積とは、融点において溶融状態の接合材を充填しうる体積であり、この値は、接合材の融点、円筒形ターゲット材と円筒形基材の熱膨張係数、寸法から算出することができる。円筒形ターゲット材が複数個からなり、分割部に何らかの介在物等を挿入している場合は、その部分も含めた全体積を1つの円筒形ターゲットとみなし、キャビティの体積を求める。一方、キャビティに充填された接合材の25℃における体積は、接合材の充填により増加した重量を25℃における接合材密度で除することにより算出することができる。この両体積の比率は、接合材の材質により変化するが、従来は気泡がなく接合材が理想的に充填されたとしても、接合材の液相(溶融)状態と冷却された固相状態の密度差と熱膨張のために、最大で94〜96%の値しか取りえず、実際には充填時に気泡を巻き込む等の理由により、前記数値より低い値であった。
【0019】
しかし本発明の円筒形スパッタリングターゲットはこの比率が96%以上であることを特徴とする。このような従来は達成しえない高い比率にまで接合層の欠陥を低減することで、欠陥に起因する熱伝導不良、電気伝導不良による割れ、欠け、異常放電、ノジュールを低減することができる。好ましくは98%以上であり、さらに好ましくは100%以上である。
【0020】
本発明のターゲットは、前述のようにX線透過写真における接合材が存在しない箇所の合計面積とその最大面積が共に前述の条件を満たすものである。さらに、前述の体積の比率をも満たすものが好ましい。このような円筒形スパッタリングターゲットは、より割れ、欠け、異常放電、ノジュールの発生を低減できる。
【0021】
接合材としては、一般的に半田材として使用されるものであれば使用可能である。好ましくは低融点半田であり、具体的にはIn、In合金、Sn、Sn合金等が挙げられる。
【0022】
セラミックス円筒形ターゲット材としては、種々のセラミックス材料が使用可能であるが、例えばIn、Sn、Zn、Al、Ta、Nb、Tiの少なくとも1種を主成分とする酸化物等が挙げられ、より具体的には、ITO(Indium Tin Oxide)、AZO(Aluminium Zinc Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、Ta、Nb、TiO等が挙げられる。特にITOとAZOは、割れ、欠けが発生しやすいため、またノジュールの発生が問題視されるフラットパネルディスプレイ用途で使用されるため好適である。
【0023】
また、円筒形基材としては、例えば、Cu、Ti、Al、Mo、これらの金属の少なくとも1種を含む合金、SUS等を挙げることができ、適当な熱伝導性、電気伝導性、強度等を備えているものであれば良い。
【0024】
本発明のセラミックス円筒形スパッタリングターゲットは、本発明の方法により製造することができる。
【0025】
円筒形基材と円筒形ターゲット材とにより形成されたキャビティに溶融状態の接合材を充填する方法としては、例えば、予め円筒形基材の外側に円筒形ターゲット材を配置した後、円筒形基材と円筒形ターゲット材との間隙の下部を封止し、上部より溶融状態の接合材を流し込む方法や、円筒形ターゲット材、及び円筒形基材の一方の端を封止し、溶融状態の接合材を入れた円筒形ターゲット材に円筒形基材を挿入する方法が挙げられる。
【0026】
溶融状態の接合材を充填する時、あるいは充填した後に、溶融状態の接合材に振動を加えることが好ましい。こうすることで、円筒形基材と円筒形ターゲット材とにより形成されたキャビティに接合材が十分に行き渡り、気泡が除去され、より高い比率で接合材を充填することが可能となる。この時の振動加速度の下限は0.05G以上、好ましくは0.1G以上で、さらに好ましくは1G以上である。振動の振幅の下限としては0.01mm以上、好ましくは0.03mm以上である。接合材を高い比率で充填する目的では特に上限は限定されないが、振動が強いと円筒形ターゲット材が位置ズレを起こしたり、接合材が封止部から漏れる可能性があるため、振動加速度としては200G以下、振幅は1mm以下とすることが好ましい。接合材に振動を加える方法は特に限定されるものではないが、振動台やバイブレーターなどを使用することができる。また、円筒形ターゲット材の位置ズレや接合材の漏れ防止のために、円筒形ターゲット材に対して振動を加えるよりも、円筒形基材に対して振動を加えることにより、接合材に振動を加えることが好ましい。
【0027】
