特許第5725462号(P5725462)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人広島大学の特許一覧

<>
  • 特許5725462-アスベスト結合タンパク質の利用 図000002
  • 特許5725462-アスベスト結合タンパク質の利用 図000003
  • 特許5725462-アスベスト結合タンパク質の利用 図000004
  • 特許5725462-アスベスト結合タンパク質の利用 図000005
  • 特許5725462-アスベスト結合タンパク質の利用 図000006
  • 特許5725462-アスベスト結合タンパク質の利用 図000007
  • 特許5725462-アスベスト結合タンパク質の利用 図000008
  • 特許5725462-アスベスト結合タンパク質の利用 図000009
  • 特許5725462-アスベスト結合タンパク質の利用 図000010
  • 特許5725462-アスベスト結合タンパク質の利用 図000011
  • 特許5725462-アスベスト結合タンパク質の利用 図000012
  • 特許5725462-アスベスト結合タンパク質の利用 図000013
  • 特許5725462-アスベスト結合タンパク質の利用 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5725462
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】アスベスト結合タンパク質の利用
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/00 20060101AFI20150507BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20150507BHJP
   G01N 21/76 20060101ALI20150507BHJP
【FI】
   G01N33/00 D
   G01N21/78 C
   G01N21/76
【請求項の数】18
【全頁数】45
(21)【出願番号】特願2013-156098(P2013-156098)
(22)【出願日】2013年7月26日
(62)【分割の表示】特願2008-192731(P2008-192731)の分割
【原出願日】2008年7月25日
(65)【公開番号】特開2013-242328(P2013-242328A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2013年7月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】黒田 章夫
(72)【発明者】
【氏名】石田 丈典
【審査官】 東松 修太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/055243(WO,A1)
【文献】 特許第5011544(JP,B2)
【文献】 特表平07−508884(JP,A)
【文献】 特表2003−530089(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/055288(WO,A1)
【文献】 特表2005−526487(JP,A)
【文献】 特開2010−032271(JP,A)
【文献】 特開2009−031062(JP,A)
【文献】 特開2012−108163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00−33/46
G01N 21/76
G01N 21/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GatZタンパク質、L1タンパク質、L5タンパク質、S1タンパク質、S4タンパク質、およびS7タンパク質からなる群から選択される1つ以上のタンパク質であるアスベスト結合タンパク質と、標識物質とが結合されてなることを特徴とするアスベスト検出剤。
【請求項2】
上記標識物質は、蛍光物質、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータガラクトシダーゼ、ジアホラーゼ、およびパーオキシダーゼからなる群から選択される1つ以上であることを特徴とする請求項1に記載のアスベスト検出剤。
【請求項3】
上記アルカリホスファターゼは、子牛由来アルカリホスファターゼである請求項2に記載のアスベスト検出剤。
【請求項4】
GatZタンパク質、L1タンパク質、L5タンパク質、S1タンパク質、S4タンパク質、およびS7タンパク質からなる群から選択される1つ以上のタンパク質であるアスベスト結合タンパク質と、被検物とを接触させる接触工程;および
接触工程後において被検物と結合したアスベスト結合タンパク質を検出する検出工程を含むことを特徴とするアスベストの検出方法。
【請求項5】
上記接触工程において、アスベスト結合タンパク質と被検物とを酸性溶液中で接触させることを特徴とする請求項4に記載のアスベストの検出方法。
【請求項6】
上記検出工程において、被検物とアスベスト結合タンパク質との結合体から、アスベスト結合タンパク質を溶出し、当該アスベスト結合タンパク質を検出することを特徴とする請求項4または5に記載のアスベストの検出方法。
【請求項7】
上記検出工程において、被検物とアスベスト結合タンパク質との結合体から、クリソタイル、アモサイト、クロシドライト、トレモライト、アンソフィライト、およびアクチノライトからなる群から選択される1つ以上のアスベストに結合したアスベスト結合タンパク質を、0.3M以上の2価の金属イオンを含む溶液を用いて溶出し、当該アスベスト結合タンパク質を検出することを特徴とする請求項4または5に記載のアスベストの検出方法。
【請求項8】
上記検出工程において、被検物とアスベスト結合タンパク質との結合体から、アモサイト、クロシドライト、トレモライト、アンソフィライト、およびアクチノライトからなる群から選択される1つ以上のアスベストに結合したアスベスト結合タンパク質を、アルカリ性溶液を用いて溶出し、当該アスベスト結合タンパク質を検出することを特徴とする請求項4または5に記載のアスベストの検出方法。
【請求項9】
上記接触工程の前に、フィルターで被検物を捕集する捕集工程をさらに含み、
上記検出工程において、上記フィルターを透明化し、フィルター上に存在するアスベスト結合タンパク質と結合した被検物を観察することを特徴とする請求項4または5に記載のアスベストの検出方法。
【請求項10】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のアスベスト検出剤と、被検物とを接触させる接触工程;および
接触工程後の試料溶液に含まれる被検物と結合したアスベスト結合タンパク質を検出する検出工程を含むことを特徴とするアスベストの検出方法。
【請求項11】
上記接触工程において、アスベスト検出剤と被検物とを酸性溶液中で接触させることを特徴とする請求項10に記載のアスベストの検出方法。
【請求項12】
上記検出工程において、被検物とアスベスト検出剤との結合体から、アスベスト検出剤を溶出し、当該アスベスト検出剤を検出することを特徴とする請求項10または11に記載のアスベストの検出方法。
【請求項13】
上記検出工程において、被検物とアスベスト検出剤との結合体から、クリソタイル、アモサイト、クロシドライト、トレモライト、アンソフィライト、およびアクチノライトからなる群から選択される1つ以上のアスベストに結合したアスベスト検出剤を溶出し、当該アスベスト検出剤を検出することを特徴とする請求項10または11に記載のアスベストの検出方法。
【請求項14】
上記検出工程において、被検物とアスベスト検出剤との結合体から、クリソタイル、アモサイト、クロシドライト、トレモライト、アンソフィライト、およびアクチノライトからなる群から選択される1つ以上のアスベストに結合したアスベスト結合タンパク質を、0.3M以上の2価の金属イオンを含む溶液を用いて溶出し、当該アスベスト検出剤を検出することを特徴とする請求項10または11に記載のアスベストの検出方法。
【請求項15】
上記検出工程において、被検物とアスベスト検出剤との結合体から、アモサイト、クロシドライト、トレモライト、アンソフィライト、およびアクチノライトからなる群から選択される1つ以上のアスベストに結合したアスベスト結合タンパク質を、アルカリ性溶液を用いて溶出し、当該アスベスト検出剤を検出することを特徴とする請求項10または11に記載のアスベストの検出方法。
【請求項16】
上記接触工程の前に、フィルターで被検物を捕集する捕集工程をさらに含み、
上記検出工程において、上記フィルターを透明化し、フィルター上に存在するアスベスト検出剤と結合した被検物を観察することを特徴とする請求項10または11に記載のアスベストの検出方法。
【請求項17】
GatZタンパク質、L1タンパク質、L5タンパク質、S1タンパク質、S4タンパク質、およびS7タンパク質からなる群から選択される1つ以上のタンパク質であるアスベスト結合タンパク質を含むことを特徴とするアスベスト検出キット。
【請求項18】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のアスベスト検出剤を含むことを特徴とするアスベスト検出キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベスト結合タンパク質の利用に関する。
【0002】
また本発明は、アスベスト結合タンパク質のスクリーニング方法、並びにアスベスト結合タンパク質およびその利用に関する。より具体的には、本発明はアスベストの代替品として利用されているロックウールには結合せず且つアスベストのみに特異的に結合し得るアスベスト結合タンパク質の効率的なスクリーニング方法に関する。また本発明は、上記スクリーニング方法によって得られたアスベスト結合タンパク質を用いて様々な試料(建材等)に含まれるアスベストを高い特異性をもって検出する手段として、アスベスト結合タンパク質よりなるアスベスト検出剤およびアスベストの検出方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
昨今、アスベスト(「石綿」ともいう)が人体に悪影響を及ぼすことが問題となっている。すなわち、過去にアスベストを製造し、または取扱う業務に従事していた人々に、肺がん、中皮腫等の健康被害が多発していることが企業から公表され、アスベスト粉じんを吸入することにより、主に石綿肺、肺がん、悪性中皮腫などの健康障害を生じるおそれがあることが報告されている。
【0004】
石綿肺は、肺が線維化してしまう肺線維症(じん肺)という病気の一つである。肺の線維化を起こすものは他の鉱物性粉じん等多くの原因があるが、石綿のばく露によって起きた肺線維症を特に石綿肺として区別されている。肺がんは、肺胞内に取り込まれた石綿繊維の主に物理的刺激により肺がんが発生するとされている。発がん性の強さは、石綿の種類により異なる他、石綿の太さ、長さにも関与する。悪性中皮腫は、肺を取り囲む胸膜や、肝臓や胃などの臓器を囲む腹膜等にできる悪性の腫瘍である。
【0005】
アスベスト(石綿)には、クリソタイル(白石綿)、クロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトなどが含まれる。アスベスト(石綿)の用途としては、9割以上が建材に使用されており、残り1割は化学プラント設備用のシール材、摩擦材等の工業製品等に使用されている。なお、平成16(2004)年10月1日よりアスベストを原料とした建材、摩擦材、接着剤の製造等は禁止されているが、過去に大量に使われた経緯があるため、多くの建物に取り残されているのが現状である。
【0006】
アスベスト(石綿)の検出方法としては、例えば大気中のアスベスト(石綿)を検査する場合、ポンプで大気を吸い込む際にフィルターにアスベスト(石綿)をトラップし、そのフィルターをアセトンなどを用いて無色化し、位相差顕微鏡で観察する方法が用いられる。また、建材中のアスベスト(石綿)を検査する場合、分析対象の建材から適切な量の試料を採取し、当該建材の形状や共存物質の状況に応じて、研削、粉砕、加熱等の処理を行った後、分析用試料を調製する。次に、分析用試料にアスベスト(石綿)が含有しているか否かについて、位相差顕微鏡を使用して分散染色分析法による定性分析およびエックス線回折分析法による定性分析を実施し、アスベスト(石綿)の含有を確認する。アスベスト(石綿)の含有が確認された試料は、ぎ酸で処理して定量分析用の試料を調製し、基底標準吸収補正法によるエックス線回折分析法により定量分析を行い、アスベスト(石綿)含有量を求め、アスベスト(石綿)含有率を算出する方法が用いられる(非特許文献1、2参照)。
【0007】
しかしながら、位相差顕微鏡での観察には熟練した技能が必要であり、また相当の時間を要するため、同時に多数の処理を行うことは困難である。また、エックス線分析装置は非常に高価な機械であるため、誰でも簡便に実施できるものではない。
【0008】
そこで本発明者は、特異性が高く、効率的で、且つ簡便なアスベスト(石綿)の検出手段を検出すべく鋭意検討した結果、アスベスト(石綿)に特異的に結合するタンパク質(「アスベスト(石綿)結合タンパク質」)を独自に発見し、アスベストのバイオアッセイ系を提唱した(例えば特許文献1を参照のこと)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2007/055243号パンフレット(国際公開日:2007年5月18日)
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「作業環境測定シリーズNo.3、繊維状物質測定マニュアル」 社団法人日本作業環境測定協会、平成16年7月28日
【非特許文献2】「建材中の石綿含有率の分析方法について」 基安化発第0622001号、平成17年6月22日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
アスベストの代替品として利用されているロックウールには微量のアスベストが混入している恐れが指摘されている。しかしながら、従来公知の方法ではロックウールに微量に混在するアスベストと特異的に区別することは困難であった。そこで本発明は、ロックウールとアスベストとを区別し得る検出方法を見出すことを目的とした。
【0012】
また特許文献1において開示したアスベスト結合タンパク質(DksA)は、アスベストのうち特にクリソタイルに高い特異性を示すものであった。アスベストのうち、アモサイト、クロシドライトは早くから使用禁止なったため、現在建物等で問題になる80%近くはクリソタイルといわれている。しかしながら、発明者が建物の解体現場で作業員にヒヤリングを行った結果、アモサイト、クロシドライトに対する脅威も依然残っており、アモサイトやクロシドライトをも高感度に検出することの必要性があることがわかった。そこで、本発明者はアスベストのバイオアッセイ系をさらに発展させるべく、クリソタイルのみならずアモサイトおよびクロシドライト等のアスベストに対しても高い特性を有するアスベスト結合タンパク質の探索を行うこととした。
【0013】
さらに、アスベスト結合タンパク質を用いたアスベストの検出において、さらに検出感度を向上させることができれば、サンプル量を少量にすることができるとともに、検出時間の短縮にもつながる。よって、本発明はアスベスト結合タンパク質を用いたアスベスト検出における検出感度の向上も目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために、ロックウールに結合せずに、且つクリソタイルのみならずアモサイトおよびクロシドライト等に対して高い特異性を有するアスベスト結合タンパク質のスクリーニング方法を独自に確立し、当該スクリーニング方法を用いて鋭意検討を行った結果、所望のアスベスト結合タンパク質を見出すことに成功した。また、アスベスト結合タンパク質を標識する物質(「標識物質」という)を変更することによってアスベストの検出感度を飛躍的に向上させることに成功した。すなわち本発明は以下の発明を包含する。
【0015】
本発明にかかるアスベスト検出剤は、
GatZタンパク質、L1タンパク質、L5タンパク質、S1タンパク質、S4タンパク質、およびS7タンパク質からなる群から選択される1つ以上のタンパク質であるアスベスト結合タンパク質と、標識物質とが結合されてなることを特徴としている。
【0016】
また、本発明にかかるアスベスト検出剤における上記標識物質は、蛍光物質、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータガラクトシダーゼ、ジアホラーゼ、およびパーオキシダーゼからなる群から選択される1つ以上であってもよい。
