特許第5725574号(P5725574)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5725574マイクロ波導波装置、プラズマ処理装置及びプラズマ処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5725574
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】マイクロ波導波装置、プラズマ処理装置及びプラズマ処理方法
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/24 20060101AFI20150507BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20150507BHJP
【FI】
   H05H1/24
   H05H1/46 B
【請求項の数】11
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-43404(P2013-43404)
(22)【出願日】2013年3月5日
(65)【公開番号】特開2014-175051(P2014-175051A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2013年7月12日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトの掲載日 平成25年1月21日 ウェブサイトのアドレス http://www.plasma.engg.nagoya−u.ac.jp/IC−2013/pdf/ic2013_timetable.pdf
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 「刊行物等」 発行日 平成25年2月2日 刊行物 IC−PLANTS 2013 The 6▲th▼ International Conference on PLAsma−Nano Technology & Society予稿集
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 「刊行物等」 開催日 平成25年2月2日 集会名、開催場所 IC−PLANTS 2013 The 6▲th▼ International Conference on PLAsma−Nano Technology & Society 下呂交流会館
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122507
【弁理士】
【氏名又は名称】柏岡 潤二
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 仁
(72)【発明者】
【氏名】久保田 雄介
(72)【発明者】
【氏名】豊田 浩孝
(72)【発明者】
【氏名】堀 勝
【審査官】 林 靖
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−059798(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/033278(WO,A1)
【文献】 特開2010−080350(JP,A)
【文献】 特表2001−527300(JP,A)
【文献】 特開2003−229701(JP,A)
【文献】 特開2007−082171(JP,A)
【文献】 特開2007−265838(JP,A)
【文献】 特表2008−508683(JP,A)
【文献】 特開2012−199226(JP,A)
【文献】 特開2012−256437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00−1/54
C23C 14/00−14/58
C23C 16/00−16/56
H01L 21/302
H01L 21/304
H01L 21/461
H01L 21/3065
H01L 21/205
H01L 21/31
H01L 21/365
H01L 21/469
H01L 21/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ生成用のマイクロ波導波装置であって、
第1端と第2端を有し、入力端からのマイクロ波を該第1端から該第2端に向けて伝搬する導波管と、
第1ポート、前記第1端に結合された第2ポート、及び前記第2端に結合された第3ポートを有し、前記入力端からの前記マイクロ波を前記第1ポートに受けて該マイクロ波を前記第2ポートから前記第1端に結合し、前記第2端からのマイクロ波を前記第3ポートに受けて該マイクロ波を前記入力端側に戻すサーキュレータと、
前記入力端と前記サーキュレータとの間に介在し、前記サーキュレータの前記第3ポートに受けて前記入力端側に戻されたマイクロ波の一部を前記サーキュレータの前記第1ポートに反射する整合器と、
前記導波管の経路上に配置され、前記第1端から前記第2端に向けて伝搬される前記マイクロ波を通過させ、かつ前記第2端から前記第1端に向けて伝搬される前記マイクロ波を遮断する第1の方向性結合器と、
を備え、
前記導波管には、該導波管内のマイクロ波の伝搬方向に沿って延びるスロット孔が形成されている、マイクロ波導波装置。
【請求項2】
前記入力端と前記整合器との間に介在し、前記入力端からの前記マイクロ波を通過させ、かつ前記整合器からの前記マイクロ波を遮断する第2の方向性結合器を更に備える、請求項1に記載のマイクロ波導波装置。
【請求項3】
前記入力端と前記整合器との間に介在し、前記入力端からの前記マイクロ波を前記整合器に導き、かつ前記整合器からの前記マイクロ波をダミーポートへ導くアイソレータを更に備える、請求項1又は2に記載のマイクロ波導波装置。
【請求項4】
マイクロ波を発生し、該マイクロ波を前記入力端に供給するマイクロ波発生器を更に備え、
前記マイクロ波発生器は、パルス状のマイクロ波を発生する、請求項1〜の何れか一項に記載のマイクロ波導波装置。
【請求項5】
プラズマ生成用のガスを前記導波管内に導入するためのガス供給孔を更に備える、請求項1〜の何れか一項に記載のマイクロ波導波装置。
【請求項6】
請求項1〜の何れか一項に記載のマイクロ波導波装置と、
前記スロット孔に供給されるマイクロ波のエネルギーを受けるようにガスを供給するガス供給部と、
前記ガスのプラズマにより被処理体を処理するための空間を画成する処理容器と、を備えるプラズマ処理装置。
【請求項7】
マイクロ波を発生し、該マイクロ波を入力端に供給するマイクロ波発生器と、
第1端と第2端を有し、前記入力端からのマイクロ波を該第1端から該第2端に向けて伝搬する導波管であり、マイクロ波の伝搬方向に沿って延びるスロット孔が形成されている該導波管と、
第1ポート、前記第1端に結合された第2ポート、及び前記第2端に結合された第3ポートを有し、前記入力端からの前記マイクロ波を前記第1ポートに受けて該マイクロ波を前記第2ポートから前記第1端に結合し、前記第2端からのマイクロ波を前記第3ポートに受けて該マイクロ波を前記入力端側に戻すサーキュレータと、
