【実施例】
【0123】
以下に、実施例および参考例に基づいて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また実験の諸条件は、特記しない限り実験に使用した試薬に添付されている説明書に記載されている標準の条件で行った。クリソタイル、アモサイト、クロシドライトは社団法人 日本作業環境測定協会から購入した。その他、各種試薬については、特記しない限り和光純薬株式会社製、またはシグマ社製の最高のグレードものを使用した。
【0124】
〔参考例1:BAPとCIPとのアルカリホスファターゼ活性比較〕
アスベスト結合タンパク質によるアスベスト検出の検出感度を向上させるべく、まず大腸菌由来アルカリホスファターゼ(以下「BAP」)と、子牛由来アルカリホスファターゼ(以下「CIP」)とのアルカリホスファターゼ活性を比較した。
【0125】
(方法)
BAP(東洋紡社製)およびCIP(東洋紡社製)を希釈していき検出限界の酵素量を求め、検出限界の酵素量が低いものほどアルカリホスファターゼ酵素活性が高いと評価した。また同時にBAPで標識されたDksA(特許文献1参照)も同時に実験を行った。BAPで標識されたDksAを「DksA−BAP」と表記する。
【0126】
それぞれの試料を10μg/mlに調製し、それを10分の1ずつ希釈して希釈系列を作製した。作製した酵素希釈液10μlと発光基質Immobilon western(ミリポア社)90μlとを混合し、室温で5分間反応後、発光検出器(Wallac社製 ARVO SX1420マルチラベルカウンター)にて発光強度を測定した(測定時間1秒)。
【0127】
(結果)
その結果を
図1に示す。アルカリホスファターゼ活性が最も高かったものは、CIPであり、その検出限界の酵素量は10fg(10
-14g)であった。次いで、BAPであり、その検出限界の酵素量は1pg(10
-12g)であった。DksA−BAPの検出限界の酵素量は、10pg(10
-11g)であった。すなわちDksA−BAPは、BAPよりアルカリホスファターゼ活性が10分の1程度であり、DksAと融合することにより活性が低下していると考えられる。
【0128】
一方CIPは、DksA−BAPに比べて1000倍もアルカリホスファターゼ活性が高く、DksAをCIPと融合させたDksA-CIPを作製することができれば、DksA−BAPよりも100〜1000倍高い検出感度を得ることができると予想された。そこで、次にCIPで標識されたDksA(「DksA−CIP」)の作製を行うことにした。
【0129】
〔参考例2:DksA−CIPの作製〕
DksA−CIPを作製するために、Alkaline Phosphatase Labeling Kit-NH
2 (同仁化学研究所)を用いた。このキットは、N-hydroxysuccinimide(NHS)活性化エステル基を用いることで、目的タンパク質をCIPで標識することができる。このキットを用いてDksAにCIPを結合させDksA−CIPを作製した。この方法で作製したDksA−CIPはNH基を介して結合しているため、特に「DksA−NH−CIP」と表記する。
【0130】
また、DksAをCIPで標識する別の方法として、ビオチン−ストレプトアビジン結合を利用した方法も実施した。ビオチンとストレプトアビジンとの結合は非常に強く、さらに両者を混合するだけ結合するので非常に簡便である。まず、ビオチンタグのついたプラスミドPinPoint
TM Vector(Promega社製)に、DksAをクローニングすることによって、ビオチン化したDksAを作製した。市販されているストレプトアビジン化されたCIP(テクノケミカル社製)と、ビオチン化DksAとを水溶液中で結合させDksA−CIPを作製した。この方法で作製したDksA−CIPはビオチン−ストレプトアビジンの相互作用を介して結合しているため、特に「DksA−SA−CIP」と表記する。
【0131】
〔参考例3:DksA−CIPによるクリソタイルの検出〕
参考例2で作製したDksA−NH−CIPとDksA−SA−CIPとについてクリソタイルの検出感度について評価を行った。
【0132】
(方法)
チューブ内であらかじめクリソタイルとDksA−CIP(DksA−NH−CIPまたはDksA−SA−CIP)とを結合させ、その後は参考例1の方法と同様にして検出限界濃度を調べた。具体的には以下のようにした。
【0133】
シリコナイズチューブ(シリコンで表面処理されたチューブ)に、クリソタイル(入手先:社団法人 日本作業環境測定協会)100μgとDksA−CIP(DksA−NH−CIPまたはDksA−SA−CIP)を1mlのTris緩衝液[25mM Tris-HCl(pH7.5)、300mM NaCl、 0.5% Tween20(登録商標)]の中で結合させた。Tris緩衝液で3回洗浄を行った後、再びTris緩衝液1mlに再懸濁した。その懸濁溶液を10分の1ずつ希釈し希釈系列を作製した。発光基質Immobilon western(ミリポア社)90μlとを混合し、室温で5分間反応後、発光検出器(Wallac社製 ARVO SX1420マルチラベルカウンター)にて発光強度を測定した(測定時間1秒)。
【0134】
(結果)
その結果を
図2に示す。DksA−NH−CIPを用いることで10pg(10
-11g)のクリソタイルを検出することができた。DksA−SA−CIPも、DksA−NH−CIPと同等の10pg(10
-11g)のクリソタイルを検出することができた。これに対して、DksA−BAPを用いた場合、検出できるクリソタイルは1ng(10
-9g)であった。
【0135】
したがって、DksAの標識物質をBAPからCIPに変更することによってクリソタイルの検出感度を100倍上昇させることができるということがわかった。これはCIPの高いアルカリホスファターゼ活性に起因する効果であるため、DksA以外のアスベスト結合タンパク質に対しても同様の効果が期待できる。
【0136】
