(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
タンパク質と脂質と水分を含有し、かつ、流動性を有する混合物を筒体の中を移動させながら、内部加熱方式により連続的に加熱凝固して成形させるタンパク質加工食品の製造において、前記混合物を前記筒体へ送りこむ際に複数のノズルを用いて、異なる素材を同時に送り込むことを特徴とする前記混合物と1種類以上の異なる素材がノズルの形状のままの図柄を描いて前記筒体の形状に加熱成形されたものであるタンパク質加工食品の製造方法。
請求項1ないし5いずれかの製造方法において、前記筒体を筒体の長さ方向の中心線を回転軸として回転させながら加熱成形を行うことを特徴とするタンパク質加工食品の製造方法。
タンパク質加工食品の原料が、筋原繊維由来の塩溶性タンパク質を主成分として含む畜肉又は水産物由来肉を主原料とし、副原料を添加し練り上げたものであり、混練物中に2〜35重量%の脂質を含むものであることを特徴とする請求項7又は8のタンパク質加工食品。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、複数の素材を組み合わせたタンパク質加工食品を連続生産する製造方法を提供することを課題とする。加熱により凝固する加工食品には、例えば畜肉や魚肉等を原料としたもの、卵や乳タンパク質等を原料にしたもの、さらには大豆タンパク質等の植物タンパク質を原料としたものがあり、従来はそれぞれ異なる加熱加工方法により製造されている。
畜肉のひき肉や水産物のすり身など流動性のある原料を加熱加工する場合、加熱工程の前に最終製品形状を決定する成形工程が必須である。つまり、成形工程と加熱工程はそれぞれ独立した工程として存在するため、製造工程が煩雑となり、製造効率の低下要因ともなっている。例えば、畜肉又は水産物由来肉をミンチ状にして、練り肉として加工する食品の場合、竹輪やカマボコのように棒や板などの練り肉を支えるものの上に成型したり、ソーセージのようにケーシングに充填するなど、製品を最終形状に合わせて成型する必要がある。
このような製品に異なる素材を組み合わせた食品を製造する場合、さらに工程が増える。
本発明は、そのような畜肉又は水産物由来肉を主原料とした加熱加工品にさらに異なる素材が組合された食品を連続的に製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(1)〜(6)のタンパク質加工食品の製造方法、及び(7)〜(12)のタンパク質加工食品を要旨とする。
(1)タンパク質と脂質と水分を含有し、かつ、流動性を有する混合物を筒体の中を移動させながら、内部加熱方式により連続的に加熱凝固して成形させるタンパク質加工食品の製造において、前記混合物を送りこむ際に複数のノズルを用いて、異なる素材を同時に送り込むことを特徴とする前記混合物と1種類以上の異なる素材からなるタンパク質加工食品の製造方法。
(2)内部加熱方式がマイクロ波加熱、ジュール加熱、又は高周波加熱である(1)のタンパク質加工食品の製造方法。
(3)加熱が前記混合物の中心温度が70〜120℃になるような加熱であることを特徴とする(1)又は(2)のタンパク質加工食品の製造方法。
(4)さらに前記筒体と前記混合物の間に潤滑剤を供給することを特徴とする(1)ないし(3)いずれかのタンパク質加工食品の製造方法。
(5)前記混合物を脱気してから前記筒体に導入することを特徴とする(1)ないし(4)いずれかのタンパク質加工食品の製造方法。
(6)(1)ないし(5)いずれかの製造方法において、前記筒体を筒体の長さ方向の中心線を回転軸として回転させながら加熱成形を行うことを特徴とするタンパク質加工食品の製造方法。
(7)(1)ないし(6)いずれかの製造方法で製造されたタンパク質加工食品。
(8)タンパク質加工食品のタンパク質原料が、魚肉、魚卵、畜肉、鶏肉、鶏卵、豆類のいずれかである(7)のタンパク質加工食品。
(9)タンパク質加工食品が、原料中に2〜35重量%の脂質を含むものであることを特徴とする(7)又は(8)のタンパク質加工食品。
(10)タンパク質加工食品の原料が、筋原繊維由来の塩溶性タンパク質を主成分として含む畜肉又は水産物由来肉を主原料とし、副原料を添加し練り上げたものであり、混練物中に2〜35重量%の脂質を含むものであることを特徴とする(8)又は(9)のタンパク質加工食品。