前記入力端と前記サーキュレータとの間に介在し、前記サーキュレータの前記第3ポートに受けて前記入力端側に戻された前記マイクロ波の一部を前記サーキュレータの前記第1ポートに反射する整合器と、
前記導波管の経路上に配置され、前記第1端から前記第2端に向けて伝搬される前記マイクロ波を通過させ、かつ前記第2端から前記第1端に向けて伝搬される前記マイクロ波を遮断する第1の方向性結合器と、
前記スロット孔に供給されるマイクロ波のエネルギーを受けるようにガスを供給するガス供給部と、
前記ガスのプラズマにより被処理体を処理するための空間を画成する処理容器と、を備えるプラズマ処理装置。
【請求項8】
マイクロ波を発生し、該マイクロ波を入力端に供給するマイクロ波発生器と、
第1端と第2端を有し、前記入力端からのマイクロ波を該第1端から該第2端に向けて伝搬する導波管であり、マイクロ波の伝搬方向に沿って延びるスロット孔が形成されている該導波管と、
第1ポート、前記第1端に結合された第2ポート、及び前記第2端に結合された第3ポートを有し、前記入力端からの前記マイクロ波を前記第1ポートに受けて該マイクロ波を前記第2ポートから前記第1端に結合し、前記第2端からのマイクロ波を前記第3ポートに受けて該マイクロ波を前記入力端側に戻すサーキュレータと、
前記入力端と前記サーキュレータとの間に介在し、前記サーキュレータの前記第3ポートに受けて前記入力端側に戻された前記マイクロ波の一部を前記サーキュレータの前記第1ポートに反射する整合器と、
前記スロット孔に供給されるマイクロ波のエネルギーを受けるようにガスを供給するガス供給部と、
前記ガスのプラズマにより被処理体を処理するための空間を画成する処理容器と、前記導波管に形成され、マイクロ波の伝搬方向に沿って延びるスロット孔と、を備え、
前記スロット孔において、マイクロ波の伝搬方向に沿って移動する点状のプラズマを生成することを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項9】
前記ガスは、濃度が0.1%〜4%の水素ガスである、請求項6〜8の何れか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項10】
請求項の何れか一項に記載のプラズマ処理装置を用いたプラズマ処理方法であって、
前記処理容器内に被処理体を収容する工程と、
前記ガス供給部から前記ガスを供給する工程と、
前記ガスのプラズマにより被処理体を処理する工程と、
を含むプラズマ処理方法。
【請求項11】
前記ガスは、濃度が0.1%〜4%の水素ガスである、請求項10に記載のプラズマ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、マイクロ波導波装置、プラズマ処理装置及びプラズマ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、導波管内に供給されたマイクロ波によってガスのプラズマを生成する装置が知られている。例えば、特許文献1には、導波管内の壁を貫通して細長くカットしたスロットが形成された直線状の導波管と、この導波管に接続されたマイクロ波電源とを備えたプラズマ発生器が記載されている。このプラズマ発生器においては、スロットにおいてプラズマを生成するために、マイクロ波電源から導波管内にマイクロ波電力が供給されている。
【0003】
また、特許文献2には、マイクロ波発生装置に接続され、マイクロ波の伝送方向に長尺をなす矩形導波管と、矩形導波管の内部へ処理ガスを供給するガス供給装置と、矩形導波管の一面に放電をおこさせる長方形の複数のスロット孔を設け、スロット孔で生成したプラズマを外部に放出するアンテナ部とを備え、矩形導波管内に定在波を形成するプラズマ生成装置が記載されている。この装置においては、アンテナ部におけるマイクロ波の定在波の腹の部分に対応する位置に、矩形導波管の外部にプラズマを放出するスロット孔が形成されている。
【0004】
特許文献3には、マイクロ波の進行波を共振させる環状共振器と、マイクロ波を分配する複数の結合器に結合され、プラズマ発生室にマイクロ波を導入する複数のアプリケータとを備えるプラズマ発生装置が記載されている。この装置においては、導入導波管と環状共振器との間に、環状導波管内に伝搬される反射波をダミーロードに導く方向性結合器が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002−526903号公報
【特許文献2】特開2012−64444号公報
【特許文献3】特許第4900768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のプラズマ発生器においては、導波管の端部に設けられた終端器により反射波の発生を抑制しているが、終端器により反射波の発生を完全に防止することは困難である。したがって、このプラズマ発生器の導波管内部を伝達するマイクロ波は、定在波となるおそれがある。このため、このプラズマ発生器では、定在波の影響により導波管のスロット形成位置においてマイクロ波の強度が不均一化してしまう。したがって、このプラズマ発生器では、均一なプラズマを安定的に発生させることは困難である。
【0007】
また、特許文献2に記載のプラズマ生成装置においては、マイクロ波の定在波の腹の部分に対応する位置に設けられたスロット孔でプラズマが形成されるため、マイクロ波の伝送方向に沿って均一なプラズマを生成することは困難である。なお、この装置では、このようなアンテナ部を複数並設することにより、均一なプラズマを生成し得るが、装置が複雑化、大型化するおそれがある。
【0008】
特許文献3に記載のプラズマ発生装置においては、プラズマ環状共振器内を伝搬するマイクロ波のうち、反射成分をダミーロードに導くことで打ち消しているため、マイクロ波の損失が大きくなる。したがって、このプラズマ発生装置では、プラズマを安定的に発生させることは困難である。
【0009】
このため、当技術分野においては、プラズマを安定的に発生させることができるマイクロ波導波装置、プラズマ処理装置及びプラズマ処理方法が要請されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面に係るマイクロ波導波装置は、プラズマ生成用のマイクロ波導波装置であって、第1端と第2端を有し、入力端からのマイクロ波を該第1端から該第2端に向けて伝搬する導波管と、第1ポート、第1端に結合された第2ポート、及び第2端に結合された第3ポートを有し、入力端からのマイクロ波を第1ポートに受けて該マイクロ波を第2ポートから第1端に結合し、第2端からのマイクロ波を第3ポートに受けて該マイクロ波を入力端側に戻すサーキュレータと、入力端とサーキュレータとの間に介在し、サーキュレータの第3ポートに受けて入力端側に戻されたマイクロ波の一部をサーキュレータの第1ポートに反射するEHチューナと、を備え、導波管には、該導波管内のマイクロ波の伝搬方向に沿って延びるスロット孔が形成されている。
