【実施例】
【0038】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0039】
[実施例1−1〜実施例5−1]
原料油脂として菜種サラダ油(精製菜種油:日清オイリオグループ(株)製、酸価=0.04、色度=1.4、TPM値7.0、リン脂質含有量0ppm、トコフェロール類含有量440ppm、アスコルビン酸パルミテート含有量0ppm)を用い、表1−1に示す量で含有されるようにリン脂質を添加した後、表1−1に従ってトコフェロール製剤を添加し、加熱調理用食用油脂を得た。得られた加熱調理用食用油脂を用い、下記に従って各評価を行った。結果を表1−1に示す。
【0040】
[比較例1−1]
原料油脂として実施例1−1と同じ菜種サラダ油を用い、リン脂質およびトコフェロール製剤を一切添加せず、上記と同様にして加熱調理用食用油脂を得て、各評価を行った。結果を表1−1に示す。
【0041】
[比較例2−1]
原料油脂として実施例1−1と同じ菜種サラダ油を用い、表1−1に示す量で含有されるようにリン脂質を添加した後、トコフェロール製剤を添加せず、上記と同様にして加熱調理用食用油脂を得て、各評価を行った。結果を表1−1に示す。
【0042】
[比較例3−1〜比較例4−1]
原料油脂として実施例1−1と同じ菜種サラダ油を用い、表1−1に示す量で含有されるようにリン脂質を添加した後、表1−1に従ってトコフェロール製剤を添加し、上記と同様にして加熱調理用食用油脂を得て、各評価を行った。結果を表1−1に示す。
【0043】
[実施例2−2〜実施例4−2、比較例1−2〜比較例2−2]
原料油脂として大豆油(大豆サラダ油:日清オイリオグループ(株)製、酸価=0.05、色度=1.4、TPM値7.5、リン脂質含有量0ppm、トコフェロール類含有量1050ppm、アスコルビン酸パルミテート含有量0ppm)を用い、実施例2−1〜実施例4−1および比較例1−1〜比較例2−1に準じ、表1−2に従って上記と同様にして加熱調理用食用油脂を得て、各評価を行った。結果を表1−2に示す。
【0044】
[実施例2−3〜実施例4−3、比較例1−3〜比較例2−3]
原料油脂としてパームスーパーオレイン(日清オイリオグループ(株)製、ヨウ素価=60、酸価=0.05、色度=3.7、TPM値8.5、リン脂質含有量0ppm、トコフェロール類含有量550ppm、アスコルビン酸パルミテート含有量0ppm)を用い、実施例2−1〜実施例4−1および比較例1−1〜比較例2−1に準じ、表1−3に従って上記と同様にして加熱調理用食用油脂を得て、各評価を行った。結果を表1−3に示す。
【0045】
[実施例6〜9、比較例5〜7]
原料油脂として実施例1−1と同じ菜種サラダ油を用い、トコフェロール製剤の種類および添加量をかえ、表2に従って上記と同様にして加熱調理用食用油脂を得て、各評価を行った。結果を表2に示す。
【0046】
[実施例10−1〜実施例13−1、比較例8−1〜比較例9−1]
原料油脂として実施例1−1と同じ菜種サラダ油を用い、トコフェロール製剤の添加量をかえ、表3−1に従って上記と同様にして加熱調理用食用油脂を得て、各評価を行った。結果を表3−1に示す。
【0047】
[実施例11−2〜実施例13−2]
原料油脂として実施例2−2と同じ大豆油を用い、トコフェロール製剤の添加量をかえ、実施例11−1〜実施例13−1に準じ、表3−2に従って上記と同様にして加熱調理用食用油脂を得て、各評価を行った。結果を表3−2に示す。
【0048】
[実施例11−3〜実施例12−3]
原料油脂として実施例2−3と同じパームスーパーオレインを用い、トコフェロール製剤の添加量をかえ、実施例11−1〜実施例12−1に準じ、表3−3に従って上記と同様にして加熱調理用食用油脂を得て、各評価を行った。結果を表3−3に示す。
【0049】
[実施例14−1〜実施例19−1、比較例10−1]
原料油脂として実施例1−1と同じ菜種サラダ油を用い、表4−1に示す量で含有されるようにリン脂質を添加した後、表4−1に従ってトコフェロール製剤およびアスコルビン酸パルミテートを添加し、加熱調理用食用油脂を得た。得られた加熱調理用食用油脂を用い、上記と同様に各評価を行った。結果を表4−1に示す。
