特許第5728243号(P5728243)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5728243
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20150514BHJP
【FI】
   B32B27/00 D
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-30512(P2011-30512)
(22)【出願日】2011年2月16日
(65)【公開番号】特開2012-166489(P2012-166489A)
(43)【公開日】2012年9月6日
【審査請求日】2013年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】田村 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】久保 安通史
(72)【発明者】
【氏名】今井 洋文
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 孝広
【審査官】 横島 隆裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−034623(JP,A)
【文献】 特開2010−109324(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/143510(WO,A1)
【文献】 特開2010−125688(JP,A)
【文献】 特開2007−177102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向に複数の貫通孔が設けられた支持体と、
上記支持体によって支持される被支持基材と、
上記支持体と上記被支持基材との間に設けられている、少なくとも3層を有する接着層とを備えており、
上記接着層のうち、上記被支持基材に接している第1の接着層に含まれる樹脂(A)、および上記支持体に接している第2の接着層に含まれる樹脂(B)は、ガラス転移点が80℃以下であり、上記第1の接着層と上記第2の接着層とによって挟まれる少なくとも1層の第3の接着層に含まれる樹脂(C)は、ガラス転移点が100℃以上であり、
上記樹脂(C)は極性基を有しており、上記樹脂(A)および上記樹脂(B)は極性基を有しておらず、
上記樹脂(C)はアクリル系モノマーを含む単量体組成物を重合してなり、
上記樹脂(A)および上記樹脂(B)が、シクロオレフィンモノマーを含む単量体組成物を重合してなり、
上記樹脂(A)および樹脂(B)の重量平均分子量は、30,000〜300,000であり、
上記樹脂(C)の重量平均分子量は、50,000〜400,000であることを特徴とする積層体。
【請求項2】
上記樹脂(A)および上記樹脂(B)のガラス転移点が50℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
上記樹脂(C)のガラス転移点が200℃以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
上記樹脂(A)および樹脂(B)の重量平均分子量は、50,000〜200,000であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
上記樹脂(C)の重量平均分子量は、80,000〜200,000であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
上記樹脂(A)および上記樹脂(B)が同一の組成からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体を介して支持体と被支持体とが接着された積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、デジタルAV機器およびICカード等の高機能化に伴い、搭載される半導体シリコンチップ(以下、チップ)を小型化および薄型化することによって、パッケージ内にチップを高集積化する要求が高まっている。パッケージ内のチップの高集積化を実現するためには、チップの厚さを25〜150μmの範囲まで薄くする必要がある。
【0003】
しかしながら、チップのベースとなる半導体ウエハ(以下、ウエハ)は、研削することにより肉薄となるため、その強度は弱くなり、ウエハにクラックまたは反りが生じやすくなる。また、薄型化することによって強度が弱くなったウエハを自動搬送することは困難であるため、人手によって搬送しなければならず、その取り扱いが煩雑であった。
【0004】