【0011】
本発明の一側面に係るマイクロ波導波装置においては、サーキュレータの第3ポートに受けて入力端側に戻されたマイクロ波の一部がサーキュレータの第1ポートに反射される。これにより、導波管及びサーキュレータ及びEHチューナは、環状の導波路を形成する。このため、入力端から伝搬されるマイクロ波と環状の導波路内を循環するマイクロ波とが重畳されることとなり、導波管内のマイクロ波のエネルギーを高めることができる。また、環状の導波路内では、反射波の発生を抑制することができるため、導波路内に定在波が発生することを抑制することができ、その結果、導波路内のマイクロ波の強度を均一化することができる。したがって、本マイクロ波導波装置によれば、導波管に形成されたスロット孔が延びる方向に沿って、当該スロット孔からプラズマを安定的に発生させることが可能なマイクロ波を導波することができる。
【0012】
一形態では、導波管の経路上に配置され、第1端から第2端に向けて伝搬されるマイクロ波を通過させ、かつ第2端から第1端に向けて伝搬されるマイクロ波を遮断する第1の方向性結合器を更に備えてもよい。このような形態によれば、マイクロ波が導波路内を周回する間に反射波の一部が遮断されるため、環状の導波路内に定在波が発生することを防止することができる。
【0013】
一形態では、入力端とEHチューナとの間に介在し、入力端からのマイクロ波を通過させ、かつEHチューナからのマイクロ波を遮断する第2の方向性結合器を更に備えてもよい。このような形態によれば、マイクロ波の反射波が入力端に伝搬されることを防止することができる。
【0014】
一形態では、入力端とEHチューナとの間に介在し、入力端からのマイクロ波をEHチューナに導き、かつEHチューナからのマイクロ波をダミーポートへ導くアイソレータを更に備えてもよい。このような形態によれば、マイクロ波の反射波が入力端に伝搬されることを防止することができる。
【0015】
一形態では、マイクロ波を発生し、該マイクロ波を入力端に供給するマイクロ波発生器を更に備え、マイクロ波発生器は、パルス状のマイクロ波を発生してもよい。発明者は、上述したようなマイクロ波導波装置において、パルス状のマイクロ波を供給することによって、点状のプラズマがマイクロ波の進行方向に沿って高速に移動することにより、全体として実質的に線状のプラズマが生成されることを発見した。このプラズマは、スロット孔の延在方向に渡って均一性の高いプラズマである。このように、本マイクロ波導波装置によれば、均一性の高いプラズマを発生させることが可能なマイクロ波を供給することができる。
【0016】
一形態では、プラズマ生成用のガスを導波管内に導入するためのガス供給孔を更に備えてもよい。このような形態によれば、ガス供給孔を介して導入されたガスを導波路内に導波されるマイクロ波により励起させ、当該ガスのプラズマを生成することができる。
【0017】
本発明の一側面に係るプラズマ処理装置は、上述したマイクロ波導波装置と、スロット孔に供給されるマイクロ波のエネルギーを受けるようにガスを供給するガス供給部と、ガスのプラズマにより被処理体を処理するための空間を画成する処理容器と、を備える。本プラズマ処理装置においては、スロット孔に供給されるマイクロ波のエネルギーによりガスが励起されて、安定したプラズマが生成される。そして、このプラズマを用いて被処理体をプラズマ処理することができる。
【0018】
本発明の一側面に係るプラズマ処理装置は、マイクロ波を発生し、該マイクロ波を入力端に供給するマイクロ波発生器と、第1端と第2端を有し、入力端からのマイクロ波を該第1端から該第2端に向けて伝搬する導波管であり、マイクロ波の伝搬方向に沿って延びるスロット孔が形成されている該導波管と、第1ポート、第1端に結合された第2ポート、及び第2端に結合された第3ポートを有し、入力端からのマイクロ波を第1ポートに受けて該マイクロ波を第2ポートから第1端に結合し、第2端からのマイクロ波を第3ポートに受けて該マイクロ波を入力端側に戻すサーキュレータと、入力端とサーキュレータとの間に介在し、サーキュレータの第3ポートに受けて入力端側に戻されたマイクロ波の一部をサーキュレータの第1ポートに反射するEHチューナと、導波管の経路上に配置され、第1端から第2端に向けて伝搬されるマイクロ波を通過させ、かつ第2端から第1端に向けて伝搬されるマイクロ波を遮断する第1の方向性結合器と、スロット孔に供給されるマイクロ波のエネルギーを受けるようにガスを供給するガス供給部と、ガスのプラズマにより被処理体を処理するための空間を画成する処理容器と、を備える。
【0019】
本発明の一側面に係るプラズマ処理装置においては、サーキュレータの第3ポートに受けて入力端側に戻されたマイクロ波の一部がサーキュレータの第1ポートに反射される。これにより、導波管及びサーキュレータ及びEHチューナは、環状の導波路を形成する。このため、入力端から伝搬されるマイクロ波と環状の導波路内を循環するマイクロ波とが重畳されることとなり、導波管内のマイクロ波のエネルギーを高めることができる。また、環状の導波路内では、反射波の発生を抑制することができるため、導波路内に定在波が発生することを抑制することができ、その結果、導波路内のマイクロ波の強度を均一化することができる。そして、この均一で高いエネルギーのマイクロ波によってスロット部に均一な電界がかかり、これにより均一な放電が生じてガスが励起されるため、本プラズマ処理装置によれば、安定したプラズマを発生することができる。
【0020】
本発明の一側面に係るプラズマ処理装置は、マイクロ波を発生し、該マイクロ波を入力端に供給するマイクロ波発生器と、第1端と第2端を有し、入力端からのマイクロ波を該第1端から該第2端に向けて伝搬する導波管であり、マイクロ波の伝搬方向に沿って延びるスロット孔が形成されている該導波管と、第1ポート、第1端に結合された第2ポート、及び第2端に結合された第3ポートを有し、入力端からのマイクロ波を第1ポートに受けて該マイクロ波を第2ポートから第1端に結合し、第2端からのマイクロ波を第3ポートに受けて該マイクロ波を入力端側に戻すサーキュレータと、入力端とサーキュレータとの間に介在し、サーキュレータの第3ポートに受けて入力端側に戻されたマイクロ波の一部をサーキュレータの第1ポートに反射するEHチューナと、スロット孔に供給されるマイクロ波のエネルギーを受けるようにガスを供給するガス供給部と、ガスのプラズマにより被処理体を処理するための空間を画成する処理容器と、導波管に形成され、マイクロ波の伝搬方向に沿って延びる長尺状のスロット孔と、を備え、スロット孔において、マイクロ波の伝搬方向に沿って移動する点状のプラズマを生成することを特徴とする。
【0021】
本発明の一側面に係るプラズマ処理装置においては、スロット孔において、マイクロ波の伝搬方向に沿って移動する点状のプラズマが生成される。この点状のプラズマは、連続した線状のプラズマと比較して密度が高い。また、この点状のプラズマは、高速に移動しているため、スロット孔の延在方向に渡って高い均一性を有しているものと見なすことができるプラズマである。よって、本プラズマ処理装置によれば、均一性が高く、高密度のプラズマを用いたプラズマ処理をすることができる。