【0050】
[実施例15−2〜実施例17−2]
原料油脂として実施例2−2と同じ大豆油を用い、実施例15−1〜実施例17−1に準じ、表4−2に従って上記と同様にして加熱調理用食用油脂を得て、各評価を行った。結果を表4−2に示す。
【0051】
[実施例15−3〜実施例17−3]
原料油脂として実施例2−3と同じパームスーパーオレインを用い、実施例15−1〜実施例17−1に準じ、表4−3に従って上記と同様にして加熱調理用食用油脂を得て、各評価を行った。結果を表4−3に示す。
【0052】
[実施例20−1〜実施例24−1、比較例11−1〜比較例12−1]
原料油脂として実施例1−1と同じ菜種サラダ油を用い、表5−1に示す量で含有されるようにリン脂質を添加した後、表5−1に従ってトコフェロール製剤およびアスコルビン酸パルミテートを添加し、加熱調理用食用油脂を得た。得られた加熱調理用食用油脂を用い、上記と同様に各評価を行った。結果を表5−1に示す。
【0053】
[実施例21−2〜実施例24−2]
原料油脂として実施例2−2と同じ大豆油を用い、実施例21−1〜実施例24−1に準じ、表5−2に従って上記と同様にして加熱調理用食用油脂を得て、各評価を行った。結果を表5−2に示す。
【0054】
[実施例21−3〜実施例24−3]
原料油脂として実施例2−3と同じパームスーパーオレインを用い、実施例21−1〜実施例24−1に準じ、表5−3に従って上記と同様にして加熱調理用食用油脂を得て、各評価を行った。結果を表5−3に示す。
【0055】
[実施例25〜29]
原料油脂として実施例1−1と同じ菜種サラダ油を用い、表6に示す量で含有されるようにリン脂質を添加した後、表6に従ってトコフェロール製剤およびアスコルビン酸パルミテートを添加し、加熱調理用食用油脂を得た。得られた加熱調理用食用油脂を用い、上記と同様に各評価を行った。結果を表6に示す。
【0056】
なお、上記実施例1−1〜実施例29および比較例1−1〜比較例12−1における各評価項目については、以下の基準および方法に従った。
【0057】
[水噴霧試験]
加熱用ステンレスビーカーに得られた加熱調理用食用油脂500gを入れ、マグネティックスターラーによって攪拌しながら180℃に加熱した後、油脂の表面に60mL/hの速度で水を噴霧した。これを1日7時間継続して行い、同じ作業を3日間繰り返した(噴霧時間=計21時間)。かかる水噴霧試験後の加熱調理用食用油脂について、下記に示す酸価、色度およびTPM値を評価した。
【0058】
《酸価》
基準油脂分析試験法(2.3.1−1996 酸価)に従って測定した。数値が大きいほど、加水分解が進んでおり好ましくない。
【0059】
《色度》
ロビボンド比色計(ロビボンド比色計E型計測器、ティントメーター社製)により、1/2インチセルを使用して測定し、Y+10Rとして指数化した値を色度として評価した(Y:黄色、R:赤)。数値が大きいほど、着色しており好ましくない。
【0060】
《TPM値》
デジタル食用油テスター(testo265、株式会社テストー製)を用い、極性化合物量の値(TPM値)を測定した。数値が大きいほど、極性化合物量が多く好ましくない。
【0061】
[保存試験]
製造直後の加熱調理用食用油脂400gを500mL缶に入れて蓋をして密閉した。該缶を60℃の暗所に6週間保存し、かかる保存後の加熱調理用食用油脂について、下記に示す風味評価および加熱臭評価を行った。
【0062】
《風味評価》
油脂の一部(常温)を抽出して口に含み、パネラー10名によって風味を下記の4段階で評価し、各評価の平均を求めた。
◎:無味無臭で風味が極めて良好である
○:若干のニオイ等があるが良好である
△:ニオイがあるが賞味可能である(菜種由来とは異なる異質な風味有り)
×:風味が悪く食用として好ましくない
【0063】
《加熱臭評価》
加熱調理用食用油脂40gを100mlビーカー中に取り、180℃に加熱した際の臭気について、パネラー10名によって下記の3段階で評価し、各評価の平均を求めた。
A:原料特有の臭いはあるが、戻り臭を感じない
B:原料特有の臭いのほか、戻り臭も感じる
C:戻り臭を強く感じる(菜種由来とは異なる異質な匂い有り)
