特許第5725511号(P5725511)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人 国立印刷局の特許一覧

<>
  • 特許5725511-凹版インキ 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5725511
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】凹版インキ
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/10 20140101AFI20150507BHJP
【FI】
   C09D11/10
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-536121(P2011-536121)
(86)(22)【出願日】2010年10月8日
(86)【国際出願番号】JP2010067752
(87)【国際公開番号】WO2011046083
(87)【国際公開日】20110421
【審査請求日】2013年4月17日
(31)【優先権主張番号】特願2009-238817(P2009-238817)
(32)【優先日】2009年10月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(72)【発明者】
【氏名】福 浦 朝 生
【審査官】 桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−145962(JP,A)
【文献】 特開平01−225605(JP,A)
【文献】 特開2007−119718(JP,A)
【文献】 特開平11−021327(JP,A)
【文献】 特開2002−174900(JP,A)
【文献】 国際公開第03/066759(WO,A1)
【文献】 特開2009−227702(JP,A)
【文献】 特開2001−174621(JP,A)
【文献】 特開2003−342337(JP,A)
【文献】 特開2005−290299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/10
C08F 283/01
C08F 290/00−290/14
C08F 299/00−299/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線硬化性組成物と、酸化重合性組成物と、光重合開始剤と、酸化重合触媒と、顔料と、を少なくとも含んでなる凹版インキであって、
前記紫外線硬化性組成物が、一分子中に2個以上のアクリロイル基及び1個のカルボキシル基を有するアクリレートと、一分子中に2個以上のエポキシ環を有するエポキシ化合物とを反応させたエポキシアクリレートに、多塩基酸無水物を反応させた酸変性エポキシアクリレートを含んでなり、
前記一分子中に2個以上のアクリロイル基及び1個のカルボキシル基を有するアクリレートは、ペンタエリスリトールトリアクリレート又はジペンタエリスリトールペンタアクリレートと、無水コハク酸又は無水マレイン酸とを反応させて得られるアクリレートであり、
前記多塩基酸無水物は、無水コハク酸又は無水マレイン酸である、ことを特徴とする、凹版インキ。
【請求項2】
前記酸変性エポキシアクリレートが、前記エポキシアクリレートの水酸基1モルに対して、前記多塩基酸無水物を実質的に1モル反応させて得られるものである、請求項1に記載の凹版インキ。
【請求項3】
印刷物を作製するための請求項1または2に記載の凹版インキの使用。
【請求項4】
請求項1または2に記載の凹版インキを用いて印刷された印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹版インキに関し、より詳細には、銀行券、パスポート、証券類及び郵便切手等の、偽造防止や変造防止が要求されるセキュリティ印刷物、及び美術印刷物等の製造に利用される凹版インキに関する。
【背景技術】
【0002】
銀行券、パスポート、証券類及び切手類等は、その性質上、偽造や変造がされにくいことが要求され、美的な要素も求められる。このような要求のために、銀行券等の印刷には、印刷物の仕上りが非常に優れ、製版工程が複雑で容易に偽造されにくい彫刻凹版印刷(以下、単に「凹版印刷」という場合がある。)が用いられている。
【0003】