(11)タンパク質加工食品がケーシングを有さないハム・ソーセージ類である(10)のタンパク質加工食品。
(12)原料に含まれる脂質中に加熱前の混合物の温度で固形状態を保持する固形油脂が含まれることを特徴とする(7)ないし(11)いずれかのタンパク質加工食品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法により、たとえば、ソーセージの中心にケチャップやチーズなどを挿入した製品や、金太郎飴のように断面に図柄がでるような複数の色の練り肉を組み合わせた食品などを簡単に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、「タンパク質と脂質と水分を含有し、かつ、流動性を有する混合物」は、液体から固体まで種類を問わないが、少なくとも原料の時点ではポンプなどを用いて筒体に送り込める程度の流動性と粘度が必要である。具体的には、加熱によりゲル化するタンパク質を含有する練り肉や卵等を含む食品素材の混合物が適している。
本発明において、「異なる素材」とは、前記「タンパク質と脂質と水分を含有し、かつ、流動性を有する混合物」と区別しうる食品素材であればなんでもよいが、この異なる素材も、少なくとも原料の時点ではポンプなどを用いて筒体に送り込める程度の流動性と粘度を有する素材である。具体的には、前記の練り肉や卵などと組み合わせて味を引き立てる、ケチャップ、マヨネーズ、マスタード、ミートソース、クリームソースなどの調味料やツナやミンチ肉、ピクルスなどの野菜類など、加熱工程を経てもよい食品なら何でもよい。加熱後も流動性のある食品であれば、タンパク質、ゲル化剤、澱粉、ガム、ゼラチンや粉末化剤などを加えることにより、加熱成形後も形態を保持しやすくすることができる。また、単に前記混合物に色素など着色したものを「異なる素材」として用いて、複数色の製品を製造することもできる。
【0013】
本発明において「筒体」とは、その内部に被加熱物を通すことができ、内部加熱、すなわち、マイクロ波、又は高周波を透過し、電気的な絶縁性を有し、さらに加熱耐性を有した素材が好ましい。加えて、被加熱物が付着しにくい合成樹脂、シリコン樹脂、フッ化樹脂、それらの素材で表面加工した筒が好ましい。筒の直径は加熱方法や加熱エネルギーによるが、マイクロ波加熱の場合、本発明に使用する原料素材のマイクロ波半減深度は深くないためは直径40mm以内、好ましくは30mm以内の直径の筒が望ましい。高周波加熱の場合は、マイクロ波と比較して電磁波の半減深度が深いので、太い幅の筒体でも可能である。ジュール加熱では、マイクロ波と加熱原理が異なるため、理論的には加熱電極の大きさに依存し、直径200mmでも可能である。筒体の長さは、被加熱物の内部移動速度と必要到達温度を勘案した長さに調節する。筒体は円柱に限定されない。断面が多角形や各種図案化された形状でもかまわない。
具体的には、例えば、
図1に示すような態様で被加熱物を加熱筒体へ送り込む。加熱筒体部分の外側には、内部加熱方式の加熱装置を配置する。例えば、
図2に示すマイクロ波加熱や
図3に示すジュール加熱の装置である。
【0014】
ジュール加熱とは、通電加熱とも呼ばれる内部加熱方式の一つである。食品など被加熱物に直接通電して、被加熱物の電気抵抗により発熱させる方法である。流動性を有する食品を連続加熱するためのジュール加熱の装置は特許文献1〜4などに開示されているような装置を利用することができる。基本的には、絶縁性の筒体とその筒体に対をなして電極が設けられた電極を有し、電極は電源に接続されたものがジュール加熱装置であり、この筒体に連続的に被加熱物を送り込めるようにポンプを接続し、加熱された食品を受ける受け皿あるいは冷却部があれば本発明の製造方法に用いることができる装置となる。流動性のある食品を筒体中でジュール加熱する場合でも筒体の内部に食品が焦げ付かないための工夫や、温度管理をするために温度センサーを設けるような技術も知られている。本発明においてもこれら技術を利用することができる。
例えば、電圧150〜400V、電流10〜30A程度の装置を使用することができる。
【0015】