【0022】
本発明の一側面に係るプラズマ処理方法は、上述のプラズマ処理装置を用いたプラズマ処理方法であって、処理容器内に被処理体を収容する工程と、ガス供給部からガスを供給する工程と、ガスのプラズマにより被処理体を処理する工程と、を含む。本プラズマ処理方法によれば、上述したように安定したプラズマにより被処理体をプラズマ処理することができる。
【0023】
一形態では、ガスは、濃度が4%以下、望ましくは0.1〜4%の水素ガスであってもよい。濃度が0.1%〜4%の水素ガスは爆発限界値以下の濃度を有し、爆発するおそれがないガスを用いることにより、プラズマ処理時における安全を確保することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のマイクロ波導波装置、プラズマ処理装置及びプラズマ処理方法によれば、プラズマを安定的に発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】一実施形態に係るマイクロ波供給装置を示す平面図である。
図2】アイソレータの機能を示す図である。
図3】サーキュレータの機能を示す図である。
図4】導波管のスロット孔の形成位置の斜視図である。
図5】スロット孔の形成位置における電界強度を示すシミュレーションの結果である。
図6】EHチューナの一例を示す図である。
図7】一実施形態に係るマイクロ波供給装置を備えたプラズマ処理装置を示す断面図である。
図8図7のマイクロ波供給装置により生成されたプラズマの画像である。
図9】(a)は点状プラズマの移動速度とマイクロ波パワーとの関係を示すグラフであり、(b)は点状プラズマのサイズ及びギャップとマイクロ波パワーとの関係を示すグラフである。
図10】(a)は生成された点状プラズマの移動速度と処理ガスの流量との関係を示すグラフであり、(b)は点状プラズマのサイズ及びギャップと処理ガスの流量との関係を示すグラフである。
図11】(a)は生成された点状プラズマの移動速度とNガスの流量との関係を示すグラフであり、(b)は点状プラズマのサイズ及びギャップとNガスの流量との関係を示すグラフである。
図12】点状プラズマの移動速度とパルス周波数及びデューティー比との関係を示すグラフである。
図13】点状プラズマのサイズ及びギャップとパルス周波数及びデューティー比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して種々の実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
【0027】
まず、一実施形態のマイクロ波供給装置1について説明する。図1は、一実施形態に係るマイクロ波供給装置1を概略的に示すスロット孔が設けられている側から見た平面図である。
【0028】
図1に示すマイクロ波供給装置1は、マイクロ波導波装置2の入力端2Aにマイクロ波発生器12が接続されることにより構成されている。マイクロ波導波装置2は、導入導波部10と、環状導波部20とを備えている。導入導波部10は、アイソレータ14、方向性結合器16、及びEHチューナ18が入力端2A側から順に結合されることにより構成される。EHチューナ18の代わりに4Eチューナやスタブチューナ等の整合器が設けられていてもよい。
【0029】
導波管11は、中空構造をなし、その内部空間にマイクロ波を伝搬させる導入導波部10の一部を構成している。導波管11は、マイクロ波の伝送方向に長尺の矩形導波管であり得る。導波管11は、例えば銅、アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属やこれらの合金によって形成され得る。導波管11内の圧力は、大気圧とし得る。
【0030】
マイクロ波発生器12は、導波管11の一端である入力端2Aに結合されている。マイクロ波発生器12は、例えば、約2.45GHzのマイクロ波を導波管11に供給する。導波管11に供給されたマイクロ波は、環状導波部20に向けて伝搬される。一実施形態では、マイクロ波発生器12は、パルス発振機能を備えており、パルス状のマイクロ波を発生させてもよい。マイクロ波発生器12は、後述する制御部Contに接続され、制御部Contからの制御信号により、マイクロ波パワー、パルスの周波数、デューティー比等が制御される。マイクロ波発生器12により発生されるパルスは、矩形波、正弦波のいずれでもよいが、矩形波であることが望ましい。
【0031】
アイソレータ14は、マイクロ波発生器12の後段において導波管11に結合されている。図2に示すように、アイソレータ14は、導波管11のマイクロ波発生器12が設けられている側と結合された第1ポート14a、導波管11のEHチューナが設けられている側と結合された第2ポート14b、及びダミーポート15と結合された第3ポート14cを有している。アイソレータ14は、マイクロ波発生器12からのマイクロ波を第1ポート14aに受けて、このマイクロ波を第2ポート14bから、導波管11のEHチューナが設けられている側に伝搬させる。一方、アイソレータ14は、導波管11のEHチューナが設けられている側からのマイクロ波を第2ポート14bに受けて、このマイクロ波を第3ポートからダミーポート15に伝搬させる。つまり、アイソレータ14は、マイクロ波発生器12から環状導波部20へ伝搬されるマイクロ波を通過させ、環状導波部20側からマイクロ波発生器12へ向かうマイクロ波をダミーポート15に導くことにより、マイクロ波発生器12を反射電力から保護する。
【0032】
方向性結合器(第2の方向性結合器)16は、アイソレータ14の後段において導波管11に結合されている。方向性結合器16は、入力端2A側からのマイクロ波を通過させ、かつEHチューナ18側からのマイクロ波を遮断する。この方向性結合器16によって、反射波は打ち消され、導波管11内に定在波が発生することが抑制される。
【0033】
EHチューナ18は、Eチューナ部18e及びHチューナ部18hを備え(後述の図6参照)、Eチューナ部18e及びHチューナ部18hのプランジャを出し入れすることで、インピーダンスを調整する装置である。マイクロ波供給装置1の動作時には、EHチューナ18を調整することにより、環状導波部20からの反射波が最小になるように整合をとる。EHチューナ18を調整し、EHチューナ18の反射係数及び透過係数を変化させることにより、環状導波部20から後述するサーキュレータ22を介して出力されたマイクロ波を環状導波部20側に反射することができる。
【0034】
環状導波部20は、導波管21及びサーキュレータ22を含んでいる。一例では、環状導波部20は160cmの長さを有していてもよい。導波管21は、中空構造をなし、その内部空間がマイクロ波を伝搬する環状導波部20の一部を構成している。すなわち、導波管21は、矩形導波管である。導波管21は、第1端21a及び第2端21bを有し、第1端21aから第2端21bまで、環状の経路に沿って延在している。導波管21は、例えば銅、アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属やこれらの合金によって形成され得る。導波管21内の圧力は、大気圧とし得る。