〔参考例4:DksA−CIPによるフィルター上のクリソタイル検出〕
DksA−CIPを用いて、フィルター上のクリソタイル検出を行った場合の検出感度を検討した。
【0137】
(方法)
フィルター上の発光を検出できる装置:ATPアナライザ(東亜ディーケーケー社)を用いて、フィルター上のクリソタイルの検出を行った。まず、直径25mmのメンブレンフィルター(HT-450 Tuffryn、ポール社)に各量のクリソタイルをトラップし、その上をDksA−SA−CIP溶液(DksA−SA−CIP 0.01μg/200μl Triss緩衝液)で覆い、室温で5分間結合させた。さらに、Tris緩衝液で3回洗浄したフィルターに発光基質Immobilon western(ミリポア社)を加えて室温で1分間反応後、ATPアナライザ(東亜ディーケーケー社)で発光値を測定した。
【0138】
(結果)
その結果を
図3に示す。DksA−CIPおよび発光基質Immobilon western(ミリポア社)を用いることで、わずかな差であるが0.01μgのクリソタイルを検出することが可能であった。DksA−BAPおよび発光基質BCIP(5-bromo-4-chloro-3-indolyl-phosphate)およびNBT(nitro blue tetrazolium)を用いた場合のクリソタイルの検出感度は0.4〜1μgであったことから(データを省略する)、DksAの標識物質をBAPからCIPに変更することによってフィルター上のクリソタイルの検出感度を40〜100倍上昇させることができるということがわかった。
【0139】
また基質との反応時間についても、DksA−BAPおよび発光基質BCIP(5-bromo-4-chloro-3-indolyl-phosphate)およびNBT(nitro blue tetrazolium)を用いた場合は30分程度必要であったが、DksA−CIPおよび発光基質Immobilon western(ミリポア社)を用いた場合は1分で十分であり、DksA−CIPおよび発光基質Immobilon western(ミリポア社)を用いることによって、反応時間も短縮することができるということがわかった。
【0140】
今回作製したDksA‐CIPおよび発光基質Immobilon western(ミリポア社)を用いた場合、敷地境界の環境基準とみなされているアスベスト繊維濃度10本/Lを検出するのに必要な時間がどの程度か試算を行った。DksA‐CIPおよび発光基質Immobilon western(ミリポア社)を用いると、クリソタイル0.01μgを検出可能である。クリソタイル1μgは繊維10,000本に相当することから、クリソタイル0.01μgは繊維100本に相当する。このため、敷地境界の環境基準とみなされているアスベスト繊維濃度10本/Lを検出するのに必要な空気のサンプリング量は10Lである。これは10L/分の吸引力を有するポンブを用いた場合では1分間、1Lのシリンジを用いた場合では10回吸引するだけなので、サンプリング時間は非常に短い。アスベストの検出操作は、DksA−CIPとサンプルとを接触させ、洗浄する作業には15分程度かかるが、その後の発光基質と反応させる時間は1分と短い。よって、環境内のアスベスト検出におけるサンプリングから検出までにかかる時間は、30分程度であると考えられる。DksA−BAPおよび発光基質BCIP(5-bromo-4-chloro-3-indolyl-phosphate)およびNBT(nitro blue tetrazolium)を用いた場合に環境内のアスベスト検出におけるサンプリングから検出までにかかる時間は3時間であったことから、DksA−CIPおよび発光基質Immobilon western(ミリポア社)を用いた場合はアスベスト検出にかかる時間を大幅に短縮することができる。
【0141】
〔実施例1:アスベスト結合タンパク質のスクリーニング〕
クリソタイル、アモサイト、クロシドライトに結合するタンパク質を探索するとともに、アスベストの代替品として使用されているロックウールには結合しないタンパク質を探索した。
【0142】
(方法)
(1)使用菌株
大腸菌(Escherichia coli)K12(ATCC 700926)を用いた。以下、「K12株」と表記する。
【0143】
(2)細胞破砕液の調製
K12株を2×YT培地で37℃で一晩培養した培養液を、新しいLB培地に1体積%植菌し、28℃で6時間培養した。培養後の菌体を遠心分離により集菌した後、50mM Tris-HCl pH 7.5、10%(w/v)スクロースで縣濁した。菌体懸濁液を凍結融解した後、250μg/mlになるようにリゾチームを加え、30分間氷上に静置した。37℃で5分間反応後、再び氷上に10分間静置し、菌体懸濁液の粘性がなくなるまで超音波破砕(Branson,CT, USA)を行った。その後、菌体懸濁液を20,000×g、15分間遠心分離に供し、得られた上清を細胞破砕液として用いた。
【0144】
(3)アスベスト結合タンパク質の取得
得られた細胞破砕液のタンパク質濃度が1mg/mlになるようにTris緩衝液(25mM Tris-HCl pH7.5、0.5%(w/v)Tween20(登録商標)、0.1M NaCl)で希釈した。調製した溶液10mlに1gのロックウール(清水建設株式会社)を加え、4℃で30分間転倒混和した。上記溶液を遠心分離(10,000×g、3分間)に供した後、得られた上清をフィルター(ポアサイズ0.45μm、PVDFフィルター、ミリポア社)に通してロックウールを完全に除去した。
【0145】
上記で得られたフィルターを通した上清10mlに、5mgのアスベスト(クリソタイル、アモサイト、またはクロシドライト:社団法人日本作業環境測定協会から購入)を加え、4℃で30分間転倒混和した。上記上清を遠心分離(10,000×g、3分間)に供した。
【0146】
得られた沈殿(ロックウールまたはアスベスト)にTris緩衝液(25mM Tris-HCl pH7.5, 0.5% Tween20(登録商標), 0.1M NaCl )を1ml加えて懸濁し、懸濁液を遠心分離(10,000×g、3分間)に供して洗浄を行った。この洗浄操作は計3回行われた。