マイクロ波加熱とは、高周波により被加熱物に含まれる水分子などの電気双極子を激しく振動させることによって加熱をする方法で、その原理は家庭用の電子レンジに応用され、広く普及している。マイクロ波加熱の装置は特許文献10〜11に開示されているような装置を利用することができる。基本的には、高周波透過性のある、例えばフッ化樹脂性の加熱筒体とその筒体部分に高周波を照射する装置から成り、この筒体に連続的に食品原料を送り込めるようにポンプを接続し、加熱された食品を受ける受け皿あるいは冷却部があれば本発明の製造方法に用いることができる装置となる。
例えば、2450MHz、200V、20A程度の装置を使用することができる。
高周波加熱はマイクロ波加熱よりも周波数の低い電磁波を用いる加熱方式であるが、装置や理論はマイクロ波加熱と基本的に同様のものを使用することができる。
【0016】
本発明において、「前記筒体を筒体の長さ方向の中心線を回転軸として回転させながら加熱する」とは、加熱筒体の中に被加熱物を送り込みながら、筒体自体を長さ方向の中心線を回転軸として回転させながら加熱することである。
例えば、マイクロ波加熱の場合、筒体の周辺に120度の位相でマイクロ波発生装置を配置して均等に加熱する装置が存在するが、それでも、マイクロ波発生装置の位置やマイクロ波吸収率の相違によって加熱の程度にムラが生ずる。特に、粘度の高い被加熱物ではその差が大きくなり、商品の品質不良につながることになったが、被加熱物が通過する筒体を回転させることによりその加熱ムラを低減し、商品品質を大きく改善できることを見出した。筒体を回転させても加熱凝固したタンパク質加工食品が筒体内部でくずれたり、切れたりすることもなく、筒体と共に被加熱物も回転し均一な加熱という効果を得ることができる。回転速度は、被加熱物の種類や筒体の加熱部位の長さによって適宜調節すればよいが、5〜30rpm、 好ましくは10〜20rpmくらいの回転数で充分な効果が得られる。筒体を回転させる一態様の模式図を
図4に示した。被加熱物を送るポンプにつながる前筒部と回転する筒体の間にロータリージョイントなどを設置し、筒体が自由に回転できるようにする。その筒体には回転速度調整可能な駆動装置を付帯させ、筒体の回転速度を任意に調整する。一方、筒体内で加熱された被加熱物は筒体終端部の出口から吐出され、ガイドやコンベア等を通過して次の工程へ搬送される。この方法を、被加熱物の吐出方向を垂直上方向にする方法と組み合わせることで、より安定した効果を示す。
【0017】
「タンパク質と脂質と水分を含有し、かつ、流動性を有する混合物を筒体の中を移動させながら、内部加熱方式により連続的に加熱凝固して成形させるタンパク質加工食品」とは、具体例として、魚肉ソーセージのようなタンパク質が加熱凝固してできる食品のことである。
畜肉又は水産物由来肉を主成分とし、これに任意の食品素材を添加して混練した混練肉を加熱して得られる加工品は畜産ならびに水産加工品として一般的であり、ハム・ソーセージ類やハンバーグ、ミートローフ、練り製品はその例である。これらの加工品を工業的に製造する場合、任意の型やケーシングに充填する成形工程と加熱工程が独立した二つの工程により行われていた。
本発明によれば、畜肉又は水産物由来肉を主成分とし、これに任意の食品素材を添加して混練した混練肉中に脂質を添加することにより、混練肉が加熱によってゲル化した後も、加熱ゲル中に脂質が保持されるとともに、一部の脂質が放出され(
図5)、放出された脂質の潤滑作用により、加熱筒体内壁と加熱ゲルとの移動摩擦を低減せしめ、結果として加熱ゲルの円滑な移送性を維持することが可能である。
魚肉ソーセージは魚肉すり身に食塩、砂糖などの調味料、香辛料、澱粉、植物油等の副原料を混合し、ペースト化して合成樹脂製のケーシングに充填し、レトルト加熱して製造されるが、このペーストをケーシングに充填するのではなく、筒体の中を移動させながら加熱凝固させて製造する。その結果、ケーシングを使用しない魚肉ソーセージが連続的に製造することが可能である。
魚肉ソーセージに限らず、タンパク質を含有する液状からペースト状の物性を有する原料を加熱凝固して製造するタンパク質加工食品であれば、いずれもこの方法によって製造することができる。
【0018】
本発明において「魚肉ハムおよびソーセージ類」とは、日本の農林水産省の定める「魚肉ハムおよび魚肉ソーセージ品質表示基準」(制定 平成12年12月19日農林水産省告示第1658号。最終改正 平成20年農林水産省告示第1368号)の「普通魚肉ソーセージ」に定義された魚肉ハムや魚肉ソーセージを包含するものであるが、魚肉を30重量%以上含有し、脂肪含有量を2重量%以上含有する原材料を練り合わせたものを加熱加工したものを含む。但し、本発明はケーシングに充填せずに加熱した、ケーシング無しのものである。