円筒形ターゲット材と円筒形基材とにより形成されるキャビティに充填した溶融状態の接合材を、円筒軸方向の一端より冷却を開始し、他端に向けて順次冷却する方法としては、例えば、円筒形ターゲット材の外周に、個別に温度制御できるようにした複数個の加熱器を設置し、それによってあらかじめ円筒形ターゲット材全体を加熱しておき、その後、円筒軸方向の一端から他端に向けて順次加熱を弱める、または加熱を取りやめることにより、冷却を開始すればよい。これにより接合材は一端から他端に向けて順次冷却され、固化する。冷却速度は特に限定されるものではないが、余りに遅すぎる場合は生産性が低下し、余りに速すぎる場合は円筒形ターゲット材に熱衝撃による割れが発生する可能性があるため、0.05〜3℃/分程度が好ましい。また、一端から他端に向けて順次冷却するときの温度勾配も特に限定されるものではないが、余りに小さすぎる場合は温度制御が困難となり、余りに大きすぎる場合は円筒形ターゲット材に熱衝撃による割れが発生する可能性があるため、0.1〜3℃/cm程度が好ましい。なお接合材がいったん融点以下に冷却されたのち、再び融点以上に加熱されることがないように温度制御する。このようにすることでより接合層欠陥を低減することができる。
【0028】
また円筒形ターゲット材と円筒形基材とにより形成されるキャビティに充填した溶融状態の接合材の冷却中に、さらに溶融状態の接合材をキャビティに供給する方法としては、例えば適宜つぎ足していく方法や、キャビティの上部に溶融状態の接合材を溜めた接合材供給部を設け、そこから供給する方法が挙げられる。このような接合材供給部を設けるには、例えば、円筒形基材の外径より若干大きい内径を有する円筒形治具を円筒形ターゲット材上部に連結し、その円筒形治具と円筒形基材とにより形成された空間に溶融状態の接合材を溜めておけばよい。このようにすることで、円筒形ターゲット材と円筒形基材とにより形成されるキャビティに充填した溶融状態の接合材の冷却中に発生する接合層欠陥を低減することができる。なお冷却中に溶融状態の接合材をキャビティに供給する場合、冷却を開始する円筒軸方向の一端とは反対側の端から溶融状態の接合材を供給することが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、割れ、欠け、異常放電、ノジュールの発生を著しく低減した円筒形スパッタリングターゲットとその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の円筒形スパッタリングターゲットを、中心軸を含む面で切断した断 面図である。
【実施例】
【0031】
以下、実施例をもって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
実施例1
外径98mmφ、内径78mmφ、長さ175mmの円筒形ITOターゲット材2個と、外径76mmφ、内径70mmφ、長さ470mmのSUS304製円筒形基材1個を用意した。円筒形基材の下部より60mmの位置に円筒形ITOターゲット材の下端がくるように治具で保持し、その上に、テフロン(登録商標)シート、円筒形ITOターゲット材、テフロン(登録商標)シート、アルミ製治具(外径98mmφ、内径78mmφ、長さ40mm)の順に積層した。円筒形ITOターゲット材の下端に耐熱性Oリングを配置し、アルミ製治具の上部から円筒軸方向に50kgfの荷重を加えた。円筒形ITOターゲット材の外部に4個のリボンヒーター、アルミ製治具に1個のリボンヒーターを巻き付けた後、180℃まで加熱し、アルミ製治具と円筒形基材の間隙の上部より、溶融状態のInを流し込んだ。流し込みの際には、十分Inが行き渡るよう振動を与えた。アルミ製治具の上端までInを充填した後、円筒形ITOターゲット材に取り付けた4個のリボンヒーターを下部より上部に向かって順に30分間隔で、0.42℃/分で降温を開始し、円筒形ITOターゲット材を130℃まで降温させた。この降温の間、アルミ製治具は180℃を保持するよう過熱し、アルミ製治具とSUS304製円筒形基材の間に充填されたInは溶融状態を保っていた。なお、このアルミ製治具が溶融状態の接合材を溜めた接合材供給部に相当する。
【0033】