そのため、研削するウエハにサポートプレートと呼ばれる、ガラス、硬質プラスチック等からなるプレートを貼り合わせることによって、ウエハの強度を保持し、クラックの発生およびウエハの反りを防止するウエハハンドリングシステムが開発されている。ウエハハンドリングシステムによりウエハの強度を維持することができるため、薄板化した半導体ウエハの搬送を自動化することができる。
【0005】
ウエハとサポートプレートとは、粘着テープ、熱可塑性樹脂、接着剤等を用いて貼り合わせられている。サポートプレートが貼り付けられたウエハを薄板化した後、ウエハをダイシングする前にサポートプレートを基板から剥離する。例えば、接着剤を用いてウエハとサポートプレートとを貼り合わせた場合、接着剤を溶解させてウエハをサポートプレートから剥離する。
【0006】
従来、接着剤を溶解させてサポートプレートから剥離するときに、接着剤への溶剤の浸透、接着剤の溶解等に時間を要し、結果としてウエハからサポートプレートを剥離するために長時間を要していた。また、サポートプレートを薄板化したウエハから剥離するとき、薄板化したウエハが破損しないように注意する必要がある。このような問題を考慮した技術が特許文献1に記載されている。
【0007】
特許文献1に記載の技術では、ウエハからサポートプレートを容易に剥がすために、ウエハとサポートプレートとの貼り合わせに溶解速度が異なる2層の接着層を設けている。
【0008】
また、近年では接着剤の溶解を容易且つ迅速に行なうために、厚さ方向に複数の貫通孔が形成された穴あきサポートプレートを用いて、当該貫通孔から溶剤を供給して接着剤を溶解する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−109324号公報(2010年5月13日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述のような穴あきサポートプレートを用いた場合、熱処理工程後に、接着層を形成する樹脂がサポートプレートの孔に沈み込んでしまう。このような場合、ウエハからサポートプレートを剥離することが困難である。特許文献1に記載の技術では、接着剤を高温環境に晒したときの耐性について十分に考慮されていない。よって、短時間で、且つ容易にウエハからサポートプレートを剥離することができる積層体の開発が求められている。
【0011】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、支持体が貼着された被支持基材から当該支持体を短時間で、且つ容易に剥離することができる積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る積層体は、上記の課題を解決するために、厚さ方向に複数の貫通孔が設けられた支持体と、上記支持体によって支持される被支持基材と、上記支持体と上記被支持基材との間に設けられている、少なくとも3層を有する接着層とを備えており、上記接着層のうち、上記被支持基材に接している第1の接着層に含まれる樹脂(A)、および上記支持体に接している第2の接着層に含まれる樹脂(B)は、ガラス転移点が80℃以下であり、上記第1の接着層と上記第2の接着層とによって挟まれる少なくとも1層の第3の接着層に含まれる樹脂(C)は、ガラス転移点が100℃以上であり、上記樹脂(C)は極性基を有しており、上記樹脂(A)および上記樹脂(B)は極性基を有していないことを特徴としている。
【0013】
また、本発明に係る積層体では、上記樹脂(A)および上記樹脂(B)のガラス転移点が50℃以上であることがより好ましい。
【0014】
また、本発明に係る積層体では、上記樹脂(C)のガラス転移点が200℃以下であることがより好ましい。
【0015】
さらに、本発明に係る積層体では、上記樹脂(C)はアクリル系モノマーを含む単量体組成物を重合してなることがより好ましい。
【0016】
本発明に係る積層体では、上記樹脂(A)および上記樹脂(B)が、シクロオレフィンモノマーを含む単量体組成物を重合してなることがより好ましい。
【0017】
さらに、本発明に係る積層体では、上記樹脂(A)および上記樹脂(B)が同一の組成からなることがより好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、支持体が貼着された被支持基材から当該支持体を短時間で、且つ容易に剥離することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔本発明に係る積層体〕
