(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記スペクトルの変化量は、前記相対変化の大きさを、前記2つの時点間の時間間隔で割ることで得られたスペクトル変化速度であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
前記スペクトルは、波長と、各波長での強度を所定の波長範囲での強度の平均値で除して得られた正規化された強度との関係を示すスペクトルであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
前記スペクトルの変化量は、前記相対変化の大きさを、前記2つの時点間の時間間隔で割ることで得られたスペクトル変化速度であることを特徴とする請求項15に記載の方法。
前記スペクトルは、波長と、各波長での強度を所定の波長範囲での強度の平均値で除して得られた正規化された強度との関係を示すスペクトルであることを特徴とする請求項14に記載の方法。
前記相対変化の大きさは、所定の波長範囲における前記2つのスペクトル間での前記強度の差分の二乗平均平方根であることを特徴とする請求項28に記載の研磨監視装置。
前記相対変化の大きさは、所定の波長範囲における前記2つのスペクトル間での前記強度の差分の絶対値の平均であることを特徴とする請求項28に記載の研磨監視装置。
前記スペクトルの変化量は、前記相対変化の大きさを、前記2つの時点間の時間間隔で割ることで得られたスペクトル変化速度であることを特徴とする請求項28に記載の研磨監視装置。
前記スペクトルは、波長と、各波長での強度を所定の波長範囲での強度の平均値で除して得られた正規化された強度との関係を示すスペクトルであることを特徴とする請求項27に記載の研磨監視装置。
前記相対変化の大きさは、所定の波長範囲における前記2つのスペクトル間での前記強度の差分の二乗平均平方根であることを特徴とする請求項37に記載のプログラム。
前記スペクトルの変化量は、前記相対変化の大きさを、前記2つの時点間の時間間隔で割ることで得られたスペクトル変化速度であることを特徴とする請求項37に記載のプログラム。
前記スペクトルは、波長と、各波長での強度を所定の波長範囲での強度の平均値で除して得られた正規化された強度との関係を示すスペクトルであることを特徴とする請求項36に記載のプログラム。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
図2Aは、本発明の一実施形態に係る研磨監視方法の原理を説明するための模式図であり、
図2Bは基板と研磨テーブルとの位置関係を示す平面図である。
図2Aに示すように、研磨対象となる基板Wは、下地層(例えば、シリコン層)と、その上に形成された膜(例えば、光透過性を有するSiO
2などの絶縁膜)を有している。基板Wはトップリング(
図2Aおよび
図2Bには図示せず)に保持され、矢印で示すように基板Wの中心周りに回転される。基板Wの表面は、回転する研磨テーブル20上の研磨パッド22にトップリングによって押圧され、基板Wの膜は研磨パッド22との摺接により研磨される。
【0022】
投光部11および受光部12は、基板Wの表面に対向して配置されている。投光部11は、基板Wの表面に対してほぼ垂直に光を照射し、受光部12は基板Wからの反射光を受ける。投光部11が発する光は、多波長の光である。
図2Bに示すように、研磨テーブル20が1回転するたびに基板Wの中心を含む領域に光が照射される。受光部12には分光器13が接続されている。この分光器13は、反射光を波長に従って分解し、反射光の強度を波長ごとに測定する。
【0023】
分光器13には、処理装置15が接続されている。この処理装置15は、分光器13によって取得された測定データを読み込み、強度の測定値から反射光の強度分布を生成する。より具体的には、処理装置15は、波長ごとの光の強度を表わすスペクトルを生成する。このスペクトルは、反射光の波長と強度との関係を示す線グラフとして表される。処理装置15は、さらに、スペクトルの変化から研磨の進捗を監視し、研磨終点を決定するように構成されている。処理装置15としては、汎用または専用のコンピュータを使用することができる。処理装置15は、プログラム(またはコンピュータソフトウエア)によって所定の処理ステップを実行する。
【0024】
図3は、
図2Aに示す構造の基板に関して、光の干渉理論に基づいて研磨シミュレーションを行って得られた反射光のスペクトルを示すグラフである。
図3において、横軸は光の波長を表わし、縦軸は光の強度から導かれる相対反射率を表わす。この相対反射率とは、光の強度を表わす1つの指標であり、具体的には、反射光の強度と所定の基準強度との比である。このように反射光の強度(実測強度)を所定の基準強度で割ることにより、ノイズ成分が除去された光の強度を得ることができる。所定の基準強度は、例えば、膜が形成されていないシリコンウェハを水の存在下で研磨しているときに得られた反射光の強度とすることができる。なお、研磨シミュレーションの場合には、各波長に関して得られる基板からの反射光の強度(シミュレーションでは、入射光に対する反射光の強度の比率を示す反射率)を、上記基準強度(同様に、シミュレーションでは入射光に対する反射光の強度の比率を示す反射率)で単純に除算することで相対反射率が求められる。一方、実際の研磨においては、上記除算の前に被除数および除数のそれぞれから、ダークレベル(光を遮断した条件下で得られた背景強度)が減算される。なお、相対反射率を使用せずに、反射光の強度そのものを使用してもよい。
【0025】
実際の研磨においては、相対反射率R(λ)は、次の式を用いて求めることができる。
【数1】
ここで、λは波長であり、E(λ)は基板からの反射光の強度であり、B(λ)は基準強度であり、D(λ)は基板が存在しない状態で取得された背景強度(ダークレベル)である。
【0026】
光の干渉理論に基づく基板からの反射光のシミュレーションは、光の媒質を水(H
2O)とした条件下で行った。
図3に示すグラフは、膜厚10nmの間隔で取得された複数のスペクトルを示している。
