(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5725559
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】液状導電性樹脂組成物及び電子部品
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20150507BHJP
C08K 3/00 20060101ALI20150507BHJP
H01B 1/20 20060101ALI20150507BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08K3/00
H01B1/20 Z
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-289594(P2011-289594)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-139494(P2013-139494A)
(43)【公開日】2013年7月18日
【審査請求日】2014年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(72)【発明者】
【氏名】金丸 達也
(72)【発明者】
【氏名】植原 達也
【審査官】
繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−001330(JP,A)
【文献】
特開昭61−085475(JP,A)
【文献】
特開昭61−095070(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/094543(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂
(B)フェノール樹脂である硬化剤(但し、ポリアミン変性フェノール樹脂を除く) 成分(A)中のエポキシ基1当量に対する成分(B)中のエポキシ基と反応性の基の量が0.8〜1.25当量となる量、
但し、成分(A)及び成分(B)の少なくとも1つが液状である
(C)硬化促進剤 成分(A)と成分(B)の合計100質量部に対して0.05〜10質量部
(D)導電性フィラー 成分(A)と成分(B)の合計100質量部に対して300〜650質量部、及び
(E)25℃において固体状の熱可塑性樹脂の粒子 成分(A)と成分(B)の合計100質量部に対して3〜50質量部
を含む液状導電性樹脂組成物であって、(D)成分と(E)成分の合計の配合量が、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して700質量部以下であり、
該組成物を加熱すると、加熱後の前記(E)成分の平均粒子径が加熱前の前記(E)成分の平均粒子径の1.5倍以上になる
液状導電性樹脂組成物。
【請求項2】
溶剤及び反応性希釈剤のいずれも含有しない、請求項1項記載の液状導電性樹脂組成物。
【請求項3】
(E)成分が、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、フェノキシ樹脂、ブタジエン樹脂、ポリスチレン樹脂又はこれらの共重合体から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂の粒子である、請求項1または2記載の液状導電性樹脂組成物。
【請求項4】
(E)成分が、ポリスチレン換算の数平均分子量1,000〜10,000,000及び重量平均分子量10,000〜100,000,000を有する、請求項1〜3のいずれか1項記載の液状導電性樹脂組成物。
【請求項5】
E型粘度計により25℃において測定される導電性樹脂組成物の粘度が、10〜500Pa・sである、請求項1〜4のいずれか1項記載の液状導電性樹脂組成物。
【請求項6】
(E)熱可塑性樹脂の粒子がコア・シェル構造を有し、前記コアがシリコーン樹脂、フッ素樹脂、又はブタジエン樹脂からなるゴム粒子であり、前記シェルが線形分子鎖からなる、請求項1〜5のいずれか1項記載の液状導電性樹脂組成物。
【請求項7】
40℃〜200℃の範囲にある温度で1分間〜3時間の範囲にある時間、前記液状導電性樹脂組成物を加熱することにより、加熱後の(E)成分の平均粒子径が加熱前の(E)成分の平均粒子径の1.5倍以上になる、請求項1〜6のいずれか1項記載の液状導電性樹脂組成物。
【請求項8】