本発明に係る積層体は、厚さ方向に複数の貫通孔が設けられた支持体と、上記支持体によって支持される被支持基材と、上記支持体と上記被支持基材との間に設けられている、少なくとも3層を有する接着層とを備えており、上記接着層のうち、上記被支持基材に接している第1の接着層に含まれる樹脂(A)、および上記支持体に接している第2の接着層に含まれる樹脂(B)は、ガラス転移点が80℃以下であり、上記第1の接着層と上記第2の接着層とによって挟まれる少なくとも1層の第3の接着層に含まれる樹脂(C)は、ガラス転移点が100℃以上であり、上記樹脂(C)は極性基を有しており、上記樹脂(A)および上記樹脂(B)は極性基を有していなければよい。これにより、熱処理工程を経た後であっても、支持体が貼着された被支持基材から当該支持体を短時間で、且つ容易に剥離することができる。
【0020】
本発明に係る積層体は、被支持基材を支持体に仮止めした積層体として用いるのであれば、具体的な用途は特に限定されない。本実施形態では、ウエハハンドリングシステムにおいて利用される、半導体ウエハ(被支持基材)をサポートプレート(支持体)に対して仮止めした積層体を例に挙げて説明する。
【0021】
なお、上記サポートプレートは、半導体ウエハ(以下、ウエハ)を研削するときに当該ウエハに貼り合わせて、研削によって薄化したウエハにクラックおよび反りが生じないように保護するための基板である。また、本実施形態において用いられるサポートプレートには厚さ方向に複数の貫通孔が設けられており、この貫通孔はウエハからサポートプレートを剥離するときに剥離液を供給するための孔である。
【0022】
(接着層)
本発明に係る積層体は、樹脂(A)を含む第1の接着層と、樹脂(B)を含む第2の接着層と、樹脂(C)を含む少なくとも1層の第3の接着層とが積層された構成になっている。第1の接着層はウエハ側に設けられており、第2の接着層はサポートプレート側に設けられており、第3の接着層は第1の接着層と第2の接着層とによって挟まれている。これら接着層が含む樹脂(A),(B)のガラス転移点と、樹脂(C)のガラス転移点とが互いに大幅に異なることにより、また、樹脂(A),(B)と樹脂(C)との極性が異なることにより、耐熱性および薬品耐性を兼ね備えた接着層にすることができる。
【0023】
なお、本実施形態では積層体が3層からなっている構成を例に挙げて説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、ウエハに接している接着層に樹脂(A)が含まれ、サポートプレートに接している接着層に樹脂(B)が含まれ、これらの接着層によって挟まれる少なくとも1層の接着層に樹脂(C)が含まれていれば、4層以上の多層構造であってもよい。この場合、さらに追加される層に含まれる樹脂のガラス転移点は、特に限定されるものではないが、50℃以上、200℃以下であることがより好ましい。
【0024】
各接着層の厚さは、積層体の膜厚に応じて適宜選択すればよいが、例えば、第1の接着層の膜厚が10〜120μmであり、第2の接着層の膜厚が10〜50μmであり、第3の接着層の膜厚が10〜30μmであることが好ましい。すなわち、接着層全体の厚さが30〜200μmの範囲内であることが好ましい。接着層の厚さが上記範囲内であることにより、ウエハとサポートプレートとを好適に貼り付けることができる。
【0025】
なお、本明細書において「極性基を有している樹脂」とは、側鎖にカルボキシル基または水酸基を少なくとも1つ有する樹脂を指す。
【0026】
(樹脂(A))
第1の接着層に含まれる樹脂(A)は、ガラス転移点が80℃以下の樹脂であり、極性基を有していなければよく、好ましくはガラス転移点が50℃以上、80℃以下の樹脂である。樹脂(A)のガラス転移点がこのような範囲内であれば、接着層を膜厚化することが可能であり、薬品に対する耐性を向上させることができる。
【0027】
樹脂(A)としては上記範囲内のガラス転移点を有する樹脂であればよいが、極性基を有していない樹脂であることが好ましい。そのような樹脂としては、例えば、シクロオレフィンモノマーを含む単量体組成物を重合してなる樹脂を用いることができる。具体的には、シクロオレフィンモノマーを含む単量体成分の開環(共)重合体、シクロオレフィンモノマーを含む単量体成分を付加(共)重合させた樹脂などが挙げられる。
【0028】
シクロオレフィンモノマーとしては、例えば、ノルボルネンおよびノルボルナジエンなどの二環体、シクロペンタジエンおよびジヒドロキシペンタジエンなどの三環体、テトラシクロドデセンなどの四環体、シクロペンタジエン三量体などの五環体、テトラシクロペンタジエンなどの七環体、ならびにこれら多環体のアルキル(メチル、エチル、プロピル、ブチルなど)置換体、アルケニル(ビニルなど)置換体、アルキリデン(エチリデンなど)置換体、アリール(フェニル、トリル、ナフチルなど)置換体等が挙げられる。これらの中でも特に、下記式(1)で示されるノルボルネン、テトラシクロドデセンまたはこれらのアルキル置換体からなる群より選ばれるノルボルネン系モノマーが好ましい。