この凹版印刷方式で作製される凹版印刷物の特徴として、独特の手触り感、細かくシャープな画線の形成が可能なこと、更には、特殊な印刷機を用いなければ製造できないことが挙げられ、このような理由からも、上記のようなセキュリティ印刷物には凹版印刷が多用されている。
【0004】
凹版印刷とは、金属製の版面に凹状の画線を作製し、版面にインキを着肉させて画線凹部にインキを詰め込み、凹版版面上の余剰のインキをふき取り、強い圧力で用紙にインキを転移させる印刷方法である。
【0005】
通常、凹版画線の凹部の深さは、最大100μmにも達するが、用紙に転移するインキは、着肉されたインキの一部であり、転移後の用紙上におけるインキの皮膜の厚さは、概ね10μm〜40μm程度である。この用紙上に転移したインキ皮膜の厚さは、他の印刷方式によって得られるインキ被膜に比べて、著しく厚い。
【0006】
このような凹版印刷に用いられる凹版インキは、一般に、乾性油変性アルキド樹脂を主成分とし、溶剤やワックスを配合したワニス成分に顔料を練合することにより製造されている。
【0007】
また、凹版印刷方式においては、上記したように、形成される印刷物上のインキの皮膜厚さが、オフセット印刷等の他の印刷方法による場合と比較して非常に厚い。そのため、凹版印刷された印刷物を積載すると、重なった印刷物の裏面にインキが移る、いわゆる裏移りの問題が発生する。この裏移りを防止するために様々な工夫がなされている。例を挙げるならば、1)印刷物間に間紙を挿入する、2)インキに溶剤を添加し溶剤を紙に浸透させることによってワニス中の樹脂分の析出を促進する、3)インキを常温において硬くし、印刷時に凹版版面を加温することによって印刷時は流動性を与え、インキの転移を容易とすることで、印刷後に流動性を失わせるとともに付着力を低減させる、等の方法である。
【0008】
また、凹版印刷方式では、凹版版面上の余剰のインキをふき取る工程が存在する。このふき取り工程は、ペーパーワイピング方式又はロールワイピング方式により行われるが、廃棄物の量や印刷速度等の理由から、大量印刷の場合は、主にロールワイピング方式が用いられている。
【0009】
ロールワイピング方式とは、凹版版面を取り付けた版胴と逆方向に回転するワイピングローラによって、凹版版面上の余剰インキをふき取る方式である。ワイピングローラに付着したインキを、油性溶液又は界面活性剤を含む水溶液に分散又は溶解させることによって、連続的なワイピングを可能とするものである。油性溶液を用いる場合を油性ワイピング方式、界面活性剤を含む水溶液を用いる場合を水性ワイピング方式と称されるが、作業環境への負荷の少なさから、水性ワイピング方式が主流となっている。
【0010】
このようなロールワイピング方式によって、凹版インキを容易にふき取ることが可能で、かつ、界面活性剤を含む水溶液に分散又は溶解するようにするために、低粘度で比較的低分子量の乾性油変性樹脂を主成分としたワニスを含むインキ組成物が用いられている。しかし、このような低粘度の乾性油変性樹脂を主成分とするワニスでは、ワニスの分子間相互作用が小さく、印刷用紙にワニスが浸透しやすいため、微視的に見れば画線がにじむ。そのため、偽造防止のために用いられる微細文字等の細画線にいては、印刷品質が低下するという新たな問題が生じる。
【0011】
また、裏移りを防止するために、インキの乾燥を早くすると、用紙へのインキ転移前の時点から、インキの乾燥反応がある程度進行してしまうため、インキの転移不良が生じる場合がある。
【0012】
さらに、凹版インキでは、インキを固着するために用いられるワニス成分の割合が、他の印刷方法で用いられるインキより相対的に少なく、ワニス中に高分子量の樹脂分を高配合率で含ませることはできないため、印刷物の画線を紙等でこすると、こすった紙が汚れる、いわゆるチョーキングの問題が発生する。これは、例えば、銀行券の自動支払い機等の高速に銀行券を処理する機械では、銀行券を送り出すローラ等の接触部分が汚れてくるという問題を生じさせる。
【0013】
用紙上のインキ皮膜の厚さが1μm程度のオフセット印刷においては、印刷物の裏移り防止とインキ硬化皮膜の耐チョーキング性向上のために、ワニスとして紫外線硬化性組成物を用いることにより、紫外線を照射して、ワニスを硬化させる紫外線乾燥方式が広く実施されている。しかし、凹版印刷に紫外線乾燥方式を適用すると、用紙上のインキ皮膜の厚さが20μm以上にもなる凹版印刷では、着色濃度の高いインキを使用すると、インキの皮膜内部まで紫外線が透過せず、インキの乾燥不良が生じる。