【0147】
洗浄後の沈殿に2×SDSサンプルバッファー(125mM Tris-HCl(pH6.8), 4%(w/v) ドデシル硫酸ナトリウム[SDS], 20%(w/v)グリセロール、0.01%(w/v)ブロモフェノールブルー, 10%(w/v)β-メルカプとエタノール)40μlを加え、沸騰水中で5分間インキュベートしタンパク質を抽出した。抽出されたタンパク質は、12.5%(w/v)ポリアクリルアミドゲルを用いたポリアクリルアミド電気泳動法(SDS−PAGE)により分離された。
【0148】
(4)アスベスト結合タンパク質の同定
ポリアクリルアミド電気泳動法により分離したタンパク質を、ポリフッ化ビニリデン膜(PVDF膜)にトランスファーした。PVDF膜をクマシーブリリアントブルー(CBB)で染色した後、目的タンパク質のバンドを切り出した。PVDF膜片を100%アセトニトリルに浸した後、100mM酢酸、0.5%(w/v)ポリビニルピロリドンK−30、1%(w/v)メチオニン溶液を含む溶液100μl中で、37℃、30分間反応させた。PVDF膜片を超純水1mlで10回洗浄後、さらに50mM 重炭酸アンモニウム、5%(v/v)アセトニトリル100μlで3回洗浄した。0.5μg/mlのトリプシン溶液(50mM 重炭酸アンモニウム、5%(v/v)アセトニトリル)20μl中で、37℃、24時間消化した。トリプシン消化物の脱塩にはZipTipC18(ミリポア社製)を使用した。脱塩方法は付属のプロトコルに従った。脱塩されたサンプルをマトリックス支援レーザーイオン化飛行時間型質量分析計(BiflexIV:ブルカーダルトニクス)を用いてマトリックス支援レーザーイオン化飛行時間型質量分析(MALDI−TOF−MS)により分析し、ペプチドマスフィンガープリント解析によりタンパク質およびそれをコードする遺伝子を同定した。同定したタンパク質のアミノ酸配列はデータベース(DDBJ)から取得した。また、同定したタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列もデータベース(DDBJ)から取得した。
【0149】
(結果)
SDS−PAGEの結果を
図4に示す。
図4におけるレーン1はK12株の細胞破砕液、レーン2はロックウールと結合したタンパク質、レーン3はクリソタイルと結合したタンパク質、レーン4はクロシドライトと結合したタンパク質、およびレーン5はアモサイトと結合したタンパク質の結果を示す。
図4のSDS−PAGEにおいて、ロックウールに結合せずにクリソタイル、アモサイト、およびクロシドライトのいずれか一つ以上と結合すると判断されたタンパク質を同定したところ、S1タンパク質、GatZタンパク質、L1タンパク質、S4タンパク質、L5タンパク質、およびS7タンパク質が見出された。
【0150】
S1タンパク質は、大腸菌(Escherichia coli K12、ATCC 700926)由来のリボソームタンパク質として知られている。S1タンパク質は、クリソタイル、アモサイト、およびクロシドライトの全てに結合し得る。
【0151】
またGatZタンパク質は、大腸菌(Escherichia coli K12、ATCC 700926)由来のタガトース−6−フォスフェートキナーゼ(tagatose 6-phosphate kinase)として知られている。GatZタンパク質は、クリソタイル、アモサイト、およびクロシドライトの全てに結合し得る。
【0152】
またL1タンパク質は、大腸菌(Escherichia coli K12、ATCC 700926)由来のリボソームタンパク質として知られている。L1タンパク質は、アモサイト、およびクロシドライトに特に高い結合活性を有している。
【0153】
またS4タンパク質は、大腸菌(Escherichia coli K12、ATCC 700926)由来のリボソームタンパク質として知られている。S4タンパク質は、アモサイト、およびクロシドライトに特に高い結合活性を有している。
【0154】
またS7タンパク質は、大腸菌(Escherichia coli K12、ATCC 700926)由来のリボソームタンパク質として知られている。S7タンパク質は、アモサイト、およびクロシドライトに特に高い結合活性を有している。
【0155】
またL5タンパク質は、大腸菌(Escherichia coli K12、ATCC 700926)由来のリボソームタンパク質として知られている。L5タンパク質は、アモサイト、およびクロシドライトに特に高い結合活性を有している。
【0156】
〔実施例2:GatZタンパク質、およびGatZ−APの調製〕
(1)GatZタンパク質発現ベクターの構築、およびGatZタンパク質とBAPとの融合タンパク質(GatZ−AP)発現ベクターの構築
K12株のゲノムDNAを鋳型とし、オリゴヌクレオチドプライマーP1(CATCGAATTCTATGAAAACGTTAATTGCCCGG、配列番号13)およびオリゴヌクレオチドプライマーP2(AGTTGAGCTCGTTTCCGCACAGCCGTAGCGAT、配列番号14)を用いてPCRを行うことによってGatZをコードする遺伝子を増幅した。PCR反応は、KOD Plus DNAポリメラーゼ(TOYOBO社)を用い、同社のプロトコルに従って行われた。PCR増幅産物および発現ベクターpET21-b(Novagen社)を制限酵素EcoRIおよびSacIにより37℃、2時間処理した後、アガロースゲル電気泳動を行った。ゲルから切り出したそれぞれのDNA断片をLigation High(TOYOBO社)を用い、16℃、2時間ライゲーションし、大腸菌MV1184株に形質転換した。得られたコロニーから目的のDNA断片が挿入されたプラスミドを抽出し、これを「pETGatZ」と命名した。
【0157】