本発明において「タンパク質加工食品」とは、畜肉、水産物の他に、卵タンパク、乳タンパク、植物タンパクを主原料とするものも含む。いずれも、加熱によりタンパク質が加熱凝固する点では同じであり、上述のソーセージと同様の方法で加工食品とすることができる。
【0019】
食品製造工程において原料や製品を加熱する方法は、外部加熱方式(直接加熱、間接加熱)と、内部加熱方式に分類される。外部加熱方式は被加熱物を目標の温度まで加熱するために目標温度より高い温度の加熱媒体(熱煤)が必要である。つまり、被加熱物と熱媒の間で熱エネルギーを移動させるための温度差が必要となり、被加熱物の一部は加熱目標温度より高温になることは避けられない。このため、外部加熱装置での加熱は過加熱を避けるため、加熱温度や時間の調整、あるいは被加熱物の攪拌等が必要である。これに対して、内部加熱方式であるジュール加熱やマイクロ波加熱は被加熱物の自己発熱を利用して加熱する。そのため、以下の特徴が知られている。
1)熱媒がないため設定した温度以上の加熱がない。
2)被加熱物の温度制御は電気的制御によるため、正確な温度調整が可能である。
3)食品の粘度に関係なく加熱が可能である。また、熱伝導の低い液体も急速な加熱が可能である。
4)固形物入り食品も均一な加熱が可能である。
5)均一かつ迅速な加熱が可能である。
【0020】
畜肉又は水産物由来肉に含まれる筋原繊維を構成する塩溶性タンパク質は塩を添加することで溶解する性質を持っている。この塩溶性タンパク質は繊維状のタンパク質であり、構造中に疎水基と親水基を持つため、乳化作用を有している。このため、塩を加えて充分に擂潰した練り肉に脂質を添加して混練すると、均一な乳化物が得られる。
加熱によるゲル化とは塩で溶解した塩溶性タンパク質が加熱によりその立体構造が変化し、三次元的に複雑に絡み合い、微細な網目構造を形成する現象といわれている。加熱によりその立体構造が変化した塩溶性タンパク質は同時に乳化性も低下し、塩溶性タンパク質は乳化した脂質を一度は解放するが、同時に形成される微細網目構造中にその脂質を取り込み、構造中に保持する。また、微細網目構造中の外に放出された脂質は、それ自身が潤滑油として機能する。そのため、ゲル化した塩溶性タンパク質と加熱装置内壁の動摩擦抵抗を低減させ、移送性を向上し、さらに機器への付着性も低減する。
これらの複数の要素により、魚肉ソーセージ等を文字通り連続的に生産することができる。
【0021】
本発明のタンパク質、脂質、水分を含む原料から製造するタンパク質加工食品には、原料中に脂質を2〜35重量%添加するのが好ましい。畜肉、魚肉を主原料とする混練肉中に脂質を均等に分散させる。脂質添加量は少ないと加熱ゲルの移送性が得られず、多すぎるとゲル形成が阻害される。好ましくは、5〜20重量%である。
【0022】
さらに、タンパク質加工食品の原料に含まれる脂質として固形油脂を用いることにより、潤滑性を向上させることができることを見出した。すなわち、本発明の一態様は、原料に添加する脂質として固形油脂を用いることを特徴とする。液状油脂でも一定の効果があるが、原料にタンパク質を含むため、液状油脂を用いると油脂が乳化し、潤滑油としての効果が弱くなる。固形油脂を固形油脂のままで分散・混合させると、加熱成形させる際に、筒体内壁周辺部にある固形油脂が溶融し、潤滑油として機能する。
固形油脂は、加熱前の原料混合物の温度より融点の高いものを選択する。例えば、魚肉を原料とする場合、タンパク質変性防止の観点から通常15℃以下の温度で混合を終了する。この場合、融点が15℃以上の油脂を用いればよい。融点があまり高いと出来上がった食品の舌触りが悪くなるので、融点が15〜70℃程度の固形油脂を用いるのが好ましい。特に好ましくは、15〜45℃の融点の油脂である。添加量は原料混合物中の固形油脂の含有量が2〜20重量%が好ましい、特に好ましくは、5〜10重量%である。種々の融点の固形油脂を混合して用いても、また、液状油脂と混合して用いても良い。タンパク質加工食品全体として固形油脂及びその他の脂質を合計2〜35重量%含有するのが好ましい。
【0023】