【0014】
インキの皮膜内部まで紫外線が透過しないような厚いインキ皮膜を硬化させる方法として、電子線を利用した乾燥方式が提案され、一部実用化されている。しかし、電子線による硬化方式は、電子線照射装置が高価であることや、酸素による重合阻害を抑制するため窒素を流さなければならず、ランニングコストが高価になることから、普及率が低いものである。また、電子線が用紙の分子を切断するため、紙の強度を低下させる傾向もある。
【0015】
本願出願人は、上記の問題に対して、紫外線では透過しないような厚いインキ皮膜を硬化させることを目的として、紫外線硬化及び酸化重合機能を併せ持つインキ及びそれを使用した印刷物(特許文献1)を提案した。ここには、凹版インキとして、紫外線硬化性組成物、酸化重合性組成物、光重合開始剤及び酸化重合触媒を混合したワニスを用いることにより、印刷後のインキの皮膜表面は紫外線で硬化させて、裏移りを防止するとともに、未硬化のインキの皮膜内部は、酸化重合性材料と酸化重合触媒から生成するラジカルによって紫外線硬化性組成物が重合していき、完全硬化に至ることが示されている。
【0016】
また、本出願人は、柔軟性に優れ、かつ、紫外線硬化性に優れるポリグリセリンポリアクリレートを、紫外線硬化性組成物として用いることにより、凹版印刷物の積載時に凹版印刷物同士が固着する、いわゆる、ブロッキング現象を低減させた、凹版インキ用樹脂組成物、それを用いたインキ組成物及びその印刷物(特許文献2)を提案している。
【0017】
また、本出願人は、酸化重合性組成物として、溶剤を用いないアルキド樹脂の使用(特許文献3)を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特公平8−892号公報
【特許文献2】特開2002−38065号公報
【特許文献3】特開2007−145962号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
特許文献2〜3において、凹版印刷用インキ中の紫外線硬化性組成物として、エポキシアクリレートの多塩基酸無水物の付加物が例示されている。しかし、この紫外線硬化性組成物は紫外線硬化性が低く、高い紫外線照射量が必要であった。この問題を解決するために、特許文献2では、ポリグリセリンポリアクリレートが提案されている。しかしながら、ポリグリセリンポリアクリレートは紫外線硬化性が高いため、低い紫外線照射量で高い表面硬化性が得られる反面、ワニスの製造工程のなかで、アクリル酸を除去するアルカリ洗浄工程において、生成物が親水性で高分子量のために乳化しやすく、アクリル酸除去に手間がかかるため、ワニスのコストが著しく増大していた。
【0020】
そこで、本発明は、裏移りの発生防止、耐チョーキング性及び印刷品質の向上が可能な凹版印刷用インキにおいて、低コストかつ高い紫外線硬化性を有する、水性ワイピングが可能な紫外線硬化性組成物を用いる凹版インキの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の凹版インキは、紫外線硬化性組成物と、酸化重合性組成物と、光重合開始剤と、酸化重合触媒と、顔料と、を少なくとも含んでなる凹版インキであって、紫外線硬化性組成物が、一分子中に2個以上のアクリロイル基及び1個のカルボキシル基を有するアクリレートと、一分子中に2個以上のエポキシ環を有するエポキシ化合物とを反応させたエポキシアクリレートに、多塩基酸無水物を反応させた酸変性エポキシアクリレートを含むことを特徴とするものである。
【0022】
また、本発明の態様においては、一分子中に2個以上のアクリロイル基及び1個のカルボキシル基を有するアクリレートが、一分子中に2個以上のアクリロイル基と1個の水酸基を有するアクリレートと、二塩基酸無水物を反応させることによって得られるアクリレートであることが好ましい。
【0023】
また、本発明の態様においては、一分子中に2個以上のアクリロイル基と1個の水酸基を有するアクリレートが、ペンタエリスリトールトリアクリレート、又はジペンタエリスリトールペンタアクリレートであることが好ましい。
【0024】
また、本発明の態様においては、前記二塩基酸無水物は、無水コハク酸又は無水マレイン酸であることが好ましい。
【0025】
また、本発明の態様においては、前記多塩基酸無水物は、無水コハク酸又は無水マレイン酸であることが好ましい。
【0026】
さらに、本発明の別の態様として、セキュリティ印刷物又は美術印刷物を作製するための、上記凹版インキの使用も提供される。