BAPをコードする遺伝子は、2つのオリゴヌクレオチドプライマーP3(GTTAAGCTTCGGACACCAGAAATGCCTGT、配列番号15)およびP4(GTTGCGGCCGCTTTCAGCCCCAGAGCGGCT、配列番号16)を用い、K12株のゲノムDNAを鋳型としてPCRを行うことによって取得された。PCR反応はKOD Plus DNAポリメラーゼ(TOYOBO社)を用い、同社のプロトコルに従った。PCR増幅産物およびpETGatZを制限酵素HindIIIおよびNotIにより37℃、2時間処理した後、アガロースゲル電気泳動を行った。ゲルから切り出したそれぞれのDNA断片をLigation High(TOYOBO社)により16℃、2時間ライゲーションし、大腸菌MV1184株に形質転換した。得られたコロニーから目的のDNA断片が挿入されたプラスミドを抽出し、これを「pETGatZ−AP」と命名した。
【0158】
(2)GatZタンパク質、およびGatZ−APの発現
pETGatZ−APで形質転換した大腸菌 Rosetta-gamiB
TM(DE3) pLysS (Novagen社)を、2×YT培地で37℃一晩培養し、新しい2×YT培地に1%(v/v)植菌した。OD
600が0.6になるまで28℃で培養後、終濃度が0.2mMになるようにIPTG(isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)を添加し16時間培養を行った。培養液を遠心分離することによって集菌した。得られた菌体ペレットに500μlの緩衝液(25mM Tris-HCl pH7.5,50mM NaCl, 10% glycerol)を加えて縣濁し、超音波により破砕を行った。得られた細胞破砕液を、Histrap FF column (GE Helthcare Bioscience, Chalfont St Giles, UK)に供し、C末端にヒスチジンタグを有するGatZ−APを当該カラムに吸着させた。Histrap FF columnに吸着したGatZ−APを、緩衝液(25mM Tris-HCl pH 7.5、0.5 M imidazole、10% glycerol)で溶出させた。取得したGatZ−APについて、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により精製度を確認したところ、95%以上であった。
【0159】
pETGatZで形質転換したRosetta BL21(DE3) pLysS (Novagen社)を2×YT培地で37℃一晩培養し、新しい2×YT培地に1%(v/v)植菌した。OD
600が0.6になるまで28℃で培養後、終濃度が0.2mMになるようにIPTG(isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)を添加し4時間培養を行った。培養液を遠心分離することによって集菌した。得られた菌体ペレットに500μlの緩衝液(25mM Tris-HCl pH7.5,50mM NaCl, 10% glycerol)を加えて縣濁し、超音波により破砕を行った。得られた細胞破砕液を、Histrap FF column (GE Helthcare Bioscience, Chalfont St Giles, UK)に供し、C末端にヒスチジンタグを有するGatZタンパク質を当該カラムに吸着させた。Histrap FF columnに吸着したGatZタンパク質を、緩衝液(25mM Tris-HCl pH 7.5、0.5 M imidazole、10% glycerol)で溶出させた。さらに溶出したGatZタンパク質を、50mM NaClと10% glycerolとを含む25mM HEPES buffer (pH7.4)で平衡化したHQ anion exchange column (PerSeptive Biosystems, Cambridge, MA)に供し、GatZタンパク質を当該カラムに吸着させた。50〜500mMのNaClのグラジェント(50mM NaClと10% glycerolとを含む25mM HEPES buffer (pH7.4))を用いてHQ anion exchange columnに吸着したGatZタンパク質を溶出させた。取得したGatZタンパク質について、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により精製度を確認したところ、95%以上であった。
【0160】
〔実施例3:アスベスト結合タンパク質によるアスベストの検出〕
実施例1で同定したアスベスト結合タンパク質がアスベストにどの程度結合するかを調べた。
【0161】
(方法)
蛍光タンパク質または蛍光物質で標識されたアスベスト結合タンパク質をアスベストと接触させた後、蛍光顕微鏡で観察を行った。S1タンパク質およびL5タンパク質については、緑色蛍光タンパク質(GFP)との融合タンパク質を下記のようにして作製した。またGatZタンパク質については下記の通り、フルオレセインでラベルを行った。
【0162】
(1)S1タンパク質とGFPとの融合タンパク質(「S1−GFP」)の作製
既知のgfp遺伝子配列(ACCESSION No.U62636: cloning vector pGFPuv)に基づいて、2種のオリゴヌクレオチドプライマーP5(AGAAAAGCTTAGTAAAGGAGAAGAACTTTTCACT、配列番号17)およびP6(TCATGCGGCCGCAAGCTCATCCATGCCATGTGTA、配列番号18)を作製し、pGFPuvベクター(clontech社)を鋳型としてPCRを行った。反応はKOD Plus DNAポリメラーゼ (東洋紡社)を用い、同社のプロトコルに従って行なわれた。PCR産物および発現ベクターpET21-b(Novagen社)を、制限酵素NotIおよびHindIIIにより37℃2時間処理した後、アガロース電気泳動を行った。アガロースゲルから切り出されたそれぞれのDNA断片をLigation high(東洋紡社)により16℃2時間ライゲーションし、大腸菌MW1184株に形質転換した。得られたコロニーから目的のDNA断片が挿入されたプラスミドを抽出し、「pETGFP」と命名した。