【0035】
図3に示すように、サーキュレータ22は、導波管11の他端に結合された第1ポート22a、第1端21aに結合された第2ポート22b、及び第2端21bに結合された第3ポート22cを有する。サーキュレータ22は、マイクロ波発生器12からのマイクロ波を第1ポート22aで受けて、このマイクロ波を第2ポート22bから第1端21aに伝搬させる。また、サーキュレータ22は、第1端21aからのマイクロ波を第2ポート22bに受けて、このマイクロ波を第3ポート22cから第2端21bに伝搬させる。更に、サーキュレータ22は、第2端21bからのマイクロ波を第3ポート22cに受けて、このマイクロ波を第1ポート22aからマイクロ波発生器12側に戻す。このように、サーキュレータ22によって導入導波部10と環状導波部20とが結合されている。これにより、環状導波部20には、マイクロ波発生器12において発生したマイクロ波が供給される。
【0036】
導波管21には、プラズマを生成してラジカル、イオン等の反応性の高い化学種を生成するための処理ガスを導波管21内に導入するためのガス供給孔26が形成されている。ガス供給孔26から導入された処理ガスは、導波管21内を流通した後に、後述するスロット孔28から外部に放出される。一実施形態では、2つのガス供給孔26が導波管21に設けられている。2つのガス供給孔26とスロット孔28との距離は、互いに等しいことが好ましい。この場合には、処理ガスをスロット孔28に均一に流すことができる。
【0037】
導波管21には、マイクロ波の伝搬方向に沿って延びるスロット孔28が形成されている。スロット孔28は、マイクロ波により生成されたプラズマを導波管21の外部に放出するガス吹き出し孔として機能する。図4は、導波管21のスロット孔28の形成位置の斜視図である。なお、図4においては、導波管21の幅方向をX方向とし、マイクロ波の伝搬方向をZ方向とし、X方向及びZ方向に直交する方向をY方向としている。
【0038】
図4に示すように、導波管21は、一対の壁部23aと、一対の壁部23aに直交して配置される一対の壁部23bとを備えている。壁部23aは、壁部23bに比べて幅が広く形成されている。スロット孔28は、導波管21の壁部23aの一部を切り抜いて形成されており、マイクロ波の伝搬方向を長軸方向とする長尺形状をなしている。壁部23aの寸法は任意であるが、一例では、長さ300mm、幅96mmとしてもよい。スロット孔28の寸法は、所望のプラズマの長さにより任意に定めることができるが、一例では、長さLを220mmとし、幅を0.5mmとすることができる。また、一例では、スロット孔28は、壁部23aの長さ方向(Z方向)の中心軸Cからずれた位置(例えば、中心軸Cから40mmずれた位置)に、該中心軸Cに対して平行に形成されていてもよい。また、スロット孔28は、壁部23aの長さ方向の中心軸Cに一致するように形成されていてもよい。なお、スロット孔28は、断面において短辺をなす導波管21の壁部23bに形成されてもよい。
【0039】
マイクロ波発生器12からマイクロ波が供給されると、ガス供給孔26から導入された処理ガスが、スロット孔28においてマイクロ波により生じる電界によって励起され、スロット孔28においてプラズマが生成される。
【0040】
図1に戻り、一実施形態では、導波管21の途中には、方向性結合器(第1の方向性結合器)24が介在し得る。方向性結合器24は、第1端21aから第2端21bに向けて伝搬されるマイクロ波を通過させ、かつ第2端21bから第1端21aに向けて伝搬されるマイクロ波を遮断する。図5は、シミュレーションにより算出された、スロット孔28の形成位置の電界強度を示している。図5に示すグラフにおいて、横軸はスロット孔28の端部からの距離を示しており、縦軸は電界強度を示している。このシミュレーションでは、導波管21内に電気伝導率の異なる媒質(ここでは、真空、0.28S/mの媒質、2.6S/mの媒質)が存在する場合における、それぞれの電界強度を算出している。図5に示すように、導波管21内では、スロット孔28の端部において、マイクロ波の反射が発生する。一実施形態では、方向性結合器24が導波管21に接続されることにより、スロット孔28において生じる反射波のうち、第2端21bから第1端21aに向けて伝搬される成分が打ち消されることになる。
【0041】
再び図1に戻り、一実施形態では、マイクロ波導波装置2は、EHチューナ18とサーキュレータ22との間に隔壁PWを備え得る。この隔壁PWは、石英、セラミック、テフロン等の誘電体により形成される。隔壁PWは、導波管21内の処理ガス(還元性ガス、反応性ガス、プラズマにより分解されたより反応性の強いガス等)の通過を遮断することにより、処理ガスがマイクロ波発生器12に進入することを防止する。一方で、隔壁PWはマイクロ波発生器12からのマイクロ波の通過を許容する。
【0042】
次に、マイクロ波導波装置2内のマイクロ波の伝搬経路について説明する。マイクロ波発生器12から供給されたマイクロ波は、アイソレータ14、方向性結合器16、及びEHチューナ18を介してサーキュレータ22の第1ポート22aに到達し、第2ポート22bから出力される。第2ポート22bから出力されたマイクロ波は、導波管21の第1端21aから第2端21bに伝搬される間にスロット孔28においてプラズマを発生させることにより、その大部分のエネルギーを消費する。また、導波管21内のスロット孔28においては、マイクロ波の反射波が発生する。この反射波のうち第2端21bから第1端21aに向かう方向へ伝搬される成分(図1において、導波管21内を時計周り方向に伝搬される成分)は、マイクロ波発生器12から供給されたマイクロ波と合成されて、導波管21内に定在波を生じさせる原因となる。しかし、マイクロ波導波装置2によれば、導波管21内において定在波の発生が防止される。以下にその理由を説明する。
【0043】