【0027】
また、本発明の別の態様として、上記の凹版インキを用いて印刷された印刷物も提供される。
【発明の効果】
【0028】
本発明による凹版インキは、一分子中に2個以上のアクリロイル基と1個のカルボキシル基を有するアクリレートと、一分子中に2個以上のエポキシ環を有するエポキシ化合物とを反応させたエポキシアクリレートに、多塩基酸無水物を反応させた酸変性エポキシアクリレートを少なくとも含む紫外線硬化組成物を含有する。そのため、低コストで高い紫外線硬化性を有し、かつ水性ワイピング可能な、酸化重合及び紫外線硬化併用型の凹版インキを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明による凹版インキ用紫外線硬化組成物の製造方法と、従来のポリグリセリンポリアクリレートを含む凹版インキ用紫外線硬化組成物の製造方法の比較図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明による凹版インキは、紫外線硬化性組成物、酸化重合性組成物、光重合開始剤、酸化重合触媒及び顔料を必須成分として含むものであり、一般的な3本ロールミルやビーズミル等の装置を用いて、公知の方法で上記の各成分を練合することにより製造される。
【0031】
本発明による凹版インキ中の紫外線硬化性組成物は、一分子中に2個以上のアクリロイル基及び1個のカルボキシル基を有するアクリレートと、一分子中に2個以上のエポキシ環を有するエポキシ化合物とを反応させたエポキシアクリレートに、多塩基酸無水物を反応させた酸変性エポキシアクリレート、を少なくとも含む。
【0032】
本発明による凹版インキに用いる紫外線硬化性組成物中に含まれる、上記の酸変性エポキシアクリレートは、エポキシ化合物にアクリル酸を反応させた一般にエポキシアクリレートと称される化合物の水酸基に多塩基酸無水物を半エステル化したカルボキシエポキシアクリレートとは異なり、一分子中に多数のアクリロイル基が存在する。そのため、本発明による凹版インキは、高い紫外線硬化性を有する。
【0033】
上記の1分子中に2個以上のアクリロイル基及び1個のカルボキシル基を有するアクリレートは、1分子中に2個以上のアクリロイル基を有し、且つ1個の水酸基を有するアクリレートに、二塩基酸無水物を半エステル化することにより製造することができる。
【0034】
上記の1分子中に2個以上のアクリロイル基を有し、且つ1個の水酸基を有するアクリレートは、ペンタエリスリトールトリアクリレート又はジペンタエリスリトールペンタアクリレートであることが好ましく、これらの材料は、市場から入手が可能である。ペンタエリスリトールトリアクリレートはペンタエリスリトールテトラアクリレートとの混合物として市販されている。例えば、アロニックスM−306(東亞合成製)、ビスコート#300(大阪有機化学製)、ライトアクリレートPE−3A(共栄社化学製)、NKエステルA−TMM−3L(新中村化学製)、カヤラッドPET−30(日本化薬製)等が挙げられる。ジペンタエリスリトールペンタアクリレートは、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレートとの混合物として市販されており、例えば、アロニックスM−403(東亞合成製)、ライトアクリレートDPE−6A(共栄社化学製)、カヤラッドDPHA(日本化薬製)等が挙げられる。
【0035】
上記の一分子中に2個以上のアクリロイル基を有し、且つ1個の水酸基を有するアクリレートに反応させる二塩基酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水フタル酸、1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、3,4,5,6−テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、4−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、メチル−3,6−エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。これらの中でも、無水マレイン酸及び無水コハク酸が特に好ましい。
【0036】