【0029】
【化1】
【0030】
(式(1)において、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であり、nは0または1である)
なお、シクロオレフィンモノマーは1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
樹脂(A)を構成する単量体組成物は、上記シクロオレフィンモノマーの他に、シクロオレフィンモノマーと共重合可能な他のモノマーを含有していてもよい。他のモノマーとしては、例えば下記式(2)で示されるアルケンモノマーが挙げられる。
【0032】
【化2】
【0033】
(式(2)において、R〜Rはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基である)
アルケンモノマーは直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよい。当該アルケンモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンおよび1−ヘキセンなどのα−オレフィンが挙げられる。アルケンモノマーは1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
樹脂(A)を構成する単量体組成物がシクロオレフィンモノマー以外のモノマーを含有している場合、シクロオレフィンモノマーの含有量が単量体組成物全体の15重量%以上であることが好ましく、20重量%以上であることがより好ましい。シクロオレフィンモノマーの含有量が単量体組成物全体の10重量%以上であれば、接着層の高温環境下における軟化を好適に防止することができる。
【0035】
上記単量体成分を重合する際の重合方法および重合条件などは特に限定されるものではなく、従来公知の方法に従って適宜選択すればよい。なお、樹脂(A)は市販されている樹脂を用いてもよく、例えば、ポリプラスチックス社製の「TOPAS」(商品名)、三井化学社製の「APEL」、日本ゼオン社製の「ZEONOR」または「ZEONEX」、JSR社製の「ARTON」などが挙げられる。
【0036】
樹脂(A)の重量平均分子量(Mw:ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)のポリスチレン換算による測定値)は、30,000〜300,000であり、より好ましくは50,000〜200,000である。樹脂(A)の重量平均分子量が上記範囲内であれば、脱ガス量を低減させることができる。
【0037】
(樹脂(B))
第2の接着層に含まれる樹脂(B)は、ガラス転移点が80℃以下の樹脂であり、極性基を有していなければよく、好ましくはガラス転移点が50℃以上、80℃以下の樹脂である。樹脂(B)のガラス転移点がこのような範囲内であれば、接着層を膜厚化することが可能であり、薬品に対する耐性を向上させることができる。
【0038】
樹脂(B)としては上記範囲内のガラス転移点を有する樹脂であればよいが、極性基を有していない樹脂であることが好ましい。そのような樹脂としては、例えば、シクロオレフィンモノマーを含む単量体組成物を重合してなる樹脂を用いることができる。シクロオレフィンモノマーとしては、上記樹脂(A)の説明において例示したものを用いることができる。
【0039】
樹脂(B)を構成する単量体組成物は、上記シクロオレフィンモノマーの他に、シクロオレフィンモノマーと共重合可能な他のモノマーを含有していてもよい。他のモノマーとしては、上記樹脂(A)の説明において例示したモノマーを用いることができる。
【0040】
樹脂(B)を構成する単量体組成物がシクロオレフィンモノマー以外のモノマーを含有している場合、シクロオレフィンモノマーの含有量が単量体組成物全体の15重量%以上であることが好ましく、20重量%以上であることがより好ましい。シクロオレフィンモノマーの含有量が単量体組成物全体の10重量%以上であれば、接着層の高温環境下における軟化を好適に防止することができる。
【0041】
上記単量体成分を重合する際の重合方法および重合条件などは特に限定されるものではなく、従来公知の方法に従って適宜選択すればよい。なお、樹脂(B)は、上述した市販されている樹脂を用いてもよい。
【0042】
樹脂(B)の重量平均分子量(Mw)は、30,000〜300,000であり、より好ましくは50,000〜200,000である。樹脂(B)の重量平均分子量が上記範囲内であれば、脱ガス量を低減させることができる。
【0043】
なお、取り扱いが容易である点から、樹脂(B)は樹脂(A)と同一の組成からなることがより好ましい。
