【実施例】
【0044】
次に、有効成分であるペプチドの製造例、および各種生物試験例、製剤実施例等を挙げて、本発明を更に詳しく説明する。なお、本発明はこれらの実施例等になんら制約されるものではないことはいうまでもない。なお、実施例中、特に断りのない限り、「%」は「重量%」を、「部」は「重量部」を意味する。
【0045】
製造例1
カゼイン、大豆蛋白質、小麦グルテン、乳ホエイ蛋白質、および牛肉それぞれ50gを水1Lに溶解させた。それぞれの溶液のpHを7.0に調整後、50℃に加熱し、保温した。バシラス属由来のプロテアーゼ(プロテアーゼMアマノ、アマノエンザイム社)500mgとアスペルギルス属由来のプロテアーゼ(プロテアーゼNアマノ、アマノエンザイム社)500mgを溶液に加え、8時間インキュベートし、その後10分間加熱することによりプロテアーゼを失活させた。
【0046】
得られた溶液を凍結乾燥により粉末状にした。粉末を0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)水溶液に1000倍(体積比)に希釈し、下記の条件によりLC/MSを用い、Ile−Leu、Ile−Trp、Ala−Leu、Val−Leu、Gly−Leu、Asp−Leu、Lys−Ile、Leu−Leu、Ile−Ile、Leu−Ile、Ile−Asn、Leu−Ala、Leu−Glu、Leu−Val、およびIle−Valの含量を定量した。
【0047】
1g蛋白質あたりの各ペプチドの生成量(mg)を表1に示す。カゼイン、大豆蛋白質、小麦グルテン、乳ホエイ蛋白質、および牛肉から、表1に示すペプチドが得られた。
【0048】
分析条件
カラム:Develosil ODS−HG−3(15mm×2mm)
移動相:A液:0.05% TFA水溶液
B液:0.05% TFAアセトニトリル溶液
移動相の通液開始から0minに3体積%B液、40min後に20体積%B液(いずれもA液およびB液の合計に対する割合)となるように、グラジエントをかけた。
カラム温度:35℃
流速:0.2mL/min
MS条件
Ionization:API−ES positive
SIM ion:m/z 245
Drying gas:10L/min at 350℃
Nebulizer:25psig
Fragmentor:30V
EM gain:1
【0049】
【表1】
【0050】
製造例2
乳ホエイ蛋白質50gを水1Lに溶解させた。1)バシラス属由来のプロテアーゼ(プロテアーゼMアマノ、アマノエンザイム社)500mg、2)アスペルギルス属由来のプロテアーゼ(プロテアーゼNアマノ、アマノエンザイム社)500mg、3)トリプシン(ノボ社)500mg、4)ペプシン(和光純薬)500mg、5)フレーバザイム(ノボ社)500mg、6)アスペルギルス属由来のプロテアーゼ(ウマミザイム、アマノエンザイム社)500mg、7)アスペルギルス属由来のプロテアーゼ(プロテアーゼAアマノ、アマノエンザイム社)500mg、および8)アスペルギルス属由来のプロテアーゼ(プロテアーゼPアマノ、アマノエンザイム社)500mgをそれぞれ単独で、または組み合わせて溶液に加え、乳ホエイ蛋白質を加水分解した(表2)。プロテアーゼを加熱失活後、得られた溶液を凍結乾燥により粉末にした。粉末を0.1%トリフルオロ酢酸水溶液に1000倍(体積比)に希釈し、上記の条件によりLC/MSを用い、Ile−Leu、Ile−Trp、Ala−Leu、Val−Leu、Gly−Leu、Asp−Leu、Lys−Ile、Leu−Leu、Ile−Ile、Leu−Ile、Ile−Asn、Leu−Ala、Leu−Glu、Leu−Val、およびIle−Valを定量した。
【0051】
結果を表2に示す。1)バシラス属由来のプロテアーゼおよび2)アスペルギルス属由来のプロテアーゼを組み合わせて反応させた場合に、最もIle−Leuを高含量に含む蛋白質加水分解物が得られた。また、3)トリプシンで反応後、2)アスペルギルス属由来のプロテアーゼで反応させた場合に、最もIle−Trpを高含量に含む蛋白質加水分解物が得られた。
【0052】