一分子中に2個以上のアクリロイル基を有し、且つ1個の水酸基を有するアクリレートと二塩基酸無水物との反応生成物は、例えば、無溶剤又は親水性紫外線硬化性材料中で反応させて得ることができる。ここで用いる親水性紫外線硬化性材料としては、例えば、ポリエチレングリコールジアクリレート、グリセリンエチレンオキサイド付加トリアクリレート等の水溶性アクリレート又はアクリロイルモルホリンが挙げられる。反応を促進させるために触媒を使用することが好ましく、この反応に用いる触媒としては、例えば、ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリエチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。触媒の使用量は、反応生成物に対して0.1〜10質量%であり、反応温度は60〜150℃で、反応時間は1〜24時間である。
【0037】
反応時は、熱重合防止のために、空気又は酸素の吹き込み、及び熱重合禁止剤の添加が好ましく、熱重合禁止剤の添加量は、反応生成物に対して0.01〜0.2質量%である。熱重合禁止剤としては、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0038】
本発明においては、上記の紫外線硬化性組成物の製造に使用されるエポキシ化合物は、一分子中にエポキシ環を2個以上有する化合物である。エポキシ化合物のエポキシ当量は、アクリロイル基濃度を高めるために、より小さい方が好ましく、概ね300g/当量以下が好ましい。エポキシ当量が300g/当量以上では、紫外線硬化性が低下する場合がある。
【0039】
上記した一分子中に2個以上のエポキシ環を有するエポキシ化合物の具体例としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、多価アルコールのグリシジルエーテル、多価カルボン酸のグリシジルエステル等が挙げられる。
【0040】
上記エポキシ化合物は市販のものを用いてもよく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、例えば、jER828(ジャパンエポキシレジン製)、エポトートYD−127、YD−128(東都化成製)、エピクロン840、850(DIC製)等が挙げられる。ビスフェノールF型エポキシ樹脂としては、例えば、jER806(ジャパンエポキシレジン製)、エポトートYDF−170(東都化成製)、エピクロン830(DIC製)等が挙げられる。
【0041】
また、フェノールノボラック型エポキシ樹脂としては、例えば、jER152、jER154(ジャパンエポキシレジン製)、エポトートYDPN−638(東都化成製)、エピクロンN−740(DIC製)等が挙げられる。クレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては、例えば、エポトートYDCN−701、YDCN−702、YDCN−703、YDCN−704(東都化成製)、エピクロンN−665、N−670(DIC製)、EOCN−104S(日本化薬製)等が挙げられる。
【0042】
また、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、例えば、YX8000、YX8034(ジャパンエポキシレジン製)、サントートST−3000(東都化成製)、SR−HBA(阪本薬品製)、エポライト4000(共栄社化学製)等が挙げられる。
【0043】
また、多価アルコールのグリシジルエーテルとしては、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等が挙げられる。これら多価アルコールのグリシジルエーテルは市販のものを使用してもよく、例えば、ナガセケムテックス製デナコールシリーズ、共栄社化学製エポライトシリーズ、阪本薬品製SRシリーズ等を好適に使用することができる。
【0044】
また、多価カルボン酸のグリシジルエステルとしては、アジピン酸ジグリシジルエステル(ナガセケムテックス製デナコールEX−701)、o−フタル酸ジグリシジルエステル(ナガセケムテックス製デナコールEX−721)等が挙げられる。
【0045】