【0163】
S1をコードする遺伝子は、K12株のゲノムDNAを鋳型とし、オリゴヌクレオチドプライマーP7(CATATGATGACTGAATCTTTTGCTCAAC、配列番号19)およびオリゴヌクレオチドプライマーP8(GGATCCAACTCGCCTTTAGCTGCTTTGAAAGC、配列番号20)を用いてPCRを行うことによって取得された。反応はKOD Plus DNAポリメラーゼ(東洋紡社)を用い、同社のプロトコルに従って行なわれた。PCR増副産物およびpETGFPを制限酵素NdeIおよびBamHIにより37℃、2時間処理した後、アガロース電気泳動を行った。アガロースゲルから切り出されたそれぞれのDNA断片をLigation high(東洋紡社)により16℃30分間ライゲーションし、大腸菌MW1184株に形質転換した。得られたコロニーから目的のDNA断片が挿入されたプラスミドを抽出し、これを「pETS1−GFP」とした。
【0164】
pETS1−GFPで形質転換した大腸菌Rosetta BL21(DE3) pLysS(Novagen社)を、2×YT培地で37℃一晩培養し、新しい2×YT培地に1%(v/v)植菌した。OD
600が0.6になるまで28℃で培養後、終濃度が0.2mMになるようにIPTG(isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)を添加し、6時間培養を行った。培養液を遠心分離することによって集菌した。得られた菌体ペレットに500μlの緩衝液(25mM Tris-HCl pH7.5, 50mM NaCl, 10%glycerol)を加えて縣濁し、超音波により破砕を行った。得られた細胞破砕液を、Histrap FF column (GE Helthcare Bioscience, Chalfont St Giles, UK)に供し、C末端にヒスチジンタグを有するS1−GFPを当該カラムに吸着させた。Histrap FF columnに吸着したS1−GFPを、緩衝液(25mM Tris-HCl pH 7.5、0.5 M imidazole、10% glycerol)で溶出させた。取得したS1−GFPについて、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により精製度を確認したところ、95%以上であった。
【0165】
(2)L5タンパク質とGFPとの融合タンパク質(「L5−GFP」)の作製
L5をコードする遺伝子は、K12株のゲノムDNAを鋳型とし、オリゴヌクレオチドプライマーP9(GCTAGCATGGCGAAACTGCATGATTAC、配列番号21)およびオリゴヌクレオチドプライマーP10(AAGCTTCTTGCGGAACGGGAAGTCAAAGGCAGC、配列番号22)を用いてPCRを行うことによって取得された。反応はKOD Plus DNAポリメラーゼ(東洋紡社)を用い、同社のプロトコルに従って行なわれた。PCR増副産物およびpETGFPを制限酵素NheIおよびHindIIIにより37℃、2時間処理した後、アガロース電気泳動を行った。ゲルから切り出したそれぞれのDNA断片をLigation high(東洋紡社)により16℃30分ライゲーションし、大腸菌MW1184株に形質転換した。得られたコロニーから目的のDNA断片が挿入されたプラスミドを抽出し、これを「pETL5−GFP」とした。
【0166】
pETL5−GFPで形質転換した大腸菌Rosetta BL21(DE3) pLysS (Novagen社)を、2×YT培地で37℃一晩培養し、新しい2×YT培地に1%(v/v)植菌した。OD
600が0.6になるまで28℃で培養後、終濃度が0.2mMになるようにIPTG(isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)を添加し6時間培養を行った。培養液を遠心分離することによって集菌した。得られた菌体ペレットに500μlの緩衝液(25mM Tris-HCl pH7.5, 50mM NaCl, 10%glycerol)を加えて縣濁し、超音波により破砕を行った。得られた細胞破砕液を、Histrap FF column (GE Helthcare Bioscience, Chalfont St Giles, UK)に供し、C末端にヒスチジンタグを有するL5−GFPを当該カラムに吸着させた。Histrap FF columnに吸着したL5−GFPを、緩衝液(25mM Tris-HCl pH 7.5、0.5 M imidazole、10% glycerol)で溶出させた。取得したL5−GFPについて、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により精製度を確認したところ、95%以上であった。
【0167】
(3)フルオレセイン標識GatZタンパク質(「GatZ−Fluoresein」)の作製
GatZタンパク質をフルオレセインで標識をした。22nmolのGatZタンパク質を200μlの50mM NaClおよび10%(w/v)グリセロールを含む25mM HEPES緩衝液(pH7.4)に溶解した。10μlの25mg/ml フルオレセイン-5-マレイミド/ジメチルホルミアミドを前記溶液に添加後、暗所、室温で2時間静置した。前記反応後の溶液はゲルろ過にて未結合のフルオレセインを除去することによって精製された。色素(495nmにおけるフルオレセインのモル吸光係数:68,000 M
-1cm
-1)のモル濃度、およびGatZタンパク質タンパク質のモル濃度(280nmにおけるGatZタンパク質のモル吸光係数:52,630M
-1cm
-1)それぞれを求め、GatZタンパク質に対する標識効率を見積もった。そしてフルオレセインによるGatZタンパク質の標識度を計算した。上記条件で標識を行った結果、GatZタンパク質1molに対して1.8molのフルオレセインが結合していた。