得られた混練肉は必要に応じて脱気処理を行い、肉送りポンプ等の搬送装置にて加熱筒体に連続的に移送され、移送しながらジュール加熱やマイクロ波加熱、又は高周波加熱、もしくはそれらの加熱方法の組み合わせにより混練肉中心温度を70℃以上120℃以下の範囲で任意に設定した温度まで昇温加熱が行われる。加熱筒体中で形成されたゲルは連続的に押し出され、加熱成形された加工品が得られる。加熱温度が70℃以下ではタンパク質の加熱変性が充分ではなく良好な物性を持ったゲルが得られない。また、120℃以上ではゲルは形成するが、高温の影響でゲル構造がダメージを受け、ゲル強度が低下する。
被加熱物を脱気してから筒体に導入することにより、タンパク質加工食品中に大きな気泡ができるのを防ぐことができる。ケーシングに充填するソーセージでは脱気しなくても、ケーシングにより気泡の形成は抑制される。
【0024】
また、発明者らは、原料に含まれる脂質に依存せず、筒体と被加熱物の間にすべりを滑らかにする潤滑剤を存在させることによっても、加熱物のより安定な吐出が可能となることを見出した。本発明において「潤滑剤」とは、飲食物に利用することができ、流動性のある飲食物が筒体内を移送する際に筒体内壁と飲食物との摩擦を減らして移送を滑らかにするものである。また、潤滑剤は、使用時に液体であるものが好ましい。より具体的には、潤滑剤は、水、植物性油脂や動物性油脂などを含む油、アルコール、乳化剤などを含むことができ、移送する飲食物に適するものを選択することができる。
潤滑剤を供給するための一つの方法は、内部加熱装置に被加熱物を送り込む際に被加熱物と筒体の間に油脂や水分を供給する方法である。潤滑剤を供給することにより、筒体内における被加熱物の優れた流動性が得られる。具体的には、筒体の加熱領域の手前に、潤滑剤を供給する供給部が形成された装置を用いて潤滑剤を供給することができる。例えば、
図6に示すような潤滑剤の供給部を被加熱物の流路に設ける。
【0025】
本発明の潤滑剤供給部の一実施形態について、
図6、7を参照しながら詳細に説明する。
図6は、本発明の一実施形態にかかる潤滑剤供給装置を示す断面図である。
図7は、
図6におけるX−X’断面図である。
図6に示すように、潤滑剤供給装置1は、流路48を形成する輸送筒体4と加熱装置へ続く流路58を形成する筒体5との間に固定して使用することができる。
潤滑剤供給装置1は、流動性のある飲食物が移動する流路11を形成する筒体10を有する。筒体10は、流路11から出た飲食物の周囲へ潤滑剤を供給する供給部16が形成されている。筒体10は、第1の筒体2と第2の筒体3とを組み合わせて構成されている。
【0026】
第1の筒体2は、第2の筒体3に挿入された第1部分20と、輸送筒体4の連結部40と連結する第2部分22と、を有する。第1の筒体2は、
図7に示すように横断面が内形、外形ともに円形の円筒形であって、両端に第1の開口部12と第2の開口部13とを有する。第1の筒体2は、第1の開口部12から第2の開口部13まで内径が同じ第1の内壁面28を有し、第1の内壁面28が流路11を形成する。
第1の開口部12は潤滑剤供給装置1に飲食物が流入する流路11の入口であり、第2の開口部は潤滑剤供給装置1から飲食物が流出する流路11の出口である。第1の開口部12は輸送筒体4の開口部44と同じ内径を有し、第2の開口部13は輸送筒体5の開口部54よりも小さな内径を有する。
第1の筒体2の第1の外壁面26は、第1部分20の均一な外径と、段部29で第1部分20の端部から拡径して第2部分22の第1部分20の外径より大きな外径と、を有し、第2部分22はさらに第1の開口部12の周囲においてフランジ状に突出した最大外径を有する連結部24を有する。連結部24は、隣接する輸送筒体4の端部において同様にフランジ状に形成された連結部40に対し、シール材を挟んだ状態でクランプ42によって連結される。第1部分20における第1の外壁面26の外径は、少なくともその開口端部において輸送筒体5の開口部54よりも小さな外径を有する。
【0027】
第2の筒体3は、第1の筒体2の第1部分20を受け入れて嵌合する第3部分30と、潤滑剤の供給部16の一部を形成する第4部分32と、を有する。第2の筒体3は、
図7に示すように横断面が内形、外形ともに円形の円筒形である。
第2の筒体3の第2の外壁面33は、第3の開口部の周囲にフランジ状に突出した最大外径を有する連結部34を除いて、ほぼ全長にわたって同じ外径を有する。連結部34は、輸送筒体5の端部にフランジ状に形成された連結部50に対し、シール材を挟んだ状態でクランプ52によって連結される。