加熱後の(E)成分の平均粒子径が加熱前の(E)成分の平均粒子径の1.5倍以上4倍以下になる、請求項1〜7のいずれか1項記載の液状導電性樹脂組成物。
【請求項9】
日本ゴム協会標準規格(SRIS)2301に基づき25℃において測定される体積抵抗率が1x10−3Ω・cm以下である硬化物を与える、請求項1〜8のいずれか1項に記載の液状導電性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項記載の液状導電性樹脂組成物を接着剤またはシール材として備えた電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性ペーストに関し、少量の導電性粒子の添加で低い体積抵抗率(高い導電性)を得られる液状導電性樹脂組成物及び該組成物を接着剤またはシール材として使用した電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体装置のリードフレームと半導体チップの接着において、金メッキしたリードフレームや金テープの小片を用いてAu−Si共晶を形成させる方法が高信頼性の面で有効であったが、コスト面等から導電性ペーストを用いる方法に切り替わっている。通常、導電性ペーストは、銀等の金属粉末をバインダーとなる有機樹脂に配合したものが用いられるが、近年の半導体チップの大型化や半田リフロー温度の高温化に伴い、導電性ペーストに対する信頼性の向上が重要になりつつある。
【0003】
低体積抵抗率の導電性ペーストを得るためには、樹脂組成物に多量の導電性粒子が添加される。しかし、このような樹脂組成物では、多量の導電性粒子を添加することにより、導電性ペーストの粘度が上昇することは避けられず、溶剤や反応性希釈剤を組成物に添加してペーストとしての性状を保つことが必要とされる(特許文献1及び2)。しかし、溶剤や反応性希釈剤を添加すると、得られる硬化物の機械的強度、耐熱性、あるいは接着性などが低下するといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−1330号公報
【特許文献2】特開2011−202015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、少量の導電性粒子の添加で低い体積抵抗率(高い導電性)を発現することができ、かつ耐熱性及び接着性に優れた導電性樹脂組成物を提供する事を目的とする。本発明者らは、当該課題を解決するために鋭意検討した結果、室温では固体である熱可塑性樹脂の粒子が、加温時に液状のエポキシ樹脂と硬化剤を吸収し、膨潤することにより、樹脂組成物内に樹脂成分の密度が高くなる部分と導電性粒子の密度が高くなる部分を生じさせる(不均化する)現象を利用すれば、少量の導電性粒子の添加でも低い体積抵抗率(高い導電性)を発現する樹脂組成物を得られることを知見し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち本発明は、
(A)エポキシ樹脂
(B)
フェノール樹脂である硬化剤
(但し、ポリアミン変性フェノール樹脂を除く) 成分(A)中のエポキシ基1当量に対する成分(B)中のエポキシ基と反応性の基の量が0.8〜1.25当量となる量、
但し、成分(A)及び成分(B)の少なくとも1つが液状である
(C)硬化促進剤 成分(A)と成分(B)の合計100質量部に対して0.05〜10質量部
(D)導電性フィラー 成分(A)と成分(B)の合計100質量部に対して300〜650質量部、及び
(E)25℃において固体状の熱可塑性樹脂の粒子 成分(A)と成分(B)の合計100質量部に対して3〜50質量部
を含む液状導電性樹脂組成物であって、(D)成分と(E)成分の合計の配合量が、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して700質量部以下であり、
該組成物を加熱すると、加熱後の前記(E)成分の平均粒子径が加熱前の前記(E)成分の平均粒子径の1.5倍以上になる
液状導電性樹脂組成物