図3に示すように、膜厚が大きいときには、スペクトルの極大点および極小点(以下、これらを総称して極値点という)の間隔が短く、極値点の数が多い。一方、膜厚が小さいときには、極値点の数が少なく、スペクトルは緩やかな曲線を描く。さらに、膜厚の減少(すなわち研磨の進捗)に伴ってスペクトルは波長の短い方に移動する(
図3では、図面の左側に移動する)。
【0027】
図4は、
図3に示すようなスペクトルに関して、膜厚差Δθに対応する2つのスペクトルを示す模式図である。ここで、θは膜厚であり、研磨時には膜厚θは時間とともに減少するので、Δθ<0である。上述したように、スペクトルは膜厚の変化とともに波長軸に沿って移動する。膜厚差Δθに対応するスペクトルの変化量は、
図4に示すように、2つの異なる時点で取得された上記2つのスペクトルによって囲まれる領域(ハッチングで示す)に相当する。この領域の面積は、膜厚差Δθが十分小さければ(この例では、Δθ=−10nm)、膜厚の大小にかかわらず、ほぼ一定であることが
図3から分かる。したがって、研磨中に上記面積またはこれに類似する変量を積算することにより、膜厚の変化を捉えられることが期待される。
【0028】
そこで、本方法では、スペクトル変化量V(t)を、次の式で表わす。
【数2】
ここで、λは光の波長であり、λ1,λ2は監視対象とするスペクトルの波長範囲を決定する最小波長および最大波長であり、N
λは上記波長範囲内の波長個数であり、tは時間(研磨時間)であり、Δtは所定の時間刻みであり、R(λ,t)は、波長λ、時間tのときの相対反射率である。Δtとしては、例えば、研磨テーブルがp回転(pは小さな自然数)するのに要する時間を取ることができる。
【0029】
スペクトル変化量V(t)は、単位時間当たりのスペクトル変化量、すなわち、スペクトル変化速度として表してもよい。この場合、スペクトルの変化量V(t)は、次のように表わされる。
【数3】
【0030】
所定の時間Δtごとのスペクトル変化量は、上記波長範囲における2つのスペクトルの相対変化の大きさ(すなわち変位の大きさ)として表される。上記式(2)は、スペクトル変化量を二乗平均平方根として表わす式である。より具体的には、上記式(2)から求められるスペクトル変化量V(t)は、2つのスペクトル間でのそれぞれの波長での光の強度の差分の二乗平均平方根である。
【0031】
さらに、式(2)および式(3)から、スペクトルの変化量の時間軸に沿った累積値A(t)は、次のように求められる。
【数4】
または、
【数5】
【0032】
ここで、t
0は膜厚変化の監視を開始する時間である。なお、式(4),式(5)の右辺に適当な係数を乗じて、A(t)の値を見やすい大きさに調節してもよい。なお、式(5)のΔtは式(3)のΔtと必ずしも等しい必要はなく、例えば式(3)のΔtおよび式(5)のΔtを次のように設定することができる。
(ステップi)1秒ごとに相対反射率R(t)を測定する。
(ステップii)式(3)のΔtを2秒に設定し、1秒ごとに、2秒離れた時点間のスペクトル変化量からスペクトル変化速度V(t)を求める。
(ステップiii)式(5)のΔtを1秒に設定し、1秒ごとにスペクトル累積変化量A(t)を求める。
【0033】
スペクトル変化量を定式化する方法は上記式に限られず、他の方法を用いることもできる。例えば、スペクトル変化量V(t)は、2つのスペクトル間でのそれぞれの波長での光の強度の差分の二乗平均であってもよい。また、監視対象とするスペクトルの波長範囲は、不連続な複数の範囲であってもよい。さらに、スペクトル変化量V(t)は、
図4に示すハッチング領域の面積に相当する値として、次の式のように定義してもよい。
【数6】
ここで、Δλは波長刻みである。式(2)の場合と同様、スペクトル変化量V(t)は、監視対象とするスペクトルの波長範囲[λ1,λ2]における1波長あたりの相対反射率の差分の絶対値の平均として表しても良い。この絶対値平均は、次の式で与えられる。
【数7】
【0034】
さらに、式(2)〜(3)および式(7)のR(λ,t)の代わりに、正規化された相対反射率R
N(λ,t)を用いることもできる。この正規化された相対反射率R
N(λ,t)は、相対反射率R(λ,t)を所定の波長範囲における相対反射率の平均値で除算することで求められる。所定の波長範囲としては、例えば[λ1,λ2]とすることができる。次の式(8)は、正規化された相対反射率R
N(λ,t)を求めるための式である。
【数8】
【0035】
次の式(9)および式(10)は、それぞれ式(2)および式(7)のR(λ,t)を式(8)のR
N(λ,t)で置き換えることで得られた式である。
【数9】
【数10】
【0036】
正規化された相対反射率を用いることにより、光量の変化の影響を排除することが可能である。例えば、研磨パッドが摩耗すると、基板と光学センサ(投光部11および受光部12)との距離が変化し、これに起因して検知される光量が変化してしまう。このような場合でも、正規化された相対反射率を用いることにより、光量の変化の影響を受けずにスペクトル変化量を算出することができる。
【0037】
図5A乃至
図5Dは、初期の厚さが1000nmの酸化膜を有する
図2Aに記載の基板の研磨をシミュレーションした結果を示すグラフである。
図5Aは上記式(2)に対応し、
図5Bは上記式(7)に対応し、
図5Cは上記式(9)に対応し、
図5Dは上記式(10)に対応する。
【0038】
研磨速度(除去レート)が一定の条件下では、時間tがΔtだけ増加する間に、膜厚θはΔθ(<0)だけ変化する。したがって、時間Δtは膜厚差Δθに対応する。t,Δtに代えてθ,Δθを用いると、式(2)および式(3)は、次のように表わすことができる。
【数11】
【数12】
【0039】
さらに、式(4)および式(5)は、次のように表される。
【数13】
【数14】
ここで、一般にθ<θ
0(初期膜厚)であるが、式(13)、式(14)において、Σはθからθ
0までの範囲におけるV(θ)の総和を示す。
【0040】
また、上述した式(7)は、次のように表わすことができる。
【数15】
【0041】
さらに、上述した式(9)および式(10)は、それぞれ次のように表わすことができる。
【数16】
【数17】
【0042】
なお、
図5A乃至
図5Dにおいて、縦軸は、単位研磨量1nm当たりのスペクトル変化量を示し、横軸は研磨量、すなわち膜の除去量を示している。
図5A乃至