【0044】
(樹脂(C))
第3の接着層に含まれる樹脂(C)は、ガラス転移点が100℃以上の樹脂であればよく、より好ましくはガラス転移点が100℃以上、200℃以下であり、極性基を有する樹脂である。樹脂(C)のガラス転移点がこのような範囲内であれば、積層体が高温環境に晒されても接着層の軟化を防ぎ、サポートプレートに形成された孔への沈み込みを防止することができる。
【0045】
また、樹脂(C)に含まれる極性基の割合は、1モル%〜10モル%であることがより好ましい。上記範囲内の割合で極性基を有していれば、脱ガスの量を抑えることができる。
【0046】
そのような樹脂を構成するモノマーとしては、極性基含有アクリルモノマーまたは極性基含有スチレンモノマーが挙げられ、極性基含有アクリルモノマーとしては(メタ)アクリル酸、カルボキシメチル(メタ)アクリレート、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシベンジル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシ−1−アダマンチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。極性基含有スチレンモノマーとしては、ヒドロキシスチレン、ジヒドロキシスチレン、ビニル安息香酸等が挙げられる。なお、これらのモノマーは1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
樹脂(C)を構成する単量体組成物は、上記アクリル系モノマーの他に、例えば、スチレンまたはマレイミド系モノマーなどの他のモノマーを含有していてもよい。
【0048】
他のモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−イソブチルマレイミド、N−sec−ブチルマレイミド、N−tert−ブチルマレイミド、N−n−ペンチルマレイミド、N−n−ヘキシルマレイミド、N−n−ヘプチルマレイミド、N−n−オクチルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−ステアリルマレイミドなどのアルキル基を有するマレイミド、N−シクロプロピルマレイミド、N−シクロブチルマレイミド、N−シクロペンチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−シクロヘプチルマレイミド、N−シクロオクチルマレイミド等の脂肪族炭化水素基を有するマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−m−メチルフェニルマレイミド、N−o−メチルフェニルマレイミド、N−p−メチルフェニルマレイミド等のアリール基を有する芳香族マレイミド等が挙げられる。
【0049】
樹脂(C)を構成する単量体組成物がアクリル系モノマー以外のモノマーを含有している場合、アクリル系モノマーの含有量が単量体組成物全体の30重量%以上であることが好ましく、40重量%以上であることがより好ましい。アクリル系モノマーの含有量が単量体組成物全体の20重量%以上であれば、クラック無く積層体を形成することができる。
【0050】
上記単量体成分を重合する際の重合方法および重合条件などは特に限定されるものではなく、従来公知の方法に従って適宜選択すればよい。
【0051】
樹脂(C)の重量平均分子量(Mw)は、50,000〜400,000であり、より好ましくは80,000〜200,000である。樹脂(C)の重量平均分子量が上記範囲内であれば、耐熱性とクラック耐性の両立が可能となる。
【0052】
(その他の成分)
第1の接着層、第2の接着層および第3の接着層は、それぞれ本発明における本質的な特性を損なわない範囲において、混和性のある他の物質をさらに含有していてもよい。例えば、接着剤の性能を改良するための付加的樹脂、可塑剤、接着補助剤、安定剤、着色剤および界面活性剤等、慣用されている各種添加剤をさらに用いてもよい。
【0053】
〔積層体の製造方法〕
本発明に係る積層体は、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0054】
まず、ウエハの上に樹脂(A)を含む第1の接着層を形成し、次いで当該第1の接着層の上に樹脂(C)を含む第3の接着層を形成した後、第3の接着層の上に樹脂(B)を含む第2の接着層を形成し、サポートプレートを接着することによって本発明の積層体が得られる。また、サポートプレートの上に樹脂(B)を含む第2の接着層を形成し、次いで第2の接着層の上に樹脂(C)を含む第3の接着層を形成した後、樹脂(A)を含む第1の接着層を形成して、第1の接着層をウエハに接着させてもよいし、予めウエハの上に第1の接着層を形成し、サポートプレートの上に第2の接着層を形成しておき、第1の接着層および第2の接着層のいずれかに第3の接着層を形成してこれらを貼り合わせてもよい。