【0064】
【表1-1】
【0065】
【表1-2】
【0066】
【表1-3】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3-1】
【0069】
【表3-2】
【0070】
【表3-3】
【0071】
【表4-1】
【0072】
【表4-2】
【0073】
【表4-3】
【0074】
【表5-1】
【0075】
【表5-2】
【0076】
【表5-3】
【0077】
【表6】
【0078】
※1:加熱調理用食用油脂(添加されたトコフェロール製剤を含む)中における添加されたトコフェロール製剤の量
※2:加熱調理用食用油脂(添加されたトコフェロール製剤を含む)中における添加されたトコフェロール類の量
※3:トコフェロール製剤に含まれるトコフェロール類中の、α−トコフェロール含有量
※4:トコフェロール製剤に含まれるトコフェロール類中の、δ−トコフェロール含有量
※5:イーミックスD(トコフェロール類含有量:97質量%)、エーザイ(株)製
※6:理研E−オイルスーパー60(トコフェロール類含有量:60質量%)、理研ビタミン(株)製
※7:理研Eオイル600(トコフェロール類含有量:60質量%)、理研ビタミン(株)製
※8:トコフェロール80(トコフェロール類含有量:80質量%)、日清オイリオグループ(株)製
※9:トコフェロール55(トコフェロール類含有量:50質量%)、日清オイリオグループ(株)製
※10:トコフェロール98M(トコフェロール類含有量:90質量%)、日清オイリオグループ(株)製
※11:L−アルコルビン酸パルミテート、三菱化学フーズ(株)製
※12:添加されたトコフェロール製剤およびアルコルビン酸パルミテートを含む。
【0079】
表1−1の結果より、リン脂質およびトコフェロール製剤を一切添加しない比較例1−1、およびリン脂質は含有するがトコフェロール製剤を添加しない比較例2−1に比して、実施例1−1〜実施例5−1は保存後における品質(風味、加熱臭)を良好に保持しつつ、加熱調理を想定した水噴霧試験評価時の劣化耐性(加水分解抑制、着色抑制、極性化合物の増加抑制)に優れることがわかる。また、比較例3−1〜比較例4−1と比すれば、含有されるリン脂質は0.5〜65ppmの量でなければこれらの効果が充分に発揮されないことも明らかである。
【0080】
このことは、表1−2〜表1−3における実施例2−2〜実施例4−2および実施例2−3〜実施例4−3について、各々比較例1−2〜比較例2−2および比較例1−3〜比較例2−3と比した場合にも同様のことがいえる。なお、原料油脂に菜種油を用いた実施例1−1〜実施例5−1、および大豆油を用いた実施例2−2〜実施例4−2は、パームスーパーオレインを用いた実施例2−3〜実施例4−3よりも、総じて良好な結果を示すことがわかり、特に菜種油を用いた場合は好適であることがわかる。また、表3−1の実施例10−1〜実施例13−1、表3−2の実施例11−2〜13−2、および表3−3の実施例11−3〜実施例12−3を比較した場合にも、原料油脂として菜種油・大豆油が好適であり、特に菜種油が好適であることがわかる。
【0081】
さらに、表2の結果により、上記実施例に加え、実施例6〜9と比較例5〜7とを比すれば、トコフェロール類中に含まれるδ−トコフェロールは27質量%以上であることを要する点も明らかである。そして、表3−1の比較例8−1〜比較例9−1により、トコフェロール類の添加量は50〜2700ppmの範囲でなければ、加熱調理を想定した水噴霧試験評価時の劣化耐性が低下するばかりでなく、加熱臭の発生や風味悪化を招くおそれがあることがわかる。
【0082】