図5Dに示すグラフから、膜厚が大きいときには、スペクトル変化量は、周期的な小さな変動はあるものの、概ね一定であり、膜厚が小さくなるにつれて、変動の振幅が徐々に大きくなることが分かる。
【0043】
図6A乃至
図6Dは、上記式(13)を用いて算出したスペクトル累積変化量A(θ)を示すグラフである。より具体的には、
図6Aは上記式(11)および式(13)から得られたグラフであり、
図6Bは上記式(15)および式(13)から得られたグラフであり、
図6Cは上記式(16)および式(13)から得られたグラフであり、
図6Dは上記式(17)および式(13)から得られたグラフである。
【0044】
上述のように、スペクトル変化量が周期的に変動するため、変動による平均レベルからの誤差はほとんど累積されない。したがって、
図6A乃至
図6Dに示すように、スペクトル累積変化量A(θ)は、研磨量800nm〜900nm(膜厚200nm〜100nm)に達するまで、ほぼ直線的に増加する。以上の結果から、スペクトル累積変化量により、膜厚の減少(すなわち膜の除去量)を把握することが可能であることが分かる。上述した処理装置15は、スペクトル累積変化量を基板の研磨中に算出し、スペクトル累積変化量から基板の研磨の進捗を監視する。さらに処理装置15は、スペクトル累積変化量から基板の研磨終点を決定する。研磨終点は、スペクトル累積変化量が所定の目標値に達した時点とすることができる。
【0045】
図7A乃至
図7Dは、
図2Aに記載の基板の酸化膜を初期厚さ1000nmから500nmだけ研磨した場合に、スペクトル累積変化量から推定される研磨中各時点の研磨量が真の研磨量からどれほどの誤差を有するのか、シミュレーションにより検討した結果を示す。
【0046】
研磨開始時点(研磨量0nm,膜厚1000nm)では、スペクトル累積変化量と研磨量は何れも0である。したがって、研磨終了時点(研磨量500nm,膜厚500nm)の研磨量推定値の誤差が0で、研磨量がスペクトル累積変化量に完全に比例すると仮定すれば、膜厚θのときの推定研磨量は、
[A(θ)−A(1000nm)]/[A(500nm)−A(1000nm)]×500nm
となる。ただし、A(1000nm)=0である。
【0047】
研磨中の各時点での真の研磨量は、1000nm−θで表される。したがって、研磨中の各時点での研磨量の推定誤差E(θ)は、次の式で表される。
【数18】
【0048】
図7A乃至
図7Dのグラフにおいて、横軸は研磨量すなわち膜の除去量を示しており、縦軸は、膜厚θを変数とする上の式(18)から表される研磨量の誤差E(θ)を示している。より具体的には、
図7Aは上記式(11)、式(13)、および式(18)から得られたグラフであり、
図7Bは上記式(15)、式(13)、および式(18)から得られたグラフであり、
図7Cは上記式(16)、式(13)、および式(18)から得られたグラフであり、
図7Dは上記式(17)、式(13)、および式(18)から得られたグラフである。
【0049】
図7Aにおいて、研磨中の誤差は概ね−0.3nm〜0.8nmの範囲にあり、スペクトル累積変化量に基づき研磨の進捗の様子を精度よく監視できることが分かる。
図7B乃至
図7Dにおける研磨量誤差は
図7Aの場合よりも大きいが、最も大きな誤差が現れている
図7Dの場合においても研磨量誤差は2.5nm以下と相対的に小さい。したがって、スペクトル累積変化量と研磨量との関係を事前に取得することにより、研磨中に得られるスペクトル累積変化量から研磨量を精確に推定することができる。スペクトル累積変化量と研磨量との関係は、研磨対象となる基板と同種の(すなわち同一または類似の)基準基板を研磨して基準スペクトル累積変化量を取得し、基準基板の研磨前後の膜厚(すなわち、初期膜厚および最終膜厚)を計測して研磨開始から研磨終了までの研磨量を求め、研磨中の基準スペクトル累積変化量が研磨量に比例するとの仮定をおいて、基準スペクトル累積変化量を研磨量に関連付けることにより得られる。
【0050】
ところで、アルミニウムなどの配線が形成されている膜上に絶縁膜を形成すると、この絶縁膜の表面に複数の段差(凹凸)が形成されることがある。この例のように基板の表面に大きな段差(凹凸)がある場合、研磨液や研磨パッドにもよるが、研磨初期には基板表面の凸部が研磨パッドに強く接触して大きく研磨され、凸部に比べると凹部の研磨量は小さい。したがって、表面段差は徐々に解消されることになる。このため、研磨初期ではスペクトルが必ずしも期待されたような変化を示さない。このような場合には、表面段差が概ね除去された時点からスペクトル累積変化量の計算を開始し、研磨量を監視することが好ましい。表面段差の除去点の決定は、例えば、研磨テーブルを回転させるモータの電流に基づいて、研磨パッドと基板との間の摩擦の変化を検知することにより行なうことができる。
【0051】
図8は、Cu配線形成工程における基板の構造の一例を示す断面図である。シリコンウェハの上には複数の酸化膜(SiO
2膜)が形成され、さらにビアホールで接続された2層の銅配線、すなわち上層銅配線M2及び下層銅配線M1が形成されている。酸化膜の各層の間にはSiCN膜が形成されており、さらに最上層の酸化膜上にはバリア層(例えば、TaNまたはTa)が形成されている。上側の3層の酸化膜の厚さはそれぞれ100〜200nmの範囲にあり、各SiCN層の厚さは30nm程度である。最下層の酸化膜の厚さは1000nm程度である。トランジスタなどの下層の構造は図示を省略する。上層銅配線M2は最上層の酸化膜内に形成されており、最上層の酸化膜と上層銅配線M2は同時に研磨される。この基板の研磨プロセスは、上層銅配線M2の高さ、すなわち配線抵抗を調節することを目的としている。
【0052】
SiCN膜は、前工程でCu配線溝を形成するときにエッチングを停止させるためのエッチストッパ層である。SiCNの代わりにSiNなどが使用されることもある。このエッチストッパ層の影響を調べるために、
図9に示すような、研磨シミュレーション用の簡略化した基板モデルを用意した。この基板では、シリコンウェハの上に下層SiO
2膜が形成され、その上にエッチストッパ層としてのSiCN膜が形成され、さらにその上に上層SiO
2膜が形成されている。上層SiO