円筒形ITOターゲット材を全て130℃まで降温させた後、アルミ製治具も130℃まで降温させ、その後全体を25℃まで冷却した。その後再度50℃まで加熱し、円筒形ITOターゲット材及びアルミ製治具の間に挿入していたテフロン(登録商標)シートを取り除いた。その後再度全体を25℃まで冷却した後、アルミ製治具及びアルミ製治具とSUS304製円筒形基材の間に充填されていたInを取り除き、円筒形ITOスパッタリングターゲットを得た。Inの融点における円筒形ターゲット材と円筒形基材とにより形成されるキャビティ体積に対する、キャビティに充填されたInの25℃での体積の比率は100.3%であった。円筒形スパッタリングターゲット外部よりX線照射装置を用いてX線を照射し、円筒形基材内部に貼り付けたX線撮影用フィルムでX線透過写真を撮影したところ、接合材が存在しない箇所の最大面積は0.4cmであり、接合材が存在しない箇所の合計面積はX線透過写真面積50cmあたり0.9cmであった。この円筒形ITOスパッタリングターゲットの放電試験を回転数6rpm、スパッタリング圧力0.4Pa、パワー密度4.0W/cmの条件で行った結果、ノジュールや異常放電の発生はなく、また、ライフエンドまで割れ、欠けは認められなかった。
【0034】
実施例2
接合材をInSnとし、接合材流し込み時の温度を160℃、1回目の降温を100℃としたこと以外は実施例1と同様にして、円筒形ITOスパッタリングターゲットを作製した。InSnの融点における円筒形ターゲット材と円筒形基材とにより形成されるキャビティ体積に対する、充填されたInSnの25℃での体積の比率は98.3%であった。実施例1と同様にしてX線透過写真を撮影したところ、接合材が存在しない箇所の最大面積は1.0cmであり、接合材が存在しない箇所の面積の合計はX線透過写真面積50cm2あたり1.9cmであった。この円筒形ITOスパッタリングターゲットの放電試験を実施例1と同様に行った結果、ノジュールや異常放電の発生はなく、また、ライフエンドまで割れ、欠けは認められなかった。
【0035】
実施例3
円筒形ターゲット材をAZOとしたこと以外は実施例1と同様にして、円筒形AZOスパッタリングターゲットを作製した。Inの融点における円筒形ターゲット材と円筒形基材とにより形成されるキャビティ体積に対する、充填されたInの25℃における体積の比率は100.2%であった。実施例1と同様にしてX線透過写真を撮影したところ、接合材が存在しない箇所の最大面積は0.5cmであり、接合材が存在しない箇所の面積の合計はX線透過写真面積50cm2あたり1.2cmであった。この円筒形ITOスパッタリングターゲットの放電試験を実施例1と同様に行った結果、ノジュールや異常放電の発生はなく、また、ライフエンドまで割れ、欠けは認められなかった。
【0036】
実施例4
接合材流し込み時に弱めの振動を与えたこと以外は実施例1と同様にして、円筒形ITOスパッタリングターゲットを作製した。Inの融点における円筒形ターゲット材と円筒形基材とにより形成されるキャビティ体積に対する、充填されたInの25℃における体積の比率は96.8%であった。実施例1と同様にしてX線透過写真を撮影したところ、接合材が存在しない箇所の最大面積は1.5cmであり、接合材が存在しない箇所の面積の合計はX線透過写真面積50cmあたり3.1cmであった。この円筒形ITOスパッタリングターゲットの放電試験を実施例1と同様に行った結果、ノジュールや異常放電の発生はなく、また、ライフエンドまで割れ、欠けは認められなかった。
【0037】
実施例5
アルミ製治具を使用しないこと以外は実施例1と同様にして、円筒形ITOスパッタリングターゲットを作製した。Inの融点における円筒形ターゲット材と円筒形基材とにより形成されるキャビティ体積に対する、充填されたInの25℃における体積の比率は93.2%であった。実施例1と同様にしてX線透過写真を撮影したところ、接合材が存在しない箇所の最大面積は7.0cmであり、接合材が存在しない箇所の面積の合計はX線透過写真面積50cmあたり7.5cmであった。この円筒形ITOスパッタリングターゲットの放電試験を実施例1と同様に行った結果、放電途中で極僅かのノジュールが発生したが、使用に差し支える程度ではなく、また、ライフエンドまで割れ、欠けは認められなかった。
【0038】
実施例6
外径98mmφ、内径78mmφ、長さ175mmの円筒形ITOターゲット材2個と、外径76mmφ、内径70mmφ、長さ470mmのSUS304製円筒形基材1個を用意した。円筒形基材の下部より60mmの位置に円筒形ITOターゲット材の下端がくるように治具で保持し、その上に、テフロン(登録商標)シート、円筒形ITOターゲット材、テフロン(登録商標)シート、アルミ製治具(外径98mmφ、内径78mmφ、長さ40mm)の順に積層した。円筒形ITOターゲット材の下端に耐熱性Oリングを配置し、アルミ製治具の上部から円筒軸方向に50kgfの荷重を加えた。円筒形ITOターゲット材の外部に4個のリボンヒーター、アルミ製治具に1個のリボンヒーターを巻き付けた後、180℃まで加熱し、アルミ製治具と円筒形基材の間隙の上部より、溶融状態のInを流し込んだ。流し込みの際には、十分Inが行き渡るよう電動のバイブレーターで円筒形基材に振動を与えた。この時の振動加速度は50〜100Gで、振幅は0.1〜0.2mmであった。アルミ製治具の上端までInを充填した後、円筒形ITOターゲット材に取り付けた4個のリボンヒーターを下部より上部に向かって順に30分間隔で、0.42℃/分で降温を開始し、円筒形ITOターゲット材を130℃まで降温させた。この降温の間、アルミ製治具は180℃を保持するよう過熱し、アルミ製治具とSUS304製円筒形基材の間に充填されたInは溶融状態を保っていた。
【0039】
円筒形ITOターゲット材を全て130℃まで降温させた後、アルミ製治具も130℃まで降温させ、その後全体を25℃まで冷却した。その後再度50℃まで加熱し、円筒形ITOターゲット材及びアルミ製治具の間に挿入していたテフロン(登録商標)シートを取り除いた。その後再度全体を25℃まで冷却した後、アルミ製治具及びアルミ製治具とSUS304製円筒形基材の間に充填されていたInを取り除き、円筒形ITOスパッタリングターゲットを得た。Inの融点における円筒形ターゲット材と円筒形基材とにより形成されるキャビティ体積に対する、キャビティに充填されたInの25℃での体積の比率は100.3%であった。円筒形スパッタリングターゲット外部よりX線照射装置を用いてX線を照射し、円筒形基材内部に貼り付けたX線撮影用フィルムでX線透過写真を撮影したところ、接合材が存在しない箇所の最大面積は0.4cmであり、接合材が存在しない箇所の合計面積はX線透過写真面積50cmあたり0.9cmであった。この円筒形ITOスパッタリングターゲットの放電試験を回転数6rpm、スパッタリング圧力0.4Pa、パワー密度4.0W/cmの条件で行った結果、ノジュールや異常放電の発生はなく、また、ライフエンドまで割れ、欠けは認められなかった。
【0040】
実施例7
接合材流し込み時に弱めの振動を与えたこと以外は実施例1と同様にして、円筒形ITOスパッタリングターゲットを作製した。この時の振動加速度は0.1〜6Gで、振幅は0.01〜0.03mmであった。Inの融点における円筒形ターゲット材と円筒形基材とにより形成されるキャビティ体積に対する、充填されたInの25℃における体積の比率は96.8%であった。実施例1と同様にしてX線透過写真を撮影したところ、接合材が存在しない箇所の最大面積は1.5cmであり、接合材が存在しない箇所の面積の合計はX線透過写真面積50cmあたり3.1cmであった。この円筒形ITOスパッタリングターゲットの放電試験を実施例1と同様に行った結果、ノジュールや異常放電の発生はなく、また、ライフエンドまで割れ、欠けは認められなかった。
【0041】
比較例1
アルミ製治具を使用せず、4個のリボンヒーターを同時に0.42℃/分で降温を開始し、円筒形ITOターゲット材全体を均一に降温させたこと以外は実施例1と同様にして、円筒形ITOスパッタリングターゲットを作製した。Inの融点における円筒形ターゲット材と円筒形基材とにより形成されるキャビティ体積に対する、充填されたInの25℃における体積の比率は87.6%であった。実施例1と同様にしてX線透過写真を撮影したところ、接合材が存在しない箇所の最大面積は5.8cmであり、接合材が存在しない箇所の面積の合計はX線透過写真面積50cmあたり10.6cmであった。この円筒形ITOスパッタリングターゲットの放電試験を実施例1と同様に行った結果、放電途中でノジュール、異常放電が発生し、また、使用途中に割れが発生した。
【0042】
比較例2
溶融状態のInを流し込む際に、振動を与えないこと以外は比較例1と同様にして、円筒形ITOスパッタリングターゲットを作製した。Inの融点における円筒形ターゲット材と円筒形基材とにより形成されるキャビティ体積に対する、充填されたInの25℃における体積の比率は82.1%であった。実施例1と同様にしてX線透過写真を撮影したところ、接合材が存在しない箇所の最大面積は9.7cmであり、接合材が存在しない箇所の面積の合計はX線透過写真面積50cmあたり12.5cmであった。この円筒形ITOスパッタリングターゲットの放電試験を実施例1と同様に行った結果、放電途中でノジュール、異常放電が発生し、また、使用途中に割れが発生した。
【符号の説明】
【0043】
1.円筒形ターゲット材
2.円筒形基材
3.円筒形ターゲット材と円筒形基材とにより形成されるキャビティ
図1