【0168】
(4)アスベスト結合タンパク質によるアスベストの検出
蛍光タンパク質または蛍光物質で標識されたタンパク質(S1−GFP、L5−GFP、またはGatZ−fluorescein)0.5μgを100μlの緩衝液(25mM Tris-HCl (pH 7.5)、0.5M NaCl、0.1% CHAPS)に溶解した溶液に、10μgのアスベスト(クリソタイル、アモサイト、クロシドライト、アクチノライト、アンソフィライト、またはトレモライト)またはロックウールを添加し混合した。室温で10分間インキュベートした後、3μlの溶液をスライドガラス(MATSUNAMI製、MICRO SLIDE GLASS 白縁磨 1mm厚)にスポットして蛍光顕微鏡(落射蛍光顕微鏡BX-60、オリンパス社製)および位相差顕微鏡で観察を行った。蛍光観察にはU-MNIBAキューブ(ダイクロイックミラー:DM505、励起フィルター:BP470-490、吸収フィルター:BA515IF)を用い、画像の取り込みには顕微鏡デジタルカメラDP70(OLYMPUS)を使用した。
【0169】
(結果)
その結果を
図5にクロシドライトを検出した結果を示す。S1−GFP、L5−GFP、およびGatZ−fluoresceinのいずれを用いた場合であっても、クロシドライトを検出することが可能であった。特にGatZ−fluoresceinを用いた場合、高感度にクロシドライトを検出することができた。
【0170】
また
図6にGatZ−fluoresceinを用いてクロシドライト、アモサイト、クリソタイル、アクチノライト、アンソフィライト、トレモライト、およびロックウールをそれぞれ検出した結果を示す。
図6にGatZ−fluoresceinはクロシドライト、アモサイト、クリソタイル、アクチノライト、アンソフィライト、およびトレモライトに対して強く結合し、ロックウールには結合しないことが確認された。よって、GatZ−fluoresceinを用いることで、ロックウールとアスベストとを区別することができ、ロックウールに混在するアスベストを特異的に検出することも可能であるということがわかった。またクリソタイルに関しては、位相差顕微鏡ではみえない細い繊維も、蛍光顕微鏡では観察できており、GatZ−fluoresceinを用いることでより感度の高いクリソタイルの検出が可能であるということが分かった。
【0171】
〔実施例4:GatZ−fluoresceinのアスベストに対する結合の速度論的解析〕
(方法)
GatZ−fluoresceinを所定の濃度となるように1mlのTris緩衝液(25mM Tris-HCl pH7.5, 0.5% Tween20(登録商標), 0.3M NaCl)に希釈した。前記希釈液に0.1mgアスベスト(クリソタイル、クロシドライト、またはアモサイト)を添加し混合した。前記溶液を、4℃で30分間転倒混和後、遠心分離に供しアスベストを沈殿させた。アスベストに結合したGatZ−fluoresceinの量を溶液中の蛍光強度の減少によって測定した。蛍光強度の測定はSpectorofluorometer FP-6500 (JASCO社)を用い、励起波長491nm、発光波長518nmで実施された。
【0172】
(結果)
図7にスキャッチャードプロットの結果を示す。
図7の(a)はアスベストとしてクリソタイルを用いた場合の結果、(b)はアスベストとしてクロシドライトを用いた場合の結果、(c)はアスベストとしてアモサイトを用いた場合の結果を示す。
図7の結果によれば、GatZタンパク−fluoresceinのクリソタイルに対する解離定数K
dは31.3nMであり、アモサイトに対する解離定数K
dは22.3nMであり、クロシドライトに対する解離定数K
dは13.9nMであった。またクリソタイル1mgに結合するGatZタンパク−fluoresceinの最大結合量は155μgであり、クロシドライト1mgに結合するGatZタンパク−fluoresceinの最大結合量は22.3μgであり、アモサイト1mgに結合するGatZタンパク−fluoresceinの最大結合量は13.6μgであった。
【0173】
〔実施例5:GatZ−APを用いたロックウールに混在するアスベストの検出〕
(方法)
クリソタイル、クロシドライトまたはアモサイトを1%(w/w)混合させた10mgのロックウールを、100μlの緩衝液(25mM Tris-HCl (pH 7.5)、0.3M NaCl、0.5% Tween20(登録商標))にマイクロチューブ中で懸濁させた。10,000g で3分間遠心分離を行った後、上清を除去した。沈殿物を100μlの緩衝液(25mM Tris-HCl (pH 7.5)、0.3M NaCl、0.5% Tween20(登録商標))に懸濁し3分間穏やかに混和した。1μgのGatZ−APを100μlの緩衝液(25mM Tris-HCl (pH 7.5)、0.3M NaCl、0.5% Tween20(登録商標))に添加し10分間穏やかに混和した。500μlの緩衝液(25mM Tris-HCl (pH 7.5)、0.3M NaCl、0.5% Tween20(登録商標))で遠心洗浄を3回行い、最終的に沈殿物を50μlの溶出バッファー(25mM piperidine-NaOH (pH12)緩衝液、または1M MgCl
2を含む25mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5))に懸濁した。10,000×gで3分間遠心分離を行い、上清を新しいマイクロチューブに移した。上清に50μlの発色基質(BCIP/NBT、MOSS, INC)を25℃で混合し30分間反応させた。
【0174】
(結果)
結果を
図8に示す。