一分子中に2個以上のアクリロイル基及び1個のカルボキシル基を有するアクリレートと、一分子中に2個以上のエポキシ環を有するエポキシ化合物との反応は、例えば、無溶剤又は親水性紫外線硬化性材料中で行う。ここで用いる親水性紫外線硬化性材料としては、例えば、ポリエチレングリコールジアクリレート、グリセリンエチレンオキサイド付加トリアクリレート等の水溶性アクリレート若しくはアクリロイルモルホリンが挙げられる。反応を促進させるために、触媒を使用することが好ましく、この反応に用いる触媒としては、例えば、ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリエチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。触媒の使用量は、反応生成物に対して0.1〜10質量%であり、反応温度は60〜150℃で、反応時間は3〜24時間である。
【0046】
反応時は、熱重合防止のために、空気又は酸素の吹き込み、及び熱重合禁止剤の添加が好ましく、熱重合禁止剤の添加量は、反応生成物に対して0.05〜0.2質量%である。熱重合禁止剤としては、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン及びハイドロキノンモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0047】
エポキシ化合物のエポキシ基とカルボキシル基との割合は、エポキシ基1当量に対してカルボキシル基は1当量以上が好ましいが、次工程の多塩基酸無水物を反応させる際にゲル化が起きない場合は、1当量未満でも良い。
【0048】
一分子中に2個以上のアクリロイル基及び1個のカルボキシル基を有するアクリレートと、一分子中に2個以上のエポキシ環を有するエポキシ化合物とを反応させたエポキシアクリレートに、多塩基酸無水物を反応さて、酸変性エポキシアクリレートが得られる。この反応に使用される多塩基酸無水物としては、上記した一分子中に2個以上のアクリロイル基を有し、且つ1個の水酸基を有するアクリレートと反応させる二塩基酸無水物と同じものを用いても良いが、異なるものを用いても良い。具体例を挙げるならば、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水フタル酸、1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、3,4,5,6−テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、4−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、メチル−3,6−エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸等の二塩基酸無水物や無水トリメリット酸等の三塩基酸無水物を用いることができる。これらの中でも、無水マレイン酸及び無水コハク酸が特に好ましい。
【0049】
上記したエポキシアクリレートと多塩基酸無水物とを反応させる反応条件は、一分子中に2個以上のアクリロイル基を有し、且つ1個の水酸基を有するアクリレートと二塩基酸無水物との反応条件と同じ条件を適用することができる。
【0050】
図1(a)に示すように、得られるエポキシアクリレートの多塩基酸無水物の半エステルは、一般的なエポキシアクリレートと同様に、凹版インキ用ワニスとして適切な粘度に調整するだけで使用が可能であり、図1(b)に示すように、高いUV硬化性が得られるポリグリセリンポリアクリレートのようなアクリル酸の除去等の精製を行う必要がないため、精製工程に伴うコストの増大がない。粘度の調整に用いる親水性紫外線硬化性材料は、公知の各種親水性紫外線硬化性材料を適宜選択して用いることができる。例えば、ポリエチレングリコールジアクリレート、グリセリンエチレンオキサイド付加トリアクリレート等の水溶性アクリレート又はアクリロイルモルホリンを用いることができる。
【0051】
本発明による凹版インキに含まれる酸化重合性組成物は、乾性油又は半乾性油、あるいはそれらから誘導される公知のアルキド樹脂であってよい。
【0052】
また、本発明による凹版インキに含まれる光重合開始剤は、市販の各種光重合開始剤を利用することが可能であり、これらは、単独で使用してもよく、又、2種以上を組み合わせて使用してもよい。光重合開始剤の含有量は、光重合開始剤の種類によって異なる。また、光重合開始剤に加えて、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル又は4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等の光重合開始助剤を添加しても良い。
【0053】