また、Val−Leu、Lys−Ile、Ile−Ile、Leu−Ile、Ile−Asn、Leu−Ala、Leu−Glu、およびIle−Valは、6)アスペルギルス属由来のプロテアーゼで反応させた場合に、Ala−LeuおよびAsp−Leuは、3)トリプシンで反応後、1)バシラス属由来のプロテアーゼで反応させた場合に、Gly−Leu、Leu−Leu、およびLeu−Valは、4)ペプシンで反応後、2)アスペルギルス属由来のプロテアーゼで反応させた場合に、最もそれらのペプチドを高含量に含む蛋白質加水分解物が得られた。
【0053】
【表2】
【0054】
製造例3
乳ホエイ蛋白質50gを水1Lに溶解させた。溶液のpHを7.0に調整後、50℃に加熱し、保温した。バシラス属由来のプロテアーゼ(プロテアーゼMアマノ、アマノエンザイム社)500mgとアスペルギルス属由来のプロテアーゼ(プロテアーゼNアマノ、アマノエンザイム社)500mgを溶液に加え、8時間インキュベートし、次いで10分間加熱することによりプロテアーゼを失活させた。その後、凍結乾燥により粉末状にした乳ホエイ蛋白質加水分解物10gから、0%、50%、60%、70%、80%、90%、95%エタノール(エタノール水溶液全体に対するのエタノールの体積%)1Lを用いて、Ile−LeuおよびIle−Trpを抽出した。抽出液を、濃縮エバポレータで濃縮後、凍結乾燥により粉末化した。得られた粉末を0.1%トリフルオロ酢酸水溶液に1000倍(体積比)に希釈し、上記の条件によりLC/MSを用い、Ile−LeuおよびIle−Trpを定量した。
【0055】
結果を表3に示す。90%エタノールでの抽出物に、最もIle−LeuおよびIle−Trpが多く含まれていた。
【0056】
【表3】
【0057】
実施例1
錠剤
常法に従い、下記の成分を所定量採取し、均一に混合し、圧縮成型して、直径7mm、1錠150mgの錠剤を得た。
イソロイシルロイシン(糖取り込み促進ジペプチド) 30部
グルタミン 5部
バリン 5部
ロイシン 7部
イソロイシン 3部
トウモロコシデンプン 19部
結晶セルロース 30部
ステアリン酸マグネシウム 1部
【0058】
実施例2
食品
下記の成分を所定量採取し、均一化して、本発明による食品を製造した。
製造例1で作成した糖取り込み促進ペプチド含有蛋白質分解物(粉末) 90部
グルタミン 2部
ピロリン酸第2鉄 1部
トウモロコシデンプン 7部
【0059】
実施例3
錠菓
実施例2による食品を用い、以下の配合にて、常法に従って錠菓を製造した。
グラニュー糖 52部
濃縮果汁 5部
クエン酸 6部
香料 2部
乳化剤 3部
実施例2の食品 32部
【0060】
生物試験例1:筋肉細胞における糖取り込み速度に与える影響
ウィスター系雄性ラット(体重120g)(16匹)をペントバルビタール麻酔下、滑車上筋を傷つけないように注意深く摘出した。滑車上筋を、0.1%BSA(ウシ血清アルブミン)、8mM グルコース、および32mM マンニトール含有KRH(136mM NaCl、4.7mM KCl、1.25mM CaCl
2、1.25mM MgSO
4・7H
2O、20mM Hepes、1mg/mL BSA:pH7.4、以下同様)緩衝液中で、5%CO
2、95%O
2下、35℃で1時間インキュベートした。その後、滑車上筋を取り出し、0.1%BSA、40mM マンニトール、および1mM Ile−Leu(国産化学(株))、1mM Ile−Trp(国産化学(株))、または1mMロイシン当量の製造例1で作成した乳ホエイ蛋白質加水分解物を含むKRH緩衝液中で、5%CO
2、95%O
2下、30℃で30分間インキュベートした(各群8検体)。次いで、滑車上筋を取り出し、0.1%BSA、32mM マンニトール、8mM 2−デオキシグルコース含有KRH緩衝液中で、5%CO
2、95%O
2下、30℃で正確に20分間インキュベートした。正確に20分間インキュベートした後、直ちに滑車上筋を液体窒素で凍結させた。その後、凍結した滑車上筋を、0.3M 過塩素酸水溶液でホモジナイズし、懸濁液を中和後、2−デオキシグルコース−6−リン酸の量を、酵素法を用いて定量し、糖取り込み速度を測定した。