2膜の初期厚さは200nm、SiCN膜の厚さは30nm、下層SiO
2膜の厚さは500nmである。
【0053】
研磨シミュレーションは、光の媒質を水(H
2O)とした条件下で実行した。その結果を
図10および
図11に示す。
図10は、
図9に示す上層SiO
2膜を100nmだけ研磨するシミュレーションから得られたスペクトルの推移を示すグラフであり、
図11は、
図10に示すスペクトルの極大点および極小点(すなわち極値点)の波長の変化を示すグラフである。
図2Aに示すような単層のSiO
2膜を研磨した場合とは異なり、スペクトルの極大点および極小点の波長は大きく変化せず、膜厚の減少とともにスペクトルが単純に短波長側には移動しない。これは、SiO
2の屈折率(約1.46)とSiCNの屈折率(約1.83)との差が、SiO
2の屈折率とH
2Oの屈折率(約1.33)との差に比べて大きいからである。一般に、2つの物質の屈折率差が小さいと、その界面での反射光は弱くなる。極端な例として界面の屈折率差がないと仮定すると反射はおきない。このため、計測される反射光全体のスペクトルにおいて、被研磨膜である上層SiO
2膜の上面で反射する光の成分に比べ、SiCN膜と上層SiO
2膜との界面、または、SiCN膜と下層SiO
2膜との界面で反射して上層SiO
2膜を透過してくる光の成分が占める割合が大きくなる。その結果、極値点の数や波長は、SiCN膜よりも下層、主に下層SiO
2膜の影響を強く受けてしまう。この下層SiO
2膜は研磨されないため、研磨中に得られるスペクトルは上層SiO
2膜の厚さの減少を反映しにくい。
【0054】
したがって、
図11に示すように、研磨量の変化にかかわらず、極値点の波長はあまり変化しなく、極値点の波長の変化に基づいて研磨の進捗を捉えることは難しい。しかしながら、このような場合であっても、
図10に示すように、研磨量(膜厚)の変化にともなってスペクトルは変化する。
【0055】
図12は、
図10に示すスペクトルの変化から算出されたスペクトル累積変化量の推移を示すグラフである。
図12に示すように、スペクトル累積変化量は、研磨量とともにほぼ直線的に増加する。したがって、本実施形態の方法によって研磨の進捗を把握できることが分かる。
図12に示すスペクトル累積変化量は、上記式(11)および式(13)を用いて算出されているが、式(11)に代えて式(15),式(16),または式(17)を使用してもよい。この場合にも同様の結果が得られる。
【0056】
図13は、
図9に示す下層SiO
2膜の厚さがそれぞれ450nm,500nm,550nmである3枚の基板を研磨するシミュレーションから得られた、研磨量の推定誤差を示すグラフである。
図13に示す推定誤差は、上記式(11)、式(13)、および式(18)を用いて算出されているが、式(11)に代えて式(15),式(16),または式(17)を使用してもよい。
【0057】
誤差の算出は下層SiO
2膜の厚さが500nmの基板を基準に行なっており、この基板に関して得られた研磨終点でのスペクトル累積変化量A(θ)が、研磨量100nmに相当する。下層SiO
2膜の厚さを添え字として示すことにすると、
図7A乃至
図7Dの場合と同様にして、それぞれの場合の誤差は次の式で表わされる。
E
500(θ) = A
500(θ)/A
500(100nm)×100nm−(200nm−θ) ・・・(19)
E
450(θ) = A
450(θ)/A
500(100nm)×100nm−(200nm−θ) ・・・(20)
E
550(θ) = A
550(θ)/A
500(100nm)×100nm−(200nm−θ) ・・・(21)
【0058】
図13に示す太い一点鎖線は、下層SiO
2膜の厚さが500nmであるときの研磨量の誤差を表わしている。併せて、下層SiO
2膜の厚さが450nmの場合の誤差を細い破線で、下層SiO
2膜の厚さが550nmの場合の誤差を細い実線で表わしている。いずれの場合にも、研磨量の推定誤差は±1nmの範囲に収まっており、実用上問題のない精度で研磨量を推定できることが分かる。これより、事前に1枚の基板(この例では下層SiO
2膜の厚さが500nmの基板)を研磨してスペクトル累積変化量と研磨量との関係を求めておけば、下層SiO
2膜の厚さが異なる基板(この例では下層SiO
2膜の厚さが450nm、550nmの基板)に対しても、研磨中に精度よく研磨量を求めることができる。
【0059】
なお、Cu配線高さ調節のための研磨プロセスにおいて、実際には、
図8に示すように、最上層の絶縁膜の上にはバリア層が形成されており、通常は銅配線とバリア層は連続して研磨される。そこで、本方法の適用に当たっては、まず、研磨テーブルのモータの電流計、渦電流センサ、光学式センサなどでバリア層の除去点を検出し、バリア層が除去された時点からスペクトル累積変化量の算出を始めることが好ましい。前述のように、Cu配線高さを調節するための研磨プロセスにおいては、エッチストッパ層の影響によりスペクトルの極値点の波長変化が小さくなる。したがって、スペクトル全体の波長変化を利用した本方法は特に効果的である。
【0060】
図14は、
図8に示す構造の基板を実際に研磨して得られたスペクトル累積変化量の時間推移をプロットした図である。スペクトル累積変化量は前述の式(3)および式(5)を用いて求められた。スペクトル累積変化量の傾き(勾配)は研磨開始から20秒過ぎた後に変化し、屈曲点が現われている。この屈曲点は前述のバリア層の除去時点に相当する。したがって、研磨中にスペクトル累積変化量の屈曲点を検出すれば、バリア層の除去時点を決定できる。
図15はスペクトル累積変化量の屈曲点検出方法の一例を示した図である。
図15のグラフは、前述の式(3)で求められる単位時間当たりのスペクトル変化量(すなわちスペクトル変化速度)の時間推移をプロットしたものである。バリア層除去時点よりも明らかに早い時点から検出を開始し、スペクトル変化量が予め定められたしきい値を下回った時点にバリア層が除去されたと決定する。
【0061】
式(3)に代えて、スペクトル変化量を求めるための他の式(例えば、式(2)、式(6)、式(7)、式(9)、式(10)など)を用いることも可能である。これらの場合にも、バリア層の除去点は、スペクトル累積変化量の屈曲点として現れる。したがって、
