(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多段ポンプの液体移送能力は、吸込性能(キャビテーション性能ともいう)と普通性能(一般性能ともいう)に大きく依存する。従来から、吸込性能と普通性能を向上させるために、様々な工夫がなされている。そこで、本発明は、液体移送性能を向上させた多段ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した目的を達成するために、本発明の一態様は、回転軸と、前記回転軸に固定された複数の羽根車と、前記複数の羽根車を収容するポンプケーシングと
、前記回転軸に作用するスラスト力を支持するためのバランス機構と、前記バランス機構が収容されるバランス室と、前記バランス室内の液体を、吸込流路を有する吸込ケーシングに導くバランス配管とを備え、前記ポンプケーシングは
、前記吸込ケーシングと、吐出し流路を有する吐出しケーシングと、前記吸込ケーシングと前記吐出しケーシングとの間に配置された中間ケーシングとを有し、前記吸込ケーシングは、前記吸込流路に接続される吸込ボリュート
と、該吸込ボリュートから隔離された側室を有し、
前記吸込ボリュートは、前記吸込流路から前記複数の羽根車の初段羽根車の液体入口まで延び
ており、前記バランス配管の一端は前記バランス室に接続され、他端は前記側室に接続されていることを特徴とする多段ポンプである。
【0006】
本発明の好ましい態様は、前記吸込ボリュートには、液体の流れを案内する案内板が配置されていることを特徴とする。
【0007】
本発明の好ましい態様は、前記吐出しケーシングは、前記吐出し流路が形成された吐出しポートと、前記羽根車から吐き出された液体が旋回する環状流路を形成する周壁とを有しており、前記吐出しポートと前記周壁とは、湾曲した断面形状を有する接続部を介して接続されており、前記接続部は、上流側湾曲部と下流側湾曲部とから構成されており、前記上流側湾曲部は、前記羽根車の回転方向に関して前記下流側湾曲部の上流側に位置しており、前記上流側湾曲部の曲率半径は、下流側湾曲部の曲率半径よりも大きいことを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記吐出し流路は、その断面積が液体の流れ方向に沿って徐々に小さくなる形状を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上記構成を有する吸込ケーシングは、多段ポンプの吸込性能を向上させることができる。したがって、ポンプ性能を向上させることができる。さらに、上記構成を有する吐出しケーシングは、多段ポンプの普通性能を向上させることができる。したがって、ポンプ性能をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1(a)は、本発明の一実施形態に係る多段ポンプの側面図であり、
図1(b)は、
図1(a)の矢印Aで示す方向から見た図であり、
図1(c)は、
図1(a)の矢印Bで示す方向から見た図である。
図2は多段ポンプの断面図である。多段ポンプは、水平に延びる回転軸1と、回転軸1に固定された複数の羽根車2と、これら羽根車2を収容するポンプケーシング3とを備えている。回転軸1は、軸受9,9により回転自在に支持されている。回転軸1の一端は、モータなどの駆動源に連結され、この駆動源により回転軸1および羽根車2が回転するようになっている。
【0011】
ポンプケーシング3は、吸込ポート11を有する吸込ケーシング10と、吐出しポート31を有する吐出しケーシング30と、吸込ケーシング10と吐出しケーシング30との間に配置された中間ケーシング50とを有している。中間ケーシング50は、複数の環状のケーシングピース50aが軸方向に積み重なった構造を有している。各羽根車2の径方向外側には、ディフューザ4が配置されている。各ケーシングピース50a内には、1組の羽根車2およびディフューザ4が配置されている。吸込ケーシング10、中間ケーシング50、および吐出しケーシング30は、通しボルト6およびナット7によって互いに固定されている。
【0012】
吸込ケーシング10および吐出しケーシング30は、中間ケーシング50に着脱可能に取り付けられている。すなわち、吸込ケーシング10および吐出しケーシング30は、通しボルト6およびナット7を取り外すことにより中間ケーシング50から切り離すことができる。
【0013】
この多段ポンプは、羽根車2の段数を変更することが可能に構成されている。羽根車2の段数を増やす場合は、所望の数の羽根車およびこれら羽根車に対応したディフューザおよびケーシングピースを多段ポンプに追加する。一方、羽根車2の段数を減らす場合は、所望の数の羽根車およびこれら羽根車に対応したディフューザおよびケーシングピースを多段ポンプから取り外す。このように、本多段ポンプは、その用途に応じて所望の段数にすることができる。
【0014】
回転軸1は、吸込ケーシング10および吐出しケーシング30を貫通して延びている。吸込ケーシング10および吐出しケーシング30の外側には、軸封機構55,55がそれぞれ設けられている。軸封機構55,55としては、メカニカルシールやグランドパッキンなどが使用される。軸受9,9は、それぞれ軸受ケーシング65,65に収容されている。これら軸受ケーシング65,65には、それぞれ軸受カバー67,67がボルトにより固定されている。各軸受ケーシング65内には潤滑オイルが充填されており、この潤滑オイルは、冷却パイプ66によって冷却されるようになっている。
【0015】
吐出しケーシング30には、バランス機構70が設けられている。このバランス機構70は、回転軸1と一体に回転するバランスディスク71と、このバランスディスク71に対向して配置されたバランスディスクシート72とを有している。このバランス機構70は、羽根車2の吸込側と吐出し側の圧力差に起因して発生するスラスト力を支持することで、回転軸1に作用するスラスト力をバランスさせる機能を有する。バランス機構70は、バランス室73内に配置されている。羽根車2によって昇圧された液体は、バランスディスク71とバランスディスクシート72との間の微小な隙間を通り、バランス室73に流入するようになっている。
【0016】
吸込ケーシング10の内部には、多段の羽根車2のうちの初段羽根車に隣接した側室25が形成されている。この側室25には、初段羽根車によって昇圧された液体の一部が流入するようになっている。バランス室73と側室25とは、バランス配管75によって連結されている。したがって、バランス室73内の圧力と、側室25内の圧力とは、実質的に同一となっている。
【0017】
図3は、吸込ケーシング10を示す図である。吸込ケーシング10は、吸込流路が内部に形成された吸込ポート11と、通しボルト6の挿入孔12A,13A,14A,15Aが形成された4つのボルト台座12,13,14,15とを有している。これら4つのボルト台座12,13,14,15は、回転軸1の周方向において等間隔に設けられている。
【0018】
吸込ケーシング10には脚部80が締結ボルト85によって固定されている。脚部80には、締結ボルトが挿入される通孔80aが形成されており、締結ボルトによって吸込ケーシング10を共通ベースに固定することができる。
【0019】
図4は、吸込ケーシング10の断面図である。吸込ケーシング10には、吸込流路11aに接続された吸込ボリュート20と、側室25とが形成されている。吸込ボリュート20と側室25とは仕切り壁26によって隔離されている。側室25は、初段羽根車に隣接しており(
図2参照)、初段羽根車によって昇圧された液体の一部が側室25に流入するようになっている。側室25内の圧力は、初段羽根車の吐出し圧力に近い圧力となっている。
【0020】
吸込ボリュート20は、渦巻き流路である。この吸込ボリュート20は、吸込流路11aから初段羽根車の液体入口まで延びており、液体は吸込ボリュート20を通って初段羽根車に導かれる。吸込ボリュート20には、液体の流れを案内する案内板21が配置されている。この案内板21は、吸込流路11aからの液体を吸込ボリュート20に沿って旋回させる役割を持つ。吸込ボリュート20の下流端には、初段羽根車の中心に向かって突出する舌部22が形成されている。
【0021】
図5は、吸込ケーシング10内の液体の流れを解析した結果を示す図である。
図5から分かるように、液体は、吸込ボリュート20内を滑らかに流れており、吸込流路11aから羽根車2(初段羽根車)の液体入口まで均一の流れが形成されている。液体は、初段羽根車の回転方向に旋回しながら、初段羽根車に吸い込まれており、液体の流れに大きな乱れは発生していない。その結果、液体の流入角度が、初段羽根車の入口角度と一致するようになり、多段ポンプの吸込性能が改善される(すなわち、キャビテーションが起こりにくくなる)と同時にポンプ性能も改善される。さらには、騒音や振動も低減される。
【0022】
図6は、従来の吸込ケーシング内の液体の流れを解析した結果を示す図である。従来の吸込ケーシング105では、吸込ボリュート20は形成されておらず、中心線に沿って案内板110,111が設けられているだけである。液体は、案内板110,111の両側を流れ、そして羽根車112の液体入口に吸い込まれる。
図6から分かるように、液体は、吸込ケーシング105の内面または案内板111に衝突して、その流れが乱されてしまう。その結果、液体の流入角度が、羽根車112の入口角度と一致せず、多段ポンプの吸込性能が低下する(すなわち、キャビテーションが起こりやすくなる)とともに、ポンプ性能が低下してしまう。場合によっては、大きな騒音や激しい振動が発生することもある。
図5および
図6との対比から分かるように、吸込ボリュート20を持つ吸込ケーシング10は、均一な液体の流れを形成することができ、吸込性能およびポンプ性能を向上させることができる。
【0023】
吸込ケーシング10は、バランス配管75(
図2参照)に接続される第1の接続ポート27を有している。この第1の接続ポート27は、側室25に連通しており、バランス室73内の高圧の液体は、バランス配管75を通って側室25に戻されるようになっている。上述したように、側室25は、仕切り壁26によって吸込ボリュート20から隔離されているので、側室25に流入した液体は、吸込ボリュート20を流れる液体に衝突することはない。したがって、吸込ボリュート20を流れる液体に乱れは生じない。さらに、側室25内は高圧の液体で満たされているので、キャビテーションも起こりにくい。その結果、吸込性能を向上させることができる。
【0024】
吸込ケーシング10は、吸込ボリュート20に連通する第2の接続ポート28をさらに有している。吸込ボリュート20を流れる液体を乱さないという観点からは、バランス室73内の液体は、第1の接続ポート27を通じて側室25に戻すことが好ましい。しかしながら、多段ポンプの用途や設置場所によっては、バランス配管75を第2の接続ポート28に接続してもよい。第2の接続ポート28は、省略することもできる。
【0025】
図7は、ポンプの吸込性能を示す指標であるNPSHR(必要有効吸込ヘッド)を示すグラフである。
図7から分かるように、バランス配管75を側室25に接続したときのNPSHR(実線で示す)は、部分流量領域から過大流量領域にまでの全流量領域において、バランス配管75を吸込ボリュート20に接続したときのNPSHR(点線で示す)よりも低くなっている。これは、バランス配管75を側室25に接続すると、吸込ケーシング10内でキャビテーションが起こりにくくなることを示している。
【0026】
図8は、吐出しケーシング30を示す図である。吐出しケーシング30は、吐出し流路が内部に形成された吐出しポート31と、通しボルト6の挿入孔32A,33A,34A,35Aが形成された4つのボルト台座32,33,34,35とを有している。これら4つのボルト台座32,33,34,35は、回転軸1の周方向において等間隔に設けられている。
【0027】
吐出しケーシング30には脚部81が締結ボルト85によって固定されている。脚部81には、締結ボルトが挿入される通孔81aが形成されており、締結ボルトによって吐出しケーシング30を共通ベースに固定することができる。
【0028】
図9は、吐出しケーシング30を示す断面図である。
図9に示すように、吐出しケーシング30は、羽根車2から吐き出された液体が旋回する環状流路36を形成する周壁37を備えている。周壁37と吐出しポート31との接続部は、湾曲した断面形状を有しており、上流側湾曲部41と下流側湾曲部42とを構成している。上流側湾曲部41は、矢印Hで示す羽根車2の回転方向に関して、下流側湾曲部42の上流側に位置している。上流側湾曲部41は、下流側湾曲部42よりも大きく湾曲している。すなわち、上流側湾曲部41の曲率半径は、下流側湾曲部42の曲率半径よりも大きくなっている。
【0029】
図10は、吐出しケーシング30内の液体の流れを解析した結果を示す図である。
図10から分かるように、液体は上流側湾曲部41に沿って流れている。一方、下流側湾曲部42の周囲では、液体が淀んでいる。
【0030】
上流側湾曲部41の曲率半径を大きくする理由は、周壁37と吐出しポート31との接続部での流速を遅くするためである。高温水が流路を高速で流れると、流路材料の腐食が促進されるという現象が知られている。このような現象はFAC(Flow Accelerated Corrosion)と呼ばれている。液体は回転する羽根車2により昇圧されるので、吐出しケーシング30を通る液体は高温となる。結果として、吐出しケーシング30の内壁の腐食が促進されるおそれがある。本実施形態では、上流側湾曲部41の曲率半径を大きくすることで、周壁37と吐出しポート31との接続部での流速を下げることができる。したがって、吐出しケーシング30の局所的な腐食を防止することができる。
【0031】
さらに、上流側湾曲部41の曲率半径を大きくすることにより、液体が吐出しポート31の内面から剥離する領域を小さくすることができる。その結果、液体がスムーズに吐き出され、ポンプ性能が向上する。一方、下流側湾曲部42の曲率半径を小さくする理由は、液体が淀んでいる領域を小さくして、吐出し流路31aを流れる液体の流れを乱さないようにするためである。このように、本実施形態の吐出しケーシング30の形状は、腐食の促進を防止するとともに、ポンプ性能を向上させることができる。
【0032】
図11は、吐出し流路31aの断面積の変化を示すグラフである。
図11および
図9に示すように、吐出しケーシング30の吐出し流路31aは、その断面積が液体の流れ方向に沿って徐々に小さくなる形状を有している。これは、吐出し流路31aを流れる液体の速度をある程度上げることにより、吐出し流路31a内の剥離領域を小さくするためである。したがって、ポンプ性能をさらに向上させることができる。
【0033】
上述した多段ポンプでは、4本の通しボルト6が使用されているが、羽根車の径がある程度大きい場合は、8本の通しボルトが使用される。本発明は、8本の通しボルトを有する多段ポンプにも適用可能である。
【0034】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうることである。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。