【0017】
また、本発明にかかるアスベスト検出剤における上記アルカリホスファターゼは、子牛由来アルカリホスファターゼであってもよい。
【0018】
一方、本発明にかかるアスベストの検出方法は、GatZタンパク質、L1タンパク質、L5タンパク質、S1タンパク質、S4タンパク質、およびS7タンパク質からなる群から選択される1つ以上のタンパク質であるアスベスト結合タンパク質と、被検物とを接触させる接触工程;および
接触工程後において被検物と結合したアスベスト結合タンパク質を検出する検出工程を含むことを特徴としている。
【0019】
また、本発明にかかるアスベストの検出方法では、上記接触工程において、アスベスト結合タンパク質と被検物とを酸性溶液中で接触させることを特徴とする方法であってもよい。
【0020】
また、本発明にかかるアスベスト検出方法では、上記検出工程において、被検物とアスベスト結合タンパク質との結合体から、アスベスト結合タンパク質を溶出し、当該アスベスト結合タンパク質を検出することを特徴とする方法であってもよい。
【0021】
また、本発明にかかるアスベスト検出方法では、上記検出工程において、被検物とアスベスト結合タンパク質との結合体から、クリソタイル、アモサイト、クロシドライト、トレモライト、アンソフィライト、およびアクチノライトからなる群から選択される1つ以上のアスベストに結合したアスベスト結合タンパク質を、0.3M以上の2価の金属イオンを含む溶液を用いて溶出し、当該アスベスト結合タンパク質を検出することを特徴とする方法であってもよい。
【0022】
また、本発明にかかるアスベスト検出方法では、上記検出工程において、被検物とアスベスト結合タンパク質との結合体から、アモサイト、クロシドライト、トレモライト、アンソフィライト、およびアクチノライトからなる群から選択される1つ以上のアスベストに結合したアスベスト結合タンパク質を、アルカリ性溶液を用いて溶出し、当該アスベスト結合タンパク質を検出することを特徴とする方法であってもよい。
【0023】
また、本発明にかかるアスベスト検出方法では、上記接触工程の前に、フィルターで被検物を捕集する捕集工程をさらに含み、
上記検出工程において、上記フィルターを透明化し、フィルター上に存在するアスベスト結合タンパク質と結合した被検物を観察することを特徴とする方法であってもよい。
【0024】
また、本発明にかかるアスベストの検出方法は、本発明にかかるアスベスト検出剤と、被検物とを接触させる接触工程;および
接触工程後の試料溶液に含まれる被検物と結合したアスベスト結合タンパク質を検出する検出工程を含むことを特徴とする方法であってもよい。
【0025】
また、本発明にかかるアスベストの検出方法は、上記接触工程において、アスベスト検出剤と被検物とを酸性溶液中で接触させることを特徴とする方法であってもよい。
【0026】
また、本発明にかかるアスベストの検出方法は、上記検出工程において、被検物とアスベスト検出剤との結合体から、アスベスト検出剤を溶出し、当該アスベスト検出剤を検出することを特徴とする方法であってもよい。
【0027】
また、本発明にかかるアスベストの検出方法は、上記検出工程において、被検物とアスベスト検出剤との結合体から、クリソタイル、アモサイト、クロシドライト、トレモライト、アンソフィライト、およびアクチノライトからなる群から選択される1つ以上のアスベストに結合したアスベスト検出剤を溶出し、当該アスベスト検出剤を検出することを特徴とする方法であってもよい。
【0028】
また、本発明にかかるアスベストの検出方法は、上記検出工程において、被検物とアスベスト検出剤との結合体から、クリソタイル、アモサイト、クロシドライト、トレモライト、アンソフィライト、およびアクチノライトからなる群から選択される1つ以上のアスベストに結合したアスベスト結合タンパク質を、0.3M以上の2価の金属イオンを含む溶液を用いて溶出し、当該アスベスト検出剤を検出することを特徴とする方法であってもよい。
【0029】
また、本発明にかかるアスベストの検出方法は、上記検出工程において、被検物とアスベスト検出剤との結合体から、アモサイト、クロシドライト、トレモライト、アンソフィライト、およびアクチノライトからなる群から選択される1つ以上のアスベストに結合したアスベスト結合タンパク質を、アルカリ性溶液を用いて溶出し、当該アスベスト検出剤を検出することを特徴とする方法であってもよい。
【0030】
また、本発明にかかるアスベストの検出方法は、上記接触工程の前に、フィルターで被検物を捕集する捕集工程をさらに含み、
上記検出工程において、上記フィルターを透明化し、フィルター上に存在するアスベスト検出剤と結合した被検物を観察することを特徴とする方法であってもよい。
【0031】
一方、本発明にかかるアスベスト検出キットは、GatZタンパク質、L1タンパク質、L5タンパク質、S1タンパク質、S4タンパク質、およびS7タンパク質からなる群から選択される1つ以上のタンパク質であるアスベスト結合タンパク質を含むことを特徴としている。
【0032】
また、本発明にかかるアスベスト検出キットは、本発明にかかるアスベスト検出剤を含むことを特徴としている。
【0033】
また本発明は、0.3M以上の2価の金属イオンが含まれることを特徴とする、アスベストとアスベスト結合タンパク質との結合体からアスベスト結合タンパク質を溶出するための組成物をも包含する。
【0034】
また本発明は、本発明にかかる上記組成物を用いることを特徴とする、アスベストとアスベスト結合タンパク質との結合体からアスベスト結合タンパク質を溶出する方法をも包含する。
【発明の効果】
【0035】
本発明にかかるアスベスト結合タンパク質のスクリーニング方法では、タンパク質を含む試料溶液からあらかじめロックウールに結合したタンパク質を除去した後に、所望のアスベスト(クリソタイル、アモサイト、クロシドライト、トレモライト、アンソフィライト、およびアクチノライト)と結合するタンパク質を取得するため、ロックウールに結合せずに、且つアスベスト(クリソタイルのみならず、アモサイト、クロシドライト、トレモライト、アンソフィライト、およびアクチノライト)に対して高い特異性を有するアスベスト結合タンパク質を取得することができる。また、ロックウールに結合し得るタンパク質をあらかじめ除去することによって、これまで試料溶液中の濃度が低いためにバックグランドに隠れて見出すことができなかった新規のアスベスト結合タンパク質を見出すことができるという効果を本発明にかかるアスベスト結合タンパク質のスクリーニング方法は奏する。
【0036】
また上記本発明にかかるアスベスト結合タンパク質のスクリーニング方法によって見出されたアスベスト結合タンパク質はロックウールに結合せずに、アスベストに対して高い特異性をもって結合し得るタンパク質であるため、ロックウールに微量に混在するアスベストを特異的に検出することができるという効果を本発明は奏する。また本発明によれば、クリソタイルのみならず、建物解体現場において未だ脅威となっているアモサイトおよびクロシドライト、さらにトレモライト、アンソフィライト、およびアクチノライトをも検出し得る。
【0037】
また本発明にかかるアスベストの検出方法によれば高感度でアスベストを検出することができる。
【0038】
したがって、本発明は社会問題となっているアスベストによる甚大な被害を未然に防ぐ手段として極めて重要である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】参考例1において、BAP、CIP、およびDksA−BAPについてアルカリホスファターゼ活性を比較した結果を示す図である。
図2】参考例3において、DksA−BAP、DksA−NH−CIPおよびDksA−SA−CIPについてクリソタイルの検出感度について評価を行った結果を示す図である。
図3】参考例4において、DksA−CIPを用いてフィルター上のクリソタイル検出を行った結果を示す図である。
図4】実施例1において、アスベスト結合タンパク質のスクリーニングを行った際のSDS−PAGEの結果を示す図である。
図5】実施例3において、S1−GFP、L5−GFP、およびGatZ−fluoresceinを用いてクロシドライトを検出した際の位相差顕微鏡像、並びに蛍光顕微鏡像である。
図6】実施例3において、GatZ−fluoresceinを用いてクロシドライト、アモサイト、クリソタイル、トレモライト、アンソフィライト、アクチノライト、およびロックウールを検出した際の位相差顕微鏡像、並びに蛍光顕微鏡像である。
図7】実施例4において、GatZ−fluoresceinのアスベストに対する結合についてスキャッチャードプロット解析を行った結果を示す図であり、(a)クリソタイルに結合したGatZ−fluoresceinの結果であり、(b)クロシドライトに結合したGatZ−fluoresceinの結果であり、(c)アモサイトに結合したGatZ−fluoresceinの結果である。
図8】実施例5において、GatZ−APを用いてロックウールに混在するアスベスト(クリソタイル、クロシドライトまたはアモサイト)の検出を行った結果を示す図であり、(a)は25mM piperidine-NaOH(pH12)緩衝液で溶出を行った溶出液と発光基質とを反応させた溶液を示し、(b)は1M MgCl2を含む25mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)で溶出を行った溶出液と発光基質とを反応させた溶液を示す。また図8中の1はロックウールとGatZ−APとを接触させた場合の結果、2は1%(w/w)のクリソタイルを混合したロックウールとGatZ−APとを接触させた場合の結果、3は1%(w/w)のクロシドライトを混合したロックウールとGatZ−APとを接触させた場合の結果、4は1%(w/w)のアモサイトを混合したロックウールとGatZ−APとを接触させた場合の結果である。
図9】実施例6において、GatZ-fluoresceinを用いてクリソタイルを検出した結果を示す図であり、(a)は位相差顕微鏡像であり、(b)は蛍光顕微鏡像である。
図10】実施例7において、アスベスト結合タンパク質の結合特異性のpH依存性を検討した結果を示すグラフである。
図11】実施例8において、pH3.5のCitrate-NaOH緩衝液中でGatZ−APと試料とを接触させ、pH9.5のGlycine-NaOH緩衝液でGatZ−APを溶出させた後、発色基質を用いてGatZ−APを検出した結果を示す図である。
図12】実施例9の結果を示す図であり、(a)は0.1mgのクリソタイルとGatZ−APとを接触させた後、MgCl2またはCaCl2を含む溶出液で溶出した結果を示し、(b)は0.3mgのクロシドライトとGatZ−APとを接触させた後、MgCl2またはCaCl2を含む溶出液で溶出した結果を示し、(c)は0.1mgのクロシドライトとL5−APとを接触させた後、MgCl2またはCaCl2を含む溶出液で溶出した結果を示す。
図13】実施例10の結果を示す図であり、(a)はGatZ−APを0.1mgのクリソタイルに結合させ、0、0.1、0.3、0.5、1.0MのCaCl2を含む溶液で溶出した結果を示し、(b)はL5−APを0.1mgのクロシドライトに結合させ、0.1、0.3、0.5、1.0MのCaCl2を含む溶液で溶出した結果を示し、(c)はDksA−APを0.1mgのクリソタイルに結合させ、0、0.1、0.3、0.5、1.0MのMgCl2を含む溶液で溶出した結果を示し、(d)はDksA−APを0.1mgのクリソタイルに結合させ、0、0.1、0.3、0.5、1.0MのCaCl2を含む溶液で溶出した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の実施の形態について説明すれば以下のとおりであるが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本明細書中に記載された非特許文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。また本明細書中の「〜」は「以上、以下」を意味し、例えば明細書中で「★〜☆」と記載されていれば「★以上、☆以下」を示す。また本明細書中の「および/または」は、いずれか一方または両方を意味する。
【0041】
<1.本発明のスクリーニング方法>
本発明にかかるアスベスト結合タンパク質のスクリーニング方法(以下、「本発明のスクリーニング方法」という)をまず説明する。ここで「アスベスト結合タンパク質」とは、アスベストと結合する性質(「結合活性」ともいう)を持ったタンパク質を意味する。タンパク質がアスベストと結合しているかどうかについては、解離定数を検討することによって判断することができる。つまりアスベスト結合タンパク質は、好ましくはアスベストに対する解離定数が100nM以下(より好ましくは50nM以下、最も好ましくは35nM以下)のタンパク質である。アスベスト結合タンパク質の由来は、特に限定されず、細菌、酵母、植物、動物など、いずれの生物に由来するタンパク質であってもよい。
【0042】
本明細書において、用語「タンパク質」は、「ポリペプチド」または「ペプチド」と交換可能に使用される。「タンパク質」には、タンパク質の部分断片(フラグメント)が含まれるものとする。また、「タンパク質」には、融合タンパク質が含まれるものとする。「融合タンパク質」は、2つ以上の異種タンパク質の一部(フラグメント)または全部が結合したタンパク質である。また本明細書において使用される「アスベスト」は「石綿」と同義である。
【0043】
本発明のスクリーニング方法は、
タンパク質を含む試料溶液とロックウールとを接触させる第1接触工程;
第1接触工程後の試料溶液からロックウールと結合したタンパク質を除去する除去工程;
除去工程後の試料溶液とアスベストとを接触させる第2接触工程;
および第2接触工程後の試料溶液からアスベストと結合したタンパク質を単離する単離工程を含むことを特徴としている。
【0044】
(1−1.第1接触工程)
「第1接触工程」は、タンパク質を含む試料溶液とロックウールとを接触させる工程である。
【0045】
ここで上記タンパク質を含む試料溶液(「タンパク質試料溶液」という)としては、特に限定されるものではないが例えば細胞破砕液を好適に用いることができる。また、例えばファージライブラリー由来のランダムペプチドライブラリーや合成ペプチドライブラリーを用いて調製された溶液も、タンパク質試料溶液として利用可能である。なお、このタンパク質試料溶液にはタンパク質以外の物質が含まれていてもよい。
【0046】
タンパク質試料溶液の調製は、用いられる材料に応じて公知の方法を選択の上、実施され得る。例えば細胞破砕液を調製する場合には、ホモジナイザー、超音波などにより物理的に細胞を破砕する方法、酵素や界面活性剤を用いて細胞を破砕する方法、酵素や界面活性剤と物理的方法を組み合わせて細胞を破砕する方法などを用いることができる。タンパク質試料溶液中のタンパク質の濃度も特に限定されるものではない。
【0047】
上記タンパク質試料溶液と接触させるロックウール(岩綿)は市販されているものが適宜利用され得る。タンパク質試料溶液とロックウールとの接触方法は、特に限定されるものではないが、タンパク質試料溶液中に所定量のロックウールを添加し、これをよく混和すればよい。混和する条件は特に限定されないが、例えば4℃で15分〜30分間転倒混和することが挙げられる。またタンパク質試料溶液に添加されるロックウールの量は特に限定さるものではない。ただし、タンパク質試料溶液に添加されるロックウールの量が液量に対して過剰すぎると混和が困難になるため、ロックウールを含むタンパク質試料溶液が十分混和され得る程度の量のロックウールをタンパク質試料溶液に添加することが好ましい。例えば本発明者は、後述する実施例において大腸菌(Escherichia coli K12、ATCC 700926)由来の細胞破砕液10mlに対して1gのロックウールを添加している。
【0048】
(1−2.除去工程)
「除去工程」は第1接触工程後のタンパク質試料溶液からロックウールと結合したタンパク質を除去する工程である。タンパク質試料溶液からあらかじめロックウールに結合したタンパク質を除去することができるために、この段階で目的以外のタンパク質を除去することができ、その後に行う工程によって、所望のアスベスト結合タンパク質を検索しやすくすることができる。また、ロックウールに結合し得るタンパク質をあらかじめ除去することによって、従来公知に方法においては試料溶液中の濃度が低いためにバックグランドに隠れて見出すことができなかったアスベスト結合タンパク質を見出すことができる。
【0049】