図15に示す方法に従って、スペクトル累積変化量の屈曲点、すなわちバリア層の除去点を同様に検出することができる。
【0062】
次に、同一構造を有する複数の基板を実際に研磨して得られた結果について説明する。
図16は、同一構造の基板17枚を、同一の研磨条件下で研磨時間のみ変えて実際に研磨して得られたスペクトル累積変化量を示すグラフである。この研磨では、時間刻みΔtとして研磨テーブル1回転分の時間を使用した。すなわち、研磨テーブルが1回転するごとにスペクトル変化量を求め、得られたスペクトル変化量を積算してスペクトル累積変化量とした。なお、取得されたスペクトルのノイズ(歪み)を除去するために、直近の複数のスペクトルデータを用いてスペクトルの移動平均を求め、得られたスペクトルの移動平均からスペクトル変化量を算出した。より具体的には、研磨テーブルが一回転するたびに、直近の5個のスペクトル(すなわち、研磨テーブルが5回転する間に得られたスペクトル)の平均を求め、得られたスペクトルの平均からスペクトル変化量を算出した。
図16のグラフにおいて、縦軸はスペクトル累積変化量を示し、横軸は研磨時間[秒]を示している。
図16のグラフから、研磨時間とともにスペクトル累積変化量が概ね直線的に増加していることが分かる。したがって、研磨中にスペクトル累積変化量を監視することにより研磨の進捗を把握することができる。
【0063】
上述ように移動平均法を適用する場合、各時点でのスペクトル変化量は、移動平均時間と、スペクトル変化量算出のための時間刻みΔtとを合算した期間(以下、算出期間という)を経て算出される。したがって、各時点でのスペクトル変化量は、その時点の直前の算出期間内でのスペクトル変化量を代表する値といえる。
【0064】
研磨開始から上記算出期間が経過するまでは、スペクトル変化量を算出することはできない。このため、研磨開始から算出期間が経過した時点において、スペクトル累積変化量の初期値をどう設定するかが問題になる。そこで、スペクトル累積変化量の初期値の設定方法について、
図17を参照して説明する。
図17の下段には、単位時間当たりのスペクトル変化量(すなわちスペクトル変化速度)がプロットされ、上段にはスペクトル累積変化量がプロットされており、それぞれのマークは研磨テーブルが1回転するごとに算出された値を示している。
【0065】
図17では、研磨開始点からの算出期間を、初期算出期間として表している。初期算出期間以降の各時点におけるスペクトル変化速度は、上述したように、各時点の直前の算出期間を代表する値がプロットされ、また、スペクトル累積変化量としてはスペクトル変化速度を累積した値がプロットされている。
【0066】
図17の符号Aは、研磨開始から初期算出期間が経過する直前まで間のスペクトル変化速度が0であると仮定して求められたスペクトル累積変化量を示す。このスペクトル累積変化量は、実際のスペクトル変化速度を積算することによって求められるため、多くの場合、安定した単調増加を示す。この符号Aで示されるスペクトル累積変化量は、特に研磨の初期段階において基板間の研磨速度のばらつきが小さい場合に適する。しかし、符号Aで示されるスペクトル累積変化量は、初期算出期間の研磨量を十分には反映していないため、オフセットした値を示すことになる。
【0067】
一方、
図17の符号Bは、研磨開始から初期算出期間が経過する直前の時点までのスペクトル変化速度が、初期算出期間の経過時点に求められた値B’に等しいと仮定して求められたスペクトル累積変化量を示す。前述のように、値B’は初期算出期間を代表する値と見なすことができ、一定の合理性を有する。しかし、初期算出期間の経過時点での値B’が、初期算出期間以降の各時点での値に比べて、スペクトル累積変化量に大きく反映されるという問題がある。例えば、基板面内における膜厚や配線密度の不均一性の影響などを受けてスペクトル変化速度が大きく変動して、値B’の平均レベルからの誤差が大きくなる場合がある。このような場合、B’の誤差が強調されて、得られたスペクトル累積変化量が実際の研磨量からずれた値を示すおそれがある。
【0068】
図17の符号Cは、研磨開始から初期算出期間が経過する直前の時点までのスペクトル変化速度が、初期算出期間経過以降に得られたスペクトル変化速度の平均値に等しいと仮定して求められたスペクトル累積変化量を示す。スペクトル変化速度の平均値の算出は、初期算出期間が経過した時点から開始され、所定の基準上限区間が経過するまで続けられる。すなわち、基準上限区間内での各時点において、スペクトル変化速度が算出されるたびに、その時点までに求められたスペクトル変化速度の平均値が算出される。基準上限区間が経過した後は、基準上限区間の終点で求められたスペクトル変化速度の平均値が、各時点で、初期算出期間におけるスペクトル変化速度として適用される。
図17においては、基準上限区間の終点において算出されたスペクトル変化速度の平均値をC’として示している。
【0069】
さらに、基準上限区間内の各時点において、スペクトル累積変化量も再算出される。換言すれば、スペクトル変化速度の平均値に基づいて上記初期算出期間内のスペクトル累積変化量のデータを外挿により求めたときに、研磨開始時点のスペクトル累積変化量が0になるよう、スペクトル変化速度が算出されるたびにスペクトル累積変化量を計算し直す。このようにすれば、スペクトル変化速度が大きく変動したとしても、各時点において最尤の値を求めることができる。ただし、初期算出期間の経過後しばらくの間、求められたスペクトル累積変化量が上下に変動することがある。また、研磨中、特に研磨序盤において研磨速度が大きく変化するような場合には、符号Cの方法は適さない。
図16の例は、符号Cの方法によるものであるが、スペクトル変化速度の変動が小さいため、研磨初期でのスペクトル累積変化量の変動はグラフには現れていない。なお、
図8に示すような基板をバリア層から研磨する場合には、上記説明における研磨開始時点はバリア層除去検出時点に置き換えることができる。
【0070】