【0061】
糖取り込み速度(平均値±標準誤差)を表4に示す。Ile−Leu、Ile−Trp、および蛋白質加水分解物の全てに、筋肉細胞への糖取り込み作用があった。
【0062】
【表4】
【0063】
生物試験例2:筋肉細胞における糖取り込み速度効果に対するPI3Kインヒビター、GLUT4インヒビターの影響
ウィスター系雄性ラット(体重120g)(各群8匹)をペントバルビタール麻酔下、滑車上筋を傷つけないように注意深く摘出した。滑車上筋を、0.1%BSA、8mM グルコース、および32mM マンニトール含有KRH緩衝液中で、5%CO
2、95%O
2下、35℃で1時間インキュベートした。その後、滑車上筋を取り出し、0.1%BSA、40mM マンニトール、および1mM Ile−Leu(国産化学(株))、1mM Ile−Leu+10μM LY294002(シグマ社)、または1mM Ile−Leu+70μM サイトカラシンB(シグマ社)を含むKRH緩衝液中で、5%CO
2、95%O
2下、30℃で30分間インキュベートした。次いで、滑車上筋を取り出し、0.1%BSA、32mM マンニトール、8mM 2−デオキシグルコース含有KRH緩衝液中、5%CO
2、95%O
2下、30℃で正確に20分間インキュベートした。正確に20分間インキュベートした後、直ちに滑車上筋を液体窒素で凍結させた。その後、凍結した滑車上筋を、0.3M 過塩素酸水溶液でホモジナイズし、懸濁液を中和後、2−デオキシグルコース−6−リン酸の量を、酵素法を用いて定量し、糖取り込み速度を測定した。
【0064】
糖取り込み速度(平均値±標準誤差)を表5に示す。PI3K阻害剤であるLY294002、GLUT4阻害剤であるサイトカラシンBを加えることにより、Ile−Leuによる糖取り込み作用が阻害された。このことはIle−Leuが、PI3Kを介して、GLUT4を細胞膜上にトランスロケーションし、GLUT4を介して筋肉細胞における糖取り込み作用を促進していることを示している。
【0065】
【表5】
【0066】
生物試験例3:経口糖負荷試験
ウィスター系雄性ラット約360g(各群6匹)を用いた。18時間絶食させたラットに、30%グルコース水溶液を2.0g/kg体重(BW)になるように投与した。さらに、試験物質群として、製造例1で作成した乳ホエイ蛋白質加水分解物またはIle−Leuを0.1g/kg体重(BW)となる量、30%グルコース水溶液に加えて投与した。30、60、90、120、180分後にラットの尾静脈血から採血を行い、ダイヤセンサー(アークレイ社)を用い血糖値を測定した。
【0067】
血糖値の変化量(平均値±標準誤差)を表6に示す。糖液を単独で投与した場合に比べ、蛋白質加水分解物またはIle−Leuを加えることにより、有意に血糖の上昇を抑制できた。
【0068】
【表6】
【0069】
生物試験例4:2型糖尿病モデルマウスを用いた糖尿病発症予防効果確認試験
10週令の2型糖尿病マウスモデル動物雄性KK−Ayマウス(日本クレア(株))を、水および食餌を自由摂取させ3週間飼育した(各群8匹)。食餌として、25%カゼイン食(AIN93Gに従った)、または25%カゼイン食に製造例1で作成した乳ホエイ蛋白質加水分解物を3%となる量添加した餌をそれぞれ摂取させた。飼育開始前と飼育3週間後にマウスの尾静脈より採血をし、血糖値を測定した。
【0070】
血糖値(平均値±標準誤差)を表7に示す。カゼイン食を摂取したマウスは、血糖値が上昇し、糖尿病が悪化した。これに対し、乳ホエイ蛋白質加水分解物を添加したカゼイン食を摂取したマウスは、有意に血糖値の上昇が抑制された。
【0071】
【表7】
【0072】
生物試験例5:グリコーゲン貯蔵効果確認試験