本発明による凹版インキに含まれる酸化重合触媒としては、コバルト、マンガン及び鉛等の金属化合物や、ホウ酸コバルト、オクチル酸コバルト、ナフテン酸コバルト及び一酸化鉛等が挙げられる。
【0054】
本発明による凹版インキは、上記したような紫外線硬化性組成物を含むことにより、紫外線照射により用紙上の凹版インキの皮膜表面が硬化し、未硬化の凹版インキの皮膜内部は、徐々に酸化重合性組成物と酸化重合触媒によって生成するラジカルによって、紫外線硬化性組成物が重合するため、インキを自然に完全乾燥することができるものである。
【0055】
本発明による凹版インキに使用される顔料としては、紫外線硬化性組成物がカルボキシル基を有する酸性物質を含むため、炭酸カルシウム等の塩基性顔料は使用できないが、それら以外の公知の紫外線硬化型インキに用いられる中性又は酸性の顔料を使用することができる。また、公知の紫外線硬化型のインキ組成物は、紫外線を吸収しやすい顔料の多量配合は困難であったが、本発明による凹版インキでは、酸化重合性物質の存在により未硬化のインキ皮膜内部が乾燥していくため、紫外線を吸収しやすい顔料でも多量配合が可能である。
【0056】
本発明の凹版インキを用いて印刷物を製造する装置、つまり、凹版版面への凹版インキの着肉、余剰インキのふき取り及び印刷等の一連の工程を行い得る装置としては、従来から知られている凹版印刷機構をそのまま用いることが可能であるが、凹版インキのワニス成分として、アクリレートが主成分であるため、それに合わせた材質の転移ローラが必要となる場合がある。また、本発明による凹版インキを用いて印刷物の製造を行う凹版印刷機構に、更に追加が必要な装置としては、用紙上に紫外線を照射するための紫外線照射装置である。
【0057】
紫外線照射装置は、オフセット印刷で用いられるものを流用することが可能である。紫外線照射量は、印刷速度や凹版インキの表面硬化性、すなわち紫外線硬化性組成物の硬化性の違いによって異なるが、概ね100m/minの印刷速度では、照射量が160W/cmのメタルハライドランプ2本が必要である。一般的なエポキシアクリレートの酸無水物による半エステルを用いる紫外線硬化性組成物を用いた場合、100m/minの印刷速度では、照射量が160W/cmのメタルハライドランプが少なくとも4本必要であったのに対し、本発明においては、半分以下のメタルハライドランプにより凹版インキを硬化させることができる。
【0058】
凹版版面上から余剰の本発明の凹版インキをふき取ったローラを、印刷中に連続的に洗浄する溶液として、界面活性剤を含むアルカリ水溶液を用いることができる。
【実施例1】
【0059】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。なお、「部」、「%」は、特に断りのない限り質量基準である。
【0060】
(製造例1)
一分子中に2個以上のアクリロイル基及び1個のカルボキシル基を有するアクリレート(A1)の製造。
【0061】
一分子中に2個以上のアクリロイル基を有し、且つ1個の水酸基を有するアクリレートとして、ペンタエリスリトールトリアクリレート(東亞合成製アロニックスM306)430部、二塩基酸無水物として、無水コハク酸(新日本理化製リカシッドSA)100部、メチルハイドロキノン0.05部、及びN,N−ジメチルベンジルアミン0.5部を攪拌機付きセパラブルフラスコに仕込み、空気を吹き込みながら80℃で4時間反応させて、生成物A1を得た。
【0062】
製造例1と同様な方法により、一分子中に2個以上のアクリロイル基及び1個のカルボキシル基を有するアクリレート(A2〜A4)を得た。まとめたものを表1に示す。
【0063】
【表1】
なお、表中の記号は以下のものを意味する。
M306:ペンタエリスリトールトリアクリレート(東亞合成製アロニックスM306)
M403:ジぺンタエリスリトールペンタアクリレート(東亞合成製アロニックスM403)
SA:無水コハク酸(新日本理化製リカシッドSA)
MA:無水マレイン酸
HH:ヘキサヒドロ無水フタル酸(新日本理化製リカシッドHH)
【0064】
(製造例2)
ワニス(V1)の製造
【0065】