第3部分30は第3の内壁面39を有し、第4部分32は第2の内壁面36を有し、第3の内壁面39は段部37で拡径して第2の内壁面36へと連続する。第3の内壁面39の直径は第1の筒体2の第1部分20の外径とほぼ同じであり、第2の内壁面36の直径は第1部分20の外径よりも大きく形成されて第1の外壁面26との間に隙間を形成する。第2の内壁面36の内径は、輸送筒体5の開口部54の内径と同じである。
【0028】
供給部16は、第1の筒体2における第1部分20の第1の外壁面26と第2の筒体3の第2の内壁面36との間に形成された環状の隙間からなる供給流路18と、供給流路18が筒体10の出口である第2の開口部13に向けて開口する供給口14と、供給流路18に潤滑剤を注入する供給筒体17と、を含むことができる。供給流路18に充填された潤滑剤は、供給口14から飲食物の周囲へ供給される。
供給筒体17の一端は、潤滑剤用ポンプ(図示していない)から少なくとも飲食物が供給流路18へ流入しない程度に潤滑剤を加圧して供給筒体17に供給する。供給筒体17の他端は、第2の筒体3の第4部分32の第2の外壁面33から第2の内壁面36へ貫通する供給孔38に接続され、供給流路18へ潤滑剤を充填する。供給流路18へ充填された潤滑剤は、第1の外壁面26に沿って移動し、第2の開口部13の周囲に形成された環状の供給口14から矢印B方向へ押し出される。供給口14から押し出された潤滑剤は、輸送筒体5内を移動する飲食物の周囲へ供給され、内壁面56に対する飲食物の移動を潤滑にする。
なお、本実施の形態において、供給口14は、筒体10の開口端部に形成したが、これに限らず輸送筒体5を移動する飲食物の潤滑が行える位置に形成すればよく、例えば供給流路18をさらに短く形成して流路11の途中に設けてもよく、あるいは供給流路18の途中に流路11へ貫通する複数の孔として形成してもよく、このようにすることで潤滑剤を流路11内を移動する飲食物の周囲に供給することができる。また、開口部54を超えて流路58内まで供給流路18が延びて形成されてもよく、この場合、供給口14は輸送筒体5内に開口することになるが潤滑剤を流路58内を移動する飲食物の周囲に供給することができる。
潤滑剤は、被加熱物の周囲全体に供給しても、一部に供給してもよく、継続的に供給しても、間欠的に供給しても良い。
【0029】
本発明の「異なる素材」はタンパク質を含有する原料混合物と共に筒体内に圧力を調整して供給する。目的とする形状の断面を有するノズルを組み合わせることにより、筒状に押し出される食品の断面に好みの図柄を形成することができる(
図9)。
本発明のタンパク質加工食品は、加熱筒体中に被加熱混合物を送り込む管中に異なる素材の混合物を送り込むノズルを配置し、被加熱混合物及び異なる混合物を同時に前記筒体中に送り込み、筒体中で加熱成形することにより、タンパク質加工食品と「異なる素材」からなる金太郎飴のような状態の食品とすることができる。
貫通させる異なる混合物は1種である必要はなく、複数のノズルで複数の混合物を貫通させることができる。外側の被加熱物と貫通させる混合物は導入する圧力を均等にすると筒体中で混ざってしまわないようにすることができる。例えば、ハート型のノズルで外側と色の異なる練り肉を貫通するように送りこむと、出来上がりのソーセージは断面にハート型の模様ができる。
あるいは、複数の種類の加熱によりゲル化する混合物を同時に筒体に導入することにより、二色、三色のストライプ状などのタンパク質加工食品を製造することもできる。
また、「異なる素材」は間歇的に送りこむこともできる。間歇的に送り込むことにより、筒体から押し出された食品中に「異なる素材」が存在する場所としない場所ができる。この存在しない場所で切断することにより、「異なる素材」をタンパク質食品で完全に包みこむことができる。
【0030】
本発明の製造方法は以下のような手順で実施することができる。
筋原繊維由来の塩溶性タンパク質を含む畜肉又は水産物由来肉を主原料とし、これをサイレントカッター等の混練機に供し、充分に細断する。この際の温度はなるべく低温を維持し、10℃程度が望ましい。これに塩を添加し、原料に含まれる筋原繊維由来の塩溶性タンパク質の溶解を充分に行う。この後に、必要に応じて澱粉、植物タンパク質、香辛料、調味料、乳化剤等を加え、さらに混練肉の2〜35重量%の脂質を加える。脂質は植物油、硬化油、豚脂、牛脂等、食用に値する脂質を用いても良いし、もともとの畜肉又は水産物由来肉が含有する脂質を利用しても良い。脂質添加後、さらに充分に混練し、添加した脂質を均等に分散、乳化させる。混練の際に必要に応じて脱気処理を行う。