及び該組成物を接着剤またはシール材として使用した電子部品を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の液状導電性樹脂組成物は、少ない導電性粒子の添加量で低い体積抵抗率を実現でき、リードフレームなどの金属に対する接着力が良好である。また、本発明の液状導電性樹脂組成物は溶剤や反応性希釈剤を含有しないため、該組成物を接着剤またはシール材として使用することによって高耐湿性、高接着性を有する電子部品が得られる。さらに、本発明の液状導電性樹脂組成物は粘度が低いため、ディスペンスや印刷などの作業性に優れ、ダイボンド材、ヒートシンク用接着剤、リッドシール材などの液状導電性樹脂組成物として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の液状導電性樹脂組成物の加熱前の状態を示した模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の液状導電性樹脂組成物の加熱後の状態を示した模式図である。
【
図3】
図3は、実施例1で調製した組成物のDSC測定データである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の組成物を成分ごとに説明する。
(A)エポキシ樹脂
エポキシ樹脂は、一分子中に2個以上のエポキシ基があれば特に制限されるものではない。例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型、ビフェニル型、フェノールアラルキル型、ジシクロペンタジエン型、ナフタレン型、及びアミノ基含有型等の各種エポキシ樹脂や、分子中にフェニレン環等の芳香環を1個有する多官能エポキシ樹脂、及びこれらの混合物等が挙げられる。また、エポキシ樹脂はシリコーン変性エポキシ樹脂を含んでいてもよい。シリコーン変性エポキシ樹脂を含む事により、得られる硬化物の応力を緩和してクラックの発生を抑制し、さらに半導体装置に耐熱衝撃性を付与することができる。シリコーン変性エポキシ樹脂は公知のものを使用すればよい。本発明において(A)エポキシ樹脂は液状であることが好ましく、特には、40℃〜200℃で液状であるものがよい。なかでも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、あるいは芳香環を1個有する多官能エポキシ樹脂等の室温(25℃)で液状のエポキシ樹脂が好ましい。
【0010】
尚、上記記載において、分子中に芳香環を1個有する多官能エポキシ樹脂とは、例えば、以下に示すものが挙げられる。
【化1】
【0011】
(B)硬化剤
硬化剤は、エポキシ樹脂用硬化剤として公知のものを使用することができ、例えばフェノール樹脂、酸無水物、及びアミン類が挙げられる。この中でも硬化性とBステージ状態の安定性のバランスを考慮すると、フェノール樹脂が好ましい。該フェノール樹脂としては、ノボラック型、ビスフェノール型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、ナフタレン型、シクロペンタジエン型、及びフェノールアラルキル型等が挙げられ、これらを単独、あるいは2種類以上を混合して用いても良い。発明において(B)硬化剤は液状であることが好ましく、特には、40℃〜200℃で液状であるものが好適である。中でも、室温(25℃)で液状のビスフェノール型フェノール樹脂、またはノボラック型フェノール樹脂が好ましい。尚、本発明において、上記(A)成分と当該(B)成分の少なくとも一つは液状である。また、本発明の組成物はシリコーン変性フェノール樹脂を含んでいてもよい。シリコーン変性フェノール樹脂を含む事により、得られる硬化物の応力を緩和してクラックの発生を抑制し、さらに半導体装置に耐熱衝撃性を付与することができる。シリコーン変性フェノール樹脂は公知のものを使用すればよい。
【0012】
硬化剤の配合量は、成分(A)中のエポキシ基1当量に対する成分(B)中のエポキシ基と反応性の基((B)成分がフェノール樹脂の場合にはフェノール性水酸基)の当量比[(B)硬化剤中のエポキシ基と反応性の基の当量/(A)成分中のエポキシ基の当量]が0.8〜1.25、好ましくは0.9〜1.1となる量の範囲にする。配合当量比(モル比)が前記下限値未満では、得られる硬化物中に未反応のエポキシ基が残存し、ガラス転移温度が低下したり、基材に対する密着性が低下するおそれがある。前記上限値を越えると硬化物が硬く脆くなり、リフロー時又は温度サイクル時にクラックが発生するおそれがある。
【0013】
(C)硬化促進剤