スロット孔28において発生した反射波のうち、導波管21の第2端21bから第1端21aに向かう方向へ伝搬される成分は(図1において、導波管21内を時計周り方向に伝搬される成分)、サーキュレータ22の第2ポート22bに到達し、第3ポート22cから出力される。第3ポート22cから出力された反射波は、方向性結合器24により遮断される。これにより、導波管21内に定在波を生じさせる原因となる反射波が存在し得ないため、導波管21内に定在波が発生することが防止される。一方、反射波のうち、導波管21の第1端21aから第2端21bに向かう方向へ伝搬される成分(図1において、導波管21内を反時計周り方向に伝搬される成分)は、方向性結合器24を通過して第3ポート22cに到達し、第1ポート22aから出力される。なお、反射波のうち、導波管21の第1端21aから第2端21bに向かう方向へ伝搬される成分は、マイクロ波発生器12から供給されたマイクロ波と進行方向が同じであるため導波管21内に定在波を発生させることがない。第1ポート22aから出力されたマイクロ波の反射波の一部は、第1端21a、第2端21b、第3ポート22c、第1ポート22aを順に通過したマイクロ波と共に、EHチューナ18により反射される。そして、EHチューナ18により反射されたマイクロ波は、マイクロ波発生器12からのマイクロ波と重畳され、第1ポート22aを介して導波管21に戻される。このように、マイクロ波は、導波管21、サーキュレータ22及びEHチューナ18の作用により環状の導波路を巡回される。その結果、環状導波部20内にマイクロ波のエネルギーが重畳的に蓄えられる。第1ポート22aから出力されたマイクロ波の反射波のうち、EHチューナ18により反射されなかった残りの部分は、方向性結合器16又はアイソレータ14により打ち消される。
【0044】
次に、EHチューナ18のプランジャの調整について説明する。図6は、EHチューナのプランジャの一例を示す模式図である。図6に示す、de及びdhは、それぞれEチューナ部18eのプランジャ位置及びHチューナ部18hのプランジャ位置を示している。図6に示す例においては、Eチューナ部18eのプランジャ位置deを11.5mmとし、Hチューナ部18hのプランジャ位置dhを25.0mmとすることにより、環状導波部20からの反射波を最小にすることができる。このようにプランジャ位置de及びプランジャ位置dhを設定した場合における、シミュレーションによって算出されたSパラメータは次の通りである。
・|S11|=0.7605
・|S21|=0.6407
・arg(S11)=45.63
・arg(S21)=135.8
【0045】
次に、マイクロ波供給装置1において、EHチューナ18から環状導波部20に入射する信号Iと、環状導波部20からEHチューナ18に入射する信号Iとの関係について説明する。以下では、EHチューナ18での透過係数をTとし、EHチューナ18での反射係数をRとし、スロット孔28での反射係数をΓpとする。このとき、EHチューナ18からマイクロ波発生器12へ戻る信号をΓとすると、信号Γは、式(1)のように表される。
【0046】
【数1】
【0047】
式(1)より、反射係数Γpは式(2)のように表される。
【0048】
【数2】
【0049】
また、信号Iは、式(3)のように表される。
【0050】
【数3】
【0051】
一方、信号Iは、式(4)のように表される。
【0052】
【数4】
【0053】
ここで、|r|=|S11|、θ=arg(S11)、|t|=|S21|、θ=arg(S21)とすると、Γ=0の場合(すなわち、マイクロ波発生器12に戻る信号が0の場合)には、信号I、及び信号Iの信号強度|Iは、それぞれ式(5)、(6)のように表される。
【0054】
【数5】
【0055】
【数6】
【0056】
同様に、Γ=0の場合には、信号I、及び信号Iの信号強度|I|は、それぞれ式(7)、(8)のように表される。
【0057】
【数7】
【0058】
【数8】
【0059】
ここで、シミュレーションから得られた|S11|=0.7605、|S21|=0.6407、arg(S11)=45.63、arg(S21)=135.8を式(6)及び式(7)に代入すると、信号強度|I=2.38、信号強度|I|=1.41となる。上記のように、シミュレーションから得られた信号強度|Iと信号強度|I|との比は1.69となる。このシミュレーション結果から、マイクロ波導波装置2内においては、環状導波部20からEHチューナ18に入射する信号の一部がEHチューナ18により反射され、EHチューナ18から環状導波部20に入射する信号と重畳されることにより、環状導波部20内の信号が増大されることが認められる。
【0060】
また、導入導波部10から環状導波部20に入射する電力と、環状導波部20内の電力をパワーモニターにより計測したところ、マイクロ波発生器12から環状導波部20に入射する電力が150Wであるときに、環状導波部20内の電力は200Wであった。このように、マイクロ波発生器12から環状導波部20に供給されたマイクロ波は、環状導波部20内で循環することにより、環状導波部20内の電力は、マイクロ波発生器12から環状導波部20に供給されたマイクロ波の電力の1.33倍に増加していることが確認された。
【0061】
次に、上述したマイクロ波供給装置1を備える、一実施形態に係るプラズマ処理装置3について説明する。プラズマ処理装置3は、大気圧下において、被処理体Wをプラズマ処理する大気圧プラズマ処理装置であるものとして説明する。
【0062】
図7は、一実施形態に係るプラズマ処理装置3を示す断面図である。図7に示すプラズマ処理装置3は、マイクロ波供給装置1、ガス供給部26a及び処理容器30を備えている。
【0063】
ガス供給部26aは、ガス源、バルブ及び流量制御器を有し得る。ガス供給部26aは、ガス源からの処理ガスをフロースプリッタFS及びガス供給孔26を介して導波管21内に供給する。フロースプリッタFSは、ガス供給部26aから供給される処理ガスを、後述する制御部Cont等により設定された分配比で、2つのガス供給孔26に分配する。ガス供給部26a及びガス供給孔26は、スロット孔28に供給されるマイクロ波のエネルギーを受けるように処理ガスを供給するガス供給部として機能する。ガス供給部26aから供給される処理ガスは、例えばヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、水素(H)を含むガスや、これらの混合ガスである。また、処理ガスには、更に窒素ガス(N)が含まれていてもよい。また、処理ガスは、濃度が4%以下の水素ガス、望ましくは0.1%〜4%の水素ガスであってもよい。一実施形態のマイクロ波導波装置2においては、スロット孔28において、高いエネルギーのマイクロ波が伝搬されるため、低濃度の水素ガスを用いても大気圧下で高密度のプラズマを生成することができる。このため、水素ラジカルを大量に生成することができ、処理能力を高めることができる。
【0064】
処理容器30は、被処理体Wを処理するための空間を画成する。処理容器30は、側壁30a及び底壁30bを含み得る。側壁30aは、上下方向に延在する略筒形状をなしている。底壁30bは、側壁30aの下端側に設けられている。底壁30bには排気孔36aを有する排気管36が取り付けられている。排気管36は、排気装置38に接続されている。排気装置38は、後述する制御部Contにより制御され、排気される気体の流量を制御して、処理容器30内の圧力を調整する。排気装置38は、ドライポンプなどの真空ポンプを有している。排気装置38により、処理容器30内が所望の圧力、すなわち常圧になるように調整される。処理容器30の上部は、開口部となっている。なお、排気装置38が、排気管及び弁を介して導波管21と接続され、導波管21内の圧力を調整してもよい。
【0065】
