【実施例1】
【0013】
図1は本発明に係る断面形状推定方法のフローチャート、
図2(a)は断面形状の模式図、
図2(b)はs101により得られる配線の輪郭プロファイル情報、
図2(c)はs102にてモデルフィッティングを行った場合の説明図、
図3乃至
図6は形状モデルの例を示した図、
図19は断面SEMの装置構成を示す図、
図20は本発明に係る断面形状推定装置の構成を示す図である。
【0014】
まず、
図19を用いて断面SEMの概略装置構成を説明する。切断され断面が上面となるように配置された試料307に対して概略垂直方向から、電子銃300にて電子線を発射し、集束レンズ301、偏向器302、対物レンズ303を介して試料307に電子線を照射する。試料307から発生した二次電子は検出器304にて検出され、断面形状の実データ306を得ることができる。このとき、制御装置305にて偏向器302および検出器304の動作のコントロールを行う。
本実施例では、
図2に示すような断面形状の実データ100として配線の断面SEM画像またはTEM画像がある場合について説明する。
【0015】
(s100)まず、断面画像・輪郭データとして、計測対象物の断面形状の実データである配線の断面SEM画像またはTEM画像を得、これを入力画像とする。入力画像の一例として
図2(a)に断面形状の模式図を示す。
(s101)次に、s100で得た入力画像100に対してエッジ抽出処理を行い、配線の輪郭プロファイル情報を得る。配線の輪郭プロファイル情報の一例として
図2(b)に配線の輪郭プロファイル情報101を示す。ここで、入力画像内に配線が複数ある場合には、配線毎に処理する。
【0016】
(s102)次に、s101で得た配線の輪郭プロファイル情報を、予め用意しておいた複数の形状モデル200についてフィッティングする。ここでは、複数種類準備された形状モデル200について、各モデルのパラメタを変化させ、s101で得た配線の輪郭プロファイル情報に基づく実際の形状と最も合うパラメタを探索する。任意の形状モデルとして台形モデルを用いてフィッティングした場合の一例として
図2(c)にフィッティング結果102を示す。
ここで形状モデルとは、断面形状を複数のパラメタで表現したものを指す。本願においては、形状モデルの基本形状として台形を用いる。これは、半導体製造では基板上に膜を積層しながら配線を形成していることに鑑みている。
図3は台形1つで断面形状を表現する1台形モデルである。このモデルの場合はボトム寸法201、高さ202、左側壁傾斜角203、右側壁傾斜角204の合計4つのパラメタで断面形状を表現する。
図4は2台形モデルで、ボトム寸法211、下側の台形の高さ212、左側壁傾斜角213、右側壁傾斜角214、上側の台形の高さ215、左側壁傾斜角216、右側壁傾斜角217の7つのパラメタで形状を表現する。
【0017】
また、
図5(a)は形状モデル(丸み付き1台形モデル)である。1台形モデルの頂角の形状を曲線で表現したものである。半導体プロセスの特性によって台形の上の頂角は製造プロセスの特性により丸み(ラウンディング)205、206を持つ場合や、下の頂角は台形の外側方向に裾を引く場合(フッティング)207、208があることが知られている。
図5(b)はラウンディングをつける方法の説明図、
図5(c)はフッティングをつける方法の説明図である。
図5(b)は、丸みのつけ方として、ラウンディングに台形の上底と側壁に内接する半径Rtの円を用いた例、
図5(c)は丸みのつけ方として、フッティングに台形の底辺の延長線と側壁に外接する半径Rbの円を用いた例である。ラウンディングの大きさを台形の左右で変えた場合には、台形の4パラメタと左右ラウンディング205、206、左右フッティング207、208とによる合計8パラメタの形状モデルとなる。
図6は、形状モデル(丸み付き2台形モデル)の別の例であり、
図4の二台形モデルに丸みを付け加えた二台形モデルであり、合計11パラメタの形状モデルとなる。
【0018】
モデルフィッティングS102では、形状モデルの各パラメタを変化させ、モデルと実際の形状が良く一致するようにする。具体的には実際の形状とモデル形状の差に基づいた誤差関数を定義し、その誤差関数の値が最小となるパラメタを選択する。