本除去工程は、ロックウールに結合したタンパク質をタンパク質試料溶液から除去することができる方法であればその具体的な方法は特に限定されるものではない。例えば本工程は、第1接触工程後のタンパク質試料溶液をロックウールが沈澱し得る回転数で遠心分離し、ロックウールを除去することにより実施され得る。また、本工程は第1接触工程後のタンパク質試料溶液を適当なポアサイズのフィルターを用いてろ過し、ロックウールをろ別することにより実施され得る。ロックウールに結合し得るタンパク質は第1接触工程後においてロックウールに結合しているため、ロックウールを第1接触工程後のタンパク質試料溶液から除去することにより、本除去工程を実現することができる。
【0050】
なお、回収されたロックウールを適当な溶液に懸濁しよく混和した後、当該溶液を再度上記遠心分離またはろ過に供することによって当該溶液を取得し、これを上述のロックウールが除去されたタンパク質試料溶液に混合し、次の第2接触工程に用いてもよい(「洗浄/回収操作」)。ロックウールに非特異的に結合していたタンパク質を回収することができるからである。上記混和の条件は特に限定されないが、例えば4℃で15分〜30分間転倒混和することが挙げられる。回収されたロックウールの懸濁に用いられる溶液は、タンパク質が変性しないような溶液であれば特に限定されるものではない。また必要に応じて、pH緩衝剤や界面活性剤が上記溶液に含まれていてもよい。例えば、タンパク質試料溶液においてタンパク質が溶解されている溶液が用いられ得る。後述する実施例においては、0.1Mまたは1M塩化ナトリウム、および0.5%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(商品名:Tween20(登録商標))を含有する25mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5またはpH8.0)を洗浄用緩衝液として用いられている。なお、上記洗浄/回収操作は本工程において複数回行われてもよい。
【0051】
(1−3.第2接触工程)
「第2接触工程」は除去工程後のタンパク質試料溶液とアスベストとを接触させる工程である。本工程はタンパク質試料溶液とアスベストとを接触させる点において第1接触工程と異なっているが、本工程の具体的な操作の説明については第1接触工程におけるロックウールをアスベストに読み替えればよい。
【0052】
本工程において用いられるアスベストは特に限定されるものではなく、目的に応じて、クリソタイル、アモサイト、クロシドライト、トレモライト、アンソフィライト、アクチノライトなどを用いればよい。また本工程においてクリソタイル、アモサイト、クロシドライト、トレモライト、アンソフィライト、アクチノライトをそれぞれ単独で利用してもよいし、これらを混合して用いてもよい。上記のそれぞれのアスベストを用いたの場合に同定されるタンパク質を比較検討することによって、クリソタイルのみに結合するタンパク質、アモサイトのみに結合するタンパク質、クロシドライトのみに結合するタンパク質、トレモライトのみに結合するタンパク質、アンソフィライトのみに結合するタンパク質、アクチノライトのみに結合するタンパク質、並びに、クロシドライ、アモサイト、クリソタイル、トレモライト、アンソフィライト、およびアクチノライトからなる群から選択される1つ以上のアスベストに結合するタンパク質を同定することができる。また本工程に用いられるアスベストの組み合わせに応じて、クリソタイルとアモサイトとに結合しクロシドライトに結合しないタンパク質、クリソタイルとクロシドライトとに結合しアモサイトに結合しないタンパク質、クロシドライとアモサイトとに結合しクリソタイルに結合しないタンパク質などの様々な特性を持ったタンパク質を同定することができる。
【0053】
(1−4.単離工程)
「単離工程」は第2接触工程後の試料溶液からアスベストと結合したタンパク質を単離する工程である。本単離工程によれば、アスベストと結合した所望のタンパク質を取得することができる。本工程の具体的な実施方法は上記目的が達成され得る方法であれば特に限定されるものではない。例えば本工程においては、まず所望のタンパク質が結合しているアスベストを回収する(「回収操作」)。そして回収されたアスベストから所望のアスベスト結合タンパク質を単離すればよい(「単離操作」)。
【0054】
上記回収操作は、例えば第2接触工程後のタンパク質試料溶液をアスベストが沈澱し得る回転数で遠心分離し、アスベストを回収することにより実施され得る。また、本回収操作は第2接触工程後のタンパク質試料溶液を適当なポアサイズのフィルターを用いてろ過し、アスベストをろ別することによっても実施され得る。なお、回収されたアスベストを適当な洗浄液に懸濁しよく混和した後、当該洗浄液を再度上記遠心分離またはろ過に供することによってアスベストを回収し、次の単離操作に供してもよい(「洗浄操作」)。アスベストに非特異的に結合していたタンパク質を除去することができるからである。上記混和の条件は特に限定されないが、例えば4℃で15分〜30分間転倒混和することが挙げられる。回収されたアスベストの懸濁に用いられる洗浄液は、タンパク質が変性しないような溶液であれば特に限定されるものではない。また必要に応じて、pH緩衝剤や界面活性剤が上記洗浄液に含まれていてもよい。例えば、タンパク質試料溶液においてタンパク質が溶解されている溶液が洗浄液として用いられ得る。後述する実施例においては、0.1Mまたは1M塩化ナトリウム、および0.5%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(商品名:Tween20(登録商標))を含有する25mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5またはpH8.0)が洗浄液として用いられている。なお、上記洗浄操作は本工程において複数回行われてもよい。
【0055】
また上記単離操作は、アスベストに結合したタンパク質が溶出し得る操作であればその具体的な操作は限定されるものではない。例えば、pHを変化させることによってタンパク質を溶出させる方法、溶液の塩濃度を変化させることによってタンパク質を溶出させる方法などが挙げられるが、これらに限定されない。後述する実施例においては、1M MgCl2を含む溶液を用いてタンパク質を溶出せたり、アルカリ性溶液(pH12の溶液)を用いてタンパク質を溶出せたりしている。
【0056】
本工程により取得したアスベスト結合タンパク質の同定は、公知の方法を用いて行うことができる。例えば、取得したタンパク質を、ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜にトランスファーし、膜をクマシーブリリアントブルーで染色した後、目的タンパク質のバンドを切り出す。切り出したバンドのトリプシン消化物をマトリックス支援レーザーイオン化飛行時間型質量分析計(MALDI-TOF-MS)により分析し、ペプチドマスフィンガープリント解析により同定し、公知のタンパク質データベースからアミノ酸配列を取得することができる。また、例えば、自動ペプチドシーケンサを用いてアミノ酸配列を決定してもよい。アミノ酸配列が決定されれば、当該タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列は、例えば、公知の遺伝子データベースから取得され得る。また、当該タンパク質のアミノ酸配列に基づいて、プライマーまたはプローブを設計し、当該タンパク質をコードするDNA断片をクローニングして、DNAシーケンサを用いて塩基配列を決定することもできる。
【0057】
<2.本発明のアスベスト結合タンパク質およびアスベスト検出剤>
(2−1.アスベスト結合タンパク)
本発明は、上記本発明のスクリーニング方法によって得られた全てのアスベスト結合タンパク質を包含する。その具体的なタンパク質は特に限定されるものではない。本発明のアスベスト結合タンパク質としては、例えばGatZタンパク質、L1タンパク質、L5タンパク質、S1タンパク質、S4タンパク質、およびS7タンパク質などが挙げられる。
【0058】
上記GatZタンパク質は、大腸菌(Escherichia coli K12、ATCC 700926)由来のタガトース−6−フォスフェートキナーゼ(tagatose 6-phosphate kinase)として知られており、GatZタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列、およびGatZタンパク質のアミノ酸配列がDDBJ(DNA Data Bank of Japan)にACCESSION:U00096 (Escherichia coli str. K-12 substr. MG1655, complete genome)、Protein ID: AAC75156.1として公開されている。GatZタンパク質のアミノ酸配列を配列番号1に、それをコードする塩基配列を配列番号2に示した。GatZタンパク質は、クリソタイル、アモサイト、およびクロシドライト、並びに、トレモライト、アンソフィライト、アクチノライトの全てに結合し得る。本発明者の検討によればGatZタンパク質(フルオレセイン標識)のクリソタイルに対する解離定数Kは31.3nMであり、アモサイトに対する解離定数Kは22.1nMであり、クロシドライトに対する解離定数Kは13.9nMであった。
【0059】
上記L1タンパク質は、大腸菌(Escherichia coli K12、ATCC 700926)由来のリボソームタンパク質として知られており、L1タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列、およびL1タンパク質のアミノ酸配列がDDBJにACCESSION NUMBER: U00096 (Escherichia coli str. K-12 substr. MG1655, complete genome)、Protein ID: AAC76958.1として公開されている。L1タンパク質のアミノ酸配列を配列番号3に、それをコードする塩基配列を配列番号4に示した。L1タンパク質は、アモサイト、およびクロシドライトに特に高い結合活性を有している。
【0060】
上記L5タンパク質は、大腸菌(Escherichia coli K12、ATCC 700926)由来のリボソームタンパク質として知られており、L5タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列、およびL5タンパク質のアミノ酸配列がDDBJにACCESSION NUMBER: U00096 (Escherichia coli str. K-12 substr. MG1655, complete genome)、Protein ID: AAC76333.1として公開されている。L5タンパク質のアミノ酸配列を配列番号5に、それをコードする塩基配列を配列番号6に示した。L5タンパク質は、アモサイト、およびクロシドライトに特に高い結合活性を有している。
【0061】
上記S1タンパク質は、大腸菌(Escherichia coli K12、ATCC 700926)由来のリボソームタンパク質として知られており、S1タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列、およびS1タンパク質のアミノ酸配列がDDBJにACCESSION NUMBER: U00096 (Escherichia coli str. K-12 substr. MG1655, complete genome)、Protein ID: AAC73997.1として公開されている。S1タンパク質のアミノ酸配列を配列番号7に、それをコードする塩基配列を配列番号8に示した。S1タンパク質は、クリソタイル、アモサイト、およびクロシドライトの全てに結合し得る。
【0062】
上記S7タンパク質は、大腸菌(Escherichia coli K12、ATCC 700926)由来のリボソームタンパク質として知られており、S7タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列、およびS7タンパク質のアミノ酸配列がDDBJにACCESSION NUMBER: U00096 (Escherichia coli str. K-12 substr. MG1655, complete genome), Protein ID: AAC76366.1として公開されている。S7タンパク質のアミノ酸配列を配列番号9に、それをコードする塩基配列を配列番号10に示した。S7タンパク質は、アモサイト、およびクロシドライトに特に高い結合活性を有している。
【0063】
上記S4タンパク質は、大腸菌(Escherichia coli K12、ATCC 700926)由来のリボソームタンパク質として知られており、S4タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列、およびS4タンパク質のアミノ酸配列がDDBJにACCESSION NUMBER: U00096 (Escherichia coli str. K-12 substr. MG1655, complete genome), Protein ID: AAC76321.1として公開されている。S4タンパク質のアミノ酸配列を配列番号11に、それをコードする塩基配列を配列番号12に示した。S4タンパク質は、アモサイト、およびクロシドライトに特に高い結合活性を有している。
【0064】
なお、上記GatZタンパク質、L1タンパク質、L5タンパク質、S1タンパク質、S7タンパク質、およびS4タンパク質のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1、3、5、7、9および11に示されるアミノ酸配列のみに限定されるものではなく、配列番号1、3、5、7、9および11に示されるアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、アスベストに結合し得るタンパク質もGatZタンパク質、L1タンパク質、L5タンパク質、S1タンパク質、S7タンパク質、およびS4タンパク質に含まれる。
【0065】
ここで「1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ペプチド作製法により欠失、置換もしくは付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下)のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されることを意味する。このような変異タンパク質は、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するタンパク質に限定されるものではなく、天然に存在するタンパク質を単離精製したものであってもよい。タンパク質のアミノ酸配列中のいくつかのアミノ酸が、このタンパク質の構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該技術分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけでなく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。好ましい変異体は、保存性もしくは非保存性アミノ酸置換、欠失、または添加を有する。好ましくは、サイレント置換、添加、および欠失であり、特に好ましくは、保存性置換である。これらの置換は、タンパク質のアスベストに対する結合活性を変化させない。代表的に保存性置換と見られるのは、脂肪族アミノ酸Ala、Val、Leu、およびIleの中での1つのアミノ酸の別のアミノ酸への置換、ヒドロキシル残基SerおよびThrの交換、酸性残基AspおよびGluの交換、アミド残基AsnおよびGlnの間の置換、塩基性残基LysおよびArgの交換、ならびに芳香族残基Phe、Tyrの間の置換である。
【0066】
本発明に用いられるアスベスト結合タンパク質は、付加的なペプチドを含むものであってもよい。付加的なペプチドとしては、例えば、ポリアルギニンタグ(Arg-tag)やポリヒスチジンタグ(His-tag)やMyc、Flag等のエピトープ標識ペプチドが挙げられる。
【0067】
本発明に用いられるアスベスト結合タンパク質は、その供給源となる細胞を培養し、単離、精製することにより生産できる。また、公知の遺伝子工学的手法により組み換え発現ベクター構築し、これを適当な宿主細胞に導入して組み換えタンパク質として発現させることにより生産できる。
【0068】
(2−2.アスベスト検出剤)
本発明にかかるアスベスト検出剤は上記アスベスト結合タンパク質と、標識物質とが結合されてなることを特徴としている。上記標識物質とは、アスベスト結合タンパク質を用いてアスベストを検出する際に、アスベストに結合したタンパク質を検出するための物質のことを意味する。よって、上記標識物質はタンパク質の検出用の標識として公知の物質を適宜利用し、その物質に応じた標識方法でアスベスト結合タンパクに結合させればよい。現在タンパク質を標識するためのキットが市販されている。本発明のアスベスト検出剤はアスベスト結合タンパク質を市販のキットを用いて標識することによって製造され得る。