図18は、上記17枚の各基板についての研磨終了時のスペクトル累積変化量と、各基板について研磨前後の膜厚測定から得られた測定研磨量との関係を示したグラフである。通常は、研磨終了時のスペクトル累積変化量としては研磨中に得られた最後の測定データが用いられる。しかしながら、研磨監視装置が研磨終点を検知してから最後の測定データが得られるまでに研磨終点検知の確認やデータ通信等のために遅れ時間が存在する場合には、最後の測定データから遅れ時間分だけ遡った測定データを利用してもよい。あるいは、この遅れ時間に相当するスペクトル累積変化量を研磨終盤のスペクトル変化量から推定し、この推定値を、研磨終点から遅れ時間だけ遡った測定データに基づいて求められたスペクトル累積変化量に加算しておいてもよい。また、同様に、研磨開始から最初の測定データが取得されるまでの間に遅れ時間があると想定される場合にも、研磨初期のスペクトル変化量から遅れ時間に相当するスペクトル累積変化量を推定して、測定データに基づいて求められたスペクトル累積変化量に加算することができる。
図18のグラフに表わされている17枚の基板についての各測定点の近傍を通る回帰直線は、最小二乗法により求めることができる。スペクトル累積変化量をxとし、測定研磨量(実研磨量)をyとすると、回帰直線はy=212.5x+2.9で表わされる。回帰直線からの各測定点のずれを示す残差は、−2.4nm〜4.3nmの範囲にある。また、回帰直線のy切片は2.9nmであり、回帰直線は原点の近くを通っている。なお、上述のようにして遅れ時間に相当するスペクトル累積変化量を推定してスペクトル累積変化量と研磨量との関係を確認し、あるいは関係式を求めた場合、実際の研磨の監視中においても、同様に推定値を求めスペクトル累積変化量に加算して、監視用のデータとする。
【0071】
同じ種類の基板を新たに研磨する場合、研磨中に求められるスペクトル累積変化量を前述の回帰直線の式に代入すれば、各時点の研磨量を研磨中に求めることができる。したがって、現在の研磨量と目標研磨量との比較から研磨終点を決定することができる。さらに、基板の初期膜厚の仕様が既知であってそれぞれの基板に対する誤差が小さい場合や、各基板を研磨する前に初期膜厚が予め測定できる場合には、初期膜厚から研磨量を引き算することで残膜厚を求めることができる。さらに、残膜厚と目標膜厚との比較から研磨終点を決定することも可能である。
【0072】
なお、上述の例では17個の測定点を基に最小二乗法を適用して回帰直線を求めたが、これら測定点に座標軸の原点(スペクトル累積変化量=0、測定研磨量=0)を加えて最小二乗法を適用してもよい。また、回帰直線が原点を通ると仮定してその回帰直線を求めてもよい。上述の例のように測定点のみから回帰直線を作成する場合、少なくとも2つの測定点が必要となり、事前に少なくとも2枚の基板を研磨する必要がある。これに対して、座標軸の原点を測定点に加えて最小二乗法を適用する場合、少なくとも1枚の基板を事前に研磨すればよい。基板を1枚のみ研磨する場合は、座標軸の原点と1つの測定点とを通る回帰直線が求められることになる。回帰直線は、座標軸の原点の近くを通ることが好ましいが、膜厚測定時の測定点と研磨中の監視用測定点との位置の違い等によって原点から多少のずれがあったとしても、目標とする研磨量付近で残差の小さい回帰直線(すなわち回帰式)が得られれば、相応の精度で研磨終点の検出が可能である。
【0073】
以上説明してきた実施形態は、スペクトル累積変化量が研磨量に略比例する例である。しかし、スペクトル累積変化量が研磨量に比例しない場合もある。例えば、
図8に示すようなCu配線抵抗(高さ)調節のための研磨の場合、配線高さが約65nmを下回ると単位研磨量当りのスペクトルが大きく変化し、特に600nm以上の波長域でスペクトルの変化が大きい。このような場合にも、例えば400nm〜500nmなど波長範囲を適当に限定することによって、研磨量に対応するスペクトル累積変化量を得ることは可能である。また、スペクトル累積変化量と研磨量との関係を示す2次多項式など非線形の式を求めて回帰分析を行うことも可能である。
【0074】
図19は、銅配線の高さを調節する研磨プロセスに本実施形態に係る方法を適用したときの処理の流れを示すフローチャートである。
図8に示す基板は、本研磨プロセスで研磨される基板の一例である。このフローチャートは、バリア層の除去を渦電流センサで検出し、バリア層の除去時点からスペクトル累積変化量の算出を開始し、さらに研磨終点を決定する処理シーケンスを示している。以下、各ステップについて
図19を参照して説明する。
【0075】
基板の研磨中に基板からの反射光のスペクトルを取得し(ステップ1)、所定の時間に対するスペクトル変化量を算出する(ステップ2)。この例では、所定の時間は研磨テーブル1回転分の時間に設定されている。したがって、ステップ1およびステップ2は、研磨テーブルが1回転するごとに実行される。
【0076】
スペクトル変化量は、バリア層が除去される前から算出される。これは次の理由に基づく。渦電流センサを用いたバリア層の除去の検出では、渦電流センサの出力信号の平滑化や信号変化点検出の確認のための種々の処理が行なわれる。このため、バリア層の除去の検出に若干の遅れが生じる。そこで、後述するように、バリア層の除去が検出されたときに、処理装置15は、バリア層が除去された実際の時点を決定し、その除去時点を起点として遡及的にスペクトル累積変化量を算出することとしている。なお、このバリア層が実際に除去された時点を決定する方法は、前述のスペクトル変化速度に基づく方法でバリア層の除去を検知する例にも、同様に適用することができる。
【0077】
処理装置15(
図2A参照)は、バリア層の除去を渦電流センサの出力信号に基づいて検出する。処理装置15は、ステップ3で、バリア層の除去が既に検出されているか否かを確認する。一つ前の時点でバリア層の除去が検出されなかった場合は、処理装置15は、渦電流センサの新たな出力信号を取得して(ステップ4)、この出力信号に平滑化などの所定の処理を行なう(ステップ5)。さらに処理装置15は、処理された出力信号に基づき、バリア層が除去されたか否かを決定する(ステップ6)。
【0078】
バリア層の除去が検出されると、処理装置15はバリア層が除去された時点を決定する(ステップ7)。このバリア層除去時点は、ステップ6においてバリア層が除去されたことを決定した時点から所定の時間を減算することにより求められる。所定の時間は、上述したセンサ信号の平滑化や、信号の変化点の確認処理に起因する遅れ時間に基づいて決定される。そして、処理装置15は、決定されたバリア層除去時点から現時点までのスペクトル累積変化量を算出する。その後、処理はステップ1に戻る。