表4−1〜表6の結果より、アルコルビン酸パルミテートを添加する場合においても、トコフェロール類が上記特定の添加量である実施例14−1〜実施例29は、比較例10−1または比較例11−1〜比較例12−1と比して、保存後における品質を良好に保持しつつ、加熱調理を想定した水噴霧試験評価時の劣化耐性に優れることがわかる。なお、ここでも、原料油脂に菜種油を用いた表4−1の実施例14−1〜実施例19−1は、その他の原料油脂を用いた表4−2の実施例15−2〜実施例17−2、および表4−3の実施例15−3〜実施例17−3よりも、総じて良好な結果を示すことがわかり、表4−2の実施例15−2〜実施例17−2は、表4−3の実施例15−3〜実施例17−3よりも総じて良好な結果を示している。表5−1の実施例20−1〜実施例24−1、表5−2の実施例21−2〜実施例24−2、および表5−3の実施例21−3〜実施例24−3を比較した場合にも、原料油脂として菜種油・大豆油が好適であることがわかり、特に菜種油が好適であることがわかる。
【0083】
[実施例30]
原料油脂として菜種脱色油(常法により脱ガム工程から脱色工程まで経て、脱臭工程を経る前の菜種脱色油:リン脂質含有量0ppm、日清オイリオグループ(株)社製)を用い、リン脂質添加後の原料油脂全量100質量%中における、添加されたリン脂質量が表7に示す量となるように、リン脂質製剤を添加した。
【0084】
次いで、常法に従って脱臭工程(240〜250℃、90分、減圧、吹込み水蒸気量対油2%)を経て、上記原料油脂から加熱調理用食用油脂を得た。得られた加熱調理用食用油脂を用い、精製直後の油脂として、下記に従って酸価、色度、TPM値、加熱臭および風味評価を行った。結果を表7に示す。
【0085】
また、得られた精製油脂300gを2Lステンレスジョッキに入れ、油浴中にて180℃で60時間加熱し、かかる加熱処理後の油脂について、下記に従って酸価、色度、TPM値について評価した。結果を表7に示す。
【0086】
[実施例31]
実施例30で用いた菜種脱色油(日清オイリオグループ(株)社製)を常法に従って脱臭処理(240〜250℃、90分、減圧、吹込み水蒸気量対油2%)し、リン脂質添加後の原料油脂全量100質量%中における、添加されたリン脂質量が表7に示す量となるように、リン脂質製剤を添加した。
次いで、実施例30と同様にして、精製直後の油脂および加熱処理後の油脂について各評価を行った。結果を表7に示す。
【0087】
なお、上記実施例30〜31における各評価項目については、以下の基準および方法に従った。
【0088】
《酸価》
上記実施例1−1〜実施例29および比較例1−1〜比較例12−1と同様にして測定した。
【0089】
《色度(I)〜(II)》
ロビボンド比色計(ロビボンド比色計E型計測器、ティントメーター社製)により、製造直後の油脂については5+1/4インチセルを使用して色度(I)を測定し、加熱処理後の油脂については1/2インチセルを使用して測定し、Y+10Rとして指数化した値を色度(II)として評価した(Y:黄色、R:赤)。
【0090】
《TPM値》
上記実施例1−1〜実施例29および比較例1−1〜比較例12−1と同様にして測定した。
【0091】
《風味評価》
製造直後(未加熱処理)の油脂の一部(25℃)を抽出して口に含み、パネラー10名によって実施例1〜29および比較例1〜12と同様にして評価した。
【0092】
《加熱臭評価》
製造直後(未加熱処理)の油脂40gを100mlビーカー中に取り、180℃に加熱した際の臭気について、実施例1〜29および比較例1〜12と同様にして評価した。
【0093】
【表7】
【0094】
※1〜5、※12については表1−1〜表6と同義である。
※13:日清レシチンDX(日清オイリオグループ(株)製、リン脂質含有量:63質量%)
※14:脱臭工程を経る前に添加したリン脂質含有物の、リン脂質含有物添加後における原料油脂全量中における添加量。
※15:脱臭工程を経た後に添加したリン脂質含有物の、リン脂質含有物添加後における原料油脂全量中における添加量。
※16:リン脂質を添加する前に含まれていたリン脂質および添加されたリン脂質の双方を含む。
※17:リン脂質を添加する前に含まれていたリン脂質および添加されたリン脂質の双方、および添加されたトコフェロール製剤を含む加熱調理用食用油脂中におけるリン脂質総含有量。
【0095】
表7の結果より、脱臭工程を経る前の原料油脂にリン脂質を添加して加熱調理用食用油脂を得た実施例30は、脱臭後の原料油脂にリン脂質を添加して加熱調理用食用油脂を得た実施例31よりも、精製直後の品質がより高く、より良好な風味を呈するとともに加熱臭の低減効果にも優れることがわかる。