図8(a)は25mM piperidine-NaOH(pH12)緩衝液で溶出を行った溶出液と発光基質とを反応させた溶液を示し、1はロックウールとGatZ−APとを接触させた場合の結果、2は1%(w/w)のクリソタイルを混合したロックウールとGatZ−APとを接触させた場合の結果、3は1%(w/w)のクロシドライトを混合したロックウールとGatZ−APとを接触させた場合の結果、4は1%(w/w)のアモサイトを混合したロックウールとGatZ−APとを接触させた場合の結果である。
図8(b)は1M MgCl
2を含む25mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)で溶出を行った溶出液と発光基質とを反応させた溶液を示し、1はロックウールとGatZ−APとを接触させた場合の結果、2は1%(w/w)のクリソタイルを混合したロックウールとGatZ−APとを接触させた場合の結果、3は1%(w/w)のクロシドライトを混合したロックウールとGatZ−APとを接触させた場合の結果、4は1%(w/w)のアモサイトを混合したロックウールとGatZ−APとを接触させた場合の結果である。
【0175】
図8(a)によれば25mM piperidine-NaOH(pH12)緩衝液で溶出することによって、アモサイトとクロシドライトとに結合したGatZ−APを溶出させることができることがわかり、ロックウールに混在しているアモサイトおよびクロシドライトを、GatZ−APを用いて検出することができるということが確認された。
【0176】
また
図8(b)によれば1M MgCl
2を含む25mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)で溶出することによって、クリソタイルに結合したGatZ−APを溶出させることができることがわかり、ロックウールに混在しているクリソタイル、クロシドライト、アモサイトを、GatZ−APを用いて検出することができるということが確認された。
【0177】
〔実施例6: GatZ-fluoresceinを用いたクリソタイルの検出〕
(方法)
直径25mmのメンブレンフィルター(セルロースアセテート、ミリポア社)にクリソタイル0.2μgをトラップし、GatZ-fluoresceinを緩衝液(Tris-HCl(pH7.8)、300mM NaCl, 0.01%CHAPS)に2.5μg/mlの濃度で溶解した溶液をメンブレンフィルターに対して10μl添加して結合させた。室温、暗所で一時間放置して完全に乾燥させた後、フィルターをスライドガラス(MATSUNAMI製、MICRO SLIDE GLASS 白緑磨 1mm厚)にのせ、QuickFix(R.J. Lee instrument, LTd)を用いてアセトン蒸気をメンブレンフィルターにかけ、メンブレンフィルターを透明化した。
【0178】
透明化したメンブレンフィルターにトリアセチン10μlを添加してカバーガラス(MATSUNAMI製、MICRO COVER GLASS 0.12-0.17mm厚)をのせ、位相差顕微鏡および蛍光顕微鏡(落射蛍光顕微鏡BX-60、オリンパス社製)で観察を行った。蛍光観察にはU-MNIBAキューブ(ダイクロックミラー:DM505、励起フィルター:BP470-490、吸収フィルター:BA515IF)を用い、画像の取り込みには顕微鏡デジタルカメラDP70(OLYMPUS)を使用した。
【0179】
(結果)
その結果を
図9に示す。
図9(a)は位相差顕微鏡像であり、(b)は蛍光顕微鏡像である。メンブレンフィルターを透明化することにより、位相差顕微鏡での試料全体の観察と、蛍光顕微鏡によるクリソタイルの特異的な観察とが同視野で可能となる。それゆえ、アスベスト以外の物質が含まれる試料におけるアスベストの特定が可能となる。
【0180】
〔実施例7:アスベスト結合タンパク質の結合特異性のpH依存性の検討〕
(方法)
0.1mgのアスベスト(クリソタイルまたはクロシドライト)、または10mgの建材(ロックウール、シリカ粒子、石膏)を、100μlの25mM Citrate-NaOH (pH3.5)、 25mM Tris-HCl(pH7.8)、または25mM Glycine-NaOH(pH9.5)の緩衝液(50mM NaCl、0.02%CHAPS)にマイクロチューブ中で懸濁し、3分間穏やかに混和した。これに2μgのGatZ−APを含む100μlの緩衝液(25mM Citrate-NaOH (pH3.5)、 25mM Tris-HCl(pH7.8)、または25mM Glycine-NaOH(pH9.5)の緩衝液(50mM NaCl、0.02%CHAPS) )を添加して10分間穏やかに混和した。結合させる時と同じ緩衝液500μlで遠心洗浄を2回行い、最終的に沈殿物を100μlの25mM Tris-HCl(pH7.5)緩衝液に懸濁した。この溶液50μlと発光基質CDP-Star(GE Helthecare Bioscience, Chalfont St Giles, UK)50μlとを25℃で混合し、5分間反応後、発光検出器ARVO sx-1420マルチラベルカウンターで検出を行った。
(結果)
その結果を
図10に示す。GatZ−APはクロシドライトに対してpH3.5で最も結合し、pH7.8で結合量が下がり、pH9.5で最も結合量が少なかった。またGatZ−APはクリソタイル、シリカ粒子、石膏に対しては、pH9.5で最も結合し、pH7.8で結合量が下がり、pH3.5で最も結合量が少なかった。
【0181】
このことから、pH3.5の緩衝液で結合または洗浄を行えば、クロシドライトへの結合は減少させずに、シリカ粒子、石膏への結合を減少させることができるということがわかった。すなわち、pH3.5の緩衝液で結合または洗浄を行うことによって、クロシドライトに対するGatZ−APの結合特異性を向上させることができるといえる。
【0182】
〔実施例8:GatZ−APを用いたアスベストの検出〕
(方法)