【0069】
上記標識物質としては、上記目的を達成し得る物質であれば特に限定されるものではないが、例えば蛍光物質、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータガラクトシダーゼ、ジアホラーゼ、およびパーオキシダーゼなどが挙げられる。なお本発明にかかるアスベスト検出剤は、少なくとも1種類以上の標識物質とアスベスト結合タンパク質とが結合されてなるものであればよく、複数種類の標識物質とアスベスト結合タンパク質とが結合してなるものであってもよい。複数種類の標識物質がアスベスト結合タンパク質に結合していることで、アスベストを検出する状況に適した検出方法を選択してアスベスト結合タンパク質を検出することができる。
【0070】
上記蛍光物質とは、特に非タンパク質の低分子の蛍光化合物を意味する。本発明において蛍光物質は特に限定されるものではないが、例えば、Cy3、Cy5、フルオレセインおよびその誘導体等があげられる。またフルオレセインの誘導体としては、フルオレセイン―4―イソチオシアネート(FITC)、フルオロセイン−5−マイレイミド等が挙げられる。蛍光物質で標識したアスベスト結合タンパク質をアスベスト検出剤として利用することによって、蛍光顕微鏡を用いて簡単にアスベストを検出することが可能となる。後述するタンパク質系の標識物質を用いる場合、結合させるアスベスト結合タンパク質によっては標識されたアスベスト結合タンパク質が不溶性になってしまう場合がある。これはおそらく分子量が大きくなりすぎることがその原因の一つに考えられる。この場合には、分子量の比較的小さい蛍光物質による標識が有効である。
【0071】
また、標識物質の内、タンパク質系の物質としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)をはじめとする蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータガラクトシダーゼ、ジアホラーゼ、パーオキシダーゼをはじめとする酵素などを挙げることができる。なお上記タンパク質の由来は特に限定されない。蛍光タンパク質はそれが存在することで蛍光を示すために、蛍光顕微鏡観察で簡単にアスベストを検出することができる。またルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータガラクトシダーゼ、ジアホラーゼ、パーオキシダーゼなどの酵素は、その作用によって発光基質が発光することを利用してアスベストを検出することができる。例えばルシフェラーゼを用いた場合は、基質であるルシフェリンとATPとを検出系に添加し、化学発光量をルミノメーターなどで測定すればよい。また、アルカリホスファターゼ、ベータガラクトシダーゼ、ジアホラーゼ、パーオキシダーゼなどの酵素を用いた場合は、蛍光基質や発色基質を用いて蛍光量または発色量を蛍光光度計や分光光度計を用いて測定すればよい。発色基質を用いた場合には、目視による検出も可能である。
【0072】
アスベスト結合タンパク質をタンパク質系の標識物質で標識する場合、アスベスト結合タンパク質に蛍光物質を、化学結合を利用して標識してもよいし、公知の遺伝子工学的手法を用いることによりタンパク質系の標識物質とアスベスト結合タンパク質との融合タンパク質を組み換えタンパク質として発現させてもよい。後者の場合、アスベスト結合タンパク質をコードする遺伝子と標識物質をコードする遺伝子とを人工的に連結した融合遺伝子(ハイブリッド遺伝子)を作製し、当該融合遺伝子を、発現ベクターのプロモーターの下流に挿入し、大腸菌などの宿主細胞に導入して発現させる方法が適用され得る。
【0073】
なお、アスベストの検出感度を向上させるためには、標識物質の蛍光または発光にかかる活性が高く、安定性の高い物質が好ましい。アスベストの検出感度を向上させることで少ないサンプル量であってもアスベストの検出を行うことができるとともに、試料中に極微量に含まれるアスベストであっても検出することができる。例えば、発明者は大腸菌由来のアルカリホスファターゼ(BAP)の代わりに子牛由来アルカリホスファターゼ(CIP)を用いてアスベスト結合タンパク質(特許文献1に記載されているDksA)を標識したところ、検出感度を約100倍向上させることに成功した。この結果を見た当業者は、大腸菌由来のアルカリホスファターゼ(BAP)の代わりに子牛由来アルカリホスファターゼ(CIP)を用いて、DksA以外のアスベスト結合タンパク質を標識することによっても検出感度を向上させ得るということを理解する。
【0074】
<3.本発明のアスベストの検出方法>
本発明にかかるアスベストの検出方法は、
アスベスト結合タンパク質と、被検物とを接触させる接触工程;
および接触工程後において被検物と結合したアスベスト結合タンパク質を検出する検出工程を含むことを特徴としている。上記アスベスト結合タンパク質はアスベスト検出剤と置換可能である。本発明にかかるアスベストの検出方法に利用可能なアスベスト結合タンパク質およびアスベスト検出剤については「2.本発明のアスベスト結合タンパク質およびアスベスト検出剤」の項で説明したとおりである。なお、本発明にかかるアスベストの検出方法は、上記の工程以外の工程が含まれていてもよい。例えば、上記接触工程の前に、測定環境中の空気をフィルターでろ過して被検物を捕集する捕集工程が含まれていてもよい。
【0075】
(3−1.接触工程)
「接触工程」はアスベスト結合タンパク質と、被検物とを接触させる工程である。上記「被検物」は、アスベストが含まれているかどうかを検出する対象物を意味する。被検物としては、モルタル、ロックウールなどの建材、蛇紋石などの鉱石、アスベストを検出しようとする環境中の空気や水などをサンプリングしたもの、アスベストを含み得る喀痰などの生体試料、などが挙げられる。アスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)と被検物との接触させる方法は特に限定されるものではないが、両者を効率よく接触させることができるために液体中で接触させることが好ましい。この場合、アスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)を含む溶液に被検物を添加しそれを十分に混和してもよいし、逆に被検物を含む懸濁液にアスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)を添加しそれを十分に混和してもよい。またアスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)を含む溶液と被検物を含む懸濁液とを混合し、それを十分に混和してもよい。なおアスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)と被検物とを含む液体を混和する条件はについては、両者がよく混和する条件であれば特に限定されるものではなく、適宜検討の上、好ましい条件を採用すればよい。
【0076】
アスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)と被検物とを含む液体中に含まれる被検物の量は特に限定さるものではないが、被検物の量が液量に対して過剰すぎると液体の混和が困難になるため、被検物とアスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)とを含む液体が十分混和され得る程度の被検物が液体に含まれていることが好ましい。
【0077】
本接触工程において、アスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)と被検物とを酸性溶液中で接触させることによって、アスベストとアスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)との結合の特異性を向上させるとことができるということを本発明者らは見出した。上記酸性溶液は、溶液のpHが酸性(好ましくはpH2〜4)であれば、その組成および濃度は特に限定されるものではない。後述する実施例においては、25mM Citrate-NaOH (pH3.5)、50mM NaCl、0.02%CHAPSの組成の酸性溶液を用いて接触工程を行い、アスベストとアスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)との結合の特異性を向上させ得ることを確かめた。
【0078】
なお、本接触工程において、アスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)と被検物とを液体中で接触させる場合、非特異的な結合を回避すべく、当該液体に界面活性剤(Tween20(登録商標)、Triton X-100等)が含まれていてもよい。
【0079】
(3−2.検出工程)
「検出工程」は接触工程後において被検物と結合したアスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)を検出する工程である。本工程では、アスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)に接触させた被検物を回収する(「回収操作」)。そして回収された被検物に対して所定の操作を行うことによって被検物と結合したアスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)を検出する(「検出操作」)。検出操作によって被検物においてアスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)が検出されれば、被検物中にアスベストが存在していると判断できる。
【0080】
ここで上記回収操作は、例えば接触工程後のアスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)と被検物とを含む液体を被検物が沈澱し得る回転数で遠心分離し、被検物を回収することにより実施され得る。また、本回収操作は接触工程後のアスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)と被検物とを含む液体を適当なポアサイズのフィルターを用いてろ過し、被検物をろ別することによっても実施され得る。なお、回収された被検物を適当な洗浄液に懸濁しよく混和した後、当該洗浄液を再度上記遠心分離またはろ過に供することによって被検物を回収することが好ましい(「洗浄操作」)。被検物に非特異的に結合していたアスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)を除去することができ、より正確なアスベストの検出を行うことができるからである。上記洗浄液としては、上記目的を達成し得るものであれば特に限定されるものではなく、水、緩衝液等が利用可能である。また洗浄液には界面活性剤が含まれていることが好ましい。非特異的に結合しているアスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)を除去しやすくする効果が得られるからである。なお、後述する実施例においては、0.1Mまたは1M塩化ナトリウム、および0.5%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(商品名:Tween20(登録商標))を含有する25mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5またはpH8.0)を洗浄液として用いている。なお上記洗浄操作は複数回行われてもよい。
【0081】
また本検出工程において、上記回収操作によって得られた、被検物とアスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)とが結合したもの(「被検物とアスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)」との結合体)からアスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)を溶出し(「溶出工程」)、当該アスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)を検出してもよい。また所定の条件で処理することによって、例えば、被検物とアスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)との結合体からクリソタイルのみ、アモサイトのみ、またはクロシドライトのみ、トレモライトのみ、アンソフィライトのみ、アクチノライトのみ、あるいはこれらの任意の組み合わせに結合したアスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)を溶出してもよい。上記所定の条件については、アスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)の種類とアスベストの種類との組み合わせに応じて好適な条件を検討の上、採用すればよい。
【0082】
上記検出工程において、0.3M以上の2価の金属イオンを含む溶液を用いることによって、被検物とアスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)との結合体から、クリソタイル、アモサイト、クロシドライト、トレモライト、アンソフィライト、およびアクチノライトからなる群から選択される1つ以上のアスベストに結合したアスベスト結合タンパク質を溶出させることができることを本発明者は見出した。上記溶液は、0.3M以上の2価の金属イオン(たとえば、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、等)を含む溶液であればその組成は特に限定されるものではない。例えば、後述する実施例において、アスベスト結合タンパク質(アスベスト結合剤)としてGatZタンパク質およびL5タンパク質を用いた場合に、0.3〜2.0M MgCl2溶液、または1.0M CaCl2溶液を用いることによって、被検物とアスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)との結合体からクリソタイル、またはクロシドライトに結合したタンパク質を溶出させ得ることを示した。なお、上記溶液は0.3M以上の2価の金属イオン(たとえば、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、等)を含む溶液は、GatZタンパク質を用いた場合に限定されるものではなく、L1タンパク質、S1タンパク質、S4タンパク質、およびS7タンパク質を用いた場合においても利用可能であるということを、本明細書の記載を見た当業者は理解する。またの本発明のアスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)を用いた場合にも限定されずアスベストとアスベスト結合タンパク質との結合体からアスベストベスト結合タンパク質を溶出するための組成物として広く利用可能であるということを、本明細書の記載を見た当業者は理解する。よって本発明はアスベストとアスベスト結合タンパク質(本発明のアスベスト結合タンパク質以外も含む)との結合体からアスベストベスト結合タンパク質を溶出する方法をも包含する。
【0083】
また上記検出工程において、アルカリ性溶液を用いることによって、被検物とアスベスト結合タンパク質との結合体から、クリソタイルを除くアスベスト、すなわち角閃石系アスベスト(クロシドライト、アモサイト、トレモライト、アンソフィライト、アクチノライト)のみを溶出し得ることを本発明者らは見出した。上記アルカリ性溶液は、溶液のpHがアルカリ性(好ましくはpH9.5以上、さらに好ましくはpH12以上)であれば、その組成および濃度は特に限定されるものではない。本発明者は、アスベスト結合タンパク質(アスベスト結合剤)としてGatZタンパク質を用いた場合に、Glycine-NaOH緩衝液(pH9.5)またはピペリジン−NaOH緩衝液(pH12)を用いることによって、被検物とアスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)との結合体から角閃石系アスベストに結合したタンパク質のみを溶出させることができることを後述する実施例において示した。
【0084】