硬化促進剤としては、例えば有機リン、イミダゾール、3級アミン等の塩基性有機化合物が挙げられる。有機リンの例としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ(p−トルイル)ホスフィン、トリ(p−メトキシフェニル)ホスフィン、トリ(p−エトキシフェニル)ホスフィン、トリフェニルホスフィン・トリフェニルボレート誘導体、テトラフェニルホスフィン・テトラフェニルボレート誘導体等が挙げられる。イミダゾールの例としては、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、及び2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられ、3級アミンの例としてはトリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン、α−メチルベンジルジメチルアミン、及び1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等が挙げられる。
【0014】
これらのなかでも、下記式(1)に表されるテトラフェニルホスフィン・テトラフェニルボレート誘導体、又は下記式(2)で表されるメチロールイミダゾール誘導体が好ましい。
【化2】
(但し、R
7〜R
14は夫々独立に水素原子又は或いは炭素数1〜10の炭化水素基、或いはハロゲン原子である。)
【化3】
(但し、R
15はメチル基或いはメチロール基であり、R
16は炭素数1〜10の炭化水素基である。)
【0015】
硬化促進剤の添加量は、(A)エポキシ樹脂と(B)硬化剤との合計100質量部に対して、0.05〜10質量部であることが望ましく、特に0.1〜5質量部であることが望ましい。硬化促進剤が前記下限値未満である場合は、接着剤組成物が硬化不十分になる恐れがあり、また前記上限値より多い場合は液状導電性樹脂組成物の保存性に支障をきたす恐れがある。
【0016】
(D)導電性フィラー
導電性フィラーとしては、金、銀、銅、錫、亜鉛、ニッケル、コバルト、鉄、マンガン、アルミニウム、モリブデン、及びタングステン等の各種の金属及びこれらの合金が挙げられ、形状は、球状、粒状、鱗片状、及び針状等が挙げられる。またシリカ、アルミナ、有機樹脂、及びシリコーンゴム等の絶縁性粉末の表面を上記の各種の金属で蒸着、或いはメッキした粉末を用いても良い。フィラーの重量平均粒子径は0.1〜30μm、特に0.5〜10μmであることが望ましい。重量平均粒子径は例えば、レーザー光回折法による粒度分布測定における累積質量平均径(d
50)又はメジアン径等として求めることができる。
【0017】
導電性フィラーの配合量は、(A)エポキシ樹脂と(B)硬化剤との合計の100質量部に対して、300〜1000質量部、特に350〜800質量部、とりわけ400〜650質量部であることが望ましい。前記下限値未満である場合は導電性が不十分となり、前記上限値を超える場合は組成物の粘度が高くなり作業性が悪くなる恐れがあるばかりでなく、後述する(E)成分の熱可塑性樹脂粒子の膨潤性を妨げる場合がある。尚、硬化物の体積抵抗率は室温において1×10
−3Ω・cm以下、特に5×10
−4Ω・cm以下であることが望ましい。該体積抵抗率は、日本ゴム協会標準規格(SRIS)2301に準拠して25℃にて測定して得られた値である。
【0018】
(E)25℃において固体状の熱可塑性樹脂の粒子
25℃で固体状の熱可塑性樹脂の粒子は、公知の熱可塑性樹脂の粒子であってよく、該樹脂としては、例えば、AAS樹脂、AES樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、MBS樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、メタクリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリブタジエン樹脂、各種のフッ素樹脂、各種のシリコーン樹脂、ポリアセタール、各種のポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポニフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等、もしくはこれらの共重合体が挙げられる。これらの中でも、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、フェノキシ樹脂、ブタジエン樹脂、ポリスチレン樹脂、又はこれらの共重合体から選択される少なくとも1種であることが望ましい。また、粒子の内核(コア)部と外皮(シェル)部で樹脂が異なるコア・シェル構造であっても良い。その場合コアはシリコーン樹脂、フッ素樹脂、又はブタジエン樹脂等からなるゴム粒子であり、シェルは線形分子鎖からなる上記各種の熱可塑性樹脂であることが望ましい。
【0019】