一分子中に2個以上のアクリロイル基及び1個のカルボキシル基を有するアクリレートとして、表1のA1を530部、2個以上のエポキシ環を有するエポキシ化合物としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製jER828)186部、ポリエチレングリコール400ジアクリレート(日本化薬製PEG400DA)180部、メチルハイドロキノン0.9部、及びN,N−ジメチルベンジルアミン1.8部を攪拌機付きセパラブルフラスコに仕込み、空気を吹き込みながら115℃で16時間反応させた。得られた反応生成物に、多塩基酸無水物として無水コハク酸(新日本理化製リカシッドSA)100部を加え、80℃で更に4時間反応させ、粘度が30℃において1.5Pa・sになるようにポリエチレングリコール400ジアクリレート(日本化薬製PEG400DA)を加え、ワニスV1を得た。
【0066】
製造例2と同様な方法によりワニスV2〜V8を得た。これらをまとめたものを表2に示す。
【0067】
【表2】
なお、表中の表中の記号は以下のものを意味する。
jER828:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製jER828)
jER806:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製jER806)
jER152:フェノールノボラック型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製jER152)
EX201:レゾルシンジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製EX201)
EX810:エチレングリコールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製EX810)
【0068】
(比較ワニスV9の製造例)
フェノールノボラック型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製jER152)177部、アクリル酸(大阪有機化学製)72部、メチルハイドロキノン0.25部、及びN,N−ジメチルベンジルアミン0.5部を攪拌機付きセパラブルフラスコに仕込み、空気を吹き込みながら120℃で24時間反応させた。得られた反応生成物に、無水コハク酸(新日本理化製リカシッドSA)100部を加え、80℃で更に3時間反応させ、粘度が30℃において1.5Pa・sになるようにポリエチレングリコール400ジアクリレート(日本化薬製PEG400DA)を加え、ワニスV9を得た。
【0069】
(比較ワニスV10の製造例)
フェノールノボラック型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製jER152)177部、アクリル酸(大阪有機化学製)72部、メチルハイドロキノン0.25部、及びN,N−ジメチルベンジルアミン0.5部を攪拌機付きセパラブルフラスコに仕込み、空気を吹き込みながら120℃で24時間反応させた。得られた反応生成物に、ヘキサヒドロ無水フタル酸(新日本理化製リカシッドHH)154部を加え、80℃で更に3時間反応させ、粘度が30℃において1.5Pa・sになるようにポリエチレングリコール400ジアクリレート(日本化薬製PEG400DA)を加え、ワニスV10を得た。
【0070】
(実施インキの製造例)
下記の表3に示した配合に従い、各成分を三本ロールミルで練合し、常法により凹版インキを製造した。
【0071】
【表3】
【0072】
(紫外線硬化性評価)
版面深度100μmの凹版版面で、65mm×160mmの坪量86g/m2の用紙に凹版印刷を行い、印刷直後にコンベア速度:10〜40m/min、紫外線ランプ:空冷式80W/cmメタルハライドランプ1灯の条件で紫外線を照射し、印刷面側に同じ大きさの用紙を重ね、ガラス板に挟んで、215kg/m2の加重を加えた。1日放置後、印刷された用紙から上に重ねた用紙を上方に引き上げたときの張力を測定し、最大値をブロッキング剥離強度とした。まとめたものを表4に示す。
【0073】
【表4】
【0074】
比較例V9が、10m/minの印刷速度(160mJ/cm2)において、30.8gの剥離強度に対して、二塩基酸無水物及び多塩基酸無水物として、無水コハク酸又は無水マレイン酸を使用した実施例ワニスV1〜V6及びV8は、40m/minの印刷速度(40mJ/cm2)において30g未満の剥離強度であり、紫外線照射量の低減が可能となった。二塩基酸無水物及び多塩基酸無水物として、ヘキサヒドロ無水フタル酸を使用した実施例ワニスV7は、20m/minの印刷速度(80mJ/cm2)において30g未満の剥離強度であり、比較例V9より優れていた。
図1