検出工程における検出操作は、アスベスト結合タンパク質を公知の方法を用いて検出すればよい。例えば、用いたアスベスト結合タンパク質に特異的に結合する抗体を用いて免疫化学的に検出することができる。具体的にはELISA法、RIA法、ウエスタンブロット法などを利用して検出することができる。上記アスベスト結合タンパク質に特異的に結合する抗体における用語「抗体」は、免疫グロブリン(IgA、IgD、IgE、IgY、IgG、IgMおよびこれらのFabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fcフラグメント)を意味し、例としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体、抗イディオタイプ抗体およびヒト化抗体等が挙げられるがこれらに限定されない。上記「抗体」は、種々の公知の方法(例えば、HarLowら、「Antibodies:A laboratory manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York(1988)」、岩崎ら、「単クローン抗体 ハイブリドーマとELISA、講談社(1991)」)に従えば作製することができる。またペプチド抗体は、当該分野に周知の方法によって作製される(例えば、Chow,M.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:910−914;およびBittle,F.J.ら、J.Gen.Virol.66:2347−2354(1985)を参照のこと)。一般には、動物は遊離ペプチドで免疫化され得る。しかし、抗ペプチド抗体力価はペプチドを高分子キャリア(例えば、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)または破傷風トキソイド)にカップリングすることにより追加免疫され得る。例えば、システインを含有するペプチドは、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)のようなリンカーを使用してキャリアにカップリングされ得、一方、他のペプチドは、グルタルアルデヒドのようなより一般的な連結剤を使用してキャリアにカップリングされ得る。ウサギ、ラット、およびマウスのような動物は、遊離またはキャリア−カップリングペプチドのいずれかで、例えば、約100μgのペプチドまたはキャリアタンパク質およびFreundのアジュバントを含むエマルジョンの腹腔内および/または皮内注射により免疫化される。
【0085】
また本発明のアスベストの検出方法において、アスベスト検出剤を用いた場合にはそれが有する標識物質を検出することにより、アスベストを検出することができる。上記標識物質として蛍光物質(Cy3、Cy5、フルオレセインおよびその誘導体(フルオレセイン―4―イソチオシアネート(FITC))等)や、緑色蛍光タンパク質(GFP)をはじめとする蛍光タンパク質を用いた場合、標識物質が発する蛍光シグナルを蛍光顕微鏡等にて検出することによって、アスベストを簡便に検出することができる。また標識物質としてルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータガラクトシダーゼ、ジアホラーゼ、パーオキシダーゼをはじめとする酵素などを用いた場合は、その作用によって発光基質が発光することを利用してアスベストを検出することができる。例えばルシフェラーゼを用いた場合は、基質であるルシフェリンとATPとを検出系に添加し、化学発光量を、ルミノメーターなどを用いて測定しアスベストを検出すればよい。また、アルカリホスファターゼ、ベータガラクトシダーゼ、ジアホラーゼ、パーオキシダーゼなどの酵素を用いた場合は、蛍光基質や発色基質を用いて蛍光量または発色量を蛍光光度計や分光光度計を用いて測定しアスベストを検出すればよく、特に発色基質を用いた場合には目視によるアスベスト検出検出が可能である。
【0086】
検出工程においてファイルターの下から光を照射する装置ではなく、フィルター上から光を照射しその発光を上から検出できる装置(例えばATPアナライザ(東亜ディーケーケー社)等)を用いることによって、従来のようにサンプリングに用いたフィルターを無色化(透明化)することなくアスベスト検出を行うことができる。よって上記態様によれば、より簡便にアスベストを検出することができる。
【0087】
本発明の検出工程において、上記フィルターは無色化(透明化)されもよい。例えば、蛍光標識されたアスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)とアスベストとの結合体をフィルター上で観察する場合、無色化(透明化)しなければ蛍光顕微鏡でしか観察できないのに対して、フィルターを無色化(透明化)することで位相差顕微鏡による観察と蛍光顕微鏡による観察との両方を行うことができるようになるというメリットを享受できる。そうすることで、位相差観察で被検体(アスベスト以外の物質が含まれている)を全て検出するとともに、傾向顕微鏡でアスベストのみを検出することができるため、アスベスト以外を含む試料中のアスベストを簡単に特定することができる。フィルターの無色化(透明化)の方法は、特に限定されるものではないが、例えばセルロースアセテート膜の場合はアセトン蒸気を噴霧することによって無色化(透明化)することができる。その他、スライドガラスに適量塗布しておいた50(w/v)%のシュウ酸ジエチルと50%(w/v)のフタル酸ジエチルとの混合溶液上に、フィルターを置くことによってもフィルターを無色化(透明化)することができる。
【0088】
本発明にかかるアスベストの検出方法の一実施形態は下記のとおりである。なお本発明はこれに限定されるものではない。アスベスト粉塵を含み得る空気をフィルターでろ過し、あるいはアスベストを含み得る喀痰などの生体試料をフィルターでろ過し、フィルター上に回収された粉塵等を適当な緩衝液に溶解(懸濁)する。また、喀痰などの生体試料の場合、燃焼により有機物を除去した後、緩衝液に溶解(懸濁)することも可能である。また、アスベストを含み得る建材等をそのまま試料として用いてもよい。
【0089】
このように調製した試料に、例えばアスベスト結合タンパク質とアルカリホスファターゼとの融合タンパク質溶液を添加し、遠心分離等により融合タンパク質が結合したアスベストを回収し、発色基質(BCIP(5-bromo-4-chloro-3-indolyl-phosphate)およびNBT(nitro blue tetrazolium))を添加して、発色の程度を目視または吸光度測定によりアスベストを検出することができる。また、ろ過後のフィルターに直接上記発色基質を添加すれば、フィルター上の発色の有無を目視することによってアスベストの検出が可能となる。
【0090】
なお、本発明にかかるアスベストの検出方法において使用されるアスベスト結合タンパク質またはアスベスト検出剤は、1種類に限られず、GatZタンパク質、L1タンパク質、L5タンパク質、S1タンパク質、S4タンパク質、およびS7タンパク質からなる群から選択される1つ以上のアスベスト結合タンパク質またはアスベスト検出剤を組み合わせて使用されてもよい。さらに特許文献1に記載されている公知のアスベスト結合タンパク質(例えばDksA等)を、上記アスベスト結合タンパク質またはアスベスト検出剤と組み合わせて使用してもよい。
【0091】
<4.本発明のアスベスト結合タンパク質のその他の利用>
(4−1.アスベスト検出キット)
本発明にかかるアスベスト結合タンパク質(または本発明にかかるアスベスト検出剤)によって、アスベストを検出するためのキット(「アスベスト検出キット」という)を構成することができる。上記アスベスト検出キットには少なくとも上記アスベスト結合タンパク質およびアスベスト検出剤のいずれか1つ以上が含まれていればよいが、その他の構成が含まれていてもよい。例えば、アスベスト結合タンパク質またはアスベスト検出剤を検出するための試薬(「検出試薬」という)、サンプリングのためのフィルター、試料を懸濁するための溶液、洗浄操作に用いられる洗浄液、被検物とアスベスト結合タンパク質(アスベスト検出剤)との結合体からアスベスト結合タンパク質を溶出させるための溶液(例えば上述のMgClなど)等が挙げられる。検出試薬としては、例えばアスベスト結合タンパク質と特異的に結合する抗体や、アスベスト検出剤に結合している標識物質を検出し得る試薬(例えば発光基質、蛍光基質、ATP等)などが挙げられる。本発明にかかるアスベスト検出キットは、本発明のアスベストの検出方法を実施するための構成がキット化されたものであり、その具体的な構成に関する説明は上述の「3.本発明のアスベストの検出方法」の項を参照することができる。
【0092】
上記の他、本発明にかかるアスベスト検出キットには、特定の材料を内包する容器(例えば、ボトル、プレート、チューブ、ディッシュなど)を備えられていてもよく、また好ましくは当該材料を使用するための使用説明書を備えられていてもよい。上記使用説明書は、紙またはその他の媒体に書かれていても印刷されていてもよく、あるいは磁気テープ、コンピューター読み取り可能ディスクまたはテープ、CD-ROMなどのような電子媒体に記録されてもよい。
【0093】
(4−2.アスベストの精製方法およびアスベストの除去方法)
上述のとおり、本発明にかかるアスベスト結合タンパク質のスクリ−ニング方法によれば、クリソタイルのみに結合するタンパク質、アモサイトのみに結合するタンパク質、クロシドライトのみに結合するタンパク質、トレモライトのみに結合するタンパク質、アンソフィライトのみに結合するタンパク質、アクチノライトのみに結合するタンパク質、並びに、クロシドライ、アモサイト、クリソタイル、トレモライト、アンソフィライト、およびアクチノライトからなる群から選択される1つ以上のアスベストに結合するタンパク質を取得することができる。また、本発明にかかるアスベスト結合タンパク質のスクリーニング方法によれば、クロシドライ、アモサイト、およびクリソタイルの全てに結合するタンパク質、クリソタイルとアモサイトとに結合しクロシドライトに結合しないタンパク質、クリソタイルとクロシドライトとに結合しアモサイトに結合しないタンパク質、クロシドライとアモサイトとに結合しクリソタイルに結合しないタンパク質も取得することができる。
【0094】
上記それぞれのアスベスト結合タンパク質の性質を利用することによって、種々のアスベストを含む試料の中から所望のアスベストのみを精製することができる。精製の方法は、種々のアスベストが含まれている試料を、不要なアスベストのみに結合するアスベスト結合タンパク質を用いて不要なアスベストを除去する方法であってもよいし、逆に所望のアスベストのみに結合するアスベスト結合タンパク質を用いて所望のアスベストを吸着し、それを所定の処理によって溶出させる方法であってもよい。
【0095】
一方、上記それぞれのアスベスト結合タンパク質の性質を利用することによって、アスベストが含まれていることが好ましくない試料から、アスベストを除去することができる。アスベストが含まれている試料と、アスベスト結合タンパク質とを接触させることによってアスベストを試料から除去すればよい。また必要に応じて所定のアスベストのみを試料から除去することができる。
【0096】
なお、本発明は、以下の発明をも包含する。
【0097】
本発明にかかるアスベスト結合タンパク質のスクリーニング方法は、
タンパク質を含む試料溶液とロックウールとを接触させる第1接触工程;
第1接触工程後の試料溶液からロックウールと結合したタンパク質を除去する除去工程;
除去工程後の試料溶液とアスベストとを接触させる第2接触工程;
および第2接触工程後の試料溶液からアスベストと結合したタンパク質を単離する単離工程を含むことを特徴としている。
【0098】
また本発明にかかるアスベスト結合タンパク質のスクリーニング方法は、上記アスベストが、クリソタイル、アモサイト、クロシドライト、トレモライト、アンソフィライト、およびアクチノライトからなる群から選択される1つ以上であってもよい。
【0099】
また本発明にかかるアスベスト結合タンパク質のスクリーニング方法は、上記タンパク質を含む試料溶液が細胞破砕液であってもよい。
【0100】
また本発明は、上記本発明にかかるアスベスト結合タンパク質のスクリーニング方法によって得られたアスベスト結合タンパク質をも包含する。
【0101】
また本発明は、上記本発明にかかるアスベスト結合タンパク質のスクリーニング方法によって得られたアスベスト結合タンパク質と、標識物質とが結合されてなることを特徴とするアスベスト検出剤をも包含する。
【0102】
また本発明にかかるアスベスト結合剤において、上記アスベスト結合タンパク質は、GatZタンパク質、L1タンパク質、L5タンパク質、S1タンパク質、S4タンパク質、およびS7タンパク質からなる群から選択される1つ以上のタンパク質であってもよい。
【0103】
また本発明にかかるアスベスト結合剤において上記標識物質は、蛍光物質、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータガラクトシダーゼ、ジアホラーゼ、およびパーオキシダーゼからなる群から選択される1つ以上であってもよい。
【0104】
また本発明にかかるアスベスト結合剤において上記アルカリホスファターゼは、子牛由来アルカリホスファターゼであってもよい。
【0105】
一方、本発明にかかるアスベストの検出方法は、上記アスベスト結合タンパク質と、被検物とを接触させる接触工程;
および接触工程後において被検物と結合したアスベスト結合タンパク質を検出する検出工程を含むことを特徴としている。
【0106】
また本発明にかかるアスベストの検出方法において、上記アスベスト結合タンパク質が、GatZタンパク質、L1タンパク質、L5タンパク質、S1タンパク質、S4タンパク質、およびS7タンパク質からなる群から選択される1つ以上のタンパク質であってもよい。
【0107】
また本発明にかかるアスベストの検出方法における上記接触工程において、アスベスト結合タンパク質と被検物とを酸性溶液中で接触させてもよい。
【0108】
また本発明にかかるアスベストの検出方法における上記検出工程において、被検物とアスベスト結合タンパク質との結合体からアスベスト結合タンパク質を溶出し、当該アスベスト結合タンパク質を検出してもよい。
【0109】
また本発明にかかるアスベストの検出方法における上記検出工程において、被検物とアスベスト結合タンパク質との結合体からクリソタイル、アモサイト、クロシドライト、トレモライト、アンソフィライト、およびアクチノライトからなる群から選択される1つ以上のアスベストに結合したアスベスト結合タンパク質を、0.3M以上の2価の金属イオンを含む溶液を用いて溶出し、当該アスベスト結合タンパク質を検出してもよい。
【0110】
また本発明にかかるアスベストの検出方法における上記検出工程において、被検物とアスベスト結合タンパク質との結合体から、アモサイト、クロシドライト、トレモライト、アンソフィライト、およびアクチノライトからなる群から選択される1つ以上のアスベストに結合したアスベスト結合タンパク質を、アルカリ性溶液を用いて溶出し、当該アスベスト結合タンパク質を検出してもよい。
【0111】
また本発明にかかるアスベストの検出方法は、上記接触工程の前に、フィルターで被検物を捕集する捕集工程をさらに含み、
上記検出工程において、上記フィルターを透明化し、フィルター上に存在するアスベスト結合タンパク質と結合した被検物を観察することを特徴とするアスベストの検出方法であってもよい。
【0112】
また本発明にかかるアスベストの検出方法は、上記アスベスト検出剤と、被検物とを接触させる接触工程;
および接触工程後の試料溶液に含まれる被検物と結合したアスベスト結合タンパク質を検出する検出工程を含むことを特徴とする方法であってもよい。
【0113】
また本発明にかかるアスベストの検出方法は、上記接触工程において、アスベスト検出剤と被検物とを酸性溶液中で接触させてもよい。
【0114】
また本発明にかかるアスベストの検出方法は、上記検出工程において、被検物とアスベスト検出剤との結合体からアスベスト検出剤を溶出し、当該アスベスト検出剤を検出する方法であってもよい。
【0115】
また本発明にかかるアスベストの検出方法は、上記検出工程において、被検物とアスベスト検出剤との結合体からクリソタイル、アモサイト、クロシドライト、トレモライト、アンソフィライト、およびアクチノライトからなる群から選択される1つ以上のアスベストに結合したアスベスト検出剤を溶出し、当該アスベスト検出剤を検出する方法であってもよい。
【0116】
また本発明にかかるアスベストの検出方法は、上記検出工程において、被検物とアスベスト検出剤との結合体から、クリソタイル、アモサイト、クロシドライト、トレモライト、アンソフィライト、およびアクチノライトからなる群から選択される1つ以上のアスベストに結合したアスベスト結合タンパク質を、0.3M以上の2価の金属イオンを含む溶液を用いて溶出し、当該アスベスト検出剤を検出する方法であってもよい。
【0117】