図7(a)は実形状とモデル形状の差を説明する図、
図7(b)は実形状とモデル形状との距離を計測する方法の説明図である。ここで、
図7(a)は1台形モデルの例であるが、実形状110と1台形モデル111とは完全には一致しない。そこで
図7(b)に示すようにモデルと実形状の距離112を算出し、これを実形状とモデル形状の差として定義する。ここでは、モデルの外周113に沿って等しいピッチで順次実形状との差を算出しその二乗和を求め、これを誤差関数とする。誤差関数が最小になるようなパラメタを求めることにより、1台形モデルにおいて実形状に対して最も一致する形状パラメタが定まる。誤差関数の最小となるパラメタの探索には最適化手法の一つであるLevenberg−Marquardt法(以下LM法)を用いる。
図7(a)では一台形モデルについて誤差関数の値を求める場合を説明したが、2台形モデル、丸み付き1台形モデル、丸み付き2台形モデルなど他の形状モデルについても同様にモデルフィッティングを行うことで、形状モデル毎に実形状を表現するのに好適なパラメタと、その時の誤差関数の値が求まることとなる。
なお、一般に断面画像データには、画像の他に、付帯情報として倍率情報や画像を取得した装置の光学条件などが付随しており、モデル形状と画像との倍率の対応をとるためにはこれらの付帯情報を利用する。
【0019】
(s103)次に、s102でフィッティングした形状モデル200に対するモデルフィッティング結果を用いて、各モデル間の性能評価を行う。
複数の形状モデルから適切なモデルを選択する段階において、モデルフィッティングで誤差が最小となるモデルを選択することは、必ずしも適切ではない。なぜなら、モデル形状を複雑にすればするほどフィッティング誤差は小さくなるが、必要以上に複雑なモデルを採用することは次のいくつかの点で不適切なためである。
・推定すべきパラメタが増えると、誤差が小さくなるパラメタの組み合わせが増えパラメタ推定が上手くいかない(解が一意に定まらない)。
・パラメタ探索に時間がかかる(計算コスト増加)。
また、形状の特徴などを簡便に表現するという観点からも多数のパラメタを用いることは不適切である。
【0020】
そこで、モデルの複雑さとフィッティングの良さのバランスを考え、過度に複雑なモデルを採用しないようにする必要がある。ここで、
図8は、モデル間の性能比較の説明図であり、
図8を用いてその方法を説明する。
図8は横軸をモデルのパラメタ数121、縦軸をフィッティング後の誤差関数の値122としたグラフである。124から127はそれぞれが異なる形状モデルを用いた場合の誤差関数の値を示す棒グラフである。誤差関数の最大許容値123を予め定めておくことにより、その許容値内でパラメタ数が最小の形状モデル126を選択することが可能となる。
【0021】
(s104)このようにして、複数の形状モデルから条件に合った形状モデルおよび形状パラメタを選択することができる。
以上説明してきたような手法によれば、対象となった断面形状に対して適切な形状モデルと最適なパラメタを選択することが可能となる。
【0022】
図9は実形状とモデル形状の差を説明する別の実施形態の図である。
図9(a)は高さ方向の長さ114を差として定義した例、
図9(b)はモデルとの距離115を差として定義した例である。また
図9(a)(b)とも水平方向116、117に等しいピッチで差を順次求めている。側壁傾斜角が急峻な場合には
図9(a)、
図9(b)のように水平方向に等しいピッチで誤差を求めると、側壁の誤差を評価する点数が少なくなり、台形の上底に比べて側壁の形状の重要度が相対的に低くなってしまう(実形状の側壁の情報が相対的に軽視される)。そのため、すでに説明した
図7のようにモデル形状の外周に沿って等しいピッチで差を求めるようにすると、側壁傾斜角度が急峻な場合でも、バランスよく誤差を評価できるという長所がある。
【0023】
図10(a)は領域によって形状評価の重みづけを変化させない場合のフィッティング図、
図10(b)は領域によって形状評価の重みづけを変化させる場合のフィッティング図である。