処理容器30内にはステージ32が設けられている。ステージ32上には、被処理体Wが載置される。一実施形態では、ステージ32の内部に、加熱素子であるヒータ34が設けられてもよい。ヒータ34は、ヒータ電源35に接続されており、ヒータ電源35から供給される電力により熱を発生して、ステージ32を加熱し得る。ヒータ電源35は、後述する制御部Contにより制御され、ヒータ34に供給する電力を制御して、ヒータ34の発熱量を調整する。
【0066】
処理容器30の上部には、被処理体Wに対してスロット孔28が対向するように、導波管21が配置されている。導波管21は、処理容器30の上面の全体を覆っていてもよいし、その一部のみを覆っていてもよい。
【0067】
一実施形態においては、プラズマ処理装置3は、当該プラズマ処理装置3の各部の制御を行う制御部Contを備え得る。制御部Contは、マイクロ波発生器12によるマイクロ波の供給及び供給の停止、並びに、マイクロ波パワー、パルスの周波数、デューティー比等の制御、フロースプリッタFSによる処理ガスの流量の制御、排気装置38による処理容器30内の減圧制御、ヒータ電源35による処理容器30内のステージ32の温度制御等を行う。この制御部Contは、例えば、プログラム可能なコンピュータ装置であり得る。
【0068】
次に、上述のマイクロ波供給装置1を用いた一実施形態に係るプラズマ処理方法について説明する。一実施形態では、処理容器30内に被処理体Wを搬入して、ステージ32上に設置する。つまり、被処理体Wは、スロット孔28に対向する位置に配置される。
【0069】
続いて、制御部ConTは、フロースプリッタFSを制御して、処理ガスを導波管21内に供給する。次に、制御部Contは、マイクロ波発生器12を制御してマイクロ波を発生させ、導入導波部10を介して、このマイクロ波を環状導波部20に供給する。なお、制御部Contは、処理ガスとマイクロ波を同じタイミングで導波管21内に供給してもよい。
【0070】
このように、マイクロ波及び処理ガスを導波管21内に供給することにより、処理ガスがマイクロ波によって生じた電界より励起され、スロット孔において、実質的に長尺状のプラズマが生成される。そして、この実質的に長尺状のプラズマによって、被処理体Wがプラズマ処理される。
【0071】
以上説明したように、マイクロ波供給装置1では、マイクロ波発生器12において発生されたマイクロ波が、導波管21の第1端21aに導かれるとともに、導波管21の第2端21bに到達したマイクロ波が、再び導波管21の第1端21aに戻される。このように、導波管21に入力されたマイクロ波を導波管21内において循環させることによって、導波管21内のマイクロ波のエネルギーを高めることができる。また、導波管21及びサーキュレータ22により環状導波部20が環状を呈しているため、環状導波部20内において定在波を形成する反射波の発生を抑制することができる。すなわち、環状導波部20内では、スロット孔28を除く位置において、反射波が実質的に生じ得ない。その結果、環状導波部20内に定在波が発生することを抑制することができ、環状導波部20内のマイクロ波の強度を均一化することができる。したがって、マイクロ波供給装置1によれば、導波管21に形成されたスロット孔28から線状のプラズマを安定的に発生させることが可能なマイクロ波を供給することができる。
【0072】
このような、線状のプラズマは、例えばフラットパネル、太陽電池、電子ペーパ等の大面積基板のプラズマ処理に用いることができる。一例としては、大面積のシート状基板をロール・トウ・ロール方式で搬送させながら、基板表面を線状プラズマによりプラズマ処理することができる。また、このプラズマは、ガラス基板の処理にも好適に用いることができる。
【0073】
また、上述したようなマイクロ波供給装置1において、マイクロ波発生器12からパルス状のマイクロ波を発生させることによって、点状のプラズマがマイクロ波の進行方向に沿って高速に移動することにより、全体として実質的に線状のプラズマ、すなわち長尺状のプラズマが生成される。一方、マイクロ波発生器12からパルス状でないマイクロ波を発生させた場合には、連続した線状のプラズマが生成される。この連続した線状のプラズマは、密度が低く、均一性が低いプラズマである。これに対し、点状のプラズマは、密度が非常に高い。また、この点状のプラズマは、高速に移動しているため、スロット孔28の延在方向に渡って高い均一性を有していると見なすことができるプラズマである。例えば、被処理体Wをスロット軸方向に対して直交する方向に移動させ、この移動する点状のプラズマにより被処理体Wをプラズマ処理する場合、点状のプラズマは被処理体Wの移動速度と比較して十分速いため、被処理体Wを均一にプラズマ処理することが可能となる。このように、マイクロ波供給装置1によれば、均一性の高いプラズマを発生させることが可能なマイクロ波を供給することができる。
【0074】
例えば、1%のアルゴンを希釈した水素ガスを処理ガスとして用いる場合には、放電領域において処理ガスが解離し、高密度水素ラジカルが生成される。この水素ラジカルは、ガス輸送及び拡散によって、スロット孔28に対向して配置された被処理体Wに到達し、被処理体Wの表面の正常化、酸化物の還元などに寄与することができる。ここで、マイクロ波供給装置1によれば、水素ラジカルが放電領域と共に移動するため、大面積の被処理体Wの表面処理を実現することができる。
【0075】
また、上述した実施形態では、環状導波部20内にプランジャのような、マイクロ波の伝達を機械的に変化させる機構を備えていないため、動作精度や応答速度等に依存せず、安定したプラズマを生成することができる。さらに、マイクロ波の伝達を機械的に変化させる機構を備えるよりも、装置構成を簡略化できるため、メンテナンス性の向上や装置コストを低減することができる。
【0076】
また、マイクロ波供給装置1は、導波管21の経路上に、マイクロ波の進行波を通過させ、かつマイクロ波の反射波を遮断する方向性結合器24を備えているため、マイクロ波が環状導波部20内を周回する間に反射波が遮断させるため、環状導波部内に定在波が発生することを確実に防止することができる。
【0077】
また、上述したプラズマ処理装置3においては、処理ガスがスロット孔28に供給されるマイクロ波のエネルギーにより励起されて、安定した実質的に長尺状のプラズマを発生することができる。そして、このプラズマを用いて被処理体Wをプラズマ処理することができる。
【0078】
以下、プラズマ処理装置3に関して行った評価について説明する。ここでは、図7に示されたプラズマ処理装置3を用いて、実質的に長尺状のプラズマを発生させ、そのプラズマの各種特性について評価した。プラズマ処理装置3の処理条件は、次に示す通りである。
【0079】
(処理条件)
・マイクロ波パワー:1.2kW
・マイクロ波の周波数:2.45GHz
・パルス周波数:20kHz
・パルス波のデューティー比:30%
・処理ガス:He
・処理ガスの流量:1.4slm
・圧力:1atm
【0080】