該熱可塑性樹脂の粒子は略球状、円柱もしくは角柱状、不定形状、破砕状、及び燐片状等であってよく、ダイボンド剤用途には略球状、及び鋭角部を有しない不定形状が好ましい。該熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径は、用途に応じて適宜選択されるが、通常は最大粒子径(d
99:99%累積径)が10μm以下、特に5μm以下であることが望ましく、平均粒子径は0.1〜5μm、特に0.1〜2μmであることが望ましい。最大粒子径が上記上限値より大きい、或いは平均粒子径が上記上限値より大きい場合は、粒子熱可塑性樹脂の一部が十分に膨潤せずに残り、硬化後の組成物の体積抵抗率を高くする恐れがある。一方、平均粒子径が前記下限値よりも小さい場合、組成物の粘度が大きくなり、作業性が著しく悪くなる恐れがある。本発明において熱可塑性樹脂の粒子の平均粒子径とは重量平均粒子径を意味する。なお粒子径の測定は、電子顕微鏡観察により行うことができる他、レーザー光回折法による粒度分布測定における累積質量平均径(d
50)又はメジアン径等として求めることができる。
【0020】
該熱可塑性樹脂は架橋構造を有していてもよい。しかし熱可塑性樹脂がエポキシ樹脂の網目構造中に均一に分散された構造を形成することが好ましいことから、架橋度は低い方が好ましく、より好ましくは架橋の無い線状分子鎖を有するものである。
【0021】
該熱可塑性樹脂粒子の分子量は、樹脂の種類に依存して適宜選択される。典型的には、ポリスチレン換算の数平均分子量が1,000〜10,000,000、好ましくは10,000〜100,000であり、重量平均分子量が10,000〜100,000,000、好ましくは100,000〜1,000,000である。数平均分子量が上記下限値より小さい、或いは重量平均分子量が上記下限値より小さい場合は、膨潤する温度が低温になりすぎ、組成物の安定性が悪くなる恐れがある。一方、数平均分子量が上記上限値より大きい、或いは重量平均分子量が上記上限値より大きい場合は、膨潤する温度が高くなり、十分に膨潤せず体積抵抗が高くなる恐れがある。平均分子量(平均重合度)は、例えば、トルエン、テトラヒドロフラン、アセトン等を展開溶媒としてGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)分析におけるポリスチレン換算の数平均値や重量平均値として求めることができる。
【0022】
熱可塑性樹脂粒子の配合量は、低い体積抵抗値を得るために、成分(A)と成分(B)との合計の100質量部に対して、好ましくは3〜50質量部、より好ましくは5〜30質量部、更に好ましくは10〜30質量部である。熱可塑性樹脂の含有量が前記下限値より少ない場合は加熱した際に熱可塑性樹脂粒子が十分に膨潤せず、銀粉同士の接触が妨げられ、低い体積抵抗値(高い導電性)を得られなくなる恐れがある。含有量が前記上限値よりも多い場合も、熱可塑性樹脂粒子の膨潤が妨げられ、銀粉同士の接触が妨げられ、低い体積抵抗値(高い導電性)を得られなくなる恐れがある。また、粘度が上昇し作業性を悪くする恐れもある。
【0023】
本発明の組成物は該組成物を加熱することにより、熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径が加熱前の平均粒子径の1.5倍以上、特に2倍以上になる事を特徴とする。加熱後の熱硬化性樹脂粒子の平均粒子径の上限は、加熱前の平均粒子径の4倍以下であることが好ましく、特には3.5倍以下であるのがよい。これは、組成物を加熱すると、組成物中に含まれる熱可塑性樹脂粒子が前記(A)〜(C)成分の少なくとも一つの成分を吸収し、膨潤することによるものである。特には、40℃〜200℃の範囲にある温度で1分間〜3時間の範囲にある時間、さらには125℃〜165℃の範囲にある温度で1〜3時間の範囲にある時間、該組成物を加熱することによって、加熱後の熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径が加熱前の平均粒子径の1.5倍以上、特に2倍以上になる。当該加熱は、組成物を硬化するための加熱あるいはBステージ化するための加熱と同じ工程であっても、別々の工程であってもよい。加熱後の熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径は、例えば、硬化物の表面を電子顕微鏡により観察することにより測定できる。前記(E)成分の膨潤性は、該熱可塑性樹脂粒子の分子量及び分散度、(E)成分の配合量、及び(D)成分の配合量に依存するものであり、組成物を加熱した後の平均粒子径が上記条件を満たすように適当な組合せを選択して配合する。特に(E)成分と(D)成分の配合量の合計は、(A)成分と(B)成分との合計100質量部に対して700質量部以下、好ましくは300〜700質量部であることが(E)成分の膨潤性を確保する点から望ましい。