【実施例】
【0055】
〔接着剤の調製〕
まず、以下に示す7種類の接着剤を調製した。
【0056】
(接着剤1)
ノルボルネンとエチレンとをメタロセン触媒にて共重合したシクロオレフィンコポリマー(ポリプラスチックス社製「TOPAS(商品名)8007」、ノルボルネン:エチレン=35:65(重量比)、ガラス転移点:70℃、Mw:98,200、熱分解温度:459℃)を用いて、p−メンタンに溶解させて、固形分濃度25重量%の接着剤1を得た。
【0057】
(接着剤2)
シクロドデセンとエチレンとを共重合したシクロオレフィンコポリマー(三井化学社製「APL(商品名)8008T」、シクロドデセン:エチレン=80:20(重量比)、ガラス転移点:65℃、Mw:100200、熱分解温度:446℃)を用いて、p−メンタンに溶解させて、固形分濃度25重量%の接着剤2を得た。
【0058】
(接着剤3)
シクロヘキシルマレイミド、スチレン、メタクリル酸メチル、アクリル酸、ジメチロール−トリシクロデカンジアクリレートを18:32:40:10:0.7(モル比)で用いて、PGMEAに溶解させて、固形分濃度30重量%の接着剤3を得た。得られた接着剤3は、ガラス転移点:124℃、Mw:153000、熱分解温度:319℃であった。
【0059】
(接着剤4)
シクロヘキシルマレイミド、スチレン、メタクリル酸メチル、アクリル酸、ジメチロール−トリシクロデカンジアクリレートを18:32:40:1:0.7(モル比)で用いて、PGMEAに溶解させて、固形分濃度30重量%の接着剤4を得た。得られた接着剤4は、ガラス転移点:125℃、Mw:163,000、熱分解温度:322℃であった。
【0060】
(接着剤5)
シクロヘキシルマレイミド、フェニルマレイミド、スチレン、メタクリル酸メチル、アクリル酸、ジメチロール−トリシクロデカンジアクリレートを20:20:10:40:10:0.7(モル比)で用いて、PGMEAに溶解させて、固形分濃度30重量%の接着剤5を得た。得られた接着剤5は、ガラス転移点:159℃、Mw:179,000、熱分解温度:335℃であった。
【0061】
(接着剤6)
スチレン、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソボニル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸を52:15:10:13:10のモル比で含むランダム共重合体の樹脂を用いて、PGMEAに溶解させて、固形分濃度40重量%の接着剤6を得た。得られた接着剤6は、ガラス転移点:65℃、Mw:82,000、熱分解温度:258℃であった。
【0062】
(接着剤7)
ノルボルネンとエチレンとをメタロセン触媒にて共重合したシクロオレフィンコポリマー(ポリプラスチックス社製「TOPAS(商品名)5013」、ノルボルネン:エチレン=40:60(重量比)、ガラス転移点:126℃、Mw:85,100、熱分解温度:463℃)を用いて、p−メンタンに溶解させて、固形分濃度25重量%の接着剤7を得た。
【0063】
<実施例1〜7>
実施例1〜7では、以下の表1に示す組み合わせで積層体を作製した。具体的には、第1層(第1の接着層)および第3層(第2の接着層)にはガラス転移点が80℃以下の樹脂を含む接着剤を使用し、第2層(第3の接着層)にはガラス転移点が100℃以上の樹脂を含む接着剤を使用した。
【0064】
【表1】
【0065】
(積層体の作製)
実施例1〜7では、次のように積層体を作製した。
【0066】
まず、シリコン基板(ウエハ)に第1層となる接着剤を塗布し、110℃,170℃,220℃で各5分間ベークして、厚さ50μmの第1層を形成した。次に、形成した第1層の上に、第2層となる接着剤を塗布し、110℃,170℃,220℃で各3分間ベークして、厚さ15μmの第2層を形成した。最後に、形成した第2層の上に、第3層となる接着剤を塗布し、110℃,170℃,220℃で各5分間ベークして、厚さ35μmの第3層を形成した。その後、第3層の上に、穴あきサポートプレートを170℃、圧力0.21kg/cmで貼り付け、実施例1〜7の積層体を得た。
【0067】
〔接着層の評価〕
実施例1〜7の積層体を以下の試験項目により評価した。
【0068】
(耐熱性の評価)
耐熱性は、220℃で1時間加熱した後の接着層の沈み込み量によって評価した。沈み込みの評価手法は、加熱前後の接着層の厚さを測定する方法を用いた。その結果、実施例1〜7のすべての積層体において、加熱前の厚さと加熱後の厚さとの差は10μm以下であって極めて少ない沈み込み量であり、沈み込みの評価は良好であった。