まず、プラズマ処理装置3を用いて、上記処理条件により点状のプラズマを発生させ、そのプラズマをシャッタースピードを変化させて撮像することにより観察した。上記処理条件により生成、撮像されたプラズマを図8に示す。100msのシャッタースピードで撮像された画像に示すように、上記処理条件では、およそ180mmの長尺状(線状)のプラズマが生成されることが確認された。一方、0.5msのシャッタースピードで撮像された画像に示すように、このプラズマは、長さ10mm程度の点状のプラズマ(放電領域)がマイクロ波の進行方向に向かって移動することにより構成されていることが確認された。このように、上記処理条件により生成されたプラズマは、点状のプラズマがマイクロ波の進行方向に沿って高速に移動することにより、全体として線状に見えているプラズマである。このプラズマは、均一性の高い実質的に長尺状のプラズマである。
【0081】
次に、上記処理条件により生成された点状プラズマのマイクロ波パワーに対する依存性について評価した。図9(a)は、点状プラズマの移動速度とマイクロ波パワーとの関係を示すグラフである。図9(a)に示すように、マイクロ波パワーの増加と共に、点状プラズマの移動速度は増加することが確認された。
【0082】
図9(b)は、点状プラズマのサイズ及びギャップとマイクロ波パワーとの関係を示すグラフである。ここで、プラズマのサイズとは、点状プラズマの長さを示し、ギャップとは互いに隣接する点状プラズマ間の離間距離を示している。図9(b)において、丸いプロットはプラズマサイズを示しており、四角のプロットはギャップを示している。図9(b)に示すように、マイクロ波パワーの増加と共に、点状プラズマのサイズは大きくなることが確認された。図9(b)に示すように、点状プラズマ間のギャップは、マイクロ波パワーに依存しないことが確認された。
【0083】
次に、点状プラズマの処理ガスの流量に対する依存性について評価した。プラズマ処理装置3の処理条件は、処理ガスの流量を除き、上記処理条件と同じである。図10(a)は、生成された点状プラズマの移動速度と処理ガスの流量との関係を示すグラフである。図10(a)に示すように、点状プラズマの移動速度は、処理ガスの流量の増加と共に増加することが確認された。
【0084】
図10(b)は、点状プラズマのサイズ及びギャップと処理ガスの流量との関係を示すグラフである。図10(b)において、丸いプロットはプラズマのサイズを示しており、四角のプロットはギャップを示している。図10(b)に示すように、点状プラズマのサイズは、処理ガスの流量に依存しないことが確認された。また、点状プラズマのギャップは、処理ガスの流量の増加と共に減少することが確認された。
【0085】
次に、点状プラズマのNガスの流量に対する依存性について評価した。Nガスは、処理ガスに添加することにより、導波管21内に供給した。この評価におけるプラズマ処理装置3の処理条件は、Nガスの流量を除き、上記処理条件と同じである。図11(a)は、生成された点状プラズマの移動速度とNガスの流量との関係を示すグラフである。図11(a)に示すように、点状プラズマの移動速度は、Nガスの流量の増加と共に減少することが確認された。
【0086】
図11(b)は、点状プラズマのサイズ及びギャップとNガスの流量との関係を示すグラフである。図11(b)において、丸いプロットはプラズマサイズを示しており、四角のプロットはギャップを示している。図11(b)に示すように、点状プラズマのサイズは、Nガスの流量に依存しないことが確認された。また、点状プラズマのギャップは、Nガスの流量に依存しないことが確認された。
【0087】
次に、点状プラズマのパルス周波数及びデューティー比に対する依存性について評価した。この評価におけるプラズマ処理装置3の処理条件は、パルス周波数及びデューティー比を除き、上記処理条件と同じである。図12は、点状プラズマの移動速度とパルス周波数及びデューティー比との関係を示すグラフである。図12に示すように、点状プラズマの移動速度は、パルス周波数の増加と共に増加することが確認された。また、点状プラズマの移動速度は、デューティー比の増加と共に増加することが確認された。
【0088】
図13は、点状プラズマのサイズ及びギャップとパルス周波数及びデューティー比との関係を示すグラフである。この評価におけるプラズマ処理装置3の処理条件は、パルス周波数及びデューティー比を除き、上記処理条件と同じである。図13(a)はパルス周波数を20kHzとしたときのグラフであり、図13(b)はパルス周波数を10kHzとしたときのグラフである。図13(a)、(b)において、丸いプロットはプラズマサイズを示しており、四角のプロットはギャップを示している。図13(a)、(b)に示すように、点状プラズマのサイズ及びギャップは、パルス周波数及びデューティー比に依存しないことが確認された。
【0089】
以上、実施形態について説明してきたが、上述した実施形態に限定されることなく種々の変形態様を構成可能である。
【0090】
例えば、上述した実施形態では、プラズマ処理装置3は大気圧下でプラズマを発生させているが、プラズマ処理装置3は、減圧下でプラズマを生成するときにも用いることができる。以下、減圧下においてプラズマを発生させるプラズマ処理装置3の変形例について説明する。
【0091】
変形例に係るプラズマ処理装置は、スロット孔28の直下に石英、セラミック、又はアルミナから構成される誘電体窓を備える。また、ガス供給孔26は、導波管21ではなく、誘電体窓の下方に位置する処理容器30の側壁30aを貫通して設けられ、ガス供給部26aからの処理ガスは処理容器30内に供給される。排気装置38は、処理容器30内が所望の圧力になるように減圧する。誘電体窓は、スロット孔28から受けたマイクロ波を透過して、処理容器30内に導入する。これにより、誘電体窓の直下に発生する電界により、処理ガスが励起され、処理容器30内にプラズマが発生する。このプラズマにより、被処理体Wがプラズマ処理される。
【0092】
また、上述した実施形態では、導波管21にスロット孔28を一つだけ形成しているが、導波管21には、複数のスロット孔28が形成されてもよい。例えば、マイクロ波の伝搬方向に沿って延びる複数のスロット孔28が、破線状に配列されていてもよい。
【符号の説明】
【0093】
1…マイクロ波供給装置、2…マイクロ波導波装置、2A…入力端、3…プラズマ処理装置、10…導入導波部、11…導波管、12…マイクロ波発生器、14…アイソレータ、14a…第1ポート、14b…第2ポート、14c…第3ポート、15…ダミーポート、16…方向性結合器、18…EHチューナ、20…環状導波部、21…導波管、21a…第1端、21b…第2端、22…サーキュレータ、22a…第1ポート、22b…第2ポート、22c…第3ポート、24…方向性結合器、26…ガス供給孔、26a…ガス供給部、28…スロット孔、30…処理容器、30a…側壁、30b…底壁、32…ステージ、34…ヒータ、35…ヒータ電源、36…排気管、36a…排気孔、38…排気装置、Cont…制御部、FS…フロースプリッタ、W…被処理体、PW…隔壁。
図1
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