また本発明にかかるアスベストの検出方法は、上記検出工程において、被検物とアスベスト検出剤との結合体から、アモサイト、クロシドライト、トレモライト、アンソフィライト、およびアクチノライトからなる群から選択される1つ以上のアスベストに結合したアスベスト結合タンパク質を、アルカリ性溶液を用いて溶出し、当該アスベスト検出剤を検出する方法であってもよい。
【0118】
また本発明にかかるアスベストの検出方法は、上記接触工程の前に、フィルターで被検物を捕集する捕集工程をさらに含み、
上記検出工程において、上記フィルターを透明化し、フィルター上に存在するアスベスト検出剤と結合した被検物を観察することを特徴とするアスベストの検出方法であってもよい。
【0119】
一方、本発明にかかるアスベスト検出キットは、上記アスベスト結合タンパク質を含むことを特徴としている。
【0120】
また、本発明にかかるアスベスト検出キットは、上記アスベスト検出剤を含むことを特徴とするものであってもよい。
【0121】
一方、本発明は、0.3M以上の2価の金属イオンが含まれることを特徴とする、アスベストとアスベスト結合タンパク質との結合体からアスベストベスト結合タンパク質を溶出するための組成物をも包含する。
【0122】
さらに上記組成物を用いることを特徴とする、アスベストとアスベスト結合タンパク質との結合体からアスベストベスト結合タンパク質を溶出する方法も本発明に含まれる。
【実施例】
【0123】
以下に、実施例および参考例に基づいて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また実験の諸条件は、特記しない限り実験に使用した試薬に添付されている説明書に記載されている標準の条件で行った。クリソタイル、アモサイト、クロシドライトは社団法人 日本作業環境測定協会から購入した。その他、各種試薬については、特記しない限り和光純薬株式会社製、またはシグマ社製の最高のグレードものを使用した。
【0124】
〔参考例1:BAPとCIPとのアルカリホスファターゼ活性比較〕
アスベスト結合タンパク質によるアスベスト検出の検出感度を向上させるべく、まず大腸菌由来アルカリホスファターゼ(以下「BAP」)と、子牛由来アルカリホスファターゼ(以下「CIP」)とのアルカリホスファターゼ活性を比較した。
【0125】
(方法)
BAP(東洋紡社製)およびCIP(東洋紡社製)を希釈していき検出限界の酵素量を求め、検出限界の酵素量が低いものほどアルカリホスファターゼ酵素活性が高いと評価した。また同時にBAPで標識されたDksA(特許文献1参照)も同時に実験を行った。BAPで標識されたDksAを「DksA−BAP」と表記する。
【0126】
それぞれの試料を10μg/mlに調製し、それを10分の1ずつ希釈して希釈系列を作製した。作製した酵素希釈液10μlと発光基質Immobilon western(ミリポア社)90μlとを混合し、室温で5分間反応後、発光検出器(Wallac社製 ARVO SX1420マルチラベルカウンター)にて発光強度を測定した(測定時間1秒)。
【0127】
(結果)
その結果を図1に示す。アルカリホスファターゼ活性が最も高かったものは、CIPであり、その検出限界の酵素量は10fg(10-14g)であった。次いで、BAPであり、その検出限界の酵素量は1pg(10-12g)であった。DksA−BAPの検出限界の酵素量は、10pg(10-11g)であった。すなわちDksA−BAPは、BAPよりアルカリホスファターゼ活性が10分の1程度であり、DksAと融合することにより活性が低下していると考えられる。
【0128】
一方CIPは、DksA−BAPに比べて1000倍もアルカリホスファターゼ活性が高く、DksAをCIPと融合させたDksA-CIPを作製することができれば、DksA−BAPよりも100〜1000倍高い検出感度を得ることができると予想された。そこで、次にCIPで標識されたDksA(「DksA−CIP」)の作製を行うことにした。
【0129】
〔参考例2:DksA−CIPの作製〕
DksA−CIPを作製するために、Alkaline Phosphatase Labeling Kit-NH2 (同仁化学研究所)を用いた。このキットは、N-hydroxysuccinimide(NHS)活性化エステル基を用いることで、目的タンパク質をCIPで標識することができる。このキットを用いてDksAにCIPを結合させDksA−CIPを作製した。この方法で作製したDksA−CIPはNH基を介して結合しているため、特に「DksA−NH−CIP」と表記する。
【0130】
また、DksAをCIPで標識する別の方法として、ビオチン−ストレプトアビジン結合を利用した方法も実施した。ビオチンとストレプトアビジンとの結合は非常に強く、さらに両者を混合するだけ結合するので非常に簡便である。まず、ビオチンタグのついたプラスミドPinPointTM Vector(Promega社製)に、DksAをクローニングすることによって、ビオチン化したDksAを作製した。市販されているストレプトアビジン化されたCIP(テクノケミカル社製)と、ビオチン化DksAとを水溶液中で結合させDksA−CIPを作製した。この方法で作製したDksA−CIPはビオチン−ストレプトアビジンの相互作用を介して結合しているため、特に「DksA−SA−CIP」と表記する。
【0131】
〔参考例3:DksA−CIPによるクリソタイルの検出〕
参考例2で作製したDksA−NH−CIPとDksA−SA−CIPとについてクリソタイルの検出感度について評価を行った。
【0132】
(方法)
チューブ内であらかじめクリソタイルとDksA−CIP(DksA−NH−CIPまたはDksA−SA−CIP)とを結合させ、その後は参考例1の方法と同様にして検出限界濃度を調べた。具体的には以下のようにした。
【0133】
シリコナイズチューブ(シリコンで表面処理されたチューブ)に、クリソタイル(入手先:社団法人 日本作業環境測定協会)100μgとDksA−CIP(DksA−NH−CIPまたはDksA−SA−CIP)を1mlのTris緩衝液[25mM Tris-HCl(pH7.5)、300mM NaCl、 0.5% Tween20(登録商標)]の中で結合させた。Tris緩衝液で3回洗浄を行った後、再びTris緩衝液1mlに再懸濁した。その懸濁溶液を10分の1ずつ希釈し希釈系列を作製した。発光基質Immobilon western(ミリポア社)90μlとを混合し、室温で5分間反応後、発光検出器(Wallac社製 ARVO SX1420マルチラベルカウンター)にて発光強度を測定した(測定時間1秒)。
【0134】
(結果)
その結果を図2に示す。DksA−NH−CIPを用いることで10pg(10-11g)のクリソタイルを検出することができた。DksA−SA−CIPも、DksA−NH−CIPと同等の10pg(10-11g)のクリソタイルを検出することができた。これに対して、DksA−BAPを用いた場合、検出できるクリソタイルは1ng(10-9g)であった。
【0135】
したがって、DksAの標識物質をBAPからCIPに変更することによってクリソタイルの検出感度を100倍上昇させることができるということがわかった。これはCIPの高いアルカリホスファターゼ活性に起因する効果であるため、DksA以外のアスベスト結合タンパク質に対しても同様の効果が期待できる。
【0136】
〔参考例4:DksA−CIPによるフィルター上のクリソタイル検出〕
DksA−CIPを用いて、フィルター上のクリソタイル検出を行った場合の検出感度を検討した。
【0137】
(方法)
フィルター上の発光を検出できる装置:ATPアナライザ(東亜ディーケーケー社)を用いて、フィルター上のクリソタイルの検出を行った。まず、直径25mmのメンブレンフィルター(HT-450 Tuffryn、ポール社)に各量のクリソタイルをトラップし、その上をDksA−SA−CIP溶液(DksA−SA−CIP 0.01μg/200μl Triss緩衝液)で覆い、室温で5分間結合させた。さらに、Tris緩衝液で3回洗浄したフィルターに発光基質Immobilon western(ミリポア社)を加えて室温で1分間反応後、ATPアナライザ(東亜ディーケーケー社)で発光値を測定した。
【0138】
(結果)
その結果を図3に示す。DksA−CIPおよび発光基質Immobilon western(ミリポア社)を用いることで、わずかな差であるが0.01μgのクリソタイルを検出することが可能であった。DksA−BAPおよび発光基質BCIP(5-bromo-4-chloro-3-indolyl-phosphate)およびNBT(nitro blue tetrazolium)を用いた場合のクリソタイルの検出感度は0.4〜1μgであったことから(データを省略する)、DksAの標識物質をBAPからCIPに変更することによってフィルター上のクリソタイルの検出感度を40〜100倍上昇させることができるということがわかった。
【0139】
また基質との反応時間についても、DksA−BAPおよび発光基質BCIP(5-bromo-4-chloro-3-indolyl-phosphate)およびNBT(nitro blue tetrazolium)を用いた場合は30分程度必要であったが、DksA−CIPおよび発光基質Immobilon western(ミリポア社)を用いた場合は1分で十分であり、DksA−CIPおよび発光基質Immobilon western(ミリポア社)を用いることによって、反応時間も短縮することができるということがわかった。
【0140】
今回作製したDksA‐CIPおよび発光基質Immobilon western(ミリポア社)を用いた場合、敷地境界の環境基準とみなされているアスベスト繊維濃度10本/Lを検出するのに必要な時間がどの程度か試算を行った。DksA‐CIPおよび発光基質Immobilon western(ミリポア社)を用いると、クリソタイル0.01μgを検出可能である。クリソタイル1μgは繊維10,000本に相当することから、クリソタイル0.01μgは繊維100本に相当する。このため、敷地境界の環境基準とみなされているアスベスト繊維濃度10本/Lを検出するのに必要な空気のサンプリング量は10Lである。これは10L/分の吸引力を有するポンブを用いた場合では1分間、1Lのシリンジを用いた場合では10回吸引するだけなので、サンプリング時間は非常に短い。アスベストの検出操作は、DksA−CIPとサンプルとを接触させ、洗浄する作業には15分程度かかるが、その後の発光基質と反応させる時間は1分と短い。よって、環境内のアスベスト検出におけるサンプリングから検出までにかかる時間は、30分程度であると考えられる。DksA−BAPおよび発光基質BCIP(5-bromo-4-chloro-3-indolyl-phosphate)およびNBT(nitro blue tetrazolium)を用いた場合に環境内のアスベスト検出におけるサンプリングから検出までにかかる時間は3時間であったことから、DksA−CIPおよび発光基質Immobilon western(ミリポア社)を用いた場合はアスベスト検出にかかる時間を大幅に短縮することができる。
【0141】
〔実施例1:アスベスト結合タンパク質のスクリーニング〕
クリソタイル、アモサイト、クロシドライトに結合するタンパク質を探索するとともに、アスベストの代替品として使用されているロックウールには結合しないタンパク質を探索した。
【0142】
(方法)
(1)使用菌株
大腸菌(Escherichia coli)K12(ATCC 700926)を用いた。以下、「K12株」と表記する。
【0143】
(2)細胞破砕液の調製
K12株を2×YT培地で37℃で一晩培養した培養液を、新しいLB培地に1体積%植菌し、28℃で6時間培養した。培養後の菌体を遠心分離により集菌した後、50mM Tris-HCl pH 7.5、10%(w/v)スクロースで縣濁した。菌体懸濁液を凍結融解した後、250μg/mlになるようにリゾチームを加え、30分間氷上に静置した。37℃で5分間反応後、再び氷上に10分間静置し、菌体懸濁液の粘性がなくなるまで超音波破砕(Branson,CT, USA)を行った。その後、菌体懸濁液を20,000×g、15分間遠心分離に供し、得られた上清を細胞破砕液として用いた。
【0144】
(3)アスベスト結合タンパク質の取得
得られた細胞破砕液のタンパク質濃度が1mg/mlになるようにTris緩衝液(25mM Tris-HCl pH7.5、0.5%(w/v)Tween20(登録商標)、0.1M NaCl)で希釈した。調製した溶液10mlに1gのロックウール(清水建設株式会社)を加え、4℃で30分間転倒混和した。上記溶液を遠心分離(10,000×g、3分間)に供した後、得られた上清をフィルター(ポアサイズ0.45μm、PVDFフィルター、ミリポア社)に通してロックウールを完全に除去した。
【0145】
上記で得られたフィルターを通した上清10mlに、5mgのアスベスト(クリソタイル、アモサイト、またはクロシドライト:社団法人日本作業環境測定協会から購入)を加え、4℃で30分間転倒混和した。上記上清を遠心分離(10,000×g、3分間)に供した。
【0146】
得られた沈殿(ロックウールまたはアスベスト)にTris緩衝液(25mM Tris-HCl pH7.5, 0.5% Tween20(登録商標), 0.1M NaCl )を1ml加えて懸濁し、懸濁液を遠心分離(10,000×g、3分間)に供して洗浄を行った。この洗浄操作は計3回行われた。
【0147】
洗浄後の沈殿に2×SDSサンプルバッファー(125mM Tris-HCl(pH6.8), 4%(w/v) ドデシル硫酸ナトリウム[SDS], 20%(w/v)グリセロール、0.01%(w/v)ブロモフェノールブルー, 10%(w/v)β-メルカプとエタノール)40μlを加え、沸騰水中で5分間インキュベートしタンパク質を抽出した。抽出されたタンパク質は、12.5%(w/v)ポリアクリルアミドゲルを用いたポリアクリルアミド電気泳動法(SDS−PAGE)により分離された。
【0148】
(4)アスベスト結合タンパク質の同定
ポリアクリルアミド電気泳動法により分離したタンパク質を、ポリフッ化ビニリデン膜(PVDF膜)にトランスファーした。PVDF膜をクマシーブリリアントブルー(CBB)で染色した後、目的タンパク質のバンドを切り出した。PVDF膜片を100%アセトニトリルに浸した後、100mM酢酸、0.5%(w/v)ポリビニルピロリドンK−30、1%(w/v)メチオニン溶液を含む溶液100μl中で、37℃、30分間反応させた。PVDF膜片を超純水1mlで10回洗浄後、さらに50mM 重炭酸アンモニウム、5%(v/v)アセトニトリル100μlで3回洗浄した。0.5μg/mlのトリプシン溶液(50mM 重炭酸アンモニウム、5%(v/v)アセトニトリル)20μl中で、37℃、24時間消化した。トリプシン消化物の脱塩にはZipTipC18(ミリポア社製)を使用した。脱塩方法は付属のプロトコルに従った。脱塩されたサンプルをマトリックス支援レーザーイオン化飛行時間型質量分析計(BiflexIV:ブルカーダルトニクス)を用いてマトリックス支援レーザーイオン化飛行時間型質量分析(MALDI−TOF−MS)により分析し、ペプチドマスフィンガープリント解析によりタンパク質およびそれをコードする遺伝子を同定した。同定したタンパク質のアミノ酸配列はデータベース(DDBJ)から取得した。また、同定したタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列もデータベース(DDBJ)から取得した。
【0149】
(結果)
SDS−PAGEの結果を図4に示す。図4におけるレーン1はK12株の細胞破砕液、レーン2はロックウールと結合したタンパク質、レーン3はクリソタイルと結合したタンパク質、レーン4はクロシドライトと結合したタンパク質、およびレーン5はアモサイトと結合したタンパク質の結果を示す。図4のSDS−PAGEにおいて、ロックウールに結合せずにクリソタイル、アモサイト、およびクロシドライトのいずれか一つ以上と結合すると判断されたタンパク質を同定したところ、S1タンパク質、GatZタンパク質、L1タンパク質、S4タンパク質、L5タンパク質、およびS7タンパク質が見出された。
【0150】
S1タンパク質は、大腸菌(Escherichia coli K12、ATCC 700926)由来のリボソームタンパク質として知られている。S1タンパク質は、クリソタイル、アモサイト、およびクロシドライトの全てに結合し得る。
【0151】
またGatZタンパク質は、大腸菌(Escherichia coli K12、ATCC 700926)由来のタガトース−6−フォスフェートキナーゼ(tagatose 6-phosphate kinase)として知られている。GatZタンパク質は、クリソタイル、アモサイト、およびクロシドライトの全てに結合し得る。
【0152】