【0079】
ステップ3で、バリア層の除去が既に検出されている場合には、既存のスペクトル累積変化量に現時点でのスペクトル変化量を加算して、スペクトル累積変化量を更新する(ステップ9)。研磨の進捗の監視および研磨終点の決定は、スペクトル累積変化量、研磨量、または膜厚のいずれかを使用して行なわれる。研磨量または膜厚のいずれかを用いて研磨終点を決定すべきことが処理装置15に指定されているときは(ステップ10)、処理装置15は上述した回帰式に基づいて研磨量を算出する(ステップ11)。研磨終点を膜厚から決定すべきことが処理装置15に指定されている場合は(ステップ12)、処理装置15は予め取得されている初期膜厚から研磨量を減じて残膜厚を算出する(ステップ13)。
【0080】
処理装置15は、指定に従い、スペクトル累積変化量、研磨量、または膜厚に基づき、研磨終点を決定する(ステップ14)。基本的に、スペクトル累積変化量および研磨量は研磨中に単調増加し、一方、膜厚は研磨中に単調減少する。したがって、スペクトル累積変化量、研磨量、または膜厚が所定の目標値に達した時点を研磨終点とすることができる。
【0081】
本方法では、スペクトル全体の変化量に基づいて研磨の進捗を監視するため、様々な構造の基板の研磨に本方法を適用することができる。特に、銅配線の高さを調節する研磨プロセスのように、屈折率が大きく異なる透明膜が積層されてスペクトルの極値点の波長の変化が小さい場合であっても、被研磨膜の厚さの変化を正確に捉えることができる。さらに、スペクトルの変化量を積算して得られるスペクトル累積変化量は、基板が複雑な多層構造を有している場合であっても、基本的に研磨中に単調増加する。したがって、スペクトル累積変化量から基板の研磨の進捗を把握しやすい。さらには、スペクトル累積変化量と所定の目標値またはしきい値との単純な比較によって、容易に研磨終点を検出することができる。
【0082】
ここで、基板面内におけるスペクトルの計測位置が時間と共に変化し、基板面内の膜厚に多少のばらつきがあるとすれば、研磨中に膜厚が必ずしも単調減少しない場合がある。研磨テーブルが1回転する間に取得されるスペクトルデータは平均化することができるが、膜厚が基板の周方向において均一でないと、時間軸に対して膜厚が単調に減少しない場合が生じる。このような場合においても、スペクトル変化量を算出するための上記所定の時間を大きめに取れば、その所定の時間の前後における膜厚は単調減少すると見なせる。あるいは、スペクトル変化量を求める前に、スペクトルの移動平均を求めることにより、対応する膜厚が単調減少すると見なせる。
【0083】
基板面内の膜厚の不均一さを考慮して、研磨中のスペクトル変化量の向き、すなわち、スペクトル変化量の正または負の符号を判別するようにしてもよい。基板上に形成された複数の透明膜の光学定数が概ね等しい場合には、反射光の挙動は単層膜での光の干渉理論に基づいて解析することが可能である。すなわち、膜厚の減少と共に、スペクトルの各極値点(極大点・極小点)の波長が減少する。したがって、スペクトルの各極値点の波長を追跡することにより、スペクトル変化量の符号(正または負)を決定することができる。
【0084】
これに対して、
図8〜
図9に示す基板のように、光学定数が大きく異なる複数の透明膜が存在する場合、スペクトルの極値点の波長は膜厚の減少に伴って単調には変化しない。このような場合、次のようにして、スペクトル変化量の符号(正または負)を決定することができる。
図20は、スペクトル変化量の符号を決定する工程を説明するための図である。
図20において、Δtは現時点tに関するスペクトル変化量算出区間を表わし、T
Oは区間Δtに先行する所定の符号基準区間を表わす。
【0085】
区間Δt、区間T
O、および両方の区間Δt,T
Oを合わせた総区間のそれぞれについて、例えば式(2)で表されるスペクトル変化量(正値)が求められる。総区間でのスペクトル変化量V
1が区間T
Oでのスペクトル変化量V
Oよりも大きい場合(V
1>V
O)、区間Δtでのスペクトル変化量ΔVの符号は正であると決定される(ΔV>0)。したがって、膜厚は減少傾向にある。この場合、スペクトル変化速度ΔV/Δtの符号も正となる。一方、総区間でのスペクトル変化量V
1が区間T
Oでのスペクトル変化量V
Oよりも小さい場合(V
1<V
O)、区間Δtでのスペクトル変化量ΔVの符号は負であると決定される(ΔV<0)。したがって、膜厚は増加傾向にある。この場合、スペクトル変化速度ΔV/Δtの符号も負となる。
【0086】
研磨初期段階において、符号基準区間T
Oを定義できないような場合には、スペクトル変化量算出区間Δt以降に、上記区間T
Oと同じ長さの区間を設けてもよい。スペクトル変化量の符号は上述と同様の工程に従って決定され、仮に「正」と定めたスペクトル変化量の符号は更新される。
図21は、
図8に示す基板のバリア層除去後に取得されたスペクトル累積変化量を示す図である。
図21から分かるように、スペクトル変化量の符号は、2回、負となっている。
【0087】
なお、基板の周方向における膜厚の不均一性が検知精度へ大きく影響することが懸念される場合には、研磨テーブルの回転速度と基板を保持するトップリングの回転速度を調節することにより、そのような不均一な膜厚の影響を軽減することができる。
図22Aは、
図2Bに示す構成の研磨装置において、研磨テーブルとトップリングの回転速度がそれぞれ60min
−1,61min
−1の場合の、基板の表面上に描かれた投光部11および受光部12(
図2Aおよび
図2B参照)の軌跡を示す図であり、
図22Bは、研磨テーブルとトップリングの回転速度がそれぞれ60min
−1,54min
−1の場合の、基板の表面上に描かれた投光部11および受光部12の軌跡を示す図である。
【0088】
図22Aの場合においては、投光部11および受光部12の軌跡が研磨テーブル回転と共に少しずつ移動するのに対し、
図22Bの場合では、研磨テーブルが10回転する間にトップリングが9回転して投光部11および受光部12が基板面内の元の位置に戻る。すなわち、研磨テーブルが10回転する前に取得されたスペクトルと現時点でのスペクトルとは、基板の表面上の同じ位置で取得されたスペクトルである。したがって、