ウィスター系雄性ラット(各群8匹)を、水および食餌を自由摂取させ1週間飼育した。その際、1〜6日目には、ラットに1日あたり6時間の水泳トレーニングの負荷を掛けた。解剖前日(7日目)は18gの制限食を与えた。次いで、ラットに、体重あたり2%重量の錘をつけ、4時間水泳運動させるグリコーゲン枯渇運動をさせた。その後、コントロールとして25%カゼイン食(AIN93Gに従った)、あるいは25%カゼイン食に含まれるカゼインを製造例1で作成した乳ホエイ蛋白質加水分解物に置き換えた餌を摂取させた。摂取開始から12時間後にエーテル麻酔下でラットを解剖し、肝臓および筋肉を摘出した。直ちに、摘出した臓器を用いてグリコーゲン量を分析した。
【0073】
グリコーゲン量(平均値±標準誤差)を表8に示す。乳ホエイ蛋白質加水分解物は、グリコーゲン貯蔵促進作用を有していた。
【0074】
【表8】
【0075】
生物試験例6:筋肉細胞における糖取り込み速度に与える影響
ラット筋芽細胞L6を、5%CO
2条件下、タイプ1コラーゲンコートシャーレを用い、10%牛血清添加イーグル培地(αMEM)で培養した。常法に従い、トリプシン処理により回収した細胞を、タイプ1コラーゲンコート48穴プレートに50,000cells/wellになるように撒き、3日間培養してコンフルエントにした。培地を除いた後、2%牛血清添加イーグル培地(αMEM)を各well毎に500μL添加して5日間培養し、細胞を分化誘導させた。各wellを、500μL KRH緩衝液(136mM NaCl、4.7mM KCl、1.25mM CaCl
2、1.25mM MgSO
4・7H
2O、20mM Hepes、1mg/mL BSA:pH7.4)で細胞がはがれないように注意深く洗浄した。次いで、各wellに、Ile−Leu、Ile−Trp、Ala−Leu、Val−Leu、Gly−Leu、Asp−Leu、Lys−Ile、Leu−Leu、Ile−Ile、Leu−Ile、Ile−Asn、Leu−Ala、Leu−Glu、Leu−Val、またはIle−Val(国産化学(株))をそれぞれ1mM含むKRH緩衝液を500μL加え、3時間反応させた。その後、KRH緩衝液を取り除き、8mM 2−デオキシグルコース含有KRH緩衝液を100μL加え、正確に10分間反応させた。100μL 0.1N NaOHで反応を停止し、等量の0.1N HClで中和した後、2−デオキシグルコース−6−リン酸量を、酵素法を用いて定量することによって、糖取り込み速度を測定した。
【0076】
糖取り込み速度(平均値±標準誤差)を表9に示す。Ile−Leu、Ile−Trp、Ala−Leu、Val−Leu、Gly−Leu、Asp−Leu、Lys−Ile、Leu−Leu、Ile−Ile、Leu−Ile、Ile−Asn、Leu−Ala、Leu−Glu、Leu−Val、およびIle−Valは、筋肉細胞への糖取り込み作用を有していた。
【表9】
【0077】
生物試験例7:マウスを用いた持久運動能力向上効果確認試験
雄性C57BL/6Jマウス約20g(日本クレア(株))を水及び食餌を自由摂取させ3週間飼育した(各群8匹)。飼育1週目は15メートル/分、15分間、傾斜なしの条件下のトレッドミル運動負荷から始め、徐々にスピードと運動時間を22メートル/分、30分間、傾斜なしまで上げることによりトレッドミル運動に慣れさせた。2週目から飼育終了時まではスピード22メートル/分、30分間、傾斜なしの条件下で運動負荷を実施した。運動負荷は1週間あたり5日間実施した。食餌は25%カゼイン食(AIN93Gに従った)、および25%カゼイン食に含まれるカゼインを製造例1で作成した乳ホエイ蛋白質加水分解物に置き換えた餌をそれぞれ摂取させた。飼育3週間後に、運動パフォーマンステストを実施した。トレッドミルを用い、スピード30メートル/分、傾斜なしの条件下で運動負荷を実施し、マウスが疲労困憊に到るまでの時間を計測した。
【0078】
持久運動時間(平均値±標準誤差)を表10に示す。カゼイン食を摂取したマウスに比べ、蛋白質加水分解物を摂取したマウスは、持久運動時間が約1.7倍に増加した。
【表10】
【0079】
本発明の組成物は、in vitroにおける糖取り込み促進作用と同時に、上記生物試験例で示すとおり、in vivoでのウィスターラットまたはマウス試験においても、血糖上昇抑制効果、グリコーゲン貯蔵効果、持久運動能力向上効果を有していた。