またL1タンパク質は、大腸菌(Escherichia coli K12、ATCC 700926)由来のリボソームタンパク質として知られている。L1タンパク質は、アモサイト、およびクロシドライトに特に高い結合活性を有している。
【0153】
またS4タンパク質は、大腸菌(Escherichia coli K12、ATCC 700926)由来のリボソームタンパク質として知られている。S4タンパク質は、アモサイト、およびクロシドライトに特に高い結合活性を有している。
【0154】
またS7タンパク質は、大腸菌(Escherichia coli K12、ATCC 700926)由来のリボソームタンパク質として知られている。S7タンパク質は、アモサイト、およびクロシドライトに特に高い結合活性を有している。
【0155】
またL5タンパク質は、大腸菌(Escherichia coli K12、ATCC 700926)由来のリボソームタンパク質として知られている。L5タンパク質は、アモサイト、およびクロシドライトに特に高い結合活性を有している。
【0156】
〔実施例2:GatZタンパク質、およびGatZ−APの調製〕
(1)GatZタンパク質発現ベクターの構築、およびGatZタンパク質とBAPとの融合タンパク質(GatZ−AP)発現ベクターの構築
K12株のゲノムDNAを鋳型とし、オリゴヌクレオチドプライマーP1(CATCGAATTCTATGAAAACGTTAATTGCCCGG、配列番号13)およびオリゴヌクレオチドプライマーP2(AGTTGAGCTCGTTTCCGCACAGCCGTAGCGAT、配列番号14)を用いてPCRを行うことによってGatZをコードする遺伝子を増幅した。PCR反応は、KOD Plus DNAポリメラーゼ(TOYOBO社)を用い、同社のプロトコルに従って行われた。PCR増幅産物および発現ベクターpET21-b(Novagen社)を制限酵素EcoRIおよびSacIにより37℃、2時間処理した後、アガロースゲル電気泳動を行った。ゲルから切り出したそれぞれのDNA断片をLigation High(TOYOBO社)を用い、16℃、2時間ライゲーションし、大腸菌MV1184株に形質転換した。得られたコロニーから目的のDNA断片が挿入されたプラスミドを抽出し、これを「pETGatZ」と命名した。
【0157】
BAPをコードする遺伝子は、2つのオリゴヌクレオチドプライマーP3(GTTAAGCTTCGGACACCAGAAATGCCTGT、配列番号15)およびP4(GTTGCGGCCGCTTTCAGCCCCAGAGCGGCT、配列番号16)を用い、K12株のゲノムDNAを鋳型としてPCRを行うことによって取得された。PCR反応はKOD Plus DNAポリメラーゼ(TOYOBO社)を用い、同社のプロトコルに従った。PCR増幅産物およびpETGatZを制限酵素HindIIIおよびNotIにより37℃、2時間処理した後、アガロースゲル電気泳動を行った。ゲルから切り出したそれぞれのDNA断片をLigation High(TOYOBO社)により16℃、2時間ライゲーションし、大腸菌MV1184株に形質転換した。得られたコロニーから目的のDNA断片が挿入されたプラスミドを抽出し、これを「pETGatZ−AP」と命名した。
【0158】
(2)GatZタンパク質、およびGatZ−APの発現
pETGatZ−APで形質転換した大腸菌 Rosetta-gamiBTM(DE3) pLysS (Novagen社)を、2×YT培地で37℃一晩培養し、新しい2×YT培地に1%(v/v)植菌した。OD600が0.6になるまで28℃で培養後、終濃度が0.2mMになるようにIPTG(isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)を添加し16時間培養を行った。培養液を遠心分離することによって集菌した。得られた菌体ペレットに500μlの緩衝液(25mM Tris-HCl pH7.5,50mM NaCl, 10% glycerol)を加えて縣濁し、超音波により破砕を行った。得られた細胞破砕液を、Histrap FF column (GE Helthcare Bioscience, Chalfont St Giles, UK)に供し、C末端にヒスチジンタグを有するGatZ−APを当該カラムに吸着させた。Histrap FF columnに吸着したGatZ−APを、緩衝液(25mM Tris-HCl pH 7.5、0.5 M imidazole、10% glycerol)で溶出させた。取得したGatZ−APについて、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により精製度を確認したところ、95%以上であった。
【0159】
pETGatZで形質転換したRosetta BL21(DE3) pLysS (Novagen社)を2×YT培地で37℃一晩培養し、新しい2×YT培地に1%(v/v)植菌した。OD600が0.6になるまで28℃で培養後、終濃度が0.2mMになるようにIPTG(isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)を添加し4時間培養を行った。培養液を遠心分離することによって集菌した。得られた菌体ペレットに500μlの緩衝液(25mM Tris-HCl pH7.5,50mM NaCl, 10% glycerol)を加えて縣濁し、超音波により破砕を行った。得られた細胞破砕液を、Histrap FF column (GE Helthcare Bioscience, Chalfont St Giles, UK)に供し、C末端にヒスチジンタグを有するGatZタンパク質を当該カラムに吸着させた。Histrap FF columnに吸着したGatZタンパク質を、緩衝液(25mM Tris-HCl pH 7.5、0.5 M imidazole、10% glycerol)で溶出させた。さらに溶出したGatZタンパク質を、50mM NaClと10% glycerolとを含む25mM HEPES buffer (pH7.4)で平衡化したHQ anion exchange column (PerSeptive Biosystems, Cambridge, MA)に供し、GatZタンパク質を当該カラムに吸着させた。50〜500mMのNaClのグラジェント(50mM NaClと10% glycerolとを含む25mM HEPES buffer (pH7.4))を用いてHQ anion exchange columnに吸着したGatZタンパク質を溶出させた。取得したGatZタンパク質について、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により精製度を確認したところ、95%以上であった。
【0160】
〔実施例3:アスベスト結合タンパク質によるアスベストの検出〕
実施例1で同定したアスベスト結合タンパク質がアスベストにどの程度結合するかを調べた。
【0161】
(方法)
蛍光タンパク質または蛍光物質で標識されたアスベスト結合タンパク質をアスベストと接触させた後、蛍光顕微鏡で観察を行った。S1タンパク質およびL5タンパク質については、緑色蛍光タンパク質(GFP)との融合タンパク質を下記のようにして作製した。またGatZタンパク質については下記の通り、フルオレセインでラベルを行った。
【0162】
(1)S1タンパク質とGFPとの融合タンパク質(「S1−GFP」)の作製
既知のgfp遺伝子配列(ACCESSION No.U62636: cloning vector pGFPuv)に基づいて、2種のオリゴヌクレオチドプライマーP5(AGAAAAGCTTAGTAAAGGAGAAGAACTTTTCACT、配列番号17)およびP6(TCATGCGGCCGCAAGCTCATCCATGCCATGTGTA、配列番号18)を作製し、pGFPuvベクター(clontech社)を鋳型としてPCRを行った。反応はKOD Plus DNAポリメラーゼ (東洋紡社)を用い、同社のプロトコルに従って行なわれた。PCR産物および発現ベクターpET21-b(Novagen社)を、制限酵素NotIおよびHindIIIにより37℃2時間処理した後、アガロース電気泳動を行った。アガロースゲルから切り出されたそれぞれのDNA断片をLigation high(東洋紡社)により16℃2時間ライゲーションし、大腸菌MW1184株に形質転換した。得られたコロニーから目的のDNA断片が挿入されたプラスミドを抽出し、「pETGFP」と命名した。
【0163】
S1をコードする遺伝子は、K12株のゲノムDNAを鋳型とし、オリゴヌクレオチドプライマーP7(CATATGATGACTGAATCTTTTGCTCAAC、配列番号19)およびオリゴヌクレオチドプライマーP8(GGATCCAACTCGCCTTTAGCTGCTTTGAAAGC、配列番号20)を用いてPCRを行うことによって取得された。反応はKOD Plus DNAポリメラーゼ(東洋紡社)を用い、同社のプロトコルに従って行なわれた。PCR増副産物およびpETGFPを制限酵素NdeIおよびBamHIにより37℃、2時間処理した後、アガロース電気泳動を行った。アガロースゲルから切り出されたそれぞれのDNA断片をLigation high(東洋紡社)により16℃30分間ライゲーションし、大腸菌MW1184株に形質転換した。得られたコロニーから目的のDNA断片が挿入されたプラスミドを抽出し、これを「pETS1−GFP」とした。
【0164】
pETS1−GFPで形質転換した大腸菌Rosetta BL21(DE3) pLysS(Novagen社)を、2×YT培地で37℃一晩培養し、新しい2×YT培地に1%(v/v)植菌した。OD600が0.6になるまで28℃で培養後、終濃度が0.2mMになるようにIPTG(isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)を添加し、6時間培養を行った。培養液を遠心分離することによって集菌した。得られた菌体ペレットに500μlの緩衝液(25mM Tris-HCl pH7.5, 50mM NaCl, 10%glycerol)を加えて縣濁し、超音波により破砕を行った。得られた細胞破砕液を、Histrap FF column (GE Helthcare Bioscience, Chalfont St Giles, UK)に供し、C末端にヒスチジンタグを有するS1−GFPを当該カラムに吸着させた。Histrap FF columnに吸着したS1−GFPを、緩衝液(25mM Tris-HCl pH 7.5、0.5 M imidazole、10% glycerol)で溶出させた。取得したS1−GFPについて、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により精製度を確認したところ、95%以上であった。
【0165】
(2)L5タンパク質とGFPとの融合タンパク質(「L5−GFP」)の作製
L5をコードする遺伝子は、K12株のゲノムDNAを鋳型とし、オリゴヌクレオチドプライマーP9(GCTAGCATGGCGAAACTGCATGATTAC、配列番号21)およびオリゴヌクレオチドプライマーP10(AAGCTTCTTGCGGAACGGGAAGTCAAAGGCAGC、配列番号22)を用いてPCRを行うことによって取得された。反応はKOD Plus DNAポリメラーゼ(東洋紡社)を用い、同社のプロトコルに従って行なわれた。PCR増副産物およびpETGFPを制限酵素NheIおよびHindIIIにより37℃、2時間処理した後、アガロース電気泳動を行った。ゲルから切り出したそれぞれのDNA断片をLigation high(東洋紡社)により16℃30分ライゲーションし、大腸菌MW1184株に形質転換した。得られたコロニーから目的のDNA断片が挿入されたプラスミドを抽出し、これを「pETL5−GFP」とした。
【0166】
pETL5−GFPで形質転換した大腸菌Rosetta BL21(DE3) pLysS (Novagen社)を、2×YT培地で37℃一晩培養し、新しい2×YT培地に1%(v/v)植菌した。OD600が0.6になるまで28℃で培養後、終濃度が0.2mMになるようにIPTG(isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)を添加し6時間培養を行った。培養液を遠心分離することによって集菌した。得られた菌体ペレットに500μlの緩衝液(25mM Tris-HCl pH7.5, 50mM NaCl, 10%glycerol)を加えて縣濁し、超音波により破砕を行った。得られた細胞破砕液を、Histrap FF column (GE Helthcare Bioscience, Chalfont St Giles, UK)に供し、C末端にヒスチジンタグを有するL5−GFPを当該カラムに吸着させた。Histrap FF columnに吸着したL5−GFPを、緩衝液(25mM Tris-HCl pH 7.5、0.5 M imidazole、10% glycerol)で溶出させた。取得したL5−GFPについて、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により精製度を確認したところ、95%以上であった。
【0167】
(3)フルオレセイン標識GatZタンパク質(「GatZ−Fluoresein」)の作製
GatZタンパク質をフルオレセインで標識をした。22nmolのGatZタンパク質を200μlの50mM NaClおよび10%(w/v)グリセロールを含む25mM HEPES緩衝液(pH7.4)に溶解した。10μlの25mg/ml フルオレセイン-5-マレイミド/ジメチルホルミアミドを前記溶液に添加後、暗所、室温で2時間静置した。前記反応後の溶液はゲルろ過にて未結合のフルオレセインを除去することによって精製された。色素(495nmにおけるフルオレセインのモル吸光係数:68,000 M-1cm-1)のモル濃度、およびGatZタンパク質タンパク質のモル濃度(280nmにおけるGatZタンパク質のモル吸光係数:52,630M-1cm-1)それぞれを求め、GatZタンパク質に対する標識効率を見積もった。そしてフルオレセインによるGatZタンパク質の標識度を計算した。上記条件で標識を行った結果、GatZタンパク質1molに対して1.8molのフルオレセインが結合していた。
【0168】
(4)アスベスト結合タンパク質によるアスベストの検出
蛍光タンパク質または蛍光物質で標識されたタンパク質(S1−GFP、L5−GFP、またはGatZ−fluorescein)0.5μgを100μlの緩衝液(25mM Tris-HCl (pH 7.5)、0.5M NaCl、0.1% CHAPS)に溶解した溶液に、10μgのアスベスト(クリソタイル、アモサイト、クロシドライト、アクチノライト、アンソフィライト、またはトレモライト)またはロックウールを添加し混合した。室温で10分間インキュベートした後、3μlの溶液をスライドガラス(MATSUNAMI製、MICRO SLIDE GLASS 白縁磨 1mm厚)にスポットして蛍光顕微鏡(落射蛍光顕微鏡BX-60、オリンパス社製)および位相差顕微鏡で観察を行った。蛍光観察にはU-MNIBAキューブ(ダイクロイックミラー:DM505、励起フィルター:BP470-490、吸収フィルター:BA515IF)を用い、画像の取り込みには顕微鏡デジタルカメラDP70(OLYMPUS)を使用した。
【0169】
(結果)
その結果を図5にクロシドライトを検出した結果を示す。S1−GFP、L5−GFP、およびGatZ−fluoresceinのいずれを用いた場合であっても、クロシドライトを検出することが可能であった。特にGatZ−fluoresceinを用いた場合、高感度にクロシドライトを検出することができた。
【0170】
また図6にGatZ−fluoresceinを用いてクロシドライト、アモサイト、クリソタイル、アクチノライト、アンソフィライト、トレモライト、およびロックウールをそれぞれ検出した結果を示す。図6にGatZ−fluoresceinはクロシドライト、アモサイト、クリソタイル、アクチノライト、アンソフィライト、およびトレモライトに対して強く結合し、ロックウールには結合しないことが確認された。よって、GatZ−fluoresceinを用いることで、ロックウールとアスベストとを区別することができ、ロックウールに混在するアスベストを特異的に検出することも可能であるということがわかった。またクリソタイルに関しては、位相差顕微鏡ではみえない細い繊維も、蛍光顕微鏡では観察できており、GatZ−fluoresceinを用いることでより感度の高いクリソタイルの検出が可能であるということが分かった。
【0171】
〔実施例4:GatZ−fluoresceinのアスベストに対する結合の速度論的解析〕
(方法)