【0024】
(F)その他の成分
上記成分の他、本発明の組成物には用途に応じて、シランカップリング剤、難燃剤、イオントラップ剤、ワックス、着色剤、接着助剤等を、本発明の目的を阻害しない量で、添加することができる。
【0025】
上記シランカップリング剤としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシプロピル)テトラスルフィド、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。これらの中でもγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを使用することが好ましい。上記カップリング剤を用いる場合、その使用量は、上記(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、通常0.1〜5.0質量部であり、好ましくは0.3〜3.0質量部である。
【0026】
導電性樹脂組成物の調製法
本発明の導電性樹脂組成物は、上述した各成分を、公知の混合方法、例えば、ミキサー、ロール等を用いて混合することによって、調製することができる。本発明の導電性樹脂組成物は、例えば、5〜200μmのいずれかの厚さとなるように基板に塗布した時に、60℃〜200℃、好ましくは40℃〜150℃の範囲にある温度で、1分間〜3時間、好ましくは10分間〜1時間の範囲にある時間、加熱することによりBステージ化することが可能である。
【0027】
本発明の導電性樹脂組成物の粘度としては、E型粘度計により25℃で測定した値が、10〜500Pa・s、特には30〜400Pa・sであるのがよい。粘度が上記上限値超では導電性樹脂組成物と基材との濡れ性が悪くなり、ボイドや接着不良の原因となるため好ましくない。また、上記下限値未満では、室温でタック性(粘着性)が生じてしまい、例えば該組成物をダイボンド材として使用する場合、ダイシングテープとの離型性が悪化する傾向にあるため好ましくない。
【0028】
本発明の導電性樹脂組成物は、各種電子部品の接着剤またはシール材として使用可能であり、例えば、ダイボンド材、ヒートシンク用接着剤、またはリッドシール材として好適に使用することができる。前記使用態様は従来公知の方法や装置を用いて行えばよい。典型的な硬化条件は、100℃〜200℃、好ましくは120〜180℃の範囲にある温度で、8時間〜1時間、好ましくは1.5〜3時間の範囲にある時間である。なお、導電性樹脂組成物の硬化は半導体装置の樹脂封止工程において同時に行ってもよい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
実施例1〜3、比較例1〜6
下記に示す各成分を表1に示す配合量で配合し、25℃のプラネタリーミキサーで混合し、25℃の3本ロールを通過させた後、25℃においてプラネタリーミキサーで再度混合して、各組成物を調製した。
【0031】
使用樹脂等
(A)エポキシ樹脂
・ビスフェノールF型エポキシ樹脂(YDF−8170C(新日鉄化学製))、エポキシ当量160、室温(25℃)で液状(粘度1.5Pa・s)
(B)硬化剤
・液状フェノールノボラック型樹脂、(MEH−8000H(明和化成製))フェノール当量141 室温(25℃)で液状(粘度2.5Pa・s)、
(C)硬化促進剤
・2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール(2E4MHZ−PW(四国化成製))
(D)導電性フィラー
・燐片状銀粉:重量平均粒子径6.1μm、(AgC−237(福田金属箔粉工業社製))
(E)熱可塑性樹脂の粒子
・ポリメタクリル酸メチル:数平均分子量50,000、重量平均分子量150,000、平均粒子径1μm、最大粒子径(d
99)3μm
・シリコーンパウダー:平均粒子径2μm、最大粒子径(d
99)5μm (KMP−605(信越化学工業社製))
(F)その他の成分
・シランカップリング剤:KBM403(信越化学工業製)
・溶剤:ジエチレングリコールモノエチルエーテル EDGAC(ダイセル化学製)