0.1mgのクリソタイル、クロシドライト、アモサイト、アクチノライト、または0.25mgのトレモライト、アンソフィライト、または10mgのロックウール、シリカ粒子、セメント、石膏を、400μlの緩衝液(25mM Citrate-NaOH (pH3.5)、50mM NaCl、0.02%CHAPS)にマイクロチューブ中で懸濁し、3分間穏やかに混和した。4μgのGatZ−APを添加して10分間穏やかに混和した。結合させる時と同じ緩衝液500μlで遠心洗浄を2回行い、最終的に沈殿物を100μlの溶出緩衝液(100mM Glycine-NaOH(pH9.5)、0.1%CHAPS)に懸濁し、3分間穏やかに混和した。10,000×gで3分間遠心を行い、上清40μlを新しいマイクロチューブに移した。その上清に、1M Tris-HCl(pH7.8)を20μl添加してpH7.8に調整後、40μlの発色基質BCIP/NBT(MOSS, INC)を25℃で混合し30分間反応させた。
【0183】
(結果)
その結果を
図11に示す。建材として使用されている可能性の高いロックウール、シリカ粒子、セメント、石膏にGatZ−APを接触させ溶出した溶液と発色基質とは反応せず、角閃石系のアスベスト(クロシドライト、アモサイト、トレモライト、アンソフィライト、アクチノライト)にGatZ−APを接触させ溶出した溶液と発色基質とは反応した。
【0184】
したがってpH3.5のCitrate-NaOH緩衝液中で接触および洗浄した後、pH9.5のGlycine-NaOH緩衝液で溶出させることで、特異的に角閃石系のアスベスト(クロシドライト、アモサイト、トレモライト、アンソフィライト、アクチノライト)を検出することができることが確認された。
【0185】
〔実施例9:溶出液の検討〕
(方法)
0.1mgのクリソタイルまたは0.3mgクロシドライトを、100μlの緩衝液(25mM Tris-HCl(pH7.5)、300mM NaCl、0.5%Tween20)にマイクロチューブ中で懸濁し、1分間穏やかに混和した。1μgのGatZ−APまたはL5−APを含む100μlの緩衝液(25mM Tris-HCl(pH7.5)、300mM NaCl、0.5%Tween20)を添加して10分間穏やかに混和した。結合させる時と同じ緩衝液200μlで遠心洗浄を2回行った。最終的に沈殿物を50μlの溶出液(Tris-HCl(pH8.5)、0.1、0.3、0.5、1.0、2.0M MgCl
2または1.0M CaCl
2)を添加して5分間混和した。遠心して上清40μlと発色基質BCIP/NBT(MOSS、INC)とを25℃で混合し、30分間反応させた。
【0186】
(結果)
その結果を
図12に示す。
図12(a)は0.1mgのクリソタイルとGatZ−APとを接触させた後、MgCl
2またはCaCl
2を含む溶出液で溶出した結果を示し、(b)は0.3mgのクロシドライトとGatZ−APとを接触させた後、MgCl
2またはCaCl
2を含む溶出液で溶出した結果を示し、(c)は0.1mgのクロシドライトとL5−APとを接触させた後、MgCl
2またはCaCl
2を含む溶出液で溶出した結果を示す。
【0187】
アスベスト結合タンパク質を含んでいない緩衝液(25mM Tris-HCl(pH8.5))とBCIP/NBTを混和したものを陰性対照とした。クリソタイルとGatZ−APとを接触させた後、溶出し発色基質と反応させた場合、塩化マグネシウムが0.3M以上含まれる溶出液と発色基質は反応を示した(
図12(a))。また、1Mの塩化カルシウムを含む場合も発色基質は反応を示した。
【0188】
一方、クロシドライトとGatZ−APとを接触させた後、溶出し発色基質と反応させた場合も上記と同様の結果であった(
図12(b))。さらにクロシドライトとL5−APとを接触させた後、溶出し発色基質と反応させた場合も同様の結果であった(
図12(c))。
【0189】
〔実施例10:溶出液の検討−2〕
(方法)
実施例9の方法に準じて、GatZ−APを0.1mgのクリソタイルに結合させ、0、0.1、0.3、0.5、1.0MのCaCl
2を含む溶液で溶出した。
【0190】
また実施例9の方法に準じて、L5−APを0.1mgのクロシドライトに結合させ、0.1、0.3、0.5、1.0MのCaCl
2を含む溶液で溶出した。
【0191】
さらに実施例9の方法に準じて、DksA−APを0.1mgのクリソタイルに結合させ、0、0.1、0.3、0.5、1.0MのMgCl
2またはCaCl
2を含む溶液で溶出した。
【0192】
(結果)
GatZ−APを0.1mgのクリソタイルに結合させ、0、0.1、0.3、0.5、1.0MのCaCl
2を含む溶液で溶出した結果を
図13(a)に示す。
【0193】
L5−APを0.1mgのクロシドライトに結合させ、0.1、0.3、0.5、1.0MのCaCl
2を含む溶液で溶出した結果を
図13(b)に示す。
【0194】
DksA−APを0.1mgのクリソタイルに結合させ、0、0.1、0.3、0.5、1.0MのMgCl
2を含む溶液で溶出した結果を
図13(c)に示す。
【0195】
DksA−APを0.1mgのクリソタイルに結合させ、0、0.1、0.3、0.5、1.0MのCaCl
2を含む溶液で溶出した結果を
図13(d)に示す。
【0196】
図13(a)の結果より、GatZ−APにクリソタイルを結合させた場合、0.3M以上のCaCl
2を含む溶液で溶出可能であることがわかった。
【0197】
また
図13(b)の結果より、L5−APにクロシドライトを結合させた場合、0.3M以上のCaCl
2を含む溶液で溶出可能であることがわかった。
【0198】
また
図13(c)および(d)の結果より、DksA−APにクリソタイルを結合させた場合、0.3M以上のMgCl
2を含む溶液および0.3M以上のCaCl
2を含む溶液のいずれの溶液を用いた場合であっても溶出可能であることがわかった。
【0199】
実施例9および10の結果から、0.3M以上の2価の金属イオンを含む溶液が、アスベスト(このときアスベストの種類は問わない)とアスベスト結合タンパク質(このときアスベストタンパク質の種類は問わない)との結合体からアスベストベスト結合タンパク質を溶出するための組成物として利用可能であることが示された。