GatZ−fluoresceinを所定の濃度となるように1mlのTris緩衝液(25mM Tris-HCl pH7.5, 0.5% Tween20(登録商標), 0.3M NaCl)に希釈した。前記希釈液に0.1mgアスベスト(クリソタイル、クロシドライト、またはアモサイト)を添加し混合した。前記溶液を、4℃で30分間転倒混和後、遠心分離に供しアスベストを沈殿させた。アスベストに結合したGatZ−fluoresceinの量を溶液中の蛍光強度の減少によって測定した。蛍光強度の測定はSpectorofluorometer FP-6500 (JASCO社)を用い、励起波長491nm、発光波長518nmで実施された。
【0172】
(結果)
図7にスキャッチャードプロットの結果を示す。図7の(a)はアスベストとしてクリソタイルを用いた場合の結果、(b)はアスベストとしてクロシドライトを用いた場合の結果、(c)はアスベストとしてアモサイトを用いた場合の結果を示す。図7の結果によれば、GatZタンパク−fluoresceinのクリソタイルに対する解離定数Kは31.3nMであり、アモサイトに対する解離定数Kは22.3nMであり、クロシドライトに対する解離定数Kは13.9nMであった。またクリソタイル1mgに結合するGatZタンパク−fluoresceinの最大結合量は155μgであり、クロシドライト1mgに結合するGatZタンパク−fluoresceinの最大結合量は22.3μgであり、アモサイト1mgに結合するGatZタンパク−fluoresceinの最大結合量は13.6μgであった。
【0173】
〔実施例5:GatZ−APを用いたロックウールに混在するアスベストの検出〕
(方法)
クリソタイル、クロシドライトまたはアモサイトを1%(w/w)混合させた10mgのロックウールを、100μlの緩衝液(25mM Tris-HCl (pH 7.5)、0.3M NaCl、0.5% Tween20(登録商標))にマイクロチューブ中で懸濁させた。10,000g で3分間遠心分離を行った後、上清を除去した。沈殿物を100μlの緩衝液(25mM Tris-HCl (pH 7.5)、0.3M NaCl、0.5% Tween20(登録商標))に懸濁し3分間穏やかに混和した。1μgのGatZ−APを100μlの緩衝液(25mM Tris-HCl (pH 7.5)、0.3M NaCl、0.5% Tween20(登録商標))に添加し10分間穏やかに混和した。500μlの緩衝液(25mM Tris-HCl (pH 7.5)、0.3M NaCl、0.5% Tween20(登録商標))で遠心洗浄を3回行い、最終的に沈殿物を50μlの溶出バッファー(25mM piperidine-NaOH (pH12)緩衝液、または1M MgCl2を含む25mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5))に懸濁した。10,000×gで3分間遠心分離を行い、上清を新しいマイクロチューブに移した。上清に50μlの発色基質(BCIP/NBT、MOSS, INC)を25℃で混合し30分間反応させた。
【0174】
(結果)
結果を図8に示す。図8(a)は25mM piperidine-NaOH(pH12)緩衝液で溶出を行った溶出液と発光基質とを反応させた溶液を示し、1はロックウールとGatZ−APとを接触させた場合の結果、2は1%(w/w)のクリソタイルを混合したロックウールとGatZ−APとを接触させた場合の結果、3は1%(w/w)のクロシドライトを混合したロックウールとGatZ−APとを接触させた場合の結果、4は1%(w/w)のアモサイトを混合したロックウールとGatZ−APとを接触させた場合の結果である。図8(b)は1M MgCl2を含む25mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)で溶出を行った溶出液と発光基質とを反応させた溶液を示し、1はロックウールとGatZ−APとを接触させた場合の結果、2は1%(w/w)のクリソタイルを混合したロックウールとGatZ−APとを接触させた場合の結果、3は1%(w/w)のクロシドライトを混合したロックウールとGatZ−APとを接触させた場合の結果、4は1%(w/w)のアモサイトを混合したロックウールとGatZ−APとを接触させた場合の結果である。
【0175】
図8(a)によれば25mM piperidine-NaOH(pH12)緩衝液で溶出することによって、アモサイトとクロシドライトとに結合したGatZ−APを溶出させることができることがわかり、ロックウールに混在しているアモサイトおよびクロシドライトを、GatZ−APを用いて検出することができるということが確認された。
【0176】
また図8(b)によれば1M MgCl2を含む25mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)で溶出することによって、クリソタイルに結合したGatZ−APを溶出させることができることがわかり、ロックウールに混在しているクリソタイル、クロシドライト、アモサイトを、GatZ−APを用いて検出することができるということが確認された。
【0177】
〔実施例6: GatZ-fluoresceinを用いたクリソタイルの検出〕
(方法)
直径25mmのメンブレンフィルター(セルロースアセテート、ミリポア社)にクリソタイル0.2μgをトラップし、GatZ-fluoresceinを緩衝液(Tris-HCl(pH7.8)、300mM NaCl, 0.01%CHAPS)に2.5μg/mlの濃度で溶解した溶液をメンブレンフィルターに対して10μl添加して結合させた。室温、暗所で一時間放置して完全に乾燥させた後、フィルターをスライドガラス(MATSUNAMI製、MICRO SLIDE GLASS 白緑磨 1mm厚)にのせ、QuickFix(R.J. Lee instrument, LTd)を用いてアセトン蒸気をメンブレンフィルターにかけ、メンブレンフィルターを透明化した。
【0178】
透明化したメンブレンフィルターにトリアセチン10μlを添加してカバーガラス(MATSUNAMI製、MICRO COVER GLASS 0.12-0.17mm厚)をのせ、位相差顕微鏡および蛍光顕微鏡(落射蛍光顕微鏡BX-60、オリンパス社製)で観察を行った。蛍光観察にはU-MNIBAキューブ(ダイクロックミラー:DM505、励起フィルター:BP470-490、吸収フィルター:BA515IF)を用い、画像の取り込みには顕微鏡デジタルカメラDP70(OLYMPUS)を使用した。
【0179】
(結果)
その結果を図9に示す。図9(a)は位相差顕微鏡像であり、(b)は蛍光顕微鏡像である。メンブレンフィルターを透明化することにより、位相差顕微鏡での試料全体の観察と、蛍光顕微鏡によるクリソタイルの特異的な観察とが同視野で可能となる。それゆえ、アスベスト以外の物質が含まれる試料におけるアスベストの特定が可能となる。
【0180】
〔実施例7:アスベスト結合タンパク質の結合特異性のpH依存性の検討〕
(方法)
0.1mgのアスベスト(クリソタイルまたはクロシドライト)、または10mgの建材(ロックウール、シリカ粒子、石膏)を、100μlの25mM Citrate-NaOH (pH3.5)、 25mM Tris-HCl(pH7.8)、または25mM Glycine-NaOH(pH9.5)の緩衝液(50mM NaCl、0.02%CHAPS)にマイクロチューブ中で懸濁し、3分間穏やかに混和した。これに2μgのGatZ−APを含む100μlの緩衝液(25mM Citrate-NaOH (pH3.5)、 25mM Tris-HCl(pH7.8)、または25mM Glycine-NaOH(pH9.5)の緩衝液(50mM NaCl、0.02%CHAPS) )を添加して10分間穏やかに混和した。結合させる時と同じ緩衝液500μlで遠心洗浄を2回行い、最終的に沈殿物を100μlの25mM Tris-HCl(pH7.5)緩衝液に懸濁した。この溶液50μlと発光基質CDP-Star(GE Helthecare Bioscience, Chalfont St Giles, UK)50μlとを25℃で混合し、5分間反応後、発光検出器ARVO sx-1420マルチラベルカウンターで検出を行った。
(結果)
その結果を図10に示す。GatZ−APはクロシドライトに対してpH3.5で最も結合し、pH7.8で結合量が下がり、pH9.5で最も結合量が少なかった。またGatZ−APはクリソタイル、シリカ粒子、石膏に対しては、pH9.5で最も結合し、pH7.8で結合量が下がり、pH3.5で最も結合量が少なかった。
【0181】
このことから、pH3.5の緩衝液で結合または洗浄を行えば、クロシドライトへの結合は減少させずに、シリカ粒子、石膏への結合を減少させることができるということがわかった。すなわち、pH3.5の緩衝液で結合または洗浄を行うことによって、クロシドライトに対するGatZ−APの結合特異性を向上させることができるといえる。
【0182】
〔実施例8:GatZ−APを用いたアスベストの検出〕
(方法)
0.1mgのクリソタイル、クロシドライト、アモサイト、アクチノライト、または0.25mgのトレモライト、アンソフィライト、または10mgのロックウール、シリカ粒子、セメント、石膏を、400μlの緩衝液(25mM Citrate-NaOH (pH3.5)、50mM NaCl、0.02%CHAPS)にマイクロチューブ中で懸濁し、3分間穏やかに混和した。4μgのGatZ−APを添加して10分間穏やかに混和した。結合させる時と同じ緩衝液500μlで遠心洗浄を2回行い、最終的に沈殿物を100μlの溶出緩衝液(100mM Glycine-NaOH(pH9.5)、0.1%CHAPS)に懸濁し、3分間穏やかに混和した。10,000×gで3分間遠心を行い、上清40μlを新しいマイクロチューブに移した。その上清に、1M Tris-HCl(pH7.8)を20μl添加してpH7.8に調整後、40μlの発色基質BCIP/NBT(MOSS, INC)を25℃で混合し30分間反応させた。
【0183】
(結果)
その結果を図11に示す。建材として使用されている可能性の高いロックウール、シリカ粒子、セメント、石膏にGatZ−APを接触させ溶出した溶液と発色基質とは反応せず、角閃石系のアスベスト(クロシドライト、アモサイト、トレモライト、アンソフィライト、アクチノライト)にGatZ−APを接触させ溶出した溶液と発色基質とは反応した。
【0184】
したがってpH3.5のCitrate-NaOH緩衝液中で接触および洗浄した後、pH9.5のGlycine-NaOH緩衝液で溶出させることで、特異的に角閃石系のアスベスト(クロシドライト、アモサイト、トレモライト、アンソフィライト、アクチノライト)を検出することができることが確認された。
【0185】
〔実施例9:溶出液の検討〕
(方法)
0.1mgのクリソタイルまたは0.3mgクロシドライトを、100μlの緩衝液(25mM Tris-HCl(pH7.5)、300mM NaCl、0.5%Tween20)にマイクロチューブ中で懸濁し、1分間穏やかに混和した。1μgのGatZ−APまたはL5−APを含む100μlの緩衝液(25mM Tris-HCl(pH7.5)、300mM NaCl、0.5%Tween20)を添加して10分間穏やかに混和した。結合させる時と同じ緩衝液200μlで遠心洗浄を2回行った。最終的に沈殿物を50μlの溶出液(Tris-HCl(pH8.5)、0.1、0.3、0.5、1.0、2.0M MgCl2または1.0M CaCl2)を添加して5分間混和した。遠心して上清40μlと発色基質BCIP/NBT(MOSS、INC)とを25℃で混合し、30分間反応させた。
【0186】
(結果)
その結果を図12に示す。図12(a)は0.1mgのクリソタイルとGatZ−APとを接触させた後、MgCl2またはCaCl2を含む溶出液で溶出した結果を示し、(b)は0.3mgのクロシドライトとGatZ−APとを接触させた後、MgCl2またはCaCl2を含む溶出液で溶出した結果を示し、(c)は0.1mgのクロシドライトとL5−APとを接触させた後、MgCl2またはCaCl2を含む溶出液で溶出した結果を示す。
【0187】
アスベスト結合タンパク質を含んでいない緩衝液(25mM Tris-HCl(pH8.5))とBCIP/NBTを混和したものを陰性対照とした。クリソタイルとGatZ−APとを接触させた後、溶出し発色基質と反応させた場合、塩化マグネシウムが0.3M以上含まれる溶出液と発色基質は反応を示した(図12(a))。また、1Mの塩化カルシウムを含む場合も発色基質は反応を示した。
【0188】
一方、クロシドライトとGatZ−APとを接触させた後、溶出し発色基質と反応させた場合も上記と同様の結果であった(図12(b))。さらにクロシドライトとL5−APとを接触させた後、溶出し発色基質と反応させた場合も同様の結果であった(図12(c))。
【0189】
〔実施例10:溶出液の検討−2〕
(方法)
実施例9の方法に準じて、GatZ−APを0.1mgのクリソタイルに結合させ、0、0.1、0.3、0.5、1.0MのCaCl2を含む溶液で溶出した。
【0190】
また実施例9の方法に準じて、L5−APを0.1mgのクロシドライトに結合させ、0.1、0.3、0.5、1.0MのCaCl2を含む溶液で溶出した。
【0191】
さらに実施例9の方法に準じて、DksA−APを0.1mgのクリソタイルに結合させ、0、0.1、0.3、0.5、1.0MのMgCl2またはCaCl2を含む溶液で溶出した。
【0192】
(結果)
GatZ−APを0.1mgのクリソタイルに結合させ、0、0.1、0.3、0.5、1.0MのCaCl2を含む溶液で溶出した結果を図13(a)に示す。
【0193】
L5−APを0.1mgのクロシドライトに結合させ、0.1、0.3、0.5、1.0MのCaCl2を含む溶液で溶出した結果を図13(b)に示す。
【0194】
DksA−APを0.1mgのクリソタイルに結合させ、0、0.1、0.3、0.5、1.0MのMgCl2を含む溶液で溶出した結果を図13(c)に示す。
【0195】
DksA−APを0.1mgのクリソタイルに結合させ、0、0.1、0.3、0.5、1.0MのCaCl2を含む溶液で溶出した結果を図13(d)に示す。
【0196】
図13(a)の結果より、GatZ−APにクリソタイルを結合させた場合、0.3M以上のCaCl2を含む溶液で溶出可能であることがわかった。
【0197】
また図13(b)の結果より、L5−APにクロシドライトを結合させた場合、0.3M以上のCaCl2を含む溶液で溶出可能であることがわかった。
【0198】
また図13(c)および(d)の結果より、DksA−APにクリソタイルを結合させた場合、0.3M以上のMgCl2を含む溶液および0.3M以上のCaCl2を含む溶液のいずれの溶液を用いた場合であっても溶出可能であることがわかった。
【0199】
実施例9および10の結果から、0.3M以上の2価の金属イオンを含む溶液が、アスベスト(このときアスベストの種類は問わない)とアスベスト結合タンパク質(このときアスベストタンパク質の種類は問わない)との結合体からアスベストベスト結合タンパク質を溶出するための組成物として利用可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0200】
上記説示したように、本発明によればロックウールに結合せずに、且つアスベスト(クリソタイルのみならずアモサイト、クロシドライト、トレモライト、アンソフィライト、およびアクチノライト)に対して高い特異性を有するアスベスト結合タンパク質を取得することができる。また、ロックウールに結合し得るタンパク質をあらかじめ除去することによって、これまで試料溶液中の濃度が低いためにバックグランドに隠れて見出すことができなかった新規のアスベスト結合タンパク質を見出すことができるという効果を本発明は奏する。また上記本発明にかかるアスベスト結合タンパク質のスクリーニング方法によって見出されたアスベスト結合タンパク質はロックウールに結合せずに、アスベストに対して高い特異性をもって結合し得るタンパク質であるため、ロックウールに微量に混在するアスベストを特異的に検出することができるという効果を本発明は奏する。また本発明によれば、クリソタイルのみならず、建物解体現場において未だ脅威となっているアモサイトおよびクロシドライト等をも検出し得る。また本発明にかかるアスベストの検出方法によれば高感度でアスベストを検出することができる。よって、本発明は社会問題となっているアスベストによる甚大な被害を未然に防ぐ手段として極めて重要である。
【0201】
したがって、本発明はアスベストを取り扱う産業、アスベストの検出を行う産業等種々広範な産業において利用可能である。
図1
図2
図3
図7
図10
図4
図5
図6
図8
図9
図11
図12
図13
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]