【0069】
(薬品耐性の評価)
薬品耐性は、実施例1〜7の積層体を、HO、IPA(Isopropyl alcohol)、PGMEA(Propylene Glycol Monomethyl Ether Acetate)、TMAH(Tetra methylammonium hydroxide)(2.38質量%水溶液)、NaOH(1質量%水溶液)およびHF(フッ化水素)(1質量%水溶液)に浸漬して、10分後の溶解状態を観察することによって評価した。その結果、実施例1〜7のすべての積層体において、上記の溶剤に溶解することはなく、耐性を有していた。
【0070】
(クラック耐性の評価)
ウエハ上に接着層を形成した後、この接着層のクラックの有無を目視により観察した。その結果、実施例1〜7のすべての積層体においてクラックの発生は見られず、クラック耐性は良好であった。
【0071】
(剥離性の評価)
積層体を220℃で加熱した後に、p−メンタン中に浸漬し、超音波処理して剥離性を評価したところ、実施例1〜7のすべての積層体において、ウエハからのサポートプレートの剥離は良好に行なわれた。
【0072】
そして、シリコン基板を洗浄するために、NMP(N-methylpyrrolidone)に浸漬して第2層を溶解し、最後にp−メンタン中に浸漬して第1層を溶解した。洗浄後のシリコン基板を顕微鏡にて観察したところ、残渣がないことを確認した。
【0073】
(脱ガス量の評価)
脱ガス量は、ウエハ上に接着層を形成した後、接着層からの脱ガス量を測定することにより評価した。脱ガス量の測定には、TDS(Thermal Desorption Spectroscopy)装置を用いた。
【0074】
その結果、実施例1〜7のすべての積層体は、220℃において、上記TDS測定装置により求められる強度(Indensity)が100000未満という良好な値であった。
【0075】
(接着強度の評価)
接着強度は、ウエハ上に接着層を形成した後、接着層の上にガラス基板を200℃、1kgの加重で接着させた。このガラス基板を引っ張り、ガラス基板がウエハから剥がれたときの接着強度を、縦型電動計測スタンドMX−500N(株式会社イマダ社製)を用いて算出した。ガラス基板は、200℃、1kgの加重で接着層に接着させた。
【0076】
その結果、実施例1〜7のすべての積層体において、測定装置により求められる接着強度が1kgf/cm以上という十分な強度が確認された。
【0077】
<比較例1〜3>
比較例1〜3では、以下の表2に示す組み合わせで積層体を作製した。
【0078】
【表2】
【0079】
比較例1では、シリコン基板に接着剤を塗布し、110℃,170℃,220℃で各5分間ベークして、一層からなる厚さ100μmの接着層を形成した。その後、接着層の上に、穴あきサポートプレートを170℃、圧力0.21kg/cmで貼り付け、比較例1の積層体を得た。
【0080】
なお、比較例2,3は、実施例1〜7の積層体と同様の方法で、3層からなる積層体を作製した。
【0081】
〔接着層の評価〕
比較例1〜3の積層体を以下の試験項目により評価した。なお、各試験項目の評価は、実施例と同様の手順により行なった。
【0082】
(耐熱性の評価)
各比較例の積層体における沈み込み量は、比較例1が48μm、比較例2が10μm以下、比較例3が45μmであった。このように、ガラス転移点が低い樹脂のみを用いた比較例1,3では耐熱性が低かった。
【0083】
(薬品耐性の評価)
ガラス転移点が低い樹脂のみを用いた比較例1,3の積層体では変化が見られなかったが、ガラス転移点が高い樹脂のみを用いた比較例2の積層体では、IPAおよびPGMEAに浸漬することによってクラックが発生していた。
【0084】
(剥離性の評価)
比較例1,2の積層体ではウエハからサポートプレートを剥離する際に、実施例1〜7の3倍以上の時間を要した。また、比較例3の積層体では、接着層でミキシングが発生し、ウエハからサポートプレートを剥離することができなかった。
【0085】
(脱ガス量の評価)
脱ガス量の測定の結果、比較例1〜3の積層体は、220℃において、上記TDS測定装置により求められる強度(Indensity)が100000未満であった。
【0086】
(接着強度の評価)
比較例1〜3の積層体の接着強度は、1kgf/cm以上であった。
【0087】
本発明は上述した実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明に係る積層体は、短時間で且つ容易に剥離することができるため、半導体ウエハ等の加工に好適に用いることができる。