図22Bの例では、研磨中の各時点において、研磨テーブルが10回転する前に取得されたスペクトルと現時点でのスペクトルとの比較からスペクトル変化量を求めることが好ましい。基板の同一位置で取得されたスペクトルを比較することで、研磨量を精度よく求めることができる。あるいは、各時点において、研磨テーブルが10回転する間に得られた直近の複数のスペクトルの平均を求め、得られた平均スペクトルからスペクトル変化量を求めてもよい。研磨テーブルが10回転する間に投光部11および受光部12は基板の表面全体を走査するので、精度のよい結果が得られる。
【0089】
図23は、上述した研磨監視方法および研磨終点検出方法を実行することができる研磨監視装置を備えた研磨装置を模式的に示す断面図である。
図23に示すように、研磨装置は、研磨パッド22を支持する研磨テーブル20と、基板Wを保持して研磨パッド22に押圧するトップリング24と、研磨パッド22に研磨液(スラリ)を供給する研磨液供給機構25とを備えている。研磨テーブル20は、その下方に配置されるモータ(図示せず)に連結されており、軸心周りに回転可能になっている。研磨パッド22は、研磨テーブル20の上面に固定されている。
【0090】
研磨パッド22の上面22aは、基板Wを研磨する研磨面を構成している。トップリング24は、トップリングシャフト28を介してモータ及び昇降シリンダ(図示せず)に連結されている。これにより、トップリング24は昇降可能かつトップリングシャフト28周りに回転可能となっている。このトップリング24の下面には、基板Wが真空吸着等によって保持される。
【0091】
トップリング24の下面に保持された基板Wはトップリング24によって回転させられつつ、回転している研磨テーブル20上の研磨パッド22にトップリング24によって押圧される。このとき、研磨液供給機構25から研磨パッド22の研磨面22aに研磨液が供給され、基板Wの表面と研磨パッド22との間に研磨液が存在した状態で基板Wの表面が研磨される。基板Wと研磨パッド22とを摺接させる相対移動機構は、研磨テーブル20およびトップリング24によって構成される。
【0092】
研磨テーブル20には、その上面で開口する孔30が形成されている。また、研磨パッド22には、この孔30に対応する位置に通孔31が形成されている。孔30と通孔31とは連通し、通孔31は研磨面22aで開口している。孔30は液体供給路33およびロータリージョイント32を介して液体供給源35に連結されている。研磨中は、液体供給源35からは、透明な液体として水(好ましくは純水)が孔30に供給され、基板Wの下面と通孔31とによって形成される空間を満たし、液体排出路34を通じて排出される。研磨液は水と共に排出され、これにより光路が確保される。液体供給路33には、研磨テーブル20の回転に同期して作動するバルブ(図示せず)が設けられている。このバルブは、通孔31の上に基板Wが位置しないときは水の流れを止める、または水の流量を少なくするように動作する。
【0093】
研磨装置は、上述した方法に従って研磨の進捗を監視し、かつ、研磨終点を検出する研磨監視装置を有している。この研磨監視装置は、研磨終点検出装置としても機能する。研磨監視装置は、光を基板Wの被研磨面に照射する投光部11と、基板Wから戻ってくる光反射を受光する受光部としての光ファイバー12と、基板Wからの反射光を波長に従って分解し、所定の波長範囲に亘って反射光の強度を測定する分光器13と、分光器13によって取得された測定データからスペクトルを生成し、このスペクトルの変化に基づいて研磨の進捗を監視する処理装置15とを備えている。スペクトルは、所定の波長範囲に亘って分布する光の強度を示すものであり、光の強度と波長との関係を示す線グラフとして表される。
【0094】
投光部11は、光源40と、光源40に接続された光ファイバー41とを備えている。光ファイバー41は、光源40の光を基板Wの表面まで導く光伝送部である。光ファイバー41は、光源40から孔30を通って基板Wの被研磨面の近傍位置まで延びている。光ファイバー41および光ファイバー12の各先端は、トップリング24に保持された基板Wの中心に対向して配置され、
図2Bに示すように、研磨テーブル20が回転するたびに基板Wの中心を含む領域に光が照射されるようになっている。
【0095】
光源40としては、発光ダイオード(LED)、ハロゲンランプ、キセノンフラッシュランプなど、複数の波長を持つ光を発する光源を用いることができる。光ファイバー41と光ファイバー12は互いに並列に配置されている。光ファイバー41および光ファイバー12の各先端は、基板Wの表面に対してほぼ垂直に配置されており、光ファイバー41は基板Wの表面にほぼ垂直に光を照射するようになっている。
【0096】
基板Wの研磨中は、投光部11から光が基板Wに照射され、光ファイバー12によって基板Wからの反射光が受光される。光が照射される間、孔30には水が供給され、これにより、光ファイバー41および光ファイバー12の各先端と、基板Wの表面との間の空間は水で満たされる。分光器13は、波長ごとの反射光の強度を測定し、処理装置15は、光の強度と波長との関係を示す反射光のスペクトルを生成する。さらに処理装置15は、上述したように、反射光のスペクトルからスペクトル累積変化量を算出し、これに基づいて研磨の進捗を監視し、研磨終点を決定する。
【0097】
図24は、
図23に示す研磨装置の変形例を示す断面図である。
図24に示す例では、液体供給路、液体排出路、液体供給源は設けられていない。これに代えて、研磨パッド22には透明窓45が形成されている。投光部11の光ファイバー41は、この透明窓45を通じて研磨パッド22上の基板Wの表面に光を照射し、受光部としての光ファイバー12は、透明窓45を通じて基板Wからの反射光を受光する。その他の構成は、
図23に示す研磨装置と同様である。
【0098】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうることである。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲とすべきである。