【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は次の液または泥状物の消臭方法、消臭剤およびその製造方法である。
(1) 臭気原因成分を含む液または泥状物に、
アルカリ金属水酸化物からなるアルカリと、スルファミン酸と、塩素系酸化剤とを含有し、スルファミン酸と塩素系酸化剤との含有割合が、Cl/N(モル比)で0.2〜1であり、スルファミン酸とアルカリとの含有割合が、アルカリ金属/N(モル比)で1〜3であり、
全体の水の量が50〜90重量%である一製剤として調製された結合塩素剤水溶液を含む消臭剤を添加し、
液または泥状物中の還元性硫黄臭気物質を含む臭気原因成分と反応して消臭を行う
ことを特徴とする液または泥状物の消臭方法。
(2) 塩素系酸化剤が次亜塩素酸またはその塩である上記(1)記載の方法。
(3) 液または泥状物が、硫化水素および/またはメルカプタンを含有もしくは生成する臭気原因成分を含むものである上記(1)または(2)記載の方法。
(4) 臭気原因成分を含む液または泥状物に添加し、液または泥状物中の還元性硫黄臭気物質を含む臭気原因成分と反応して消臭する消臭剤であって、
アルカリ金属水酸化物からなるアルカリと、スルファミン酸と、塩素系酸化剤とを含有し、スルファミン酸と塩素系酸化剤との含有割合が、Cl/N(モル比)で0.2〜1であり、スルファミン酸とアルカリとの含有割合が、アルカリ金属/N(モル比)で1〜3であり、
全体の水の量が50〜90重量%である一製剤として調製された結合塩素剤水溶液を含むことを特徴とする液または泥状物の消臭剤。
(5) 塩素系酸化剤が次亜塩素酸またはその塩である上記(4)記載の消臭剤。
(6) 臭気原因成分を含む液または泥状物に添加し、液または泥状物中の還元性硫黄臭気物質を含む臭気原因成分と反応して消臭する消臭剤を製造する方法であって、
アルカリ金属水酸化物からなるアルカリ水溶液にスルファミン酸をスルファミン酸とアルカリとの含有割合が、アルカリ金属/N(モル比)で1〜3となる量で添加して溶解し、得られたスルファミン酸−アルカリ混合水溶液に、塩素系酸化剤をスルファミン酸と塩素系酸化剤との含有割合が、Cl/N(モル比)で0.2〜1となる量で添加して混合し、
全体の水の量が50〜90重量%である一製剤として調製することを特徴とする液または泥状物の消臭剤の製造方法。
(7) アルカリ水溶液は、水の量が55〜85重量%である上記(6)記載の製造方法。
【0012】
本発明において、消臭の対象となる液または泥状物は、排水、汚泥、ヘドロ等の臭気原因成分を含む液または泥状物であり、特に硫化水素および/またはメルカプタンを含有もしくは生成する臭気原因成分を含む液または泥状物である。このような液または泥状物としては、工場排水、都市下水、家庭排水、その他の有機性排水、これらの処理汚泥、浚渫汚泥、ヘドロ、その他の汚泥、それらの脱水物(脱水ケーキ)など、水系の液または泥状物があげられる。このような液または泥状物としては、それ自体硫化水素および/またはメルカプタン臭、その他の臭気を発するもののほか、反応、分解等により硫化水素および/またはメルカプタン臭、その他の臭気を発するものを含む。
【0013】
本発明において、このような液または泥状物を消臭するための消臭剤は、
臭気原因成分を含む液または泥状物に添加し、液または泥状物中の還元性硫黄臭気物質を含む臭気原因成分と反応して消臭する消臭剤であって、アルカリ金属水酸化物からなるアルカリと、スルファミン酸と、塩素系酸化剤とを含有し、一製剤として調製された結合塩素剤の水溶液を含むものである。本発明の消臭剤は、上記結合塩素剤の一製剤として調製された水溶液であることが、反応性、安定性、取扱性、無塩素臭等の面から重要であり、水溶液の状態で液または泥状物に添加して、その消臭に使用される。このような消臭剤は、後述の製造方法により使用現場で製造して使用しても良いが、貯蔵安定性が優れるため、予め工場等で製造したものを現地に運搬して使用しても良い。この場合、結合塩素剤水溶液中の水の量は、貯蔵および運搬等の面からは、可能な限り低くするのが望ましいが、製造効率、貯蔵安定性等の面からは、全体の水の量として50〜90重量%、好ましくは60〜75重量%とするのが好適である。
【0014】
上記結合塩素剤は、スルファミン酸と塩素系酸化剤との含有割合が、Cl/N(モル比)で0.2〜1、好ましくは0.3〜0.9とされる。高温(40℃保存)での経時安定性が損なわれるため、Cl/N(モル比)は1以下、好ましくは0.9以下とするのが好ましい。Cl/N(モル比)がこの範囲より小さいと、結合塩素を高濃度で配合できない。
【0015】
実用的には、製剤中に結合塩素が有効塩素として0.17mol/kg以上含まれる製剤が好ましい。この濃度は、12%Cl
2換算の次亜塩素酸ナトリウム液を製剤中に10%以上配合した(仕込んだ)結合塩素剤である。これより配合率が低いと、工業用消臭剤としては添加率が高くなりすぎて不適である。更に、製剤中に結合塩素が有効塩素として0.85mol/kg以上含まれるものが好ましい。この濃度は、12%Cl
2換算の次亜塩
素酸ナトリウム液を製剤中に50%以上配合した(仕込んだ)結合塩素剤である。
【0016】
結合塩素剤に用いられるスルファミン酸は、R
1R
2NSO
3H・・・〔1〕で表されるアミド硫酸で、R
1、R
2はそれぞれ独立にH、炭素数1〜6の炭化水素基である。このようなスルファミン酸としては、R
1、R
2がそれぞれHである狭義のスルファミン酸が好ましいが、N−メチルスルファミン酸、N,N−ジメチルスルファミン酸、N−フェニルスルファミン酸なども使用できる。これらのスルファミン酸は、塩で添加してもよく、この場合の使用可能な塩としては、上記結合塩素剤水溶液としたときに可溶性のものがあげられ、スルファミン酸ナトリウム、スルファミン酸カリウム、スルファミン酸アンモニウム等を用いることができる。塩素系酸化剤としては、次亜塩素酸またはその可溶性塩があげられ、好ましくは次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム等のアルカリ金属塩があげられる。アルカリはアルカリ金属水酸化物からなるものであり、このようなアルカリとして、上記結合塩素剤水溶液としたときに可溶性を維持するものがあげられ、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等があげられる。
【0017】
本発明においてアルカリは、反応性、安定性、取扱性、無塩素臭等の面から重要である。結合塩素剤は、スルファミン酸とアルカリとの含有割合が、アルカリ金属/N(モル比)で1〜3、好ましくは1.3〜2の量で含
む。
【0018】
アルカリ金属/スルファミン酸(モル比)の値が1より小さいと、中和されないスルファミン酸が残留して酸性となる。この場合、次亜塩素酸ナトリウムを混合して結合塩素を得ようとしても、酸性下では次亜塩素酸ナトリウムが自己分解してしまい、目的の結合塩素剤が得られない。仮に、製剤ができたとしても不安定な製剤となる。また、アルカリ金属/スルファミン酸(モル比)の値が3より大きいと、過剰なアルカリ剤が配合されるため、結合塩
素の濃度が低くなり、有効成分濃度が低い製剤となってしまう。実用的には、製剤中に結合塩素が有効塩素として0.17mol/kg以上含まれる製剤が好ましい。この濃度は、12%Cl
2換算の次亜塩素酸ナトリウム液を製剤中に10%以上配合した(仕込んだ)結合塩素剤である。これより配合率が低いと、工業用消臭剤としては添加率が高くなりすぎて不適である。さらに製剤中に結合塩素が有効塩
素として0.85mol/kg以上含まれるものが好ましい。この濃度は、12%Cl
2換算の次亜塩素酸ナトリウム液を製剤中に50%以上配合した(仕込んだ)結合塩素剤である。製剤中に結合塩素を0.85mol/kg以上配合したような高濃度製剤の場合、アルカリ金属/スルファミン酸(モル比)が1.3より小さいと、高温(40℃保存)での経時安定性が損なわれる。また、アルカリ金属/スルファミン酸(モル比)が2より大きいと、結合塩素を上記のように高濃度配合できない(12%Cl
2換算次亜塩素酸Na液、48%水酸化Na液を使用した場合)。
【0019】
本発明の消臭剤は、上記の成分のほか、さらに必要に応じて、殺生物剤、増殖抑制剤、腐食防止剤、銅用防食剤、スケール防止剤、消泡剤、界面活性剤などの補助成分を配合することができる。これら補助成分の配合量は、それぞれの機能に応じて必要な量とされる。
【0020】
上記の消臭剤は、アルカリ金属水酸化物からなるアルカリ水溶液にスルファミン酸を添加して溶解し、得られたスルファミン酸−アルカリ混合水溶液に、塩素系酸化剤を添加して混合し、一製剤の結合塩素剤水溶液として調製することにより製造することができる。このような製造方法により、消臭効果が高く、塩素臭の発生がなく、安全性、安定性が高く、腐食性が低く、かつ取扱性、保存安定性が良好であり、少ない添加量で、短時間に効果的に消臭できる消臭剤を効率的に製造することができる