異なる素材として、加熱耐性のあるクリームチーズなどの内包物を準備する。
この混練肉と内包物を送肉ポンプ等で移送し、多重ノズル経由で垂直方向吐出方式の加熱筒体へ連続的に送り込みながら、70℃以上120℃以下の温度帯で所望の温度までジュール加熱やマイクロ波加熱、又は高周波加熱、もしくはそれらを組み合わせた加熱を行うが、例えば最初に30℃まで加熱した後、所望の温度まで加熱するという二段加熱、また、必要に応じて複数段階の加熱、さらに加熱時の昇温速度の調整も可能であり、最適の物性を得るために自由に調整することが出来る。
加熱によってゲル化した混練肉は、それ自身が含有する脂質により、移送性を失わずに加熱装置から連続的に加熱成形されて押し出される。
さらに、上記加熱筒体を回転させながら、同様に加熱成形すると、筒体の回転により、表面の加熱ムラがなくなり、より好ましい製品が得られる。
加熱筒体は、垂直方向に立てて設置し、被加熱物を下から上に送ることもできる。この垂直方向吐出方式により、吐出はより安定する。
本発明の畜肉又は水産物由来肉としては、魚介類のすり身、落し身や、畜肉のミンチなどが利用できる。加熱装置の筒体の直径を適宜選択することにより、種々の直径の製品を容易に連続生産することができる。
【0031】
本発明のタンパク質加工食品は、ロープのように連続的に生産されるので、目的に応じて適当な長さにカットして用いる。
【0032】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
魚肉ソーセージの原料を混合し練り肉を調製し、垂直方向吐出方式のフッ化樹脂性加熱筒体に供し、ジュール加熱及び/又はマイクロ波加熱により、ケーシング無しの魚肉ソーセージを製造した。
表1の配合で、すり身に食塩を添加して塩摺りし、その後、その他の調味料、植物タンパク、植物油及び水を添加して、混合しペースト状にして練り肉を調製した。
【0034】
【表1】
【0035】
表2の機器と条件を用いて、加熱温度は吐出された被加熱物の中心温度が85℃となるように、ジュール加熱の場合は電圧と電流を調整した。また、マイクロ波加熱の場合はマグネトロンの出力を調整した。使用した機器は、マイクロ波加熱の連続処理では、筒体の外周に金属壁で三つに区分けされたそれぞれの区画にマイクロ波発生装置(マグネトロン)が120度の位相で装着されたマイクロ波加熱装置を用いた(
図5)。ジュール加熱の連続処理では、筒体に対を成して電極が設けられたタイプの装置を用いた(
図6)。いずれの装置の場合も水平方向吐出用に販売されている装置を垂直方向に吐出させるために装置を横に90度寝かせるなどの方法により、垂直吐出を行った。
いずれの方法でもケーシングに充填してレトルト処理して製造する魚肉ソーセージに遜色ないケーシング無しの魚肉ソーセージができた。筒体中に練り肉が詰まることもなく、ケーシングの無い魚肉ソーセージを安定して連続生産が可能であった。
【0036】
【表2】
注1:被加熱物の中心温度である。
注2:被加熱物はジュール加熱で40℃まで加熱し、その後、マイクロ波加熱で85℃まで加熱した。
その他:送肉ポンプはHandtmann製真空定量充填機、もしくは兵神装備製モーノポンプを用いた。加熱筒体は直径23mmのフッ化樹脂性管を用いた。
【実施例2】
【0037】
実施例1と同じ練り肉と、同じジュール加熱装置を用いて、表3の条件で垂直方向に吐出しながら加熱を行った。
表3の条件で、いずれもケーシングに充填してレトルト処理して製造する魚肉ソーセージに遜色ないケーシングの無い魚肉ソーセージを連続生産できた。
【0038】
【表3】
【実施例3】
【0039】
実施例1と同じ練り肉と、同じマイクロ波加熱装置を用いて、表4の条件で垂直方向に吐出しながら加熱を行った。
表4の条件で、いずれもケーシングに充填してレトルト処理して製造する魚肉ソーセージに遜色ないケーシングの無い魚肉ソーセージを連続生産できた。
【0040】
【表4】
【実施例4】
【0041】
筒体を回転させる装置について、