断面形状をAFMで配線を計測した場合は、探針を立体形状の輪郭に沿って走査するという計測方法の特徴のため、ラウンディング部分で探針が滑ったり、配線の下部に探針が上手く入らなかったりすることがある。そのため、これらの領域での計測データは信頼性が低い。そこで、それらの領域において実際の形状とモデルの差の算出結果に0から1の間の任意の係数をかけることで、誤差関数算出における該当領域の影響を軽減・無視することが可能となる。
図10(a)は平坦部と曲線部との間で重み付けを行わない場合のフィッティング結果を示しているのに対して、
図10(b)では高さ方向に重みづけを変える2種類の領域131、132を指定した例を示している。
【0024】
ここで、本発明に係る断面形状推定装置の構成を示す図である
図20を用いて、
図1に示した本発明の係る断面形状推定フローとの関係を説明する。
エッジ抽出部400は、外部から入力された既に検査により得られた断面画像・輪郭データに基づきエッジ抽出処理を行い、配線の輪郭プロファイル情報を得る(
図1のs101に対応)。次に、フィッティング部402にて、エッジ抽出部400から出力された配線の輪郭プロファイル情報を予め用意しておいた複数の形状モデル200についてフィッティングする(
図1のs102)。フィッティング部402からの出力である複数の形状モデルについてフィッティングを行った結果であるフィッティングモデル等をモデル間性能比較部403に入力し、モデル間性能比較部403にて各モデル間の性能評価を行う(
図1のs103)。モデル間性能比較部403にて比較した結果を形状モデ・形状パラメタ選択部404に入力し、ここで複数の形状モデル(フィッティングモデル)から、条件に合った形状モデルおよび形状パラメタを選択する(
図1のs104)。
【実施例2】
【0025】
実施例1で説明したモデル間の性能比較(
図1のs103)の他の実施例として、解の一意性を評価する手段を備える手法について説明する。
図1の各形状モデルでパラメタを最適化(s102)したのち、パラメタを最適値の近傍で変化させたときの誤差関数の変化を調べる。
図11(a)(b)は形状パラメタと誤差関数の関係を示す
図143、144である。横軸141をパラメタの値、縦軸142を誤差関数の値としたグラフである。
図11(a)のようにパラメタの変化に対して誤差が急速に大きくなれば、その形状モデルとパラメタは解の一意性という観点で優れており、パラメタ推定がロバストであるということができる。一方、
図11(b)のようにパラメタの変化に対して誤差関数の値がほとんど変化しない場合は、この形状モデルはパラメタに対して感度が低い、すなわちパラメタを精度よく推定できないということが分かる。この場合、ユーザに対してその旨を教示し、パラメタを固定するか、もしくは推定精度が悪いことを了解した上で、浮動パラメタとして残しておくことができる。
【0026】
図12は実施例1におけるステップ103のサブステップ、
図13は実施例2におけるステップ103の別のサブステップである。
図12に示した実施例1では、まず
図1のステップs102で算出した誤差関数と指定された許容誤差123から、サブステップs201で許容誤差以下となる自由度最小のモデルを選択する。一方、
図13に示した実施例2では、
図1のステップs102で算出された許容誤差とそのときのパラメタを用いて、
図11のように各パラメタを変化させたときの誤差関数の値の変化を計算(s211)する。次に各パラメタについて
図11と同様のグラフをGUIに表示することで、解が一意に定まるかどうかをユーザが判断しやすくする。GUI画面の一例を
図15に示す。
図15に示した画面では、左上に描かれている図形が現在選択中のモデル形状(二台形)を示し、右上に示されている図が左右の各側壁傾斜角においてパラメタを変化させたときの誤差関数の値を示す図である。図の下半分では、どの値をパラメータとして用いるかをチェックボックスを用いて選択したり、選択した各パラメータの上下限値を設定することができるようになっている。
【0027】
ここで、解が一意に定まるようであれば、サブステップs214にて許容誤差123内でパラメタが最小となるモデルを選択し、形状モデルおよび形状パラメタを決定する。サブステップs212で解が一意に定まらないと判断した場合には、サブステップs213で該当するパラメタを固定し、
図1のステップs102から繰り返す。