【0021】
スルファミン酸を添加するアルカリ水溶液は、水の量が60〜85重量%、好ましくは55〜85重量%とする。スルファミン酸の添加量は、スルファミン酸とアルカリとの含有割合が、アルカリ金属/N(モル比)で1〜3、好ましくは1.3〜2となる量とする。スルファミン酸は、スルファミン酸またはその塩を、粉末状態で、あるいは水溶液の状態で添加することができる。スルファミン酸塩を用いる場合、スルファミン酸塩に含まれるアルカリ金属の量は、アルカリとして加算される。水溶液を用いる場合は、水溶液に含まれる水の量は、前記アルカリ水溶液の水の量として加算される。
【0022】
塩素系酸化剤の添加量は、スルファミン酸と塩素系酸化剤との含有割合が、Cl/N(モル比)で0.2〜1、好ましくは0.3〜0.9となる量とする。塩素系酸化剤は次亜塩素酸またはその塩が好ましく、有効塩素(Cl
2)濃度として5〜20重量%、好ましくは10〜15重量%水溶液として添加するのが好ましい。これにより発泡や塩素臭の発生はなく、反応性、安定性、取扱性、無塩素臭等に優れた結合塩素剤水溶液を効率よく製造することができる。この場合でも、塩素系酸化剤を徐々に添加して混合するのが好ましい。
【0023】
本発明における結合塩素および有効塩素量は、JIS K 0400−33−10:1999のDPD法で測定した値である。スルファミン酸およびアルカリ金属の量は、天子天秤で測定した値である。
【0024】
本発明の消臭方法は、前記臭気原因成分を含む液または泥状物に、前記結合塩素剤水溶液を含む消臭剤を添加し、液または泥状物の消臭を行う。この場合、被処理液または泥状物の上面に添加するだけで消臭できる場合があるが、一般的には消臭剤を添加して液または泥状物を攪拌混合することにより消臭を行うことができる。消臭剤の添加量は、液または泥状物の種類、性状、臭気原因成分の種類、性状、量、消臭剤の組成等により異なるが、一般的には有効塩素として0.01〜100mmol/L、好ましくは0.1〜10mmol/Lとすることができる。
【0025】
添加混合の方法は限定されないが、液または泥状物と消臭剤が均一に混合されて反応するように、攪拌器、混合機、混練機等の機械的混合手段を用いるのが好ましい。添加混合は開放系または密閉系で行ってもよく、また常温、加温または冷却下に行ってもよい。
【0026】
消臭剤の添加場所は、消臭効果を得たい場所そのもの、消臭効果を得たい場所に対象物が流れ込む配管、流路などの手前などがあり、このような場所において、対象系に結合塩素化合物を添加して消臭することができる。消臭剤はあらかじめ各成分を混合して調製しておいたものを、上記添加場所に運搬して添加してもよいが、添加場所(オンサイト)で添加直前に各成分を混合して、スルファミン酸アルカリ塩の結合塩素化合物を調製し、そのまま対象物に添加することにより、活性の高い消臭剤処理を行うことができる。
【0027】
消臭剤添加の具体的な場所としては、以下の場所が挙げられる。
1)貯留タンクやサービスタンクなど、水系対象物が滞留する場所。
2)濃縮機や脱水機や吸引機など、水系対象物の処理機器。
3)処理機器の手前の水系対象物の供給部。
4)配管、管路、暗渠など、水系対象物の流路。
【0028】
消臭剤を添加することにより、液または泥状物に含まれる臭気原因成分は、消臭剤に含まれる結合塩素剤により消臭される。この場合、結合塩素剤がスルファミン酸と、塩素系酸化剤とから形成されていることにより、硫化水素、メルカプタンをはじめとした還元性硫黄臭気物質との反応性に優れ、他の被酸化物質に消費されることなく、先の臭気原因物質と反応するため、同塩素量の次亜塩素酸塩よりも少ない添加量で消臭効果が得られるものと推測される。
【0029】
消臭剤の添加後は、開放もしくは密閉状態で、静止または攪拌状態に維持することにより、長期にわたり消臭状態を維持することができる。消臭剤の添加後液または泥状物は、貯留、処理、脱水、処分等が行われるが、いずれの状態でも、消臭状態を維持することが可能である。例えば貯留中に消臭効果が低下したときには、再度消臭剤を添加して消臭処理を行うことができる。
【0030】
上記のようにして臭気原因成分を含む液または泥状物に、本発明の消臭剤を添加することにより、同じ塩素系酸化剤を添加するときよりも、少ない添加量で、短時間に脱臭を行うことができ、脱臭剤は安全で、塩素臭がなく、取扱も容易であり、作業性もよい。