図4を用いて説明する。加熱装置は、株式会社廣電製の連続式マイクロ波加熱装置HMTT24-12-01を用いた。加熱筒体は内径φ23mmのテフロン(デュポン社登録商標)製チューブを用いた。加熱筒体と図示されていない送肉ポンプとをつなぐ管の接合部にロータリージョイント(株式会社昭和技研工業製、スイベルジョイントASV-2Z 25A)を用い、その基部に筒体回転用の電動モーターを設置した。実施例1の配合番号1の配合の魚肉練り肉を180kg/時で送肉ポンプを用いて加熱装置に供給し、中心温度が85℃になるようマグネトロンの出力を調整し加熱した。加熱筒体の回転数は15rpmとし、比較のために、筒体を回転させずに同様の条件下で製造を行った。
結果を表5に示す。加熱筒体を回転させた場合、被加熱物の吐出状態は非常に安定しており、被加熱物表面も非常になめらかであった。一方、加熱筒体を回転させない場合、被加熱物の吐出状態は不安定で、時折、被加熱物が蒸気と共に噴出する現象が見られた。また被加熱物表面には加熱ムラによる火ぶくれも観察された。表5の「表面状態」は、加熱を終了した被加熱物表面をオリンパス株式会社製のデジタルカメラμ720SWにて撮影し、その画像をAdobe Systems Incorporated製の画像処理ソフトPhotoshop Ver.9.0にて256段階のグレースケール化処理を行い、各画像が占めるピクセルの平均値と標準偏差を算出したものである。表面状態が粗い場合、表面状態が滑らかな場合に比較し、その平均値は低く(暗い)、標準偏差は大きな値(デコボコが多い)となる。
【0042】
【表5】
【実施例5】
【0043】
実施例1と同じジュール加熱の装置(
図3)を、実施例4と同様にスイベルジョイントASV-2Z 25Aを用いて、筒体が回転出来るようにした(
図8)。
ジュール加熱の場合でもケーシングに充填してレトルト処理して製造する魚肉ソーセージに遜色ないケーシング無しの魚肉ソーセージができた。筒体中に練り肉が詰まることもなく、被加熱物表面も非常になめらかであった。ケーシングの無い魚肉ソーセージを安定して連続生産が可能であった。
【実施例6】
【0044】
表6の配合により魚肉ソーセージの練り肉を調製した。固形油脂は表7に示した油脂を使用した。練り肉中の油脂は、表8に示した添加量で、液状油脂((株)J−オイルミルズ社製、菜種白絞油)と固形油脂を組み合わせて用いた。
【0045】
【表6】
【0046】
【表7】
【0047】
【表8】
【0048】
(株)廣電製の連続マイクロ波加熱装置を用いて、加熱温度は吐出された被加熱物の中心温度が85℃となるように、マグネトロンの出力を調整した。マイクロ波加熱の連続処理では、筒体の外周に金属壁で三つに区分けされたそれぞれの区画にマイクロ波発生装置(マグネトロン)が120度の位相で装着されたマイクロ波加熱装置を用いた(
図2)。練り肉を加熱するための筒体は直径23mmのフッ化樹脂性管を用いた。
【0049】
結果を表8に示した。吐出安定性はマイクロ波加熱により、魚肉ソーセージが安定して製造できるかどうかにより判断した。○は安定して連続生産が可能であったことを示す。△と×は水蒸気が突出したり、ソーセージが脈動して均一でなかったり、詰まってしまったり、あるいは、一部過加熱になったりしたことを示し、その程度が軽いものとやや重いことを示す。また、品質は、ソーセージの加熱状態の均一性で判断した。
サンプル1や2のように、油脂無添加、あるいは液状油脂のみ添加した場合、吐出が安定しなかったが、サンプル3−5のように固形油脂を2%以上添加すると安定して吐出するようになった。
サンプル6〜12は固形油脂の融点による違いを比較したものである。サンプル6、10のように融点が低い固形油脂では効果が見られなかったが、サンプル7−9、11,12では十分な効果が見られた。融点はその絶対値よりも練り肉の温度との関係が重要であり、サンプル13−15に示すように、同じ融点の固形油脂を用いた場合でも、練り肉の温度が低く、固形油脂が溶けない温度であれば、良好な結果が得られた。サンプル15からは融点より、7℃高いものであれば十分に効果を有することがわかる。
【実施例7】
【0050】
実施例4に記載の装置を用いて、ソーセージ用の練り肉とそれに食紅を加えた赤色の練り肉を用意し、
図1に示す装置で加熱筒体に送り込み、ソーセージを製造した。2色の練り肉は筒体中で混合してしまうことなく、ノズルの形状のままの図柄を描いて、加熱成形された。内包物をチーズやケチャップに置き換えても同様であった。