・反応性希釈剤:ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル エポキシ当量268 デナコールEX830 (ナガセケムテックス社製) 室温(25℃)で液状(粘度0.07Pa・s)
【0032】
各組成物について、以下の諸試験を行った。結果を表1に示す。
【0033】
試験方法
(a)粘度
各組成物について、JIS Z−8803に準じ、E型粘度計(HBDV−III、ブルックフィールド社製)を用いて、測定温度25℃、ずり速度2.00(sec
−1)、回転開始後2分における粘度を測定した。
【0034】
(b)硬化物の体積抵抗率
日本ゴム協会標準規(SRIS) 2301に基づき、各組成物の硬化物について、測定温度25℃における、体積抵抗率を測定した。
【0035】
(c)接着力
シリコンチップ(基材A)、銅板(基材B)、及び42アロイ(基材C)の夫々の上に、上面の直径2mm、下面の直径5mm、及び高さ3mmを有する円錐台形状となるように各樹脂組成物を搭載し、125℃で1時間加熱後、さらに165℃で2時間加熱して硬化させ、各々5個の試験片を作成した。各試験片の硬化後の剪断接着力を測定し、初期値とした。更に、各試験片を85℃/85%RHの恒温恒湿器に168時間放置した後、最高温度が260℃であるIRリフローオーブン中を3回通過させ(高温高湿試験)、該高温高湿試験後の各試験片の接着力を測定した。尚、表1に記載の値は、5個の試験片の平均値である。剪断接着力の測定は万能ボンドテスター シリーズ4000(DAGE社製)を用いて行った。
【0036】
(d)熱可塑性樹脂の膨潤性
15mm×5mm×5mmの金型へ各樹脂組成物を注入し、125℃で1時間加熱後、さらに165℃で2時間加熱して硬化した後、任意の部分を電子顕微鏡VE−8800(キーエンス社製)で2000倍観察し100点測定した。熱可塑性樹脂の大きさ(平均径)を各粒子の長径と短径の平均値とし、100点測定した平均値を求め、熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径とした。
熱可塑性樹脂粒子の膨潤性は、下記式を用いて算出した。
膨潤性=(加熱硬化後の熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径)/(樹脂組成物に配合する前の熱可塑性樹脂の平均粒子径)
【0037】
【表1】
【0038】
表1に示されるように、熱可塑性樹脂を含まない比較例4の組成物から得られる硬化物は体積抵抗率が高い。熱可塑性樹脂を含有せず、溶剤を含有する比較例5の組成物や反応性希釈剤を含有する比較例6の組成物から得られる硬化物は、体積抵抗率は低いが、耐熱性及び接着性に劣る。加熱後の熱可塑性樹脂の平均粒子径が加熱前の熱可塑性樹脂の平均粒子径の1.5倍未満である比較例3の組成物から得られる硬化物は体積抵抗率が高い。比較例1は、導電性フィラーの量が少なすぎるため硬化物の体積抵抗率が高くなる。比較例2は、導電性フィラーと熱可塑性樹脂の合計配合量が多すぎるため粘度が高く、熱可塑性樹脂が十分に膨張しないため硬化物の体積抵抗率が高い。これに対し、本発明の樹脂組成物は、低粘度であり、導電性フィラーの添加量が少なくても低い体積抵抗率を有する。また、本発明の樹脂組成物は耐高温高湿性に優れており、高温高湿試験後でも良好な接着性を有する。
【0039】
示差走査熱量測定
実施例1の組成物を、DSC821e(METTLER TOLEDO社製)を用いて、昇温速度10℃/min、25℃〜250℃の測定温度範囲でDSC測定した。得られたDSC測定データを
図1に示す。
図1に示される通り、硬化反応による発熱の前に、熱可塑性樹脂が膨張する際の発熱が生じており、加熱により熱可塑性樹脂が膨張していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の液状導電性樹脂組成物は、少ない導電性粒子の添加量で低い体積抵抗率を実現でき、かつ、粘度が低いため、ダイボンド材、ヒートシンク用接着剤、リッドシール材などのための液状導電性樹脂組成物として好適に使用できる。更に、本発明の液状導電性樹脂組成物は溶剤や反応性希釈剤を含有しておらず、また耐高温高湿性に優れるため、該組成物を接着剤またはシール材として使用することによって高耐湿性、高接着性を有する電子部品が得られる。
【符号の説明】
【0041】
1.組成物を加熱する前の熱可塑性樹脂粒子
2.エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤及びその他の成分
3.導電性フィラー
4.組成物を加熱した後の熱可塑性樹脂粒子